(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】でん粉麺及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20250114BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 B
A23L7/109 G
(21)【出願番号】P 2024159398
(22)【出願日】2024-09-13
【審査請求日】2024-09-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593020108
【氏名又は名称】エースコック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(74)【代理人】
【識別番号】100121005
【氏名又は名称】幸 芳
(72)【発明者】
【氏名】香山 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】上野 倫睦
(72)【発明者】
【氏名】木下 靖介
(72)【発明者】
【氏名】東田 潤
(72)【発明者】
【氏名】藤川 真奈
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 智幸
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-028129(JP,B1)
【文献】特開2007-295851(JP,A)
【文献】特開2000-245357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を含み、かつ、老化工程を含まない、でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記乾燥工程で得られた麺の
固形分を25~30℃の蒸留水中に10%含む懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、でん粉麺の製造方法。
【請求項2】
前記原材料混合工程で得られた麺生地のpHが、6~9.5である、請求項1に記載のでん粉麺の製造方法。
【請求項3】
前記でん粉麺のα化度が、70%以上である、請求項1に記載のでん粉麺の製造方法。
【請求項4】
前記特性付与原料は、呈味性素材、難消化性素材、及び、天然色素含有着色性素材からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載のでん粉麺の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のでん粉麺の製造方法によって得られる、でん粉麺。
【請求項6】
スナック菓子、おつまみ、又は、おやつに用いる、請求項5に記載のでん粉麺。
【請求項7】
原材料混合工程、製麺工程、α化工程を含み、かつ、老化工程を含まない、α化でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記α化工程で得られたα化麺の
固形分を25~30℃の蒸留水中に10%含む懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、α化でん粉麺の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のα化でん粉麺の製造方法によって得られる、α化でん粉麺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、でん粉麺及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
春雨を代表とするでん粉麺は、一般的に、でん粉のみで作られた麺であり、無味無臭の淡白な味わいである。そこで、でん粉麺に味わいを付与するために、着味成分(調味料、食用植物加工品等)を練り込んだ製品の開発が行われている。さらに近年は、食生活の多様化に伴い、麺類にもバラエティー化の傾向が見られ、野菜粉末、ビタミン、ミネラル、食物繊維等の種々の成分を配合する工夫がなされている。(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
特許文献1は、従来まで、味付が困難であった春雨について十分に味付けされた春雨の製造方法を提供することを目的としている。
特許文献1には、原料において着味液を練りこんだ場合(試験例1)、ボイル槽に着味液を混合した場合(試験例2)、ボイル後、着味液を含む冷却槽に浸漬した場合(試験例3)、及び、解凍後に着味液に浸漬する場合(試験例4)では十分に味付けされた春雨が得られなかったことが記載されている。特に、前記試験例1には、原料において、着味液を練りこんだ場合、その後の製麺工程において問題が生じ、麺線自体を製造することができないことが開示されている。
そこで、特許文献1の請求項1には、常法により製造した春雨を、着味液に浸漬した状態で加熱した後、水洗し、乾燥することを特徴とする味付春雨の製造方法が記載されている。この請求項1に記載の方法は、麺を乾燥した後に、着味液に浸漬した状態で加熱することによって味付けを行い、再度乾燥させる、という複雑な工程を経て味付けが行われている。
【0004】
本願出願人が先に出願した特許文献2には、馬鈴薯でん粉と緑豆でん粉の混合でん粉を原料とする即席春雨を製造する方法において、馬鈴薯でん粉と緑豆でん粉の混合でん粉中に無結着性の食品素材(野菜パウダー、海藻パウダー等)を練り込み、この食品素材入り混合でん粉にカードラン2~5重量%を添加することを特徴とする、即席春雨の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、カードランの膨潤による増粘作用により調理後に湯伸びしたり、ふやけたりするのを抑制でき、滑らかな弾力性と歯ごたえの良さを楽しめる即席春雨が得られることが記載されている。ここで、特許文献2では、このような作用を有する成分として、カードラン以外の化合物については記載も示唆もされていない。
【0005】
また、特許文献3には、馬鈴薯でん粉及び緑豆でん粉を主成分とする春雨において、粒子径が1~80μmの食品粉末をでん粉100重量部に対して、0.1~6.0重量部含む、春雨の製造方法が記載されている。そして、この特許文献3には、でん粉中に特定の粒子径を有する食品粉末を特定量練り込むことで、春雨の湯戻し後に、春雨本来の食感を残しつつ、湯伸びが抑制された腰のある春雨にすることができることが記載されている。
【0006】
しかしながら、通常、でん粉麺においては、着味成分、野菜粉末等を練り込むことで、生地の繋がりが弱くなり、製麺適性を損なうために製造が困難であることが技術常識であった。また、麺を作ることができたとしても、弾力及びコシが無い、弱々しい食感となることが多く、好ましい食感をつくることが非常に難しかった。
【0007】
また、特許文献3では、でん粉に加水して練ったでん粉スラリーを、孔から押出して、熱湯中に流し込んでα化(糊化)させた後、得られた麺線を冷凍し、次いで解凍及び乾燥させる、一般的な春雨の製造方法で春雨が製造されており、一定期間冷凍庫の中で春雨を保存する冷凍工程が必須であるため、製造時間が長く、トータルランニングコストが高いという問題があった。
さらに、上記特許文献1及び2においても、春雨の製造方法としては、老化工程(冷蔵工程;又は、冷凍工程及び解凍工程)を有する一般的な製造方法しか記載されていない。
このように、一般的なでん粉麺の製造方法では、老化工程(冷蔵工程;又は、冷凍工程及び解凍工程)を経ることで、でん粉麺特有の弾力及びコシが付与されるため、老化工程を経ずに製造する場合には、製造適性及び食感に関する課題の解決がより一層困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-104279号公報
【文献】特開2006-141279号公報
【文献】特開2008-271954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、老化工程を必要とすることなく、生地に特性付与原料を練り込んでも、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくいでん粉麺を製造することができる方法、及びその製造方法より製造されるでん粉麺を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、原材料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を含み、かつ、老化工程を含まない、でん粉麺の製造方法であって、前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、小麦粉及び/又はグルテンを含まず、前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、でん粉麺の製造方法とすることにより、老化工程を必要とすることなく、生地に特性付与原料を練り込んでも、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくいでん粉麺を製造できることを見出した。本開示は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0011】
すなわち、本開示は、以下のとおりである。
項1.
原材料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を含み、かつ、老化工程を含まない、でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、でん粉麺の製造方法。
項2.
前記原材料混合工程で得られた麺生地のpHが、6~9.5である、項1に記載のでん粉麺の製造方法。
項3.
前記でん粉麺のα化度が、70%以上である、項1に記載のでん粉麺の製造方法。
項4.
前記特性付与原料は、呈味性素材、難消化性素材、及び、天然色素含有着色性素材からなる群より選ばれる少なくとも1つである、項1に記載のでん粉麺の製造方法。
項5.
項1~4のいずれか一項に記載のでん粉麺の製造方法によって得られる、でん粉麺。
項6.
スナック菓子、おつまみ、又は、おやつに用いる、項5に記載のでん粉麺。
項7.
原材料混合工程、製麺工程、α化工程を含み、かつ、老化工程を含まない、α化でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記α化工程で得られたα化麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、α化でん粉麺の製造方法。
項8.
項7に記載のα化でん粉麺の製造方法によって得られる、α化でん粉麺。
項1-1.
原材料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を含み、かつ、老化工程を含まない、でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、でん粉麺の製造方法。
項2-1.
前記原材料混合工程で得られた麺生地のpHが、6~9.5である、項1-1に記載のでん粉麺の製造方法。
項3-1.
前記でん粉麺のα化度が、70%以上である、項1-1又は2-1に記載のでん粉麺の製造方法。
項4-1.
前記特性付与原料は、呈味性素材、難消化性素材、及び、天然色素含有着色性素材からなる群より選ばれる少なくとも1つである、項1-1~3-1のいずれか一項に記載のでん粉麺の製造方法。
項5-1.
項1-1~4-1のいずれか一項に記載のでん粉麺の製造方法によって得られる、でん粉麺。
項6-1.
スナック菓子、おつまみ、又は、おやつに用いる、項5-1に記載のでん粉麺。
項7-1.
原材料混合工程、製麺工程、α化工程を含み、かつ、老化工程を含まない、α化でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記α化工程で得られたα化麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、α化でん粉麺の製造方法。
項8-1.
項7-1に記載のα化でん粉麺の製造方法によって得られる、α化でん粉麺。
【0012】
なお、本開示のうち、製造工程で規定された物の発明は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、老化工程を必要とすることなく、生地に特性付与原料を練り込んでも、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくいでん粉麺を製造することができる方法を提供することができる。
ここで、湯伸びとは、水分が経時的に麺の表面から中心部へ移動することによって、麺の物性が変化し、麺の食感(硬さ、弾力、コシ等)が悪くなることをいう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
でん粉麺の製造方法
以下、本開示に包含されるでん粉麺の製造方法について詳細に説明する。
ここで、本明細書において、でん粉麺とは、でん粉を主原料とする麺、すなわち、原材料中において、でん粉が占める割合が最も多い麺をいう。でん粉麺として、例えば、春雨、葛切り等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本明細書において、でん粉麺の原材料中に、小麦粉及び/又はグルテンは含まれない。したがって、小麦粉及びグルテンを含有する、中華麺、うどん、パスタ等は、でん粉麺に該当しない。さらに、そば、米麺等の、でん粉以外の原材料を主原料とする麺も、でん粉麺に該当しない。
【0015】
本開示に包含されるでん粉麺の製造方法は、原材料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を含み、かつ、老化工程を含まず、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である。
本開示に包含されるでん粉麺の製造方法は、従来のでん粉麺の製造方法において必須の老化工程(冷蔵工程;又は、冷凍工程及び解凍工程;等)を含まないことを特徴としている。本開示のでん粉麺の製造方法によれば、前記老化工程を行うことなく、生地に特性付与原料を練り込んでも、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくいでん粉麺を得ることができる。
【0016】
以下、製造方法の各工程について詳細に説明する。
原材料混合工程
原材料混合工程とは、原材料と水(以下、「練り水」ということもある。)とを混合する(混練する)ことによって麺生地を製造する工程(練り工程ということもある。)である。
【0017】
原材料
本開示に包含されるでん粉麺の原材料は、でん粉、特性付与原料、アルギン酸エステル、及びアルカリ剤を含む。
【0018】
前記原材料のうち、でん粉を主原料とする。すなわち、原材料中において、でん粉が占める割合が最も多い。ただし、前記原材料には、小麦粉及び/又はグルテンは含まれない。
【0019】
でん粉
でん粉は、ブドウ糖が結合したアミロースとアミロペクチンという高分子化合物により構成されていて、アミロースはブドウ糖の分子が長い鎖状(あるいはラセン状)に結合した単純な構造をしており、アミロペクチンはブドウ糖の鎖状結合が、網の目のような構造となっており、さらに枝分かれをしている複雑な構造となっている。
結合しているブドウ糖の数は、アミロースが数十から数百個、アミロペクチンでは数百から数十万にもおよぶ。アミロースとアミロペクチンの含有量はでん粉の種類によって異なっており、これが糊化状態での粘り強弱等に現れるなど、それぞれのでん粉の性質の違いとなっている。
【0020】
本明細書において、でん粉は、原料からでん粉成分のみを抽出したもの(でんぷん粉)のことを意味している。
前記でん粉としては、特に限定はなく、例えば、緑豆でん粉、トウモロコシでん粉(コーンスターチ)、米でん粉、ソラマメでん粉、小豆でん粉、サツマイモでん粉、エンドウでん粉、小麦でん粉、馬鈴薯でん粉、タピオカ(キャッサバ)でん粉、葛粉等の生でん粉(未加工でん粉)等が挙げられる。
また、前記でん粉は、原料となる植物の種類に分けることもできる。例えば、地上で取れるでん粉(地上でん粉)と地下で取れるでん粉(地下でん粉)とに分かれる。
地上でん粉としては、例えば、穀類でん粉(米でん粉、小麦でん粉、トウモロコシでん粉等)、茎幹でん粉、豆類でん粉(緑豆でん粉、ソラマメでん粉、小豆でん粉、エンドウでん粉等)が挙げられる。
地下でん粉としては、例えば、根茎でん粉(馬鈴薯でん粉)、塊根でん粉(サツマイモでん粉、タピオカでん粉、葛でん粉等)等が挙げられる。
【0021】
前記でん粉には、前記生でん粉(未加工でん粉)だけでなく、加工でん粉等も含まれる。
前記加工でん粉は、でん粉が化学的又は物理的に加工処理されたでん粉である。前記加工でん粉としては、例えば、漂白でん粉、油脂加工でん粉、湿熱処理でん粉、酸処理でん粉、アルカリ処理でん粉、ヒドロキシプロピルでん粉、アセチル化酸化でん粉、オクテニルコハク酸でん粉ナトリウム、酢酸でん粉、酸化でん粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でん粉、リン酸化でん粉等が挙げられる。
ただし、本明細書において、難消化性でん粉は、でん粉には含まれない。
これらのでん粉は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
本開示では、でん粉を特に限定なく原材料として使用することができるが、特に、安価なタピオカでん粉、馬鈴薯でん粉等を使用してでん粉麺を製造することができることが、特徴の1つといえる。
でん粉は、でん粉麺100質量部中に、通常40~100質量部、好ましくは45~99質量部、より好ましくは50~98質量部含まれる。
【0022】
以下、タピオカでん粉及び馬鈴薯でん粉について説明する。
タピオカでん粉は、直鎖分子アミロース16~17%と、枝分かれ分子アミロペクチン83~84%とで構成されている。
また、馬鈴薯でん粉は、直鎖分子アミロース20~23%と、枝分かれ分子アミロペクチン77~80%とで構成されている。
ここで、タピオカでん粉、馬鈴薯でん粉等は、アミロペクチンを多く含んでおり、粘度又は保水力が高く、老化しにくいという特徴がある。アミロペクチンを多く含むでん粉を使用すると、滑らかでのどごしが良く、ソフトな食感の麺が得られるため、前記タピオカでん粉、馬鈴薯でん粉等は、麺類の食感改良剤として用いられることが多い。しかしながら、配合量を多くすると、食感が柔らかくなりすぎる、麺線表面がべたつき、麺線同士が結着しやすくなるために製造適性が悪くなる等の傾向がある。
このように、タピオカでん粉、馬鈴薯でん粉等は、弾力及びコシがあり、ほぐれ性が良い麺を作製するためには適していない原材料といえる。
本開示に包含されるでん粉麺は、安価であってコストの点では使用しやすい一方、弾力及びコシのある麺が得られにくい原材料(タピオカでん粉、馬鈴薯でん粉等)を使用して、生地に特性付与原料を練り込んでも、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくい麺が得られることが特徴の1つである。
【0023】
特性付与原料
本明細書において、特性付与原料とは、でん粉麺に、例えば、色調、呈味性、栄養性、生理機能性等の特性を付与することができる原材料をいう。なお、特性付与原料には、前記でん粉、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルは含まれない。
特性付与原料を添加することにより、でん粉麺中の呈味性成分又は機能性成分が増加するとともに、でん粉麺の外観をより良好なものとすることができる。
特性付与原料として、例えば、呈味性素材、難消化性素材、天然色素含有着色性素材等が挙げられる。
【0024】
前記呈味性素材とは、甘味、旨味、塩味、酸味、苦味等の味又は香りを強化する食品素材をいう。
前記呈味性素材は、液体成分、及び、固体成分を含む。
液体成分としては、特に限定はなく、例えば、水、醤油、アルコール、甘味成分(味醂、液糖、水飴、異性化液糖等)、酸味成分(食酢;リンゴ、ユズ、レモン等の香酸柑橘等)、油脂成分(ゴマ油、オリーブオイル、サラダ油、大豆油、ラー油等)、酒類成分(ワイン、清酒等)、果汁(リンゴ果汁等)、エキス(チキンエキス、ビーフエキス等)等が挙げられる。
固体成分としては、特に限定はなく、例えば、食塩、糖類(砂糖、ブドウ糖、果糖等)、香辛料(生姜、唐辛子、七味、コショウ、山椒、バジル、オレガノ、ミックススパイス等)、化学調味料(グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等)、エキス粉末(野菜エキスパウダー、魚介エキスパウダー等)、フレーバー、味噌、カレー粉等が挙げられる。
【0025】
前記難消化性素材とは、難消化性を有した食品素材であり、ヒトの消化酵素で分解されにくいという特性を有している。難消化性素材中に含まれる成分の一つとしては、例えば、食物繊維等が挙げられる。
具体的に、前記難消化性素材としては、特に限定はなく、食物繊維が豊富な食品素材が含まれ、例えば、ゴボウ、レンコン、ダイコン、カボチャ、サツマイモ、インゲンマメ、オクラ、ナメコ、シイタケ、エノキダケ、ヒジキ、昆布、ワカメ、モズク等の天然の食品;例えば、おから等の食品製造副産物;例えば、納豆等の発酵食品;等が挙げられる。
前記難消化性素材には、前記天然の食品以外にも、難消化性でん粉、難消化性デキストリン等が含まれる。前記難消化性でん粉とは、ヒトの腸内において消化吸収されにくいでん粉及びでん粉の部分加水分解物の総称である。このような難消化性でん粉は、レジスタントスターチと称されることもあり、食物繊維と同等の生理的挙動を示すと考えられている。前記難消化性デキストリンとは、でん粉を焙焼し、アミラーゼで加水分解した後、難消化性成分を抽出することにより得られる水溶性の食物繊維である。本開示では、当技術分野で周知の難消化性でん粉又は難消化性デキストリンを使用することができ、その種類及び製造方法は特に限定されない。
【0026】
前記天然色素含有着色性素材としては、特に限定はなく、例えば、赤色の素材(例えば、トマト、赤ピーマン、エビ等)、橙色の素材(例えば、オレンジ、ニンジン、パプリカ、鮭等)、黄色の素材(例えば、ユズ、レモン、ウコン、カボチャ、コーン、黄ピーマン等)、緑色の素材(例えば、ホウレンソウ、ピーマン、エダマメ、ブロッコリー、バジル、グリーンピース等)、紫色の素材(例えば、紫サツマイモ、ナス、食用菊等)、茶色の素材(例えば、ゴボウ、納豆、味噌等)、黒色の素材(例えば、黒ゴマ、黒豆、黒松の実、黒カリン、黒米、イカスミ、海苔等)等が挙げられる。
【0027】
前記特性付与原料は、そのまま使用してもよいが、搾汁、ペースト、粉末(パウダー)等の状態で使用することも可能である。さらには、目的の成分のみを抽出、分離、精製等したものを使用することも可能である。
前記特性付与原料は、1種単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
前記呈味性素材は、着味液、粉末(パウダー)、ペースト等の形態で添加することが好ましい。
呈味性素材の中で、一般のスープ原料となるもの、例えば、醤油、チキンエキス、ビーフエキス、食塩、砂糖等を混合し、着味液として使用することができる。希望する味付けに合わせて、各呈味性素材の配合比の変更が可能である。また、七味、コショウ、山椒等の香辛料を添加してもよい。
【0029】
前記難消化性素材及び天然色素含有着色性素材は、粉末(パウダー)又はペーストの形態に加工して使用することが好ましい。
前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材の粉末(パウダー)としては、例えば、ニンジン、シイタケ等の野菜パウダー、ワカメ、ヒジキ、昆布、モズク等の海藻パウダー、ユズパウダー等が挙げられる。
前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材の粉末化は、例えば、難消化性素材又は天然色素含有着色性素材を、粉砕機を用いて粉砕する方法;難消化性素材又は天然色素含有着色性素材を水又は湯に漬け込み、その水分を切った後、真空条件のもとで、加熱及び攪拌と蒸し及び乾燥とを連続に付与することで、水分を低下させるとともに柔軟化させ、引き続き冷却条件のもとで粉砕する方法;等により行うことができる。
【0030】
前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材のペーストとしては、例えば、トマト、ホウレンソウ、グリーンピース、ゴボウ、カボチャ、紫サツマイモ、ニンジン、パプリカ等のペーストが挙げられる。
前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材をペースト化する方法としては、例えば、前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材をブランチング処理した後、破砕処理する方法がある。ブランチング処理条件としては、95℃、2~3分間として条件を例示することができる。また、破砕処理の方法としては、コミトロール又はマスコロイダーを例示することができる。あるいは、前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材をブランチング処理した後凍結処理し、それを半凍結状態にした後、粉砕し、濾過処理してペーストとする方法がある。濾過の条件としては、2.0mmメッシュの篩で濾過する方法を例示することができる。このようにして得られた前記難消化性素材又は天然色素含有着色性素材のペーストの水分含量は、原料の種類、処理方法等によって異なるが、概ね70~90質量%である。
【0031】
前記特性付与原料の添加量は、でん粉の量以下の量である。前記特性付与原料が液体である場合には、その固形分がでん粉の量以下の量である。
【0032】
アルカリ剤
でん粉麺の原材料は、上述したでん粉及び特性付与原料に加えて、アルカリ剤を含んでいる。
アルカリ剤には、通常、一般に使用可能な公知の食品用アルカリ剤を特に限定なく使用することができる。このようなアルカリ剤として、例えば、リン酸塩、炭酸塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
【0033】
アルカリ剤の添加量は、でん粉の種類及びその量、アルカリ剤の種類等に応じて、製品のpHが弱酸性から弱アルカリ性のpH、6.5を超えて9以下になるように調整する。
例えば、原材料中において、生でん粉が占める割合が98%以上であり、かつ、アルカリ剤がリン酸三ナトリウムの場合には、アルカリ剤の添加量は、原材料の合計量に対して、通常0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%、より好ましくは0.03~2質量%である。
アルカリ剤は、練り水に溶解させて水溶液として、でん粉等と混合することが好ましい。
【0034】
アルギン酸エステル
でん粉麺の原材料は、アルギン酸エステルを含んでいる。
本開示においては、アルギン酸又はアルギン酸塩類ではなく、アルギン酸エステルを使用することで、従来の老化工程を経ることなく、生地に特性付与原料を練り込んでも、従来のでん粉麺が有する弾力、コシ等の食感を有し、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくいでん粉麺を得ることができる。
【0035】
アルギン酸エステルは、アルギン酸にアルコールがエステル結合したものである。
一般に、アルギン酸又はアルギン酸塩類は、昆布、ワカメ等の褐藻類に含まれる多糖類である。
アルギン酸塩類、及び、その基本の酸となるアルギン酸は、ウロン酸の重合体である。
ウロン酸には、β-D-マンヌロン酸と、α-L-グルロン酸の2つがある。
重合体の中のこれら2つの構成糖の配列は一定ではなく、海藻の種類、部位、採取した海藻の成長度合によって異なる。
配列には、マンヌロン酸とグルロン酸が交互に連なっているユニット、マンヌロン酸が連なるユニット、及び、グルロン酸が連なるユニットの3種類のユニットが存在する。
よって、アルギン酸エステルは、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシル基にアルコールがエステル結合したものである。
【0036】
本開示において、アルギン酸エステルとしては、特に限定はなく、例えば、アルギン酸と炭素数1~6のアルコールとのエステルが挙げられる。前記炭素数1~6のアルコールの例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のモノアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール;グリセリン等のトリオール等を含む。
【0037】
具体的なアルギン酸エステルは、例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、アルギン酸グリセリンエステル等が挙げられる。これらのうち、アルギン酸エステルは、食品添加物の指定を受けているアルギン酸プロピレングリコールエステルが好ましい。
アルギン酸プロピレングリコールエステルは、アルギン酸を構成するウロン酸のカルボキシル基にプロピレングリコールがエステル結合したものであるが、全てのカルボキシル基がエステル化されていなくてもよく、未反応の遊離酸の部分、ナトリウム塩、カルシウム塩等の塩の部分が残っていてもよい。
【0038】
アルギン酸エステルは白色~淡黄白色の粉末で、冷水又は温水に対する溶解性が良好であり、粘性のあるコロイド溶液となる。アルギン酸エステルは、他のアルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩等)に比べて経時変化が少なく、比較的安定な素材である。粉末状態で冷暗所(概ね20℃以下)に保存してあれば、品質(粘度、エステル化度等)は1年以上変化しにくい。
【0039】
アルギン酸エステルのエステル化度は、通常40%以上であり、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、なかでも、75~80%の範囲が特に好ましい。アルギン酸エステルのエステル化度が40%以上であれば、日本の食品添加物公定書の規格を満たすことができる。
【0040】
アルギン酸エステルは、市販されているものを適宜使用することができる。
アルギン酸エステルの市販品としては、アルギン酸プロピレングリコールエステル及びその製剤「昆布酸501」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:150~250mPa・s、株式会社キミカ製)、「昆布酸503」(エステル化度:75%以上、1重量%水溶液の20℃における粘度:10~30mPa・s、株式会社キミカ製)、「昆布酸507」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:10~30mPa・s、株式会社キミカ製)、「キミロイドHV」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:150~250mPa・s、株式会社キミカ製)、「キミロイドLV」(エステル化度:75%以上、1質量%水溶液の20℃における粘度:60~100mPa・s、株式会社キミカ製)等を用いることができる。
【0041】
アルギン酸エステルは、他の原材料と混合する際に、粉末の形態で添加してもよく、また、あらかじめ水溶液の形態に調整した上で添加することもできる。また、練り水に添加し、練り水として混合してもよい。アルギン酸エステルを練り水に添加して使用する場合には、練り水を調製した後すぐに粉体と混合することが好ましい。また、アルギン酸エステルを含む水溶液と、アルカリ剤を含む水溶液とを、別々に、原料粉へ添加することができる。いずれの態様のものでも適宜選択できる。アルギン酸エステルは粉体に添加することが好ましい。
なお、アルギン酸エステルは、生地を繋げる機能を有するため、下記糊剤のような機能も有している。
【0042】
アルギン酸エステルの添加量は、他の原材料との関係、例えば、アルカリ剤の添加量、麺生地のpH、α化処理の程度、獲得しようとする麺質等を考慮して適宜決定することができる。
アルギン酸エステルの添加量は、でん粉の量に対して、通常、0.01~3質量%であり、好ましくは0.1~2質量%であり、より好ましくは0.3~1質量%である。
【0043】
糊剤
でん粉麺の原材料には、必要に応じて糊剤を含ませることができる。糊剤を配合することで、原材料と練り水とを混合したときに生地が繋がりやすくなる。なお、本明細書において、前記糊剤は、アルギン酸エステル以外の糊剤であり、アルギン酸エステルを含まない。また、前記糊剤は、特性付与原料には含まれない。
糊剤を使用することで、主原料としてでん粉を用いることによるダイラタンシー現象(強く握ると固体のようになり、握るのを止めると液体のようになる現象)が起こらない麺生地を形成することができ、押出し機で押し出して麺線化することが可能となる。
糊剤は、一般に食品に使用されるものであれば特に限定されない。糊剤は、例えば、グアーガム、カラギーナンガム、キサンタンガム、ガティガム、アラビアガム、α化でん粉等を含む。ここで、α化でん粉は、でん粉を水と加熱し、糊化した後、急速に乾燥して粉末化したものをいう。
これらは、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0044】
糊剤を添加する場合、その添加量は、糊剤の種類(粘度)、アルギン酸エステルの量等によって変化する。例えば、でん粉の量に対して、通常0.1~10質量%であり、好ましくは0.5~8質量%であり、より好ましくは1~5質量%である。
なお、糊剤がα化でん粉である場合には、α化でん粉を別途添加してもよいが、あらかじめ原材料でん粉の一部に水を混合しながら加熱糊化してキャリア糊を作り、このキャリア糊を糊剤として残りのでん粉に加えて生地を作製してもよい。この場合には、別途糊剤を添加する必要はない。
【0045】
さらに、前記原材料に、必要に応じて、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、上述した特性付与原料を除く、即席麺の製造において一般に使用されている添加剤を使用することができる。添加剤として、例えば、動植物油脂、液体状の油脂、乳化油脂、粉末油脂等の油脂類;卵類、乳、乳製品、乳加工品、乳タンパク質、大豆タンパク質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等のタンパク質素材;麺質改良剤、ほぐし剤、乳化剤、可溶化剤、界面活性剤、増粘剤、賦形剤、強化剤、キレート剤、中和剤、酸味料、甘味剤、ビタミン類、ミネラル類、デキストリン、酵素剤、保存料、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、品質保持剤、粘着防止剤、膨張剤、消泡剤、離型剤、合成着色料等の色素、香料等のその他添加剤が挙げられる。
【0046】
これらの添加剤は、水と混合して使用するが、添加方法としては、原料粉等と一緒に固体の状態で添加してもよく、水に溶解又は懸濁させて水溶液又は懸濁液として添加してもよい。
【0047】
前記原材料混合工程において、前記原材料に水を加え、次いで、ピンミキサー等の製麺ミキサーを用いて、各種原材料が均一に混ざるように混練して麺生地を製造する。
原材料混合工程の温度は、特に限定はなく、例えば、通常18~100℃である。なお、原材料の種類、量等によって、温度は大きく異なることがある。
原材料混合工程の時間は、特に限定はなく、例えば、通常2~20分であり、好ましくは5~15分であり、より好ましくは10~12分である。
【0048】
ここで、原材料混合工程において使用される水の量は、麺生地の形成に必要な水分量であればよい。
前記水の量は、例えば、麺生地の加水率として表すことができる。
前記加水率は、特に限定はなく、例えば、50質量%以上~200質量%であり、好ましくは60~150質量%であり、より好ましくは70~120質量%である。通常、加水率が低ければ低いほど製造適性が良好であり、弾力及びコシのある麺を作ることが容易であるが、本開示に包含される製造方法を用いれば、加水率が高い麺生地から、製造適性が良好で、かつ、弾力及びコシのある良好な食感を呈する麺類を製造することができる。
混合工程後の麺生地のpHは、6~9.5であることが好ましい。
麺生地のpHは、混練終了直後にpH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を直接麺生地に差し込み、pHを測定する。
本開示に包含される麺類の製造方法によれば、加水を多く含む生地であっても、麺類に弾力及びコシを付与することができる。
【0049】
製麺工程
製麺工程は、上記原材料混合工程で得られた麺生地を、麺線化する工程である(麺線化工程ともいう。)。麺線化する方法は、特に限定されず、例えば、麺生地を押出し機等により押し出して麺線化する方法;麺生地を圧延して麺帯とした後に切出す方法;例えば、トンピョウのような複数の穴が開いた容器を用いて生地を垂らすことで麺線化を行う方法(落下式)等が挙げられる。
【0050】
α化工程
α化工程において、麺線に含まれるでん粉がα化(糊化)する。麺線をα化させる方法としては、特に限定はなく、例えば、蒸気を使った蒸し処理(蒸煮)方法、茹でる方法等が挙げられる。
蒸し処理は、蒸気を使用した蒸機を使用して行うことが好ましい。蒸し処理で使用する蒸気の質として、乾いた蒸気、湿り気のある蒸気、過熱蒸気等を使用することができ、得られる麺線の食感をよりよくするためには、湿り気のある蒸気を使用することが好ましい。あるいは、ボイラーで発生させた蒸気を減圧して蒸機内に噴射し、その蒸機の中を、麺線を通過させることによってα化させてもよい。
α化は、茹で処理で行うことも可能である。ただし、水溶性の特性付与原料を添加した場合は、茹で水への成分の流出を防ぐために、茹で時間を短くするか、又は、蒸煮によってα化を行うことが好ましい。
【0051】
α化工程の温度は、特に限定はなく、例えば、通常96~110℃であり、好ましくは98~105℃であり、より好ましくは99~100℃である。
【0052】
α化工程の時間は、α化方法、原材料、麺線をα化させる方法等によって変化する。
例えば、α化工程を蒸煮処理で行う場合の時間は、通常1秒間~3分間であり、好ましくは5秒間~2分間であり、より好ましくは10秒間~1.5分間である。
α化工程を茹で処理で行う場合の時間は、通常1秒間~2分間であり、好ましくは5秒間~1.5分間であり、より好ましくは10秒間~1分間である。
【0053】
α化工程の後、直ちにα化した麺線を乾燥するのではなく、この麺線にほぐし剤(ほぐし液)を付与することができる。前記ほぐし剤の付与には、麺線の結着の防止等の効果がある。前記ほぐし剤には、水又は着味液を使用してもよいし、水に乳化剤、油脂、乳化油脂、増粘多糖類、加工でん粉、酵素等を溶解させた液、着味液に乳化剤、油脂、増粘多糖類等を添加した液等を使用してもよい。ほぐし剤は、例えば、α化工程後の麺線に直接塗布するか、又はα化工程後の麺線をほぐし剤中に浸漬させることにより付与することができる。
なお、ほぐし剤は、前記のα化工程後の麺線に付与する以外に、α化工程前又はα化工程中に麺線に塗布するか、又は、麺生地にほぐし剤を練り込むことによって付与することも可能である。
【0054】
麺線にほぐし剤を付与した後、常温(例えば、20℃~30℃)でそのまま静置する時間を設けることが好ましい。麺線を静置しておくことで、麺線表面に付着した水分を麺線内部に吸収させることができる。麺線を静置する時間は特に限定されないが、通常10秒間~15分間程度、好ましくは1~10分間程度、より好ましくは2~6分間程度である。
本開示に包含される製造方法には、上記工程以外にも、任意の工程を備えることができる。任意の工程としては、例えば、冷却した麺線をカットする工程(麺線カット工程)、型枠にカットした麺線を入れる工程、麺線を乾燥する工程、乾燥した麺類をカップに入れる工程、調味料を入れる工程、包装する工程等が挙げられる。
【0055】
乾燥工程
乾燥工程に特に限定はなく、例えば、得られた麺線を、15cm程度にカットし、カットした麺線を乾燥させる。
乾燥工程は、麺の水分を減少させる方法であれば特に限定されない。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、フリーズドライ、寒干し乾燥、油揚げ等が挙げられる。本開示においては、非油揚げ麺(ノンフライ麺)とすることが好ましく、上記乾燥方法のなかでも、熱風乾燥により乾燥させることが好ましい。
熱風乾燥を乾燥機等で行う場合、乾燥機の温度は、特に限定はなく、例えば、通常20~180℃程度、好ましくは40~120℃程度であり、より好ましくは50~100℃程度である。なお、乾燥時間は麺質によって異なるため、例えば、10分毎に麺の様子を観察しながら、完全に乾燥させることが好ましい。
【0056】
乾燥したでん粉麺は、包装工程に移り、スープ、具材等とともにカップに包装され、即席でん粉麺製品として販売される。
また、乾燥したでん粉麺は、スナック菓子、おつまみ、又は、おやつに用いることができる。
【0057】
でん粉麺
上記製造方法によって得られたでん粉麺は、でん粉を主原料とする麺、すなわち、原材料中において、でん粉が占める割合が最も多い麺である。緑豆でん粉、馬鈴薯でん粉、サツマイモでん粉、タピオカでん粉等のでん粉を原材料として作られる乾麺として市販されているものには、春雨、葛切り等があるが、これらに限定されるものではない。
また、上述したように、でん粉麺の原材料中に、小麦粉及び/又はグルテンは含まれない。したがって、小麦粉及び/又はグルテンを含有する、中華麺、うどん、パスタ等は、でん粉麺に該当しない。さらに、そば、米麺等の、でん粉以外の原材料を主原料とする麺も、でん粉麺に該当しない。
【0058】
でん粉麺は、一般の小麦粉から得られる麺類とは異なり、タンパク質が少ない。例えば、ラーメン100g中に含まれるタンパク質の量が7.4gであるのに対して、乾燥春雨100g中に含まれるタンパク質の量は0.2gである。でん粉麺は、低タンパク質麺として用いることができる。低タンパク質麺の用途としては、例えば、腎臓病食等が挙げられる。腎臓病は、腎臓の機能が低下する病気であり、主にタンパク質、食塩に制限が必要である。したがって、本開示に包含される麺類は、腎臓への負担を軽減するための食事として用いることができる。腎臓病の悪化を抑制するためには、低タンパク質麺等を用いる食事療法が効果的といえる。
【0059】
そして、でん粉麺は、グルテンフリーの食品である。グルテンフリーとは、グルテンを用いていないことを意味する。具体的にグルテンフリーとは、小麦粉由来の小麦グルテンを用いていないことだけでなく、他の穀物由来のグルテン性タンパク質を含まないことを意味する。その基準値としては、米国食品医薬品局(FDA)が規定している基準として、以下の(1)、(2)のいずれかを満たすものとされている。
(1)以下のいずれも含有していないもの。
グルテン含有穀物である原料(スペルト小麦等)
グルテン含有穀物に由来しグルテン除去処理が施されていない原料(小麦粉等)
グルテン含有穀物に由来しグルテン除去処理が施されている原料で(小麦でん粉等)、食品中のグルテンを1キログラム当たり20ミリグラム以上とする原料
(2)本質的にグルテンを含有しないもの。
これらの定義からわかるように、グルテンフリーとは、まったくグルテンを含まないもののみを指しているものではない。
【0060】
本開示に包含される乾燥後のでん粉麺の懸濁液におけるpHは、通常6.5を超えて9以下であり、6.6~7.98が好ましく、6.7~7.6がより好ましい。
でん粉麺のpHは、例えば、麺線の固形分を10%含む懸濁液(10%懸濁液)を作成し、その懸濁液のpHを測定することができる。
ここで、固形分とは、食品分析又は品質評価にあたって、多水分食品中の水分を蒸発除去した残留物をいう。固形分(%)は、100-水分(%)により求めることができる。水分は、例えば、OHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定することができる。
以下に、乾燥後のでん粉麺(乾燥麺)のpHの具体的な測定方法を示す。
(1)乾燥後の麺の水分を測定し、麺線の固形分を算出する。
(2)麺線の固形分が6gになるように計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れる。例えば、固形分が93%である乾燥麺の場合には、約6.5g計量する。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加し、常温で30分間放置して麺を膨潤させる。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注ぐ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定する。
上述の製造方法によって得られるでん粉麺は、湯戻し後に湯伸びしにくく、弾力及びコシのある良好な食感が低下しにくいものである。
【0061】
本開示に包含されるでん粉麺のα化度は、70%以上であり、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。
ここで、でん粉には、生でん粉、α化でん粉(糊化でん粉)、及びβ化でん粉(老化でん粉)の3つの状態があり、α化(糊化)度は、でん粉中のα化状態を、割合として数値化したものである。
α化度は、例えば、グルコアミラーゼ第2法に従って測定することができる。
乾燥後のでん粉麺のα化度が、70%以上と高いため、でん粉麺を湯戻ししなくてもそのまま食べることができる。よって、本開示に包含されるでん粉麺は、スナック菓子、おつまみ、又は、おやつとしてそのまま食べることができる。
【0062】
α化でん粉麺
また、上記製造方法のうち、α化工程後で、かつ、乾燥工程前の麺を、α化でん粉麺という。当該α化でん粉麺は、弾力及びコシのある良好な食感を有する。よって、乾燥工程前のα化でん粉麺は、チルドタイプの麺として販売することも可能である。
この乾燥工程前のα化でん粉麺は、本開示に包含されるでん粉麺を製造するための前駆体といえるものであり、以下の製造方法により製造することができる。
よって、本開示には、原材料混合工程、製麺工程、α化工程を含み、かつ、老化工程を含まない、α化でん粉麺の製造方法であって、前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、小麦粉及び/又はグルテンを含まず、前記α化工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、α化でん粉麺の製造方法、並びに、前記α化でん粉麺の製造方法によって得られるα化でん粉麺が包含される。
なお、α化でん粉麺のpHは、α化の後に、上記乾燥麺のpHの測定方法と同様にして測定することができる。
α化でん粉麺のpHの具体的な測定方法は、以下のとおりである。
(1)α化後の麺の水分を測定し、麺線の固形分を算出する。
(2)麺線の固形分が6gになるように計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れる。例えば、固形分が40%であるα化麺の場合には、約15g計量する。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加する。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注ぐ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定する。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示に包含される技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「約」とは、麺の質量の場合には、±(プラスマイナス)3gを意味しており、温度の場合には、±3℃を意味している。
【0064】
(1)呈味性素材(着味液又は食塩)を生地に練り込んだでん粉麺の製造
実施例1
(原材料混合工程)
緑豆でん粉(松谷化学工業株式会社製、「緑豆でん粉」(商品名))1230g、馬鈴薯でん粉(しれとこ斜里農業協同組合製、「なかしゃり」(商品名))900g、エンドウでん粉(上越スターチ株式会社製、「かんざんEP-1」(商品名))600g、及び、アルギン酸エステル(株式会社キミカ製、「昆布酸501」(商品名))30gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。
次いで、着味液原液(醤油300質量部、チキンエキス200質量部、及び、砂糖40質量部)と水とを3:7の比率に希釈した着味液3525gに、緑豆でん粉270g及びアルカリ剤(リン酸三ナトリウム)10gを加えて十分攪拌した後に、粘度がでるまで加熱してキャリアを作成した。
その後、60℃まで冷ましたキャリアを粉体混合物に加え、真空ミキサーで10分間混練した。
【0065】
pH測定
麺生地にpH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を直接差し込んでpHを測定したところ、6.15であった。
【0066】
(製麺工程)
得られた麺生地をモーノポンプ(兵神装備株式会社製)で配管に送り、細孔を有するノズルより押し出し、麺線に成形した。
【0067】
(α化工程)
得られた麺線を、ボイラーで発生させた蒸気を減圧させた後に噴射している蒸機の中を1分20秒間通過させることにより、100℃で常圧蒸煮を行い、α化させて、α化麺を得た。
pH測定
ここで、α化麺のpHを、以下の方法により測定した。
(1)α化後の麺の水分をOHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定し、麺線の固形分を算出したところ、40%であった。
(2)麺線の固形分が6gになるように約15g計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れた。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加した。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注いだ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定したところ、6.48であった。
【0068】
(乾燥工程)
その後、このα化麺の麺線を15cm程度の長さにカットし、室温で12分間放置した。
次に、麺線60gに、5mlのほぐし液を塗布し、1食ずつ円錐台形状の乾燥枠に投入し、乾燥機により50~60℃で熱風乾燥することにより、でん粉麺(1食分は約20g)が得られた。
【0069】
実施例2~4及び比較例1~5
着味原液希釈率(希釈原液:水)、アルギン酸エステルの添加量、又は、アルカリ剤の添加量を、下記表2のように代えた以外は、実施例1と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0070】
作製したでん粉麺(実施例1~4及び比較例1~5)について、以下の試験を行った。
【0071】
pH測定
得られたでん粉麺のpHを、以下の方法により測定した。
(1)乾燥後の麺の水分をOHAUS社製ハロゲン水分計MB45により測定し、麺線の固形分を算出した。なお、実施例1~5で得られた乾燥麺の固形分は91~94%であり、他の実施例及び比較例で得られた乾燥麺の固形分も同程度と考えられるため、計量する麺線の量は約6.5gとした。
(2)でん粉麺の麺線を約6.5g計量し、計量した麺線をメスシリンダーに入れた。
(3)麺線を入れたメスシリンダーに、60mLになるまで常温の蒸留水を添加し、常温で30分間放置して麺を膨潤させた。
(4)麺線と蒸留水との混合物をミキサーで30秒間粉砕して、10%懸濁液を作成し、この懸濁液を100mLビーカーに注いだ。
(5)pH測定器(ハンナインスツルメンツ社製、乳製品・半固形食品用pH/℃計/HI 99161D)を用いて、常温(25~30℃)でpHを測定した。
【0072】
製造適性の評価基準
5点:α化麺線の強度が高く、麺線同士の結着が少ないために50分以内に乾燥する。
4点:α化麺線の強度は問題がないが、麺線同士の結着がややみられるために、乾燥時間50分では乾燥しない。
3点:α化麺線の強度が乏しく、麺線同士の結着が激しいために、乾燥工程に進めない。(乾燥を行ったとしても、乾燥時間1時間以内では乾燥しない。)
2点:α化麺線が軟らかすぎるために千切れやすく、麺線状態を保持できない。
1点:生地(ドウ)が繋がらず、麺線化工程まで進めることができない。
製造適性は、5点を合格とした。
【0073】
官能評価試験
作製したでん粉麺を1日以上室温で放置した後、このでん粉麺を容器に入れ、熱湯を注いで約3分間放置した(以下、熱湯を注いで約3分間放置することを「湯戻し」という)。その後、食感及びほぐれ性に関する官能試験を行った。
官能試験は、熟練したパネリスト5名が2回ずつ評価を行った(評価数:10回)。
食感は、熱湯を注いで約3分間放置した後(湯戻し直後)、及び、湯戻し完了から5分経過後(湯戻しから5分後)に、下記表1に記載の評価基準に従って5段階で評価し、10回の値の平均値を算出した。そして、食感落ちについては、湯戻し直後の点が4点以上、かつ、湯戻しから5分後の点が2.5以上を合格とした。なお、食感の5点は、市販されている中国製の春雨(冷凍及び解凍工程を経て作製された春雨)の食感と同程度の食感という意味である。
【0074】
【0075】
【0076】
さらに、実施例2及び実施例4のでん粉麺について、グルコアミラーゼ第2法に従ってα化度を測定したところ、実施例2が79%、及び、実施例4が76%であった。
【0077】
結果
表2より、実施例1~5のでん粉麺は、いずれも製造適性評価は合格であった。また、食感評価については、湯戻し直後の点が4以上、湯戻しから5分後の点が2.5以上と、どちらの点数も高く、いずれも食感落ち評価が合格となった。
一方、比較例1及び2は、アルギン酸エステル及びアルカリ剤が含まれていなかったため、製造適性が悪く、製品であるでん粉麺が得られなかった。具体的には、比較例1は、麺線同士が結着して乾燥工程に進めなかった。また、比較例2は、α化麺線が軟らかすぎて麺線状態を保持できなかった。
比較例3は、アルギン酸エステルが含まれていなかったため、製造適性評価、及び、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の結果が悪く、食感落ち評価も不合格であった。
比較例4については、食感落ち評価は合格となったものの、実施例1~4と比較すると食感評価が劣っていた。また、比較例4は、製造適性評価が不合格であった。これらのことから、アルカリ剤を添加してpH調整を行った方が、より好ましい結果が得られることが示された。
比較例5は、製品(でん粉麺)のpHが9を超えており、製造適性評価が不合格であった。また、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の結果が悪く、食感落ち評価も不合格であった。
【0078】
実施例5及び6(アルカリ剤の種類の検討)
アルカリ剤を、下記表3の種類及び添加量に代えた以外は、実施例1と同様の製法で、でん粉麺の製造を試みた。
なお、実施例5で使用したかんすいは、炭酸カリウム(無水)と炭酸ナトリウムとを6:4の比率で配合したものである。
そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。その結果を、表3に示す。
【0079】
【0080】
結果
表3より、アルカリ剤の種類を変えた実施例5及び6のでん粉麺は、実施例1~4と同様、製造適性評価が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。
【0081】
比較例6~9(アルギン酸類の種類、酸液処理の有無、及び、カルシウム処理の有無の検討)
アルギン酸エステルをアルギン酸又はアルギン酸ナトリウムに代え、さらにアルカリ剤の添加量、カルシウム処理の有無、又は、酸液処理の有無を下記表4のように代えた以外は、実施例1と同様の製法で、比較例6及び8のでん粉麺を製造した。
比較例7は、α化処理後に、酸液処理(8.3g/Lの90%乳酸溶液中に麺線を30秒間浸漬する工程)を行い、それ以外は、比較例6と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
また、比較例9は、α化工程後に、イオン化したアルギン酸をゲル化させるためにカルシウム処理(α化後の麺線に対して、1%乳酸カルシウム溶液に10秒間浸漬を行う処理)を行った以外は、比較例8と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0082】
【0083】
結果
アルギン酸エステル以外のアルギン酸類としてアルギン酸を使用した比較例6は、上述した実施例1~5に比べて、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が低く、食感落ち評価の結果が不合格であった。
α化工程後に酸液処理を行った比較例7は、酸液処理を行わなかった比較例6の結果と同程度であった。
アルギン酸エステル以外のアルギン酸類としてアルギン酸ナトリウムを使用した比較例8は、製造適性評価、及び、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が低く、食感落ち評価の結果が不合格であった。
イオン化したアルギン酸及びアルギン酸ナトリウムは、カルシウムイオン等を添加するとゲル化する性質があるため、α化工程後の麺線(α化麺)にカルシウム処理を行ってみたが(比較例9)、カルシウム処理を行わなかった比較例8の結果と同程度であった。
【0084】
実施例7及び8(アルギン酸エステルの種類の検討)
アルギン酸エステルとして、株式会社キミカ製、「昆布酸503」又は「昆布酸542」を用い、アルカリ剤の添加量を下記表5のように代えた以外は、実施例1と同様の製造方法を用いて、でん粉麺の製造を試みた。
そして、でん粉麺が製造できた場合には、でん粉麺の官能評価を行った。これらの結果を、実施例3及び4の結果と比較することで、アルギン酸エステルの種類による効果を検討した。その結果を、表5に示す。
【0085】
【0086】
結果
表5より、実施例1~6とは異なるアルギン酸エステルの製品を用いた実施例7及び8のでん粉麺は、実施例1~6と同様、製造適性評価が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。よって、アルギン酸エステルの種類に関係なく、製造適性が優れ、湯戻し後に湯伸びしにくい(湯戻し後5分が経過しても、良好な食感を保っている)でん粉麺が得られることがわかった。
【0087】
実施例9(着味液の代わりに食塩を生地に練り込んだでん粉麺)
原材料混合工程を下記方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、でん粉麺を製造した。
(原材料混合工程)
馬鈴薯でん粉2910g、グアーガム90g、及び、アルギン酸エステル30gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。次いで、3200gの水に、食塩75g及びリン酸三ナトリウム10gを加えて十分攪拌し、練り水を調製した。その後、練り水を上記粉体混合物に加え、真空ミキサーで10分間混練した。
【0088】
比較例10及び11
アルカリ剤の添加量を下記表6に記載の量に代えた以外は、実施例9と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0089】
【0090】
結果
表6より、実施例1~8の着味液とは異なる特性付与原料(食塩)を用いた実施例9のでん粉麺は、実施例1~8と同様、製造適性評価が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。
アルカリ剤を含まない比較例10、及び、麺生地pHが9.87であり、製品pHが9を超えることが予想される比較例11は、麺線同士が結着して乾燥工程に進めず(製麺性が悪く)、製品であるでん粉麺が得られなかった。
【0091】
(2)難消化性素材又は天然色素含有着色性素材を生地に練り込んだでん粉麺の製造
実施例10(トマトペースト)
原材料混合工程を下記方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、でん粉麺を製造した。
(原材料混合工程)
馬鈴薯でん粉3000g、酢酸タピオカでん粉(松谷化学工業株式会社製、「松谷さくら」(商品名))2000g、グアーガム50g、及び、アルギン酸エステル50gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。次いで、3800gの水に、リン酸三ナトリウム70gを加えて十分攪拌し、練り水を調製した。その後、練り水及びトマトペースト(カゴメ株式会社製、「トマトペースト ポルトガル産 ホットブレイク製法」(商品名))1000gを上記粉体混合物に加え、真空ミキサーで10分間混練した。
【0092】
実施例11~12及び比較例12~14
アルカリ剤の添加量を下記表7のように代えた以外は、実施例10と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0093】
【0094】
結果
表7より、トマトペーストを用いた実施例10~12のでん粉麺は、実施例1~8と同様、製造適性評価が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。
アルカリ剤を含まない比較例12及び14、及び、麺生地pHが10.1であり、製品pHが9を超えることが予想される比較例13は、いずれも製造適性の評価が不合格であり、食感評価はできなかった。
【0095】
実施例13(カボチャペースト)
原材料混合工程を下記方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、でん粉麺を製造した。
(原材料混合工程)
漂白タピオカでん粉(松谷化学工業株式会社製、「MKK-100」(商品名))3000g、グアーガム30g、及び、アルギン酸エステル30gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。次いで、3060gの水に、リン酸三ナトリウム4gを加えて十分攪拌し、練り水を調製した。その後、練り水及びカボチャペースト(カゴメ株式会社製、「パンプキンピューレー」(商品名))1000gを上記粉体混合物に加え、真空ミキサーで10分間混練した。
【0096】
実施例14及び比較例15~16(カボチャペースト又はホウレンソウペースト)
特性付与原料の種類(カボチャペースト又はホウレンソウペースト(カゴメ株式会社製、「国産ほうれん草ピューレー」(商品名)))、及び、アルカリ剤の添加量を下記表8のように代えた以外は、実施例13と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0097】
【0098】
結果
表8より、カボチャペースト又はホウレンソウペーストを用いた実施例13及び14のでん粉麺は、実施例1~8と同様、製造適性評価が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。
アルカリ剤を含まない比較例15及び16は、いずれも製造適性の評価が不合格であり、食感評価はできなかった。
【0099】
実施例15(ワカメパウダー)
原材料混合工程を下記方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、でん粉麺を製造した。
(原材料混合工程)
漂白タピオカでん粉2000g、ワカメパウダー(理研ビタミン株式会社製、「オーシャンファイバーわかめ」(商品名))1000g、及び、アルギン酸エステル24gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。次いで、3000gの水に、リン酸三ナトリウム6gを加えて十分攪拌し、練り水を調製した。その後、練り水を上記粉体混合物に加え、真空ミキサーで10分間混練した。
【0100】
比較例17
アルカリ剤の添加量を下記表9のように代えた以外は、実施例15と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0101】
【0102】
結果
表9より、ワカメパウダーを用いた実施例15のでん粉麺は、実施例1~8と同様、製麺製造適性が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。
アルカリ剤を含まない比較例17は、製造適性の評価が不合格であり、食感評価はできなかった。
【0103】
実施例16(難消化性でん粉)
原材料混合工程を下記方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、でん粉麺を製造した。
(原材料混合工程)
漂白タピオカでん粉1500g、難消化性でん粉(松谷化学工業株式会社製、「ファイバージムRW」(商品名))1500g、グアーガム60g、及び、アルギン酸エステル30gを真空ミキサーに投入し、3分間混合し、プレミックスを行った。次いで、3100gの水に、リン酸三ナトリウム12gを加えて十分攪拌し、練り水を調製した。その後、練り水を上記粉体混合物に加え、真空ミキサーで10分間混練した。
【0104】
実施例17~19及び比較例18~19
難消化性でん粉を別の種類(松谷化学工業株式会社製、「パインスターチRT」(商品名))に変更し、アルカリ剤の添加量を下記表10のように代えた以外は、実施例16と同様の製法で、でん粉麺を製造した。
【0105】
【0106】
結果
表10より、実施例16~19のでん粉麺は、製造適性評価が合格であり、食感評価(湯戻し直後及び湯戻しから5分後)の点数が高く、食感落ち評価の結果も合格であった。
アルカリ剤を含まない比較例18、及び、麺生地pHが9.87であり、製品pHが9を超えることが予想される比較例19は、いずれも製造適性の評価が不合格であり、食感評価はできなかった。
【要約】
【課題】本開示は、老化工程を必要とすることなく、生地に特性付与原料を練り込んでも、製造適性に優れ、湯戻し後に湯伸びしにくいでん粉麺を製造することができる方法、及びその製造方法より製造されるでん粉麺を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示は、原材料混合工程、製麺工程、α化工程及び乾燥工程を含み、かつ、老化工程を含まない、でん粉麺の製造方法であって、
前記原材料混合工程における原材料は、でん粉、特性付与原料、アルカリ剤、及び、アルギン酸エステルを含み、かつ、
小麦粉及び/又はグルテンを含まず、
前記乾燥工程で得られた麺の懸濁液におけるpHが、6.5を超えて9以下である、でん粉麺の製造方法に関する。
【選択図】なし