(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】異常診断装置及び異常診断システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20250115BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20250115BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G05B23/02 302S
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020116830
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 智司
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/244203(WO,A1)
【文献】特開2018-091033(JP,A)
【文献】特開2019-211816(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049688(WO,A1)
【文献】特開2020-027386(JP,A)
【文献】特開2020-035081(JP,A)
【文献】特開2012-009064(JP,A)
【文献】特開2019-096289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象装置の振動の周波数スペクトルを示す診断データと、前記対象装置が正常時の前記
対象装置の振動の周波数スペクトルを示す正常データに基づいて構築された第1モデルと、の類似度を示す第1の指標を計算する第1処理部と、
前記正常データ及び前記対象装置が異常時の前記対象装置の振動の周波数スペクトルを示す異常データに基づいて構築された第2モデルと、前記診断データと、に基づいて、前記対象装置の異常度を示す第2の指標を計算する第2処理部と、
前記診断データの統計量と、前記正常データに基づいて構築された第3モデルの統計量と、の類似度を示す第3の指標を計算する第3処理部と、
前記第1の指標と、前記第2の指標と、前記第3の指標と、の各々を正規化した値に、前記正常データの数に応じた重みづけをして得られた結果に基づいて、前記対象装置が異常であるか否かを診断する診断部と、
を備えた異常診断装置。
【請求項2】
前記第1処理部は、
前記診断データと、前記第1モデルとの類似度を示す相関係数を、前記第1の指標として計算する
請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記第2処理部は、
多変量統計的プロセス管理によって構築された前記第2モデルを用いて前記第2の指標を計算する
請求項1または請求項2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記統計量は、平均値と、最大値と、標準偏差と、の少なくとも一を含むことを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記第1処理部は、前記第1の指標に基づいて前記対象装置が異常であるか否かを示す第1診断結果を出力し、
前記第2処理部は、前記第2の指標に基づいて前記対象装置が異常であるか否かを示す第2診断結果を出力し、
前記第3処理部は、前記第3の指標に基づいて前記対象装置が異常であるか否かを示す第3診断結果を出力し、
前記診断部は、前記第1~第3診断結果に基づいて、前記対象装置が異常であるか否かを示す第4診断結果を出力する
請求項
1に記載の異常診断装置。
【請求項6】
前記診断部は、前記第1診断結果と、前記第2診断結果と、前記第3診断結果と、の各々に、前記正常データの数に応じた重みづけをして得られた結果に基づいて、前記第4診断結果を出力する請求項5に記載の異常診断装置。
【請求項7】
前記対象装置は、所定のスイッチング周波数で動作するスイッチング回路を有し、
前記診断データは、前記対象装置の振動の周波数スペクトルを示すデータのうち、前記所定のスイッチング周波数に応じた周波数帯の周波数スペクトルが抑制されたデータである
請求項1~6のいずれか一項に記載の異常診断装置。
【請求項8】
前記対象装置に設けられた振動センサが出力する振動データを取得する取得部と、
前記振動データに基づいて前記診断データを生成する診断データ生成部と、を更に備えた請求項1~7のいずれか一項に記載の異常診断装置と、
前記対象装置に設けられる前記振動センサと、を備えた異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常診断装置及び異常診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機等の振動を検出する振動センサから出力された振動データに対し、高速フーリエ級数変換を施したデータに基づいて異常診断を実行する方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に記載された方法(方法1)では、正常時の振動データに対するフーリエスペクトルの統計量(例えば、平均値、最大値等)に、多変量統計的プロセス管理(MSPC)を適用することによって診断モデルが生成される。そして、方法1では、当該診断モデルを用いて、診断対象の振動データに対する異常診断を実行する。
【0004】
また、特許文献2に記載された方法(方法2)では、正常時の振動データに対するフーリエスペクトルと、診断対象の振動データに対するフーリエスペクトルとの相関係数に基づいて、診断対象の振動データに対する異常診断を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-279056号公報
【文献】特開2018-091033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、方法1では、電動機の異常により、診断対象の振動データに対するフーリエスペクトルの形状が正常データのそれとは大きく異なる場合であっても、平均値や最大値といった統計量が正常の範囲であれば、異常であるにもかかわらず正常であると診断される場合がある。尚、方法1においてこのような誤診断が発生する頻度は、正常データのサンプル数に依らない。
【0007】
また、方法1は、方法2に比べて、必要な正常データのサンプルが多く、正常データのサンプル数が不足すると判別性能が著しく劣化する。
【0008】
また、方法2は、診断対象の振動データに対するフーリエスペクトルの形状を考慮した診断をすることができるため、上述のような誤診断を抑制することができる。しかし、方法2は、方法1に比べて、判別性能は一般に劣る。
【0009】
本発明の目的は、正常データのサンプル数に依らずに発生する誤診断を抑制し、且つ正常データのサンプル数の不足に伴う判別性能の劣化を抑制することができる異常診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための一の発明は、対象装置の振動の周波数スペクトルを示す診断データと、前記対象装置が正常時の前記対象装置の振動の周波数スペクトルを示す正常データに基づいて構築された第1モデルと、の類似度を示す第1の指標を計算する第1処理部と、前記正常データ及び前記対象装置が異常時の前記対象装置の振動の周波数スペクトルを示す異常データに基づいて構築された第2モデルと、前記診断データと、に基づいて、前記対象装置の異常度を示す第2の指標を計算する第2処理部と、前記第1の指標と、前記第2の指標とに基づいて、前記対象装置が異常であるか否かを診断する診断部と、を備えた異常診断装置である。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正常データのサンプル数に依らずに発生する誤診断を抑制し、且つ正常データのサンプル数の不足に伴う判別性能の劣化を抑制することができる異常診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】異常診断装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】異常診断装置に実現される機能ブロックの一例を示す図である。
【
図5】加工後の診断データの一例を説明する図である。
【
図6】診断データと正常データの一例を示す図である。
【
図9】異常診断装置で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】異常診断装置に実現される機能ブロックの一例を示す図である。
【
図11】異常診断装置で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
==第1実施形態==
<異常診断システム>
図1は、本実施形態の異常診断システム1の概要を示す図である。異常診断システム1は、圧延設備等の生産設備において、インバータ61によって駆動する電動機62の振動を検出する振動センサ2からの情報に基づいて、電動機62のベアリング異常等の異常を検出するためのシステムである。異常診断システム1は、振動センサ2と、異常診断装置3と、を備えている。以下、夫々について説明する。
【0014】
[振動センサ]
振動センサ2は、負荷を駆動するための駆動装置6に設けられている。駆動装置6は、電源設備60、インバータ61及び電動機62を有している。インバータ61は、所定のスイッチング周波数で動作するスイッチング回路を有し、電動機62を駆動する。尚、本実施形態において、電動機62が異常診断の対象となる「対象装置(または対象機器)」に相当する。
【0015】
振動センサ2は、電動機62の振動を検出する。振動センサ2は、接触式であってもよいし、非接触式であってもよい。振動センサ2は、検出した振動の時系列データを、振動データとして異常診断装置3の取得部40(後述)に出力する。
【0016】
[異常診断装置]
図2は、異常診断装置3のハードウェア構成の一例を示す図である。異常診断装置3は、CPU(Central Processing Unit)30、メモリ31、記憶装置32、入力装置33、表示装置34、及び通信装置35を含むコンピュータである。
【0017】
CPU30は、メモリ31や記憶装置32に格納されたプログラムを実行することにより、異常診断装置3における様々機能を実現する。
【0018】
メモリ31は、例えばRAM(Random-Aaccess Mmemory)等であり、プログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0019】
記憶装置32は、後述する第1モデルM1、第2モデルM2、第3モデルM3、CPU30によって実行あるいは処理される異常診断プログラムP等を格納する不揮発性の記憶装置32である。
【0020】
異常診断プログラムPは、異常診断装置3が有する各種機能を実現するためのプログラムであり、例えば、OS(Operating System)等を含む。
【0021】
入力装置33は、ユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける装置であり、キーボード、タッチパネルディスプレイ上でのタッチ位置を検出するタッチセンサなどの入力インタフェースを含む。
【0022】
表示装置34は、例えばディスプレイ等の装置である。通信装置35は、ネットワークを介して、振動センサ2や他のコンピュータとデータや各種プログラムの受け渡しを行う。
【0023】
図3は、異常診断装置3に実現される機能ブロックの一例を示す図である。異常診断装置3のCPU30が、異常診断プログラムPを実行することにより、異常診断装置3には、取得部40と、診断データ生成部41と、第1処理部42と、第2処理部43と、第3処理部44と、診断部45と、が実現される。
【0024】
取得部40は、振動センサ2が出力する振動データを取得する。取得部40は、駆動装置6が稼働中に出力される振動データを常に取得してもよいし、一定時間に出力される振動データを所定の周期で取得してもよい。取得部40は、振動データを取得すると、振動データを診断データ生成部41に出力する。
【0025】
診断データ生成部41は、振動データに基づいて診断データを生成する。診断データは、電動機62の振動の周波数スペクトルを示すデータである。以下、
図4を用いて、診断データについて説明する。
図4は、診断データの一例を説明する図である。
【0026】
診断データ生成部41は、振動データx(t)のうち、時刻t
iから所定の時間間隔T[sec]に亘る範囲に対して下記(式1)に示すフーリエ変換を施すことによって、診断データa
inを生成する。
【0027】
診断データainにおいて、添字iは、時刻tiから時刻ti+Tの振動データx(t)に基づく診断データであることを示している。また、添字nは、n/T[Hz]の周波数成分に対応することを示している。nは、0から所定の上限nmaxまでの整数である。
【0028】
本実施形態では、時間間隔Tを50μsecとした。そして、nmaxを200とした。そうすると、診断データain(n=0~200)は、0~10kHzの範囲における周波数スペクトルから、50Hzの間隔で抽出されたデータである。
【0029】
診断データ生成部41は、上記のフーリエ変換の処理を、高速フーリエ変換のアルゴリズムを用いて実行する。
【0030】
尚、本実施形態の診断データ生成部41は、振動データをフーリエ変換して得られた
図4に示した診断データを加工し、加工後の診断データを生成する。以下、
図4及び
図5を用いて詳細に説明する。
【0031】
図4に示した診断データは加工前の診断データであり、加工前の診断データは、4kHz、6kHz、8kHz、10kHzの夫々の周波数の近傍において鋭いピークを有する。これらのピークは、インバータ61が有するスイッチング回路のスイッチング周波数に起因するノイズである。つまり、このようなノイズは、電動機62の異常に起因するものではない。
【0032】
そこで、スイッチング回路のスイッチング周波数に起因するノイズの寄与が、後述する異常診断処理において反映されないように、診断データを加工する。具体的には、本実施形態の診断データは、電動機62の振動の周波数スペクトルを示すデータのうち、インバータ61が有するスイッチング回路のスイッチング周波数に応じた周波数帯の周波数スペクトルが抑制されたデータとする。
【0033】
図5は、加工後の診断データの一例を説明する図である。
図5に示す加工後の診断データは、
図4に示した加工前の診断データに対し、4kHz、6kHz、8kHz、10kHzの夫々の周波数の前後400Hzの周波数帯に対応する周波数スペクトルを0としている。つまり、加工後の診断データa
in(n=0~200)は、n=76~85、116~124、156~164、196~200の成分を0としている。以下、加工後の診断データを、単に診断データと称する。
【0034】
第1処理部42は、診断データと、第1モデルM1と、の類似度を示す第1の指標を計算する。第1モデルM1は、正常データに基づいて構築されたモデルである。正常データは、電動機626が正常時の電動機62の振動の周波数スペクトルを示すデータである。以下、詳細に説明する。
【0035】
先ず、正常データについて説明する。
図6は、診断データと正常データの一例を示す図である。
図6において、診断データの一例が実線で示され、正常データの一例が破線で示されている。
【0036】
以下の説明において、正常データを、bjn(j=1~jmax、n=0~nmax)と表現する。ここで、添字jは、複数の正常データを区別するための添字であり、複数の正常データの夫々は、異なる時刻に出力された振動データに基づいている。また、添字nは、診断データと同様に、周波数成分がn/T[Hz]の振幅であることを示している。正常データbjnは、電動機62が正常時に振動センサ2が出力した振動データを、上記(式1)と同様にフーリエ変換を施すことによって得られたデータである。
【0037】
次いで、第1モデルM1について説明する。本実施形態の第1モデルM1は、複数の正常データbjnの平均値であって、M1n(n=0~nmax)と表現される。ここで、添字nは、診断データと同様に、周波数成分がn/T[Hz]の振幅であることを示している。つまり、第1モデルM1nは、複数の正常データbjnのjについての総和を、jmaxで除した値である。
【0038】
次いで、類似度を示す第1の指標について説明する。本実施形態では、第1処理部42は、診断データa
jn(n=0~n
max)と、第1モデルM1
n(n=0~n
max)と、の類似度を示す相関係数r
iを、第1の指標として計算する。当該相関係数r
iは、下記(式2)で定義される。
(式2)において、
と定義される。
【0039】
相関係数は、0以上1以下の値であり、1に近いほど、診断データと、第1モデルM1と、の類似度が高い。つまり、相関係数rが1に近いほど、当該診断データの基づく騒動データが出力された時点の電動機62は、正常に動作している可能性が高い。特に、相関係数が、0.6程度以上であれば、正常に動作していると考えることができる。また、相関係数が1のとき、診断データajn(n=0~nmax)と、第1モデルM1n(n=0~nmax)と、は一致する。
【0040】
第1処理部42は、以上の手順で、診断データ生成部41から順次出力される診断データについて、相関係数を計算する。
図7は、相関係数の計算結果の一例を示す図である。
図7は、サンプル番号が1~17の、順次出力された診断データの各々に対して計算された相関係数を示している。また、図中の破線は、相関係数が0.6の位置を示している。ここでのサンプル番号は、診断データa
inの添字iに対応する。
【0041】
以上、類似度を示す第1の指標として、本実施形態では相関係数を例示したが、これに限定されるものではない。他の例として、内積(余弦類似度)を用いてもよい。この場合、診断データa
jn(n=0~n
max)と、第1モデルM1
n(n=0~n
max)と、の内積n
iは、下記(式5)で定義される。
【0042】
第2処理部43は、第2モデルM2と、診断データと、に基づいて、電動機62の異常度を示す第2の指標を計算する。第2モデルM2は、正常データ及び異常データに基づいて構築されたモデルである。異常データは、電動機62が異常時の電動機62の振動の周波数スペクトルを示すデータである。
【0043】
本実施形態では、第2処理部43は、多変量統計的プロセス管理によって構築された第2モデルM2を用いて第2の指標を計算する。本実施形態では、第2の指標として、Q統計量を用いる。Q統計量が小さいほど電動機62の異常度は低く、Q統計量が大きいほど電動機62の異常度が高い。特に、Q統計量が1.0×104程度以下であれば、電動機62は正常と考えることができる。
【0044】
第2処理部43は、診断データ生成部41から順次出力される診断データについて、Q統計量を計算する。
図8は、Q統計量の計算結果の一例を示す図である。
図8は、サンプル番号が1~17の、順次出力された診断データの各々に対して計算されたQ統計量を示している。また、図中の破線は、Q統計量が1.0×10
4の位置を示している。ここでのサンプル番号は、診断データa
inの添字iに対応する。
【0045】
尚、本実施形態では、多変量統計的プロセス管理により第2モデルM2を構築する態様を示したが、これに限られるものではない。他の例として、サポートベクターマシーン等の機械学習モデルを用いて第2モデルM2を構築してもよい。
【0046】
第3処理部44は、診断データの統計量と、第3モデルM3の統計量と、の類似度を示す第3の指標を計算する。第3モデルM3は、正常データに基づいて構築されたモデルである。第3モデルM3は、上述した第1モデルM1と同様に、複数の正常データについて平均値を求めることにより構築される。第3モデルM3は、第1モデルM1と同一のモデルであってもよい。あるいは、第3モデルM3は、第1モデルM1を構築する際に用いた正常データの組とは異なる正常データの組を用いて構築されてもよい。
【0047】
ここでの統計量は、平均値と、最大値と、標準偏差と、の少なくとも一を含む。ここで、診断データの平均値、最大値及び標準偏差とは、診断データainの、添字nをサンプル番号として計算された夫々の値である。第3モデルM3の平均値、最大値及び標準偏差についても同様である。
【0048】
本実施形態では、統計量として、平均値を用いる。診断データain(n=1~nmax)の平均値をAとし、第3モデルM3n(n=1~nmax)の平均値をaとする。そして、Aとaの比(A/a)を第3の指標とする。第3の指標は、1に近いほど当該類似度が高く、1から離れるほど当該類似度が低い。
【0049】
特に、本実施形態のように統計量として平均値を用いる場合、第3の指標(A/a)が0.5より小さいか、2より大きいと、電動機62にベアリング異常が発生している可能性が高い。
【0050】
診断部45は、第1~第3の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを診断する。例えば、診断部45は、第1の指標と、第2の指標と、第3の指標と、の各々を正規化した値に、重みづけをして得られた結果に基づいて、電動機62が異常であるか否かを診断してもよい。
【0051】
具体的には、第1の指標(相関係数)、第2の指標(Q統計量)及び第3の指標(統計量の類似度)を、0~1の範囲に正規化した量を夫々、α、β及びγとする。
【0052】
この正規化の際、相関係数については、第1処理部42によって計算された相関係数riを、そのままαとすればよい。Q統計量については、異常度が低いほど(Q統計量が小さいほど)、βが1に近くなるよう調整し、異常度が高いほど(Q統計量が大きいほど)、βが0に近くなるよう調整する。統計量の類似度については、統計量の類似度が1に近いほど、γが1に近くなるよう調整し、統計量の類似度が1から離れるほど、γが0に近くなるよう調整する。
【0053】
そして、α、β及びγに対する重みを、夫々、wα、wβ及びwγとし、重みづけされた量W(=wαα+wββ+wγγ)に基づいて、電動機62が異常であるか否かが診断される。
【0054】
ここで、wα、wβ及びwγの総和が1となるようにこれらの重みを決定すれば、重みづけされた量Wは、0以上1以下となる。そこで、例えば0.5といった閾値を予め設定しておき、診断部45は、重みづけされた量Wが当該閾値よりも大きい場合に正常であると診断し、それ以外の場合に異常と診断するようにしてもよい。
【0055】
重みwα、wβ及びwγを決定する方法としては、例えば、第1~第3モデル(M1~M3)を構築する際に用いられた正常データの数に応じて決定することが考えられる。以下、詳細に説明する。
【0056】
第1~第3モデル(M1~M3)を構築する際に、必要な正常データの数は、夫々のモデルによって異なる。ここで、必要な正常データの数とは、信頼性のある指標(第1~第3の指標)の計算結果を得るために必要な正常データの数である。ここで、信頼性のある指標の計算結果とは、一定水準以上の一意性を有して再現される指標の計算結果である。
【0057】
例えば、一般に、第2モデルM2を構築する際に必要な正常データの数は、第1モデルM1や第3モデルM3を構築する際に必要な正常データの数よりも多い。
【0058】
また、一般に、第2モデルM2を構築する際に必要な数の正常データを用いて計算されたQ統計量の信頼性は、同数の正常データを用いて計算された相関係数の信頼性に比べて高い。
【0059】
従って、第2モデルM2を構築した際に用いられた正常データの数が、第2モデルM2を構築するために必要な数以上であった場合、Q統計量を正規化した値βに最も大きな重みづけをすることが好ましい。具体例としては、(wα、wβ、wγ)=(0.25、0.50、0.25)といった重みづけを用いてもよい。
【0060】
一方、用いられる正常データの数が、第2モデルM2を構築するために必要な数には満たないが、第1モデルM1を構築するために必要な数以上である場合、計算されたQ統計量の信頼性は、計算された相関係数の信頼性よりも低い。
【0061】
従って、このような場合、Q統計量を正規化した値βに最も小さな重みづけをすることか好ましい。具体例としては、(wα、wβ、wγ)=(0.40、0.20、0.40)といった重みづけを用いてもよい。
【0062】
<異常診断処理>
以下、各機能ブロックが実行する処理の一例を、
図9等を参照しながら説明する。
図9は、異常診断装置3で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0063】
先ず、取得部40は、振動センサ2が出力する振動データを取得する(S10)。次いで、診断データ生成部41は、振動データに基づいて診断データainを生成する(S11)。
【0064】
次いで、第1処理部42は、診断データと、第1モデルM1と、の類似度を示す第1の指標を計算する(S12)。第1モデルM1は、複数の正常データに基づいて予め構築されている。また、本実施形態の類似度を示す第1の指標とは、相関係数である。
【0065】
次いで、第2処理部43は、第2モデルM2と、診断データと、に基づいて、電動機62の異常度を示す第2の指標を計算する(S13)。第2モデルM2は、複数の正常データ及び複数の異常データを多変量統計的プロセス管理に適用することによって予め構築されている。また、本実施形態の第2の指標とは、Q統計量である。
【0066】
次いで、第3処理部44は、診断データの統計量と、第3モデルM3の統計量と、の類似度を示す第3の指標を計算する(S14)。第3モデルM3は、複数の正常データに基づいて予め構築されている。また、本実施形態の類似度を示す第3の指標とは、診断データの平均値Aと、第3モデルM3の平均値aとの比(A/a)である。
【0067】
次いで、診断部45は、第1~第3の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを診断し、診断結果を出力する(S15)。診断部45は、例えば、第1の指標と、第2の指標と、第3の指標と、の各々を正規化した値に、重みづけをして得られた結果に基づいて、電動機62が異常であるか否かを診断する。
【0068】
尚、S12、S13及びS14が実行される順序は任意であって、上記の例に限られるものではない。また、S12、S13及びS14の夫々が並行して実行されてもよい。
【0069】
==第2実施形態==
図10は、異常診断装置3に実現される本実施形態の機能ブロックの一例を示す図である。異常診断装置3に実現される本実施形態の機能は、異常診断装置3に実現される第1実施形態の機能と比べると、第1処理部52、第2処理部53、第3処理部54及び診断部55について異なっている。取得部50及び診断データ生成部51については、第1実施形態の取得部40及び診断データ生成部41と同様であるため、説明は省略する。
【0070】
第1処理部52は、第1の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第1診断結果を出力する。具体的には、第1処理部52は、第1の指標と、所定の第1閾値とを比較することにより、第1診断結果を出力する。本実施形態では、第1処理部52は、相関係数が第1閾値よりも大きい場合に62が正常であると診断し、それ以外の場合に電動機62が異常であると診断する。第1閾値としては、例えば、0.6を用いることができる。
【0071】
また、第1診断結果は、本実施形態では、正常の場合は1とし、以上の場合は0とする。これは、後述する第2診断結果及び第3診断結果についても同様とする。
【0072】
第2処理部53は、第2の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第2診断結果を出力する。具体的には、第2処理部53は、第2の指標と所定の第2閾値を比較することにより、第2診断結果を出力する。本実施形態では、第2処理部53は、Q統計量が所定の第2閾値よりも小さい場合に電動機62が正常であると診断し、それ以外の場合に電動機62が異常であると診断する。第2閾値としては、例えば、1.0×104を用いることができる。
【0073】
第3処理部54は、第3の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第3診断結果を出力する。具体的には、第3処理部54は、第3の指標と所定の第3閾値を比較することにより、第3診断結果を出力する。本実施形態では、第3処理部54は、第1実施形態で説明した診断データの平均値Aと、第3モデルM3の平均値aとの比(A/a)が、所定の範囲内である場合に電動機62が正常であると診断し、それ以外の場合に電動機62が異常であると診断する。所定の範囲としては、例えば、0.5以上2.0以下とすることができる。
【0074】
診断部55は、第1~第3診断結果に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第4診断結果を出力する。診断部55は、第1診断結果と、第2診断結果と、第3診断結果と、を加算した値に基づいて、第4診断結果を出力してもよい。前述のように、第1~第3診断結果は0(異常)又は1(正常)である。従って、第1~第3診断結果を加算した値は、0以上3以下となる。診断部55は、この加算した値が、例えば2又は3であれば、正常と診断してもよい。
【0075】
あるいは、診断部55は、第1診断結果と、第2診断結果と、第3診断結果と、の各々に、正常データの数に応じた重みづけをして得られた結果に基づいて、第4診断結果を出力してもよい。
【0076】
具体例として、第1、第2及び第3診断結果が夫々、0(異常)、1(正常)及び1(正常)であったとする。そして、第1、第2及び第3診断結果に対する重みを、夫々、wα、wβ及びwγとする。この場合、重みづけされた量Wは、W=0×wα+1×wβ+1×wγ=wβ+wγとなる。そして、この重みづけされた量Wに基づいて、電動機62が異常であるか否かが診断される。
【0077】
ここで、重みwα、wβ及びwγを決定する方法及び異常診断をする方法としては、第1実施形態で説明した方法を用いることができる。
【0078】
<異常診断処理>
以下、各機能ブロックが実行する処理の一例を、
図11等を参照しながら説明する。
図11は、異常診断装置3で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0079】
図11に示すフローチャートにおいて、S22、S24及びS26は夫々、第1実施形態で
図9を用いて説明したS12、S13及びS14と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0080】
第1処理部52は、S22で第1の指標を計算した後、第1の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第1診断結果を出力する(S23)。
【0081】
次いで、第2処理部53は、S24で第2の指標を計算した後、第2の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第2診断結果を出力する(S25)。
【0082】
次いで、第3処理部54は、S26で第3の指標を計算した後、第3の指標に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第3診断結果を出力する(S27)。
【0083】
次いで、診断部55は、第1~第3診断結果に基づいて、電動機62が異常であるか否かを示す第4診断結果を出力する(S28)。診断部55は、第1診断結果と、第2診断結果と、第3診断結果と、の各々に、正常データの数に応じた重みづけをして得られた結果に基づいて、第4診断結果を出力してもよい。
【0084】
尚、S23、S25及びS27はそれぞれ、S22、S24及びS26の後に実行されればよく、S22~S26の順番はこの例の順番に限られない。
【0085】
===まとめ===
以上、第1実施形態及び第2実施形態の異常診断装置3は、対象装置の振動の周波数スペクトルを示す診断データと、対象装置が正常時の対象装置の振動の周波数スペクトルを示す正常データに基づいて構築された第1モデルと、の類似度を示す第1の指標を計算する第1処理部42と、正常データ及び対象装置が異常時の対象装置の振動の周波数スペクトルを示す異常データに基づいて構築された第2モデルと、診断データと、に基づいて、対象装置の異常度を示す第2の指標を計算する第2処理部43と、第1の指標と、第2の指標とに基づいて、対象装置が異常であるか否かを診断する診断部45と、を備える。
【0086】
これによって、正常データのサンプル数に依らずに発生する誤診断を抑制し、且つ正常データのサンプル数の不足に伴う判別性能の劣化を抑制することができる。
【0087】
また、上記異常診断装置3において、第1処理部42は、診断データと、第1モデルとの類似度を示す相関係数を、第1の指標として計算する。相関係数を考慮することによって、用いる正常データの数が十分でない場合にも、信頼性のある診断結果を得ることができる。
【0088】
また、上記異常診断装置3において、第2処理部43は、多変量統計的プロセス管理によって構築された第2モデルを用いて第2の指標を計算する。多変量統計的プロセス管理を用いることによって、用いる正常データの数が多いほど、診断結果の信頼性が向上する。
【0089】
また、上記異常診断装置3において、診断データの統計量と、正常データに基づいて構築された第3モデルの統計量と、の類似度を示す第3の指標を計算する第3処理部44を更に備え、診断部45は、第1~第3の指標に基づいて、対象装置が異常であるか否かを診断する。これによって、直感的でわかりやすい診断方式を取り入れることができる。
【0090】
また、上記異常診断装置において、統計量は、平均値と、最大値と、標準偏差と、の少なくとも一を含む。これによって、更に直感的でわかりやすい診断方式を取り入れることができる。
【0091】
また、第1実施形態の異常診断装置3において、診断部45は、第1の指標と、第2の指標と、第3の指標と、の各々を正規化した値に、正常データの数に応じた重みづけをして得られた結果に基づいて、対象装置が異常であるか否かを診断する。これによって、いずれかのモデルを構築する際、必要な正常データの数が不足しているために信頼性のある指標の寄与を小さくすることで、全体として信頼性を有する診断結果を得ることができる。
【0092】
また、第2実施形態の異常診断装置3において、第1処理部42は、第1の指標に基づいて対象装置が異常であるか否かを示す第1診断結果を出力し、第2処理部43は、第2の指標に基づいて対象装置が異常であるか否かを示す第2診断結果を出力し、第3処理部44は、第3の指標に基づいて対象装置が異常であるか否かを示す第3診断結果を出力し、診断部45は、第1~第3診断結果に基づいて、対象装置が異常であるか否かを示す第4診断結果を出力する。夫々の診断方式による診断結果を確認することができるため、第4診断結果が異常である場合、異常と診断された原因を特定しやすくなる。
【0093】
また、第2実施形態の異常診断装置において、診断部45は、第1診断結果と、第2診断結果と、第3診断結果と、の各々に、正常データの数に応じた重みづけをして得られた結果に基づいて、第4診断結果を出力する。これによって、いずれかのモデルを構築する際、必要な正常データの数が不足しているために信頼性のある指標の寄与を小さくすることで、全体として信頼性を有する診断結果を得ることができる。
【0094】
また、上記異常診断装置3において、対象装置は、所定のスイッチング周波数で動作するスイッチング回路を有し、診断データは、対象装置の振動の周波数スペクトルを示すデータのうち、所定のスイッチング周波数に応じた周波数帯の周波数スペクトルが抑制されたデータである。これによって、振動データの中にスイッチングノイズが含まれても、スイッチングノイズに起因する誤診断を抑制することができる。
【0095】
また、対象装置の振動の周波数スペクトルを示す診断データと、対象装置が正常時の対象装置の振動の周波数スペクトルを示す正常データに基づいて構築されたモデルと、の類似度を示す指標を計算する処理部と、当該指標に基づいて、対象装置が異常であるか否かを診断する診断部と、を備える。これによって、正常データのサンプル数の不足に伴う判別性能の劣化を抑制することができる。
【0096】
また、対象装置が正常時の対象装置の振動の周波数スペクトルを示す正常データ及び対象装置が異常時の対象装置の振動の周波数スペクトルを示す異常データに基づいて構築されたモデルと、対象装置の振動の周波数スペクトルを示す診断データと、に基づいて、対象装置の異常度を示す指標を計算する処理部と、当該指標に基づいて、対象装置が異常であるか否かを診断する診断部と、を備える。これによって、異常診断の際に周波数スペクトルの形状を考慮することができるため、正常データのサンプル数に依らずに発生する誤診断を抑制することができる。
【0097】
また、第1実施形態及び第2実施形態の異常診断システム1は、対象装置に設けられた振動センサ2が出力する振動データを取得する取得部40と、振動データに基づいて診断データを生成する診断データ生成部41と、を更に備えた第1実施形態の異常診断装置3又は第2実施形態の異常診断装置3と、対象装置に設けられる振動センサ2と、を備える。これによって、正常データのサンプル数に依らずに発生する誤診断を抑制し、且つ正常データのサンプル数の不足に伴う判別性能の劣化を抑制することができる。
【0098】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0099】
1:異常診断システム
2:振動センサ
3:異常診断装置
30:CPU
31:メモリ
32:記憶装置
33:入力装置
34:表示装置
35:通信装置
40:取得部
41:診断データ生成部
42:第1処理部
43:第2処理部
44:第3処理部
45:診断部
50:取得部
51:診断データ生成部
52:第1処理部
53:第2処理部
54:第3処理部
55:診断部
6:駆動装置
60:電源設備
61:インバータ
62:電動機