(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】地盤評価方法
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20250115BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
(21)【出願番号】P 2020211281
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 由訓
【審査官】進藤 利哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-090197(JP,A)
【文献】特開2015-125092(JP,A)
【文献】萩原 由訓 他,GISデータを用いた都市水害に関する簡易危険度評価の研究,大林組技術研究所報,No.79,2015年,[2024年8月13日検索],<URL:https://www.obayashi.co.jp/technology/shoho/079/2015_079_12.pdf>,p1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G08B 23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
或る領域を第1のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第1ラプラシアンを算出することと、
前記或る領域を前記第1のメッシュサイズとは異なる第2のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第2ラプラシアンを算出することと、
前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンとに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹凸具合を評価することと、
を有
し、
前記或る領域の或る部分にて重複している前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンとが何れも正の値である場合、前記或る部分を凹地と評価する、ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項2】
或る領域を第1のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第1ラプラシアンを算出することと、
前記或る領域を前記第1のメッシュサイズとは異なる第2のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第2ラプラシアンを算出することと、
前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンとに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹凸具合を評価することと、
を有
し、
前記第1のメッシュサイズのメッシュと前記第2のメッシュサイズのメッシュは、異なる大きさのメッシュであり、交差している、ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地盤評価方法であって、
前記第1のメッシュサイズ及び前記第2のメッシュサイズは、各々変更可能である、ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の地盤評価方法であって、
前記或る領域を前記第1のメッシュサイズ及び前記第2のメッシュサイズとは異なる第3のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第3ラプラシアンを算出し、
前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンと前記第3ラプラシアンとに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹具合を評価する、ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の地盤評価方法であって、
前記或る領域をn種類のメッシュサイズにそれぞれ区分したときの区分ごとの標高データから、それぞれ前記或る領域の地盤の凹凸の指標を表すn種類のラプラシアンを算出し
前記n種類のラプラシアンのうち2以上の前記ラプラシアンに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹具合を評価する、ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の地盤評価方法であって、
前記メッシュサイズの一辺の長さは5m以上である、ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の地盤評価方法であって、
前記或る領域の地盤の凹凸具合の評価結果に基づいて、前記或る領域において水害が生じる危険性を評価する、ことを特徴とする地盤評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部における集中的な豪雨により人的・物的被害が数多く発生しており、水害に対する危険度評価のニーズが高まっている。これに対して、自治体等では、独自に水害のハザードマップを作成して公開している。一方、全国に点在する拠点(工場や支社等)を有する企業では、水害対策を行う際に、優先順位を決めるために危険度の比較を行う場合があるが、自治体毎に被害想定などの条件が異なるため、危険度を個別に調査する必要が生じ手間がかかっていた。そこで、異なる地域において危険度を同じ指標で評価する方法が提案されている。例えば、非特許文献1には、その土地がそもそも持っている水害(内水氾濫および外水氾濫)に対する危険度を、全国同じ指標でかつ簡易的に評価するために、地形の凸凹の指標として使われることが多いラプラシアンを用いることで、水害の危険度を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】大林組技術研究所報No.79 2015「GISデータを用いた都市水害に関する簡易危険度評価の研究」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の危険度評価方法では、評価対象となる区域を所定の大きさのメッシュ(一辺の長さが250m)で区切ったときの標高データを用いて地盤の凹凸を算出しているが、この場合、スケールの異なる凹地を正確に把握することが困難であった。例えば、評価対象となる区域を250mという比較的大きなスケールで区切ったときの平均の標高データを用いた場合、50m程度の狭い領域で局所的に高低差が変化しているような部分は凸凹の評価に反映され難くなっていた。すなわち、その地盤の凹凸具合を正確に評価することが難しく、凹凸評価と実際の水害危険度との間にズレが生じる可能性があった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地盤の凹凸具合を正確に評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための主たる発明は、或る領域を第1のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第1ラプラシアンを算出することと、前記或る領域を前記第1のメッシュサイズとは異なる第2のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第2ラプラシアンを算出することと、前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンとに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹凸具合を評価することと、を有し、前記或る領域の或る部分にて重複している前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンとが何れも正の値である場合、前記或る部分を凹地と評価する、ことを特徴とする地盤評価方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地盤の凹凸具合を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ラプラシアンの計算方法について説明する図である。
【
図2】或る領域について、メッシュサイズを250mとしてラプラシアンを算出した場合の一例を説明する図である。
【
図3】或る領域について、メッシュサイズを50mとしてラプラシアンを算出した場合の一例を説明する図である。
【
図4】凹凸評価の対象とする或る領域EAについて説明する図である。
【
図5】
図5Aは、領域M250を構成する縦3×横4の各メッシュの標高データを表した図である。
図5Bは、
図5Aの標高データに基づいて、各メッシュについて算出されたラプラシアンLを表した図である。
【
図6】領域EAを250mのメッシュサイズで区分したときの、地盤の凹凸具合を表した図である。
【
図7】
図7Aは、領域M100を構成する縦5×横4の各メッシュの標高データを表した図である。
図7Bは、
図7Aの標高データに基づいて、各メッシュについて算出されたラプラシアンLを表した図である。
【
図8】領域EAを100mのメッシュサイズで区分したときの、地盤の凹凸具合を表した図である。
【
図9】
図9Aは、領域M50を構成する縦6×横6の各メッシュの標高データを表した図である。
図9Bは、
図9Aの標高データに基づいて、各メッシュについて算出されたラプラシアンLを表した図である。
【
図10】領域EAを50mのメッシュサイズで区分したときの、地盤の凹凸具合を表した図である。
【
図11】領域EAを250mのメッシュサイズで区分したときに得られるラプラシアンと、100mのメッシュサイズで区分したときのラプラシアンとを組み合わせたときの地盤の凹凸具合を表した図である。
【
図12】領域EAを250mのメッシュサイズで区分したときに得られるラプラシアンと、100mのメッシュサイズで区分したときのラプラシアンと、50mのメッシュサイズで区分したときのラプラシアンとを組み合わせたときの地盤の凹凸具合を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
或る領域を第1のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第1ラプラシアンを算出することと、前記或る領域を前記第1のメッシュサイズとは異なる第2のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第2ラプラシアンを算出することと、前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンとに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹凸具合を評価することと、を有する地盤評価方法。
【0011】
このような地盤評価方法によれば、異なる大きさのメッシュの標高データからそれぞれ算出された第1及び第2ラプラシアンに基づいて地盤の凹具合を評価することによって、当該地盤の局所的な凹地や広範囲に亘った凹地の影響が反映されやすくなる。また、全国統一の標高データを用いて第1及び第2ラプラシアンを算出すれば、地域によるばらつきが生じ難く、同じ指標で凹凸評価を行うことができる。これらにより、地盤の凹凸具合を正確に評価することができる。
【0012】
かかる地盤評価方法であって、前記第1のメッシュサイズの一辺の長さは、前記第2のメッシュサイズの一辺の長さの2倍以上である、ことが望ましい。
【0013】
このような地盤評価方法によれば、評価対象の領域を、一辺の長さが2倍以上異なるメッシュでそれぞれ区分することにより、広い範囲に亘って形成されている凹地や局所的な凹地等、スケールの異なる凹地に対応しやすくなり、地盤の凹凸具合をより正確に評価することができる。
【0014】
かかる地盤評価方法であって、前記第1のメッシュサイズ及び前記第2のメッシュサイズは、各々変更可能である、ことが望ましい。
【0015】
このような地盤評価方法によれば、例えば、人口密度の高い市街地や、山沿いの山間部等、地形ごとの凹凸のスケールに応じて適切な大きさのメッシュサイズを選択してラプラシアンを算出することで、より精度の高い凹凸評価を行うことができる。
【0016】
かかる地盤評価方法であって、前記或る領域を前記第1のメッシュサイズ及び前記第2のメッシュサイズとは異なる第3のメッシュサイズに区分したときの区分ごとの標高データから、前記或る領域の地盤の凹凸の指標である第3ラプラシアンを算出し、前記第1ラプラシアンと前記第2ラプラシアンと前記第3ラプラシアンとに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹具合を評価する、ことが望ましい。
【0017】
このような地盤評価方法によれば、メッシュサイズが異なる3種類のラプラシアンを用いることにより、スケールの異なる凹凸がより反映されやすくなる。したがって、第1ラプラシアン及び第2ラプラシアンの2種類のラプラシアンに基づいて地盤の凹凸具合を評価する場合と比較して、より正確な評価を行うことができる。
【0018】
かかる地盤評価方法であって、前記或る領域をn種類のメッシュサイズにそれぞれ区分したときの区分ごとの標高データから、それぞれ前記或る領域の地盤の凹凸の指標を表すn種類のラプラシアンを算出し前記n種類のラプラシアンのうち2以上の前記ラプラシアンに基づいて、コンピューターを用いて前記或る領域の地盤の凹具合を評価する、ことが望ましい。
【0019】
このような地盤評価方法によれば、メッシュサイズが異なる複数のラプラシアンを算出することによって、スケールの異なる凹凸に対応しやすくすることができるので、複数種類(n種類)のラプラシアンを算出し、その中から2以上のラプラシアンに基づいて地盤の凹凸評価を行うことで、実際の地盤の凹凸に応じた正確な評価を行いやすくなる。
【0020】
かかる地盤評価方法であって、前記メッシュサイズの一辺の長さは5m以上である、ことが望ましい。
【0021】
このような地盤評価方法によれば、5m以上のメッシュであれば、国土交通省等が公開している統一性の高い安定したデータに基づいてラプラシアンを算出することができる。また、メッシュサイズを5m以上とすることで、メッシュが細かすぎる場合と比較してデータが煩雑になり難く、ノイズの発生を抑制し易くなるため、地盤の凹凸具合を正確に評価しやすくなる。
【0022】
かかる地盤評価方法であって、前記或る領域の地盤の凹凸具合の評価結果に基づいて、前記或る領域において水害が生じる危険性を評価する、ことが望ましい。
【0023】
このような地盤評価方法によれば、凹地と評価されたメッシュが重複している部分は周囲と比較して地盤の標高が低くなっている可能性が高く、将来、集中豪雨等によって浸水が生じる蓋然性が高い。したがって、複数のラプラシアン(例えば、第1ラプラシアン及び第2ラプラシアン)を用いた地盤の凹凸具合の評価結果を参酌することにより、将来水害が生じる危険性等を客観的に評価することができる。
【0024】
===実施形態===
一般に、或る地域の標高が周囲の標高と比べて低くなっている地盤では、浸水による被害が発生しやすい。すなわち、地形が窪地(凹地)となっている地盤では、一旦浸水し始めると急激な速さで浸水が進行する危険性がある。そこで、本実施形態では、地形の凹凸具合を判定するための指標としてラプラシアンを用いて、ある領域における地盤の凹凸評価を行い、当該領域の浸水危険度を判断する。
<ラプラシアンを用いた地盤の凹凸評価について>
はじめに、ラプラシアンを用いた地盤の凹凸評価の基本原理について説明する。ラプラシアンは、従来、地形の凹凸の指標として使われることが多く、或る領域(地盤)の標高データに基づいてラプラシアンを計算することで、その領域(地盤)における凹凸の変動を数値化して表すことができる。
【0025】
図1は、ラプラシアンの計算方法について説明する図である。ラプラシアンを計算する際には、先ず、評価対象とする領域を所定の大きさのメッシュに区分し、当該メッシュ毎に地形の標高データを求める。
図1では、或る領域EがR1~R9の9個(縦3×横3)のメッシュに区分されている。各メッシュ(R1~R9)の標高データは、例えば、国土交通省が全国を対象として公開している標高データ(国土地理院 基盤地図情報:https://fgd.gsi.go.jp/download/menu.php)を利用することができる。
【0026】
図1において3×3のメッシュのうち、中央のメッシュR5における標高をu(m,m)としとしたとき、ラプラシアンL(m,n)は、R5の周囲の4メッシュ(R4,R6,R2,R8)の標高(m-1,n)、u(m+1,n)、u(m,n-1)、u(m,n+1)を用いて、以下の式(1)によって求められる。
【0027】
【0028】
式(1)によって算出されたラプラシアンL(m,n)が正の値(L>0)であれば凹地形であることを表し、ゼロ(L=0)であれば平坦な地形、そして負の値(L<0)であれば凸地形であることを表す。またラプラシアンL(m,n)の絶対値が大きいほど、周囲の地盤と比較して凹凸が大きいことを表す。したがって、領域毎にラプラシアンL(m,n)を算出することで、その領域の凹凸具合を評価することができる。
【0029】
一方、このようなラプラシアンを用いて凹凸評価を行う場合、同じ領域であってもメッシュサイズ(メッシュ間隔)の設定によって凹凸評価が異なってくる場合がある。
図2は、或る領域について、メッシュサイズを250mとしてラプラシアンを算出した場合の一例を説明する図である。同様に、
図3は、或る領域について、メッシュサイズを50mとしてラプラシアンを算出した場合の一例を説明する図である。
【0030】
図2では、比較的大きなメッシュサイズ(250m)でラプラシアンを算出した場合において、実際の地盤の凹凸と、算出されたラプラシアンとの関係について表している。なお、
図2では、説明の簡略化のため、横方向(東西方向)における凹凸の変動についてのみ表示している。評価対象とする地盤は、
図2Aに示されるような凹凸形状を有している。具体的には、250mのメッシュサイズで区分した3つの領域をそれぞれX0,X1,X2としたときに、領域X1の全域とX2の一部において大きく窪んだ凹部Aを有している。また、領域X1において凹部Aは、局所的に窪んだ部分である局所凹部Bと、凹部Aの底部に相当する部分が平坦になっている平坦部Cを有している。
【0031】
このような凹凸を有する地盤について、250mメッシュでラプラシアンLを算出すると、
図2Bのように、領域X1においてラプラシアンLが正(L>0)となり、領域X0及び領域X2においてラプラシアンLがゼロ以下(L≦0)となる。すなわち、領域X1が凹地であると評価される。上述したように、領域X1には、広い範囲に亘って凹部Aが設けられていることから、領域X1が凹地であるという評価は概ね正しい。しかしながら、局所的に見ると、局所凹部Bと平坦部Cとの高低差は評価に反映されておらず、地盤の凹凸を正確に評価できていない。これは、ラプラシアンLが、所定の大きさのメッシュで区分された領域の平均の標高データに基づいて算出されていることにより、同じメッシュ内で高低差(凹凸)が生じていたとしても、当該高低差は検出されないことによる。
【0032】
次に、
図3では、
図2と同じ地盤の領域X1について、
図2よりも小さなメッシュサイズ(50m)でラプラシアンを算出した場合において、実際の地盤の凹凸と、算出されたラプラシアンとの関係について表している。すなわち、
図2の領域X1(250m間隔)を5個のメッシュに区分した領域X11~X15(50m間隔)における凹凸と、ラプラシアンとの関係について表している(
図3A参照)。
【0033】
50mメッシュでラプラシアンLを算出すると、
図3Bのように、領域X11及びX12においてラプラシアンLが正(L>0)となり、領域X13~X15においてラプラシアンLがゼロ以下(L≦0)となる。すなわち、領域X11及びX12が凹地であると評価される。この場合、領域X12において局所的に窪んでいる局所凹部Bが凹部として評価される。一方、領域X13~X15に形成されている平坦部Cは、凹部A(凹地)の一部であるにも関わらず、凸地若しくは平坦な土地と評価され、全体として凹地であることが反映されていない。これは、隣隣するメッシュ間の高低差に基づいてラプラシアンLが算出されることにより、平坦部Cのように隣接するメッシュ間で高低差が小さい部分は、凹部と判定されないことによる。したがって、この場合も地盤の凹凸を正確に評価できていない。
【0034】
<複数のラプラシアンを用いた凹凸評価について>
以下、本実施形態における地盤の凹凸評価について具体的に説明する。
図2や
図3で説明したように、ラプラシアンを用いて地盤の凹凸具合の評価を行う場合、メッシュサイズの設定の仕方によっては、凹凸を正確に評価することができないおそれがある。すなわち、浸水危険度を正確に判定できなくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、ある領域についてメッシュサイズを変更しながら複数種類のラプラシアンを算出し、算出された複数種類のラプラシアンに基づいて地盤の凹凸具合を評価する。
【0035】
図4は、本実施形態において凹凸評価の対象とする或る領域EAについて説明する図である。領域EAは、実際に存在する或る地域を所定の大きさの範囲に切り取ったものであり、
図4の最も外側の枠線によって囲まれた領域である。領域EA内には網掛けで表示された浸水部Pが複数配置されている。この浸水部Pは、当該領域EAにおいて過去に浸水被害が発生した部分を示している。以下では、複数の浸水部Pのうち、浸水部P1,P2,P3に着目して説明を行う。
【0036】
本実施形態では、250m,100m,50mの3種類のメッシュサイズにてそれぞれラプラシアンを算出する。先ず、領域EA内において、メッシュサイズ毎にラプラシアンを算出する範囲を設定する。例えば、250mサイズのメッシュでラプラシアンを算出する場合、浸水部P1及びP2が中央付近に位置するように長破線で囲まれた領域M250を設定する。領域M250は、250m間隔で縦3×横4のメッシュに区分される領域である(後述する
図6参照)。
【0037】
同様に、100mサイズのメッシュでラプラシアンを算出する場合、浸水部P1及びP2が中央付近に位置するように太実線で囲まれた領域M100を設定する。領域M100は、100m間隔で縦5×横4のメッシュに区分される領域である(後述する
図8参照)。また、50mサイズのメッシュでラプラシアンを算出する場合、浸水部P1及びP2が中央付近に位置するように短破線で囲まれた領域M50を設定する。領域M50は、50m間隔で縦6×横6のメッシュに区分される領域である(後述する
図10参照)。
【0038】
続いて、設定した領域M250,M100,M50について、
図1及び式(1)で説明した方法に従ってそれぞれラプラシアンLを算出し、地盤の凹凸具合を評価する。
【0039】
図5Aは、領域M250を構成する縦3×横4の各メッシュの標高データを表した図である。標高データは、例えば上述した国土地理院の基盤地図情報から取得できる。
図5Bは、
図5Aの標高データに基づいて、各メッシュについて算出されたラプラシアンLを表した図である。このようにして、領域M250を区分する各メッシュについて、地盤の凹凸の指標となるラプラシアンLが得られる。
【0040】
図6は、領域EAを250mのメッシュサイズで区分したときの、地盤の凹凸具合を表した図である。同
図6では、
図5Bで得られたラプラシアンLの大きさに応じてメッシュ毎に5段階の色分けを行うことで、領域EAのうち地盤が低くなっている部分(凹部が大きい部分)を可視化している。なお、
図6では、領域M250の外側の領域についてもラプラシアンL算出し、その結果に基づいてメッシュの色分けを行っている。また、
図5BでラプラシアンLの値がゼロ若しくは負となっているメッシュ(すなわち地盤が平坦若しくは凸部と評価されるメッシュ)は、
図6においては、ラプラシアンLを一様に「ゼロ以下」として、メッシュを未着色としている。以下の
図8及び
図10についても同様とする。
【0041】
図6において、浸水部P1~P3が配置されているメッシュのラプラシアンLはゼロ以下となっている。すなわち、浸水部P1~P3が配置されている部分の地盤は、平坦若しくは凸地であると評価されている。つまり、領域EAを250mのメッシュサイズで区分してラプラシアンLを算出した場合、浸水部P1~P3は、いずれも浸水危険度の高い凹地とは評価されていない。この場合、浸水部P1~P3における浸水危険度を予測することは難しい。
【0042】
同様にして、領域M100についてメッシュ毎にラプラシアンLを算出し、地盤の凹凸具合を評価する。
図7Aは、領域M100を構成する縦5×横4の各メッシュの標高データを表した図である。
図7Bは、
図7Aの標高データに基づいて、各メッシュについて算出されたラプラシアンLを表した図である。
図8は、領域EAを100mのメッシュサイズで区分したときの、地盤の凹凸具合を表した図である。
【0043】
図8において、浸水部P2が配置されているメッシュのラプラシアンLの値は最も大きく、浸水部P2は大きな凹地であると評価されている。また、浸水部P3の一部(右側の部分)が配置されているメッシュもラプラシアンLの値が比較的大きく、凹地であると評価されている。一方、浸水部P1が配置されているメッシュのラプラシアンLはゼロ以下であり、浸水部P1は凹地とは評価されていない。つまり、領域EAを100mのメッシュサイズで区分してラプラシアンLを算出した場合、浸水部P2及びP3は、浸水危険度の高い凹地と評価されるが、浸水部P1は凹地と評価されておらず、浸水部P1における浸水危険度を予測することは難しい。
【0044】
さらに、領域M50についても同様に、メッシュ毎にラプラシアンLを算出し、地盤の凹凸具合を評価する。
図9Aは、領域M50を構成する縦6×横6の各メッシュの標高データを表した図である。
図9Bは、
図9Aの標高データに基づいて、各メッシュについて算出されたラプラシアンLを表した図である。
図10は、領域EAを50mのメッシュサイズで区分したときの、地盤の凹凸具合を表した図である。
【0045】
図10において、浸水部P1及びP2が配置されているメッシュのラプラシアンLの値は大きく、浸水部P1及びP2は凹地であると評価されている。一方、浸水部P3が配置されているメッシュのラプラシアンLはゼロ以下であり、浸水部P3は凹地とは評価されていない。つまり、領域EAを50mのメッシュサイズで区分してラプラシアンLを算出した場合、浸水部P1及びP2は、浸水危険度の高い凹地と評価されるが、浸水部P3は凹地と評価されておらず、浸水部P3における浸水危険度を予測することは難しい。
【0046】
図6~
図10に示されるように、或る領域を所定の大きさのメッシュサイズに区分してラプラシアンを算出し、算出されたラプラシアンに基づいて当該或る領域における地盤の凹凸具合を評価する場合、正確な評価を行うことができない場合がある。
【0047】
これに対して、異なるメッシュサイズ毎に算出された複数種類のラプラシアンを組み合わせることによって、地盤の凹凸具合をより正確に評価することができる。
図11は、領域EAを250mのメッシュサイズで区分したときに得られるラプラシアン(第1ラプラシアンとする)と、100mのメッシュサイズで区分したときのラプラシアン(第2ラプラシアンとする)とを組み合わせたときの地盤の凹凸具合を表した図である。
【0048】
同
図11は、コンピューター等の公知の情報処理装置を用いて、
図6を作成する際に用いた250mのメッシュサイズにおけるラプラシアンL(第1ラプラシアン)のデータと、
図8を作成する際に用いた100mのメッシュサイズにおけるラプラシアンL(第2ラプラシアン)のデータとを組み合わせる(合算する)ことによって得られる。その結果、
図11では、浸水部P2及びP3が凹地と評価されている。したがって、250mのメッシュサイズにおけるラプラシアン(第1ラプラシアン)のみに基づいて凹凸評価をした場合と比較して、正確な凹凸評価となっていることが分かる。このように、異なる大きさのメッシュの標高データから算出された複数のラプラシアンに基づいて地盤の凹具合を評価することによって、当該地盤の局所的な窪みや広範囲に亘った窪みの影響が反映されやすくなり、より正確な地盤の凹凸評価を行うことができる。また、国土地理院等が公開している全国統一の標高データを用いることで、地域によるばらつきが生じ難く、同じ指標で地盤の凹凸評価を行うことができる。
【0049】
また、領域EA中の或る部分にて重複している二つの異なるラプラシアンL(第1ラプラシアン及び第2ラプラシアン)が何れも正の値(凹地の評価)である場合は、その部分が実際に凹地である可能性が高くなる。したがって、複数の異なるラプラシアンを用いて地盤の凹凸評価を行うことにより、浸水危険度の予測を立てやすくすることができる。
【0050】
図12は、領域EAを250mのメッシュサイズで区分したときに得られるラプラシアン(第1ラプラシアン)と、100mのメッシュサイズで区分したときのラプラシアン(第2ラプラシアン)と、50mのメッシュサイズで区分したときのラプラシアン(第3ラプラシアンとする)とを組み合わせたときの地盤の凹凸具合を表した図である。この
図12は、
図11対して、
図10を作成する際に用いた50mのメッシュサイズにおけるラプラシアンL(第3ラプラシアン)のデータをさらに組み合わせる(合算する)ことによって得られる。
【0051】
図12では、浸水部P1~P3が何れも凹地と評価されている。例えば、
図11では凹地と評価されていなかった浸水部P1も、
図12では凹地と評価されている。さらに、
図12では、領域EAにおいて浸水部P1~P3以外の他の浸水部Pが配置されている部分のほぼ全てが凹地と評価されている。つまり、領域EAにおいて、浸水危険度の高い部分(実際に浸水が生じた部分)が漏れなく凹地と評価されている。
【0052】
このように、
図12では、第1ラプラシアン及び第2ラプラシアンのデータに加えて、第3ラプラシアンのデータをさらに組み合わせることで、3種類のラプラシアンに基づいて地盤の凹凸具合を評価している。この場合、メッシュサイズが大きい(250m)第1ラプラシアンでは抽出できなかった局所的な凹地が、メッシュサイズが小さい(50m)第3ラプラシアンによって抽出されやすくなる。逆に、メッシュサイズが小さい第3ラプラシアンでは抽出できなかった広範囲に亘る凹地が、メッシュサイズが大きい第1ラプラシアンによって抽出されやすくなる。すなわち、3種類以上のラプラシアンを用いることにより、スケールの異なる凹地がより反映されやすくなる。したがって、
図11のように2種類のラプラシアン(第1ラプラシアン及び第2ラプラシアン)に基づいて地盤の凹凸具合を評価する場合と比較して、より正確な評価を行うことができるようになる。
【0053】
さらに、第1~第3ラプラシアンとは異なるメッシュサイズで領域EAを区分したときのラプラシアン(例えば、不図示の第4ラプラシアン)を組み合わせ、4種類以上のラプラシアンに基づいて地盤の凹凸具合を評価するようにしても良い。メッシュサイズの種類が多ければ、その分スケールの異なる凹地が抽出される可能性が高くなるので、凹凸評価の精度をより高めやすくなる。但し、凹凸評価に用いるラプラシアンの種類を増やしすぎると(すなわち、領域を区分するメッシュのサイズを増やしすぎると)、ノイズとなって凹凸評価の精度を悪化させる可能性もあるため、注意が必要である。
【0054】
また、大きさの異なるn種類のメッシュサイズで領域EAを区分することによってn種類(n=2,3,4…)のラプラシアンを算出しておき、当該n種類のラプラシアンのうち2種類以上のラプラシアンに基づいて地盤の凹凸具合を評価するようにしてもよい。上述のように、メッシュサイズが異なる複数のラプラシアンを算出することによって、スケールの異なる凹部に対応しやすくする(凹部を抽出しやすくする)ことができるので、評価対象となる地形の凹凸に応じて適切なメッシュサイズのラプラシアンを選択し凹凸評価を行うようにすることが望ましい。このようにすることで、実際の地形の凹凸に応じた正確な評価を行うことができる。
【0055】
また、異なるメッシュサイズで領域EAを区分して、複数種類のラプラシアンを算出する場合、一方のメッシュのサイズは、他方のメッシュのサイズの2倍以上とすることが望ましい。言い換えると、第1メッシュ及び第2メッシュの2種類のメッシュで領域EAを区分する際に、第1メッシュの一辺の長さは、第2メッシュの一辺の長さの2倍以上とすることが望ましい。本実施形態では、250m,100m,50mの3種類のメッシュサイズで領域EAを区分することで3種類のラプラシアンを算出しているが(
図5~
図10参照)、一方のメッシュの一辺の長さは、他方のメッシュの一辺の長さの2倍以上となっている。このように、メッシュサイズの大きさを調整することにより、評価対象となる地形の実際の凹凸具合に対応しやすくなる。例えば、
図2で説明したような広い範囲に亘って形成されている凹地(凹部A)や、
図3で説明したような局所的な凹地(局所凹部B)等、スケールの異なる凹地にもそれぞれ対応しやすくなる。したがって、より正確な凹凸評価を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、250m,100m,50mの3種類のメッシュサイズに基づいてそれぞれラプラシアンが算出されていたが、メッシュサイズは実際に地形に応じて適宜変更することが可能である。例えば、人口密度の高い平野部の市街地では、狭い土地に局所的な凹凸が形成されている可能性があるため、なるべく小さいメッシュサイズで区分してラプラシアンを算出する方がよい場合がある。一方、山沿いの山間部では、大きなスケールで凹凸が形成されている可能性があるため、なるべく大きいメッシュサイズで区分してラプラシアンを算出する方がよい場合がある。このように、地形に応じて適切な大きさのメッシュサイズを選択してラプラシアンを算出することで、より精度の高い凹凸評価を行うことができる。
【0057】
但し、本実施形態におけるメッシュサイズの最小値は5mとする。言い換えると、領域を区分する際のメッシュの一辺の長さは5m以上とする。上述した国土地理院の標高データは5m間隔で表示されているため、5m以上のメッシュであれば、国土地理院が公開している統一性の高い安定したデータに基づいてラプラシアンを算出することができる。また、仮に、1m等の非常に細かいメッシュサイズで評価対象領域を区分した場合、データが煩雑になり、また、ノイズが発生する可能性が高くなることから、地盤の凹凸具合を正確に評価し難くなるおそれがある。そのため、本実施形態における地盤の凹凸評価を行う際には、メッシュサイズを5m以上とすることが望ましい。
【0058】
また、本実施形態では、上述したようなラプラシアンを用いた地盤の凹凸具合の評価結果に基づいて、その地盤における水害の可能性を評価することができる。
図11及び
図12では、2種類若しくは3種類のメッシュサイズで領域EAが区分され、区分されたメッシュ毎にラプラシアンを算出することで地盤の凹凸が評価されている。このとき、複数種類のメッシュサイズで区分された領域が重複して凹地と評価されていている部分は実際に標高が低くなっている可能性が高い。例えば、
図12のある部分において、第1~第3ラプラシアンの全てにおいて凹地と評価されている場合、250m,100m,50mの各メッシュ間隔で見たときに何れも周囲よりも標高が低いということを示している。そしてこの場合、重複して凹地と評価された部分では、着色されたメッシュ同士が重なって色が濃く表示されるため(
図12では、網掛けや斜線で表示されたメッシュ同士が重ねて表示されている)、凹地の部分が視覚的に認識しやすい。
【0059】
つまり、凹地と評価されたメッシュが重複している部分は周囲と比較して地盤の標高が低くなっている可能性が高く、将来、集中豪雨等によって浸水が生じる蓋然性が高い。また、上述の式(1)によると、ラプラシアンの値が大きいメッシュほど、周囲との標高差が大きくなっている可能性が高いことから、そのようなメッシュが重複している部分も浸水が生じる危険性がある。そこで、例えば、コンピューターによって、ラプラシアンの値が大きなメッシュが重複している部分や、重複しているラプラシアンの大きさが所定値よりも大きくなっている部分を抽出することで、水害が発生しやすい地盤を予測することができる。このように、本実施形態では、地盤の凹凸評価に基づいて、将来水害が生じる危険性を客観的に評価することができる。
【0060】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0061】
上述の実施形態では、ラプラシアンを算出するための標高データとして、国土地理院の基盤地図情報を利用していたが、全国的に統一されており、ある程度信憑性のあるデータであれば、他の標高データを使用しても良い。
【符号の説明】
【0062】
A 凹部、B 局所凹部、C 平坦部、
X0~1 領域、X11~15 領域
EA 領域、
P 浸水部、P1 浸水部、P2 浸水部、P3 浸水部、
M250 領域(メッシュサイズ250m)、
M100 領域(メッシュサイズ100m)、
M50 領域(メッシュサイズ50m)