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特許7619042ポリマー組成物、成形体および神経再生誘導チューブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ポリマー組成物、成形体および神経再生誘導チューブ
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20250115BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20250115BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C08L67/04
A61L31/06
A61L31/14 500
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020532837
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020695
(87)【国際公開番号】W WO2020241624
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019100951
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】張本 乾一
(72)【発明者】
【氏名】田邉 貫太
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 一裕
(72)【発明者】
【氏名】坂口 博一
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-138131(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035357(WO,A1)
【文献】特開2008-037996(JP,A)
【文献】特開2016-190921(JP,A)
【文献】特表2005-525911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸とジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とを含有するポリマー組成物であって、前記ポリ乳酸と前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の合計100質量%に対して、前記ポリ乳酸を20~40質量%含有し、前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が下記(1)および(2)を満たす、ポリマー組成物。
(1)下記式で表されるR値が0.45以上0.99以下である。
R=[AB]/(2[A][B])×100
ここに、
[A]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基のモル分率(%)
[B]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ε-カプロラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
(2)ジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【請求項2】
前記ポリ乳酸の重量平均分子量が60,000以上である請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマー単位が2つ以上連結した構造を有する、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量が60,000以上である、請求項1~3のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のポリマー組成物からなる、成形体。
【請求項6】
医療用途に用いる、請求項に記載の成形体。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のポリマー組成物を少なくとも一部に用いてなる、神経再生誘導チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸と、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とを含有するポリマー組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンあるいはこれらの共重合体に代表される、エステル結合形成性モノマーから製造されるポリエステルは、生分解性あるいは生体吸収性ポリマーとして注目され、例えば、縫合糸等の医用材料、医薬、農薬、肥料等の徐放性材料等、多方面に利用されている。更に、生分解性汎用プラスチックとして容器やフィルム等の包装材料としても期待されている。
【0003】
しかし、一般に、エステル結合形成性モノマーから製造される生分解性ポリエステルや生体吸収性ポリエステルは脆弱である。そのため、機械的特性を改善して実用に耐える強度や成形性を有する生分解性ポリマーを得る目的で、各種コポリマーの開発が試みられている。
【0004】
例えば、ヤング率が低く、かつ引っ張り強度が高い生分解性・生体吸収性ポリマーとして、2種類のエステル結合形成性モノマー(「モノマーA」、「モノマーB」)の残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーであって、下記式で表されるR値が0.45以上0.99以下であり、モノマーA残基またはモノマーB残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満であるポリエステルコポリマーが提案されている(例えば、特許文献1参照)
R=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーB残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、モノマーA残基とモノマーB残基が隣り合った構造のモル分率(%)。
【0005】
また、生分解性ポリマーを混合することにより機械的特性を改善する試みも実施されている。例えば、強度や可撓性、伸び率、靭性などを改良した組成物として、少なくとも1種の硬質の合成生分解性ポリマーおよび少なくとも1種の軟質の合成生分解性ポリマーを備え、硬質または軟質の生分解性ポリマーのそれら自身によってのものよりも高い強度および/または伸びを持ち、およびシートまたはフィルムのうち少なくとも1種への形成に適する、生分解性ポリマーブレンド(例えば、特許文献2参照)、ポリ乳酸と、L-ラクチド/ε-カプロラクトン共重合体と、フィラーを含有する樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/35857号
【文献】特開2008-255349号公報
【文献】特開2017-179234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的にポリ乳酸やポリグリコール酸は高い結晶性を持ち、ヤング率が高く硬い性質を持つことが知られている。しかし、これらポリマーの成形体は柔軟性(softness)が乏しく、医療用材料に求められる生体追随性に劣る。また、硬い故に体内に包埋した際に周辺組織を障害したり、突出事故の原因となったりすることが報告されている。
【0008】
そのため、これらポリマーにポリカプロラクトンを共重合させることで、柔軟性を付与することが検討されてきた。特許文献1に記載されるマルチグラジエントポリマーは、ヤング率が低く、引っ張り強度が高いことから、成形加工が容易で破断しにくい特徴を有し、充填材や被覆材に適する。一方、支持体や固定基材などの用途においては、これらの特性に加えて、弾性変形しやすいこと、すなわち優れた可撓性(flexibility)が求められている。
【0009】
また、特許文献2~3に記載される樹脂組成物はヤング率が高く、成形加工性の観点から、ヤング率の低い材料が求められている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、ヤング率が低く、引っ張り強度が高く、可撓性に優れたポリマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリ乳酸とジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とを含有するポリマー組成物であって、前記ポリ乳酸と前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の合計100質量%に対して、前記ポリ乳酸を20~40質量%含有し、前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が下記(1)および(2)を満たす、ポリマー組成物である。
(1)下記式で表されるR値が0.45以上0.99以下である。
R=[AB]/(2[A][B])×100
ここに、
[A]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基のモル分率(%)
[B]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ε-カプロラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
(2)ジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【0012】
また本発明は、本発明のポリマー組成物からなる、成形体である。
【0013】
また本発明は、本発明のポリマー組成物を少なくとも一部に用いてなる、神経再生誘導チューブである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ヤング率が低く、引っ張り強度が高く、可撓性に優れるポリマー組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1により得られたポリマー組成物の伸度-応力曲線を示すグラフである。
図2図2は、比較例1により得られたポリマーの伸度-応力曲線を示すグラフである。
図3図3は、比較例2により得られたポリマー組成物の伸度-応力曲線を示すグラフである。
図4図4は、比較例3により得られたポリマー組成物の伸度-応力曲線を示すグラフである。
図5図5は、比較例4により得られたポリマーの伸度-応力曲線を示すグラフである。
図6図6は、実施例2により得られたポリマー組成物の伸度-応力曲線を示すグラフである。
図7図7は、実施例3により得られたポリマー組成物の伸度-応力曲線を示すグラフである。
図8図8は、実施例4により得られたポリマー組成物の伸度-応力曲線を示すグラフである。
図9図9は、比較例5により得られたポリマーの伸度-応力曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ポリ乳酸>
本発明のポリマー組成物におけるポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合してなる高分子である。ポリ乳酸は乳酸以外の成分を含む共重合体であってもよいが、ポリ乳酸に占める乳酸のモル分率は、乳酸結晶性が高くなるよう80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、100%がさらに好ましい。また、乳酸にはL体とD体の2種が存在するが、医療用途においては生体適合性の観点から、-乳酸のホモポリマーが好ましい。
【0017】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、分子鎖が解けにくく可撓性をより向上させる観点から、60,000以上が好ましい。さらに、引っ張り強度をより向上させる観点から110,000以上がより好ましい。一方、ポリ乳酸の重量平均分子量は、過度な結晶化によりポリマー組成物のヤング率が上がらないよう、200,000以下が好ましい。ここで、ポリ乳酸の重量平均分子量は、ポリスチレン換算値を指し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GP)により測定することができる。
【0018】
<ポリ乳酸の製造方法>
ポリ乳酸は、-乳酸、-乳酸などの乳酸を重合または共重合することにより得ることができる。ポリ乳酸は、例えば、ジラクチドの開環重合により合成することができる。以下に、-ジラクチドを用いたポリ乳酸の合成法の一例を記載する。
【0019】
まず、-ジラクチドと、助開始剤をセパラブルフラスコに採取する。助開始剤としては、例えば、ラウリルアルコールなどが挙げられる。
【0020】
次に、窒素雰囲気下で触媒を添加し、加熱しながら撹拌し、原料を均一に溶解または溶融する。触媒としては、オクチル酸スズ(II)などが挙げられる。加熱温度は、原料を均一に溶解する観点から、が好ましく、一方、原料の揮発を抑制する観点から、140℃以下が好ましい。撹拌速度は、80rpm以上200rpm以下が好ましい。加熱時間は、10分間以上60分間以下が好ましい。
【0021】
さらに加熱し、1時間静置した後、温度を下げてさらに静置する。この時の加熱温度は、150℃以上180℃以下が好ましい。静置時間は、過度の重合を抑制する観点から、2時間以下が好ましい。温度を下げたときの温度は、反応を進行させる観点から、120℃以上が好ましく、一方、-ジラクチドの揮発を抑制する観点から、140℃以下が好ましい。静置時間は、24時間以下が好ましい。
【0022】
その後、温度を保持しながらフラスコ内を減圧状態にし、未反応の-ジラクチドを除去する。最後に、反応混合物を、クロロホルムなどに溶解し、撹拌しているメタノールに滴下して、ポリ乳酸を沈殿させる。メタノールの撹拌速度は、200rpm以上300rpm以下が好ましい。得られたポリ乳酸中の溶媒を除去するために乾燥することが好ましい。乾燥時間は12時間以上が好ましい。
【0023】
<ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体>
本発明のポリマー組成物におけるジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、下記(1)および(2)を満たす。
【0024】
(1)下記式で表されるR値が0.45以上0.99以下である。
R=[AB]/(2[A][B])×100
ここに、
[A]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基のモル分率(%)
[B]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ε-カプロラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)。
【0025】
R値は核磁気共鳴(NMR)測定によって、隣り合う二つのモノマーの組み合わせ(A-A、B-B、A-B、B-A)の割合を定量することにより決定できる。具体的には、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を重クロロホルムに溶解し、H-NMR分析により、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中のジラクチド残基とε-カプロラクトン残基の比率をそれぞれ算出する。また、Hホモスピンデカップリング法により、ジラクチドのメチン基(5.10ppm付近)、ε-カプロラクトンのαメチレン基(2.35ppm付近)、εメチレン基(4.10ppm付近)について、隣り合うモノマー残基がラクチドもしくはε-カプロラクトンに由来するシグナルで分離し、それぞれのピーク面積を定量する。それぞれの面積比から式1の[AB]を計算しR値を算出する。ここで、[AB]はジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合う構造のモル分率(%)であり、具体的にはA-A、A-B、B-A、B-Bの総数に対するA-B、B-Aの数の割合である。
【0026】
R値は、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体における、モノマー残基の配列のランダム性を示す指標として用いられる。例えば、完全にモノマー配列がランダムなランダムコポリマーでは、R値は1となる。R値が0.45以上であると、結晶性が低く柔軟性に優れる。R値は0.50以上が好ましい。一方、R値が0.99以下であると、粘着性を抑制することができる。R値は0.80以下が好ましい。
【0027】
(2)ジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【0028】
上記の結晶化率が14%未満であれば、ヤング率を抑え柔軟性を得ることにより、医用材料やエラストマー用途に適したポリエステルコポリマーを得ることができる。本発明においては、ジラクチド残基の結晶化率が14%未満であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。
【0029】
ここで言うモノマー残基の結晶化率とは、あるモノマー残基のみからなるホモポリマーの単位質量当たり融解熱と、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の当該モノマー残基の質量分率の積に対する、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の当該モノマー残基単位質量当たりの融解熱の割合である。すなわち、ジラクチド残基の結晶化率とは、ジラクチドのみからなるホモポリマーの単位質量あたり融解熱と、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中のジラクチド残基残基の質量分率の積に対する、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中のジラクチド残基残基単位質量当たりの融解熱の割合である。ジラクチド残基およびε-カプロラクトン残基の結晶化率は、それぞれジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体のジラクチド残基もしくはε-カプロラクトン残基の中で結晶構造を形成している割合を示す。ここで、結晶化率は、示差走査熱量計を用いてDSC法により測定することができる。
【0030】
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
【0031】
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量は、ポリマー組成物のヤング率をより低減し、引っ張り強度をより向上させる観点から、60,000以上が好ましく、100,000以上がより好ましい。一方、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量は、後述するポリマー組成物の粘度や溶解性の観点から、400,000以下が好ましい。ここで、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量は、ポリスチレン換算値を指し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0032】
本発明において、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有することが好ましい。
【0033】
骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造とは、その分子鎖にそって重合開始末端から重合終了末端にかけてモノマー残基の組成が連続的に変化している構造を言う。
模式的には例えば、残基Aと残基Bとが
AAAAABAAABAABBABABBBBABBBB
のように並ぶ。
【0034】
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有することにより、ブロック共重合構造を有する場合に比べ、結晶化度を抑え、柔軟性を得ることができる。
【0035】
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を構成するモノマー残基の分布のランダム性は、重合時のモノマーの反応性の違いにより変化する。すなわち、重合時に、ジラクチドとカプロラクトンのうち、一方のモノマーの後に、同じモノマーと他方のモノマーが同確率で結合すれば、モノマー残基が完全にランダムに分布したランダムコポリマーが得られる。しかし、一方のモノマーの後にいずれかのモノマーが結合し易い傾向がある場合は、モノマー残基の分布に偏りのあるグラジエントコポリマーが得られる。
【0036】
ここで、ジラクチドとε-カプロラクトンの反応性は、文献(D.W.Grijpmaetal.PolymerBulletin25,335,341)に記されているように大きく異なり、ジラクチドの方がε-カプロラクトンよりも初期重合速度が大きい。ジラクチドの初期重合速度Vは、反応率(%)で示すと3.6%/hであり、ε-カプロラクトンの初期重合速度Vは、0.88%/hである。ジラクチドとε-カプロラクトンとを共重合させた場合、ジラクチドの後にジラクチドが結合し易い。そのため、重合開始末端から重合終了末端にかけてジラクチド単位の割合が徐々に減少するグラジエント構造が形成される。
【0037】
すなわち、ジラクチドとε-カプロラクトンのモノマーを混合して反応性させる共重合方法によれば、一般的にジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、ポリマーの骨格全体にわたってのグラジエント構造を形成しやすい。
【0038】
さらに、本発明においてジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、グラジエント構造をマクロマー単位で有し、当該マクロマー単位が2つ以上連結した構造を有することが好ましい。
【0039】
ここに、「マクロマー」とは、重合性官能基をもつ高分子量化合物を意味し、重合体においてマクロマー単位は、重合体の骨格の一部をなす。グラジエント構造を有するマクロマー単位が2つ以上連結した構造においては、例えば、
(AAABAABBABBB)・(AAABAABBABBB)
のように並ぶ。
【0040】
以下、グラジエント構造を有するマクロマーを「グラジエントマクロマー」、ポリマー中におけるグラジエントマクロマーの単位を「グラジエントマクロマー単位」とも呼ぶ。
【0041】
グラジエントマクロマー単位が2つ以上連結した構造を有することにより、重合度を高くしても、効果的に前述の(1)のようにランダム性の制御されたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とすることができ、また効果的に前述の(2)のように結晶化度を抑えたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とすることができる。従ってかかる好ましい態様により、ヤング率が低く、引っ張り強度が高いポリマー組成物を効果的に得ることができる。
【0042】
マクロマー単位が連結した構造におけるマクロマー単位の数は、引っ張り強度をより向上させる観点から、3以上が好ましく、6以上がより好ましい。一方、粘度を適度に抑えてハンドリング性を向上させる観点から、マクロマー単位の連結数は20以下が好ましい。
【0043】
以下、グラジエントマクロマー単位が2つ以上連結した構造を「マルチグラジエント構造」、マルチグラジエント構造を有するコポリマーを「マルチグラジエントコポリマー」とも呼ぶ。
【0044】
本発明において、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体をフィルムとしたときの最大点応力は、生体組織と同程度の最大点応力となる5MPa以上30MPa以下が好ましい。また、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体のヤング率は、生体組織と同程度のヤング率となる1.0MPa以上6.3MPa以下が好ましい。
【0045】
ここで、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体をフィルムとしたときの最大点応力およびヤング率は、JIS K6251(2017)に規定される方法に準じて測定することができる。具体的には、ジラクチド/ε-カプロラクトンの共重合体を減圧乾燥し、これを濃度が5質量%になるようにクロロホルムに溶解させた溶液を、“テフロン”(登録商標)製シャーレ上に移して、常圧、室温下で1昼夜乾燥する。これを減圧乾燥して得られた厚み0.1mmのポリマーフィルムを短冊状(30mm×5mm)に切り出し、小型卓上試験機 EZ-LX(株式会社島津製作所製)を用いて、
初期長:10mm、
引張速度:500mm/min、
ロードセル:50N
の条件において引張試験を行い、最大点応力およびヤング率を測定する。各3回測定し、その数平均値を算出することにより、ジラクチド/ε-カプロラクトンの共重合体の最大点応力およびヤング率を求めることができる。
【0046】
なお、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の最大点応力およびヤング率を前記範囲内とすることは、後述するマルチ化工程を有する製造方法により前述のグラジエントマクロマー単位が2つ以上連結した構造とすることで、効果的に達成することができる。
【0047】
<ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の製造方法>
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、一例として、
ジラクチドおよびε-カプロラクトンを、重合完了時においてジラクチド残基とε-カプロラクトン残基の和が全残基の50モル%以上、かつジラクチド残基とε-カプロラクトン残基がそれぞれ全残基の20モル%以上となるよう配合して重合させるマクロマー合成工程;
前記マクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結するか、あるいは前記マクロマー合成工程で得られたマクロマー溶液にジラクチドおよびε-カプロラクトンを追添加することによりマルチ化するマルチ化工程;
を有する製造方法により製造することができる。
【0048】
〔マクロマー合成工程〕
マクロマー合成工程においては、ジラクチドとε-カプロラクトンを、理論上重合完了時においてジラクチド残基とε-カプロラクトン残基の和が全残基の50モル%以上、かつジラクチド残基とε-カプロラクトン残基がそれぞれ全残基の20モル%以上となるよう配合して重合を行う。これにより、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基を主構成単位とするジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が得られるが、本製造方法においてはさらに後述するマルチ化工程を行うため、本明細書においては、本工程により得られるジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を「マクロマー」と表現する。
【0049】
本工程において、ジラクチドとε-カプロラクトンとの初期重合速度差により、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマーとする。
【0050】
マクロマー合成工程においては、このようなグラジエント構造を実現するために、開始末端から一方向に起こる重合反応によりマクロマーを合成することが望ましい。このような合成反応としては、開環重合、リビング重合を利用することが好ましい例として挙げられる。
【0051】
ラクチド/カプロラクトンマクロマーの合成方法の例について、より具体的に説明する。まず、ジラクチド、ε-カプロラクトンおよび触媒を、撹拌機を備えた反応容器に入れ、窒素気流下において加熱しながら撹拌する。反応容器内部の水分を除去するために、反応容器を減圧にして加熱撹拌することが好ましい。
【0052】
撹拌機としては、プロペラ型の撹拌翼を備えた撹拌機が好ましく、撹拌翼の回転速度は、50rpm以上200rpm以下が好ましい。
【0053】
重合反応の加熱温度は、100℃以上250℃以下が好ましい。重合反応の反応時間は、重合度を高める観点から、3時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、7時間以上がさらに好ましい。一方、重合反応の反応時間は、生産性をより向上させる観点から、24時間以下が好ましい。
【0054】
ジラクチド、ε-カプロラクトンは、不純物を取り除くために予め精製して用いることが好ましい。
【0055】
触媒としては、例えば、オクチル酸スズ、三フッ化アンチモン、亜鉛粉末、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズなどが挙げられる。触媒の反応系への添加方法としては、例えば、原料仕込み時に原料中に分散させた状態で添加する方法や、前述の方法における減圧開始時や加熱開始直前に、媒質に分散した状態で添加する方法などが挙げられる。触媒の使用量は、反応時間を短縮して生産性をより向上させる観点から、ジラクチドおよびε-カプロラクトンの合計100質量部に対して、金属原子換算値で0.01質量部以上が好ましく0.04質量部以上がより好ましい。一方、触媒の使用量は、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体への金属残存量をより低減する観点から、ジラクチドおよびε-カプロラクトンの合計量に対して、金属原子換算値で0.5質量部以下が好ましい。
【0056】
水を助開始剤として使用する場合は、重合反応に先立って、90℃付近で助触媒反応を行うことが好ましい。
【0057】
本工程において得られるマクロマーは、最終的に上記(1)に示すR値を満たすジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を製造しやすくするため、上記(1)に記載したジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体と同様のR値を有するもの、すなわち、下記式
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:マクロマー中の、ジラクチド残基のモル分率(%)
[B]:マクロマー中の、ε-カプロラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:マクロマー中の、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
で表されるR値が0.45以上0.99以下であることが好ましく、0.50以上0.80以下であることがより好ましい。
【0058】
また同様に、本工程で得られるマクロマーは、最終的に上記(2)に示すジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の結晶化率を有するジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を製造しやすくするため、上記(2)に記載したモノマー残基の結晶化率を有するもの、すなわち、ジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満であるものであることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。
【0059】
マクロマー合成工程において合成されるマクロマーの重量平均分子量は、好ましくは1万以上、より好ましくは2万以上である。また、結晶性をより低減して柔軟性をより向上させるためには15万以下であることが好ましく、10万以下であることがより好ましい。
【0060】
〔マルチ化工程〕
マルチ化工程においては、マクロマー合成工程において得られたマクロマー同士を連結するか、あるいはマクロマー合成工程において得られたマクロマー溶液にジラクチドおよびカプロラクトンを追添加することによりマルチ化する。本工程においては、一のマクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結してもよいし、二以上のマクロマー合成工程で得られた複数のマクロマーを連結してもよい。なお、「マルチ化」とは、これらのいずれかの方法で、ジラクチド残基とカプロラクトン残基とが骨格中で組成勾配を有するグラジエント構造を有する分子鎖が複数繰り返される構造を形成することを意味する。
【0061】
マクロマー単位の連結数は、マルチ化工程において使用する触媒や反応時間によって調整することができる。マクロマー同士を連結させてマルチ化を行う場合、マクロマー単位の数は、最終的に得られたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量を、マクロマーの重量平均分子量で除して求めることができる。
【0062】
マルチ化工程における縮合反応の反応温度は、縮合反応を効率的に進める観点から、20℃以上が好ましい。一方、縮合反応の反応温度は、溶媒の揮発を抑制する観点から、50℃以下が好ましい。また、縮合反応の反応時間は、マルチ化するマクロマー単位の数を前述の好ましい範囲にする観点から、15時間以上が好ましい。一方、縮合反応の反応時間は、分子量分布を狭くする観点から、24時間以下が好ましい。
【0063】
直鎖状のジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を製造する場合は、例えば、グラジエントマクロマーの両末端に同様のグラジエントマクロマーを1分子ずつ、末端同士を介して結合させてゆくことにより合成できる。
【0064】
グラジエントマクロマーがヒドロキシル基とカルボキシル基を各末端に有する場合は、末端同士を縮合剤により縮合させることにより、マルチ化したジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が得られる。縮合剤としては、例えば、p-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-カルボニルジイミダゾールなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0065】
また、重合反応がリビング性を有する場合、すなわち重合物の末端から連続して重合反応を開始しうる場合には、重合反応が終了した後のグラジエントマクロマー溶液にジラクチドおよびε-カプロラクトンを追添加する操作を繰り返すことにより、マルチ化することができる。
【0066】
あるいは、グラジエントマクロマー同士は、ポリマーの力学的特性に影響を与えない範囲においてリンカーを介してマルチ化してもよい。特に、複数のカルボキシル基および/または複数のヒドロキシ基を有するリンカー、例えば2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を使用すると、リンカーが分岐点となった分岐鎖状のポリエステルコポリマーを合成することができる。
【0067】
以上のような製造方法により得られるジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体は、ジジラクチド残基とカプロラクトン残基とが骨格中で組成勾配を有するマクロマー単位が2つ以上連結した構造のコポリマーとなり、これは本発明のジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の好ましい態様である。
【0068】
<ポリマー組成物>
本発明のポリマー組成物は、前述のポリ乳酸と、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とを含有する。
【0069】
前記(1)および(2)を満たすジラクチド/ε-カプロラクトンは結晶化率が低く、ヤング率を低減し、引っ張り強度を向上させることができる一方、分子鎖同士が絡み合うだけの状態であるため、応力を受けるとまずは分子鎖同士の絡み合いが緩和するように変形し、弾性力が発生しにくく、伸びの初期においては可撓性が低い。一方、ポリ乳酸は結晶性が高く、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体におけるジラクチド残基との間で結晶構造を形成すると考えられる。かかる結晶構造により、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の分子鎖間に架橋点を形成し、応力を受けた際にゴムのような弾性力を発揮し、可撓性を向上させることができるものと考えられる。
【0070】
本発明のポリマー組成物は、ポリ乳酸とジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体との合計100質量%に対して、ポリ乳酸を20~40質量%含有することが必要である。ポリ乳酸の含有量を20質量%以上、より好ましくは30質量%以上とすることで、ポリ乳酸とジラクチド残基との結晶形成を十分なものとし、可撓性を向上させることができる。一方、ポリ乳酸の含有量を40質量%以下、より好ましくは35質量%以下とすることで、ポリ乳酸やジラクチドの過度の結晶化を抑え、高ヤング率化や引っ張り強度の低下を抑えることができる。
【0071】
本発明のポリマー組成物をフィルムとしたときの最大点応力は、生体組織と同程度の最大点応力となる5MPa以上30MPa以下が好ましい。また、ヤング率は、生体組織と同程度のヤング率となる1.0MPa以上6.3MPa以下が好ましい。
【0072】
ポリマー組成物をフィルムとしたときの最大点応力およびヤング率は、JIS K6251(2017)に規定される方法に準じて測定することができ、詳細はジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体と同様である。
【0073】
<ポリマー組成物の製造方法>
本発明のポリマー組成物は、例えば、前述のポリ乳酸と、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を、溶融状態または溶液状態で撹拌することにより得ることができる。熱分解を抑制する観点から、溶液状態で撹拌することが好ましい。より好ましくは、ポリマー組成物を構成するそれぞれのポリマーを一緒に同じ溶媒に入れて攪拌しながら溶解させた後、溶媒を揮発させて除去するのが好ましい。
【0074】
<ポリマー組成物からなる成形体>
本発明のポリマー組成物は可撓性に優れることから、高頻度で変形を伴う用途の成形体に用いることができる。特に医療用成形体として、体内に移植しても、体の変形に追随する柔軟性を持ちながら、一定以上の変形には抵抗性を示して支持体の役割を合わせて担うことが出来る。特に、このような機能が求められる神経再生誘導チューブへの適用が好ましい。
【実施例
【0075】
以下、具体的に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はそれらの実施例に限定的に解釈されるべきでなく、本発明の概念に接した当業者が想到し、実施可能であると観念するであろうあらゆる技術的思想およびその具体的態様が本発明に含まれるものとして理解されるべきものである。
【0076】
[測定方法]
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量の測定
測定対象のジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体またはポリ乳酸を、クロロホルムに溶解し、0.45μmのシリンジフィルター(DISMIC-13HP;ADVANTEC社製)を通過させて不純物等を除去した。そして下記条件のGPC測定により、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体およびポリ乳酸のポリスチレン換算の重量平均分子量を算出した。
機器名:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相:クロロホルム(HPLC用)(和光純薬工業株式会社製)
流速:1mL/min
カラム:TSKgel GMHHR-M(φ7.8mmX300mm;東ソー株式会社製)
検出器:UV検出器(254nm)およびRI検出器を作動させたが、RI検出器による結果を重量平均分子量の算出に用いた。
カラム、検出器温度:35℃
標準物質:ポリスチレン。
【0077】
(2)示差走査熱量(DSC)によるジラクチド残基の結晶化率の測定
測定対象のジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体をアルミニウムPANに採取し、示差走査熱量計(EXTAR 6000;セイコーインスツル株式会社製)を用いて、下記条件のDSC法により融解熱を算出した。得られた融解熱の値から、下記式により結晶化率を算出した。
結晶化率=(ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体のジラクチド残基単位質量当たりの融解熱)/{(ジラクチド残基のみからなるホモポリマーの単位質量当たり融解熱)×(ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中のジラクチド残基の質量分率)}×100
機器名:EXSTAR 6000(セイコーインスツル株式会社製)
温度条件:順に、25℃>10℃/minで250℃まで昇温>250℃で5min保温>10℃/minで-70℃まで降温>10℃/minで250℃まで昇温>250℃で5min保温>100℃/minで25℃まで降温
標準物質:アルミニウム。
【0078】
(3)核磁気共鳴(NMR)による各残基のモル分率(%)およびR値の測定
測定対象のジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を重クロロホルムに溶解し、下記条件のH-NMRにより、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中のジラクチド残基及びカプロラクトン残基の比率をそれぞれ算出した。また、Hホモスピンデカップリング法により、ラクチドのメチン基(5.10ppm付近)、カプロラクトンのαメチレン基(2.35ppm付近)、εメチレン基(4.10ppm付近)について、隣り合うモノマー残基がラクチドもしくはカプロラクトンに由来するシグナルで分離し、それぞれのピーク面積を定量した。それぞれの面積比から式1の[AB]を計算しR値を算出した。ここで、[AB]はジラクチド残基とカプロラクトン残基が隣り合った構造のモル分率(%)であり、具体的にはA-A、A-B、B-A、B-Bの総数に対するA-B、B-Aの数の割合である。
機器名:JNM-EX270(日本電子株式会社製)
Hホモスピンデカップリング照射位置:1.66ppm
溶媒:重クロロホルム
測定温度:室温。
【0079】
(4)引張試験によるヤング率および最大点応力の測定
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体、または各実施例および比較例により得られたポリマー組成物溶液を減圧乾燥し、これを濃度が5重量%になるようにクロロホルムに溶解させた溶液を“テフロン”(登録商標)製シャーレ上に移して、常圧、室温下で1昼夜乾燥した。これを減圧乾燥して、ポリマー組成物フィルムを得た。
【0080】
得られたフィルム(厚さ約0.1mm)を短冊状(50mm×5mm)に切り出し、EZ-LX(株式会社島津製作所製)を用いてJIS K6251(2017)に準じて下記の条件で引張試験を行い、ヤング率、最大点応力を算出した。なお、本発明で準用したJIS K6251における測定条件は、2017年版と2010年版とで共通する。
機器名:EZ-LX(株式会社島津製作所製)
初期長:10mm
引張速度:500mm/min
ロードセル:50N
試験回数:3回。
【0081】
(5)可撓性の評価
各実施例および比較例により得られたポリマー組成物溶液あるいはポリマー溶液を用いて、上記(4)に記載の方法により引張試験を行って得られた伸度-応力曲線(図1~9)において、最大点応力を観測した伸度までの応力について一次直線式(Y=aX ここに、Yは応力、Xは伸度、aは定数)の近似を行い、上記の試験回数3回の平均値により決定係数rを算出した。可撓性は弾性変形のしやすさであることから、決定係数rの値が1に近いほど弾性変形することを意味しており、決定係数が0.85以上であることが、可撓性が優れる目安となる。
【0082】
[合成例1:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の合成]
25gの-ジラクチド(Corbion社製)と、18.3mLのε-カプロラクトン(和光純薬工業株式会社製)とを、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。これらを窒素雰囲気下、触媒としてジラクチドとε-カプロラクトンの合計100質量部に対して0.05質量部(スズ換算値)のオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)を3.5mLのトルエン(超脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解した溶液と、助開始剤として227.4mgのヒドロキシピバリン酸(東京化成工業株式会社製)を添加し、140℃に加熱しながら、撹拌速度100rpmで12時間撹拌し、共重合反応させて、マクロマー溶液を得た。
【0083】
得られたマクロマー溶液に、触媒として1.67gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(合成品)と、617.9mgの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を添加した。これらを窒素雰囲気下、255mLのジクロロメタン(脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解し、縮合剤として5.76gのジシクロヘキシルカルボジイミド(シグマアルドリッチ社製)を添加し、25℃、撹拌速度100rpmで18時間撹拌し、縮合重合させた。
【0084】
反応混合物に、3.0mLの酢酸(和光純薬工業株式会社製)と、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体濃度が15質量%となる量のクロロホルムを添加し、25℃、撹拌速度200rpmで2時間撹拌した。その後、反応混合物を、2.0Lのメタノールに撹拌速度300rpmで撹拌しながら滴下して、沈殿物を得た。得られた沈殿物を18時間乾燥し、マルチグラジエント構造を有するジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を得た。得られたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量は240,000であり、マクロモノマー単位の重合度は7.1、ジラクチド残基の結晶化率は0.0%、ε-カプロラクトン残基の結晶化率は0.0%、ジラクチド残基のモル分率は52%、ε-カプロラクトン残基のモル分率は48%、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造のモル分率は30%、R値は0.60、ヤング率は3.9MPa、最大点応力は22.2MPaであった。
【0085】
[合成例2:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の合成]
50.0gの-ラクチド(PURASORB L;PURAC社製)と、36.6mLのεーカプロラクトン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)とを、モノマーとして、0.036gのオクタノールを開始剤として、セパラブルフラスコに採取した。
【0086】
これらをアルゴン雰囲気下に置き、5.8mLのトルエン(超脱水)(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)に溶解した触媒である0.27gのオクチル酸スズ(II)(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を加え、140℃、撹拌速度100rpmで24時間反応させ、粗ポリマーを得た。
【0087】
得られた粗ポリマーを200mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある3000mLのヘキサンに滴下して、沈殿物を得た。沈殿物を50℃で18時間減圧乾燥して、グラジエント構造を有するジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を得た。得られたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体の重量平均分子量は200,000であり、ジラクチド残基の結晶化率は0.0%、ε-カプロラクトン残基の結晶化率は0.0%、ジラクチド残基のモル分率は50%、ε-カプロラクトン残基のモル分率は50%、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造のモル分率は43.5%、R値は0.87、ヤング率は0.76MPa、最大点応力は16.6MPaであった。
【0088】
[実施例1]
合成例1により得られたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体と、ポリ-乳酸(Corbion社製)(重量平均分子量180,000)を、質量比がジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体:ポリ乳酸=70:30になるように混合した混合物10gをクロロホルム30mLに溶解し、ポリマー組成物溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図1に示す。
【0089】
[比較例1]
合成例1により得られたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体10gをクロロホルム30mLに溶解し、ポリマー溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図2に示す。
【0090】
[比較例2]
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とポリ乳酸の質量比をジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体:ポリ乳酸=50:50に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリマー組成物溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図3に示す。
【0091】
[比較例3]
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とポリ乳酸の質量比をジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体:ポリ乳酸=30:70に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリマー組成物溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図4に示す。
【0092】
[比較例4]
ポリ-乳酸(Corbion社製)10gをクロロホルム30mLに溶解し、ポリマー溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図5に示す。
【0093】
[実施例2]
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を合成例2より得られたものに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリマー組成物溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図6に示す。
【0094】
[実施例3]
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とポリ乳酸の比をジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体:ポリ乳酸=60:40に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリマー組成物溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図7に示す。
【0095】
[実施例4]
ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体とポリ乳酸の比をジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体:ポリ乳酸=80:20に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリマー組成物溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図8に示す。
【0096】
[比較例5]
合成例2により得られたジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体10gをクロロホルム30mLに溶解し、ポリマー溶液を作製した。前述の方法により評価した結果を表1に、伸度-応力曲線を図9に示す。
【0097】
【表1】
【符号の説明】
【0098】
E:伸び
F:引張力(N)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9