(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】寿命診断装置、半導体装置、寿命診断方法、
(51)【国際特許分類】
G01R 31/26 20200101AFI20250115BHJP
【FI】
G01R31/26 A
G01R31/26 B
(21)【出願番号】P 2021007453
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】國分 博之
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-178264(JP,A)
【文献】特開2017-27329(JP,A)
【文献】特開2011-196703(JP,A)
【文献】特開2006-67690(JP,A)
【文献】特開2005-354812(JP,A)
【文献】特開2002-101668(JP,A)
【文献】特開平10-38960(JP,A)
【文献】特開平3-261877(JP,A)
【文献】米国特許第9869722(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0276165(US,A1)
【文献】特開2022-77373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/26
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置に搭載されるパワー半導体素子の内部の温度を取得する温度取得部と、
前記温度取得部により取得される温度の変化に基づき、前記パワー半導体素子の動作に伴う前記温度の上昇及び下降で構成される温度サイクルを検出すると共に、前記温度サイクルで生じる前記温度の上昇及び下降の変化幅に相当するサイクル温度差について、所定の温度範囲に亘る複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を集計する集計部と、
前記集計部により集計される、前記複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、前記複数の第1区分の少なくとも一部の第1区分を2以上に区分することにより構成される、前記所定の温度範囲に亘る複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する推定部と、
前記サイクル温度差と前記パワー半導体素子の寿命との対応関係を示す特性データ、及び前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数に基づき、前記パワー半導体素子の寿命に関する診断を行う寿命診断部と、を備える、
寿命診断装置。
【請求項2】
前記集計部は、前記所定の温度範囲を第1の間隔刻みで区分する前記複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を集計し、
前記推定部は、前記集計部により集計される、前記複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、2以上の所定の整数で前記第1の間隔を除した値に相当する第2の間隔刻みで前記所定の温度範囲を区分する前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する、
請求項1に記載の寿命診断装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記少なくとも一部の第1区分について、前記複数の第1区分のうちの対象の第1区分を含む2以上の隣接する第1区分の前記温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、対象の第1区分の前記温度サイクルの発生回数を、対象の第1区分に含まれる2以上の前記第2区分に分配する態様で、前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する、
請求項1又は2に記載の寿命診断装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記少なくとも一部の第1区分について、前記複数の第1区分のうちの対象の第1区分及び前後に隣接する第1区分を含む、3以上の隣接する第1区分における前記温度サイクルの発生回数が前記サイクル温度差の小さい方から大きい方に向かって増加又は減少する傾向にある場合、対象の第1区分の前記温度サイクルの発生回数を、前記サイクル温度差の小さい方から大きい方に向かって増加又は減少するように、対象の第1区分に含まれる2以上の前記第2区分に分配する、
請求項3に記載の寿命診断装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記少なくとも一部の第1区分について、前記複数の第1区分のうちの対象の第1区分及び前後に隣接する第1区分を含む、3以上の隣接する第1区分における前記温度サイクルの発生回数が前記サイクル温度差の小さい方から大きい方に向かって対象の第1区分で増加から減少に変化する、又は、減少から増加に変化する傾向にある場合、対象の第1区分の前記温度サイクルの発生回数を、
対象の第1区分に含まれる3以上の前記第2区分のうちの前記サイクル温度差の
最も小さい
前記第2区分から大きい方に向かって増加すると共に
、対象の第1区分に含まれる3以上の前記第2区分のうちの両端の前記第2区分の間の前記第2区分で減少に転じるように、又は、
対象の第1区分に含まれる3以上の前記第2区分のうちの前記サイクル温度差の最も小さい前記第2区分から大きい方に向かって減少すると共に
、対象の第1区分に含まれる3以上の前記第2区分のうちの両端の前記第2区分の間の前記第2区分で増加に転じるように、対象の第1区分に含まれる
3以上の前記第2区分に分配する、
請求項3又は4に記載の寿命診断装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記少なくとも一部の第1区分について、対象の第1区分の前記温度サイクルの発生回数を、対象の第1区分に含まれ
る前記第2区分に線形的に分配する態様で、前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する、
請求項3乃至5の何れか一項に記載の寿命診断装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の寿命診断装置を備える、
半導体装置。
【請求項8】
寿命診断装置により実行される寿命診断方法であって、
半導体装置に搭載されるパワー半導体素子の内部の温度を取得する温度取得ステップと、
前記温度取得ステップで取得される温度の変化に基づき、前記パワー半導体素子の動作に伴う前記温度の上昇及び下降で構成される温度サイクルを検出すると共に、前記温度サイクルで生じる前記温度の上昇及び下降の変化幅に相当するサイクル温度差について、所定の温度範囲に亘る複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を集計する集計ステップと、
前記集計ステップで集計される、前記複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、前記複数の第1区分の少なくとも一部の第1区分を2以上に区分することにより構成される、前記所定の温度範囲に亘る複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する推定ステップと、
前記サイクル温度差と前記パワー半導体素子の寿命との対応関係を示す特性データ、及び前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数に基づき、前記パワー半導体素子の寿命に関する診断を行う寿命診断ステップと、を含む、
寿命診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、寿命診断装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子の温度の上昇及び下降のサイクル(以下、「温度サイクル」)ごとの温度差(以下、「サイクル温度差」)と、パワー半導体素子の寿命特性データとに基づき、パワー半導体素子の寿命に関する診断を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、サイクル温度差の所定の温度範囲に亘る複数の温度区分ごとに、温度サイクルの発生回数を集計し、複数の温度区分ごとの温度サイクルの発生回数からパワー半導体素子の寿命に関する診断を行う場合がある。この場合、パワー半導体素子の寿命に関する診断を行うことができる共に、複数の温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の履歴を事後的に分析・検証することができる。
【0005】
しかしながら、複数の温度区分の粒度を細かく設定すると、温度サイクルの発生回数の集計データのデータ量が相対的に大きくなり、予め準備される記憶領域に収容できない可能性がある。
【0006】
一方、予め準備される記憶領域に収容できるように、複数の温度区分の粒度を粗く設定すると、温度区分の間隔が広くなり、パワー半導体素子の寿命に関する診断の精度が低下する可能性がある。
【0007】
そこで、上記課題に鑑み、パワー半導体素子の寿命に関する診断の精度の低下を抑制しつつ、複数の温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の集計データのデータ量を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の一実施形態では、
半導体装置に搭載されるパワー半導体素子の内部の温度を取得する温度取得部と、
前記温度取得部により取得される温度の変化に基づき、前記パワー半導体素子の動作に伴う前記温度の上昇及び下降で構成される温度サイクルを検出すると共に、前記温度サイクルで生じる前記温度の上昇及び下降の変化幅に相当するサイクル温度差について、所定の温度範囲に亘る複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を集計する集計部と、
前記集計部により集計される、前記複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、前記複数の第1区分の少なくとも一部の第1区分を2以上に区分することにより構成される、前記所定の温度範囲に亘る複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する推定部と、
前記サイクル温度差と前記パワー半導体素子の寿命との対応関係を示す特性データ、及び前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数に基づき、前記パワー半導体素子の寿命に関する診断を行う寿命診断部と、を備える、
寿命診断装置が提供される。
【0009】
また、本開示の他の実施形態では、
上記の寿命診断装置を備える、
半導体装置が提供される。
【0010】
また、本開示の他の実施形態では、
寿命診断装置により実行される寿命診断方法であって、
半導体装置に搭載されるパワー半導体素子の内部の温度を取得する温度取得ステップと、
前記温度取得ステップで取得される温度の変化に基づき、前記パワー半導体素子の動作に伴う前記温度の上昇及び下降で構成される温度サイクルを検出すると共に、前記温度サイクルで生じる前記温度の上昇及び下降の変化幅に相当するサイクル温度差について、所定の温度範囲に亘る複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を集計する集計ステップと、
前記集計ステップで集計される、前記複数の第1区分ごとの前記温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、前記複数の第1区分の少なくとも一部の第1区分を2以上に区分することにより構成される、前記所定の温度範囲に亘る複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数を推定する推定ステップと、
前記サイクル温度差と前記パワー半導体素子の寿命との対応関係を示す特性データ、及び前記複数の第2区分ごとの前記温度サイクルの発生回数に基づき、前記パワー半導体素子の寿命に関する診断を行う寿命診断ステップと、を含む、
寿命診断方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上述の実施形態によれば、パワー半導体素子の寿命に関する診断の精度の低下を抑制しつつ、複数の温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の集計データのデータ量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】パワー半導体の内部構造の一例を示す図である。
【
図3】寿命診断機能に関する制御回路の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図4】パワー半導体の内部温度(ジャンクション温度)の変化の一例を示す図である。
【
図5】集計用温度サイクル履歴テーブルの一例を示す図である。
【
図6】集計用温度サイクル履歴テーブルに基づく温度サイクルの度数分布の一例を示す図である。
【
図7】診断用温度サイクル履歴テーブルの一例を示す図である。
【
図8】診断用温度サイクル履歴テーブルに基づく温度サイクルの度数分布の一例を示す図である。
【
図10】集計用温度区分とパワーサイクル寿命との関係の一例を示す図である。
【
図11】診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の算出方法の一例を説明する図である。
【
図12】診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の算出結果の一例を示す図である。
【
図13】診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の算出結果の他の例を示す図である。
【
図14】診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の算出方法の他の例を説明する図である。
【
図15】診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の算出結果の更に他の例を示す図である。
【
図16】診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の算出結果の更に他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0014】
[電力変換装置の構成]
最初に、
図1を参照して、本実施形態に係る電力変換装置1の構成について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る電力変換装置1の構成の一例を示す図である。
【0016】
電力変換装置1(半導体装置の一例)は、商用電源PSから入力される三相交流電力(例えばR相、S相、及びT相)を所定の電圧や所定の周波数を有する三相交流電力(例えば、U相、V相、及びW相)に変換し、電動機EMを駆動する。
【0017】
電力変換装置1は、整流回路10と、平滑回路20と、インバータ回路30と、電流センサ40と、電圧センサ50と、温度センサ60と、ゲート駆動回路70と、制御回路80と、表示部90とを含む。
【0018】
整流回路10は、商用電源PSから入力される三相交流電力を整流し、直流電力を出力可能に構成される。整流回路10は、正側及び負側の出力端のそれぞれが正ラインPL及び負ラインNLの一端に接続され、正ラインPL及び負ラインNLを通じて、直流電力を平滑回路20に出力することができる。整流回路10は、例えば、6つの半導体ダイオードSD(パワー半導体素子の一例)を含み、上下アームを構成する2つの半導体ダイオードSDの直列接続体が3組並列接続されるブリッジ型全波整流回路である。
【0019】
平滑回路20は、整流回路10から出力される直流電力やインバータ回路30から回生される直流電力の脈動を抑制し、平滑化する。
【0020】
平滑回路20は、例えば、平滑コンデンサ21を含む。
【0021】
平滑コンデンサ21は、整流回路10やインバータ回路30と並列に、正ラインPL及び負ラインNLを繋ぐ経路に設けられてよい。
【0022】
平滑コンデンサ21は、適宜、充放電を繰り返しながら、整流回路10から出力される直流電力やインバータ回路30から出力(回生)される直流電力を平滑化する。
【0023】
平滑コンデンサ21は、一つであってよい。また、平滑コンデンサ21は、複数配置されてもよく、複数の平滑コンデンサ21が正ラインPL及び負ラインNLの間に並列接続されてもよいし、直列接続されてもよい。また、複数の平滑コンデンサ21は、2以上の平滑コンデンサの直列接続体が正ラインPL及び負ラインNLの間に複数並列接続される形で構成されてもよい。
【0024】
また、平滑回路20は、例えば、リアクトルを含んでもよい。
【0025】
リアクトルは、整流回路10と平滑コンデンサ21(具体的には、平滑コンデンサ21が配置される経路との分岐点)との間の正ラインPLに設けられてよい。
【0026】
リアクトルは、適宜、電流の変化を妨げるように電圧を発生させながら、整流回路10から出力される直流電力やインバータ回路30から出力(回生)される直流電力を平滑化する。
【0027】
インバータ回路30は、その正側及び負側の入力端が正ラインPL及び負ラインNLの他端に接続される。インバータ回路30は、平滑回路20から供給される直流電力を半導体スイッチSW(パワー半導体素子の一例)のスイッチ動作により、所定の周波数や所定の電圧を有する三相交流電力(例えば、U相、V相、及びW相)に変換し電動機EMに出力する。半導体スイッチSWは、例えば、シリコン(Si)製のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であってよい。また、半導体スイッチSWは、例えば、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等のワイドバンドギャップ半導体を用いた半導体素子であってもよい。
【0028】
インバータ回路30は、例えば、6つの半導体スイッチSWを含み、上下アームを構成する2つの半導体スイッチSWの直列接続体(スイッチレグ)が正ラインPL及び負ラインNLの間に3組並列接続されるブリッジ回路を含む形で構成される。そして、インバータ回路30は、3組の上下アームの接続点から引き出される3本の出力線を通じて、三相交流電力を出力してよい。また、6つの半導体スイッチSWには、それぞれ、環流ダイオードが並列接続されてよい。
【0029】
以下、整流回路10の半導体ダイオードSDやインバータ回路30の半導体スイッチSW等の電力変換装置1に搭載されるパワー半導体素子を包括的に、或いは、任意の一つを個別に「パワー半導体素子100」と称する場合がある。
【0030】
電流センサ40は、電力変換装置1の三相(3本)の出力線のそれぞれの電流、即ち、電動機EMの三相のそれぞれの電流を検出する。電流センサ40は、電動機EMの三相のそれぞれの電流値に相当する信号を出力し、電流センサ40の出力信号は、制御回路80に取り込まれる。
【0031】
電圧センサ50は、電力変換装置1の正ラインPL及び負ラインNLの間の電圧(直流リンク電圧)を検出する。電圧センサ50は、正ラインPL及び負ラインNLの間の電圧値に相当する信号を出力し、電圧センサ50の出力信号は、制御回路80に取り込まれる。
【0032】
温度センサ60は、パワー半導体素子100の内部温度に関する検出信号を出力する。温度センサ60から出力される検出信号は、制御回路80に取り込まれる。
【0033】
温度センサ60は、例えば、パワー半導体素子100の内部温度を推定するための温度を検出する。温度センサ60は、例えば、電力変換装置1の筐体やパワー半導体素子100を冷却するための冷却フィン等に搭載され、電力変換装置1の筐体や冷却フィンの温度を検出してよい。
【0034】
また、温度センサ60は、例えば、パワー半導体素子100の内部温度を直接検出可能な態様であってもよい。
【0035】
ゲート駆動回路70は、制御回路80の制御下で、インバータ回路30の6つの半導体スイッチSWをスイッチング(ON/OFF)するための駆動信号を6つの半導体スイッチSWのそれぞれのゲート端子に出力する。
【0036】
制御回路80(寿命診断装置の一例)は、電力変換装置1に関する制御を行う。
【0037】
制御回路80の機能は、任意のハードウェア或いは任意のハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ等により実現されてよい。
【0038】
制御回路80は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性の補助記憶装置、及び外部との入出力用のインタフェース装置含むコンピュータを中心に構成される。制御回路80は、補助記憶装置にインストールされるプログラムをメモリ装置にロードしCPUに実行させることにより、各種制御を行う。また、制御回路80は、インタフェース装置を通じて、外部の信号を受信したり、外部に信号を出力(送信)したりする。
【0039】
制御回路80は、例えば、電動機EMが所定の運転条件で動作するように、インバータ回路30を制御する。具体的には、制御回路80は、ゲート駆動回路70に制御信号を出力することで、ゲート駆動回路70を介して、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号等の駆動信号を半導体スイッチSWに出力し、インバータ回路30を制御してよい。
【0040】
また、制御回路80は、例えば、電力変換装置1に搭載されるパワー半導体素子100の寿命診断機能に関する処理を行う。寿命診断機能の詳細については、後述する。
【0041】
表示部90は、制御回路80の制御下で、ユーザ(例えば、電動機EMで電気駆動される被駆動機器が設置される工場の作業者等)に向けて電力変換装置1に関する情報を表示する。表示部90は、例えば、警告灯、電光掲示板、液晶ディスプレイ、有機EL(Electroluminescence)等を含む。
【0042】
[パワー半導体素子の寿命診断機能の概要]
次に、
図2~
図9を参照して、制御回路80によるパワー半導体素子100(半導体ダイオードSD及び半導体スイッチSW等)の寿命診断機能について説明する。
【0043】
図2は、パワー半導体素子100の内部構造の一例を示す図である。
図3は、寿命診断機能に関する制御回路80の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4は、パワー半導体素子100の内部温度(ジャンクション温度Tj)の変化の一例を示す図である。
図5は、集計用温度サイクル履歴テーブル805の一例を示す図である。
図6は、集計用温度サイクル履歴テーブル805に基づく温度サイクルの度数分布の一例を示す図である。
図7は、診断用温度サイクル履歴テーブルの一例を示す図である。
図8は、診断用温度サイクル履歴テーブルに基づく温度サイクルの度数分布の一例を示す図である。
図9は、パワーサイクル特性の一例を示す図である。
図10は、集計用温度区分とパワーサイクル寿命(パワーサイクル特性)との関係の一例を示す図である。
【0044】
尚、
図9、
図10の縦軸(パワーサイクル寿命)は、対数スケールで表されている。以下、後述の
図11、
図14についても同様である。
【0045】
図2に示すように、パワー半導体素子100は、例えば、半導体チップ101と、半導体チップ101上に接合されるワイヤ102と、半導体チップ101が載置される絶縁基板103と、絶縁基板103が載置されるベース基板104とを含む。
【0046】
例えば、半導体スイッチSW等のパワー半導体素子100は、そのON/OFF動作の繰り返しに伴いスイッチング損失が発生し、半導体チップ101が発熱する。また、例えば、パワー半導体素子100は、通電時の内部の抵抗成分による抵抗損失が発生し、半導体チップ101が発熱する。そのため、半導体チップ101の発熱と、その後の冷却に伴う温度の上昇及び下降により構成される温度サイクル(パワーサイクル)の繰り返しによって、絶縁基板103と半導体チップ101との間の接合部(図中の点線部分)や、ワイヤ102と半導体チップ101との間の接合部等には熱疲労が蓄積する。そして、温度サイクルがある程度繰り返され、熱疲労度がある程度蓄積されると、熱応力により絶縁基板103と半導体チップ101との間の接合部や、ワイヤ102と半導体チップ101との間の接合部等が破壊され、パワー半導体素子100は寿命に至る。
【0047】
そこで、制御回路80は、パワー半導体素子100の動作に伴う温度サイクルの繰り返しを監視することにより、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行う。パワー半導体素子100の寿命に関する診断には、パワー半導体素子100の寿命の予測(例えば寿命到達の有無の判断や残りの寿命、即ち、余寿命の予測等)が含まれる。
【0048】
制御回路80は、例えば、電力変換装置1に搭載されるパワー半導体素子100のうちの対象のパワー半導体素子100ごとに、その寿命に関する診断を行ってよい。寿命診断の対象のパワー半導体素子100は、電力変換装置1に搭載されるパワー半導体素子100の全部であってもよいし、その一部であってもよい。
【0049】
図3に示すように、制御回路80は、温度取得部801と、山谷検出部802と、スタックテーブル803と、波形計数部804と、集計用温度サイクル履歴テーブル805と、を含む。また、制御回路80は、診断用テーブル作成部806と、寿命データ807と、寿命診断部808と、寿命積算バッファ809とを含む。
【0050】
温度取得部801は、所定の制御周期ごとに、温度センサ60の出力信号に基づき、パワー半導体素子100の内部温度を取得する。温度取得部801は、例えば、絶縁基板103と半導体チップ101との間の接合部の温度(以下、「ジャンクション温度」)Tjを取得する。
【0051】
例えば、温度取得部801は、温度センサ60により電力変換装置1の筐体や冷却フィン等の温度が検出される場合、温度センサ60の出力信号に基づき、パワー半導体素子100のジャンクション温度Tjを推定する。即ち、温度取得部801は、温度センサ60の出力信号に基づき、パワー半導体素子100のジャンクション温度Tjの推定値を取得してよい。具体的には、温度取得部801は、電流センサ40及び電圧センサ50の出力信号、パワー半導体素子100の電気的特性(例えば、電気的な抵抗成分の特性)に基づき、パワー半導体素子100の損失を推定してよい。そして、温度取得部801は、推定したパワー半導体素子100の損失、温度センサ60により検出される筐体や冷却フィン等の温度、及びパワー半導体素子100と筐体や冷却フィン等との間の熱抵抗等に基づき、ジャンクション温度Tjを推定してよい。パワー半導体素子100の電気的特性やパワー半導体素子100と筐体や冷却フィン等との間の熱抵抗等は、例えば、実験やシミュレーション等を通じて予め特定され、これらに関するデータは、制御回路80の補助記憶装置等に予め格納されてよい。
【0052】
また、例えば、温度取得部801は、温度センサ60によりパワー半導体素子100の内部温度が直接検出される場合、温度センサ60の出力信号から、直接、ジャンクション温度Tjの検出値を取得する。
【0053】
山谷検出部802は、温度取得部801により逐次取得されるジャンクション温度Tjに基づき、ジャンクション温度Tjの時間変化におけるピーク部分(山或いは谷)を検出する。
【0054】
例えば、
図4に示すように、パワー半導体素子100のジャンクション温度Tjは、パワー半導体素子100の動作状態に応じて、時間変化する。具体的には、上述の如く、パワー半導体素子100に損失が発生すると、ジャンクション温度Tjが上昇し、その後、パワー半導体素子100の損失の無い状態に移行すると、ジャンクション温度Tjが下降する。そして、パワー半導体素子100の動作に伴って、パワー半導体素子100のジャンクション温度Tjの上昇及び下降が繰り返されることで、ジャンクション温度Tjの時間変化には、山(図中の梨地の矢印の部分)と谷(図中の白抜き矢印の部分)とが生じる。山谷検出部802は、ジャンクション温度Tjの時間変化に生じるこのようなピーク部分を検出する。
【0055】
具体的には、山谷検出部802は、温度取得部801により逐次取得されるジャンクション温度Tjの時間変化を監視し、ジャンクション温度Tjの上昇から下降への変化点(山)或いは下降から上昇への変化点(谷)を検出する。
【0056】
スタックテーブル803は、例えば、制御回路80のメモリ装置や補助記憶装置に格納される。スタックテーブル803には、山谷検出部802により検出されたピーク部分(山或いは谷)のジャンクション温度Tjの値(以下、「ピーク値」)が時系列で記録される。
【0057】
波形計数部804(集計部の一例)は、スタックテーブル803に時系列で記録される、ジャンクション温度Tjのピーク値に基づき、パワー半導体素子100の温度サイクル(パワーサイクル)を計数(検出)する。例えば、波形計数部804は、スタックテーブル803が更新されるごとに、パワー半導体素子100の温度サイクルを計数(検出)する処理を実行してよい。
【0058】
波形計数部804は、スタックテーブル803のデータに対して、既知の手法(例えば、極大極小法、最大値最小値法、振幅法、レベルクロッシング法、レンジペア法、レインフロー法等)を任意に適用し、パワー半導体素子100の温度サイクルを計数してよい。波形計数部804は、検出した温度サイクルにおけるジャンクション温度Tjの変化幅(振幅)(以下、「サイクル温度差」)ΔTjを出力する。
【0059】
波形計数部804は、検出した温度サイクルのサイクル温度差ΔTjに基づき、温度サイクルのサイクル温度差ΔTjの履歴を集計用温度サイクル履歴テーブル805に記録する。
【0060】
集計用温度サイクル履歴テーブル805は、例えば、制御回路80の補助記憶装置等に格納される。集計用温度サイクル履歴テーブル805には、上述の如く、波形計数部804により検出された温度サイクルごとのサイクル温度差ΔTjの履歴が記録される。具体的には、集計用温度サイクル履歴テーブル805には、所定の温度範囲(以下、「対象温度範囲」)を所定の温度間隔(第1の間隔の一例)刻みで区分する複数の温度区分(以下、「集計用温度区分」)(第1区分の一例)ごとの温度サイクルの発生回数が記録される。対象温度範囲は、サイクル温度差ΔTjとして発生が想定される温度範囲の上限値及び下限値とにより規定される範囲である。対象温度範囲は、例えば、0℃~120℃の範囲である。
【0061】
例えば、
図5に示すように、集計用温度サイクル履歴テーブル805では、0℃~120℃の対象温度範囲を5℃刻みで区分する、24の集計用温度区分TA
1~TA
24が規定される。そして、集計用温度サイクル履歴テーブル805には、集計用温度区分TA
1~TA
24ごとに、発生回数NA
1~NA
24が記録される。
【0062】
尚、
図5のそれぞれの集計用温度区分ごとのサイクル温度差の範囲(温度範囲)は、例えば、下限値を含み、上限値を含まない態様(下限値≦温度範囲<上限値)で規定されてよい。
【0063】
波形計数部804は、温度サイクルを検出するたびに、検出した対象の温度サイクルのサイクル温度差ΔTjが含まれる集計用温度区分の発生回数を1だけインクリメントすることで、集計用温度サイクル履歴テーブル805にサイクル温度差ΔTjの履歴を記録する。例えば、サイクル温度差ΔTjが22.5℃の温度サイクルが検出されると、集計用温度区分TA5(20℃≦ΔTj<25℃)の発生回数NA5が1だけインクリメントされる。
【0064】
例えば、
図6に示すように、集計用温度サイクル履歴テーブル805は、サイクル温度差ΔTjに相当する複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数(発生頻度)の度数分布のグラフとして表される。これにより、例えば、制御回路80は、集計用温度サイクル履歴テーブル805と、電力変換装置1の運転状況に関する履歴データとに基づき、パワー半導体素子100のサイクル温度差の発生状況と電力変換装置1の運転状況との関係等を分析することができる。
【0065】
図3に戻り、診断用テーブル作成部806(推定部の一例)は、集計用温度サイクル履歴テーブル805に基づき、診断用の温度サイクル履歴テーブル(以下、「診断用温度サイクル履歴テーブル」)を作成する。具体的には、診断用温度サイクル履歴テーブルには、複数の集計用温度区分よりも粒度が相対的に細かい、対象温度範囲に亘る複数の温度区分(以下、「診断用温度区分」)(第2区分の一例)ごとの温度サイクルの発生回数が規定される。複数の診断用温度区分は、複数の集計用温度範囲ごとに、対象の集計用温度範囲を2以上に区分することにより構成される。
【0066】
診断用テーブル作成部806は、複数の集計用温度区分ごとの発生回数に基づき、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定する。具体的には、診断用テーブル作成部806は、複数の集計用温度区分ごとに、対象の温度区分の発生回数を対象の温度区分に含まれる2以上の診断用温度区分に分配する態様で、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定する。複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の推定方法の詳細は、後述する。
【0067】
例えば、
図7に示すように、診断用温度サイクル履歴テーブルには、
図5の集計用温度サイクル履歴テーブル805に基づき、対象温度範囲を1℃刻みで区分する複数の診断用温度区分TB
1~TB
120ごとの温度サイクルの発生回数NB
1~NB
120が規定される。つまり、本例では、複数の集計用温度区分TA
p(p:1~24の任意の整数)ごとに、対象の集計用温度区分TA
pが1℃刻みで5つの診断用温度区分TB
5(p-1)+1~TB
5(p-1)+5に区分されることで、複数の診断用温度区分TB
q(q:1~120の整数)が規定される。そして、複数の集計用温度区分TA
pごとに、対象の集計用温度区分TA
pの発生回数NA
pが、対象の集計用温度区分TA
pに含まれる5つの診断用温度区分TB
5(p-1)+1~TB
5(p-1)+5ごとの発生回数NB
5(p-1)+1~NB
5(p-1)+5として分配される。これにより、診断用テーブル作成部806は、
図5の集計用温度サイクル履歴テーブル805に基づき、複数の診断用温度区分TB
qごとの発生回数NB
qを含む、相対的に粒度が細かい診断用温度サイクル履歴テーブルを作成することができる。
【0068】
例えば、
図8に示すように、診断用温度サイクル履歴テーブルは、サイクル温度差ΔTjに相当する複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数(発生頻度)の度数分布のグラフとして表される。診断用温度サイクル履歴テーブルに対応する度数分布のグラフは、集計用温度サイクル履歴テーブル805に対応する度数分布のグラフ(
図6)よりもサイクル温度差ΔTjに関する粒度が細かい。そのため、例えば、制御回路80は、診断用温度サイクル履歴テーブルを用いることで、パワー半導体素子100のサイクル温度差の発生状況と電力変換装置1の運転状況との関係等をより細かく分析することができる。
【0069】
寿命データ807は、例えば、制御回路80の補助記憶装置等に格納され、メモリ装置に読み出されて利用される。寿命データ807は、パワー半導体素子100の寿命を予測するために必要なデータである。寿命データ807には、例えば、パワーサイクル特性データ(特性データの一例)が含まれる。パワーサイクル特性データは、パワー半導体素子100のサイクル温度差ΔTjとその寿命に相当するパワーサイクル(温度サイクル)の回数(以下、「パワーサイクル寿命」)との対応関係(以下、「パワーサイクル特性」)を表すデータである。パワーサイクル寿命は、一定のサイクル温度差ΔTjのパワーサイクルが繰り返される場合にパワー半導体素子100が寿命に至るまでのパワーサイクル(温度サイクル)の回数に相当する。
【0070】
例えば、
図9に示すように、本例では、サイクル温度差ΔTjが20℃~100℃の範囲のパワーサイクル特性が示される。パワー半導体素子100のパワーサイクル寿命は、サイクル温度差ΔTjが相対的に小さい場合、相対的に大きく、サイクル温度差ΔTjが大きくなるにつれて、指数的に小さくなる。
【0071】
尚、
図9のパワーサイクル特性が採用される場合、0℃~20℃の範囲のサイクル温度差ΔTjのパワーサイクル寿命は、例えば、サイクル温度差ΔTjが20℃のときのパワーサイクル寿命で代用されてよい。また、
図9のパワーサイクル特性が採用される場合、0℃~20℃の範囲のサイクル温度差ΔTjのパワーサイクル寿命は、例えば、20℃~100℃の範囲のパワーサイクル特性を表す曲線に基づく補完曲線により規定されてもよい。100℃を超える範囲のサイクル温度差ΔTjのパワーサイクル寿命についても同様であってよい。また、寿命データ807は、電力変換装置1の外部で生成されたデータが制御回路80に登録される態様であってよい。また、寿命データ807は、例えば、パワー半導体素子100のパワーサイクル試験により得られた実際のパワーサイクル特性のデータに基づき、制御回路80が生成してもよい。パワー半導体素子100のパワーサイクル試験は、パワー半導体素子100のメーカ或いはユーザにより実施される。
【0072】
図3に戻り、寿命診断部808は、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行う。具体的には、寿命診断部808は、診断用温度サイクル履歴テーブル及び寿命データ807に基づき、マイナー則(線形累積損傷則)を適用する。そして、寿命診断部808は、パワー半導体素子100の温度サイクルごとの熱疲労度合いを積算することにより、パワー半導体素子100の寿命に関する予測を行う。
【0073】
寿命診断部808は、例えば、対象温度範囲を所定の温度間隔(第2の間隔の一例)刻みで所定数kに区分した診断用温度区分TB
q(q=1~k)ごとの温度サイクルの発生回数NB
qに基づき、累積損傷値Dを算出してよい。例えば、上述の
図7の場合、対象温度範囲は、0℃から120℃であり、所定の温度間隔は、1℃である、所定数kは、120である。累積損傷値Dは、寿命データ807から特定される、診断用温度区分TB
qごとのパワーサイクル寿命N
qを用いて、以下の式(1)で表される。
【0074】
【0075】
累積損傷値Dは、1より小さい範囲で1に近づくほど寿命が相対的に近いことを表し、1以上に到達すると、パワー半導体素子100が寿命に到達したことを表す。
【0076】
寿命診断部808は、例えば、所定のタイミング(例えば、電力変換装置1の電源ON時や電源OFF時等)で、累積損傷値Dを算出し、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行ってよい。また、寿命診断部808は、例えば、ユーザからの入力に応じて、手動で、累積損傷値Dを算出し、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行ってもよい。
【0077】
寿命診断部808は、例えば、累積損傷値Dが1以下の所定閾値(以下、「第1の閾値」)以上に到達した場合、パワー半導体素子100が寿命に到達したと判断してよい。そして、寿命診断部808は、表示部90を通じて、その旨を示すアラートをユーザに対して通知してよい。また、寿命診断部808は、例えば、累積損傷値Dが第1の閾値未満の所定閾値(以下、「第2の閾値」)以上になった場合、パワー半導体素子100の寿命が近く、故障が発生する可能性が高いと判断してもよい。そして、寿命診断部808は、表示部90等を通じて、寿命到達前の事前アラートをユーザに対して通知してもよい。第1の閾値は、例えば、1に相対的に近い値(例えば、0.95等)に設定される。また、第2の閾値が複数段階で設定され、複数段階の第2の閾値が大きくなるほど、寿命到達前の事前アラートのレベルが引き上げられる態様であってもよい。
【0078】
寿命積算バッファ809は、例えば、メモリ装置や補助記憶装置等に格納される。寿命積算バッファ809には、寿命診断部808により算出される、パワー半導体素子100の寿命の診断結果に関するデータが時系列で記憶される。例えば、寿命積算バッファ809には、寿命診断部808により算出される累積損傷値Dの履歴が格納される。
【0079】
このように、本例では、制御回路80は、集計用温度サイクル履歴テーブル805に基づき、サイクル温度差ΔTjに関する粒度が相対的に細かい診断用温度サイクル履歴テーブルを作成する。そして、制御回路80は、診断用温度サイクル履歴テーブルの温度サイクルごとのサイクル温度差ΔTjの履歴(複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの履歴)に基づき、累積損傷値Dを算出し、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行う。
【0080】
例えば、相対的に大きい温度幅(例えば、5℃刻みや10℃刻み等)の集計用温度区分が採用されると、対象温度範囲をカバーする集計用温度区分の数を相対的に少なくすることができる。これにより、集計用温度サイクル履歴テーブル805のデータ量を相対的に小さくすることができる。そのため、例えば、電力変換装置1は、自装置の内部に準備される記憶領域が相対的に小さい場合であっても、集計用温度サイクル履歴テーブル805を自装置の内部に保存することができる。
【0081】
一方、相対的に大きい温度幅の集計用温度区分の場合、その温度幅の上限及び下限の範囲でのパワーサイクル寿命の変動幅は、相対的に大きくなる。
【0082】
例えば、
図10に示すように、パワーサイクル特性PC上で、集計用温度区分TA
6(25℃~30℃)のサイクル温度差ΔTjの上限(30℃)、中央(27.5℃)、及び下限(25℃)に対応するパワーサイクル寿命PC1~PC3が示される。パワーサイクル寿命は、上述の如く、対数スケールで表されており、サイクル温度差ΔTjの上限に対応するパワーサイクル寿命PC1とサイクル温度差ΔTjの下限に対応するパワーサイクル寿命PC3との間の差は、相対的に大きくなっている。
【0083】
そのため、仮に、相対的に大きい温度幅の集計用温度区分に基づき集計される、集計用温度サイクル履歴テーブル805がそのまま用いられる形で、パワー半導体素子100の寿命に関する診断が行われると、その精度が相対的に低下してしまう可能性がある。
【0084】
これに対して、本実施形態では、集計用温度区分よりも温度幅が小さい、複数の診断用温度区分により規定される診断用温度サイクル履歴テーブルが作成され、診断用温度サイクル履歴テーブルに基づき、パワー半導体素子100の寿命に関する診断が行われる。そのため、制御回路80は、パワー半導体素子100の寿命に関する診断の精度の低下を抑制しつつ、集計用温度サイクル履歴テーブル805のデータ量を相対的に小さく抑制することができる。
【0085】
また、本例では、制御回路80は、集計用温度サイクル履歴テーブル805を用いることにより、任意のタイミングで、パワー半導体素子100の寿命に関する診断の処理を行うことができる。そのため、制御回路80は、例えば、電力変換装置1の電源ON時や電源OFF時等の電力変換装置1の動作に影響が少ないタイミングを選択的に利用して、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行うことができる。
【0086】
[診断用温度サイクル履歴テーブルの作成方法]
次に、
図11~
図16を参照して、診断用温度サイクル履歴テーブルの作成方法、即ち、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の推定方法の具体例について説明する。以下、本例では、上述の
図5の集計用温度サイクル履歴テーブル805から
図7の診断用温度サイクル履歴テーブルを作成する例を中心に説明する。
【0087】
<診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の推定方法の一例>
図11は、診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分TB
qごとの温度サイクルの発生回数NB
qの算出方法の一例を説明する図である。具体的には、
図11は、集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30の算出方法(推定方法)の一例を説明する図である。
図12は、診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分TB
qごとの温度サイクルの発生回数NB
qの算出結果の一例を示す図である。具体的には、
図12は、集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30の算出結果の一例を示す図である。
図13は、診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分TB
qごとの温度サイクルの発生回数NB
qの算出結果の他の例を示す図である。具体的には、
図13は、集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30の算出結果の他の例を示す図である。
【0088】
図11に示すように、本例では、集計用温度区分TA
5~TA
7ごとの温度サイクルの発生回数NA
5~NA
7の分布には、サイクル温度差ΔTjが小さい方から大きい方に向かって一律に増加する傾向TD1が存在する。そのため、温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30には、以下の(1-1),(1-2)の条件が成立する可能性が高い。
【0089】
(1-1)
温度サイクルの発生回数NB26~NB30は、集計用温度区分TA5に含まれる診断用温度区分TB21~TB25の温度サイクルの発生回数NB21~NB25より大きい。
【0090】
(1-2)
集計用温度区分TA5,TA7の間に位置する集計用温度区分TA6に含まれる、5つの診断用温度区分TB26~TB30ごとの温度サイクルの発生回数NB26~NB30は、サイクル温度差ΔTjが小さい方から大きい方に向かって増加している。
【0091】
そこで、診断用テーブル作成部806は、(1-1)の条件に基づき、例えば、集計用温度区分TA6の温度サイクルの発生回数NA6の中から、集計用温度区分TA5に含まれる5つの診断用温度区分TB21~TB25の温度サイクルの発生回数NB21~NB25の平均値(=NA5/5)を、診断用温度区分TB26~TB30のそれぞれにベースとして分配する。換言すれば、診断用テーブル作成部806は、集計用温度区分TA6の温度サイクルの発生回数NA6の中から、集計用温度区分TA5の温度サイクルの発生回数NA5に相当する数を、診断用温度区分TB26~TB30に等しく分配する。
【0092】
以下、(1-1)の条件に基づき、集計用温度区分TA6の発生回数NA6を診断用温度区分TB26~TB30に分配する態様を、便宜的に、「ベース分配」と称する場合がある。後述する(2-1)の条件に基づく分配、(3-2)或いは(3-3)の条件に基づく分配、及び(4-2)或いは(4-3)の条件に基づく分配についても同様である。
【0093】
そして、診断用テーブル作成部806は、(1-2)の条件に基づき、例えば、発生回数NA6のうちの残りの数(=NA6-NA5)を、サイクル温度差ΔTjの増加に合わせて分配数が増加するように、診断用温度区分TB26~TB30に分配してよい。具体的には、診断用テーブル作成部806は、発生回数NA6のうちの残りの数(=NA6-NA5)を、サイクル温度差ΔTjの増加に合わせて分配数が線形的に増加するように、診断用温度区分TB26~TB30に分配してよい。
【0094】
以下、(1-2)の条件に基づき、集計用温度区分TA6の発生回数NA6を診断用温度区分TB26~TB30に分配する態様を、便宜的に、「傾向変動分配」と称する場合がある。後述する(2-2)の条件に基づく分配、及び(3-1)の条件に基づく分配についても同様である。
【0095】
これにより、診断用テーブル作成部806は、ベース分配の数、及びサイクル温度差ΔTjの増加に伴って増加する傾向変動分配の数の双方の加算値を、診断用温度区分TB26~TB30ごとの温度サイクルの発生回数NB26~NB30と推定することができる。
【0096】
同様の考え方は、集計用温度区分TA2~TA23のそれぞれに含まれる、所定数Mの診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mの推定方法として、適用されてよい(p:2≦p≦23の整数)。診断用テーブル作成部806は、集計用温度区分TAp-1~TAp+1で、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって温度サイクルの発生回数NAp-1~NAp+1が増加する場合、同様の方法で、温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを推定してよい。
【0097】
例えば、診断用テーブル作成部806は、以下の式(2)~(4)によって、傾向変動分配の分配率DRxを算出してよい。
【0098】
【0099】
尚、所定数Mは、対象の集計用温度区分TA
pに含まれる診断用温度区分の数であり、上述(
図7)の例では、"5"である(M=5)。また、変数xは、対象の集計用温度区分TA
pに含まれる所定数Mの診断用温度区分TB
M(p-1)+1~TB
M(p-1)+Mのそれぞれに対して、サイクル温度差ΔTjが小さい方から1,...,Mの順に付与される。
【0100】
そして、診断用テーブル作成部806は、分配率DRx、及びベース分配の数に相当する切片bに基づき、以下の式(5),(6)を用いて、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを算出してよい。
【0101】
【0102】
例えば、
図12に示すように、診断用テーブル作成部806は、上述の式(2)~(6)を用いて、集計用温度区分TA
6に含まれる、診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30を算出することができる。
【0103】
また、例えば、診断用テーブル作成部806は、傾向変動分配の変数xに対する傾きa、及びベース分配の数に相当する切片bに基づき、以下の式(7),(8)によって、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを算出してもよい。
【0104】
【0105】
例えば、
図13に示すように、診断用テーブル作成部806は、上述の式(7),(8)を用いて、集計用温度区分TA
6に含まれる、診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30を算出することができる。
【0106】
また、診断用テーブル作成部806は、集計用温度区分TAp-1~TAp+1で、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって温度サイクルの発生回数NAp-1~NAp+1が減少する場合、同様の方法で、集計用温度区分TApに含まれる、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを推定してよい。
【0107】
この場合、集計用温度区分TAp-1~TAp+1ごとの温度サイクルの発生回数NAp-1~NAp+1の分布には、サイクル温度差ΔTjが小さい方から大きい方に向かって一律に減少する傾向が存在する。そのため、温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mには、以下の(2-1),(2-2)の条件が成立する可能性が高い。
【0108】
(2-1)
温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mは、集計用温度区分TAp+1に含まれる診断用温度区分TBMp+1~TBMp+Mの温度サイクルの発生回数NBMp+1~NBMp+Mより大きい。
【0109】
(2-2)
集計用温度区分TAp-1,TAp+1の間に位置する診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mは、サイクル温度差ΔTjが大きい方から小さい方に向かって増加している。
【0110】
そこで、診断用テーブル作成部806は、(2-1)の条件に基づき、例えば、集計用温度区分TApの温度サイクルの発生回数NApの中から、集計用温度区分TAp+1に含まれる所定数Mの診断用温度区分TBMp+1~TBMp+Mの温度サイクルの発生回数NBMp+1~NBMp+Mの平均値(=NAp+1/M)を、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mのそれぞれにベースとして分配する。換言すれば、診断用テーブル作成部806は、集計用温度区分TApの温度サイクルの発生回数NApの中から、集計用温度区分TAp+1の温度サイクルの発生回数NAp+1に相当する数を、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに等しく分配する。
【0111】
そして、診断用テーブル作成部806は、(2-2)の条件に基づき、例えば、発生回数NApのうちの残りの数(=NAp-NAp+1)を、サイクル温度差ΔTjの減少に合わせて分配数が増加するように、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに分配してよい。具体的には、診断用テーブル作成部806は、発生回数NApのうちの残りの数(=NAp-NAp+1)を、サイクル温度差ΔTjの減少に合わせて分配数が線形的に増加するように、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに分配してよい。
【0112】
これにより、診断用テーブル作成部806は、ベース分配の数、及びサイクル温度差ΔTjの減少に伴って増加する傾向変動分配の数の双方の加算値を、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mと推定することができる。
【0113】
<診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の推定方法の他の例>
図14は、診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分TB
qごとの温度サイクルの発生回数NB
qの算出方法の他の例を説明する図である。具体的には、
図14は、集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30の算出方法(推定方法)の他の例を説明する図である。
図15は、診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分TB
qごとの温度サイクルの発生回数NB
qの算出結果の更に他の例を示す図である。具体的には、
図15は、集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30の算出結果の更に他の例を示す図である。
図16は、診断用温度サイクル履歴テーブルにおける複数の診断用温度区分TB
qごとの温度サイクルの発生回数NB
qの算出結果の更に他の例を示す図である。具体的には、
図16は、集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30の算出結果の更に他の例を示す図である。
【0114】
図14に示すように、本例では、集計用温度区分TA
5~TA
7ごとの温度サイクルの発生回数NA
5~NA
7の分布には、サイクル温度差ΔTjが小さい方から大きい方に向かって集計用温度区分TA
6で増加から減少に変化する傾向TD2が存在する。そのため、集計用温度区分TA
5,TA
7の間の集計用温度区分TA
6に含まれる、5つの診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30には、以下の(3-1)~(3-3)の条件が成立する可能性が高い。
【0115】
(3-1)
集計用温度区分TA5,TA7の間の集計用温度区分TA6に含まれる、5つの診断用温度区分TB26~TB30ごとの温度サイクルの発生回数NB26~NB30は、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって増加し中間で減少に転じている。即ち、サイクル温度差ΔTjが相対的に小さい方の診断用温度区分TB26~TB25+cごとの温度サイクルの発生回数NB26~NB25+cは、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって増加していると推定することができる(c:1<c<5の整数)。一方、サイクル温度差が相対的に大きい方の診断用温度区分TB25+c~TB30ごとの温度サイクルの発生回数NB25+c~NB30、サイクル温度差ΔTjの小さい方に向かって増加していると推定することができる。
【0116】
(3-2)
サイクル温度差ΔTjが相対的に小さい方の診断用温度区分TB26~TB25+cごとの温度サイクルの発生回数NB26~NB25+cは、集計用温度区分TA5に含まれる診断用温度区分TB21~TB25の温度サイクルの発生回数NB21~NB25より大きい。
【0117】
(3-3)
サイクル温度差ΔTjが相対的に大きい方の診断用温度区分TB25+c~TB30ごとの温度サイクルの発生回数NB25+c~NB30は、集計用温度区分TA7に含まれる診断用温度区分TB31~TB35の温度サイクルの発生回数NB31~NB35より大きい。
【0118】
診断用温度区分TB25+cは、診断用温度区分TB26~TB30のうちの温度サイクルの発生回数がサイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって増加から減少に転じると想定される中間位置に相当する。診断用温度区分TB25+cは、例えば、5つの診断用温度区分TB26~TB30のうちの中央の診断用温度区分TB28(c=3)であってよい。
【0119】
そこで、診断用テーブル作成部806は、(3-2)の条件に基づき、例えば、集計用温度区分TA6の温度サイクルの発生回数NA6の中から、集計用温度区分TA5に含まれる、5つの診断用温度区分TB21~TB25の温度サイクルの発生回数NB21~NB25の平均値(=NA5/5)を、診断用温度区分TB26~TB25+c-1のそれぞれに分配する。
【0120】
また、診断用テーブル作成部806は、(3-3)の条件に基づき、例えば、集計用温度区分TA6の温度サイクルの発生回数NA6の中から、集計用温度区分TA7に含まれる、5つの診断用温度区分TB31~TB35の温度サイクルの発生回数NB31~NB35の平均値(=NA7/5)を、診断用温度区分TB25+c+1~TB30のそれぞれに分配する。
【0121】
また、診断用テーブル作成部806は、(3-2)或いは(3-3)の条件に基づき、例えば、温度サイクルの発生回数NB21~NB25の平均値、或いは、温度サイクルの発生回数NB31~NB35の平均値を、診断用温度区分TB25+cに分配する。
【0122】
そして、診断用テーブル作成部806は、(3-1)の条件に基づき、例えば、発生回数NA6のうちの残りの数を、診断用温度区分TB26からのサイクル温度差ΔTjの増加、或いは、診断用温度区分TB30からのサイクル温度差ΔTjの減少に合わせて分配数が増加するように、診断用温度区分TB26~TB30に分配してよい。具体的には、診断用テーブル作成部806は、診断用温度区分TB26からのサイクル温度差ΔTjの増加、或いは、診断用温度区分TB30からのサイクル温度差ΔTjの減少に合わせて分配数が線形的に増加するように、診断用温度区分TB26~TB30に分配してよい。
【0123】
これにより、診断用テーブル作成部806は、ベース分配の数、及びサイクル温度差ΔTjの増加或いは減少に伴って増加する傾向変動分配の数の双方の加算値を、診断用温度区分TB26~TB30ごとの温度サイクルの発生回数NB26~NB30と推定することができる。
【0124】
同様の考え方は、集計用温度区分TA2~TA23のそれぞれに含まれる、所定数Mの診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mの推定方法として、適用されてよい(p:2≦p≦23の整数)。診断用テーブル作成部806は、集計用温度区分TAp-1~TAp+1において、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって温度サイクルの発生回数NAp-1~NAp+1が集計用温度区分TApで増加から減少に変化する場合、同様の方法で、温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを推定してよい。
【0125】
例えば、診断用テーブル作成部806は、以下の式(9)~(14)を用いて、傾向変動分配の分配率DRx1,DRx2を算出してよい。
【0126】
【0127】
尚、式(13),(14)のそれぞれの分母の第1項の"c-1"及び第2項の"M-(c-1)"は、それぞれ、"c"及び"M-c"に置換されてもよい。また、変数x1は、対象の集計用温度区分TApに含まれる、サイクル温度差ΔTjが相対的に小さい診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+c-1のそれぞれに対して、サイクル温度差ΔTjが小さい方から1,...,c-1の順に付与される。また、変数x2は、対象の集計用温度区分TApに含まれる、サイクル温度差ΔTjが相対的に大きい診断用温度区分TBM(p-1)+c~TBM(p-1)+Mのそれぞれに対して、サイクル温度差ΔTjが大きい方から1,...,M-(c-1)の順に付与される。
【0128】
そして、診断用テーブル作成部806は、分配率DRx1,DRx2、及びベース分配に数に相当する切片b1,b2に基づき、以下の式(15)~(18)を用いて、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを算出してよい。
【0129】
【0130】
例えば、
図15に示すように、診断用テーブル作成部806は、上述の式(9)~(18)を用いて、集計用温度区分TA
6に含まれる、診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30を算出することができる。
【0131】
また、診断用テーブル作成部806は、傾向変動分配の変数x1,x2に対する傾きa1,a2、及びベース分配の数に相当する切片b1,b2に基づき、上述の式(17),(18)、及び以下の式(19)~(22)によって、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを算出してもよい。
【0132】
【0133】
尚、式(21),(22)のそれぞれの分母の第1項の"c"及び第2項の"M-c"は、それぞれ、"c-1"及び"M-(c-1)"に置換されてもよい。
【0134】
例えば、
図16に示すように、診断用テーブル作成部806は、上述の式(17)~(22)を用いて、集計用温度区分TA
6に含まれる、診断用温度区分TB
26~TB
30ごとの温度サイクルの発生回数NB
26~NB
30を算出することができる。
【0135】
また、診断用テーブル作成部806は、集計用温度区分TAp-1~TAp+1において、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって温度サイクルの発生回数NAp-1~NAp+1が集計用温度区分TApで減少から増加に変化する場合、同様の方法で、集計用温度区分TApに含まれる、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを推定してよい。
【0136】
この場合、集計用温度区分TAp-1~TAp+1ごとの温度サイクルの発生回数NAp-1~NAp+1の分布には、サイクル温度差ΔTjが小さい方から大きい方に向かって集計用温度区分TApで減少から増加に変化する傾向が存在する。そのため、温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mには、以下の(4-1)~(4-3)の条件が成立する可能性が高い。
【0137】
(4-1)
集計用温度区分TAp-1,TAp+1の間の集計用温度区分TApに含まれる、所定数Mの診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mは、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって減少し中間で増加に転じている。即ち、サイクル温度差ΔTjが相対的に小さい方の診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+cごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+cは、サイクル温度差ΔTjの大きい方に向かって減少していると推定することができる(c:1<c<Mの整数)。一方、サイクル温度差が相対的に大きい方の診断用温度区分TBM(p-1)+c~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+c~NBM(p-1)+Mは、サイクル温度差ΔTjの小さい方に向かって減少していると推定することができる。
【0138】
(4-2)
サイクル温度差ΔTjが相対的に小さい方の診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+cごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+cは、集計用温度区分TAp-1に含まれる診断用温度区分TBM(p-2)+1~TBM(p-2)+Mの温度サイクルの発生回数NBM(p-2)+1~NBM(p-2)+Mより小さい。
【0139】
(4-3)
サイクル温度差ΔTjが相対的に大きい方の診断用温度区分TBM(p-1)+c~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+c~NBM(p-1)+Mは、集計用温度区分TAp+1に含まれる診断用温度区分TBMp+1~TBMp+Mの温度サイクルの発生回数NBMp+1~NBMp+Mより小さい。
【0140】
そこで、診断用テーブル作成部806は、(4-2)の条件に基づき、例えば、集計用温度区分TApの温度サイクルの発生回数NApの中から、集計用温度区分TAp-1に含まれる、所定数Mの診断用温度区分TBM(p-2)+1~TBM(p-2)+Mの温度サイクルの発生回数NBM(p-2)+1~NBM(p-2)+Mの平均値(=NAp-1/M)を、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+c-1のそれぞれに分配する。
【0141】
また、診断用テーブル作成部806は、(4-3)の条件に基づき、例えば、集計用温度区分TApの温度サイクルの発生回数NApの中から、集計用温度区分TAp+1に含まれる、所定数Mの診断用温度区分TBMp+1~TBMp+Mの温度サイクルの発生回数NBMp+1~NBMp+Mの平均値(=NAp+1/M)を、診断用温度区分TBM(p-1)+c+1~TBM(p-1)+Mのそれぞれに分配する。
【0142】
また、診断用テーブル作成部806は、(4-2)或いは(4-3)の条件に基づき、例えば、温度サイクルの発生回数NBM(p-2)+1~NBM(p-2)+Mの平均値、或いは、温度サイクルの発生回数NBMp+1~NBMp+Mの平均値を、診断用温度区分TBM(p-1)+cに分配する。
【0143】
そして、診断用テーブル作成部806は、(4-1)の条件に基づき、例えば、分配数の総和が集計用温度区分TApの温度サイクルの発生回数NApまで減少するように、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに分配済みの数を回収(削減)する。具体的には、診断用テーブル作成部806は、診断用温度区分TBM(p-1)+1からのサイクル温度差ΔTjの増加、或いは、診断用温度区分TBM(p-1)+Mからのサイクル温度差ΔTjの減少に合わせて回収数が増加するように、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに分配済みの数を回収する。
【0144】
以下、(4-1)の条件に基づき、集計用温度区分TApの発生回数NApから診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに過剰に分配済みの数を回収する態様を、便宜的に、「傾向変動回収」と称する場合がある。
【0145】
これにより、診断用テーブル作成部806は、ベース分配の数から、サイクル温度差ΔTjの増加或いは減少に伴って増加する傾向変動回収の数を減じた減算値を、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mごとの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mと推定することができる。
【0146】
<診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の推定方法の更に他の例>
診断用テーブル作成部806は、例えば、集計用温度区分TA1,TA2の温度サイクルの発生回数NA1,NA2の大小関係に基づき、集計用温度区分TA1に含まれる、所定数Mの診断用温度区分TB1~TBMの温度サイクルの発生回数NB1~NBMを推定する。集計用温度区分TA1は、対象温度範囲のサイクル温度差ΔTjが小さい方の一端に位置し、サイクル温度差ΔTjが大きい方にしか隣接する集計用温度区分が存在しないからである。具体的には、診断用テーブル作成部806は、温度サイクルの発生回数NA2に対する、温度サイクルの発生回数NA1の変化の傾向(増加或いは減少)が、診断用温度区分TB1~TBMの間の温度サイクルの発生回数NB1~NBMの分布にも反映されるように、発生回数NB1~NBMを推定してよい。
【0147】
同様に、診断用テーブル作成部806は、例えば、集計用温度区分TA23,TA24の温度サイクルの発生回数NA23,NA24の大小関係に基づき、集計用温度区分TA24に含まれる、所定数Mの診断用温度区分TB23M+1~TB23M+Mの温度サイクルの発生回数NB23M+1~NB23M+Mを推定する。集計用温度区分TA24は、対象温度範囲のサイクル温度差ΔTjが大きい方の一端に位置し、サイクル温度差ΔTjが小さい方にしか隣接する集計用温度区分が存在しないからである。具体的には、診断用テーブル作成部806は、温度サイクルの発生回数NA23に対する、温度サイクルの発生回数NA24の変化の傾向(増加或いは減少)が、診断用温度区分TB23M+1~TB23M+Mの間の温度サイクルの発生回数NB23M+1~NB23M+Mの分布にも反映されるように、発生回数NB23M+1~NB23M+Mを推定してよい。
【0148】
また、診断用テーブル作成部806は、例えば、集計用温度区分TA1の温度サイクルの発生回数NA1を、所定数Mの診断用温度区分TB1~TBMに等分配する態様で、温度サイクルの発生回数NB1~NBMを推定してもよい。換言すれば、診断用テーブル作成部806は、温度サイクルの発生回数NB1~NBMを、それぞれ、集計用温度区分TA1の温度サイクルの発生回数NA1を所定数Mで除した値(=NA1/M)と推定してよい。対象温度範囲におけるサイクル温度差ΔTjが小さい方の一端の温度サイクルの発生回数NB1~NBMは非常に少なく、精度に対する影響が小さいと考えること可能だからである。
【0149】
同様に、診断用テーブル作成部806は、例えば、集計用温度区分TA24の温度サイクルの発生回数NA24を、診断用温度区分TB23M+1~TB23M+Mに等分配する態様で、温度サイクルの発生回数NB23M+1~NB23M+Mを推定してもよい。換言すれば、診断用テーブル作成部806は、温度サイクルの発生回数NB23M+1~NB23M+Mを、それぞれ、集計用温度区分TA24の温度サイクルの発生回数NA24を所定数Mで除した値(=NA24/M)と推定してよい。
【0150】
[その他の実施形態]
次に、その他の実施形態について説明する。
【0151】
上述の実施形態には、適宜、変形や変更が加えられてよい。
【0152】
例えば、上述の実施形態では、電力変換装置1は、商用電源PS以外の他の電源から入力される三相交流電力に基づき、電動機EMを駆動する三相交流電力を生成してもよい。
【0153】
また、例えば、上述の実施形態等では、電力変換装置1は、三相交流の電源に代えて、或いは、加えて、直流電源から入力される電力に基づき、電動機EMを駆動する三相交流電力を生成してもよい。この場合、直流電力は、整流回路10とインバータ回路30との間の直流リンク部(正ラインPL及び負ラインNL)に入力される。
【0154】
また、例えば、上述の実施形態等では、電力変換装置1は、電動機EMと異なる他の負荷装置を駆動する三相交流電力を出力してもよい。この場合、例えば、電力変換装置1は、三相交流電力に変えて、U相、V相、及びW相のうちの何れか一つの相を基準電位として、2系統の単相交流電力或いは2系統の直流電力を出力してもよい。例えば、他の負荷装置は、誘導炉のコイル等である。
【0155】
また、例えば、上述の実施形態等では、制御回路80は、対象の集計用温度区分TApを含む4以上の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mの温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを推定してもよい。
【0156】
また、例えば、上述の実施形態等では、制御回路80は、集計用温度区分TApの温度サイクルの発生回数NApを、分配数が非線形的に変化するように診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに分配する態様で、温度サイクルの発生回数NBM(p-1)+1~NBM(p-1)+Mを推定してもよい。
【0157】
また、例えば、上述の実施形態等では、複数の集計用温度区分TApは、対象温度範囲に亘ってその少なくとも一部が不等幅で構成されてもよい。また、集計用温度区分TApは、その少なくとも一部が不等幅で構成される、所定数Mの診断用温度区分TBM(p-1)+1~TBM(p-1)+Mに区分されてもよい。また、所定数Mは、複数の集計用温度区分TApごとに可変されてもよい。
【0158】
また、例えば、上述の実施形態等では、複数の集計用温度区分TApのうちの一部だけが所定数Mの診断用温度区分に区分され、残りの集計用温度区分TApは、そのまま、診断用温度区分として利用されてもよい。
【0159】
また、例えば、上述の実施形態等では、制御回路80の機能は、複数の制御回路により実現されてもよい。例えば、制御回路80は、インバータ回路30を制御する機能等、電力変換装置1の動作を制御する機能を実現する制御回路、及び電力変換装置1のパワー半導体素子100の寿命診断機能を実現する制御回路等を含む複数の制御回路に置換されてもよい。
【0160】
また、例えば、上述の実施形態等では、電力変換装置1に搭載されるパワー半導体素子100の寿命診断機能は、制御回路80に代えて、電力変換装置1(制御回路80)と通信可能な所定の外部装置(寿命診断装置の一例)に移管されてもよい。所定の外部装置は、例えば、サーバ装置である。サーバ装置は、例えば、電動機EMの駆動対象の機器が設置される工場の外部に設置される管理センタ等のオンプレミスサーバやクラウドサーバであってよい。また、サーバ装置は、例えば、電動機EMの駆動対象の機器が設置される工場の敷地内、或いは、工場から相対的に近い位置にある通信施設(例えば、基地局や局舎等)に設けられるエッジサーバであってもよい。また、所定の外部装置は、例えば、電力変換装置1のユーザが利用する端末装置(ユーザ端末)である。端末装置は、例えば、電動機EMの駆動対象の機器が設置される工場の管理室等に設置される、デスクトップ型のコンピュータ端末等の定置型の端末装置であってよい。また、端末装置は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、ラップトップ型のコンピュータ端末等の可搬型の端末装置(携帯端末)であってもよい。
【0161】
また、例えば、上述の実施形態では、寿命診断機能が電力変換装置1に搭載されるパワー半導体素子100の寿命診断に適用されるが、パワー半導体素子が搭載される他の半導体装置の寿命診断に適用されてもよい。
【0162】
[作用]
次に、本実施形態に係る寿命診断機能に関する作用について説明する。
【0163】
本実施形態では、制御回路80は、温度取得部801と、波形計数部804と、診断用テーブル作成部806と、寿命診断部808とを備える。具体的には、温度取得部801は、半導体装置に搭載されるパワー半導体素子100の内部の温度を取得する。また、波形計数部804は、温度取得部801により取得される温度の変化に基づき、パワー半導体素子100の動作に伴う温度の上昇及び下降で構成される温度サイクルを検出する。また、波形計数部804は、温度サイクルで生じる温度の上昇及び下降の変化幅に相当するサイクル温度差ΔTjについて、対象温度範囲に亘る複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を集計用温度サイクル履歴テーブル805に集計する。また、診断用テーブル作成部806は、波形計数部804により集計される、複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、複数の集計用温度区分の少なくとも一部の集計用温度区分を2以上に区分することにより構成される、対象温度範囲に亘る複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定する。そして、寿命診断部808は、サイクル温度差ΔTjとパワー半導体素子100の寿命との対応関係を示す特性データ、及び複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数に基づき、パワー半導体素子100の寿命に関する診断を行う。
【0164】
これにより、制御回路80は、例えば、集計用温度サイクル履歴テーブル805からサイクル温度差ΔTjに関する粒度が細かい診断用温度サイクル履歴テーブルを作成することができる。そのため、制御回路80は、診断用温度サイクル履歴テーブルを用いて、パワー半導体素子100の寿命に関する診断の精度の低下を抑制しつつ、複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の集計データ(集計用温度サイクル履歴テーブル805)のデータ量を抑制することができる。よって、例えば、電力変換装置1に寿命診断機能を内蔵させる場合等、複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の集計データのための記憶領域を大きく確保できない場合であっても、パワー半導体素子100の寿命に関する診断の精度の低下を抑制することができる。
【0165】
また、本実施形態では、波形計数部804は、対象温度範囲を第1の間隔刻み(例えば、5℃刻みや10℃刻み)で等幅に区分する複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を集計してよい。そして、診断用テーブル作成部806は、波形計数部804により集計される、複数の集計用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、2以上の所定の整数(所定数M)で第1の間隔を除した値に相当する第2の間隔刻み(例えば、1℃刻み)で対象温度範囲を区分する複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定してよい。
【0166】
これにより、制御回路80は、等幅に構成される、複数の集計用温度区分や複数の診断用温度区分を用いて、サイクル温度差ΔTjに関する温度サイクルの発生回数の集計や温度サイクルの発生回数の推定を実施することができる。
【0167】
また、本実施形態では、診断用テーブル作成部806は、少なくとも一部の集計用温度区分について、複数の集計用温度区分のうちの対象の集計用温度区分を含む2以上の隣接する集計用温度区分の温度サイクルの発生回数の分布の傾向に基づき、対象の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数を、対象の集計用温度区分に含まれる2以上の診断用温度区分に分配する態様で、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定してよい。
【0168】
これにより、制御回路80は、対象の集計用温度区分を含む2以上の隣接する集計用温度区分の間の温度サイクルの発生回数の分布傾向に合わせて、対象の集計用温度区分に含まれる、2以上の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定することができる。
【0169】
また、本実施形態では、診断用テーブル作成部806は、少なくとも一部の集計用温度区分について、複数の集計用温度区分のうちの対象の集計用温度区分及び前後に隣接する集計用温度区分を含む、3以上の隣接する集計用温度区分における温度サイクルの発生回数がサイクル温度差ΔTjの小さい方から大きい方に向かって増加或いは減少する傾向にある場合、対象の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数を、サイクル温度差ΔTjの小さい方から大きい方に向かって増加或いは減少するように、対象の集計用温度区分に含まれる2以上の診断用温度区分に分配してよい。
【0170】
これにより、制御回路80は、対象の集計用温度区分を含む前後に隣接する3以上の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数の具体的な分布傾向に合わせて、対象の集計用温度区分に含まれる、2以上の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定することができる。
【0171】
また、本実施形態では、診断用テーブル作成部806は、少なくとも一部の集計用温度区分について、複数の集計用温度区分のうちの対象の集計用温度区分及び前後に隣接する集計用温度区分を含む、3以上の隣接する集計用温度区分における温度サイクルの発生回数がサイクル温度差ΔTjの小さい方から大きい方に向かって対象の集計用温度区分で増加から減少に変化する、或いは、減少から増加に変化する傾向にある場合、対象の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数を、サイクル温度差ΔTjの小さい方から大きい方に向かって増加すると共にその中間で減少に転じるように、或いは、減少すると共にその中間で増加に転じるように、対象の集計用温度区分に含まれる2以上の診断用温度区分に分配してよい。
【0172】
これにより、制御回路80は、対象の集計用温度区分を含む前後に隣接する3以上の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数の具体的な分布傾向に合わせて、対象の集計用温度区分に含まれる、2以上の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定することができる。
【0173】
また、本実施形態では、診断用テーブル作成部806は、少なくとも一部の集計用温度区分について、対象の集計用温度区分の温度サイクルの発生回数を、対象の集計用温度区分に含まれる2以上の診断用温度区分に線形的に分配する態様で、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定してよい。
【0174】
これにより、制御回路80は、比較的容易に、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数を推定することができる。そのため、制御回路80は、複数の診断用温度区分ごとの温度サイクルの発生回数の処理負荷を軽減することができる。
【0175】
以上、実施形態について詳述したが、本開示はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0176】
1 電力変換装置(半導体装置)
10 整流回路
20 平滑回路
30 インバータ回路
40 電流センサ
50 電圧センサ
60 温度センサ
70 ゲート駆動回路
80 制御回路(寿命診断装置)
100 パワー半導体素子
801 温度取得部
802 山谷検出部
803 スタックテーブル
804 波形計数部(集計部)
805 集計用温度サイクル履歴テーブル
806 診断用テーブル作成部(推定部)
807 寿命データ
808 寿命診断部
809 寿命積算バッファ
EM 電動機
PS 商用電源