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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20250115BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20250115BHJP
   F16H 59/56 20060101ALI20250115BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
F16H61/14 601R
F16H59/44
F16H59/56
F16H61/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021011455
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114952
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 英由季
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-295669(JP,A)
【文献】特開2003-74691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/44
F16H 59/56
F16H 61/02
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、
前記内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、
前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、
前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、
を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、
前記制御部は、車速が所定の車速以下であることを条件に前記ロックアップクラッチを解放するよう制御し、
前記所定の車速は、前記変速クラッチが前記締結状態又は前記遮断状態のいずれの状態であるかに応じて変更されるよう構成され、
前記変速クラッチが前記締結状態にあるときの前記所定の車速を第1の車速、前記変速クラッチが前記遮断状態にあるときの前記所定の車速を第2の車速、としたとき、
前記第2の車速は、前記第1の車速よりも低いことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定の車速は、前記変速クラッチの前記締結状態から前記遮断状態への切替が開始されると、前記第1の車速から前記第2の車速に向けて徐々に低下することを特徴とする請求項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記所定の車速は、前記変速クラッチの前記遮断状態から前記締結状態への切替が開始された後、前記変速クラッチが伝達するトルクが増大するのに伴い、前記第2の車速から前記第1の車速に向けて徐々に上昇することを特徴とする請求項又は請求項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記変速機構の変速段を切り替える変速動作が完了した後、前記変速クラッチが前記締結状態になると、前記所定の車速が前記第1の車速になることを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンと変速機との間にロックアップクラッチを内蔵した流体継手と湿式摩擦クラッチとを設けたクラッチ自動制御式の車両において、緩制動時にはロックアップクラッチ断の制御のみを行い、急制動時にはロックアップクラッチ断に加えて湿式摩擦クラッチ断の制御を行うものが開示されている。このクラッチ自動制御式の車両によれば、湿式摩擦クラッチが迅速に断するので、エンジンストールが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-295669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の車両にあっては、エンジンストール防止のために制動時にロックアップクラッチ断に制御するため、ロックアップ領域を拡大できず、燃費向上を図ることができない。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、ロックアップ領域を拡大でき、燃費向上を図ることができる車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、前記内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、前記ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、前記制御部は、車速が所定の車速以下であることを条件に前記ロックアップクラッチを解放するよう制御し、前記所定の車速は、前記変速クラッチが前記締結状態又は前記遮断状態のいずれの状態であるかに応じて変更されるよう構成され、前記変速クラッチが前記締結状態にあるときの前記所定の車速を第1の車速、前記変速クラッチが前記遮断状態にあるときの前記所定の車速を第2の車速、としたとき、前記第2の車速は、前記第1の車速よりも低い構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ロックアップ領域を拡大でき、燃費向上を図ることができる車両用駆動装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置によって実行されるロックアップ維持制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、ロックアップオフ車速を変更しない構成の比較例に係る車両における1-2変速時のタイミングチャートの一例である。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両における1-2変速時のタイミングチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、内燃機関に接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、前記内燃機関の回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、前記ロックアップクラッチの締結又は解放を制御する制御部を備え、前記制御部は、車速が所定の車速以下であることを条件に前記ロックアップクラッチを解放するよう制御し、前記所定の車速は、前記変速クラッチが前記締結状態又は前記遮断状態のいずれの状態であるかに応じて変更されることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、ロックアップ領域を拡大でき、燃費向上を図ることができる。
【実施例
【0010】
以下、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、車両用駆動装置としての自動変速機3と、駆動輪4と、制御装置10と、を含んで構成されている。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。エンジン2は、車両1の動力源である。
【0013】
自動変速機3は、エンジン2と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられている。自動変速機3は、トルクコンバータ30と、変速機構31と、変速クラッチ32と、クラッチアクチュエータ33と、を有している。
【0014】
トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ35を有する、いわゆるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータである。トルクコンバータ30は、エンジン2と変速クラッチ32との間の動力伝達経路に設けられ、流体を介して動力の伝達を行いタービン軸36に出力する。
【0015】
タービン軸36には、変速クラッチ32が接続されている。トルクコンバータ30は、エンジン2のクランク軸21から入力されるトルク(駆動力)を、流体を介することにより回転差にて増幅してタービン軸36および変速クラッチ32に出力する。そして、トルクコンバータ30の出力は、タービン軸36および変速クラッチ32を介して変速機構31に伝達される。
【0016】
トルクコンバータ30の内部は、ロックアップクラッチ35を境にして図示しないアプライ室とリリース室とに区画されている。アプライ室又はリリース室には作動油が供給され、供給される作動油の油圧(作動油圧)によってロックアップクラッチ35の作動状態を切り替えるようになっている。
【0017】
ロックアップクラッチ35は、トルクコンバータ30内に設けられ、エンジン2のクランク軸21とタービン軸36とが一体的に回転して動力伝達するように接続(以下、「ロックアップ」という)する締結状態と、クランク軸21とタービン軸36とのロックアップを解除して流体(作動油)を介してクランク軸21とタービン軸36とが動力伝達をする解放状態と、の間で作動状態が切り替えられるようになっている。
【0018】
ロックアップクラッチ35は、アプライ室に作動油圧(以下、この作動油圧を「締結油圧」という)が供給されてリリース室から作動油が排出されることで、締結状態に切り替えられる。逆に、ロックアップクラッチ35は、リリース室に作動油圧(以下、この作動油圧を「解放油圧」という)が供給されてアプライ室から作動油が排出されることで、解放状態に切り替えられる。
【0019】
変速機構31は、変速クラッチ32と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられ、変速クラッチ32に接続された入力軸37と、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に接続された出力軸38と、を有する。変速機構31は、変速クラッチ32から入力軸37に入力される駆動力を変換および回転速度を変速して、出力軸38から出力する。
【0020】
変速機構31は、エンジン2から出力され、入力軸37に伝達されたエンジン2の回転を、後述する複数の変速段のうち選択されたいずれかの変速段に応じた変速比で変速して出力軸38に出力する。出力軸38に出力された回転や駆動力は、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に伝達される。
【0021】
変速機構31は、歯数比の異なる複数のギヤ対によって変速比の異なる複数の変速段を形成可能に構成されている。変速機構31における変速段の切替は、図示しないシフトアクチュエータによって自動で行われるようになっている。詳細には、制御装置10が、車速及びアクセルペダルの踏込み量に基づき変速マップを参照することにより変速の要否を判断し、変速の指示をシフトアクチュエータに出力する。そして、変速指示を受けたシフトアクチュエータが動作して、変速が行われる。
【0022】
変速クラッチ32は、トルクコンバータ30と変速機構31との間の動力伝達経路に設けられている。変速クラッチ32は、タービン軸36と一体で回転するように連結されたクラッチホイールディスク32aと、変速機構31の入力軸37と一体で回転するように連結されたクラッチディスク32bと、を有する。
【0023】
変速クラッチ32は、乾式単板クラッチであって、クラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aに押し付けることでクラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aが一体的に回転して動力伝達する締結状態と、クラッチディスク32bがクラッチホイールディスク32aから分離されることでクラッチホイールディスク32aとクラッチディスク32bとの間の動力伝達を遮断する遮断状態と、に切り替えられるようになっている。つまり、変速クラッチ32は、締結状態ではタービン軸36と入力軸37との間で動力を伝達し、遮断状態ではタービン軸36と入力軸37との間の動力伝達を遮断する。
【0024】
変速クラッチ32に対する締結状態と遮断状態とを切り替える操作(以下、「クラッチ操作」という)は、クラッチアクチュエータ33によって自動で行われるようになっている。
【0025】
クラッチアクチュエータ33は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10からの指令に基づき、変速クラッチ32のクラッチ操作を行うようになっている。具体的には、クラッチアクチュエータ33は、いずれも図示しないレリーズベアリングをレリーズフォーク等にて入力軸37の軸方向に移動させ、レリーズベアリングにてクラッチホイールディスク32aのダイヤフラムスプリングを弾性変形させて変速クラッチ32を遮断状態とする。また、クラッチアクチュエータ33は、レリーズベアリングを遮断状態の位置から遮断状態にする時と反対の方向に移動させ、ダイヤフラムスプリングを弾性変形から解放させて変速クラッチ32を締結状態とする。
【0026】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0027】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御装置10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、本実施例における制御装置10として機能する。
【0028】
制御装置10には、上述した図示しないシフトアクチュエータ、クラッチアクチュエータ33及び油圧制御装置40等の各種装置、クランク角センサ50、タービン回転数センサ51、クラッチ回転数センサ52、クラッチ位置検出センサ53、ロックアップ油圧センサ54、車速センサ55及びアクセルセンサ56等の各種センサ類が接続されている。
【0029】
油圧制御装置40は、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35やクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧を制御する。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきロックアップクラッチ35に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、ロックアップクラッチ35を締結状態又は解放状態に切り替える。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、変速クラッチ32を締結状態又は遮断状態に切り替える。
【0030】
クランク角センサ50は、クランク軸21の回転角(以下、「クランク角」という)を検出する。制御装置10は、クランク角センサ50から入力されたクランク角を示す情報に基づきエンジン2の回転速度(クランク軸21の回転速度)であるエンジン回転数を算出する。
【0031】
タービン回転数センサ51は、タービン軸36の回転速度(以下、「タービン回転数」という)を検出する。クラッチ回転数センサ52は、クラッチディスク32b及び入力軸37の回転速度(以下、「クラッチ回転数」という)を検出する。
【0032】
クラッチ位置検出センサ53は、変速クラッチ32におけるレリーズベアリングの位置あるいはレリーズベアリングの移動状態に関連して移動するレリーズフォーク等の部品の位置(以下、「クラッチ位置」という)を検出する。クラッチ位置は、変速クラッチ32の状態(遮断状態/半クラッチ状態/締結状態)を示すものでもあり、変速クラッチ32の伝達するトルクの大きさを示すものとも考えられる。ロックアップ油圧センサ54は、ロックアップクラッチ35に供給される作動油圧を検出する。本実施例では、アプライ室に作用する締結油圧を少なくとも検出するが、リリース室に作用する解放油圧を基準にアプライ室に作用する油圧を推定あるいは検出してもよい。車速センサ55は、車両1の速度である車速を検出する。アクセルセンサ56は、運転者による図示しないアクセルペダルの踏込み量を検出する。なお、アクセルセンサ56は、アクセルペダルの踏込み量に連動して変化するスロットル弁の動きを検出してもよい。
【0033】
制御装置10は、クラッチ位置検出センサ53によって検出されたクラッチ位置に基づき、変速クラッチ32が伝達するトルクであるクラッチトルクとクラッチ位置との関係を定義した図示しないマップを参照することにより、変速クラッチ32を制御するクラッチ制御部101としての機能を有する。
【0034】
制御装置10は、ロックアップクラッチ35の締結又は解放を制御するロックアップクラッチ制御部102としての機能を有する。例えば、制御装置10は、所定のロックアップ条件が成立した場合、ロックアップクラッチ35を解放状態から締結状態に切り替えるよう、油圧制御装置40を制御するロックアップ制御を実行する。本実施例のロックアップクラッチ制御部102は、制御部を構成する。
【0035】
本実施例においては、例えば車速が所定のロックアップオン車速以上となったことを、所定のロックアップ条件とする。所定のロックアップオン車速は、上述の変速マップ上において1速段から2速段へのアップシフトを行う変速線(以下、「1-2変速線」という)で定義された車速よりも低い車速であり、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。このため、本実施例においては、ロックアップクラッチ35の締結動作が開始された後に、1速段から2速段へのアップシフトが実行される。
【0036】
仮にロックアップクラッチ35が解放された状態で変速が実行される場合には、タービン回転数とクラッチ回転数との差によって変速クラッチ32が急締結してしまうことを防止するため、タービントルクの算出及び制御が必要となる。しかしながら、本実施例の制御装置10においては、エンジントルクを指示することはできても、タービントルクを直接制御することはできない。このため、仮にタービントルクを制御する場合には、必要なタービントルクをエンジントルクに換算した値をエンジントルクの指示値として指示する必要があることから、制御の複雑度が増してしまう。
【0037】
また、変速中にロックアップクラッチ35を締結させようとすると、制御対象がロックアップクラッチ35及び変速クラッチ32の2つになってしまう。この場合、ロックアップクラッチ35と変速クラッチ32との相互作用を考慮して同時に両方を制御する必要があり、制御がより複雑となってしまう。
【0038】
そこで、本実施例においては、上述のように1-2変速線で定義された車速を所定のロックアップオン車速よりも高い車速とすることで、より安定したロックアップクラッチ35の締結状態で変速を行うことを可能とした。また、ロックアップクラッチ35が締結状態にあるときの変速であれば、タービントルクとエンジントルクとの差を無視でき、その結果、タービン回転数の加速度はエンジントルクとクラッチトルクとによって決定される。さらに、同時に2つのクラッチを制御する必要もない。したがって、本実施例においては、制御の複雑化も回避することができる。
【0039】
所定のロックアップ条件は、上述の条件に限定されるものではなく、他の条件としてもよく、変速段と車速の状態を所定のロックアップ条件としてもよい。
【0040】
つまり、制御装置10は、ロックアップクラッチ35が解放中であって車速がロックアップオン車速以下からロックアップオン車速以上に変化したことを条件に、ロックアップクラッチ35をロックアップ(締結)するように制御する。逆に、制御装置10は、ロックアップクラッチ35の締結中であって車速が所定の車速としてのロックアップオフ車速以上からロックアップオフ車速以下に変化したことを条件に、ロックアップクラッチ35を解放するように制御するようになっている。なお、ロックアップオン車速が、ロックアップオフ車速よりも高速側となるように設定されている。
【0041】
本実施例において、ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32が締結状態又は遮断状態のいずれの状態であるかに応じて変更されるようになっている。具体的には、変速クラッチ32が締結状態にあるときのロックアップオフ車速を第1の車速V1、変速クラッチ32が遮断状態にあるときのロックアップオフ車速を第2の車速V2としたとき、第2の車速V2が第1の車速V1よりも低い値に設定されている。
【0042】
第1の車速V1は、エンジン2のアイドル回転数に所定の余裕代を付加したエンジン回転数に相当する車速であり、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。第2の車速V2は、ロックアップクラッチ35が解放されていれば、変速クラッチ32が完全に締結(直結)された締結状態となっても、トルコンの滑りによってエンジンストールを回避できるエンジン回転数(例えば、アイドル回転数-300[rpm]程度)に相当する車速であって、予め実験的に求めて制御装置10のROMに記憶されている。なお、エンジン回転数に相当する車速とは、当該エンジン回転数(エンジン回転速度)から変速機3等の動力伝達経路のギヤ比(変速比)や駆動輪の動半径等から算出される車速である。車速を用いることで、変速クラッチ32が遮断状態であったとしても、ロックアップクラッチ35および変速クラッチ32が締結状態となった時のエンジン回転数(エンジン回転速度)を考慮した判断を容易に行うことができる。
【0043】
ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替が開始されると、第1の車速V1から第2の車速V2に向けて徐々に低下するように設定されている。なお、ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替が開始されたタイミングで第1の車速V1から第2の車速V2に低下するよう設定されていてもよい。
【0044】
ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32の遮断状態から締結状態への切替が開始された後、クラッチトルクが増大するのに伴い、第2の車速V2から第1の車速V1に向けて徐々に上昇するように設定されている。換言すれば、ロックアップオフ車速は、クラッチトルクが0[Nm]を超えると、第2の車速から第1の車速に向けて徐々に上昇するように設定されている。つまり、変速クラッチ32のトルク伝達が開始されると、ロックアップオフ車速は第2の車速から第1の車速に向けて徐々に上昇する。
【0045】
(ロックアップ維持制御)
次に、図2を参照して、本実施例の制御装置10によって実行されるロックアップ維持制御の処理の流れについて説明する。
【0046】
図2に示すように、制御装置10は、車速が1-2変速線で定義された車速(図2においては単に「1-2変速線」と記す)を超えているか否かを判定する(ステップS1)。制御装置10は、ステップS1において車速が1-2変速線で定義された車速を超えていないと判定した場合には、ステップS1の処理を繰り返す。
【0047】
制御装置10は、ステップS1において車速が1-2変速線で定義された車速を超えていると判定した場合には、変速を開始する(ステップS2)。変速が開始されると、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替が開始される。これにより、変速クラッチ32のクラッチトルクが低下し始める。
【0048】
次いで、制御装置10は、ロックアップオフ車速を低下させる(ステップS3)。このとき、ロックアップオフ車速は、第1の車速V1から第2の車速V2に向けて徐々に低下する。
【0049】
その後、制御装置10は、変速クラッチ32のクラッチトルクが0[Nm]以下であるか否かを判定する(ステップS4)。クラッチトルクが0[Nm]以下となると、変速クラッチ32が完全に解放された遮断状態となる。
【0050】
制御装置10は、ステップS4においてクラッチトルクが0[Nm]以下でないと判定した場合には、ステップS4の処理を繰り返す。
【0051】
制御装置10は、ステップS4においてクラッチトルクが0[Nm]以下であると判定した場合には、ロックアップオフ車速を第2の車速V2に維持する(ステップS5)。なお、本実施例においては、第2の車速V2を予め定めた特定の値としたが、これに限らず、例えばクラッチトルクが0[Nm]以下となったときの車速を第2の車速V2として定めてもよい。この場合であっても、第2の車速V2は、ロックアップクラッチ35を解放することによってエンジンストールを回避できるエンジン回転数(例えば、アイドル回転数-300[rpm]程度)とするのが好ましい。
【0052】
次いで、制御装置10は、変速クラッチ32の遮断状態から締結状態への切替を開始し、クラッチトルクが0[Nm]を超えたか否かを判定する(ステップS6)。制御装置10は、ステップS6においてクラッチトルクが0[Nm]を超えていないと判定した場合には、ステップS6の処理を繰り返す。
【0053】
制御装置10は、クラッチトルクが0[Nm]を超えたと判定した場合には、ロックアップオフ車速を第2の車速V2から第1の車速V1まで上昇させる(ステップS7)。このとき、ロックアップオフ車速は、クラッチトルクが増大するのに伴い、第2の車速V2から第1の車速V1に向けて徐々に上昇する。
【0054】
その後、制御装置10は、変速を完了して(ステップS8)、本ロックアップ維持制御を終了する。変速が完了すると、すなわち変速動作が完了した後、変速クラッチ32が締結状態になると、ロックアップオフ車速が第1の車速V1となる。
【0055】
次に、図4を参照して、本実施例の車両1において1速段から2速段へのアップシフトが行われる際のロックアップオフ車速の遷移について、図3に示すロックアップオフ車速を変更しない構成の比較例と比較して説明する。図3及び図4は、所定のアクセル開度で加速する車両の状態の変化を示すタイムチャートであり、時刻t3から時刻t6までの1速から2速への変速部分をその前後を含めて示している。
【0056】
図3及び図4において、「1-2変速線」は、変速マップ上において1速段から2速段へのアップシフトを行う車速を示している。また、図3及び図4においては、比較例と実施例とで、時刻t3から時刻t6までの期間におけるロックアップオフ車速の遷移が異なるが、他のパラメータの遷移は同一であるものとして説明する。
【0057】
図4に示すように、本実施例の車両1は、時刻t1において1速段で加速中であり、変速クラッチ32が締結状態にある。加速走行中であることから、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt及びクラッチ回転数Ncは、時間の経過とともに上昇している状態である。
【0058】
その後、時刻t2において、車速がロックアップオン車速以上となると、ロックアップクラッチ35の締結動作が開始され、ロックアップクラッチ35が解放状態から締結状態に切り替えられる。なお、ロックアップクラッチ35が締結状態となるまでの間は、トルクコンバータ30において流体を介してエンジン2の回転を伝達しているのでエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの間には実際には差回転が生じているが、図3及び図4においては当該差回転を省略して表示している。ロックアップクラッチ35が締結された後は、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとが同期する。
【0059】
次いで、時刻t3において、車速が1-2変速線で定義された車速を超えると、変速、すなわち1速段から2速段へのアップシフトが開始される。1速段から2速段へのアップシフトが開始されると、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替が開始される。これにより、変速クラッチ32のクラッチトルクが低下し始める。
【0060】
また、時刻t3において、1速段から2速段へのアップシフトが開始されると、ロックアップオフ車速が第1の車速V1から第2の車速V2に向けて徐々に低下する。
【0061】
その後、時刻t4において、変速クラッチ32のクラッチトルクが0[Nm]以下となり、変速クラッチ32が完全に遮断状態になると、以降、ロックアップオフ車速が第2の車速V2に維持される。なお、ロックアップオフ車速が第2の車速V2となるタイミングは、変速クラッチ32のクラッチトルクが0[Nm]となる前に切り替わることが望ましい。つまり、ロックアップオフ車速を低下させるタイミングは、変速クラッチ32が締結状態から遮断状態に切り替わる間であって、変速クラッチ32が完全に解放した遮断状態になるまでにはロックアップオフ車速を低下させる。
【0062】
時刻t4以降は、変速機構31の内部のギヤ対の切替が行われ、1速の変速段から2速の変速段に切り替わる。2速の変速段となる為に同期装置が働くことに伴い、クラッチ回転数Ncが車速に対応した回転速度となるべく低下し始める。この時、変速クラッチ32が遮断状態となっている結果、車両1の駆動力がなくなり、車両1の速度も低下する。なお、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとは、2速段に応じたクラッチ回転数Ncと同期が図られるようにそれぞれ低下するように制御される。
【0063】
このとき、例えば、車両1が登坂路や車速低下を招くような路面を走行していた場合には、1速段から2速段へのアップシフト中、図4に示すように時刻t4を境に車速が大きく低下し始めてしまうことがある。
【0064】
このような車速の低下が生じた場合、図3に示す比較例では、時刻t3において1速段から2速段へのアップシフトが開始されてもロックアップオフ車速が第1の車速V1のままであるため、変速クラッチ32が遮断状態となる時刻t4以降に車速がロックアップオフ車速以下となってしまうおそれがある。この場合、比較例では、不要なロックアップクラッチ35の解放がなされてしまい、ロックアップ領域の拡大を図ることができなくなってしまう。
【0065】
さらに、図3に示す比較例の場合、前述したような不要なロックアップクラッチ35の解放を回避すべく1-2変速線を高く設定して車速がロックアップオフ車速以下になりづらくすることが考えられる。しかし、この場合には、1速段での走行中にエンジン回転数を高回転で運転することとなり、エンジン2の燃料消費量が増大してしまう。
【0066】
これに対し、本実施例では、少なくとも変速クラッチ32が遮断状態となる時刻t4以降は、ロックアップオフ車速が第1の車速V1から第2の車速V2に低下されているので、仮に、車両1が登坂路や車速低下を招くような路面を走行していることにより車速が低下したとしても、時刻t4以降に車速がロックアップオフ車速以下となってしまうことを抑制することができる。したがって、本実施例では、1速段から2速段へのアップシフト中にロックアップクラッチ35が解放されることがなく、ロックアップ領域の拡大を図ることができる。さらに、1-2変速線を高く設定する必要もないので、エンジン2の燃料消費量が増大してしまうことを防止できる。
【0067】
時刻t4の経過後であって、変速機構31の内部で1速の変速段から2速の変速段へのギヤ対の切替が完了し、クラッチ回転数Ncが2速の変速段における車速に対応した回転速度になると、変速クラッチ32の遮断状態から締結状態への切替が開始され、時刻t5において変速クラッチ32のクラッチトルクが0[Nm]を超える。変速クラッチ32によるトルク伝達が開始されると、ロックアップオフ車速の上昇が開始される。時刻t5後は、ロックアップオフ車速が第2の車速V2から第1の車速V1に向けて徐々に上昇する。また、時刻t5を境に車速が上昇し始める。
【0068】
その後、時刻t6において、変速クラッチ32が締結状態になると、エンジン回転数Ne及びタービン回転数Ntが2速段に応じたクラッチ回転数Ncと同期し、1速段から2速段へのアップシフトが完了する。このように時刻t6において1速段から2速段へのアップシフトが完了すると、ロックアップオフ車速が第1の車速V1に復帰する。なお、復帰させるロックアップオフ車速は、第1の車速V1に復帰させる必要は無く、2速の変速段に対応してロックアップオフ車速を設定してもよい。また、ロックアップオフ車速の第1の車速V1への復帰は、変速クラッチ32の締結完了とほぼ同じタイミングで完了することが望ましい。つまり、変速クラッチ32の制御中であれば、ロックアップクラッチ35を解放せずとも、車速を原因とするエンジン回転の低下は変速クラッチ32の制御で対応することができるので、変速クラッチ32の締結完了(制御終了)までロックアップクラッチ35の解放を抑制している。
【0069】
以上のように、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、車速がロックアップオフ車速以下であることを条件にロックアップクラッチ35を解放するよう制御するよう構成されている。本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置において、ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32が締結状態又は遮断状態のいずれの状態であるかに応じて変更されるよう構成されている。
【0070】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、変速クラッチ32の状態に応じてロックアップオフ車速を上げ下げできるので、例えば変速クラッチ32が遮断状態にあるときにロックアップオフ車速を低下させておくことができ、車速が低下しても当該車速がロックアップオフ車速以下とならないようにすることができる。これにより、不要なロックアップクラッチ35の解放を防止でき、ロックアップ領域を拡大することができる。この結果、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、燃費向上を図ることができる。
【0071】
さらに、1速段から2速段へのアップシフト中の変速クラッチ32が遮断状態にあるときにあっては、ロックアップクラッチ35の締結状態を維持できるので、変速クラッチ32に入力されるトルクが大きく変動することが抑制され、変速クラッチ32を締結する際の制御が複雑化してしまうことを防止できる。
【0072】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置において、変速クラッチ32が締結状態にあるときのロックアップオフ車速を第1の車速V1、変速クラッチ32が遮断状態にあるときのロックアップオフ車速を第2の車速V2としたとき、第2の車速V2は、第1の車速V1よりも低い値に設定されている。
【0073】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、1速段から2速段へのアップシフト中に車両1が登坂路や車速低下を招くような路面を走行していることにより車速が低下したとしても、車速がロックアップオフ車速以下となってしまうことを回避できる。このため、不要なロックアップクラッチ35の解放を防止でき、さらには1-2変速線を高く設定する必要もないので、エンジン2の燃料消費量が増大してしまうことも防止できる。
【0074】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置において、ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替が開始されると、第1の車速V1から第2の車速V2に向けて徐々に低下するように構成されている。
【0075】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、クラッチトルクが大きい、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替開始時はロックアップオフ車速を下げ過ぎないようにすることができる。また、クラッチトルクの低下に合わせてロックアップオフ車速を低下させることができる。このため、クラッチトルクが大きい、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替開始時にエンジンストールが発生することを防止できる。
【0076】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置において、ロックアップオフ車速は、変速クラッチ32の遮断状態から締結状態への切替が開始された後、クラッチトルクが増大するのに伴い、第2の車速V2から第1の車速V1に向けて徐々に上昇するように構成されている。
【0077】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、クラッチトルクの増大に伴い車速が上昇する場合であっても未だ車速が第1の車速V1以下である場合もあり、このような場合にも車速がロックアップオフ車速以下となってしまうことを防止できる。
【0078】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置において、変速動作が完了した後、変速クラッチ32が締結状態になると、ロックアップオフ車速が第1の車速V1に復帰するように構成されている。
【0079】
この構成により、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、不要なロックアップクラッチ35の解放が生じないような状況においては通常のロックアップオフ車速に戻すことで、エンジンストールをより確実に防止することができる。
【0080】
なお、本実施例においては、変速クラッチ32の締結状態から遮断状態への切替が開始されると、ロックアップオフ車速が第1の車速V1から第2の車速V2に向けて徐々に低下するように設定したが、これに限らず、変速クラッチ32が遮断状態になったタイミング(例えば、図4の時刻t4)でロックアップオフ車速を第1の車速V1から第2の車速V2に低下させる構成であってもよい。
【0081】
また、本実施例においては、車速を車速センサ55により検出する構成としたが、これに限らず、例えばタービン回転数センサ51及びクラッチ回転数センサ52等の回転数センサの検出結果に基づき制御装置10によって車速を算出する構成であってもよい。
【0082】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0083】
1 車両
2 エンジン(内燃機関)
3 自動変速機(車両用駆動装置)
4 駆動輪
10 制御装置
21 クランク軸
30 トルクコンバータ
31 変速機構
32 変速クラッチ
32a クラッチホイールディスク
32b クラッチディスク
33 クラッチアクチュエータ
35 ロックアップクラッチ
36 タービン軸
37 入力軸
38 出力軸
40 油圧制御装置
50 クランク角センサ
51 タービン回転数センサ
52 クラッチ回転数センサ
53 クラッチ位置検出センサ
54 ロックアップ油圧センサ
55 車速センサ
56 アクセルセンサ
101 クラッチ制御部
102 ロックアップクラッチ制御部(制御部)
V1 第1の車速
V2 第2の車速
図1
図2
図3
図4