(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】エンジンの排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20250115BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20250115BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20250115BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
F01N3/08 B
F01N3/24 N ZAB
F01N3/28 301E
B01D53/94 222
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2021035560
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】和田 好隆
(72)【発明者】
【氏名】古田 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】福尾 奈央斗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐也
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110929(JP,A)
【文献】特表2015-537145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0142596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に設けられ、排気中のNOxを選択的に還元浄化するNOx選択還元触媒と、
前記排気通路における前記NOx選択還元触媒よりも上流側に設けられ、還元剤を前記排気中に噴射する還元剤噴射装置と、を備え、
前記還元剤噴射装置は、前記排気中に前記還元剤を噴射するための複数の噴射口を有し、
前記噴射口各々の噴射軸上には、該各噴射口毎に、該各噴射口から噴射された前記還元剤が衝突する互いに独立した衝突壁が設けられ、
前記噴射口と前記衝突壁との前記噴射軸上の距離が、該各噴射口毎に異なるように前記衝突壁が配置されて
おり、
前記還元剤噴射装置は、前記噴射口として第1噴射口、第2噴射口及び第3噴射口を有し、
前記衝突壁は、前記第1噴射口の前記噴射軸上に配置された第1衝突壁と、前記第2噴射口の前記噴射軸上に配置された第2衝突壁と、前記第3噴射口の前記噴射軸上に配置された第3衝突壁と、を備え、
前記各噴射口から前記各衝突壁まで距離は、第1衝突壁が一番短く、前記第3衝突壁が一番長く、前記第2衝突壁がそれらの中間の長さとなるように設定され、
前記第1衝突壁、第2衝突壁及び第3衝突壁は、前記排気通路の壁面から同じ方向に突出し、
前記第1衝突壁と前記第2衝突壁は、前記突出の方向に直交する方向の両側にずれて配置され、前記第3衝突壁は前記第1衝突壁及び前記第2衝突壁に対して前記突出の方向の前方にずれて配置されていることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジンの排気浄化装置において、
前記排気通路における前記NOx選択還元触媒よりも上流側には、前記排気を該排気通路の軸心を旋回軸として旋回させる旋回部を備え、
前記衝突壁は前記旋回部に設けられ、
前記衝突壁は、平板で形成され、
前記衝突壁の壁面は、前記排気の前記旋回軸に対して略垂直に配置されていることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のエンジンの排気浄化装置において、
前記排気通路における前記NOx選択還元触媒よりも上流側には、前記排気中のHC及びCOを酸化する酸化触媒が設けられ、
前記酸化触媒と前記NOx選択還元触媒とを結ぶ排気通路部は、排気の流れが前記酸化触媒の軸方向に延びる方向からその軸方向に対して交差する方向に変わるように曲がった屈曲部を備え、
前記屈曲部に前記旋回部が設けられ、該旋回部は前記交差する方向に延びる該旋回部の下流側の通路軸心を旋回軸として前記排気を旋回させることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
請求項
2又は
3に記載のエンジンの排気浄化装置において、
前記排気通路における前記旋回部と前記NOx選択還元触媒との間には、前記旋回部よりも通路径が小さくなった絞り部が設けられていることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
請求項
4に記載のエンジンの排気浄化装置において、
前記絞り部には、前記排気の流れに抵抗を与える抵抗部材が設けられていることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
請求項
2~
5のいずれか1つに記載のエンジンの排気浄化装置において、
前記衝突壁は、前記旋回部の周壁から該旋回部の中心方向に延びていることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられるエンジンの排気にはNOx(窒素酸化物)が含まれている。この排気中のNOxを浄化するための触媒の一例として、NOx選択還元触媒と、このNOx触媒よりも上流側に還元剤を噴射する装置とを備えた排気浄化装置が知られている。自動車のエンジンでは、還元剤として尿素水が広く用いられている。この構成では、還元剤噴射装置から噴射された還元剤が排気と混合される。還元剤が混合された排気は、NOx触媒に供給され浄化される。
【0003】
このような排気浄化装置の一例が特許文献1に記載されている。この排気浄化装置では、還元剤噴射装置から還元剤拡散手段に向けて、還元剤が噴射されるようになっている。この還元剤拡散手段によって、還元剤の蒸発による微粒化、気化、熱分解が促進され、排気中に還元剤が分散されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NOx浄化効率を高めるためには排気中に混合される還元剤の濃度分布が均質になることが好ましい。このため、特許文献1の構成では、還元剤拡散手段によって還元剤の微粒化・気化を促進することで、排気中に還元剤が均質に分散されるようになっている。
【0006】
ところで、排気中に混合された還元剤は排気の熱により熱分解される。NOx選択還元触媒による排気中のNOx浄化性能のさらなる向上のためには、この熱分解を促進することが好ましい。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みて為されたものであり、その目的とすることは排気中に混合された還元剤の熱分解を促進することで、排気浄化装置のNOx浄化性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の目的を達成するために、還元剤噴射装置に噴射口を複数設け、各噴射口から噴射された還元剤が互いに独立した異なる衝突壁に衝突するようにすることで、還元剤の液滴が微粒化されるようにした。
【0009】
具体的に、ここに開示するエンジンの排気浄化装置は、
エンジンの排気通路に設けられ、排気中のNOxを選択的に還元浄化するNOx選択還元触媒と、
前記排気通路における前記NOx選択還元触媒よりも上流側に設けられ、還元剤を前記排気中に噴射する還元剤噴射装置と、を備え、
前記還元剤噴射装置は、前記排気中に前記還元剤を噴射するための複数の噴射口を有し、
前記噴射口各々の噴射軸上には、該各噴射口毎に、該各噴射口から噴射された前記還元剤が衝突する互いに独立した衝突壁が設けられ、
前記噴射口と前記衝突壁との前記噴射軸上の距離が、該各噴射口毎に異なるように前記衝突壁が配置されており、
前記還元剤噴射装置は、前記噴射口として第1噴射口、第2噴射口及び第3噴射口を有し、
前記衝突壁は、前記第1噴射口の前記噴射軸上に配置された第1衝突壁と、前記第2噴射口の前記噴射軸上に配置された第2衝突壁と、前記第3噴射口の前記噴射軸上に配置された第3衝突壁と、を備え、
前記各噴射口から前記各衝突壁まで距離は、第1衝突壁が一番短く、前記第3衝突壁が一番長く、前記第2衝突壁がそれらの中間の長さとなるように設定され、
前記第1衝突壁、第2衝突壁及び第3衝突壁は、前記排気通路の壁面から同じ方向に突出し、
前記第1衝突壁と前記第2衝突壁は、前記突出の方向に直交する方向の両側にずれて配置され、前記第3衝突壁は前記第1衝突壁及び前記第2衝突壁に対して前記突出の方向の前方にずれて配置されていることを特徴とする。
【0010】
このエンジンの排気浄化装置によれば、排気通路内を通る排気には、NOx選択還元触媒に供給されてNOxが還元浄化される前に、還元剤が混合される。この還元剤は、還元剤噴射装置に複数設けられている噴射口各々から噴射される。噴射口各々から噴射された還元剤は、噴射口各々の噴射軸上に設けられた衝突壁に衝突する。還元剤は衝突して分裂・飛散することにより、微粒化され排気中に拡散されて熱分解される。還元剤が衝突壁に衝突したとき、一部の還元剤は衝突壁に付着する。衝突壁に付着した還元剤は衝突板上で広がって気化・熱分解される。
【0011】
このようにすれば、複数の衝突壁から排気中に還元剤が拡散されるため、排気中に満遍なく還元剤を拡散することができ、排気と還元剤とが均質に混合される。これにより、排気の熱による還元剤の気化・熱分解が促進される。また、衝突壁に衝突して微粒化した還元剤は、その表面積が増大することにより熱・物質移動が促進され、還元剤の気化・熱分解が促進される。
【0012】
また、仮に複数の噴射口から噴射された還元剤を一つの衝突壁に衝突させたときは、その衝突壁上で還元剤溜まりを生じて好ましくない析出物ができやすい。これに対して、上記構成によれば、各噴射口から噴射された還元剤は夫々が異なる衝突壁に衝突するから、還元剤溜まりを生じ難く、好ましくない析出物の生成抑制に有利になる。
【0013】
また、上述のごとく、前記のエンジンの排気浄化装置において、
前記還元剤噴射装置は、前記噴射口として第1噴射口、第2噴射口及び第3噴射口を有し、
前記衝突壁は、前記第1噴射口の前記噴射軸上に配置された第1衝突壁と、前記第2噴射口の前記噴射軸上に配置された第2衝突壁と、前記第3噴射口の前記噴射軸上に配置された第3衝突壁と、を備え、
前記各噴射口から前記各衝突壁まで距離は、第1衝突壁が一番短く、前記第3衝突壁が一番長く、前記第2衝突壁がそれらの中間の長さとなるように設定され、
前記第1衝突壁、第2衝突壁及び第3衝突壁は、前記排気通路の壁面から同じ方向に突出し、
前記第1衝突壁と前記第2衝突壁は、前記突出の方向に直交する方向の両側にずれて配置され、前記第3衝突壁は前記第1衝突壁及び前記第2衝突壁に対して前記突出の方向の前方にずれて配置されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第1衝突壁、第2衝突壁及び第3衝突壁を1つの取付板に夫々固定して、この取付板を排気通路の壁面に取り付けることで、排気通路の壁面に3つの衝突壁を固定することができる。こうすることで、3つの衝突壁夫々を別個に壁面に取り付けることに比べて、衝突壁を容易に組付けることができる。
【0015】
前記のエンジンの排気浄化装置において、
前記排気通路における前記NOx選択還元触媒よりも上流側には、前記排気を該排気通路の軸心を旋回軸として旋回させる旋回部を備え、
前記衝突壁は前記旋回部に設けられ、
前記衝突壁は、平板で形成され、
前記衝突壁の壁面は、前記排気の前記旋回軸に対して略垂直に配置されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、排気の旋回力が衝突壁の壁面によって阻害されることを抑制できる。これにより、排気の旋回流と還元剤との混合が促進されることで、排気の熱による還元剤の気化・熱分解が促進される。
【0017】
前記のエンジンの排気浄化装置において、
前記排気通路における前記NOx選択還元触媒よりも上流側には、前記排気中のHC及びCOを酸化する酸化触媒が設けられ、
前記酸化触媒と前記NOx選択還元触媒とを結ぶ排気通路部は、排気の流れが前記酸化触媒の軸方向に延びる方向からその軸方向に対して交差する方向に変わるように曲がった屈曲部を備え、
前記屈曲部に前記旋回部が設けられ、該旋回部は前記交差する方向に延びる該旋回部の下流側の通路軸心を旋回軸として前記排気を旋回させることを特徴とする。
【0018】
このようにすれば、排気が酸化触媒から屈曲部に向かって、前記交差する方向に延びる通路軸心から片側に逸れた部位を指向して流れるようにすることにより、その屈曲部において上記旋回流を容易に生じさせることができ、還元剤と排気との混合に有利になる。
【0019】
前記のエンジンの排気浄化装置において、
前記排気通路における前記旋回部と前記NOx選択還元触媒との間には、前記旋回部よりも通路径が小さくなった絞り部が設けられていることを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、絞り部によって排気の流れに抵抗が与えられる。これにより、旋回部での排気の滞留時間を確保できるから、還元剤と排気との混合が促進されることで、還元剤の気化・熱分解が促進される。また、絞り部によって旋回流れの半径が徐々に小さくなることで旋回の角速度が成長し、還元剤と排気との混合が促進される。
【0021】
前記のエンジンの排気浄化装置において、
前記絞り部には、前記排気の流れに抵抗を与える抵抗部材が設けられていることを特徴とする。
【0022】
このようにすれば、旋回部における排気の滞留時間を十分に確保することができる。これにより、排気中への還元剤の混合が促進される。また、液体状態もしくは未分解の還元剤が抵抗部材によってトラップされ、そのすり抜けが抑制される。
【0023】
前記のエンジンの排気浄化装置において、
前記衝突壁は、前記旋回部の周壁から該旋回部の中心方向に延びていることを特徴とする。
【0024】
このようにすれば、衝突壁によって排気の旋回が妨げられることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、排気中に混合される還元剤の気化・熱分解を促進することで、NOx選択還元触媒によるNOx浄化効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】エンジンの排気浄化装置の構成を示す図である。
【
図4】第1屈曲部と旋回部とを除いた、エンジンの排気浄化装置の斜視図である。
【
図9】還元剤を噴射している還元剤噴射装置と衝突壁との斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
<排気浄化装置の構成>
図1に示すエンジン(ディーゼルエンジン)Eの排気浄化装置において、1はエンジンEから排出される排気ガスを通す排気通路である。この排気通路1に、排気ガス流れ方向の上流側から順に、酸化触媒2及び尿素SCR触媒付きフィルタ(以下、「SCR ON F」という。)3が配置されている。そうして、排気浄化装置は、酸化触媒2とSCR ON F3との間に尿素水を噴射供給する還元剤噴射装置としての尿素噴射装置(インジェクタ)4と、を備えている。尿素水としてはアドブルーと呼ばれるものが用いられる。
【0029】
酸化触媒2は、排気ガス中のHC及びCOを酸化させる触媒であり、ハニカム状担体に触媒金属としての貴金属を担持させてなる。本例では、触媒金属としてPtを採用し、Ptのサポート材としては活性アルミナを採用している。
【0030】
SCR ON F3は、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタに、NOxを選択的に還元するNOx選択還元触媒としての尿素SCR触媒を担持させたものである。フィルタはウォールフロータイプのハニカム構造体であり、セルの内壁面及びセル同士を隔てる多孔質壁の細孔内面に尿素SCR触媒が担持されている。尿素SCR触媒は、尿素の加熱分解によって生ずるNH3、並びにその加熱分解で生ずるイソシアン酸の加水分解によって生ずるNH3を還元剤として排気ガス中のNOxを還元浄化する。尿素SCR触媒は、ゼオライトにCuをイオン交換によって担持させたCuゼオライトを好ましく採用できる。ゼオライトとしてはCHA(チャバサイト)を好ましく採用することができる。触媒成分として、Fe、Ti、Ce、Wを採用することもできる。
【0031】
図2~
図4に示すように、酸化触媒2とSCR ON F3とは各々の軸方向が互いに略平行となるように並設されている。本実施形態では、酸化触媒2がSCR ON F3の上側に配置されている。
図5に示すように、酸化触媒2の排気が流出する流出口21と、SCR ON F3の排気が流入する流入口31とは、略同じ方向に開口している。
【0032】
酸化触媒2の流出口21とSCR ON F3の流入口31とを結ぶ排気通路部10は、排気の流れが酸化触媒2の軸方向からその軸方向に対して交差する方向に変わるように曲がった第1屈曲部11と、排気の流れがSCR ON F3の軸方向に変わるように曲がった第2屈曲部12とを備える。本実施形態において、酸化触媒2はSCR ON F3の上側に配置されているため、排気通路部10は第1屈曲部11において略水平な横方向から縦方向(上下方向)に曲がり、第2屈曲部12において縦方向から横方向に曲がっている。
【0033】
第1屈曲部11には、前記交差方向(本実施形態では上下方向)に延びる通路軸心を旋回軸として排気を旋回させる旋回部112が設けられている。この旋回部112には酸化触媒2の流出口21からの排気が流入する。酸化触媒2の流出口21は、
図4に示すように、酸化触媒2の軸心から片側(
図4では左側)にずらして設けられている。このため、流出口21からの排気は、前記交差方向に延びる通路軸心から片側にそれた方向を指向して、旋回部112に流れる。従って、旋回部112に流入した排気は、
図5の矢印に示すように、上下方向を旋回軸として旋回させられる。
【0034】
また流出口21には旋回部112に向けて延びる整流部材5が設けられている。この整流部材5は、排気流れ方向の前方に行くにつれて前記片側(
図4では左側)に寄るように傾斜している。この整流部材5に案内されることで、流出口21からの排気が旋回部112に対してその内周壁を沿うように流入しやすくなる。これにより、旋回部112に流入する排気の旋回が強化される。
【0035】
旋回部112の下流側、すなわち排気通路1における第1屈曲部11と第2屈曲部12とを結んで前記交差方向(本実施形態では上下方向)に延びる部位には、絞り部13が設けられている。絞り部13の通路径は、旋回部112の通路径よりも小さくなっている。この絞り部13には、排気に抵抗をあたえるための抵抗部材6が設けられている。この抵抗部材6が
図6に示されている。抵抗部材6は円形であり、排気通路を横断するように配置されている。抵抗部材6の外周には取付フランジ61が設けられている。抵抗部材6には、4ヵ所の四半円部分62が下流側に切り起こされて開口が形成されている。四半円部分62は排気の旋回方向に沿うように切り起こされ、四半円部分62によって排気の旋回が阻害されないようになっている。
図5の矢印に示すように旋回部112を流れてきた排気は、絞り部13と抵抗部材6とから抵抗を与えられ、抵抗部材6の開口から下流側へ流れる。また、絞り部13によって旋回流れの半径が徐々に小さくなることで旋回の角速度が成長し、還元剤と排気との混合が促進される。
【0036】
図5に示すように、第1屈曲部11には、前記旋回部112に向けて前記交差方向に尿素水を噴射する尿素噴射装置4が設けられている。本実施形態では、尿素噴射装置4は、第1屈曲部11を形成する排気通路の上壁部に設けられ、下方に向かって尿素水を噴射する。尿素噴射装置4の下方には、旋回部112の中心方向に延びる平板で形成された衝突壁7が設けられている。
【0037】
図7には、尿素噴射装置4の下面を二点鎖線の円で示している。尿素噴射装置4の下面には、第1噴射口41、第2噴射口42及び第3噴射口43が設けられている。第1噴射口41及び第2噴射口42は旋回部112の内周壁側に配置され、第3噴射口43は内周壁から離れた位置に配置されている。
【0038】
衝突壁7は、
図8に示すように上側から順に第1衝突壁71、第2衝突壁72及び第3衝突壁73を備え、これら衝突壁71~73は上下に対応している。衝突壁71~73は略同幅の板状である。また、第1衝突壁71及び第2衝突壁72夫々の先端部には、切り欠かれた切欠部が設けられている。第3衝突壁73はその突出方向の長さが、第1衝突壁71及び第2衝突壁72よりも長くなっている。第1衝突壁71、第2衝突壁72及び第3衝突壁73は互いに独立しており、夫々の基端部が衝突壁取付板70に固定されている。この衝突壁取付板70は溶接によって旋回部112の壁面の一箇所に固定される。このように固定された衝突壁71~73の壁面は、旋回部112における排気の旋回軸に対して略垂直になっている。
【0039】
第1衝突壁71は第1噴射口41の噴射軸上に、第2衝突壁72は第2噴射口42の噴射軸上に、第3衝突壁73は第3噴射口43の噴射軸上に夫々配置されている。つまり、各噴射口からの噴射軸上における各衝突壁7までの距離は、第1衝突壁71が一番短く、第3衝突壁73が一番長く、第2衝突壁72がそれらの中間となるように設定されている。
【0040】
図9には、前述の第1噴射口41、第2噴射口42及び第3噴射口43の各々のから噴射される尿素水が二点鎖線で示されている。第1噴射口41から噴射された尿素水が第1衝突壁71に、第2噴射口42から噴射された尿素水が第2衝突壁72に、第3噴射口43から噴射された尿素水が第3衝突壁に夫々衝突する。第1衝突壁71の切欠部は、第2噴射口42の噴射軸上に形成されている。また、第2衝突壁72の切欠部は、第1噴射口41の噴射軸上に形成されている。さらに、第3噴射口43の噴射軸は、その噴射軸上に第1衝突壁71及び第2衝突壁72が位置しないように、第3衝突壁73の先端部に向けられている。このようにして、第1衝突壁71と第2衝突壁72との尿素水が衝突する位置は、各衝突壁の突出の方向に直交する方向の両側にずらされている。また、第3衝突壁の尿素水が衝突する位置は、第1衝突壁71及び第2衝突壁72の尿素水が衝突する位置に対して、各衝突壁の突出の方向の前方にずらされている。
図7の衝突壁71~73上には、これら第1噴射口41、第2噴射口42及び第3噴射口43から噴射された尿素水の衝突中心位置が、二点鎖線の小円で描かれている。
【0041】
<排気ガスの浄化>
[酸化触媒による酸化浄化]
酸化触媒2により、排気中に含まれるHC及びCOは酸化浄化される。
【0042】
[旋回部への流入]
酸化触媒2により酸化浄化された排気は、整流部材5に案内されて酸化触媒2の流出口21から、第1屈曲部11の旋回部112に流入する。このとき、流出口21からの排気は、交差方向に延びる通路軸心から片側にそれた方向を指向しているため、旋回部112の内周壁に沿うように流入する。このため、旋回部112の内周壁を沿うように排気が旋回する。また、整流部材5に案内されることで、旋回部112にはその内周壁を沿うようにして排気が流入する。これにより、旋回部112における排気の旋回流が強化される。このようにして旋回させられた排気は、旋回部112から絞り部13の方へ流れる。
【0043】
[還元剤の供給]
SCR ON F3に流入する排気のNOx濃度値、並びにSCR ON F3に流入する排気温度(例えば200℃以上)に応じて、旋回部112には、尿素噴射装置4から還元剤としての尿素水が噴射供給される。第1噴射口41から噴射された尿素水は第1衝突壁71に、第2噴射口42から噴射された尿素水は第2衝突壁72に、第3噴射口43から噴射された尿素水は第3衝突壁73の先端部に夫々衝突する。各衝突壁7に衝突した尿素水は、その液滴が微粒化されて旋回する排気中に拡散される。排気中に拡散した尿素水は排気からの入熱により気化・熱分解されて、NH3及びHNCOが生成する。
【0044】
尿素液滴は、排気の旋回により排気との混合が促進されることで排気からの熱を受けやすくなる。これにより、尿素の気化・熱分解が促進される。また、微粒化された尿素液滴は、表面積が増大するために排気からの熱を受けやすくなり、気化・熱分解が促進される。
【0045】
さらに、尿素噴射装置4からの距離、衝突壁7の突出方向及び衝突壁7の幅方向に夫々位置の異なった、第1衝突壁71、第2衝突壁72及び第3衝突壁73の3箇所から、尿素水が衝突により微粒化して拡散するため、その微粒化した尿素水は旋回部112内で広範囲に広がる。そして、微粒化した尿素水が排気の旋回に巻き込まれることによって、排気に均質に混合されていくことから、尿素水の熱分解が進み易い。
【0046】
また、仮に複数の噴射口から噴射された尿素水を一つの衝突壁7に衝突させたときは、その衝突壁7上で尿素水溜りを生じて好ましくない析出物(ビウレット、シアヌル酸及びアンメリド等)ができやすい。これに対して、上記構成の様に各噴射口から噴射された尿素水は夫々が異なる衝突壁7に衝突するため、尿素水だまりを生じ難く、好ましくない析出物の生成抑制に有利になる。
【0047】
各衝突壁7に衝突した尿素水の一部は、各衝突壁7に付着する。衝突壁7に付着した尿素水は、衝突壁7上において気化・熱分解される。これにより、気体尿素、NH3及びHNCOが生成する。生成された気体尿素、NH3は、衝突壁7上から排気中に拡散される。
【0048】
第1衝突壁71には第2噴射口42から噴射された尿素水が衝突しないように、切欠部が設けられている。また、第2衝突壁72には第1噴射口41から噴射された尿素水が衝突しないように切欠部が設けられている。このため、第1衝突壁71及び第2衝突壁72は、切欠部が設けられていない部分の幅を広くして、これらに付着する尿素水を増やすことができる。これにより、衝突壁7に付着した尿素水から生成されるNH3の量を増やすことができる。
【0049】
[絞り部への流入]
旋回部112から絞り部13へ流れる排気は、絞り部13と抵抗部材6とによって排気抵抗が与えられる。これにより、旋回部112内における排気の滞留時間は長くなる。このため、旋回部112内において、排気と尿素水及びNH3とを混合する時間が十分に確保さる。さらに、絞り部13によって旋回流れの半径が徐々に小さくなることで旋回の角速度が成長し、還元剤と排気との混合が促進される。また、液体状態もしくは未分解の尿素水が抵抗部材6によってトラップされ、そのすり抜けが抑制される。
【0050】
[SCR ON FによるNOx選択還元]
排気は絞り部13の抵抗部材6の開口から、第2屈曲部12及び流入口31を経由してSCR ON F3に供給される。前述の熱分解によって生じるNH3がSCR ON F3のCuゼオライトに吸着される。また、HNCOはSCR ON F3において加水分解されゼオライトに吸着される。SCR ON F3に流入するNOx(NO、NO2)は、Cuゼオライトに吸着されたNH3によってN2に還元浄化され、そのときに生成するH2Oと共に排出される。Cuゼオライトに吸着されなかったNH3はSCR ON F3よりも下流側に配置されたNH3酸化触媒(図示省略)によって酸化されることで、大気中への排出が阻止される。
【0051】
<その他の実施形態>
前記実施形態では、酸化触媒2とSCR ON F3とが各々の軸方向に互いに略平行となるように並設され、酸化触媒2の流出口21とSCR ON F3の流入口31とが略同一の方向に向けられている。しかし、酸化触媒2とSCR ON F3とを各々の軸方向に間隔をあけて略平行に配置してもよい。この場合、酸化触媒2の流出口21は、酸化触媒2の軸方向におけるSCR ON F3側に開口しており、SCR ON F3の流入口31は、SCR ON Fの軸方向における酸化触媒2側に開口している。
【0052】
前記実施形態では、衝突壁7は尿素噴射装置4の下方の旋回部112の周壁に設けられているとした。しかし、酸化触媒2の流出口21よりも下流側、且つ抵抗部材6よりも上流側であれば、衝突壁7はどこに取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 排気通路
2 酸化触媒
3 SCR ON F
4 尿素噴射装置
5 整流部材
6 抵抗部材
7 衝突壁