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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20250115BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20250115BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P6/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021055432
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152604
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 嘉朗
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-238278(JP,A)
【文献】特開2001-197769(JP,A)
【文献】特開2018-121421(JP,A)
【文献】特開2020-202713(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0174085(US,A1)
【文献】特開2007-175135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータにより駆動される回転電機の回転軸に取り付けられたレゾルバのオフセット値を力率を用いて補正する回転電機の制御装置であって、
トルク指令に基づく力率指令と計測値に基づく制御力率との差分が小さくなるように前記オフセット値を補正する、
回転電機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転電機の制御装置であって、
前記トルク指令と前記力率指令との関係を予め定めた力率指令設定用マップを用いて前記力率指令を取得する、
回転電機の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の回転電機の制御装置であって、
前記力率指令設定用マップは、前記回転電機の回転数と前記インバータのキャリア周波数と前記インバータに入力される直流電力の電圧とのうちの少なくとも1つと前記トルク指令と前記力率指令との関係を予め定めたマップである、
回転電機の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか1つの請求項に記載の回転電機の制御装置であって、
前記回転電機に流れる電流と前記レゾルバからの信号に基づいて演算される電流位相と、電流フィードバック制御により得られるd軸電圧およびq軸電圧による電圧位相と、により前記制御力率を計算する、
回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の制御装置に関し、詳しくは、レゾルバを備える回転電機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回転電機の制御装置としては、レゾルバの回転速度が一定のときに特定された複数の時点において取得された回転位置データに基づいてレゾルバの補正パラメータを算出するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この制御装置では、補正パラメータは、レゾルバが任意の回転速度で回転している時に取得された任意の値の回転位置データおよびレゾルバの回転が停止している時に取得された任意の値の回転位置データに適用可能なように算出しており、これにより、レゾルバの回転位置をより良好な精度で検出できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-008536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の回転電機の制御装置では、レゾルバの回転速度が一定のときに補正パラメータを算出するから、補正パラメータを精度良く算出するためには、レゾルバの回転速度を精度良く一定に保つ必要がある。このため、自動車などに搭載された場合、通常の使用時にはレゾルバの回転速度を一定に保つ場合が少なく、補正パラメータを精度良く算出する機会が少なくなり、レゾルバの回転位置を精度良く検出することができない場合が生じる。
【0005】
本発明の回転電機の制御装置は、レゾルバのオフセット値を補正する機会を多くし、レゾルバの回転位置をより精度良く検出することができるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転電機の制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の回転電機の制御装置は、
インバータにより駆動される回転電機の回転軸に取り付けられたレゾルバのオフセット値を補正する回転電機の制御装置であって、
力率を用いて前記レゾルバの前記オフセット値を補正する、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の回転電機の制御装置では、力率を用いてオフセット値を補正する。このため、レゾルバの回転速度が一定のときに補正するものに比して、レゾルバのオフセット値を補正する機会を多くすることができる。この結果、レゾルバの回転位置をより精度良く検出することができる。ここで、力率は、電圧位相と電流位相との差分に対する余弦(cos(電圧位相-電流位相))である。
【0009】
こうした本発明の回転電機の制御装置において、トルク指令に基づく力率指令と計測値に基づく制御力率との差分が小さくなるように前記オフセット値を補正するものとしてもよい。こうすれば、より適正にオフセット値を補正することができる。ここで、力率指令はトルク指令に対する力率(指令値としての力率)であり、制御力率は計測値により演算される力率である。
【0010】
本発明の回転電機の制御装置において、前記トルク指令と前記力率指令との関係を予め定めた力率指令設定用マップを用いて前記力率指令を取得するものとしてもよい。こうすれば、力率指令を迅速に且つ簡易に得ることができ、延いてはオフセット値を迅速に且つ簡易に補正することができる。この場合、前記力率指令設定用マップは、前記回転電機の回転数と前記インバータのキャリア周波数と前記インバータに入力される直流電力の電圧とのうちの少なくとも1つと前記トルク指令と前記力率指令との関係を予め定めたマップであるものとしてもよい。こうすれば、オフセット値をより適正に補正することができる。
【0011】
本発明の回転電機の制御装置において、前記回転電機に流れる電流と前記レゾルバからの信号に基づいて演算される電流位相と、電流フィードバック制御により得られるd軸電圧およびq軸電圧による電圧位相と、により前記制御力率を計算するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例としての回転電機の制御装置30が組み込まれた駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
図2】レゾルバ28のオフセット値OFを説明する説明図である。
図3】レゾルバ28のオフセット値を補正する制御を実行する際の制御装置30の機能ブロックの一例を示す制御ブロック図である。
図4】力率指令設定用マップの一例を示す説明図である。
図5】変形例の力率指令設定用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての回転電機の制御装置30が組み込まれた駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。駆動装置20は、直流電源22と、インバータ24と、モータ26と、レゾルバ28と、制御装置30と、を備える。
【0015】
直流電源22は、バッテリなどの蓄電装置などが相当し、バッテリからの直流電力の電圧を昇圧して出力する昇圧回路を有するものとしてもよい。
【0016】
モータ26は、例えば同期発電電動機や誘導モータなど種々の三相交流モータが相当し、インバータ24から印加されるuvw相の三相電流が印加されることにより駆動する。インバータ24は、周知のインバータ回路として構成されている。
【0017】
レゾルバ28は、モータ26の回転軸に連結された楕円形状のロータと、発振回路から励磁信号として交流電流が印加される励磁コイルや電気的に90度ずれて(位相差が90度となるよう)配置された2つの出力コイルを内蔵する磁性体としてのステータ128と、を有する周知のレゾルバとして構成されている。レゾルバは、2つの出力コイルにより検出される正弦波状のsin信号と余弦波状のcos信号をレゾルバ信号として出力する。
【0018】
制御装置30は、図示しないCPUを中心とする周知のマイクロコンピュータとして構成されており、図示しないが、CPUの他にプログラムなどが記憶されたROMや、データを一時的に記憶するRAM、フラッシュメモリ、入力回路、出力回路などを備える。制御装置30には、インバータ24からモータ26に印加される3相電流のうちのv相の電ラインに取り付けられた電流センサ25vからのv相電流Ivや、同じくw相の電ラインに取り付けられた電流センサ25wからのw相電流Iw、レゾルバ28からのレゾルバ信号、モータトルク指令などが入力回路を介して入力されている。レゾルバ信号の入力回路としては、sin信号やcos信号をデジタル信号に変換するADコンバータや、ADコンバータからのsin信号およびcos信号からレゾルバ角φを演算するRDコンバータなどによる周知のレゾルバ入力回路として構成されている。また、制御装置20からは、インバータ24の各スイッチング素子をスイッチングするスイッチング制御信号が出力回路から出力されている。制御装置20では、3相交流のうちのu相の電力ラインに流れるu相電流Iuについては、v相電流Ivとw相電流Iwとを用いてIu+Iv+Iw=0により計算している。また、制御装置20では、レゾルバ角φに対してオフセット値OFとオフセット補正値Fとを用いて修正レゾルバ角φを計算し、トルク指令を用いてインバータ24の各スイッチング素子をスイッチングするスイッチング制御信号を生成する際に用いている。オフセット値OFは、図2に示すように、製造誤差や取り付け誤差などにより制御上のd軸およびq軸に対して生じている回転角度誤差である。
【0019】
次に、こうして構成された駆動装置20の制御装置30によりレゾルバ28のオフセット値OFを補正する制御について説明する。図3は、レゾルバ28のオフセット値OFを補正する制御を実行する際の制御装置30の機能ブロックの一例を示す制御ブロック図である。制御装置20は、機能ブロックとして、力率指令演算部32と、制御力率演算部34と、減算器36と、PI制御器38とを備える。
【0020】
力率指令演算部32は、トルク指令T*を用いて力率指令Pf*を演算する。力率指令の演算は 実施例では、トルクと力率との関係を予め求めて力率指令設定用マップとして記憶しておき、トルク指令T*が与えられるとトルク指令T*をマップに適用して得られる力率を導出し、これを力率指令Pf*とすることにより行なうものとした。図4に力率指令設定用マップの一例を示す。図4の力率指令設定用マップでは、トルクが大きくなるほど力率が小さくなる。力率は電圧位相と電流位相との差分に対する余弦(cos(電圧位相-電流位相))であり、力率指令Pf*はモータ26に作用すべき理想的な(目標とする)力率である。図4に例示した力率指令設定用マップはデッドタイム電圧分を除いた力率指令を導出するものであるが、デッドタイム電圧分を含んだ力率指令を導出するものとしてもよい。この場合、図5に例示する力率指令設定用マップを用いればよい。図5に例示する力率指令設定用マップは、モータ26の回転数とトルク指令T*と力率指令Pf*との関係を予め求めたものである。モータ26の回転数が大きくなるほど若干ではあるが力率指令Pf*は大きくなる。また、インバータ24に入力される電圧Vhやキャリア周波数などとトルクと力率との関係を予め求めて力率指令設定用マップとしてもよい。この場合、電圧Vhが大きいほど若干ではあるが力率は大きくなり、インバータ24のキャリア周波数が大きくなるほど若干ではあるが力率は大きくなる。
【0021】
制御力率演算部34は、計測値に基づいて制御力率Pfcを演算する。例えば、電流センサ25v,25wからのv相電流Iv,w相電流Iwやレゾルバ28からのレゾルバ信号、オフセット値OFなどに基づいて電流位相を演算し、電流フィードバック制御によって得られたd軸電圧Vdとq軸電圧Vqとから電圧位相を演算し、演算により得られた電圧位相と電流位相との差分に対する余弦(cos(電圧位相-電流位相))として制御力率Pfcを演算する。ここで、電流位相や電圧位相の演算については、オフセット値OFおよびオフセット補正値Fを用いて補正された修正レゾルバ角φが用いられている。なお、電圧位相については、予めd軸およびq軸の自己インダクタンスLd,Lqをマップ化しておき、この自己インダクタンスLd,Lqと相電流から得られる電機子電流のd軸電流idとq軸電流iqとを用いて次式(1)により演算して求めるものとしてもよい。式(1)中、Rは電機子抵抗、ωは角速度、pは微分演算子、φは永久磁石による電機子鎖交磁束である。
【0022】
【数1】
【0023】
減算器36は、力率指令Pf*と制御力率Pfcとの差分(Pf*-Pfc)を演算する。
【0024】
PI制御器38は、次式(2)に示すように、力率指令Pf*と制御力率Pfcとの差分(Pf*-Pfc)に対する比例項と積分項の和をオフセット補正値Fとして演算して出力する。式(2)中、kpは比例項のゲインであり、kiは積分項のゲインである。
【0025】
F=kp(Pf*-Pfc)+∫ki(Pf*-Pfc)dt (2)
【0026】
こうして求めたオフセット補正値Fは、レゾルバ角φを計算する際のオフセット値OFの補正に用いられ、補正後の修正レゾルバ角φによりインバータ24に出力するスイッチング制御信号が生成される。
【0027】
実施例の駆動装置20に組み込まれた制御装置30では、モータ26を駆動している最中に、力率指令Pf*と制御力率Pfcとの差分が小さくなるようにオフセット補正値Fを演算する。これにより、レゾルバ28の回転速度が一定のときにオフセット補正値Fを演算するものに比して、レゾルバ28のオフセット補正値Fを演算する機会を多くすることができる。この結果、レゾルバ28の回転位置(レゾルバ角φ)をより精度良く検出することができる。
【0028】
実施例の駆動装置20に組み込まれた制御装置30では、モータ26を駆動している最中に、力率指令Pf*と制御力率Pfcとの差分が小さくなるようにオフセット値OFを補正するオフセット補正値Fを演算するものとした。しかし、オフセット補正値Fをオフセット値OFとするオフセット学習としてもよい。
【0029】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、インバータ24が「インバータ」に相当し、モータ26が「回転電機」に相当し、レゾルバ28が「レゾルバ」に相当し、制御装置30が「制御装置」に相当する。
【0030】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、回転電機の制御装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
20 駆動装置、22 直流電源、24 インバータ、25v,25w 電流センサ、26 モータ、28 レゾルバ、30 制御装置、32 力率指令演算部、34 制御力率演算部、38 減算器、38 PI制御器。
図1
図2
図3
図4
図5