(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】回転電機及び車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20250115BHJP
H02K 1/32 20060101ALI20250115BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20250115BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20250115BHJP
【FI】
H02K9/19 B
H02K9/19 A
H02K1/32
H02K7/116
F16H57/04 J
(21)【出願番号】P 2021062044
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三治 広明
(72)【発明者】
【氏名】石田 三成
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-028213(JP,A)
【文献】国際公開第2020/225582(WO,A1)
【文献】特開2012-178939(JP,A)
【文献】特開2018-048685(JP,A)
【文献】国際公開第2013/181906(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0138214(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0274420(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
H02K 1/32
H02K 7/116
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
中空のロータシャフトを有するロータと、
前記ロータシャフトの中空内部に油を供給する油路を形成する油路形成部材とを備え、
前記ロータシャフトは、内周面に、周方向全周にわたって径方向内側に突出する堰部と、回転トルク伝達用の回転軸部材の雄スプラインと噛み合う雌スプラインと、を有し、
前記油路は、軸方向で前記堰部と前記雌スプラインとの間に油を供給し、
前記堰部の内径は、前記ロータシャフトの雌スプラインの大径よりも小さ
く、
前記堰部と前記雌スプラインとの間に溜まった油が前記雌スプラインに接触する、回転電機。
【請求項2】
前記油路形成部材は、軸方向で前記雌スプラインが形成される側とは逆側において、前記ロータシャフトの軸方向の開口から前記ロータシャフトの中空内部に延在し、
前記堰部は、前記ロータシャフトの径方向に視て前記油路形成部材に重なる位置に設けられる、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記ロータシャフトは、軸方向で前記雌スプラインと前記堰部との間の区間において、径方向に貫通する油孔を有する、請求項1又は2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記ロータシャフトは、軸方向で前記雌スプラインと前記油孔との間の区間において、該区間の全長にわたり、前記堰部の内径よりも大きい内径を有する、請求項3に記載の回転電機。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機と、
前記ロータシャフトに嵌合される前記回転軸部材を含み、前記回転電機により発生される回転トルクに基づく動力を前記回転軸部材を介して車輪に伝達する動力伝達機構とを備え、
前記回転軸部材は中実である、車両駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機及び車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中空のロータシャフトの内周面に動力伝達用のスプライン(雌スプライン)を形成し、入力軸の外周面に動力伝達用のスプライン(雄スプライン)を形成し、両者をスプライン嵌合することで、回転電機の回転トルクを入力軸を介して車輪に伝達可能とする技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、入力軸とロータシャフトとの間のスプライン嵌合部に油を安定的に供給することが難しい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、ロータシャフトに係るスプライン嵌合部に油を安定的に供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータと、
中空のロータシャフトを有するロータと、
前記ロータシャフトの中空内部に油を供給する油路を形成する油路形成部材とを備え、
前記ロータシャフトは、内周面に、周方向全周にわたって径方向内側に突出する堰部と、回転トルク伝達用の回転軸部材の雄スプラインと噛み合う雌スプラインと、を有し、
前記油路は、軸方向で前記堰部と前記スプラインとの間に油を供給し、
前記堰部の内径は、前記ロータシャフトの雌スプラインの大径よりも小さい、回転電機が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、ロータシャフトに係るスプライン嵌合部に油を安定的に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】回転電機を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
【
図2】回転電機の要部を概略的に示す断面図である。
【
図7】第1変形例による嵌合部を示す断面図である。
【
図8】第2変形例による嵌合部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、まず、本実施例による回転電機1が好適に適用可能な車両用駆動システム100について説明してから、本実施例による回転電機1の詳細について説明する。
【0010】
[駆動システム全体]
図1は、回転電機1を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。
図1には、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0011】
図1に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪Wの駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた動力伝達機構7と、を備える。動力伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材6A、6Bと、を備える。
【0012】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に設けられる。
【0013】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0014】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0015】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に設けられる。
【0016】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材6A、6Bに分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材6A、6Bと一体的に回転するように連結される。
【0017】
左右の出力部材6A、6Bのそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材6A、6Bのそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材6A、6Bは、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0018】
このようにして回転電機1は、動力伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、車両用駆動システム100は、動力伝達機構7を含まない構成であってよい。また、他の実施例では、遊星歯車機構のような他の動力伝達機構が利用されてもよい。
【0019】
[回転電機の詳細]
図2は、回転電機1の要部を概略的に示す断面図である。
図3は、
図2のQ1部の拡大図である。
図4は、
図2のQ2部の拡大図である。
図5は、
図2のQ3部の拡大図である。
図6は、スプライン嵌合部70の一部の断面図であり、
図5のラインA4-A4に沿った断面図である。
図2には、Z方向と、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。Z方向は軸方向に垂直な方向であり、上下方向に対応する。ここでは、Z1側を上側とし、Z2側を下側とする。ただし、Z方向は、重力方向に厳密に平行である必要はなく、重力方向に対して若干傾斜する方向であってもよい。なお、以下の説明において、径方向や周方向といった用語は、第1軸A1を基準とし、また、特に言及しない限り、内径とは、第1軸A1を基準とした内径である。
【0020】
回転電機1は、ケース2内に、ロータ310及びステータ320を有する。
【0021】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、鋳造等により形成できる。ケース2は、モータケース250と、カバー部材252とを含む。ケース2は、回転電機1を収容する。また、
図1に示した車両用駆動システム100の場合、ケース2は、
図1に模式的に示すように、動力伝達機構7を更に収容してもよい。
【0022】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を形成する。なお、モータ収容室SP1は、回転電機1(及び/又は動力伝達機構7)を冷却及び/又は潤滑するための油を含む油密空間であってよい。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、複数の部材を結合して実現されてもよい。また、モータケース250は、X方向X1側で、動力伝達機構7を収容するギヤ収容室SP2を形成する他のケース部材254に一体化されてよい。
【0023】
カバー部材252は、モータケース250のX方向X2側に結合される。カバー部材252は、モータ収容室SP1におけるX方向X2側を覆うカバーの形態である。この場合、カバー部材252は、モータケース250のX方向X2側の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。なお、モータ収容室SP1の一部は、カバー部材252により形成されてもよい。
【0024】
カバー部材252には、ロータ310を回転可能に支持するベアリング240が設けられる。すなわち、カバー部材252は、ベアリング240を支持するベアリング支持部2524を有する。
【0025】
ベアリング240は、
図2に示すように、ロータシャフト314のX2側の端部における径方向外側に設けられる。具体的には、ベアリング240は、アウタレースの径方向外側がカバー部材252に支持され、インナレースの径方向内側がロータシャフト314の外周面に支持される。なお、変形例では、逆に、ベアリング240は、インナレースの径方向内側がカバー部材252に支持され、アウタレースの径方向外側がロータシャフト314の内周面に支持されてもよい。
【0026】
図2に示す例では、カバー部材252は、第1軸A1を中心とした円形状の底部2521と、底部2521の外周縁からX方向X1側へと突出する周壁部2522とを含み、周壁部2522のX方向X1側の端面がモータケース250に結合されている。X方向に肉厚を有する底部2521におけるX方向X1側において、軸方向に視て中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、X方向X1側に突出する円筒状のベアリング支持部2524が形成される。なお、ベアリング支持部2524は、第1軸A1を中心として同芯に形成される。
【0027】
また、底部2521におけるX方向X1側において、軸方向に視て中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、
図2に示すように、円筒状のベアリング支持部2524の径方向内側に、軸方向突出部2525が形成される。軸方向突出部2525は、底部2521におけるX方向X1側の中央部(第1軸A1を中心とした部分)に、X方向X1側に突出する態様で形成される。
【0028】
カバー部材252には、カバー油路80と、第1油路81と、第2油路82とが形成される。
【0029】
カバー油路80は、カバー部材252の底部2521に形成される。カバー油路80は、図示しないオイルポンプの吐出側に連通する。この場合、オイルポンプから吐出された油は、カバー油路80に供給される。なお、オイルポンプは、機械式であってもよいし、電気モータにより駆動される電動式であってもよい。
【0030】
第1油路81は、カバー部材252の軸方向突出部2525に形成され、軸方向に直線状に延在する。第1油路81は、X方向X2側の端部がカバー油路80に連通し、X方向X1側が開口する。第1油路81は、X方向X1側がロータシャフト314の中空内部314Aまで延在する。なお、
図3に示すように、第1油路81は、第1油路81から吐出される油の着地位置P1までの距離L1(
図2参照)を比較的長くできるように、その中心軸I1が第1軸A1に対して上側にオフセットされてもよい。
【0031】
第2油路82は、カバー部材252の軸方向突出部2525に形成され、第1油路81を介してカバー油路80に連通する。第2油路82は、第1油路81から分岐する形態であり、X方向X1側かつ下側に向かう斜め方向に延在する。
【0032】
ロータ310は、ロータコア312と、ロータシャフト314とを備える。
【0033】
ロータコア312は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ロータコア312の内部には、永久磁石(図示せず)が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石(図示せず)は、ロータコア312の外周面に取り付けられてもよい。なお、永久磁石(図示せず)の配列等は任意である。ロータコア312は、ロータシャフト314の外周面に固定され、ロータシャフト314と一体となって回転する。
【0034】
ロータシャフト314は、回転電機1の回転軸である第1軸A1を画成する。ロータシャフト314は、ロータコア312が固定される部分よりもX2側において、ケース2のカバー部材252にベアリング240を介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト314は、回転電機1の軸方向他端側(X1側)において、ベアリング241を介してケース2に回転可能に支持される。このようにして、ロータシャフト314が軸方向両端で回転可能にケース2に支持されてよい。
【0035】
ロータシャフト314は、
図5に示すように、X方向X1側で入力軸31に動力伝達可能に連結される。本実施例では、一例として、ロータシャフト314の内周面にはスプライン(以下、「雌スプライン71」と称する)が形成され、入力軸31の外周面に形成されるスプライン(以下、「雄スプライン72」と称する)と噛み合う態様で、スプライン嵌合(隙間嵌め)される。例えば、本実施例では、
図6に示すように、雌スプライン71及び雄スプライン72の噛み合いは、雄スプライン72の歯先(大径面721)を雌スプライン71の歯元(大径面711)に対して径方向で当接させる大径合わせにより実現されてもよい。以下では、このようにしてロータシャフト314と入力軸31とがスプライン嵌合により連結される部分全体を、「スプライン嵌合部70」と称する。
【0036】
本実施例では、雌スプライン71の大径r1(=大径面711の内径)は、
図5及び
図6に示すように、後述する堰部89の内径r2(
図3参照)よりもわずかに大きく設定される。この内径同士の関係の技術的な意義は後述する。なお、雌スプライン71の大径r1が後述する堰部89の内径r2よりも大きい限り、雌スプライン71(雄スプライン72も同様)の詳細な形状は任意である。
【0037】
なお、本実施例では、上述したように大径合わせであるので、雌スプライン71の大径r1は、雄スプライン72の大径r1’(=大径面721の内径)と実質的に同じである。従って、以下の説明においては、「雌スプライン71の大径r1」は、「雄スプライン72の大径r1’」と読み替えることもできる。
【0038】
ロータシャフト314は、例えば中空管の形態であり、中空内部314Aを有する。中空内部314Aは、ロータシャフト314の軸方向の全長にわたり延在してよい。本実施例では、一例として、ロータシャフト314の内周面は、雌スプライン71が形成される区間を除いて、一定の内径r0を有する。ただし、他の実施例では、ロータシャフト314は、軸方向両端又は一端において小径化される形態であってよく、この場合、ロータシャフト314の内周面は、ロータコア312が固定される部分では一定の内径r0を有してもよく、軸方向両端又は一端において、内径r0よりも小さい内径を有してもよい。
【0039】
ロータシャフト314の中空内部314Aは、軸心油路83として機能する。すなわち、中空内部314Aには、後述するカバー油路80を介して油が供給される。これにより、ロータシャフト314が冷却されることで、ロータコア312(及び永久磁石が設けられる場合は永久磁石)を径方向内側から冷却することが可能である。
【0040】
ロータシャフト314の中空内部314Aには、油溜め用の堰部89が形成される。すなわち、ロータシャフト314は、内周面に、周方向全周にわたって径方向内側に突出する堰部89を有する。
図2に示す例では、一例として、堰部89は、ロータシャフト314の中空内部314Aに嵌合される円環状のプラグにより形成されている。ただし、変形例では、堰部89は、ロータシャフト314自体の形態により実現されてもよい。例えば、ロータシャフト314は、X方向X2側の端部において縮径する形態であってよく、この場合、縮径により生じる内周面の段差部が、堰部89を実現してもよい。また、堰部89に対応する凸形状は、フローフォーミング加工やハイドロフォーミング加工等を利用して実現されてもよいし、2ピース以上のシャフト部材を用いることで実現されてもよい。
【0041】
堰部89は、好ましくは、後述する第3油路831AよりもX方向X2側に配置される。これにより、堰部89により溜まる油(
図4等を参照して後述)によって第3油路831Aに安定的に油を供給できる。この場合、堰部89は、
図2に示すように、径方向に視て、軸方向突出部2525に重なる位置に形成されてよい。これにより、軸方向突出部2525とロータシャフト314の内周面との間の径方向のスペースを利用して、堰部89を第3油路831AよりもX方向X2側に配置できる。
【0042】
ロータシャフト314には、ステータ320のコイルエンド部322A、322Bにそれぞれ油を吐出する径方向の第3油路831A及び第4油路831Bが形成される。
【0043】
第3油路831Aは、コイルエンド部322Aに径方向に対向する開口を有し、軸心油路83内の油をコイルエンド部322Aに向けて供給する。なお、
図2に示す例では、第3油路831Aは、径方向に平行に直線状に延在するが、径方向に対して若干傾斜する斜め方向に直線状に延在してもよい。
【0044】
第4油路831Bは、コイルエンド部322Bに径方向に対向する開口を有し、軸心油路83内の油をコイルエンド部322Bに向けて供給する。なお、
図2に示す例では、第4油路831Bは、径方向に平行に直線状に延在するが、径方向に対して若干傾斜する斜め方向に直線状に延在してもよい。
【0045】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322とを備える。
【0046】
ステータコア321は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ステータコア321の内周部には、径方向内側に突出するティース(図示せず)が放射状に形成される。
【0047】
ステータコイル322は、例えば断面平角状又は断面円形状の導体に絶縁被膜が付与された形態であってよい。ステータコイル322は、ステータコア321のティース(図示せず)まわりに巻装される。なお、ステータコイル322は、例えば、1つ以上の並列関係で、Y結線で電気的に接続されてもよいし、Δ結線で電気的に接続されてもよい。
【0048】
ステータコイル322は、ステータコア321のスロットから軸方向外側に突出する部分であるコイルエンド部322A、322Bを有する。コイルエンド部322Aは、X1側に位置し、コイルエンド部322Bは、X2側に位置する。
【0049】
ここで、
図3、
図4及び
図5を参照して、本実施例の油路構造における油の流れについて概説するとともに、スプライン嵌合部70への油の供給原理について説明する。
図3及び
図4には、ロータシャフト314の回転に伴う遠心力の影響でロータシャフト314の内周面に形成されうる油溜まり係る油800がハッチングにより模式的に示されている。また、
図4には、油の流れが、矢印R10からR32により模式的に示されている。
【0050】
カバー油路80に供給された油(矢印R10参照)は、第1油路81に流入し、第1油路81を軸方向に流れる(矢印R12参照)。第1油路81を軸方向に流れる油のうちの、一部は、第2油路82の吐出孔821を介して上述したようにロータシャフト314の内周面(又は内周面上に溜まる油800の表面)における着地位置P2へと吐出される(矢印R22参照)。また、第1油路81を軸方向に流れる油のうちの、残りの全部は、第1油路81の吐出孔811を介して上述したようにロータシャフト314の内周面(又は内周面上に溜まる油800の表面)における着地位置P1へと吐出される(矢印R21参照)。
【0051】
ここで、回転電機1の動作中、このようにして、ロータシャフト314の内周面に吐出された油は、ロータシャフト314の回転に伴う遠心力の影響で、ロータシャフト314の内周面上を伝いつつ、ロータシャフト314の内周面に沿って軸方向に流れる。
【0052】
本実施例では、X方向X2側において、ロータシャフト314の内周面には堰部89が設けられるので、X方向X2側に流れる油は、堰部89により堰き止められる。従って、本実施例では、
図3及び
図4に模式的に示すように、ロータシャフト314の内周面上に、堰部89の最内径位置を径方向内側に越えない程度の厚みt1の油の溜まりが形成されやすくなる。
【0053】
このようにしてロータシャフト314の内周面上に厚みt1で溜まる油のうちの一部は、ロータシャフト314の回転に伴う遠心力によって、第3油路831Aを介してコイルエンド部322Aに吐出されるか(矢印R31参照)、第4油路831Bを介してコイルエンド部322Bに吐出される(矢印R32参照)。これにより、コイルエンド部322A及びコイルエンド部322Bを効率的に冷却できる。
【0054】
また、本実施例によれば、ロータシャフト314の内周面上に厚みt1で溜まる油のうちの他の一部は、スプライン嵌合部70に供給される。
図5には、堰部89の最内径位置を通る軸方向の線分(すなわち内径r2の線分)が二点鎖線890で示されている。
【0055】
これにより、動力伝達部であるスプライン嵌合部70に潤滑油としてロータシャフト314内の油を安定的に供給でき、スプライン嵌合部70の信頼性(例えば耐摩耗性等)を高めることができる。
【0056】
具体的には、本実施例では、ロータシャフト314の内周面は、第3油路831AからX方向X1側のスプライン嵌合部70までの区間において、堰部89のような堰部(又は堰部89の内径よりも小さい内径の堰部)が設けられない。すなわち、ロータシャフト314は、第3油路831A(又は着地位置P1)からX方向X1側のスプライン嵌合部70までの区間において、堰部89の内径r2(
図3参照)よりも大きい内径r0を有する。これにより、上述した厚みt1の油の溜まりは、X方向X2側で堰部89を径方向内側に越えるときの厚みt1を最大厚み(=r0-r2)としたとき、最大厚みを有する状態でX方向X1側のスプライン嵌合部70まで延在できる。なお、この場合、スプライン嵌合部70を形成する凸条部が、周方向に沿って複数個配置されることで、堰部89と同様に堰部として機能し、最大厚みであるときの厚みt1の油の溜まりを維持できる。
【0057】
このようにして、本実施例によれば、スプライン嵌合部70は、厚みt1の油の溜まりに軸方向に接することになるので、当該油溜まりを形成する油の安定的な供給を受けることができる。また、厚みt1の油の溜まりは、堰部89の内径r2に応じた最大厚みまで厚みを増すことができるので、ロータシャフト314の内径r0の内周面に対して径方向内側に延在するスプライン嵌合部70に、油を安定的に供給できる。
【0058】
特に本実施例では、上述したように、スプライン嵌合部70の雌スプライン71の大径r1(
図5及び
図6参照)は、堰部89の内径r2よりも大きく設定される。スプライン嵌合部70の雌スプライン71の大径r1が堰部89の内径r2よりも大きい場合、スプライン嵌合部70の雌スプライン71の大径面711は、堰部89の最内径位置よりも径方向外側に位置する。これにより、ロータシャフト314の内周面上に溜まる油の油面が、スプライン嵌合部70の雌スプライン71の大径面711を径方向内側に越えやすくなる。
【0059】
この結果、スプライン嵌合部70の雌スプライン71の大径面711と、入力軸31の大径面721との間(すなわち、大径同士の合わせ面)に、ロータシャフト314の内周面上に溜まる油を浸透させることができる。また、隙間嵌めとなるスプライン嵌合部70にわずかに漏れる油(例えば、雌スプライン71と雄スプライン72の歯面間の隙間の減少に伴い当該隙間内から径方向内側に押し出される油や、ロータ310の回転低下に伴い鉛直下方向に移動する油)により雌スプライン71及び雄スプライン72自体の潤滑も実現される。
【0060】
このようにして本実施例によれば、ロータシャフト314のX方向X2側から供給される油(すなわちカバー油路80を介して供給される油)により、スプライン嵌合部70を安定的に潤滑できるので、スプライン嵌合部70を潤滑するための別の油路をカウンタギヤ機構4側に形成する必要性を低減できる。これにより、例えば
図2に示すように、入力軸31を中実の回転軸部材により実現することが可能となり、この場合、入力軸31を中空の回転軸部材(すなわち油路を形成する中空内部を有する回転軸部材)により実現する場合に比べて、入力軸31の加工コストを低減できる。なお、入力軸31を中空の回転軸部材により実現することも可能であり、この点で、入力軸31の設計自由度を高めることができる。
【0061】
次に、
図7及び
図8を参照して、上述した実施例に対する変形例として、ロータシャフト314と入力軸31との間の嵌合部であって、上述したスプライン嵌合部70に代えて実現可能な他の嵌合部について、説明する。以下では、上述した実施例と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する場合がある。
【0062】
図7は、第1変形例による嵌合部70Aを示す断面図であり、
図5に対応する範囲の断面図である。
図7Aは、
図7のQ4部の拡大図である。
第1変形例による嵌合部70Aは、スプライン嵌合部701と、非スプライン嵌合部702とを含み、非スプライン嵌合部702は、スプライン嵌合部701のX方向X1側に設定されている。スプライン嵌合部701は、上述したスプライン嵌合部70とは異なり、大径合わせの形態ではなく、例えば歯面合わせの形態であってよい。非スプライン嵌合部702は、凸条部同士の噛み合いを伴わない嵌合部(隙間嵌合による嵌合部)であってよい。
【0063】
本変形例においても、スプライン嵌合部701を形成するロータシャフト314Aの雌スプライン71Aの大径r3は、堰部89の内径r2よりも大きく設定される。これにより、上述した実施例と同様、スプライン嵌合部701の雌スプライン71Aの大径面711Aと、入力軸31Aの雄スプライン72Aの大径面721A(
図7A参照)との間に、ロータシャフト314の内周面上に溜まる油を浸透させることができる。また、スプライン嵌合部701における雌スプライン71Aと入力軸31Aの雄スプライン72Aとの間の隙間に漏れる油により雌スプライン71A及び雄スプライン72A自体の潤滑も実現される。また、スプライン嵌合部701の隙間を介してX方向X1側に漏れ出る油により非スプライン嵌合部702の潤滑も実現される。
【0064】
なお、本変形例において、
図7Aに示すように、入力軸31Aの雄スプライン72Aの大径r3’(=大径面721Aの外径)が、ロータシャフト314Aの雌スプライン71Aの大径r3よりも有意に小さい場合には、雄スプライン72Aの大径r3’は、堰部89の内径r2よりも大きく設定されていればよい。この場合、依然として上述した効果を得ることができる。
【0065】
図8は、第2変形例によるスプライン嵌合部70Bを示す断面図であり、
図5に対応する範囲の断面図である。
【0066】
第2変形例によるスプライン嵌合部70Bは、2つのベアリング241A、241Bで回転可能に支持されるロータシャフト314Bと入力軸31Bとにより実現されている。具体的には、上述した実施例では、ロータシャフト314と入力軸31は、スプライン嵌合部70に係る端部において、共通の一のベアリング241により支持されているのに対して、本変形例では、ロータシャフト314Bと入力軸31Bは、スプライン嵌合部70Bに係る端部において、2つのベアリング241A、241Bによりそれぞれ支持される。
【0067】
本変形例においても、スプライン嵌合部70Bを形成する雌スプライン71Bの大径r4(及び入力軸31Bの雄スプラインの大径)は、堰部89の内径r2よりも大きく設定される。これにより、上述した実施例と同様の効果が奏される。
【0068】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0069】
例えば、上述した実施例では、第1油路81及び第2油路82は、カバー部材252により形成されているが、第1油路81及び第2油路82の少なくともいずれか一方が、カバー部材252とは別体の管状部材により形成されてもよい。例えば、第1油路81は、カバー部材252とは別体の中空の管状部材により実現されてもよい。この場合、中空の管状部材に径方向の孔を形成することで、第2油路82が実現されてもよい。また、第2油路82が省略されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1・・・回転電機、7・・・動力伝達機構、31、31A、31B・・・入力軸(回転軸部材)、320・・・ステータ、310・・・ロータ、314・・・ロータシャフト、314A・・・中空内部、252・・・カバー部材(油路形成部材)、71・・・雌スプライン、72、72A・・・雄スプライン、721、721A・・・大径面、89・・・堰部