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  • 特許-移動式施設 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】移動式施設
(51)【国際特許分類】
   B60P 3/00 20060101AFI20250115BHJP
   E03D 11/00 20060101ALN20250115BHJP
   A47K 4/00 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
B60P3/00 W
E03D11/00 A
A47K4/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021069139
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163973
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒濱 満治
(72)【発明者】
【氏名】板野 美咲
【審査官】山▲崎▼ 歩美
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-085233(JP,U)
【文献】特開2020-119039(JP,A)
【文献】実開平01-117950(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第110397135(CN,A)
【文献】米国特許第4892349(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60P 3/00、3/02
E03D 11/00
A47K 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱体と、
前記箱体の前部下部の左右に設けられた前輪と、
前記箱体の後部下部の左右に設けられた後輪と、
オペレータの操作を受けて前記前輪である操舵用車輪の角度を変更するステアリング機構と、
前記箱体の内部に配置されたトイレ本体と、
を備え、前記後輪は、前記操舵用車輪に比べて、小径であり、
前記前輪および前記後輪を駆動するための動力源を有さず、
前記箱体は、前部隔壁より前方に位置する給排水設備室と、後部隔壁より後方に位置する電気設備室と、前記前部隔壁と前記後部隔壁との間に位置するトイレ空間と、に区分けされており、
前記トイレ空間には、前記前輪および前記後輪のホイールアーチに起因する隆起は存在しない、
ことを特徴とする移動式施設。
【請求項2】
請求項1に記載の移動式施設であって、
前記給排水設備室は、さらに、中間板により、上下に区分けされており、
前記中間板の上側には、汚水タンク、および、浄水タンクが配置されており、
前記中間板の下側には、前記ステアリング機構のステアリングホイールが配置されている、
ことを特徴とする移動式施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、所望の位置に移動可能な移動式施設を開示する。
【背景技術】
【0002】
トイレや更衣室、シャワールーム、休憩所等のような施設は、季節や、イベントの有無等によって、その需要が大きく変化する。こうした需要の変化に柔軟に対応するために、所望の位置に移動可能な移動式施設が従来から提案されている。例えば、従来からトイレ需要の変化に柔軟に対応するために、移動可能なトイレが提案されている。特許文献1には、牽引車両で牽引可能なコンテナ型の移動式トイレが開示されている。この移動式トイレは、箱体と、箱体の前部に設けられた前脚と、箱体の後部に設けられたローラと、を有している。かかる移動式トイレによれば、トイレ需要に応じて、トイレの位置を比較的、自由に変更できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3203572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の移動式トイレは、車両の後部にしかローラが設けられていない。そのため、特許文献1の移動式トイレを移動させる際には、箱体を前上がりに傾けたうえで、牽引車両で牽引しなければならない。換言すれば、特許文献1の移動式トイレは、人力で移動させることは難しかった。そのため、特許文献1の移動式トイレは、設置が完了し、牽引車両が去った後、その設置位置について問題が生じたとしても、当該設置位置を変更することができなかった。また、多くの場合、牽引車両は小回りがきかず、また、牽引車両と移動式トイレとの間には、ある程度の遊びがあるため、牽引車両を運転操作しても、移動式トイレの位置を微調整することは難しかった。
【0005】
そこで、本明細書では、簡易に設置位置を変更できる移動式施設を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示する移動式施設は、箱体と、前記箱体の前部下部の左右に設けられた前輪と、前記箱体の後部下部の左右に設けられた後輪と、オペレータの操作を受けて前記前輪および前記後輪の一方である操舵用車輪の角度を変更するステアリング機構と、を備え、前記前輪および前記後輪の他方は、前記操舵用車輪に比べて、小径である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本明細書で開示する移動式施設によれば、操舵用車輪を操舵するステアリング機構を設けることで、移動式施設を簡易に希望の位置に変更できる。また、操舵に用いない車輪を操舵用車輪より小径とすることで、室内空間の床面を広く確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】移動式トイレの側面図である。
図2図1の概略A-A断面図である。
図3】ステアリング機構の構成を示すイメージ図である。
図4】後輪の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して移動式施設について説明する。図1は、移動式施設の一種である移動式トイレ10の側面図であり、図2は、図1の概略A-A断面図である。なお、各図において、「Up」、「Fr」、「Rh」は、それぞれ、上方、前方、右側方を示している。
【0010】
移動式トイレ10は、牽引車両で牽引、あるいは、トラックの荷台に搭載、あるいは、設置された移動式トイレ10を手で押し引きすることで、設置場所を変更できるトイレである。この移動式トイレ10は、その内部にトイレユニットが搭載された略箱体12を有している。箱体12は、前後方向寸法が、幅方向寸法より長尺な略直方形である。この箱体12の左側面の前後方向中央には、ドア開口14(図2参照)が設けられており、当該ドア開口14は、ドア16により開閉自在に覆われている。なお、本例では、ドア16を、左右両側に開く両開きスライド式としているが、ドア16は、ドア開口14を開閉自在に覆えるのであれば、他の形態のドア、例えば、スイングドアや跳ね上げ式ドア、折れ戸等でもよい。ただし、後述するとおり、本例の移動式トイレ10は、車椅子での利用を想定している。そのため、ドア16は、車椅子の進入を阻害しない形態とすることが望ましい。
【0011】
箱体12の内部空間は、二つの隔壁22,23により、トイレ空間24、給排水設備室26、および、電気設備室28に区分けされている。前部隔壁22および後部隔壁23は、ホイールアーチとの位置関係を考慮して設けられている。すなわち、前輪18のホイールアーチ19は、トイレ空間24の床面より上方に突出している。そのため、フロアパネルのうち、ホイールアーチ19と重複する箇所は、上方に隆起している。前部隔壁22は、当該隆起部分より後方位置において、フロアパネルから上方に立脚している壁である。この前部隔壁22より前側部分が、給排水設備室26となり、後側部分がトイレ空間24となる。したがって、トイレ空間24の床面には、ホイールアーチ19に起因する隆起は存在しない。
【0012】
同様に、後輪20のホイールアーチ(図示せず)も、トイレ空間24の床面より上方に突出している。そのため、フロアパネルのうち、後輪20のホイールアーチと重複する箇所は、上方に隆起している。後部隔壁23は、当該隆起部分より前方位置において、フロアパネルから立脚し、その後、箱体12の後端面に向かって延びる断面略L字状の壁である。別の見方をすれば、後部隔壁23は、箱体12の内部空間の後隅部を囲む壁である。この後部隔壁23より後下の空間が、電気設備室28として機能し、後部隔壁23より前方および上方の空間がトイレ空間24となる。したがって、トイレ空間24の床面には、後輪20のホイールアーチに起因する隆起も存在しない。
【0013】
トイレ空間24には、トイレ本体30や洗面カウンタ32a,32bが設けられている。洗面カウンタ32aは、車椅子用の洗面カウンタである。洗面カウンタ32aは、箱体12の側面のうち、車椅子の手摺より高い位置に固定されており、洗面カウンタ32aの底面と、トイレ空間24の床面との間に空間が存在している。車椅子の利用者は、この洗面カウンタ32aと床面との間の空間に、自身の膝下を進入させることで、洗面カウンタ32aを容易に利用できる。洗面カウンタ32bは、起立者用の洗面カウンタである。この洗面カウンタ32bは、箱体12の側面のうち、洗面カウンタ32aよりも若干、高い位置に固定されている。
【0014】
ここで、上述した通り、本例の移動式トイレ10は、車椅子での利用も想定している。そのため、トイレ空間24の床面は、車椅子での旋回が可能なサイズが確保されている。なお、床面とは、トイレ空間24の下端において段差なく繋がった面を意味する。図2における円Cは、一般的な車椅子の旋回に要する旋回スペースCを示している。この図2から明らかな通り、本例によれば、車椅子の旋回に必要な床面が確保できる。なお、図2において、旋回スペースCは、洗面カウンタ32aと一部重複しているが、上述した通り、洗面カウンタ32aは、床面から離間して設置されているため、洗面カウンタ32aの下側も、車椅子の走行する床面として利用できる。
【0015】
電気設備室28には、電気設備39、例えば、バッテリや配電制御盤等が収容されている。バッテリは、照明や後述するポンプ38等に電力を供給する。配電制御盤は、バッテリからの電力を、必要に応じて、各種機器に分配して供給する。
【0016】
給排水設備室26は、さらに、中間板25により、上下に区分けされている。中間板25の上側には、汚水を貯留する汚水タンク36、および、浄水を貯留する浄水タンク(図1,2では見えず)が幅方向に並んで配置されている。また、中間板25の下側には、水を圧送するポンプ38(図2参照)が設置されている。このポンプ38や、汚水タンク36、浄水タンク、トイレ本体30、洗面カウンタ32a,32b等が、トイレ機能を提供するトイレユニットを構成する。
【0017】
さらに、中間板25の下側には、前輪18の角度を変更する際に操作されるステアリングホイール42(図2参照)が設けられているが、これについては、後述する。なお、図1,2では図示していないが、前部隔壁22または箱体12の外壁には、給排水設備室26にアクセス可能な開閉扉が設けられている。オペレータは、当該開閉扉を介して、給排水設備室26に入ることができ、ステアリングホイール42を操作できる。
【0018】
次に、移動式トイレ10に設けられるステアリング機構40について説明する。本例の移動式トイレ10は、前輪18および後輪20を有している。かかる構成とすることで、牽引車両が無い場面でも、移動式トイレ10を移動させることができ、移動式トイレ10を適切な場所に設置できる。
【0019】
すなわち、従来の移動式トイレ10は、牽引車両での牽引しか想定されておらず、後輪20しか有さず、前輪18を有さない場合があった。この場合、当然ながら、牽引車両が無い場面では、移動式トイレ10を移動させることができない。しかし、通常、牽引車両では、被牽引車(すなわち移動式トイレ10)の微細な位置を調整することは難しい。また、牽引車両は、比較的大きいため、狭いスペースに入りにくい。結果として、牽引車両だけでは、移動式トイレ10を狭いスペースに設置することが難しい。さらに、移動式トイレ10を設置した後、牽引車両が去った後では、設置位置を変更できない。
【0020】
そこで、本例では、移動式トイレ10に、後輪20に加え、前輪18も設け、移動式トイレ10を、牽引車両による牽引に加え、手押しでも移動できるようにしている。かかる構成とすることで、移動式トイレ10の設置位置を自由に変更でき、移動式トイレ10の利便性を向上できる。
【0021】
しかしながら、手押しの場合、移動式トイレ10の進行方向を希望通りに変更することが難しい。そこで、手押しでも、移動式トイレ10の進行方向の変更を容易にするために、本例では、前輪18の角度を変更して操舵するステアリング機構40を設けている。
【0022】
図3は、ステアリング機構40の構成を示すイメージ図である。ステアリング機構40は、オペレータの操作を受けて前輪18(すなわち操舵用車輪)の角度を変更する。図3の例の場合、ステアリングホイール42の回転操作に伴い、ステアリングシャフト44が回転する。ステアリングシャフト44の先端には、ステアリングギアボックス46が設けられており、ステアリングシャフト44の回転運動が、タイヤロッド48の左右直進運動に変換される。タイヤロッド48の左右直進の動きが、ナックルアーム50に伝わることで、前輪18の向き、ひいては、移動式トイレ10の進行方向が変化する。なお、ナックルアーム50は、左右の前輪18の軌跡が同心円状になるように、内輪の切れ角を外輪の切れ角より大きくする、アッカーマン機構を構成している。
【0023】
なお、ここで説明したステアリング機構40の構成は、一例であり、オペレータの操作を受けて前輪18の角度を変更できるのであれば、他の機構であってもよい。例えば、ステアリングホイール42のトルクを検出するトルクセンサを設けておき、検知されたトルクに応じた駆動力をモータでステアリングシャフト44に付加するパワーステアリング機構を採用してもよい。いずれにしても、ステアリング機構40を設けることで、手押しであっても、移動式トイレ10の位置を希望通りに変更しやすくなる。
【0024】
次に後輪20の構成について説明する。図4は、後輪20の正面図である。図4に示す通り、本例では、後輪20を、タイヤロッド60の両端に二つずつ、合計四つ設けている。この四つの後輪20は、タイヤロッド60に直接取り付けられており、タイヤロッド60に対する角度は変化しない。また、後輪20は、図1から明らかな通り、前輪18に比べて、小径である。かかる構成とする理由について説明する。
【0025】
後輪20を、前輪18と同径とした場合、後輪20のホイールアーチも大きくなる。トイレ空間24の床面より上方に突出するホイールアーチが大きくなると、その分、トイレ空間24の床面が小さくなる。その結果、車椅子の旋回に必要な床面サイズが確保できない、あるいは、当該床面サイズを確保するために箱体12全体が大型化する、という問題を招く。そのため、操舵に使用されない後輪20は、前輪18に比べて、小径としている。これにより、車両後部に形成されるホイールアーチが小さくなり、床面を広く確保できる。一方で、小径の車輪は、大径の車輪に比べて耐荷重が小さくなりやすい。そこで、本例では、小径の後輪20は、左右に二つずつ、合計四つ設けることで、耐荷重の確保を図っている。
【0026】
以上の説明で明らかな通り、本例では、前輪18を操舵するステアリング機構40を設けることで、移動式トイレ10を簡易に希望の位置に変更できる。また、操舵に用いない後輪20を前輪18より小径とすることで、広い床面サイズを確保できる。なお、これまでの説明では、前輪18にステアリング機構40を設けているが、これは、逆でもよい。すなわち、後輪20にステアリング機構40を設け、前輪18を後輪20より小径としてもよい。この場合、箱体12の後部に、給排水設備室26を設け、箱体12の前部に電気設備室28を設ければよい。また、これまでの説明では、施設の一例としてトイレを例示したが、人が出入りする施設であれば、本明細書で開示の技術は、他の施設、例えば、シャワールームや、更衣室、休憩所、カラオケルーム等に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0027】
10 移動式トイレ、12 箱体、14 ドア開口、16 ドア、18 前輪、19 ホイールアーチ、20 後輪、22 前部隔壁、23 後部隔壁、24 トイレ空間、25 中間板、26 給排水設備室、28 電気設備室、30 トイレ本体、32a,32b 洗面カウンタ、36 汚水タンク、38 ポンプ、39 電気設備、40 ステアリング機構、42 ステアリングホイール、44 ステアリングシャフト、46 ステアリングギアボックス、48,60 タイヤロッド、50 ナックルアーム、C 旋回スペース。
図1
図2
図3
図4