(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】工具刃先成形装置及び工具刃先成形方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/361 20140101AFI20250115BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20250115BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20250115BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20250115BHJP
B23Q 17/20 20060101ALI20250115BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B23K26/361
B23K26/00 M
B23K26/082
B23P15/28 Z
B23Q17/20 A
B23Q17/24 C
(21)【出願番号】P 2021077263
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100105946
【氏名又は名称】磯野 富彦
(72)【発明者】
【氏名】稲本 悠介
(72)【発明者】
【氏名】大竹 敏生
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-506065(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216108(WO,A1)
【文献】特開2015-213955(JP,A)
【文献】特開2017-100191(JP,A)
【文献】特開2019-126816(JP,A)
【文献】特開2012-016735(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007018537(DE,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0132090(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B23P 15/28
B23Q 17/20
B23Q 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線切刃を有する切削工具の刃先をパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形装置であって、
前記パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光を出射するレーザヘッドと、
前記レーザ光の出射方向と交差する
直線方向である第1方向に移動する第1ステージと、
前記第1ステージに設けられ、前記第1ステージに対して前記出射方向及び前記第1方向の双方と交差する
直線方向である第2方向に移動する第2ステージと、
前記第2ステージに設けられ、前記切削工具を保持する回転テーブルと、
少なくとも前記回転テーブルの回転位置を制御する制御部と、
前記直線切刃の切刃方向を検出する第1センサと、を備え、
前記制御部は、前記第1センサからの出力に基づいて、前記切刃方向が前記第1方向と指定した任意の角度になるように前記回転テーブルの回転位置を調整する工具刃先成形装置。
【請求項2】
前記第1ステージは、前記レーザヘッドから出射されたレーザ光を受けるビームダンパを備え、
前記ビームダンパは、前記第1方向に沿って配置され、かつ、前記第2ステージの移動範囲外に設置される、請求項1に記載の工具刃先成形装置。
【請求項3】
前記第1センサとは別に、前記刃先に前記レーザ光が当たることにより発生する光を検出する第2センサを備える、請求項1又は請求項2に記載の工具刃先成形装置。
【請求項4】
前記制御部は、上記第2センサの出力に基づいて、前記第1ステージ及び前記第2ステージの少なくとも一方の移動を制御する、請求項3に記載の工具刃先成形装置。
【請求項5】
前記レーザ光を生成する発振器と、
前記発振器で生成した前記レーザ光を前記レーザヘッドに送る光学系と、を備え、
前記発振器は、前記光学系に対して前記出射方向と平行な揺動軸を中心として揺動可能であり、前記発振器の揺動により、前記レーザ光の前記出射方向が、水平方向に旋回し、予め規定した前記揺動軸と平行な方向に対して前記第1方向の軸まわりに傾く、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の工具刃先成形装置。
【請求項6】
前記回転テーブルは、前記切削工具を固定するホルダを複数備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の工具刃先成形装置。
【請求項7】
前記レーザ光によって前記切削工具の刃先を成形するための加工エリアと、
前記加工エリアとは別の領域であり、前記第1センサによって切刃方向を検出するための計測エリアと、を有する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の工具刃先成形装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記計測エリア内において前記切刃方向が前記第1方向と前記任意の角度になるように前記回転位置を調整し、前記切刃方向が前記第1方向と前記任意の角度になった場合には前記加工エリアに前記切削工具を移動させて前記レーザ光による前記刃先の成形を実行させる、
請求項7に記載の工具刃先成形装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第2センサが検出した光の所定の波長の強度が閾値を超えるときを前記刃先の加工開始点とし、前記所定の波長の強度が閾値を下回ったときを前記刃先の加工終了点とする、
請求項3又は請求項4に記載の工具刃先成形装置。
【請求項10】
直線切刃を有する切削工具の刃先をパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形方法であって、
前記パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光を出射するレーザヘッドと、
前記レーザ光の出射方向と交差する
直線方向である第1方向に移動する第1ステージと、
前記第1ステージに設けられ、前記第1ステージに対して前記出射方向及び前記第1方向の双方と交差する
直線方向である第2方向に移動する第2ステージと、
前記第2ステージに設けられ、前記切削工具を保持する回転テーブルと、
少なくとも前記回転テーブルの回転位置を制御する制御部と、
前記直線切刃の切刃方向を検出する第1センサと、を備える工具刃先成形装置を用いて、
前記第1センサからの出力に基づいて、前記切刃方向が前記第1方向と指定した任意の角度になるように前記回転テーブルの回転位置を調整することと、
前記回転テーブルの回転位置を調整した後、前記レーザヘッドから前記レーザ光を出射しつつ前記第1ステージを前記第1方向に移動させ、前記レーザ光により前記刃先を成形することと、を含む、工具刃先成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具刃先成形装置及び工具刃先成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザグラインディング(PLG)により加工対象物を成形することが知られている(例えば、特許文献1参照)。パルスレーザグラインディングは、レーザ光の光軸方向に延びる円筒状の加工可能領域を、加工対象物の加工面に対して移動させる(走査する)ことで加工面を成形する技術であり、レーザ研削ともいわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したパルスレーザグラインディングを用いて、旋削に用いられるような直線切刃を有する切削工具の刃先を成形することも考えられる。この場合、直線切刃の切刃方向(直線切刃において刃先が直線状に延びる方向)と、直線切刃に対してレーザ光が相対的に移動する方向とが指定した任意の角度となるように精度よく調整する必要がある。また、特許文献1既定の円筒状の加工可能領域で加工することから、1度の直線往復運動で直線切れ刃全域に前述した円筒状の加工可能領域が接触している必要があり、前述の加工可能領域の特性上、加工面生成のために同地点で数回の加工が必要となり、この回数は、加工条件・加工前の刃先形状・材質によって異なる。この調整・確認を作業者の判断に委ねると、作業者の技量によってはばらつきが生じる要因となる。その結果、生産された切削工具において直線切刃の形状にばらつきが生じることになり好ましくない。
【0005】
本発明は、直線切刃の切刃方向と、直線切刃に対するレーザ光の相対的な移動の方向とが精度よく指定した任意の角度になるようにして、直線切刃を持つ切削工具の刃先を精度よく成形することが可能な工具刃先成形装置及び工具刃先成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る工具刃先成形装置は、直線切刃を有する切削工具の刃先をパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形装置であって、パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光を出射するレーザヘッドと、レーザ光の出射方向と交差する直線方向である第1方向に移動する第1ステージと、第1ステージに設けられ、第1ステージに対して出射方向及び第1方向の双方と交差する直線方向である第2方向に移動する第2ステージと、第2ステージに設けられ、切削工具を保持する回転テーブルと、少なくとも回転テーブルの回転位置を制御する制御部と、直線切刃の切刃方向を検出する第1センサと、を備え、制御部は、第1センサからの出力に基づいて、切刃方向が第1方向と指定した任意の角度になるように回転テーブルの回転位置を調整する。
【0007】
また、本発明の態様に係る工具刃先成形方法は、直線切刃を有する切削工具の刃先をパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形方法であって、パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光を出射するレーザヘッドと、レーザ光の出射方向と交差する直線方向である第1方向に移動する第1ステージと、第1ステージに設けられ、第1ステージに対して出射方向及び第1方向の双方と交差する直線方向である第2方向に移動する第2ステージと、第2ステージに設けられ、切削工具を保持する回転テーブルと、少なくとも回転テーブルの回転位置を制御する制御部と、直線切刃の切刃方向を検出する第1センサと、を備える工具刃先成形装置を用いて、第1センサからの出力に基づいて、切刃方向が第1方向と指定した任意の角度になるように回転テーブルの回転位置を調整することと、回転テーブルの回転位置を調整した後、レーザヘッドからレーザ光を出射しつつ第1ステージを第1方向に移動させ、レーザ光により刃先を成形することと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
上記態様の工具刃先成形装置及び工具刃先成形方法によれば、直線切刃の切刃方向が第1方向と指定した任意の角度となるように回転テーブルの回転位置を調整することにより、第1ステージが第1方向に移動することで、直線切刃の切刃方向に対して精度よくレーザ光を照射することができる。その結果、切削工具の直線切刃を精度よく成形することができる。また、成形前の刃先の形状によっては、指定した任意の角度になるように回転テーブルを制御し、あえて平行でない状態で刃先成形する場合もある。
【0009】
また、上記態様の工具刃先成形装置において、第1ステージは、レーザヘッドから出射されたレーザ光を受けるビームダンパを備え、ビームダンパは、第1方向に沿って配置され、かつ、第2ステージの移動範囲外に設置されてもよい。この構成によれば、第1ステージが第1方向に移動した場合であっても、レーザ光をビームダンパによって受けることができ、さらに、ビームダンパが第2ステージと干渉するのを防止できる。また、上記態様の工具刃先成形装置において、第1センサとは別に、刃先にレーザ光が当たることにより発生する光を検出する第2センサを備えてもよい。この構成によれば、第2センサの検出結果を用いることにより、刃先にレーザ光の加工可能領域が当たっているか否かを容易に識別することができる。また、上記態様の工具刃先成形装置において、制御部は、第2センサの出力に基づいて、第1ステージ及び第2ステージの少なくとも一方の移動を制御してもよい。この構成によれば、第2センサにより刃先にレーザ光の加工可能領域が当たっているか否かを識別できるので、第1ステージ及び第2ステージを精度よく移動させることができる。
【0010】
また、上記態様の工具刃先成形装置において、レーザ光を生成する発振器と、発振器で生成したレーザ光をレーザヘッドに送る光学系と、を備え、発振器は、光学系に対して出射方向と平行な揺動軸を中心として揺動可能であり、発振器の揺動により、レーザ光の出射方向が、水平方向に旋回し、予め規定した揺動軸と平行な方向に対して第1方向の軸まわりに傾くようにしてもよい。この構成によれば、発振器からのレーザ光の出射方向を揺動軸まわりに回転させ、刃先に対する加工時のレーザ光の入射方向第1方向の軸まわりに傾けることができるので、刃先に対するレーザ光の入射方向を容易に補正することができる。また、上記態様の工具刃先成形装置において、回転テーブルは、切削工具を固定するホルダを複数備えてもよい。この構成によれば、回転テーブルを回転させることにより、いずれかの切削工具を加工位置に容易に割り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る工具刃先成形装置の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】工具刃先成形装置の外観の一例を示す側面図である。
【
図3】工具刃先成形装置の一例を示す正面図である。
【
図4】工具刃先成形装置の一例を示す平面図である。
【
図5】工具刃先成形装置の要部を拡大した平面図である。
【
図7】第1方向と切刃方向との角度の一例を示し、(A)はθ=Kの場合、(B)はθ=Xの場合、(C)はθ=0の場合である。
【
図8】切削工具の刃先にレーザ光を照射する一例を示す図である。
【
図9】刃先が成形される切削工具の一例を示す図である。
【
図10】プレートの一例を斜め上方から見た斜視図である。
【
図11】プレートの一例を斜め下方から見た斜視図である。
【
図13】プレートを回転テーブルに装着した状態を示す斜視図である。
【
図14】プレートの他の例を斜め上方から見た斜視図である。
【
図15】プレートを回転テーブルに装着した状態の一部を示す断面図である。
【
図21】第1センサを刃先に向けた状態の一例を示す図である。
【
図22】第1センサを刃先に向けた状態の他の例を示す図である。
【
図23】発振器を揺動させた状態を示し、(A)は光学系に対するレーザ光の光軸の変化を示す図であり、(B)は刃先に対するレーザ光の光軸の傾きを示す図である。
【
図24】実施形態に係る工具刃先成形装置の機能ブロック図である。
【
図25】実施形態に係る工具刃先成形方法の一例を示すフローチャートである。
【
図26】
図25に続いて、実施形態に係る工具刃先成形方法の一例を示すフローチャートである。
【
図27】第2センサで取得したデータの一例を示す図である。
【
図28】レーザ光により刃先を成形している状態を示し、(A)はレーザ光を示す図であり、(B)は、加工可能領域を説明する図である。
【
図29】刃先とレーザ光の加工可能領域との相対的な移動を示す図である。
【
図30】第2センサで取得したデータの他の例を示す図である。
【
図31】プレートの他の例を示し、(A)は平面図、(B)はプレートを回転テーブルに装着した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下に説明する形態に限定されない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現しており、実際の製品と寸法、形状が異なっている場合がある。以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、水平面に平行な平面をXY平面とする。このXY平面における一方向をX方向と表記し、X方向に直交する方向をY方向と表記する。また、XY平面に垂直な方向はZ方向と表記する。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の指す方向が+方向であり、矢印の指す方向とは反対の方向が-方向であるとして説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る工具刃先成形装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、工具刃先成形装置の外観の一例を示す側面図である。
図3は、工具刃先成形装置の一例を示す正面図である。
図4は、工具刃先成形装置の一例を示す平面図である。
図5は、
図4の一部を拡大して示す図である。
【0014】
図1から
図5に示す工具刃先成形装置100は、パルスレーザグラインディング(PLG)により加工対象物である切削工具の刃先を成形する。パルスレーザグラインディングは、レーザ光の光軸方向に延びる円筒状又はほぼ円筒状の加工可能領域を加工対象物の加工面に対して移動させる(走査する)ことで加工面を成形する。本実施形態において、工具刃先成形装置100は、レーザ光Lの加工可能領域LA(
図8参照)と切削工具Tの刃先Taとを相対的に移動させることにより、パルスレーザグラインディングによって刃先Taを鋭利に(シャープに)成形する。なお、切削工具Tの詳細、及びパルスレーザグラインディングによって刃先Taを成形する技術の詳細については後述する。
【0015】
図1から
図5に示すように、工具刃先成形装置100は、レーザ照射機構10と、第1ステージ20と、第2ステージ30と、回転テーブル40と、駆動部50と、計測部60と、制御部70と、ベッド80と、を備える。ベッド80は、
図2から
図4に示すように、-X側に配置される下段側載置部81と、+X側に配置される上段側載置部82とを有する。ベッド80は、例えば、鋳物により、又は製缶形状により設けられている。なお、ベッド80の構成は任意であり、下段側載置部81及び上段側載置部82のような段差がない形態であってもよい。ベッド80の下段側載置部81には、第1ステージ20、第2ステージ30、回転テーブル40、レーザ照射機構10の一部であるレーザヘッド13、及び計測部60を含む下段側構成体81Aが配置される。上段側載置部82には、レーザ照射機構10の一部である、後述する発振器11が配置される。
【0016】
レーザ照射機構10は、
図1に示すように、発振器11と、光学系12と、レーザヘッド13とを有する。発振器11は、パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光(パルスレーザ)Lを生成する。発振器11は、ベッド80の上段側載置部82に載置され、切削工具Tが配置される位置よりも高い+Z側に配置される。発振器11は、回転台15を介して上段側載置部82に載置される。回転台15は、Z方向に平行な揺動軸AX2の軸まわりに回動可能となっている。発振器11は、回転台15が揺動軸AX2の軸まわりに揺動(回転)することにより、回転台15と一体となって揺動軸AX2の軸まわりに揺動可能となっている。
【0017】
光学系12は、発振器11で生成されたレーザ光Lをレーザヘッド13に送る。光学系12は、ベッド80の下段側載置部81又は上段側載置部82に固定されている。光学系12は、鏡筒12aと、レンズ、ミラー、フィルタなどの光学素子12bとを備える。光学系12は、レーザ光LをXY平面に平行又は略平行な方向に送る。鏡筒12aは、ステー等によりベッド80の上段側載置部82に固定されている。鏡筒12aの+X側の端部は、発振器11とフレキシブルに配置されている。従って、発振器11が揺動軸AX2の軸まわりに揺動することにより、発振器11から出射されたレーザ光Lは、光学系12(鏡筒12a)に対して異なる角度で入射することになる。なお、光学系12は、X方向及びY方向にレーザ光Lを屈曲させるように設けられているが、この形態に限定されず、レーザ光Lを屈曲させない形態であってもよい。
【0018】
レーザヘッド13は、光学系12から送られてきたレーザ光Lを-Z方向に向けて出射する。従って、本実施形態において、レーザ光Lの出射方向D3は、-Z方向である。レーザヘッド13は、Zガイド14に沿ってZ方向に移動可能である。Zガイド14は、ガイド部ラケット14aを介して、ベッド80に固定されている。レーザヘッド13は、基部13aを介してZガイド14に接続されている。レーザヘッド13及基部13aは、一体となってZガイド14に沿ってZ方向に移動可能である。基部13aは、例えば、光学系12から送られてきたレーザ光Lをレーザヘッド13に送るための光学系と、レーザヘッド13及基部13aをZ方向に移動させるための、後述するZ駆動部50Zとを備えている。
【0019】
レーザヘッド13及び基部13aは、第1ステージ20、第2ステージ30、及び回転テーブル40より上方(+Z側)に配置されている。従って、発振器11を上段側載置部82に配置させて、すなわち、レーザヘッド13を第1ステージ20、第2ステージ30、及び回転テーブル40より上方(+Z側)に配置させて、レーザヘッド13の高さに発振器11の高さを合わせることで、光学系12を余分に折り返すことなく少ない折り返しで構成することができる。なお、光学系12は、光学素子12bの一部に代えて光ファイバ等が用いられてもよい。
【0020】
上記したように、レーザ照射機構10において、発振器11は、レーザ光Lの出射方向D3(Z方向)と平行な揺動軸AX2を中心として、光学系12に対して揺動可能である。揺動軸AX2は、発振器11の前方(-X方向)に位置しており、発振器11の調整角度を小さくすることができ、レーザ光Lの光軸の微調整を容易にしている。発振器11の揺動により、水平方向に出射されるレーザ光Lが揺動軸AX2まわりに旋回し、レーザ光Lの出射方向D3が、予め規定した方向(例えばZ方向)に対して第1方向(X方向)D1の軸まわりに傾く。レーザ光Lの出射方向D3を第1方向D1の軸まわりに傾けることにより、切削工具Tの刃先Taに対するレーザ光Lの出射方向D3を設定補正角度まで容易に変更することができる。
【0021】
図5に示すように、平面視において、レーザヘッド13の+Z側を含む領域には、加工エリアAR1が設定される。加工エリアAR1は、切削工具Tの刃先Taに対してレーザ光Lを照射して、刃先を成形するための領域である。加工エリアAR1は、平面視において、レーザヘッド13からのレーザ光Lの出射位置を含む領域として設定される。また、加工エリアAR1の-X側には、加工エリアAR1とは別に計測エリアAR2が設定される。計測エリアAR2は、後述する第1センサ61により直線切刃T1における刃先Taの位置(切刃位置)及び切刃方向D4の少なくとも一方を検出するための領域である。加工エリアAR1及び計測エリアAR2の形状は任意である。
【0022】
加工エリアAR1と計測エリアAR2とは、第1方向D1に並んだ状態で配置されている。加工エリアAR1と計測エリアAR2とは、平面視において、第1方向D1に離間して配置されているが、この形態に限定されない。例えば、平面視において、加工エリアAR1と計測エリアAR2とが接していてもよいし、少なくとも一部が重なっていてもよい。ただし、お互いのエリアにある第1センサ61と第2センサ62とが、測定時に物理的にも波長的にも干渉しない位置関係を保っていなければならない。
【0023】
第1ステージ20は、Xガイド21を介してベッド80の下段側載置部81に配置される。第1ステージ20は、Xガイド21に沿って、レーザ光Lの出射方向D3であるZ方向と交差する第1方向D1に移動可能である。本実施形態において、第1方向D1は、X方向である。また、第1ステージ20は、第2ステージ30に比べて、X方向、Y方向、及びZ方向(第1方向D1、第2方向D2、及び出射方向D3)の寸法が大きく形成されており、第2ステージ30に比べて変形しにくいように剛性が高められている。
【0024】
第1ステージ20は、上面(+Z側の面)にビームダンパ22を備える。ビームダンパ22は、レーザヘッド13から出射されたレーザ光Lを受ける。ビームダンパ22は、レーザ光Lが直接第1ステージ20に当たることを防止し、第1ステージ20の損傷を防止する。また、ビームダンパ22は、断熱材23を介して第1ステージ20に取り付けられる。断熱材23により、レーザ光Lを受けて加熱されたビームダンパ22の熱が第1ステージ20に伝搬されるのを防止する。
【0025】
ビームダンパ22は、第1方向D1に沿って第1方向D1に延びた状態で設けられている。この構成によれば、第1ステージ20が第1方向D1に移動した場合であっても、レーザ光Lをビームダンパ22によって受けることができる。ビームダンパ22は、後述する第2ステージ30の移動範囲外に配置される。つまり、ビームダンパ22は、後述するYガイド31より+Y側に配置され、第2ステージ30のY方向への移動範囲の外側に配置されている。この構成によれば、第2ステージ30とビームダンパ22とが干渉するのを防止できる。なお、ビームダンパ22は、第1ステージ20上に設けられることに代えて、第2ステージ30上に設けられてもよい。
【0026】
第2ステージ30は、Yガイド31を介して第1ステージ20上に設けられる。従って、第2ステージ30は、第1ステージ20に載った状態で第1方向D1に移動する。第2ステージ30は、Yガイド31に沿って、第1ステージ20に対してレーザ光Lの出射方向であるZ方向及び第1方向D1であるX方向の双方と交差する第2方向D2に移動する。本実施形態において、第2方向D2は、Y方向である。Yガイド31は、ビームダンパ22の-Y側の近くまで延びて設けられている。従って、上記のように、第2ステージ30は、ビームダンパ22と干渉しない。
【0027】
回転テーブル40は、第2ステージ30上に設けられる。回転テーブル40は、例えば、円盤状である。回転テーブル40は、回転軸(軸線)AX1を中心として回転可能(旋回可能)に設けられる。本実施形態において、回転軸AX1は、Z方向に平行である。回転テーブル40は、第2ステージ30に載った状態で、第1ステージ20により第1方向D1に移動し、さらに、第2ステージ30により第2方向D2に移動する。回転テーブル40には、環状プレート(プレート)41が着脱可能に装着される。環状プレート41には、ホルダ42が1つ又は複数取り付けられている。すなわち、ホルダ42は、回転テーブル40に対して着脱可能である。ホルダ42は、切削工具Tを保持して固定する。
【0028】
環状プレート41は、円環状であり、回転テーブル40の回転軸AX1に中心が一致するように、回転テーブル40に装着される。環状プレート41に取り付けられるホルダ42の数は任意である。例えば、環状プレート41に複数のホルダ42が取り付けられている場合、この環状プレート41を回転テーブル40に装着することで、回転テーブル40は、切削工具Tを固定するホルダ42を複数備えることになる。
【0029】
また、環状プレート41に複数のホルダ42が取り付けられている場合、回転テーブル40に対して環状プレート41を交換することにより、複数の切削工具Tをまとめて交換することができる。また、環状プレート41を装着した回転テーブル40を回転軸AX1まわりに回転させることにより、複数の切削工具Tのいずれかをレーザ光Lによる加工位置に容易に割り付けることができる。なお、ホルダ42及び環状プレート41の詳細については後述する。
【0030】
駆動部50は、レーザ光Lと切削工具Tとの相対的な位置を変更する。本実施形態において、駆動部50は、レーザヘッド13、第1ステージ20、第2ステージ30、及び回転テーブル40を駆動する。さらに、本実施形態において、駆動部50は、発振器11を揺動させる。駆動部50は、X駆動部50Xと、Y駆動部50Yと、回転駆動部50Rと、揺動駆動部50Sと、Z駆動部50Zと、を有する。X駆動部50Xは、第1ステージ20を第1方向D1に移動させる。Y駆動部50Yは、第2ステージ30を第2方向D2に移動させる。回転駆動部50Rは、発振器11(回転台15)を揺動軸AX2まわりに揺動させる。Z駆動部50Zは、レーザヘッド13を出射方向D3に昇降させる。
【0031】
X駆動部50Xは、加工エリアAR1内における第1方向D1、加工エリアAR1と計測エリアAR2との間、計測エリアAR2内における第1方向D1において切削工具Tの位置を移動させることが可能である。Y駆動部50Yは、加工エリアAR1内における第2方向D2、計測エリアAR2内における第2方向D2において切削工具Tの位置を移動させることが可能である。
【0032】
回転駆動部50Rは、回転テーブル40を回転軸AX1まわりに回転させることで、ホルダ42に保持された切削工具Tにおける直線切刃T1の切刃方向D4(直線切刃T1において直線状に刃先Taが延びる方向)を変えることが可能である。また、環状プレート41に、
図10、
図14のように円周上に複数のホルダ42が装着されている場合は、それぞれのホルダ42を加工位置に割り出すことも可能にしている。Z駆動部50Zは、レーザヘッド13を出射方向D3に移動させることにより、レーザヘッド13から照射されるレーザ光Lの加工可能領域LAの高さ(Z方向の位置)に調整することが可能である。
【0033】
駆動部50のそれぞれは、例えば、リニアモータ機構、電動回転モータを用いたボールねじ機構、電動回転モータを用いたラックアンドピニオン機構、油圧又は空圧を用いたシリンダ装置などが用いられる。駆動部50のそれぞれの動作は、制御部70により制御される。また、第1ステージ20の移動量又は移動位置、第2ステージ30の移動量又は移動位置、回転テーブル40の回転量又は回転位置、レーザヘッド13の昇降量又は昇降位置は、例えばエンコーダからの出力に基づいて制御部70に取得される。
【0034】
計測部60は、第1センサ61及び第2センサ62を有する。第1センサ61は、計測エリアAR2に対応して配置される。第2センサ62は、第1センサ61とは別に、加工エリアAR1に対応して配置される。このように、第1センサ61が加工エリアAR1とは別の計測エリアAR2に対応して配置されるので、第2センサ62との干渉を防止できる。第1センサ61と第2センサ62とが異なるエリアに配置されるので、検出光(レーザ光)の波長による干渉を防止できる。第1センサ61は、計測エリアAR2に配置された切削工具Tに対して、直線切刃T1の切刃方向D4を検出する。
【0035】
第1センサ61は、直線切刃T1における切刃位置及び切刃方向D4の少なくとも一方を検出する。第1センサ61は、例えば、刃先Taに検出光を照射してその反射光を受光することにより刃先Taの三次元形状を算出可能とする形状計測センサが用いられる。第1センサ61は、角度調整機構63を介してベッド80に支持される。第1センサ61は、角度調整機構63により刃先Taに対する検出角度を調整することができる。角度調整機構63の詳細については後述する。
【0036】
第1センサ61が形状計測センサである場合、例えば検出光としてライン光を刃先Taに対して斜めから照射しつつ、切刃方向D4に沿ってライン光を走査し、その反射光から直線切刃T1における刃先Taの三次元形状を計測する。第1センサ61が直線切刃T1Taの三次元形状を算出することにより、直線切刃T1における切刃位置及び切刃方向D4の少なくとも一方を非接触で精度よく検出できる。また、成形前の刃先Taの形状を計測することで、どのように実際の刃先加工を実施すればよいかの判断にも利用できる。単に第1方向D1(X軸)に平行に加工するだけでなく、指定された任意の角度だけ傾けて加工することも可能になる。また、刃先Taの両端から任意の長さだけ指定された角度に傾けて加工することも可能である。
【0037】
第1センサ61は、レーザ光Lによる成形後の刃先Taを計測可能である。つまり、レーザ光Lにより切削工具Tの直線切刃T1を成形した後、又は成形途中において、第1センサ61により成形後又は成形途中の直線切刃T1の形状又は位置を計測することができる。このように、第1センサ61は、成形前における切刃位置又は切刃方向の検出と、成形後の刃先の計測とに兼用することができる。なお、第1センサ61として上記した形状計測センサが用いられることに限定されない。例えば、レーザ測長機などの非接触のセンサが用いられてもよいし、プローブ等を接触させて形状又は位置を計測するような接触タイプのセンサが用いられてもよい。
【0038】
第2センサ62は、加工エリアAR1に配置された切削工具Tに対して、直線切刃T1の刃先Taにレーザ光Lの加工可能領域LAが当たることにより発生する光を検出する。第2センサ62は、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たることにより発生する光を検出することで刃先Taの位置が所定の位置にあるか否かを検出可能である。第2センサ62は、レーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先Taの加工位置に向けるように、ステー等を介してベッド80に支持される。なお、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たることにより、刃先Taの材質に応じたプラズマ光が発生する。第2センサ62は、このプラズマ光を検出する。第2センサ62としては、プラズマ光を検出可能な分光器を用いることができる。第2センサ62として分光器を用い、この分光器によりプラズマ光を検出することで、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たっていることを精度よく検出できる。
【0039】
第2センサ62は、プラズマ光の分光スペクトルを検出結果として出力する。制御部70は、第2センサ62から出力された分光スペクトルのうち、所定の波長の強度が予め設定された閾値を超えること、及び所定の波長の強度が前記閾値を下回ったこと、の少なくとも一方を判断する。所定の波長は、例えば、発生したプラズマ光のうち、光強度が大きな波長などに設定される。
【0040】
また、第2センサ62は、レーザ光Lとして用いられる波長の光を減衰又は遮断し、レーザ光Lと異なる波長の光を透過するバンドパスフィルタを備えてもよい。この場合、バンドパスフィルタにより、レーザ光Lとして用いられる波長の光を減衰又は遮断するので、第2センサ62の検出結果においてレーザ光Lの影響を軽減し、刃先Taにレーザ光Lの加工可能領域LAが当たっているか否かをより精度よく検出することができる。
【0041】
図6は、回転テーブル40の動作の一例を示す図である。
図6に示すように、制御部70は、第1センサ61の検出結果に応じて、回転軸AX1を中心に回転テーブル40を回転させることにより、例えば、直線切刃T1の切刃方向D4が第1方向D1(X方向)と平行するように切削工具Tの姿勢を調整することができる。制御部70は、第1センサ61からの検出結果により、直線切刃T1の刃先Taの刃先位置及び切刃方向D4を算出する。制御部70は、算出した切刃方向D4が第1方向D1に対して傾いているか否かを判断し、傾いている場合(
図6の点線参照)は、その切刃方向D4が第1方向D1と平行となるように、回転駆動部50R(
図1参照)を駆動して回転テーブル40を回転軸AX1まわりに回転させる。また、必要に応じて指定した角度だけ傾けた位置に回転駆動部50Rを駆動して回転させることも可能である。
図7は、第1方向D1と切刃方向D4との角度の一例を示し、(A)はθ=Kの場合、(B)はθ=Xの場合、(C)はθ=0の場合である。
図7(A)に示すように、切削工具Tをホルダ42に保持させ、回転テーブル40を回転させて切削工具Tを加工位置に割り付けた際(切削工具Tのセット時)は、第1センサ61からの検出結果から第1方向D1に対する切刃方向D4の角度θが角度Kとなっている。この状態から、制御部70は、回転テーブル40を駆動して、指定した角度Xとなるまで回転させることにより、
図7(B)に示すように、切刃方向D4を第1方向D1に対して角度Xだけ傾けることができる。また、
図7(C)に示すように、制御部70は、回転テーブル40を駆動して、角度θが0となるまで回転させることにより、切刃方向D4を第1方向D1と平行にすることができる。
【0042】
図8は、切削工具Tの刃先Taにレーザ光Lの加工可能領域LAを照射する一例を示す図である。
図8に示すように、レーザ光Lがレーザヘッド13から出射方向D3に向けて出射される。このレーザ光Lは、焦点位置に向けて収束した後に拡散してビームダンパ22に達する。レーザ光Lの焦点位置近傍では、光軸L1を中心とした円筒状又はほぼ円筒状の領域にエネルギ密度が高い(刃先Taを成形可能な)加工可能領域LAが形成される。この加工可能領域LAを刃先Taに当てつつ、レーザ光Lと切削工具Tとを第1方向D1に相対的に移動させることにより、直線切刃T1の刃先Taがレーザ光Lにより成形される。なお、加工可能領域LAが刃先Taに当たっている間は、上記したプラズマ光が発生し、このプラズマ光は、第2センサ62によって検出される。
【0043】
本実施形態における切削工具Tは、切削加工に際して用いられ、直線切刃T1を備えている。直線切刃T1を一辺とする一方の面が逃げ面Tbであり、直線切刃T1を一辺とする他方の面がすくい面Tcである。
図9は、刃先Taが成形される切削工具Tの一例を示す図である。刃先Taを成形する前の切削工具Tは、例えば、粉末冶金等により直線切刃T1(刃先Ta)を備えた状態で形成される。この切削工具Tに対して、レーザ光Lの加工可能領域LAにより逃げ面Tb及びすくい面Tcの一部を除去することで、新たな(例えば鋭利な)刃先が形成される。
図9において、矢印は、レーザ光Lが照射される方向であり、図中の斜線部分がレーザ光Lの加工可能領域LAにより除去される部分である。
【0044】
図10は、環状プレート41の一例を斜め上方から見た斜視図である。
図10に示す環状プレート41の上面側には、逃げ面用ホルダ43が複数取り付けられる。逃げ面用ホルダ43は、直線切刃T1の逃げ面Tbを形成する際に用いられる。逃げ面用ホルダ43は、環状プレート41の周方向に沿って等間隔で複数配置される。
図10では、逃げ面用ホルダ43が環状プレート41の周方向の一部に配置された構成を例に挙げて示しているが、この構成に限定されない。逃げ面用ホルダ43は、例えば環状プレート41の周方向の全周にわたって配置されてもよい。
【0045】
逃げ面用ホルダ43は、環状プレート41に対してボルト等により着脱可能である。逃げ面用ホルダ43を環状プレート41に対して着脱可能とすることにより、環状プレート41に対して同種のホルダ42又は異なるホルダ42に交換することができる。逃げ面用ホルダ43は、切削工具Tを保持した際に、その切削工具Tにおける直線切刃T1の切刃方向D4が環状プレート41の外周における接線方向と平行又はほぼ平行となるように設けられている。
【0046】
環状プレート41は、内周面が被位置決め部41aとなる。被位置決め部41aは、平面視において円形状であり、後述する回転テーブル40の位置決め部40aを挿入可能な形状を有する。環状プレート41は、回転テーブル40に装着した際、被位置決め部41aに位置決め部40aが入り込むことで回転テーブル40の回転軸AX1と一致した状態で保持される。
【0047】
図11は、環状プレート41の一例を斜め下方から見た斜視図である。
図11に示すように、環状プレート41は、回転テーブル40に対して回転軸AX1の軸まわり方向の位置決めを行うための穴部41bを有する。穴部41bは、例えば円形状であり、環状プレート41の厚さ方向に形成されている。なお、穴部41bは、環状プレート41を貫通して設けられてもよいし、貫通せずに設けられてもよい。穴部41bは、後述する回転テーブル40のダイヤピン40bを挿入可能な形状を有する。環状プレート41の下面(裏面)には、被位置決め部41aを囲んだ複数カ所に板状体41cが設けられる。
【0048】
環状プレート41は、回転テーブル40に装着した際、穴部41bにダイヤピン40bが挿入され、回転テーブル40に対して回転軸AX1まわりのずれが規制される。その結果、環状プレート41と回転テーブル40との回転方向の角度を一致させることができる。すなわち、穴部41bは被位置決め部として作用し、ダイヤピン40bは位置決め部として作用する。
【0049】
図12は、回転テーブル40の一例を示す斜視図である。回転テーブル40は、
図12に示すように、位置決め部40aと、ダイヤピン40bと、板状体40cと、クランプ部材40dとを有する。位置決め部40aは、円柱状であり、回転テーブル40の上面(+Z側の面)から突出して設けられる。位置決め部40aは、環状プレート41の被位置決め部41aに挿入することで、回転テーブル40に対して環状プレート41を第1方向D1(X方向)及び第2方向D2(Y方向)について位置決めし、回転テーブル40の回転軸AX1と、環状プレート41の中心とを一致させる。
【0050】
ダイヤピン40bは、環状プレート41の穴部41bに挿入可能な形状を有する。ダイヤピン40bは、板状体40cの1つから上方(+Z側)に向けて突出して設けられる。なお、板状体40cは、円柱状の位置決め部40aを囲むように、回転テーブル40の上面に複数カ所設けられる。板状体40cは、環状プレート41が回転テーブル40に装着された際、環状プレート41の下面にある板状体41cと当接する。
【0051】
クランプ部材40dは、位置決め部40aの上面において複数カ所に設けられる。例えば、本実施形態のように、3カ所のクランプ部材40dは、それぞれ板状体40cに対応して配置され、外側に向けてスライド可能に設けられている。クランプ部材40dは、環状プレート41が回転テーブル40に装着された際、環状プレート41の一部を板状体40cとの間で挟み込み、環状プレート41を回転テーブル40に固定させる。なお、クランプ部材40dの個数及び配置は任意である。また、環状プレート41を回転テーブル40に固定できれば、図示の形態に限定されず、任意のクランプ部材(クランプ機構)を適用することができる。
【0052】
図13は、環状プレート41を回転テーブル40に装着した状態を示す斜視図である。
図13に示すように、環状プレート41は、被位置決め部41aが位置決め部40aに対して嵌った状態で回転テーブル40に装着される。このとき、ダイヤピン40bが穴部41bに挿入されるように、回転テーブル40に対して環状プレート41の回転位置を設定する。ダイヤピン40bが穴部41bに挿入された状態で、クランプ部材40dの先端を環状プレート41の上方に突出するようにスライドさせ、ボルト等を締めてクランプ部材40dの先端部分で環状プレート41の下面にある板状体41cを板状体40cに押し付けることにより、環状プレート41は、クランプ部材40dにより板状体41cを介して板状体40cとの間に挟まれた状態で回転テーブル40に固定される。
【0053】
なお、環状プレート41を回転テーブル40から取り外す際は、クランプ部材40dのボルトを緩めて、クランプ部材40dを内側にスライドさせることで、環状プレート41は、回転テーブル40から取り外し可能となる。また、上記した実施形態では、環状プレート41に穴部41bが設けられ、回転テーブル40にダイヤピン40bが設けられているが、環状プレート41にピンが設けられ、回転テーブル40に穴部が設けられる形態であってもよい。
【0054】
図14は、環状プレートの他の例を斜め上方から見た斜視図である。
図14に示す環状プレート41には、すくい面用ホルダ44が複数取り付けられている。すくい面用ホルダ44は、直線切刃T1のすくい面Tcを形成する際に用いられる。すくい面用ホルダ44は、上記した逃げ面用ホルダ43と同様、環状プレート41の周方向に沿って等間隔で複数配置される。
図14では、すくい面用ホルダ44が環状プレート41の周方向の一部分に配置された構成を例に挙げて示しているが、この構成に限定されない。すくい面用ホルダ44は、例えば環状プレート41の周方向の全周にわたって配置されてもよい。
【0055】
すくい面用ホルダ44は、環状プレート41に対してボルト等により着脱可能であり、る。環状プレート41に対して同種のホルダ42又は異なるホルダ42に交換することができる。例えば、すくい面用ホルダ44を環状プレート41から全て又は一部取り外し、代わりに上記した逃げ面用ホルダ43を取り付けることができる。すなわち、環状プレート41は、逃げ面用ホルダ43とすくい面用ホルダ44とで共用できる。すくい面用ホルダ44は、逃げ面用ホルダ43と同様に、切削工具Tを保持した際に、その切削工具Tにおける直線切刃T1の切刃方向D4が環状プレート41の外周における接線方向と平行又はほぼ平行となるように設けられている。
【0056】
上記した実施形態では、環状プレート41の穴部41bに回転テーブル40のダイヤピン40bを挿入させる形態を例に挙げて説明しているが、この形態に限定されない。
図15は、環状プレート41を回転テーブル40に装着した状態の一部を示す断面図である。
図15に示すように、ダイヤピン40b及び穴部41bに代えて、凸部40eと凹部41eとが用いられる形態であってもよい。回転テーブル40の板状体40cの上面(+Z側の面)には、凸部40eが設けられ、環状プレート41の下面(-Z側の面)には、凸部40eと嵌まりあう凹部41eが設けられる。また、位置決め部40a、被位置決め部41a、ダイヤピン40b、及び穴部41bに代えて、カービックカップリングが用いられてもよい。
【0057】
環状プレート41が回転テーブル40に装着された際、凸部40eが凹部41eに嵌り合うことで、環状プレート41は、回転テーブル40に対して回転軸AX1まわりのずれが規制される。その結果、環状プレート41と回転テーブル40との回転方向の角度を一致させることができる。すなわち、凹部41eは被位置決め部として作用し、凸部40eは位置決め部として作用する。
【0058】
図16は、ホルダ42の一例を示す平面図である。
図17は、
図16に示すホルダ42の側面図である。
図16及び
図17は、逃げ面用ホルダ43を示している。逃げ面用ホルダ43は、切削工具Tの直線切刃T1における逃げ面Tbを加工する際に用いられる。
図16及び
図17に示すように、逃げ面用ホルダ43は、基部43aと、工具配置面43b1、43b2と、工具位置決め部43cと、板バネ(弾性部材)43dと、を有する。基部43aは、例えばボルト等により環状プレート41の上面に固定される。工具配置面43b1、43b2は、配置された切削工具Tが環状プレート41の外側に向くように設けられる。工具配置面43b1は、切削工具Tの面(すくい面Tcを含む面)と接触する。工具配置面43b2は、切削工具Tにおいて直線切刃T1とは反対側の面と接触する。
【0059】
工具位置決め部43cは、基部43aの一方の側部に設けられる。工具位置決め部43cは、工具配置面43b1、43b2に配置された切削工具Tの側面と接触する。工具位置決め部43cは、切削工具Tが切刃方向D4にずれるのを規制する。
【0060】
板バネ43dは、ボルト43eにより基部43aに取り付けられる。板バネ43dは、工具配置面43b1、43b2に配置された切削工具Tを弾性力により保持する。切削工具Tは、板バネ43dの弾性力により、板バネ43dと工具配置面43b1とで挟まれた状態で保持される。切削工具Tは、工具配置面43b1、43b2にそれぞれ接触し、さらに工具位置決め部43cに突き当てることで、逃げ面用ホルダ43に対して位置決めされた状態で保持される。すなわち、逃げ面用ホルダ43に保持された切削工具Tは、直線切刃T1の刃先Taが環状プレート41(回転テーブル40)に対して位置決めされた状態となる。
【0061】
板バネ43dの弾性力は、第1ステージ20のX方向への移動、回転テーブル40の回転などにより切削工具Tがずれない程度の弾性力であればよい。また、板バネ43dの弾性力は、板バネ43dに設けられた把持部44fを作業者が手で把持して持ち上げることが可能な程度の弾性力であればよい。本実施形態に係る工具刃先成形装置100では、レーザ光Lにより直線切刃T1の刃先Taを成形する。このため、加工時においては、切削工具Tに対して物理的な力が作用しない。従って、板バネ43dの弾性力により切削工具Tを保持するだけで、加工時の切削工具Tの位置ずれを十分に抑制でき、切削工具Tに対してクランプ等による固定は必要ない。
【0062】
切削工具Tは、板バネ43dを持ち上げた状態で、工具位置決め部43cが配置される側とは反対側から挿入し、工具位置決め部43cに突き当て、工具配置面43b1、43b2にそれぞれ当接させることで配置される。このように、板バネ43dにより切削工具Tを挟んで固定するので、逃げ面用ホルダ43に対する切削工具Tの交換を容易に行うことができる。
【0063】
図18は、ホルダ42の他の例を示す平面図である。
図19は、
図18に示すホルダ42の側面図である。
図18及び
図19は、すくい面用ホルダ44を示している。すくい面用ホルダ44は、切削工具Tの直線切刃T1におけるすくい面Tcを加工する際に用いられる。
図18及び
図19に示すように、すくい面用ホルダ44は、基部44aと、工具配置面44b1、44b2と、工具位置決め部44cと、板バネ(弾性部材)44dと、を有する。
【0064】
基部44aは、例えば板状であり、環状プレート41に固定される。基部44aは、板面が環状プレート41の+Z側の面に対して立った状態で配置される。工具配置面44bは、基部44aの-Z側の端部に配置される。工具配置面44bは、基部44aに対して段状に形成される。工具配置面44bは、切削工具Tのうち直線切刃T1Taとは反対側の面に当接された状態で切削工具Tを支持する。基部44aは、例えばボルト等により環状プレート41の上面に固定される。工具配置面44b1、44b2は、配置された切削工具Tが環状プレート41の外側に向くように設けられる。工具配置面44b1は、切削工具Tの面(逃げ面Tbを含む面)と接触する。工具配置面44b2は、切削工具Tにおいてすくい面Tcとは反対側の面と接触する。
【0065】
工具位置決め部44cは、基部44aの一方の側部に設けられる。工具位置決め部44cは、工具配置面44b1、44b2に配置された切削工具Tの側面と接触する。工具位置決め部44cは、切削工具Tが切刃方向D4にずれるのを規制する。板バネ44dは、ボルト44eにより基部44aに取り付けられる。板バネ44dは、工具配置面44b1、44b2に配置された切削工具Tを弾性力により保持する。切削工具Tは、板バネ44dの弾性力により、板バネ44dと工具配置面44b1とで挟まれた状態で保持される。切削工具Tは、工具配置面44b1、44b2にそれぞれ接触し、さらに工具位置決め部44cに突き当てることで、すくい面用ホルダ44に対して位置決めされた状態で保持される。すなわち、すくい面用ホルダ44に保持された切削工具Tは、直線切刃T1の刃先Taが環状プレート41(回転テーブル40)に対して位置決めされた状態となる。
【0066】
板バネ44dの弾性力は、逃げ面用ホルダ43の板バネ43dと同様に設定されるため、説明を省略する。すなわち、このすくい面用ホルダ44においても、板バネ44dの弾性力により切削工具Tを保持するだけで、加工時の切削工具Tの位置ずれを十分に抑制でき、切削工具Tに対してクランプ等による固定は必要ない。
【0067】
切削工具Tは、板バネ44dを持ち上げた状態で、工具位置決め部44cが配置される側とは反対側から挿入し、工具位置決め部44cに突き当て、工具配置面44b1、44b2にそれぞれ当接させることで配置される。このように、板バネ44dにより切削工具Tを挟んで固定するので、すくい面用ホルダ44に対する切削工具Tの交換を容易に行うことができる。
【0068】
図20は、ホルダ42の他の例を示す断面図である。
図20に示すホルダ42は、すくい面用ホルダ45である。
図20に示すように、すくい面用ホルダ45は、基部45aと、工具配置面45b1、45b2と、押さえ部材45dと、軸部材45eと、ボールプランジャ機構46とを有する。基部45a及び工具配置面45b1、45b2については、それぞれ
図18及び
図19に示すすくい面用ホルダ44の基部44a及び工具配置面44b1、44b2と同様である。なお、
図20のすくい面用ホルダ45では、工具位置決め部を図示していないが、
図18に示す工具位置決め部44cと同様に、工具位置決め部を備えている。
【0069】
押さえ部材45dは板状であり、中央部分を軸部材45eによって回転可能に支持されている。押さえ部材45dのうち、上方側の端部はボールプランジャ機構46によって弾性力を受ける。押さえ部材45dのうち、軸部材45eを挟んだ下方側の端部は、切削工具Tを押さえる部分として用いられる。ボールプランジャ機構46は、バネ収容部46aと、コイルバネ(弾性部材)46bと、ボール46cと、を有する。ボールプランジャ機構46は、基部45aを貫通するねじ穴とねじ結合することで取り付けられる。バネ収容部46aには、コイルバネ46bが収容されている。ボール46cは、バネ収容部46aの先端に配置され、コイルバネ46bにより外側に向けて弾性力が付与されている。
【0070】
ボールプランジャ機構46を基部45aに取り付けることにより、ボール46cが押さえ部材45dの上方側の端部を押し、その結果、押さえ部材45dの下方側の端部が切削工具Tを工具配置面44b2に押し付ける。すなわち、切削工具Tは、押さえ部材45dの下方側の端部と、工具配置面44b2との間に挟まれた状態で保持される。ボールプランジャ機構46と基部45aとのねじ結合を緩めることでボール46cが基部45a側に移動する。その結果、押さえ部材45dの下方側の端部は、ボール46cによる押圧から解放されて、作業者が手で持ち上げることが可能となる。
【0071】
切削工具Tは、押さえ部材45dの下方側の端部を作業者が手で持ち上げた状態で、図示しない工具位置決め部が配置される側とは反対側から挿入し、工具位置決め部に突き当て、工具配置面45b1、45b2にそれぞれ当接させることで配置される。切削工具Tの配置後、ボールプランジャ機構46をねじ込むことで、ボール46cが押さえ部材45dの上方側の端部を押し、切削工具Tをすくい面用ホルダ45に保持させることができる。ボールプランジャ機構46のねじ込み操作により切削工具Tを挟んで固定するので、すくい面用ホルダ45に対する切削工具Tの交換を容易に行うことができる。
【0072】
図21は、第1センサ61を刃先Taに向けた状態の一例を示す図である。
図22は、第1センサ61を刃先Taに向けた状態の他の例を示す図である。
図21及び
図22に示すように、第1センサ61は、角度調整機構63に支持される。第1センサ61は、角度調整機構63により、刃先Taを計測する際の第1センサ61の向き(検出角度)を調整することができる。
【0073】
角度調整機構63は、ベース部63aと、センサ支持台63bと、軸部63cと、軸受部63dと、係止部63eと、可動部63fと、駆動部63gとを有する。ベース部63aは、ベッド80に支持される。センサ支持台63bは、板状であり、第1センサ61が固定されている。軸部63cは、センサ支持台63bからX方向(第1方向D1)に突出して設けられる。軸受部63dは、ベース部63aから上方に突出して設けられ、軸部63cを回転可能に支持する。この構成により、センサ支持台63bは、軸部63cを中心として第1方向D1の軸まわりに回転可能となっている。
【0074】
係止部63eは、センサ支持台63bの下面から下方(-Z方向)に突出した突出部63hの下端に設けられる。可動部63fは、ベース部63aの上面に沿って第2方向D2(Y方向)に移動可能である。可動部63fは、係止部63eが挿入されるガイド穴63iが設けられている。ガイド穴63iは、-Y側端部から+Y側端部にかけて+Z方向に傾けて設けられる。駆動部63gは、可動部63fを-Y側の第1位置P1と+Y側の第2位置P2との間で第2方向D2(Y方向)に沿って移動させる。駆動部63gとしては、例えば、リニアモータ機構、電動回転モータを用いたボールねじ機構、空圧又は油圧を用いたシリンダ装置などが用いられる。
【0075】
センサ支持台63bは、-Y側から+Y側にかけて+Z側に傾くように支持される。
図21に示すように、可動部63fが第1位置P1に配置される場合、係止部63eは、ガイド穴63iの-Y側端部近傍に位置している。この状態では、センサ支持台63bは、Y方向に対して傾きθ1となり、第1センサ61の傾きが小さい。この第1センサ61の傾きθ1は、すくい面用ホルダ44に保持された切削工具Tのすくい面Tcに合わせて第1センサ61を向けた状態となる。その結果、第1センサ61は、すくい面Tcを含めた刃先Taの形状を精度よく計測することが可能となる。
【0076】
また、
図22に示すように、可動部63fが第2位置P2に配置される場合、係止部63eは、ガイド穴63iの+Y側端部近傍に位置している。この状態では、センサ支持台63bは、Y方向に対して傾きθ2となり、第1センサ61の傾きが大きい。この第1センサ61の傾きθ2は、逃げ面用ホルダ43に保持された切削工具Tの逃げ面Tbに合わせて第1センサ61を向けた状態となる。その結果、第1センサ61は、逃げ面Tbを含めた刃先Taの形状を精度よく計測することが可能となる。
【0077】
駆動部63gの駆動は、制御部70によって制御される。制御部70は、すくい面用ホルダ44に保持された切削工具Tの刃先Taを計測する場合は、駆動部63gを駆動して可動部63fを第1位置P1に配置させ、逃げ面用ホルダ43に保持された切削工具Tの刃先Taを計測する場合は、駆動部63gを駆動して可動部63fを第2位置P2に配置させる。また、刃先Ta加工後の加工面の測定などに合わせ、指定した任意の角度になるように制御部70より指令することで、第1位置P1、第2位置P2を複数設定することが可能である。
【0078】
このように、角度調整機構63は、切削工具Tのすくい面Tcを計測する場合と、逃げ面Tbを計測する場合とでセンサ支持台63bの角度を切り替え、第1センサ61の向きをすくい面Tc又は逃げ面Tbの計測に適した向きに調整するので、刃先Taの形状を精度よく計測することができる。なお、角度調整機構63は、上記した構成に限定されず、第1センサ61の角度(傾き)を変更可能な任意の構成を適用可能である。例えば、第1センサ61が第1方向D1(X方向)の軸まわりに回転する軸部に取り付けられ、この軸部が回転することにより第1センサ61の角度(傾き)を変更するような構成が適用されてもよい。
【0079】
上記した実施形態では、レーザヘッドからのレーザ光Lの出射方向D3がZ方向と平行とした構成を例に挙げて説明しているが、この構成に限定されない。例えば、レーザ光Lの出射方向D3は、ガルバノスキャナやポリゴンミラーのように光学機器を揺動あるいは旋回させて光軸を任意の方向に変更する機構を設けて、第1方向D1の軸まわりに傾ける構成が適用されてもよい。
図23は、発振器11を揺動させた状態を示し、(A)は光学系12に対するレーザ光Lの光軸L1の変化を示す図であり、(B)は刃先Taに対するレーザ光Lの光軸L1の傾きを示す図である。
【0080】
図23(A)に示すように、発振器11を揺動軸AX2の軸まわりに揺動させると、その揺動角度によって、レーザヘッド13から出射されるレーザ光Lの出射方向D3は、予め規定した方向(例えば光軸L1の方向)に対して第1方向D1の軸まわりに傾いた状態となる。発振器11から出射されるレーザ光Lが光学系12の光軸に対して斜めに入射すると、光学系12のミラー16等においてレーザ光Lの光軸の位置が変化する。この変化により、レーザヘッド13から出射されるレーザ光Lの出射方向D3は、第1方向D1、又は第2方向D2の軸まわりに傾くことになる。
【0081】
発振器11から出射されるレーザ光Lの光軸L1が、
図23(A)に示すように光軸L2に角度θだけ傾いた場合、その角度θに応じて、
図23(B)に示すように、光軸L1に対して第1方向D1の軸まわりに角度θだけ傾いた光軸L2としてレーザヘッド13から出射される。また、
図23(A)に示すように、発振器11から出射されるレーザ光Lの光軸L1が光軸L3に傾いた場合、レーザ光Lは、
図23(B)に示すように、光軸L1に対して第1方向D1の軸まわりに傾いた光軸L3としてレーザヘッド13から出射される。これらを活用することで、光軸L2もしくは光軸L3のようにずれてしまった光軸を光軸L1に調整することで要求の加工が可能となり、かつ前述の調整は容易である。
【0082】
このように、発振器11を揺動軸AX2の軸まわりに揺動させることで、レーザヘッド13から出射されるレーザ光Lを第1方向D1の軸まわりに容易に傾けることができる。また、レーザヘッド13から出射されるレーザ光Lを第1方向D1の軸まわりに角度θの範囲で傾けることにより、切削工具Tの刃先Taに照射されるレーザ光Lの設定入射角φとなるように光軸を角度θLの範囲で変化させることができる。例えば、
図23(B)に示すように、切削工具Tの逃げ面Tbにレーザ光Lを照射する場合、レーザ光Lの光軸L2を第1方向D1の軸まわりに角度θL傾けることで、逃げ面Tbに対する適切な入射角φとなるように容易に設定することが可能となる。
【0083】
なお、上記した実施形態では、発振器11を揺動させることでレーザヘッド13から出射されるレーザ光Lを第1方向D1の軸まわりに傾けているが、この構成に限定されない。例えば、第1ステージ20、第2ステージ30、及び回転テーブル40のいずれか1つが第1方向D1(X方向)の軸まわりに回転可能(傾き可能)とする構成が適用されてもよい。この構成によれば、第1ステージ20等を第1方向D1の軸まわりに回転させる(傾ける)ことで、レーザ光Lの出射方向D3に対して切削工具Tが第1方向D1の軸まわりに傾く。すなわち、切削工具Tに対して、レーザ光Lの光軸L1が第1方向D1の軸まわりに傾いた状態となる。また、第1ステージ20、第2ステージ30、及び回転テーブル40もいずれか1つが第2方向D2(Y方向)の軸まわりに旋回可能とする構成を盛り込んでもよく、第1方向D1及び第2方向D2の双方に盛り込んだ構成であってもよい。
【0084】
図24は、実施形態に係る工具刃先成形装置100の機能ブロック図である。
図24に示すように、制御部70は、工具刃先成形装置100を統括的に制御する。制御部70は、演算部71及び記憶部72を有する。演算部71は、各種の演算を行う。記憶部72は、予め設定される閾値等の各種情報を記憶するだけでなく、各種センサの計測データを記憶しており、刃先Taの加工後に品質データとして出力することが可能になっている。制御部70は、入力部73による入力を受け付ける。入力部73は、例えば、キーボード、マウス、ジョイスティック、タッチパッド等である。制御部70は、処理結果を表示部74に出力することができる。表示部74は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等である。
【0085】
制御部70は、例えば、発振器11のシャッタを駆動して、レーザヘッド13におけるレーザ光Lの照射のタイミング、照射エネルギ等を制御する。また、制御部70は、例えば、駆動部50による駆動のタイミング及び駆動量を制御するとともに、駆動部50を駆動して、レーザヘッド13の昇降位置、第1ステージ20移動位置、第2ステージ30の移動位置、回転テーブル40の回転位置、及び発振器11の揺動角度を、それぞれ位置フィードバックを行うことにより制御する。なお、
図24では、計測部60として、X軸位置センサ60X、Y軸位置センサ60Y、Z軸位置センサ60Z、回転位置センサ60R、及び揺動位置センサ60Sを記載している。X軸位置センサ60Xは、第1方向D1に移動する第1ステージ20の距離、及び位置を検出する。Y軸位置センサ60Yは、第2方向D2に移動する第2ステージ30の距離、及び位置を検出する。Z軸位置センサ60Zは、昇降する(Z方向に移動する)レーザヘッド13及基部13aの昇降量、及び昇降位置(高さ)を検出する。回転位置センサ60Rは、回転軸AX1の軸まわりに回転する回転テーブル40の回転量、及び回転角度(回転位置)を検出する。揺動位置センサ60Sは、揺動軸AX2の軸まわりに揺動する発振器11の揺動量、及び揺動角度(揺動位置)を検出する。なお、X軸位置センサ60X、Y軸位置センサ60Y、Z軸位置センサ60Z、回転位置センサ60R、及び揺動位置センサ60Sについては、
図1から
図5において図示を省略している。X軸位置センサ60X、Y軸位置センサ60Y、及びZ軸位置センサ60Zは、例えば、リニアエンコーダ、レーザ変位計などが用いられる。回転位置センサ60R及び揺動位置センサ60Sは、例えば、ロータリーエンコーダなどが用いられる。
【0086】
制御部70には、第1センサ61、第2センサ62、X軸位置センサ60X、Y軸位置センサ60Y、Z軸位置センサ60Z、回転位置センサ60R、及び揺動位置センサ60Sから出力される検出結果が入力される。制御部70は、X軸位置センサ60X、Y軸位置センサ60Y、Z軸位置センサ60Z、回転位置センサ60R、及び揺動位置センサ60Sの検出結果からそれぞれ位置フィードバックして、X駆動部50X、Y駆動部50Y、Z駆動部50Z、回転駆動部50R、及び揺動駆動部50Sの各駆動を制御する。制御部70は、上記した位置フィードバックを行いつつ、第1センサ61及び第2センサ62の少なくとも一方の検出結果に応じて駆動部50を制御することにより、レーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対位置及び相対移動を制御する。制御部70は、例えば、第1センサ61により切削工具Tの直線切刃T1Taの切刃方向D4を検出し、検出した結果に基づいて切刃方向D4が第1方向D1と指定した任意の角度になるように、回転テーブル40の回転位置を調整する。また、制御部70は、X軸位置センサ60Xの検出結果に基づいて第1ステージ20の位置制御(フィードバック制御)を行いつつ、さらに第1センサ61の検出結果に応じてX駆動部50Xを駆動して、レーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの第1方向D1における相対位置及び相対移動を制御する。
【0087】
制御部70は、例えば、第2センサ62の出力に基づいて、第1ステージ20及び第2ステージ30の少なくとも一方の移動を制御する。第2センサ62により刃先Taにレーザ光Lの加工可能領域LAが当たっているか否かを識別できるので、第1ステージ20及び第2ステージ30を精度よく移動させることができる。制御部70は、例えば、第1センサ61による検出結果に基づいて、レーザ光Lの加工可能領域LAに対する刃先TaのY方向における位置を、第2ステージ30を移動させることにより調節する。この構成により、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たるように、刃先Taの位置を容易に設定することができる。
【0088】
制御部70は、例えば、第2センサ62の結果に基づいて、プラズマ光の分光スペクトルの所定の波長の強度が予め設定された閾値を超えること、及び所定の波長の強度が閾値を下回ったこと、の少なくとも一方を判断する。この構成によれば、制御部70により、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たったタイミング、又はレーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taから外れたタイミングを精度よく検出できる。これらのタイミングにおける第1ステージ20の位置は、それぞれX軸位置センサ60Xにより検出される。制御部70は、例えば、第2センサ62の検出結果に基づいて、所定の波長の強度が閾値を超えるときをレーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先の加工開始点とし、所定の波長の強度が閾値を下回ったときをレーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先の加工終了点とする。この構成により、直線切刃T1Taの加工開始点と加工終了点とを明確に識別することができる。また、制御部70は、第1センサ61の検出結果に基づいて、成形前の刃先Taの形状を判断し、加工動作を決定してもよい。制御部70は、刃先Taの形状を確認することにより、その刃先Taに適切な加工動作を実行させることができる。また、摩耗後の刃先Taに対して再研磨を行う際に、第1センサ61の検出結果を用いることで、加工できるレベルかどうかを判断することが可能となる。
【0089】
図25は、実施形態に係る工具刃先成形方法の一例を示すフローチャートである。
図26は、
図25に続いて、実施形態に係る工具刃先成形方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、便宜的に切刃方向D4と第1方向D1とのなす角度θが、指定した角度θ=0度(平行)である場合(
図7(C)参照)を想定したフローチャートになっている。
図25及び
図26のフローチャートは、直線切刃T1を有する切削工具Tの刃先Taをパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形方法であって、上記した工具刃先成形装置100を用いて、第1センサ61からの出力に基づいて、切刃方向D4が第1方向D1と平行になるように回転テーブル40の回転位置を調整することと、回転テーブル40の回転位置を調整した後、レーザヘッド13からレーザ光Lを出射しつつ第1ステージ20を第1方向D1に移動させ、レーザ光Lの加工可能領域LAにより刃先Taを成形することと、を含んでいる。
【0090】
また、
図25及び
図26のフローチャートは、直線切刃T1を有する切削工具Tの刃先Taをパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形方法であって、直線切刃T1の切刃位置、及び切刃方向D4の少なくとも一方を検出することと、パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たることにより発生する光を検出することと、切刃位置及び切刃方向D4の少なくとも一方の検出結果、及び光の検出結果に応じて、レーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対位置及び相対移動を制御することと、を含んでいる。
【0091】
また、
図25及び
図26のフローチャートは、直線切刃T1を有する切削工具Tの刃先Taをパルスレーザグラインディングにより成形する工具刃先成形方法であって、複数の切削工具Tをそれぞれ固定する複数のホルダ42を備えるプレート(環状プレート41)を複数準備することと、パルスレーザグラインディングにおけるレーザ光Lの出射方向D3と平行な軸線(回転軸AX1)まわりに旋回可能な回転テーブル40に、プレート(環状プレート41)のいずれかを装着することと、レーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対的な位置を変更しつつ、レーザ光Lの加工可能領域LAにより刃先Taを成形することと、回転テーブル40に対してプレート(環状プレート41)を交換することと、を含んでいる。
【0092】
図25に示すように、先ず、環状プレート41(プレート)を準備する(ステップS01)。環状プレート41は、例えば複数用意され、1つの環状プレート41には複数のホルダ42(逃げ面用ホルダ43又はすくい面用ホルダ44)が取り付けられている。ステップS01では、この複数のホルダ42のそれぞれに切削工具Tを保持させることで環状プレート41の準備を行う。ホルダ42への切削工具Tの保持は、作業者による手作業で行ってもよいし、ロボットアーム等により行ってもよい。続いて、ホルダ42に切削工具Tを装着した後、環状プレート41を回転テーブル40に装着する(ステップS02)。このステップS02は、作業者による手作業で行ってもよいし、搬送ロボット等により行ってもよい。
【0093】
続いて、環状プレート41が回転テーブル40に装着された後、切削工具Tの刃先成形動作を開始する旨の指示を与える(ステップS03)。動作開始指示は、作業者が入力部73(
図24参照)を操作して行ってもよいし、環状プレート41が回転テーブル40に装着されたことをセンサ等により検知して、制御部70が行ってもよい。続いて、切削工具Tの割り出しを行う(ステップS04)。制御部70は、回転駆動部50Rを駆動して回転テーブル40を回転させ、複数の切削工具Tの中から刃先Taを成形する対象となる切削工具Tを加工位置に割り付ける。記憶部72(
図24参照)には、環状プレート41に保持されている切削工具Tの個数、種類及び割り付ける順番等に関する情報が予め記憶されており、制御部70は、その情報を読み出して、切削工具Tを加工位置に割り付ける。
【0094】
続いて、切削工具Tが割り付けられた後、切削工具Tを計測エリアAR2に移動させる(ステップS05)。制御部70は、X駆動部50Xを駆動して第1ステージ20を第1方向D1に沿って-X方向に移動させ、切削工具Tを計測エリアAR2に配置させる。続いて、前述の記憶部72の情報に基づき、第1センサ61の傾きを調整し、切削工具Tにおける直線切刃T1の刃先Taの形状を計測する(ステップS06)。制御部70は、第1センサ61に対して計測を行うように指示する。第1センサ61は、刃先Taの計測結果を制御部70に出力する。
【0095】
続いて、第1センサ61の計測結果に基づいて、直線切刃T1の切刃方向D4と第1方向D1との平行度を計算する(ステップS07)。制御部70の演算部71(
図24参照)は、第1センサ61の計測結果から刃先Taの三次元形状を算出し、その三次元形状から得られる直線切刃T1の切刃方向D4と、第1方向D1との平行度を計算する。平行度は、例えば、第1方向D1に対する切刃方向D4のずれの大きさで示される。続いて、計算した平行度が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS08)。演算部71は、計算した平行度が予め記憶部72に記憶されている閾値以下であるか否かを判定する。
【0096】
続いて、平行度が閾値より大きいと判定された場合(ステップS08のNO)、回転テーブル40を回転させる(ステップS09)。制御部70は、演算部71が計算した平行度の値を減少させるように、回転駆動部50Rを駆動して回転テーブル40を回転させる。すなわち、制御部70は、第1方向D1と切刃方向D4とが平行又はほぼ平行となるように、回転テーブル40の回転位置を調節する。回転テーブル40を回転させた後、ステップS05以降の処理が再度行われる。
【0097】
一方、平行度が閾値以下であると判定された場合(ステップS08のYES)、制御部70は、切削工具Tの補正が完了したと判定する(ステップS10)。ステップS10では、第1方向D1と切刃方向D4とが平行又はほぼ平行となり、レーザ光Lが切刃方向D4に沿って相対的に移動可能な状態となる。続いて、切削工具Tの補正が完了した後、切削工具Tを加工エリアAR1に移動させる(ステップS11)。制御部70は、X駆動部50Xを駆動して第1ステージ20を第1方向D1に沿って+X方向に移動させることで、切削工具Tを加工エリアAR1に配置させる。制御部70は、例えば、第1センサ61の検出結果から取得した直線切刃T1における切刃位置に基づいて、第1ステージ20(及び第2ステージ30)を移動させ、切削工具Tを加工エリアAR1に配置させる。
【0098】
続いて、切削工具Tを加工エリアAR1に移動させた後、レーザ光Lを出射させる(ステップS12)。制御部70は、発振器11のシャッタを開きレーザヘッド13からレーザ光Lを出射させる。レーザ光Lを出射に先立って、制御部70は、レーザ光Lの加工可能領域LAの高さ(Z方向の位置)が、刃先Taの高さに対応させるように、Z駆動部50Zを駆動してレーザヘッド13を適切な高さに設定している。続いて、レーザ光Lが出射された後、第2センサ62によりデータを取得させる(ステップS13)。制御部70は、レーザ光Lの出射時又は出射後のタイミングで、第2センサ62に対して光を検出するようにデータの取得開始を指示する。第2センサ62は、検出した光のデータ(プラズマ光の分光スペクトル)を制御部70に出力する。
【0099】
続いて、第2センサ62がデータ取得を開始した後、第1ステージ20を移動させる(ステップS14)。制御部70は、X駆動部50Xを駆動して第1ステージ20を第1方向D1に沿って+X方向に所定距離移動させた後、第1ステージ20を-X方向に移動させて元の位置に戻す。すなわち、レーザ光Lに対して、切削工具Tを第1方向D1に1往復移動させる(ステップS14)。所定距離は、例えば、レーザ光Lが切削工具Tの直線切刃T1に当たると想定される距離よりも若干長い距離が設定されることが望ましい。第1方向D1に移動する第1ステージ20の所定距離及び所定位置は、X軸位置センサ60X(
図24参照)により検出される。制御部70は、ステップS14において、X軸位置センサ60Xの検出結果により第1ステージ20の位置制御を行いつつ、第1センサ61の出力に応じて、レーザ光Lと切削工具Tとの相対位置及び相対移動を制御している。
【0100】
続いて、第1ステージ20を停止させ(ステップS15)、レーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先Taの加工開始点を計算する(ステップS16)。加工開始点の計算は、演算部71によって行う。演算部71は、第2センサ62の検出結果が閾値A以上か否かを判定する(ステップS17)。演算部71は、第2センサ62から取得したプラズマ光の分光スペクトルから、所定の波長の強度が閾値A以上か否かを判定する。演算部71は、例えば、記憶部72に記憶されている切削工具Tの材質などで決定される所定の波長を選択し、その所定の波長の強度が、予め記憶部72に記憶されている閾値A以上か否かを判定する。
【0101】
所定の波長の強度が閾値Aより小さいと判定された場合(ステップS17のNO)、第2ステージ30を移動させる(ステップS18)。制御部70は、Y駆動部50Yを駆動して第2ステージ30を第2方向D2に沿って+Y方向に所定距離だけ移動させる。所定の波長の強度が閾値Aより小さい場合は、上記したステップS14で切削工具Tを第1方向D1に移動させてもレーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たっていないことを意味する。従って、制御部70は、第2ステージ30を第2方向D2に沿って+Y方向に所定距離だけ移動させる。所定距離は、数μm、数mmなどの値が記憶部72に予め記憶されている。続いて、切削工具Tを+Y方向に所定距離移動させた後、ステップS14以降の処理が再度行われる。
【0102】
一方、所定の波長の光の強度が閾値A以上と判定された場合(ステップS17のYES)、演算部71は、加工開始点を決定する(ステップS19)。演算部71は、所定の波長の強度が閾値A以上と判定されたときの切削工具T(刃先Ta)の位置(例えば、X方向及びY方向の座標値)を、レーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先Taの加工開始点とする。
【0103】
図27は、第2センサ62で取得したデータの一例を示す図である。
図27において、グラフの横軸は、加工時間を示す。また、グラフの縦軸は、刃先Taにレーザ光Lの加工可能領域LAが当たったときに発生するプラズマ光のうち、第2センサ62により検出された所定の波長の光の強度を示している。
図27に示すように、閾値Aは、光の強度の最大値より低い値に設定されている。つまり、閾値Aは、レーザ光Lの加工可能領域LAがわずかに刃先Taに当たり、発生するプラズマ光の量が少ない状態の値に設定されている。ステップS19において、演算部71は、第2センサ62が検出した値が閾値A以上となった時点を加工開始点とする。
【0104】
続いて、
図26に示すように、演算部71は、切削工具T(刃先Ta)について、加工開始点から+Y方向に移動した移動量の合計が閾値以上か否かを判定する(ステップS20)。移動量の閾値は、予め記憶部72に記憶されており、演算部71は、移動量の合計が閾値以上か否かを判定する。移動量の合計が閾値より小さいと判定された場合(ステップS20のNO)、第2ステージ30を移動させる(ステップS20)。制御部70は、Y駆動部50Yを駆動して、第2ステージ30を第2方向D2に沿って+Y方向に所定距離だけ移動させる。所定距離は、数μm、数mmなどの値が記憶部72に予め記憶されている。ステップS20における所定距離は、ステップS18における所定距離と同一であってもよいし、異なってもよい
【0105】
続いて、第2ステージ30を移動させた後、第2センサ62によりデータを取得させる(ステップS22)。制御部70は、第2ステージ30を移動させたタイミングで、第2センサ62に対して光を検出するようにデータの取得開始を指示する。第2センサ62は、検出した光のデータ(プラズマ光の分光スペクトル)を制御部70に出力する。続いて、第1ステージ20を繰り返して往復移動させる(ステップS23)。制御部70は、X駆動部50Xを駆動して、第1ステージ20を第1方向D1に沿って+X方向に移動させ、その後、第1ステージ20を-X方向に移動させて元の位置に戻すといった1往復移動を繰り返して実行させる。繰り返し回数は、記憶部72に設定されている。ステップS23において、第1ステージ20の移動量は、直線切刃T1を超える長さに設定されている。このステップS23により、レーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先Taの成形が行われる。
【0106】
図28は、レーザ光Lの加工可能領域LAにより刃先Taを成形している状態を示し、(A)はレーザ光Lの加工可能領域LAを示す図であり、(B)は、加工可能領域を説明する図である。
図29は、刃先Taとレーザ光Lの加工可能領域LAとの相対的な移動を示す図である。
図28(A)に示すように、レーザヘッド13から出射されるレーザ光Lには、光軸方向の一部に円筒状の加工可能領域LAが形成される。レーザ光Lは、
図28(B)に示すように、光軸L1に対する垂直面内の強度分布がガウス分布に近いビームである。加工可能領域LAは、レーザ光Lのうち、刃先Taの材料特性に応じた加工閾値H以上のエネルギ密度を有する領域である。加工可能領域LAを刃先Taに接触させることで、刃先Taの一部をアブレーションさせ、刃先Taを成形することができる。加工可能領域LAは、例えば、レーザ光Lの光軸L1からの距離(レーザ光Lの断面における半径)により規定することができる。加工可能領域LAを規定することにより、レーザ光Lと刃先Taとの位置関係を容易に設定することが可能となる。
【0107】
図29に示すように、切削工具Tを第1方向D1に沿って移動させることにより、レーザ光Lの加工可能領域LAが直線切刃T1の刃先Taに沿って(切刃方向D4に沿って)照射される。なお、レーザ光Lを照射した際、レーザ光Lの加工可能領域LAが照射された刃先Taの表面側の一部(
図29の刃先Taにおいてハッチングした部分)がアブレーションにより除去されるように、レーザ光Lの加工可能領域LAのエネルギ及びレーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対速度が設定される。レーザ光Lの加工可能領域LAのエネルギを高めると、又はレーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対速度を遅くすると、レーザ光Lの加工可能領域LAにより、除去すべき部分を超えてアブレーションを生じさせ、又は熱変形を生じさせる場合があるため、好ましくない。従って、刃先Taの同じ個所を複数回照射することで段階的に刃先Taの一部を除去し、所望の部分の除去を行うようにしている。
【0108】
続いて、演算部71は、停止判断処理を行う(ステップS24)。演算部71は、第2センサ62の検出結果から、ステップS23における第1ステージ20の移動に対して停止させるか否かの判断を行う。演算部71は、第2センサ62の検出結果が閾値B以上か否かを判定する(ステップS25)。演算部71は、第2センサ62から取得したプラズマ光の分光スペクトルから、所定の波長の強度が閾値B以上か否かを判定する(ステップS25)。演算部71は、ステップS17と同様に、所定の波長の強度が、予め記憶部72に記憶されている閾値B以上か否かを判定する。
【0109】
所定の波長の強度が閾値B以上と判定された場合(ステップS25のYES)、ステップS23以降の処理が再度行われる。ステップS25で所定の波長の強度が閾値B以上と判定された場合は、上記したように、除去すべき所望の部分が完全に除去されていない状態である。従って、その場合は、ステップS23以降の処理が再度行われ、刃先Taの同一カ所に対して繰り返してレーザ光Lを照射させる。一方、所定の波長の強度が閾値より小さいと判定された場合(ステップS25のNO)、第1ステージ20の移動を停止させる(ステップS26)。制御部70は、X駆動部50Xの駆動を止めて、第1ステージ20の移動を停止させる。続いて、制御部70は、ステップS20以降の処理が再度実行させる。なお、制御部70は、ステップS21からステップS26において、第2センサ62の出力に応じて、レーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対位置及び相対移動を制御している。
【0110】
図30は、第2センサ62で取得したデータの他の例を示す図である。
図30において、グラフの横軸は、加工時間を示す。また、グラフの縦軸は、
図27と同様、刃先Taにレーザ光Lの加工可能領域LAが当たったときに発生するプラズマ光のうち、第2センサ62により検出された所定の波長の光の強度を示している。
図30に示すように、閾値Bは、
図27の閾値Aより低い値に設定されている。閾値B以上の値を検出している場合は、レーザ光Lの加工可能領域LAにより刃先Taを成形している状態と判断されるが、閾値Bより小さい値の場合は、刃先Taにおける所望の部分の除去が完了して、わずかなプラズマ光が発生している状態と判断される。また、
図30では、極大値と極小値とを繰り返したグラフとなっている。これは、第1ステージ20の繰り返し往復移動により、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taに当たっている時点と、レーザ光Lの加工可能領域LAが刃先Taから外れた時点とが繰り返されていることに起因する。
【0111】
図26のフローチャートに戻り、ステップS20において、切削工具T(刃先Ta)の移動量の合計が閾値以上と判定された場合(ステップS20のYES)、レーザ光Lの出射を停止させる(ステップS27)。制御部70は、発振器11のシャッタを閉じ、レーザヘッド13からのレーザ光Lの出射を停止させる。続いて、レーザ光Lの出射を停止させた後、制御部70は、切削工具Tにおける刃先Taの成形が完了したと判断し(ステップS28)、レーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先Taの加工終了点を決定する(ステップS29)。制御部70は、切削工具Tにおける刃先Taの成形が完了したときの直線切刃T1の位置(例えば、X方向及びY方向の座標値)を、レーザ光Lの加工可能領域LAによる刃先Taの加工終了点とする。
【0112】
続いて、加工終了点が決定された後、切削工具Tを計測エリアAR2に移動させる(ステップS30)。制御部70は、X駆動部50Xを駆動して第1ステージ20を第1方向D1に沿って-X方向に移動させ、切削工具Tを計測エリアAR2に配置させる。続いて、切削工具Tを計測エリアAR2に移動させた後、切削工具Tの刃先Taの形状を計測する(ステップS29)。制御部70は、第1センサ61に対して刃先Taの形状計測を実行するように指示する。第1センサ61は、切削工具Tの刃先Taの形状を計測し、計測結果を制御部70に出力する。
【0113】
続いて、制御部70は、第1センサ61から計測結果を取得した後、切削工具Tの刃先Taの形状を計算する(ステップS30)。演算部71は、第1センサ61から計測結果に基づいて、例えば、刃先Taの三次元形状を計算する。また、演算部71は、計算した三次元形状と設計値との比較データ(ずれ量など)を計算してもよい。続いて、切削工具Tの刃先Taの形状を計算した後、計算結果を記録する(ステップS31)。演算部71は、ステップS30で計算した刃先Taの三次元形状を記憶部72に記憶させる。また、上記したように、演算部71が比較データ(ずれ量など)を計算した場合は、この比較データを記憶部72に記憶させてもよい。また、成形後の計測結果が設計値と異なり加工が足らない場合は、再度追加の加工を指示することも可能である。また、加工しすぎた場合は、表示部74(
図24参照)に不合格の表示を出すことも可能である。
【0114】
続いて、計算結果が記録された後、制御部70は、環状プレート41に保持される複数の切削工具Tのうち、未加工の切削工具Tが残っているか否かを判断する。未加工の切削工具Tが残っている場合は、予め設定された順番で次に成形加工される切削工具Tが選定され、ステップS04以降の処理が行われる。また、未加工の切削工具Tが残っていない場合は、切削工具Tの割り出しを終了させる(ステップS34)。制御部70は、環状プレート41に保持される全ての切削工具Tについて刃先Taの成形が完了した場合、切削工具Tの割り出しを終了させる。続いて、制御部70は、工具刃先成形装置100の動作が終了した旨を指示する(ステップS35)。制御部70は、環状プレート41に保持される全ての切削工具Tに対して刃先Taの成形が完了したことから、工具刃先成形装置100の各部の動作を停止させる。
【0115】
続いて、工具刃先成形装置100の各部の動作を停止させた後、環状プレート41を交換するか否かを判断する(ステップS36)。ステップS36では、制御部70が判断してもよいし、作業者が判断してもよい。制御部70が判断する場合、予め記憶部72等に、ステップS01で準備した環状プレート41の数に関する情報を記憶させておき、制御部70は、刃先Taの成形が完了した環状プレート41の数をカウントして、まだ成形を行っていない環状プレート41を指示する形態であってもよい。この指示内容は、例えば、表示部74(
図24参照)に表示させてもよい。環状プレート41を交換する場合(ステップS36のYES)、回転テーブル40に新たな環状プレート41が装着され、ステップS02以降の処理が行われる。また、環状プレート41を交換しない場合(ステップS36のNO)、一連の処理が終了する。
【0116】
なお、上記した実施形態では、円環状の環状プレート41が用いられる構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。
図31は、矩形プレート47の一例を示し、(A)は平面図、(B)は矩形プレート47を回転テーブル40に装着した状態を示す側面図である。
図31(A)及び(B)に示すように、矩形プレート47は、平面視において矩形の板状に形成されている。矩形プレート47は、環状プレート41と同様、回転テーブル40に対して着脱可能である。矩形プレート47の上面(+Z側の面)には、環状プレート41と同様に複数のホルダ42が取り付けられる。複数のホルダ42は、矩形プレート47の一辺47aに沿って配置される。
【0117】
矩形プレート47及び回転テーブル40には、回転テーブル40に対して矩形プレート47を位置決めするための、図示しない位置決め部及び被位置決め部が設けられている。その結果、回転テーブル40の回転位置を制御することにより、環状プレート41と同様、矩形プレート47のホルダ42に保持された切削工具Tの切刃方向D4と、第1方向D1とを指定した任意の角度にすることができる。また、第1ステージ20を第1方向D1(X方向)に移動させることで、複数の切削工具Tのいずれかをレーザ光Lによる加工位置に割り付けることができる。
【0118】
上記説明したように、工具刃先成形装置100及び工具刃先成形方法によれば、直線切刃T1の切刃方向D4が第1方向D1と指定した任意の角度となるように回転テーブル40の回転位置を調整することにより、第1ステージ20が第1方向D1に移動することで、直線切刃T1の切刃方向D4に対して精度よくレーザ光Lを照射することができる。その結果、切削工具Tの刃先Taを精度よく成形することができる。
【0119】
また、上記した工具刃先成形装置100及び工具刃先成形方法によれば、第1センサ61及び第2センサ62の少なくとも一方の出力に応じて、レーザ光Lの加工可能領域LAと切削工具Tとの相対位置及び相対移動が制御されるので、レーザ光Lの加工可能領域LAを、直線切刃T1の切刃方向D4に対して相対的に精度よく移動させることができる。その結果、切削工具Tの刃先Taを精度よく、かつ効率的に成形することができる。
【0120】
また、上記した工具刃先成形装置100及び工具刃先成形方法によれば、回転テーブル40が、レーザ光Lの出射方向D3と平行な軸線まわりに旋回可能であるので、切削工具Tにおける直線切刃T1の切刃方向D4を容易に調整することができる。その結果、切削工具Tの刃先Taを精度よく成形することができる。また、切削工具Tを保持するホルダ42を回転テーブル40に対して着脱させることで、切削工具Tの交換、又は切削工具Tに適したホルダ42に容易に交換することができる。
【0121】
以上、実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記した実施形態で説明した範囲には限定されない。上記した実施形態で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上記した実施形態で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、上記した実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能であることは当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、特許請求の範囲、明細書及び図面において示した処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、各処理は、任意の順序で実現することができる。特許請求の範囲、明細書及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず」、「続いて」等を用いて説明しても、この順で実施することが必須であることを意味しない。
【符号の説明】
【0122】
AR1・・・加工エリア
AR2・・・計測エリア
AX1・・・回転軸
AX2・・・揺動軸
D1・・・第1方向
D2・・・第2方向
D3・・・出射方向
D4・・・切刃方向
L・・・レーザ光
LA・・・加工可能領域
T・・・切削工具
T1・・・直線切刃
Ta・・・刃先
Tb・・・逃げ面
Tc・・・すくい面
10・・・レーザ照射機構
11・・・発振器
12・・・光学系
13・・・レーザヘッド
20・・・第1ステージ
22・・・ビームダンパ
30・・・第2ステージ
40・・・回転テーブル
40a・・・位置決め部
40b・・・ダイヤピン(位置決め部)
40e・・・凸部(位置決め部)
41・・・環状プレート(プレート)
41a・・・被位置決め部
41b・・・穴部(被位置決め部)
41e・・・凹部(被位置決め部)
42・・・ホルダ
43・・・逃げ面用ホルダ
43d、44d・・・板バネ(弾性部材)
44、45・・・すくい面用ホルダ
46b・・・コイルスプリング(弾性部材)
47・・・矩形プレート(プレート)
50・・・駆動部
50X・・・X駆動部
50Y・・・Y駆動部
50R・・・回転駆動部
50S・・・揺動駆動部
50Z・・・Z駆動部
60・・・計測部
61・・・第1センサ
62・・・第2センサ
70・・・制御部
80・・・ベッド
100・・・工具刃先成形装置