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7619178液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、重合体及び化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、重合体及び化合物
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20250115BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021099685
(22)【出願日】2021-06-15
(65)【公開番号】P2022191063
(43)【公開日】2022-12-27
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】藤下 翔平
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/002501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-1)で表される部分構造及び下記式(1-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である部分構造(A)を主鎖中に有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1-1)及び式(1-2)中、R及びRは、それぞれ独立して、1価の熱脱離性基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。n1及びn2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。n1が2又は3の場合、式中の複数のR は同一又は異なる。n2が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。Xは、-O-、*-CO-O-、*-O-CO-、-NR-、*-NR-CO-、又は*-CO-NR-である。R は、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、式中のベンゼン環との結合手であることを表す。Aは、炭素数1~10のアルカンジイル基である。「*」は、結合手であることを表す。)
【請求項2】
前記重合体[P]は、前記部分構造(A)を有するジアミンに由来する構造単位を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記ジアミンは、下記式(2-1)で表される化合物及び下記式(2-2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(2-1)及び式(2-2)中、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、2価の有機基である。B及びBは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。R、R、R、R、R、R、R、R、n1、n2、X及びAは、上記式(1-1)及び式(1-2)と同義である。)
【請求項4】
前記重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体[P]は、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記部分構造(A)を有しない重合体[Q]を更に含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する工程と、
を含む、液晶配向膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【請求項10】
下記式(2-1)で表される化合物及び下記式(2-2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を有する、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミド。
【化3】
(式(2-1)及び式(2-2)中、R及びRは、それぞれ独立して、1価の熱脱離性基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。n1及びn2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。n1が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。n2が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。Xは、-O-、*-CO-O-、*-O-CO-、-NR-、*-NR-CO-、又は*-CO-NR-である。R は、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、式中のベンゼン環との結合手であることを表す。Aは、炭素数1~10のアルカンジイル基である。Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、2価の有機基である。B及びBは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、重合体及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶テレビやインフォメーションディスプレイ等といった比較的大型の表示装置から、スマートフォン等の小型の表示装置まで幅広い用途に適用されている。液晶素子の性能は、液晶の配向性やプレチルト角の大きさ、電圧保持率等の各種特性により決定される。液晶素子の性能を向上させるべく、従来、液晶材料の改良のほか、液晶を一定方向に配列させるための液晶配向膜の改良が行われている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であるポリアミック酸及びその誘導体を含有する液晶配向剤において、ジアミンとしてビス(5-アミノベンゾイミダゾール)ベンゼンを用いて得られたポリアミック酸を液晶配向剤に含有させることが開示されている。また、特許文献2には、ジアミンとしてN1,N4-ビス[(2-tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-アミノフェニル]アジパミドを用いて得られたポリイミドを液晶配向剤に含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-54872号公報
【文献】国際公開第2014/104015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベンゾイミダゾール骨格を有するモノマー及び当該モノマーを用いて得られる重合体は溶解性や保存安定性が低く、液晶配向剤の保存安定性が良好でないことが懸念される。また、特許文献2に記載の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜は透過率が低く、表示品位が十分でないことが懸念される。さらに、液晶素子には、長期に亘って使用した場合にも高い電圧保持率を維持でき、信頼性が高いことが求められる。
【0006】
また、スマートフォンや車載用途の液晶素子には、外力を受けたことに起因する表示品位の低下が生じにくく、タッチパネルとしての特性が良好であることも求められる。すなわち、タッチパネル耐性(打鍵耐久性ともいう)と液晶配向性との両立が求められる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、透過率が高い液晶配向膜を形成できるとともに、長期に亘って使用した場合にも電圧保持率の低下が少なく、かつタッチパネル耐性に優れた液晶素子を製造でき、しかも保存安定性が良好な液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、特定の部分構造を重合体中に導入することにより、上記課題を解決できることを見出した。具体的には、本発明により以下の手段が提供される。
【0009】
<1> 下記式(1-1)で表される部分構造及び下記式(1-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である部分構造(A)を有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1-1)及び式(1-2)中、R及びRは1価の熱脱離性基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。n1及びn2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。n1が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。n2が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。Xは、単結合、-O-、-S-、-CO-、*-CO-O-、*-O-CO-、-NR-、*-NR-CO-、*-CO-NR-、*-NR-CO-O-又は-NR-CO-NR10-である。R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、式中のベンゼン環との結合手であることを表す。Aは、炭素数1~10のアルカンジイル基である。「*」は、結合手であることを表す。)
【0010】
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<1>の液晶配向剤を用いて塗膜を形成する工程と、前記塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
<4> 上記<2>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【0011】
<5> 下記式(2-1)で表される化合物及び下記式(2-2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を有する、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミド。
【化2】
(式(2-1)及び式(2-2)中、R及びRは、それぞれ独立して、1価の熱脱離性基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。n1及びn2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。n1が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。n2が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。Xは、単結合、-O-、-S-、-CO-、*-CO-O-、*-O-CO-、-NR-、*-NR-CO-、*-CO-NR-、*-NR-CO-O-又は-NR-CO-NR10-である。R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、式中のベンゼン環との結合手であることを表す。Aは、炭素数1~10のアルカンジイル基である。Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、2価の有機基である。B及びBは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。)
【0012】
<6> 上記式(2-1)で表される化合物。
<7> 上記式(2-2)で表される化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶配向剤によれば、透過率が高い液晶配向膜を形成することができる。また、本発明の液晶配向剤によれば、長期に亘って使用した場合にも電圧保持率の低下が少なく信頼性が高く、かつタッチパネル耐性に優れた液晶素子を製造することができる。さらに、本発明の液晶配向剤は保存安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《液晶配向剤》
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0015】
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0016】
本開示の液晶配向剤は、下記式(1-1)で表される部分構造及び下記式(1-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である部分構造(A)を有する重合体[P]を含有する。
【化3】
(式(1-1)及び式(1-2)中、R及びRは1価の熱脱離性基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~5のアルキル基である。n1及びn2は、それぞれ独立して、0~3の整数である。n1が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。n2が2又は3の場合、式中の複数のRは同一又は異なる。Xは、単結合、-O-、-S-、-CO-、*-CO-O-、*-O-CO-、-NR-、*-NR-CO-、*-CO-NR-、*-NR-CO-O-又は-NR-CO-NR10-である。R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。「*」は、式中のベンゼン環との結合手であることを表す。Aは、炭素数1~10のアルカンジイル基である。「*」は、結合手であることを表す。)
【0017】
<重合体[P]>
(部分構造(A))
上記式(1-1)及び式(1-2)において、R及びRで表される1価の熱脱離性基は、加熱により脱離して水素原子に置き換わる基である。熱脱離性基の具体例としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量を少なくできる点で、Boc基が特に好ましい。
【0018】
、R、R及びRで表される1価の有機基は、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は1価の熱脱離性基であることが好ましい。R、R、R及びRで表される基が1価の炭化水素基である場合、当該1価の炭化水素基は、炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。R、R、R及びRで表される基が1価の熱脱離性基である場合の具体例としては、R及びRで表される1価の熱脱離性基として例示した基と同様の基が挙げられる。
【0019】
、R、R及びRで表される基が1価の有機基である場合、当該1価の有機基は、上記のうち、炭素数1~3のアルキル基又は熱脱離性基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基であることがより好ましい。
【0020】
膜形成時の加熱により分子内の環化反応を生じやすくする観点から、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は1価の熱脱離性基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0021】
及びRにおいて、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1~5のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。R及びRで表される基は、ハロゲン原子又は炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
n1及びn2は、0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0022】
で表される基が-NR-、*-NR-CO-、*-CO-NR-、*-NR-CO-O-又は-NR-CO-NR10-である場合、R及びR10において1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基又は1価の熱脱離性基であることが好ましい。炭素数1~10の1価の炭化水素基の具体例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、及び炭素数6~10のアリール基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基及びフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0023】
及びR10で表される1価の有機基が1価の熱脱離性基である場合の具体例としては、R及びRの具体例と同様の基が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量をできるだけ少なくできる点で、Boc基が特に好ましい。R及びR10は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は1価の熱脱離性基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基がより好ましい。
【0024】
は、良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点及び部分構造(A)を構成する骨格の合成容易性の観点から、上記のうち、-O-、*-CO-O-、*-O-CO-、-NR-、*-NR-CO-又は*-CO-NR-であることが好ましい。
【0025】
で表される炭素数1~10のアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。膜密度を高くでき、電圧保持特性及びタッチパネル耐性の改善効果が高い液晶配向膜を形成できる点、並びに着色が抑制された液晶配向膜を形成できる点で、Aは、直鎖状のアルカンジイル基であることが好ましい。Aの炭素数は、高い電圧保持率を示す液晶素子を得る観点、及び良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、6以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0026】
膜の高密度化を図る観点から、上記式(1-1)及び式(1-2)における式中のカルボニル基は、飽和鎖状炭化水素構造に結合していることが好ましい。具体的には、重合体[P]は、下記式(3-1)で表される部分構造及び下記式(3-2)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。
【化4】
(式(3-1)及び式(3-2)中、D及びDは、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルカンジイル基である。R、R、R、R、R、R、R、R、n1、n2、X及びAは、上記式(1-1)及び式(1-2)と同義である。)
【0027】
上記式(1-1)及び式(1-2)において、D及びDで表される炭素数1~10のアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。膜の高密度化を図り、電圧保持特性及びタッチパネル耐性の改善効果が高い液晶配向膜を形成できる点、並びに着色が抑制された液晶配向膜を形成できる点で、D及びDは、直鎖状のアルカンジイル基であることが好ましい。
【0028】
タッピング等により外力を受けた場合にも表示品位の低下を抑制でき、タッチパネル耐性の改善効果が高い点において、重合体[P]は、部分構造(A)を主鎖中に有していることが好ましい。部分構造(A)を主鎖に有する重合体の合成容易性の観点から、重合体[P]は、好ましくは、部分構造(A)を有する単量体を用いて重合する方法により製造することができる。部分構造(A)を有する単量体は、液晶との親和性及び機械的強度が高い液晶配向膜を形成できる点、並びに単量体の選択の自由度が高い点で、部分構造(A)を有するジアミン化合物(以下、「特定ジアミン」ともいう)が好ましい。
【0029】
なお、本明細書において、重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。つまり、重合体が「部分構造(A)を主鎖に有する」とは、部分構造(A)が重合体の主鎖の一部分を構成することをいう。重合体の「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。
【0030】
(特定ジアミン)
特定ジアミンは、部分構造(A)及び2個の1級アミノ基を有する単量体であればよく、その他の部分の構造については特に限定されない。特定ジアミンの好ましい具体例としては、下記式(2-1)で表される化合物及び下記式(2-2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【化5】
(式(2-1)及び式(2-2)中、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立して、2価の有機基である。B及びBは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。R、R、R、R、R、R、R、R、n1、n2、X及びAは、上記式(1-1)及び式(1-2)と同義である。)
【0031】
上記式(2-1)及び式(2-2)において、Y、Y、Y及びYで表される2価の有機基としては、2価の鎖状基及び環状基を挙げることができ、2価の環状基が好ましい。当該2価の環状基としては、2価の脂環式基及び芳香環基が挙げられる。
【0032】
2価の脂環式基としては、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環等の脂環式炭化水素環から2個の水素原子を取り除いた基が挙げられる。2価の脂環式基において、脂環式炭化水素環の環部分には置換基が導入されていてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0033】
2価の芳香環基としては、2価の芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基が挙げられ、好ましくは、2価の芳香族炭化水素環基及び窒素含有芳香族複素環基である。これらの具体例としては、2価の芳香族炭化水素環基として、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環又はアントラセン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の水素原子を取り除いてなる基を;2価の窒素含有芳香族複素環基として、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環の環を構成する炭素原子に結合する任意の水素原子を2個取り除いてなる基を、それぞれ挙げることができる。2価の芳香環基において、芳香環の環部分には置換基が導入されていてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0034】
液晶配向膜の高密度化を図る観点から、Y、Y、Y及びYで表される2価の有機基は、2価の芳香族炭化水素環基又は窒素含有芳香族複素環基であることが好ましく、置換又は無置換のフェニレン基、ビフェニレン基又はピリジンジイル基であることがより好ましく、置換又は無置換のフェニレン基であることが更に好ましい。
【0035】
及びBは、少なくとも一方が炭素数1~10のアルカンジイル基であることが好ましく、B及びB共に炭素数1~10のアルカンジイル基であることがより好ましい。B及びBで表される炭素数1~10のアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。膜の高密度化を図り、電圧保持特性及びタッチパネル耐性の改善効果が高い液晶配向膜を形成できる点、並びに着色が抑制された液晶配向膜を形成できる点で、B及びBは、直鎖状のアルカンジイル基であることが好ましい。B及びBの炭素数は、高い電圧保持率を示す液晶素子を得る観点、及び良好な液晶配向性を示す液晶素子を得る観点から、6以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0036】
特定ジアミンの具体例としては、下記式(4-1)~(4-12)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、式中、「Boc」は、tert-ブトキシカルボニル基を表す(以下同じ)。
【化6】
【化7】
【0037】
重合体[P]において、部分構造(A)を有する単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位(UA)」ともいう)の含有割合は、高い電圧保持率(VHR)を示すとともに、長期に亘って使用した場合にも電圧保持率の低下が少なく、かつタッチパネル耐性に優れた液晶素子を得る観点から、重合体[P]が有する単量体単位の全量100モル%に対し、2モル%以上であることが好ましい。構造単位(UA)の含有割合は、重合体[P]が有する単量体単位の全量に対し、より好ましくは5モル%以上であり、更に好ましくは7モル%以上である。また、構造単位(UA)の含有割合は、重合体[P]の主鎖に応じて適宜設定され得るが、重合体[P]を縮合重合により得る場合、重合体[P]が有する単量体単位の全量に対し、例えば50モル%以下である。なお、重合体[P]が有する構造単位(UA)は1種のみでもよく、2種以上であってもよい。
【0038】
特定ジアミンは、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより合成することができる。合成方法の一例としては、上記式(2-1)及び上記式(2-2)中の1級アミノ基に代えてニトロ基を有するジニトロ中間体を合成し、次いで、得られたジニトロ中間体のニトロ基を適当な還元系を用いてアミノ化する方法が挙げられる。
【0039】
上記ジニトロ中間体を合成する方法は特に限定されず、目的とする化合物に応じて、カルボン酸とアミンとの縮合反応や、カルボン酸とアルコールとの縮合反応、カルボン酸とフェノールとの縮合反応等を適宜選択することにより合成することができる。カルボン酸とアミンとの縮合反応を利用して上記ジニトロ中間体を得る場合の具体的な合成例の一例を以下に示す。
【化8】
(スキーム中、Zはアルカンジイル基である。)
【化9】
(スキーム中、Zはアルカンジイル基である。)
【0040】
上記ジニトロ中間体の還元反応は、好ましくは有機溶媒中、例えばパラジウム炭素、酸化白金、亜鉛、鉄、スズ、ニッケル、白金炭素、オスミウム炭素等の触媒を用いて実施することができる。ここで使用する有機溶媒としては、例えば酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、アルコール系等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を2種以上混合して使用してもよい。ただし、上記式(2-1)で表される化合物及び上記式(2-2)で表される化合物の合成手順は上記方法に限定されるものではない。
【0041】
(重合体[P]の製造)
重合体[P]の主鎖は特に限定されない。液晶との親和性及び機械的強度が高く、かつ信頼性の高い液晶配向膜を形成できる点で、重合体[P]は中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
(ポリアミック酸)
重合体[P]がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸[P]」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0043】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物を;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0044】
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、溶解性が高く、かつ良好な液晶配向性及び電気特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましい。
【0045】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸[P]の合成に使用されるジアミン化合物は、特定ジアミンのみであってもよいが、特定ジアミンとともに、部分構造(A)を有しないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)を使用してもよい。その他のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0046】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、6,6’-(ペンタメチレンジオキシ)ビス(3-アミノピリジン)、N,N’-ジ(5-アミノ-2-ピリジル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェネチルウレア、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、3,6-ジアミノアクリジン、ジフェニルアミン構造含有モノマー、下記式(D-1)
【化10】
(式(D-1)中、R11及びR12は、それぞれ独立して、アルカンジイル基である。R13は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は1価の熱脱離性基である。n3は1~3の整数である。n3が2又は3の場合、複数のR12は同一又は異なり、複数のR13は同一又は異なる。)
で表される化合物等の主鎖型ジアミン;
ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化11】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)である。Rは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を、
ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を、それぞれ挙げることができる。
【0047】
ジフェニルアミン構造含有モノマーとしては、例えば下記式(C-1-1)~式(C-1-8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。上記式(D-1)で表される化合物としては、例えば下記式(D-1-1)~式(D-1-3)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。上記式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。その他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化12】
【化13】
【0048】
ポリアミック酸[P]の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、高VHRを示し、長期に亘って使用した場合にもVHRの低下が少なく、かつタッチパネル耐性に優れた液晶素子を得る観点から、ポリアミック酸[P]の合成に使用するジアミン化合物の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが更に好ましい。特定ジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸[P]は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸[P]の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0050】
ポリアミック酸[P]の合成反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を反応溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量が、反応溶液の全量に対して0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0051】
以上のようにして、ポリアミック酸[P]を溶解してなる重合体溶液が得られる。この重合体溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、重合体溶液中に含まれるポリアミック酸[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0052】
・ポリアミック酸エステル
重合体[P]がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下、「ポリアミック酸エステル[P]」ともいう)は、例えば、[I]ポリアミック酸[P]とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。ポリアミック酸エステル[P]は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステル[P]を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステル[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0053】
・ポリイミド
重合体[P]がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド[P]」ともいう)は、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸[P]を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド[P]は、その前駆体であるポリアミック酸[P]が有していたアミック酸構造の全てを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミド[P]は、イミド化率が20~99%であることが好ましく、30~90%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0054】
ポリアミック酸[P]の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸[P]を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸[P]のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸[P]の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド[P]を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0055】
液晶配向剤の調製に使用する重合体[P]の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体[P]の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0056】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。なお、液晶配向剤の調製に際し、重合体[P]としては1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体[P]のほか、必要に応じて、重合体[P]とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0058】
・重合体[Q]
本開示の液晶配向剤は、重合体成分として、部分構造(A)を有しない重合体(以下、「重合体[Q]」ともいう)を更に含有してもよい。重合体[Q]の主骨格は特に限定されない。その他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。
【0059】
信頼性の高い液晶素子を得る観点から、重合体[Q]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、及び重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、及びスチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。重合体[Q]はこれらの中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0060】
重合体[Q]を液晶配向剤に含有させる場合、重合体[Q]の含有割合は、重合体[P]と重合体[Q]との合計量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。また、重合体[Q]の含有割合は、重合体[P]と重合体[Q]との合計量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。重合体[Q]としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0061】
・溶剤
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0062】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。溶剤としては、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0063】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば、架橋剤、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0064】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、より良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で好適である。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすく、また、液晶配向剤の粘性が適度となり塗布性を良好にできる傾向がある。
【0065】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は、各動作モード共通である。
【0066】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜等を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。
【0067】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されない。基板への液晶配向剤の塗布は、例えば、スピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式法等により行うことができる。
【0068】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0069】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)が施される。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットンやナイロン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために該塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0070】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0071】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/mであり、より好ましくは500~10,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0072】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、中でもネマチック液晶が好ましい。
【0073】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0074】
ここで、上記部分構造(A)を有する重合体[P]を含む液晶配向剤を基板上に塗布し、加熱することにより液晶配向膜を形成した場合、上記式(1-1)又は上記式(1-2)中の窒素に結合する熱脱離性基(R、R)が脱離するとともに、上記式(1-1)又は上記式(1-2)中のカルボニル基と窒素含有官能基との環化反応が起こり、ベンゾイミダゾール環構造が形成されると考えられる。かかる重合体[P]は、液晶配向剤に含まれている状態ではベンゾイミダゾール環構造を含んでおらず、溶解性が良好であり、液晶配向剤の保存安定性が良好である。その一方で、重合体[P]は、膜形成時の加熱により分子内で環化反応を起こし、これにより重合体[P]中にベンゾイミダゾール環構造が形成されると考えられる。また、上記式(1-1)及び上記式(1-2)中の窒素に結合する熱脱離性基(R、R)が脱離することにより生じた官能基の一部は、分子間の架橋反応に寄与すると考えられる。これにより、重合体[P]を含む液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜は、高VHRを示すとともに、長期に亘って使用した場合にもVHRの低下が少なく、かつタッチパネル耐性に優れた液晶素子を得ることができるものと考えられる。
【0075】
本開示の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例に基づき実施形態をより詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0077】
以下の例において、モノマーの純度、重合体の重量平均分子量(Mw)、重合体の数平均分子量(Mn)、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、及び重合体溶液の溶液粘度は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
[モノマーの純度]
モノマーの純度(LC純度)は、以下の条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
カラム:AGILENT ZORBAX Eclipse XDB C18
溶剤:テトラヒドロフラン70%と酢酸アンモニウム含有の水30%の混合溶剤
温度:40℃
[重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
Mw及びMnは、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:リチウムブロミド及びリン酸含有のN,N-ジメチルホルムアミド溶液
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A/(A×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0078】
化合物の略号は以下の通りである。なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と示すことがある。
(テトラカルボン酸二無水物)
【化14】
【0079】
(ジアミン化合物)
【化15】
【化16】
【化17】
【0080】
<モノマーの合成>
[合成例1A]
下記スキームに従い、ジアミン(DA-1)を合成した。
【化18】
【0081】
窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、2,5-ジアミノ-tert-ブトキシカルボニルアミノベンゼン(0.61g)、4-ニトロヒドロ桂皮酸(1.18g)、4-ジメチルアミノピリジン(18.1mg)を入れて窒素置換し、ジクロロメタン4mLを加え、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、ジクロロメタン6.5mL中に分散した1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(1.32g)を滴下し、室温で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液に水10mL加えて撹拌した後に有機層を濃縮することで生成物を析出させた。得られた水分散液を濾過し、粗生成物を水及び2-プロパノールで洗浄し、真空乾燥することで、白色粉末のニトロ体中間生成物(1.50g,収率94%)を得た。
続いて、還流管及び窒素導入管を備えた3つ口フラスコに、パラジウムカーボンを0.75g入れ、窒素置換した。そこへ窒素バブリングにより脱気したテトラヒドロフラン10mL、エタノール2.5mLを入れ、ニトロ体中間生成物(1.50g)を添加後、撹拌して懸濁溶液とした。反応溶液へヒドラジン一水和物0.76mLを室温でゆっくりと滴下した。滴下後、60℃ まで徐々に昇温し、4時間撹拌した。反応溶液にテトラヒドロフラン10mLを加えて希釈し、セライト濾過した後に濃縮することで生成物を析出させた。得られた析出物を水及び2-プロパノールで洗浄し、真空乾燥することにより、白色固体のジアミン(DA-1)(1.00g,収率75%)を得た。その構造は、分子内水素原子の核磁気共鳴スペクトルであるH-NMRスペクトルにて確認した。測定データを以下に示す。
H-NMR(400MHz,[D]-DMSO)δ:9.88(s、1H)、9.37(s、1H)、8.30(s、1H)、7.81(d、1H)、7.37(d-d、1H)、7.21(d、1H)、6.88(d-d、4H)、6.48(d-d、4H)、4.83(d、4H)、2.72(m、4H)、2.51(m、4H)、1.45(s、9H).
【0082】
<モノマーの評価>
[評価例1-1:保存安定性及び着色の評価]
ジアミン(DA-1) 1gをスクリュー管にとり、60℃で1か月間保管した後のLC純度及び着色の有無を観察した。LC純度の低下が1%未満の場合に「良好(○)」、1%以上5%未満の場合に「可(△)」、5%以上の場合に「不良(×)」とした。また、着色がなかった場合に「良好(○)」、着色があった場合に「不良(×)」とした。その結果、この評価例のLC純度及び着色はともに「良好(○)」であった。
【0083】
[評価例1-2、比較評価例1-1~1-4及び参考評価例1-1]
評価対象のジアミンを表1のとおりに変更した以外は評価例1-1と同様にして、ジアミンの保存安定性及び着色の評価を行った。それらの結果を表1に示した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、部分構造(A)を有する特定ジアミン(評価例1-1、1-2)は、比較評価例1-1~1-4のジアミンに比べて、LC純度の低下及び着色のうち少なくとも一方が良好であった。
【0086】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1B]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)100モル部、ジアミン化合物として化合物(DB-1)100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを重合体(PA-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。
【0087】
[合成例2B~16B]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表2及び表3に記載のとおり変更した以外は合成例1Bと同様の操作を行い、ポリアミック酸(重合体(PA-2)~(PA-16))を得た。なお、表2及び表3中、酸無水物の数値は、重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を示す。ジアミンの数値は、重合体の合成に使用したジアミン化合物の合計100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を示す(表4についても同じ)。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
2.ポリイミドの合成
[合成例17B]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-2)100モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-4)30モル部及び化合物(DB-13)70モル部をNMPに溶解し、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約80%のポリイミド(これを重合体(PI-1)とする)を15質量%含有する溶液を得た。
【0091】
[合成例18B、19B]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表4に記載のとおり変更した以外は合成例17Bと同様の操作を行い、ポリイミド(重合体(PI-2)、(PI-3))を得た。
【0092】
【表4】
【0093】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[評価例2-1:保存安定性及び透過率の評価]
1.液晶配向剤の調製
合成例7Bで得た重合体(PA-7)の溶液を用いて、NMP及びブチルセロソルブ(BC)により希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0094】
2.保存安定性の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)について、1.0μmのフィルターで濾過した後に室温で1か月間保管した後、液晶配向剤中の析出物の有無を観察した。液晶配向剤中に析出物が観察されなかった場合を「良好(○)」、析出物が観察された場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例の保存安定性の評価は「良好(○)」であった。
【0095】
3.透過率の評価
上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、分光光度計(日立製作所(株)製の150-20型ダブルビーム)を用いて、波長400nmにおける光線透過率(%)を評価した。評価は、光線透過率が97%以上であった場合を「良好(○)」、95%以上97%未満であった場合を「可(△)」、95%未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この塗膜の光線透過率は99.0%であり、透過性「良好」であった。
【0096】
[評価例2-2~2-6、比較評価例2-1~2-6及び参考評価例2-1]
液晶配向剤の組成を表5のとおりに変更した以外は評価例2-1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、保存安定性及び透過率の評価を行った。それらの結果を表5に示した。
【0097】
【表5】
【0098】
表5に示すように、重合体[P]を含む液晶配向剤(評価例2-1~2-6)は、比較評価例2-1~2-6の液晶配向剤に比べて、保存安定性及び透過率の少なくとも一方が良好な結果であった。
【0099】
ここで、比較評価例2-2の液晶配向剤に含まれる重合体(PA-2)は、ベンゾイミダゾール骨格を有するジアミン(DA-3)を用いて得られた重合体である。表5に示すように、重合体(PA-2)を含む液晶配向剤は保存安定性及び透過率の評価が共に「×」であった。また、比較評価例2-3及び2-6の液晶配向剤に含まれる重合体(PA-3)、(PI-1)はそれぞれ、アミノフェニル基にアミド基及び保護されたアミノ基が結合した構造を有するジアミン(DA-4)を用いて得られた重合体であり、比較評価例2-4の液晶配向剤に含まれる重合体(PA-4)は、保護されたアミノ基を有するベンゼン環がアミド結合を介してアミノフェニル基に結合した構造のジアミン(DA-5)を用いて得られた重合体である。表5に示すように、重合体(PA-3)、(PI-1)、(PA-4)を含む液晶配向剤は、膜の透過率の評価が「×」であった。
【0100】
[実施例1:ラビングFFS型液晶表示素子]
1.ラビング法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
平板電極(ボトム電極)、絶縁層及び櫛歯状電極(トップ電極)がこの順で片面に積層されたガラス基板(第1基板とする)、並びに電極が設けられていないガラス基板(第2基板とする)を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の片面のそれぞれに液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、110℃のホットプレートで3分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、塗膜表面に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する一対の基板を得た。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した。その後、基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より、一対の基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。なお、一対の基板を重ね合わせる際には、それぞれの基板のラビング方法が反平行となるようにした。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、FFS型液晶表示素子を得た。
【0101】
2.初期VHRの評価
上記1.で製造した液晶表示素子を60℃のオーブンに静置した後、東洋テクニカ社製VHR測定装置「VHR-1」を用いて、1V、1670msecの条件で電圧保持率(VHR)を測定した。評価基準としては、VHRが73%よりも高い場合に「良好(○)」、73%以下60%以上の場合に「可(△)」、60%未満の場合に「不良(×)」とした。その結果、この実施例の初期VHRの評価は「良好(○)」であった。
【0102】
3.VHR信頼性の評価
上記1.で製造した液晶表示素子につき、電圧保持率についての信頼性を評価した。評価は以下のようにして行った。まず、液晶表示素子に1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR1)を測定した。次いで、液晶表示素子にCCFL(バックライト)を60℃で1週間照射した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。冷却後、液晶表示素子に1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR2)を測定した。なお、測定装置には、東陽テクニカ社製VHR測定装置「VHR-1」を使用した。このときのVHRの変化率(ΔVHR)をVHR1とVHR2との差分(ΔVHR=VHR1-VHR2)により算出し、ΔVHRによってVHR信頼性を評価した。ΔVHRが15%未満であった場合を「良好(○)」、15%以上20%以下であった場合を「可(△)」、20%よりも大きかった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例ではVHR信頼性「良好(○)」であった。
【0103】
4.打鍵試験後の液晶配向性の評価1(輝点数による評価)
上記1.で製造した液晶表示素子につき、打鍵試験を実施した後の液晶配向性を評価した。評価は以下のようにして行った。打鍵試験機((株)タッチパネル研究所)の打鍵部(ソレノイド方式)に、ペン先の形状が半径3mmであるシリコーンゴムペン3R((株)タッチパネル研究所製)をセットし、ペン先が液晶表示素子の中心位置となるように設置した。前記シリコーンゴムペンで荷重500g、10Hzにて1万回打鍵後、液晶表示素子を顕微鏡観察(100倍)し、打鍵試験後の液晶配向性を評価した。輝点数が30個未満であった場合を「優良(◎)」、30個以上50個未満であった場合を「良好(○)」、50個以上100個未満であった場合を「可(△)」、100個以上であった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0104】
5.打鍵試験後の液晶配向性の評価2(リタデーション変化率による評価)
上記4.で使用した液晶表示素子を、27,000cd/mの高輝度バックライト上で500時間静置し、バックライトの照射前後におけるリタデーション変化率により液晶配向性を評価した。まず、上記4.で使用した液晶表示素子につき、オプトサイエンス社製Axoscanによりリタデーションを測定し、下記数式(z-1)によりバックライト照射前後のリタデーションの変化率αを算出した。変化率αが小さいほど、液晶配向性が良好であるといえる。変化率αが1%以下であった場合を「良好(○)」、1%よりも大きく2%以下であった場合を「可(△)」、2%よりも大きかった場合を「不良(×)」とした。
α=Δθ/θ1 …(z-1)
(式(z-1)中、Δθは照射前後のリタデーション差を表し、θ1は照射前のリタデーション値を表す。)
その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0105】
[実施例2~10及び比較例1~7]
液晶配向剤の組成を表6のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にしてラビング法によりFFS型液晶表示素子を製造し、初期VHR、VHR信頼性、打鍵試験及び打鍵試験後の配向性の評価を行った。それらの結果を表6に示した。なお、実施例2、4、5、7及び9、並びに比較例3及び4では、重合体成分として2種類の重合体を、実施例6及び10では、重合体成分として3種類の重合体を使用した。表6中、重合体欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6に示すように、重合体[P]を含む液晶配向剤を用いた実施例1~10は、重合体[P]を含まない液晶配向剤を用いた比較例1~7に比べて、初期VHR、VHR信頼性、及び打鍵試験後の液晶配向性が良好な結果であった。
【0108】
なお、液晶配向膜の液晶アンカリング力は、膜の一軸性の高さの寄与が大きいと考えられる。この点、上記部分構造(A)を有する重合体[P]を用いて形成された液晶配向膜は一軸性が高く、打鍵試験後の液晶配向性が良好であったと考えられる。これに対し、重合体[P]と同じく分子内の環化反応によりベンゾイミダゾール環構造を形成すると考えられる重合体(PA-3)、(PA-4)、(PI-1)は、ポストベークによりベンゾイミダゾール環構造を形成した場合に、イミド環構造とベンゾイミダゾール環構造とを含むメソゲン骨格を形成すると考えられる。メソゲン骨格中にベンゾイミダゾール環構造を含む場合、実施例1~10で用いた重合体[P]に比べて膜の一軸性が低く、打鍵試験後の液晶配向性が十分でなかったものと考えられる。
【0109】
[実施例11:光FFS型液晶表示素子]
1.液晶配向剤の調製
合成例7Bで得た重合体(PA-7)60質量部を含む溶液、及び合成例11B得た重合体(PA-11)40質量部を含む溶液を混合し、NMP及びBCにより希釈して、溶媒組成がNMP/BC=80/20(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-11)を調製した。
【0110】
2.光配向法を用いたFFS型液晶表示素子の製造
実施例1と同様の第1基板及び第2基板を準備した。次いで、第1基板の電極形成面及び第2基板の一方の基板面のそれぞれに、液晶配向剤(AL-11)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を施した。なお、この照射量は、波長254nm基準で計測される光量計を用いて計測した値である。次いで、光配向処理が施された塗膜を、230℃のクリーンオーブンで30分加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
次に、液晶配向膜を形成した一対の基板のうちの一方の基板につき、液晶配向膜を有する面の外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、液晶セルにおける基板の外側両面に偏光板を貼り合わせ、液晶表示素子を得た。また、上記の一連の操作を、ポストベーク後の紫外線照射量を100~10,000J/mの範囲でそれぞれ変更して実施することにより、紫外線照射量が異なる3個以上の液晶表示素子を製造し、最も良好な配向特性を示した露光量(最適露光量)の液晶表示素子を、以下の初期VHR、および、VHR信頼性の評価に用いた。
【0111】
3.評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、実施例1と同様の方法により、初期VHR、VHR信頼性、及び打鍵試験後の液晶配向性を評価した。
【0112】
[実施例12~14及び比較例8]
液晶配向剤の組成を表7のとおりに変更した以外は実施例11と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例11と同様にして光配向法によりFFS型液晶表示素子を製造し、各種評価を行った。それらの結果を表7に示す。表7中、重合体欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分の全量100質量部に対する、各重合体の固形分での配合割合(質量部)を表す。
【0113】
【表7】
【0114】
表7に示すように、重合体[P]を含む液晶配向剤を用いた実施例11~14は、重合体[P]を含まない液晶配向剤を用いた比較例8に比べて、初期VHR、VHR信頼性及び打鍵試験後の液晶配向性が良好な結果であった。
【0115】
以上の結果から、部分構造(A)を有する重合体[P]を含有する液晶配向剤によれば、透過率が高い液晶配向膜を形成できるとともに、長期に亘って使用した場合にも電圧保持率の低下が少なく(すなわち信頼性が高く)、かつタッチパネル耐性に優れた液晶素子を製造できることが明らかになった。また、重合体[P]を含む液晶配向剤は保存安定性も良好であった。