(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20250115BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20250115BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250115BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20250115BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20250115BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
F01N3/18 C
F01N3/24 R
F02D45/00 368F
F02D41/04
F01N3/035 A
F02D41/22
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2021103085
(22)【出願日】2021-06-22
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松田 好史
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】内田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】藪下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】今井 創一
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152167(JP,A)
【文献】特開2008-038801(JP,A)
【文献】特開2004-124855(JP,A)
【文献】特開2005-248781(JP,A)
【文献】特開2008-215261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0092809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
F02D 41/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三元触媒を担持するとともに排気中の微粒子物質を捕集するフィルタ機能を有した四元触媒装置が排気通路に設置されたエンジンに適用されて、同エンジンの排気系部品の異常の有無の診断に際して、空燃比を理論空燃比よりもリーン側としたリーン燃焼を実施するエンジン制御装置であって、
当該エンジン制御装置は、前記四元触媒装置の触媒温度を推定する処理として、前記四元触媒装置内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映した前記触媒温度を推定する第1推定処理と、前記四元触媒装置内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映しない前記触媒温度を推定する第2推定処理と、を備えており、
かつ前記診断の実行条件には、前記第2推定処理による前記触媒温度の推定値が既定の診断上限温度以下であること、が含まれている
エンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系部品の異常診断を行うエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気系部品の異常診断を行うエンジン制御装置として、特許文献1に記載の装置がある。同文献に記載のエンジン制御装置は、三元触媒を担持した排気浄化用の触媒装置が排気通路に設置されたエンジンに適用されている。そして、同文献のエンジン制御装置は、燃焼室で燃焼する混合気の空燃比を、リッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に切替えるアクティブ空燃比制御を実施しつつ、触媒装置の異常診断を行っている。なお、リッチ空燃比は理論空燃比よりもリッチ側の空燃比を、リーン空燃比は理論空燃比よりもリーン側の空燃比を、それぞれ示している。なお、同文献のエンジン制御装置では、触媒装置の触媒温度が既定の温度域内にあることを条件に触媒装置の異常診断を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気浄化用の触媒装置として、三元触媒を担持するとともに、微粒子物質の捕集機能を備えた四元触媒装置がある。一方、リーン空燃比での燃焼時には、燃焼に供されずに余剰した酸素を含んだ排気が燃焼室から排気通路に排出される。そのため、四元触媒装置を備えるエンジンにおいてアクティブ空燃比制御を実施すると、流入した余剰酸素により、四元触媒装置内の微粒子物質が燃焼して、その燃焼による発熱で四元触媒装置の触媒温度が上昇する。そして、その結果、触媒温度が上記既定の温度域の上限値を超えてしまい、異常診断が中断されることがある。
【0005】
なお、空燃比センサのような触媒装置以外の排気系部品を対象として、アクティブ空燃比制御による診断を行うことがある。そして、そうした触媒装置以外の排気系部品の診断でも、診断の実行を許可する触媒温度の上限値を設定することが考えられる。そうした場合にも、診断中のリーン空燃比での燃焼により触媒温度が上昇して診断が中断されることが同様に生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、三元触媒を担持するとともに排気中の微粒子物質を捕集するフィルタ機能を有した四元触媒装置が排気通路に設置されたエンジンに適用される。また、同エンジン制御装置は、エンジンの排気系部品の異常の有無の診断に際して、空燃比を理論空燃比よりもリーン側としたリーン燃焼を実施する。さらに、同エンジン制御装置は、四元触媒装置の触媒温度を推定する処理として、四元触媒装置内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映した触媒温度を推定する第1推定処理と、四元触媒装置内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映しない触媒温度を推定する第2推定処理と、を備えている。そして、同エンジン制御装置は、第2推定処理による触媒温度の推定値が既定の診断上限温度以下であることを、上記診断の実行条件に含めている。
【0007】
第2推定処理では、四元触媒装置内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映しない値として触媒温度を推定している。よって、診断中のリーン燃焼により実際の触媒温度が上昇しても、その上昇が、第2推定処理による触媒温度の推定値に反映されないようになる。そして、上記エンジン制御装置では、そうした第2推定処理による触媒温度の推定値を用いて、診断の実行条件の成立の有無を判定している。したがって、上記エンジン制御装置によれば、診断中のリーン燃焼により触媒温度が上昇して診断が中断されることが生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】エンジン制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同エンジン制御装置による触媒装置の異常診断中の、(a)は実空燃比の推移を、(b)はフロント空燃比センサの出力の推移を、(c)はリア空燃比センサの出力の推移を、(d)は触媒装置の酸素吸蔵量OSAの推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
【
図3】同エンジン制御装置が行う触媒温度推定ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、エンジン制御装置の一実施形態を、
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
<エンジン11の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態のエンジン制御装置10が適用されるエンジン11の構成を説明する。なお、エンジン11は、車両に搭載されている。エンジン11は、混合気の燃焼を行う燃焼室12を備えている。また、エンジン11は、燃焼室12への吸気の導入路である吸気通路13と、燃焼室12からの排気の排出路である排気通路14と、を備えている。吸気通路13には、吸気の流量調整弁であるスロットルバルブ15が設けられている。また、吸気通路13におけるスロットルバルブ15よりも下流側の部分には、吸気中に燃料を噴射するインジェクタ16が設置されている。こうした吸気通路13を通じて、燃料が混合された吸気、すなわち混合気が導入される燃焼室12には、火花放電により混合気を点火する点火装置17が設置されている。一方、排気通路14には、排気浄化用の触媒装置18が設けられている。また、排気通路14における触媒装置18よりも下流側の部分には、排気中の微粒子物質を捕集するためのフィルタ装置19が設置されている。触媒装置18及びフィルタ装置19には、排気中のHC、COの酸化とNOxの還元とを同時に行う三元触媒が担持されている。また、触媒装置18及びフィルタ装置19には、三元触媒の触媒作用を高めるための助触媒として酸素吸蔵剤が担持されてもいる。なお、本実施形態では、フィルタ装置19が、三元触媒を担持するとともに排気中の微粒子物質を捕集するフィルタ機能を有した四元触媒装置に対応している。
【0010】
<エンジン制御装置10の構成>
続いて、エンジン11の制御を担うエンジン制御装置10の構成を説明する。エンジン制御装置10は、演算処理装置20、及び記憶装置21を備える電子制御ユニットとして構成されている。演算処理装置20は、エンジン制御のための演算処理を実行する装置である。記憶装置21は、エンジン制御用のプログラムやデータを記憶する装置である。
【0011】
エンジン制御装置10には、エンジン11の運転状態を示す状態量を検出する各種センサが接続されている。そうしたセンサには、エアフローメータ22、スロットル開度センサ23、吸気圧センサ24、クランク角センサ25、フロント空燃比センサ26、リア空燃比センサ27が含まれる。さらに、アクセルペダルセンサ28、車速センサ29、外気温センサ30、水温センサ31も上記センサに含まれる。エアフローメータ22は、吸気通路13の吸気流量GAを検出するセンサである。スロットル開度センサ23は、スロットルバルブ15の開度であるスロットル開度TAを検出するセンサである。吸気圧センサ24は、吸気通路13におけるスロットルバルブ15よりも下流側の部分の吸気の圧力である吸気圧PMを検出するセンサである。クランク角センサ25は、エンジン11の出力軸であるクランク軸の回転角であるクランク角θを検出するセンサである。フロント空燃比センサ26は、触媒装置18に流入する排気の空燃比を検出するセンサである。リア空燃比センサ27は、触媒装置18から流出した排気の空燃比を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ28は、運転者のアクセルペダルの操作量であるアクセルペダル開度ACCを検出するセンサである。車速センサ29は、車両の走行速度Vを検出するセンサである。外気温センサ30は、車外の空気の温度である外気温THAを検出するセンサである。水温センサ31は、エンジン冷却水の温度であるエンジン水温THWを検出するセンサである。なお、エンジン制御装置10は、クランク角センサ25によるクランク角θの検出結果からエンジン回転数NEを求めている。また、エンジン制御装置10は、吸気流量GAやスロットル開度TA、エンジン回転数NE等からエンジン負荷率KLを求めている。エンジン負荷率KLは、燃焼室12の吸気の充填率を表している。
【0012】
エンジン制御装置10は、これらセンサの検出結果から把握されるエンジン11の運転状態に応じて、エンジン11の各操作量を決定する。エンジン制御装置10が決定するエンジン11の操作量には、スロットル開度TA、インジェクタ16の燃料噴射量Q、点火装置17による混合気の点火時期SAが含まれる。そして、エンジン制御装置10は、決定した操作量に応じて、スロットルバルブ15、インジェクタ16、点火装置17などを駆動することで、エンジン制御を行っている。なお、エンジン制御装置10は、エンジン制御の一環として、空燃比フィードバック制御を行っている。空燃比フィードバック制御においてエンジン制御装置10は、フロント空燃比センサ26の出力λfが理論空燃比を示す値に近づくように、インジェクタ16の燃料噴射量Qをフィードバック調整している。
【0013】
また、エンジン制御装置10は、エンジン11の運転中に、触媒装置18が吸蔵している酸素の量である酸素吸蔵量OSAを演算により求めている。酸素吸蔵量OSAの演算は、下記の態様で行われる。以下の説明では、触媒装置18が既定の演算周期の間に吸蔵する酸素の量を、同触媒装置18の酸素吸蔵速度VOと記載する。なお、触媒装置18が酸素を放出しているときの酸素吸蔵速度VOは負の値となる。触媒装置18の酸素吸蔵速度VOは、触媒装置18に流入する排気の流量、同排気の未燃燃料成分/余剰酸素の濃度、触媒温度、酸素吸蔵量OSA等により決まる。触媒装置18に流入する排気の流量は、エンジン回転数NEやエンジン負荷率KLから求めることができる。触媒装置18に流入する排気の未燃燃料成分や余剰酸素の濃度は、燃焼室12で燃焼している混合気の空燃比から求めることができる。また、エンジン制御装置10は、後述する触媒温度推定処理を通じて、触媒装置18に担持された触媒の温度である触媒温度を推定している。さらに、エンジン制御装置10は、既定の演算周期毎に、エンジン回転数NE、エンジン負荷率KL、実空燃比AF、触媒温度、酸素吸蔵量OSA等から触媒装置18の酸素吸蔵速度VOを求めている。そして、エンジン制御装置10は、演算周期毎の酸素吸蔵速度VOの演算値を積算した値を、触媒装置18の酸素吸蔵量OSAの値として求めている。実空燃比AFは、燃焼室12で燃焼している混合気の空燃比を表している。実空燃比AFは、例えばフロント空燃比センサ26の検出結果から求められる。また、エンジン負荷率KLや燃料噴射量Qに基づく演算の結果からも、実空燃比AFを求められる。
【0014】
<触媒装置18の異常診断>
以上のように構成されたエンジン11の排気通路14に設置された触媒装置18は、劣化により酸素吸蔵能力が低下して、十分な排気浄化性能を発揮不能となることがある。エンジン制御装置10は、触媒装置18が劣化により十分な排気言浄化性能を発揮できない状態にあるか否かを診断する同触媒装置18の異常診断を、エンジン制御の一環として行っている。
【0015】
触媒装置18の異常診断に際してエンジン制御装置10は、燃焼室12で燃焼する混合気の空燃比を理論空燃比以外の値とするアクティブ空燃比制御を行う。触媒装置18の異常診断時のアクティブ空燃比制御では、燃焼室12で燃焼する混合気の空燃比が、リッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に切替えられる。リッチ空燃比は理論空燃比よりもリッチ側の空燃比であり、リーン空燃比は理論空燃比よりもリーン側の空燃比である。なお、以下の説明では、空燃比を理論空燃比とした混合気の燃焼をストイキ燃焼と記載する。また、空燃比をリッチ空燃比とした混合気の燃焼をリッチ燃焼と記載するとともに、空燃比をリーン空燃比とした混合気の燃焼をリーン燃焼と記載する。リッチ燃焼時の排気通路14には、HCやCOなどの未燃燃料成分を多く含んだ排気が燃焼室12から排出される。以下の説明では、リッチ燃焼時の燃焼室12から排出される、未燃燃料成分を多く含んだ排気をリッチ排気と記載する。一方、リーン燃焼時の排気通路14には、燃焼に使われずに余剰した酸素を多く含んだ排気が燃焼室12から排出される。以下の説明では、リーン燃焼時の燃焼室12から排出される、余剰酸素を多く含んだ排気をリーン排気と記載する。
【0016】
図2に、触媒装置18の異常診断の実施態様の一例を示す。
図2(a)~(d)は、触媒装置18の異常診断中の下記パラメータの推移をそれぞれ示している。すなわち、
図2(a)は実空燃比AFの推移を、
図2(b)はフロント空燃比センサ26の出力λfの推移を、
図2(c)はリア空燃比センサ27の出力λrの推移を、
図2(d)は触媒装置18の酸素吸蔵量OSAの推移を、それぞれ示している。
【0017】
図2では、時刻t0に、触媒装置18の異常診断が開始されている。時刻t0以前には、空燃比フィードバック制御により、燃焼室12ではストイキ燃焼が行われている。このときのフロント空燃比センサ26の出力λf、及びリア空燃比センサ27の出力λrはいずれも、理論空燃比に対応する値であるストイキ出力値STとなっている。
【0018】
時刻t0に異常診断を開始すると、エンジン制御装置10は、その時刻t0にアクティブ空燃比制御を開始する。なお、本実施形態では、アクティブ空燃比制御中は、フィードバックゲインを通常よりも小さくした状態で空燃比フィードバック制御を行っている。
図2では、時刻t0においてエンジン制御装置10は、実空燃比AFをリッチ空燃比に変更している。燃焼室12においてリッチ空燃比の混合気の燃焼、すなわちリッチ燃焼が開始されると、未燃燃料成分を多く含んだリッチ排気が燃焼室12から排出されるようになる。そして、フロント空燃比センサ26にリッチ排気が到達すると、同フロント空燃比センサ26の出力λfは、ストイキ出力値STからリッチ空燃比に対応する値であるリッチ出力値RIに変化する。その後、触媒装置18にもリッチ排気が流入するようになる。このときの触媒装置18に酸素が吸蔵されていれば、リッチ排気が流入しても触媒装置18は酸素を放出して、排気中の未燃燃料成分を酸化する。そのため、リッチ燃焼の開始直後は、触媒装置18から流出する排気は、ストイキ排気に維持される。そして、リア空燃比センサ27の出力λrもストイキ出力値STの近傍の値に維持される。
【0019】
リッチ燃焼の開始後、触媒装置18の酸素吸蔵量OSAは時間の経過とともに次第に減少していく。やがて、触媒装置18は酸素を放出し切ってその酸素吸蔵量OSAが「0」となる。その結果、触媒装置18は排気中の未燃燃料成分を十分に酸化できなくなって、リッチ排気を排出する。以下の説明では、このときの触媒装置18からのリッチ排気の流出の開始をリッチ破綻と記載する。
【0020】
リッチ破綻が生じると、リア空燃比センサ27の出力λrがストイキ出力値STの近傍の値からリッチ側に変化する。エンジン制御装置10は、リア空燃比センサ27の出力λrが既定のリッチ破綻判定値XRよりもリッチ側の値となったことをもってリッチ破綻の発生を確認している。リッチ破綻判定値XRには、理論空燃比よりもリッチ側の空燃比に対応する出力λrの値が予め設定されている。そして、エンジン制御装置10は、リッチ破綻を確認すると、燃焼室12での燃焼をリッチ燃焼からリーン燃焼に切替える。
図2では、時刻t1及び時刻t3に、リッチ破綻に応じたリッチ燃焼からリーン燃焼への切り替えが行われている。
【0021】
リーン燃焼が開始されると、余剰酸素を多く含んだリーン排気が燃焼室12から排出されるようになる。そして、フロント空燃比センサ26にリーン排気が到達すると、フロント空燃比センサ26の出力λfがリッチ出力値RIからリーン空燃比に対応する値であるリーン出力値LEに変化する。その後、触媒装置18にもリーン排気が流入するようになる。このときの触媒装置18は、流入したリーン排気中の余剰酸素を吸蔵する。そのため、リーン燃焼の開始後もしばらくは、リア空燃比センサ27の出力λrは、ストイキ出力値STの近傍の値に維持される。
【0022】
リーン燃焼の開始後、触媒装置18の酸素吸蔵量OSAは、時間の経過とともに次第に増加していく。触媒装置18が吸蔵可能な酸素の量には限界が存在する。そのため、リーン燃焼が継続されると、やがて触媒装置18は酸素をそれ以上吸蔵できない状態となる。その結果、触媒装置18は、吸蔵し切れなかった酸素を含んだリーン排気を排出する。以下の説明では、このときの触媒装置18からのリーン排気の流出の開始をリーン破綻と記載する。
【0023】
リーン破綻が生じると、リア空燃比センサ27の出力λrが理論空燃比に対応する値「λst」に近い値からリーン空燃比に対応する値に変化する。エンジン制御装置10は、リア空燃比センサ27の出力λrが既定のリーン破綻判定値XLよりもリーン側の値となったことをもってリーン破綻の発生を確認している。リーン破綻判定値XLには、理論空燃比よりもリーン側の空燃比に対応する出力λrの値が予め設定されている。そして、エンジン制御装置10は、リーン破綻を確認すると、燃焼室12での燃焼をリーン燃焼からリッチ燃焼に切替える。
図2では、時刻t2及び時刻t4に、リーン破綻に応じたリーン燃焼からリッチ燃焼への切り替えが行われている。
【0024】
このようにエンジン制御装置10は、リッチ破綻、リーン破綻に応じてリッチ燃焼とリーン燃焼とを交互に切替えるようにアクティブ空燃比制御を行っている。そして、エンジン制御装置10は、アクティブ空燃比制御を行いつつ、触媒装置18の最大酸素吸蔵量Cmaxを下記の態様で測定している。なお、以下の説明では、リーン破綻に応じたリッチ燃焼の開始からリッチ破綻が発生するまでのリッチ燃焼が継続される期間をリッチ燃焼期間と記載する。また、リッチ破綻に応じたリーン燃焼の開始からリーン破綻が発生するまでのリーン燃焼が継続される期間をリーン燃焼期間と記載する。エンジン制御装置10は、リッチ燃焼期間、及びリーン燃焼期間のそれぞれを測定期間として触媒装置18の最大酸素吸蔵量Cmaxの測定を行っている。具体的には、エンジン制御装置10は、各測定期間における演算周期毎の酸素吸蔵速度VOの積算値を、最大酸素吸蔵量Cmaxの測定値として求めている。
【0025】
異常診断に際して、エンジン制御装置10は、複数の測定期間における最大酸素吸蔵量Cmaxの測定値を平均した値を、現在の触媒装置18の最大酸素吸蔵量Cmaxとして求めている。そして、エンジン制御装置10は、最大酸素吸蔵量Cmaxが、エンジン11の排気浄化性能を確保する上で許容可能な下限値を下回っているか否かにより、触媒装置18の異常の有無を診断している。
【0026】
エンジン制御装置10は、こうした触媒装置18の異常診断を、既定の実行条件の成立に応じて実行している。実行条件は、予め設定された複数の要件のすべてが満たされている場合に成立する。こうした実行条件の成立の要件には、下記の要件(イ)~(ニ)が含まれている。要件(イ)は、現トリップにおいて触媒装置18の異常診断が未完了であること、である。要件(ロ)は、エンジン11の暖機が完了していること、である。要件(ハ)は、エンジン11の運転条件が安定していること、すなわちエンジン回転数NEやエンジン負荷率KLの変化が小さいこと、である。要件(ニ)は、フィルタ装置19の触媒温度が既定の診断上限温度以下であること、である。なお、診断上限温度には、フィルタ装置19の耐久性を維持する上で許容可能な触媒温度の上限値よりも低い温度が設定されている。
【0027】
<触媒温度の推定>
続いて、触媒温度の推定に係る処理の詳細を説明する。なお、エンジン制御装置10は、第1触媒温度THC1、及び第2触媒温度THC2の2つの温度をフィルタ装置19の触媒温度として推定している。第1触媒温度THC1は、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映した触媒温度の推定値として求められている。また、第2触媒温度THC2は、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映しない触媒温度の推定値として求められている。すなわち、第2触媒温度THC2は、微粒子物質の燃焼による発熱量が常に「0」であるものと見做して求められた触媒温度の推定値となっている。
【0028】
図3に、第1触媒温度THC1及び第2触媒温度THC2の推定のためにエンジン制御装置10が実行する触媒温度推定ルーチンの処理手順を示す。エンジン制御装置10は、エンジン11の運転中、既定の制御周期毎に同ルーチンを繰り返し実行している。
【0029】
本ルーチンを開始するとエンジン制御装置10はまずステップS100において、フィルタ装置19に流入する排気の流量であるフィルタ流入排気量G1と、同排気の温度であるフィルタ流入排気温度T1と、をエンジン11の運転状態に基づき演算する。本実施形態では、フィルタ流入排気量G1として排気流量GEを用いている。一方、フィルタ流入排気温度T1は、エンジン排気系の熱モデルを用いて求められている。この熱モデルは、次の各熱量に関しての熱収支のモデルとして構築されている。すなわち、燃焼室12での混合気の燃焼による発熱量、燃焼した混合気から燃焼室12の壁面への伝熱量、排気通路14を構成する排気系部品と排気との間の伝熱量、排気系部品から外気への放熱量、触媒装置18内での未燃燃料成分の燃焼による発熱量、等の熱量である。
【0030】
続いてエンジン制御装置10はステップS110において、フィルタ装置19への余剰酸素の流入量GOを演算する。余剰酸素の流入量GOは、リア空燃比センサ27の出力λr及びフィルタ流入排気量G1から求められている。
【0031】
続くステップS120においてエンジン制御装置10は、第1触媒温度THC1の更新前の値、外気温THA、及び走行速度Vに基づき、フィルタ装置19から外気への放熱量Q1を演算する。また、エンジン制御装置10は、同ステップS120において、第1触媒温度THC1の更新前の値、フィルタ流入排気量G1、及びフィルタ流入排気温度T1に基づき、排気からのフィルタ装置19の受熱量Q2を演算する。さらに、エンジン制御装置10は、同ステップS120において、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱量Q3を演算する。発熱量Q3は、第1触媒温度THC1の更新前の値と余剰酸素の流入量GO、フィルタ装置19の微粒子物質の捕集量Mに基づき演算されている。さらに、エンジン制御装置10は、次のステップS130において、受熱量Q2と発熱量Q3との和から放熱量Q1を引いた差を求めるとともに、その差をフィルタ装置19の熱容量Cで割った商を、温度変化量ΔT1の値として演算する。そして、エンジン制御装置10は、ステップS140において、更新前の値に温度変化量ΔT1を加えた和を更新後の値とするように、第1触媒温度THC1の値を更新する。
【0032】
一方、エンジン制御装置10は、ステップS150において、第2触媒温度THC2の更新前の値、外気温THA、及び走行速度Vに基づき、フィルタ装置19から外気への放熱量Q4を演算する。また、エンジン制御装置10は、同ステップS150において、第2触媒温度THC2の更新前の値、フィルタ流入排気量G1、及びフィルタ流入排気温度T1に基づき、排気からのフィルタ装置19の受熱量Q5を演算する。さらに、エンジン制御装置10は、次のステップS160において、受熱量Q5から放熱量Q4を引いた差を求めるとともに、その差をフィルタ装置19の熱容量Cで割った商を、温度変化量ΔT2の値として演算する。そして、エンジン制御装置10は、続くステップS170において、更新前の値に温度変化量ΔT2を加えた和を更新後の値とするように、第2触媒温度THC2の値を更新する。
【0033】
エンジン制御装置10は、こうした触媒温度推定処理を通じて第1触媒温度THC1及び第2触媒温度THC2を演算している。そして、エンジン制御装置10は、第2触媒温度THC2を用いて、触媒装置18の異常診断の実行条件成立の有無を判定している。すなわち、上述した実行条件成立の要件(ニ)は、実際には、第2触媒温度THC2が診断上限温度以下であるか否かによりその成否が判定されている。
【0034】
これに対して、エンジン制御装置10は、上記判定以外のエンジン制御で参照する触媒温度としては、第1触媒温度THC1を使用している。例えば第1触媒温度THC1は、フィルタOT防止制御の実施判定に用いられている。フィルタOT防止制御は、フィルタ装置19の温度が高くなり過ぎたときにエンジン11の出力制限を行なって触媒装置18の過昇温を防止する制御である。
【0035】
なお、以上のように構成された本実施形態では、
図3の触媒温度推定ルーチンにおけるステップS120~S140の処理が第1推定処理に対応している。また、本実施形態では、同触媒温度推定ルーチンにおけるステップS150~S170の処理が第2推定処理に対応している。
【0036】
<実施形態の作用、効果>
上述のように、本実施形態では、第1触媒温度THC1及び第2触媒温度THC2との2つの温度を触媒温度の推定値として求めている。第1触媒温度THC1は、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映した触媒温度の推定値として求められている。これに対して、第2触媒温度THC2は、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映しない触媒温度の推定値として求められている。
【0037】
一方、本実施形態では、アクティブ空燃比制御によりリッチ燃焼とリーン燃焼とを交互に切替えつつ、触媒装置18の異常診断を行っている。そうした異常診断の実行条件には、第2触媒温度THC2が診断上限温度以下であることが含まれている。
【0038】
なお、アクティブ空燃比制御中に触媒装置18のリーン破綻が生じると、余剰酸素を含んだ排気がフィルタ装置19に流入する。余剰酸素が流入すると、フィルタ装置19内の微粒子物質が燃焼する。そして、その燃焼による発熱でフィルタ装置19の触媒温度が一時的に上昇する。このときの微粒子物質の発熱に合わせて第1触媒温度THC1は上昇する。そのため、異常診断の実行条件成立の有無の判定に、第1触媒温度THC1を用いると、微粒子物質の燃焼による発熱により第1触媒温度THC1が診断上限温度を超えてしまい、診断が中断される虞がある。これに対して、本実施形態では、第2触媒温度THC2を用いて、異常診断の実行条件成立の有無を判定している。第2触媒温度THC2には、微粒子物質の燃焼による発熱の影響が反映されない。そのため、診断中にフィルタ装置19内の微粒子物質が燃焼して、実際の触媒温度が上昇しても、それだけでは診断が中断されないようになる。
【0039】
以上の本実施形態のエンジン制御装置10によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映した触媒温度の推定値として第1触媒温度THC1を演算している。また、フィルタ装置19内での微粒子物質の燃焼による発熱を反映しない触媒温度の推定値として第2触媒温度THC2を求めている。そして、それら2つの触媒温度の推定値のうち、第2触媒温度THC2を用いて診断の実行条件成立の有無を判定している。そのため、診断中のリーン燃焼により、フィルタ装置19内の微粒子物質が燃焼しても、その燃焼による触媒温度の上昇によっては診断が中断されないようになる。したがって、触媒装置18の異常診断が中断され難くなる。
【0040】
(2)異常診断が中断され難いため、エンジン11の始動から異常診断の完了までに要する時間が短くなり易い。
(3)アクティブ空燃比制御の実施中には、ストイキ燃焼時よりも大気放出される排気の性状が悪化する。一方、異常診断の完了までのアクティブ空燃比制御の実行時間は、異常診断の中断毎に長くなる。そのため、本実施形態によれば、異常診断が中断され難い分、異常診断時のアクティブ空燃比制御の実施に伴うエンジン11の排気性能の悪化が抑えられる。
【0041】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、アクティブ空燃比制御中にも、フィードバックゲインを通常よりも小さくした状態で空燃比フィードバック制御を継続していた。アクティブ空燃比制御中は、空燃比フィードバック制御を停止するようにしてもよい。
【0042】
・微粒子物質の燃焼による発熱を反映した触媒温度の推定値として第1触媒温度THC1が求められており、かつ同発熱を反映しない触媒温度の推定値として第2触媒温度THC2が求められる限りにおいて、それらの推定ロジックの詳細は適宜に変更してもよい。
【0043】
・触媒装置18の異常診断以外の排気系部品の異常診断でも、空燃比を理論空燃比からそれ以外の空燃比に変更して行われるものがある。例えば、空燃比の変更に応じたフロント空燃比センサ26の出力λfの変化から同フロント空燃比センサ26の異常診断を行うことがある。そして、そうした触媒装置18以外の排気系部品の異常診断を、触媒温度が診断下限温度以上であることを条件に実施することが考えられる。その場合にも、その異常診断の実行条件の成立の有無の判定には、第2触媒温度THC2を用いることが望ましい。そうした場合にも、異常診断が中断され難くなる。
【符号の説明】
【0044】
10…エンジン制御装置
11…エンジン
12…燃焼室
13…吸気通路
14…排気通路
15…スロットルバルブ
16…インジェクタ
17…点火装置
18…触媒装置
19…フィルタ装置
20…演算処理装置
21…記憶装置
22…エアフローメータ
23…スロットル開度センサ
24…吸気圧センサ
25…クランク角センサ
26…フロント空燃比センサ
27…リア空燃比センサ
28…アクセルペダルセンサ
29…車速センサ
30…水温センサ