(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 50/262 20210101AFI20250115BHJP
H01M 50/242 20210101ALI20250115BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20250115BHJP
【FI】
H01M50/262 S
H01M50/242
H01M50/249
H01M50/262 M
H01M50/262 P
(21)【出願番号】P 2021104935
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相島 慎吾
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187314(WO,A1)
【文献】特開2019-186038(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012292(WO,A1)
【文献】特表2018-507523(JP,A)
【文献】特開2021-012849(JP,A)
【文献】特開2020-087924(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159275(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012349(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084272(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0025734(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0102661(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の上下方向に平行な積層方向に積層された複数の電池セルを含む積層型電池と、
前記積層方向から見て四角形の形状を有し、前記四角形の一辺に平行な方向である特定方向の両端に作用する拘束荷重によって前記積層型電池を前記積層方向の両側から加圧拘束する一対の拘束板と、
を備える電池パックであって、
前記一対の拘束板の少なくとも一方は、
第1の部位と、
前記第1の部位と比べて前記積層方向の荷重の入力に対する剛性の低い一対の第2の部位と、
を含む特定拘束板であって、
前記一対の第2の部位のそれぞれは、前記特定方向と直交する方向に沿って配置され、
前記特定方向で見たとき、前記一対の第2の部位は、前記特定拘束板の中央部及び両端部を除く場所において互いに離れて配置されており、
前記一対の第2の部位のそれぞれは、前記第1の部位と比べて、ヤング率の低い材料を用いて形成されている
ことを特徴とする電池パック。
【請求項2】
車両の上下方向に平行な積層方向に積層された複数の電池セルを含む積層型電池と、
前記積層方向から見て四角形の形状を有し、前記四角形の一辺に平行な方向である特定方向の両端に作用する拘束荷重によって前記積層型電池を前記積層方向の両側から加圧拘束する一対の拘束板と、
を備える電池パックであって、
前記一対の拘束板の少なくとも一方は、
第1の部位と、
前記第1の部位と比べて前記積層方向の荷重の入力に対する剛性の低い一対の第2の部位と、
を含む特定拘束板であって、
前記一対の第2の部位のそれぞれは、前記特定方向と直交する方向に沿って配置され、
前記特定方向で見たとき、前記一対の第2の部位は、前記特定拘束板の中央部及び両端部を除く場所において互いに離れて配置されており、
前記特定拘束板は、前記特定方向に沿って延びる複数本のビードを備え、
前記一対の第2の部位のそれぞれは、前記複数本のビードの少なくとも1本に対して前記特定方向と直交する方向に沿って形成された切り込みを有する部位である
ことを特徴とする電池パック。
【請求項3】
前記特定方向における前記特定拘束板の長さを特定方向長さと称したとき、
前記特定方向における前記一対の第2の部位の一方の中心は、前記特定方向における前記特定拘束板の一端から前記特定方向長さの1/4の位置を中心とする前記特定方向長さのプラスマイナス10%の範囲内に位置し、
前記特定方向における前記一対の第2の部位の他方の中心は、前記一端から前記特定方向長さの3/4の位置を中心とする前記特定方向長さのプラスマイナス10%の範囲内に位置している
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載された電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の側面衝突時の衝撃エネルギを吸収かつ分散させる構造を有するバッテリパック格納機構が開示されている。このバッテリパック格納機構は、車両の幅方向(左右方向)に延びるように形成された複数のクロスメンバを含み、かつ、車体部材に締結されている。当該複数のクロスメンバは、バッテリパック格納機構内に収容されたバッテリの隔壁としての機能とともに、側面衝突時に複数のバッテリを保護する機能を有している。付け加えると、このバッテリパック格納機構では、複数のクロスメンバによって仕切られた各区域内に、複数の電池セルからなるバッテリパックモジュールが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の上下方向に平行な積層方向に積層された複数の電池セルを含む積層型電池と、積層方向から見て四角形の形状を有しかつ当該四角形の一辺に平行な方向である特定方向の両端に作用する拘束荷重によって積層型電池を積層方向の両側から加圧拘束する一対の拘束板と、を備えるように電池パックを構成することが考えられる。このような構成を有する電池パックでは、一対の拘束板を利用して積層型電池に対して均一な拘束面圧を付与することが求められる。また、当該電池パックでは、その構成上、特許文献1に記載のバッテリパック格納機構が備える対衝突構造を電池パックの内部に採用することは困難である。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、拘束板の重量増加を抑えながら積層型電池に対してより均一な拘束面圧の付与を可能としつつ、耐衝撃性能を向上できるようにした電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特定方向における特定拘束板の長さは特定方向長さと称される。特定方向における一対の第2の部位の一方の中心は、特定方向における特定拘束板の一端から特定方向長さの1/4の位置を中心とする特定方向長さのプラスマイナス10%の範囲内に位置していてもよい。そして、特定方向における一対の第2の部位の他方の中心は、上記一端から特定方向長さの3/4の位置を中心とする特定方向長さのプラスマイナス10%の範囲内に位置していてもよい。
【0010】
本開示の第1の態様に係る電池パックは、積層型電池と、一対の拘束板と、を備える。積層型電池は、車両の上下方向に平行な積層方向に積層された複数の電池セルを含む。一対の拘束板は、積層方向から見て四角形の形状を有し、四角形の一辺に平行な方向である特定方向の両端に作用する拘束荷重によって積層型電池を積層方向の両側から加圧拘束する。一対の拘束板の少なくとも一方は、第1の部位と、第1の部位と比べて積層方向の荷重の入力に対する剛性の低い一対の第2の部位と、を含む特定拘束板である。一対の第2の部位のそれぞれは、特定方向と直交する方向に沿って配置されている。特定方向で見たとき、一対の第2の部位は、特定拘束板の中央部及び両端部を除く場所において互いに離れて配置されている。一対の第2の部位のそれぞれは、第1の部位と比べて、ヤング率の低い材料を用いて形成されている。
【0011】
本開示の第2の態様に係る電池パックは、積層型電池と、一対の拘束板と、を備える。積層型電池は、車両の上下方向に平行な積層方向に積層された複数の電池セルを含む。一対の拘束板は、積層方向から見て四角形の形状を有し、四角形の一辺に平行な方向である特定方向の両端に作用する拘束荷重によって積層型電池を積層方向の両側から加圧拘束する。一対の拘束板の少なくとも一方は、第1の部位と、第1の部位と比べて積層方向の荷重の入力に対する剛性の低い一対の第2の部位と、を含む特定拘束板である。一対の第2の部位のそれぞれは、特定方向と直交する方向に沿って配置されている。特定方向で見たとき、一対の第2の部位は、特定拘束板の中央部及び両端部を除く場所において互いに離れて配置されている。特定拘束板は、特定方向に沿って延びる複数本のビードを備えている。一対の第2の部位のそれぞれは、複数本のビードの少なくとも1本に対して特定方向と直交する方向に沿って形成された切り込みを有する部位である。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る電池パックによれば、一対の拘束板の少なくとも一方は、第1の部位と比べて積層方向の荷重の入力に対する剛性の低い一対の第2の部位を備えている。これにより、拘束板の重量増加を抑えながら、積層型電池に作用する拘束面圧を均一化できる。また、このように剛性の低い一対の第2の部位を備えたことにより、特定方向の一端の側から衝撃荷重が作用した際に、拘束板の変形を利用した衝撃エネルギの吸収量(消費量)を増加させることができる。これにより、耐衝撃性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る電池パックの概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す積層型電池の構成の一例を概略的に示す分解斜視図である。
【
図3】
図2に示すセル積層体の構造の一例を概略的に示す断面図である。
【
図4】本開示に係る一対の第2の部位の好ましい配置範囲Rを説明するための図である。
【
図5】実施の形態1に係る一対の第2の部位の具体的な構成例を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る剛性低下構造による拘束面圧の均一化の効果について説明するための図である。
【
図7】実施の形態1に係る剛性低下構造による拘束面圧の均一化の効果について説明するための図である。
【
図8】実施の形態1に係る剛性低下構造による耐衝撃性能の向上効果を説明するための図である。
【
図9】実施の形態1の第1変形例に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図10】実施の形態1の第2変形例に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図11】実施の形態1の第3変形例に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図12】実施の形態1の第4変形例に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図13】実施の形態2に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図14】実施の形態3に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図15】実施の形態4に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【
図16】実施の形態4の変形例に係る拘束板の具体的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に説明される各実施の形態において、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略又は簡略する。また、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術思想に必ずしも必須のものではない。
【0015】
1.実施の形態1
1-1.電池パックの全体構成
図1は、実施の形態1に係る電池パック10の概略構成を示す斜視図である。電池パック10は、車両に搭載され、車両に電力を供給する。電池パック10は、積層型電池20と、一対の拘束板12及び14とを備えている。
【0016】
積層型電池20は、車両の上下方向に平行な積層方向D1に積層された複数の電池セル34(後述の
図3参照)を含む積層体である。積層型電池20は、車両前後方向D2及び車両幅方向D3と比べて積層方向D1に薄い直方体形状を有する。
【0017】
一対の拘束板12及び14は、積層方向D1から見て四角形形状(例えば、長方形形状又は正方形形状)を有する。拘束板12は、積層型電池20に対して車両上方側に配置され、拘束板14は、積層型電池20に対して車両下方側に配置されている。拘束板12と積層型電池20との間、及び、積層型電池20と拘束板14との間には、それぞれ、絶縁シート16が介在している。なお、このような絶縁シート16の代わりに、拘束板12及び14のそれぞれに絶縁塗装が施されていてもよい。
【0018】
一対の拘束板12及び14は、例えば、鉄又はアルミニウム等の金属材料を用いて形成されている。また、一対の拘束板12及び14は、金属材料に代え、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)又は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の繊維強化プラスチックを用いて形成されてもよい。
【0019】
一対の拘束板12及び14は、積層型電池20を積層方向D1の両側から加圧拘束する。具体的には、電池パック10は、積層型電池20の4つ側面を覆う側壁部材(図示省略)を備えている。拘束板12と拘束板14とは、両者の間に位置する当該側壁部材を介してボルト(図示省略)を用いて締結されている。
【0020】
図1に示すように、上記の締結のための複数のボルト孔18は、一例として、車両幅方向D3における拘束板12及び14のそれぞれの両端において、車両前後方向D2に所定のピッチで形成されている。このため、複数のボルト孔18にボルトを通し、一対の拘束板12及び14を上記の側壁部材を介して締結することにより、一対の拘束板12及び14における車両幅方向D3の両端に、積層型電池20を積層方向D1の両側から加圧拘束するための拘束荷重が作用する。その結果、積層型電池20の上面及び下面のそれぞれに、拘束面圧が付与されることになる。
【0021】
なお、
図1に示す電池パック10の例では、車両幅方向D3が本開示に係る「四角形の形状を有する一対の拘束板における四角形の一辺に平行な方向である特定方向」に相当する。しかしながら、「特定方向」は、車両幅方向D3に限られない。すなわち、「特定方向」は、どの方向における一対の拘束板12及び14の両端に拘束荷重を付与するかに応じて異なるものとなる。したがって、上述のボルト孔18が車両幅方向D3ではなく車両前後方向D2の両端において一対の拘束板12及び14に設けられる他の例では、車両前後方向D2が「特定方向」の他の例に相当する。また、4つの側壁を介した拘束板12及び14の接合は、ボルトによる締結の例に限られず、溶接等の他の手法を用いて行われてもよい。
【0022】
電池パック10では、拘束板12及び14と上記の側壁部材とによって、積層型電池20を覆う電池ケースが構成されている。車両への電池パック10の取り付けは、例えば、当該電池ケースの一部として機能する下側の拘束板14と所定の車体部材との接合(例えば、ボルト締結又は溶接)によって行われている。ただし、拘束板12及び14は、必ずしも電池パック10のケース(電池ケース)の機能を兼ねていなくてもよい。すなわち、拘束板12よりも車両上方側にアッパーカバーが設けられていてもよいし、拘束板14よりも車両下方側にロアケースが設けられていてもよい。
【0023】
付け加えると、
図1に示す例では、車両には、
図1に示されるような大きな表面積の上面及び下面を有する1つの積層型電池20を収容する1つの電池パック10が搭載されている。なお、車両に求められる電池パック10の容量(電力量)が増えると、積層型電池20の上面及び下面の表面積が大きくなる。
【0024】
1-2.積層型電池の構成
図2は、
図1に示す積層型電池20の構成の一例を概略的に示す分解斜視図である。積層型電池20(以下、単に「電池20」とも称する)は、充電可能な二次電池である。電池20は、セル積層体22と、正極集電板24と、負極集電板26と、正極集電端子28と、負極集電端子30とを備えている。
【0025】
図2に示す一例では、電池20は、積層された複数のセル積層体22を備えている。正極集電板24及び負極集電板26は、複数のセル積層体22を介在するように配置されている。なお、正極集電板24及び負極集電板26の間に配置されるセル積層体22の数は、特に限定されず、1つであってもよい。また、
図2に示す一例では、セル積層体22は、セル積層体22を冷却するための冷却板32と交互に積層されている。冷却板32は、アルミニウム又は銅などの金属によって形成されており、隣り合うセル積層体22を電気的に直列に接続している。
【0026】
図3は、
図2に示すセル積層体22の構造の一例を概略的に示す断面図である。セル積層体22は、電池セル34を一方向に複数積層して構成されている。各電池セル34は、隣り合うバイポーラ電極板36の正極層38と負極層40とがセパレータ(電解質層)42を介して向き合うように構成されている。
【0027】
より具体的には、セル積層体22は、複数のバイポーラ電極板36及び複数のセパレータ42とともに、枠体44を備えている。各バイポーラ電極板36は、積層方向D1に間隔をあけて配置されるように枠体44によって支持されている。セパレータ42は、隣り合うバイポーラ電極板36の間に配置されている。
【0028】
各バイポーラ電極板36は、電極板部46と、正極層38と、負極層40とを含む。電極板部46は、ニッケルなどの金属材料によって形成されている。正極層38は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、水酸化ニッケルが用いられる。負極層40は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、水素吸着合金が用いられる。なお、
図3に示すように、積層方向D1の両端に位置する電極板部46には、正極層38及び負極層40の一方のみが形成されている。セパレータ42は、シート状に形成されている。セパレータ42は、例えば、ポリオレフィン系樹脂から形成された多孔質膜を用いて構成されている。
【0029】
上述のように構成されたセル積層体22の内部には、隣り合う電極板部46と枠体44とによって収容空間48が形成されている。この収容空間48内には、セパレータ42と、正極層38と、負極層40と、電解液(図示省略)とが配置されている。電解液は、例えば、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液である。そして、セパレータ42と、負極層40と、正極層38と、電解液とによって電池セル34が形成されている。電池セル34は、積層方向D1に複数配列されている。各電池セル34は、電極板部46によって直列に接続されている。電池20の放電時には、セル積層体22の内部では、電流は、
図3中の上方側(負極集電板26の側)から下方側(正極集電板24の側)に向けて流れる。
【0030】
なお、
図3に示す例では、電解液を含侵させたセパレータ42が電解質層として例示されたが、セパレータ42に代え、例えば、固体電解質であってもよいし、或いはゲル状電解質であってもよい。また、
図3に示す例では、バイポーラ型の電池20が例示された。しかしながら、本開示に係る「積層型電池」は、バイポーラ型に限られず、モノポーラ型であってもよい。すなわち、本開示に係る「積層型電池」が備えるセル積層体は、隣り合う電極板の一方が有する正極層とその他方が有する負極層とが電解質層を介して向き合うように構成された電池セルを複数積層して構成されていてもよい。
【0031】
1-3.拘束板の剛性低下構造
積層型電池を備える電池パックでは、積層型電池の上面及び下面に対し、ある閾値TH(後述の
図7参照)以上の拘束面圧を均一に付与することが求められる。ここで、上述のように車両幅方向D3(特定方向)の両端において一対の拘束板に拘束荷重が付与されると、一対の拘束板には、曲げ変形が生じる。以下に説明される「剛性低下構造」を有する本実施形態の拘束板12及び14とは異なり、積層型電池に拘束面圧を付与するための一対の拘束板が単純な平板であった場合、一対の拘束板における車両幅方向D3の中央部が当該曲げ変更によって持ち上げられ易くなる(後述の
図6(A)参照)。その結果、当該中央部における拘束面圧が抜け易くなるので、車両幅方向D3の位置によらずに均一な拘束面圧を積層型電池に付与することが難しくなる。また、曲げ変形を抑制して均一な拘束面圧を確保するために一対の拘束板の厚さを増やすと、一対の拘束板の重量が増加してしまう。
【0032】
したがって、積層型電池を備える電池パックには、一対の拘束板の重量増加を抑えながら積層型電池に対してより均一な面圧の付与を可能とすることが求められる。また、当該電池パックには、車両の衝突時の耐衝撃性能を向上できるようにすることも求められる。
【0033】
上述の課題に鑑み、本実施形態の一対の拘束板12及び14は、次のような「剛性低下構造」を備えている。
【0034】
図1に示すように、拘束板12は、第1の部位12aと、一対の第2の部位12bとを備えている。一対の第2の部位12bは、第1の部位12aと比べて、積層方向D1の荷重の入力に対する剛性(より詳細には、曲げ剛性)の低い部位である。より詳細には、第1の部位12aは、拘束板12における一対の第1の部位12a以外の部位である。
【0035】
一対の第2の部位12bのそれぞれは、車両幅方向D3(特定方向)と直交する方向である車両前後方向D2に沿って配置されている。より詳細には、
図1に示す一例では、一対の第2の部位12bのそれぞれは、車両前後方向D2における拘束板12の一端から他端にまで及んでいる。そして、車両幅方向D3で見たとき、一対の第2の部位12bは、拘束板12の中央部及び両端部を除く場所において互いに離れて配置されている。
【0036】
もう一方の拘束板14は、第1の部位14aと、一対の第2の部位14bとを備えている。この拘束板14も剛性低下構造を有する。拘束板14の剛性低下構造は、拘束板12のものと同じであるので、ここではその詳細な説明は省略される。
【0037】
次に、
図4を参照して、車両幅方向D3における一対の第2の部位12bの好ましい配置範囲の例について説明する。
図4は、車両の上方側から拘束板12を見下ろした図である。本実施形態では、一対の第2の部位12bは、車両幅方向D3(特定方向)における拘束板12の中央位置を中心として対称に配置されている。車両幅方向D3における拘束板12の長さを「特定方向長さL」と称する。
図4に示すように、一対の第2の部位12bの一方である部位12b1の車両幅方向D3の中心C1は、車両幅方向D3の一端Eから特定方向長さLの1/4の位置に設けられている。また、もう一方の部位12b2の車両幅方向D3の中心C2は、一端Eから特定方向長さLの3/4の位置に設けられている。
【0038】
車両幅方向D3における一対の第2の部位12bの好ましい配置は、
図4に示す部位12b1及び12b2の例に限られず、次のような配置範囲R内に収まるものであってもよい。すなわち、部位12b1の中心は、車両幅方向D3の一端Eから特定方向長さLの1/4の位置を中心とする特定方向長さLのプラスマイナス10%の範囲内に位置していてもよい。また、もう一方の部位12b2の中心は、一端Eから特定方向長さLの3/4の位置を中心とする特定方向長さLのプラスマイナス10%の範囲内に位置していてもよい。
【0039】
図5は、実施の形態1に係る一対の第2の部位12bの具体的な構成例を示す図である。
図5は、車両前後方向D2から拘束板12を見た図である。
図5に示すように、一対の第2の部位のそれぞれは、断面半円形状の溝を有する部位である。これにより、一対の第2の部位のそれぞれは、第1の部位12aと比べて、積層方向D1の厚さが小さくなっている。なお、拘束板14の具体的な構成例は、
図5に示される拘束板12を積層方向D1において反転することによって得られる。
【0040】
1-4.効果
まず、
図6及び
図7を参照して、実施の形態1に係る剛性低下構造による拘束面圧の均一化の効果について説明する。
図6(A)及び
図6(B)には、車両幅方向D3(特定方向)に沿って切断された拘束板の断面が表されている。これらの図の横軸は、車両幅方向D3における拘束板上の位置を示している。
図6(A)及び
図7に示される比較例は、剛性低下構造を伴わない平板形状の拘束板100を備える構成に対応している。
【0041】
比較例において拘束板100の両端に上述の拘束荷重を加えると、拘束板100は、
図6(A)に示すように車両幅方向D3の中央位置においてピークが生じるように変形する。その結果、
図7に示すように、比較例における拘束面圧は、拘束板100の各端部から中央位置に向かうにつれ、高い低下率を維持しつつ低下していく。
【0042】
これに対し、本実施形態の拘束板12は、周囲の第1の部位12aと比べて剛性の低い一対の第2の部位12bを利用した剛性低下構造を有する。拘束板12の各端部から一対の第2の部位12bまでの区間の変形については比較例と同等となる。しかしながら、一対の第2の部位12bの剛性を下げたことにより、一対の第2の部位12bの間に位置する拘束板12の中央側の部位の変形が抑制される。このため、
図6(B)に示すように、中央側において平らな領域が比較例と比べて増加する。その結果、中央位置の拘束面圧が低くなる点は比較例と同様であるが、
図7中にハッチングを付して示すように、中央側において車両幅方向D3の位置に応じた拘束面圧の変化を効果的に抑制できる。このため、比較例(平板)と比べて、拘束面圧の均一化を図ることができる。
【0043】
より詳細には、
図7中の閾値THは、積層型電池20に対して付与することが求められる拘束面圧の閾値である。そして、電池パック10では、拘束面圧は閾値THを満たしてさえいればよい。比較例と比べたとき、本実施形態の拘束板12によれば、中央位置付近の拘束面圧の大きさ自体は低下するが、必要な面圧値(閾値TH)を確保しつつ、拘束面圧を均一化できる。付け加えると、拘束板12の厚さの増加による剛性向上に頼ることなく、すなわち、拘束板12の重量増加を抑えながら、拘束面圧を均一化できる。このことは、同じ剛性低下構造を有する拘束板14についても同様である。
【0044】
次に、
図8は、実施の形態1に係る剛性低下構造による耐衝撃性能の向上効果を説明するための図であり、
図6と同様に車両前後方向D2から拘束板100及び12を見た図である。より詳細には、
図8(A)及び
図8(B)のそれぞれの上段、中段及び下段の図は、車両幅方向D3の一方からの衝撃荷重の入力に対して拘束板100及び12の変形が進行する様子を示している。
【0045】
まず、比較例(平板)について説明する。平板形状を有する拘束板100が衝撃荷重に耐え切れなくなると、
図8(A)の上段に示すように、拘束板100が変形し始める。一度変形が生じてしまうと、拘束板100は衝撃荷重に対する反力を発生させにくくなる。その結果、
図8(A)の中段及び下段に示すように、変形が進行していく。
【0046】
一方、剛性低下構造を有する拘束板12では、
図8(B)の上段に示すように、衝撃荷重の入力初期に一対の第2の部位12bにおいて変形が生じ易くなる。このように、あえて一対の第2の部位12bで変形(折れ曲がり)を生じさせ易くすることにより、各折れ曲がり点を境にして区別される拘束板12の各部(中央側の部位、及び各端部側の部位の3か所の部位)の長さが、折れ曲がり後の比較例と比べて短くなる。このため、当該折れ曲がりの発生後の各部の剛性が高くなる。その結果、比較例と比べて、拘束板12は、当該折れ曲がりの発生後に衝撃荷重に対する反力を高めることができる。換言すると、拘束板12の変形を利用した衝撃エネルギの吸収量(消費量)を比較例と比べて増加させることができる。これにより、耐衝撃性能を向上させることが可能となる。このことは、同じ剛性低下構造を有する拘束板14についても同様である。
【0047】
以上のように、本実施形態の電池パック10によれば、一対の拘束板12及び14の重量増加を抑えながら積層型電池20に対してより均一な拘束面圧の付与を可能としつつ、耐衝撃性能を向上できるようになる。
【0048】
付け加えると、本開示に係る「特定方向(例えば、車両幅方向D3)における「一対の第2の部位」が「特定方向」の中央位置に近すぎると、拘束面圧を均一化できる範囲が短くなってしまう。逆に、「一対の第2の部位」が当該中央位置から離れすぎていると、「一対の第2の部位」の間に位置する部位の拘束面圧を均一化できても、拘束面圧自体が弱くなってしまう。これらの点に関し、上述した配置範囲Rによれば、上述の閾値TH以上の値での均一な拘束面圧の付与をより効果的に行えるように、一対の第2の部位の場所を適切に選定できる。
【0049】
1-5.変形例
本開示に係る「一対の第2の部位」は、
図5に示す例に代え、例えば次の
図9~
図12に示す形状例を採用することによって、「第1の部位」と比べて積層方向D1の厚さが小さくなるように形成されてもよい。
【0050】
図9は、実施の形態1の第1変形例に係る拘束板50の具体的な構成例を示す図である。拘束板50は、第1の部位50aと、一対の第2の部位50bとを備えている。この第1変形例では、一対の第2の部位50bのそれぞれは、積層方向D1の両側に断面半円形状の溝を有する部位である。
【0051】
図10は、実施の形態1の第2変形例に係る拘束板52の具体的な構成例を示す図である。拘束板52は、第1の部位52aと、一対の第2の部位52bとを備えている。この第2変形例では、一対の第2の部位52bのそれぞれは、複数(一例として3つ)の小さな断面半円形状の溝を有する部位である。なお、このような溝は、積層方向D1の両側において拘束板52に形成されてもよい。
【0052】
図11は、実施の形態1の第3変形例に係る拘束板54の具体的な構成例を示す図である。拘束板54は、第1の部位54aと、一対の第2の部位54bとを備えている。上述した
図1に示す例では、一対の第2の部位12bのそれぞれは、車両前後方向D2における拘束板12の一端から他端にまで及んでいる。これに対し、第3変形例では、一対の第2の部位54bのそれぞれは、車両前後方向D2(すなわち、「特定方向」と直交する方向)に沿って部分的に配置された複数(一例として2つ)の溝を有する部位である。換言すると、一対の第2の部位54bのそれぞれは、車両前後方向D2に沿って複数に(一例として2つに)分割された部位として形成されている。
【0053】
図12は、実施の形態1の第4変形例に係る拘束板56の具体的な構成例を示す図である。拘束板56は、第1の部位56aと、一対の第2の部位56bとを備えている。この第4変形例においても、第3変形例と同様に、一対の第2の部位56bのそれぞれは、車両前後方向D2に沿って部分的に配置されている。第4変形例では、一対の第2の部位56bのそれぞれは、複数(一例として9つ)の貫通孔を有する部位である。該複数の貫通孔は、例えば円形である。なお、当該複数の貫通孔に代え、複数の球状の窪みが用いられてもよい。
【0054】
2.実施の形態2
実施の形態2は、「一対の第2の部位」の構成手法において、実施の形態1と相違している。
図13は、実施の形態2に係る拘束板60の具体的な構成例を示す図である。
図13は、車両幅方向D3(特定方向)に沿った拘束板60の断面を示している。
【0055】
拘束板60は、第1の部位60aと、一対の第2の部位60bとを備えている。実施の形態1では、拘束板の厚さの違いを利用して一対の第2の部位12bが構成されている。これに対し、実施の形態2では、一対の第2の部位60bは、拘束板60の厚さの変更を伴わない断面形状の変化を利用して構成されている。すなわち、
図13に示すように、車両幅方向D3に沿った断面において、第1の部位60aは平らであり、一対の第2の部位のそれぞれは波型である。
【0056】
波型形状の一対の第2の部位60bは、拘束板60を曲げようとする荷重が例えば車両前後方向D2の各端部に対して付与された場合には、当該荷重に対して高い剛性を発揮する。その一方で、波型形状の一対の第2の部位60bは、
図13に示すように車両幅方向D3の各端に付与される拘束荷重に対しては、平板と比べて曲がり易くなる(すなわち、剛性が低下する)。したがって、実施の形態1の拘束板12及び14に代えて拘束板60を採用した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0057】
3.実施の形態3
実施の形態3は、「一対の第2の部位」の構成手法において、実施の形態1及び2と相違している。
図14は、実施の形態3に係る拘束板70の具体的な構成例を示す図である。
図14は、車両幅方向D3(特定方向)に沿った拘束板70の断面を示している。
【0058】
拘束板70は、第1の部位70aと、一対の第2の部位70bとを備えている。実施の形態3では、第1の部位70aと一対の第2の部位70bとの剛性差は、材料の違いを利用して付与されている。すなわち、一対の第2の部位70bのそれぞれは、第1の部位70aと比べて、ヤング率の低い材料を用いて形成されている。
【0059】
具体的には、例えば、第1の部位70a及び一対の第2の部位70bは、共にGFRP又はCFRP等の繊維強化プラスチックを用いて形成されてもよい。そして、一対の第2の部位70bの繊維配合率を第1の部位70aのそれと比べて低下させることにより、上記剛性差が付与されてもよい。
【0060】
また、上記剛性差を付与するために、例えば、第1の部位70aは金属材料を用いて形成され、一対の第2の部位70bは樹脂材料を用いて形成されてもよい。このような例における拘束板70は、例えば、インサート成形等の樹脂金属接合手法を利用して形成できる。
【0061】
付け加えると、上述の具体例に代え、上記剛性差は、例えば、ヤング率の異なる2種類の金属材料を用いて付与されてもよい。このような例における拘束板70は、例えば、溶接、又はボルトとナットの組み合わせ等の任意の接合手法を利用して形成できる。
【0062】
以上説明した実施の形態3の拘束板70を拘束板12及び14に代えて採用した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0063】
4.実施の形態4
実施の形態4は、「一対の第2の部位」の構成手法において、実施の形態1~3と相違している。
図15は、実施の形態4に係る拘束板80の具体的な構成例を示す図である。
【0064】
拘束板80は、第1の部位80aと、一対の第2の部位80bとを備えている。
図15に示すように、拘束板80(特定拘束板)は、車両幅方向D3(特定方向)に沿って延びる複数本のビード82を備えている。一例として、ビード82の数は4本である。このようなビード82は、拘束板80の基本的な剛性を高めるために設けられている。
【0065】
そのうえで、実施の形態4では、一対の第2の部位80bのそれぞれは、各ビード82に対して車両前後方向D2(すなわち、特定方向と直交する方向)に沿って形成された切り込み84を有する部位である。第1の部位80aは、一対の第2の部位80b以外の部位(すなわち、ビード82のない部位、及び、ビード82における切り込み84から離れた部位)である。このような構成によれば、車両幅方向D3の両端において拘束板80に付与される拘束荷重に対し、切り込み84を有する第2の部位80bの剛性を拘束板80の他の部位(すなわち、第1の部位80a)と比べて低下させることができる。
【0066】
以上説明した実施の形態4の拘束板80を拘束板12及び14に代えて採用した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
図16は、実施の形態4の変形例に係る拘束板90の具体的な構成例を示す図である。拘束板90は、第1の部位90aと、一対の第2の部位90bとを備えている。この変形例では、一対の第2の部位90bが有する切り込み84は、複数本のビード82の全部ではなく、その一部に設けられている。より詳細には、好ましい一例として、切り込み84は、切り込み84のないビード82と切り込み84のあるビード82とが交互に並ぶように、4本のうちの2本のビード82に形成されている。この例のように本開示に係る「切り込み」は、複数本のビードのうちの全部ではない1本又は複数本のビードに形成されていてもよい。
【0068】
なお、上述した実施の形態1~4においては、一対の拘束板の双方に「剛性低下構造」が付与されている。換言すると、一対の拘束板の双方が本開示に係る「特定拘束板」に相当している。しかしながら、「一対の第2の部位」を利用した剛性低下構造」は、一対の拘束板の何れか一方にのみ付与されていてもよい。換言すると、一対の拘束板の何れか一方のみが「特定拘束板」に相当していてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 電池パック
12、14、50、52、54、56、60、70、80、90 拘束板
12a、14a、50a、52a、54a、56a、60a、70a、80a、90a 拘束板の第1の部位
12b、14b、50b、52b、54b、56b、60b、70b、80b、90b 拘束板の一対の第2の部位
18 ボルト孔
20 積層型電池
34 電池セル
82 ビード
100 拘束板(比較例)