IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ミライズテクノロジーズの特許一覧 ▶ 株式会社QDレーザの特許一覧

<>
  • 特許-光半導体素子 図1
  • 特許-光半導体素子 図2
  • 特許-光半導体素子 図3
  • 特許-光半導体素子 図4
  • 特許-光半導体素子 図5
  • 特許-光半導体素子 図6
  • 特許-光半導体素子 図7
  • 特許-光半導体素子 図8
  • 特許-光半導体素子 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】光半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20250115BHJP
   H01S 5/50 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H01S5/343
H01S5/50 610
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021115689
(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2023012188
(43)【公開日】2023-01-25
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】506423051
【氏名又は名称】株式会社QDレーザ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】樽見 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】大山 浩市
(72)【発明者】
【氏名】武政 敬三
(72)【発明者】
【氏名】西 研一
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163030(JP,A)
【文献】特開2009-224736(JP,A)
【文献】特開2012-049399(JP,A)
【文献】国際公開第2009/118784(WO,A1)
【文献】特開平11-354839(JP,A)
【文献】特開2005-079583(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107645123(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体素子であって、
複数の量子ドット層を有する活性層(24)と、
前記活性層に積層されたp型クラッド層(25)と、
前記活性層に積層されたn型クラッド層(23)と、を備え、
前記複数の量子ドット層には、
p型不純物が添加された第1量子ドット層(242)と、
前記第1量子ドット層とは発光波長が異なり、n型不純物が添加された第2量子ドット層(243)とが含まれ
前記第2量子ドット層よりも前記第1量子ドット層の方が、前記p型クラッド層との距離が近く、
前記複数の量子ドット層は、前記p型クラッド層に近いほどp型不純物濃度が高く、前記n型クラッド層に近いほどn型不純物濃度が高い光半導体素子。
【請求項2】
前記第1量子ドット層の発光波長は、前記第2量子ドット層の発光波長よりも短い請求項1に記載の光半導体素子。
【請求項3】
前記複数の量子ドット層には、前記第1量子ドット層および前記第2量子ドット層に加えて、第3量子ドット層(244)が含まれており、
前記第3量子ドット層は、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が前記第1量子ドット層よりも低く、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が前記第2量子ドット層よりも低い請求項1または2に記載の光半導体素子。
【請求項4】
前記複数の量子ドット層には、前記第1量子ドット層および前記第2量子ドット層に加えて、第3量子ドット層(244)が含まれており、
前記第2量子ドット層の発光波長をλ2とし、
前記第3量子ドット層の発光波長をλ3として、
λ2<λ3であるか、または、
前記発光波長λ2と前記発光波長λ3とで構成される前記活性層の利得スペクトルが単峰性となっている請求項1ないしのいずれか1つに記載の光半導体素子。
【請求項5】
光半導体素子であって、
複数の量子ドット層を有する活性層(24)と、
前記活性層に積層されたp型クラッド層(25)と、を備え、
前記複数の量子ドット層には、
p型不純物が添加された第1量子ドット層(242)と、
前記第1量子ドット層とは発光波長が異なり、n型不純物が添加された第2量子ドット層(243)とが含まれ
前記第2量子ドット層よりも前記第1量子ドット層の方が、前記p型クラッド層との距離が近く、
前記第1量子ドット層の発光波長は、前記第2量子ドット層の発光波長よりも短く、
前記複数の量子ドット層には、前記第1量子ドット層および前記第2量子ドット層に加えて、第3量子ドット層(244)が含まれており、
前記第3量子ドット層は、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が前記第1量子ドット層よりも低く、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が前記第2量子ドット層よりも低く、
前記第2量子ドット層の発光波長をλ2とし、
前記第3量子ドット層の発光波長をλ3として、
λ2<λ3であるか、または、
前記発光波長λ2と前記発光波長λ3とで構成される前記活性層の利得スペクトルが単峰性となっている光半導体素子。
【請求項6】
前記複数の量子ドット層は、前記p型クラッド層に近いほどp型不純物濃度が高い請求項に記載の光半導体素子。
【請求項7】
前記複数の量子ドット層は、発光波長が短いほどp型不純物濃度が高い請求項1ないしのいずれか1つに記載の光半導体素子。
【請求項8】
前記複数の量子ドット層は、発光波長が長いほどp型不純物濃度およびn型不純物濃度が低い請求項1ないしのいずれか1つに記載の光半導体素子。
【請求項9】
前記第1量子ドット層のp型不純物濃度は、量子ドット(242a)の面密度の2倍以上とされており、
前記第2量子ドット層のn型不純物濃度は、量子ドット(243a)の面密度の2倍以上とされている請求項1ないしのいずれか1つに記載の光半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット層を備える光半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SOA(半導体光増幅器)等の光半導体素子を用いた半導体レーザ装置において、量子ドット層による電子の3次元的な閉じ込めと、活性層近傍へのp型不純物のドープによって、高温時の出力低下を抑制し、広い温度範囲で高出力を得る方法が提案されている。
【0003】
量子ドット層を用いた光半導体素子は、量子井戸を用いたものに比べて高温時の出力が低下しにくいが、波長帯域が狭い。これについては、発光波長の異なる複数の量子ドット層を組み合わせることで、広帯域で大きな出力を得る技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-244235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、p型不純物が添加された量子ドット層は、低温時に利得が低下する。そのため、特許文献1のようにp型不純物が添加された量子ドット層のみを用いると、低温時に出力が不足するおそれがある。
【0006】
一方、p型不純物が添加されていない量子ドット層を用いることもできる。このような量子ドット層は、低温時の利得低下はp型不純物が添加された量子ドット層よりも小さいが、高温時の利得低下はp型不純物が添加された量子ドット層よりも大きい。そのため、p型不純物が添加されていない量子ドット層のみを用いると、高温時に出力が不足するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明者らは、特願2021-71809号にて、p型不純物が添加された量子ドット層と、p型不純物をほとんど含まないアンドープ層とされた量子ドット層とを備えた光半導体素子を提案している。これによれば、発光帯域を拡大するとともに、動作波長を固定した際の温度変化に伴う利得変動を抑制することができる。
【0008】
しかしながら、このような光半導体素子では、アンドープ層によってキャリアの拡散が不十分となり、発光に寄与しない量子ドット層が存在する。したがって、発光に寄与する量子ドット層を増やし、光半導体素子の利得を向上させる余地がある。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、利得を向上させることができる光半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、光半導体素子であって、複数の量子ドット層を有する活性層(24)と、活性層に積層されたp型クラッド層(25)と、活性層に積層されたn型クラッド層(23)と、を備え、複数の量子ドット層には、p型不純物が添加された第1量子ドット層(242)と、第1量子ドット層とは発光波長が異なり、n型不純物が添加された第2量子ドット層(243)とが含まれ、第2量子ドット層よりも第1量子ドット層の方が、p型クラッド層との距離が近く、複数の量子ドット層は、p型クラッド層に近いほどp型不純物濃度が高く、n型クラッド層に近いほどn型不純物濃度が高い
【0011】
これによれば、n型不純物が添加された第2量子ドット層によって正孔の拡散が促進されるため、発光に寄与する量子ドット層を増やし、利得を向上させることができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態にかかる半導体レーザ装置の構成を示す図である。
図2図1に示すSOAの断面図である。
図3図2に示す活性層の断面図である。
図4】活性層の利得スペクトルである。
図5】利得の温度特性を示す図である。
図6】比較例のバンド図である。
図7】第1実施形態のバンド図である。
図8】第2実施形態における活性層の断面図である。
図9】第2実施形態における活性層の利得スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の半導体レーザ装置1は、光半導体素子であるSOA2と、波長選択部3とを備えている。半導体レーザ装置1は、例えばレーザレーダやLiDARなどに適用される。LiDARはLight Detection And Rangingの略である。SOA2と波長選択部3は、例えば図示しない半導体基板に半導体プロセスを施すことで形成される。
【0016】
SOA2は、レーザ光を発生させる光源である。図2に示すように、SOA2は、下部電極21と、基板22と、アンダークラッド層23と、活性層24と、オーバークラッド層25と、コンタクト層26と、上部電極27の積層構造によって構成されている。なお、図1では、SOA2のうちアンダークラッド層23、活性層24、オーバークラッド層25のみを図示している。
【0017】
図2に示すように、下部電極21は、基板22の裏面側、つまりアンダークラッド層23と反対側に接触させられている。基板22は、例えばGaAs基板などで構成されている。アンダークラッド層23は、n型のAlGaAsなどで構成されたn型クラッド層である。活性層24は、アンダークラッド層23の上面に形成されている。活性層24の詳細については、後述する。
【0018】
オーバークラッド層25は、活性層24の上面に形成されている。オーバークラッド層25は、p型のAlGaAsなどで構成されたp型クラッド層である。コンタクト層26は、上部電極27とのコンタクトを取るためのものであり、オーバークラッド層25の上面に形成されている。コンタクト層26は、例えばGaAsで構成されている。
【0019】
上部電極27は、コンタクト層26の上面に形成されている。上部電極27とコンタクト層26およびオーバークラッド層25の表層部に至るまで凹部28が形成されており、SOA2は、凹部28以外の位置に上部電極27とコンタクト層26が突き出たメサ構造とされている。
【0020】
このように構成されたSOA2により、上部電極27と下部電極21との間に所定の電位差を発生させる電圧を印加することで、レーザ発振を生じさせ、活性層24の端面からレーザ光を出射させることができる。
【0021】
活性層24の詳細な構成について説明する。図3に示すように、活性層24は、中間層241を備えている。中間層241は、GaAsで構成されている。また、活性層24は、複数の量子ドット層を備えている。量子ドット層は、例えばInAs、InGaAsで構成されている。量子ドット層は、結晶成長や微細加工などによって形成された粒状の量子ドットを備えた構造であり、表面側および裏面側が中間層241によって覆われている。
【0022】
活性層24の利得スペクトルは、複数の量子ドット層の基底準位による発光によって構成される極大値を有し、活性層24の発光波長および利得強度は、複数の量子ドット層の構成によって決まる。利得スペクトルは、例えばHakki-Paoli法によって測定することができる。
【0023】
複数の量子ドット層には、量子ドット層242および量子ドット層243が含まれている。量子ドット層242にはp型不純物が高濃度に添加されており、量子ドット層243にはn型不純物が高濃度に添加されている。量子ドット層242、量子ドット層243はそれぞれ第1量子ドット層、第2量子ドット層に相当する。
【0024】
活性層24は、量子ドット層242と量子ドット層243とをそれぞれ複数備えており、複数の量子ドット層242は、複数の量子ドット層243の上部に積層されている。すなわち、量子ドット層243よりも量子ドット層242の方が活性層24上部のオーバークラッド層25との距離が近くなっている。例えば、量子ドット層242、243の層数は、それぞれ8層とされる。
【0025】
前述したように、各量子ドット層242、243の両側には中間層241が積層されている。2つの量子ドット層242の間に形成された中間層241と、最上部の量子ドット層242の上に形成された中間層241には、p型不純物層241aが含まれている。2つの量子ドット層243の間に形成された中間層241と、最下部の量子ドット層243の下に形成された中間層241には、n型不純物層241bが含まれている。
【0026】
p型不純物層241aは、中間層241の形成途中にp型不純物を添加することで形成された層であり、GaAs中に微量のp型不純物が含まれた構成とされている。n型不純物層241bは、中間層241の形成途中にn型不純物を添加することで形成された層であり、GaAs中に微量のn型不純物が含まれた構成とされている。
【0027】
このようにp型不純物層241a、n型不純物層241bを量子ドット層242、243の近傍に配置することで、p型不純物層241aから拡散したp型不純物、n型不純物層241bから拡散したn型不純物が、それぞれ量子ドット層242、243に添加される。なお、量子ドット層242と量子ドット層243との間の中間層241には、p型不純物層241aとn型不純物層241bのうちいずれか一方が含まれていてもよいし、いずれも含まれていなくてもよい。
【0028】
なお、p型不純物層241aは、オーバークラッド層25に近いほどp型不純物濃度が高くなっている。また、n型不純物層241bは、アンダークラッド層23に近いほどn型不純物濃度が高くなっている。このような構成により、複数の量子ドット層242と複数の量子ドット層243は、オーバークラッド層25に近いほどp型不純物濃度が高くなっており、アンダークラッド層23に近いほどn型不純物濃度が高くなっている。
【0029】
不純物濃度は、例えば1つの量子ドットに閉じ込められる正孔の数を基準にして設定される。具体的には、1つの量子ドットには、正孔が2つ以上閉じ込められる。そして、量子ドット層242のp型不純物濃度は、量子ドット層242に形成された量子ドット242aの面密度の2倍以上とされる。また、量子ドット層243のn型不純物濃度は、量子ドット層243に形成された量子ドット243aの面密度の2倍以上とされる。
【0030】
オーバークラッド層25に近いほど量子ドット層242のp型不純物濃度が高い本実施形態では、例えば、オーバークラッド層25に最も近い量子ドット層242のp型不純物濃度が量子ドット242aの面密度の2倍以上とされる。また、アンダークラッド層23に近いほど量子ドット層243のn型不純物濃度が高い本実施形態では、例えば、アンダークラッド層23に最も近い量子ドット層243のn型不純物濃度が量子ドット243aの面密度の2倍以上とされる。
【0031】
量子ドット層242と量子ドット層243は、互いに発光波長が異なる。具体的には、量子ドット層242の発光波長は、量子ドット層243の発光波長よりも短くされている。量子ドット層242の発光波長、すなわち、量子ドット層242の利得がピークをとる波長をλ1とし、量子ドット層243の発光波長をλ2とすると、例えば、波長λ1、λ2は、それぞれ、1210nm、1280nmとされる。
【0032】
このような構成により、活性層24の利得スペクトルは、図4に示すようになる。図4において、実線は活性層24の利得スペクトルを示し、左側の一点鎖線は量子ドット層242の利得スペクトルを示し、右側の一点鎖線は量子ドット層243の利得スペクトルを示す。このように、2つの利得スペクトルを組み合わせることにより、波長λ1、λ2の間の波長で利得が大きい広帯域のスペクトルが構成される。
【0033】
波長選択部3は、半導体レーザ装置1の動作波長、具体的には、活性層24の動作波長を選択するものであり、図1に示すように、エタロンフィルタ31と、ミラー32とを備えている。活性層24の動作波長をλopとする。
【0034】
エタロンフィルタ31は、所定の波長のみを透過させるものである。エタロンフィルタ31は、活性層24から射出された光が入射するように配置されており、図1の矢印A1で示すように、エタロンフィルタ31を透過した光は、ミラー32に入射する。
【0035】
ミラー32は、エタロンフィルタ31から入射した光を、エタロンフィルタ31に向かって反射するように配置されている。矢印A2で示すように、ミラー32で反射した光は、エタロンフィルタ31を透過して活性層24に入射し、活性層24のうちエタロンフィルタ31、ミラー32とは反対側の端面から射出される。エタロンフィルタ31の設計によって、透過させる光の波長を調整することにより、半導体レーザ装置1の動作波長を選択することができる。
【0036】
本実施形態では、波長選択部3は、活性層24をシングルモード発振、すなわち、単一の波長で発振させるように動作波長λopを選択する。具体的には、波長選択部3は、2つのエタロンフィルタ31を備えている。2つのエタロンフィルタ31をそれぞれエタロンフィルタ31a、31bとする。
【0037】
エタロンフィルタ31a、31bは、自由スペクトル間隔が異なっており、エタロンフィルタ31aが透過させる複数の波長と、エタロンフィルタ31bが透過させる複数の波長とが、1つの波長のみで重複している。したがって、図1に示すように、活性層24から射出された光の経路上にエタロンフィルタ31a、31bを置くことで、この1つの波長の光がミラー32に入射し、活性層24に戻る。これにより、活性層24がシングルモード発振するようになる。
【0038】
活性層24がマルチモード発振するように動作波長λopを選択してもよいが、活性層24がシングルモード発振することで、利得変動を低減することができる。
【0039】
なお、ここでは波長選択部3がエタロンフィルタ31とミラー32とで構成される場合について説明したが、波長選択部3が所定の波長の光のみを反射する回折格子等で構成されていてもよい。波長選択部3を回折格子で構成する場合には、活性層24はシングルモード発振する。また、エタロンフィルタや回折格子等で構成される波長選択部3に対して、外部から電圧等を印加することによって、半導体レーザ装置1の動作波長を選択してもよい。また、ミラー32の反射率を調整して、光をミラー32側に出射させてもよい。
【0040】
動作波長λopは、所定の温度における波長λ1と、所定の温度における波長λ2との間の波長とされる。この所定の温度は、室温、あるいは、想定される環境温度の中央の温度である。室温とは、20℃以上28℃以下の温度、例えば25℃である。想定される環境温度は、例えば-40℃以上85℃以下の温度である。
【0041】
量子ドット層の利得の温度特性について説明する。量子ドット層の利得スペクトルは、温度変化によって波長がシフトする。具体的には、温度が上昇すると利得スペクトルは長波長側にシフトし、温度が低下すると利得スペクトルは短波長側にシフトする。そのため、動作波長を固定すると、温度変化によって量子ドット層の出力が低下する。
【0042】
これに対して、発光波長の異なる複数の量子ドット層を組み合わせて用いることにより、利得スペクトルを広帯域化し、波長シフトによる利得の低下を低減することができる。すなわち、図5に示すように、低温時には量子ドット層243の利得によって活性層24全体の利得が維持され、高温時には量子ドット層242の利得によって活性層24全体の利得が維持される。図5において、実線、一点鎖線、二点鎖線は、それぞれ、室温、低温、高温における活性層24の利得を示す。
【0043】
なお、n型不純物を添加すると高温時の利得が低下するが、n型不純物が添加された量子ドット層243を長波長側とすれば、量子ドット層243の利得が影響するのは低温時のみとなるため、動作波長λopにおける高温時の利得低下を抑制することができる。また、p型不純物が添加された量子ドット層は、n型不純物が添加された量子ドット層に比べて、高温時の利得低下が小さいため、量子ドット層242を短波長側とすることにより、動作波長λopにおける高温時の利得低下を抑制することができる。
【0044】
本実施形態の効果について説明する。量子ドット層243がp型不純物およびn型不純物をほとんど含まないアンドープ層とされた場合を想定する。この場合には、図6に示すように、移動度の高い電子がアンダークラッド層23から活性層24全体に拡散する。一方、移動度の低い正孔は活性層24のうちオーバークラッド層25に近い部分には拡散するものの、ほとんどが量子ドット層242まで一様に拡散した電子と再結合する。そして、新たに供給された正孔は量子ドット層242で消滅した正孔を補うように移動し、アンダークラッド層23に近い部分には到達しない。そのため、アンダークラッド層23付近の量子ドット層243では電子と正孔との結合が起こらず、この量子ドット層243は発光に寄与しない。
【0045】
これに対して、本実施形態では、量子ドット層243にn型不純物が高濃度に添加されている。これにより、量子ドット層243の電子濃度が高くなり、正孔との再結合確率が増加することで正孔が引き寄せられ、図7に示すように、量子ドット層243においても正孔の拡散が促進される。そのため、アンダークラッド層23付近の量子ドット層243も発光に寄与するようになり、活性層24全体での利得が向上する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、活性層24が複数の量子ドット層を有し、複数の量子ドット層には、p型不純物が添加された量子ドット層242と、量子ドット層242とは発光波長が異なり、n型不純物が添加された量子ドット層243とが含まれる。これにより、量子ドット層242の利得が向上する。
【0047】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0048】
(1)量子ドット層243よりも量子ドット層242の方が、オーバークラッド層25との距離が近い。これにより、量子ドット層242におけるキャリアの拡散が促進される。
【0049】
(2)複数の量子ドット層242、243は、オーバークラッド層25に近いほどp型不純物濃度が高い。このように活性層24の端部においてp型不純物の濃度を高くすることで、キャリアの拡散がさらに促進され、活性層24の利得がさらに向上する。
【0050】
(3)複数の量子ドット層242、243は、アンダークラッド層23に近いほどn型不純物濃度が高い。このように活性層24の端部においてn型不純物の濃度を高くすることで、キャリアの拡散がさらに促進され、活性層24の利得がさらに向上する。
【0051】
(4)量子ドット層242の発光波長は、量子ドット層243の発光波長よりも短い。これにより、動作波長λopにおける高温時の利得低下を抑制することができる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して活性層24の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
図8に示すように、本実施形態では、活性層24が備える複数の量子ドット層に、量子ドット層242および量子ドット層243に加えて、量子ドット層244が含まれている。量子ドット層244は、第3量子ドット層に相当する。
【0054】
活性層24は、量子ドット層244を複数備えており、複数の量子ドット層244は、複数の量子ドット層242と、複数の量子ドット層243との間に積層されている。例えば、量子ドット層242、243、244の層数は、それぞれ8層、5層、3層とされる。
【0055】
量子ドット層244は、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が量子ドット層242よりも低く、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が量子ドット層243よりも低くされている。
【0056】
具体的には、2つの量子ドット層244の間に形成された中間層241には、p型不純物層241aとn型不純物層241bのいずれも含まれていない。また、最上部の量子ドット層244の上に形成された中間層241と、最下部の量子ドット層244の下に形成された中間層241にも、p型不純物層241aとn型不純物層241bのいずれも含まれていない。このような構成により、量子ドット層244は、p型不純物およびn型不純物をほとんど含まないアンドープ層とされている。
【0057】
量子ドット層244の発光波長をλ3とすると、λ2<λ3とされている。これにより、活性層24の利得スペクトルは、図9に示すようになる。図9において、実線は活性層24の利得スペクトルを示し、3本の一点鎖線は、左から順に量子ドット層242、243、244の利得スペクトルを示す。アンドープ層はp型不純物またはn型不純物が添加された量子ドット層に比べて低温時の利得低下が小さい。そのため、量子ドット層244の発光波長を量子ドット層242、量子ドット層243よりも長くすることで、動作波長λopにおける低温時の利得低下を抑制することができる。
【0058】
このように、活性層24が備える複数の量子ドット層を、発光波長が短いほどp型不純物濃度が高く、発光波長が長いほどp型不純物濃度およびn型不純物濃度が低い構成とすることにより、広い波長範囲で高い利得を得ることができる。
【0059】
あるいは、λ2≒λ3またはλ3<λ2とされるとともに、波長λ2と波長λ3で構成される利得スペクトルが単峰性とされている。すなわち、活性層24の利得スペクトルは図4と同様の形状となり、右側の一点鎖線で示す利得スペクトルが、量子ドット層243と量子ドット層244の利得によって構成される。この場合にも、動作波長λopにおける低温時の利得低下を抑制することができる。
【0060】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0062】
(1)活性層24が備える複数の量子ドット層には、量子ドット層242および量子ドット層243に加えて、量子ドット層244が含まれている。そして、量子ドット層244は、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が量子ドット層242よりも低く、p型不純物濃度およびn型不純物濃度が量子ドット層243よりも低い。これにより、低温時の利得低下を低減することができる。
【0063】
(2)λ2<λ3とされている。または、波長λ2と波長λ3で構成される活性層24の利得スペクトルが単峰性とされている。これにより、低温時の利得低下をさらに低減することができる。
【0064】
(3)活性層24が備える複数の量子ドット層は、発光波長が短いほどp型不純物濃度が高い。このような構成により、広い波長範囲で高い利得を得ることができる。
【0065】
(4)活性層24が備える複数の量子ドット層は、発光波長が長いほどp型不純物濃度およびn型不純物濃度が低い。このような構成により、広い波長範囲で高い利得を得ることができる。
【0066】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0067】
24 活性層
242 量子ドット層
243 量子ドット層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9