(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20250115BHJP
【FI】
H04R3/00 320
(21)【出願番号】P 2021130047
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】種村 友貴
(72)【発明者】
【氏名】水谷 厚司
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-175932(JP,A)
【文献】特開2019-186649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 13/00-13/10
G10L 19/00-19/26
G10L 21/00-21/18
G10L 25/00-25/93
G10L 99/00
H04R 1/20- 1/40
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性が互いに異なるように配置された複数のマイク(210、220、230、240)と、
複数の前記マイクのうちの2つに入力された信号(500)を取得し、前記信号の振幅から振幅比を演算する演算部(310)と、
複数の前記マイクに対する音源(1000、2000)の方向を示す角度(θ)と前記振幅比(R)との対応関係に関する対応関係情報が記憶された記憶部(320)と、
前記対応関係情報に基づいて、前記振幅比から前記角度を推定する推定部(330)と、を有
し、
前記演算部は、2つの前記マイクの前記音源までの距離の差に基づき発生する信号取得時間の差である遅延時間を演算し、
前記記憶部は、前記対応関係情報である第1データ(610)と、前記遅延時間と前記角度との対応関係に関する第2データ(620)と、単位振幅比あたりの前記角度の第1変化量の推移を表す第3データ(630)と、単位遅延時間あたりの前記角度の第2変化量の推移を表す第4データ(640)と、を記憶し、
前記推定部が、前記第1変化量と前記第2変化量のうちの変化量の少ない方に対応する、前記第1データ、もしくは、前記第2データから前記角度を推定する音響装置。
【請求項2】
複数の前記マイクが互いに異なる指向性を有するように、互いに所定角度を成して配置されている請求項
1に記載の音響装置。
【請求項3】
予め特定方向の前記信号を取り除く指示を出す指示部(340)と、
前記指示部に基づいて前記特定方向から入力される前記信号を取り除く除去部(350)と、を有する請求項1
または2に記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の開示は、マイクを備える音響装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、指向性の異なる2つの共振ユニットと、2つの共振ユニットの出力の任意比率の和または差を計算することで指向特性を調整する信号処理部と、を有する指向性音響センサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の指向性音響センサは、指向特性を所望方向に合わせることで、所望方向の音声信号のみを選択的に獲得することができるようになっている。
【0005】
しかしながら、2つの共振ユニットの出力の和または差で音源方向を正確に推定することが難しかった。そのために所望方向の音声信号のみを選択的に獲得することが難しかった。
【0006】
そこで本開示の目的は、音源方向を精度よく推定することのできる音響装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様による音響装置は、
指向性が互いに異なるように配置された複数のマイク(210、220、230、240)と、
複数のマイクのうちの2つに入力された信号(500)を取得し、信号の振幅から振幅比を演算する演算部(310)と、
複数のマイクに対する音源(1000、2000)の方向を示す角度(θ)と振幅比(R)との対応関係に関する対応関係情報が記憶された記憶部(320)と、
対応関係情報に基づいて、振幅比から角度を推定する推定部(330)と、を有し、
演算部は、2つのマイクの音源までの距離の差に基づき発生する信号取得時間の差である遅延時間を演算し、
記憶部は、対応関係情報である第1データ(610)と、遅延時間と角度との対応関係に関する第2データ(620)と、単位振幅比あたりの角度の第1変化量の推移を表す第3データ(630)と、単位遅延時間あたりの角度の第2変化量の推移を表す第4データ(640)と、を記憶し、
推定部が、第1変化量と第2変化量のうちの変化量の少ない方に対応する、第1データ、もしくは、第2データから角度を推定する。
【0008】
これによれば、音源方向を精度良く推定することが可能になっている。
【0009】
なお、上記の括弧内の参照番号は、後述の実施形態に記載の構成との対応関係を示すものに過ぎず、技術的範囲を何ら制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】音響装置の車両への搭載状況を示す図面である。
【
図2】マイクの指向性を測定した結果を例示的に示す図面である。
【
図3】音響装置の電気的接続形態を示す図面である。
【
図7】振幅比Rから音源方向を推定するフローを説明する図面である。
【
図8】遅延時間τの演算方法を説明する図面である。
【
図9】遅延時間τの演算方法を説明する図面である。
【
図10】第1データと第2データを示す図面である。
【
図11】第3データと第4データを示す図面である。
【
図12】振幅比Rまたは遅延時間τから音源方向を推定するフローを説明する図面である。
【
図13】音源が複数ある場合の音響装置を説明する図面である。
【
図14】音響装置の電気的接続形態を示す図面である。
【
図15】方向A側の音声に基づく信号と方向B側の音声に基づく信号を説明する図面である。
【
図16】方向B側の音声に基づく信号を取り除く方法を説明する図面である。
【
図17】音源方向を推定する変形例を説明する図面である。
【
図18】音源方向を推定する変形例を説明する図面である。
【
図19】音源方向を推定する変形例を説明する図面である。
【
図20】音源方向を推定する変形例を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。
【0012】
また、各実施形態で組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士、実施形態と変形例、および、変形例同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0013】
また以下に示す実施例の形態は説明のための一例であり、以下に記載される形態に限定されるものではない。
【0014】
(第1実施形態)
図1~
図7に基づいて音響装置100を説明する。それにあたって、以下においては互いに直交の関係にある3方向を、x方向、y方向、z方向と示す。図面では「方向」の記載を省略して、単に、x、y、zと表記している。
【0015】
<音響装置>
図1に示すように音響装置100は、複数のマイク200、制御部300、および、パッケージ400を有する。複数のマイク200と制御部300は電気的に接続されている。複数のマイク200と制御部300がパッケージ400に設けられている。
【0016】
複数のマイク200それぞれは
図2に示すような指向性を有している。指向性とは音源方向に対するマイク200の感度を極座標表示したもののことである。なお
図1においては複数のマイク200それぞれの周りに、複数のマイク200それぞれに対応する指向性を破線で示している。
【0017】
外部空間で空気の振動(音)が発生すると、その振動が音響圧力として複数のマイク200に作用する。複数のマイク200はその音響圧力に応じた電気信号を制御部300に出力する。
【0018】
本実施形態で言えば、複数のマイク200それぞれは音源1000から生じる音声1100に応じた電気信号を制御部300に出力する。なお、複数のマイク200から制御部300に入力される電気信号を以下、信号500と示す。このようにして音源1000から生じる音声1100が信号500として制御部300に入力される。
【0019】
<パッケージ>
図1に音響装置100をz方向から見た平面図を示す。パッケージ400は略三角柱を成している。パッケージ400は、斜辺がある特定の方向Aと方向Bそれぞれに対向する態様で、例えば車両のインストルメントパネルに設けられている。ここでの方向Aは例えば運転席であり、方向Bは例えば助手席である。
【0020】
<マイク>
複数のマイク200は第1マイク210と第2マイク220を有している。パッケージ400における2つの斜面の一方に第1マイク210が配置されている。パッケージ400における2つの斜面の他方に第2マイク220が配置されている。
【0021】
図1に示すように第1マイク210と第2マイク220はx方向に離間して並んでいる。本実施形態では、第1マイク210と第2マイク220は、第1マイク210と第2マイク220の中心を通る中心面11に対して対称になるように配置されている。
【0022】
そして中心面11と第1マイク210との成す角がφ1を成すように第1マイク210がパッケージ400の斜面の一方に設けられている。同様に中心面11と第2マイク220と成す角がφ2を成すように第2マイク220がパッケージ400の斜面の他方に設けられている。なお、角φ1と角φ2を併せた角度φが所定角度に相当する。本実施形態では角φ1と角φ2が等しい形態について説明するが、角φ1と角φ2は異なっていてもよい。
【0023】
また本実施形態では第1マイク210と第2マイク220それぞれは単体として同等の指向性を有している。なお、第1マイク210の指向性と第2マイク220の指向性は異なっていてもよい。
【0024】
本実施形態では
図1に示すように第1マイク210と第2マイク220がパッケージ400における2つの斜辺の一方と他方に設けられることで、第1マイク210と第2マイク220が異なる指向性を有するようになっている。
【0025】
<制御部>
図1に示すように制御部300がパッケージ400に搭載されている。なお、図面においては便宜的に制御部300がパッケージ400の中央に搭載される形態を示したが、制御部300のパッケージ400への搭載位置は限定されない。
【0026】
また
図3に示すように制御部300は演算部310、記憶部320、および、推定部330有する。
【0027】
<演算部>
演算部310は第1マイク210に入力された音声1100に基づく信号500と第2マイク220に入力された音声1100に基づく信号500から物理量を演算する機能を有している。以下説明を簡便とするために第1マイク210に入力された音声1100に基づく信号500を第1信号510と示す。第2マイク220に入力された音声1100に基づく信号500を第2信号520と示す。以下必要に応じて適宜第1信号510と第2信号520を区別なく信号500と示す。
【0028】
図4の上段に第1信号510を表す波形を示している。
図4の下段に第2信号520を表す波形を示している。演算部310は閾値以上となる信号500に対して下記に示す演算を行うようになっている。
【0029】
演算部310は物理量として第1信号510の振幅Aと第2信号520の振幅Bとの振幅比Rを演算する。振幅Aとは
図4に示すように強度が0となる基準から正方向で最大強度となるまでの変位量のことである。振幅Bとは
図4に示すように強度が0となる基準から正方向で最大強度となるまでの変位量のことである。なお、振幅Aおよび振幅Bに強度が0となる基準から負方向へ最大強度となるまでの変位量を適用してもよい。
【0030】
本実施形態では
図4に示すように第1信号510の振幅Aを第2信号520の振幅Bで除することで振幅比Rを演算している。なお、第2信号520の振幅Bを第1信号510の振幅Aで除することで振幅比Rを演算してもよい。
【0031】
また第1信号510の振幅Aと第2信号520の振幅Bの詳細な定義は演算方法の仕方によって異なるために振幅比Rの具体的な演算方法を説明する際に合わせて説明する。
【0032】
演算方法としては例えば2つの方法が考えられる。1つは閾値以上となる信号500のうち最も大きい振幅同士を比較することで振幅比Rを演算する方法である。上記したように
図4で言えば第1信号510の振幅Aを第2信号520の振幅Bで除することで振幅比Rを演算している。
【0033】
別の1つは
図5に示すように第1信号510と第2信号520の相互相関関数を求め、相関が最も大きくなる時間シフト量において振幅比Rを演算する方法である。具体的には相互相関が最も大きくなる時点から同じだけ時間経過した時点での振幅同士を比較することで振幅比Rを演算する。
図5で言えば第1信号510の振幅Cを第2信号520の振幅Dで除することで振幅比Rを演算している。
【0034】
なお、振幅比Rを演算する方法として上記した2つの方法のうち演算部310はどちらの方法、もしくは別の方法を用いていてもよい。相互相関関数については後で説明する。
【0035】
<記憶部>
記憶部320は音源方向を推定するためのデータを有している。なお、以下説明を簡便とするために第1マイク210と第2マイク220を必要に応じて適宜区別なくマイク200と示している。
【0036】
音源方向を示すパラメータとしては音源方向角θがある。本実施例における音源方向角θとは、音源1000からマイク200へと向かう音の方向と、マイク200の中心を通りy軸に沿う基準面10と、が成す角のことである。なお、音源方向角θは角度に相当する。
【0037】
本実施形態における基準面10とは、複数のマイク200それぞれに入る信号500の振幅が等しく、遅延時間が発生しなくなる中心面11をマイク200に向かって平行移動させた面のことである。
【0038】
なお、本実施形態では中心面11と第1マイク210との成す角φ1と音源方向角θが等しくなっている。中心面11と第2マイク220との成す角φ2と音源方向角θが等しくなっている。なお、角φ1と角φ2と音源方向角θは等しくなっていなくても良い。
【0039】
音源方向角θを推定するデータとして、記憶部320は
図6に示すような振幅比Rと音源方向角θとの対応関係を示す対応関係情報である第1データ610を有する。
【0040】
第1データ610は
図6に示すように連続する関数である。なお、第1データ610は連続する関数でなくてもよい。第1データ610は離散するデータテーブルであってもよい。
【0041】
また演算部310は振幅比Rを想定される最大の振幅比Rで除して規格化し、第1データ610に規格化された振幅比Rと音源方向角θとの対応関係が記憶されていてもよい。
【0042】
<推定部>
推定部330は第1データ610に基づいて振幅比Rから音源方向角θを推定する機能を有する。
【0043】
<振幅比による音源方向推定>
以下、制御部300のフローチャートを以下に示す。なお、以下各ステップを演算部310~推定部330の各機能部の機能として説明するが、制御部300が演算部310~推定部330を備えるために各ステップを制御部300が行うものとしてみなしてもよい。
【0044】
図7に示すように第1マイク210と第2マイク220から第1信号510と第2信号520が演算部310に送られると、ステップS710で演算部310によって信号500を取得する処理が行われる。
【0045】
ステップS710で演算部310によって信号500を取得する処理が行われると、次にステップS720で演算部310によって第1信号510の振幅と第2信号520の振幅との振幅比Rを演算する処理が行われる。
【0046】
ステップS720で演算部310によって振幅比Rの演算処理が行われると、次にステップS730で推定部330によって音源方向角θの推定が行われる。音源方向角θの推定方法としては、記憶部320に記憶された第1データ610に基づいて、推定部330が振幅比Rに対応する音源方向角θを読み取ることで音源方向を推定している。
【0047】
<作用効果>
これまでに説明したように、第1データ610に基づいて、推定部330が振幅比Rに対応する音源方向角θを読み取ることで音源方向を推定している。また上記したように第1データ610は連続する関数になっている。そのために音響装置100は音源方向を精度良く推定することが可能になっている。
【0048】
これまでに説明したように、第1マイク210と第2マイク220それぞれは単体として同等の指向性を有している。そして第1マイク210と第2マイク220がパッケージ400における2つの斜辺側の部位の一方と他方に設けられることで、第1マイク210と第2マイク220がそれぞれ異なる指向性を有するようになっている。これによれば、マイク200の種類の増大が抑制される。
【0049】
(第2実施形態)
第1実施形態では音響装置100が振幅比Rと第1データ610に基づいて音源方向を推定する形態について説明した。しかしながら、音響装置100が後述の遅延時間τ、第1データ610の変化量、および、後述する第2データ620の変化量に基づいて音源方向を推定してもよい。以下に第2実施形態の詳細について説明する。
【0050】
<遅延時間>
演算部310は物理量としてこれまでに説明した振幅比Rの他に、信号500間の遅延時間τを演算する。信号500間の遅延時間τとは、第1マイク210と第2マイク220の音源1000までの距離の差に基づき発生する信号取得時間の差のことである。以下に遅延時間τの演算方法を具体的に説明する。
【0051】
演算方法としては例えば2つの方法が考えられる。1つは
図8に示した最も大きい振幅となる時の第1信号510の時刻T1と第2信号520時刻T2との差を演算する方法である。
【0052】
別の1つは
図9に示すように第1信号510と第2信号520の相互相関関数を求め、相互相関が最も大きくなる時間シフト量を遅延時間τとして演算する方法である。なお、遅延時間τを演算する方法として演算部310はどちらの方法、もしくは別の方法を用いていてもよい。
【0053】
また演算部310は演算後の遅延時間τを想定される最大の遅延時間τで除して規格化する。後述する第2データ620には規格化された遅延時間τと音源方向角θとの対応関係を示す対応関係情報が記憶されている。
【0054】
<相互相関関数>
ある信号関数x(t)に対して別の信号関数y(t)が時間τだけずれた時の相互相関関数φxy(τ)は、以下数1のように示すことができる
【0055】
【数1】
本実施形態において、信号関数x(t)を第2信号520とみなし、信号関数y(t)を第1信号510とみなすと、時間シフト量が遅延時間τとなるときに第1信号510と第2信号520の重なりが最も大きくなっている。
【0056】
なお、あるサンプリング周期でサンプリングされた離散値に対しては以下に示すような相互相関関数φxy(j)となる。例えば全部でM個の区間においてj個だけずれた時の相互相関関数φxy(j)は、以下数2のように示すことができる。
【0057】
【数2】
x(i)とy(i+j)が同一の音声信号である場合には、jを遅延時間τとみなすことができる。
【0058】
<第2データ>
記憶部320はこれまでに説明した振幅比Rと音源方向角θとの対応関係を示す第1データ610の他に、
図10に示すような遅延時間τと音源方向角θとの対応関係を示す第2データ620を有している。第1データ610には規格化された振幅比Rと音源方向角θとの対応関係が記憶されている。第2データ620には規格化された遅延時間τと音源方向角θとの対応関係が記憶されている。なお、以降規格化された振幅比Rと規格化された遅延時間τを単に振幅比Rと遅延時間τと示す。
【0059】
<第3データと第4データ>
さらに記憶部320は
図11に示すように単位振幅比あたりの音源方向角θの変化量の推移を示す第3データ630と、単位遅延時間あたりの音源方向角θの変化量の推移を示す第4データ640を記憶している。以下、単位振幅比あたりの音源方向角θの変化量を第1変化量と示す。単位遅延時間あたりの音源方向角θの変化量を第2変化量と示す。
【0060】
言い換えれば第3データ611に振幅比Rと第1変化量の対応関係が記憶されている。第4データ612に遅延時間τと第2変化量の対応関係が記憶されている。なお
図11においては振幅比Rと遅延時間τを入力値として示している。
【0061】
なお、第3データ611は第1データ610を振幅比Rで微分した関数である。第4データ621は第2データ620を遅延時間τで微分した関数である。
【0062】
<選択と推定>
推定部330はこれまでに説明した第1データ610に基づいて振幅比Rから音源方向角θを推定する機能の他に、第2データ620に基づいて遅延時間τから音源方向角θを推定する機能を有する。
【0063】
さらに推定部330は第1変化量と第2変化量のうちの変化量の少ない方を選択する。そして推定部330は選択した変化量の小さい方の微分前の元データから音源方向角θを推定する機能を有している。
【0064】
なお、第3データ611の元データとは第1データ610のことを示している。第4データ621の元データとは第2データ620のことを示している。
【0065】
<振幅比または遅延時間による音源方向推定>
図12に示すように第1マイク210と第2マイク220から第1信号510と第2信号520が演算部310に送られると、ステップS810で演算部310によって信号500を取得する処理が行われる。
【0066】
ステップS810で演算部310によって信号500を取得する処理が行われると、次にステップS820で演算部310によって振幅比Rを演算する処理が行われる。
【0067】
次にステップS830で演算部310によって遅延時間τを演算する演算処理が行われる。なお、ステップS820とステップS830は同時に行われても良い。ステップS820とステップS830の順番が逆になっていてもよい。
【0068】
ステップS840で入力値として振幅比Rが推定部330に入力される。そして推定部330が記憶部320に記憶された第3データ630に基づいて振幅比Rに対応する第1変化量を読み取る。
【0069】
ステップS850で入力値として遅延時間τが推定部330に入力される。そして推定部330が記憶部320に記憶された第4データ640に基づいて遅延時間τに対応する第2変化量を読み取る。
【0070】
なお、ステップS840とステップS850は同時に行われても良い。ステップS840とステップS850の順番が逆になっていてもよい。
【0071】
その後、ステップS860で推定部330は第1変化量と第2変化量を比較する。そしてステップS870で推定部330は第1変化量と第2変化量のうちの変化量の小さい方を選択する。
【0072】
ステップS880で推定部330は第1変化量と第2変化量のうちの小さい方の元データに基づいて音源方向角θを推定する。
【0073】
これによれば第1データ610と第2データ620から精度良く音源方向を推定できるようになっている。推定される音源方向のずれが小さくなりやすくなっている。
【0074】
(第3実施形態)
他にも音響装置100は指示部340と除去部350を有していてもよい。指示部340と除去部350について以下に説明する。
【0075】
指示部340には、例えばマイク200に入力される信号500のうち運転席以外から入力される信号500を取り除く指示が記憶されている。運転席以外から入力される信号500としては例えば助手席から入力される信号500などがある。
【0076】
除去部350は指示部340の指示に基づいてマイク200に入力された信号500のうちの特定方向から入力された信号500を取り除く機能を有している。除去部350は複数のマイク200に入力された特定方向からの信号500同士を演算することで特定方向の信号500を除去している。詳細については後で説明する。
【0077】
図13に示すように運転席側の音源1000と助手席側の音源2000からそれぞれ音声1100、2100が発されると、第1マイク210と第2マイク220それぞれに音声1100、2100に基づく第1信号510と第2信号520が入力される。ここで示す音声1100、2100とは運転席側の音源1000から発される音声1100と助手席側の音源2000から発される音声2100のことである。なお、運転席側の音源1000から発される音声1100としては例えば運転者の発話などがある。助手席側の音源2000から発される音声2100としては例えば助手席側の同乗者の発話などがある。
【0078】
図14に示すように音響装置100は、これまでに説明したフローチャートに沿って複数の方向から入力された信号500それぞれの音源方向を推定する。これによって演算部310は例えば運転席側と助手席側それぞれに音源1000、2000があると推定する。
【0079】
以下、説明を簡便とするために第1信号510に含まれる運転席側の信号500を第1運転席側信号511と示す。第1信号510に含まれる助手席側の信号500を第1助手席側信号512と示す。第2信号520に含まれる運転席側の信号500を第2運転席側信号521と示す。第2信号520に含まれる助手席側の信号500を第2助手席側信号522と示す。
【0080】
また
図15に示すように第2運転席側信号521は第1運転席側信号511よりも遅延時間τだけ遅れて演算部310に入力される。第1助手席側信号512は第2助手席側信号522よりも遅延時間τだけ遅れて演算部310に入力される。
【0081】
第2運転席側信号521の振幅は第1運転席側信号511の振幅よりも小さくなっている。第1助手席側信号512の振幅は、第2助手席側信号522の振幅よりも小さくなっている。
【0082】
上記した指示部340に助手席から入力される信号500を取り除く指示が記憶されている場合、除去部350は第1助手席側信号512と第2助手席側信号522の振幅比Rと遅延時間τを演算する。
【0083】
なお、振幅比Rは第1助手席側信号512の振幅Eを第2助手席側信号522の振幅Fで除することで得られる。振幅Eと振幅Fそれぞれは強度が0となる基準から負方向へ最大強度となるまでの変位量と強度が0となる基準から正方向へ最大強度となるまでの変位量の和で示される。振幅Eと振幅Fの求め方についてはこれに限定されない。
【0084】
そして
図16に示すように除去部350は第2助手席側信号522を遅延時間τだけずらし、さらに第2助手席側信号522の振幅Fに振幅比Rを乗する。その後、除去部350は第1助手席側信号512と第2助手席側信号522との差分を取る。これによって除去部350は信号500から第1助手席側信号512と第2助手席側信号522を取り除くことができるようになっている。
【0085】
そして
図14に示すように助手席側からの信号500の取り除かれた信号500が外部に出力されるようになっている。言い換えれば運転席側からの信号500が外部に出力される。運転席側からの信号500が明瞭に外部に出力される。出力先としては音声認識システムなどがある。
【0086】
音声認識システムとは例えば運転者が音声1100によって車両のアクセサリ等を操作できるシステムのことである。これによって運転者はハンドルを握りながら音声1100でアクセサリ等を操作できるようになっている。アクセサリとしてはナビゲーションシステムやエアーコンディショナーなどが挙げられる。音響装置100によって運転席側からの信号500が明瞭に出力されるために音声認識システムで音声1100が正確に認識することができるようになっている。
【0087】
(第4実施形態)
より確実に音源方向を推定する方法としては
図17に示すように、ある時間幅(T)に対して音源方向角θをプロットし、ある一定の角度範囲以内に複数プロットされた場合に、その方角に音源1000があると推定する方法などがある。この方法は制御部300で行われていれば良い。
【0088】
(第1変形例)
これまでに説明した音響装置100では、パッケージ400の斜辺側の一方と他方に、単体として指向性の同等な第1マイク210と第2マイク220が1つずつ設けられていた。そして第1マイク210と第2マイク220がパッケージ400における2つの斜辺側の部位の一方と他方に設けられることで、第1マイク210と第2マイク220がそれぞれ異なる指向性を有するようになっていた。
【0089】
しかしながら
図18に示すようにパッケージ400の斜辺側の一方に第1マイク210の他に第3マイク230が設けられていても良い。制御部300の斜辺側の部位の他方に第2マイク220の他に第4マイク240が設けられていても良い。中心面11と第3マイク230との成す角がφ3を成すように第3マイク230がパッケージ400の斜面の一方に設けられていてもよい。同様に中心面11と第4マイク240との成す角がφ4を成すように第4マイク240がパッケージ400の斜面の他方に設けられていてもよい。
【0090】
その場合、単体として第1マイク210と第3マイク230の指向性が異なっていてもよい。第2マイク220と第4マイク240の指向性が異なっていてもよい。これによれば第1マイク210~第4マイク240の任意の2つによって音源方向を推定することができるようになっている。
【0091】
またこのようにマイク200が2つ以上パッケージに設けられる場合には例えば信号500の入力され始めの早い2つに基づいて音源方向が推定されていてもよい。なお、記憶部320には第1マイク210~第4マイク240のどの任意の2つに対しても対応するデータが記憶されている。
【0092】
また他にも図示しないが、パッケージ400の斜辺側の一方に3つ以上のマイク200が設けられていても良い。パッケージ400の斜辺側の部位の他方に3つ以上のマイク200が設けられていても良い。
【0093】
(第2変形例)
図19に示すように第1マイク210単体と第2マイク220単体の指向性が異なっていても良い。その場合パッケージ400が略三角柱になっていなくてもよい。第2変形例においてもこれまでに説明した方法によって音源方向を推定することができるようになっている。
【0094】
(第3変形例)
図20に示すように記憶部320は複数の第1データ610を有していても良い。具体的には記憶部320が第1マイク210と第2マイク220の指向性に依存した複数の第1データ610を有していても良い。その場合推定部330が複数の第1データ610の中から対応する1つを読み取ることで音源方向を推定する。なお、同様にして記憶部320は指向性に依存した複数の第2データ620と複数の第3データ630と複数の第4データ640を有していても良い。
【0095】
(第4変形例)
第1実施形態において振幅比Rから音源方向を推定する方法について説明したが、第1実施形態において遅延時間τから音源方向を推定してもよい。
【0096】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態が本開示に示されているが、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範ちゅうや思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0097】
210…第1マイク、220…第2マイク、230…第3マイク、240…第4マイク、310…演算部、320…記憶部、330…推定部、340…指示部、350…除去部、400…パッケージ、500…信号、610…第1データ、620…第2データ、630…第3データ、640…第4データ、1000…音源、2000…音源、θ…音源方向角、R…振幅比