(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250115BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20250115BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20250115BHJP
G06T 7/20 20170101ALI20250115BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20250115BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D7/14 A
B60W50/14
G06T7/20 100
B62D101:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2021133429
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関谷 義秀
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特許第5313760(JP,B2)
【文献】特開2016-122381(JP,A)
【文献】特開2011-140270(JP,A)
【文献】特開2009-255918(JP,A)
【文献】特開2005-256636(JP,A)
【文献】特開2015-214282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 7/14
B60W 50/14
G06T 7/20
B62D 101/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を転舵する前輪転舵装置と、
後輪を転舵する後輪転舵装置と、
転舵要求に応じて前記前輪転舵装置及び前記後輪転舵装置を制御する転舵制御装置と、
車両が直進している状態である直進状態を検出する直進検出装置と、
前記直進検出装置により前記直進状態が検出された場合、前記車両に設置された周辺監視装置の検出結果から演算されたオプティカルフロ
ーに基づいて、前記車両の状態が、車体前後方向と前記車両の進行方向とがずれた状態である偏向状態であるか否かを判定する偏向判定装置と、
を備え、
前記転舵制御装置は、前記偏向判定装置により前記車両の状態が前記偏向状態であると判定された場合、前記偏向状態を修正するように
前記前輪転舵装置及び前記後輪転舵装置を制御する偏向修正制
御を実行
し、
前記前輪転舵装置は、操作部材の操作力から機械的に独立し、転舵モータの力により前輪を転舵するステアバイワイヤ型の転舵装置を構成し、
前記転舵制御装置は、前記偏向修正制御の実行において、前記操作部材を作動させることなく、前記後輪への修正と同様に前記前輪を修正するように前記前輪転舵装置を制御する、
ステアリングシステム。
【請求項2】
前輪を転舵する前輪転舵装置と、
後輪を転舵する後輪転舵装置と、
転舵要求に応じて前記前輪転舵装置及び前記後輪転舵装置を制御する転舵制御装置と、
車両が直進している状態である直進状態を検出する直進検出装置と、
前記直進検出装置により前記直進状態が検出された場合、前記車両に設置された周辺監視装置の検出結果から演算されたオプティカルフロ
ーに基づいて、前記車両の状態が、車体前後方向と前記車両の進行方向とがずれた状態である偏向状態であるか否かを判定する偏向判定装置と、
を備え、
前記偏向判定装置により前記車両の状態が前記偏向状態であると判定された場
合、運転者に警告する警告制御を実行する、
ステアリングシステム。
【請求項3】
前記偏向判定装置は、
前記車体前後方向における車体前方又は車体後方を撮像する前記周辺監視装置としてのカメラと、
前記カメラの撮像結果に基づいて、前記オプティカルフローを演算し、演算された前記オプティカルフローの原点である測定原点を演算する原点演算部と、
前記カメラの撮像領域に設定された位置であって、前記車両が前記偏向状態でなく直進している場合における前記オプティカルフローの原点を含むように設定された基準位置を予め記憶する基準記憶部と、
前記測定原点と前記基準位置との比較に基づいて、前記車両の状態が前記偏向状態であるか否かを判定する偏向判定部と、
を備える、
請求項1
又は2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記測定原点と前記基準位置との差に基づいて、前記車体前後方向に対する前記車両の進行方向の傾き角度を演算する角度演算部をさらに備え、
前記偏向判定部は、前記傾き角度が所定の閾値以上である場合、前記車両の状態が前記偏向状態であると判定する、
請求項
3に記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記転舵制御装置は、前記偏向判定装置により前記車両が前記偏向状態であると判定された場合、前記角度演算部で演算された前記傾き角度に基づいて、前記偏向修正制御を実行する、
請求項2に従属しない請求項
4に記載のステアリングシステム。
【請求項6】
前記直進検出装置は、
ヨーレートセンサ及び車速センサと、
前記ヨーレートセンサ及び車速センサの検出結果に基づいて、前記車両が前記直進状態であるか否かを判定する直進判定部と、
を備える、
請求項1~5の何れか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項7】
前記転舵制御装置は、前記偏向判定装置により前記車両が前記偏向状態であると判定された場合、
判定時の情報を記録し、前記車両が停車状態又は所定車速以下で走行する低速状態である際に、
記録された判定時の情報に基づいて前記偏向修正制御を実行する、
請求項1に記載の、又は、請求項2に従属しない請求項3~6の何れか一項に記載のステアリングシステム。
【請求項8】
前記偏向修正制御実行後の車輪の状態を記録し、当該記録に基づいて前記操作部材の中立位置と車輪の転舵角との関係を変更する、
請求項7に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション部品の交換等において、車輪のアライメントを調整するためにテスターでトー角等が測定される。テスターを用いた厳密なアライメントの調整には、時間とコストがかかる。例えば商用車などでは、4輪の転舵機構が一度に(例えばユニットで)交換されることが少なくない。しかし、直進性能にかかわる部品(例えばサスペンション機構や転舵機構)の交換の度に厳密なアライメント調整を行うと、相当の時間とコストがかかってしまう。そこで、例えば特許第5313760号公報に記載には、走行中に自動でトー角を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記技術では、前輪の転舵角と車体のヨーレートとを共に0にした状態での走行を基準として調整が行われる。このため、ヨーレートが0であっても、車輪が車体前後方向に対して偏向した状態で直進している場合、すなわち車輪が偏向状態である場合、当該偏向状態のまま後輪のトー角が設定される可能性がある。
【0005】
偏向状態は、車両が、車体前後方向(車体の正面方向)と進行方向とが一致していない状態で直進している状態(いわゆるカニ走り状態)である。偏向状態では、ヨーレートは発生しない。偏向状態は、車体と車輪の向きの関係では、車体スリップ角が付いた状態ともいえる。車体前後方向とは、例えば、車体の前端部における左右幅の中心点と後端部における左右幅の中心点とを通る直線(中央線)に平行な方向である。偏向状態における前輪及び後輪は、車体に対して同様の転舵角で同一方向に偏向している。特に4輪の転舵機構を丸ごと交換するような場合には、厳密なアライメント調整が行われないと、このような偏向状態になる可能性が相対的に高い。しかし、時間とコストの観点から、厳密なアライメント調整の実施回数を低減することが望まれる。
本発明の目的は、車輪の偏向状態を検出又は修正することができるステアリングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のステアリングシステムは、前輪を転舵する前輪転舵装置と、後輪を転舵する後輪転舵装置と、転舵要求に応じて前記前輪転舵装置及び前記後輪転舵装置を制御する転舵制御装置と、車両が直進している状態である直進状態を検出する直進検出装置と、前記直進検出装置により前記直進状態が検出された場合、前記車両に設置された周辺監視装置の検出結果から演算されたオプティカルフローに基づいて、前記車両の状態が、車体前後方向と進行方向とがずれた状態である偏向状態であるか否かを判定する偏向判定装置と、を備え、前記偏向判定装置により前記車両の状態が前記偏向状態であると判定された場合、前記偏向状態を修正するように前記前輪転舵装置及び前記後輪転舵装置を制御する偏向修正制御、又は運転者に警告する警告制御を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オプティカルフロー又は2つのGPSの移動軌跡を利用することで、車両が直進し且つ車体前後方向と進行方向とがずれた状態(例えば所定角度以上の差がある状態)である偏向状態を検出することができる。偏向状態が検出されると、偏向修正制御又は警告制御が実行される。本発明によれば、車輪の偏向状態を検出又は修正することができる。
【0008】
警告制御を実行する構成では、アライメント調整は警告が出た場合にのみ行えばよく、調整回数を低減させることができる。また、偏向修正制御を実行する構成では、後輪の転舵角の制御により自動的に後輪の偏向が修正される。このため、アライメント調整の回数を低減することができる。ただし、前輪転舵装置と操作部材とが機械的に連結されている構成では、偏向修正制御実行後に車両を直進させる場合、運転者は、操作部材を中立位置から一定量操作した状態を維持する必要がある。一方、前輪転舵装置がステアバイワイヤ型である場合、操作部材とは独立して、すなわち操作部材を作動させることなく前輪の転舵角を修正することが可能となる。これによれば、操作部材の中立位置に対する前輪の転舵角を変更することで、中立位置の状態で車両が直進するように設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例のステアリングシステムの構成を示す概念図である。
【
図2】実施例の車両の偏向状態を説明するための概念図である。
【
図3】実施例のオプティカルフローを説明するための概念図である。
【
図4】実施例の制御の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施例の偏向判定装置の変形態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例であるステアリングシステム1を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0011】
図1に示すように、実施例のステアリングシステム1は、機械的に互いに独立した3つの装置、すなわち操作装置2、前輪転舵装置3、及び後輪転舵装置4を備えている。前輪転舵装置3は、一対の前輪10Fを転舵する装置である。後輪転舵装置4は、一対の後輪10Rを転舵する装置である。また、ステアリングシステム1は、さらに、主に前輪転舵装置3及び後輪転舵装置4を制御するステアECU5を備えている。ステアリングシステム1は、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムである。なお、以下、前輪10Fと後輪10Rとを総称して車輪10という場合がある。また、駆動輪は例えば後輪10Rである。
【0012】
(操作装置)
操作装置2は、操作部材としてのステアリングホイール21と、ステアリングシャフト22と、ステアリングコラム23と、反力付与機構24と、操作角センサ25と、を備えている。ステアリングホイール21は、運転者によって操舵操作(ステアリング操作)される操作部材である。ステアリングシャフト22は、先端にステアリングホイール21が取り付けられたシャフト部材である。ステアリングコラム23は、ステアリングシャフト22を回転可能に保持するとともに、インパネリインフォースメント(図示を省略)に支持される部材である。
【0013】
反力付与機構24は、ステアリングコラム23に支持された電動モータである反力モータ26を力源として、操舵操作に対する反力(以下「操作反力」ともいう)を、ステアリングシャフト22を介して、ステアリングホイール21に付与する機構である。反力付与機構24は、減速機等を含む一般的な構造のものである。反力モータ26には、回転角センサ26aが設けられている。操作角センサ25は、ステアリング操作量としてステアリングホイール21の操作角を検出するセンサである。
【0014】
また、ステアリングシステム1では、一般的ないわゆるパワーステアリングシステムと同様、ステアリングシャフト22に、トーションバー27が組み込まれている。操作装置2は、トーションバー27の捩じれ量に基づいて、運転者によってステアリングホイール21に加えられる操作力としての操作トルクを検出するための操作トルクセンサ28を有している。
【0015】
(転舵装置)
車輪10の各々は、サスペンション装置の一構成要素であるステアリングナックル90を介して、転向可能に車体に支持されている。前輪転舵装置3は、ステアリングナックル90を回動させることで、一対の前輪10Fを一体的に転舵する。前輪転舵装置3は、主要構成要素として、転舵アクチュエータ30を有している。
【0016】
転舵アクチュエータ30は、ステアリングロッド31と、ハウジング32と、ロッド移動機構33と、を備えている。ステアリングロッド31(「ラックバー」とも呼ばれる)は、両端がリンクロッド34を介して左右のステアリングナックル90にそれぞれ連結された部材である。ハウジング32は、ステアリングロッド31を左右に移動可能に支持するとともに、車体に固定的に保持された部材である。
【0017】
ロッド移動機構33は、電動モータである転舵モータ35を駆動源として、ステアリングロッド31を左右に移動させるための機構である。ロッド移動機構33は、ステアリングロッド31に螺設されたボール溝と、そのボール溝とベアリングボールを介して螺合するとともに転舵モータ35によって回転させられるナットとによって構成されるボールねじ機構を主体とするものである。一般的な構造のものであるため、ロッド移動機構33についての詳しい説明は省略する。
【0018】
転舵モータ35には、回転角センサ35a、及び自身に供給される電流を検出する電流センサ35bが設けられている。また、前輪転舵装置3は、前輪10Fの転舵角(転舵量)を検出するために、ステアリングロッド31の中立位置からの左右それぞれへの移動量を検出する転舵角センサ36を有している。このように、前輪転舵装置3は、ステアリングホイール21の操作力から機械的に独立し、転舵モータ35の力により前輪10Fを転舵するステアバイワイヤ型の転舵装置を構成している。
【0019】
後輪転舵装置4は、前輪転舵装置3と同様の構成を有している。すなわち、後輪転舵装置4は、転舵アクチュエータ30に相当する転舵アクチュエータ40を備えている。後輪転舵装置4は、ステアECU5の制御により、前輪10Fとは独立して後輪10Rを転舵する。後輪転舵装置4は前輪転舵装置3と同様の構成であるため、説明は省略する。
【0020】
(制御装置)
ステアECU5は、CPU及びメモリ等を備える電子制御ユニットである。ステアECU5は、通信線の図示は省略するが、各装置及び各センサに通信可能に接続されている。車両内の通信には、CAN(car area network or controllable area network)が用いられる。
【0021】
ステアECU5は、転舵要求、すなわち手動運転の場合におけるステアリングホイール21の操作角に応じて、車輪10を転舵するための転舵制御を実行する。ステアECU5は、ステアリングホイール21の操作角を、回転角センサ26aで検出された反力モータ26の回転角に基づいて取得する。ステアECU5は、操作角に基づいて、前輪10Fの転舵角の目標となる目標前輪転舵角を決定する。
【0022】
ステアECU5は、目標前輪転舵角に基づいて、転舵モータ35の回転角の目標である目標回転角を決定する。ステアECU5は、回転角センサ35aを介して、転舵モータ35の実際の回転角(以下「実回転角」ともいう)を検出し、目標回転角に対する実回転角の偏差である回転角偏差を決定する。転舵モータ35が発生させるトルクを転舵トルクと呼べば、ステアECU5は、回転角偏差に基づくフィードバック制御則に従って、発生させるべき転舵トルクを決定する。
【0023】
転舵モータ35に供給される電流を転舵電流と呼べば、転舵トルクと転舵電流とは、概ね比例関係にある。その関係にしたがって、ステアECU5は、決定された転舵トルクに基づいて、転舵モータ35に供給すべき転舵電流を決定し、その転舵電流を、転舵モータ35に供給する。
【0024】
また、ステアECU5は、操作角と車速情報とに基づいて、後輪10Rの転舵角の目標となる目標後輪転舵角を決定する。車速は、例えば、各車輪10に対して設けられた車輪速度センサ82の検出結果に基づいて演算される。ステアECU5は、前輪10Fの転舵制御同様、目標後輪転舵角に基づいて、転舵アクチュエータ40を制御する。ステアECU5は、車速等の走行状況に応じて、前輪10Fと後輪10Rとを同位相又は逆位相に制御することができる。ステアECU5は、必要に応じて後輪10Rの転舵角を制御する。ステアECU5は、転舵要求及び走行状況に応じて、前輪10Fの転舵角のみを制御してもよい。
【0025】
また、ステアECU5は、運転者にステアリング操作に対する操作感を付与するための反力制御を実行する。ステアECU5は、操作反力を、2つの成分である転舵負荷依拠成分FSと、操作力依拠減少成分FAとに基づいて決定する。転舵負荷依拠成分FSは、前輪10Fを転舵するために必要な転舵力(転舵モータ35の転舵トルク)に関する成分であり、転舵モータ35に供給されている転舵電流に基づいて決定される。詳しい説明は省略するが、転舵電流が大きい程、前輪10Fの転舵負荷が大きいと認識され、転舵負荷依拠成分FSが大きな値に決定される。
【0026】
一方、操作力依拠減少成分FAは、いわゆるパワーステアリングシステムにおける操作感を運転者に付与するための成分と考えることができる。パワーステアリングシステムでは、一般的に、操作トルクに応じたアシストトルクが、ステアリングシャフト22に付与される。ステアECU5は、操作トルクセンサ28を介して、操作トルクを検出する。ステアECU5は、操作反力に基づき、反力モータ26に供給する電流である反力電流を決定し、その決定した反力電流を、反力モータ26に供給する。
【0027】
このように、ステアECU5は、転舵制御を実行する転舵制御部51と、反力制御を実行するなど操作装置2を制御する操作制御部52と、を備えているといえる。また、詳細は後述するが、ステアECU5は、さらに、直進判定部53と、原点演算部54と、基準記憶部55と、偏向判定部56と、角度演算部57と、を備えている。なお、ステアECU5は、複数のECUで構成されてもよい。例えば、ステアECU5は、互いに通信可能に接続された、操作装置2を制御する操作ECUと、前輪転舵装置3を制御する前輪転舵ECUと、を制御する後輪転舵ECUと、を含んで構成されてもよい。また、ステアバイワイヤ型のステアリングシステム1における装置及びECUは、それぞれ冗長化されている。
【0028】
(偏向状態の検出)
ステアリングシステム1は、さらに、直進検出装置6と、偏向判定装置7と、を備えている。直進検出装置6は、車両が直進している状態である直進状態を検出する装置である。直進状態とは、例えば、ヨーレートが0であり車速が0より大きい状態、車両の任意の位置の移動軌跡が直線である状態、又は左右の車輪速度が同一である状態といえる。
【0029】
実施例の直進検出装置6は、ヨーレートセンサ61と、車速センサとしての車輪速度センサ82と、直進判定部53と、を備えている。直進判定部53は、ヨーレートセンサ61及び車輪速度センサ82の検出結果(すなわちヨーレート情報及び車速情報)に基づいて、車両が直進状態であるか否かを判定する。直進判定部53は、所定時間以上継続してヨーレートが所定値以下であり且つ車速が所定値以上である場合、ヨーレートが出ていない状態で車両が走行していると判断でき、車両が直進状態であると判定する。なお、直進状態の判定要素として、左右の車輪速度センサ82の検出値の差が用いられてもよい。
【0030】
偏向判定装置7は、直進検出装置6により直進状態が検出されている場合に、周辺監視装置の検出結果から演算されたオプティカルフローに基づいて、車両の状態が、車体前後方向と車両の進行方向とがずれた状態である偏向状態であるか否かを判定する。換言すると、偏向判定装置7は、オプティカルフローに基づいて、車両の状態が、車体前後方向に対して車両の進行方向が所定角度以上傾いている偏向状態であるか否かを判定する。車体前後方向は、車両の左右の中央を通る仮想直線である中央線CLに平行な方向(中央線CLに沿った方向)である。
図2に示すように、偏向状態は、車体前後方向と進行方向とがなす角β、換言すると進行方向に平行な直線と中央線CLとのなす角βが所定角度(閾値)以上である状態である。偏向状態における前輪10F及び後輪10Rは、車体に対して同様の転舵角で同一方向に偏向している。
【0031】
偏向判定装置7は、カメラ71と、原点演算部54と、基準記憶部55と、偏向判定部56と、角度演算部57と、を備えている。カメラ71は、車体前後方向における車体前方を撮像する周辺監視装置である。カメラ71は、時間的に連続するデジタル画像(例えば動画)を撮像し、原点演算部54に撮像結果を送信する。
図3に示すように、原点演算部54は、カメラ71の撮像結果に基づいて、オプティカルフローを演算し、当該オプティカルフローの原点(拡大中心、消失点、又は交点とも呼ばれる)である測定原点MPを演算する。
【0032】
オプティカルフローについては、例えば特開2016-122381号公報に記載されているように公知の技術であり、詳細な説明は省略する。オプティカルフローは、撮像結果(連続的なデジタル画像)の中で、物体の動きをベクトルで表したものである。オプティカルフローは、撮像した物体やカメラ71の移動によって生じる隣接フレーム間(連続する画像間)の物体の動きをベクトルで表す(捉える)技術といえる。
図3に示すように、例えば車両が前方に直進している場合、車体前方を撮像するカメラ71に基づくオプティカルフローにおいて、物体の位置の変化を示すベクトルは、原点(拡大中心)から放射状に延びていく。原点演算部54は、連続するデジタル画像に基づいて、撮像領域E内の物体についてオプティカルフローを作成し、当該オプティカルフローの原点を測定原点MPとして算出する。
【0033】
基準記憶部55は、基準位置RPを予め記憶している。基準位置RPは、カメラ71の撮像領域に設定された位置であって、車両が偏向状態でなく直進している場合におけるオプティカルフローの原点Orを含むように設定された位置(点、線、又は領域)である。実施例の基準位置RPは、原点Orを含み撮像画面の上下方向に延びる直線に設定されている。つまり、基準位置RPは、基準直線であって、撮像画面を左領域と右領域とに分ける直線である。このように「原点Orを含むように設定された基準位置RP」には、例えば、原点Orを通る直線や、原点Orが内側に位置する一定の領域も含まれる。
【0034】
カメラ71が車両の左右方向の中央に設けられて車体前方を撮像している場合、オプティカルフローの原点Orは、撮像領域の左右方向の中央を通る直線上に位置する(
図3参照)。基準位置RPである基準直線は、カメラ71の設置位置と撮像方向から予め推定可能であり、基準記憶部55に予め設定可能である。車両がカニ走り状態でなく直進している場合、理論上、測定原点MPは基準位置RP上に位置する。基準位置RPは、車両(車体)の正面を撮像する位置ともいえる。
【0035】
偏向判定部56は、測定原点MPと基準位置RPとの比較に基づいて、車両の状態が偏向状態であるか否かを判定する。偏向判定部56は、例えば、測定原点MPと基準位置RPとの差(離間距離)が閾値以上である場合、車両の状態が偏向状態であると判定する。測定原点MPと基準位置RPとの差は、基準位置RPに対する測定原点MPの水平方向の偏差ともいえる。なお、偏向判定部56は、後述する角度β(絶対値)が閾値以上である場合に、車両の状態が偏向状態であると判定してもよい。偏向判定部56は、判定結果を転舵制御部51に送信する。
【0036】
角度演算部57は、測定原点MPと基準位置RPとの差に基づいて、車体前後方向に対する車両の進行方向の傾き角度βを演算する。角度βは、車体スリップ角ともいえ、車体前後方向に平行な直線(例えば中央線CL)と車両の進行方向に平行な直線とがなす角度である。角度演算部57は、測定原点MPと基準位置RPとの水平方向(左右方向)の偏差を、角度βに変換する。水平方向の偏差と角度βとの間には正の相関関係がある。角度演算部57には、例えば、水平方向の偏差と角度βとの関係を示すマップが記憶されていてもよいし、水平方向の偏差から角度βを算出する演算式が記憶されていてもよい。角度演算部57は、角度βの情報を転舵制御部51に送信する。
図2のカニ走り状態では、ステアリングホイール21が中立位置にある状態で、全車輪10が同一方向(右側)に角度βだけ偏向している。
図2の状態では、左側の車輪10がトーインで、右側の車輪10がトーアウトとなっている。
【0037】
(偏向修正制御)
転舵制御部51は、偏向判定装置7により車両の状態が偏向状態であると判定された場合、偏向状態を修正するように後輪転舵装置4を制御する偏向修正制御を実行する。より詳細に、転舵制御部51は、偏向判定装置7により車両の状態が偏向状態であると判定された場合、判定時の情報(測定原点MP及び角度β等)を記録し、所定のタイミングで偏向修正制御を実行する。所定のタイミングは、例えば、車両が停車状態である際、又は車両が所定車速以下で走行している低速状態である際に設定されている。
【0038】
転舵制御部51は、原点演算部54及び/又は偏向判定部56からの情報に基づいて、車輪10が車体に対して左右のどちらに偏向しているのかを判定する。
図3の例の場合、測定原点MPが基準位置RPよりも右側に位置しているため、車輪10は車体に対して右側に偏向している(
図2参照)。この場合、転舵制御部51は、偏向修正制御において、後輪10Rの車体に対する傾きを減少させるように(打ち消すように)、後輪転舵装置4を制御して後輪10Rを左側に転舵させる。
【0039】
転舵制御部51は、角度演算部57で演算された傾き角度βに基づいて、偏向修正制御を実行する。転舵制御部51は、車輪10の偏向を打ち消す方向に、角度βだけ後輪10Rを転舵させる。また、転舵制御部51は、偏向修正制御の実行において、ステアリングホイール21を作動させることなく、後輪10Rへの修正と同様に前輪10Fを修正するように前輪転舵装置3を制御する。つまり、転舵制御部51は、後輪10Rと同様に、前輪10Fも、車輪10の偏向を打ち消す方向に角度βだけ転舵させる。この際、前輪10Fの転舵に対応してステアリングホイール21が回転しないように、転舵制御部51と操作制御部52とが連携して偏向修正制御を実行する。
【0040】
このように、ステアECU5は、ステアリングホイール21の回転角を維持したまま、前輪10F及び後輪10Rへの偏向修正制御を実行する。ステアECU5は、偏向修正制御実行後の車輪10の状態が、直進状態における車輪10の状態(例えばトー角が0度である状態)として記録する。したがって、次回以降の走行において、偏向修正制御後の車輪10の状態が、ステアリングホイール21の中立位置(操作されていない状態)での車輪10の状態に対応する。
【0041】
図4を参照してステアECU5による制御の流れの一例を説明する。直進検出装置6の演算結果に基づいて、車両が直進状態であるか否かが判定される(S1)。車両が直進状態であると判定された場合(S1:Yes)、角度演算部57で演算された角度βに基づいて、角度β(絶対値)が所定の閾値以上であるか否かが判定される(S2)。角度βが閾値以上である場合(S2:Yes)、その情報が記録され、偏向修正制御の所定の実行条件(例えば車両が停車状態又は低速状態であること)が満たされているか否かが判定される(S3)。実行条件が満たされた場合(S3:Yes)、偏向修正制御が実行され、角度βが0となるように、少なくとも後輪10Rが角度βだけ転舵される(S4)。本実施例では、ステアリングホイール21を作動させることなく、後輪10Rと同時に前輪10Fも角度βだけ転舵される。そして、偏向修正制御実行後の車輪10の状態が記録され、以後、ステアリングホイール21の中立位置と車輪10の転舵角との関係が変更される(S5)。
【0042】
(警告制御)
ステアECU5は、偏向判定装置7により車両の状態が偏向状態であると判定された場合、運転者に警告する警告制御を実行してもよい。警告制御は、例えば表示や音声により、運転者に車両の状態が偏向状態である旨を知らせる制御である。また、ステアECU5は、偏向修正制御を実行した場合、例えば表示や音声により、偏向修正制御が実行された旨を運転者に知らせてもよい。
【0043】
(まとめ)
このように、ステアリングシステム1は、偏向判定装置7により車両の状態が偏向状態であると判定された場合、偏向状態を修正するように後輪転舵装置4を制御する偏向修正制御、又は運転者に警告する警告制御を実行するように構成されている。このステアリングシステム1によれば、オプティカルフローを利用して、車輪の偏向状態(いわゆるカニ走り状態)を検出することができる。また、偏向状態が検出されると、警告制御又は偏向修正制御が実行される。このように、本構成によれば、車輪の偏向状態を検出又は修正することができる。
【0044】
警告制御を実行する構成では、アライメント調整は警告が出た場合にのみ行えばよく、調整回数を低減させることができる。また、偏向修正制御を実行する構成では、後輪10Rの転舵角の制御により後輪の偏向が修正される。このため、アライメント調整の回数を低減することができる。
【0045】
ただし、実施例と異なり、例えばパワーステアリングのように、前輪転舵装置3とステアリングホイール21とが機械的に連結された構成では、偏向修正制御実行後に車両を直進させる場合、運転者は、ステアリングホイール21を中立位置から一定量操作した状態を維持する必要がある。一方、実施例のように前輪転舵装置3がステアバイワイヤ型である場合、ステアリングホイール21から独立して前輪10Fを修正することが可能となる。これによれば、ステアリングホイール21の中立位置に対する前輪10Fの転舵角を変更することで、中立位置の状態で車両が直進するように設定することができる。
【0046】
実施例のようなアライメントの自動調整(偏向修正制御)により直進中の傾き角度βを0にする(0に近づける)ことで、直進中の走行方向から見た車両の投影面積を小さくすることができ、空気抵抗の低減による燃費向上が可能となる。さらに、当該自動調整により、狭い道路での走行や幅寄せの際により正確に狙いの位置に車両を誘導することができる。
【0047】
また、実施例によれば、偏向判定装置7がオプティカルフローを利用して偏向状態の有無を判定するため、簡易な構成で精度良く偏向状態の有無を判定することができる。また、実施例によれば、角度演算部57により角度βが演算され、角度βに基づいて偏向修正制御が実行されるため、精度良く偏向修正制御が実行される。
【0048】
また、実施例によれば、ヨーレートを用いて直進状態の有無が判定されるため、直接的にすなわち精度良く直進状態の有無を判定することができる。また、実施例によれば、車両が停車状態又は低速状態であるタイミングで偏向修正制御が実行されるため、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0049】
(その他)
本発明は、上記実施例に限られない。例えば、直進検出装置6は、ヨーレート情報及び車速情報に替えて又は加えて、GPSで取得した車両の移動軌跡、横加速度センサの検出値、及び左右の車輪速度センサ82の検出値の差の少なくとも1つに基づいて、車両の直進状態を検出してもよい。直進検出装置6は、例えば、車両の移動軌跡が直線状であること、横加速度(左右方向の加速度)が所定値以下であること、又は左右の車輪速度の差が所定値以下であること等により、車両の直進状態を検出することができる。また、直進検出装置6は、自動運転中の自己位置推定結果(例えばインフラからの電波や路面の磁石による取得情報に基づく推定)における車両の移動軌跡に基づいて、車両の直進状態を検出してもよい。
【0050】
また、偏向判定装置7は、車体後方を撮像するカメラの撮像結果に基づいて、オプティカルフロー及び測定原点MP(この場合の原点は縮小中心とも呼ばれる)を演算してもよい。また、偏向判定装置7は、オプティカルフローを用いなくてもよい。例えば、
図5に示すように、偏向判定装置7は、実施例の構成に替えて、車両に互いに離間して設置されたGPS72、73と、GPS72、73の移動軌跡(位置情報)に基づいて車両の偏向状態の有無を判定する判定部74(ECU)と、を備えてもよい。
【0051】
GPS72、73は、例えば、GPS72とGPS73とを結ぶ直線が中央線CLに平行となるように、車体前後方向に距離L離れて配置されている。直進に関する上記判定要素(ヨーレート又は位置情報等)に基づいて車両の直進状態が検出されると、判定部74は、GPS72の移動軌跡に対するGPS73の移動軌跡の偏差xを演算する。偏差xは、検出された平行な2つの移動軌跡の離間距離である。判定部74は、偏差xに基づいて、例えば下記の式に基づいて傾き角度βを演算する。
β=asin(x/L)
【0052】
このように、2つのGPS72、73の移動軌跡を利用することでも、車両の偏向状態を検出することができる。なお、GPS72、73の設置位置は、車体前後方向に沿った方向に限らず、左右方向であってもよい。車体に対する2つのGPS72、73の設置位置が把握できれば、角度βの演算は可能である。
【0053】
また、ステアリングシステムは、ステアバイワイヤ型のシステムに限らず、例えばパワーステアリングシステムのように、ステアリングホイールに加わる操作力が機械的に前輪転舵装置(例えばステアリングロッド等)に伝達されるシステムであってもよい。また、ステアリングシステムは、左右の車輪10を独立して転舵することができる左右独立転舵型のシステムであってもよい。また、偏向修正制御は、例えば自動運転中であれば、経路の修正とともに行われることで、任意のタイミングで運転者に違和感を与えず実行可能である。
【0054】
また、偏向修正制御における車輪10の角度の修正は、徐々に行われてもよい。また、転舵要求は、例えば自動運転の場合、他のECUからステアECU5に送信されてもよい。また、偏向判定装置7は、偏向状態の判定にあたり、周辺監視装置として車両に設けられたレーダー装置の検出結果を用いてもよい。周辺監視装置は、レーダー装置であってもよい。また、ステアリングシステム1は、角度βが演算されない場合など、偏向修正制御として、偏向を打ち消す方向に所定量だけ車輪10の転舵角を修正する制御を実行してもよい。ステアリングシステム1は、偏向状態が解消するまで偏向修正制御を繰り返し実行してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1:ステアリングシステム、10F:前輪、10R:後輪、2:操作装置、21:ステアリングホイール(操作部材)、3:前輪転舵装置、4:後輪転舵装置、5:ステアECU、51:転舵制御部(転舵制御装置)、53:直進判定部、54:原点演算部、55:基準記憶部、56:偏向判定部、57:角度演算部、6:直進検出装置、61:ヨーレートセンサ、7:偏向判定装置、71:カメラ、82:車輪速度センサ、CL:中央線。