(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】冷却装置及びハブユニット軸受用シール装置の試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20250115BHJP
F25D 11/00 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G01N17/00
F25D11/00 102Z
(21)【出願番号】P 2021136335
(22)【出願日】2021-08-24
【審査請求日】2024-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将充
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0223225(US,A1)
【文献】特表2011-504580(JP,A)
【文献】特開2016-151360(JP,A)
【文献】特開平10-135029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
F25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次冷媒槽と、
前記二次冷媒槽の内側に配置され、溶液を貯留するための貯留槽と、
前記二次冷媒槽に貯留された二次冷媒と、
前記二次冷媒槽の内側に配置され、前記二次冷媒を冷却するための二次冷媒冷却用熱交換器と、
前記貯留槽の内側に配置され、前記溶液を加熱するための溶液加熱用熱交換器と、
を備え
前記二次冷媒冷却用熱交換器は、前記溶液の凝固点よりも高い温度で前記二次冷媒を冷却する、冷却装置。
【請求項2】
前記貯留槽内の前記溶液の液位を調節するための液位調節手段を備え、
前記液位調節手段は、前記二次冷媒槽の内側に配置された液位調節槽と、前記貯留槽と前記液位調節槽とを連結する連結管と、前記液位調節槽の内部空間の圧力を調節する圧力調整装置とを有する、
請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記貯留槽内の前記溶液の液位を調節するための液位調節手段を備え、
前記液位調節手段は、前記二次冷媒槽の内側に配置された液位調節槽と、前記貯留槽と前記液位調節槽とを連結する連結管と、前記液位調節槽を前記貯留槽に対して昇降させる昇降装置とを有する、
請求項1に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記貯留槽の内側に配置され、前記溶液を撹拌するための溶液撹拌翼を備える、
請求項1~3のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の冷却装置を備える、
ハブユニット軸受用シール装置の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、低温かつ泥塩水環境下でのシール装置の耐久試験を行うために使用される、冷却装置に関する。又、本発明は、ハブユニット軸受に組み込んで使用されるシール装置の試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪及び制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。
図4は、特開2011-89558号公報(特許文献1)に記載された、ハブユニット軸受100を示している。ハブユニット軸受100は、外輪101と、ハブ102と、複数個の転動体103と、2個のシール装置104a、104bを備える。
【0003】
外輪101は、内周面に複列の外輪軌道105を有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ106を有する。静止フランジ106は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔107を有する。外輪101は、静止フランジ106の支持孔107を挿通した、図示しない支持ボルトにより、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0004】
ハブ102は、外輪101の径方向内側に該外輪101と同軸に配置され、かつ、複列の内輪軌道108と、回転フランジ109とを備える。複列の内輪軌道108は、ハブ102の外周面のうち、複列の外輪軌道105と対向する部分にそれぞれ全周にわたり備えられている。回転フランジ109は、ハブ102のうち、外輪101の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に存在する部分に、径方向外方に突出するように備えられ、かつ、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔110を有する。
【0005】
なお、ハブユニット軸受100に関して、軸方向外側とは、自動車に組みつけた状態での車両の幅方向外側(
図4の左側)をいい、軸方向内側とは、自動車に組みつけた状態での車両の幅方向中央側(
図4の右側)をいう。
【0006】
転動体103は、複列の外輪軌道105と複列の内輪軌道108との間に、列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0007】
図示しないディスクやドラム等の制動用回転体及び車輪を構成するホイールは、ハブ102の回転フランジ109に、複数本のスタッド111を用いて支持固定される。スタッド111のそれぞれは、軸部112の基端部(軸方向内側の端部)に備えられたセレーション部113を、回転フランジ109の取付孔110に軸方向内側から圧入している。制動用回転体及びホイールは、それぞれの円周方向複数箇所に形成された通孔に、スタッド111のそれぞれの軸方向中間部を挿通し、かつ、スタッド111のそれぞれの先端部に備えられた雄ねじ部114に、図示しないホイールナットを螺合する事で、回転フランジ109に支持固定される。
【0008】
それぞれのシール装置104a、104bは、外輪101の内周面とハブ102の外周面との間に存在する円筒状の内部空間115の軸方向両側の開口を塞いでいる。
【0009】
軸方向外側のシール装置104aは、芯金116と、シール材117とを有するシールリングにより構成されている。芯金116は、軟鋼板等の金属板を曲げ成形する事により、断面L字形で全体を円環状に構成されたもので、外輪101の軸方向外側の端部内周面に内嵌された円筒状の嵌合筒部118と、嵌合筒部118の軸方向外側の端部から径方向内側に折れ曲がった支持部119とを備える。シール材117は、ゴムのごときエラストマー等の弾性材により構成されており、シール材117の基端部は、支持部119に加硫接着により支持固定されている。又、シール材117は、3本の接触式のシールリップ120を有する。シールリップ120は、それぞれの先端部を、回転フランジ109の軸方向内側面又はハブ102の軸方向中間部外周面に全周にわたって摺接させている。
【0010】
軸方向内側のシール装置104bは、スリンガ121と、シールリング122とを有する組み合わせシールリングにより構成されている。
【0011】
スリンガ121は、ステンレス鋼板等の耐食性を有する金属板を曲げ成形する事により、断面L字形で全体を円環状に構成されたもので、ハブ102の軸方向内側の端部に外嵌された円筒部123と、該円筒部123の軸方向内側の端部から径方向外側に折れ曲がった円輪板部124とを備える。
【0012】
シールリング122は、金属製の芯金125と、弾性材製のシール材126とを備える。芯金125は、軟鋼板等の金属板を曲げ成形する事により、断面L字形で全体を円環状に構成されたもので、外輪101の軸方向内側の端部に内嵌された嵌合筒部127と、該嵌合筒部127の軸方向外側の端部から径方向内側に折れ曲がった支持部128とを備える。シール材126は、ゴムのごときエラストマー等の弾性材により構成されており、基端部を、支持部128に加硫接着により支持固定している。又、シール材126は、3本の接触式のシールリップ129を有する。シールリップ129は、それぞれの先端部を、スリンガ121の円筒部123の外周面又は円輪板部124の軸方向外側面に全周にわたって摺接させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2011-89558号公報
【文献】特開平7-27464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年の自動車の普及に伴い、氷点下となる寒冷地等の低温環境下における、ハブユニット軸受の耐久試験を行う必要性が高まっている。特に降雪環境下では、ハブユニット軸受のシール装置に、融雪剤として使用される塩分を含む低温(氷点下)の泥水(泥塩水)が跳ねかかったり、泥塩水中にシール装置が浸漬したりする場合がある。ゴムの弾性は、高分子のブラウン運動によって得られるものであり、温度低下に伴いブラウン運動が低下すると、ゴムの弾性も低下する。したがって、高分子のブラウン運動が低下する低温な環境を想定した耐久試験を行うために、泥塩水を低温に冷却する冷却装置が必要になる。
【0015】
特開平7-27464号公報(特許文献2)には、氷蓄熱式の熱交換器を有する回路内で水を循環させることにより、水温を設定温度まで下げる冷却装置が記載されている。熱交換器としては、一般的に管内に冷媒を流通させ、管の外側を流れる流体を冷却する冷却コイルを使用することができる。冷媒としては、例えばR-404A(沸点:-46.8℃)等の代替フロン(HFC)を使用することができる。
【0016】
ここで、食塩水の相平衡状態図である
図5から明らかなとおり、食塩水は、食塩の濃度にかかわらず、-21.3℃以下になると、氷と食塩とに分離する。このため、特開平7-27464号公報に記載の冷却装置を泥塩水の冷却に使用した場合、泥塩水は、冷却コイルの周囲で21.3℃以下に冷却されると、当該部分の水分だけが凍結してしまい、塩分を含まない氷と、塩分濃度が高くなった泥塩水とに分離される可能性がある。さらに、塩分を含まない氷が冷却コイルの表面に付着して堆積し、氷の厚さが厚くなると、冷却コイルと泥塩水との間で十分に熱交換を行えなくなり、泥塩水を十分に冷却することができなくなる可能性がある。この結果、寒冷地等を想定した低温環境下での試験を適切に行うことができなくなる可能性がある。
【0017】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、溶質と溶媒との分離を防止しつつ、溶液を十分に冷却することができる冷却装置、及び、前記冷却装置を備えるハブユニット軸受用シール装置の試験装置の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様に係る冷却装置は、
二次冷媒槽と、
前記二次冷媒槽の内側に配置され、溶液を貯留するための貯留槽と、
前記二次冷媒槽に貯留された二次冷媒と、
前記二次冷媒槽の内側に配置され、前記二次冷媒を冷却するための二次冷媒冷却用熱交換器と、
前記貯留槽の内側に配置され、前記溶液を加熱するための溶液加熱用熱交換器と、
を備え、
前記二次冷媒冷却用熱交換器は、前記溶液の凝固点(融点)よりも高い温度で前記二次冷媒を冷却する。
【0019】
本発明の一態様に係る冷却装置は、前記貯留槽内の前記溶液の液位(液面の高さ)を調節するための液位調節手段を備えることができ、かつ、前記液位調節手段は、前記二次冷媒槽の内側に配置された液位調節槽と、前記貯留槽と前記液位調節槽とを連結する連結管とを有し、前記液位調節槽の内部空間の圧力を調節することにより、前記貯留槽内の前記溶液の液位を調節することができる。
あるいは、前記液位調節手段は、前記液位調節槽を前記貯留槽に対して昇降させることにより、前記貯留槽内の前記溶液の液位を調節することができる。
【0020】
本発明の一態様に係る冷却装置は、前記貯留槽の内側に配置され、前記溶液を撹拌するための溶液撹拌翼を備えることができる。
【0021】
本発明の一態様に係るハブユニット軸受用シール装置の試験装置は、本発明の一態様に係る冷却装置を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明の冷却装置によれば、溶質と溶媒との分離を防止しつつ、溶液を所望の温度まで冷却することができる。具体的には、例えば、溶液である泥塩水を、飽和食塩水の凝固点(-21.3℃)近くまで冷却することができる。このため、低温環境下での試験を、安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例に係る冷却装置を示す、略断面図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明の実施の形態の第2例に係る冷却装置を、貯留槽内の溶液の液位を上昇させた状態で示す略断面図であり、
図2(B)は、貯留槽内の溶液の液位を下降させた状態で示す略断面図である。
【
図3】
図3(A)は、本発明の実施の形態の第3例に係る冷却装置を、貯留槽内の溶液の液位を上昇させた状態で示す略断面図であり、
図3(B)は、貯留槽内の溶液の液位を下降させた状態で示す略断面図である。
【
図4】
図4は、ハブユニット軸受の従来構造の1例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1を用いて説明する。なお、本例は、本発明の冷却装置を、ハブユニット軸受に取り付けられるシール装置の試験を、低温(氷点下)の泥塩水環境下で行うハブユニット軸受用シール装置の試験装置に、泥塩水を冷却するための冷却装置に適用した例である。
【0025】
本例の冷却装置1は、二次冷媒槽2と、貯留槽3と、二次冷媒4と、二次冷媒冷却用熱交換器5と、溶液加熱用熱交換器6と、二次冷媒撹拌翼7と、溶液撹拌翼8とを備える。
【0026】
二次冷媒槽2は、箱形状を有する。本例では、二次冷媒槽2は、矩形箱(直方体)形状を有する。すなわち、二次冷媒槽2は、矩形筒形状を有し、かつ、4枚の平板を組み合わせてなる側壁部9と、側壁部9の下側の端部を塞ぐ底板部10と、側壁部9の上側の端部を塞ぐ上板部11とを備える。側壁部9、底板部10及び上板部11は、外部空間と内部空間との断熱性能が高い材料により構成される、及び/又は、断熱性能が高い構造を有する。
【0027】
貯留槽3は、二次冷媒槽2の内側に配置され、冷却対象である溶液Sを貯留する。貯留槽3は、二次冷媒槽2の上下方向寸法よりも小さい上下方向寸法を有し、かつ、二次冷媒槽2の内径寸法よりも小さい外径寸法を有する。貯留槽3は、二次冷媒槽2の内側に浮かんだ状態で配置されている。すなわち、二次冷媒槽2の側壁部9の内周面と貯留槽3の側板部12の外周面との間部分、二次冷媒槽2の底板部10の上面と貯留槽3の底板部13の下面との間部分、及び、二次冷媒槽2の上板部11の下面と貯留槽3の上板部14の上面との間部分に、それぞれ隙間が存在する。このために、例えば、二次冷媒槽2の底板部10から上側に向けて突出する支持部に貯留槽3を載置することで、貯留槽3を二次冷媒槽2の内側に支持することができる。追加的あるいは代替的に、二次冷媒槽2の上板部11から下側に向けて垂下した、及び/又は、側壁部9から内側に向けて突出した支持部に、貯留槽3を吊り下げることにより、貯留槽3を二次冷媒槽2の内側に支持することができる。貯留槽3は、外部空間と内部空間との間での熱伝導性が高い材料により構成される。
【0028】
本例では、溶液Sは、それぞれが溶質である、泥と、食塩(塩化ナトリウム)及び/又は塩化カルシウムとを、溶媒である水に混合してなる泥塩水により構成されている。なお、溶液Sの貯留量や溶質の濃度は、実験条件等に応じて適宜選択される。
【0029】
二次冷媒4は、二次冷媒槽2に貯留されている。本例では、貯留槽3全体が二次冷媒4中に浸漬されるように、二次冷媒4の貯留量が調整されている。すなわち、二次冷媒4の液面は、貯留槽3の上板部14の上面よりも上方に位置している。ただし、貯留槽3に貯留された溶液Sの温度を所望の設定温度とすることができる限り、二次冷媒4の貯留量は、任意の量とすることができる。溶液Sを均一に冷却する面からは、二次冷媒4の液面を、溶液Sの液面よりも上方に位置させることが好ましい。
【0030】
二次冷媒4は、溶液Sを所望の設定温度とすることができ、かつ、作業者の安全性を確保することができる限り、任意の流体により構成することができる。本例のように、溶液Sとして泥塩水を使用し、かつ、シール装置の試験を行う場合には、二次冷媒4として、泥塩水を凝固点(飽和食塩水の場合、-21.3℃)よりも若干高い程度の温度(例えば-20℃~-21℃程度)まで冷却することができ、かつ、後述する二次冷媒冷却用熱交換器5に使用される一次冷媒の沸点よりも低い凝固点を有する、塩化カルシウム若しくはエチレングリコールの水溶液、又は、エチルアルコール等の流体を使用することができる。
【0031】
二次冷媒冷却用熱交換器5は、二次冷媒槽2の内側に配置され、二次冷媒4を冷却する機能を有する。本例では、二次冷媒冷却用熱交換器5は、二次冷媒槽2の底板部10の上面と貯留槽3の底板部13の下面との間に浮かんだ状態で配置されている。このために、例えば、二次冷媒槽2の底板部10から上側に向けて突出する支持部に二次冷媒冷却用熱交換器5を載置する、及び/又は、側壁部9から内側に向けて突出した支持部に二次冷媒冷却用熱交換器5を支持することで、二次冷媒冷却用熱交換器5を二次冷媒槽2の内側に支持することができる。
【0032】
二次冷媒冷却用熱交換器5は、二次冷媒4を十分に冷却することができる限り、任意の構造を備えることができる。本例のように、溶液Sとして泥塩水を使用し、かつ、シール装置の試験を行う場合には、二次冷媒4を泥塩水の凝固点よりも若干高い程度の温度まで冷却することができる限り、二次冷媒冷却用熱交換器5は、任意の構造を備えることができる。具体的には、例えば、二次冷媒冷却用熱交換器5は、金属製で螺旋状の管の内側に冷媒(一次冷媒)を流通させ、該管の外側を流れる二次冷媒4を冷却する冷却コイルにより構成される。一次冷媒としては、例えば、R-404A等の代替フロンを使用することができる。
【0033】
溶液加熱用熱交換器6は、貯留槽3の内側に配置され、溶液Sを、溶媒と溶質とに分離しないように凝固点以上の温度に加熱する機能を有する。具体的には、溶液加熱用熱交換器6は、二次冷媒4により冷却された溶液Sを加熱して、溶液Sの温度(液温)を微調整することにより、溶液Sの温度を、溶液Sの凝固点以上の所望の設定温度とする機能を有する。本例では、溶液加熱用熱交換器6は、貯留槽3の底部近傍に配置されている。このために、例えば、貯留槽3の底板部13から上側に向けて突出する支持部に溶液加熱用熱交換器6を載置したり、貯留槽3の上板部14から下側に向けて垂下した支持部に溶液加熱用熱交換器6を吊り下げたりすることで、溶液加熱用熱交換器6を貯留槽3の内側に支持固定することができる。
【0034】
溶液加熱用熱交換器6は、溶液Sを加熱して、溶液Sの温度を微調整することができる限り、任意の構造を備えることができる。具体的には、例えば、溶液加熱用熱交換器6は、ニクロム線を金属製の鞘(シース)で覆ってなるシーズヒータ等により構成される。
【0035】
二次冷媒撹拌翼7は、二次冷媒槽2の内側に配置され、二次冷媒4を撹拌する機能を有する。本例では、二次冷媒撹拌翼7は、二次冷媒槽2の底部近傍で、かつ、二次冷媒冷却用熱交換器5の周囲の円周方向複数箇所に配置されている。二次冷媒撹拌翼7は、二次冷媒槽2の上板部11に形成された通孔15aに挿通され、かつ、上下方向に配置された回転軸16の下側の端部に、複数枚(例えば3枚~6枚程度)の羽根17を支持することにより構成されている。具体的には、例えば、二次冷媒撹拌翼7は、プロペラ翼により構成されている。ただし、二次冷媒撹拌翼7は、二次冷媒槽2の内側に貯留された二次冷媒4を撹拌して温度(液温)を均一にすることができる限り、羽根の形状や枚数、設置位置及び個数等は特に限定されず、任意の構造を備えることができる。例えば、二次冷媒撹拌翼7を、ディスクタービン翼又は傾斜パドル翼等の低粘度撹拌翼により構成することができる。
【0036】
溶液撹拌翼8は、貯留槽3の内側に配置され、溶液Sを撹拌して、泥や塩などの溶質の沈殿を防ぐとともに、二次冷媒4との熱交換を促進する機能を有する。本例では、溶液撹拌翼8は、貯留槽3の内側で、かつ、溶液加熱用熱交換器6の上側の1箇所に配置されている。溶液撹拌翼8は、二次冷媒槽2の上板部11に形成された通孔15bと貯留槽3の上板部14に形成された通孔18とに挿通され、かつ、上下方向に配置された回転軸19の下側の端部に、複数枚(例えば3枚~6枚程度)の羽根20を支持することにより構成されている。具体的には、例えば、溶液撹拌翼8は、アンカー翼により構成されている。ただし、溶液撹拌翼8は、貯留槽3の内側に貯留された溶液Sを撹拌して、泥の沈殿を防止し、かつ、温度を均一にすることができる限り、羽根の形状や枚数、設置位置及び個数等は特に限定されず、任意の構造を備えることができる。例えば、溶液撹拌翼8を、ゲート翼若しくはパドル翼等の中粘度撹拌翼、又は、ヘリカルリボン翼若しくはスクリュー翼等の高粘度撹拌翼により構成することができる。溶液撹拌翼8を、中粘度撹拌翼又は高粘度撹拌翼により構成すれば、溶液撹拌翼8に泥の異物が溜まるの防止することができる。この結果、撹拌効率の低下に伴う二次冷媒4及び溶液加熱用熱交換器6と溶液Sとの間での熱交換の効率の低下や、泥塩水中の泥濃度の低下を防止することができる。
【0037】
本例の冷却装置1により、貯留槽3内に貯留された溶液Sを冷却するためには、二次冷媒撹拌翼7により二次冷媒4を撹拌し、かつ、溶液撹拌翼8により溶液Sを撹拌する。この状態で、二次冷媒冷却用熱交換器5により二次冷媒4を冷却する。具体的には、二次冷媒4を、溶液Sを所望の設定温度よりも若干低い温度、例えば前記設定温度よりも0.5℃~2.0℃程度低く、かつ、溶液Sの凝固点以上の温度まで冷却する。具体的には、例えば、泥塩水を-20℃に冷却する場合、二次冷媒4を-20℃よりも若干低い程度の温度(-20.5℃~-21℃程度)まで冷却する。そして、二次冷媒4により、貯留槽3内に貯留された溶液Sを冷却しつつ、溶液加熱用熱交換器6により、溶液Sを加熱して、溶液Sの温度を微調整することにより、溶液Sの温度を前記設定温度に調節する。
【0038】
試験対象であるシール装置Wは、一部又は全部を溶液Sに浸漬させた状態で、貯留槽3の内側に支持され、試験が行われる。具体的には、例えば、シール装置Wを構成するシールリングとスリンガとを相対回転させ、時間経過に伴うシールリップの摩耗を検出して耐久性を試験する耐久試験や、低温状態におけるシールリップの硬化に伴う摺接トルクの上昇を確認する起動試験等が行われる。
【0039】
本例の冷却装置1では、二次冷媒冷却用熱交換器5により、二次冷媒槽2内に貯留された二次冷媒4を冷却し、該二次冷媒4によって、二次冷媒4中に浸漬された貯留槽3内に貯留された溶液Sを冷却している。このため、本例の冷却装置1によれば、泥塩水を冷却コイルにより直接冷却する場合のように、冷却コイルの周囲で水分だけが凍結して、塩分を含まない氷と塩分濃度が高くなった泥塩水とに分離するといった問題の発生を防止することができる。すなわち、本例の冷却装置1によれば、泥塩水である溶液Sが、溶質である塩分と溶媒である水とに分離することを防止できる。又、溶液Sから熱を奪うことが氷により阻害されてしまうといった問題の発生を防止できるため、溶液Sを十分に冷却することができる。又、貯留槽3内に、金属製の管を複雑に折り曲げてなる冷却コイルを配置していないため、冷却コイルに泥が溜まってしまい、泥塩水中の泥濃度が低下するといった問題も発生しない。
【0040】
又、本例の冷却装置1によれば、溶液Sの温度(液温)を所望の設定温度に、正確かつ速やかに調節することができる。本例の冷却装置1は、二次冷媒槽2内に貯留された二次冷媒4を、二次冷媒冷却用熱交換器5により冷却し、さらに二次冷媒4により、該二次冷媒4中に浸漬された貯留槽3内に貯留された溶液Sを冷却している。要するに、本例の冷却装置1では、二次冷媒冷却用熱交換器5により、二次冷媒4及び貯留槽3を介して、溶液Sを小さい温度差で冷却している。したがって、溶液Sの冷却には時間がかかり、二次冷媒冷却用熱交換器5を制御するだけでは、溶液Sの温度を細かく調節することは難しく、溶液Sの温度の調節速度も遅くなってしまう。
【0041】
これに対し、本例の冷却装置1は、二次冷媒冷却用熱交換器5により、二次冷媒4及び貯留槽3を介して、溶液Sを所望の設定温度よりも若干低い温度を目標として冷却し、溶液加熱用熱交換器6により溶液Sを加熱して微調整することにより、溶液Sの温度を前記設定温度に調節するように構成されている。このため、本例の冷却装置1によれば、溶液Sの温度を前記設定温度に、正確かつ速やかに調節することができる。
【0042】
本例の冷却装置1は、二次冷媒4を撹拌するための二次冷媒撹拌翼7を備える。このため、二次冷媒4の温度を均一にすることができ、貯留槽3内に貯留された溶液Sを周囲から均一に冷却することができる。したがって、本例の冷却装置1によれば、貯留槽3内に貯留された溶液Sの一部だけが過度に冷却され、当該部分の水分だけが凍結することを防止することができる。この面からも、泥塩水である溶液Sが、溶質である塩分と溶媒である水とに分離することを防止でき、かつ、溶液Sの冷却が氷により阻害されることを防止できて、溶液Sを十分に冷却することができる。
【0043】
本例の冷却装置1は、溶液Sを撹拌するための溶液撹拌翼8を備える。このため、泥の沈殿を防止できるとともに、溶液Sの温度を均一にすることができ、溶液Sと、溶液加熱用熱交換器6及び二次冷媒4との間での熱交換を円滑に行うことができる。
【0044】
本発明の冷却装置は、ハブ軸受のシール装置の試験のために、泥塩水を冷却する冷却装置に限らず、種々の用途に適用することができる。又、本発明の冷却装置は、泥塩水に限らず、種々の溶液を冷却対象とすることができる。
【0045】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図2(A)及び
図2(B)を用いて説明する。本例の冷却装置1aは、貯留槽3内に貯留された溶液Sの液位(液面の高さ)を調節するための液位調節手段21を備える。液位調節手段21は、二次冷媒槽2の内側に配置された液位調節槽22と、貯留槽3と液位調節槽22とを連結する連結管23と、液位調節槽22を貯留槽3に対して昇降させる昇降装置(図示省略)とを有する。なお、
図2(A)及び
図2(B)は、二次冷媒冷却用熱交換器5、溶液加熱用熱交換器6、二次冷媒撹拌翼7及び溶液撹拌翼8を省略して示している。
【0046】
液位調節槽22は、二次冷媒槽2の内側に、昇降可能(上下方向変位可能)に支持されている。
【0047】
連結管23は、柔軟性を有する。具体的には、例えば、連結管23は、ゴム、ビニル、合成樹脂又は金属製のホースにより構成される。連結管23は、片側の端部を、貯留槽3の底板部13に備えられた開口部24に接続し、かつ、他側の端部を、液位調節槽22の底板部25に備えられた開口部26に接続されている。すなわち、溶液Sは、連結管23を通じて、貯留槽3と液位調節槽22との間を移動可能である。
【0048】
前記昇降装置は、液位調節槽22を貯留槽3に対して昇降させることにより、貯留槽3内に貯留された溶液Sの液位を調節する。
【0049】
すなわち、
図2(A)→
図2(B)に示すように、前記昇降装置により、液位調節槽22を貯留槽3に対して下降させると、貯留槽3内の溶液Sの液位と、液位調節槽22内の溶液の液位とが一致するように、貯留槽3内の溶液Sの一部が、連結管23を通じて液位調節槽22へと移動する。この結果、貯留槽3内の溶液Sの液位が下降する。
【0050】
これに対し、
図2(B)→
図2(A)に示すように、前記昇降装置により、液位調節槽22を貯留槽3に対して上昇させると、貯留槽3内の溶液Sの液位と、液位調節槽22内の溶液の液位とが一致するように、液位調節槽22内の溶液Sの一部が、連結管23を通じて貯留槽3へと移動する。この結果、貯留槽3内の溶液Sの液位が上昇する。
【0051】
本例の冷却装置1aによれば、液位調節槽22を貯留槽3に対して昇降させることで、貯留槽3内に貯留された溶液Sの液位を調節することができる。このため、貯留槽3の内側に支持されたシール装置Wの試験中に、シール装置Wを溶液S中に浸漬させた状態と、溶液Sから取り出して乾燥させている状態とを切り換えることができる。したがって、例えば、(浸漬+回転)→(浸漬+停止)→(乾燥+停止)→(乾燥+回転)のサイクルを繰り返し行う、乾湿繰り返し耐久試験を容易に行うことができる。このため、本例の冷却装置1aによれば、実際のシール装置Wの使用状態に近い条件での試験を比較的容易に行うことができる。
【0052】
なお、液位調節槽22の内側に、液位調節槽22内の溶液Sを加熱するための熱交換器を備えることができる。及び/又は、液位調節槽22の内側に、液位調節槽22内の溶液Sを撹拌するための撹拌翼を備えることができる。その他の部分の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0053】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図3(A)及び
図3(B)を用いて説明する。本例の冷却装置1bでは、貯留槽3内に貯留された液位を調節するための液位調節手段21aの構造が、実施の形態の第2例の液位調節手段21と異なっている。液位調節手段21aは、二次冷媒槽2の内側に配置された液位調節槽22aと、貯留槽3と液位調節槽22aとを連結する連結管23aと、液位調節槽22aの内部空間の圧力を調節する圧力調節装置を構成するコンプレッサ29とを有する。なお、
図3(A)及び
図3(B)は、二次冷媒冷却用熱交換器5、溶液加熱用熱交換器6、二次冷媒撹拌翼7及び溶液撹拌翼8を省略して示している。
【0054】
液位調節槽22aは、二次冷媒槽2の内側に支持固定されている。液位調節槽22aは、側板部27の上部に、バルブ28を有する。すなわち、本例では、バルブ28を通じて、
図3(A)に示すように、コンプレッサ29からの圧縮空気を液位調節槽22a内に送り込んだり、
図3(B)に示すように、液位調節槽22a内の空気を外部空間に排出したりすることができる。
【0055】
連結管23aは、片側の端部を、貯留槽3の側板部12の下部に備えられた開口部24aに接続し、かつ、他側の端部を、液位調節槽22aの側板部27の下部に備えられた開口部26aに接続されている。すなわち、溶液Sは、連結管23aを通じて、貯留槽3と液位調節槽22aとの間を移動可能である。なお、本例では、連結管23aは、実施の形態の第1例の連結管23と同様に、柔軟性を有するホースにより構成することもできるし、柔軟性を有さないパイプにより構成することもできる。
【0056】
本例の冷却装置1bでは、液位調節槽22a内の圧力を調節することにより、貯留槽3内に貯留された溶液Sの液位を調節することができる。
【0057】
すなわち、
図3(A)に示すように、コンプレッサ29から噴出される圧縮空気を、バルブ28を通じて、液位調節槽22aの内部空間へ送ることで、内部空間の圧力が高くなる。これにより、液位調節槽22a内の溶液Sの液面が下方に押圧され、液位調節槽22a内の溶液Sの一部が、連結管23aを通じて貯留槽3へと移動する。この結果、貯留槽3内の溶液Sの液位が上昇する。なお、図示のように、バルブ28から液位調節槽22aの内部空間までの配管30を迂回させ、二次冷媒4中を通る距離を長くすれば、圧縮空気を配管30中で冷やすことができ、圧縮空気を液位調節槽22aの内部空間に送ることによる溶液Sの温度上昇(変化)を防止することができる。
【0058】
これに対し、
図3(B)に示すように、バルブ28を通じて、液位調節槽22a内の空気を外部空間に排出すると、液位調節槽22aの内部空間の圧力が低くなる。これにより、液位調節槽22a内の空気により、液位調節槽22a内の溶液Sの液面を下方に押圧する力が小さくなると、貯留槽3内の溶液Sの一部が、連結管23aを通じて液位調節槽22aへと移動する。この結果、貯留槽3内の溶液Sの液位が下降する。
【0059】
なお、コンプレッサ29からの圧縮空気を液位調節槽22a内に供給するためのバルブ28と、液位調節槽22a内の空気を外部空間に排出するためのバルブ28とは、同一のバルブ28を使用することもできるし、別々のバルブ28を使用することもできる。又、貯留槽3内の溶液Sの液位を下降させる際には、バルブ28を通じて、真空ポンプにより、液位調節槽22a内の空気を吸引することで、液位調節槽22aの内部空間の圧力を下げることもできる。
【0060】
本例の液位調節手段21aは、液位調節槽22aの内部空間の圧力を調節することで、貯留槽3内の溶液Sの液位を調節する。すなわち、本例の液位調節手段21aでは、貯留槽3内の溶液Sの液位を調節するために、実施の形態の第2例の液位調節手段21のように、液位調節槽22を貯留槽3に対して昇降させる必要がない。したがって、本例の冷却装置1bによれば、二次冷媒槽2の大型化を防止することができる。その他の部分の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例及び第2例と同様である。
【符号の説明】
【0061】
1、1a、1b 冷却装置
2 二次冷媒槽
3 貯留槽
4 二次冷媒
5 二次冷媒冷却用熱交換器
6 溶液加熱用熱交換器
7 二次冷媒撹拌翼
8 溶液撹拌翼
9 側壁部
10 底板部
11 上板部
12 側板部
13 底板部
14 上板部
15a、15b 通孔
16 回転軸
17 羽根
18 通孔
19 回転軸
20 羽根
21、21a 液位調節手段
22、22a 液位調節槽
23、23a 連結管
24、24a 開口部
25 底板部
26、26a 開口部
27 側板部
28 バルブ
29 コンプレッサ
100 ハブユニット軸受
101 外輪
102 ハブ
103 転動体
104a、104b シール装置
105 外輪軌道
106 静止フランジ
107 支持孔
108 内輪軌道
109 回転フランジ
110 取付孔
111 スタッド
112 軸部
113 セレーション部
114 雄ねじ部
115 内部空間
116 芯金
117 シール材
118 嵌合筒部
119 支持部
120 シールリップ
121 スリンガ
122 シールリング
123 円筒部
124 円輪板部
125 芯金
126 シール材
127 嵌合筒部
128 支持部
129 シールリップ