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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】車両及び車両用除電装置
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/04 20060101AFI20250115BHJP
   B60R 16/06 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H05F3/04 B
B60R16/06 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022144983
(22)【出願日】2022-09-13
(65)【公開番号】P2024040560
(43)【公開日】2024-03-26
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 敏雄
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131427(JP,A)
【文献】特開2020-42928(JP,A)
【文献】特開2005-44617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04
B60R 16/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の内部に搭載された機器の外表面に取り付けられる自己放電式除電器と、
前記自己放電式除電器の外面に重ね合わされて前記外面を覆うと共に、前記自己放電式除電器の側端面を覆うカバーシートと、を備える車両用除電装置であって、
前記カバーシートは、天然繊維で構成されていること、
を特徴とする車両用除電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用除電装置であって、
前記カバーシートは、通気性を備える粘着剤層を備え、前記粘着剤層を介して前記自己放電式除電器の前記外面と前記機器の前記外表面とに貼り付けられていること、
を特徴とする車両用除電装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用除電装置であって、
前記粘着剤層を備える複数枚の前記カバーシートが、前記自己放電式除電器の前記外面と前記機器の前記外表面とに重ね合わせて貼り付けられており、
複数枚の前記カバーシートの合計厚さが0.1~0.2mmであること、
を特徴とする車両用除電装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用除電装置であって、
前記カバーシートは、前記自己放電式除電器の外側で前記カバーシートの周縁部が前記機器の前記外表面に固定されて前記機器との間に前記自己放電式除電器を挟み込むこと、
を特徴とする車両用除電装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用除電装置であって、
前記カバーシートは、和紙又は木綿の不織布で構成されていること、
を特徴とする車両用除電装置。
【請求項6】
車体の内部に搭載された機器と、
前記機器の外表面に取り付けられて自己放電式除電器と前記自己放電式除電器の外面に重ね合わされて前記外面を覆うと共に前記自己放電式除電器の側端面を覆うカバーシートとで構成される車両用除電装置と、を備える車両であって、
前記機器は、前記車体の構造部材と近接して配置されており、
前記カバーシートは、天然繊維で構成されていること、
を特徴とする車両。
【請求項7】
請求項6に記載の車両であって、
前記機器は、上面がフードで覆われる前記車体のフロントコンパートメントの内部に搭載されるヒューズボックスとバッテリとインバータの少なくとも1つを含み、
前記ヒューズボックスと前記バッテリと前記インバータとは前記フードと近接して配置されており、
前記車両用除電装置は、前記ヒューズボックスの蓋と、前記バッテリを収容するバッテリケースの蓋または側面と、前記インバータを収容するインバータケースの蓋の少なくとも1つに取り付けられていること、
を特徴とする車両。
【請求項8】
請求項6または7に記載の車両であって、
前記カバーシートは、和紙又は木綿の不織布で構成されていること、
を特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体及び制御機器の電位を低減する車両用除電装置の構成、及び車両用除電装置が取り付けられた車両の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、駆動用モータやバッテリ等の補機類に接続された電気回路に静電気が生じる場合がある。車両は、ゴムのタイヤで接地しているので、生じた静電気は路面に流れることができず、電気回路や車体に帯電することになる。そして、帯電した静電気が車両の制御装置に影響を及ぼし、車両の走行性能に影響が及ぶ場合がある。
【0003】
そこで、バッテリ等の正極回路を収容するケースの上面に導電層と放電層からなるシート状の自己放電式除電器を取り付けて、ケース外表面の正の電荷を中和除電し、車両の走行性能の改善を図る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、車体に負極が接地し、正極がヒューズボックスを介して補機類に電力供給する補機バッテリの負極端子やバッテリケースの外表面に空気イオン化自己放電式中和除電器を取り付けて車体の表面に帯電した正の静電気を低減し、車体と空気流との間の斥力を低減して、車両の空力性能や、操縦安定性を改善させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-042928号公報
【文献】特許第6168157号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された方法でフロントコンパートメントの中に搭載されているインターフェース端子、ヒューズ、リレーの収容ケース外面の電荷をコロナ自己放電により、フロントコンパートメントを流れる外気をマイナスイオンに変化させ、前記マイナスイオンを前記外面のプラス電荷に引き寄せて中和除電することにより除電するとフロントコンパートメントの上を覆うフードに静電気が帯電する場合がある。このため、フードの静電気の帯電を改善する余地がある。
【0007】
そこで、本開示は、車体及び制御機器の帯電電位を低減して本来の車両の制御性能を発揮させると共に、本来の空力性能を発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の車両用除電装置は、車体の内部に搭載された機器の外表面に取り付けられる自己放電式除電器と、前記自己放電式除電器の外面に重ね合わされて前記外面を覆うと共に、前記自己放電式除電器の側端面を覆うカバーシートと、を備える車両用除電装置であって、前記カバーシートは、天然繊維で構成されていること、を特徴とする。
【0009】
自己放電式除電装置に天然繊維で構成されたカバーシートを重ね合わせることにより、機器の外面の電位をゼロ相当電位に保ち、機器から車体への静電誘導を低減して車体の帯電電位を低減することができる。これにより、本来の車両の制御性能を改善すると共に、車体表面での剥離流の発生を抑制して本来の空力性能を発揮させることができる。
【0010】
本開示の車両用除電装置において、前記カバーシートは、粘着剤層を備え、前記粘着剤層を介して前記自己放電式除電器の前記外面と前記機器の前記外表面とに貼り付けられてもよい。
【0011】
このように、通気性の粘着剤を介してカバーシートを機器と自己放電式除電器に貼り付けるので、簡便な構成で車体及び制御機器の静電位を減少させることができる。
【0012】
本開示の車両用除電装置において、前記粘着剤層を備える複数枚の前記カバーシートが、前記自己放電式除電器の前記外面と前記機器の前記外表面とに重ね合わせて貼り付けられており、複数枚の前記カバーシートの合計厚さが0.1~0.2mmとしてもよい。
【0013】
カバーシートの保湿性、通気性が高くなると車体と制御機器の電位が低下する。ある程度重ね合わせたカバーシートの合計厚さが厚くなるとカバーシート全体の保湿性が高くなり車体の電位は減少する。一方、合計厚さが厚くなりすぎるとカバーシート全体の通気性が低下して車体と制御機器の電位が減少しなくなる。そして、合計厚さが0.1~0.2mmの場合に車体の電位の低減量が最大となる。このため、合計厚さを0.1~0.2mmとすることにより、効果的に車体と制御機器の電位を低下させることができる。
【0014】
本開示の車両用除電装置において、前記カバーシートは、前記自己放電式除電器の外側で前記カバーシートの周縁部が前記機器の前記外表面に固定されて前記機器との間に前記自己放電式除電器を挟み込んでもよい。
【0015】
これにより、カバーシートの周縁部のみを機器に固定し、自己放電式除電器にカバーシートを固定しないという簡便な構成で車両用除電装置を構成できる。
【0016】
本開示の車両用除電装置において、前記カバーシートは、和紙又は木綿の不織布で構成されてもよい。
【0017】
和紙又は木綿の様な一般的な材料でカバーシートを構成するので、コストを低減することができる。
【0018】
本開示の車両は、車体の内部に搭載された機器と、前記機器の外表面に取り付けられる自己放電式除電器と前記自己放電式除電器の外面に重ね合わされて前記外面を覆うと共に前記自己放電式除電器の側端面を覆うカバーシートとで構成される車両用除電装置と、を備える車両であって、前記機器は、前記車体の構造部材と近接して配置されており、前記カバーシートは、天然繊維で構成されていること、を特徴とする。
【0019】
自己放電式除電装置に天然繊維で構成されるカバーシートを重ね合わせることにより、機器の電位をゼロ相当電位に保ち、機器と近接する車体の構造部材への静電誘導を低減して車体の帯電電位を低減することができる。これにより、車両の本来の制御性能を発揮させると共に、車体表面での剥離流の発生を抑制して本来の空力性能を発揮させることができる。
【0020】
本開示の車両において、前記機器は、上面がフードで覆われる前記車体のフロントコンパートメントの内部に搭載されるヒューズボックスとバッテリとインバータの少なくとも1つを含み、前記ヒューズボックスと前記バッテリと前記インバータとは前記フードと近接して配置されており、前記車両用除電装置は、前記ヒューズボックスの蓋と、前記バッテリを収容するバッテリケースの蓋または側面と、前記インバータを収容するインバータケースの蓋の少なくとも1つに取り付けられてもよい。
【0021】
これにより、ヒューズボックスとバッテリとインバータの外面の電位をゼロ相当電位に保ち、ヒューズボックスとバッテリとインバータに近接して配置されているフードへの静電誘導を低減してフードの帯電電位を低減することができる。これにより、車両の本来の制御性能を発揮させると共に、フード表面での剥離流の発生を抑制して本来の空力性能を発揮させることができる。
【0022】
本開示の車両において、前記カバーシートは、和紙又は木綿の不織布で構成されてもよい。
【0023】
和紙又は木綿の様な一般的な材料でカバーシートを構成するので、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示は、車体及び制御機器の帯電電位を低減して車両の本来の制御性能を発揮させると共に、本来の空力性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態の車両用除電装置が取付けられた車両のフロントコンパートメントのフードを開いた状態を示す平面図である。
図2】実施形態の車両用除電装置が取付けられた車両のフロントコンパートメントの断面図であって、図1に示すA-A断面である。
図3】実施形態の車両用除電装置が取り付けられたヒューズボックスの断面図であって、図1に示すB-B断面である。
図4】ヒューズボックスの蓋に取り付けられた車両用除電装置とフードとの模式断面図であって、図3に示すC部詳細図である。
図5】カバーシートの通気性とヒューズボックスの蓋の電位との関係を示すグラフである。
図6】カバーシートの保湿性と、車体とフードとの電位との関係を示すグラフである。
図7】カバーシートの厚さと、車体とヒューズボックスの蓋との電位との関係を示すグラフである。
図8】ヒューズボックスの蓋に取り付けられた他の実施形態の車両用除電装置とフードとを示す模式断面図である。
図9】ヒューズボックスの蓋に取り付けられた従来技術の車両用除電装置とフードとを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら実施形態の車両100と、実施形態の車両用除電装置32,33,34について説明する。各図に示す矢印FR、矢印UP、矢印RHは、車両100の前側、上側、右側をそれぞれ示している。また、各矢印FR、UP、RHの反対方向は、後側、下側、左側を示す。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両100の前後方向の前後、左右方向の左右、上下方向の上下を示すものとする。
【0027】
図1に示すように、車両100の前方にはフロントコンパートメント11が設けられている。フロントコンパートメント11は、ダッシュパネル14よりも前方で上面が車両100の構造部材であるフード13で覆われる車体10の内部空間である。フロントコンパートメント11の内部には、モータやエンジンなどで構成される駆動ユニット21と、高圧バッテリ(図示せず)の直流電力を交流電力に変換して駆動ユニット21のモータに供給するインバータ22と、補機用のバッテリ23と、ヒューズボックス24とが搭載されている。図2に示すように、フード13は、後端部が回転自在に車体10に固定され、前端が矢印91に示すように上下に開いてフロントコンパートメント11を開閉する。フード13はアウタパネル13Aとインナパネル13Bとで構成されている(図4参照)。インバータ22とバッテリ23とヒューズボックス24の各上面は、フード13が閉じた際にフード13と近接するようにフロントコンパートメント11の中に搭載されている。尚、フロントコンパートメント11の内部には、上記以外にラジェータ等の機器も搭載されているが、図示は省略する。
【0028】
図1に戻って、インバータ22を収容する金属製のインバータケース22Aの蓋の上面と、樹脂製のヒューズボックス24の蓋26の上面とには、それぞれ車両用除電装置32,34が取り付けられている。また、図1,2に示すように、補機用のバッテリ23を収容する樹脂製のバッテリケース23Aには車両用除電装置33が取り付けられている。車両用除電装置33は、バッテリケース23Aの蓋の上面に取り付けられる車両用除電装置33Aと、バッテリケース23Aの蓋と左側面とにL字型に取り付けられた車両用除電装置33B,33Cと、バッテリケース23Aの前側面に取り付けられた車両用除電装置33Dとで構成されている。
【0029】
次に図3,4を参照しながらヒューズボックス24と、ヒューズボックス24の蓋26の上面に取り付けられた車両用除電装置34の詳細について説明する。
【0030】
図3に示すように、ヒューズボックス24は、樹脂製の本体25と、本体25の上面に取り付けられる樹脂製の蓋26とで構成されている。本体25の内部には複数のヒューズ27が収容されている。蓋26の上側の外表面26Aには車両用除電装置34が取り付けられている。
【0031】
図4に示すように、車両用除電装置34は、シート状の自己放電式除電器35と、自己放電式除電器35の外面35Cと側端面35Dとを覆うカバーシート36とで構成されている。
【0032】
自己放電式除電器35は、導電性のアルミニウム粘着テープ35Aと、アルミニウム粘着テープ35Aの上に塗布されたメタリック塗膜35Bとで構成されているメタリック塗膜35Bは、微細な金属材料を含有したメタリック塗料を塗布した薄膜である。メタリック塗膜35Bに含有される金属材料は、断面がU字状となるように円板を湾曲させた形状であって、そのエッジからコロナ放電を発生させると考えられている。したがって、メタリック塗膜35Bはコロナ放電を発生させる放電層を構成し、自己放電式除電器35は、空気イオン化自己放電式中和除電器である。
【0033】
カバーシート36は、和紙36Aと粘着剤層36Bとで構成されている。和紙36Aは、保湿性、通気性を備える天然繊維で構成されている。粘着剤層36Bは、和紙36Aを自己放電式除電器35の外面35Cと側端面35Dと蓋26の外表面26Aとに接着する。粘着剤層36Bは通気性を備えている。カバーシート36の外面36Cは、フロントコンパートメント11に流入する外気に接している。
【0034】
次に、以上のように構成された車両用除電装置34の作用、効果について説明する。図4に示すように、ヒューズボックス24に収容されているヒューズ27の上端には、プラスの静電気が帯電している。このプラスの静電気の静電誘導によりヒューズボックス24の蓋26の下面には、マイナスの静電気が帯電し、その静電誘導により蓋26の上側の外表面26Aには、プラスの静電気が帯電する。
【0035】
蓋26の上側の外表面26Aに帯電したプラスの静電気は、アルミニウム粘着テープ35Aを通ってメタリック塗膜35Bに達する。すると、メタリック塗膜35Bの上面(自己放電式除電器35の外面35Cのエッジ突起)及びアルミニウム粘着テープ35Aの側端面35Dのエッジ突起からコロナ放電が発生する。粘着剤層36Bと和紙36Aとは通気性を備えているので、図4中の矢印92に示すように、プラス静電荷の帯電量に応じて、フロントグリル12からフロントコンパートメント11に流入した外気はマイナスイオンに変化され、プラス静電位のコロナ放電突起であるアルミニウム粘着テープ35Aの外面35C及び側端面35Dのエッジ突起の周辺に引き寄せられる。そして引き寄せられたマイナスイオンは、通気性を有したカバーシート36を通過した蓋26のプラス静電位と中和除電され、蓋26の電位をゼロ付近まで低減することができる。
【0036】
ここで、フード13の電位がゼロ相当電位に保持される理由については、明確に解明されてはいないが、以下のように考えられている。実施形態の車両用除電装置34は、自己放電式除電器35により、蓋26の表面電位はゼロ電位に低下する。カバーシート36の和紙36Aは通気性と保湿性を備えた適度な厚みを有しているので、外気に含まれる水分が安定して保湿される。この和紙36Aに含まれる水分の導電効果により蓋26の表面電位はゼロ電位に保持される。ここで、カバーシート36はコロナ放電突起が見えない遮光性を備えた適度な厚みを有しているので、フード13への静電誘導が防止され、フード13の電位がゼロ相当電位に保持されるのではないかと考えられている。これについては、後で図9を参照して詳細に説明する。
【0037】
ここで、図5,6を参照してカバーシート36の通気性と保湿性に対する蓋26と車体10の電位の変化について説明する。発明者の研究によると、図5に示すように、カバーシート36の通気性が大きくなるにつれて車体10、蓋26の電位が低下することが確認されている。更に、図6に示すように、カバーシート36の保湿性が大きくなるにつれて車体10、フード13電位が低下することが確認されている。
【0038】
従って、上記のような作用、効果を奏するには、カバーシート36の通気性、保湿性が必要であることが分かる。
【0039】
また、発明者の研究によると、図7に示すように、カバーシート36を複数枚重ね合わせてカバーシート36の合計厚さを厚くしていくと蓋26の電位が低下し、更に重ね合わせる枚数を増やしてカバーシート36の合計厚さを厚くしていくと、車体10の電位が上昇することが確認されている。そして、複数枚のカバーシート36を重ね合わせた際の合計厚さが0.1~0.2mmの場合に車体10と蓋26の電位が最も低くなることが確認されている。
【0040】
これは、カバーシート36の重ね合わせ枚数を増やすとカバーシート36の保湿量が増加し、コロナ放電突起が見えない厚みとなり、車体10とフード13の電位が低下するが、重ね合わせ枚数が多くなりすぎるとカバーシート36の通気性が低下してくるので、逆に蓋26の電位が上昇すると考えられる。
【0041】
次に、図9を参照しながら、カバーシート36を取り付けずに特許文献1に記載されたような自己放電式除電器35をヒューズボックス24の蓋26の外表面26Aに取り付けた場合との対比により、実施形態の車両用除電装置34の作用、効果について説明する。
【0042】
図9に示すように、自己放電式除電器35をヒューズボックス24の蓋26に取り付け、カバーシート36を設けない場合、車体10の電位が上昇してしまう現象が発生する。この原因については明確には解明されていないが、以下のように考えられている。
【0043】
自己放電式除電器35をヒューズボックス24の蓋26に取り付け、カバーシート36を設けない場合、先に図4を参照して説明したと同様、蓋26の上側の外表面26Aに帯電したプラスの静電気により、メタリック塗膜35Bの上面(自己放電式除電器35の外面35Cのエッジ突起)及びアルミニウム粘着テープ35Aの側端面35Dのエッジ突起からコロナ放電が発生する。カバーシート36が設けられていない場合、図9に示す様に、コロナ放電が生じた際にフード13側からコロナ放電突起が見えるので、プラス静電荷に応じたコロナ放電電位に相応してフード13のインナパネル13Bへ静電誘導93が発生する。これにより、フード13のインナパネル13Bはマイナス電位となる。そして、インナパネル13Bとアウタパネル13Aとの間の空気或いは断熱材の静電誘導により、アウタパネル13Aにプラスの静電気が帯電すると考えられている。これにより、車体10の電位が上昇してしまうと考えられている。
【0044】
一方、先に説明したように、実施形態の車両用除電装置34では、自己放電式除電器35により蓋26の表面電位はゼロ電位に低下すると共に、カバーシート36の和紙36Aに含まれる水分の導電効果により蓋26の表面電位はゼロ電位に保持される。さらに、カバーシート36がコロナ放電突起が見えない遮光性を備えた適度な厚みを有することにより、フード13への静電誘導が防止される。この結果フード13が静電誘導により帯電することを抑制し、車体10の電位を低減するという効果を奏すると考えられている。
【0045】
次に図8を参照しながら、他の実施形態の車両用除電装置34Aについて説明する。先に図4を参照して説明した車両用除電装置34と同一の部分には、同一の符号を付して説明は省略する。
【0046】
図8に示す様に、車両用除電装置34Aは、粘着剤層36Bを備えず、カバーシート36は和紙36Aのみで構成されている。そして、和紙36Aの周縁部が接着剤37によってヒューズボックス24の外表面26Aに固定されており、自己放電式除電器35は和紙36Aの下面とヒューズボックス24の上側の外表面26Aとの間に挟み込まれている。ここで、自己放電式除電器35の外面35Cと和紙36Aとの間は接していてもよいし、自己放電式除電器35の外面35Cと和紙36Aとの間にはわずかな隙間38が空いてもよい。
【0047】
車両用除電装置34Aの和紙36Aの下面とヒューズボックス24の上側の外表面26Aとの間は薄い空気層となっており、粘着剤層36Bと同様、通気性を有する構成となっている。車両用除電装置34Aは先に説明した車両用除電装置34と同様の作用、効果を奏する。
【0048】
以上、ヒューズボックス24の蓋26に取り付けた車両用除電装置34Aの構成について説明したが、インバータケース22Aの外表面に取り付けられている車両用除電装置32、バッテリケース23Aの外表面に取り付けられる車両用除電装置33は車両用除電装置34と同一の構成なので、説明は省略する。
【0049】
実施形態の車両100は、プラスの静電気が帯電する、インバータ22を収容するインバータケース22Aの蓋と、バッテリ23を収容するバッテリケース23Aの蓋または側面と、ヒューズボックス24の蓋26と、にそれぞれ車両用除電装置32,33,34が取りつけられているので、近接して配置されているフード13への静電誘導を低減することができる。これにより、フード13の帯電を抑制して車体10の電位を低減し、車体10の電位が制御系やセンサに影響を及ぼすことを抑制して車両100の本来の制御性能を発揮させることができる。また、車体10の外面にプラスの静電気が帯電することを抑制できるので、フード13の表面での剥離流の発生を抑制して本来の空力性能を発揮させることができる。
【0050】
以上の説明では、カバーシート36は和紙36Aで構成することとして説明したがこれに限らず、保湿性、通気性を備える天然繊維で構成されていればよく、例えば、木綿の不織布で構成されてもよい。
【0051】
また、以上の説明では、自己放電式除電器35は、導電性のアルミニウム粘着テープ35Aとメタリック塗膜35Bとで構成されていることとして説明したがこれに限らない。例えば、アルミウエハ粒子に代えてカーボン粒子を含有したカーボン塗料を蓋26の外表面に直接塗布して構成したカーボン塗膜で構成してもよい。また、表面に塗装をせずに、アルミニウム粘着テープ35Aの表面をローレット加工やヘアライン加工して極めて細かい突起を形成してもよい。
【0052】
また、車両100は、フロントコンパートメント11の内部に配置されたインバータケース22Aの蓋と、バッテリケース23Aの蓋または側面と、ヒューズボックス24の蓋26と、にそれぞれ車両用除電装置32,33,34を取りつけることとして説明したがこれに限らない。例えば、フロントコンパートメント11の内部に搭載される駆動ユニット21の上面や、他の機器、例えばエアーフローセンサの上面、或いは側面に車両用除電装置34を取り付けるようにしてもよい。また、車両100の後方のリアコンパートメントの中に搭載される他の機器、例えば補機バッテリケースに車両用除電装置34を取り付けてもよい。この場合、機器と近接配置されているリアコンパートメントを覆うリアフードの電位を低減することができる。ここで、リアフードは、車体10の構造部材である。
【符号の説明】
【0053】
10 車体、11 フロントコンパートメント、12 フロントグリル、13 フード、13A アウタパネル、13B インナパネル、14 ダッシュパネル、21 駆動ユニット、22 インバータ、22A インバータケース、23 バッテリ、23A バッテリケース、24 ヒューズボックス、25 本体、26 蓋、26A 外表面、27 ヒューズ、32,33,33A,33B,33C,33D,34,34A 車両用除電装置、35 自己放電式除電器、35A アルミニウム粘着テープ、35B メタリック塗膜、35C,36C 外面、35D 側端面、36 カバーシート、36A 和紙、36B 粘着剤層、37 接着剤、38 隙間、100 車両。
図1
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図3
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図5
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図7
図8
図9