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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】含フッ素重合体、樹脂膜及び光電子素子
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/18 20060101AFI20250115BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20250115BHJP
   C08F 14/26 20060101ALI20250115BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20250115BHJP
   H05B 33/22 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
C08F14/18
H05B33/14 A
C08F14/26
C08L27/12
H05B33/22 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022503658
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006909
(87)【国際公開番号】W WO2021172371
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020030460
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020112962
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021006634
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳文
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 薫
(72)【発明者】
【氏名】下平 哲司
(72)【発明者】
【氏名】武井 早希
(72)【発明者】
【氏名】別府 祥太朗
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010209(JP,A)
【文献】国際公開第2008/133088(WO,A1)
【文献】特開2018-126953(JP,A)
【文献】特開平08-239242(JP,A)
【文献】特開平09-025559(JP,A)
【文献】特開平11-001593(JP,A)
【文献】国際公開第2005/100420(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/096342(WO,A1)
【文献】特表2009-526351(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/14
H10K50/10
H05B33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)を満たし、フルオロオレフィンに由来する単位を有する含フッ素重合体。
(1)融点が200℃未満、又は融点が観測されない。
(2)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、400℃以下で実質的に100%に達する。
(3)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が200℃以内である。
【請求項2】
40℃における貯蔵弾性率が4×10Pa未満である、請求項1に記載の含フッ素重合体。
【請求項3】
少なくともテトラフルオロエチレンに由来する単位を有する、請求項1又は2に記載の含フッ素重合体。
【請求項4】
ペルフルオロアルキルビニルエーテルに由来する単位を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の含フッ素重合体。
【請求項5】
前記ペルフルオロアルキルビニルエーテルがペルフルオロプロピルビニルエーテルである、請求項に記載の含フッ素重合体。
【請求項6】
全単位に対する前記ペルフルオロプロピルビニルエーテルに由来する単位の含有率が11mol%以上である、請求項に記載の含フッ素重合体。
【請求項7】
ヘキサフルオロプロピレンに由来する単位をさらに有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の含フッ素重合体。
【請求項8】
全単位に対する前記ヘキサフルオロプロピレンに由来する単位の含有率が18mol%以上である、請求項に記載の含フッ素重合体。
【請求項9】
トリフルオロメチル部位を有し、
前記トリフルオロメチル部位の含有量が0.1mmol/g以上である、請求項1からのいずれか1項に記載の含フッ素重合体。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の含フッ素重合体を材料とする樹脂膜。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂膜を有する光電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体、樹脂膜及び光電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光自発光型の素子として、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)等の有機光電子素子が知られている。こうした素子が有する導電膜として、光透過率が異なる2種の領域を有する導電膜が知られている。
【0003】
以下の説明では、光透過率が異なる2つの領域について、相対的に光透過率が低い領域を「第1領域」、光透過率が高い領域を「第2領域」と称することがある。有機EL素子を例に挙げると、第1領域は、例えば有機EL素子の配線が該当し、第2領域は、例えば有機EL素子の素子を構成する陰極層が該当する。
【0004】
特許文献1においては、上述のような導電膜の製造方法として、予め金属膜の形成を抑制する材料でパターン膜を形成した後、蒸着やスパッタ等でパターン膜に重ねて金属を成膜する方法が開示されている。
具体的には、特許文献1に記載の方法では、上記「金属膜の形成を抑制する材料」の一例としてpoly tetrafluoroethylene(PTFE)が挙げられている。上述の方法によれば、予め形成されたパターン膜を避けて金属が成膜される。その結果、金属膜の形成を抑制する材料でパターン膜を形成した領域には光透過率が高い第2領域が形成される。また、パターン膜を形成していない領域には多くの金属が成膜され、相対的に光透過率が低い第1領域が形成され、それぞれの領域が形成された導電膜が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第10270033号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような公知の含フッ素重合体は、蒸着時に解重合や熱分解しやすかった。さらに、こうした解重合や熱分解によって発生したアウトガスや部分分解物が導電膜に残存した場合、導電膜を有する有機EL素子の素子性能や素子寿命を低下させるおそれがあった。
上記課題は、有機EL素子の製造時に限らない。フッ素樹脂を蒸着させる工程を含む場合、表示素子、光電子素子及び有機発光素子においても同様の課題が生じ得る。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、蒸着に適し、好適に金属パターニングが可能な含フッ素重合体を提供することを目的とする。また、このような含フッ素重合体を材料として含む樹脂膜を提供することを併せて目的とする。また、このような樹脂膜を構造に有する光電子素子を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
[1]下記(1)~(3)を満たす含フッ素重合体。
(1)融点が200℃未満、又は融点が観測されない。(2)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、400℃以下で実質的に100%に達する。(3)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が200℃以内である。
[2]40℃における貯蔵弾性率が4×10Pa未満である、[1]に記載の含フッ素重合体。
[3]フルオロオレフィンに由来する単位を有する、[1]又は[2]に記載の含フッ素重合体。
[4]少なくともテトラフルオロエチレンに由来する単位を有する、[3]に記載の含フッ素重合体。
【0009】
[5]ペルフルオロアルキルビニルエーテルに由来する単位を有する、[3]又は[4]に記載の含フッ素重合体。
[6]前記ペルフルオロアルキルビニルエーテルがペルフルオロプロピルビニルエーテルである、[5]に記載の含フッ素重合体。
[7]全単位に対する前記ペルフルオロプロピルビニルエーテルに由来する単位の含有率が11mol%以上である、[6]に記載の含フッ素重合体。
[8]ヘキサフルオロプロピレンに由来する単位をさらに有する、[3]又は[4]に記載の含フッ素重合体。
[9]全単位に対する前記ヘキサフルオロプロピレンに由来する単位の含有率が18mol%以上である、[8]に記載の含フッ素重合体。
[10]トリフルオロメチル部位を有し、前記トリフルオロメチル部位の含有量が0.1mmol/g以上である、[1]から[9]のいずれかに記載の含フッ素重合体。
【0010】
[11]前記[1]から[10]のいずれかに記載の含フッ素重合体を材料とする樹脂膜。
[12]前記[11]に記載の樹脂膜を有する光電子素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸着に適し、好適に金属パターニングが可能な含フッ素重合体を提供できる。また、このような含フッ素重合体を材料として含む樹脂膜を提供できる。また、このような樹脂膜を構造に有する光電子素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、要件(2)(3)を説明する模式図である。
図2図2は、導電膜1の平面図である。
図3図3は、図2の線分III-IIIにおける矢視断面図である。
図4図4は、導電膜1の製造方法を示す模式図である。
図5図5は、導電膜1の製造方法を示す模式図である。
図6図6は、導電膜1の製造方法を示す模式図である。
図7図7は、第2実施形態に係る光電子素子(有機EL素子)100を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における重合体を構成する「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体1分子に由来する部分(すなわち、単量体単位)を意味する。以下、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ場合がある。
【0014】
本明細書において重合体の「主鎖」とは、炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体の付加重合により生じる、単量体において炭素-炭素不飽和二重結合を構成していた炭素原子から構成される炭素原子鎖をいう。
【0015】
「反応性官能基」とは、加熱等を行った際に、含フッ素重合体の分子間、又は含フッ素重合体とともに配合されている他の成分と反応(ただし、ラジカル反応を除く。)して結合を形成し得る反応性を有する基を意味する。
【0016】
本明細書における「脂肪族環」は、環骨格が炭素原子のみから構成される炭素環構造のものに加えて、環骨格に炭素原子以外の原子(ヘテロ原子)を含む複素環構造のものも意味する。ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0017】
[第1実施形態]
以下、図1図6を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る含フッ素重合体、樹脂膜について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0018】
(含フッ素重合体)
本実施形態の含フッ素重合体は、下記の要件(1)~(3)を満たす。
要件(1)融点が200℃未満、又は融点が観測されない。
要件(2)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、400℃以下で実質的に100%に達する。
要件(3)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が200℃以内である。
【0019】
上記要件(1)~(3)を満たす含フッ素重合体は、蒸着に適した物性を有し、好適に蒸着膜を形成可能となる。また、得られた蒸着膜を用いて金属膜のパターニングを行うと、金属膜のパターニングが容易となる。
以下、順に説明する。
【0020】
(要件(1))
本実施形態の含フッ素重合体は、融点が200℃未満、又は融点が観測されない。含フッ素重合体は融点が観測され、所定範囲にあることが好ましい。含フッ素重合体の融点が観測される場合、含フッ素重合体の融点は、190℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。融点の下限は特に限定されないが、含フッ素重合体からなる膜の形状を保持しやすくするため、100℃以上が好ましい。
【0021】
本実施形態において、融点は、示差走査熱量計(例えば、NETZSCH製:DSC 204 F1 Phoenix)を用いて測定する値を採用する。具体的には、含フッ素重合体9mgを試料容器に仕込み、-70℃から350℃まで毎分10℃で昇温させた際の熱容量を測定し、得られた融解ピークより融点を求める。
【0022】
上述のような融点を有する含フッ素重合体は、結晶性が低いと判断することができる。含フッ素重合体を材料とする樹脂膜に対して金属材料を蒸着する場合、樹脂膜が含フッ素重合体の結晶を多く含むと、含フッ素重合体の結晶の結晶粒界(界面)が蒸着材料(金属)の核形成の起点となり、樹脂膜上に金属膜が成膜されやすい。逆に、樹脂膜に含まれる含フッ素重合体の結晶が少ないと、樹脂膜上に金属膜が成膜されにくい。
【0023】
すなわち、含フッ素重合体が要件(1)を満たし結晶性が低いほど、含フッ素重合体を材料とする樹脂膜の上には金属膜が成膜されにくく、相対的に金属膜が成膜されやすい樹脂膜の周囲との差に起因して、金属膜をパターニングしやすい。
【0024】
例えば、含フッ素重合体が、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)に由来する単位(PPVE単位)を有する場合、PPVE単位の含有率が増えると、含フッ素重合体の結晶性が下がり、同時に融点が下がる。
また、含フッ素重合体が主鎖に脂肪族環構造を有する場合、脂肪族環構造が結晶性を崩しやすいことから、結晶性の低い、又は非晶性の性質を有する。含フッ素重合体が非晶性である場合、融点は観測されない。
【0025】
(要件(2))
以下の説明においては、「含フッ素重合体を1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときに、熱重量減少率が実質的に100%に達する温度」を「100%熱重量減少温度」(℃)と称することがある。要件(2)は、100%熱重量減少温度が400℃以下であることを規定する。
【0026】
本実施形態において、含フッ素重合体の熱重量減少率は、真空示差熱天秤(アドバンス理工社製:VPE-9000)を用いて測定する値を採用する。具体的には、含フッ素重合体50mgを内径7mmのセルに仕込み、1×10-3Paの真空度にて、室温から500℃まで毎分2℃で昇温させた際の、含フッ素重合体の初期重量(50mg)に対する重量減少率(%)を測定する。
【0027】
要件(2)の「実質的に」とは、上述した条件において熱重量減少率を測定したとき、400℃以下の温度範囲において、熱重量減少が検出下限を下回っており、熱重量減少が確認できないことを意味する。
【0028】
本実施形態の含フッ素重合体は、上記要件(2)を満たす温度が低いほど分子量(重合度)が低いということができる。
仮に、上記要件(2)を満たさない含フッ素重合体を蒸着させようとすると、400℃を超える温度にまで加熱する必要が生じる。一方で、400℃を超えた温度範囲で加熱すると、高温のため含フッ素重合体が解重合や熱分解するおそれがある。その場合、解重合や熱分解で生じた生成物が、蒸着で用いる真空チャンバーの内部圧力を上昇させるおそれがある。このように真空チャンバーの内部圧力が上昇すると、蒸着条件が不安定となり、得られる蒸着膜(樹脂膜)の品質が安定しないおそれがある。
【0029】
また、上記要件(2)を満たさない含フッ素重合体を、400℃を超えた温度範囲で加熱すると、部分的に解重合又は熱分解した分子量の小さい含フッ素重合体が樹脂膜中に混入し、樹脂膜の耐熱性が低下するおそれがある。
さらに、上記要件(2)を満たさない含フッ素重合体を、400℃を超えた温度範囲で加熱すると、解重合や熱分解によって生じた不安定末端を有する含フッ素重合体が樹脂膜中に混入し、樹脂膜及び樹脂膜を含む素子の品質が損なわれるおそれがある。
【0030】
一方、上記要件(2)を満たす含フッ素重合体は、真空下で行う蒸着材料として用いたとき、400℃以下の温度で加熱することで、好適に蒸着させることが可能となる。これにより、上述した解重合や熱分解のおそれがなく、安定した蒸着条件で蒸着可能となる。
【0031】
本実施形態の含フッ素重合体は、1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、350℃以下で実質的に100%に達する、すなわち熱重量減少率が実質的に100%に達する温度が350℃以下であることが好ましい。
【0032】
(要件(3))
以下の説明においては、「含フッ素重合体を1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときに、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅」を「熱重量減少温度の範囲」(℃)と称することがある。要件(3)は、熱重量減少温度の範囲が200℃以内であることを規定する。
【0033】
本実施形態の含フッ素重合体は、上記要件(3)を満たす温度幅が狭いほど分子量分布が狭いということができる。
上記要件(3)を満たさない含フッ素重合体を用い樹脂膜を製造しようとすると、蒸着の始期に蒸着される含フッ素重合体の分子量と、蒸着の終期に蒸着される含フッ素重合体の分子量との差が大きく、同じ樹脂膜において、樹脂膜の厚み方向で含フッ素重合体の分子量が変化し、樹脂膜の物性が安定しないおそれがある。
また、同条件で連続的に樹脂膜を製造する場合、上記要件(3)を満たさない含フッ素重合体を用いると、製造される樹脂膜の品質がロット間でばらつくおそれがある。
さらに、含フッ素重合体に含有する低分子量体は、蒸着の際にアウトガスとして発生して真空チャンバー内に付着し、真空チャンバーを汚染するおそれがある。例えば、光電子素子作製の工程において、こうした汚染源が原因となり、素子の寿命の低下や短絡の原因となるなど、素子の品質を著しく損なうおそれがある。
【0034】
一方、上記要件(3)を満たす含フッ素重合体は、蒸着の始期に蒸着される含フッ素重合体の分子量と、蒸着の終期に蒸着される含フッ素重合体の分子量との差が小さく、樹脂膜の厚み方向において含フッ素重合体の分子量の変化が小さい。そのため、得られる樹脂膜の物性が安定しやすい。
また、同条件で連続的に樹脂膜を製造する場合、製造される樹脂膜のロット間の品質ばらつきを抑制できる。
さらに、アウトガスの原因となる低分子量体を含まないため、蒸着チャンバーを汚染する懸念がない。
上記要件(3)を満たす分子量分布の狭い含フッ素重合体を得る方法としては、リビングラジカル重合等の制御重合による分子量調整や、昇華精製や超臨界抽出、サイズ排除クロマトグラフィにより分子量を分画する方法が挙げられる。
【0035】
図1は、要件(2)(3)を説明する模式図であり、測定温度に対する熱重量減少率の対応関係を示すグラフである。図1の横軸は測定温度(単位:℃)、縦軸は熱重量減少率(単位%)である。図1においては、要件(2)(3)を満たす含フッ素重合体の挙動を符号Pで示し、要件(2)(3)を満たさない含フッ素重合体の挙動を符号Pxで示す。
【0036】
図1においては、本実施形態の含フッ素重合体の挙動について示すグラフPは、400℃よりも低い温度(Td100)で熱重量減少率が100%に達している。対して、要件(2)(3)を満たさない含フッ素重合体の挙動について示すグラフPxは、400℃において熱重量減少率が100%に達していない。
また、図1において、本実施形態の含フッ素重合体の挙動について示すグラフPは、Td90-Td10の値Wが200℃以下である。
図1からは、本実施形態の含フッ素重合体は、温度Td10と温度Td90との間で急峻に熱重量減少を生じることが分かる。
【0037】
含フッ素重合体の蒸着の際の解重合や熱分解、アウトガスの有無は、真空チャンバーの内部圧力の変化に着目すると、以下のように評価できる。
(蒸着時のチャンバー圧変化の評価法)
真空蒸着機に含フッ素重合体を0.1g仕込み、チャンバー内の圧力を10-4Pa以下に減圧した上で、含フッ素重合体を蒸着速度0.1nm/秒で200nm成膜する。この際にチャンバー内の圧力をモニターし、蒸着時における圧力の最大値を計測する。
下記計算式より求められるチャンバー圧力の上昇倍率が10倍以下の含フッ素重合体は、解重合や熱分解、アウトガスが少なく、好適に蒸着させることが可能となる。
蒸着時のチャンバー圧力の上昇倍率=蒸着中の最大圧力/蒸着前の初期圧力
上昇倍率が10倍を超える含フッ素重合体は、解重合や熱分解、アウトガスが多く、蒸着に用いるには不適と判断できる。
【0038】
(分子量分画)
使用しようとする含フッ素重合体が、上記要件(2)(3)を満たしていない場合、含フッ素重合体分子量分画することで、上記要件(2)(3)を満たす本実施形態の含フッ素重合体とせしめることが出来る。
【0039】
上記要件(2)(3)を満たす含フッ素重合体は、重合体を分子量分画することで得られる。以下の説明では、分子量分画の対象となる重合体を、「原料重合体」と称することがある。
分子量分画の方法としては、例えば、昇華精製や超臨界抽出、サイズ排除クロマトグラフィにより、分子量を分画し、要件(2)(3)を満たす重合体に調整する方法が挙げられる。
【0040】
(昇華精製)
昇華精製は、減圧下で精製対象物(原料重合体)を加熱して精製対象物の一部又は全部を昇華又は蒸発させた後に、気体状態の精製対象物に含まれる化合物の析出温度差を利用して、目的の化合物を固体として分離し、回収する手法である。このような昇華精製は、精製対象物を仕込む仕込み部と、気体状態の精製対象物を析出温度ごとに分離して固体として捕集する捕集部を有し、かつ高い真空度を保つことのできる昇華精製装置を用いて行うことができる。
昇華精製装置の構造は特に限定されないが、例えばガラス製の冷却管と冷却管を囲うフラスコ状のガラス容器と、ガラス容器の内部を減圧する真空排気装置からなる、いわゆるミル氏式の昇華精製装置を用いることができる。また、昇華精製装置としては、円筒状のガラス製の昇華管と、昇華管を内部に収容して昇華管を加熱する加熱装置と、昇華管の内部を減圧する高真空排気装置と、を備えたガラスチューブ式の昇華精製装置を用いることもできる。
以下、ガラスチューブ式の昇華精製装置を例に、含フッ素重合体の昇華精製及び昇華精製による分子量の分画方法を説明する。
【0041】
含フッ素重合体の昇華精製では、昇華管の仕込み部に原料重合体を仕込み、高真空排気装置を用いて、例えば、圧力を1×10-3Pa以下まで昇華管内の真空度を上げた後、加熱装置を用いて仕込み部を加熱する。これにより、原料重合体に含まれる含フッ素重合体が昇華又は蒸発する。
昇華管のうち、仕込み部よりも高真空排気装置による排気側にあたる領域は、「捕集部」に該当する。捕集部は、仕込み部の加熱温度よりも低い温度に設定されている。仕込み部で原料重合体から昇華又は蒸発させた含フッ素重合体は、捕集部の壁面で析出し固化、又は捕集部の壁面で液化して、捕集される。
【0042】
捕集部の捕集温度は、含フッ素重合体が気体から固体へ昇華する温度(析出する温度)、又は含フッ素重合体が気体から液体へ凝集する温度に対応し、含フッ素重合体の分子量に対応する。昇華管において捕集温度を異ならせた複数の捕集部を設けることにより、原料重合体を、分子量の異なる含フッ素重合体に分画できる。
例えば、具体的には、仕込み部をA℃に加熱し、捕集部を仕込み部に近い側からB℃とC℃とに加熱した場合(A>B>C)、B℃に設定した捕集部では、A℃では気体、B℃では固体(又は液体)となる分子量範囲の含フッ素重合体が捕集される。
同様に、C℃に設定した捕集部では、B℃では気体、C℃では固体(又は液体)となる分子量範囲の含フッ素重合体が捕集される。すなわち、C℃に設定した捕集部では、原料重合体に含まれる含フッ素重合体のうち、B℃では気体でありC℃では固体(又は液体)となる捕集温度幅B℃-C℃の含フッ素重合体が捕集される。
【0043】
上述の要件(3)は、上述のように捕集温度幅を制御し、例えば捕集温度幅200℃となる捕集部で捕集することで満たすことができる。なお、捕集した含フッ素重合体について、要件(3)を満たすか否かを確認し、要件(3)を満たさない場合には、捕集部の温度条件を制御し、捕集温度幅を狭くするとよい。
捕集部において、低い設定温度の領域で捕集された含フッ素重合体ほど、1×10-3Paの圧力下における熱重量減少率が100%に達する温度が低い、すなわち分子量が小さい含フッ素重合体となる。
【0044】
捕集温度幅は、200℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。捕集温度幅が小さいほど、蒸着条件の変動が少なくなり、また、樹脂膜の品質が安定しやすい。
【0045】
分子量分画した含フッ素重合体は、要件(2)(3)を満たすならば、捕集温度幅の異なる複数の含フッ素重合体を混合してもよい。
【0046】
(超臨界抽出)
超臨界抽出は、超臨界流体の高い溶解性と拡散性を利用して抽出物を得る技術である。超臨界抽出では、例えば、超臨界流体として超臨界COを用い、超臨界COに相対的に低分子量の含フッ素重合体を溶解させ、抽出物として得ることができる。
また、超臨界流体に対する添加剤(エントレーナー)として、含フッ素溶媒を用いることで、超臨界流体に対する含フッ素重合体の溶解性を高めることができる。
【0047】
エントレーナーとして用いる含フッ素溶媒は、特に限定されない。例えば、下記方法で求める親フッ素パラメータPが1以上である含フッ素溶媒が好ましい。
(親フッ素パラメータP
3gのトルエンと3gのペルフルオロメチルシクロヘキサンとの二相系に、30μLの前記含フッ素溶媒を滴下してよく混合し一晩静置した後、前記トルエンに含まれる前記含フッ素溶媒と、前記ペルフルオロメチルシクロヘキサンに含まれる前記含フッ素溶媒とをガスクロマトグラフィーにより測定する。前記トルエン中の前記含フッ素溶媒の濃度(単位:mL/L)をM、前記ペルフルオロメチルシクロヘキサン中の前記含フッ素溶媒の濃度(単位:mL/L)をMとしたとき、下記式(A)で求められる値を親フッ素パラメータPとする。
=M/M…(A)
【0048】
エントレーナーとして用いる含フッ素溶媒としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0049】
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン(AC-2000、AGC社製)(P=12)
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(AC-6000、AGC社製)(P=5.6)
サイトップCT-SOLV100E(AGC社製)(P=8.2)
サイトップCT-SOLV180(AGC社製)(P=∞)
HFE7300(3M社製)(P=8.2)
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-Decafluoropentane(Vertre XF、Chemours社製)(P=3.7)
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクタノール(P=1.1)
1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(AE-3000、AGC社製)(P=0.6)
HCFC-225ca/HCFC-225cb(45/55)(P=0.3)
ペルフルオロベンゼン(P=0.3)
ヘキサフルオロ-2-プロパノール(P=0.24)
1H,1H,7H-ペルフルオロヘプタノール(P=0.23)
1H,1H,5H-ペルフルオロペンタノール(P=0.1)
【0050】
抽出工程は、例えば超臨界COを用い、抽出圧力7.4MPa以上、抽出温度31℃以上の条件で行うことができる。
抽出圧力は、30MPa以上が好ましく、50MPa以上がより好ましく、70MPa以上がさらに好ましい。抽出圧力の上限値には特に制限はないが、100MPa以下が好ましい。抽出圧力の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
抽出温度は、40℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。また、抽出温度は、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。抽出温度の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
上記範囲であれば、目的とする含フッ素重合体の分子量分画を効率よく行うことができる。
【0051】
分子量分画は、含フッ素重合体の重合工程で使用した、開始剤、連鎖移動剤、溶媒や、副生物などの残留異物除去の目的からも有用である。こうした残留異物は、蒸着の際にアウトガスとして発生して真空チャンバー内に付着し、真空チャンバーを汚染するおそれがあるため、要件(2)(3)を満たしている場合においても、昇華精製や超臨界抽出を行うことがより好ましい。
分子量分画した含フッ素重合体は、要件(2)(3)を満たすならば、抽出条件の異なる複数の含フッ素重合体を混合してもよい。
【0052】
(その他の要件)
本実施形態の含フッ素重合体は、下記要件(4)を満たすことが好ましい。
要件(4)25℃における貯蔵弾性率が4×10Pa未満である。
上記要件(4)を満たす含フッ素重合体は、柔軟性が高く、形状変化時の追随性に優れる。そのため、屈曲可能な装置が備える樹脂膜の材料として、要件(4)を満たす含フッ素重合体を用いた場合、樹脂膜は、樹脂膜に接する層との界面において装置を曲げた時に生じるせん断応力を緩和する。これにより、装置を屈曲させたときの破損を抑制することが期待できる。
上記屈曲可能な装置としては、例えばフォルダブルディスプレイが挙げられる。
【0053】
また、要件(4)を満たす含フッ素重合体は、溶融粘度が低くなる。そのため、要件(4)を満たす含フッ素重合体は、蒸着材料として使用する際加熱下において低粘度となるため、対流によって材料の表面更新が円滑になり、優れた蒸着安定性を得ることができる。さらにこの対流による表面更新により蒸着材料の部分的な過加熱が抑制され、過度の加熱による熱分解を避けることができる。
【0054】
上記要件(4)を満たす含フッ素重合体は、例えば含フッ素重合体が有するPPVE単位の含有率を変更することで得られる。PPVE単位の含有率が増えると、貯蔵弾性率は低下する傾向にある。
同様に、上記要件(4)を満たす含フッ素重合体は、例えば含フッ素重合体が有する、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)に由来する単位(HFP単位)の含有率を変更することで得られる。HFP単位の含有率が増えると、貯蔵弾性率は低下する傾向にある。
【0055】
本実施形態において、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(例えば、アントンパール社製、MCR502)、及び粘弾性測定装置用加熱炉(例えば、アントンパール社製、CTD450)を用いて測定する値を採用する。具体的には、試料(含フッ素重合体)を融点以上に加熱した後、定速降温モードで2℃/分で降温させる。上記測定装置を用い、歪み0.01%、周波数1Hzの条件で貯蔵弾性率(G’)を測定する。
【0056】
(含フッ素重合体の構造)
本実施形態の含フッ素重合体としては、上記要件(1)~(3)を満たす含フッ素重合体であればその重合体を構成する単位に特に制限はない。
【0057】
含フッ素重合体のフッ素原子含有率は、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。フッ素原子含有率が高いほど、含フッ素重合体を材料とした樹脂膜の表面エネルギーが低くなる傾向にあり、樹脂膜の表面に金属膜を成膜し難くなる。そのため、上記のフッ素原子含有率の含フッ素重合体を用いると金属膜をパターニングしやすい。
【0058】
なお、フッ素原子含有率(質量%)は、下式で求められる。
(フッ素原子含有率)=[19×NF/MA]×100
NF:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成するフッ素原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
MA:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
上記NF及びMAは、H-NMR、19F-NMR、元素分析、IRにより得られる含フッ素重合体の構成単位のモル比率及び末端量から算出できる。また、NF及びMAは、含フッ素重合体の製造に使用する単量体、及び開始剤の仕込み量から算出することもできる。
【0059】
含フッ素重合体は、トリフルオロメチル部位を含有することが好ましい。「トリフルオロメチル部位」とは、CF-を指す。トリフルオロメチル部位には、トリフルオロメチル基の他、ペンタフルオロエチル基に含まれるCF-など、置換基の一部の構成も含む。
トリフルオロメチル部位の含有量は0.1mmol/g以上が好ましく、0.3mmol/g以上がより好ましく、0.6mmol/g以上がさらに好ましい。トリフルオロメチル部位の含有量が高いほど、含フッ素重合体を材料とした樹脂膜の表面エネルギーが低くなる傾向にある。これにより、樹脂膜の表面に金属膜を成膜し難く、金属膜をパターニングしやすい。
【0060】
なお、トリフルオロメチル部位の含有量(mmol/g)は、下式で求められる。
(トリフルオロメチル部位の含有量)=[NCF/MA]×1000
NCF:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成するトリフルオロメチル部位のモル数と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
MA:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
上記NCF及びMAは、H-NMR、19F-NMR、元素分析、IRにより得られる含フッ素重合体の構成単位のモル比率及び末端量から算出できる。また、NCF及びMAは、含フッ素重合体の製造に使用する単量体、及び開始剤の仕込み量から算出することもできる。
【0061】
含フッ素重合体としては、以下の重合体(1)及び重合体(2)が好ましい。
重合体(1):主鎖に脂肪族環を有さず、フルオロオレフィン単位を有する含フッ素重合体。
重合体(2):主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体。
本発明では、含フッ素重合体として、重合体(1)、(2)のうちのいずれか1つのみを使用してもよく、重合体(1)、(2)を併用してもよい。
【0062】
≪重合体(1)≫
重合体(1)は、フルオロオレフィンの単独重合体であってもよく、2種以上のフルオロオレフィンから成る共重合体であってもよく、フルオロオレフィンと、フルオロオレフィンと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0063】
フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のペルフルオロオレフィン、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)等のペルフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
【0064】
また、フルオロオレフィンとしては、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、ビニリデンフルオライド(VdF)、1,2-ジフルオロエチレン、1-フルオロエチレン等の水素原子や塩素原子を有するフルオロオレフィンも挙げられる。
【0065】
フルオロオレフィンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン、ビニルエーテル、ビニルエステル、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アリルエーテル等のアリル化合物、アクリロイル化合物、メタクリロイル化合物等が挙げられる。
また、ペルフルオロアルキル基やペルフルオロポリエーテル基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステル、芳香族ビニル化合物、アリル化合物、アクリロイル化合物、メタクリロイル化合物等の含フッ素単量体も使用できる。
【0066】
なかでも、重合体(1)は、ペルフルオロアルキルビニルエーテル単位を有することが好ましい。より具体的には、含フッ素重合体は、PPVE単位を有することが好ましい。
【0067】
重合体(1)は、PPVE単位の含有率が変化すると、結晶性が変化する。具体的には、含フッ素重合体に対するPPVE単位の含有率が増えると、含フッ素重合体の結晶性が下がる。
PPVE単位の含有率は、含フッ素重合体を構成する全ての単量体単位の総モル数に対して、11mol%以上が好ましく、12mol%以上がより好ましく、14mol%がさらに好ましい。また、PPVE単位の含有率は、含フッ素重合体を構成する全ての単量体単位の総モル数に対して、25mol%以下が好ましい。
PPVE単位の含有率が上記範囲に含まれると、含フッ素重合体の融点が要件(1)を満たし、好適に蒸着が可能となる。
【0068】
また、重合体(1)は、HFP単位を有することが好ましい。
重合体(1)は、HFP単位の含有率が変化すると、結晶性が変化する。具体的には、含フッ素重合体に対するHFP単位の含有率が増えると、含フッ素重合体の結晶性が下がる。
【0069】
HFP単位の含有率は、含フッ素重合体を構成する全ての単量体単位の総モル数に対して、18mol%以上が好ましく、20mol%がより好ましい。また、HFP単位の含有率は、含フッ素重合体を構成する全ての単量体単位の総モル数に対して、25mol%以下が好ましい。
HFP単位の含有率が上記範囲に含まれると、含フッ素重合体の融点が要件(1)を満たし、好適に蒸着が可能となる。
【0070】
重合体(1)が共重合体である場合、フルオロオレフィン単位の含有率は、20mol%以上が好ましく、40mol%以上がより好ましく、80mol%以上がさらに好ましい。
【0071】
重合体(1)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
重合体(1)としては、以下の重合体等が挙げられる。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)
テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)
テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EPA)
エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)
ポリビニリデンフルオリド(PVDF)
ポリビニルフルオリド(PVF)
ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)
エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)
【0072】
これらの中でも、含フッ素重合体を材料とした膜の表面に金属膜を成膜し難くパターニングしやすいことから、炭素原子に結合しているすべての水素原子がフッ素に置換された重合体が好ましい。すなわち、PTFE、PFA、FEP、EPAが好ましい。
【0073】
重合体(1)は、公知の方法を用いて製造できる。
重合体(1)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0074】
≪重合体(2)≫
重合体(2)は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体である。
「主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体」とは、含フッ素重合体が脂肪族環構造を有する単位を有し、かつ、該脂肪族環を構成する炭素原子の1個以上が主鎖を構成する炭素原子であることを意味する。脂肪族環は酸素原子等のヘテロ原子を有する環であってもよい。
【0075】
重合体の「主鎖」とは、モノエンの重合体においては、重合性二重結合を構成した2つの炭素原子に由来する炭素原子の連鎖をいう。
また、環化重合しうるジエンの環化重合体においては、2つの重合性二重結合を構成した4つの炭素原子に由来する炭素原子の連鎖をいう。
さらに、モノエンと環化重合しうるジエンとの共重合体においては、該モノエンの上記2つの炭素原子と該ジエンの上記4つの炭素原子とに由来する炭素原子の連鎖をいう。
【0076】
上記モノエンが脂肪族環の環骨格を構成する1つの炭素原子と環外の炭素原子との間に重合性二重結合を有するモノエンである場合は、主鎖に脂肪族環を有する重合体の主鎖は、モノエンの重合性二重結合を構成していた環骨格を構成する1つの炭素原子を有する。また、上記モノエンが脂肪族環の環骨格を構成する隣接した2つの炭素原子の間に重合性二重結合を有するモノエンである場合は、主鎖に脂肪族環を有する重合体の主鎖は、モノエンの重合性二重結合を構成していた環骨格を構成する2つの炭素原子を有する。
上記環化重合しうるジエンである場合は、主鎖に脂肪族環を有する重合体の主鎖は、そのジエンが有する2つの重合性二重結合を構成していた4つの炭素原子から構成され、その4つの炭素原子の2~4個が脂肪族環の環骨格を構成する。
【0077】
重合体(2)中の脂肪族環の環骨格を構成する原子の数は、4~7個が好ましく、5~6個が特に好ましい。すなわち、脂肪族環は4~7員環が好ましく、5~6員環が特に好ましい。脂肪族環の環を構成する原子としてヘテロ原子を有する場合、ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、酸素原子が好ましい。また、環を構成するヘテロ原子の数は1~3個が好ましく、1個又は2個であることがより好ましい。
脂肪族環は置換基を有していてもよく、有さなくてもよい。「置換基を有していてもよい」とは、該脂肪族環の環骨格を構成する原子に置換基が結合してもよいことを意味する。
【0078】
重合体(2)の脂肪族環を構成する炭素原子に結合した水素原子はフッ素原子に置換されていることが好ましい。また、脂肪族環が置換基を有する場合、その置換基に炭素原子に結合した水素原子を有する場合も、その水素原子はフッ素原子に置換されていることが好ましい。フッ素原子を有する置換基としては、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、=CF等が挙げられる。
重合体(2)中の脂肪族環としては、ペルフルオロ脂肪族環(置換基を含め、炭素原子に結合した水素原子のすべてがフッ素原子に置換されている脂肪族環)が好ましい。
【0079】
重合体(2)としては、下記の重合体(21)、(22)が挙げられる。
重合体(21):環状含フッ素モノエンに由来する単位を有する含フッ素重合体、
重合体(22):環化重合しうる含フッ素ジエン(以下、単に「含フッ素ジエン」ともいう。)の環化重合により形成される単位を有する含フッ素重合体。
【0080】
重合体(21):
「含フッ素環状モノエン」とは、脂肪族環を構成する炭素原子間に重合性二重結合を1個有する含フッ素単量体、又は、脂肪族環を構成する炭素原子と脂肪族環外の炭素原子との間に重合性二重結合を1個有する含フッ素単量体である。
含フッ素環状モノエンとしては、下記の化合物(1)又は化合物(2)が好ましい。
【化1】
[式中、X、X、X、X、Y及びYは、それぞれ独立に、フッ素原子、エーテル性酸素原子(-O-)を含んでいてもよいペルフルオロアルキル基、又はエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルコキシ基である。X及びXは相互に結合して環を形成してもよい。]
【0081】
、X、X、X、Y及びYにおけるペルフルオロアルキル基は、炭素数が1~7であることが好ましく、炭素数が1~4であることが特に好ましい。前記ペルフルオロアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状が好ましく、直鎖状が特に好ましい。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられ、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
、X、X、X、Y及びYにおけるペルフルオロアルコキシ基としては、前記ペルフルオロアルキル基に酸素原子(-O-)が結合したものが挙げられ、トリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
【0082】
式(1)中、Xは、フッ素原子であることが好ましい。
は、フッ素原子、トリフルオロメチル基、又は炭素数1~4のペルフルオロアルコキシ基であることが好ましく、フッ素原子又はトリフルオロメトキシ基であることが特に好ましい。
及びXは、それぞれ独立に、フッ素原子又は炭素数1~4のペルフルオロアルキル基であることが好ましく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
及びXは相互に結合して環を形成してもよい。前記環の環骨格を構成する原子の数は、4~7個が好ましく、5~6個が特に好ましい。
【0083】
化合物(1)の好ましい具体例として、化合物(1-1)~(1-5)が挙げられる。
【化2】
【0084】
式(2)中、Y及びYは、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1~4のペルフルオロアルキル基又は炭素数1~4のペルフルオロアルコキシ基であることが好ましく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
化合物(2)の好ましい具体例として、化合物(2-1),(2-2)が挙げられる。
【化3】
【0085】
重合体(21)は、前記の含フッ素環状モノエンの単独重合体であってもよく、含フッ素環状モノエンと共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
ただし、重合体(21)中の全単位に対する含フッ素環状モノエンに由来する単位の含有率は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0086】
含フッ素環状モノエンと共重合可能な他の単量体としては、たとえば、含フッ素ジエン、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
含フッ素ジエンとしては、後述する重合体(22)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。側鎖に反応性官能基を有する単量体としては、重合性二重結合及び反応性官能基を有する単量体が挙げられる。重合性二重結合としては、CF=CF-、CF=CH-、CH=CF-、CFH=CF-、CFH=CH-、CF=C-、CF=CF-等が挙げられる。反応性官能基としては、後述する重合体(22)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。
含フッ素環状モノエンと含フッ素ジエンとの共重合により得られる重合体は、重合体(21)とする。
【0087】
重合体(22):
「含フッ素ジエン」とは、2個の重合性二重結合及びフッ素原子を有する環化重合しうる含フッ素単量体である。重合性二重結合としては、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。含フッ素ジエンとしては、下記化合物(3)が好ましい。
CF=CF-Q-CF=CF ・・・(3)
【0088】
式(3)中、Qは、エーテル性酸素原子を含んでいてもよく、フッ素原子の一部がフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5、好ましくは1~3の、分岐を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。該フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
Qは、エーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。その場合、前記ペルフルオロアルキレン基におけるエーテル性酸素原子は、前記ペルフルオロアルキレン基の一方の末端に存在していてもよく、前記ペルフルオロアルキレン基の両末端に存在していてもよく、前記ペルフルオロアルキレン基の炭素原子間に存在していてもよい。環化重合性の点から、前記ペルフルオロアルキレン基の一方の末端にエーテル性酸素原子が存在していることが好ましい。
【0089】
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFOCF(CF)CF=CF
CF=CFOCFCFCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
CF=CFOCFClCFCF=CF
CF=CFOCClCFCF=CF
CF=CFOCFOCF=CF
CF=CFOC(CFOCF=CF
CF=CFOCFCF(OCF)CF=CF
CF=CFCFCF=CF
CF=CFCFCFCF=CF
CF=CFCFOCFCF=CF
【0090】
化合物(3)の環化重合により形成される単位として、下記単位(3-1)~(3-4)が挙げられる。
【化4】
【0091】
重合体(22)は、含フッ素ジエンの単独重合体であってもよく、含フッ素ジエンと共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
含フッ素ジエンと共重合可能な他の単量体としては、たとえば、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0092】
重合体(22)の具体例としては、たとえば、CF=CFOCFCFCF=CF(ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル))を環化重合させて得られる、下式(3-1-1)で表される単位を有する重合体が挙げられる。
なお、以下、ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)を「BVE」という。
【化5】
ただし、式(3-1-1)中、pは5~1000の整数である。
pは、10~800の整数が好ましく、10~500の整数が特に好ましい。
【0093】
重合体(2)としては、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
重合体(2)の具体例としては、BVE環化重合体(AGC社製:サイトップ(登録商標))、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(4-メトキシ-1,3-ジオキソール)共重合体(ソルベイ社製:ハイフロン(登録商標)AD)、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)共重合体(Dupont社製:テフロン(登録商標)AF)、ペルフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)重合体(MMD重合体)が好ましい。
【0094】
(含フッ素重合体の末端構造)
含フッ素重合体は、通常、上述した各単量体を、ラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合することにより重合される。この場合、重合終了時の含フッ素重合体は、分子鎖(主鎖)の末端の構造が、重合で用いたラジカル重合開始剤のフラグメントが付加した構造であることが考えられる。また、重合に際して連鎖移動剤を用いた場合、分子鎖(主鎖)の末端の構造は、連鎖移動剤のフラグメントが付加した構造を取り得る。
含フッ素重合体は、上記末端の構造が他の構造に変換されてもよい。例えば、上述した重合終了時の含フッ素重合体について250℃以上に熱処理することにより、主鎖の末端の構造は、-C(=O)-Fとなり、含フッ素重合体は酸フッ化物となる。
【0095】
上記酸フッ化物をメタノール処理することにより、主鎖の末端の構造は、メチルエステル基となる。メチルエステル基は、簡便なメタノール処理により、反応性が高い酸フッ化物から変換可能である。そのため、得られる含フッ素重合体の安定性を向上させやすいため好ましい。
さらに、上記酸フッ化物をフッ化処理することで、主鎖の末端の構造は、トリフルオロメチル基となる。フッ化処理としては、例えば、特開平11-152310号公報の段落0040に記載された処理方法を挙げることができる。トリフルオロメチル基は、耐熱性が高く、得られる含フッ素重合体の耐熱性が向上しやすいため好ましい。また、末端をトリフルオロメチル基とすると、得られた樹脂膜の表面エネルギーが低くなり、含フッ素重合体を材料とした膜の表面に金属膜を成膜し難くパターニングしやすいため好ましい。
また、含フッ素重合体は、主鎖の末端の構造がメチルエステル基やトリフルオロメチル基であると、主鎖の末端における分子間相互作用が小さく、蒸着しやすくなるため好ましい。
上述した主鎖の末端の構造は、赤外線分光分析により確認できる。
【0096】
(含フッ素重合体の分子量)
結晶性の高い含フッ素重合体は溶媒への溶解性が低いため分子量の測定が困難だが、非晶性の含フッ素重合体は含フッ素溶媒への溶解性が高いため、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等による分子量測定が可能である。
【0097】
含フッ素重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」で表す。)は1000~20000が好ましく、1500~15000がより好ましく、2000~10000がさらに好ましい。
【0098】
重量平均分子量が1000より小さい場合は、含フッ素樹脂の軟化温度が低くなり、素子作製におけるプロセス温度や、素子の使用条件において、含フッ素重合体からなる膜の形状を保持できないおそれがある。
重量平均分子量が20000より大きい場合は、蒸着の際に含フッ素重合体の主鎖が開裂し、含フッ素重合体が低分子量化してしまい、形成される層の強度が不十分となり、さらに分解物に由来する欠陥が発生し、平滑な表面を得にくい。また、主鎖の開裂により生じ意図せず混入した分子又はイオンが、含フッ素重合体を材料とする樹脂膜に隣接する導電膜の導電性に影響を与える可能性が想定される。また、本実施形態の含フッ素重合体を用いて樹脂膜を作製し、得られた樹脂膜を用いて後述するように導電膜のパターニングを行う場合に、導電膜を有する素子の寿命(例えば有機EL素子の発光寿命)を短くするおそれがある。
よって含フッ素重合体のMwが1000~20000の範囲であれば、含フッ素重合体の主鎖が開裂を起こすことなく、十分な強度と平滑な表面を有する層が形成できる。
【0099】
含フッ素重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する値である。まず、分子量既知のPMMA標準試料を、GPCを用いて測定し、ピークトップの溶出時間と分子量から、較正曲線を作成する。ついで、含フッ素重合体を測定し、較正曲線からMwとMnを求める。移動相溶媒には1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン/ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(体積比で85/15)の混合溶媒を用いる。
【0100】
「分子量分布」とは、数平均分子量(以下、「Mn」で表す。)に対するMwの割合、すなわち、Mw/Mnをいう。形成される層における品質の安定性の観点から、含フッ素重合体の分子量分布(Mw/Mn)は小さい方が好ましく、2以下が好ましい。含フッ素重合体の分子量分布は、1.5以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。なお分子量分布の理論的な下限値は1である。
含フッ素重合体の分子量分布が小さいほど、蒸着条件の変動が少なくなり、また、膜厚方向において均質な相分離構造が形成されやすい。
【0101】
分子量分布の小さい含フッ素重合体を得る方法としては、リビングラジカル重合等の制御重合による分子量調整や、昇華精製や超臨界抽出、サイズ排除クロマトグラフィによる分子量を分画する方法が挙げられる。
本明細書中、重量平均分子量及び分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0102】
(樹脂膜の表面エネルギー)
上記含フッ素重合体としては、含フッ素重合体を材料とする樹脂膜の表面エネルギーが30mN/m以下であるものが好ましく、25mN/m以下であるものがより好ましく、20mN/m以下であるものがさらに好ましい。樹脂膜がこのような表面エネルギーを有すると、金属材料をドライコーティングする際に、金属材料が樹脂膜の表面に付着し難く、パターニングが容易となる。
樹脂膜の表面エネルギーは、用いる含フッ素重合体のフッ素原子含有率や、トリフルオロメチル部位の含有率を変更することで調整可能である。含フッ素重合体のフッ素原子含有率や、トリフルオロメチル部位の含有率をそれぞれ高くすると、樹脂膜の表面エネルギーが小さくなる。
【0103】
(樹脂膜)
図2,3は、本実施形態の樹脂膜を示す説明図であり、詳しくは樹脂膜を用いて製造した導電膜の説明図である。図2は、樹脂膜を有する導電膜1の平面図、図3は、図2の線分III-IIIにおける矢視断面図である。
【0104】
図2,3に示すように導電膜1は、第1膜10と、本実施形態の樹脂膜15と、第2膜20を有する。
導電膜1は、基材50に設けられている。基材50は、導電膜1を形成する対象である。基材50は、光透過性を有している。
第2膜20は、基材50の上に設けられ、第1膜10は、第2膜20の上に設けられている。樹脂膜15は、第1膜10と第2膜20との間に設けられている。すなわち、基材50の上には、第1膜10、樹脂膜15、第2膜20がこの順に積層している。
【0105】
(第1膜)
第1膜10は、第1導電性材料を材料とする金属膜である。第1膜10の材料である第1導電性材料としては、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マグネシウム銀(MgAg)及びイッテルビウム銀(YbAg)などの金属、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)及び酸化亜鉛(ZnO)等の導電性酸化物を挙げることができる。
【0106】
第1膜10は、第1領域10Aと、第1領域10Aよりも光透過率が高い第2領域10Bと、を有している。導電膜1では、第1領域10Aには導電膜11が位置しており、第2領域10Bには導電膜12が位置している。導電膜11と導電膜12とは、一体となり第1膜10を構成している。
図2に示すように、導電膜1では、複数の第2領域10B、すなわち複数の導電膜12がマトリクス状に配列しており、残る部分に格子状の第1領域10A、すなわち格子状の導電膜11を有している。図2では第2領域10Bが平面視で矩形であることとしているが、これに限らず、設計に応じた種々の平面視形状を採用可能である。
【0107】
導電膜11の下面11aは、第2膜20に接している。また、導電膜11の側面11bは、樹脂膜15に接している。
導電膜12の下面12aは、樹脂膜15に接している。
導電膜12は、導電膜11よりも薄い。例えば、導電膜11の膜厚は10nm~1000nmであり、導電膜12の膜厚は0nm~50nmである。50nm以下にまで薄く成膜された導電膜11は光透過性を有する。
導電膜11は、導電膜1全体の導電性確保のため、導電膜12よりも厚く形成されている。導電膜11は、必要とする導電性を確保できるのであれば、光透過性を有していてもよく、光透過性を有さなくてもよい。
【0108】
(第2膜)
第2膜20は基材50の表面50aに設けられている。第2膜20は、第2導電性材料を材料とする金属膜である。第2膜20の材料である第2導電性材料としては、上記第1導電性材料として使用可能な材料と同じ材料を挙げることができる。
第1膜10の材料である第1導電性材料と、第2膜20の材料である第2導電性材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。第1膜10と第2膜20との界面における接触抵抗を抑制するため、第1導電性材料と第2導電性材料とは同じであることがより好ましい。
【0109】
第2膜20は、光透過性を有する。第2膜20は、導電膜11よりも光透過率が高い。第2膜20の膜厚は5nm~60nmである。
また、第2膜20は、導電膜12と平面的に重なる。そのため、第2膜20の膜厚及び導電膜12の合計膜厚は、第2領域10Bにおいて光透過性を有するように適宜調整するとよい。
【0110】
発光素子や受光素子等の各種の光電子素子に用いられる透明電極として、第2膜20のみを用いることも可能である。一方で、光透過性を有するほど薄く形成された第2膜20は、配線抵抗が高い。
これに対し、導電膜1は、第2膜20と第1膜10とが積層されている。
そのため、第1領域10Aと重なる位置においては、導電膜11と第2膜20とが積層して厚膜化される。これにより、第2領域10Bと重なる位置において光透過性を確保しながら、導電膜1全体としては低抵抗化できる。
【0111】
(樹脂膜)
樹脂膜15は、上述した本実施形態の含フッ素重合体を材料とする。樹脂膜15は、第2領域10Bと重なって配置されている。樹脂膜15は、後述する導電膜の製造方法において説明するように、第1膜10の第1領域10Aと第2領域10Bとをドライコーティングでパターニングするために用いられる。
樹脂膜15の材料である含フッ素重合体は、吸光度が低く、また屈折率が低いことから、近赤外領域を含む広い波長範囲で光吸収が少なく、光学特性に優れるという特長を有する。そのため、樹脂膜15は、光透過性を有する第2領域10Bと重なっても、第2領域10Bの光透過性を阻害しない。
【0112】
上述した本実施形態の含フッ素重合体は、後述する製造方法に適した物性を有する。そのため、本実施形態の含フッ素重合体を用いると、好適にパターニングされた導電膜1を製造できる。
【0113】
(導電膜の製造方法)
図4~6は、上述した導電膜1の製造方法を示す模式図である。以下に説明するように、上述の含フッ素重合体を材料とする樹脂膜を有することで、目的とする物性を有する導電膜1を容易に製造することができる。
まず、図4に示すように、基材50の表面に上述した第2導電性材料を成膜し、第2膜20を得る。第2膜20は、例えば蒸着、スパッタ、CVD(chemical vapor deposition)、ALD(Atomic Layer. Deposition)等のドライコーティング法により成膜できる。第2膜20は、本発明における「下地層」に該当する。
【0114】
次いで、図5に示すように、第2膜20の表面20aに、マスクMを介して本実施形態の含フッ素重合体Pを、減圧下で蒸着する。マスクMは、マトリクス状に配列した開口部M2と、格子状に設けられた遮蔽部M1とを有する。
含フッ素重合体Pの蒸着は、例えば、1×10-3Paの圧力下において含フッ素重合体を加熱して行う。
【0115】
含フッ素重合体Pは、マスクMの開口部M2を通過して第2膜20の表面20aに達する一方で、マスクMの遮蔽部M1で遮蔽される。これにより、含フッ素重合体Pを材料とする樹脂膜15が形成される。
樹脂膜15は、表面20a上にマトリクス状に配列している。また、樹脂膜15が形成されていない箇所では、第2膜20が格子状に露出している。
【0116】
次いで、図6に示すように、樹脂膜15の上から、上述した第1導電性材料10Xをドライコーティングする。ドライコーティングとしては、蒸着、スパッタ、ALD(Atomic Layer. Deposition)等を採用できる。
【0117】
第1導電性材料10Xは、含フッ素重合体を材料とする樹脂膜15の表面には付着しにくく、第2導電性材料を材料とする第2膜20の表面には付着しやすい。そのため、マスクを使用することなく基材50の上方から全面に第1導電性材料10Xをドライコーティングすることにより、第2膜20の表面には第1導電性材料10Xが相対的に厚く成膜され、樹脂膜15の表面には第1導電性材料10Xが相対的に薄く成膜される。言い換えると、基材50の上方から全面に第1導電性材料10Xをドライコーティングすることにより、樹脂膜15が設けられている箇所と、樹脂膜15が設けられていない箇所とで、第1導電性材料10Xがパターニングされる。
これにより、第2膜20の表面には、格子状の導電膜11が成膜される。また、樹脂膜15の位置に対応して、マトリクス状に導電膜12が成膜される。導電膜11と導電膜12とは、第1膜10を構成する。
【0118】
これにより、導電膜1が得られる。導電膜11が形成された位置は、第1領域10Aである。また、導電膜12が形成された位置は、第2領域10Bである。
仮に、マスク蒸着にて導電膜11を直接製造しようとした場合、マトリクス状に遮蔽部を有するマスクを用いる必要がある。このようなマスクは、遮蔽部を保持するための保持部が必要となるため、保持部に遮蔽される部分では導電膜11が形成されず、得られる導電膜11の膜厚が変化しやすい。又は、ストライプ状のマスクを用い、複数回に分けて蒸着することで、格子状の導電膜11を形成することも考えられるが、マスクの位置合わせが困難であり、作業が煩雑となる。
さらに、マスクの材料が金属である場合、蒸着にて導電膜11を製造しようとすると、蒸着する第1導電性材料10Xがメタルマスクに徐々に付着し、マスクの開口部の大きさが変化するおそれがある。この場合、メタルマスクに付着した第1導電性材料10Xを洗浄して取り除くか、新規のマスクに取り換える必要があり、煩雑な作業と膨大なコストが必要となる。
【0119】
一方で、上述した製造方法では、図6に示すように上述した含フッ素重合体Pを材料とする樹脂膜15を成膜した上から、全面に第1導電性材料10Xを蒸着することにより、自然に導電膜11と導電膜12とのパターニングがなされた第1膜10が得られる。樹脂膜15はマスク蒸着により精密に成膜できる。そのため、上述した導電膜の製造方法によれば、精密にパターニングされた導電膜を容易に製造できる。
【0120】
以上のような構成の含フッ素重合体によれば、蒸着に適しており、好適に金属パターニングすることができる。
以上のような構成の樹脂膜によれば、好適に金属パターニングが可能となる。
【0121】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係る光電子素子(有機EL素子)100を示す断面模式図である。有機EL素子100は、基板110、陽極111、隔壁112、機能層113、陰極115が積層した構造を有している。機能層113には、発光層が含まれる。
本実施形態の有機EL素子100は、機能層113で生じた光が、陰極115を介して外部へ射出されるトップエミッション方式を採用している。
【0122】
(基板)
基板110は、光透過性を備えていてもよく、光透過性を備えなくてもよい。基板110の形成材料としては、ガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、表面の絶縁性が確保されるならば、基板110の形成材料として金属材料を採用することもできる。
また、基板110は、有機EL素子に電気的に接続される不図示の各種配線、駆動素子を備えている。
【0123】
(陽極)
陽極111は、基板110上に形成され、機能層113に正孔(ホール)を供給する。また、陽極111は、機能層113に含まれる発光層から発せられた光を反射する光反射性を有する。
陽極111の形成材料としては、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムドープ酸化錫)やIZO(Indium Zinc Oxide:インジウムドープ酸化亜鉛)等の導電性金属酸化物を用いることができる。また、陽極111に光反射性を付与するため、陽極111の基板110側又は陽極111の機能層113側に、金属材料を形成材料とする反射膜が設けられている。すなわち、陽極111は、導電性金属酸化物を形成材料とする層と、反射膜との積層構造を有する。
また、陽極111の形成材料として、銀を用いることとしてもよい。
陽極111の厚さは、特に制限されないが、30~300nmが好ましい。陽極111の厚さは、たとえば100nmである。
【0124】
(隔壁)
隔壁112は、陽極111の周縁部に重なり、例えば格子状に形成されている。隔壁112の開口部分には、機能層113が形成されており、有機EL素子100を区画している。
隔壁112は、例えばポリイミドを材料とする。
【0125】
(機能層)
機能層113は、陽極111に重なって形成されている。機能層113は発光層を有する。発光層では、陽極111から注入された正孔及び陰極115から注入された電子が再結合し、光子を放出して発光する。その際の発光波長は、発光層の形成材料に応じて定まる。発光層は、本発明における「活性層」に該当する。
【0126】
発光層は、有機EL素子の発光層の材料として公知の材料を用いて形成できる。
発光層の形成材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、所望の発光波長に応じて適宜選択される。
【0127】
機能層113は、発光層と陽極111との間に、正孔注入層、正孔輸送層を有していてもよい。
正孔注入層は、陽極から正孔輸送層への正孔の注入を容易にする機能を有する。
正孔輸送層は、陽極111から注入された正孔を発光層に向けて良好に輸送する機能を有する。
また、機能層113は発光層と陰極115との間に、電子輸送層、電子注入層を有していてもよい。
電子輸送層は、陰極115から注入された電子を発光層に向けて良好に輸送する機能を有する。
電子注入層は、陰極115から電子輸送層への電子の注入を容易にする機能を有する。
【0128】
(陰極)
陰極115は、隔壁112及び機能層113を覆って全面に形成されている。陰極115は、機能層に電子を注入する機能を有する。
本実施形態の光電子素子においては、陰極115は、上述した本発明における樹脂膜を含み、パターニングされている。陰極115は、第1膜116と、樹脂膜117と、第2膜118とを有する。
【0129】
第2膜118は、隔壁112及び機能層113を覆って形成されている。第2膜118の構成、材料については、第1実施形態の第2膜20について示した構成及び材料を採用できる。
樹脂膜117は、機能層113と平面的に重なり第2膜118の上面118aに形成されている。樹脂膜117の構成、材料については、第1実施形態の樹脂膜15と同様、本実施形態に係る含フッ素重合体を採用できる。
【0130】
第1膜116は、隔壁112と平面的に重なって形成されている。第1膜116の構成、材料については、第1実施形態の第1膜10について示した構成及び材料を採用できる。
すなわち、陰極115の第1領域は隔壁112に重なっており、陰極115の第2領域は発光層を含む機能層113に重なっている。
【0131】
(マイクロキャビティ構造)
本実施形態の有機EL素子100においては、陽極111と陰極115が、陽極111と陰極115との間、すなわち陽極111の反射膜の上面と第2膜118の下面との間で光を共振させる光共振構造(マイクロキャビティ)を構成している。陽極111と陰極115との間では、発光層で生じた光が反射を繰り返し、陽極111と陰極115との間の光路長と合致した波長の光が共振して増幅される。一方で、陽極111と陰極115との間の光路長と合致しない波長の光は減衰する。
ここでいう「光路長」は、素子外部に射出される所望の光の波長と、当該所望の光の波長における各層の屈折率と、を用いて算出されるものとする。
【0132】
陽極111と陰極115との間の光路長は、たとえば機能層113に含まれる発光層で生じる光Lの中心波長の整数倍に設定されている。この場合、発光層で発せられた光Lは、中心波長に近いほど増幅され、中心波長から離れるほど減衰して有機EL素子100の外部に射出される。このようにして、有機EL素子100から射出される光Lは、発光スペクトルの半値幅が狭く、色純度が向上したものとなる。
【0133】
このような構成の有機EL素子100においては、樹脂膜117として本発明における含フッ素重合体を材料とする樹脂層を有するため、第2領域において好適に金属(第1膜116)のパターニングが可能となる。そのため、第2領域において高い光取出し効率を維持しながら陰極115の配線抵抗を低減することができ、良好な駆動を実現できる。
【0134】
なお、上述の実施形態においては、光電子素子として有機EL素子を例示して説明したが、本発明の一態様に係る樹脂膜が適用される光電子素子は、有機EL素子に限らない。
【0135】
本発明の一態様に係る光電子素子は、例えば半導体レーザーであってもよい。半導体レーザーとしては公知の構成を採用できる。半導体レーザーが有する陰極に上述の樹脂膜を用いて導電膜をパターニングすることにより、陰極が低抵抗化され、出力が向上した半導体レーザーとなる。
【0136】
また、本発明の一態様に係る光電子素子は、例えば、光センサ、太陽電池などの受光素子であってもよい。光センサ及び太陽電池としては、活性層(受光層)が受光した光の強度に応じて活性層で生じた正孔及び電子を、半導体層を介してカソード及びアノードに伝える公知の構成を採用できる。
光センサ及び太陽電池が有する電極(アノード、カソード)に上述の樹脂膜を用いて導電膜をパターニングすることにより、検出性能を向上させた光センサや、発電効率を向上させた有機太陽電池となる。
【0137】
さらに、本発明の一態様に係る光電子素子は、上述の樹脂膜を用いることで好適に金属膜のパターニングができ、素子全体としての透過性が高くなることから、透明ディスプレイ等の用途において有用である。また、アンダーディスプレイカメラやアンダーディスプレイセンサ等においては、カメラ及びセンサ上部のディスプレイの透過率を上げる必要があり、本発明の樹脂膜を用いたパターニングが非常に有用である。
すなわち本発明の含フッ素重合体は、優れた光透過性を有するため、上記光電子素子に好適に適用できる。
【0138】
さらに、本発明の樹脂膜は、光電子素子の他にもパターニングされた電極及び配線を形成する際に使用することもできる。
【0139】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例
【0140】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0141】
<評価方法>
本実施形態においては、以下の各方法により評価を行った。
【0142】
[含フッ素重合体の真空下における熱重量減少率の測定]
真空示差熱天秤(アドバンス理工社製:VPE-9000)を用いて測定した。含フッ素重合体50mgを内径7mmのセルに仕込み、1×10-3Paの真空度にて、室温から500℃まで毎分2℃で昇温させた際の、含フッ素重合体の初期重量(50mg)に対する重量減少率(%)を測定した。
【0143】
重量減少率が100%となる温度(Td100)、重量減少率が10%となる温度(Td10)及び重量減少率が90%となる温度(Td90)を求めた。
【0144】
[融点の測定]
示差走査熱量計(NETZSCH製:DSC 204 F1 Phoenix)を用いて測定した。含フッ素重合体9mgを試料容器に仕込み、-70℃から350℃まで毎分10℃で昇温させた際の熱容量を測定し、得られた融解ピークより融点を求めた。
【0145】
(CF濃度の測定)
トリフルオロメチル部位の含有量(mmol/g)は、下式より求めた。
(フルオロメチル部位の含有量)=[NCF/MA]×1000
NCF:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成するトリフルオロメチル部位のモル数と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
MA:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
なお、上述の式に用いるトリフルオロメチル部位のモル数、単位を構成する全ての原子の原子量の合計、モル比率等は、含フッ素重合体をNMR分析及びIR分析して得られた、含フッ素重合体の構成単位のモル比率及び末端量を用いて算出した。
【0146】
(フッ素原子含有率の測定)
フッ素原子含有率(質量%)は、下式で求めた。
(フッ素原子含有率)=[19×NF/MA]×100
NF:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成するフッ素原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
MA:含フッ素重合体を構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
なお、上述の式に用いるフッ素原子の原子量、単位を構成する全ての原子の原子量の合計、モル比率等は、含フッ素重合体をNMR分析及びIR分析して得られた、含フッ素重合体の構成単位のモル比率及び末端量を用いて算出した。
【0147】
<含フッ素重合体の合成>
評価に用いた含フッ素重合体は、以下のように合成した。
【0148】
[合成例1]
内容積1006mLのステンレス製オートクレーブに、PPVEを152.9g、AC2000(AGC社製)を805g、メタノールを2.40g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1.15g仕込み、液体窒素で凍結脱気をした。
オートクレーブを70℃に昇温した後、オートクレーブ内にTFEを56.3g導入し、重合を開始させた。重合の進行により、オートクレーブ内の圧力が低下するため、TFEを連続的に供給し、オートクレーブの温度と圧力を一定に保持しながら重合させた。重合開始から5時間後にオートクレーブを冷却して重合を停止し、系内のガスを排出して反応溶液を得た。
【0149】
反応溶液にメタノールを800g加えて混合し反応溶液に溶解する重合体を析出させた後、層分離させ、重合体が分散している下層を回収した。得られた重合体の分散液を80℃で16時間温風乾燥し、次に100℃で16時間真空乾燥して、重合体を得た。
得られた重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=14:86(モル%)であった。
【0150】
次いで、得られた重合体を330℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで40時間加熱することで、末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Cを得た。
【0151】
得られた含フッ素重合体Cを上述したガラスチューブ式の昇華精製装置の原料仕込み部に仕込み、捕集部内を3.0×10-3Paに減圧した。次いで、原料仕込み部を330℃まで徐々に加温し、含フッ素重合体Cを昇華させた。昇華精製装置では、捕集部を仕込み部に近い側から310℃、280℃、250℃、200℃の設定温度で加熱した。
このうち、設定温度280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した2gの含フッ素重合体C1を得た。
【0152】
[合成例2]
内容積1.351Lのジャケット付きの重合槽(ステンレス鋼製)を脱気し、重合槽内に、AE-3000(AGC社製)を433g、PPVEを360g、TFEを120g、メタノールを15g、それぞれ秤量して仕込んだ。温度を60℃に保持して、t-ブチルパーオキシピバレート(PBPV)の3.33質量%溶液(溶媒:AE-3000)の15mLを仕込み、重合を開始させた。重合中、重合槽内にTFEを導入し、重合圧力をゲージ圧で1.00MPaに保持した。
重合の進行に伴い重合圧力が低下するため、重合圧力がほぼ一定になるようにTFEを連続的に仕込んだ。TFEの導入量が121gになった時点で重合を終了させ、含フッ素共重合体を得た。
【0153】
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで40時間加熱することで、末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Xを得た。
得られた含フッ素重合体Xの組成は、PPVE単位:TFE単位=12:88(モル%)であった。
【0154】
合成例1と同様にして含フッ素重合体Xを昇華させた。捕集部を仕込み部に近い側から310℃、280℃、220℃、160℃の設定温度で加熱し、設定温度220℃及び280℃の捕集部に析出させた物質を回収して、精製した2gの含フッ素重合体X1を得た。
【0155】
[合成例3]
PPVEを78.9g、AC2000を767g、メタノールを4.23g、AIBNを1.27g、TFEを48.4g用いたこと以外は、合成例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=9:91(モル%)であった。
【0156】
次いで、合成例1と同様にして重合体の末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Dを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Dを昇華させた。設定温度250℃及び280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した4gの含フッ素重合体D1を得た。
【0157】
[合成例4]
PPVEを57.9g、メタノールを4.13g、AIBNを1.24g用いたこと以外は、合成例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=6:94(モル%)であった。
【0158】
次いで、合成例1と同様にして重合体の末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Eを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Eを昇華させた。設定温度200℃、250℃及び280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した5gの含フッ素重合体E1を得た。
【0159】
[合成例5]
内容積1.351Lのジャケット付きの重合槽(ステンレス鋼製)を脱気し、重合槽内に、AE-3000を649g、PPVEを152g、TFEを109g、メタノールを15.5g、それぞれ秤量して仕込んだ。
重合槽の温度を60℃に保持して、t-ブチルパーオキシピバレート(PBPV)の0.79質量%溶液(溶媒:AE-3000)の18.9mLを仕込み、重合を開始させた。
【0160】
重合中、重合の進行に伴い重合圧力が低下するため、重合圧力がほぼ一定になるように重合槽内にTFEを連続的に導入した。重合圧力は、1.04±0.04MPaG(ゲージ圧)に保持した。
【0161】
TFEの導入量が121gになった時点で重合を終了させ、重合体を得た。
得られた重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=4:96(モル%)であった。
【0162】
次いで、得られた重合体の末端基を、合成例1と同様の条件でメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Gを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Gを昇華させた。設定温度250℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した4gの含フッ素重合体G1を得た。
【0163】
[合成例6]
AE-3000を701g、PPVEを57g、TFEを108g、メタノールを35.7g、PBPVの0.53質量%溶液(溶媒:AE-3000)の18.9mL用いたこと以外は合成例5と同様にして、重合体を得た。
【0164】
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=2:98(モル%)であった。
【0165】
次いで、得られた重合体の末端基を、合成例1と同様の条件でメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Iを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Iを昇華させた。設定温度250℃及び280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した4gの含フッ素重合体I1を得た。
【0166】
[合成例7]
内容積1.351Lのジャケット付きの重合槽(ステンレス鋼製)を脱気し、重合槽内に、R113(1,1,2-トリフルオロトリクロロエタン、AGC社製)331gとメタノール1.1gとHFP765g(5.1mol)を仕込んだ後、TFEを仕込んだ。TFEは、重合槽の温度50℃で0.62MPaGとなるよう仕込んだ。
【0167】
その後パーロイルFBの0.3質量%溶液(溶媒:R113)を仕込み、重合を開始させた。重合の進行に伴い重合圧力が低下するため、重合圧力がほぼ一定になるようにTFEを連続的に仕込んだ。パーロイルFBの0.3質量%溶液(溶媒:R113)を間欠で仕込み、TFEが71g(0.71mol)消費した時点で重合を終了させ、含フッ素共重合体を得た。
得られた重合体の組成は、HFP単位:TFE単位=20:80(モル%)であった。
【0168】
次いで、得られた重合体を330℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで40時間加熱することで、末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Yを得た。
合成例2と同様にして含フッ素重合体Yを昇華させた。設定温度160℃、220℃、280℃及び310℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した4gの含フッ素重合体Y1を得た。
【0169】
[市販の含フッ素重合体]
市販の含フッ素重合体として、以下の材料を評価に用いた。
・Fluon PTFE L173JE(AGC社製):テトラフルオロエチレン重合体
・Fluon PFA P-63(AGC社製):テトラフルオロエチレン/ペルフルオロプロピルビニルエーテル共重合体
・TEFLON AF 1600(デュポン社製):テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)共重合体
・kynar301F(アルケマ社製):ビニリデンフルオライド重合体
・kynar720(アルケマ社製):ビニリデンフルオライド重合体
【0170】
<評価>
得られた含フッ素重合体を用い、以下評価1~4を行った。
【0171】
[評価1:蒸着時のチャンバー圧変化]
真空蒸着装置に含フッ素重合体を0.1g仕込み、チャンバー内の圧力を10-4Pa以下に減圧した上で、含フッ素重合体を蒸着速度0.1nm/秒で200nm成膜した。この際にチャンバー内の圧力をモニターし、蒸着時における圧力の最大値を計測した。計測値を用い、下記計算式より圧力の上昇倍率を求めた。
[蒸着時のチャンバー圧力の上昇倍率]=[蒸着中の最大圧力]/[蒸着前の初期圧力]
【0172】
チャンバー圧力の上昇倍率が2倍以下である含フッ素重合体は「良品」と評価し、上昇倍率が2倍を超える含フッ素重合体は「不良」と評価した。
なお、本評価で不良と評価した含フッ素重合体については、チャンバーの汚染が懸念されることから、以下に続く導電膜の評価の実施を断念した。
【0173】
[評価2:導電膜のパターニング性評価1]
(透過率測定用の試料の作製)
25mm×25mm×0.525mm石英基板を用いた。石英基板の平面視中央に、21mm×5mmの矩形の開口部を有するメタルマスクを用いて含フッ素重合体を蒸着し、樹脂膜を有する石英基板を作製した。
含フッ素重合体の蒸着は、蒸着速度0.1nm/秒の条件で行った。また、含フッ素重合体の蒸着は、蒸着装置に付随の膜厚計の測定値で10nmとなるまで行った。
【0174】
続いて、樹脂膜を有する石英基板に対し、樹脂膜の上から全面に、マスクを使用せずにAgを蒸着し、透過率測定用の導電膜試料を作製した。
Agの蒸着は、蒸着速度0.05nm/秒の条件で行った。また、Agの蒸着は、蒸着装置に付随の膜厚計の測定値で、15nmとなるまで行った。
【0175】
(透過率測定)
作製した導電膜試料の透過率測定は、分光光度計(島津製作所製、型番:UV-3600 Plus)を用いて行った。得られた結果から、透過率が高いほど、パターニング性が良好(パターニングが容易)であると判断した。
【0176】
[評価3:導電膜のパターニング性評価2]
(全光線透過率測定用の試料の作製)
25mm×25mm×0.525mm石英基板を用いた。石英基板の平面視中央に、21mm×5mmの矩形の開口部を有するメタルマスクを用いて含フッ素重合体を蒸着し、樹脂膜を有する石英基板を作製した。
含フッ素重合体の蒸着は、蒸着速度0.1nm/秒の条件で行った。また、含フッ素重合体の蒸着は、蒸着装置に付随の膜厚計の測定値で50nmとなるまで行った。
【0177】
続いて、樹脂膜を有する石英基板に対し、樹脂膜の上から全面に、マスクを使用せずにAgを蒸着し、透過率測定用の導電膜試料を作製した。
Agの蒸着は、蒸着速度0.05nm/秒と0.2nm/秒の2条件で、蒸着装置に付随の膜厚計の測定値で、70nmとなるまで行った。
【0178】
(全光線透過率測定)
全光線透過率測定用の導電膜試料について、第2領域の全光線透過率を、ヘイズメーター(スガ試験機製、型番:HZ-V3、測定光:D65光)を用いて測定した。
【0179】
[評価4:含フッ素重合体の柔軟性評価]
含フッ素重合体の柔軟性は、動的粘弾性測定装置(アントンパール社製、MCR502)、及び粘弾性測定装置用加熱炉(アントンパール社製、CTD450)を用いて測定する貯蔵弾性率(G’)の値をもって評価した。
具体的には、上記測定装置を用い、試料(含フッ素重合体)を融点以上に加熱した後、定速降温モードで2℃/分で降温させ、歪み0.01%、周波数1Hzの条件で貯蔵弾性率(G’)を測定した。
得られた結果から、含フッ素重合体の柔軟性を以下の様に評価した。
A:40℃における貯蔵弾性率(G’)が4×10Pa未満
B:40℃における貯蔵弾性率(G’)が4×10Pa以上
【0180】
[例1~7]
上述の含フッ素重合体C1,X1,D1,E1,G1,I1,Y1を用いて樹脂膜を成膜し、評価1~4を行った。
【0181】
[例8]
含フッ素重合体としてFluon PTFE L173JEを用いて樹脂膜を成膜したこと以外は、例1と同様にして評価した。
評価1にて蒸着時のチャンバー内上昇が著しく大きかったため、他の評価は行わなかった。
【0182】
[例9]
含フッ素重合体としてFluon PFA P-63を用いて樹脂膜を成膜したこと以外は、例1と同様にして評価した。
評価1にて蒸着時のチャンバー内上昇が著しく大きかったため、他の評価は行わなかった。
【0183】
[例10]
含フッ素重合体としてTEFLON AF 1600を用いて樹脂膜を成膜したこと以外は、例1と同様にして評価した。
評価1にて蒸着時のチャンバー内上昇が著しく大きかったため、他の評価は行わなかった。
【0184】
[例11]
含フッ素重合体としてkynar301Fを用いて樹脂膜を成膜したこと以外は、例1と同様にして評価した。
評価1にて蒸着時のチャンバー内上昇が著しく大きかったため、他の評価は行わなかった。
【0185】
[例12]
含フッ素重合体としてkynar720を用いて樹脂膜を成膜したこと以外は、例1と同様にして評価した。
評価1にて蒸着時のチャンバー内上昇が著しく大きかったため、他の評価は行わなかった。
【0186】
上記例1~12において、例1,2,7が実施例に該当し、例3~6が参考例に該当し、例8~12が比較例に該当する。評価結果を表1~3に示す。表1は樹脂膜の材料についての物性値、表2は評価1,2の結果、表3は評価3,4の結果をそれぞれまとめた表である。なお、表中「-」は、データが存在しないことを示す。
【0187】
【表1】
【0188】
【表2】
【0189】
【表3】
【0190】
評価の結果、例1~7においては、蒸着時のチャンバー内圧上昇が無く、解重合や熱分解、アウトガスの発生が見られないことが分かった。
また、要件(1)~(3)を満たす例1,2,7は、評価3において80%以上の高い透明性を示した。
【0191】
さらに、評価4において、PPVE含有率が11mol%以上である例1,2及び、HFP含有率が18mol%以上である例7は、40℃における貯蔵弾性率(G’)が4×10Pa未満であり、柔軟性の高いことが確認された。
【0192】
対して、例8~12においては、蒸着時のチャンバー内圧上昇が認められ、蒸着中に解重合や熱分解、アウトガスの発生を伴うことが分かり、実質的に本実施形態の樹脂膜の作製には向かないことが分かった。
また、要件(1)を満たさない例3(参考例)は、評価2においては例1,2,7と明確な差が付かなかったが、評価3においては例1,2,7よりも明らかに劣る物性となった。要件(1)を満たさない例4~6についても、例4と同傾向の物性となると予想される。
【0193】
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明は熱分解やアウトガスを伴うことなく蒸着可能な含フッ素重合体であり、電極等の金属パターニング材の他、ディスプレイ用のOCA(Optical Clear Adhesive)や、OCR(Optical Clear Resin)や光取り出しフィルムのような光学薄膜の材料としても利用可能である。本発明の含フッ素重合体を材料とする薄膜は、低屈折率の光学薄膜として利用することができる。
なお、2020年02月26日に出願された日本特許出願2020-030460号、2020年06月30日に出願された日本特許出願2020-112962号および2021年01月19日に出願された日本特許出願2021-006634号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0195】
1,11,12…導電膜、10,116…第1膜、10A…第1領域、10B…第2領域、10X…第1導電性材料、15,117…樹脂膜、20,118…第2膜、20a,50a…表面、50…基材、110…基板、111…陽極、115…陰極、P…含フッ素重合体、M…マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7