(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/19 20060101AFI20250115BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20250115BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20250115BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/175 111
B41J2/175 121
B41J2/17
B41J2/01 401
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2022561787
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042285
(87)【国際公開番号】W WO2022102058
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼久 悠介
(72)【発明者】
【氏名】倉持 昇平
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-166660(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172322(WO,A1)
【文献】特開2014-180829(JP,A)
【文献】特開2009-285837(JP,A)
【文献】特開2018-144302(JP,A)
【文献】特開2020-179534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
インク供給源としてのメインタンクと、
前記メインタンクに接続されてインクが供給される第1サブタンクと、
前記第1サブタンクに接続され、当該第1サブタンクから供給された前記インクを脱気する脱気装置と、
前記脱気装置で脱気された前記インクを前記インクジェットヘッドへ供給し、当該インクジェットヘッドにかかる負圧を制御する第2サブタンクと、
少なくとも前記第1サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置と、を備え、
前記メインタンクから前記第1サブタンクに新たに供給するインク量が、当該第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように前記インクを送液する制御部をさらに備え、
前記インクが熱硬化性成分を含有したラジカル重合性インクであるインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記制御部は、前記メインタンクから前記第1サブタンクに前記インクを間欠的に送液する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記熱硬化性成分として、ブロックイソシアネートを含有する請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記第2サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置をさらに備え、かつ、
前記第1及び第2サブタンク内における、前記加熱装置により加熱されたタンク内壁の前記インクと接する表面積が、前記第1サブタンク内の方が前記第2サブタンク内よりも大きい請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記第1サブタンクの容量が、前記第2サブタンクの容量よりも大きい請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクジェットヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
インク供給源としてのメインタンクと、
前記メインタンクに接続されてインクが供給される第1サブタンクと、
前記第1サブタンクに接続され、当該第1サブタンクから供給された前記インクを脱気する脱気装置と、
前記脱気装置で脱気された前記インクを前記インクジェットヘッドへ供給し、当該インクジェットヘッドにかかる負圧を制御する第2サブタンクと、
少なくとも前記第1サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置と、を備え、
前記メインタンクから前記第1サブタンクに新たに供給するインク量が、当該第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように前記インクを送液する制御部をさらに備えるインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記メインタンクから前記第1サブタンクに前記インクを間欠的に送液する請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関し、特に、塗膜耐久性、ハンダ耐熱性及び射出安定性に優れたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ソルダーマスクは一般的にラジカル硬化型のUVインクが用いられている。ラジカル硬化型のUVインクは、インク系内に発生したラジカル種によって意図せず重合が進んでしまうことがある(以下、「熱重合」ともいう。)。このようなラジカル種は、重合禁止剤やインク系中の酸素によって捕捉されるが、発生するラジカル種の量が増え続けた場合には、それらで捕捉しきれずにモノマーと反応して重合してしまうリスクが存在する。
【0003】
一方、プリント回路基板へのインクジェット印刷において先行するマーキングと異なり、ソルダーマスクは、グラフィック印刷と同様に高付量かつ高Dutyの印刷が求められるとともに高生産性も要求される。このようなインクジェット記録装置にあっては、インクジェットヘッドの吐出信頼性を高めるために、インクの脱気によりキャビテーションを抑制することが有効であることが知られている(例えば、特許文献1参照。)
【0004】
また、ソルダーマスクとしての塗膜耐久性を向上させる目的で、通常、インク中には熱硬化性成分が含有されている。塗膜耐久性を高める目的でこのような機能性成分の添加量を増やすとインク粘度は高くなってしまう。
そこで、吐出に最適な粘度域に合わせるため、インクを一般的なUVインクに比べて高い温度で加温する必要がある。また、上述のとおり吐出信頼性を高めるために、インク脱気を行う必要があり、これら加温と脱気の必要性により、ソルダーマスクインクを扱う際には熱重合のリスクを抑える必要がある。
なお、60~90℃程度の高温条件で脱気を行いながらインクを供給する系については、従来発明されているものの、インク自体に熱硬化性成分を含まれた系についてはこれまで知見がない(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-136957号公報
【文献】特許第6708128号公報
【文献】特許第6036543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、塗膜耐久性、ハンダ耐熱性に優れ、かつ、インク脱気下でもインクの増粘や重合反応を起こすことなく、長期間安定に吐出することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、メインタンクから第1サブタンクに新たに供給するインク量を、当該第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように制御することで、熱硬化性成分を含有したラジカル重合性インクを用いた場合でも、塗膜耐久性、ハンダ耐熱性及び射出安定性に優れることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.インクジェットヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
インク供給源としてのメインタンクと、
前記メインタンクに接続されてインクが供給される第1サブタンクと、
前記第1サブタンクに接続され、当該第1サブタンクから供給された前記インクを脱気する脱気装置と、
前記脱気装置で脱気された前記インクを前記インクジェットヘッドへ供給し、当該インクジェットヘッドにかかる負圧を制御する第2サブタンクと、
少なくとも前記第1サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置と、を備え、
前記メインタンクから前記第1サブタンクに新たに供給するインク量が、当該第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように前記インクを送液する制御部をさらに備え、
前記インクが熱硬化性成分を含有したラジカル重合性インクであるインクジェット記録方法。
【0009】
2.前記制御部は、前記メインタンクから前記第1サブタンクに前記インクを間欠的に送液する第1項に記載のインクジェット記録方法。
【0010】
3.前記熱硬化性成分として、ブロックイソシアネートを含有する第1項又は第2項に記載のインクジェット記録方法。
【0011】
4.前記第2サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置をさらに備え、かつ、前記第1及び第2サブタンク内における、前記加熱装置により加熱されたタンク内壁の前記インクと接する表面積が、前記第1サブタンク内の方が前記第2サブタンク内よりも大きい第1項から第3項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0012】
5.前記第1サブタンクの容量が、前記第2サブタンクの容量よりも大きい第1項から第4項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録方法。
【0013】
6.インクジェットヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
インク供給源としてのメインタンクと、
前記メインタンクに接続されてインクが供給される第1サブタンクと、
前記第1サブタンクに接続され、当該第1サブタンクから供給された前記インクを脱気する脱気装置と、
前記脱気装置で脱気された前記インクを前記インクジェットヘッドへ供給し、当該インクジェットヘッドにかかる負圧を制御する第2サブタンクと、
少なくとも前記第1サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置と、を備え、
前記メインタンクから前記第1サブタンクに新たに供給するインク量が、当該第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように前記インクを送液する制御部をさらに備えるインクジェット記録装置。
【0014】
7.前記制御部は、前記メインタンクから前記第1サブタンクに前記インクを間欠的に送液する第6項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、塗膜耐久性及びハンダ耐熱性に優れ、かつ、インク脱気下でもインクの増粘や重合反応を起こすことなく、長期間安定に吐出することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
インクジェット記録装置のインク供給系において、インクの脱気後の熱重合を防止する効果として最も高いのは、脱気装置に供給されるインクを可能な限りフレッシュな状態にすることであることを見いだした。すなわち、第1サブタンク内でインクが滞留する時間が長くなると、インク中に含有される重合禁止剤が徐々に失活していまい、脱気装置よりも下流における流路で熱重合しやすくなると推測される。そのため、第1サブタンク内のインクは継ぎ足されながら消費されるよりも、可能な限り使い切られることが好ましい。
そこで、本発明では、第1サブタンクに新たに供給するインク量が、第1サブタンク内に貯留するインク量よりも多くなるようにインクを送液することにより、第1サブタンク内での滞留時間を可能な限り短くすることができ、インクジェットヘッドに供給するまでのインク供給系におけるインク安定性を高めることができる。すなわち、インク脱気下でもインクの増粘や重合反応を起こすことなく、長期間安定してインクジェットヘッドより吐出することができる。
その結果、このようなインクをインクジェットヘッドから吐出して形成された塗膜は、前記インク供給系におけるインク滞留時間を短くした結果、開始剤や熱硬化性成分などの熱分解が抑制され、本来の目的である光硬化性やベーク後の熱硬化の効率が高められるため、耐久性に優れる。
また、インクが熱硬化性成分を含有したラジカル重合性インクジェットインクであるので、例えばソルダーマスクに要求される塗膜耐久性及びハンダ耐熱性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を説明する正面図
【
図2】インクジェット記録装置の内部構成を示すブロック図
【
図3】本実施形態のインクジェット記録装置におけるインクの経路を説明する図
【
図4】
図3に示すインクの経路の一部を拡大して示した図
【
図7】円筒状の脱気モジュールの中心軸を通る面で切断した概略断面図
【
図8】インク供給処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェットヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、インク供給源としてのメインタンクと、前記メインタンクに接続されてインクが供給される第1サブタンクと、前記第1サブタンクに接続され、当該第1サブタンクから供給された前記インクを脱気する脱気装置と、前記脱気装置で脱気された前記インクを前記インクジェットヘッドへ供給し、当該インクジェットヘッドにかかる負圧を制御する第2サブタンクと、少なくとも前記第1サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置と、を備え、前記メインタンクから前記第1サブタンクに新たに供給するインク量が、当該第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように前記インクを送液する制御部をさらに備え、前記インクが熱硬化性成分を含有したラジカル重合性インクである。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0018】
本発明の実施態様としては、前記制御部は、前記メインタンクから前記第1サブタンクに前記インクを間欠的に送液することが、第1サブタンク内での滞留時間をより短くすることができ、インク安定性の点で好ましい。
また、前記熱硬化性成分として、ブロックイソシアネートを含有することが、インクの耐高温高湿性が向上する点で好ましい。
【0019】
前記第2サブタンクにおける前記インクの流路を加熱する加熱装置をさらに備え、かつ、前記第1及び第2サブタンク内における、前記加熱装置により加熱されたタンク内壁の前記インクと接する表面積が、前記第1サブタンク内の方が前記第2サブタンク内よりも大きいことが、インクの加温効率を上げることができ、吐出に最適な粘度とすることができる点で好ましい。
【0020】
前記第1サブタンクの容量が、前記第2サブタンクの容量よりも大きいことが、高生産性の印刷を行う際に、第1サブタンクでのインク温度制御がより容易になる点で好ましい。また、インクが脱気された後はできる限り流路やサブタンクにおける滞留時間は少ない方がインク品質維持の観点で好ましいことからも、第2サブタンクよりも第1サブタンクの容量を大きくすることが望ましい。
【0021】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0022】
[本発明のインクジェット記録方法]
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有するものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0023】
図1Aは、本発明の実施形態のインクジェット記録装置1の概略構成を説明する正面図である。また、
図1Bは、インクジェット記録装置1の平面図である。
【0024】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド24a(吐出動作部)と、UV照射部72と走査部121と、走査ガイド部122と、搬送台131と、搬送ガイド部132などを備える。
【0025】
本実施形態のインクジェット記録装置1におけるインクの吐出対象は、例えば、配線基板S(基材)である。この配線基板Sは、搬送台131に載置される。搬送台131は、配線基板Sを載置した状態でレールなどの搬送ガイド部132に沿った方向(搬送方向、副走査方向)への移動が可能となっている。配線基板Sは、絶縁基板上に信号配線をなす略平板上の導体(配線導体)を有している。導体は、特には限られないが、例えば、銅(銅箔)などである。この信号配線が絶縁基板面上に突出して位置することで、配線基板Sは段差部分を有する。また、着弾したインクは配線基板Sの内部に浸透せず、面上に盛り上がって硬化し、定着される。なお、ここでは、絶縁基板面は平面であり、この平面に対して垂直外向きを上方とする。
【0026】
インクジェットヘッド24aは、ノズルN(
図2参照)を有し、当該ノズルNから配線基板Sに対してインクを吐出する。各イン/ク吐出周期での各画素範囲へのインク吐出量は、複数段階のうちから選択が可能である。UV照射部72は、インクが着弾した配線基板Sに紫外光(UV光)を照射する。インクジェットヘッド24aとUV照射部72は、走査部121に固定されており、走査ガイド部122に沿った方向(走査方向。すなわち、搬送台131の移動方向と交差する方向、ここでは直交する方向)に移動(走査)される。これらの移動は、例えば、リニアモーターなどが用いられてよい。インクジェットヘッド24aのノズルは、配線基板Sの幅にわたって並んでおり、ノズルの配列間隔を十分に小さく定めることで、一度の走査で印刷を完了する(シングルパス)ことが可能であってもよい。また、配線基板Sを移動させながら複数回インクジェットヘッド24aの走査を繰り返すことで、マルチパス(インターレース)でのインク吐出が可能である。
【0027】
図2は、インクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、インクジェットヘッド24a(インク吐出部)と、ヘッド駆動制御部30と、定着部70と、制御部40と、記憶部60と、インク加熱部(加熱装置)270と、表示部81と、操作受付部82と、通信部90、送液ポンプ243、供給ポンプ53、真空ポンプ249、循環ポンプ246、フロートセンサー241a、センサー2427、フロートセンサー245aなどを備える。制御部40と各部との間は、バスなどを介して通信接続されている。
【0028】
搬送部10は、インクジェットヘッド24aと画像(被膜)形成対象の媒体、ここでは配線基板Sとを相対移動させる。上述のように、例えば、インクジェットヘッド24aは、配線基板Sに対して所定の方向(走査方向)に移動可能であり、配線基板Sは、インクジェットヘッド24aの走査方向に対して垂直な方向に移動可能である。
【0029】
搬送部10は、走査駆動部12と、搬送駆動部13とを有する。走査駆動部12は、インクジェットヘッド24aを上記の走査部121を移動させることで走査を行う。走査駆動部12は、例えば、リニアモーターを有し、インクジェットヘッド24aを直接又はインクジェットヘッド24aの固定部材などを介して間接的に移動させる。
【0030】
搬送駆動部13は、例えば、配線基板Sが載置される基台(搬送台131)やベルトなどの載置部材を移動させる。搬送駆動部13は、載置部材を往復移動させることが可能である。
【0031】
インクジェットヘッド24aは、ヘッド駆動部22と、複数のノズルNとを有し、ヘッド駆動部22が出力する駆動信号に応じて当該ノズルNからインクを吐出する。ヘッド駆動部22は、吐出選択IC28(Integrated Circuit)と、電気機械変換素子223などを有する。吐出選択IC28は、画像データに基づいて各ノズルNからのインク吐出有無及び吐出量に応じた駆動信号を各ノズルNに対応する電気機械変換素子223に出力させるように切替動作を行う。電気機械変換素子223は、例えば、圧電素子であり、入力される駆動信号に応じた形状変化を生じ、当該形状変化によりノズルNに連通するインク流路内のインクに圧力変動を生じさせる。
電気機械変換素子223とノズルNとにより記録素子26が構成される。
【0032】
ヘッド駆動制御部30は、ヘッド制御部31と、駆動波形信号生成回路32などを有し、駆動波形信号生成回路32の出力データ(デジタルデータ)に基づいてインクの吐出などに係る駆動波形信号(アナログ信号)を所定の時間周期(インク吐出周期)でインクジェットヘッド24aへ出力する。インクの吐出に係る駆動波形信号は、複数のパルス信号の組合せであってもよい。また、インクの吐出量にそれぞれ応じて複数種類の異なる波形パターン(波形だけではなく、パルス長、振幅、電圧値の変化などを含む)の駆動波形信号を出力可能であってもよい。あるいは、画素当たりのインク液滴量に応じた回数の連続駆動パルスを出力可能(マルチパルス方式)とさせてもよい。この場合、各駆動パルスにより吐出されたインク液滴を飛翔中に合一させて、又は同一の画素範囲内に着弾させる。1パス(1周期)当たりの各ノズルから各画素へ吐出されるインクは、配線基板Sの表面特性、インクの吐出時の温度(粘度特性)及びインク液滴の着弾からUV照射部72のUV光照射による仮定着までの時間間隔なども考慮して、後述する絶縁膜の最低限の厚さ(例えば、15μm)が得られるインク液滴量とされてもよい。また、インクを吐出する場合だけではなく、インクをノズルN内で撹拌するための非吐出波形パターンを出力可能であってもよい。
【0033】
画素当たりのインク吐出量(着弾量)の制御は、上記の方法に加えて又は代えて、他の方法、例えば、駆動パルスを印加していない状態でのインクの圧力(通常では、インクが漏出しないように負圧とされる)の調整によりノズルN内のインク液面(メニスカス)の状態を調整したり、あるいは、駆動周波数を変更調整したりすることでも可能である。また、インク吐出用の波形パターンの前に予め適宜な非吐出波形パターンの駆動パルスを印加してメニスカスに振動を与えた状態で駆動波形パターンの駆動パルスを印加することでも、インク液滴量を調整することができる。
【0034】
定着部70は、配線基板S上に着弾したインクを定着させる動作を行う。本発明に係るインクは、後述するが、熱硬化性及び活性エネルギー線(UV光)による硬化性を有するので、これらに対応して、定着部70は、UV照射部72と、加熱定着部73とを有する。特に限るものではないが、ここでは、UV照射部27は、上記のようにインクジェットヘッド24aとともに走査部121に固定されて走査されて、配線基板S上に着弾したインクを仮定着させる。UV照射部27は、例えば、紫外線を発する発光ダイオード(LED)を有し、当該LEDに電圧を印加して電流を流すことで発光させて紫外線(UV光)を照射する。UV照射部72は、必要に応じて所望の照射範囲外へのUV光の漏出を遮るための遮光壁などを備えていてもよい。
【0035】
なお、UV照射部72においてUV光を発する構成は、LEDに限られない。UV照射部72は、例えば、水銀ランプを有していてもよい。また、インクがUV光以外の活性エネルギー線を受けて硬化定着する性質を有する場合には、UV照射部72は、上述のUV光を発する構成の代わりに、当該インクを硬化させる活性エネルギー線を発する周知の出射源(光源)を有していてよい。
【0036】
加熱定着部73は、例えば、赤外線ヒーターや電熱線ヒーターなどの発熱部を有し、配線基板Sを直接又は間接的に加熱して仮定着されたインクを本定着させる。加熱定着部73は、インクジェットヘッド24a及びUV照射部72によるインク着弾、仮定着がなされた後に、例えば、配線基板Sが搬送方向について下流側に搬送されてから本定着が行われるように位置する。加熱定着部73は、配線基板S及びこれが載置されている搬送部材の部分の範囲を取り囲む筐体内に位置することで、発熱部により発生した熱を筐体内部に保持させて効率よく適宜な硬化温度で維持させることとしてもよい。この場合は、加熱時に常に発熱部を動作させている必要はなく、温度が上記硬化温度に係る設定範囲内で維持されていればよい。
【0037】
なお、加熱定着部73は、インクジェット記録装置1が備えるものではなく、別個の加熱定着装置が備えていてもよい。また、加熱定着装置がインクジェット記録装置1の後処理装置であって、搬送部10が搬送台131の移動方向の延長線上などにある加熱定着装置へ直接配線基板Sを送り込むことが可能であってもよいし、インクジェット記録装置1の搬送台131から取り外された配線基板Sを改めて加熱定着装置にセットする構成を有し、又はユーザーが手動で配線基板Sを移動させることとしてもよい。
【0038】
制御部40は、インクジェット記録装置1の各部の動作を統括制御する。制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)とRAM42(Random Access Memory)とを有する。CPU41は、各種演算処理を行うハードウェアプロセッサーであり、記憶部60に記憶されたプログラム61を実行する。RAM42は、CPU41に制御用のメモリー空間供し、一時データを記憶する。
【0039】
具体的には、制御部40は、インクジェット記録装置1に対して次のような処理を行う。
すなわち、制御部40は、後述する第1サブタンク241内に設けられたフロートセンサー241aによる検出データに基づいて、メインタンク51から第1サブタンク241に新たに供給される量(供給量)が、第1サブタンク241に貯留されるインク量(残留量)よりも多くなるように、供給ポンプ53及びバルブ55を動作させてメインタンク51から第1サブタンク241に送液する。このようにして制御部40は、メインタンク51から第1サブタンク241にインクを間欠的に送液する。詳細については後述する。
【0040】
記憶部60は、少なくとも不揮発性メモリーを含み、プログラム61及び設定データを記憶する。不揮発性メモリーとしては、例えば、フラッシュメモリーが挙げられる。また、HDD(Hard Disk Drive)などもここでいう不揮発性メモリーに含まれてもよい。
【0041】
インク加熱部270は、インクジェットヘッド24a及びインクジェットヘッド24aへのインク供給路においてインクを加熱して適宜な温度に維持する。後述するようにインクが温度によりゾル・ゲル間で相変化するので、常温のゲル状態のままではインクの流動性が不足し、インクの供給や吐出が難しい。インク加熱部270は、インクを適宜な温度に加熱することで、インクをゾル状態に保ち、供給及び適正な吐出を可能とさせる。適宜な温度は、インクが配線基板Sに着弾後に配線基板Sなどにより速やかに放熱されて、適正な時間でゲル化するように定められればよい。
インク加熱部270は、後述するが、例えば、電熱線やラバーヒーターなどが挙げられ、当該電熱線やラバーヒーターが通電されることにより、当該電熱線やラバーヒーターがインク流路などに接して熱を伝えることでインクの加熱を行う。
【0042】
表示部81は、制御部40の制御に基づいて、各種ステータスやメニューなどを表示画面に表示する。表示部81は、例えば、表示画面とLED(Light Emitting Diode)ランプなどを有する。表示画面は、特には限られないが、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)である。LEDランプは、例えば、電力供給状況や異常発生状況などに応じて、制御部40により各状況に対応する位置及び色のランプが点灯(点滅動作を含む)される。
【0043】
操作受付部82は、外部からのユーザーなどによる入力操作を受け付けて、入力信号として制御部40に出力する。操作受付部82は、例えば、タッチパネルと押しボタンスイッチなどを有する。タッチパネルは、表示部81の表示画面と重ねて位置していてよい。また、操作受付部82は、その他の各種操作スイッチなどを有していてもよい。
【0044】
通信部90は、所定の通信規格に従って外部機器などとの間で行うデータ(信号)の送受信を制御する。通信部90は、例えば、LAN(Local Area Network)の規格に従って、通信の制御を行う。また、通信部90は、USB(Universal Serial Bus)の規格により周辺機器などが接続可能であってもよい。
【0045】
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置1におけるインクの経路を説明する図である。また、
図4は、当該インクの経路の一部を拡大して示した図である。
【0046】
本実施形態のインクジェット記録装置1では、インク供給源50としてのメインタンク51からフィルター57を介して供給ポンプ53により汲み出されたインクは、バルブ(例えば、電磁弁)55及びインク経路24bを介して各インクジェットヘッド24aへ供給される。また、各インクジェットヘッド24aで吐出されなかったインクをインク経路24bに戻すことが可能な構成となっている。
【0047】
インク経路24b中には、第1サブタンク241と、フィルター241dと、脱気モジュール242と、送液ポンプ243と、逆止弁244と、第2サブタンク245、フィルター245c等が設けられている。これらは、特に限定されるものではないが、例えば中空の円環状のチューブ構造の部材で繋がれている。
【0048】
また、脱気モジュール242に対して並列に循環ポンプ246が設けられ、脱気モジュール242の両端に接続された循環経路24cを介し、脱気モジュール242から流出したインクを脱気モジュール242のインク流入口2422(
図7参照)の手前に戻すことが可能となっていることが好ましい。
【0049】
これらインクジェットヘッド24a、インク経路24b及び循環経路24cは、ヒーターやヒーターからの熱を伝える伝熱部材等のインク加熱部270によって加熱、保温されて、インクの温度が適切な温度に保たれるようになっている。
このインク加熱部270のヒーターとしては、例えば、ラバーヒーター272や電熱線271(
図4参照)が用いられ、通電されることにより発熱する。
伝熱部材としては、熱伝導率の高い部材、例えば、各種金属(合金)で形成された熱伝導板が用いられ、インク経路24bや循環経路24cの配管を覆って設けられることが好ましい。
【0050】
脱気モジュール242には、逆止弁247と、トラップ248と、真空ポンプ(脱気ポンプ)249等が直列に接続されて、脱気装置が構成されている。
【0051】
インク供給源50のメインタンク51内のインクは、常温(25℃)に維持されている。
【0052】
<第1サブタンク>
第1サブタンク241は、供給ポンプ53及びバルブ55によりメインタンク51から汲み出されたインクを貯留する一又は複数のインク室である。
第1サブタンク241の容量は、メインタンク51の容量より小さく、後述する第2サブタンク245の容量よりも大きいことが好ましい。
具体的には、第1サブタンク241の容量は、インクジェットヘッド搭載数や設計によっても変わるが、第2サブタンク245の容量よりも1.1以上~2.0倍未満の範囲内で大きいことが好ましい。
【0053】
第1サブタンク241及び第2サブタンク245内における、インク加熱部270により加熱されたタンク内壁のインクと接する表面積(「接液表面積」ともいう。)は、第1サブタンク241内の方が第2サブタンク245内よりも大きいことが好ましい。具体的には、第1サブタンク241内の方が、第2サブタンク245内よりも1.1倍以上~5.0倍未満の範囲内で大きいことが好ましい。
【0054】
ここで、「第1サブタンク241内における、インク加熱部270により加熱されたタンク内壁のインクと接する表面積(接液表面積)」とは、例えば、
図4や
図5A及び
図5Bに示すように、第1サブタンク241の側壁部2411や底部2412の外面(外壁面)にラバーヒーター272を設け、当該ラバーヒーター272により加熱された側壁部2411や底部2412を介して、タンク内のインクに熱が伝わる場合において、前記側壁部2411や底部2412の内面とインクが接する表面積をいう。また、この場合だけでなく、
図5A及び
図5Bに示すように、前記第1サブタンク241の側壁部2411や底部2412の外面に設けられたラバーヒーター272に加えて、第1サブタンク241内に仕切り板2415が設けられ、前記ラバーヒーター272により加熱された仕切り板2415を介して、タンク内のインクに熱が伝わる場合においても、前記仕切り板2415の表面とインクが接する表面積も含むものとする。
なお、第2サブタンク245の場合も、上記と同様の定義である。
また、「タンク内壁」とは、例えば第1サブタンク241における側壁部2411や底部2412の内面や、第1サブタンク241内に設けられた仕切り板2415の表面をいい、第2サブタンク245の場合も、上記と同様の定義である。
【0055】
第1サブタンク241における前記接液表面積を大きくするために、第1サブタンク241は、例えば、
図5A及び
図5Bに示すように、第1サブタンク241の側壁部2411の外面、底部2412の外面及び第1サブタンク241内に仕切り板2415を設けた構成とすることが好ましい。
以下に、第1サブタンク241に設けられたインク加熱部270及び仕切り板2415の配置パターンについて説明する。
【0056】
図5は、第1サブタンクを示した概略図であり、
図5Aは上断面図、
図5Bは
図5Aにおける切断線V-Vに沿った矢視断面図である。
この第1サブタンク241は、側壁部2411及び底部2412の外面に、インク加熱部270としてラバーヒーター272が設けられている。また、第1サブタンク241内には、上面視において、左側壁部2411から中央部に向けて反時計回りに渦を巻くように上面視略矩形状に仕切り板2415が設けられ、これによって、インクの流路が形成されている。なお、仕切り板2415は、ラバーヒーター272と熱伝導的につながっているものとする。
また、第1サブタンク241の左側壁部2411には、メインタンク51から供給されたインクが流入される流入口2413が設けられており、当該流入口2413とインクの流路が連通している。
また、第1サブタンク241内のインク流路の最下流位置、すなわち、第1サブタンク241内の中央部近傍には、脱気モジュール(脱気装置)242へ連通する流出口2414が設けられており、流入口2413から流入したインクは、第1サブタンク241内のインク流路に沿って反時計回りに流れて、流出口2414を介して脱気モジュール242へ送られるようになっている。
【0057】
また、第1サブタンク241には、液面センサーとしてフロートセンサー241aが設けられている。フロートセンサー241aの設置箇所は特に限定されないが、第1サブタンク241におけるインクの流路の最下流位置に設置することが好ましい。なお、
図5Aでは、第1サブタンク241の中央部近傍に設置されている。
【0058】
なお、第1サブタンク241内の仕切り板2415の配置パターンは、
図5A及び
図5Bに限定されるものではなく、例えば、
図6A~
図6Cに示す配置パターンであってもよい。
図6A~
図6Cは、
図5A及び
図5Bの変形例を示した第1サブタンクの上断面図である。
【0059】
図6Aに示す第1サブタンク241は、当該第1サブタンク241内において、互いに対向する左右側壁部2411及び2411間に、交互となるように仕切り板2415が複数設置されている。これによって、第1サブタンク241内にインク流路が蛇行して形成されている。
第1サブタンク241内のインク流路の最下流位置には、脱気モジュール242へ連通する流出口2414が設けられており、流入口2413から流入したインクは、第1サブタンク241内のインク流路を蛇行して流れて、流出口2414を介して脱気モジュール242へ送られるようになっている。
また、この第1サブタンク241の脱気モジュール242の近傍には、フロートセンサー241aが設けられている。
なお、第1サブタンク241の側壁部2411及び底部2412の外面にも、ラバーヒーター272が設けられている。
【0060】
図6Bに示す第1サブタンク241は、当該第1サブタンク241の内部を左右に仕切るように第1サブタンク241の中央部に、左右側壁部2411及び2411に略平行となるように一枚の仕切り板2415が設置されている。これによって、第1サブタンク241内が左右の2つの空間に仕切られ、インクの流路が形成されている。
第1サブタンク241内の右側の空間には、脱気モジュール242へ連通する流出口2414が設けられており、流入口2413から流入したインクは、第1サブタンク241内の左側から右側へ流れて、流出口2414を介して脱気モジュール242へ送られるようになっている。
また、この第1サブタンク241の脱気モジュール24の近傍には、フロートセンサー241aが設けられている。
なお、第1サブタンク241の側壁部2411及び底部2412の外面にも、ラバーヒーター272が設けられている。
【0061】
図6Cに示す第1サブタンク241は、当該第1サブタンク241の中央部に、上面視十字型となるように仕切り板2415が設置されている。これによって、第1サブタンク241内に、時計回り及び反時計回りとなるインク流路が形成されている。
第1サブタンク241内のインク流路の最下流位置には、脱気モジュール242へ連通する流出口2414が設けられており、流入口2413から流入したインクは、第1サブタンク241内のインク流路を時計回り又は反時計回りに流れて、流出口2414を介して脱気モジュール242へ送られるようになっている。
また、この第1サブタンク241の脱気モジュール242の近傍には、フロートセンサー241aが設けられている。
なお、第1サブタンク241の側壁部2411及び底部2412の外面にも、ラバーヒーター272が設けられている。
【0062】
なお、
図6A、
図6B及び
図6A~
図6Cに示す第1サブタンク241は、本発明の実施形態の一例であって、これらに限定されるものではない。
例えば、
図5A、
図5B及び
図6A~
図6Cに示す第1サブタンク241は、側壁部2411及び底部2412の外面にラバーヒーター272を設ける構成としたが、側壁部2411及び底部2412の内面に、ラバーヒーター272を設ける構成としてもよい。この場合は、ラバーヒーター272が直接インクと接触しないように、ラバーヒーター272の表面を他の部材で被覆することが耐久性等の点で好ましい。
また、
図5A、
図5B及び
図6A~
図6Cに示す第1サブタンク241は、当該第1サブタンク241の内部に仕切り板2415を設け、仕切り板2415が第1サブタンク241の外側に設けられたラバーヒーター272と熱伝導的につながる構成としたが、これに限らず、2枚の仕切り板(図示しない)の内部にラバーヒーターを設ける構成としてもよい。
【0063】
また、第1サブタンク241以降の流路部材や仕切り板2415としては熱伝導率が高い金属、例えばアルミニウムや銅が用いることが好ましく、コスト、加工性の観点からアルミニウム製がより好ましい。
【0064】
第1サブタンク241に設けられたフロートセンサー241aは、インクの液面位置を検出する。そして、フロートセンサー241aによる液面位置の検出データに基づいて制御部40が、バルブ57の開閉及び供給ポンプ53を動作させるようになっている。
具体的には、メインタンク51から第1サブタンク241に新たに供給される量が、第1サブタンク241に貯留(残留)されるインク量よりも多くなるように、フロートセンサー241aによる検出データに基づいて制御部40がバルブ55及び供給ポンプ53を動作させる。これにより、第1サブタンク241内でのインクの滞留時間を短くするようになっている。
【0065】
なお、液面センサーとしては、フロートの位置により液面を検出する前記フロートセンサー241a以外に、液面での超音波の反射を計測する超音波式センサー、気体と液体との誘電率差によって液面を検出する誘電率静電容量式センサー、及び、タンク下部において液体の重量や圧力を検出する圧力式センサー等を用いることができる。
【0066】
<脱気モジュール>
脱気モジュール242は、流入したインクから空気等の気体を取り除く脱気処理を行い、当該脱気されたインクを排出する。
脱気モジュール242は、通常、1回の脱気でインクの吐出に悪影響を及ぼさないレベルまでインク中の空気濃度を低下させることができるが、複数回脱気を行うことで、さらに空気濃度を低下させることができる。
【0067】
図7は、円筒状の脱気モジュール242の中心軸を通る面で切断した概略断面図である。
脱気モジュール242は、外殻2421の内部において、中心管2424の周囲を多数の中空糸膜(透過部材)2426が覆う形状になっている。中心管2424の一端は、インク流入口2422に繋がり、他方は、プラグ2424aで封止されている。中心管2424の外壁には、無数の細穴2424b(ミシン穴)が設けられており、インク流入口2422から中心管2424に流入したインクは、これら細穴2424bから周囲に流出して、中空糸膜2426の間を抜けてインク流出口2423から流出する。これらインク流入口2422、中心管2424の内部、中心管2424の外側であって多数の中空糸膜2426の間、インク流出口2423等によりインク流路2428が構成されている。
【0068】
中空糸膜2426は、一端が閉塞した多数の中空状の微細糸構造をなし、その膜面は、気体透過性を有する。中空糸膜2426の微細糸構造の他端は、気体流出口2425に繋がっており、真空ポンプ249で空気が吸引されることにより中空糸膜2426の微細糸構造内部が減圧される。この状態で、中空糸膜2426の膜面にインクが接触することで、インク中の空気等の気体のみが選択的に膜面を透過してインクが脱気される。これら中空糸膜2426の微細糸構造内部、気体流出口2425等により気体流路2429が構成されている。
【0069】
前記脱気モジュール242は、中空糸膜2426の内側が脱気されて当該中空糸膜2426の外側にインクが流通される外部還流型の中空糸膜脱気モジュールであることが脱気効率や処理流量の観点から好ましいが、内部還流型などその他の方式を用いてもよい。
【0070】
また、脱気モジュール242のインク流路2428内であって、インク流入口2422から流入したインクが最も到達しにくい位置には、インク流路2428内がインクで満たされたことを検知するセンサー2427が設けられていることが好ましい。
インク流路2428内においてインクが最も到達しにくい位置とは、その位置にインクが到達したならばインク流路2428内の全領域がインクで満たされたといえる位置であり、例えば、多数の中空糸膜2426の基端部同士の間や、インク流入口2422から最も離間し且つインク流出口2423からも離間した位置等が挙げられる。センサー2427が設けられた位置においてインクが到達したことを検知したときに、その検知結果を制御部40に出力する。
【0071】
送液ポンプ243は、脱気モジュール242のインク流出口2423から流出したインクを第2サブタンク245へ送る。送液ポンプ243と第2サブタンク245の間には、逆止弁244が設けられており、一度第2サブタンク245へ送られたインクが逆流することを防止している。
なお、送液ポンプ243は、脱気モジュール242と第2サブタンク245との間に設けられるものとしたが、これに限られるものではなく、第1サブタンク241と脱気モジュール242との間に設けられるものとしても良い。
【0072】
<第2サブタンク>
第2サブタンク245は、脱気モジュール242で脱気されたインクが一時的に貯留される小型のインク室であり、第1サブタンク241よりも小さい容量であることが好ましい。
【0073】
また、第2サブタンク245内における、インク加熱部270により加熱された内壁のインクと接する表面積(接液表面積)は、第2サブタンク245内の方が、第1サブタンク241内よりも小さいことが好ましい。
【0074】
第2サブタンク245における前記接液表面積を小さくするために、第2サブタンク245は、例えば、第1サブタンク241のように仕切り板2415を設ける構成とはせずに、第2サブタンク245の側壁部又は底部の外面にのみラバーヒーター272を設ける構成とすることが好ましい(
図4参照)。
【0075】
第2サブタンク245は、各インクジェットヘッド24aのインレット240aに接続されて、ノズルから吐出されるインク量に応じたインクがこの第2サブタンク245から各インクジェットヘッド24aに供給される。
第2サブタンク245には、フロートセンサー245aが設けられ、当該フロートセンサー245aによる液面位置の検出データに基づいて制御部40が送液ポンプ243を動作させることにより所定量のインクが貯留されるようになっている。
また、第2サブタンク245には、浮き蓋245bが設けられて、脱気されたインクの表面を覆っている。第2サブタンク245は、大気に対して開放されているので、浮き蓋245bにより大気と脱気済みインクとの接触面積を小さくすることで、再度インクに空気が混入するのを防いでいる。なお、工業用途で用いられるインクジェット記録装置1では、連続的な画像形成等により脱気されたインクが第2サブタンク245で長時間貯留されないので、再度混入する空気の量は少ない場合が多い。したがって、第2サブタンク245は、この浮き蓋245bを有しない構成であっても良い。
【0076】
インクジェットヘッド24aのノズルから吐出されなかったインクは、アウトレット240bから回収路241b及びバルブ241cを介して第1サブタンク241に戻すことが可能となっている。インクジェットヘッド24aのメンテナンス時等にインクジェットヘッド24aからインクを抜く必要がある場合、バルブ241cを開放することで、インクジェットヘッド24aのインクを無駄にせず回収することが可能となる。
【0077】
脱気モジュール242と真空ポンプ249の間には、逆止弁247を介してトラップ248が設けられている。中空糸膜2426は、通常、液体のインクを透過させないが、真空ポンプ249による負圧の程度によっては、微量のインクが透過する場合がある。この透過したインクが真空ポンプ249に到達すると、真空ポンプ249が劣化するので、トラップ248は、その前に当該インクを回収する。トラップ248により回収されたインクは、トラップ248に接続された図示略のバルブを開放して抜き取ることができる。
【0078】
ここで、上述のように、インク経路24bのインクは、インク加熱部270により加熱保温される。温度としては、例えば70~80℃の範囲内となるように加熱することが好ましい。
特に、本実施形態においては、第1サブタンク241にラバーヒーター272が設けられている。このようなラバーヒーター272を設けることで、メインタンク51から送られるインクを脱気モジュール242に送液する前に所定温度まで十分に加温することができる。特にゲルインクの場合には加温により完全溶解させる必要がある。
【0079】
また、脱気モジュール242には、電熱線271が設けられている。脱気モジュール242の内部には外側を覆うヒーターや伝熱板などからの熱が伝わり難いので、このように別途加熱を行って内部まで熱伝導させておくことで、通常のインク経路24b内よりもインクの滞留時間が長い脱気モジュール242の内部においてより効率的にインクが加熱される。
【0080】
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置1では、インクジェットヘッド24aへのインクの供給が停止されているときも、循環ポンプ246によって適宜脱気モジュール242内のインクを循環させることで、脱気モジュール242や循環経路24cを流れるインク全体を、適切且つバランス良くインクが加熱、保温される。また、インクジェット記録装置1の電源投入時などにインクが冷えてしまっている場合でも、速やかにインクを加熱させて適切な温度で循環、吐出可能とすることができる。
【0081】
次に、上記のように構成されたインクジェット記録装置1において、制御部40が行うインク供給処理の一例について、
図8を参照して以下説明する。
図8は、インク供給処理の一例を示すフローチャートである。
【0082】
まず、制御部40は、第1サブタンク241内のフロートセンサー241aが、第1サブタンク241内に貯留するインク量(インク残量)が下限値を検知したか否かを判定する(ステップS1)。
【0083】
前記インク残量が、下限値を検知していないと判定すると(ステップS1;NO)、メインタンク51と第1サブタンク241間のバルブ55を閉じ(ステップS5)、メインタンク51から第1サブタンク241へのインクの送液を停止する(ステップS6)。
【0084】
前記インク残量が、下限値を検知したと判定すると(ステップS1;YES)、制御部40は、メインタンク51と第1サブタンク241間のバルブ55を開く(ステップS2)。
次に、制御部40は、供給ポンプ53によりメインタンク51から第1サブタンク241へインクの送液を行う(ステップS3)。そして、第1サブタンク241内のフロートセンサー241aが、第1サブタンク241内のインク残量が上限値を検知し、インクが満たされたか否かを判定する(ステップS4)。
【0085】
第1サブタンク241内のインク残量が、上限値を検知していないと判定するとステップS4;NO)、供給ポンプ53によるインクの送液を続ける(ステップS3)。
第1サブタンク241内のインク残量が、上限値を検知したと判定すると(ステップS4;YES)、制御部40は、メインタンク51と第1サブタンク241間のバルブ55を閉じ(ステップS5)、メインタンク51から第1サブタンク241へのインクの送液を停止する(ステップS6)。
【0086】
このようにして、制御部40は常時、第1サブタンク241のフロートセンサー241aの検知結果に基づいて、バルブ55及び供給ポンプ53の動作を制御し、インクを間欠的に送液することで、第1サブタンク241へ新たに供給するインク量が、第1サブタンク241内に貯留するインク量よりも多くなるようにしている。
【0087】
<インク>
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクは、熱硬化性成分を含有するラジカル重合型インクジェットインクである。すなわち、熱硬化性官能基を有する化合物を含有する。
また、本発明に係るインクは、ゲル化剤を含有し、温度によりゾル・ゲル相転移することが好ましい。さらに、本発明に係るインクは、光重合性官能基を有する化合物と光重合開始剤を含有することが好ましい。
なお、本発明に係るインクとしては、上記のようなゲル状インクに限られるものではなく、水性インクやその他の物性を有するインクであっても良い。
【0088】
(1)熱硬化性官能基を有する化合物
本発明に係る熱硬化性官能基としては、例えば、「熱硬化性高分子の精密化(遠藤剛、C.M.C(株)、1986年刊)、「最新バインダー技術便覧」第II-I章(原崎勇次、総合技術センター、1985年刊)、「アクリル樹脂の合成・設計と新用途開発」(大津隆行、中部経営開発センター出版部、1985年刊)、「機能性アクリル系樹脂」(大森英三、テクノシステム、1985年刊)等の総説に引例の官能基を挙げることができる。具体的には、前記熱硬化性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、マレイミド基、メルカプト基及びアルコキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、熱硬化性の点で好ましい。
【0089】
(ヒドロキシ基)
ヒドロキシ基を有する化合物としては、例えば、各種のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等)、上記各種のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとε-カプロラクトンとの付加反応生成物、各種のヒドロキシ基含有ビニルエーテル(例えば2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等)、上記各種のヒドロキシ基含有ビニルエーテルとε-カプロラクトンとの付加反応生成物、各種のヒドロキシ基含有アリルエーテル(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテル、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテル等)、上記各種のヒドロキシ基含有アリルエーテルとε-カプロラクトンとの付加反応生成物などが挙げられる。
【0090】
(カルボキシ基)
カルボキシ基を有する化合物としては、例えば、各種のカルボキシ基含有単量体(例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)、各種のα,β-不飽和ジカルボン酸と炭素数1以上18以下の1価アルコールとのモノエステル類(例えばフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノイソブチル、フマル酸モノtert-ブチル、フマル酸モノヘキシル、フマル酸モノオクチル、フマル酸モノ2-エチルヘキシル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノtert-ブチル、マレイン酸モノヘキシル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノ2-エチルヘキシル等)、イタコン酸モノアルキルエステル(例えばイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノヘキシル、イタコン酸モノオクチル、イタコン酸モノ2-エチルヘキシル等)などが挙げられる。
さらに、カルボキシ基含有アクリルレート化合物などを挙げることができるが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びこれらの無水物等の不飽和カルボン酸と、アクリル単量体との共重合により得ることができ、前記不飽和カルボン酸の中でも、アクリル酸とメタクリル酸が好ましく用いられる。また、カルボン酸基含有アクリル共重合体を構成するアクリル単量体としては、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレートメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ) アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ) アクリレート、2 - ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アセトニトリル、ビニルピロリドン、N-シクロヘキシルマレイミド、イタコンイミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。さらにこの他に酢酸ビニル、スチレン等を用いることもできる。これらモノマーは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
(イソシアネート基)
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、具体的には、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4′-MDI)、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4′-MDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)などの芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル(NBDI)などの脂肪族ポリイソシアネート;トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H6XDI(水添XDI)、H12MDI(水添MDI)、H6TDI(水添TDI)などの脂環式ポリイソシアネート;ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートなどのポリイソシアネート;これらのビュレット体、イソシアヌレート体及びカルボジイミド変性物;などを挙げることができる。
【0092】
イソシアネート基を有するアクリレート又はメタクリレート化合物としては、分子内にイソシアネート基とアクリロイル基又はメタクリロイル基とを有するものであればよく、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-イソシアナートエチルアクリレート、3-イソシアナートプロピルアクリレート、2-イソシアナートエチルメタクリレート、3-イソシアナートプロピルメタクリレート、その他ヒドロキシエチルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレート又はメタクリレートとトリレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートとの反応生成物なども用いられる。
【0093】
前記イソシアネート基を有する化合物のうち、イソシアネート基が熱解離性のブロック剤で保護されたイソシアネート基(ブロックイソシアネート基)を有する多官能イソシアネート化合物であることが、耐高温高湿性が向上する点で好ましい。
ブロック剤で保護されたイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物の場合、イソシアネートの三量化反応から生成するイソシアヌレート環は、ウレタン、ウレア結合などに比べて結合の熱安定性が高く、耐熱性に優れるが、さらに多官能のイソシアネート化合物を用いた場合は、さらにイソシアヌレート環を持ったネットワーク構造が形成され、より耐熱性が向上し、高温時の湿度の影響を受けにくくなる。
【0094】
前記熱解離性のブロック剤は、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物及び活性エチレン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることが、インク保存性と熱解離性の点で好ましい。
【0095】
オキシム系化合物としては、ホルムアミドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、等が挙げられる。
【0096】
ピラゾール系化合物としては、ピラゾール、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、等が挙げられる。
【0097】
活性エチレン系化合物としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、等が挙げられる。
【0098】
前記ブロック剤で保護されたイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物としては、例えば、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、2-[(3-ブチリデン)アミノオキシカルボニルアミノ]エチルメタクリレート、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルアクリレート、2-[(3-ブチリデン)アミノオキシカルボニルアミノ]エチルアクリレートが挙げられる。
【0099】
(エポキシ基)
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、各種の鎖式エポキシ基含有単量体(例えばグリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等)、各種の(2-オキソ-1,3-オキソラン)基含有ビニル単量体(例えば(2-オキソ-1,3-オキソラン)メチル(メタ)アクリレート等)、各種の脂環式エポキシ基含有ビニル単量体(例えば3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等)、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノール又はこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類などが挙げられる。
【0100】
さらに、エポキシ基を有する化合物として、(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物、エポキシ化合物の部分(メタ)アクリル化合物等が挙げられる。
上記(メタ)アクリロイル基とエポキシ基を有する化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記エポキシ化合物の部分(メタ)アクリル化物としては、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを、常法に従って触媒の存在下で反応させることにより得られる。上記エポキシ化合物の部分(メタ)アクリル化物に用いることができるエポキシ化合物としては、ノボラック型エポキシ化合物及びビスフェノール型エポキシ化合物等が挙げられる。上記ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、トリスフェノールノボラック型エポキシ化合物、及びジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、2,2′-ジアリルビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノール型エポキシ化合物、及びポリオキシプロピレンビスフェノールA型エポキシ化合物等が挙げられる。エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との配合量を適宜変更することにより、所望のアクリル化率のエポキシ化合物を得ることが可能である。
【0101】
((メタ)アクリル基)
「(メタ)アクリル基」は、アクリル基又はメタアクリル基を意味する。(メタ)アクリル基を有する化合物としては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、及びt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどを含む単官能のアクリレート、並びに、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、及びトリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどを含む2官能のアクリレート、並びにトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートなどの3官能以上のアクリレートを含む多官能のアクリレートなどが含まれる。
【0102】
前記(メタ)アクリル基を有する化合物のうち、イミド基を有する(メタ)アクリレート化合物であることが、耐高温高湿性が向上する点で好ましい。
イミド基を有する(メタ)アクリレート化合物の場合、イミド基の極性が高いため、強い金属密着性が得られる。また、自身も強い凝集力を有しているため、高湿下でも金属密着性への影響が少ない。
【0103】
イミド基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、特開平10-36462号公報及び同11-21470号公報に記載されているイミドアクリレート又はイミドメタクリレートが挙げられる。
【0104】
(マレイミド基)
マレイミド基を有する化合物としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-p-カルボキシフェニルマレイミド、N-p-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-p-クロロフェニルマレイミド、N-p-トリルマレイミド、N-p-キシリルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミド、N-o-トリルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-2,5-ジエチルフェニルマレイミド、N-2,5-ジメチルフェニルマレイミド、N-m-トリルマレイミド、N-α-ナフチルマレイミド、N-o-キシリルマレイミド、N-m-キシリルマレイミド、ビスマレイミドメタン、1,2-ビスマレイミドエタン、1,6-ビスマレイミドヘキサン、ビスマレイミドドデカン、N,N′-m-フェニレンジマレイミド、N,N′-p-フェニレンジマレイミド、4,4′ビスマレイミドジフェニルエーテル、4,4′-ビスマレイミドジフェニルメタン、4,4′-ビスマレイミド-ジ(3-メチルフェニル)メタン、4,4′-ビスマレイミド-ジ(3-エチルフェニル)メタン、4,4′-ビスマレイミド-ジ(3-メチル-5-エチル-フェニル)メタン、N,N′-(2,2-ビス-(4-フェノキシフェニル)プロパン)ジマレイミド、N,N′-2,4-トリレンジマレイミド、N,N′-2,6-トリレンジマレイミド、N,N′-m-キシリレンジマレイミド、ビスフェノールA ジフェニルエーテルビスマレイミド等が挙げられる。
【0105】
(メルカプト基)
メルカプト基を有する化合物としては、エチルチオアクリレート、エチルチオメタクリレート、ビフェニルチオアクリレート、ビフェニルチオメタクリレート、ニトロフェニルチオアクリレート、ニトロフェニルチオメタクリレート、トリフェニルメチルチオアクリレート、トリフェニルメチルチオメタクリレート、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパンのトリスアクリレート、2-プロペン酸の2-(メルカプトメチル)-メチルエステル、及びメタクリル酸の2-[(2-メルカプトエチル)チオ]エチルエステル、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が挙げられる。
【0106】
(アルコキシ基)
アルコキシ基を有する化合物としては、メトキシメチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、ジメトキシメチルアクリレート及びジメトキシメチルメタクリレート、1-メトキシエチルアクリレート、1-メトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、1,1-メトキシエチルアクリレート及び1,1-メトキシエチルメタクリレート、1-エトキシエチルアクリレート、1-エトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルアクリレート及び2-エトキシエチルメタクリレート、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルメタクリルアミド、エトキシメチルアクリレート及びエトキシメチルメタクリレート、アクリル変性アルキル化メラミン等が挙げられる。
【0107】
(その他の官能基)
熱硬化性官能基として、前記した官能基の他に、オキセタニル基やオキサゾリン基を有する化合物が挙げられる。
オキセタニル基を有する化合物としては、オキセタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。このような化合物の市販品としては、大阪有機化学社製の商品名:OXE-10やOXE-30などが挙げられる。
オキサゾリン基を有する化合物としては、例えば、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、及びこれらのオキサゾリン基含有モノマーのオキサゾリン基上に置換基を有するモノマーなどが挙げられる。
【0108】
(2)ゲル化剤
本発明に係るインクに含有されるゲル化剤は、光及び熱により硬化した硬化膜中に均一に分散した状態で保持されることが好ましく、これにより硬化膜中への水分の浸透を防ぐことができる。
このようなゲル化剤は、下記一般式(G1)又は(G2)で表される化合物うちの少なくとも一種の化合物であることが、インクの硬化性を阻害せずに硬化膜中に分散される点で好ましい。さらに、インクジェット印字において、ピニング性が良好で、細線と膜厚が両立した描画ができ、細線再現性に優れる点で好ましい。
一般式(G1):R1-CO-R2
一般式(G2):R3-COO-R4
[式中、R1~R4は、それぞれ独立に、炭素数12以上の直鎖部分を持ち、
かつ分岐を持ってもよいアルキル鎖を表す。]
【0109】
前記一般式(G1)で表されるケトンワックス又は上記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基(アルキル鎖)の炭素数が12以上であるため、ゲル化剤の結晶性がより高まり、耐水性が向上する、かつ、下記カードハウス構造においてより十分な空間が生ずる。そのため、溶媒、光重合性化合物等のインク媒体が上記空間内に十分に内包されやすくなり、インクのピニング性がより高くなる。
また、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基(アルキル鎖)の炭素数は26以下であることが好ましく、26以下であると、ゲル化剤の融点が過度に高まらないため、インクを出射するときにインクを過度に加熱する必要がない。
上記観点からは、R1及びR2、又は、R3及びR4は炭素原子数12以上23以下の直鎖状の炭化水素基であることが特に好ましい。
また、インクのゲル化温度を高くして、着弾後により急速にインクをゲル化させる観点からは、R1若しくはR2のいずれか、又はR3若しくはR4のいずれかが飽和している炭素原子数12以上23以下の炭化水素基であることが好ましい。
上記観点からは、R1及びR2の双方、又は、R3及びR4の双方が飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることがより好ましい。
【0110】
前記一般式(G1)で表されるケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン(C24-C24)、ジベヘニルケトン(C22-C22)、ジステアリルケトン(C18-C18)、ジエイコシルケトン(C20-C20)、ジパルミチルケトン(C16-C16)、ジミリスチルケトン(C14-C14)、ジラウリルケトン(C12-C12)、ラウリルミリスチルケトン(C12-C14)、ラウリルパルミチルケトン(C12-C16)、ミリスチルパルミチルケトン(C14-C16)、ミリスチルステアリルケトン(C14-C18)、ミリスチルベヘニルケトン(C14-C22)、パルミチルステアリルケトン(C16-C18)、バルミチルベヘニルケトン(C16-C22)、ステアリルベヘニルケトン(C18-C22)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される二つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0111】
一般式(G1)で表されるケトンワックスの市販品の例には、Stearonne(Alfa Aeser社製;ステアロン)、18-Pentatriacontanon(Alfa Aeser社製)、Hentriacontan-16-on(Alfa Aeser社製)及びカオーワックスT-1(花王社製)が含まれる。
【0112】
一般式(G2)で表される脂肪酸又はエステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル(C21-C22)、イコサン酸イコシル(C19-C20)、ステアリン酸ステアリル(C17-C18)、ステアリン酸パルミチル(C17-C16)、ステアリン酸ラウリル(C17-C12)、パルミチン酸セチル(C15-C16)、パルミチン酸ステアリル(C15-C18)、ミリスチン酸ミリスチル(C13-C14)、ミリスチン酸セチル(C13-C16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(C13-C20)、オレイ
ン酸ステアリル(C17-C18)、エルカ酸ステアリル(C21-C18)、リノール酸ステアリル(C17-C18)、オレイン酸ベヘニル(C18-C22)リノール酸アラキジル(C17-C20)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される二つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0113】
一般式(G2)で表されるエステルワックスの市販品の例には、ユニスターM-2222SL及びスパームアセチ、日油社製(「ユニスター」は同社の登録商標)、エキセパールSS及びエキセパールMY-M、花王社製(「エキセパール」は同社の登録商標)、EMALEX CC-18及びEMALEX CC-10、日本エマルジョン社製(「EMALEX」は同社の登録商標)並びにアムレプスPC、高級アルコール工業社製(「アムレプス」は同社の登録商標)が含まれる。
これらの市販品は、2種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製してインクに含有させてもよい。これらのゲル化剤のうち、よりピニング性を高める観点からは、ケトンワックス、エステルワックス、高級脂肪酸、高級アルコール及び脂肪酸アミドが好ましい。
【0114】
本発明に係るゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.5~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることで、ゲル化剤の溶媒成分に対する溶解性及びピニング性効果が良好となり、さらに硬化膜としたときの耐水性が良好になる。また、上記観点からは、インクジェットインク中のゲル化剤の含有量は、0.5~2.5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0115】
また、以下の観点から、ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化することが好ましい。ゲル化温度とは、加熱によりゾル化又は液体化したインクを冷却していったときに、ゲル化剤がゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度をいう。具体的には、ゾル化又は液体化したインクを、粘弾性測定装置(例えば、MCR300、Physica社製)で粘度を測定しながら冷却していき、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0116】
(3)光重合性官能基を有する化合物
本発明に係るインクに含有される光重合性官能基を有する化合物(光重合性化合物ともいう。)は、光重合性化合物は、活性光線の照射によって重合または架橋反応を生じて重合又は架橋し、インクを硬化させる作用を有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物が含まれる。
光重合性化合物は、モノマー、重合性オリゴマー、プレポリマー又はこれらの混合物のいずれであってもよい。光重合性化合物は、インクジェットインク中に1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。そのような化合物としては、前記の(メタ)アクリル基を有する化合物が挙げられる。
カチオン重合性化合物は、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、及びオキセタン化合物などでありうる。カチオン重合性化合物は、インクジェットインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0117】
(4)光重合開始剤
本発明に係るインクに用いられる光重合開始剤は、前記光重合性化合物がラジカル重合性化合物であるときは、光ラジカル開始剤を用い、前記光重合性化合物がカチオン重合性化合物であるときは、光酸発生剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。光重合開始剤は、光ラジカル開始剤と光酸発生剤の両方の組み合わせであってもよい。光ラジカル開始剤には、開裂型ラジカル開始剤及び水素引き抜き型ラジカル開始剤が含まれる。
【0118】
開裂型ラジカル開始剤の例には、アセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン系の開始剤、アシルホスフィンオキシド系の開始剤、ベンジル及びメチルフェニルグリオキシエステルが含まれる。
アセトフェノン系の開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モル
ホリノフェニル)-ブタノンが含まれる。
ベンゾイン系の開始剤の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテルが含まれる。
アシルホスフィンオキシド系の開始剤の例には、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドが含まれる。
【0119】
水素引き抜き型ラジカル開始剤の例には、ベンゾフェノン系の開始剤、チオキサントン系の開始剤、アミノベンゾフェノン系の開始剤、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン及びカンファーキノンが含まれる。
ベンゾフェノン系の開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルスルフィド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン及び3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが含まれる。
チオキサントン系の開始剤の例には、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン及び2,4-ジクロロチオキサントンが含まれる。
アミノベンゾフェノン系の開始剤の例には、ミヒラーケトン及び4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノンが含まれる。
【0120】
光酸発生剤の例には、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187~192ページに記載の化合物が含まれる。
光重合開始剤の含有量は、インクが十分に硬化できる範囲であればよく、例えば、本発明のインクの全質量に対して0.01~10質量%の範囲内とすることができる。
光重合開始剤の市販品の例には、Irgacure TPO(BASF社製)、819(BASF社製)、Irgacure 379(BASF社製)、Genocure ITX(Rahn A.G.社製)Genocure EPD(Rahn A.G.社製)等が含まれる。
【0121】
本発明に係るインクは、必要に応じて光重合開始剤助剤や重合禁止剤などをさらに含んでもよい。
光重合開始剤助剤は、第3級アミン化合物であってよく、芳香族第3級アミン化合物が好ましい。
芳香族第3級アミン化合物の例には、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミン及びN,N-ジメチルヘキシルアミン等が含まれる。中でも、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、及びN,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステルが好ましい。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0122】
(5)着色剤
本発明に係るインクは、必要に応じて着色剤をさらに含有してもよい。
着色剤は、染料又は顔料でありうるが、インクの構成成分に対して良好な分散性を有し、かつ耐候性に優れることから、顔料が好ましい。顔料は、特に限定されないが、例えば、カラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料が挙げられる。
【0123】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、及び36から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
【0124】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、及び60から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
【0125】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50から選ばれる顔料又はその混合物が含まれる。
黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、及び193から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、及び26から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
【0126】
顔料の市販品の例には、Black Pigment(Mikuni社製)、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレットRE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストイエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業社製); KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(DIC社製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素社製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ社製)、Toner MagentaE02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリー社製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、HostapermBlue B2G(クラリアント製);カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、及びCF9(三菱化学製)等が挙げられる。
【0127】
顔料の分散は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、及びペイントシェーカー等により行うことができる。
顔料の分散は、顔料粒子の体積平均粒径が、好ましくは0.08~0.5μmの範囲内、最大粒径が好ましくは0.3~10μmの範囲内、より好ましくは0.3~3μmの範囲内となるように行われることが好ましい。
顔料の分散は、顔料、分散剤、及び分散媒体の選定、分散条件、及び濾過条件等によって、調整される。
【0128】
本発明に係るインクは、顔料の分散性を高めるために、分散剤をさらに含んでもよい。
分散剤の例には、ヒドロキシ基を有するカルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びステアリルアミンアセテート等が含まれる。分散剤の市販品の例には、Avecia社のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のPBシリーズ等が含まれる。
【0129】
本発明に係るインクは、必要に応じて分散助剤をさらに含んでもよい。分散助剤は、顔料に応じて選択されればよい。
分散剤及び分散助剤の合計量は、顔料に対して1~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0130】
本発明に係るインクは、必要に応じて顔料を分散させるための分散媒体をさらに含んでもよい。分散媒体として溶剤をインクに含ませてもよいが、形成された画像における溶剤の残留を抑制するためには、前述のような光重合性化合物(特に粘度の低いモノマー)を分散媒体として用いることが好ましい。
【0131】
染料は、油溶性染料等が挙げられる。
油溶性染料は、以下の各種染料が挙げられる。マゼンタ染料の例には、MS Magenta VP、MS Magenta HM-1450、MSMagenta HSo-147(以上、三井化学社製)、AIZENSOT Red-1、AIZEN SOTRed-2、AIZEN SOTRed-3、AIZEN SOT Pink-1、SPIRON Red GEH SPECIAL(以上、保土谷化学社製)、RESOLIN Red FB 200%、MACROLEXRed Violet R、MACROLEX ROT5B(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Red B、KAYASET Red 130、KAYASET Red 802(以上、日本化薬社製)、PHLOXIN、ROSE BENGAL、ACID Red(以上、ダイワ化成社製)、HSR-31、DIARESIN Red K(以上、三菱化成社製)、及びOil Red(BASFジャパン社製)が含まれる。
【0132】
シアン染料の例には、MS Cyan HM-1238、MS CyanHSo-16、Cyan HSo-144、MS Cyan VPG(以上、三井化学社製)、AIZEN SOT Blue-4(保土谷化学社製)、RESOLIN BR.Blue BGLN 200%、MACROLEX Blue RR、CERES Blue GN、SIRIUS SUPRATURQ.Blue Z-BGL、SIRIUS SUPRA TURQ.Blue FB-LL 330%(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Blue FR、KAYASET Blue N、KAYASET Blue 814、Turq.Blue GL-5 200、Light Blue BGL-5200(以上、日本化薬社製)、DAIWA Blue 7000、OleosolFast Blue GL(以上、ダイワ化成社製)、DIARESIN Blue P(三菱化成社製)、SUDAN Blue 670、NEOPEN Blue 808、及びZAPON Blue 806(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0133】
イエロー染料の例には、MS Yellow HSm-41、Yellow KX-7、Yellow EX-27(三井化学社製)、AIZENSOT Yellow-1、AIZEN SOT YelloW-3、AIZEN SOT Yellow-6(以上、保土谷化学社製)、MACROLEX Yellow 6G、MACROLEX FLUOR.Yellow 10GN(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Yellow SF-G、KAYASET Yellow2G、KAYASET Yellow A-G、KAYASET Yellow E-G(以上、日本化薬社製)、DAIWA Yellow 330HB(ダイワ化成社製)、HSY-68(三菱化成社製)、SUDAN Yellow 146、及びNEOPEN Yellow 075(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0134】
ブラック染料の例には、MS Black VPC(三井化学社製)、AIZEN SOT Black-1、AIZEN SOT Black-5(以上、保土谷化学社製)、RESORIN Black GSN 200%、RESOLIN BlackBS(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Black A-N(日本化薬社製)、DAIWA Black MSC(ダイワ化成社製)、HSB-202(三菱化成社製)、NEPTUNE Black X60、及びNEOPEN Black X58(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0135】
着色剤は本発明に係るインク中に、1種又は2種類以上を含み、所望の色に調色してもよい。着色剤の含有量は、インク全量に対して0.1~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.4~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0136】
(5)その他の成分
本発明に係るインクは、本発明の効果が得られる範囲において、重合禁止剤及び界面活性剤を含むその他の成分をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0137】
(重合禁止剤)
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム及びシクロヘキサノンオキシムが含まれる。
重合禁止剤の市販品の例には、Irgastab UV10(BASF社製)、Genorad 18(Rahn A.G.社製)等が含まれる。
【0138】
重合禁止剤の量は、本発明の効果が得られる範囲において、任意に設定することができる。
重合禁止剤の量は、インクの全質量に対して、例えば0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0139】
(界面活性剤)
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類及び脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、及び第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、並びにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0140】
シリコーン系の界面活性剤の例には、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物、具体的には、Tego rad 2250、Evonik社製、KF-351A、KF-352A、KF-642及びX-22-4272、信越化学工業社製、BYK307、BYK345、BYK347及びBYK348、ビッグケミー社製(「BYK」は同社の登録商標)、及びTSF4452、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製が含まれる。
【0141】
フッ素系の界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部又は全部をフッ素で置換したものを意味する。
フッ素系の界面活性剤の例には、Megafac F、DIC社製(「Megafac」は同社の登録商標)、Surflon、AGCセイケミカル社製(「Surflon」は同社の登録商標)、Fluorad FC、3M社製(「Fluorad」は同社の登録商標)、Monflor、インペリアル・ケミカル・インダストリー社製、Zonyls、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社製、Licowet VPF、ルベベルケ・ヘキスト社製、及びFTERGENT、ネオス社製(「FTERGENT」は同社の登録商標)が含まれる。
【0142】
界面活性剤の量は、本発明の効果が得られる範囲において、任意に設定することができる。界面活性剤の量は、インクの全質量に対して、例えば0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0143】
(硬化促進剤)
本発明に係るインクは、必要に応じて硬化促進剤を含んでもよい。硬化促進剤としては、樹脂成分の熱硬化を促進するものであれば特に制限はなく用いることができる。
硬化促進剤として、例えば、イミダゾール類、ジシアンジアミド誘導体、ジカルボン酸ジヒドラジド、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾール-テトラフェニルボレート、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7-テトラフェニルボレートなどが挙げられる。
【0144】
(カップリング剤)
本発明に係るインクは、必要に応じて各種カップリング剤を含んでもよい。カップリング剤が含まれることによって、銅箔との密着性を向上させることができる。
各種カップリング剤としては、例えば、シラン系、チタン系、及びアルミニウム系カップリング剤が挙げられる。
【0145】
(イオン捕捉剤)
本発明に係るインクは、必要に応じてイオン捕捉剤を含んでもよい。イオン捕捉剤が含まれることによって、イオン性不純物が吸着され、硬化膜が吸湿した条件における絶縁性が向上するなどの利点がある。
イオン捕捉剤としては、例えば、トリアジンチオール化合物、ビスフェノール系還元剤、ジルコニウム化合物、及びアンチモンビスマス系マグネシウムアルミニウム化合物などの無機イオン吸着剤などが挙げられる。
【0146】
(溶剤)
本発明に係るインクにおいて、硬化性の観点から本来は無溶剤が好ましいが、インク粘度の調整のために添加することもできる。
【0147】
<インクの物性>
本発明に係るインクとしては、30~100℃の範囲で加温してインクの粘度が3~20mPa・s、さらに好ましくは5~15mPa・sとなるインクであればインクジェット用インク用として適宜使用できる。本発明に係るインクとしては、ゲル化剤を配合したインクであって、25度におけるインク粘度が1~1×104Pa・sの範囲内となるインクを用いることがより好ましい。このようなインクを用いることで着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させ、ピニング性が良好になる点で好ましい。
【0148】
本発明に係るインクは、40℃以上100℃未満の範囲内に相転移点を有することが好ましい。相転移点が40℃以上であると、記録媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。また、相転移点が100℃未満であると、インク取り扱い性が良好になり射出安定性が高くなる。
より低温でインクを吐出可能にし、画像形成装置への負荷を低減させる観点からは、本発明のインクの相転移点は、40~60℃の範囲内であることがより好ましい。
【0149】
本発明に係るインクの粘度及び相転移点は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。
本発明において、これらの粘度及び相転移点は、以下の方法によって得られた値である。測定温度はインクによって適宜調整して測定するのが好ましい。
本発明に係るインクを100℃に加熱し、ストレス制御型レオメータPhysica MCR301(コーンプレートの直径:75mm、コーン角:1.0°)、Anton Paar社製によって粘度を測定しながら、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で20℃までインクを冷却して、粘度の温度変化曲線を得る。
例えば、吐出温度として80℃における粘度及び基材への着弾した際の温度として25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において80℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。相転移点は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0150】
インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点からは、本発明に係る顔料粒子の平均分散粒径は、50~150nmの範囲内であり、最大粒径は300~1000nmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましい平均分散粒径は80~130nmの範囲内である。
本発明における顔料粒子の平均分散粒径とは、データサイザーナノZSP、Malvern社製を使用して動的光散乱法によって求めた値を意味する。なお、着色剤を含むインクは濃度が高く、この測定機器では光が透過しないので、インクを200倍で希釈してから測定する。測定温度は常温(25℃)とする。
【0151】
<ソルダーレジスト膜の形成方法>
本発明に係るインクは、プリント回路基板に用いられるソルダーレジストパターン形成用のインクであることが好ましい。本発明に係るインクを用いてソルダーレジストパターン(ソルダーレジスト膜)を形成したときに、ソルダーレジスト膜への水分の浸透を防ぐことができ、その結果、プリント回路基板における銅箔とソルダーレジスト膜界面の密着性が良好となり、また、銅のマイグレーションが防止され絶縁性の低下を抑制することができる。
【0152】
本発明に係るインクを用いたソルダーレジスト膜の形成方法は、(1)本発明に係るインクをインクジェットヘッドのノズルから吐出して、回路形成されたプリント回路基板上に着弾させる工程と、(3)インクを加熱して本硬化する工程とを含むことが好ましい。
本発明に係るインクに光重合性官能基を有する化合物と光重合開始剤を含有する場合は、上記(1)と(3)の工程の間に、着弾したインクに活性光線を照射してインクを仮硬化させる工程((2)の工程)を含むことが好ましい。
【0153】
(1)の工程
(1)の工程では、本発明のインクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体であるプリント回路基板上の、形成すべきレジスト膜に応じた位置に着弾させて、パターニングする。
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。
オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、並びにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(登録商標)(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0154】
インクの液滴を、加熱した状態でインクジェットヘッドから吐出することで、吐出安定性を高めることができる。吐出される際のインクの温度は、40~100℃の範囲内であることが好ましく、吐出安定性をより高めるためには、40~90℃の範囲内であることがより好ましい。特には、インクの粘度が7~15mPa・sの範囲内、より好ましくは8~13mPa・sの範囲内となるようなインク温度において射出を行うことが好ましい。
【0155】
ゾル・ゲル相転移型のインクは、インクジェットヘッドからのインクの吐出性を高めるために、インクジェットヘッドに充填されたときのインクの温度が、当該インクの(ゲル化温度+10)℃~(ゲル化温度+30)℃に設定されることが好ましい。インクジェットヘッド内のインクの温度が、(ゲル化温度+10)℃未満であると、インクジェットヘッド内若しくはノズル表面でインクがゲル化して、インクの吐出性が低下しやすい。一方、インクジェットヘッド内のインクの温度が(ゲル化温度+30)℃を超えると、インクが高温になりすぎるため、インク成分が劣化することがある。
【0156】
インクの加熱方法は、特に制限されない。例えば、ヘッドキャリッジを構成するインクタンク、供給パイプ及びヘッド直前の前室インクタンク等のインク供給系、フィルター付き配管並びにピエゾヘッド等の少なくともいずれかをパネルヒーター、リボンヒーター又は保温水等によって加熱することができる。
吐出される際のインクの液滴量は、記録速度及び画質の面から、2~20pLの範囲内であることが好ましい。
【0157】
プリント回路基板は、特に限定されないが、例えば、紙フェノール、紙エポキシ、ガラス布エポキシ、ガラスポリイミド、ガラス布/不繊布エポキシ、ガラス布/紙エポキシ、合成繊維エポキシ、フッ素・ポリエチレン・PPO・シアネートエステル等を用いた高周波回路用銅張積層版等の材質を用いたもので全てのグレード(FR-4等)の銅張積層版、その他ポリイミドフィルム、PETフィルム、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板、及びステンレス鋼板等であることが好ましい。
【0158】
(2)の工程
(2)の工程では、(1)の工程で着弾させたインクに活性光線を照射して、該インクを仮硬化する。
活性光線は、例えば電子線、紫外線、α線、γ線、及びエックス線等から選択することができるが、好ましくは紫外線である。
紫外線の照射は、例えばPhoseon Technology社製の水冷LEDを用いて、波長395nmの条件下で行うことができる。LEDを光源とすることで、光源の輻射熱によってインクが溶けることによるインクの硬化不良を抑制することができる。
【0159】
紫外線の照射は、370~410nmの範囲内の波長を有する紫外線のレジスト膜表面におけるピーク照度が、好ましくは0.5~10W/cm2の範囲内、より好ましくは1~5W/cm2の範囲内となるように行う。輻射熱がインクに照射されることを抑制する観点からは、レジスト膜に照射される光量は500mJ/cm2未満であることが好ましい。
活性光線の照射は、インク着弾後0.001~300秒の間に行うことが好ましく、高精細なレジスト膜を形成するためには、0.001~60秒の間に行うことがより好ましい。
【0160】
(3)の工程
(3)の工程では、(2)の仮硬化後、さらにインクを加熱して本硬化する。
加熱方法は、例えば、110~180℃の範囲内に設定したオーブンに10~60分投入することが好ましい。
【0161】
なお、本発明に係るインクは、前記したソルダーレジストパターン形成用のインクとして用いる他、電子部品用の接着剤や封止剤、回路保護剤などとして用いることもできる。
【実施例】
【0162】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0163】
<イエロー顔料分散体の調製>
下記分散剤1及び分散剤2と、分散媒をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱撹拌溶解し、室温まで冷却した後、これに下記顔料を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gとともにガラス瓶に入れ密栓した。これをペイントシェーカーにて、所望の粒径になるまで分散処理した後、ジルコニアビーズを除去した。
分散剤1:EFKA7701(BASF社製) 5.6質量部
分散剤2:Solsperse22000(日本ルーブリゾール社製)
0.4質量部
分散媒:ジプロピレングリコールジアクリレート(0.2%UV-10含
有) 80.6質量部
顔料:PY185(BASF社製、パリオトールイエローD1155)
13.4質量部
【0164】
<シアン顔料分散体の調製>
前記イエロー顔料分散体の調製において、分散剤、分散媒及び顔料を下記に示すとおりに変更した以外は同様にして調製した。
分散剤:EFKA7701(BASF社製) 7質量部
分散媒:ジプロピレングリコールジアクリレート(0.2%UV-10含有)
70質量部
顔料:PB15:4(大日精化製、クロモファインブルー6332JC)
23質量部
【0165】
<ゲル化剤>
ゲル化剤として、下記に示すものを用いた。
・ジステアリルケトン
・ベヘニン酸ベヘニル
【0166】
<熱硬化性官能基を有する化合物>
下記表Iに示すものを用いた。
【0167】
【0168】
<光重合性官能基を有する化合物>
光重合性官能基を有する化合物として、下記に示すものを用いた。
・DPGTA(商品名:M222(Miwon社製))
・TMP(EO)9TA(商品名:EM2382(長興化学社製))
【0169】
<光重合開始剤>
光重合開始剤として、下記に示すものを用いた。
・TPO(BASF社製)
【0170】
<光増感助剤>
光増感助剤として、下記に示すものを用いた。
・ITX(Lambson社製)
【0171】
<インクジェットインク1及び2の調製>
下記表IIに記載のインク組成にしたがって調製し、ADVATEC社製テフロン(登録商標)3μmメンブレンフィルターで濾過を行った。なお、インク1は、非ブロックイソシアネート、インク2はピラゾール系のブロックイソシアネートを含有する。
【0172】
【0173】
<インクジェットによるパターン形成>
調製した各インクジェットインクを、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置に装填した。この装置を用いて、プリント配線板用銅張積層板上(FR-4 厚さ1.6mm、大きさ150mm×95mm)にパターン形成を行った。
インク供給系は、
図3に示すように、メインタンク、第1サブタンク、脱気装置、第2サブタンク、インク流路、金属フィルター付き配管、及びピエゾヘッド等からなるものを使用した。
また、メインタンクから第1サブタンクまでのインク供給は、前記した
図8に記載のフローチャートで示したとおり、バルブ(電磁弁)55、供給ポンプ53及びフロートセンサー241aを用いた。
第2サブタンクの容量は、100mLのものを用い、第2サブタンクの形状としては、
図4に示すように、第2サブタンク245の側壁部及び底部の外面にラバーヒーター272を設ける構成とした。
【0174】
さらに、第1サブタンクの容量は、200mLのものを用い、第1サブタンクの形状としては、以下のものを用い、下記表IIIに示すとおりとした。
サブタンクA:第1サブタンク内に仕切り板を設けず、第1サブタンクの側壁部及び底部の外面にラバーヒーターを設けた構成とし、ラバーヒーターにより加熱されたタンク内壁のインクと接する表面積が、第2サブタンクにおける、ラバーヒーターにより加熱されたタンク内壁のインクと接する表面積と同程度となる形状。
サブタンクB:
図5A及び
図5Bに示す第1サブタンクと同様の構成。すなわち、第1サブタンクの側壁部及び底部の外面にラバーヒーターを設け、かつ、第1サブタンク内に仕切り板を設け、ラバーヒーターにより加熱されたタンク内壁(側壁部2411、底部2412及び仕切り板2415)のインクと接する表面積が、第2サブタンクにおける、ラバーヒーターにより加熱されたタンク内壁のインクと接する表面積よりも大きくなる形状。
【0175】
そして、メインタンクから第1サブタンクに新たに供給するインク量(供給量)と、第1サブタンク内に残留するインク量(残留量)との比が下記表IIIとなるように設定した。さらに、第1サブタンクからヘッド部分までインクを85℃に加温し、ピエゾヘッドにもヒーターを内蔵させ、記録ヘッド内のインク温度を80℃に加熱した。ピエゾヘッドは、ノズル解像度360dpiであるコニカミノルタ製KM1024iSHE-Cを用い、ヘッドを千鳥に配置してノズル解像度360dpi、印字幅140mmとなるように設置した。
このようなインクジェット記録装置を用いて、液滴量が6.0plのドットになるように電圧を印加し、基板上に、20mm×50mmのベタパターンとライン&スペースが100μmの櫛型パターンを、それぞれ厚さが20μmになるように、印字解像度1440dpi×1440dpiを4パスで印字したのち、Phoseon Technology社製LEDランプ(395nm、8W/cm2、water cooled unit)を500mJ/cm2になるよう照射してインク層を仮硬化した。その後、150℃に設定したオーブンに60分投入し本硬化し、印字サンプルを得た。
【0176】
[評価]
<基板密着性>
前記ベタパターンの印字サンプルについて、硬化膜にJIS K5600のクロスカット法に準じて碁盤目状に切り込みを入れ、粘着テープを貼付し、引き剥がすことで、硬化膜の剥離状態を観察し、下記方法で付着残留率を求め、下記基準にしたがって評価した。ここで、付着残留率は、切り込みを入れて作成したマス目の数を分母とし、テープ剥離に残留しているマス目の数を分子として算出される。◎、○及び△を合格とした。
(基準)
◎:付着残留率100%
○:付着残留率80%以上100%未満
△:付着残留率60%以上80%未満
×:付着残留率60%未満
【0177】
<ハンダ耐熱性>
前記ベタパターンの印字サンプルについて、260℃ハンダ浴に10秒3回浸漬した後、前記した基板密着性の評価を行い、硬化膜の剥離状態を観察した。◎、○及び△を合格とした。
【0178】
<射出安定性>
前記したインクジェット記録装置を用いて1日あたり8時間稼働で100枚のプリント配線基板への印刷を行い、連続5日間稼働させた。なお、各稼働日の立ち上げと立ち下げ時にはヘッドメンテナンスを行い、ヘッドあたり10ccのインクを排出させた。稼働日5日目の8時間稼働後にノズルチェックパターンを印刷し、全ノズル数における不吐出ノズルの発生頻度について下記の基準で評価した。射出安定性については〇及び◎を合格とした。
(基準)
◎:不吐出ノズルは全くない
〇:数ノズル程度の不吐出ノズルがみられたが、メンテナンスにより解消される。
△:数ノズル程度の不吐出ノズルがみられ、メンテナンスでも解消されない。
×:数十ノズル以上の不吐出ノズルがみられ、メンテナンスでも解消されない。
【0179】
【0180】
上記結果に示されるように、メインタンクから第1サブタンクに新たに供給するインク量が、第1サブタンク内に残留するインク量よりも多くなるように設定した実施例では、比較例に比べて、基板密着性、ハンダ耐熱性及び射出安定性の点で優れていることが認められる。
また、第1サブタンクにおいて、サブタンクBの形状を用いた場合の方が、サブタンクAの形状を用いた場合よりも良好な結果となったことについて、インクとラバーヒーターとの接液表面積を大きくしたことにより、第1サブタンク内部のインクが所定温度になるまでの加熱時間を短縮でき、それにより、射出安定性と基板密着性(塗膜強度)向上につながったものと推察される。
さらに、ブロックイソシアネートを含有するインク2を用いた場合、非ブロックイソシアネートを含有するインク1を用いた場合に比べて、ハンダ耐熱性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0182】
1 インクジェット記録装置
24a インクジェットヘッド
40 制御部
51 メインタンク
53 供給ポンプ
55 バルブ
241 第1サブタンク
241a フロートセンサー
2411 側壁部
2412 底部
2413 流入口
2414 流出口
242 脱気装置
245 第2サブタンク
270 加熱装置
272 ラバーヒーター