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特許7619416消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/16 20060101AFI20250115BHJP
   A62C 3/00 20060101ALI20250115BHJP
   A62D 1/06 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
A62C3/16 C
A62C3/00 E
A62D1/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023176188
(22)【出願日】2023-10-11
(65)【公開番号】P2024153532
(43)【公開日】2024-10-29
【審査請求日】2024-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2023067116
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】磯和 愛実
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/008537(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/277040(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112619021(CN,A)
【文献】中国実用新案第212416740(CN,U)
【文献】特開2022-145344(JP,A)
【文献】特開2009-301798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
A62D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する消火シートであって、
前記第一及び第二の消火剤層は消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記第二の消火剤層が潮解抑制成分を更に含む、消火シート。
【請求項2】
前記潮解抑制成分が、酸無水物基を有する化合物を含む、請求項1に記載の消火シート。
【請求項3】
前記酸無水物基を有する化合物が、カルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤である、請求項2に記載の消火シート。
【請求項4】
前記第一の消火剤層が第一の消火剤を含み、
前記第二の消火剤層が第二の消火剤を含み、
前記第一の消火剤に含まれる前記塩が前記第二の消火剤に含まれる前記塩と同じ化合物である、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項5】
前記第一の消火剤層が第一の消火剤を含み、
前記第二の消火剤層が第二の消火剤を含み、
前記第一及び第二の消火剤の少なくとも一方が酸化剤を更に含む、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項6】
前記第二の消火剤層に対して2.0μLの水滴を滴下したとき、滴下後0.2秒経過時の接触角が75°以上である、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項7】
性状安定性評価試験の結果に基づいて下記式(1)で算出される全光線透過率の変化量Δが50以下である、請求項1又は2に記載の消火シート。
全光線透過率の変化量Δ=保存後の全光線透過率の値-初期の全光線透過率の値・・・(1)
【請求項8】
ガスバリア性を有する包装袋に収容されている、請求項1又は2に記載の消火シート。
【請求項9】
発火の可能性がある消火対象物と、
前記消火対象物に対面するように配置された消火シートと、
を備える、自動消火機能を有する装置であって、
前記消火シートは、第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有し、
前記第一及び第二の消火剤層は火炎に反応して噴出する消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記第二の消火剤層は、潮解抑制成分を更に含む、自動消火機能を有する装置。
【請求項10】
前記消火対象物が配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池及びコンセントからなる群から選ばれる一種であり、前記消火対象物を収容する筐体の内面に前記消火シートが配置されている、請求項9に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項11】
前記第二の消火剤層は、前記第一の消火剤層よりも火炎に対する反応性が低く、且つ前記第一の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている、請求項9又は10に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項12】
前記消火シートが前記消火対象物の上方に配置されている、請求項11に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項13】
前記第一の消火剤層は、前記第二の消火剤層よりも火炎に対する反応性が高く、且つ前記第二の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている、請求項9又は10に記載の自動消火機能を有する装置。
【請求項14】
前記消火シートが前記消火対象物から水平方向に離れた位置に配置されている、請求項13に記載の自動消火機能を有する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている。一方、その快適性を生むための大量のエネルギーが必要となり、それを高密度に充填し蓄える、移動する、使用する等、各々のシーンで高い安全性が必要となる。自動車を例にとると、ガソリンに代表される化石燃料を採掘するシーン、化石燃料からガソリンに精製するシーン、運搬するシーン等で、発火や火災の危険が潜んでいる。またエレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に備える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0003】
火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業、すなわち初期消火が行われることが望ましい。そこで、燃焼によりエアロゾルを発生する消火剤と、バインダとを混合し、これをシート状に成形した自己消火性成形品を、発火する虞のある対象物付近に予め存在させておくという方法が考えられる。そうすることで、対象物から発火したことを人間が感知する以前に、当該自己消火性成形品により消火が完了することが期待される(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2021/149766号
【文献】国際公開第2018/047762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の自己消火性成形品は、消火剤として含有するカリウム塩が潮解性を有するため、保存環境によっては経時的に消火性能が低下し得る点において改善の余地があった。本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた消火性能を長期にわたって維持し得る消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、組成が互いに異なる二つの消火剤層を少なくとも含む積層構造を採用するとともに、消火剤の潮解を抑制する成分(以下「潮解抑制成分」と言う。)を一方の消火剤層に比較的多く配合することにより、優れた消火性能を長期にわたって維持できることを見出し、本開示に係る以下の発明を完成させるに至った。
【0007】
本開示の一側面は消火シートに関する。この消火シートは、第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する消火シートであって、第一及び第二の消火剤層は消火剤をそれぞれ含み、消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、第二の消火剤層が潮解抑制成分を更に含む。
【0008】
上記消火シートによれば、潮解抑制成分を含有する第二の消火剤層が第一の消火剤層の表面の少なくとも一部を覆っていることで、第一の消火剤層と空気との接触面積が減り、第一の消火剤層に含まれる消火剤の潮解を抑制できる。また、第二の消火剤層自体も消火性能を有するので、例えば、消火性能を有しないガスバリアフィルムを積層した場合と比較して優れた消火性能を発揮し得る。なお、第一の消火剤層は潮解抑制成分を含んでいても含んでいなくてもよい。第一の消火剤層が潮解抑制成分を含む場合、第一の消火剤層における当該成分の含有量は第二の消火剤層よりも十分に少なければよい。
【0009】
潮解抑制成分は、例えば、酸無水物基を有する化合物である。かかる化合物の具体例として、カルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0010】
消火シートの高い性状安定性を達成する観点から、第二の消火剤層は優れた疎水性を有していることが好ましく、第二の消火剤層に対して2.0μLの水滴を滴下したとき、滴下後0.2秒経過時の接触角が75°以上であることが好ましい。
【0011】
上記消火シートは、性状安定性評価試験の結果に基づいて下記式(1)で算出される全光線透過率の変化量Δが50以下であることが好ましい。
全光線透過率の変化量Δ=保存後の全光線透過率の値-初期の全光線透過率の値・・・(1)
ここでいう「性状安定性評価試験」はバリアフィルムに封止された消火シートの初期の全光線透過率をJIS K7361-1:1997に記載の透明材料の全光線透過率の試験方法に準拠して測定した後、温度85℃及び相対湿度85%の恒温恒湿槽内に168時間にわたって当該消火シートに保存した後の当該消火シートの全光線透過率を初期と同様にして測定する試験を意味する。ここでいう「バリアフィルム」は、温度40℃及び相対湿度90%の条件下で測定される水蒸気透過率が0.2~0.6g/m/dayのフィルムを意味する。
【0012】
第一及び第二の消火剤層の性能を長期にわたって維持する観点から、消火シートはガスバリア性を有する包装袋に収容されていることが好ましい。
【0013】
本開示の一側面は自動消火機能を有する装置に関する。この装置は、発火の可能性がある消火対象物と、消火対象物に対面するように配置された消火シートとを備える、自動消火機能を有する装置であって、第一及び第二の消火剤層は火炎に反応して噴出する消火剤をそれぞれ含み、消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、第二の消火剤層は、潮解抑制成分を更に含む。消火対象物が、例えば、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池及びコンセントからなる群から選ばれる少なくとも一種である場合、消火対象物を収容する筐体の内面に消火シートを配置すればよい。
【0014】
本発明者らの検討によれば、消火剤層における潮解抑制成分の含有量を増大させるにしたがって、消火剤層の火炎に対する反応性を低下させることができる。他方、消火剤層における潮解抑制成分の含有量が十分に少なければ、消火剤が本来有する消火性能が十分に発揮される。第二の消火剤層が潮解抑制成分を含有することで、第二の消火剤層の火炎に対する反応性を低くすることができ、第一の消火剤層の火炎に対する反応性を相対的に高くすることができる。かかる反応性の違いを利用し、消火対象物に対する消火シートの向きによって、消火シートから噴出する消火剤に指向性を生じさせたり、より早期の消火を実現したりことができる。
【0015】
すなわち、潮解抑制成分を含む第二の消火剤層を消火対象物の近くに配置することで、消火シートから噴出する消火剤に指向性を生じさせることができる。例えば、第一の消火剤層が上方に位置し且つ第二の消火剤層が下方に位置する向きに配置された消火シートの下面に対し、消火シートの下方から火炎によって消火シートを加熱して消火剤を反応させたとき、第一の消火剤層よりも第二の消火剤層における反応領域の面積が小さい(図4(a)~図4(c)参照)。第二の消火剤層の反応領域の面積が小さいことで、火炎及びこれに起因する消火剤の反応によって第二の消火剤層に形成された開口が噴射ノズルのような役割を果たし、噴出する消火剤に指向性を生じさせることができる。多くの量の消火剤が火炎に向けて噴射されることにより、十分に高い確率で初期消火を実現することができる。
【0016】
他方、火炎に対する反応性が高い第一の消火剤層を第二の消火剤層よりも消火対象物の近くに配置することで、消火シートから消火剤をより早期に噴出させることができる。例えば、消火シートが鉛直方向に延びる面に配置されており、消火対象物から水平方向に離れた位置に配置されている場合、消火対象物の上方に配置されている場合と比較し、消火対象物から火炎の熱が消火シートに伝わりにくい。かかる状況下でも火炎に対する反応性が高い第一の消火剤層によって初期消火を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、優れた消火性能を長期にわたって維持し得る消火シート及びこれを備えた自動消火機能を有する装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本開示に係る自動消火機能を有する装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図2は本開示に係る消火シートの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図3図3図2に示す消火シートの内部構造を模式的に示す断面図である。
図4図4(a)は反応後の第一及び第二の消火剤層を模式的に示す断面図であり、図4(b)は反応後の第一の消火剤層の表面を模式的に示す平面図であり、図4(c)は反応後の第二の消火剤層の表面を模式的に示す平面図である。
図5図5は本開示に係る消火シートの他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
<自動消火機能を有する装置>
自動消火機能を有する装置は、発火の可能性がある消火対象物と、消火対象物に対面するように配置された消火シートとを備える。自動消火機能を有する装置として、例えば、電気配線、ケーブル、変圧器及び電気回路などが搭載された電気系統設備が挙げられる。より具体的な例として、配電盤、分電盤、蓄電池(例えば、リチウムイオン電池)及びこれらを搭載した蓄電システムが挙げられる。蓄電池の例として、モバイルバッテリー、工具用バッテリー及び電気自動車用バッテリーが挙げられる。これらの例の他に、意図せぬ発火の危険性のある箇所、例えば、蓄電池用の回収ボックス、ごみ箱、コンセントカバーなどが挙げられる。以下、自動消火機能を有する電気設備を例に挙げて説明する。
【0021】
電気設備は、電気機器と、これを収容する筐体とを備える。電気設備としては、配電盤、分電盤等の受変電設備や、生産機器等のための操作盤、制御盤等の設備が挙げられる。電気機器としては、これらの盤に設けられる端子台、トランス、ブレーカー、コンデンサ、漏電遮断器、電気配線、蓄電池、コンセント等が挙げられる。これらの電気機器は、電気設備における発火の危険性がある部位ということができる。電気設備は通常電気機器を複数備えており、消火シートはその内の少なくとも一つの電気機器に対して設けられてもよく、全ての電気機器それぞれに対して設けられてもよい。一つの消火シートが、複数の電気機器に対面するように設けられてもよい。初期消火性に優れる上記消火シートをこれらの電気設備内に予め設けておくことにより、火災の発生及び拡大を防止することができる。
【0022】
図1は、本実施形態に係る電気設備を模式的に示す斜視図である。図1は、電気設備の一例として配電盤を示したものである。電気設備100は、電気機器を収容する収容部101a及び開閉扉101bを備える筐体101と、電気機器としてブレーカー103及び配線104とを主として備える。配線104の一部は配線カバー102内にまとめて収容されている。電気設備100は、例えば、開閉扉101bの電気機器と対面する側に消火シート30aを、収容部101aの天面の電気機器と対面する側に消火シート30bを、配線カバー102の電気機器と対面する下面側に消火シート30c(図中では簡単のため凡その設置位置を示す)を、収容部101a背面の電気機器と対面する側すなわち電気機器の裏側に消火シート30dを備えることができる。
【0023】
消火シートを配置する位置は図1に示す態様に限られず、発火の危険性がある部位である電気機器等の配置に応じて適宜にその位置を調整することができる。また、消火シートと電気機器との距離が遠い場合は、距離を調整する部材を設けた上で当該部材上に消火シートを設けてよい。
【0024】
電気機器と消火シートとの距離は適宜に調整することができる。この距離は200mm以下であることが好ましく、150mm以下であることがより好ましく、120mm以下又は100mm以下であることが更に好ましい。これにより初期消火がより好適に行われる。電気機器と消火シートとの距離とは、電気機器とそれに対面するようにして設けられた消火シートとの最短距離を言う。例えば、収容部101aの天面の真下であって天面からの距離が200mm以下である電気機器に対しては、消火シートを当該天面に設けることができる。また、例えば、開閉扉101bに対面する位置にあって開閉扉101bからの距離が200mm以下である電気機器に対しては、消火シートを当該開閉扉101bに設けることができる。電気機器に対して消火シートは近い位置に設置することが望ましいが、近すぎると両者が接触する虞があるため、両者の距離は少なくとも1mm以上空けることが好ましい。
【0025】
<消火シート>
次に消火シートについて具体的に説明する。図1に示す消火シート30a,30b,30c,30dのうち少なくとも一つの消火シートは、第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する。図2,3を参照しながら、積層構造を有する消火シートについて説明する。これらの図に示す消火シート30は、第一の消火剤層31と、第二の消火剤層32とによって構成された積層体と、これを収容する包装袋38とを備える。包装袋38は基材層38aとヒートシール層38bとを備える。消火シート30は周縁に形成されたシール部30sを有する。消火シート30は、第一の消火剤層31側の表面1Fと、第二の消火剤層32側の表面2Fとを有する。
【0026】
本実施形態において、第一及び第二の消火剤層31,32は火炎に反応して噴出する消火剤をそれぞれ含む。第二の消火剤層32は、第一の消火剤層31よりも火炎に対する反応性が低い。ここでいう「火炎に対する反応性が低い」とは火炎によって加熱されても消火剤が噴出しにくいことを意味する。換言すれば、第一の消火剤層31は、第二の消火剤層32よりも火炎に対する反応性が高い。「火炎に対する反応性が高い」とは火炎によって加熱されても消火剤が噴出しやすいことを意味する。
【0027】
火炎に対する反応性が相対的に低い第二の消火剤層32を、第一の消火剤層31よりも消火対象物の近くに配置してもよい。すなわち、消火シート30の表面2Fが消火対象物に対面する向きに、消火対象物に対して消火シート30を配置してもよい。かかる向きに消火シート30を配置することで、上述のとおり、火炎に起因して第二の消火剤層に形成された開口が噴射ノズルのような役割を果たし、噴出する消火剤に指向性を生じさせることができる。ここで、図1を参照すると、消火シート30b,30cは消火対象物の上方に配置されている。かかる向きに消火シート30b,30cを配置することが好ましい。
【0028】
図4(a)は反応後の第一及び第二の消火剤層31,32を模式的に示す断面図である。図4(b)は反応後の第一の消火剤層31の表面を模式的に示す平面図である。図4(c)は反応後の第二の消火剤層32の表面を模式的に示す平面図である。これらの図における黒色の領域は、第一及び第二の消火剤層31,32の反応領域を意味し、第一の消火剤層31の反応領域R1よりも第二の消火剤層32における反応領域R2の面積が小さいことを示している。なお、実際の消火シートの反応領域は、消火材の噴出によって空洞が形成された中心部と、消火材が煤によって黒色に変色している周縁部とによって構成されていることが多い。後述の実施例1,3の反応後の消火シートの外観を確認した結果、図4(b)及び図4(c)に示した態様と同様であった。
【0029】
火炎に対する反応性が相対的に高い第一の消火剤層31を、第二の消火剤層32よりも消火対象物の近くに配置してもよい。すなわち、消火シート30の表面1Fが消火対象物に対面する向きに、消火対象物に対して消火シート30が配置されてもよい。かかる向きに消火シート30を配置することで、上述のとおり、消火シート30から消火剤をより早期に噴出させることができる。ここで、図1を参照すると、消火シート30a,30dは消火対象物の上方に配置されている。かかる向きに消火シート30a,30dを配置することが好ましい。
【0030】
第一及び第二の消火剤層31,32の平均厚さは、例えば、30~600μmとすることができ、40μm以上、100μm以上、又は150μm以上であってもよく、300μm以下であってもよい。平均厚さが上記下限値以上であることで、消火性能を発揮し易く、上記上限値以下であることで、塗膜を形成し易く、耐屈曲性が良い。消火性能の観点から、第一の消火剤層31の平均厚さが、100μm以上又は150μm以上であってもよい。第二の消火剤層32の平均厚さは、優れた消火性能を実現する観点及び性状安定性に優れる観点から、30μm以上、40μm以上、70μm以上、又は100μm以上であってもよく、取扱性に優れる観点から、150μm以下、130μm以下、又は120μm以下であってよい。上記の観点から、第二の消火剤層の平均厚さは、100μm以上120μm以下であってもよい。
【0031】
優れた消火性能を実現する観点から、第一の消火剤層31の平均厚さT1の第二の消火剤層32の平均厚さT2に対する比T1/T2は好ましくは0.8以上であり、より好ましくは1.1以上であり、更に好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは1.8以上である。比T1/T2の上限値は、例えば、5.0である。消火剤層31,32の平均厚さは、消火シート断面の拡大画像における任意の5箇所における厚さの平均値を意味する。なお、消火剤層の主面の面積は消火シートの用途及び設置場所に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
第一及び第二の消火剤層31,32は組成の異なる消火材で構成されている。消火材は消火剤とバインダ樹脂と必要に応じて配合される潮解抑制成分とを含む組成物(消火材形成用組成物)を成形してなるものである。バインダ樹脂を用いて消火材を成形することで消火剤の性状が維持され易く、消火シートの交換頻度を低減することができる。消火材は液状媒体を更に含んでいてもよい。以下、消火剤層31,32に含まれる成分について説明する。
【0033】
(潮解抑制成分)
潮解抑制成分は潮解に対する耐性を向上させるため、第二の消火剤層32に配合される成分である。本実施形態における第一の消火剤層31は潮解抑制成分を含有しない。消火剤層に対して水滴を滴下したときの接触角は、水滴を滴下する消火剤層の消火剤の耐潮解性によって変化し、該耐潮解性が高いほど、該接触角は大きくなる。該接触角は、例えば、ポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学株式会社製)を用いて測定することができる。性状安定性に優れる消火シートを得る観点から、消火シートの第二の消火剤層32に対して2.0μLの水滴を滴下したとき、滴下後0.2秒経過時の接触角が、75°以上であってもよく、85°以上であってもよく、90°以上であってもよい。
【0034】
潮解抑制成分は、消火に特に寄与しないため、消火剤層の火炎に対する反応性を低下させる役割も果たす。潮解抑制成分としては、例えば、酸無水物基を有する化合物が挙げられる。酸無水物基を有する化合物が潮解抑制作用を発揮する理由は定かではないが、酸無水物基は水と反応することができるため、消火剤層に侵入してきた水をトラップすることで消火剤層に含まれる塩の潮解を防いでいるものと推測される。また酸無水物基を有する化合物が塩の表面を修飾することで疎水性が向上し、水との接触を抑えているものと推測される。
【0035】
酸無水物基を有する化合物としては、オキソ酸2分子が脱水縮合することにより構成される酸無水物基を分子中に1以上有する化合物であれば特に制限されない。酸無水物基を構成するオキソ酸としては、例えば、カルボン酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらのうち、酸無水物基を構成するオキソ酸は、カルボン酸であることが好ましい。カルボン酸無水物基を有する化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物の単体、又は、無水マレイン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸無水物をモノマーとした共重合体等が挙げられる。
【0036】
酸無水物基を有する化合物は、分子中にアルコキシシリル基を更に有していてもよい。消火剤層中に含まれる酸無水物基を有する化合物が、分子中にアルコキシシリル基を更に有することで成形品の性状を長期に亘りより安定的に維持することができる。この理由は定かではないが、アルコキシシランが加水分解された後、自己反応が生じてシロキサンが形成されることにより、耐水性が向上すると共に膜密度が向上し、潮解性を有する塩と水との接触を抑えられているものと推測される。分子中に酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物としては、例えば、シランカップリング剤を用いてもよい。なお、酸無水物基を有する化合物として用いられるシランカップリング剤は、消火剤層中においてバインダ樹脂と同様の機能を有していてもよい。
【0037】
第二の消火剤層32における酸無水物基を有する化合物の含有量は、第二の消火剤層32に含まれるバインダ樹脂の質量を100質量部として、10~250質量部であってもよく、50~200質量部であってもよい。酸無水物基を有する化合物の含有量が上記上限以下であることで、第二の消火剤層32の塗工適性が高まり製膜がし易いのみならず、膜のひび割れも抑制でき、また酸無水物基を有する化合物の含有量が上記下限以上であることで、塩の潮解を抑制し易くかつ十分な消火性能を発現し易い。
【0038】
なお、ここでは第二の消火剤層32が潮解抑制成分を含む一方、第一の消火剤層31が潮解抑制成分を含まない場合を態様について説明したが、第一の消火剤層31も潮解抑制成分を含んでもよい。この場合、第一の消火剤層31における酸無水物基を有する化合物の含有量は、第二の消火剤層32と比較して十分に少なければよい。第一の消火剤層31における酸無水物基を有する化合物の含有量は、第一の消火剤層31に含まれるバインダ樹脂の質量を100質量部として、例えば、35質量部以下であり、10質量部以下であってもよい。
【0039】
(消火剤)
消火剤は、火炎に反応して噴出する性質を有する。消火剤としては、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、消火対象に応じて適宜用いることができる。消火剤は、一般に消火性能を有する、潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含んでいてもよい。有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。第一の消火剤層31が第一の消火剤を含み、第二の消火剤層32が第二の消火剤を含む。
【0040】
第一の消火剤に含まれる塩は、第二の消火剤に含まれる塩と同じ化合物であってよく、異なる化合物であってもよい。第一の消火剤に含まれる塩が第二の消火剤に含まれる塩と同じ化合物である場合、消火シートの製造効率を向上させることができる。第一の消火剤に含まれる塩が第二の消火剤に含まれる塩と異なる化合物である場合、これによって、第一及び第二の消火剤層の火炎に対する反応性に差を生じさせることが可能である。
【0041】
消火剤として機能する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。負触媒効果に対する有用性の観点から、有機塩としてカリウム塩を好適に用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち潮解性を有する有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、酒石酸カリウム、乳酸カリウムが挙げられる。このうち特に燃焼の負触媒効果の反応効率の観点から、クエン酸カリウムを用いることができる。
【0042】
消火剤として機能する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。負触媒効果に対する有用性の観点から、無機塩としてカリウム塩を好適に用いることができる。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち潮解性を有する無機カリウム塩としては、炭酸カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウムが挙げられる。このうち特に燃焼の負触媒効果の反応効率の観点から、炭酸カリウムを用いることができる。
【0043】
塩は粒状であってよい。塩の平均粒子径D50は1~100μmとすることができ、また3~40μmであってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで塗液中で分散し易い。平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液中での安定性が向上して塗膜の平滑性が向上する傾向があり、また消火剤層表面における所望の光沢度を実現し易い。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0044】
消火剤の量は、消火剤及びバインダ樹脂の全量(消火剤層の全量であってもよい)を基準として、70~97質量%とすることができ、85~92質量%であってもよい。消火剤の量が上記上限以下であることで、塩が潮解性を有する場合、塩の潮解を抑制し易くかつ均一な消火シートを形成し易く、また消火剤の量が上記下限以上であることで、充分な消火性を維持し易い。
【0045】
消火剤は、上述した塩以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば塩の反応性を向上するための酸化剤が挙げられ、具体的には塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等が挙げられる。なかでも、塩素酸カリウムを用いることが好ましい。消火シートの消火性能をより向上させる観点から、第一及び第二の消火剤の少なくとも一方が酸化剤を含んでいてもよく、第一及び第二の消火剤の両方が酸化剤を含んでいてもよい。
【0046】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂は、樹脂として熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の少なくともいずれかを含む。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂のうち、塗膜形成性の観点から、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリウレタン樹脂を好適に用いることができる。ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂のうち、塗膜形成性及び反応性向上を両立する観点から、ポリウレタン樹脂を好適に用いることができる。これらの両立に加え、塗膜に柔軟性を付与する観点、及び消火材に耐水性を付与する観点から、エーテル系ポリウレタン樹脂を好適に用いることができる。
【0048】
熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルエーテル(PMVE)-無水マレイン樹脂等が挙げられる。
【0049】
バインダ樹脂は、上述した樹脂(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては硬化剤が挙げられ、その他、性状安定性の観点から、界面活性剤、シランカップリング剤、アンチブロッキング剤、密着性付与剤等が挙げられる。これらの他の成分は、樹脂の種類により適宜選択することができる。バインダ樹脂に含まれる他の成分の量は、バインダ樹脂の全量を基準として70質量%以下とすることができ、30質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0050】
(液状媒体)
液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。有機塩及び無機塩が潮解性を有する観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノールであってもよい。
【0051】
(他の成分)
消火材に含まれる他の成分としては、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、柔軟性付与剤、密着性付与剤、触媒等が挙げられる。これらの成分は、塩の種類及びバインダ樹脂の種類により適宜選択することができる。消火材に含まれる他の成分の量は、消火材の全量を基準として40質量%以下とすることができ、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0052】
図2,3に示すように、第一及び第二の消火剤層31,32は包装袋38内に収容されている。包装袋は、例えば2枚の樹脂フィルムの4辺をヒートシールすることにより形成することができる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。これらの樹脂であれば炎の熱(一般的に700~900℃程度)により融解し、内部の消火シートを露出させ易い。また、これら透明性のある材質を選択することで、消火シートの外観検査や、交換時期の確認がし易くなる。樹脂フィルムには、上記消火剤が含まれていてもよい。
【0053】
樹脂フィルムの水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10.0g/(m・day)以下とすることができ、1.0g/(m・day)以下であってよい。
【0054】
水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂フィルムには水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。蒸着層は、樹脂フィルムの一面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。高度なガスバリア性を得る観点から、包装袋を構成するフィルムは金属箔(例えば、アルミニウム箔)を含む層構成を有していてもよい。
【0055】
<消火シートの製造方法>
まず、消火剤及びバインダ樹脂を液状媒体と混合して消火剤層形成用組成物を調製する。消火剤及びバインダ樹脂の量は、消火剤層におけるそれらの量が上記所望の量となるように調整すればよい。液状媒体の量は、消火剤層形成用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火剤層形成用組成物の全量を基準として、例えば、40~95質量%とすることができる。液状媒体を含む消火剤層形成用組成物を、消火剤層形成用塗液ということができる。
【0056】
消火剤層は、樹脂基材上に消火剤層形成用塗液を塗布し、これを乾燥することにより消火剤層を形成することで消火剤層と樹脂基材との積層体を製造することができる。上述のとおり、消火剤層の大気への露出面においては、光沢度を適切に管理する必要があるが、塗布法により消火剤層を形成することで、消火剤層の表(おもて)面・裏面共に、適切な光沢度を実現し易い。これは、層形成時に強い外圧が掛からない塗布法ならではの利点であり、例えばプレス成型等の成型法では得られ難いものと推察している。塗布厚さは、消火剤層を加圧することも考慮し、所望の厚さの消火剤層が得られるよう適宜調整すればよい。
【0057】
得られた消火剤層と樹脂基材との積層体の消火剤層面上に、更に消火剤層形成用塗液を塗布し、同様にして、消火剤層を形成することで、消火剤層の積層構造を有する積層体を形成することができる。塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法等が挙げられる。
【0058】
消火シートの製造方法は、消火剤層を加圧することを更に備えていてもよい。これにより光沢度をより向上し易くなる。所望の光沢度を得易い観点から、加圧条件は0.2MPa以上とすることができ、2.0MPa以上であってもよい。加圧条件の上限は、塗膜の柔軟性の観点から2.5MPa以下とすることができる。これらの工程を経て作製された積層体を包装袋に収容することにより、図2,3に示す消火シート30が得られる。
【0059】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、第一及び第二の消火剤層31,32で構成された二層構造の積層体が包装袋に収容された態様を例示したが、図5に示すように、積層体は第二の消火剤層32/第一の消火剤層31/第二の消火剤層32がこの順序で積層された三層構造であってもよい。
【0060】
上記実施形態においては、複数の消火剤層で構成された積層体が包装袋に収容された態様を例示したが、例えば、消火剤層の塗工の際に使用した樹脂基材を含む積層体を包装袋に収容してもよい。樹脂基材を構成する樹脂としては、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。樹脂基材側が炎に対面するよう消火シートが設置されていた場合でも、これらの樹脂であれば炎の熱(一般的に700~900℃程度)により融解し、消火剤層を露出させ易い。また、これら透明性のある材質を選択することで、消火剤層の外観検査や、消火剤層の交換時期の確認がし易くなる。樹脂基材には、上記消火剤が含まれていてもよい。
【0061】
水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂基材には水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。蒸着層は、樹脂基材の一面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。樹脂基材の厚さは、想定される出火時の熱量、衝撃、許容される設置スペース等に応じて適宜調整することができる。例えば、厚い基材であれば消火シートとしての強度や剛性が得られ易く、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば狭いスペースに消火シートを設けることができ、また炎により熱せられた際に短時間で融解するため初期消火性が向上する。樹脂基材の厚さは、例えば4.5~100μmとすることができ、12~50μmであってよい。樹脂基材は複数の樹脂の層を備える積層体であってもよい。
【0062】
上記実施形態においては、複数の消火剤層を含む積層体が包装袋に収容された態様を例示したが、消火シートが使用される環境によっては積層体を包装袋に収容することなく、そのまま消火シートとして使用してもよい。
【実施例
【0063】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0064】
実施例及び比較例において以下の材料を使用した。
(消火剤)
有機カリウム塩:クエン酸三カリウム
酸化剤:塩素酸カリウム(KClO
クエン酸三カリウムは潮解性を有する塩である。
(バインダ樹脂)
エーテル系ポリウレタン樹脂100質量部をイソプロピルアルコール210質量部で溶解させたエーテル系ポリウレタン樹脂溶液
(液状媒体)
エタノール
(樹脂基材)
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(東洋紡株式会社製、商品名:E7002、厚さ50μm)
(潮解抑制成分)
酸無水物基及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、商品名:X-12-1287A)
【0065】
(第一の消火剤層形成用組成物の調製)
クエン酸三カリウムと塩素酸カリウム(KClO)との混合物を、メノウ乳鉢にて平均粒子径D50が12μm以下となるように粉砕した。粉砕後の混合物87.4質量部と、エーテル系ポリウレタン樹脂溶液39.4質量部と、エタノール87質量部とを混合して、第一の消火剤層形成用組成物を得た。
【0066】
(第二の消火剤層形成用組成物の調製)
クエン酸三カリウムと塩素酸カリウム(KClO)との混合物を、メノウ乳鉢にて平均粒子径D50が12μm以下となるように粉砕した。粉砕後の混合物87.4質量部と、エーテル系ポリウレタン樹脂溶液19.7質量部と、シランカップリング剤6.3質量部と、エタノール87質量部とを混合して、第二の消火剤層形成用組成物を得た。
【0067】
(実施例1)
PET基材の離型処理面上に、アプリケータを用いて第一の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、PET基材上に平均厚さが200μmの第一の消火剤層が形成された積層体を得た。得られた積層体の第一の消火剤層上に、アプリケータを用いて第二の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、第一の消火剤層上に平均厚さが100μmの第二の消火剤層が形成された積層体を得た。この積層体からPET基材を剥離し、二層構成(第一の消火剤層/第二の消火剤層)の消火シートを得た。
【0068】
(実施例2)
PET基材の離型処理面上に、アプリケータを用いて第二の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、PET基材上に平均厚さが70μmの第二の消火剤層が形成された積層体を得た。得られた積層体の第二の消火剤層上に、アプリケータを用いて第一の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、第二の消火剤層上に平均厚さが160μmの第一の消火剤層が形成された積層体を得た。得られた積層体の第一の消火剤層上に、アプリケータを用いて第二の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、第一の消火剤層上に平均厚さが70μmの第二の消火剤層が更に形成された積層体を得た。この積層体からPET基材を剥離し、三層構成(第二の消火剤層/第一の消火剤層/第二の消火剤層)消火シートを得た。
【0069】
(実施例3)
PET基材の離型処理していない面上に第一の消火剤層形成用組成物を塗布したこと、及びPET基材を剥離しなかったことの他は実施例1と同様にして消火シートを得た。
【0070】
(比較例1)
PET基材の離型処理面上に、アプリケータを用いて第一の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、PET基材上に平均厚さが300μmの第一の消火剤層が形成された積層体を得た。この積層体からPET基材を剥離し、第一の消火剤層のみからなる単層構成の消火シートを得た。
【0071】
(比較例2)
PET基材の離型処理面上に、アプリケータを用いて第二の消火剤層形成用組成物を塗布した後、75℃で7分間乾燥することにより、PET基材上に平均厚さが300μmの第二の消火剤層が形成された積層体を得た。この積層体からPET基材を剥離し、第二の消火剤層のみからなる単層構成の消火シートを得た。
【0072】
(実施例4~10)
第一の消火剤層及び第二の消火剤層の厚さを表2,3に示す厚さに変更したことの他は実施例3と同様にして消火シートを得た。
【0073】
(実施例11)
PET基材の離型処理していない面上に第二の消火剤層形成用組成物を塗布したこと、PET基材を剥離しなかったこと、及び第一の消火剤層及び第二の消火剤層の厚さを表3に示す厚さに変更したことの他は実施例2と同様にして消火シートを得た。
【0074】
<各種評価>
シーラント層(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層(シリカ蒸着層を有するPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルム(水蒸気透過率は0.2~0.6g/(m・day)、JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を準備した。このバリアフィルムを2枚用いて、各例で得られた消火シート(50mm×50mm)を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで、消火シートを封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。各辺のヒートシール幅は10mmとした。その結果、外寸が70mm×70mmの消火材パッケージ(包装袋に収容された消火シート)が得られた。これを評価試料とした。各例から得られた評価試料について、以下のとおり評価試験を行った。結果を表1~3に示す。
【0075】
(消火性能評価試験)
本試験では火炎の上方に消火材パッケージを配置し、消火材パッケージの性能を評価した。すなわち、縦20cm、横30cm、高さ40cmの鉄製の容器を準備した。着火した固形燃料が窒息により消火しないよう、容器の側面には天面から5.0cm、12.5cm、20.0cm、27.5cm、35.0cmの高さの位置に直径8.5mmの円形の通気口を各側面5カ所ずつ設けた。容器天面の中央に消火材パッケージ(評価試料)を両面テープで貼り付けた。容器底面の中央に、縦15mm、横15mm、高さ10mmの固形燃料(キャプテンスタッグ株式会社製固形燃料ファイアブロック着火剤)を1.5g分置いた。固形燃料の着火後、180秒以内に評価試料が消火できるかについて、固形燃料と評価試料との距離を10cm、15cm、及び20cmに調整し、それぞれの距離で試験を行った。なお、第一及び第二の消火剤層のうち、火炎に対面する層は表1に記載のとおりとした。
【0076】
(性状安定性評価試験)
評価試料の全光線透過率を、ヘイズメーター(BYK社製 BYK-Gardner Haze-Guard Plus)を用いて、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定した。評価試料としては、各例で得られた消火シートを25℃/30%RH条件下で24時間静置した後、バリアフィルムに封入して作製した消火材パッケージを用いた。測定は恒温恒湿槽(85℃/85%RH条件下)に投入する前(初期の全光線透過率)と、投入して168時間経過後(保存後の全光線透過率)に行い、下記式に従い保存前後での全光線透過率の変化量Δを算出した。塩の潮解が生じた場合には消火シートの透明度が上がるため、この変化量Δを確認することで潮解の程度を評価した。塩の潮解が生じ難いと、消火シートの性状安定性が高い。
全光線透過率の変化量Δ=保存後の全光線透過率の値-初期の全光線透過率の値
評価は、以下の基準に基づいて行った。
A:全光線透過率の変化量Δが30以下。
B:全光線透過率の変化量Δが30超、50以下。
C:全光線透過率の変化量Δが50超。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】

表1~3中、消火率のカッコの表記は(消火成功回数/試験回数)を意味する。消火率に係る「距離」は固形燃料から評価試料までの距離を意味する。
【0080】
上記実施例1及び比較例1,2に係る評価試料について更に以下の評価を行った。
【0081】
(消火性能評価試験1)
本試験では火炎の上方に消火材パッケージを配置し、消火材パッケージの性能を評価した。すなわち、上記と同様の構成の鉄製の容器を準備した。容器天面の中央に消火材パッケージ(評価試料)を両面テープで貼り付けた。容器底面の中央に、縦15mm、横15mm、高さ10mmの固形燃料(キャプテンスタッグ株式会社製固形燃料ファイアブロック着火剤)を1.5g分置いた。固形燃料の着火後、180秒以内に評価試料が消火できるかについて、固形燃料と評価試料との距離を10cm、15cm、及び20cmに調整し、それぞれの距離で試験を行った。なお、第一及び第二の消火剤層のうち、火炎に対面する層は表4に記載のとおりとした。評価は、以下の基準に基づいて行った。
A:固形燃料から評価試料までの距離が20cmで消火できる。
B:固形燃料から評価試料までの距離が10cmで消火できる。
C:固形燃料から評価試料までの距離が10cmで消火できない。
【0082】
(消火性能評価試験2)
本試験では火炎の水平方向に離れた位置に消火材パッケージを縦に配置し、消火材パッケージの性能を評価した。すなわち、上記と同様の構成の鉄製の容器を準備した。容器内側背面の中央に消火材パッケージ(評価試料)を両面テープで貼り付けた。評価試料の前方かつ評価試料の底辺と同じ高さに、縦15mm、横15mm、高さ10mmの固形燃料(キャプテンスタッグ株式会社製固形燃料ファイアブロック着火剤)を1.5g分置いた。固形燃料の着火後、180秒以内に消火できるかについて、固形燃料と評価試料との水平方向の距離を5mm、及び10mmに調整し、それぞれの距離で試験を行った。なお、第一及び第二の消火剤層のうち、火炎に対面する層は表4に記載のとおりとした。評価は、以下の基準に基づいて行った。
A:固形燃料から評価試料までの距離が10mmで消火できる。
B:固形燃料から評価試料までの距離が5mmで消火できる。
C:固形燃料から評価試料からの距離が5mmで消火できない。
【0083】
【表4】
【0084】
表4に示すとおり、実施例1の消火性能評価試験2の結果はBであった。これは火炎が小さく、火炎の横に配置された消火シートが加熱されにくかったためと推察される。例えば、配電盤が発火したときのような激しい火炎に対しては消火シートがある程度離れた位置であっても消火機能の発現が期待できる。
【0085】
本開示は以下の発明に関する。
[1]
第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有する消火シートであって、
前記第一及び第二の消火剤層は消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記第二の消火剤層が潮解抑制成分を更に含む、消火シート。
[2]
前記潮解抑制成分が、酸無水物基を有する化合物を含む、[1]に記載の消火シート。
[3]
前記酸無水物基を有する化合物が、カルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤である、[2]に記載の消火シート。
[4]
前記第一の消火剤層が第一の消火剤を含み、
前記第二の消火剤層が第二の消火剤を含み、
前記第一の消火剤に含まれる前記塩が前記第二の消火剤に含まれる前記塩と同じ化合物である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の消火シート。
[5]
前記第一の消火剤層が第一の消火剤を含み、
前記第二の消火剤層が第二の消火剤を含み、
前記第一及び第二の消火剤の少なくとも一方が酸化剤を更に含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の消火シート。
[6]
前記第二の消火剤層に対して2.0μLの水滴を滴下したとき、滴下後0.2秒経過時の接触角が75°以上である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の消火シート。
[7]
性状安定性評価試験の結果に基づいて下記式(1)で算出される全光線透過率の変化量Δが50以下である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の消火シート。
全光線透過率の変化量Δ=保存後の全光線透過率の値-初期の全光線透過率の値・・・(1)
[8]
ガスバリア性を有する包装袋に収容されている、[1]~[7]のいずれか一つに記載の消火シート。
[9]
発火の可能性がある消火対象物と、
前記消火対象物に対面するように配置された消火シートと、
を備える、自動消火機能を有する装置であって、
前記消火シートは、第一の消火剤層と、第二の消火剤層とを含む積層構造を有し、
前記第一及び第二の消火剤層は火炎に反応して噴出する消火剤をそれぞれ含み、
前記消火剤は潮解性を有する有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記第二の消火剤層は、潮解抑制成分を更に含む、自動消火機能を有する装置。
[10]
前記消火対象物が配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池及びコンセントからなる群から選ばれる一種であり、前記消火対象物を収容する筐体の内面に前記消火シートが配置されている、[9]に記載の自動消火機能を有する装置。
[11]
前記第二の消火剤層は、前記第一の消火剤層よりも火炎に対する反応性が低く、且つ前記第一の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている、[9]又は[10]に記載の自動消火機能を有する装置。
[12]
前記消火シートが前記消火対象物の上方に配置されている、[11]に記載の自動消火機能を有する装置。
[13]
前記第一の消火剤層は、前記第二の消火剤層よりも火炎に対する反応性が高く、且つ前記第二の消火剤層よりも前記消火対象物の近くに配置されている、[9]又は[10]に記載の自動消火機能を有する装置。
[14]
前記消火シートが前記消火対象物から水平方向に離れた位置に配置されている、[13]に記載の自動消火機能を有する装置。
【符号の説明】
【0086】
30,30a,30b,30c,30d…消火シート、30s…シール部、31…第一の消火剤層、32…第二の消火剤層、38…包装袋、1F…消火シートの第一の消火剤層側の表面、2F…消火シートの第二の消火剤層側の表面、100…電気設備(自動消火機能を有する装置)、101…筐体、101a…収容部、101b…開閉扉、102…配線カバー、103…ブレーカー、104…配線。
図1
図2
図3
図4
図5