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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/02 20060101AFI20250115BHJP
   F16C 35/06 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B60B35/02 L
F16C35/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023526753
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022104
(87)【国際公開番号】W WO2022259460
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 淑人
(72)【発明者】
【氏名】村上 貴信
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121903(JP,A)
【文献】特開2017-190865(JP,A)
【文献】特開2018-034775(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0127826(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/02
F16C 35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材と、
車輪と固定するために周方向に間隔を空けて設けられている複数のボルト孔と、ブレーキロータを固定するためのタップ孔と、を設けた車輪取付フランジを軸方向一方側に有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の転動体と、
を有し、
前記車輪取付フランジは、
周方向に隣り合う前記ボルト孔の間の領域であって前記タップ孔を有さない第一領域と、
周方向に隣り合う前記ボルト孔の間の領域であって前記タップ孔を有する第二領域と、を有し、
前記車輪取付フランジが、
前記第一領域、及び前記第二領域、に形成されている薄肉部と、
前記ボルト孔の周囲の領域を、前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた部位を含む第一厚肉部と、
前記タップ孔の周囲の領域を、前記第二領域の前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた第二厚肉部と、を有し、
前記第一領域に、軸方向に貫通し周方向の重量バランスを取るための貫通孔が設けられており、
前記第二領域に、前記貫通孔が設けられない、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記第一厚肉部が、径方向内側に位置する円環状の基部と、前記ボルト孔の周囲の領域を前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた部位であって前記基部から径方向外側へ放射状に突出する突出部と、を有し、
前記第二厚肉部が、周方向両側において前記突出部に接続する、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
2箇所の前記タップ孔を有し、
前記第一薄肉部が、周方向における前記タップ孔同士の間隔が小さい側に配置されるとともに、
前記第二薄肉部が、周方向における前記タップ孔同士の間隔が大きい側に配置される、請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
1箇所の前記タップ孔を有し、
前記第二薄肉部が、前記第一薄肉部よりも、前記第二厚肉部から周方向に離れて配置されている、請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記第二厚肉部が、径方向内側において前記基部に接続する、請求項2から請求項6の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体に車輪及びブレーキディスクを取り付けるために、ハブユニットと呼ばれる車輪用軸受装置が用いられる(例えば、特許文献1参照)。車輪用軸受装置は、車輪等を取り付けるためのフランジ部を有する内軸を備える。図9は、従来の内軸90の斜視図である。図9に示すように、従来の車輪用軸受装置における内軸90は、軸状の本体部91と、本体部91の軸方向一方側に設けられたフランジ部92とを有する。フランジ部92に、(図外の)車輪を取り付けるためのボルト孔93が複数形成されている。
【0003】
フランジ部92は、本体部91と連続している横断面円形のフランジ基部95と、フランジ基部95の径方向外方に周方向に等間隔で複数設けられボルト孔93が形成された第一厚肉部96と、第一厚肉部96の間に設けられ第一厚肉部96よりも薄肉である薄肉部97とを有する。フランジ基部95は、第一厚肉部96の径方向内方に位置し第一厚肉部96よりも更に肉厚である第二厚肉部98を有している。
【0004】
フランジ部92に(図外の)ブレーキロータを取り付ける際に、当該ブレーキロータをボルトで仮止めする必要がある。このためフランジ部92には、仮止め用のボルトを固定するためのタップ孔99が形成されている。タップ孔99は、ボルトとの嵌合長を確保する必要があるため、フランジ部92に設けた隆起部94に形成されている。隆起部94にタップ孔99を形成することで、タップ孔99の周囲には壁状の厚肉部が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-15398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に示す従来の車輪用軸受装置において、フランジ部92では、タップ孔99の周囲のみにしか厚肉部(隆起部94)が確保されていないため、ブレーキロータを仮止めしたときに、ブレーキロータの重みでタップ孔99が歪む場合があった。また、フランジ部92では、タップ孔99の強度を確保するために隆起部94を設けた場合、内軸90の重量が増大するとともに、周方向におけるフランジ部92の重量バランスが悪化することが懸念される。
【0007】
本開示は、車輪用軸受装置において、内軸の重量増大の抑制と周方向の重量バランスの確保とを両立しつつ、タップ孔の強度を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の車輪用軸受装置は、外方部材と、車輪と固定するための複数のボルト孔と、ブレーキロータを固定するためのタップ孔と、を設けた車輪取付フランジを軸方向一方側に有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の転動体と、を有し、前記車輪取付フランジが、周方向に隣り合う前記ボルト孔の間の領域であって、軸方向に貫通する貫通孔を有し前記タップ孔を有さない第一領域、及び前記タップ孔を有する第二領域、に形成されている薄肉部と、前記ボルト孔の周囲の領域を、前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた部位を含む第一厚肉部と、前記タップ孔の周囲の領域を、前記第二領域の前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた第二厚肉部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の車輪用軸受装置によれば、車輪用軸受装置において、内方部材の重量増大の抑制と周方向の重量バランスの確保とを両立しつつ、タップ孔の強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。
図2】第一の実施形態に係る内軸の斜視図である。
図3】第一の実施形態に係る内軸を軸方向から見た図である。
図4図3のA-A線矢視の断面図である。
図5】第二の実施形態に係る内軸の斜視図である。
図6】第二の実施形態に係る内軸を軸方向から見た図である。
図7】第三の実施形態に係る内軸の斜視図である。
図8】第三の実施形態に係る内軸を軸方向から見た図である。
図9】従来の内軸の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本開示の発明の実施形態の概要>
以下、本開示の発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の車輪用軸受装置は、外方部材と、車輪と固定するための複数のボルト孔と、ブレーキロータを固定するためのタップ孔と、を設けた車輪取付フランジを軸方向一方側に有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される複数の転動体と、を有し、前記車輪取付フランジが、周方向に隣り合う前記ボルト孔の間の領域であって、軸方向に貫通する貫通孔を有し前記タップ孔を有さない第一領域、及び前記タップ孔を有する第二領域、に形成されている薄肉部と、前記ボルト孔の周囲の領域を、前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた部位を含む第一厚肉部と、前記タップ孔の周囲の領域を、前記第二領域の前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた第二厚肉部と、を有する。
【0013】
このような構成の車輪用軸受装置では、第二厚肉部を設けることによって、タップ孔の強度を確保することができ、貫通孔を設けることによって、車輪取付フランジの重量増大を抑制するとともに、車輪取付フランジの周方向における重量バランスを確保することができる。よって、前記構成によれば、車輪用軸受装置において、内方部材の重量増大の抑制と周方向の重量バランスの確保とを両立しつつ、タップ孔の強度を確保することができる。
【0014】
(2)本開示の車輪用軸受装置は、好ましくは、前記第一厚肉部が、径方向内側に位置する円環状の基部と、前記ボルト孔の周囲の領域を前記薄肉部から軸方向他方側に隆起させた部位であって前記基部から径方向外側へ放射状に突出する突出部と、を有し、前記第二厚肉部が、周方向両側において前記突出部に接続する。この構成により、第二厚肉部の強度を高めることができる。これにより、車輪取付フランジにブレーキロータを仮止めしたときに、ブレーキロータの重みでタップ孔が歪むのを抑制することができる。
【0015】
(3)本開示の車輪用軸受装置は、前記第一領域の前記薄肉部として、第一の前記貫通孔が形成されている第一薄肉部と、前記第一貫通孔より直径が小さい第二の前記貫通孔が形成されている第二薄肉部と、を有する。この構成により、車輪取付フランジの周方向における重量バランスを確保することができる。
【0016】
(4)本開示の車輪用軸受装置は、好ましくは、2箇所の前記タップ孔を有し、前記第一薄肉部が、周方向における前記タップ孔同士の間隔が小さい側に配置されるとともに、前記第二薄肉部が、周方向における前記タップ孔同士の間隔が大きい側に配置される。この構成により、2箇所のタップ孔を有する車輪取付フランジにおいて、周方向における重量バランスを確保することができる。
【0017】
(5)本開示の車輪用軸受装置は、好ましくは、1箇所の前記タップ孔を有し、前記第二薄肉部が、前記第一薄肉部よりも、前記第二厚肉部から周方向に離れて配置されている。この構成により、1箇所のタップ孔を有する車輪取付フランジにおいて、周方向の重量バランスを確保することができる。
【0018】
(6)本開示の車輪用軸受装置は、好ましくは、前記第二厚肉部の軸方向寸法が、前記第一厚肉部の軸方向寸法より小さい。この構成により、車輪取付フランジの重量が増大するのを抑制することができる。
【0019】
(7)本開示の車輪用軸受装置は、好ましくは、前記第二厚肉部が、径方向内側において前記基部に接続する。この構成により、第二厚肉部の強度をさらに高めることができる。
【0020】
<本開示の発明の実施形態の詳細>
以下、本開示の発明の実施形態を説明する。
【0021】
〔軸受装置について〕
図1は、車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。図1に示される車輪用軸受装置10(以下、「軸受装置10」と称する。)は、いわゆるハブユニットと呼ばれ、自動車の車体に設けられている懸架装置(ナックル)に取り付けられ、車輪を回転可能に支持する。軸受装置10には、図示していないが車輪の他にブレーキディスクが取り付けられる。軸受装置10は、内方部材11と、筒状の外輪(外方部材)12と、転動体である玉13と、保持器14と、軸方向一方側に設けられている第一の密封装置15と、軸方向他方側に設けられている第二の密封装置16とを備える。軸受装置10において、軸方向とは、軸受装置10の中心線C0に沿った方向であり、また、中心線C0に平行な方向も軸方向と称する。また、径方向とは中心線C0に直交する方向であり、周方向とは中心線C0を中心とする回転方向である。
【0022】
外輪12は、円筒形状である外輪本体部21と、この外輪本体部21から径方向外方に延びて設けられている固定用のフランジ部22とを有する。外輪本体部21の内周側に外軌道面12a,12bが形成されている。外輪12はフランジ部22によって車体側部材であるナックル(図示せず)に取り付けられ、これにより外輪12を含む軸受装置10が車体に固定される。軸受装置10が車体に固定された状態で、内方部材11が有する後述の車輪取り付け用のフランジ部27側が車両の外側となる。つまり、フランジ部27が設けられている軸方向一方側が車両アウタ側となり、その反対である軸方向他方側が車両インナ側となる。
【0023】
内方部材11は、内軸(ハブ軸)23と、この内軸23の軸方向他方側に取り付けられた内輪24とを有する。図1図4においては、第一の実施形態に係る内軸23を示している。以下の説明では、第一の実施形態に係る内軸23を第一内軸23Aと称する。なお、本説明において、単に「内軸23」と称する場合は、第一内軸23Aと、後述する第二内軸23B(図5図6参照)及び第三内軸23C(図7図8参照)とで共通する構成を説明している。
【0024】
内軸23は、外輪12の径方向内方に設けられている軸状の本体部26と、本体部26の軸方向一方側に設けられているフランジ部(車輪取付フランジ)27とを有する。フランジ部27に、車輪を取り付けるためのボルト孔28が複数形成されている。内軸23は、更に、内輪24が軸方向他方側へ脱落するのを防止するためのかしめ部25を有する。内軸23の中心線は、軸受装置10の中心線C0と一致する。フランジ部27は、本体部26の軸方向一方側から径方向外方に延びて設けられている。フランジ部27の軸方向一方側の面(フランジ面55)に、車輪及びブレーキロータ(図示せず)が取り付けられる。かしめ部25は、円筒状であった部分25aが塑性変形により拡径されて構成される。図1において、塑性変形前の前記円筒状であった部分25aは二点鎖線により示されている。
【0025】
本体部26の外周面は段付き形状を有する。つまり、本体部26は、内軌道面11aが形成されている第一軸部29と、第一軸部29よりも外周面が小径である第二軸部30とを有する。第二軸部30に内輪24を外嵌させた状態で、前記円筒状であった部分25aを、塑性変形させて拡径させ、かしめ部25とする。これにより、第一軸部29とかしめ部25との間に内輪24が挟まれた状態となる。
【0026】
内輪24は、環状の部材であり、第二軸部30に外嵌し固定される。第一軸部29の外周面に第一の内軌道面11aが形成され、内輪24の外周面に第二の内軌道面11bが形成されている。軸方向一方側における外軌道面12aと内軌道面11aとの間に玉13が複数配置される。軸方向他方側における外軌道面12bと内軌道面11bとの間に玉13が複数配置される。
【0027】
軸受装置10の構成部材である、内軸23、内輪24、外輪12、及び玉13は、鋼製(炭素鋼、軸受鋼)である。保持器14は鋼製であってもよく、樹脂製であってもよい。
【0028】
内方部材11と外輪12との間に、玉13が設けられている環状空間Kが形成されている。環状空間Kの軸方向一方側に第一の密封装置15が設けられ、環状空間Kの軸方向他方側に第二の密封装置16が設けられている。密封装置15,16は、外部の異物が環状空間Kに侵入するのを防止する。第一の密封装置15は、外輪12に取り付けられた環状のシール部材31と、内軸23が有する後述の基部35に沿って取り付けられた環状のスリンガ32とを有する。シール部材31の一部(リップ部31a)がスリンガ32に接触する。これにより、第一の密封装置15は、フランジ部27と外輪12との間から、環状空間Kへ異物が侵入するのを防止することができる。
【0029】
(第一の実施形態に係る内軸について)
図2は、第一の実施形態に係る内軸23(第一内軸23A)の斜視図である。図3は、第一内軸23Aを軸方向から見た図である。図4は、図3におけるA-A線矢視断面図である。図2図4に示すように、第一内軸23Aにおいて、円板状であるフランジ部27は、径方向内側に設けられている第一厚肉部33と、径方向外側に設けられている複数の薄肉部34とを有する。第一厚肉部33は、中心線C0に直交する横断面において円形(本実施形態では環状)である基部35と、基部35から径方向外方へ放射状に突出する複数の突出部36とを有する。基部35は、第一厚肉部33のうちの径方向内側に位置する部位である。突出部36は、周方向に等間隔で設けられており、ボルト孔28が形成されている。言い換えると、突出部36は、ボルト孔28の周囲の領域を、薄肉部34から軸方向他方側に隆起させた部位である。第一厚肉部33は、ボルト孔28の周囲の領域を、薄肉部34から軸方向他方側に隆起させた突出部36を含んでいる。突出部36は、基部35よりも薄肉である。
【0030】
薄肉部34は、基部35の径方向外方において、周方向で隣り合う突出部36,36の間に設けられている。薄肉部34は、第一厚肉部33よりも薄肉である。つまり、薄肉部34の軸方向寸法D3は、第一厚肉部33(突出部36)の軸方向寸法D1よりも小さい(図4参照)。
【0031】
ボルト孔28は突出部36に設けられることから、突出部36の数は、ボルト孔28の数(第一内軸23Aでは「5」)と同数である。また、薄肉部34は周方向で隣り合う突出部36,36の間に設けられることから、薄肉部34の数は、突出部36の数(第一内軸23Aでは「5」)と同数である。
【0032】
フランジ部27は、更に、第二厚肉部37を有する。第一内軸23Aにおける第二厚肉部37は、5箇所ある薄肉部34のうち、2箇所の薄肉部34に設けられている。つまり、本実施形態のフランジ部27では、第二厚肉部37が複数形成されている。第二厚肉部37は、第一厚肉部33よりも薄肉であり、かつ、薄肉部34よりも厚肉である。つまり、第二厚肉部37の軸方向寸法D2は、第一厚肉部33の軸方向寸法D1よりも小さく、かつ、薄肉部34の軸方向寸法D3よりも大きい(D1>D2>D3、図4参照)。
【0033】
フランジ部27は、更に、第二厚肉部37にタップ孔38が形成されている。第二厚肉部37は、タップ孔38の周囲の領域を、後述の第三薄肉部34Cから軸方向他方側へ隆起させて形成された部位である。タップ孔38は、図示しないが、ブレーキロータの仮止めのために用いられる。第一内軸23Aのフランジ部27には、2箇所のタップ孔38が設けられている。言い換えると、第一内軸23Aでは、フランジ部27に2箇所のタップ孔38を設けるために、2箇所の第二厚肉部37を設けている。第一内軸23Aでは、第二厚肉部37を設けることによって、タップ孔38の強度を確保することが可能となる。
【0034】
第二厚肉部37は、周方向両側において、第一厚肉部33の突出部36に接続されている。このような第二厚肉部37は、周方向両側が突出部36に接続されていない場合に比べて、剛性が高められている。このような構成の第一内軸23Aでは、フランジ部に図示しないブレーキロータを仮止めしたときに、ブレーキロータの重みでタップ孔38が歪むのを抑制可能な剛性を確保することができる。
【0035】
第二厚肉部37は、径方向内側において、第一厚肉部33の基部35にさらに接続されている。このような第二厚肉部37は、径方向内側が基部35に接続されていない場合に比べて、剛性がさらに高められている。このような構成の第一内軸23Aでは、フランジ部に図示しないブレーキロータを仮止めしたときに、ブレーキロータの重みでタップ孔38が歪むのを確実に抑制することができる。
【0036】
フランジ部27は、更に、複数の貫通孔40を備えている。貫通孔40は、フランジ部27を軽量化するとともに周方向の重量バランスをとるために設けられる孔部である。貫通孔40は、第一貫通孔41と第二貫通孔42とを含んでいる。本実施形態の第一貫通孔41及び第二貫通孔42は、5箇所ある薄肉部34のうち、第二厚肉部37が設けられていない(残り3箇所の)薄肉部34に設けられている。第一内軸23Aでは、フランジ部27に、1箇所の第一貫通孔41と2箇所の第二貫通孔42とが形成されている。第二貫通孔42は、第一貫通孔41に比べて小さい直径を有する。第一内軸23Aでは、第一貫通孔41を、第一厚肉部33の基部35を切り欠く位置まで拡大して形成し、第一貫通孔41に必要な直径を確保している。なお、以下の説明では、薄肉部34のうち、第一貫通孔41が形成されている薄肉部34を第一薄肉部34Aと称し、第二貫通孔42が形成されている薄肉部34を第二薄肉部34Bと称し、第二厚肉部37が形成されている薄肉部34を第三薄肉部34Cと称する。第一薄肉部34A、第二薄肉部34B、及び第三薄肉部34Cは、いずれも周方向に隣り合うボルト孔28,28の間の領域に形成された薄肉部34である。第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bは、周方向に隣り合うボルト孔28,28の間の領域のうち、タップ孔38を有さない領域(第一領域)に形成された薄肉部34である。第三薄肉部34Cは、周方向に隣り合うボルト孔28,28の間の領域のうち、タップ孔38を有する領域(第二領域)に形成された薄肉部34である。
【0037】
第一内軸23Aでは、フランジ部27において第二厚肉部37及びタップ孔38が周方向に等間隔で形成されていない。このため、フランジ部27は、第二厚肉部37及びタップ孔38の部分(第三薄肉部34C)だけをみれば周方向における重量バランスがとれていない。第一内軸23Aでは、フランジ部27において貫通孔40が形成された複数の薄肉部34(具体的には、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34B)を設けることによって、フランジ部27の重心位置が中心線C0上に位置するようにし、これにより、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保している。なお、第一内軸23Aでは、フランジ部27において直径が異なる複数種類の貫通孔40(第一貫通孔41及び第二貫通孔42)を設けているが、本開示の軸受装置においては、複数の貫通孔が全て同じ直径であってもよい。なお、フランジ部27の剛性を確保する観点から、貫通孔40の径方向外側には、径方向に4mm以上の肉厚を確保することが好ましい。
【0038】
第一内軸23Aでは、2箇所のタップ孔38,38の周方向における間隔が小さくなっている側にある1箇所の薄肉部34を、第一貫通孔41が形成された第一薄肉部34Aとし、タップ孔38,38の周方向の間隔が大きくなっている側にある2箇所の薄肉部34,34を、第二貫通孔42が形成された第二薄肉部34Bとしている。第一内軸23Aでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bをこのような配置とすることによって、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保している。言い換えると、第一内軸23Aでは、周方向において第二厚肉部37及びタップ孔38(第三薄肉部34C)が不等配となっている場合に、貫通孔40(第一貫通孔41及び第二貫通孔42)を周方向において不等配に形成することによって、フランジ部27の周方向の重量バランスを確保している。つまり、第一内軸23Aでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bを設けることによって、フランジ部27の重量の増大を抑制するとともに、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保することが可能となる。
【0039】
(内軸の第二の実施形態について)
図5は、第二の実施形態に係る内軸23の斜視図である。図6は、第二の実施形態に係る内軸23を軸方向から見た図である。軸受装置10では、内軸23として、図5及び図6に示す第二の実施形態に係る内軸23(以下、第二内軸23Bと称する)を用いてもよい。なお、図5及び図6に示す第二内軸23Bにおいて、第一内軸23Aと構成が共通する部分については同じ符号を付しており、特に説明する場合を除き、同じ符号を付した部分の説明は省略する。
【0040】
図5及び図6に示すように、第二内軸23Bは、ボルト孔28の数(第二内軸23Bでは「5」)と同数である5箇所の突出部36及び薄肉部34を有しており、この点で、第一内軸23Aと構成が共通している。第二内軸23Bは、タップ孔38の数(第二内軸23Bでは「1」)と同数である1箇所の第二厚肉部37を有しており、この点で、第一内軸23Aと構成が相違している。第二内軸23Bの第三薄肉部34Cは、5箇所ある薄肉部34のうちの1箇所としている。第二内軸23Bでは、フランジ部27において第二厚肉部37が1箇所だけ形成されている。つまり、第二内軸23Bでは、フランジ部27に1箇所のタップ孔38を設けるために、1箇所の第二厚肉部37を設けている。第二内軸23Bでは、第二厚肉部37を設けることによって、タップ孔38の強度を確保している。
【0041】
第二内軸23Bでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bが、5箇所ある薄肉部34のうち、第三薄肉部34C以外(残り4箇所)の薄肉部34に設けられている。第二内軸23Bでは、フランジ部27において、2箇所の第一貫通孔41と2箇所の第二貫通孔42とを含む合計4箇所の貫通孔40が形成されている。
【0042】
第二内軸23Bでは、タップ孔38との距離が小さい2箇所の薄肉部34を第一薄肉部34Aとし、タップ孔38との距離が大きい2箇所の薄肉部34を第二薄肉部34Bとしている。第二内軸23Bでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bをこのような配置とすることによって、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保している。つまり、第二内軸23Bでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bを設けることによって、フランジ部27の重量の増大を抑制するとともに、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保している。
【0043】
(内軸の第三の実施形態について)
図7は、第三の実施形態に係る内軸23の斜視図である。図8は、第三の実施形態に係る内軸23を軸方向から見た図である。軸受装置10では、内軸23として、図7及び図8に示す第三の実施形態に係る内軸23(以下、第三内軸23Cと称する)を用いてもよい。なお、図7及び図8に示す第三内軸23Cにおいて、第一内軸23A及び第二内軸23Bと構成が共通する部分については同じ符号を付しており、特に説明する場合を除き、同じ符号を付した部分の説明は省略する。
【0044】
図7及び図8に示すように、第三内軸23Cは、ボルト孔28の数(第三内軸23Cでは「4」)と同数である4箇所の突出部36及び薄肉部34を有しており、この点で、第一内軸23A及び第二内軸23Bと構成が相違している。第三内軸23Cは、タップ孔38の数(第三内軸23Cでは「1」)と同数である1箇所の第二厚肉部37を有しており、この点で、第一内軸23Aと構成が相違し、第二内軸23Bと構成が共通している。第三内軸23Cの第三厚肉部34Cは、4箇所ある薄肉部34のうちの1箇所としている。第三内軸23Cでは、フランジ部27において、第二厚肉部37が1箇所だけ形成されている。つまり、第三内軸23Cでは、フランジ部27に1箇所のタップ孔38を設けるために、1箇所の第二厚肉部37を設けている。第三内軸23Cでは、第二厚肉部37を設けることによって、タップ孔38の強度を確保している。
【0045】
第三内軸23Cでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bが、4箇所ある薄肉部34のうち、第三薄肉部34C以外(残り3箇所)の薄肉部34に設けられている。第三内軸23Cでは、フランジ部27において、2箇所の第一貫通孔41と1箇所の第二貫通孔42とを含む合計3箇所の貫通孔40が形成されている。
【0046】
第三内軸23Cでは、タップ孔38のとの距離が小さい2箇所の薄肉部34を第一薄肉部34Aとし、タップ孔38のとの距離が大きい1箇所の薄肉部34を第二薄肉部34Bとしている。第三内軸23Cでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bをこのような配置とすることによって、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保している。つまり、第三内軸23Cでは、第一薄肉部34A及び第二薄肉部34Bを設けることによって、フランジ部27の重量の増大を抑制するとともに、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保している。
【0047】
なお、第三内軸23Cのようにボルト孔28を4箇所有する内軸23では、周方向に位相が180度ずれた薄肉部34において、2箇所の第二厚肉部37及びタップ孔38を設けることが可能である。この場合、フランジ部27の周方向において第二厚肉部37を等配とすることで、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保できる。またこの場合、第二厚肉部37及びタップ孔38を設けていない残り2箇所の薄肉部34に貫通孔40を設けて、フランジ部27の軽量化を図ってもよい。
【0048】
(実施形態の作用効果)
以上に説明した実施形態における軸受装置10は、外輪12と、車輪と固定するための複数のボルト孔28と、ブレーキロータを固定するためのタップ孔38と、を設けたフランジ部27を軸方向一方側に有する内軸23と、外輪12と内軸23との間に配置される複数の玉13と、を有している。フランジ部27が、周方向に隣り合うボルト孔28の間の領域であって、軸方向に貫通する貫通孔40を有しタップ孔38を有さない第一領域、及びタップ孔38を有する第二領域、に形成されている薄肉部34と、ボルト孔28の周囲の領域を、薄肉部34から軸方向他方側に隆起させた部位を含む第一厚肉部33と、タップ孔38の周囲の領域を、第二領域の薄肉部34から軸方向他方側に隆起させた第二厚肉部37と、を有する。
【0049】
このような構成の軸受装置10では、第二厚肉部37を設けることによって、タップ孔38の強度を確保することができ、貫通孔40を設けることによって、フランジ部27の重量増大を抑制するとともに、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保することができる。よって、このような構成によれば、軸受装置10において、フランジ部27の重量増大の抑制と周方向における重量バランスの確保とを両立しつつ、タップ孔38の強度を確保することが可能となる。
【0050】
また、以上に説明した実施形態における軸受装置10は、第一厚肉部33が、径方向内側に位置する円環状の基部35と、ボルト孔28の周囲の領域を薄肉部34から軸方向他方側に隆起させた部位であって基部35から径方向外側へ放射状に突出する突出部36と、を有し、第二厚肉部37が、周方向両側において第一厚肉部33の突出部36に接続している。この構成により、第二厚肉部37の強度を高めることができる。これにより、フランジ部27にブレーキロータを仮止めしたときに、ブレーキロータの重みでタップ孔38が歪むのを抑制することができる。
【0051】
また、以上に説明した実施形態における軸受装置10は、第一領域の薄肉部34として、第一貫通孔41が形成されている第一薄肉部34Aと、第一貫通孔41より直径が小さい第二貫通孔42が形成されている第二薄肉部34Bと、を有する。この構成により、フランジ部27の周方向における重量バランスを確保することができる。
【0052】
また、以上に説明した実施形態における軸受装置10の第一内軸23Aは、2箇所のタップ孔38を有し、第一薄肉部34Aが、周方向におけるタップ孔38同士の間隔が小さい側に配置されるとともに、第二薄肉部34Bが、周方向におけるタップ孔38同士の間隔が大きい側に配置される。この構成により、2箇所のタップ孔38を有するフランジ部27において、周方向における重量バランスを確保することができる。
【0053】
また、以上に説明した実施形態における軸受装置10の第二内軸23B及び第三内軸23Cは、1箇所のタップ孔38を有し、第二薄肉部34Bが、第一薄肉部34Aよりも、第二厚肉部37から周方向に離れて配置されている。この構成により、1箇所のタップ孔38を有するフランジ部27において、周方向の重量バランスを確保することができる。
【0054】
また、以上に説明した実施形態における軸受装置10は、第二厚肉部37の軸方向寸法D2を、第一厚肉部33の軸方向寸法D1より小さくしている。この構成により、フランジ部27の重量が増大するのを抑制することができる。
【0055】
また、以上に説明した実施形態における軸受装置10は、第二厚肉部37が、径方向内側において第一厚肉部33の基部35に接続している。この構成により、第二厚肉部37の強度をさらに高めることができる。
【0056】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。例えば、転動体を玉13として説明したが、転動体はころ(円すいころ)であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10:車輪用軸受装置
11:内方部材
12:外輪(外方部材)
13:玉(転動体)
23:内軸
27:フランジ部(車輪取付フランジ)
28:ボルト孔
33:第一厚肉部
34:薄肉部
34A:第一薄肉部
34B:第二薄肉部
35:基部(第一厚肉部)
36:突出部(第一厚肉部)
37:第二厚肉部
38:タップ孔
40:貫通孔
41:第一貫通孔
42:第二貫通孔
D1:突出部(第一厚肉部)の軸方向寸法
D2:第二厚肉部の軸方向寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9