(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】車両制御方法及び車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20250115BHJP
B60W 30/095 20120101ALI20250115BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/095
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2023544814
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031772
(87)【国際公開番号】W WO2023032009
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】江本 周平
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-011168(JP,A)
【文献】特開平7-179140(JP,A)
【文献】特開2018-177153(JP,A)
【文献】特開2020-111090(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09
B60W 30/095
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の車速が所定の速度閾値未満に低下するか否かを判定する車速判定処理と、
車線中央又は車線境界線に対する前記自車両の横偏差を検出する横偏差検出処理と、
前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定した場合、前記車速が前記速度閾値未満に低下する時点である車速低下時点以降の前記横偏差の変化を抑制するように前記自車両の第1目標走行軌道を生成する目標軌道生成処理と、
前記自車両が回避すべき回避対象物を検出する回避対象物検出処理と、
前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定しない場合に比べて前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定した場合に前記回避対象物に対する前記自車両の接近度合いを低減する操舵制御を抑制することにより、前記車速低下時点後、前記第1目標走行軌道に沿って走行しつつ前記自車両の減速度を調整することにより前記回避対象物を回避する回避処理と、
をコントローラに実行させることを特徴とする車両制御方法。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記自車両の前方の目標停止位置を設定する処理と、
前記目標停止位置へ対する前記自車両の減速を開始した否かを判定する処理と、を実行し、
前記目標停止位置へ対する前記自車両の減速を開始したと判定し、且つ前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定した場合に、前記目標軌道生成処理と、前記回避処理と、を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両制御方法。
【請求項3】
前記コントローラは、前記目標停止位置へ対する前記自車両の減速を開始したと判定した後に、前記自車両が前記目標停止位置に停止するか、前記目標停止位置が変更若しくはキャンセルされた場合に、前記目標軌道生成処理と、前記回避処理と、を実行しないことを特徴とする請求項2に記載の車両制御方法。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記自車両の現在の前記車速に応じて、所定減速度で前記目標停止位置に停止できる所要距離を算出する処理を実行し、
前記自車両から前記目標停止位置までの距離が、前記所要距離に応じて設定される距離閾値未満である場合に、前記目標停止位置へ対する前記自車両の減速を開始したと判定し、
前記目標停止位置へ対する前記自車両の減速を開始したと判定し、且つ前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定した場合に、前記目標軌道生成処理と、前記回避処理と、を実行することを特徴とする、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両制御方法。
【請求項5】
前記コントローラは、車線形状に基づいて第2目標走行軌道を生成し、前記第2目標走行軌道の車線幅方向位置を、前記車速低下時点に検出した前記横偏差に応じて移動させることにより、前記第1目標走行軌道を生成する、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の車両制御方法。
【請求項6】
前記コントローラは、前記自車両に加減速度と操舵角の制御入力を入力したときの前記自車両の予測位置と前記第1目標走行軌道との差分と、前記回避対象物に対する前記自車両の接近度合いとに応じた評価関数を小さくするように前記制御入力を演算する処理を実行し、
第1時刻において前記制御入力を演算する際に評価される前記評価関数が、前記第1時刻よりも前の第2時刻において演算された前記制御入力を前記自車両に入力したときの前記接近度合いに、前記自車両に対する前記回避対象物の相対速度を乗算して得られた項を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の車両制御方法。
【請求項7】
自車両の車速が所定の速度閾値未満に低下するか否かを判定する車速判定処理と、
車線中央又は車線境界線に対する前記自車両の横偏差を検出する横偏差検出処理と、
前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定した場合、前記車速が前記速度閾値未満に低下する時点である車速低下時点以降の前記横偏差の変化を抑制するように前記自車両の第1目標走行軌道を生成する目標軌道生成処理と、
前記自車両が回避すべき回避対象物を検出する回避対象物検出処理と、
前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定しない場合に比べて前記車速が前記速度閾値未満に低下すると判定した場合に前記回避対象物に対する前記自車両の接近度合いを低減する操舵制御を抑制することにより、前記車速低下時点後、前記第1目標走行軌道に沿って走行しつつ前記自車両の減速度を調整することにより前記回避対象物を回避する回避処理と、
を実行するコントローラを備えることを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御方法及び車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1には、自車両の周囲の物体を回避して自車両を走行させる走行制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動的に物体を回避する際に大きな舵角変化が発生すると、ステアリングホイールが大きく動いて乗員に違和感を与えることがある。
本発明は、自動的に物体を回避する際に発生する過大な舵角変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様の車両制御方法では、自車両の車速が所定の速度閾値未満に低下した時点である車速低下時点を検出する処理と車線中央又は車線境界線に対する自車両の横偏差を検出する処理と、車速低下時点に検出した横偏差を維持するように自車両の第1目標走行軌道を生成する処理と、自車両が回避すべき回避対象物を検出する処理と、車速が速度閾値未満に低下すると判定しない場合に比べて車速が速度閾値未満に低下すると判定した場合に回避対象物に対する自車両の接近度合いを低減する操舵制御を抑制することにより、車速低下時点後、第1目標走行軌道に沿って走行しつつ自車両の加減速度を調整することにより回避対象物を回避する処理と、をコントローラに実行させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自動的に物体を回避する際に発生する過大な舵角変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の車両制御装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2B】実施形態の車両制御方法の一例の説明図である。
【
図3】
図1のコントローラの機能構成の一例のブロック図である。
【
図4A】速度低下状態でない場合の目標走行軌道の一例の説明図である。
【
図4B】速度低下状態における目標走行軌道の一例の説明図である。
【
図4C】速度低下状態における物体回避制御の例の説明図である。
【
図5】実施形態の車両制御方法の一例のフローチャートである。
【
図6】速度低下状態検出処理の第1例のフローチャートである。
【
図7】速度低下状態検出処理の第2例のフローチャートである。
【
図8】速度低下状態検出処理の第3例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(構成)
図1は、実施形態の車両制御装置を搭載する車両の概略構成の一例を示す図である。自車両1は、自車両1の走行を制御する車両制御装置10を備える。車両制御装置10は、センサによって自車両1の周囲の走行環境を検出し、周囲の走行環境に基づいて自車両1の走行を支援する。車両制御装置10による自車両1の走行支援制御は、例えば、運転者が関与せずに自動で自車両1を走行させる自律走行制御を含んでよい。また、車両制御装置10による走行支援制御は、自車両1の操舵角、駆動力又は制動力を部分的に制御して、自車両1の運転者を支援する運転支援制御を含んでもよい。
【0009】
車両制御装置10は、物体センサ11と、車両センサ12と、測位装置13と、地図データベース(地
図DB)14と、ナビゲーション装置15と、コントローラ16と、アクチュエータ17を備える。
物体センサ11は、自車両1に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、ソナー、カメラ、LIDARなど、自車両1の周辺の物体を検出する複数の異なる種類の物体検出センサを備える。
【0010】
車両センサ12は、自車両1から得られる様々な情報(車両信号)を検出する。車両センサ12には、例えば、車速センサ、車輪速センサ、3軸加速度センサ、操舵角を検出する操舵角センサ、自車両1に生じる角速度、を検出するジャイロセンサ、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ、自車両のアクセル開度を検出するアクセルセンサと、運転者によるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサが含まれる。
【0011】
測位装置13は、全地球型測位システム受信機を備え、複数の航法衛星から電波を受信して自車両1の現在位置を測定する。全地球型測位システム受信機は、例えば地球測位システム受信機等であってよい。測位装置13は、例えば慣性航法装置であってもよい。
地図データベース14は、自動運転用の地図として好適な高精度地図データ(以下、単に「高精度地図」という。)を記憶してよい。高精度地図は、ナビゲーション用の地図データ(以下、単に「ナビ地図」という。)よりも高精度の地図データであり、道路単位の情報よりも詳細な車線単位の情報を含む。例えば車線単位の情報は、車線基準線(例えば車線中央線)上の基準点を示す車線ノードの情報と、車線ノード間の車線の区間態様を示す車線リンクの情報を含む。車線ノードの情報は、車線ノードの識別番号、位置座標、接続される車線リンク数、接続される車線リンクの識別番号を含む。車線リンクの情報は、車線リンクの識別番号、車線の種類、車線の幅員、車線境界線の種類、車線の形状、車線区分線の形状、車線基準線の形状を含む。
【0012】
ナビゲーション装置15は、測位装置13により自車両の現在位置を認識し、その現在位置における地図情報を地図データベース14から取得する。ナビゲーション装置15は、乗員が入力した目的地までの道路単位の経路(以下「ナビゲーション経路」と表記することがある)を設定し、このナビゲーション経路に従って乗員に道路案内を行う。また、ナビゲーション装置15は、ナビゲーション経路の情報をコントローラ16へ出力する。コントローラ16は、自律走行制御の際に、ナビゲーション経路に沿って走行するように自車両を自動で運転してよい。
【0013】
コントローラ16は、自車両1の走行を制御する電子制御ユニット(ECU)である。コントローラ16は、プロセッサ20と、記憶装置21等の周辺部品とを含む。プロセッサ20は、例えばCPUやMPUであってよい。記憶装置21は、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等を備えてよい。記憶装置21は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM及びRAM等のメモリを含んでよい。以下に説明するコントローラ16の機能は、例えばプロセッサ20が、記憶装置21に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。コントローラ16は、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエア(例えば、FPGA等のプログラマブル・ロジック・デバイス)で形成してもよい。
【0014】
アクチュエータ17は、コントローラ16からの制御信号に応じて、自車両1のステアリングホイール、アクセル開度及びブレーキ装置を操作して、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ17は、自車両1のステアリングの操舵角を制御するステアリングアクチュエータと、自車両1のアクセル開度を制御するアクセル開度アクチュエータと、ブレーキ装置の制動動作を制御するブレーキ制御アクチュエータを備える。
【0015】
次に、コントローラ16による自車両1の制御の一例を説明する。
図2Aは従来の車両制御の課題の説明図である。
いま、車線2の車線中央2cに沿って自車両1の目標走行軌道を設定し、この目標走行軌道に沿って自車両1を走行させて目標停止位置P1で停止する制御を想定する。目標停止位置P1は、例えば先行車両3や、図示しない停止線の所定距離手前の位置であってよい。自車両1の前方の車線2上には、自車両1が回避すべき回避対象物として駐車車両4a及び4bが存在している。このため、駐車車両4a及び4bとの距離を保ちつつ車線中央2cに沿った目標走行軌道に近づくように自車両1を走行させる。例えば、自車両1は軌道Tに沿って走行する。
軌道Tの例では、駐車車両4aとの距離を保つために矢印5aのように車線中央2c(すなわち目標走行軌道)から車線幅方向に偏差(以下「横偏差」と表記することがある)を持って走行する。駐車車両4aを通過後は、矢印5bのように横偏差を解消するように左側に操舵する。また、目標停止位置P1のすぐ手前の駐車車両4bとの距離を保つために、矢印5cに示すように左側に操舵して目標走行軌道との横偏差を発生させる。駐車車両4bを通過後は、矢印5dのように横偏差を解消するように右側に操舵する。
【0016】
このように、駐車車両4bを通過後に横偏差を解消するように操舵する場合に操舵角変化が大きくなることがある。例えば、自車両1を目標停止位置P1に停止させる場合には、自車両1の車速は極低速(例えば2.0m/s未満)になる。このような極低速では、横偏差を解消するために要する操舵角変化が大きくなることがある。横方向速度が小さい極低速では旋回曲率半径が小さくなるためである。この結果、ステアリングホイールが大きく動いて乗員に違和感を与えることがある。
【0017】
図2Bは、実施形態の車両制御方法の一例の説明図である。実施形態の車両制御方法では、自車両1の車速が所定の速度閾値未満に低下するか否かを判定する。また、車線中央2cに対する自車両1の横偏差Yoffを検出する。車線2の車線境界線に対する自車両1の横偏差Yoffを検出してもよい。車速が速度閾値未満に低下すると判定した場合、車速が速度閾値未満に低下する時点である車速低下時点T1以降の横偏差Yoffの変化を抑制するように自車両の目標走行軌道Xを生成する。
例えば、車速低下時点T1を検出又は推定し、車速低下時点T1における車線中央2c又は車線境界線に対する自車両1の横偏差Yoffを検出してよい。そして、車速低下時点T1に検出した横偏差Yoffを維持するように自車両の目標走行軌道Xを生成してよい。
自車両1が回避すべき回避対象物(
図2Bの例では駐車車両4b)を検出した場合には、車速低下時点T1の後、目標走行軌道Xに沿って走行しつつ自車両1の減速度を調整することにより回避対象物を回避する。
【0018】
このため、車速低下時点T1の後の期間では回避対象物(
図2Bの例では駐車車両4b)を回避するための横方向の移動が抑制される。このため、自車両の速度が低い状態で回避対象物を回避するための舵角変化を抑制できる。この結果、ステアリングホイールの回転を抑制できる。
また、車速低下時点T1よりも前の時点で回避対象物(例えば駐車車両4a)を回避していた場合には、車速低下時点T1の横偏差Yoffを維持するように目標走行軌道Xを設定する。このため、回避行動前の車線内横位置に復帰する動作がなくなるので、自車両の速度が低い状態での舵角変化を抑制できる。この結果、ステアリングホイールの回転を抑制できる。
【0019】
以下、コントローラ16の機能を詳しく説明する。
図3は、コントローラ16の機能構成の一例のブロック図である。コントローラ16は、物体検出部30と、自車両位置推定部31と、地図取得部32と、検出統合部33と、物体追跡部34と、地図内位置演算部35と、車両制御部36を備える。
物体検出部30は、物体センサ11の検出信号に基づいて、自車両1の周辺の物体、例えば車両(自動車や自動二輪車)、歩行者、障害物などの位置、姿勢、大きさ、速度などを検出する。物体検出部30は、例えば自車両1を空中から眺める天頂図(平面図ともいう)において、物体の2次元位置、姿勢、大きさ、速度などを表現する検出結果を出力する。
【0020】
自車両位置推定部31は、測位装置13による測定結果や、車両センサ12からの検出結果を用いたオドメトリに基づいて、自車両1の絶対位置、すなわち、所定の基準点に対する自車両1の位置、姿勢及び速度を計測する。地図取得部32は、地図データベース14から自車両1が走行する道路の構造を示す地図情報を取得する。
【0021】
検出統合部33は、複数の物体検出センサの各々から物体検出部30が得た複数の検出結果を統合して、各物体に対して一つの2次元位置、姿勢、大きさ、速度などを出力する。具体的には、物体検出センサの各々から得られた物体の挙動から、各物体検出センサの誤差特性などを考慮した上で最も誤差が少なくなる最も合理的な物体の挙動を算出する。具体的には、既知のセンサ・フュージョン技術を用いることにより、複数種類のセンサで取得した検出結果を総合的に評価して、より正確な検出結果を得る。
物体追跡部34は、物体検出部30によって検出された物体を追跡する。具体的には、検出統合部33が統合した検出結果に基き、異なる時刻に出力された物体の挙動から、異なる時刻間における物体の同一性の検証(対応付け)を行い、その対応付けに基づいて物体の速度などの挙動を予測する。
【0022】
地図内位置演算部35は、自車両位置推定部31により得られた自車両1の絶対位置、及び地図取得部32により取得された地図情報から、地図上における自車両1の位置及び姿勢を推定する。また、地図内位置演算部35は、自車両1が走行している道路、さらに当該道路のうちで自車両1が走行する車線2やその隣接車線4を特定し、車線2内における自車両1の横方向位置(車幅方向位置、車線内横位置)を算出する。
車両制御部36は、物体追跡部34による物体の挙動の予測結果と、地図内位置演算部35による自車両1の位置及び姿勢の演算結果と、乗員(例えば運転者)の入力に基づいて、アクチュエータ17を駆動して自車両1の走行を制御する。車両制御部36は、ルート設定部40と、パス生成部41と、速度低下時点判定部42と、制御指令値演算部43を備える。
【0023】
ルート設定部40は、地図内位置演算部35が演算した自車両1の現在位置と乗員から入力された目的地とに基づいて(または、ナビゲーション装置15が設定したナビゲーション経路に基づいて)、自車両1が走行すべき車線単位の目標ルート(以下、単に「ルート」と表記する)を設定する。このルートは、静的に設定される目標経路であり、地図データベース14に格納される高精度地図の車線形状や、物体センサ11で検出した車線境界線の形状に基づいて設定される。例えば、現在位置から目的地まで移動する際に走行する道路の車線中央をルートとして設定してよい。
【0024】
パス生成部41は、自車両1が車線変更等の運転行動を行うか否かを判断し、判断結果に基づいて自車両1が走行すべき目標パス(以下、単に「パス」と表記する)を設定する。このパスは、自車両1の運転行動に応じて動的に設定され、例えば交通状況に応じて自車両1に車線変更させる場合には、パス生成部41は、車線変更前の車線から車線変更後の車線まで自車両1が移動する移動経路を、自車両1の車両モデルに基づいて生成する。反対に、自車両1に車線変更させない場合には、ルートと一致するようなパスを生成する。パス生成部41が生成するパスPは、次式(1)のような点列データであってよい。
P=[PL,PL+1,…,PL+M]…(1)
なお、式(1)のPL+Mは、現在位置からM[m]進んだパス上の点のデータである。パスPは、自車両1が追従すべきパスの形状を表す情報であり、車速の情報を持たない。点列の各点PL+iは、例えば位置(x,y)、姿勢(θ),曲率(κ)で表現される。位置(x,y)は地図座標系における座標を示し、姿勢(θ)は各点でのパスの進行方向(接線方向)を示す。
【0025】
速度低下時点判定部42は、自車両1が目標停止位置に対して減速を開始し、且つ自車両1の現在の車速vが所定の速度閾値VTH未満に低下した時点である車速低下時点T1を検出又は推定する。まず、速度低下時点判定部42は、自車両1の前方に停止目標となる物体が存在するか否かを判定する。停止目標は、例えば自車両1が走行する車線2上の前方の車両や、停止線、歩行者、横断歩道など、自車両1がその手前で停止すべき対象物を全て含む。自車両1の前方に停止目標となる物体が存在する場合、速度低下時点判定部42は停止目標の所定距離手前の位置に目標停止位置を設定する。
【0026】
次に、速度低下時点判定部42は、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したか否かを判定する。速度低下時点判定部42は、例えば、次式(2)が満たされる場合に、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したと判定してよい。
L<v2/(2a) …(2)
式(2)のLは自車両1の現在位置から目標停止位置までの距離であり、vは現在の自車両1の車速であり、aは所定の減速度(設定値)である。速度低下時点判定部42は、一定の減速度aで停止するまでの距離よりも、現在位置から目標停止位置までの距離が短くなった場合に、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したと判定する。
【0027】
上式(2)が成立した場合は、速度低下時点判定部42は、減速開始フラグFdを「True」に設定し、その後は(2)の評価をせずに、次の減速開始取消条件(A)又は(B)が成立するまで、目標停止位置へ対する減速中と判定する。
(A)減速を開始したと判定した後に自車両が目標停止位置に停止した。
(B)減速を開始したと判定した後に、目標停止位置が変更若しくはキャンセルされた。例えば、停止目標である先行車両が前進した。停止目標であった停止線が設けられていた信号機が停止表示(赤信号)から進行表示(青信号)に変化することにより目標停止位置がキャンセルされた。
減速開始取消条件(A)又は(B)が成立すると、速度低下時点判定部42は、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始した旨の判定を取り消し、減速開始フラグFdを「False」に設定する。
【0028】
次に、速度低下時点判定部42は、自車両1が停止直前であるか否かを判定する。例えば自車両1の現在の車速vが所定の速度閾値VTHを下回った場合に自車両1が停止直前であると判定する。
目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始したと判定した後に、自車両1が停止直前であると判定した場合、速度低下時点判定部42は、自車両1の速度低下状態を検出する。速度低下時点判定部42は、最初に速度低下状態を検出した時点を車速低下時点T1として検出する。
なお、速度低下時点判定部42は、自車両1の現在の車速vと減速度と基づいて現在の車速vが速度閾値VTHを下回る時刻を推定し、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始したと判定した後に車速vが速度閾値VTHを下回る時刻を車速低下時点T1として推定してもよい。
すなわち「速度低下状態」は、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始し、且つ車速vが速度閾値VTH未満である状態である。「車速低下時点T1」は、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始した後に、車速vが速度閾値VTH未満に低下した時点である。
【0029】
速度低下時点判定部42は、車速低下時点T1におけるパスPに対する自車両1の車線幅方向の偏差を横偏差Yoffとして記録する。パスPが車線中央に沿って生成される場合には、横偏差Yoffは車線中央に対する自車両1の横偏差となる。車線中央に代えて車線境界線に対する横偏差を記録してもよい。速度低下時点判定部42は、横偏差Yoffを記録したことを示す記録済フラグFrを「True」に設定する。速度低下時点判定部42は、記録済フラグFrが「False」であるか「True」であるかに基づいて、最初に速度低下状態を検出したか否かを判断できる。
一方で、減速を開始したと判定しない場合や停止直前であると判定しない場合には、速度低下時点判定部42は、自車両1の速度低下状態を検出しない。このとき記録済フラグFrが「False」に設定される。
【0030】
次に、制御指令値演算部43は、パス生成部41が生成したパスPに沿って、自車両1が周囲の物体との間隔を保ちながら移動するような制御指令値を算出する。制御指令値演算部43は、目標停止位置までの距離と、停止目標との相対速度、相対加速度に基づいて自車両1の速度指令値を算出する。そして、速度指令値とパスPに基づいて、現時刻tからt+N×dt秒後まで、各時刻t+i×dt(iは1~Nの整数)の自車両の目標位置、姿勢、速度及び曲率をNステップ分計算することで、自車両1の目標走行軌道Xを算出する。
【0031】
目標走行軌道Xは、一定時間分の将来の自車両1の状態を表す軌道上の点列であり、例えば次式(3)の点列で表現される。
X=[Xt,Xt+dt,Xt+2dt…,Xt+N×dt]…(3)
Xt+Tは、T秒後の自車両の目標状態であり、位置(x,y)、姿勢(θ),速度(v),曲率(κ)で表現される。
また、制御指令値演算部43は、自車両1の予測軌道Xpを算出する。予測軌道Xpは、将来の車両の状態を予測した軌道であり、自車両1の現在位置を基点として障害物を回避しながら目標軌道にできるだけ近づこうとする軌道となる。予測軌道Xpの各点の成分は、目標走行軌道Xの各点の成分と同じである。
【0032】
制御指令値演算部43による目標走行軌道Xの算出方法の一例を以下に説明する。制御指令値演算部43は、時刻t+Tにおける目標軌道の点Xt+Tを1ステップ前の点Xt+Tーdtに基づいて算出する距離をNステップ繰り返すことにより、Xの点列[Xt,Xt+dt,Xt+2dt…,Xt+N×dt]を算出する。具体的には、1ステップ前の点Xt+TーdtからパスPに沿って変位Dだけ進んだ位置及び姿勢を点Xt+Tとして算出する。
変位Dは次式(4)により求められる。
D=vt+Tーdt×dt …(4)
vt+Tーdt:前ステップの目標軌道の点Xt+Tーdtの速度
dt:ステップ時間幅
【0033】
制御指令値演算部43は、目標軌道の点X
t+Tから目標停止位置までの距離から速度指令値を算出する。
例えば制御指令値演算部43は、次式(5)の評価関数Fを最小化するような速度指令値Vを最適化計算により求めてもよい。
【数1】
式(5)において、Lr
iは停止目標iに対する目標停止位置までの距離であり、L
iは停止目標iと自車両1との現在の距離であり、V
iは停止目標iの速度であり、Vrは設定車速であり、W
Lは車間距離のウエイトであり、W
Vは設定車速のウエイトである。
【0034】
速度低下時点判定部42が自車両1の速度低下状態を検出した場合(すなわち、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始したと判定した後に、自車両1が停止直前であると判定した場合)、制御指令値演算部43は、車速低下時点T1における横偏差Yoffに基づいて、次式(6)のように目標走行軌道Xの点X
t+Tを補正する。
【数2】
式(6)のXc
t+Tは、補正後の点X
t+Tを示し、θは点X
t+Tはおける目標走行軌道Xの姿勢(進行方向、接線方向)を示す。すなわち、制御指令値演算部43は、目標走行軌道Xの点X
t+Tの車線幅方向位置を横偏差Yoffに応じて移動させることにより、目標走行軌道Xの点X
t+Tを補正する。
【0035】
この補正の効果を、
図4A及び
図4Bに示す。
図4Aは、自車両1が速度低下状態でない場合の目標走行軌道の一例の説明図である。この場合に、目標軌道点Xは、パスPに完全に沿うように生成される。
図4Aの例では、車線中央2Cに沿って生成される。左側の駐車車両4aを回避した後は、予測軌道Xpは車線中央2cに戻るように生成される。
目標停止位置P1の直前において自車両1が極低速で走行している状態で予測軌道Xpに沿った旋回動作を行うと、上述のとおりステアリングホイールが大きく動いて乗員に違和感を与える可能性がある。
図4Bを参照する。目標停止位置P1に近づいて自車両1の速度低下状態が検出されると、横偏差Yoffを維持するように目標走行軌道Xが補正される。これにより、駐車車両4aを回避した時の横偏差Yoffを解消することなく停車するため、ステアリングホイールの動きを抑制できる。
【0036】
図3を参照する。制御指令値演算部43は、生成した目標走行軌道Xを用いて自車両1の車両制御を行う。車両制御では、例えば自車両1の操舵及び車速を制御する。
車両制御ではN×dt秒分の自車両1の予測軌道Xpが、自車両周辺の回避対象物との距離を保ちつつ目標走行軌道Xに近づくように自車両1に入力する制御入力(加減速指令値dV
in及び操舵指令値dK
in)を算出する。この制御は、一般的なモデル予測制御を用いて実現できる。
例えば制御指令値演算部43は、離散的な時刻t+Tにおいて制御入力Uを自車両1に入力したときに、自車両1の予測軌道
Xpの点Xp
t+Tと目標走行軌道の点X
t+Tとの差分と、回避対象物に対する自車両1の接近度合いと、に応じて定義された評価関数が小さくなるように、時刻t+Tにおける制御入力Uを演算する。
自車両1の速度低下状態が検出されていない場合には、各時刻t+Tでの評価関数J1を例えば次式(7)のように定義する。
【0037】
【数3】
ここでW
O、W
X、W
Uは重み行列であり、Xeは、(X
t+T-Xp
t+T)である。A
i,t+Tは、回避対象物iに対する自車両1の接近度合いを示す変数である。例えば、回避対象物iを囲む回避対象領域と自車両1が重なる領域の面積や、回避対象物iと自車両1との距離に応じた変数でもよい。
【0038】
評価関数J1の第1項は、自車両1の予測位置Xpt+Tが、回避対象物iに近づいている場合に増加する。Ai,t+Tは状態量Xpt+Tの関数であり、状態量Xpt+Tは、現在の状態量Xptと、制御入力Uの関数である。最適化計算によりAi,t+Tを最小化するような制御入力Uが算出される。
また、J1の第2項は、自車両1の予測状態Xpt+Tと目標走行軌道Xt+Tとの差分にかかるコストである。第3項は、Uの絶対値にかかるコストである。これらを総和した評価関数とすることで、回避対象物の回避(第1項)、目標軌道への追従(第2項)、制御入力の安定化(第3項)を両立した制御入力が算出される。
【0039】
ここで、
図4Cのように側方の回避対象(駐車車両4b)に近づくとき、この回避対象物に対するA
i,t+Tが増加する。A
i,t+Tを減らすには、符号6に示すように予測位置
Xp
t+T
を左方向にずらす必要があるため、操舵指令値dK
inが増加する。このとき、目標停止位置P1の直前で自車両1が極低速で走行していると、左へ移動するために大きく操舵する必要がある。そのため操舵指令値dK
inが大きな値となり、乗員に違和感を与える虞がある。
【0040】
そこで本発明では、目標停止位置P1に近づいて自車両1の速度低下状態が検出されると、次式(8)の評価関数J2を最小化する最適化計算により制御入力Uを演算する。
【数4】
ここで、v
i、v
t+Tは回避対象物i及び自車両1の速度である。
またA’
i,t+Tは、時刻t+Tよりも前の周期においた制御入力を演算する際に計算された回避対象物iに対する自車両1の接近度合いの確定値(すなわち、時刻t+Tよりも前の時刻における制御入力Uが自車両1に入力された場合の接近度合い)である。このため制御入力Uでは変化しない。すなわち、Uによる偏微分は0になる。
【0041】
したがって、最適化計算によってA’
i,t+Tを0にするような調整は行われない。一方、接近度合いA’
i,t+Tに相対速度(vi-v
t+T)が乗算されているため、回避対象物iに近づいているときは、車速を回避対象物iに合わせる調整が行われる。その結果、
図4Cのように右側の回避対象物4bの手前の位置P2で停止するような加減速指令値dV
inが算出される。
制御指令値演算部43は、評価関数J
1、J
2を最小化するような制御入力Uを算出する。制御指令値演算部43は、算出した制御入力Uに基づいてアクチュエータ17を駆動して、自車両1の速度及び操舵角を制御する。
【0042】
(動作)
図5は、実施形態の車両制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1においてコントローラ16は、自車両1の周囲の物体や停止線、自己位置を検出する。ステップS2において速度低下時点判定部42は、速度低下状態検出処理を実施する。
【0043】
図6は、速度低下状態検出処理の第1例のフローチャートである。ステップS30において速度低下時点判定部42は、減速開始フラグFdが「True」であるか否かを判定する。減速開始フラグFdが「True」でない場合(S30:N)に処理はステップS31へ進む。減速開始フラグFdが「True」である場合(S30:Y)に処理はステップS36へ進む。
ステップS36において速度低下時点判定部42は、減速開始取消条件が成立するか否かを判定する。減速開始取消条件が成立しない場合(S36:N)に処理はステップS33へ進む。減速開始取消条件が成立する場合(S36:Y)に処理はステップS37へ進む。
ステップS37において速度低下時点判定部42は、減速開始フラグFdを「False」に設定する。その後に処理はステップS31に進む。
【0044】
ステップS31において速度低下時点判定部42は、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したか否かを判定する。減速を開始した場合(S31:Y)に処理はステップS32へ進む。減速を開始してない場合(S31:N)に処理はステップS35へ進む。ステップS35において速度低下時点判定部42は、自車両1の速度低下状態を検出していないと判定する。その後に速度低下状態検出処理は終了する。
ステップS32において速度低下時点判定部42は、減速開始フラグFdを「True」に設定する。その後に処理はステップS33に進む。
【0045】
ステップS33において速度低下時点判定部42は、自車両1が停止直前であるか否かを判定する。自車両1が停止直前でない場合(S33:N)に処理はステップS35へ進み、自車両1の速度低下状態を検出していないと判定して速度低下状態検出処理は終了する。
自車両1が停止直前である場合(S33:Y)に処理はステップS34へ進む。速度低下時点判定部42は、自車両1の速度低下状態を検出したと判定する。その後に速度低下状態検出処理は終了する。
【0046】
図5を参照する。速度低下状
態を検出した場合(S3:Y)に処理はステップS11に進む。速度低下状
態を検出してない場合(S3:N)に処理はステップS4に進む。速度低下時点判定部42は、記録済フラグFrを「False」に設定する。
ステップS5において制御指令値演算部43は、変数iを「1」に初期化する。ステップS6において制御指令値演算部43は、時刻t+i×dtにおける目標走行軌道Xの点X
t+i×dtの位置を算出する。ステップS7において制御指令値演算部43は、目標走行軌道Xの点X
t+i×dtにおける速度指令値を算出する。ステップS8において制御指令値演算部43は、変数iの値を1つ増加する。ステップS9において制御指令値演算部43は、変数iがNより大きいか否かを判定する。変数iがNより大きくない場合(S9:N)に処理はステップS6に戻る。変数iがNより大きい場合(S9:Y)に処理はステップS10に進む。
【0047】
ステップS10において制御指令値演算部43は、上式(7)の評価関数J1を小さくする最適化計算により制御入力Uを算出する。その後に処理はステップS21へ進む。
一方で、ステップS11において速度低下時点判定部42は、最初に速度低下状態を検出したか否か(すなわち記録済フラグFrが「False」であるか否か)を判定する。最初に速度低下状態を検出した場合(S11:Y)に処理はステップS12に進む。既に速度低下状態が検出済みであった場合(S11:N)に処理はステップS14に進む。
ステップS12において速度低下時点判定部42は、記録済フラグFrを「True」に設定する。ステップS13において速度低下時点判定部42は横偏差Yoffを記録する。ステップS14~S16の処理はステップS5~S7の処理と同様である。
【0048】
ステップS17において制御指令値演算部43は、横偏差Yoffに基づいて目標走行軌道Xの点Xt+Tを補正する。
ステップS18において制御指令値演算部43は、変数iの値を1つ増加する。ステップS19において制御指令値演算部43は、変数iがNより大きいか否かを判定する。変数iがNより大きくない場合(S19:N)に処理はステップS15に戻る。変数iがNより大きい場合(S19:Y)に処理はステップS20に進む。ステップS20において制御指令値演算部43は、上式(8)の評価関数J2を小さくする最適化計算により制御入力Uを算出する。その後に処理はステップS21へ進む。
ステップS21において制御指令値演算部43は、制御入力Uで自車両1を制御する。ステップS22においてイグニションキーがオフになったか判定する。イグニションキーがオフでない場合(S22:N)に処理はステップS1に戻る。イグニションキーがオフになった場合(S22:Y)に処理は終了する。
【0049】
(変形例)
(1)上記実施形態では、減速開始取消条件(A)「自車両が目標停止位置に停止した」又は(B)「目標停止位置が変更若しくはキャンセルされた」のいずれか一方が成立すると、速度低下時点判定部42が、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始した旨の判定を取り消した。これに代えて
図7に示すフローチャートのように減速開始取消条件(B)の判断を省略してもよい。
ステップS40において速度低下時点判定部42は自車両1が停止状態であるか否かを判定する。自車両1が停止状態である場合(S40:Y)に処理はステップS41へ進む。自車両1が停止状態でない場合(S40:N)に処理はステップS42へ進む。ステップS41において速度低下時点判定部42は減速開始フラグFdを「False」に設定する。
ステップS42において速度低下時点判定部42は減速開始フラグFdが「True」であるか否かを判定する。減速開始フラグFdが「True」である場合(S42:Y)に処理はステップS45へ進む。減速開始フラグFdが「True」でない場合(S42:N)に処理はステップS43へ進む。ステップS43~S47の処理は
図6のステップS31~S35の処理と同様である。
【0050】
(2)上記の減速開始取消条件(A)及び(B)の判定は、「停止のための減速が必要なくなったこと」を検出する判定であり、次式(9)が満たされるか否かを判定することで代用してもよい。
L>v2/(2a)+LTH …(9)
LTH:判定マージン
すなわち、自車両1が目標停止位置に対して減速を開始したと判定した後に状況が変わり、目標停止位置までの余裕がLTH以上になったら、目標停止位置へ対する自車両1の減速を開始した旨の判定を取り消してもよい。
【0051】
(3)さらに、上式(9)の条件と上式(1)の条件とを組み合わせて、自車両1の速度低下状態を検出してもよい。
図8は、速度低下状態検出処理の第3例のフローチャートである。
ステップS50において速度低下時点判定部42は自車両1が減速中であるか否かを判定する。速度低下時点判定部42は、次式(10)が成立する場合に自車両1が減速中であると判定する。
L<v
2/(2a)+L
TH …(10)
自車両1が減速中である場合(S50:Y)処理はステップS51へ進む。減速中でない場合(S50:N)処理はステップS53へ進む。
ステップS51において速度低下時点判定部42は自車両1が停止直前であるか否かを判定する。自車両1が停止直前である(S51:Y)に処理はステップS52へ進む。自車両1が停止直前でない場合(S51:N)に処理はステップS53へ進む。ステップS52において速度低下時点判定部42は、自車両1の速度低下状態を検出したと判定する。ステップS53において速度低下時点判定部42は、自車両1の速度低下状態を検出していないと判定する。
図8のステップS50の判定では、マージンL
THの分だけ、減速中であるか否かの判定条件が緩くなるが、ステップS51の停止直前であるか否かの判定と合わせれば、上記の実施形態と同様となる。
【0052】
(4)さらに、自車両1が停止直前か否かを判定する閾値が車速V
THであることを考えると、
図8のステップS50において、条件式L<V
TH
2/(2a)+L
THを満すか否かに応じて、自車両1が減速中か否かを判定してもよい。この場合、自車両の車速vが閾値V
TH以下であることが間接的に考慮されているため、停止直前であるか否かを判定するステップS51を省略してもよい。
【0053】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ16は、自車両の車速が所定の速度閾値未満に低下するか否かを判定する車速判定処理と、車線中央又は車線境界線に対する自車両の横偏差を検出する横偏差検出処理と、車速が速度閾値未満に低下すると判定した場合、車速が速度閾値未満に低下する時点である車速低下時点以降の横偏差の変化を抑制するように自車両の第1目標走行軌道を生成する目標軌道生成処理と、自車両が回避すべき回避対象物を検出する回避対象物検出処理と、車速低下時点後、第1目標走行軌道に沿って走行しつつ自車両の減速度を調整することにより回避対象物を回避する回避処理を実行する。
これにより、自車両の速度が低いとき、物体を回避するのに伴う発生する舵角変化を抑制できる。これにより、ステアリングホイールが大きく動いて乗員に違和感を与えるのを抑制できる。
【0054】
(2)コントローラ16は、自車両の前方の目標停止位置を設定する処理と、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始した否かを判定する処理と、を実行し、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したと判定し、且つ車速が速度閾値未満に低下すると判定した場合に、目標軌道生成処理と、回避処理と、を実行してもよい。これにより、目標停止位置へ停止する場合に限定して舵角変化を抑制できる。
【0055】
(3)コントローラ16は、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したと判定した後に、自車両が目標停止位置に停止するか、目標停止位置が変更若しくはキャンセルされた場合に、目標軌道生成処理と、回避処理と、を実行しない。これにより、舵角変化を不要に抑制してしまうことを防止できる。
【0056】
(4)コントローラ16は、自車両の現在の車速に応じて、所定減速度で目標停止位置に停止できる所要距離を算出する処理を実行し、自車両から目標停止位置までの距離が、所要距離に応じて設定される距離閾値未満である場合に、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したと判定し、目標停止位置へ対する自車両の減速を開始したと判定し、且つ車速が速度閾値未満に低下すると判定した場合に、目標軌道生成処理と、回避処理と、を実行してよい。これにより、自車両が目標停止位置へ減速しているのか否かを判定できる。
【0057】
(5)コントローラは、車線形状に基づいて第2目標走行軌道を生成し、第2目標走行軌道の車線幅方向位置を、車速低下時点に検出した横偏差に応じて移動させることにより、第1目標走行軌道を生成してよい。これにより、横偏差を維持する目標走行軌道を算出できる。
【0058】
(6)コントローラは、自車両に加減速度と操舵角の制御入力を入力したときの自車両の予測位置と第1目標走行軌道との差分と、回避対象物に対する自車両の接近度合いとに応じた評価関数を小さくするように制御入力を演算する処理を実行してよく、第1時刻において制御入力を演算する際に評価される評価関数が、第1時刻よりも前の第2時刻において演算された制御入力を自車両に入力したときの接近度合いに、自車両に対する回避対象物の相対速度を乗算して得られた項を含んでよい。これにより、減速度の調整で回避対象物を回避できる。
【符号の説明】
【0059】
1…自車両、2…車線、2c…車線中央、3…先行車両、4a、4b…駐車車両、P1…目標停止位置、X…目標走行軌道、Xp…予測軌道、Yoff…横偏差