(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】コンバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20250115BHJP
【FI】
H02M7/12 A
(21)【出願番号】P 2024504132
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009138
(87)【国際公開番号】W WO2023166662
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健
(72)【発明者】
【氏名】榎嶋 浩行
(72)【発明者】
【氏名】大塚 康司
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-147775(JP,A)
【文献】特開2008-43057(JP,A)
【文献】特開2015-162998(JP,A)
【文献】特許第6964731(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相電源から多相電流の入力を受け、直流電圧を出力するコンバータの制御装置であり、
前記多相電源の位相を検出する位相検出器と、
前記コンバータの電圧方程式に基づき前記位相検出器の位相検出誤差を補正して補正位相を演算する位相補正器と、
前記補正位相を用いて前記コンバータの多相電流の検出値を直流電流に変換する電流座標変換器と、
前記コンバータの電流指令および前記直流電流が一致するように制御して電圧指令を演算する電流制御器と、
前記補正位相を用いて前記電圧指令を多相電圧指令に変換する電圧座標変換器と、
前記コンバータの電圧方程式に基づき前記コンバータのリアクトルのインダクタンスを推定する推定器と、
を備え、
前記位相補正器は、前記電圧指令、前記直流電流、および前記リアクトルのインピーダンスを用いて前記位相検出誤差を補正し、
前記推定器は、前記電圧指令および前記直流電流を用いて前記インダクタンスを推定し、
前記電流制御器は、前記推定器が推定した前記インダクタンスを用いて電流制御ゲインを更新する、
コンバータの制御装置。
【請求項2】
前記直流電流が基準値より小さい場合に、前記推定器は、前記インダクタンスの推定を停止し、
前記直流電流が前記基準値以上となるときに、前記位相補正器は、前記位相検出誤差の補正値をラッチし、
前記直流電流が前記基準値以上である場合に、前記推定器は、ラッチされた補正値を用いて演算された前記電圧指令および前記直流電流によって前記インダクタンスの推定を行う、
請求項1に記載のコンバータの制御装置。
【請求項3】
前記位相補正器は、前記電圧指令、前記直流電流、および前記リアクトルのインピーダンスを用いて演算した前記位相検出器の前記位相検出誤差が0になるようにフィードバック制御を行うことで前記補正位相を演算する、
請求項1または請求項2に記載のコンバータの制御装置。
【請求項4】
前記推定器は、前記コンバータの電圧方程式に基づき前記電圧指令および前記直流電流を入力とする状態推定オブザーバにより前記インダクタンスを推定する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコンバータの制御装置。
【請求項5】
前記電流制御器は、前記推定器が推定した前記インダクタンスを用いて前記電流制御ゲインを段階的に更新する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンバータの制御装置。
【請求項6】
前記電流制御器は、前記推定器が推定した前記インダクタンスを用いて前記電流制御ゲインを連続的に更新する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンバータの制御装置。
【請求項7】
前記推定器が推定した前記インダクタンスの監視によって異常が判定された場合に、前記電流制御器は、前記電流制御ゲインを更新しない、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のコンバータの制御装置。
【請求項8】
前記位相補正器が演算した前記位相検出誤差の補正値の監視によって異常が判定された場合に、前記位相補正器は、前記位相検出器が検出する位相を補正せず、前記推定器は、前記インダクタンスの推定を行わない、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のコンバータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、3相電動機の電流制御の例を開示する。3相電動機の制御装置は、磁気飽和によって3相電動機のインダクタンスが変化した場合にも、インダクタンスを同定し、同定した値に応じて制御ゲインを調整することで、電流制御の安定性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3相PWMコンバータ(PWM:Pulse Width Modulation)および3相電動機の電流制御は、同様の方法で実施可能である。すなわち、特許文献1の制御方法は、3相PWMコンバータにも適用できる。一方、特許文献1ではインダクタンスが電圧指令を基に計算されている。このため、通電位相に誤差がある場合に、電圧指令および実電圧の間に誤差が発生し、計算するインダクタンスにも誤差が発生する。これにより、制御ゲインの調整が適切に行われないことがある。
【0005】
本開示は、このような課題の解決に係るものである。本開示は、通電位相誤差がある場合においても、制御ゲインの調整をより適切に行えるコンバータの制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るコンバータの制御装置は、多相電源から多相電流の入力を受け、直流電圧を出力するコンバータの制御装置であり、前記多相電源の位相を検出する位相検出器と、前記コンバータの電圧方程式に基づき前記位相検出器の位相検出誤差を補正して補正位相を演算する位相補正器と、前記補正位相を用いて前記コンバータの多相電流の検出値を直流電流に変換する電流座標変換器と、前記コンバータの電流指令および前記直流電流が一致するように制御して電圧指令を演算する電流制御器と、前記補正位相を用いて前記電圧指令を多相電圧指令に変換する電圧座標変換器と、前記コンバータの電圧方程式に基づき前記コンバータのリアクトルのインダクタンスを推定する推定器と、を備え、前記位相補正器は、前記電圧指令、前記直流電流、および前記リアクトルのインピーダンスを用いて前記位相検出誤差を補正し、前記推定器は、前記電圧指令および前記直流電流を用いて前記インダクタンスを推定し、前記電流制御器は、前記推定器が推定した前記インダクタンスを用いて電流制御ゲインを更新する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るコンバータの制御装置であれば、通電位相誤差がある場合においても、制御ゲインの調整をより適切に行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係るコンバータおよびその制御装置の構成図である。
【
図2】実施の形態1に係るコンバータにおいて、リアクトルに流れる電流とインダクタンスとの関係を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係るコンバータにおけるリアクトルのインダクタンスの変化による電流制御帯域の変化を示す図である。
【
図4】実施の形態1に係る制御装置の電流制御器の構成を示すブロック図である。
【
図5】実施の形態1に係る制御装置の推定器の構成を示すブロック図である。
【
図6】実施の形態1に係る制御装置の位相補正器の構成を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態1に係る制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態1に係る制御装置におけるインダクタンスの推定値および電流制御ゲインの対応の例を示す図である。
【
図9】実施の形態1に係る制御装置におけるインダクタンスの推定値および電流制御ゲインの対応の例を示す図である。
【
図10】実施の形態1に係る制御装置の主要部のハードウェア構成図である。
【
図11】実施の形態2に係る制御装置の電流制御器の構成を示すブロック図である。
【
図12】実施の形態2に係る制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【
図13】実施の形態3に係るコンバータおよびその制御装置の構成図である。
【
図14】実施の形態3に係る位相補正器の電流制御器の構成を示すブロック図である。
【
図15】実施の形態3に係る制御装置の動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の対象を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示の対象は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、または実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るコンバータ3およびその制御装置10の構成図である。
【0011】
交流電源1は、多相電源の例である。この例において、交流電源1は、3相交流の電力を供給する電源である。交流電源1は、リアクトル2を介して、3相電圧形PWMコンバータであるコンバータ3に交流電力を供給する。コンバータ3は、交流電源1から入力された交流電力を直流電力に変換して出力する装置である。コンバータ3は、変換した直流電力を平滑コンデンサ4に供給する。直流母線電圧Vdcは、平滑コンデンサ4から図示されないインバータに供給され、図示されない負荷電動機の駆動に使用される。
【0012】
コンバータ3の制御装置10は、位相検出器5と、電流センサ6と、制御部7と、を備える。
【0013】
位相検出器5は、交流電源1の位相φを検出する。なお、位相検出器5は、交流電源1の位相を検出できれば、ハードウェアおよびソフトウェアを問わず、どのような構成であってもよい。
【0014】
電流センサ6は、コンバータ3の相電流を検出する。この例において電流センサ6は、コンバータ3の電流のうちの2相としてIrおよびIsを検出する。なお、電流センサ6は、コンバータ3の電流の3相を検出する構成であってもよい。
【0015】
制御部7は、位相検出器5が検出する交流電源1の位相φ、電流センサ6が検出するコンバータ3の相電流IrおよびIs、直流母線電圧Vdcに基づいて、コンバータ3への電圧指令Vr、Vs、およびVtを計算する。制御部7は、電圧制御器71と、電流制御器72と、電圧座標変換器73と、電流座標変換器74と、位相補正器75と、推定器76と、を備える。
【0016】
電圧制御器71は、直流母線電圧の指令値Vdc
*および検出値Vdcを用いて、q軸電流指令Iq
*を計算する。電圧制御器71は、例えばPID制御(P:Proportional、I:Integral、D:Differential)などの種々の方法を用いることができる。d軸電流指令Id
*は力率=1を達成するために通常0に設定されるが、電圧飽和を考慮して弱め界磁制御が実施されてもよい。
【0017】
電流制御器72は、dq軸電流の指令値Id
*およびIq
*と検出値IdおよびIqとを用いて、dq軸電圧の指令値Vd
*およびVq
*を計算する。ここで、d軸およびq軸を表す際に、dq軸と表記する場合がある。電流制御器72は、例えばPID制御などの種々の方法を用いることができる。
【0018】
電圧座標変換器73は、dq軸電圧の指令値を、コンバータ3への3相電圧指令V
r、V
s、およびV
tに補正位相θを用いて変換する。ここで、補正位相θは、位相検出器5が検出した位相φを位相補正器75が補正したものである。位相補正器75の詳細については、後述する。なお、
図1に図示されていないが、3相電圧指令はキャリア比較によりPWM信号に変換され、コンバータ3のスイッチング素子へのゲート信号として印加される。
【0019】
電流座標変換器74は、コンバータ3の相電流IrおよびIsを、dq軸電流IdおよびIqに変換する。なお、電流座標変換器74は、2相分の電流を入力とするものに限定されず、3相分の電流を入力とするものであってもよい。
【0020】
推定器76は、d軸の電圧指令Vd
*とdq軸電流の検出値IdおよびIqとを用いて、リアクトル2のインダクタンスを推定する。推定器76が推定したインダクタンスL^は、電流制御器72に出力される。電流制御器72は、入力されたインダクタンスの推定値L^を用いて、制御ゲインを更新する。推定器76の詳細については、後述する。
【0021】
図2は、実施の形態1に係るコンバータ3において、リアクトル2に流れる電流とインダクタンスとの関係を示す図である。
図2に示されるグラフの横軸は、リアクトル2に流れる電流の大きさを表す。
図2に示されるグラフの縦軸は、リアクトル2のインダクタンスの大きさを表す。
【0022】
リアクトル2はコイルであるから、電圧を印加すると時間とともにリアクトル2を流れる電流は増加し、磁束密度も上昇していく。別の言い方をすれば、直流母線に繋がれる負荷が大きいほど、リアクトル2に流れる電流が大きくなって磁束密度が上昇していく。一方、磁束密度は無限大に上昇するわけではなく、材質および形状などによって決まる最大磁束密度を超えると磁気飽和状態になる。磁気飽和を起こすと、リアクトル2のインダクタンスは急速に減少していく。
図2において、この様子が示されている。
【0023】
図3は、実施の形態1に係るコンバータ3におけるリアクトル2のインダクタンスの変化による電流制御帯域の変化を示す図である。
【0024】
通常、電流制御器72において、リアクトル2のインダクタンスの設計値を用いて電流制御ゲインが設計される。リアクトル2の実際のインダクタンスと電流制御器72のインダクタンスの設計値が一致している場合に、電流制御のオープンループ特性は
図3のBのようになり、電流制御帯域はω
Bとなる。リアクトル2の実際のインダクタンスが電流制御器72のインダクタンスの設計値より大きい場合に、見かけ上電流制御帯域が低くなり、オープンループ特性は
図3のAのようになる。このとき、電流制御帯域は、設計上の帯域ω
Bより低いω
Aとなる。一方、リアクトル2の実際のインダクタンスが電流制御器72のインダクタンスの設計値より小さい場合に、見かけ上電流制御帯域が高くなり、オープンループ特性は
図3のCのようになる。このとき、電流制御帯域は、設計上の帯域ω
Bより高いω
Cとなる。
【0025】
これを
図2に示される関係と対応付けると、コンバータ3の直流母線に接続される負荷が大きくなるときに、リアクトル2に流れる電流が大きくなり、磁気飽和の影響でリアクトル2のインダクタンスが減少することになる。このとき、リアクトル2の実際のインダクタンスは電流制御器72のインダクタンスの設計値よりも小さくなるため、見かけ上電流制御帯域が高くなる。インダクタンスが減少し電流制御帯域が高くなると、振動的な応答になったり発振したりして、電流の制御性が悪化しうる。本開示の電流制御器72は、インダクタンスの推定値を用いて制御ゲインを更新することで、リアクトル2のインダクタンスが変化した場合にも安定した電流制御を可能としている。
【0026】
図4は、実施の形態1に係る制御装置10の電流制御器72の構成を示すブロック図である。
【0027】
先に述べたリアクトル2のインダクタンス変化による電流制御の安定性への影響を抑えるように、電流制御器72は、変化したインダクタンスの推定値を用いて制御ゲインを更新する。電流制御器72は、推定器76が推定したリアクトル2のインダクタンスL^を用いて電流制御器72の制御ゲイン721を更新する。一般的に、電流制御器72の制御ゲイン721は、電流制御帯域の設計値ωIとリアクトル2のインダクタンス設計値Lを用いて、ωILに設定される。ここで、推定器76が推定したリアクトル2のインダクタンスL^を用いてゲインを更新するには、ゲインωILに対してL^/Lを乗算すればよい。つまり、予め設定したゲインωILに、インダクタンスの推定器76による推定値L^と設計値Lとの比率を掛けることで、制御ゲインが更新される。
【0028】
図4において、電流制御としてPI制御を用いた例が示される。電流制御器72は、dq軸の電流偏差に制御ゲイン721を乗算し、その出力に対して積分時定数722を乗算した上で積分器723によって積分を実施する。電流制御器72は、制御ゲイン721の出力すなわち比例項と積分器723の出力とを加算して、dq軸の電圧指令値V
d
*およびV
q
*を計算する。このように、リアクトル2のインダクタンスをリアルタイムに推定してゲインを調整することで、インダクタンス変化があったとしても安定な電流制御が可能になる。なお、
図4に示される電流制御の構成は一例であり、電流制御器72は、例えばPID制御などの種々の制御方式を用いることができる。
【0029】
図5は、実施の形態1に係る制御装置10の推定器76の構成を示すブロック図である。
【0030】
推定器76は、d軸電圧指令Vd
*とdq軸電流の検出値IdおよびIqを用いてリアクトル2のインダクタンスを推定する状態推定オブザーバである。ここで、コンバータ3のd軸の電圧方程式は、次の式(1)で表される。
【0031】
【0032】
ここで、Lはリアクトル2のインダクタンス、ωは交流電源1の周波数、sはラプラス演算子を示している。式(1)のインダクタンスLを推定値L^に置き換えると、d軸電圧の推定値Vd^を次の式(2)のように得ることができる。
【0033】
【0034】
式(1)および式(2)に基づく電圧差分eVdは、次の式(3)で表される。
【0035】
【0036】
式(3)から、リアクトル2のインダクタンスLおよびその推定値L^の差(L-L^)がゼロになれば、電圧差分eVdもゼロになる。よって、推定器76は、次の式(4)で表されるような制御則により、リアクトル2のインダクタンスを推定する。
【0037】
【0038】
推定器76は、式(4)のように実際の電圧V
dと推定電圧V
d^の電圧誤差e
Vdがゼロになるように積分制御を実施することで、インダクタンスの推定値L^を得る。ここで、Kは推定器76の制御ゲインを示す。制御ゲインKが大きければ推定値は早く収束するが、計算の安定性を考慮して適切な値に設定される。なお、式(4)のV
dはコンバータ3の実際の電圧であるが、電圧指令値V
d
*がこれに相当するため、実際には電圧V
dは電圧指令値V
d
*に置き換えられる。つまり、実際のコンバータ電圧V
dと電圧指令V
d
*とが一致している必要がある。なお、ここではコンバータ3のd軸に着目した推定器76を示したが、q軸の電圧方程式を用いても同様のインダクタンス推定を実施することができる。また、推定器76に入力されるdq軸電流の検出値I
dおよびI
qは、dq軸電流の指令値I
d
*およびI
q
*であってもよい。
図5において、式(4)に基づくインダクタンス推定のブロック図が示されている。
【0039】
図6は、実施の形態1に係る制御装置10の位相補正器75の構成を示すブロック図である。
【0040】
位相検出器5が検出する交流電源1の位相φについて、例えば、位相検出回路の特性または位相の演算方法などによって検出誤差が生じうる。推定器76は電圧指令Vd
*を用いてリアクトル2のインダクタンスを推定するので、通電位相に誤差がある場合には電圧指令Vd
*および実電圧Vdの間に誤差が生じ、これにより推定器76の推定精度が低下する。このような推定精度の低下を抑えるように、位相補正器75は、位相検出器5が検出する位相φを補正する。
【0041】
ここで、電動機の拡張誘起電圧モデルは、誘起電圧をE、巻線抵抗をR、位相検出誤差をΔθとして、次の式(5)および式(6)のように表される。
【0042】
【0043】
【0044】
これをコンバータ3に適用すると、Eは、交流電源1の電圧に相当する。Δθは、位相検出器5が検出する交流電源1の位相φの検出誤差に相当する。また、コンバータ3において、巻線抵抗Rは十分に小さくゼロと見なすことができる。コンバータ3の電流は電動機の電流と反対方向に考えるため、電流の符号を反転させることで、次の式(7)および式(8)のようにコンバータ3の拡張誘起電圧モデルを得ることができる。
【0045】
【0046】
【0047】
式(7)および式(8)より、位相検出器5の検出誤差は、次の式(9)のように得ることができる。
【0048】
【0049】
なお、式(9)は、電圧VdおよびVqをその指令値Vd
*およびVq
*に置き換えて演算される。また、電流値IdおよびIqは、その指令値Id
*およびIq
*に置き換えられてもよい。式(9)により、位相補正器75は、電圧指令Vd
*およびVq
*と、電流IdおよびIqと、リアクトル2のインピーダンスωLを用いて、位相検出器5の位相検出誤差Δθを計算できる。
【0050】
位相補正器75は、式(9)で計算した位相検出誤差から、ローパスフィルターまたはその他の各種フィルターなどによって高周波成分を除去するように構成されていてもよい。位相補正器75は、式(9)を用いて位相誤差Δθを計算し、PLL制御(PLL:Phase Locked Loop)により、例えば次のように位相補正値Δφを求める。位相補正器75は、位相検出誤差指令=0と位相検出誤差=Δθとの差をPI制御器752で制御して補正速度を求める。位相補正器75は、補正速度を積分器753で積分することで位相補正値Δφを求める。位相補正器75は、求めた位相補正値Δφを位相φに加算し、補正位相θを算出する。このようなPLL制御ループを構成することにより、位相検出器5が検出する交流電源1の位相φの検出誤差を補正して通電位相を適正化でき、電圧指令および実電圧を一致させることができるようになる。これにより、推定器76によるインダクタンスの推定精度の低下が抑えられる。
【0051】
なお、式(9)によって補正を行う位相補正器75は、リアクトル2のインダクタンスLを必要とする。このため、位相検出値φの検出誤差が生じている場合と、位相検出値φの検出誤差が生じていなくてもインダクタンスLが変化する場合とが切り分けらず、いずれの場合においても位相検出器5に位相検出誤差Δθが発生しているとして計算される。ここで、
図2に示される関係によれば、リアクトル2のインダクタンスは、リアクトル2に流れる電流が大きくなると磁気飽和の影響で減少する。一方、リアクトル2のインダクタンスは、リアクトル2に流れる電流が小さい場合に、変化しない。制御部7は、電流およびインダクタンスのこの関係を利用し、電流の大きさによって動作を切り替えることで、インダクタンスLの変化が位相検出誤差Δθとして計算される影響を抑える。電流が基準値より小さい場合に、位相補正器75は、位相誤差の補正または学習を行う。すなわち、位相補正器75は、式(9)などに基づいて位相補正値を算出し、算出した位相補正値を用いて通電位相を補正する。このとき、推定器76は、インダクタンスの推定を行わない。推定器76は、例えばインダクタンスの設計値を出力するようにしてもよいし、直前の推定値を出力するようにしてもよい。一方、電流が基準値以上の場合に、位相補正器75は、電流が基準値より小さい場合に算出された位相補正値を用いて通電位相を補正する。このとき、推定器76は、補正された通電位相に基づいて演算された電圧指令および電流値などを用いて、インダクタンスの推定を行う。なお、基準値は、例えばリアクトル2において磁気飽和が発生する電流値などに応じて予め設定される電流の閾値である。基準値と比較される電流値は、例えば、dq軸電流I
dまたはI
qなどである。
【0052】
図7は、実施の形態1に係る制御装置10の動作の例を示すフローチャートである。
図7において、位相補正およびインダクタンス推定における処理の例が示される。
図7の処理は、例えばコンバータ3の制御を開始するときに行われる。
【0053】
ステップS701において、位相補正器75は、例えば
図6に示されるブロック図などの構成により、位相検出器5の位相検出誤差を補正する。その後、制御装置10の処理は、ステップS702に進む。
【0054】
ステップS702において、制御部7は、コンバータ3の電流値が基準値以上であるかを判定する。電流値が基準値以上である場合に、リアクトル2のインダクタンスは変化するものとして、制御装置10の処理は、ステップS703に進む。一方、電流値が基準値より小さい場合に、リアクトル2のインダクタンスは変化していないものとして、制御装置10の処理は、推定器76によるインダクタンスの推定を行わずにステップS707に進む。
【0055】
ステップS703において、位相補正器75は、インダクタンスが変化しているので、位相検出誤差の補正値Δφをラッチする。これにより、インダクタンスの変化により式(9)を通じて補正値Δφが変動することが抑えられる。位相補正器75は、例えば
図6における積分器753の出力をラッチする。補正値Δφがラッチされることで、インダクタンスの変化による影響を受けずに位相検出器5の位相検出誤差が補正される。その後、制御装置10の処理は、ステップS704に進む。
【0056】
ステップS704において、推定器76は、例えば
図5に示されるブロック図などの構成により、リアクトル2のインダクタンスを推定する。その後、制御装置10の処理は、ステップS705に進む。
【0057】
ステップS705において、制御部7は、コンバータ3の電流値が基準値より小さいかを判定する。電流値が基準値以上である場合に、リアクトル2のインダクタンスは変化するものとして、制御装置10の処理は、インダクタンスの推定を継続するようにステップS704に進む。一方、電流値が基準値より小さい場合に、リアクトル2のインダクタンスは変化しないものとして、制御装置10の処理は、ステップS706に進む。
【0058】
ステップS706において、推定器76は、リアクトル2のインダクタンスの推定を停止する。このとき、リアクトル2のインダクタンスの変化は発生していないので、推定器76の積分器761の出力は、初期値すなわち設計値にリセットされてもよい。その後、制御装置10の処理は、ステップS707に進む。
【0059】
ステップS707において、制御部7は、コンバータ3の制御が停止しているかを判定する。コンバータ3の制御が停止していない場合に、制御装置10の処理は、位相検出誤差を補正するようにステップS701に進む。一方、コンバータ3の制御が停止している場合に、制御装置10の処理は、終了する。
【0060】
図8および
図9は、実施の形態1に係る制御装置10におけるインダクタンスの推定値および電流制御ゲインの対応の例を示す図である。
図8および
図9に示される上側のグラフおよび下側のグラフの横軸は、時間の経過を表す。
図8および
図9に示される上側のグラフの縦軸は、リアクトル2のインダクタンスの推定値を表す。
図8および
図9に示される下側のグラフの縦軸は、インダクタンスの推定値に応じて電流制御器72において設定される電流制御ゲインを表す。
図8および
図9において、磁気飽和によってインダクタンスの推定値が減少する状況が示される。
【0061】
図8において、インダクタンスの推定値に応じて段階的に電流制御ゲインが更新される方式の例が示される。この方式は、例えば、電流制御器72に設定される電流制御ゲインが制御系の安定性に対して余裕のある設計である場合などに採用される。
【0062】
図9において、インダクタンスの推定値に応じて連続的に電流制御ゲインが更新される方式の例が示される。この方式は、例えば、電流制御器72に設定される電流制御ゲインが制御系の安定性に対して余裕の少ない設計である場合、すなわち、電流脈動または母線電圧の脈動を抑制するようにハイゲインの設計である場合などに採用される。制御ゲインを連続的に変化させることで、制御の安定性がより高められる。
【0063】
以上に説明したように、実施の形態1に係る制御装置10は、コンバータ3の制御装置である。コンバータ3は、交流電源1から3相電流の入力を受け、スイッチングを行って直流電圧を出力する。制御装置10は、位相検出器5と、位相補正器75と、電流座標変換器74と、電流制御器72と、電圧座標変換器73と、推定器76と、を備える。位相検出器5は、交流電源1の位相を検出する。位相補正器75は、コンバータ3の電圧方程式に基づき位相検出器5の位相検出誤差を補正して、補正位相を演算する。電流座標変換器74は、補正位相を用いてコンバータ3の3相電流の検出値をdq軸電流に変換する。電流制御器72は、コンバータ3の電流指令および電流座標変換器74が変換したdq軸電流が一致するように制御して電圧指令を演算する。電圧座標変換器73は、補正位相を用いて電圧指令を3相電圧指令に変換する。推定器76は、コンバータ3の電圧方程式に基づきコンバータ3のリアクトル2のインダクタンスを推定する。位相補正器75は、電流制御器72が演算した電圧指令、電流座標変換器74が変換したdq軸電流、および推定器76が推定したリアクトル2のインピーダンスを用いて位相検出誤差を補正する。推定器76は、電流制御器72が演算した電圧指令および電流座標変換器74が変換したdq軸電流を用いてインダクタンスを推定する。電流制御器72は、推定器76が推定したインダクタンスを用いて電流制御ゲインを更新する。
【0064】
このような構成により、通電位相の誤差が補正された状態でインダクタンスの推定が行われる。これにより、インダクタンスの推定の精度がより高められ、電流制御帯域が適正化されることで、電流制御の安定性がより高められる。このため、通電位相誤差がある場合においても、制御ゲインの調整がより適切に行われるようになる。
【0065】
また、電流座標変換器74の変換したdq軸電流が基準値より小さい場合に、推定器76は、インダクタンスの推定を停止する。電流座標変換器74の変換したdq軸電流が基準値以上となるときに、位相補正器75は、位相検出誤差の補正値をラッチする。電流座標変換器74の変換したdq軸電流が基準値以上である場合に、推定器76は、ラッチされた補正値を用いて演算された電圧指令および変換されたdq軸電流によってインダクタンスの推定を行う。
【0066】
このような構成により、リアクトル2のインダクタンス変動が発生しない条件では通電位相が補正される。このとき、インダクタンスの推定が停止しているので、通電位相が効果的に補正される。また、リアクトル2のインダクタンス変動が発生する条件では位相補正値がラッチされてインダクタンス推定が行われるため、インダクタンスが精度よく推定される。このように、通電位相の補正およびインダクタンスの推定などがインダクタンス変動の発生有無などの条件に応じて切り替えられるので、インダクタンス変動が生じうる場合においても、より安定な電流制御系が提供される。
【0067】
また、位相補正器75は、位相検出器5の位相検出誤差が0になるようにフィードバック制御を行うことで補正位相を演算する。位相検出器の位相検出誤差は、電流制御器72が演算した電圧指令、電流座標変換器74が変換したdq軸電流、およびリアクトル2のインピーダンスを用いて演算される。
【0068】
また、推定器76は、コンバータ3の電圧方程式に基づき、電流制御器72が演算した電圧指令および電流座標変換器74が変換したdq軸電流を入力とする状態推定オブザーバによりインダクタンスを推定する。
【0069】
また、電流制御器72は、推定器76が推定したインダクタンスを用いて電流制御ゲインを段階的に更新してもよい。このとき、インダクタンスの推定値に応じた制御ゲインの更新の処理がより簡易になる。
また、電流制御器72は、推定器76が推定したインダクタンスを用いて電流制御ゲインを連続的に更新してもよい。制御ゲインを連続的に変化させることで、制御の安定性がより高められる。
【0070】
続いて、
図10を用いて、制御装置10のハードウェア構成の例について説明する。
図10は、実施の形態1に係る制御装置10の主要部のハードウェア構成図である。
【0071】
制御装置10の各機能は、処理回路により実現し得る。処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。処理回路は、プロセッサ100aおよびメモリ100bと共に、あるいはそれらの代用として、少なくとも1つの専用ハードウェア200を備えてもよい。
【0072】
処理回路がプロセッサ100aとメモリ100bとを備える場合、制御装置10の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。そのプログラムはメモリ100bに格納される。プロセッサ100aは、メモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置10の各機能を実現する。
【0073】
プロセッサ100aは、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。メモリ100bは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROMなどの、不揮発性または揮発性の半導体メモリなどにより構成される。
【0074】
処理回路が専用ハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。
【0075】
制御装置10の各機能は、それぞれ処理回路で実現することができる。あるいは、制御装置10の各機能は、まとめて処理回路で実現することもできる。制御装置10の各機能について、一部を専用ハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。このように、処理回路は、専用ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで制御装置10の各機能を実現する。
【0076】
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態2で説明しない特徴については、実施の形態1で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0077】
実施の形態1に係る制御装置10は、リアクトル2のインダクタンスを推定し、それに基づいて電流制御器72のゲインを更新することで電流制御を安定化している。実施の形態2において、インダクタンスの推定値を監視することで、電流制御器72の安定性をさらに高められる制御装置10の例を開示する。
【0078】
図11は、実施の形態2に係る制御装置10の電流制御器72の構成を示すブロック図である。
実施の形態2に係る制御装置10は、実施の形態1に係る制御装置10と比較し、電流制御器72の構成を除いて同一である。実施の形態2に係る制御装置10の電流制御器72は、実施の形態1に係る制御装置10の電流制御器72と比較し、判定部724をさらに備えている。
【0079】
判定部724は、推定器76の推定するリアクトル2のインダクタンスの推定値を監視し、当該推定値が異常か否かを判定する機能を搭載する部分である。例えば、判定部724は、インダクタンスの推定値L^が、予め設定された範囲から外れていないかを判定する。このとき、判定部724は、予め設定されたインダクタンスの最大値Lmaxおよび最小値Lminを記憶する。判定部724は、推定器76の推定するインダクタンスL^がLmin<L^<Lmaxの条件を満たしているかを判定する。Lmin<L^<Lmaxの条件が満たされる場合に、判定部724は、インダクタンスの推定値は正常であると判定する。このとき、電流制御器72は、正常と判定されたインダクタンスの推定値を用いて制御ゲイン721を更新する。一方、Lmin<L^<Lmaxの条件が満たされない場合に、判定部724は、インダクタンスの推定値は異常であると判定する。このとき、電流制御器72は、制御ゲイン721の更新を行わない。電流制御器72は、制御ゲイン721の更新を行わないときに、正常と判定されたインダクタンスの推定値を用いて直前に更新された制御ゲイン721の値を維持してもよい。
【0080】
判定部724は、インダクタンスの推定値L^の時間変化を監視してもよい。例えば、判定部724は、電流制御周期ごとにL^の時間変化量dL^/dtを計算して予め設定された基準値と比較する。判定部724は、計算した時間変化量が基準値を超えていない場合に、インダクタンスの推定値は正常であると判定する。このとき、電流制御器72は、正常と判定されたインダクタンスの推定値を用いて制御ゲイン721を更新する。一方、判定部724は、計算した時間変化量が基準値を超えている場合に、インダクタンスの推定値は異常であると判定する。このとき、電流制御器72は、制御ゲイン721の更新を行わない。
【0081】
また、インダクタンスは電流に応じて変化するため、判定部724は、インダクタンスの推定値L^の電流変化を監視してもよい。例えば、判定部724は、電流制御周期ごとにL^の電流変化量dL^/dIを計算して予め設定された基準値と比較する。判定部724は、計算した電流変化量が基準値を超えていない場合に、インダクタンスの推定値は正常であると判定する。このとき、電流制御器72は、正常と判定されたインダクタンスの推定値を用いて制御ゲイン721を更新する。一方、判定部724は、計算した電流変化量が基準値を超えている場合に、インダクタンスの推定値は異常であると判定する。このとき、電流制御器72は、制御ゲイン721の更新を行わない。
【0082】
図12は、実施の形態2に係る制御装置10の動作の例を示すフローチャートである。
図12において、インダクタンスの推定値の監視における処理の例が示される。
【0083】
ステップS1201において、判定部724は、推定器76が推定するインダクタンスの推定値が異常であるか判定するための処理を行う。インダクタンスの推定値が異常であるかの判定は、例えば、推定値自体の大きさ、推定値の時間変化量の大きさ、または推定値の電流変化量の大きさなどに基づいて行われる。このとき、判定部724は、例えば推定器76による推定値の読み込み、時間変化量の計算、または電流変化量の計算などの処理を行う。その後、制御装置10の処理は、ステップS1202に進む。
【0084】
ステップS1202において、判定部724は、インダクタンスの推定値が異常であるかを判定する。インダクタンスの推定値が異常であると判定する場合に、制御装置10の処理は、ステップS1203に進む。一方、インダクタンスの推定値が異常でないと判定する場合に、制御装置10の処理は、ステップS1204に進む。
【0085】
ステップS1203において、電流制御器72は、インダクタンスの推定値が異常であるため、制御装置10の処理は、制御ゲイン721の更新を行わずに終了する。このとき、推定器76の入力信号である電流または電圧などが異常な値となっている可能性もある。このため、制御装置10は、インダクタンスの推定値が異常であるときに、コンバータ3の制御自体を停止するように構成されていてもよい。
【0086】
ステップS1204において、電流制御器72は、インダクタンスの推定値が正常であるため、インダクタンスの推定値を用いて制御ゲイン721を更新する。その後、制御装置10の処理は、終了する。
【0087】
以上に説明したように、実施の形態2に係る制御装置10において、推定器76が推定したインダクタンスの監視によって異常の有無が判定される。異常があると判定される場合に、電流制御器72は、電流制御ゲインを更新しない。
【0088】
このような構成により、制御ゲインが異常な値に更新されてしまうことが抑えられるので、より安定な電流制御系が提供される。
【0089】
実施の形態3.
実施の形態3において、実施の形態1または実施の形態2で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態3で説明しない特徴については、実施の形態1または実施の形態2で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0090】
実施の形態3において、位相補正器75の位相補正値を監視することで、電流制御器72の安定性をさらに高められる制御装置10の例を提供する。
【0091】
図13は、実施の形態3に係るコンバータ3およびその制御装置10の構成図である。
【0092】
実施の形態3に係る制御装置10の制御部7において、実施の形態1に係る制御装置10と比較して、位相補正器75から推定器76への信号線が追加されている。この例の制御装置10において、位相補正器75は、位相補正値を監視し、その監視結果に基づいて推定器76にインダクタンスの推定の可否を通知する。推定器76は、位相補正器75から通知されたインダクタンスの推定可否に基づいて、動作を切り替える。位相補正器75からインダクタンスの推定可能の通知を受信するときに、推定器76は、インダクタンスの推定を行う。なお、例えばコンバータ3の電流が小さい場合などの異常の有無に関わらずインダクタンスの推定が行われない状況において、推定器76は、位相補正器75からの通知の内容に関わらずインダクタンスの推定を行わなくてもよい。位相補正器75からインダクタンスの推定不可の通知を受信するときに、推定器76は、インダクタンスの推定を行わない。
【0093】
図14は、実施の形態3に係る制御装置10の位相補正器75の構成を示すブロック図である。
実施の形態3に係る制御装置10の位相補正器75は、実施の形態1に係る制御装置10の位相補正器75と比較し、判定部754をさらに備えている。
【0094】
判定部754は、位相補正器75の計算する位相補正値を監視し、当該位相補正値が異常か否かを判定する機能を搭載する部分である。例えば、判定部754は、位相補正値Δφが、予め設定された範囲から外れていないかを判定する。このとき、判定部754は、予め設定された位相補正値の最大値Δφmaxおよび最小値Δφminを記憶する。判定部754は、積分器753の出力である位相補正値ΔφがΔφmin<Δφ<Δφmaxの条件を満たしているかを判定する。Δφmin<Δφ<Δφmaxの条件が満たされる場合に、判定部754は、位相補正値は正常であると判定する。このとき、位相補正器75は、推定器76にインダクタンスの推定可能の通知を送信する。一方、Δφmin<Δφ<Δφmaxの条件が満たされない場合に、判定部754は、位相補正値は異常であると判定する。このとき、位相補正器75は、推定器76にインダクタンスの推定不可の通知を送信する。
【0095】
判定部754は、位相補正値Δφの時間変化を監視してもよい。例えば、判定部754は、電流制御周期ごとにΔφの時間変化量dΔφ/dtを計算して予め設定された基準値と比較する。判定部724は、計算した時間変化量が基準値を超えていない場合に、位相補正値は正常であると判定する。このとき、位相補正器75は、推定器76にインダクタンスの推定可能の通知を送信する。一方、判定部754は、計算した時間変化量が基準値を超えている場合に、位相補正値は異常であると判定する。このとき、位相補正器75は、推定器76にインダクタンスの推定不可の通知を送信する。
【0096】
図15は、実施の形態3に係る制御装置10の動作の例を示すフローチャートである。
図15において、位相補正値の監視における処理の例が示される。
【0097】
ステップS1501において、判定部754は、位相補正器75が計算する位相補正値が異常であるか判定するための処理を行う。位相補正値が異常であるかの判定は、例えば、位相補正値自体の大きさ、または位相補正値の時間変化量の大きさなどに基づいて行われる。このとき、判定部754は、例えば計算された位相補正値の読み込み、または時間変化量の計算などの処理を行う。その後、制御装置10の処理は、ステップS1502に進む。
【0098】
ステップS1502において、判定部754は、位相補正値が異常であるかを判定する。位相補正値が異常であると判定する場合に、制御装置10の処理は、ステップS1503に進む。一方、位相補正値が異常でないと判定する場合に、制御装置10の処理は、ステップS1505に進む。
【0099】
ステップS1503において、位相補正器75は、位相補正値が異常であるため、位相の補正を行わない。その後、制御装置10の処理は、ステップS1504に進む。なお、位相補正値が異常であるとき、位相補正器75の入力信号である電流または電圧などが異常な値となっている可能性もある。このため、制御装置10は、位相補正値が異常であるときに、コンバータ3の制御自体を停止するように構成されていてもよい。
【0100】
ステップS1504において、位相補正器75は、推定器76にインダクタンスの推定不可の通知を送信する。その後、制御装置10の処理は、終了する。
【0101】
ステップS1505において、位相補正器75は、位相補正値が正常であるため、その補正値を用いて位相の補正を行う。その後、制御装置10の処理は、ステップS1506に進む。
【0102】
ステップS1506において、位相補正器75は、推定器76にインダクタンスの推定可能の通知を送信する。その後、制御装置10の処理は、終了する。
【0103】
以上に説明したように、実施の形態3に係る制御装置10において、位相補正器75が演算した位相検出誤差の補正値の監視によって異常の有無が判定される。異常があると判定された場合に、位相補正器75は、位相検出器5が検出する位相を補正しない。このとき、推定器76は、インダクタンスの推定を行わない。
【0104】
このような構成により、インダクタンスが異常な値に推定されてしまうことが抑えられるので、より安定な電流制御系が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示に係る制御装置は、コンバータの制御に適用できる。
【符号の説明】
【0106】
1 交流電源、 2 リアクトル、 3 コンバータ、 4 平滑コンデンサ、 5 位相検出器、 6 電流センサ、 7 制御部、 10 制御装置、 71 電圧制御器、 72 電流制御器、 73 電圧座標変換器、 74 電流座標変換器、 75 位相補正器、 76 推定器、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 専用ハードウェア