(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ロータリー式圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/356 20060101AFI20250115BHJP
F04C 23/02 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
F04C18/356 T
F04C23/02 F
(21)【出願番号】P 2024539578
(86)(22)【出願日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2023012776
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】吉本 崇広
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-026787(JP,U)
【文献】特開2006-329053(JP,A)
【文献】特開2009-228522(JP,A)
【文献】特開2007-009861(JP,A)
【文献】実開昭51-159010(JP,U)
【文献】国際公開第2014/175429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に圧縮室を形成するシリンダと、前記シリンダの内側で偏心回転するピストンと、
前記ピストン側から前記シリンダの半径方向外側へ摺動可能に設けられ前記圧縮室を仕切るベーンと、
前記ベーンの摺動方向を規定し前記シリンダの内側に開口を有するベーン溝と、
前記シリンダの半径方向外側から前記ピストン側へ前記ベーンを押すスプリングと、
前記ベーンの前記シリンダの半径方向外側端部、および前記ベーンとシリンダ半径方向に対向する前記シリンダ内の対向する位置の少なくともいずれか一方に設けられ、前記ベーンおよび前記シリンダのいずれよりも縦弾性係数が小さい弾性体とを備え、
前記弾性体の材質は、ゴム材またはゲル材であり、
前記弾性体は、前記ベーンの進行方向に対して垂直方向に凹凸を有し、
前記弾性体の
前記凹凸の凹部は、前記ベーンまたは前記シリンダに設けられた凸部にかみ合うロータリー式圧縮機。
【請求項2】
内側に圧縮室を形成するシリンダと、前記シリンダの内側で偏心回転するピストンと、
前記ピストン側から前記シリンダの半径方向外側へ摺動可能に設けられ前記圧縮室を仕切るベーンと、
前記ベーンの摺動方向を規定し前記シリンダの内側に開口を有するベーン溝と、
前記シリンダの半径方向外側から前記ピストン側へ前記ベーンを押すスプリングと、
前記ベーンの前記シリンダの半径方向外側端部、および前記ベーンとシリンダ半径方向に対向する前記シリンダ内の対向する位置の少なくともいずれか一方に設けられ、前記ベーンおよび前記シリンダのいずれよりも縦弾性係数が小さい弾性体とを備え、
前記弾性体の材質は、ゴム材またはゲル材であり、
前記シリンダの内に前記スプリングを格納するスプリング格納孔を備え、
前記弾性体は、前記スプリング格納孔の中、かつ前記スプリングの素線の巻き線の内側に設けられ、
前記スプリング格納孔は、前記シリンダの半径方向外側に開口するシリンダ外壁開口部を有し、
前記弾性体の前記シリンダの半径方向外側端部は、前記シリンダ外壁開口部に固定されるロータリー式圧縮機。
【請求項3】
内側に圧縮室を形成するシリンダと、前記シリンダの内側で偏心回転するピストンと、
前記ピストン側から前記シリンダの半径方向外側へ摺動可能に設けられ前記圧縮室を仕切るベーンと、
前記ベーンの摺動方向を規定し前記シリンダの内側に開口を有するベーン溝と、
前記シリンダの半径方向外側から前記ピストン側へ前記ベーンを押すスプリングと、
前記ベーンの前記シリンダの半径方向外側端部、および前記ベーンとシリンダ半径方向に対向する前記シリンダ内の対向する位置の少なくともいずれか一方に設けられ、前記ベーンおよび前記シリンダのいずれよりも縦弾性係数が小さい弾性体とを備え、
前記弾性体の材質は、ゴム材またはゲル材であり、
前記弾性体は、前記ベーンの前記シリンダの半径方向外側端部の幅方向両端または中央に設けられ、
前記弾性体は、前記ベーンと前記スプリングとの間に設けられる部分を含むロータリー式圧縮機。
【請求項4】
前記弾性体は、前記ベーンの前記シリンダの半径方向外側端部の幅方向両端に設けられる請求項1または2に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項5】
前記弾性体は、前記ベーンの前記シリンダの半径方向外側端部の幅方向中央に設けられる請求項1または2に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項6】
前記弾性体は、前記ベーン溝の前記シリンダの半径方向外側のシリンダ内壁に設けられる請求項1または3に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項7】
前記シリンダの内に前記スプリングを格納するスプリング格納孔を備え、
前記弾性体は、前記スプリング格納孔の中、かつ前記スプリングの素線の巻き線の内側に設けられる請求項1または3に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項8】
前記スプリング格納孔は、前記シリンダの半径方向外側に開口するシリンダ外壁開口部を有し、
前記弾性体の前記シリンダの半径方向外側端部は、前記シリンダ外壁開口部に係合する蓋部に固定される前記請求項7に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項9】
前記弾性体の形状は、環状である請求項1から3のいずれか1項に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項10】
前記ベーンと前記スプリングとは、固着されている請求項1から3のいずれか1項に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項11】
前記スプリングの前記シリンダの半径方向外側端部と前記シリンダとは、固着されている請求項1から3のいずれか1項に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項12】
前記ベーンと前記スプリングとは、前記スプリングの端部の内周または外周を前記ベーンに圧入して固着されている請求項10に記載のロータリー式圧縮機。
【請求項13】
前記ベーンと前記スプリングとは、ろう材、溶接、溶剤、樹脂または接着材で固着されている請求項10に記載のロータリー式圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体を圧縮するロータリー式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリー式圧縮機は、内部に冷媒などの気体が供給されるシリンダと、シリンダ内でシリンダの中心に対して偏心して回転駆動されるローリングピストンと、シリンダの内壁面からシリンダの径方向に進退し、シリンダとローリングピストンとの間に形成される空間を2分割するベーンと、ベーンの先端部がローリングピストンに常に接触するよう、ベーンの後端部を押圧するスプリングとを備える。
【0003】
ロータリー式圧縮機において、スプリングが圧縮されたときに、側方に膨らんで撓み、スプリングが折損や摩耗することを防ぐため、ベーンの後端部に形成された螺旋状の溝にスプリングをねじ込み、位置がずれないようにすることが開示される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のロータリー式圧縮機では、ピストンとベーンが離れベーンが高速でシリンダ側に移動するベーン飛び時に、ベーンが内側を進退するベーン溝のシリンダ半径方向外側とベーンとが衝突する。この際、スプリングの素線が隣接する巻き線の径方向内側または外側に入込んだり、スプリングが異常振動を起こしたりする。また、ピストン側のスプリングがベーンにねじ込まれる構成では、上記衝突する時に、ベーンの動きが停止するのに対して、スプリングが慣性力によって移動を継続する力が生じるため、ベーンとスプリングの固定部に衝撃的な応力が集中する。このため、スプリングは、早期に疲労破壊する可能性がある。
本開示は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、液体がシリンダ内吸入室に混入したとしても、スプリングが疲労破壊することを防止するロータリー式圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの請求項のロータリー式圧縮機は、内側に圧縮室を形成するシリンダと、シリンダの内側で偏心回転するピストンと、ピストン側からシリンダの半径方向外側へ摺動可能に設けられ圧縮室を仕切るベーンと、ベーンの摺動方向を規定しシリンダの内側に開口を有するベーン溝と、シリンダの半径方向外側からピストン側へベーンを押すスプリングと、ベーンのシリンダの半径方向外側端部、およびベーンとシリンダ半径方向に対向するシリンダ内の対向する位置の少なくともいずれか一方に設けられ、ベーンおよびシリンダのいずれよりも縦弾性係数が小さい弾性体とを備え、弾性体の材質はゴム材またはゲル材であり、弾性体はベーンの進行方向に対して垂直方向に凹凸を有し、弾性体の当該凹凸の凹部はベーンまたはシリンダに設けられた凸部にかみ合うものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、液体がシリンダ内吸入室に混入してベーンが飛ばされ、ベーンがベーン溝のシリンダ半径方向外側と接触するベーン飛びが発生しても、ベーンとベーンが接触するシリンダと間に弾性体が介在することによって、ベーンの衝突速度が緩和されるため、ベーン側固定部での繰り返し衝撃負荷を抑制し、スプリングの疲労破壊を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施の形態1を示すロータリー式圧縮機の回転軸に平行な断面での断面図である。
【
図2】本開示の実施の形態1を示すロータリー式圧縮機の圧縮機構部の回転軸に垂直な面での断面図である。
【
図3】本開示の実施の形態1を示すベーン摺動構造の回転軸に垂直な面での断面図である。
【
図4】本開示の実施の形態1を示すベーン摺動構造の模式図である。
【
図5】本開示の実施の形態1を示すシリンダ外側弾性体の取り付け状態を示す模式図である。
【
図6】本開示の実施の形態1を示す弾性体にOリングを用いたベーン摺動構造の回転軸に垂直な面での断面図である。
【
図7】本開示の実施の形態1を示すベーン端弾性体をスプリングの巻き線の内側に設ける例のベーン摺動構造の回転軸に垂直な面での断面図である。
【
図8】本開示の実施の形態1を示すシリンダ外壁開口部を塞ぐ蓋部に設けた凸部にシリンダ外側弾性体を設ける例のベーン摺動構造の回転軸に垂直な面での断面図である。
【
図9】本開示の実施の形態2を示すベーン摺動構造の断面図である。
【
図10】本開示の実施の形態3を示すベーン摺動構造の断面図である。
【
図11】本開示の実施の形態4を示すベーン摺動構造の断面図である。
【
図12】本開示の実施の形態5を示すベーン摺動構造の断面図である。
【
図13】本開示の実施の形態6を示すベーン摺動構造の断面図である。
【
図14】本開示の実施の形態7を示すベーン摺動構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本開示のロータリー式圧縮機は、内側に圧縮室を形成するシリンダと、シリンダの内側で偏心回転するピストンとを有するロータリー式圧縮機であって、ピストン側からシリンダの半径方向外側へ摺動可能に設けられ圧縮室を仕切るベーンと、前記ベーンの摺動方向を規定しシリンダの内側に開口を有するベーン溝と、シリンダの半径方向外側からピストン側へベーンを押すスプリングと、ベーンのシリンダの半径方向外側端部、およびベーンとシリンダ半径方向に対向するシリンダ内の対向する位置の少なくともいずれか一方に設けられ、ベーンおよびシリンダのいずれよりも縦弾性係数が小さい弾性体とを備えるものである。
【0010】
図1は、本実施の形態におけるロータリー式圧縮機の例の断面図を示すものである。この断面図は、ピストンの回転軸に平行な面でのロータリー式圧縮機の断面図である。
図1において、ロータリー式圧縮機1は、原動機部10と、原動機部10によって回転する部分を有する圧縮機構部20とを有する。ここでは、原動機部10は、電力エネルギーを回転エネルギーに変換する電動機の例を示す。なお、原動機部10は、ロータリー式圧縮機1の外部にあって、外部から圧縮機構部20の回転部分を回転するように構成してもよい。
【0011】
圧縮機構部20は、原動機部10と回転エネルギーが伝わるように接続される。圧縮機構部20は、圧縮室を形成するシリンダ23と、シリンダ23内で偏心回転するピストン22と、シリンダ23の径方向内側(内壁側)に開口する開口部をピストン22側からシリンダ23の径方向外側(外壁側)方向へ摺動可能に設けられ、圧縮室を仕切るベーン26と、開口部に設けられ、シリンダ23の外壁側からピストン側(シリンダ23内壁側)に(シリンダ23の径方向外側から内側に)、ベーン26を押し付けるスプリング30とを備える。ここで、偏心回転するピストンの回転の中心軸を回転軸と呼ぶ。
【0012】
また、圧縮機構部20は、ベーン26のシリンダ23の外壁側の端部、およびシリンダ23の内壁面のベーン26と対向する対向部の少なくともいずれか一方に設けられる弾性体31を備える。この弾性体31は、ベーン26およびシリンダ23のいずれよりも、縦弾性係数が小さい。
【0013】
原動機部10は、電動機の場合、電磁力を発生させ、圧縮機構部20のクランクシャフトを回転させて、圧縮機構部20内で気体(空調機の場合は冷媒)を圧縮する。
図1では、気体を圧縮する圧縮室52を2つ有する構造のロータリー式圧縮機1の断面図を示している。ただし、圧縮室は少なくとも1個以上あればよい。また、ロータリー式圧縮機1は、原動機部10および圧縮機構部20を覆う密閉容器40を有する。密閉容器40の圧縮機構部20が配置される側と反対側の原動機部10側方向には、圧縮された気体を密閉容器40外の配管(図示せず)へ吐き出す吐出管41が配置されている。
【0014】
原動機部10は、電動機の場合、固定子11と回転子12を備える。固定子11は、密閉容器40の内周面と固定される。固定子11の内周面には、固定子11との間に隙間を有して配置される回転子12が設けられる。回転子12の回転軸は、ピストン22の回転軸と共通の軸を有する。
図1の例では、回転子12の回転軸は、圧縮機構部20のクランクシャフトが原動機部10側に延伸した軸である。すなわち、回転子12が中空円筒形状を形成し、この中空円筒形状の内周にクランクシャフト21が固定される。クランクシャフト21は、ピストン22が偏心回転するようにピストンと結合する。上記構造によって、クランクシャフト21が、回転子12の回転に伴って回転し、ピストン22が、シリンダ23内で偏心回転する。
【0015】
圧縮機構部20は、
図1の例では、回転軸の方向に2つの圧縮室を有する。圧縮室ごとにシリンダ23が設けられ、シリンダ23は、プレート27を介して回転軸方向に隔てられる。シリンダ23が密閉容器40長手方向、すなわち回転軸方向へ2つ並ぶように配置されている。
【0016】
2つのシリンダ23のうち、原動機部10側の第1シリンダ23aの原動機部10側の端面には、クランクシャフト21を回転可能に保持する第1軸受24aが設けられる。また、2つのシリンダ23のうち第1シリンダ23a(原動機部10側)とは回転軸方向の逆側にプレート27を介して第2シリンダ23bが設けられる。第2シリンダ23bのプレート27とは逆側端面には、クランクシャフト21を保持する第2軸受24bが設けられる。第1軸受24a、第2軸受24bは、1対でクランクシャフト21を保持する。第1軸受24a、第2軸受24bは、クランクシャフト21のシャフト径より大きい径の中空円筒状の貫通穴を有し、この貫通穴がクランクシャフト21を覆うように配置され、クランクシャフト21を回転可能に保持する。さらに原動機部10側の第1軸受24aは、シリンダ23内で圧縮した冷媒を吐き出すための吐出口29を有する。吐出口29から吐き出された冷媒は、配管(図示せず)を通り、吐出管41から密閉容器40から出力される。
【0017】
図2は、実施の形態1によるロータリー式圧縮機の圧縮機構部20の回転軸に垂直な面での断面図である。この図では、シリンダ23、ピストン22、ベーン26およびスプリングのベーン26とベーン26に接触または接触する可能性がある部品を圧縮機構部20の要部として記載している。なお、図は、断面図として記載するが、説明の都合上、スプリング、ベーン26および弾性体31は、他の部品の切断面よりも手前側に突出する部分も存在するように表現している。図において、クランクシャフト21は、回転軸から偏心したクランクシャフト偏心部21aが記載され、このクランクシャフト偏心部21aの外周には、ピストン22が設けられている。ピストン22の外周部には、クランクシャフト21回転時のピストン22外周面の回転軌跡に沿った円筒形状の貫通穴を有するシリンダ23が設けられている。シリンダ23の内側の回転軸方向に設けられた貫通穴では、クランクシャフト偏心部21aおよびピストン22が偏心回転し、貫通穴の内側でピストン22が偏心回転すると、シリンダ23の貫通穴の内側とピストン22との間の空間が変化する。
【0018】
シリンダ23の円筒形状の内壁面には、シリンダ23半径方向(回転軸に垂直な方向)に、ベーン26がシリンダ23の半径方向に摺動して進退する溝、ベーン溝32が設けられている。ベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側端部には、シリンダ23の外壁面にほぼ平行な内壁、すなわちシリンダ23の径方向端部が存在する。ベーン溝32のシリンダ23の半径方向の深さは、ベーン26のシリンダ23の半径方向端部が、この半径方向に、ピストン22と接触を保ちながらベーン26が移動しても、十分接触しない深さがある。すなわち、ベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側には、内壁面(シリンダ23の半径方向外側の内壁面)がある。この内壁をベーン溝32の半径方向外側端部、またはシリンダ23の半径方向外側とも呼ぶ。ベーン26は、スプリング30が仮に無いとすると、ベーン溝32を摺動して半径方向外側に移動すると、ベーン溝32の半径方向外側端部またはシリンダ23の半径方向外側に接触する。
【0019】
ここで、上記シリンダ23の半径方向外側は、シリンダ23に設けたベーン溝32のベーン26の移動方向に垂直な断面を同移動の向きにシリンダ23の内壁面に投影した部分となる。結果的に、シリンダ23の半径方向外側は、スプリング30が無いと仮定した場合に、ベーン26が、ベーン溝32内を摺動してシリンダ23の径方向外側に移動した際に、ベーン溝32の奥のシリンダ23の内壁面と接触する部分となる。この接触する部分は、ベーン溝32のベーン移動方向の最奥側端面があるとすると、ベーン溝32の半径方向外側端部といえる。
【0020】
ベーン溝32のシリンダ23半径方向外側の部分には円筒の穴(凹部)または貫通穴が、シリンダ23半径方向外側に向けて設けられても良い。また、密閉容器40の内側にシリンダ23が配置して、溝のシリンダ23半径方向外側の端部の貫通穴は、密閉容器40の内壁またはボルトなど穴を塞ぐ手段である蓋部で塞がれるようにしても良い。上記ベーン溝32のシリンダ23半径方向外側の部分には円筒の穴(凹部)または貫通穴は、後述するスプリング格納孔と捉えても良い。また、溝部のシリンダ23半径方向の途中には、回転軸方向に貫通するベーン溝軸方向穴を設けても良い。
【0021】
シリンダ23の回転軸方向に設けられた貫通穴の内側とピストン22との間の空間は、ベーン26によって、吸入室51と圧縮室52とに分離される。すなわち、ベーン26は、シリンダ23の内壁とピストン22の間の空間を吸入室51と圧縮室52とに隔てる仕切り板である。ベーン26は、溝の中をシリンダ23の半径方向に移動可能に配置され、シリンダ半径方向内側は、ピストン22に接触する。常時、ベーン26がピストン22に接するように、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端面には、シリンダ23または密閉容器40の内壁面との間に付勢するスプリング30が設けられる。すなわち、ベーン26は、半径方向外側に設けられたスプリング30のばね力によって、半径方向内側にあるピストン22に押し当てられる。
【0022】
また、スプリング30は、伸縮方向の一端は、ベーン26と接触する。スプリング30の伸縮方向の他端は、ベーン溝32のシリンダ23半径方向外側の端部に設けられた穴(凹部)または貫通穴に、スプリング30のシリンダ23半径方向外側の端部が入るようにしても良い。さらにスプリング30の幅が、ベーン溝32の厚さよりも大きければ、スプリング30が伸縮できるように、ベーン溝32の厚さより大きくスプリング30を格納するスプリング格納孔33を設ける。このスプリング格納孔33は、上述のベーン溝32のシリンダ23半径方向外側の端部に設けられる穴または貫通穴と連通するように構成すると段差等の引っかかりがなく、スムーズにスプリング30が伸縮できる。スプリング格納孔33のスプリング30の伸縮方向に垂直な断面は、スプリング30の形状に合わせて、スプリング30の外形が略円筒であれば、円筒形状とすると良い。なお、ベーン溝32に、スプリング格納孔33を設けても、ベーン26の移動を規定するベーン溝32は、存在し、ベーン溝32の半径方向外側端部またはシリンダ23の半径方向外側は、存在する。
【0023】
また、シリンダ23には、冷媒を吸入する吸入口28が、シリンダ23の半径方向に貫通するように設けられている。シリンダ23の半径方向の外周面は、密閉容器40の内周面と固定されていても良い。
【0024】
次に、ベーン26とベーン26が接触する可能性がある周囲の構造、すなわちシリンダ23のベーン溝32およびスプリング30によるベーン26を摺動させる構造(以下、「ベーン摺動構造」とも呼ぶ。)に関して説明する。
【0025】
図3は、実施の形態1のベーン摺動構造について、シリンダ23の厚さ方向に切断した(回転軸と半径方向とに平行な面で切断した)断面図である。図において、クランクシャフト21の偏心部21aの外周部にはピストン22が配置されており、ピストン22の外周部にベーン26がスプリング30のばね力によって押し当てられて保持されている。クランクシャフト21およびピストン22の回転に追従して、ベーン26がシリンダ23半径方向へ移動するようになっている。
【0026】
スプリング30は、シリンダ23半径方向のベーン溝32のスプリング格納孔33内部に配置される。
図3の例では、スプリング30は、コイル外径が、シリンダ23の径方向内側にいくにしたがって細くなるテーパ形状を有する形状である。ベーン26と接触しない側(シリンダ23の径方向外側)のスプリング30の端部は、スプリング格納孔33のシリンダ半径方向の端部とスプリング30コイル外周面が圧入によるカシメ力によって固定されるようにしても良いし、固定しなくても良い。
【0027】
<ベーン飛びの説明>
ロータリー式圧縮機1は、圧縮室52の内圧が急激に上昇すると、シリンダ23の内部の吸入室51と圧縮室52を隔てる仕切り板であるベーン26に圧力(負荷)がかかる。ベーン26の圧力によって生じる慣性力が、スプリング30のばね力より大きくなると、ピストン22とベーン26が離れ、ベーン26が、高速でシリンダ23の径方向外側へ移動する。この現象は、ベーン飛びと呼ばれる。
【0028】
特に、空調機用のロータリー式圧縮機では、運転中において、シリンダ23内部の吸入室51内に液状の冷媒が混入する時がある。液状の冷媒が吸入室51内に混入した状態でピストン22が回転すると、内圧が急激に上昇する。内圧が急激に上昇すると、シリンダ23内部の吸入室51と圧縮室52を隔てる仕切り板であるベーン26に圧力が負荷される。吐出口29から冷媒が吐き出される前に、液冷媒による圧力が急激に上昇し、ベーン26の慣性力がスプリングのばね力より大きくなり、上記ベーン飛びと呼ばれる現象が発生することがある。なお、上記では、混入する液体が冷媒の例を示したが、冷媒以外の液体であってもよい。
【0029】
上記ベーン飛びと呼ばれる現象によって、高速で径方向外側に移動したベーン26は、シリンダ23の径方向外側の壁、またはベーン溝32の径方向外側端部と衝突する。ベーン26が壁に衝突する速度が速くなると、ベーン26とシリンダ23の径方向外側の壁、またはベーン溝32の径方向外側端部とが衝突した際に、ばね力によって通常接しているベーン26とスプリング30とが離間し、スプリング30は、自身の素線が隣接する巻き線(螺旋)どうし密着する全密着が起こるまで変形することが起こり得る。
【0030】
スプリング30に全密着が起こるほどの負荷がベーン26にかかると、スプリング30の素線が、隣接する巻き線(螺旋)の径方向内側(または外側)に入り込み、過大な応力が生じることがある。また、スプリング30の外形が、スプリング30の伸縮方向に平行な平行部と、伸縮方向と角度なすテーパ部を有する場合、平行部がテーパ部の中に入り込み、過大な応力が生じることがある。
【0031】
スプリング30自身の素線が隣接する螺旋を乗り越えるような変形や、素線が螺旋部の内側に入り込むような変形が繰返し生じると、スプリング30が、疲労破壊する可能性がある。なお、スプリング30が、ベーン26に固定されていない場合には、ベーン26とシリンダ23(またはベーン溝32)とが衝突する際に、スプリング30のベーン26側が継続して移動する。このため、スプリング30は、自身の巻き線(螺旋)が一巻き隣の巻き線と接触したり、離れたりを繰り返す激しい振動(異常振動、サージング)によって、疲労破壊する可能性がある。ここで、サージングは、ばねの固有振動数に近い振動数成分の外力が作用したときにおこる現象である。
【0032】
また、スプリング30が、ベーン26に固定されている場合には、ベーン26とシリンダ23との衝突時に、ベーン26の動きは停止するが、スプリング30に生じる慣性力によってスプリング30のベーン26との固定部に応力が集中する。この応力集中による繰返し衝撃負荷によって早期にスプリング30が、疲労破壊する可能性がある。
【0033】
次に、
図3、
図4,
図5を用いて、上記のようなスプリング30に生じる過大な応力、激しい振動、疲労破壊を防ぐ構成について説明する。
図3は、ベーン26の摺動構造の回転軸に垂直な面での断面図、
図4は、ベーン26の摺動構造の斜投影図、
図5は、シリンダ側外側弾性体31bのシリンダ23への取り付け状態を示す斜投影図である。
【0034】
本開示は、圧縮機構部20は、ベーン26のシリンダ23の外壁側の端部、およびシリンダ23の内壁面のベーン26と対向する対向部の少なくともいずれか一方または両方に設けられる弾性体31(31a、32b)を備える。この弾性体31(31a、32b)は、ベーン26およびシリンダ23のいずれよりも、縦弾性係数が小さい。以下、詳しく説明する。
【0035】
ベーン26には、シリンダ23の径方向外側の最も外側端部に弾性体31(31a)が設けられる。弾性体31が設けられる部分は、スプリング30が縮み(またはスプリング30がないと仮定して)、ベーン26が、シリンダ23の径方向外側に移動すると、ベーン26の径方向外側端部と、ベーン溝32(シリンダ23)のシリンダ23の径方向外側端部とが接触する部分である。
【0036】
また、ベーン溝32のシリンダ23の径方向外側端部、ベーン26が径方向外側に移動するとシリンダ23(ベーン溝32)径方向外側の壁面と接触する部分に、弾性体31(31b)を設けても良い。シリンダ23(ベーン溝32)径方向外側の壁面と接触する部分は、
図5における点線で囲まれる部分である。シリンダ外側弾性体31bの当該部分が、ベーン端弾性体31aの
図4の点線で囲まれた部分に接触する。
【0037】
さらに、弾性体31は、ベーン26の径方向外側端部、ベーン溝32のシリンダ23の径方向外側端部のいずれか一方または両方につけても良い。ここで、弾性体31(31a、31b)の縦弾性係数は、ベーン26およびシリンダ23の縦弾性係数より小さい。
【0038】
また、弾性体31(31a、31b)の材質は、ゴム材またはゲル材が好ましい。弾性体31の縦弾性係数は、ベーン26およびシリンダ23の縦弾性係数の1×10―5~1×10―2程度であってもよい。
【0039】
図3では、弾性体31が、ピストン22と接触する面と反対側のベーン飛びが発生したときに、ベーン26がシリンダ23と接触するベーン26面と、ベーン26と接触するシリンダ23の径方向外側端部(ベーン溝32の径方向外側端部)の面の両方に配置された場合を示したが、少なくともどちらか一方にあればよい。
【0040】
弾性体31の取付け方法は、接着材による固定でも良い。また、弾性体31の固定方法は、ベーン26またはシリンダ23の径方向外側端部(ベーン溝32の径方向外側端部)に、くぼみ箇所を設けておき、弾性体31自体を弾性変形させて圧入して取り付けてもよい。
【0041】
また、上記図では、弾性体31(31a、31b)の形状を直方体形状として記載したが、これに限るものではない。例えば、弾性体31(31a、31b)が、円環状、またはこの一部である例を示す。例えば、弾性体31(31a、31b)が、いわゆるO(オー)リングのゴム材をベーン26の厚さ、すなわち板厚(回転軸方向の厚さ)と同程度に切断し、ピストン22と接触する側と反対側、すなわちシリンダ23の半径方向外側となるベーン26の端面に取り付けても良い。このように構成することで、ベーン飛びが発生した際に、O(オー)リングのゴム材を切断したものが、ベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側端部と接触する。上記構成は、O(オー)リングのゴム材を切断したものを弾性体31(31a)に用いることによって、材料を削減できる。
【0042】
また、
図6には、弾性体31をO(オー)リングのゴム材とした例を示す。図において、シリンダ23の半径方向外側となるベーン26の端面に、弾性体31aとして、ベーン26の板厚以下の環状外形を持つO(オー)リングが、取り付けられている。
【0043】
さらに、図では、シリンダ23の半径方向外側に、弾性体31bとして持つO(オー)リングが、取り付けられている。この場合、シリンダ23の半径方向外側のスプリング格納孔の周囲を囲み、シリンダ23の半径方向外側となるベーン26の端面が接触する位置にO(オー)リングを設けられている。この例では、弾性体31bであるO(オー)リングが、ベーン溝32の径方向外側(ベーン26を径方向外側に投影した部分)だけでなく、この周囲にもO(オー)リングが存在することになるが、スプリング格納孔の断面の周囲に円形状の溝を設けて圧入するようにすれば、容易に組み立てられる効果がある。
【0044】
なお、弾性体31(31a、31b)の断面形状は、
図6に示すように円形であっても良い。
図6では、ベーン26の径方向外側端面と、シリンダ23の径方向外側の両側に、弾性体31(31a、31b)を設けたが、弾性体31を設けるのは、ベーン26の径方向外側端面と、シリンダ23の径方向外側の何れか一方であっても、両方に設けても良い。
【0045】
また、上記では、弾性体31(31a、31b)は、スプリング30の外径の外側に配置される例を示したが、スプリング30の素線の巻き線の内側に設けるようにしても良い。例えば、
図7に示すように、ベーン端弾性体31aは、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部に設けた矢尻状の突起に係合する穴を有し、矢尻状の突起と係合した状態で、スプリング30の巻き線の内側に入る形状としても良い。
【0046】
上記ベーン端弾性体31aをスプリング30の巻き線の内側に設ける場合には、
図7に示すように、シリンダ外側弾性体31bは、スプリング30のシリンダ23の径方向外側端部の素線の巻き線の内側に入る形状であり、シリンダ23に固定されるように構成する。固定方法は、まず、シリンダ23に、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側に開口するシリンダ外壁開口部を設ける。次に、シリンダ23の半径方向外側部のさらに外周側から内周側にシリンダ外壁開口部へシリンダ外側弾性体31bを圧入して固定することもできる。この際、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側部の最外部に面取りがなされ、シリンダ外側弾性体31bのシリンダ半径方向外側端部が、上記面取りに係合するように膨らんでいても良い。さらにシリンダ外側弾性体31bのシリンダ半径方向外側端部の膨らみ部分が、密閉容器40とシリンダ23とが係合することで強固に固定される。
【0047】
また、固定方法は、ベーン端弾性体31aを設けず、スプリング30の素線の巻き線の内側に入るシリンダ外側弾性体31bをスプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側からシリンダ外壁開口部に挿入し固定されるようにしても良い。この場合は、シリンダ外側弾性体31bが、ベーン飛び発生時に、ベーン26と直接接触する。この構成を組み立て時には、ベーン26側にベーン端弾性体31aを取り付ける必要がなく、シリンダ外側弾性体31bをシリンダ23の外側からスプリング格納孔33に挿入するだけであるので、簡便である。
【0048】
さらに、
図8に示すように、シリンダ23の半径方向外側に開口するシリンダ外壁開口部を設け、これに係合して開口部を塞ぐ蓋部42を取り付けて、この蓋部42に設けた凸部にシリンダ外側弾性体31bを固定しても良い。このように構成することで、全てを弾性体31で構成するよりも、座屈等の変形が少なく、より効果的に衝突速度を抑制できる。
【0049】
上記のようにスプリング30の素線の巻き線の内側に設けると、弾性体31(31a、31b)自体の体積を大きくとれる為、より衝撃を吸収して衝突速度を緩和できることが期待される。
【0050】
次に、弾性体31のシリンダ23の半径方向の寸法について説明する。まず、シリンダ23のベーン26(またはベーン溝32)配置位置におけるピストン22外周とシリンダ23内周の間隔が最小となる状態でのピストン22と接触したベーン26の位置を基準位置とする。少なくとも、ベーン26の基準位置において、弾性体31(31a、31b)ベーン26の移動方向の寸法は、ベーン26の移動方向にいずれの部品とも接触しない、設計クリアランスをもって接触しないベーン26の寸法である。
【0051】
本実施の形態の構成によれば、ベーン飛びと呼ばれる現象が発生して、ベーン26がシリンダ23半径方向外側へ飛ばされ、ベーン26とシリンダ23が接触したとしても、弾性体31(31a、31b)を介してベーン26がシリンダ23に衝突するから、衝突速度(衝突時の減速側の加速度(減速度))を緩和することができる。ベーン26とシリンダ23の径方向外側部(ベーン溝32の径方向外側端部)との衝突速度を衝突時の減速側の加速度(減速度)下げることができるから、スプリングに生じる過大な応力を抑制することになる。
【0052】
また、ベーン26とシリンダ23の径方向外側部(ベーン溝32の径方向外側端部)との衝突速度を衝突時の減速側の加速度(減速度)下げることができるから、スプリング30固定部での繰返し衝撃負荷による疲労破壊を防ぐことができる。また、スプリング30自身の素線が隣接する螺旋を乗り越えるような変形や、素線が螺旋部の内側に入り込むような変形が繰返し生じて疲労破壊することを防ぐことができる。
【0053】
さらに、ベーン26とシリンダ23の径方向外側部(ベーン溝32の径方向外側端部)との衝突速度(衝突時の減速側の加速度(減速度))を下げることができるから、スプリング30自身の巻き線(螺旋)が一巻き隣の巻き線と接触したり、離れたりを繰り返す激しい振動(異常振動、サージング)を抑制して、スプリング30の疲労破壊を防ぐことも期待できる。
【0054】
また、本実施の形態の構成によれば、大規模な構造ではなく、ベーン摺動構造の一部に部分的に弾性体31を設けるので、ロータリー式圧縮機1の大型化、通常運転時の摺動抵抗の増加を招くことなく、ベーン飛びよるスプリング30の折損を防ぐことができると考えられる。
【0055】
さらに、ベーン26の径方向端部に設ける弾性体31aの質量を小さくする、または弾性体31aの密度をベーン26より低いものを用いれば、ベーン26と一体として移動する質量が小さくなるから、ベーン26と一体となって移動するものの慣性力が小さくなる。すると、ベーン飛びと呼ばれる現象の要因の一つである慣性力が小さくなり、ベーン飛びと呼ばれる現象を起こし難くなる。または、ベーン飛びが起こっても、これに起因して生じる上記問題も起こらなくなる、または問題の発生をより抑制すると考えられる。
【0056】
上記では、ベーン26およびシリンダ23と比べて縦弾性係数が小さい弾性体31が、ベーン26のシリンダ23の径方向外側の端面と、シリンダ23(ベーン溝32)の径方向外側端部との両方に設けられる例をも示した。この弾性体31(31a、32b)が、ベーン26の径方向外側端面と、ベーン溝32の径方向外側端部との両方に設けられる例では、ベーン26とシリンダ23が接触した際に、弾性体31の厚さが片方のみ取り付けた場合よりも、弾性体31のベーン26の移動方向の厚さが厚くなる。弾性体31を両方に取り付けた方が、弾性体31a、32bの厚さ(特に径方向の厚さ)を厚くできるから、衝撃エネルギー吸収量をより大きくすることができる。このように構成することによって、衝突速度(衝突の際の減速側の加速度(減速度))の緩和量を増やすことができ、スプリング30固定部での繰返し衝撃負荷による疲労破壊等の上記問題を防ぐことができる。
【0057】
実施の形態2.
実施の形態1では、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部が、シリンダ23の半径方向外側の穴内にカシメ力によって固定されても良く、固定されなくても良いとした。本実施の形態では、スプリング30のベーン26と接触する側が固定される例について説明する。なお、特段の説明がない限り、同じ符合、同じ用語を用いる場合は、上記実施の形態と同様のものであるとする。したがって、本実施の形態の構造も、ピストン22,シリンダ23、ベーン26、スプリング30、弾性体31(31aまたは31b)、ベーン溝32、スプリング格納孔33を有する。
【0058】
図9に、実施の形態2のベーン摺動構造の断面図を示す。図の例では、スプリング30は、ベーン26と接触する側の端部に、スプリング30の素線の隣接する巻き線どうしが接触している部分を有する。すなわち、スプリング30に負荷がかからない状態において、スプリング30のベーン26と接触する側の端部が、巻き線間にピッチが無い部分がある。このスプリング30のベーン26と接触する側の端部の巻き線間にピッチが無い部分にて、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部と固着されている。
【0059】
具体的には、スプリング30のベーン26と接触する側の端部のピッチが無い箇所と、ベーン26とは、ベーン26のシリンダ23の半径方向外周側端部の幅方向両端にある突起間に、スプリング30の当該ピッチが無い部分のコイル外周面を圧入してカシメ力によって固定されている。ベーン26のシリンダ23の半径方向外周側端部にある突起の半径方向外側には、弾性体31aが設けられても良い。
【0060】
他方、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部は、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側端部(スプリング格納孔33の最奥部にシリンダ23の内壁がある場合)またはスプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側の密閉容器40の内壁面にスプリング30のばね力で押し当てる構成(半径方向に固定されない)としても良い。または、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部が、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側端部に固定されても良い。
【0061】
スプリング30を固定する方法として、上記では圧入によるカシメ力によって固定されるとしたが、これに限られない。固定方法は、ろう材、溶接、溶剤、樹脂もしくは接着材で固定されていてもよい。
【0062】
また、弾性体31は、ベーン26のシリンダ23の外壁側の端部(ベーン端弾性体31a)、およびシリンダ23の内壁面のベーン26と対向する対向部(シリンダ外側弾性体31b)の少なくともいずれか一方、または両方に設けられる。
【0063】
本実施の形態によれば、ベーン飛びが発生して、ベーン26が飛ばされ、ベーン26とシリンダ23が接触したとしても、ベーン26は、弾性体31を介してシリンダ23に衝突する。この弾性体31を介して接触することで、ベーン26とシリンダ23との衝突速度を緩和し、スプリング30固定部での繰返し衝撃負荷による疲労破壊を防ぐことができる。
【0064】
また、ベーン飛びが発生しても、ベーン26とシリンダ23と衝突速度を緩和できるから、スプリング30自身の素線が隣接する螺旋を乗り越えるような変形や、素線が螺旋部の内側に入り込むような変形が繰返し生じ疲労破壊することを防ぐことができる。このため、大きな構造変更による圧縮機の大型化、通常運転時の摺動抵抗の増加を招くことなく、ベーン飛びよるスプリング30の折損を防ぐことができる。
【0065】
さらに加えて、ベーン26とスプリング30とが固着されているから、ベーン26とスプリング30が離間せず、離間による素線同士の密着による摩耗を防ぐことができる。また、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部が、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側端部に固定されない構成の場合には、製造時に、スプリング30とシリンダ23とを固定する工程を削減することができる。
【0066】
実施の形態3.
実施の形態1では、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部が、シリンダ23の半径方向外側の穴内にカシメ力によって固定されても良く、固定されなくても良いとした。実施の形態2では、スプリング30のベーン26と接触する側が固定される例について説明した。本実施の形態では、スプリング30のベーン26と接触する側が固定されるとともに、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側が、シリンダ23と固定される例を示す。なお、特段の説明がない限り、同じ符合、同じ用語を用いる場合は、上記実施の形態と同様のものであるとする。したがって、本実施の形態の構造も、ピストン22,シリンダ23、ベーン26、スプリング30、弾性体31(31aまたは31b)、ベーン溝32、スプリング格納孔33を有する。
【0067】
図10は、本実施の形態のベーン摺動構造の断面図を示す。図の例では、スプリング30は、ベーン26と接触する側の端部に、スプリング30の素線の隣接する巻き線どうしが接触している部分を有する。すなわち、スプリング30に負荷がかからない状態において、スプリング30のベーン26と接触する側の端部が、巻き線間にピッチが無い部分がある。このスプリング30のベーン26と接触する側の端部の巻き線間にピッチが無い部分にて、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部と固着されている。これは実施の形態2と同様である。
【0068】
他方、図において、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部は、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側端部に固定される。具体的には、ベーン26と接触しない側(シリンダ23の径方向外側)のスプリング30の端部は、スプリング30の素線の隣接する巻き線どうしが接触している部分、すなわち巻き線間にピッチが無い部分を有する。このスプリング30のシリンダ23の径方向外側の端部の巻き線間にピッチが無い部分は、スプリング格納孔33のシリンダ半径方向の端部とスプリング30コイル外周面が圧入によるカシメ力によって固定される。
【0069】
また、図のように、スプリング30伸縮方向の中央部の伸縮方向に垂直な方向の外径が、伸縮方向の両端部より小さく、鼓状のテーパが設けられていても良い。
【0070】
上述のように、本実施の形態では、スプリング30は、ベーン26と接触る側の端部と、シリンダ23の半径方向外側の端部との両端部が、それぞれ、ベーン26およびスプリング格納孔33またはシリンダ23の半径方向外側端部と固定されている。
【0071】
スプリング30を固定する方法として、上記では圧入によるカシメ力によって固定されるとしたが、固定方法は、これに限られない。固定方法は、ろう材、溶接、溶剤、樹脂もしくは接着材で固定されていてもよい。
【0072】
また、弾性体31は、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部(ベーン端弾性体31a)、およびベーン26とシリンダ半径方向に対向するシリンダ23内の対向する位置(シリンダ外側弾性体31b)の少なくともいずれか一方、または両方に設けられる。
【0073】
本実施の形態の構成によれば、ベーン飛びが発生して、ベーン26が飛ばされ、ベーン26とシリンダ23が接触したとしても、ベーン26は、弾性体31を介してシリンダ23に衝突する。この弾性体31を介して接触することで、ベーン26とシリンダ23との衝突速度を緩和し、スプリング30固定部での繰返し衝撃負荷による疲労破壊を防ぐことができる。
【0074】
ベーン飛びが発生しても、ベーン26とシリンダ23と衝突速度を緩和できるから、スプリング30自身の素線が隣接する螺旋を乗り越えるような変形や、素線が螺旋部の内側に入り込むような変形が繰返し生じ疲労破壊することを防ぐことができる。このため、大きな構造変更による圧縮機の大型化、通常運転時の摺動抵抗の増加を招くことなく、ベーン飛びよるスプリング30の折損を防ぐことができる。
【0075】
さらに加えて、ベーン飛びによる衝撃が、上記弾性体31を介しても残った場合でも、スプリング30の伸縮方向の両端が固定されているから、スプリング30の端部が離れる負荷が加わったとしても固着しているため、離間によるスプリング30の素線同士の密着による摩耗を防ぐことができる。
【0076】
実施の形態4.
実施の形態1では、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部が、スプリング30と直接接触する例を示した。本実施の形態は、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部(ピストン22と接する側と反対側のベーン26面)と、スプリング30との間に弾性体31を有する例について示す。なお、特段の説明がない限り、同じ符合、同じ用語を用いる場合は、上記実施の形態と同様のものであるとする。したがって、本実施の形態の構造も、ピストン22,シリンダ23、ベーン26、スプリング30、弾性体31(31aまたは31b)、ベーン溝32、スプリング格納孔33を有する。
【0077】
図11は、本実施の形態のベーン摺動構造の断面図を示す。図において、スプリング30の素線の最もベーン26側巻き線のベーン26側が、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部に設けられた弾性体31(ベーン端弾性体31a)に接触するように構成される。ここで、ベーン端弾性体31aは、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部のスプリング30の素線の最もベーン26側の巻き線のベーン26側と接触する面にも設けられている。具体的には、ベーン端弾性体31aは、スプリング30の径方向外側にの幅方向両側に、シリンダ23の半径方向外側に向けて突出した突出部を有し、スプリング30のベーン側端部を囲む形状となっている。言い換えれば、ベーン端弾性体31aは、ベーン26の移動方向および厚さ方向に垂直なベーン幅方向端部の幅方向両側にてシリンダ23の半径方向外側へ凸となる凸部と、ベーン幅方向中央部にてスプリング30と接触する凹部とが一体となって構成される。
【0078】
ベーン端弾性体31aとベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部との組付けは、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側の端部に突起部を設け、この突起部に係合する孔部を設けたベーン端弾性体31aを組み付けるようにしても良い。
【0079】
ベーン端弾性体31aは、上記ベーン26の幅方向端部の凸部によって、凹部に端部が接触するスプリング30のベーン26の幅方向の動きを規制する。ベーン端弾性体31aのベーン26の凹部は、スプリング30からのばね力を受けて、ベーン26をピストン22側に押す。また、ベーン端弾性体31aのベーン26の凹部は、スプリング30からのばね力を受けて、スプリング30との接触部が弾性変形し、ベーン26の移行方向に垂直な方向の移動を規制する効果もある。
【0080】
また、ベーン端弾性体31aの幅方向凸部は、ベーン飛びが発生した際には、ベーン溝32(シリンダ23)のシリンダ23の径方向外側端部側と接触、衝突する。この際、ベーン溝32(シリンダ23)のシリンダ23の径方向外側端部側に、シリンダ外側弾性体31bが設けられて、ベーン端弾性体31aの幅方向凸部と接触するようにしても良い。
【0081】
さらに、実施の形態1に例として示した、弾性体31(31a、31b)が、スプリング30の素線の巻き線の内側に設けられる形態と、上記ベーン端弾性体31aとを組み合わせても良い。実施の形態1のシリンダ外側弾性体31bは、スプリング30のシリンダ23の径方向外側端部の素線の巻き線の内側に入る形状である。このシリンダ外側弾性体31bと、上記ベーン幅方向端部の凸部およびベーン幅方向中央部の凹部が一体となったベーン端弾性体31aとを組み合わせることができる。
【0082】
この組み合わせでは、ベーン飛びが発生した際に、2の接触がある可能性がある。1つは、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向端部の凸部と、シリンダ23の半径方向外側端部との接触である。他方は、スプリング30の素線の巻き線の内側に設けたシリンダ外側弾性体31bと、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向中央部の凹部との接触である。この2つの接触が同時に起こるように、ベーン端弾性体31aおよびシリンダ外側弾性体31bのベーン移動方向の寸法を設定してもよい。設定する寸法は、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向端部の凸部、ベーン幅方向中央部の凹部およびシリンダ外側弾性体31bのベーン26の移動方向の寸法である。または、この2つの接触のうち、一方が先に接触して、さらにベーン26が進行した場合に他方が接触するように上記ベーン26の移動方向の寸法を設定しても良い。
【0083】
これらの寸法の調整は、ベーン26の基準位置における、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向端部の凸部と、シリンダ23の半径方向外側端部との間のベーン移動方向の外側間隔、およびスプリング30の素線の巻き線の内側に設けたシリンダ外側弾性体31bと、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向中央部の凹部との間のベーン移動方向の内側間隔を調整することによって行う。2つの接触が同時に起こるようにするには、外側間隔と内側間隔とを一致させる。また、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向端部の凸部と、シリンダ23の半径方向外側端部との間が先に接触するようにするには、外側間隔の方が内側間隔よりも小さくなるようにする。
【0084】
上記の2つの接触が同時に起こるように寸法を設定すると、瞬時にベーン26の衝突速度を抑制することができる。2つの接触のうち、一方が先に接触して、さらにベーン26が進行した場合に他方が接触するように寸法を設定すると、2段階でベーン26の衝突速度を抑制するから、機器への衝撃はより小さくなると考えられる。
【0085】
ベーン端弾性体31aのベーン幅方向端部の凸部の縦弾性係数と、ベーン端弾性体31aのベーン幅方向中央部の凹部およびスプリング30の素線の巻き線の内側に設けたシリンダ外側弾性体31bの総合縦弾性係数とが、異なるようにしても良い。これは、2つの接触のうち、一方が先に接触して、さらにベーン26が進行した場合に他方が接触するように寸法を設定する場合に、最初の接触で衝突速度が落ちたあと、2回目の接触でより強く衝突速度を抑制するため、衝撃は小さくなると考えられる。
【0086】
さらに加えて、ベーン端弾性体31aの幅方向中央部であって、スプリング30の巻き線の内側の部分に、シリンダ23の半径方向外側へ突出する弾性体31の幅方向中央凸部を設けても良い。ここで、ベーン端弾性体31aは、ベーン26の移動方向および厚さ方向に垂直なベーン幅方向両端部にシリンダ23の半径方向外側へ凸となる凸部と、ベーン幅方向の中央部にスプリング30と接触する凹部と、この凹部に設ける上記幅方向中央凸部とが一体となっている。
【0087】
上記幅方向中央凸部が一体となったベーン端弾性体31aを用いれば、ベーン飛びが発生した際に、スプリング30のシリンダ23の径方向外側端部の素線の巻き線の内側に設けたシリンダ外側弾性体31bと、ベーン端弾性体31aの幅方向中央凸部とが接触する。この場合、ベーン端弾性体31aの幅方向中央凸部の体積の分、弾性体31の効果が向上し、ベーン26側とシリンダ23の径方向外側端部側との衝突速度(衝突時の減速側の加速度(減速度))を緩和する。
【0088】
本実施の形態の構成によれば、ベーン飛びが発生して、ベーン26が飛ばされ、ベーン26とシリンダ23が接触したとしても、ベーン26は、弾性体31を介してシリンダ23に衝突する。この弾性体31を介して接触することで、ベーン26とシリンダ23との衝突速度を緩和し、スプリング30固定部での繰返し衝撃負荷による疲労破壊を防ぐことができる。
【0089】
ベーン飛びが発生しても、ベーン26とシリンダ23と衝突速度を緩和できるから、スプリング30自身の素線が隣接する螺旋を乗り越えるような変形や、素線が螺旋部の内側に入り込むような変形が繰返し生じ疲労破壊することを防ぐことができる。このため、大きな構造変更による圧縮機の大型化、通常運転時の摺動抵抗の増加を招くことなく、ベーン飛びよるスプリング30の折損を防ぐことができる。
【0090】
また、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部が、スプリング30と接触するベーン端弾性体31aで構成されて、接触するベーン端弾性体31aがスプリング30のばね力によってベーン26側に押し付ける状態となるから、ベーン端弾性体31aがベーン26から外れにくくなる。
【0091】
また、
図11に示すように、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部と、スプリング30との間に弾性体31(ベーン端弾性体31a)を有することで、取付ける弾性体31(ベーン端弾性体31a)を1つの部品(弾性体)とすることができ、弾性体を組付けする工程数を削減できる。
【0092】
実施の形態5.
上記実施の形態では、弾性体31の外形形状となるベーン移動方向に平行な面の形状については特段規定していなかった。本実施の形態では、弾性体31の外形形状となるベーン移動方向に平行な面に凹凸を設ける例について、説明する。
【0093】
図12(1)は、本実施の形態のベーン摺動構造の断面図である。図において、弾性体31(ベーン端弾性体31a、シリンダ外側弾性体31b)は、ベーン26の進行方向に対して垂直方向に凹凸を有しており、凹部にはベーン26の凸部もしくはシリンダ23の凸部があり、かみ合うように構成される。
図12(2)は、ベーン26の凸部の部分拡大図を示す。また、
図12(3)は、ベーン端弾性体31aの片側の拡大図を示す。この例では、弾性体31は、ベーン26の厚さ方向の両端側に凹部を有し、ベーン26の径方向外側の突出部の厚さ方向の両端側に設けられた凸部とかみ合う。
【0094】
上記例は、弾性体31が、ベーン26の摺動方向に垂直な断面の断面積がピストン22側からシリンダ23の半径方向外側へ向かい変化している。これと嵌合(かみ合う)ようにベーン26の径方向外側の突起部または、シリンダ23の外側端部に弾性体31の断面積の変化に対応して形状が変化している。
【0095】
ベーン26の進行方向に対して垂直方向に弾性体31が凸、凹を有していることで、ベーン26が進行方向へ移動した時に、弾性体31(ベーン端弾性体31a、シリンダ外側弾性体31b)にベーン26もしくはシリンダ23から外れるような負荷が加わったとしても、弾性体31の凹部とベーン26の凸部もしくはシリンダ23の凸部がかみ合うことで、弾性体31がベーン26もしくはシリンダ23から外れるのを防ぐことができる。また、組立て時には、弾性体31(ベーン端弾性体31a、シリンダ外側弾性体31b)が柔軟に変形するので、弾性体31の凹部とベーン26の凸部もしくはシリンダ23の凸部がかみ合わせることができる。
【0096】
実施の形態6.
実施の形態1では、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側の端部が、スプリング格納孔33に圧入によるカシメ力によって固定される例を示した。また、実施の形態2では、スプリング30のベーン26と接触する側の端部が、ベーン26の幅方向両端部に設けられた突起部の間に圧入によるカシメ力によって固定される例を示した。本実施の形態では、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部の幅方向中央部、または、スプリング格納孔33のシリンダ23の半径方向外側に開口するシリンダ外壁開口部を塞ぐ蓋部に突起部を設け、この突起部にスプリング30のコイル(巻き線)の内周を圧入して固定する例を示す。なお、特段の説明がない限り、同じ符合、同じ用語を用いる場合は、上記実施の形態と同様のものであるとする。したがって、本実施の形態の構造も、ピストン22,シリンダ23、ベーン26、スプリング30、弾性体31(31aまたは31b)、ベーン溝32、スプリング格納孔33を有する。
【0097】
図13は、本実施の形態のベーン摺動構造の断面図を示す。図において、スプリング30は、スプリング30端部のコイル(巻き線)の外周面ではなく、コイル(巻き線)の内周面を圧入して固定されている。まず、スプリング30のベーン26との固定について説明する。ベーン26は、シリンダ23の半径方向外側端部の幅方向中央部に、シリンダ23の半径方向外側に突出する突起部を有する。この突起部は、スプリング30のベーン26側端部のコイル(巻き線)の内周面に圧入される形状に成形される。すなわち、スプリング30は、ベーン26の幅方向中央部に設けられた突起部に圧入される。
【0098】
また、スプリング30とスプリング格納孔33内のシリンダ23の半径方向外側端部との固定例について説明する。スプリング格納孔33内のシリンダ23の半径方向外側端部には、シリンダの半径方向外側に開口するシリンダ外壁開口部が設けられる。このシリンダ外壁開口部には、この開口を塞ぐ蓋部(圧入板)42が設けられる。この蓋部(圧入板)42は、ピストン22側に突出する突起部を有する。この突起部は、スプリング30のシリンダ23の半径方向外側端部のコイル(巻き線)の内周面に圧入される形状に成形される。すなわち、スプリング30は、シリンダ外壁開口部を塞ぐ蓋部(圧入板)42に設けられた突起部に圧入される。
【0099】
本実施の形態によれば、スプリング30のコイル(巻き線)の内周面を固定することによって、スプリング30のコイル外径一定(コイル外径がテーパ形状を有さない)のスプリングを用いたとしても、シリンダ23貫通穴と接触しないようにすることができる。したがって、テーパ部のコイル径を平行部と同じにすることができ、スプリング30に生じる応力を下げることができる。
【0100】
実施の形態7.
上記の実施の形態では、弾性体31がゴム材またはゲル材である例を示した。本実施の形態では、弾性体31が、ばねである例について説明する。なお、特段の説明がない限り、同じ符合、同じ用語を用いる場合は、上記実施の形態と同様のものであるとする。したがって、本実施の形態の構造も、ピストン22,シリンダ23、ベーン26、スプリング30、弾性体31(31aまたは31b)、ベーン溝32、スプリング格納孔33を有する。
【0101】
図14は、本実施の形態のベーン摺動構造の断面図を示す。図において、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部に接続するスプリング30の巻き線の外周に、スプリング30と伸縮方向を同じとするコイル状弾性体31aが設けられる。図の例では、コイル状弾性体31aは、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部の幅方向両端部に設けられた突起部に圧入によるカシメ力によって固定される。
【0102】
また、ベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側端部のスプリング格納孔33の周囲に、スプリング30と伸縮方向を同じとするコイル状弾性体31bが設けられる。図の例では、コイル状弾性体31bは、シリンダ23のベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側端部に設けられた円形状の溝に圧入によるカシメ力によって固定される。
【0103】
上記では固定する方法として、圧入によるカシメ力によって固定されるとしたが、これに限られない。固定方法は、ろう材、溶接、溶剤、樹脂もしくは接着材で固定されていてもよい。
【0104】
さらに、上記コイル状弾性体31a、コイル状弾性体31bは、それぞれ、板ばねに置き換えてもよい。コイル状弾性体31aの代わりに、板ばねの一方の端部が、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部の幅方向両端部に設けられた溝に圧入され、他方の端部が自由端となる湾曲した板ばね弾性体31aであっても良い。この場合、ベーン飛びが発生した際に、湾曲した板ばね弾性体31aの湾曲部が、ベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側端部と接触するようにする。
【0105】
また、コイル状弾性体31bの代わりに、板ばねの一方の端部が、ベーン溝32のシリンダ23の半径方向外側端部に設けられた溝に圧入され、他方の端部が自由端となる湾曲した板ばね弾性体31bであっても良い。この場合、ベーン飛びが発生した際に、湾曲した板ばね弾性体31bの湾曲部が、ベーン26のシリンダ23の半径方向外側端部と接触するようにする。
【0106】
コイル状弾性体31a、コイル状弾性体31bおよび板ばね弾性体31a、板ばね弾性体31bは、ベーン26側、シリンダ23の半径方向外側のいずれか一方または両方に合っても良い。
【0107】
本実施の形態によれば、コイル状弾性体31a、コイル状弾性体31bおよび板ばね弾性体31a、板ばね弾性体31bは、いずれもばね鋼で構成されるため、耐環境性、耐久性が高く、圧縮機を長寿命にすることができる。
【符号の説明】
【0108】
1 ロータリー式圧縮機
10 原動機部(電動機部)
11 固定子
12 回転子
20 圧縮機構部
21 クランクシャフト
21a クランクシャフト偏心部
22 ピストン
23,23a,23b シリンダ
24,24a,24b 軸受
26 ベーン
27 プレート
28 吸入口
29 吐出口
30 スプリング
31 弾性体
31a ベーン端弾性体
31b シリンダ外側弾性体
32 ベーン溝
33 スプリング格納孔
40 密閉容器
52 圧縮室。
【要約】
ピストン(22)側からシリンダ(23)の半径方向外側へ摺動可能に設けられ圧縮室を仕切るベーン(26)と、ベーンの摺動方向を規定しシリンダの内側に開口を有するベーン溝(32)と、シリンダの半径方向外側からピストン側へベーンを押すスプリング(3)と、ベーンのシリンダの半径方向外側端部、およびベーンとシリンダ半径方向に対向するシリンダ内の対向する位置の少なくともいずれか一方に設けられ、ベーンおよびシリンダのいずれよりも縦弾性係数が小さい弾性体(31)とを備えるロータリー式圧縮機。