(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジン化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08G 14/073 20060101AFI20250115BHJP
C08L 61/34 20060101ALI20250115BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C08G14/073
C08L61/34
C08J5/24 CEZ
(21)【出願番号】P 2024011312
(22)【出願日】2024-01-29
【審査請求日】2024-09-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722013405
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 肇
(72)【発明者】
【氏名】米川 盛生
(72)【発明者】
【氏名】下川路 朋紘
(72)【発明者】
【氏名】塩入 僚祐
(72)【発明者】
【氏名】安藤 駿介
(72)【発明者】
【氏名】青木 和徳
(72)【発明者】
【氏名】熊野 岳
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特許第5671430(JP,B2)
【文献】特許第7279865(JP,B2)
【文献】特開2014-84450(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0064356(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112442158(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109265633(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113501922(CN,A)
【文献】国際公開第2019/031609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00- 16/06
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物、及びアルデヒド化合物の反応生成物を含むベンゾオキサジン化合物。
【請求項2】
前記ノボラック型フェノール樹脂が、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニン、フェノール樹脂、及びアルデヒド化合物を反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂である、請求項1に記載のベンゾオキサジン化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベンゾオキサジン化合物を含有する樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項5】
請求項3に記載の樹脂組成物及び基材を含む複合体。
【請求項6】
請求項3に記載の樹脂組成物及び基材を含むプリプレグ。
【請求項7】
請求項5に記載の複合体の硬化物。
【請求項8】
ベンゾオキサジン化合物の製造方法であって、
(1)ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンと、フェノール樹脂、及びアルデヒド化合物を反応させてノボラック型フェノール樹脂を得る工程、並びに
(2)上記(1)で得られたノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物、及びアルデヒド化合物を反応させてベンゾオキサジン化合物を得る工程
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾオキサジン化合物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物に関する研究は古くから行われており(例えば、特許文献1)、この物質は、フェノール化合物、アミン化合物及びホルムアルデヒド化合物を反応させることにより合成される(反応式(1)参照)。
【化1】
ベンゾオキサジン化合物(モノマー)は、加熱することにより開環重合(硬化)してベンゾオキサジン樹脂(ポリマー)を生成するので、従来のフェノール樹脂に代わる新しいタイプのフェノール樹脂として注目されている。
【0003】
ベンゾオキサジン樹脂は、優れた機械特性を有する一方で、その硬脆さが課題となり適用可能な用途が限定されている。また、エポキシ樹脂やフェノール樹脂よりも耐熱性に優れるものの、パワー半導体や車載用途等の厳しい耐熱性が要求される分野では十分とは言えない。
【0004】
一方、新たなベンゾオキサジン化合物として、植物由来成分であるリグニンを原料とするベンゾオキサジン化合物が報告されている(特許文献2)。
また、前記リグニンとは別に、ポリエチレングリコール(PEG)により変性されたリグニン(特許文献3)、及び該PEG変性リグニンとフェノール類と、アルデヒド類を原料とする耐熱性及び柔軟性に優れるノボラック型フェノール樹脂(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭49-47378号公報
【文献】特開2013-53205号公報
【文献】特開2017-197517号公報
【文献】特開2021-123716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」と表記する場合がある)変性リグニンを原料とするベンゾオキサジン化合物、該ベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物、及びその樹脂硬化物を提供することを課題とする。
【0007】
具体的には、本発明は、有機溶剤に溶解し、また溶融可能なリグニン骨格を有するベンゾオキサジン化合物、及びその製造方法を提供することを課題とする。また、優れた耐熱性を有し、高強度かつ低い引張弾性率を有する硬化物を与える該ベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物、及びその硬化物を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特許文献2に記載の変性リグニンを原料とするベンゾオキサジン化合物は、溶剤や樹脂への溶解性及び溶融性が極めて低くプリプレグ等を形成する用途への適用が困難であることを確認した。本発明者は、この問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂を原料とするベンゾオキサジン化合物が、溶剤や樹脂への溶解性及び溶融性に優れることを見いだした。また、該ベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物の硬化物が、従来のベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物の硬化物と比較して、耐熱性が高く(高ガラス転移温度)、しかも高強度(高引張強度)と伸びやすさ(低引張弾性率)とをあわせ持つことを見いだした。かかる知見に基づいて更に研究を重ね、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物、及びアルデヒド化合物の反応生成物を含むベンゾオキサジン化合物。
[2] 前記ノボラック型フェノール樹脂が、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニン、フェノール樹脂、及びアルデヒド化合物を反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂である、[1]に記載のベンゾオキサジン化合物。
[3] [1]又は[2]に記載のベンゾオキサジン化合物を含有する樹脂組成物。
[4] [3]に記載の樹脂組成物の硬化物。
[5] [3]に記載の樹脂組成物及び基材を含む複合体。
[6] [3]に記載の樹脂組成物及び基材を含むプリプレグ。
[7] [5]に記載の複合体又は[6]に記載のプリプレグの硬化物。
[8] ベンゾオキサジン化合物の製造方法であって、
(1)ポリエチレングリコールにより変性されたリグニン、フェノール樹脂、及びアルデヒド化合物を反応させてノボラック型フェノール樹脂を得る工程、並びに
(2)上記(1)で得られたノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物、及びアルデヒド化合物を反応させてベンゾオキサジン化合物を得る工程
を含む製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリグニン骨格を有するベンゾオキサジン化合物は、有機溶剤への溶解性に優れ、且つ溶融可能である。該ベンゾオキサジン化合物は、溶融可能であるため、他の樹脂と溶融混合することができる。そのため、プリプレグの形成、注型プロセスの等の用途に好適に用いることができる。また、該ベンゾオキサジン化合物は、溶融可能であるため、他の樹脂と溶融混合することができる。
本発明のリグニン骨格を有するベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、耐熱性に優れ(ガラス転移温度(Tg)が高く)、強度に優れ(引張強度が大きく)、及び伸びやすい(引張弾性率が比較的小さい)という特徴を有している。
本発明のリグニン骨格を有するベンゾオキサジン化合物の硬化反応は、比較的低温で反応が進行する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において得られた黒色固体のIRスペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.ベンゾオキサジン化合物
本発明のベンゾオキサジン化合物は、(1)ポリエチレングリコール(PEG)により変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、(2)アミン化合物、及び(3)アルデヒド化合物の反応生成物を含むことを特徴とする。
【0013】
(1)PEGにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂
PEGにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂は、PEGにより変性されたリグニン(以下、「PEG変性リグニン」とも表記する)、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物から得られる反応生成物を含有する。通常、PEG変性リグニン、フェノール化合物、及びアルデヒド化合物を、酸触媒下で反応させることにより製造することができる。具体的には、特許文献4(特開2021-123716号公報)に従い又は準じて製造することができる。例えば、以下の通りである。
【0014】
(PEG変性リグニン)
PEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂の原料であるPEG変性リグニンにおいて、ポリエチレングリコール(PEG)は、本発明のベンゾオキサジン化合物に要求される物性などに応じて、適宜選択される。
【0015】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、本発明のベンゾオキサジン化合物において高い引張強度及び低引張弾性率の両立を図る観点から、例えば、100以上、好ましくは、200以上、より好ましくは、300以上、さらに好ましくは、400以上であり、例えば、1000以下、好ましくは、900以下、より好ましくは、800以下、さらに好ましくは、600以下である。なお、数平均分子量は、公知のゲルパーミエーションクロマトグラム法により、ポリエチレングリコール換算分子量として求めることができる。
【0016】
PEG変性リグニンにおいて、リグニンは、グアイアシルリグニン(G型)、シリンギルリグニン(S型)、p-ヒドロキシフェニルリグニン(H型)などの基本骨格からなる高分子フェノール性化合物であって、天然物(天然リグニン)として、植物全般に含まれている。
【0017】
天然リグニンを工業的に取り出したものとしては、例えば、原料としての植物材料(リグノセルロース)からパルプをソーダ法、亜硫酸法、クラフト法などによって製造する際、排出される廃液(黒液)中に含まれるソーダリグニン、サルファイトリグニン、クラフトリグニンなどが知られている。
【0018】
リグニンとして、具体的には、木本系植物由来リグニン、草本系植物由来リグニン等が挙げられる。木本系植物由来リグニンとしては、例えば、針葉樹(例えば、スギなど)に含まれる針葉樹系リグニン、例えば、広葉樹に含まれる広葉樹系リグニンなどが挙げられる。木本系植物由来リグニンは、H型の基本骨格を含まない。より具体的には、木本系植物由来リグニンのうち、針葉樹系リグニンは、S型の基本骨格を含まず、G型の基本骨格を有している。また、広葉樹系リグニンは、G型の基本骨格及びS型の基本骨格を有している。
【0019】
草本系植物由来リグニンとしては、例えば、イネ科植物(麦わら、稲わら、とうもろこし、タケなど)に含まれるイネ系リグニンなどが挙げられる。草本系植物由来リグニンは、H型、G型及びS型の全ての基本骨格を有している。これらのリグニンは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0020】
リグニンとして、PEG変性リグニンの均質性の観点から、好ましくは、H型の基本骨格を含まない木本系植物由来リグニンが挙げられ、より好ましくは、S型の基本骨格を含まず、G型の基本骨格を有する針葉樹系リグニンが挙げられ、とりわけ好ましくは、スギに由来する針葉樹系リグニンが挙げられる。
【0021】
PEG変性リグニンは、特に制限されないが、例えば、特許文献3(特開2017-197517号公報)に記載される方法に準拠して、製造することができる。
【0022】
より具体的には、例えば、リグニンの原料となる植物材料(リグノセルロース)を、ポリエチレングリコールを用いて加溶媒分解することによって、PEG変性リグニンを得ることができる。
【0023】
加溶媒分解の方法としては、特に制限されないが、例えば、リグニンの原料となる植物材料と、ポリエチレングリコールと、酸触媒としての無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)とを混合し、反応させる。
【0024】
ポリエチレングリコールの配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、ポリエチレングリコールが、例えば、200質量部以上、好ましくは、300質量部以上であり、例えば、1000質量部以下、好ましくは、600質量部以下である。
【0025】
また、無機酸の配合割合は、ポリエチレングリコール100質量部に対して、無機酸(100%換算)が、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.2質量部以上であり、例えば、2質量部以下、好ましくは、1質量部以下である。
【0026】
また、反応条件としては、常圧下、反応温度が、例えば、120℃以上、好ましくは、130℃以上であり、例えば、180℃以下、好ましくは、150℃以下である。また、反応時間が、例えば、60分以上であり、例えば、240分以下、好ましくは、120分以下である。
【0027】
また、反応終了後、公知のアルカリ(例えば、アンモニア、水酸化ナトリウムなど)を、適宜の割合で添加し、pHを調整して、PEG変性リグニンを溶液に抽出させる。
【0028】
調整後のpHは、例えば、8以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、10.5以上であり、例えば、14以下である。
【0029】
このような方法によって、固形成分としてパルプが得られるとともに、溶液成分(パルプ廃液)としてPEG変性リグニンが得られる。
【0030】
次いで、この方法では、濾過、プレス、遠心分離などの公知の分離方法によって、反応生成物から固形成分(パルプ)を分離し、溶液成分(パルプ廃液)を回収する。
【0031】
また、この方法では、必要に応じて、固形成分(パルプ)を洗浄し、固形成分に含浸される溶液(PEG変性リグニン)を、回収することもできる。
【0032】
その後、この方法では、無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)などを添加し、pHを調整して、PEG変性リグニンを析出及び沈殿させる。
【0033】
調整後のpHは、例えば、1.5以上であり、例えば、5以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、2以下である。
【0034】
これにより、PEG変性リグニンを沈殿させることができる。また、得られた沈殿を、例えば、濾過、プレス、遠心分離などの公知の方法で回収することにより、固形分として、PEG変性リグニンを得ることができる。
【0035】
(フェノール化合物)
PEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂の原料であるフェノール化合物は、フェノール及びその誘導体(フェノール変性体)であって、例えば、フェノール、さらには、例えば、o-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、2,4-または2,6-キシレノールなどの2官能性フェノール誘導体、例えば、m-クレゾール、レゾルシノール、3,5-キシレノールなどの3官能性フェノール誘導体、例えば、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性フェノール誘導体などが挙げられる。
また、フェノール誘導体としては、例えば、塩素、臭素などのハロゲンにより置換されたハロゲン化フェノール化合物なども挙げられる。これらフェノール化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。なお、フェノールの誘導体(フェノール変性体)が用いられる場合、フェノールが変性されるタイミングは特に制限されず、PEG変性リグニンとフェノール化合物とアルデヒド化合物との反応前、反応後、反応と同時のいずれでもよい。
【0036】
フェノール化合物として、好ましくは、フェノールが挙げられる。
【0037】
(アルデヒド化合物)
PEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂の原料であるアルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド(n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド)、フルフラール、グリオキサール、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンなどが挙げられる。また、アルデヒドの一部が、フルフリルアルコールなどに置換されていてもよい。これらアルデヒド化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0038】
アルデヒド化合物として、好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが挙げられる。また、アルデヒド化合物は、例えば、水溶液として用いることができる。そのような場合において、アルデヒド化合物の濃度は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、99質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。
【0039】
また、アルデヒド化合物とともに、ケトン化合物を配合することもできる。ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノン、ジフェニルケトンなどが挙げられる。これらケトン化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0040】
ケトン化合物が配合される場合、ケトン化合物の配合割合は、固形分基準で、アルデヒド化合物100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、1質量部以上であり、例えば、200質量部以下、好ましくは、100質量部以下である。
【0041】
(反応)
PEG変性リグニンとフェノール化合物とアルデヒド化合物(及び必要により配合されるケトン化合物、以下同様)とを反応させるには、上記の各成分(PEG変性リグニン、フェノール化合物及びアルデヒド化合物等)を配合し加熱する。この反応は、酸触媒を添加することもできる。
【0042】
この反応において、フェノール化合物の配合割合は、PEG変性リグニン100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは、50質量部以上、より好ましくは、100質量部以上であり、例えば、1000質量部以下、好ましくは、500質量部以下、より好ましくは、350質量部以下である。
【0043】
また、耐熱性の向上を図る観点から、フェノール化合物の配合割合は、PEG変性リグニン100質量部に対して、好ましくは、200質量部以上、より好ましくは、250質量部以上であり、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、500質量部以下である。
【0044】
アルデヒド化合物の配合割合は、フェノール化合物100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上であり、例えば、35質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
また、アルデヒド化合物の配合割合は、PEG変性リグニン100質量部に対して、例えば、1.5質量部以上、好ましくは、3質量部以上であり、例えば、350質量部以下、好ましくは、300質量部以下である。
【0045】
この反応では、酸触媒を添加することができる。上記の各成分は、酸触媒下において反応させることができる。酸触媒としては、例えば、有機酸、無機酸などが挙げられる。
【0046】
有機酸としては、例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、キュメンスルホン酸、ジノニルナフタレンモノスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などのスルホン酸化合物、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルなどの炭素数1~18のアルキル基を有するリン酸エステル、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸などが挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。これら酸触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0047】
酸触媒として、好ましくは有機酸、より好ましくはシュウ酸が挙げられる。
【0048】
酸触媒の配合割合は、フェノール化合物100質量部に対して、酸触媒が、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上であり、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0049】
なお、酸触媒の添加のタイミングは、特に制限されず、PEG変性リグニン、フェノール化合物及びアルデヒド化合物の少なくともいずれかに予め添加されていてもよく、また、PEG変性リグニン、フェノール化合物及びアルデヒド化合物の配合時に同時に添加されてもよく、さらに、PEG変性リグニン、フェノール化合物及びアルデヒド化合物の配合後に添加されてもよい。
【0050】
反応条件としては、大気圧下、反応温度が、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上であり、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。また、反応時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、15時間以下である。
【0051】
これにより、PEG変性リグニン、フェノール化合物及びアルデヒド化合物の反応生成物として、ノボラック型フェノール樹脂が得られる。より具体的には、酸触媒下におけるフェノール化合物とアルデヒド化合物との反応によって、ノボラック型フェノール樹脂が得られ、そのノボラック型フェノール樹脂が、PEG変性リグニンにより変性される。
【0052】
すなわち、PEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂が得られる。
【0053】
PEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂の製造では、必要により、蒸留などの公知の方法によって、未反応原料(未反応のフェノール化合物など)や酸触媒を除去することができる。
【0054】
このようにして得られたPEG変性リグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂は、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンと、フェノール化合物と、アルデヒド化合物とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含む。
【0055】
(2)アミン化合物
アミン化合物としては、例えば1級アミンが挙げられる。具体的には、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ドデシルアミン、n-ノニルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、アリルアミンなどのアルキルモノアミンまたはアルケニルモノアミン;アニリン、p-シアノアニリン、p-ブロモアニリン、o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン、2,4-キシリジン、2,5-キシリジン、3,4-キシリジン、α-ナフチルアミン、β-ナフチルアミン、3-アミノフェニルアセチレンなどの芳香族モノアミンなどが挙げられる。
【0056】
さらに、ベンジルアミン、2-アミノベンジルアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,10-ジアミノデカン、2,7-ジアミノフルオレン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、9,10-ジアミノフェナントレン、1,4-ジアミノピペラジン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-オキシジアニリン、フルオレンテトラアミン、テトラアミンジフェニルエーテル、メラミンなども使用できる。
これらの中でもアニリン、メチルアミンなどが好ましく、アニリンがより好ましい。アニリンは、分子中にフェニル基を有しており、そのフェニル基が、成形品の耐熱性をより向上させる。
【0057】
(3)アルデヒド化合物
アルデヒド化合物としては、特に限定されない。例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド(n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド)、フルフラール、グリオキサール、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンなどが挙げられる。また、アルデヒドの一部が、フルフリルアルコールなどに置換されていてもよい。これらアルデヒド化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0058】
好ましくはホルムアルデヒド化合物が挙げられる。ホルムアルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリン、あるいはその重合物であるパラホルムアルデヒド、トリオキサンなどが挙げられる。使用されるアルデヒド化合物は、固体や液体などその状態は限定されない。特に、パラホルムアルデヒドは常温で固体(粉末)のため扱いやすく好ましい。
【0059】
(4)製造方法
本発明のベンゾオキサジン化合物は、(1)PEG変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、(2)アミン化合物、及び(3)アルデヒド化合物を含む成分を反応させることにより製造することができる。
【0060】
ベンゾオキサジン環は、PEG変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂分子中のフェノール骨格部分に形成される。例えば、上記の成分を混合して反応させることにより、フェノール骨格部分で環化反応が進行しベンゾオキサジン環が形成される。
【0061】
PEG変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物及びアルデヒド化合物は、ベンゾオキサジン環を形成するために理論上必要なモル比とすればよい。例えば、各成分の分子中に含まれる官能基がいずれも1つである場合、PEG変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物、及びアルデヒド化合物は、モル比で、1:1:2である。
【0062】
PEG変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂を変性する程度に応じて、アミン化合物及びアルデヒド化合物を適宜の割合で用いることができる。例えば、PEG変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂のフェノール性水酸基当量1モルに対して、アミン化合物は0.5~30モル、好ましくは0.8~20モル、より好ましくは1~10モルであり、アルデヒド化合物は1~40モル、好ましくは1.2~20モル、より好ましくは1.5~15モルである。
【0063】
この反応では、酸触媒を添加することができる。つまり、上記の各成分は、酸触媒下において反応させることができる。酸触媒としては、例えば、有機酸、無機酸などが挙げられる。
【0064】
有機酸としては、例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、キュメンスルホン酸、ジノニルナフタレンモノスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などのスルホン酸化合物、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルなどの炭素数1~18のアルキル基を有するリン酸エステル、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸などが挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。これら酸触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0065】
酸触媒として、好ましくは有機酸、より好ましくはシュウ酸が挙げられる。
【0066】
酸触媒の配合割合は、フェノール化合物100質量部に対して、酸触媒が、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上であり、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0067】
反応温度は、好ましくは50~200℃程度、より好ましくは100~150℃程度である。また反応時間は、好ましくは5分~6時間程度、より好ましくは20分~3時間程度である。
【0068】
上記のようにして製造されるベンゾオキサジン化合物は、草本系リグニンを基にしたベンゾオキサジン化合物に比べて溶剤への溶解性に優れ、また溶融性にも優れる。また、該ベンゾオキサジン化合物は、従来のベンゾオキサジン化合物に比べて硬化が早く、その硬化物は耐熱性、強度及び柔軟性に優れる。
【0069】
3.ベンゾオキサジン化合物の用途
本発明はさらに、上記で製造されたベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物、その硬化物、該樹脂組成物と基材とを含む複合体(プリプレグ等)、該複合体の硬化物を提供する。以下、具体的に説明する。
【0070】
本発明の樹脂組成物は、上記ベンゾオキサジン化合物を含み、必要に応じて添加剤、例えば、強靭化剤、触媒、強化剤、充填剤(フィラー)、接着促進剤、難燃剤、チクソトロピー剤等をさらに含むことができる。添加剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。添加剤の含有量は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、目的及び用途に応じて、適宜設定することができる。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて他の樹脂を含むことができる。他の樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ケイ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物を主成分として含み、必要に応じ、他の樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)、添加剤等を副成分として含むことができる。
【0073】
本発明において、ベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物には、ベンゾオキサジン化合物、及び該ベンゾオキサジン化合物と他の成分(添加剤、他の樹脂等)とを含む混合物の両方の意味が含まれる。
【0074】
本発明の樹脂組成物中のベンゾオキサジン化合物の含有量は、例えば、1~100質量%、好ましくは1~90質量%であり、より好ましくは3~85質量%であり、特に好ましくは5~80質量%である。
【0075】
本発明のベンゾオキサジン化合物及び樹脂組成物の最低溶融粘度(複素粘度)は、他の樹脂と混錬できるという観点から、好ましくは100~160℃で0.1~10000(Pa・s)、より好ましくは0.1~1000(Pa・s)、特に好ましくは1~500(Pa・s)である。
【0076】
本明細書において、最低溶融粘度(複素粘度)は、以下の方法によって特定される。すなわち、測定は、25mm径パラレルプレートのレオメータ(MCR300、アントンパール・ジャパン製)を用い、ギャップ1mm、周波数1Hz、ひずみ0.5%、昇温速度2℃/分、温度範囲100℃~180℃の条件で粘弾性を測定し、得られた粘弾性曲線から最低溶融粘度(Pa・s)を求める。
【0077】
本発明の樹脂組成物が添加剤及び/又は他の樹脂を含有する場合、ベンゾオキサジン化合物と添加剤及び/又は他の樹脂とを、公知の方法で混合(混練)することができる。
【0078】
混練方法としては、特に制限されず、例えば、単軸押出機、多軸押出機、ロール混練機、ニーダー、ヘンシエルミキサー、バンバリーミキサーなどの公知の混練機を用いることができる。混練条件としては、混練温度が、例えば80℃以上、好ましくは、90℃以上、より好ましくは、100℃以上であり、180℃以下、好ましくは、170℃以下、より好ましくは、160℃以下である。また、混練時間が、例えば、3分以上、好ましくは、5分以上であり、例えば、30分以下、好ましくは、20分以下である。これにより、ベンゾオキサジン化合物と添加剤及び/又は他の樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。
【0079】
本発明の樹脂組成物の硬化物は、上記樹脂組成物を硬化させて得ることができる。樹脂組成物の硬化は、例えば、例えば、100~200℃で1分~8時間の条件で実施することができる。
【0080】
得られる硬化物のガラス転移温度は、好ましくは少なくとも200℃、より好ましくは少なくとも215℃、特に好ましくは少なくとも230℃である。本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性試験から得られる損失正接(tanδ)のピーク温度により測定した値である。
【0081】
本発明は、上記本発明の樹脂組成物及び基材を含む複合体を提供する。該複合体として、典型的には、該樹脂組成物及び基材を含むプリプレグ等が挙げられる。本発明のプリプレグは、通常、基材に樹脂組成物を含浸させた複合体である。基材としてはプリプレグを形成できるものであれば特に限定はなく、例えば、紙、強化繊維等が挙げられる。
【0082】
紙としては、例えば、綿を原料としたリンター紙、広葉樹を原料としたクラフト紙等が挙げられる。
【0083】
強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維等が挙げられる。これらに限定されない広範な繊維が用いられる。強化繊維の形態に関して特に制限又は限定はなく、例えば、長繊維(一方向延伸)、トウ、織物、マット、ニット、組み紐、及び短繊維(10mm未満の長さに切断)を含む多様な形態の繊維が用いられる。ここで、長繊維とは、少なくとも10mmにわたって実質的に連続的である単一繊維又は繊維束を意味する。他方、短繊維は、10mm未満の長さに切断された繊維束である。高い比強度及び比弾性率が要求される用途には、強化繊維束が同じ方向に引き揃えられた繊維配列が適している。
【0084】
プリプレグに含まれる樹脂組成物の含有量は、通常30~70質量%であり、好ましくは35~65質量%であり、より好ましくは40~60質量%である。プリプレグに含まれる基材の含有量は、通常30~70質量%であり、好ましくは35~65質量%であり、より好ましくは40~60質量%である。
【0085】
プリプレグの製造は公知の方法を用いることができる。基材が強化繊維の場合、例えば、シートモールディングコンパウンド法などが挙げられる。
【0086】
プリプレグは、樹脂組成物を基材(紙、強化繊維等)に含浸させることによって製造できる。含浸法は、ウェット法、及びホットメルト法(ドライ法)を含む。この場合、基材に含浸させる樹脂組成物の粘度は上記の範囲であることが好ましい。
【0087】
ウェット法は、樹脂組成物を有機溶剤(メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン又はメタノールなど)中に溶解した溶液中に、基材(紙、強化繊維等)を浸漬し、取り出した後に、有機溶剤をオーブン等で蒸発させて除去してプリプレグを調製する方法である。
【0088】
ホットメルト法は、加熱によって予め流動状とされた樹脂組成物を基材(紙、強化繊維等)に直接含浸させる方法である。或いは、樹脂フィルムとして用いるために、離型紙などに樹脂組成物をコーティングし、次に平坦形状に配列された基材(紙、強化繊維等)の一方又は両側上にフィルムを配置し、続いて加熱加圧を適用して基材に樹脂を含浸させる方法が挙げられる。このホットメルト法を用いることにより実質的に残留溶媒を有しないプリプレグが得られる。
【0089】
プリプレグ積層成形法下での加熱加圧の適用には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などが適宜用いられてよい。
【0090】
オートクレーブ成形は、プリプレグが所定の形状のツールプレート上で積層され、次にバッギングフィルムで覆われ、続いて空気が積層体から引き抜かれながら加熱加圧が適用されることによる硬化が行われる方法である。それは、繊維配向の精密な制御を可能とし得るものであり、さらには、ボイド含有率を最小限に抑えることによって、非常に優れた力学特性を有する高品質な成形された材料の提供も可能とし得る。
成形プロセスの過程で適用される圧力は、通常0.3~1.0MPaであり、一方成形温度は、通常90~300℃の範囲内である。
【0091】
本発明のベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物の硬化物はTgが高いことにより、プリプレグの硬化を比較的高い温度で行うことが有利である(例:少なくとも180℃又は少なくとも200℃の温度)。例えば、成形温度は、200~275℃であってよい。別の選択肢として、プリプレグは、それよりも多少低い温度(例:90~200℃)で成形され、脱型され、続いてモールドから取り出された後により高い温度(例:200~275℃)で後硬化されてもよい。
【0092】
ラッピングテープ法は、プリプレグが、マンドレル又は他の何らかの芯金の周りに巻き付けられて、管状繊維強化複合材料が形成される方法である。この方法は、ゴルフシャフト、釣り竿、及び他の棒形状品の製造に用いられ得る。より具体的には、この方法は、マンドレルの周りにプリプレグを巻き付け、プリプレグを固定してそれに圧力を適用する目的で、熱可塑性プラスチックフィルムから成るラッピングテープを張力下でプリプレグ上に巻き付けることを含む。オーブン中での加熱による樹脂の硬化後、芯金が取り除かれて、管状体が得られる。ラッピングテープの巻き付けに用いられる張力は、20~100Nであってよい。成形温度は、80~300℃の範囲内であってよい。
【0093】
内圧成形法は、熱可塑性樹脂チューブ又は他の何らかの内圧アプリケーターの周りにプリプレグを巻き付けることによって得られるプリフォームが、金属モールド内部にセットされ、続いて内圧アプリケーター中に高圧ガスが導入されて圧力が適用され、それに付随して同時に金属モールドが加熱されてプリプレグが成形される方法である。この方法は、ゴルフシャフト、バット、及びテニス又はバドミントンラケットなどの複雑な形状を有する物体を成形する際に用いられ得る。成形プロセスの過程で適用される圧力は、0.1~2.0MPaであってよい。成形温度は、室温~300℃、又は180~275℃の範囲内であってよい。
【0094】
このようにして得られる本発明の樹脂組成物の硬化物、及び本発明の複合体(プリプレグ等)の硬化物は、上記の(1)PEGにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、(2)アミン化合物、及び(3)アルデヒド化合物の反応生成物を含むベンゾオキサジン化合物を原料としているため、耐熱性に優れ(ガラス転移温度(Tg)が高く)、強度に優れ(引張強度が大きく)、及び伸びやすい(引張弾性率が比較的小さい)という特徴を有している。そのため、例えば、電気部品、自動車部品、建築材料、日用品、繊維強化複合材料、構造材料、電気・電子材料等の成形品の製造等の広範な用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<原料>
使用した主原料は、以下のとおりである。
・改質リグニンノボラック樹脂1(PEG600LN-2;ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、改質リグニン含有量40%、森林総合研究所製)(特許文献4の実施例7を参照)
・改質リグニンノボラック樹脂2(PEG400LN-2;ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、改質リグニン含有量40%、森林総合研究所製)(特許文献4の実施例4を参照)
・フェノールノボラック樹脂N1(フェノライトTD2131、mp80℃、OH当量103、DIC(株)製)
【0096】
<評価方法>
下記で得られたベンゾオキサジン化合物、プリプレグ、及び硬化物について下記の評価を実施した。
【0097】
(1)ベンゾオキサジン化合物の軟化点及び最低溶融粘度
実施例1及び2で得られたベンゾオキサジン化合物、並びに比較例3で得られたベンゾオキサジン化合物について、示差走査熱量測定(DSC)の吸熱ピーク温度を測定しそれを軟化点(℃)とした。その結果を表1に示す。
また、各ベンゾオキサジン化合物について、25mm径パラレルプレートのレオメータ(MCR300、アントンパール・ジャパン製)を用い、ギャップ1mm、周波数1Hz、ひずみ0.5%、昇温速度2℃/分、温度範囲100℃~180℃の条件で粘弾性を測定し、得られた粘弾性曲線から最低溶融粘度(Pa・s)を求めた。その結果を表1に示す。
【0098】
(2)ベンゾオキサジン化合物の溶解性試験
実施例1及び2で得られたベンゾオキサジン化合物、並びに比較例3で得られたベンゾオキサジン化合物について、表2に示す各種溶剤に対する溶解性を評価した。具体的には、各ベンゾオキサジン化合物1gに対して溶剤を5g添加して、室温(23℃)でベンゾオキサジン化合物を溶解させた。その後、得られた混合物を濾過し、溶け残りの有無を目視で確認した。各ベンゾオキサジン化合物の溶剤に対する溶解性を、下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。
○:完全に溶解(溶け残りが無い)
△:一部溶解(一部溶け残りあり)
×:全く溶解せず
【0099】
(3)ベンゾオキサジン化合物の硬化挙動の評価
硬化挙動の評価は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、各ベンゾオキサジン化合物を、窒素雰囲気下で、昇温速度10℃/分、室温~300℃まで昇温して、各ベンゾオキサジン化合物の硬化発熱ピークの開始温度及びピーク温度を測定した。その結果を表3に示す。
【0100】
(4)硬化物の耐熱性評価(ガラス転移温度Tgの測定)
実施例3及び4で得られた硬化物、並びに比較例4及び5で得られた硬化物のガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定の結果得られた損失正接(tanδ)の温度分散曲線のピーク温度により評価した。動的粘弾性測定は、ユービーエム(株)製Rheogel-E4000を用いて周波数1Hz、昇温速度2℃/min、曲げモードで実施した。その結果を表3に示す。
【0101】
(5)硬化物の引張強度及び弾性率の評価
実施例3及び4で得られた硬化物、並びに比較例4及び5で得られた硬化物として短冊状の試験片(長さ100mm、幅10mm、厚さ約5mm)を用いて、試験速度1mm/min、つかみ具間距離70mmで室温にて引張試験を行い、引張強度(MPa)及び引張弾性率(GPa)を測定した。その結果を表3に示す。
【0102】
<ベンゾオキサジン化合物の合成>
〔実施例1〕
容量300mlの3つ口ナスフラスコに、改質リグニンノボラック樹脂1 15.0g(樹脂のフェノール性水酸基の当量:97.5mmol)、4-メチルテトラヒドロピラン150g、アニリン9.1g(97.5mmol)及びパラホルムアルデヒド5.9g(195mmol)を仕込み、ディーンスターク装置で水分を系外に排出しながら106℃で3時間攪拌した。その後、80℃まで冷却し、不溶性分をろ別した後、ろ液を濃縮することで黒色固体15.1gを得た。
【0103】
この黒色固体の
1H-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・
1H-NMR(DMSO-d
6)δ/ppm: 6.4-7.2ppm(ノボラック樹脂骨格由来ベンゼン環)、4.5-4.6ppm(ベンゾオキサジン環メチレン)、5.3ppm(ベンゾオキサジン環メチレン)、3.5-3.6ppm(ノボラック樹脂骨格由来メチレン)、3.5ppm(ポリエチレングリコール由来メチレン)
この黒色固体のIRスペクトルデータは、
図1に示したチャートのとおりであった。このスペクトルデータより、得られた黒色固体はベンゾオキサジン化合物と同定した。
得られたベンゾオキサジン化合物について、軟化点評価、最低溶融粘度評価、及び溶解性評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0104】
〔実施例2〕
容量300mlの3つ口ナスフラスコに、改質リグニンノボラック樹脂2 15.0g(樹脂のフェノール性水酸基の当量:97.5mmol)、4-メチルテトラヒドロピラン150g、アニリン9.1g(97.5mmol)及びパラホルムアルデヒド5.9g(195mmol)を仕込み、ディーンスターク装置で水分を系外に排出しながら106℃で3時間攪拌した。その後、80℃まで冷却し、不溶性分をろ別した後、ろ液を濃縮することで黒色固体15.1gを得た。
この黒色固体の1H-NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・1H-NMR(DMSO-d6)δ/ppm: 6.6-7.2ppm(ノボラック樹脂骨格由来ベンゼン環)、4.3-4.6ppm(ベンゾオキサジン環メチレン)、5.3ppm(ベンゾオキサジン環メチレン)、3.2-3.7ppm(ノボラック樹脂骨格由来メチレン)、3.5ppm(ポリエチレングリコール由来メチレン)
この黒色固体のIRスペクトルデータより、得られた黒色固体はベンゾオキサジン化合物と同定した。
得られたベンゾオキサジン化合物について、軟化点評価、最低溶融粘度評価、及び溶解性評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0105】
〔比較例1〕(F-a型ベンゾオキサジン)
四国化成工業株式会社製のベンゾオキサジンF-aを用いた。
【0106】
〔比較例2〕(フェノールノボラック型ベンゾオキサジン)
還流冷却器、温度計、滴下漏斗、及び攪拌機を備えた2Lの4つ口フラスコに、4molの37%ホルムアルデヒド水溶液を加え、氷浴中で10℃以下に冷却して攪拌しながら、2molのアニリンをゆっくり滴下した。次に、2molのフェノールノボラック樹脂N1を加え、ジオキサン還流条件下で6時間攪拌して反応させ、減圧乾燥して、フェノールノボラック型ベンゾオキサジン(N1-a)を得た。
【0107】
〔比較例3〕(リグニン由来ベンゾオキサジン)
麦わらを原料とするパルプ製造過程で生成した廃液から、約40μmの平均粒径を有する草本系リグニンを得た。次いで、得られた草本系リグニン、アニリン及びパラホルムアルデヒドを、リグニン:アニリン:パラホルムアルデヒド=1:10:20のモル比となるように、反応容器に仕込んだ。次いで、反応容器を100℃で30分間保持することにより、草本系リグニン由来ベンゾオキサジンを得た。
得られた草本系リグニン由来ベンゾオキサジン化合物について、軟化点評価、最低溶融粘度評価、及び溶解性評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0108】
<プリプレグ及び硬化物の調製>
〔実施例3〕
A4サイズの紙(紙基材フェノール樹脂用クラフト紙、厚さ約0.23mm)の重量6.4gを測定した。実施例1で得られたベンゾオキサジン化合物をその紙の重量と同じ重量を測りとり、30mlのテトラヒドロフランに溶解させた。その後、テトラヒドロフラン溶液を紙にすべて含侵させ、50℃で24時間乾燥させることでベンゾオキサジン化合物が約50%含有したプリプレグを作製した。得られたプリプレグを、オーブン中で熱板に挟みながら、150℃で4時間、200℃で2時間加熱することにより硬化物を得た。
得られた硬化物について、耐熱性評価と機械特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0109】
〔実施例4〕
実施例2で得られたベンゾオキサジン化合物を用いた以外は、実施例3と同様にしてベンゾオキサジンが約50%含有したプリプレグ及び硬化物を得た。
得られた硬化物について、耐熱性評価と機械特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0110】
〔比較例4〕
実施例1で得られたベンゾオキサジン化合物の代わりに、比較例1の従来のモノマータイプのベンゾオキサジン化合物(F-a型ベンゾオキサジン)を用いること以外は、実施例3と同様にしてプリプレグ及び硬化物を得た。
得られた硬化物について、耐熱性評価と機械特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0111】
〔比較例5〕
実施例1で得られたベンゾオキサジン化合物の代わりに、比較例2の従来のフェノールノボラック型ベンゾオキサジン化合物(N1-a)を用いること以外は、実施例3と同様にしてプリプレグ及び硬化物を得た。
得られた硬化物について、耐熱性評価と機械特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0112】
〔比較例6〕
実施例1で得られたベンゾオキサジン化合物の代わりに、比較例3の草本系リグニン由来のベンゾオキサジン化合物(非PEG鎖)を用いること以外は、実施例3と同様にしてプリプレグの作製を試みたが、テトラヒドロフラン他各種溶媒に溶解することができずプリプレグの作製が不可能であった。
【表1】
【表2】
【表3】
【0113】
表1より、実施例1及び2で得られた本発明のベンゾオキサジン化合物は、軟化点を有し、該軟化点が低く、最低溶融粘度も小さいことが確認された。そのため、本ベンゾオキサジン化合物は、プリプレグの形成、注型プロセス等に適用可能である。これに対し、比較例3の従来のベンゾオキサジン化合物(特許文献2のリグニン変性ベンゾオキサジン化合物に相当)は、軟化点を有しない。そのため、プリプレグの形成、注型プロセス等に適用不可である。
【0114】
表2より、実施例1及び2で得られた本発明のベンゾオキサジン化合物は、各種の有機溶剤に対し高い溶解性を有するのに対し、比較例3のベンゾオキサジン化合物は、いずれの有機溶剤に対しても不溶であった。
【0115】
表3より、実施例1及び2で得られた本発明の本発明のベンゾオキサジン化合物は、比較例1のモノマータイプのベンゾオキサジン化合物(F-a型ベンゾオキサジン)及び、比較例2のフェノールノボラック型ベンゾオキサジン化合物(N1-a)よりも、DSCピーク開始温度及びDSCピーク温度が低いことから、低温域で硬化反応が開始し完結することが確認された。
【0116】
表3より、実施例3及び4で得られた硬化物は、比較例4及び5で得られた硬化物と比べて、ガラス転移温度は有意に高く、耐熱性に優れていることが確認された。
【0117】
表3より、実施例3及び4で得られた硬化物は、比較例4及び5で得られた硬化物と比べて、引張強度が大きく且つ引張弾性率が小さいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、有機溶剤への溶解性及び溶融性が高い。また、本発明のベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、耐熱性に優れ(ガラス転移温度(Tg)が高く)、強度に優れ(引張強度が大きく)、及び伸びやすい(引張弾性率が比較的小さい)という特徴を有している。そのため、プリプレグ等を形成して得られる成形物の用途に適している。
【要約】
【課題】 本発明は、ポリエチレングリコール変性リグニンを原料とするベンゾオキサジン化合物、該ベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物、及びその樹脂硬化物を提供する。具体的には、本発明は、有機溶剤に溶解し、また溶融可能なリグニン骨格を有するベンゾオキサジン化合物、及びその製造方法を提供する。また、優れた耐熱性を有し、高強度かつ低い引張弾性率を有する硬化物を与える該ベンゾオキサジン化合物を含む樹脂組成物、及びその硬化物を提供する。
【解決手段】 本発明は、ポリエチレングリコールにより変性されたリグニンに由来するノボラック型フェノール樹脂、アミン化合物、及びアルデヒド化合物の反応生成物を含むベンゾオキサジン化合物、該ベンゾオキサジン化合物を含有する樹脂組成物、該樹脂組成物の硬化物、該樹脂組成物と基材を含む複合体(プリプレグ等)、該複合体の硬化物、該ベンゾオキサジン化合物の製造方法に関する。
【選択図】 なし