(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】廃コンクリートからのセメントペースト回収方法
(51)【国際特許分類】
C04B 18/167 20230101AFI20250115BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20250115BHJP
B09B 3/45 20220101ALI20250115BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C04B18/167
B01D53/62
B09B3/45
C04B7/38
(21)【出願番号】P 2021024221
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洸
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 建
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】吉川 知久
(72)【発明者】
【氏名】大和田 秀二
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110972(JP,A)
【文献】特開2015-189617(JP,A)
【文献】特開2012-017227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B01D 53/62
B09B 3/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃コンクリートに二酸化炭素含有ガスを接触さ
せる第1の工程と、
第1の工程の廃コンクリートに電気パルスを印加して粉砕する第2の工程と、
第2の工程後の廃コンクリートを篩選別し、篩下を回収する第3の工程
を備え
、
第1の工程において、二酸化炭素に対して30体積%以上の水蒸気を含む二酸化炭素含有ガスを、廃コンクリートの質量が、第1の工程前の廃コンクリートに対して0.5質量%以上増量するまで接触させる、
廃コンクリートからのセメントペースト回収方法。
【請求項2】
第2の工程において、第1の工程の廃コンクリートを水に浸漬させた状態で電気パルスを印加する、請求項
1に記載の回収方法。
【請求項3】
電気パルスの電圧が50~300kVである、請求項1
又は2に記載の回収方法。
【請求項4】
電気パルスのパルス周期が0.5~80Hzである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の回収方法。
【請求項5】
電気パルスを30回以上印加する、請求項1~
4のいずれか1項に回収方法。
【請求項6】
篩選別の篩目が1mm以下である、請求項1~
5のいずれか1項に回収方法。
【請求項7】
セメントペーストがセメント原料又は混和材である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃コンクリートからのセメントペースト回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート建築物等の解体工事に伴って発生する廃コンクリートは、鉄筋等のコンクリート以外の異物を除去した後、破砕して路盤材又は埋戻し材等として活用されていた。しかし、大都市部を中心に廃コンクリートが増加しているのに対し、路盤材等の需要が減少傾向にあるため、廃コンクリート中の骨材に付着しているセメントペーストと骨材とを分離し、この骨材を再生骨材として再利用する試みがなされている。
【0003】
例えば、廃コンクリート破砕物を加熱擦り揉みによって骨材表面のセメントペーストを微粉として剥ぎ取り、再生骨材を製造する技術が提案されている(特許文献1)。
また、水で満たされた容器内に廃コンクリートを配置し、廃コンクリートに電気回路パラメータが一定の関係を満たすようにパルス電圧を印加して破砕又は粉砕する方法も報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-26459号公報
【文献】国際公開第96/26010号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1、2に記載の方法は次の課題が存在することを見出した。即ち、特許文献1に記載の方法においては、回収した微粉をセメントペーストとして再利用することが資源の有効活用の観点から望ましいが、再生骨材の品位を向上させるために過粉砕することに起因し、微粉には多くの骨材が含まれているため、セメントペーストとしての再利用が制限されてしまう。また、特許文献2に記載の方法においては、水中で電気パルスを印加して廃コンクリートを粉砕すると、水のpHと導電率が徐々に上昇して電気が水中に流れやすくなるため、絶縁破壊が起こりパルスの印加回数が制限されてしまう。
本発明の課題は、廃コンクリートから高品位のセメントペーストを回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、廃コンクリートから回収されるセメントペーストの品位を向上させるべく検討した結果、廃コンクリートに二酸化炭素を固定した後、電気パルスを印加して粉砕し、次いで篩選別して篩下を回収することで、カルシウム分に富む品位の高いセメントペーストを効率よく回収できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔8〕を提供するものである。
〔1〕廃コンクリートに二酸化炭素含有ガスを接触させて二酸化炭素を固定する第1の工程と、
第1の工程後の廃コンクリートに電気パルスを印加して粉砕する第2の工程と、
第2の工程後の廃コンクリートを篩選別し、篩下を回収する第3の工程
を備える、廃コンクリートからのセメントペースト回収方法。
〔2〕第1の工程において、廃コンクリートの質量が0.5質量%以上増加するまで二酸化炭素を固定する、前記〔1〕記載の回収方法。
〔3〕第2の工程において、第1の工程の廃コンクリートを水に浸漬させた状態で電気パルスを印加する、前記〔1〕又は〔2〕記載の回収方法。
〔4〕電気パルスの電圧が50~300kVである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の回収方法。
〔5〕電気パルスのパルス周期が0.5~80Hzである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の回収方法。
〔6〕電気パルスを30回以上印加する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の回収方法。
〔7〕篩選別の篩目が1mm以下である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の回収方法。
〔8〕セメントペーストがセメント原料又は混和材である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載の回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、廃コンクリートからセメントペーストを効率よく回収することが可能である。また、回収されたセメントペーストは、カルシウム分に富み品位が高いため、セメント原料として使用できる量が増加し、原料として使用する石灰石の使用量を削減することができる。更に、本発明によれば、篩選別した篩上を再生路盤材や再生骨材として再利用することができる。したがって、本発明方法は、廃コンクリートの再生方法としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセメントペースト回収方法は、第1の工程と、第2の工程と、第3の工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0010】
(第1の工程)
本工程は、廃コンクリートに二酸化炭素含有ガスを接触させて二酸化炭素を固定する工程である。廃コンクリートに二酸化炭素含有ガスを接触させることで、廃コンクリート中のセメントペーストに含まれる、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム化合物等のカルシウム化合物を炭酸カルシウムとすることができる。
【0011】
本工程においては、先ず廃コンクリートを準備する。
廃コンクリートとしては、土木工事や構造物の解体等によって発生する解体コンクリートや、建築物等の建設時等に発生した余剰コンクリート等が挙げられる。
廃コンクリートは、鉄筋等の異物を分離する目的で小割り、磁力選別、手選別されたコンクリート塊を用いることができる。その寸法は、通常100~400mm角であり、好ましくは300mm角程度である。
【0012】
更に、本工程においては、二酸化炭素含有ガスとの接触面積を増大させ、固定化される二酸化炭素を増量するために、各種破砕機や分級機を用いて廃コンクリートの粒度を調整してもよい。
破砕機としては公知のものを使用することが可能であるが、例えば、フレームに固定された固定刃と動刃によって圧縮破砕するジョークラッシャ、高速回転させた打撃板及び装置に固定された反発板への衝撃によって衝撃破砕するインパクトクラッシャ、円錐状のコーンケープと偏心するマントルによって圧縮破砕するジャイレトリクラッシャやコーンクラッシャ、2個のロールを回転させその間で圧縮破するダブルロールクラッシャを挙げることができる。破砕処理は、2回以上行ってもよく、2回以上行う場合には、同一又は異なる破砕機を使用することが可能であり、廃コンクリートの大きさにより適宜選択することができる。
分級機としては、例えば、リップルフロー型やローヘッド型等の振動篩、トロンメル等の回転式篩、エアセパレータやサイクロン等の乾式分級機、スパイラル分級機等の湿式分級機等の任意の分級装置を適宜選択して使用することができる。
【0013】
粒度を調整した廃コンクリートは、固定化される二酸化炭素の増量、セメントペーストの品位向上の観点から、粒径が、好ましくは40mm未満、より好ましくは30mm未満、更に好ましくは25mm未満、より更に好ましくは20mm未満である。なお、廃コンクリートの粒径の下限値は特に限定されないが、生産効率の観点から、0.25mm以上が好ましく、0.5m以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。ここでいう「粒径」とは、破砕物の最大寸法(例えば、断面が楕円の形状である場合、長軸の寸法)をいう。
【0014】
次に、廃コンクリートに二酸化炭素含有ガスを接触させて二酸化炭素を固定する。
二酸化炭素含有ガスとしては二酸化炭素が含まれていれば特に限定されないが、例えば、ボンベに充填された二酸化炭素、工場の排ガスを挙げることができる。
工場の排ガスとしては、例えば、セメント工場の排出ガスや、火力発電所の排出ガスが挙げられる。なお、工場の排出ガスは、分離膜や吸着剤等で処理して二酸化炭素濃度を高めてもよい。
【0015】
二酸化炭素含有ガスは、二酸化炭素以外の他のガスを含んでいてもよく、例えば、一酸化炭素、炭化水素類、窒素酸化物、硫黄酸化物等を挙げることができる。これらのガスは、工場の排出ガスに通常含まれているものである。
更に、二酸化炭素含有ガスに不活性ガスが含まれていてもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスを挙げることができる。
これら他のガスの総量は、体積分率の値として、二酸化炭素含有ガス中に、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0016】
二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素の割合は、二酸化炭素の固定化量増大の観点から、体積分率の値として、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましく、20%以上がより更に好ましい。なお、かかる二酸化炭素の割合の上限値は特に限定されず、100%であってもよい。
二酸化炭素含有ガスの相対湿度は、二酸化炭素の固定化促進の観点から、40%以下が好ましく、35%以下がより好ましく、20~35%が更に好ましい。なお、水分の割合は、「JIS Z 8808:2013 排ガス中のダスト濃度の測定方法」の「7 排ガス中の水分量の測定」に記載された方法により測定することができる。
【0017】
廃コンクリートに二酸化炭素含有ガスを接触させる方法としては、例えば、廃コンクリートを収容した装置内に二酸化炭素含有ガスを吹き込む方法、廃コンクリートを浸漬した水中に二酸化炭素含有ガスを吹き込む方法を挙げることができるが、廃コンクリート中のカルシウム化合物の炭酸化を促進させることができればこれらに限定されない。
廃コンクリートを収容した装置内に二酸化炭素ガスを吹き込む方法においては、温度や湿度等の雰囲気の制御可能な炭酸化処理養生槽に廃コンクリートを収容し二酸化炭素ガスを吹き込めばよく、また含水処理した廃コンクリートを炭酸化処理槽に収容し二酸化炭素ガスを吹き込めばよい。水中に二酸化炭素ガスを吹き込む方法においては、廃コンクリートを水に投入した後、二酸化炭素ガスを吹き込めばよい。
【0018】
更に、短時間で二炭酸化炭素を固定化可能な処理方法として、例えば、水蒸気と二酸化炭素含有ガスを管状電気炉に吹き込む方法を挙げることができる。
水蒸気の割合は、体積分率の値として、二酸化炭素に対して、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましく、35%以上がより更に好ましく、そして70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。
【0019】
二酸化炭素の固定は、二酸化炭素の固定化を増大させる観点から、廃コンクリートの質量が、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1質量%以上増量するまで行う。なお、二酸化炭素の固定量の上限値は特に限定されないが、生産効率の観点から、廃コンクリートの質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0020】
二酸化炭素含有ガスとの接触温度及び接触時間は、二酸化炭素の固定量が上記した範囲になれば適宜選択可能であるが、例えば、次のとおりである。
二酸化炭素含有ガスとの接触温度は、二酸化炭素の固定化促進の観点から、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、75℃以上が更に好ましく、90℃以上がより更に好ましく、そして300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下が更に好ましく、110℃以下がより更に好ましい。
また、二酸化炭素含有ガスとの接触時間は、二酸化炭素の固定化促進の観点から、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、20分以上更に好ましく、30分以上がより更に好ましく、40分以上が殊更に好ましく、また処理効率の観点から、4時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、2時間以下が更に好ましい。
【0021】
(第2の工程)
本工程は、第1の工程後の廃コンクリートに電気パルスを印加し、該廃コンクリートを粉砕する工程である。これにより、骨材表面からセメントペーストを選択的に剥離することができる。また、本工程は湿式粉砕であることから、廃コンクリートの粉塵が発生しないという利点を有する。
本工程においては、例えば、一対の電極を備える反応器に液体媒体を収容し、該液体媒体の液面下に第1の工程後の廃コンクリートをすべて浸漬させた後、電極間に電圧パルスを印加して電極間の放電エネルギーを第1の工程後の廃コンクリートに付与し粉砕すればよい。なお、廃コンクリートの全体が液面下に浸漬していないと、放電エネルギーが廃コンクリートに十分付与されず、粉砕が不十分となることがある。
【0022】
液体媒体としては、例えば、トランスオイル、アルコール、液状パラフィン等の絶縁性液体、水が挙げられる。中でも、水が好ましい。
水としては、導電率が、好ましくは10000mS/m以下、より好ましくは0 .1~8000mS/m、更に好ましくは10~1000mS/mであるものが望ましい。このような導電率であれば、水中に浸漬した廃コンクリートに通電しやすくなるため、より少ない電圧や印加回数で、より小さな粒径の廃コンクリートを得ることができる。中でも、水道水の導電率は、10~20mS/m程度であり、純水の導電率は、0.1~0.2mS/m程度であるため、上水道水、純水を使用することが好ましい。ここでいう導電率は、水の温度が25℃である場合の数値である。
また、水の導電率を調整することによって、得られる粉砕物の平均粒径を調整することも可能である。具体的には、10~20mS/m程度の水(例えば、水道水)に、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の水溶性塩類等を添加すると導電率が高められるため、得られる粉砕物の粒径が小さくなる傾向がある。また、上水道水や工業用水等の水(水以外の不純物を含む)をイオン交換樹脂に通すなどの方法により、導電率を低下させることも可能である。
【0023】
液体媒体の使用量は、反応器内の廃コンクリート全体を液面下に浸漬させる十分な量であればよく、特に限定されないが、例えば、液体媒体と廃コンクリートとの質量比(液体媒体/廃コンクリート)が、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上である。なお、液体媒体と廃コンクリートとの質量比の上限値は特に限定されないが、生産効率の観点から、200以下が好ましく、100以下が更に好ましい。
【0024】
本工程においては、第2の工程前の廃コンクリートの粒子径D50(A)と、第2の工程後の廃コンクリートの粒子径D50(B)との比[(A)/(B)](以下、「粉砕比」という)が、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは2.5以上となるまで行う。本明細書において「粒子径D50」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を意味する。粒子径分布測定は、例えば、JIS A 1102に準拠し、JIS Z 8801-1に規定するふるいを用いた篩分けにより評価することができる。
【0025】
粉砕比=A/B
〔式中、Aは、第2の工程前の廃コンクリートの粒子径D50を示し、Bは、第2の工程後の廃コンクリートの粒子径D50を示す。〕
【0026】
電気パルスの電圧及び印加回数は、第2の工程後の廃コンクリートの粉砕比[(A)/(B)]が上記範囲内となれば適宜選択可能である。例えば、次のとおりであり、このような条件で電気パルスを印加することで、廃コンクリートを十分に粉砕することができ、またより少ない印加回数で粉砕することができる。
電気パルスの電圧は、好ましくは50~300kV、より好ましくは100~200kVである。
電気パルスのパルス周期は、好ましくは0.5~80Hz、より好ましくは0.5~ 40Hz、更に好ましくは1~20Hzである。
電極間隔は、好ましくは1~50mm、更に好ましくは20~40mmである。
【0027】
電子パルスの印加回数は、好ましくは30回以上、より好ましくは50回以上、更に好ましくは70回以上、より更に好ましくは80回以上である。このような印加回数とすることで、廃コンクリートを十分に粉砕することが可能であり、また粉砕にかかるコストを低減することができる。なお、印加回数の上限値は特に限定されないが、製造効率の観点から、好ましくは1000回以下、より好ましくは700回以下、更に好ましくは500回以下である。
【0028】
また、本工程においては、電気パルスの電圧や印加回数を調整することによって、得られる廃コンクリート粉砕物の大きさを調整することができる。具体的には、電気パルスの電圧が高いほど、また印加回数が多いほど、得られる粉砕物の粒径が小さくなる。例えば、電気パルスの電圧が150kVである場合、印加回数が40回以上であると、粉砕比[(A)/(B)]を、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは2.5以上とすることができる。
【0029】
(第3の工程)
本工程は、第2の工程後の廃コンクリートを篩選別し、篩下を回収する工程である。これにより、高品位のセメントペーストを回収することができる。
篩選別には公知の分級機を使用することが可能であり、具体的には、上記において説明した分級機を挙げることができる。
篩の目開きは、カルシウム分に富むセメントペースト回収の観点から、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましく、0.3mm以下が更に好ましい。
【0030】
本発明方法により回収されたセメントペーストは、カルシウム分が豊富に含まれている一方、アルカリ分が低減されている。例えば、下記式により算出される、カルシウム分のアルカリ分に対する分離効率を、好ましくは16%以上、より好ましくは18%以上、更に好ましくは20%以上とすることができる。なお、本明細書において「アルカリ分」は、ナトリウム及びカリウムの総量である。また、カルシウム分の回収率は、試料を蛍光X線分析(XRF)により測定したカルシウム含有率と質量分率に基づいて算出することができる。また、アルカリ分の混入率は、XRFによるナトリウム及びカリウムの含有率と、試料の質量分率に基づいて算出することができる。蛍光X線分析装置として、ZSX PrimusII(リガク社製)を用いることができる。
【0031】
カルシウム分のアルカリ分に対する分離効率(%)
=〔カルシウム分の回収率(%)〕-〔アルカリ分の混入率(%)〕
【0032】
このように、本発明により回収されたセメントペーストは、カルシウム分を豊富に含み、アルカリ分が低減されたものであるから、セメント原料として再利用することができる。また、本発明により回収されたセメントペーストは、炭酸化廃コンクリートから得られたものであり、ポゾラン反応を有するから、混和材としても再利用することもできる。
更に、第3の工程の篩上は、廃コンクリートのセメントペーストが剥離されたものであるから、再生路盤材や再生骨材として再利用することができる。
【0033】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、第2の工程後の廃コンクリートを比重選別に供してセメントペーストを回収することが可能であり、また篩選別と組み合わせてもよい。比重選別機として、例えば、ジグ選別機、ウィルフレーテーブル、マルチグラビティセパレータ、遠心力選別機を用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(1)導電率、pHの測定
pH・導電率メータ(D-210PC、堀場製作所製)を用いて、25℃に温度調整して測定した。
【0036】
(2)粉砕比の算出
第2の工程後の廃コンクリートの粒子径D50と、第2の工程前の廃コンクリートの粒子径D50とから、下記式により粉砕比を算出した。なお、粒子径D50は、粒子径分布測定は、例えば、JIS A 1102に準拠し、JIS Z 8801-1に規定するふるいを用いた篩分けにより評価した。
【0037】
粉砕比=A/B
〔式中、Aは、第2の工程前の廃コンクリートの粒子径D50を示し、Bは、第2の工程後の廃コンクリートの粒子径D50を示す。〕
【0038】
(3)カルシウム分のアルカリ分に対する分離効率の算出
カルシウム分のアルカリ分に対する分離効率は、下記式により求めた。なお、カルシウム分の回収率は、対象試料の蛍光X線分析(XRF)により測定したカルシウム含有率と重量分率に基づいて算出した。また、アルカリ分の混入率は、対象試料のXRFによるナトリウム及びカリウムの含有率と、対象試料の重量分率に基づいて算出した。蛍光X線分析装置として、ZSX PrimusII(リガク社製)を用いた。
【0039】
カルシウム分のアルカリ分に対する分離効率(%)
=〔カルシウム分の回収率(%)〕-〔アルカリ分の混入率(%)〕
【0040】
実施例1
(第1の工程)
原料となる廃コンクリートは最大直径約200mmであって、使用骨材に石灰石骨材を含まない解体コンクリート塊を用いた。次に、原料廃コンクリートを重機(ニブラ)にて100mm以下まで破砕を行い、ジョークラッシャに投入した。ジョークラッシャの刃幅を40mmとし、破砕を行った。次に、目開き10mmの篩を使用して篩分けを実施した。篩分けは 振動によって、篩に上下動及び水平動を与えて試料を揺り動かす振動篩を用いた。
次に、分級物のうち、目開き10mmの篩下について電気外熱式ロータリーキルン(φ300mm×2,400mm)にて炭酸化処理を行った。処理条件は、処理量10~20kg/h、処理温度(物温)100℃、充填率8.8%とし、処理雰囲気は、二酸化炭素に対して水蒸気40vol%とした。第1の工程後の廃コンクリートの質量は、第1の工程前の廃コンクリートに対して1.2質量%増加したことを確認した。
【0041】
(第2の工程)
次に、炭酸化後の廃コンクリートについて、目開き2mmの篩を使用して篩分けを実施した。篩分けは 振動によって、篩に上下動及び水平動を与えて試料を揺り動かす振動篩を用いた。
次に、篩分け後の篩上及び篩下のそれぞれに対して、電気パルス粉砕装置(SELFRAG社製 SELFRAG Lab S2.0)を用いて電気パルスを印加して粉砕した。粉砕は、廃コンクリート340gを水槽中の水の水面下に全体が浸漬するように入れ、150kVのパルス電圧を最小10回から最大320回まで印加することによって行った。印加周期5Hz、電極間距離は30mmであった。
電気パルスを各回数印加した後の水槽中の水のpH及び導電率を測定した。第2の工程後の廃コンクリートの体積基準の粒度分布を測定して粒子径D50を求め、第2の工程前の廃コンクリートの粒子径D50から、粉砕比を算出した。
【0042】
(第3の工程)
目開き0,25mmの湿式篩で第2の工程後の廃コンクリートを篩分け、篩下にセメントペーストを回収した。篩下のセメントペーストと篩上の残渣についてXRFによる成分評価を行った。また、セメントペーストについてカルシウム分のアルカリ(Na・K)分に対する分離効率を算出した。その結果を表1、2に示す。なお、篩上の残渣は、再生骨材Hの規格を満たし、再生路盤材としても使用できる事を確認した。
【0043】
比較例1
第1の工程において、目開き10mmを通過した廃コンクリートについて炭酸化処理を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作により篩下のセメントペーストと、篩上の残渣を回収し、分析を行った。その結果を表1、2に示す。なお、篩上の残渣は、再生骨材Hの規格を満たし、再生路盤材としても使用できる事を確認した。
【0044】
なお、表1において「+2mm粒群」は、第2の工程で得られた目開き2mmの篩上の分級物を意味し、表2において「-2mm粒群」は、第2の工程で得られた目開き2mmの篩下の分級物を意味する。また、表1,2中の「-」は、パルス粉砕が不能であったため、測定しなかったことを意味する。
【0045】
【0046】
【0047】
表1,2から次のことがわかる。
(1)実施例1は、80回以上のパルス粉砕が可能であったが、比較例1は、パルス粉砕に伴い水のpH及び導電率が上昇して水へ大きな電流が流れ、その結果絶縁破壊が起こり、パルス粉砕ができなくなった。このことから、廃コンクリートの炭酸化処理が第2の工程における水のpH及び導電率の上昇抑制に寄与していることがわかる。
(2)実施例1は、比較例1に比べて粉砕比が高いことから、廃コンクリートをより小さな粒径に粉砕できることがわかる。
(3)実施例1は、比較例1に比べてカルシウム分のアルカリ分に対する分離効率が高いことから、カルシウム分を豊富に含み、アルカリ分が低減されたセメントペーストを回収できることがわかる。
(4)以上から、本発明方法により、廃コンクリートの炭酸化とパルス粉砕を組み合わせることで、高品位のセメントペーストを回収できることがわかる。