(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】高度乳酸菌発酵物、該発酵物を含む飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物、及び該組成物を含む飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20250115BHJP
A23L 27/24 20160101ALI20250115BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/24
(21)【出願番号】P 2020194829
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】397045091
【氏名又は名称】株式会社ノーベル
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立木 裕介
(72)【発明者】
【氏名】法川 政仁
(72)【発明者】
【氏名】折橋 毅典
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-107907(JP,A)
【文献】特開平08-089167(JP,A)
【文献】特開平06-090662(JP,A)
【文献】特開2002-204656(JP,A)
【文献】特開2005-185234(JP,A)
【文献】特開2000-245391(JP,A)
【文献】特開平8-280341(JP,A)
【文献】草間正夫ら,改訂食品加工学,初版,建帛社,1987年04月20日,第145頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を含有する原料組成物
を、褐変化が生じる条件で加熱殺菌処理し、次いで、前記原料組成物に乳酸菌を接種し
、2~7日間発酵することにより得られる、高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の含有物の不快臭及び不快味を抑制するための高度乳酸菌発酵物。
【請求項2】
請求項1に記載の高度乳酸菌発酵物と、高度不飽和脂肪酸又はその誘導体と、を含有し、前記高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の含有量が40重量%以上である、飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物を含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸(DHA及びEPA等)含有物の不快臭及び不快味を抑制するための高度乳酸菌発酵物、高度不飽和脂肪酸を高濃度で含有する飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物、及び該組成物を含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸、例えばドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)は、血中の中性脂肪(トリグリセライド)量を減少させ、動脈硬化の予防、高脂血症の改善、血栓の抑制、高血圧の抑制等の作用を有することが知られている。この知見に基づいて、高度不飽和脂肪酸は、サプリメント及び食品素材として利用されている。高度不飽和脂肪酸による健康増進効果を適切に発揮するためには、高度不飽和脂肪酸を含有する飲食品を毎日摂取することが望ましい。また、飲食品中の高度不飽和脂肪酸の含有量は多いのが望ましい。
【0003】
しかし、高度不飽和脂肪酸は通常、独特の不快臭及び不快味(例えば、魚臭・魚味)を発することが知られている。かかる不快臭及び不快味は、高度不飽和脂肪酸を含有する飲食品の摂取を妨げる要因となる。また、高度不飽和脂肪酸は酸化し易く、かかる酸化は、高度不飽和脂肪酸の含有量の低下だけでなく、飲食品の風味の劣化を招くことになる。そのため、高度不飽和脂肪酸を含有する飲食品において、かかる不快臭及び不快味並びに高度不飽和脂肪酸の酸化を抑制する必要がある。
【0004】
高度不飽和脂肪酸の酸化を抑制するために、従来、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、トコフェロール)を添加することが行われている。また、乳化した油脂をデキストリン等の賦形剤でコーティングした粉末油脂が市販されている。
【0005】
高度不飽和脂肪酸を含有する飲食品の不快臭及び不快味を抑制する方法として、従来、種々の方法が知られている。例えば、特許文献1には、高度不飽和脂肪酸を含有する魚油に、原料乳を乳酸菌等で発酵させて得られた発酵乳を配合することにより、魚油特有の臭気をマスキングする方法が記載されている。特許文献2には、乳酸菌及びビフィドバクテリウム菌を含有すると共に、カテキン類を含有させたヨーグルトにより、魚油による異臭の発生を抑制することが記載されている。特許文献3には、魚油乳化物を乳酸菌等で発酵させて得られた発酵物を食品に添加することにより、魚油の成分を変えることなく臭気を改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-264141号公報
【文献】特開平8-322464号公報
【文献】特公平3-72264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粉末油脂は、粉末状態では酸化安定性は高いが、食品に添加するとコーティングが溶解するため、酸化を抑制するのが困難となり、特有の酸化臭が発生することがある。また、既存の酸化防止剤では必ずしも高度不飽和脂肪酸の酸化防止効果が十分ではなく、酸化防止剤を多量に用いる必要がある。魚油の含有量を高めるために乳化剤を使用する場合も同様に、乳化剤を多量に用いる必要がある。その結果、飲食品における高度不飽和脂肪酸の含有量を高めるためには、食品添加物の使用量を多くする必要がある。
【0008】
また、上記の従来の不快臭及び不快味の抑制方法では、高度不飽和脂肪酸の含有量が少なく、高度不飽和脂肪酸の含有量が多い場合に不快臭及び不快味を抑制することについて言及がない。更に、高度不飽和脂肪酸は油分であることから、他の食品原料と併用した場合に分離することもあり、そのままの形態では食品に応用することが容易ではない。
【0009】
本発明は、高度不飽和脂肪酸含有物の不快臭及び不快味を抑制するための高度乳酸菌発酵物、高度不飽和脂肪酸又はその誘導体を高濃度で含有し、高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の酸化を防止することができ、他の食品原料との相性に優れている飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物、及びそれを含む飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高度乳酸菌発酵物は、原料乳を含有する原料組成物に乳酸菌を接種し発酵することにより得られ、高度不飽和脂肪酸又はその誘導体(以下、「高度不飽和脂肪酸等」という。)の含有物の不快臭及び不快味を抑制するための高度乳酸菌発酵物である。
【0011】
本発明の飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物は、本発明の高度乳酸菌発酵物と、高度不飽和脂肪酸等と、を含有し、前記高度不飽和脂肪酸等の含有量が40重量%以上である。
【0012】
本発明の飲食品は、本発明の飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高度不飽和脂肪酸等を高濃度で含有することができると共に、魚臭・魚味等の不快臭及び不快味を抑制することができる。また、高度不飽和脂肪酸等の酸化を防止することができ、他の食品原料との相性に優れている。その結果、多種多様な飲食品に容易に高度不飽和脂肪酸等を含有させることができ、飲食品として美味しく手軽に高度不飽和脂肪酸等を摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】乳化安定性試験の結果を示す写真の写しである。
【
図2】保存試験における酸価の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施態様に係る高度乳酸菌発酵物(以下、「本発酵物」という。)は、原料乳を含有する原料組成物に乳酸菌を接種し発酵することにより得られる。本発酵物は、高度不飽和脂肪酸等の含有物の不快臭及び不快味を抑制することができる限り、その物性に特に限定はない。本発酵物の物性の一例として、pHは3.6~4.0、滴定酸度は2.2~3.2%、乳酸菌数は1mLあたり1~2×109である(尚、これらの物性の一部のみを満たす場合でも、本発酵物に含まれる。)。
【0017】
前記原料乳の種類及び形態には特に限定はない。前記原料乳は液状でもよく、粉状等の固形状でもよい。前記原料乳として具体的には、例えば、牛乳・山羊乳等の乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、及び生クリームが挙げられる。
【0018】
前記原料組成物中の前記原料乳の含有量には特に限定はない。当該含有量は必要に応じて適宜の範囲とすることができる。前記含有量は通常0.1~99.9質量%、更に好ましくは5~50質量%である。前記含有量が上記範囲であると、魚臭・魚味等の不快臭及び不快味の抑制効果に優れることから好ましい。
【0019】
前記原料組成物は、前記原料乳をそのまま用いてもよく、あるいは必要に応じて希釈した溶液でもよい。前記原料組成物は、本発酵物を得ることができる限り、前記原料乳以外の他の成分を含有していてもよい。前記他の成分として具体的には、例えば、乳酸菌の増殖、発酵に必要な糖(グラニュー糖、ブドウ糖等)、タンパク分解物、及びアミノ酸その他の栄養素が挙げられる。
【0020】
通常、前記原料組成物について、発酵前に加熱殺菌処理が行われる。前記原料組成物の加熱殺菌の条件には特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。加熱殺菌の条件により、乳タンパク質と糖質との間でメイラード反応が起こることがある。通常の発酵乳では一般に、褐変化による着色・着香を避けるため、メイラード反応を起こすような熱その他の条件を採用しない。しかし、前記原料組成物の加熱殺菌の条件として、メイラード反応による褐変化が生じる条件、例えば、温度として70~100℃、好ましくは80~100℃、より好ましくは90~100℃、時間として1時間以上、好ましくは2時間以上、更に好ましくは2~4時間としてもよい。前記温度及び時間はそれぞれ単独でもよく、両者を組み合わせてもよい。よって、前記原料組成物は、加熱殺菌により褐変化が生じていてもよい。褐変化の有無は、例えば、加熱殺菌前後の前記原料組成物の色彩を、公知の色彩計で数値化することにより判断することができる。褐変化の技術的意義について考察すると、乳タンパク質と糖質の間でメイラード反応が起こる際、メラノイジン色素及びその他不揮発性物質の他に、揮発性物質(香気)も生成し、揮発性物質が魚臭の抑制に寄与していることが考えられる。また、メイラード反応によって生じるメラノイジンには抗酸化作用及び活性酸素除去作用があることから、これらが高度不飽和脂肪酸の酸化抑制に寄与していることが考えられる。尚、褐変化の技術的意義についての上記説明は、発明者の見解に過ぎず、本願発明を何ら定義又は限定する趣旨の説明ではない。
【0021】
前記乳酸菌の種類には特に限定はない。前記乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス属細菌(ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ギャセリ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・デルブリュッキー サブスピシーズ.デルブリュッキー、ラクトバチルス・デルブリュッキーサブスビシーズ.ブルガリカス等)、ビフィドバクテリウム属細菌(ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム等)、ストレプトコックス属細菌(ストレプトコックス・サーモフィルス等)、ラクトコックス属細菌(ラクトコックス・ラクチス、ラクトコックス・プランタラム、ラクトコックス・ラフィノラクチス等)、ロイコノストック属細菌(ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクチス等)、及びエンテロコッカス属細菌(エンテロコッカス・フェーカリス、エンテロコッカス・フェシウム等)が挙げられる。前記乳酸菌は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記乳酸菌の組み合わせとして、ストレプトコックス サーモフィルス、ラクトコックス ラクチス、ラクトバチルス・デルブリュッキー サブスビシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス アシドフィルス及びビフィドバクテリウム属細菌を含む組み合わせは、魚臭・魚味等の不快臭及び不快味を抑制することができるので好ましい。市販されている主な乳酸菌の種類を表1に示す。
【0022】
【0023】
前記発酵の条件については特に限定はない。本発酵物は、通常の乳酸菌発酵物を製造する際の発酵条件と異なる条件とすることができる。発酵温度は通常30℃~32℃である。また、発酵時間として好ましくは1~7日間、好ましくは2~7日間、更に好ましくは3~6日間である。前記発酵時間が前記範囲内であると、通常の発酵乳より酸度が上昇し、pHが低下する。そして、高度不飽和脂肪酸等を高濃度含有していても、不快臭及び不快味を抑制することができ、また、高度不飽和脂肪酸等の酸化防止効果及び乳化安定性に優れていることから好ましい。
【0024】
前記発酵の方法は、本発酵物を得ることができる限り特に限定はない。該方法は、発酵条件及び発酵に用いる菌の種類に応じて適宜選択することができる。前記方法として具体的には、例えば、静置発酵、攪拌発酵、振盪発酵、及び通気発酵が挙げられる。
【0025】
本発酵物は、高度不飽和脂肪酸等の含有物の不快臭及び不快味を抑制するために用いられる。前記含有物として具体的には、例えば飲食品が挙げられる。前記高度不飽和脂肪酸等及び前記飲食品については、後述の説明が妥当する。
【0026】
上記のように、本発酵物は、高度不飽和脂肪酸等の含有物の不快臭及び不快味を抑制することができる。該不快臭及び不快味は、乳製品本来の臭い・味とは異なる臭い・味である限り、その由来には特に限定はない。前記不快臭及び不快味として具体的には、例えば、前記高度不飽和脂肪酸等に由来する不快臭及び不快味が挙げられる。上記のように、前記高度不飽和脂肪酸等は通常、独特の魚臭・魚味を発することが知られている。本発酵物は、前記高度不飽和脂肪酸等の含有物、特に高濃度(例えば、40重量%以上)の前記高度不飽和脂肪酸等の含有物において、かかる魚臭・魚味を抑制することができる。
【0027】
(2)飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物
本実施態様に係る飲食品添加用高度不飽和脂肪酸含有組成物(以下、「本組成物」という。)は、本発酵物及び高度不飽和脂肪酸又はその誘導体を含有し、前記高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の含有量が40重量%以上である。本発酵物については、前述の説明が妥当する。
【0028】
本組成物中、本発酵物の含有量については特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。本組成物100質量%中、本発酵物の含有量は1質量%以上、好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より好ましくは6質量%以上、特に好ましくは15質量%以上である。前記含有量が前記範囲であると、前記高度不飽和脂肪酸等の含有量が多くても、酸化防止効果及び不快臭・不快味の抑制効果に優れると共に、良好な乳化安定性を維持することができるので好ましい。また、本発酵物では、乳酸菌について、必ずしも生菌状態を保つ必要がない。よって、本発酵物は加熱殺菌しない態様でも使用してもよく、加熱殺菌をした態様で使用してもよい。
【0029】
前記高度不飽和脂肪酸の種類及び内容には特に限定はない。前記高度不飽和脂肪酸としては、例えば、ω-3系、ω-6系及びω-9系の高度不飽和脂肪酸が挙げられる。前記高度不飽和脂肪酸の炭素数及び不飽和結合の数についても特に限定はない。前記高度不飽和脂肪酸の炭素数は通常16以上、好ましくは18以上(例えば、18~24)である。また、前記不飽和結合の数は通常2以上、好ましくは3以上、更に好ましくは3~6である。前記高度不飽和脂肪酸として、炭素数18以上であり、不飽和結合が3以上の高度不飽和脂肪酸が好ましい。
【0030】
前記ω-3系高度不飽和脂肪酸として具体的には、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)が挙げられる。前記ω-6系高度不飽和脂肪酸として具体的には、例えば、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸及びドコサテトラエン酸が挙げられる。前記高度不飽和脂肪酸として好ましくはω-3系高度不飽和脂肪酸であり、より好ましくはDHA及びEPAである。
【0031】
前記高度不飽和脂肪酸の誘導体としては、例えば、エステル体及び複合脂質(例えば、リン脂質)が挙げられる。該エステル体を構成するアルコールの種類には特に限定はない。前記アルコールとして、一価及び多価アルコールを使用することができる。前記エステル体として具体的には、前記高度不飽和脂肪酸のトリグリセリド、ジグリセリド及びモノグリセリドが挙げられる。上記リン脂質として具体的には、例えば、グリセロリン脂質が挙げられる。該グリセロリン脂質は、グリセリンに高度不飽和脂肪酸が少なくとも1つ結合している限り、その具体的構造には特に限定はない。
【0032】
本組成物では、前記高度不飽和脂肪酸又はその誘導体のいずれか一方のみを含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。また、前記高度不飽和脂肪酸は1種単独でもよく、2種以上を含んでいてもよい。同様に、前記高度不飽和脂肪酸の誘導体も1種単独でもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0033】
前記高度不飽和脂肪酸等として、各種原料(例えば、各種動植物、微生物、藻類等)から単離精製して得られたものを用いてもよく、あるいは、前記高度不飽和脂肪酸等を含む各種原料をそのまま用いてもよい。例えば、前記高度不飽和脂肪酸等として、魚油、特にDHA及び/又はEPAを含む魚油を用いることができる。前記魚油として、高度不飽和脂肪酸、例えばDHA及び/又はEPAの含有量を高めた精製魚油を用いてもよい。該魚油中の前記高度不飽和脂肪酸等の含有量については特に限定はない。
【0034】
本組成物100重量%中、前記高度不飽和脂肪酸等の含有量は40重量%以上である。本添加剤は、前記高度不飽和脂肪酸等の含有量が高いことから、少ない添加量で、飲食品に対して多量の高度不飽和脂肪酸等を含有させることができる。また、本組成物は、前記高度不飽和脂肪酸等の含有量が高いにも関わらず、不快臭及び不快味が抑制され、前記高度不飽和脂肪酸等の酸化防止効果及び乳化安定性に優れている。前記高度不飽和脂肪酸等の含有量の上限は必要に応じて適宜決定することができる。前記上限は、例えば70重量%、65重量%、及び60重量%とすることができる。
【0035】
本組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。例えば、魚臭等の不快臭及び不快味を更に抑制するために、マスキングフレーバーの1種又は2種以上を含めることができる。また、ローカストビーンガム等の安定剤、乳化剤、多糖類(例えば、大豆多糖類)等の増粘剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0036】
本組成物は前記のように、高度不飽和脂肪酸等を高濃度で含むことから、乳化剤の使用量を抑制することができる。また、本組成物は前記のように、高度不飽和脂肪酸等を高濃度で含んでいても酸化防止効果に優れていることから、酸化防止剤の使用量を抑制することができる。本組成物において、前記高度不飽和脂肪酸等として魚油を用いる場合、乳化剤の含有量を前記魚油の含有量の10質量%未満、好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下とすることができる。また、本組成物において、前記高度不飽和脂肪酸等として魚油を用いる場合、酸化防止剤の含有量を前記魚油の含有量の5質量%未満、好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下とすることができる。更に、従来の魚油乳化組成物では、魚油に対する多価アルコールの含有量も多いが、本組成物では、多価アルコールの含有量も抑制することができる。本組成物において、前記高度不飽和脂肪酸等として魚油を用いる場合、多価アルコールの含有量を前記魚油の含有量の20質量%未満、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下とすることができる。
【0037】
本組成物の製造方法には特に限定はない。通常は、本発酵物と40重量%以上の前記高度不飽和脂肪酸等を含む食品原料とを混合することにより得ることができる。
【0038】
本組成物は、魚臭・魚味等の不快臭及び不快味を抑制すると共に、他の食品原料との相性に優れている。本組成物を飲食品に添加することにより、多種多様な飲食品に容易に高度不飽和脂肪酸等を含有させることができ、飲食品として美味しく手軽に高度不飽和脂肪酸等を摂取することができる。飲食品については、後述の説明が妥当する。
【0039】
(3)飲食品
本実施態様に係る飲食品(以下、「本飲食品」という。)は、本組成物を含む。本組成物については、前述の説明が妥当する。
【0040】
前記飲食品の種類には特に限定はない。前記飲食品として、例えば、乳製品、介護食(流動食を含む。)、健康食品、菓子、及びパンが挙げられる。前記乳製品として具体的には、例えば、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、及び乳飲料が挙げられる。前記高度不飽和脂肪酸等の酸化抑制の観点から、前記飲食品として、冷蔵・冷凍条件(例えば、10℃以下)で流通できる飲食品、例えば、アイスクリーム及び飲料が好ましい。
【0041】
本組成物の前記飲食品への添加量には特に限定はない。前記添加量は、必要に応じて適宜決定することができる。例えば、本組成物の添加量は、前記飲食品中に前記高度不飽和脂肪酸等が有効量(摂取した個体において、前記高度不飽和脂肪酸等が生理学的機能を奏し得る量)含まれるように、決定することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0043】
実験例1;高度乳酸菌発酵物及び高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造
脱脂粉乳2.00kg、グラニュー糖0.6kg、ブドウ糖0.3kg、及び水7.1kgを含む混合物を加熱溶解し、これをホモゲナイザーで均質化した。撹拌しながら95℃、3時間の加熱殺菌を行った後、30℃程度まで冷却した。ここに乳酸菌(ラクトバチルス アシドフィルス及びラクトバチルス カゼイ)を0.5g接種し、次いで30~32℃で6日間静置培養して発酵させることにより、高度乳酸菌発酵物を調製した。
【0044】
尚、加熱殺菌前後の原料組成物の色味を色彩計(日本電色工業株式会社、小型色彩計NW-12)で測定した結果を以下に示す。
加熱殺菌前;L*74.07、a*-4.02、b*6.10
加熱殺菌後;L*56.94、a*4.25、b*18.34
【0045】
前記で得られた高度乳酸菌発酵物を用いて、以下の表2に記載の処方に基づいて、実施例及び比較例の高度不飽和脂肪酸含有組成物を調製した。表2中、「%」は「重量%」である。組成物に調製で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
(1)「大豆多糖類」;三栄源エフ・エフ・アイ社製「SM-1200」
(2)「ショ糖脂肪酸エステル」;三菱ケミカルフーズ社製「リョートーシュガーエステルP-1670」
(3)「グリセリン脂肪酸エステル」;三菱ケミカルフーズ社製「リョートーポリグリエステルM-10D」
(4)「精製魚油」;日本水産社製「DDオイルタイプ3(G)」(DHA及びEPAを23.8%以上含有)
(5)「ローズマリー抽出物」;kalsec社製「ハーバロックスHT-W」
【0046】
【0047】
実験例2;乳化安定性試験
200mLビーカーに実験例1で調製した実施例及び比較例の高度不飽和脂肪酸含有組成物(10g)を取り、ここに50℃のお湯(90mL)を加えた(油脂濃度4%程度)。次いで、スターラーで30秒攪拌して乳化液を調製した。その後、乳化液10mLをスピッツ管に採取し、遠心分離(株式会社コクサン;型式H-103N、3000rpm、10分間)を行い、乳化状態の変化を目視で観察した。その結果を
図1に示す。
図1のスピッツ管に付された番号について、「1」は比較例、「2」は実施例1、「3」は実施例2、「4」は実施例3、「5」は実施例4に相当する。
【0048】
図1より、実施例及び比較例の高度不飽和脂肪酸含有組成物ではいずれも、乳化状態が維持されており、乳化安定性に優れていることが分かる。この結果は、高度乳酸菌発酵物の添加により、高度不飽和脂肪酸含有組成物の乳化安定性が損なわれず、実施例の高度不飽和脂肪酸含有組成物は、食品原料との相性がよいことを示している。
【0049】
実験例3;保存試験
実験例1で調製した実施例及び比較例の高度不飽和脂肪酸含有組成物(50g)を32℃又は冷蔵(8℃)で12週間保存した。0(試験開始時点)、3、6、9、及び12週間保存後の組成物の酸価は、一般財団法人日本食品分析センターにて、「基準油脂分析試験法」に基づいて測定した。また、0、3、6、9、及び12週間保存後の組成物について、社内官能評価者2名により、香味評価を行った。その結果を
図2(0及び12週間保存後の結果のみ示す。)並びに表3及び表4に示す。
【0050】
表3及び表4中、香味評価の基準は以下の通りである。
「-」;魚臭を感じない。
「+」;魚臭をわずかに感じる。
「++」;魚臭を感じる。
「+++」;魚臭を強く感じる。
「++++」;魚臭を非常に強く感じる。
「+++++」;劣化した不快な魚臭を非常に強く感じる。
【0051】
【0052】
【0053】
図2より、冷蔵保存では、12週間後に比較例の組成物では酸価が上昇していたのに対し、実施例の組成物では、酸価に大きな変化は認められなかった。一方、32℃保存では、12週間後に実施例及び比較例の組成物のいずれでも酸価が上昇したが、比較例と比べて、実施例では酸価の上昇が抑制されていた。また、実施例1~4を比較すると、高度乳酸菌発酵物の添加量が多いほど、酸価の上昇が抑制されていた。これらの結果は、高度乳酸菌発酵物の添加により、高度不飽和脂肪酸の酸化を抑制できることを示している。
【0054】
表3及び表4より、冷蔵保存及び32℃保存のいずれにおいても、実施例の組成物は比較例の組成物よりも香味の変化が低かった。この結果は、高度乳酸菌発酵物の添加により、高度不飽和脂肪酸に由来する魚臭を抑制でき、食品への応用に優れることを示している。また、実施例1~4を比較すると、高度乳酸菌発酵物の添加量が多いほど香味の変化が低かった。更に、実施例1~4の組成物では、32℃保存よりも冷蔵保存において、香味の変化が低かった。