(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】通信回路,通信システム及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/401 20150101AFI20250115BHJP
H04B 7/06 20060101ALI20250115BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H04B1/401
H04B7/06 860
H04B7/08 680
(21)【出願番号】P 2021026801
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2024-01-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年~令和2年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」、「高ノイズ環境における周波数共用のための適応メディアアクセス制御に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】亀田 卓
(72)【発明者】
【氏名】芝 隆司
(72)【発明者】
【氏名】末松 憲治
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-517392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0002373(US,A1)
【文献】特開2008-289192(JP,A)
【文献】国際公開第2005/015764(WO,A1)
【文献】特開2003-158470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/401
H04B 7/06
H04B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサノードと無線通信を行うアクセスポイントに備えられる通信回路であって、
前記複数のセンサノードの数、回転周期及び回転方向の計測を行い、
計測された前記回転周期に基づき、第1のモード又は第2のモードを選択し、
前記第1のモードが選択された場合には、第1の周期で前記アクセスポイントから送出されるビームの向きを前記数及び前記回転方向に基づき回転させて通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行い、
前記第2のモードが選択された場合には、前記第1の周期よりも長い第2の周期で前記ビームの向きを前記数及び前記回転方向に基づき回転させ、又は、前記ビームの向きを固定させて、通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行う、通信回路。
【請求項2】
前記ビームの向きを固定させることによって前記数及び前記回転周期の計測を同時に行った後に、前記ビームの向きを時計回り及び反時計回りに回転させることによって前記回転方向の計測を行う、請求項1に記載の通信回路。
【請求項3】
前記ビームの向きを固定させることによって前記回転周期の計測を行った後に、前記ビームの向きを時計回り及び反時計回りに回転させることによって前記数及び前記回転方向の計測を行う、請求項1に記載の通信回路。
【請求項4】
前記第1のモードにおいて、
測定した前記回転周期によって、第1の方向から順番にビームの向きを回転させ、前記第1の方向とは異なる方向を先頭に変えて順番に前記ビームの向きを回転させる処理を繰り返した後に、前記ビームの向きを固定させ
て停止しているセンサノードのそれぞれに対して通信を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の通信回路。
【請求項5】
前記第1のモード又は前記第2のモードにおける前記アクセスポイントの送信電力は、前記数、前記回転周期及び前記回転周期の計測の際における、前記アクセスポイントの送信電力と最小受信電力との中間値を通信マージン程度上回る値である、請求項1~4のいずれか一項に記載の通信回路。
【請求項6】
アクセスポイントと複数のセンサノードとを有する通信システムであって、
前記アクセスポイントは、
請求項1~5のいずれか一項に記載の通信回路と、
複数のアンテナと、
前記センサノードをビームトラッキングするためのバックスキャッタ信号を、前記複数のアンテナのいずれかを介して前記センサノードから受信する受信機と、
を備え、
前記複数のセンサノードは、
前記バックスキャッタ信号を前記アクセスポイントへ送信するための単極単投スイッチを備える、通信システム。
【請求項7】
アクセスポイントと複数のセンサノードとを有する通信システムであって、
前記複数のセンサノードは、
クロック周波数に基づいたオン/オフの制御により生成したバックスキャッタ信号を前記アクセスポイントへ送信するための単極単投スイッチを備え、
前記アクセスポイントは、
複数のアンテナと、
前記センサノードをビームトラッキングするための前記バックスキャッタ信号を前記複数のアンテナのいずれかを介して前記複数のセンサノードから受信して、受信した前記バックスキャッタ信号を前記アクセスポイントからの送信信号とミキシングすることにより、前記複数のセンサノードごとの前記クロック周波数を検出する受信機と、
検出された前記クロック周波数に基づいて特定した前記複数のセンサノードに対して、
セクタごとのセンサノードの数、回転周期及び回転方向との計測を行うと共に、計測した前記数、前記回転周期及び前記回転方向に基づき、前記複数のアンテナのいずれから送出するビームの向きを制御することにより、通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行う通信回路と、
を備える、通信システム。
【請求項8】
複数のセンサノードと無線通信を行うアクセスポイントにおいて、
前記複数のセンサノードの数、回転周期及び回転方向の計測を行い、
計測された前記回転周期に基づき、第1のモード又は第2のモードを選択し、
前記第1のモードが選択された場合には、所定の周期よりも短い周期で前記アクセスポイントから送出されるビームの向きを前記数及び前記回転方向に基づき回転させて通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行うと共に、前記ビームの向きを固定させて停止しているセンサノードに対して通信を行い、
前記第2のモードが選択された場合には、前記所定の周期よりも長い周期で前記ビームの向きを前記数及び前記回転方向に基づき回転させ、又は、前記ビームの向きを固定させて、通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行う、通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する技術は、通信回路,通信システム及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Internet of Things(IoT)社会においては,あらゆるモノをインターネット等のネットワークに接続することになる。工場を例に考えると、有線ネットワークの末端は無線Local Area Network(LAN)等のアクセスポイント(AP)となる。その先のモノへの接続は、無線LANをはじめとする各種無線通信システムで行われている。モノは、場所が変動する或いは可動なロボットアーム等の工作機械の先端や、移動する無人搬送車(AGV)の上に置かれている。このため、有線ネットワークでの接続が困難であることによる。このように、モノへのネットワーク接続のためには、無線IoT通信が重要となる。
【0003】
例えば、工作機械の基部に設置された複数アンテナ素子を備えるアクセスポイントにより、比較的高速に移動・回転する工作機械の可動アーム本体、あるいはアーム先端にとりつけられた物体のセンサノード(SN)を、簡易的なビームフォーミングでトラッキングする無線IoT通信と、これを実現するためのWi-Fi信号を用いたバックスキャッタシステムが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/042974号
【文献】特開2008-228136号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】D.-H. Kim, J. Hirokawa, and M. Ando, “Design of waveguide short-slot 2-plane couplers for one-body 2-D beam-switching Butler matrix application,” IEEE Trans. MTT, vol.64, no.3, pp.776-784, 2016.
【文献】C.-H. Hsieh, et al., “A novel concept for 2D Butler matrix with multi-layers technology,” 2018 Asia Pacific Microwave Conference, pp.533-535, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線IoT通信の実現方法としては、アンライセンスバンドを使う無線LANやBluetooth(登録商標)等が多くの場合使われているため、システム間干渉などにより、スループットの低下や、リアルタイム性の欠如が発生するおそれがある。多数のSNがAPへ接続される場合には、システム間干渉がより発生するおそれがある。
【0007】
1つの側面では、本明細書に記載する技術は、隣接する同一周波数帯を用いるシステム間干渉を抑圧し、空間利用効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの側面において、通信回路は、複数のセンサノードと無線通信を行うアクセスポイントに備えられる通信回路であって、前記複数のセンサノードの数、回転周期及び回転方向の計測を行い、計測された前記回転周期に基づき、第1のモード又は第2のモードを選択し、前記第1のモードが選択された場合には、第1の周期で前記アクセスポイントから送出されるビームの向きを前記数及び前記回転方向に基づき回転させて通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行い、前記第2のモードが選択された場合には、前記第1の周期よりも長い第2の周期で前記ビームの向きを前記数及び前記回転方向に基づき回転させ、又は、前記ビームの向きを固定させて、通信範囲に存在するセンサノードに対して通信を行う。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面として、隣接する同一周波数帯を用いるシステム間干渉を抑圧し、空間利用効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態としての通信システムの設置例を示す図である。
【
図2】
図1に示したアクセスポイント及びセンサノードのハードウェア構成例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図1に示した通信システムにおけるSN検知フェーズの動作例を説明する図である。
【
図4】
図1に示した通信システムにおけるWi-Fi通信フェーズの動作例を説明する図である。
【
図5】(a)及び(b)は
図1に示した通信システムにおけるバックスキャッタ信号のダウンコンバートによるSNスペクトラム識別手法を説明する図である。
【
図6】
図1に示した通信システムにおけるSN検知フェーズの通信範囲を説明する図である。
【
図7】
図1に示した通信システムにおけるWi-Fi通信フェーズの通信範囲を説明する図である。
【
図8】
図1に示した通信システムにおけるビームフォーミングとセンサノードの動きとの関係を説明する図である。
【
図9】
図1に示した通信システムにおけるSN検知フェーズのタイムフローを説明する図である。
【
図10】
図1に示した通信システムにおける高速回転フェーズのタイムフローを説明する図である。
【
図11】
図1に示した通信システムにおける回転SNを優先する場合の低速回転/停止フェーズのタイムフローを説明する図である。
【
図12】
図1に示した通信システムにおける停止SNを優先する場合の低速回転/停止フェーズのタイムフローを説明する図である。
【
図13】
図1に示した通信システムにおける通信動作の第1の例を説明するフローチャートである。
【
図14】
図1に示した通信システムにおける通信動作の第2の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、実施形態で明示しない種々の変形例や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、本実施形態を、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0012】
また、各図は、図中に示す構成要素のみを備えるという趣旨ではなく、他の構成要素を含むことができる。以下、図中において、同一の符号を付した部分は特に断らない限り、同一若しくは同様の部分を示す。
【0013】
〔A〕実施形態
〔A-1〕構成例
図1は、実施形態としての通信システム100の設置例を示す図である。
【0014】
通信システム100は、工作機械4等を含む。工作機械4は、例えばアーム形状を有し、アームの先端に設置されているハンドで工作物を把持して、工作物をベルトコンベア5に載置する。工作機械4は、5mもしくはそれ以上の間隔で配置されていてよく、ロボットアームの可動範囲は半径2m程度であってよい。
【0015】
工作機械4の基部3にはアクセスポイント(AP)1が取り付けられており、工作機械4のハンドやアームにはセンサノード(SN)2が取り付けられている。
図1に示す例では簡単のために各工作機械4にセンサノード2が1つのみ示されているが、本実施形態においては、
図2等を用いて後述するように工作機械4には複数のセンサノード2が取り付けられているものとする。
【0016】
通信システム100は、例えば5GHz帯の無線LANを用いて、工作機械4の基部3に設置された複数のアンテナ素子を有するアクセスポイント1により、比較的高速に移動又は回転する工作機械4の可動式のアームやハンドに設置されたセンサノード2を、簡易的なビームフォーミングでトラッキングする。アクセスポイント1は、工作機械4の基部に設置された比較的少数のアンテナ素子(例えば、2×2パッチアレーアンテナ)を備えてよい。アーム先端に取り付けられたセンサノード2の回転数は最大1,000 rpm(回転周期60 ms)であってよい。
【0017】
図2は、
図1に示したアクセスポイント1及びセンサノード2のハードウェア構成例を模式的に示すブロック図である。
【0018】
図2に示すように、本実施形態における工作機械4は、複数(図示する例では7つ)のセンサノード2が取り付けられる。
【0019】
アクセスポイント1は、通信回路の一例であり、5GHz帯Wi-FiTRX11(以下、単に「TRX11」と称する場合がある),Wi-FiバックスキャッタRX12(以下、単に「バックスキャッタRX12」と称する場合がある),ビームフォーミング処理部13,複数の素子アンテナ14,サーキュレータ15及びスイッチ16を備える。
【0020】
TRX11は、送受信機である。TRX11の入出力RF信号は、ビームフォーミング処理部13と複数の素子アンテナ14を介して、所定の方向に向けた複数のビームを切り替えることができる。センサノード2は、そのビームにカバーされたエリアに入った場合に、5GHz帯のWi-Fi信号を送受信することになる。
【0021】
バックスキャッタRX12は、受信機であり、TRX11によるWi-Fi信号の送信に応じてセンサノード2から返ってきた、バックスキャッタ信号を受信する。ビームフォーミング処理部13は、複数の素子アンテナ14によって、センサノード2との間におけるアナログビームフォーミング処理を実行し、例えば、ビームフォーミングネットワーク(BFN:beam-forming network)とSP4T(single pole four throw)との組み合わせにより実現されてよい。
【0022】
アクセスポイント1に備えられる素子アンテナ14の数は、4~16素子程度であってよい。例えば、2×2又は4×4のアレイアンテナであれば、2次元バトラーマトリクス等によりアナログビームフォーミング回路が構成される。SN検知フェーズで、アクセスポイント1においては、センサノード2をビームトラッキングするために必要となるWi-Fiバックスキャッタ信号の受信系であるバックスキャッタRX12はスイッチ16の後段に配置され、5GHz帯Wi-FiTRX11はサーキュレータ15に接続されている。これにより、アクセスポイント1の素子アンテナ14で受信された信号はスイッチ16により選択的にTRX11またはRX12に入力される。
【0023】
サーキュレータ15は、TRX11に接続される信号線とバックスキャッタRX12が接続される信号線との分岐点に設けられる。サーキュレータ15は、3つの端子を有し、或る端子から入力された信号を特定の端子へ出力させる。サーキュレータ15は、TRX11から出力された送信Wi-Fi信号を素子アンテナ14側へ出力する。また、サーキュレータ15は、スイッチ16がONになっているタイミングでは素子アンテナ14側からの入力をバックスキャッタRX12側へ出力される一方、スイッチ16がOFFになっているタイミングでは素子アンテナ14側からの入力をTRX11側へ出力させる。
【0024】
符号A1に示すAP送信スペクトラムは、アクセスポイント1から複数のセンサノード2に対する通信信号を示す。
【0025】
センサノード2は、5GHz帯Wi-Fi TRX21(以下、単に「TRX21」と称する場合がある),単極単投スイッチ(SPSTスイッチ)22,クロック23及び素子アンテナ24を備える。ここでは、単素子アンテナの例を示しているが、センサノード2の寸法によっては、複数素子アンテナで構成されてもよい。
【0026】
TRX21は、送受信機であり、素子アンテナ24を介して、アクセスポイント1との間で5GHz帯のWi-Fi信号を送受信する。センサノード2が通信を希望する場合、SPSTスイッチ22において、周期的にON/OFFの切り替え制御を実行し、アクセスポイント1に対してバックスキャッタ信号を送信する。なお、SPSTスイッチ22は、それ以外の場合は、常にONに設定されることになる。SPSTスイッチ22は、クロック23が出力するクロック信号の周波数fclockに応じて周期的にON/OFFの切り替え制御がされる。
【0027】
符号A2に示すSN検知フェーズのSN送信スペクトラムは、通信を希望するセンサノード2が存在し、Wi-Fiバックスキャッタ信号(以下、単に「バックスキャッタ信号」と称する場合がある)が発生している状況を示したものであり、5GHz帯のWi-Fi信号と共に、通信リクエストのタイミングでセンサノード2からアクセスポイント1に対して送信される。バックスキャッタ信号が、5GHz帯のWi-Fi信号の周波数帯域(チャネル)の高域側及び低域側に存在していることになる。通常、このバックスキャッタ信号のレベルは5GHz帯のWi-Fi信号よりもパワーが小さい。アクセスポイント1の受信信号における5GHz帯のWi-Fi信号は、ビームフォーミング処理部13や素子アンテナ14における反射や、素子アンテナ14から放射された信号が周囲環境(たとえば、壁,床,天井や工作機械4など)での反射、及び、センサノード2での反射によるものである。符号A3に示すWi-Fi通信フェーズのSN送信スペクトラムは、Wi-Fi通信フェーズにおいてセンサノード2がアクセスポイント1に対して送出する送信信号を示す。
【0028】
図3は、
図1に示した通信システム100におけるSN検知フェーズの動作例を説明する図である。
【0029】
符号B1に示すように、アクセスポイント1は、まずTRX11からWi-Fiダミー信号を送信する。このWi-Fiダミー信号はWi-Fi通信に用いずバックスキャッタ通信にのみ用いるため、ランダムデータなどで生成したもの、もしくはビーコン信号のような任意のWi-Fi信号であってよい。Wi-Fiダミー信号はビームフォーミング処理部13によって、あるセクタに向けたビームとして送信される。
【0030】
符号B2に示すように、センサノード2は、On-Off-Keying(OOK変調)によって、素子アンテナ24とTRX21との間のSPSTスイッチ22をクロック23によって駆動する。これによってスイッチは、オンとオフとがクロック周波数fclockで切り替えられる。符号B3に示すように、SN検知フェーズではTRX21は起動せず50Ω終端とみなすことができるため、SPSTスイッチ22のオン時は整合の無反射状態となり、SPSTスイッチ22のオフ時は開放端の全反射状態となる。この無反射状態と全反射状態との切り替えによって、受信したWi-Fiダミー信号の反射波にOOK変調がかけられる。したがって、Wi-Fiバックスキャッタ信号は、符号B4で示されているようにWi-Fi信号の側波スペクトラムとなる。
【0031】
センサノード2から送信されたWi-Fiバックスキャッタ信号は、アクセスポイント1で受信され、サーキュレータ15によって送信波と分離され、符号B5に示すようにSN検知フェーズでオンにされているスイッチ16を経由して、バックスキャッタRx12に入力される。
【0032】
以上の仕組みにより、アクセスポイント1においては各センサノード2から送信されたバックスキャッタ信号を利用してセクタ内のセンサノード2の有無を検知できる。
【0033】
図4は、
図1に示した通信システム100におけるWi-Fi通信フェーズの動作例を説明する図である。
【0034】
符号C1に示すように、アクセスポイント1は、通常のWi-Fi規格に基づいてWi-Fi通信信号を送受信する。符号C2に示すように、アクセスポイント1におけるセンサノード2からのWi-Fi信号受信時には、サーキュレータ15に接続されているフェーズ切替のためのスイッチ16をオフにすることで、受信波はバックスキャッタRx12に入力されず、TRX11に入力される。符号C3に示すように、センサノード2のSPSTスイッチ22は、クロック23に接続せず連続してオンにすることで、符号C4に示すようなWi-Fi通信信号を連続して送受信する。
【0035】
図5の(a)及び(b)は、
図1に示した通信システムにおけるバックスキャッタ信号のダウンコンバートによるSNスペクトラム識別手法を説明する図である。
【0036】
ごく短時間のSN検知フェーズでセンサノード2の数を計測するためには、複数のWi-Fiバックスキャッタ信号を同時に受信する必要がある。しかし、Wi-Fiバックスキャッタ信号は連続波を用いたバックスキャッタ信号と比べると広帯域信号であり、周波数分割による同時受信や多元接続は難しい。したがって、複数のWi-Fiバックスキャッタ信号を同時に受信しセンサノード2の数を計測する方法が必要である。
【0037】
例えば、元のWi-Fi信号の乗算によるダウンコンバートによって狭帯域化することにより、センサノード2の数を識別することが想定される。センサノード2のクロック周波数fclockはWi-Fi信号の帯域幅以上とすることで、バックスキャッタ信号と元のWi-Fi信号とは周波数軸上で重ならず、通常のWi-Fi通信とバックスキャッタ通信とを両立することができる。
【0038】
しかし複数のセンサノード2が同時に存在するとき、
図5の(a)に示すようにバックスキャッタ信号同士は周波数軸上で重なりあうため、それぞれの信号を分離することができない。そこで、バックスキャッタ信号と元のWi-Fi信号の乗算によるダウンコンバートを行う。
【0039】
図5の(b)にダウンコンバート後の信号を示す。これによってRF帯で広帯域のバックスキャッタ信号をIF帯で狭帯域信号として受信することができる。更にセンサノード2毎にクロック周波数f
clockを変えることで、各バックスキャッタ信号は周波数軸上で重ならず、それぞれの信号を分離することができる。
【0040】
図6は、
図1に示した通信システム100におけるSN検知フェーズの通信範囲を説明する図である。
図7は、
図1に示した通信システム100におけるWi-Fi通信フェーズの通信範囲を説明する図である。
【0041】
SN検知フェーズはバックスキャッタ通信を行うため、アクセスポイント1のWi-Fi送信電力はWi-Fi通信フェーズの送信電力よりも大きくなる。
図1に示した通信システム100の諸元を例示する。アクセスポイント1のアンテナ利得は2×2パッチアレーアンテナを想定してG
AP = 9 [dBi]であってよく、センサノード2のアンテナ利得は無指向性単素子アンテナを想定してG
SN= 0 [dBi]であってよい。また、SN検知フェーズ時におけるセンサノード2の入出力電力比はM = -7 [dB]であってよい。
【0042】
図6に示す例において、SN検知フェーズにおいては、アクセスポイント1のWi-Fi信号の空中線電力はP
AP = 20 [dBm]と設定した。フリスの伝達公式から導出されるバックスキャッタ通信のアクセスポイント1の受信電力P
rは式(1)のように求められる。
【0043】
【0044】
ここで、λは搬送波の波長、Dはアクセスポイント1とセンサノード2との間の距離である。式(1)によるP
rの導出を以下では通信手順に沿って説明する。アクセスポイント1から2.6m(
図6の実線円を参照)離れたセンサノード2におけるアクセスポイント1のWi-Fi信号の受信電力は、-26.6 dBm(P
APから46.6 dB減衰)である。M = -7 [dB] であるため、このセンサノード2のバックスキャッタ送信電力は-33.6 dBmであり、バックスキャッタRX12の最小受信感度を-80dBmとすれば、この時のアクセスポイント1におけるセンサノード2からのバックスキャッタ信号の受信電力から想定して、SN検知フェーズにおけるバックスキャッタ通信可能なセンサノード2の範囲はアクセスポイント1から2.6m(
図6の実線円を参照)とした。また、Wi-Fi通信におけるアクセスポイント1からのWi-Fi通信信号の受信感度を-70 dBmとすると、その通信範囲はアクセスポイント1から390m(
図6の二点鎖線円を参照)である。
【0045】
Wi-Fi通信フェーズにおいては、これまでに求めたSN検知フェーズの通信範囲である2.6m(
図6の実線円を参照)以上の通信範囲でWi-Fi通信可能であればよい。ここでは、マージンを考えてWi-Fi通信フェーズにおける通信範囲を2倍の5.2m(
図6の一点鎖線円を参照)とした。
【0046】
図7にこの時のWi-Fi通信フェーズにおける通信範囲を示す。アクセスポイント1から5.2m(
図7の実線円を参照)の位置におけるアクセスポイント1からのWi-Fi通信信号の受信感度を-70 dBmとすると、フリスの伝達公式からアクセスポイント1のWi-Fi信号の空中線電力はP
AP= --17.4 [dBm]と求められる。
【0047】
すなわち、Wi-Fi通信モードにおけるアクセスポイント1の送信電力は、SN検知フェーズにおける、アクセスポイント1の送信電力と最小受信感度の中間値を通信マージン程度上回る値であってよい。
【0048】
図8は、
図1に示した通信システム100におけるビームフォーミングとセンサノードの動きとの関係を説明する図である。
【0049】
図8では、アクセスポイント1に搭載の2×2パッチアレーアンテナで実現される4方向ビームフォーミングとともに、以下の説明で仮定するセンサノード2(SN#1)の動きを示している。4方向のビームはアンテナ上部からアンテナ方向にみて時計回りにY,R,B,Gの順序で4方向のビームが形成されているとする。また、SN#1は時計回りに、周期60 ms(回転数1,000 rpm)もしくは600 ms(回転数100 rpm)で回転していると仮定する。
【0050】
図9は、
図1に示した通信システム100におけるSN検知フェーズのタイムフローを説明する図である。
【0051】
符号D1に示すビームフォーミング(BF)方向は、アクセスポイント1が選択中のビーム方向を示している。符号D2に示すSN#1信号受信は、そのビーム方向のWi-Fiダミー信号によってSN#1が生成したバックスキャッタ信号のアクセスポイント1における受信状況を示している。
【0052】
ビーム範囲(セクタ)は理想的に回転周期の1/4ごとに切り替わり、オーバラップはないと仮定している。SN検知フェーズにおいては、アクセスポイント1のビームフォーミング動作で2つのパートに分かれている。前半の回転周期・SN数計測では、ビームフォーミングはその都度設定されたある1つのビーム方向に固定された状態でバックスキャッタ通信を試みる。この場合、例えばSN#1が周期60 msで回転していたとすると、
図9のように周期60 msごとに15 msの間、SN#1のバックスキャッタ信号がアクセスポイント1に到達する。この動作によって回転するセンサノード2群の回転周期を計測できるとともに、回転するセンサノード2群の存在位置の分布を計測することができる。また、ビームY方向で停止しているセンサノード2群については、バックスキャッタ信号が連続してアクセスポイント1に到達するため、そのセンサノード2の数を計測することができる。
【0053】
他のビーム方向に関しては、次のSN検知フェーズにおいてビーム方向を他の方向に切り替えて固定することで計測可能である。後半の回転方向計測では、前半で求めた回転するセンサノード2群の回転周期に応じて、ビーム方向を変化させる。
【0054】
この時点では回転方向が分からないので、時計回り・反時計回りの両方向でビームを順に切り替え、バックスキャッタ信号の受信頻度により回転方向の判定を行う。
【0055】
図9に示すように、例えば120ms以上の時間幅でビームの向きを固定させることによってセンサノード2の数及び回転周期の計測が同時に行われた後に、例えば120ms以上の時間幅でビームの向きを時計回り及び反時計回りに回転させることによってセンサノード2の回転方向の計測が行われてよい。また、ビームの向きを固定させることによってセンサノード2の回転周期の計測が行われた後に、ビームの向きを時計回り及び反時計回りに回転させることによってセンサノード2の数及び回転方向の計測が行われてもよい。
【0056】
図10は、
図1に示した通信システム100における高速回転フェーズのタイムフローを説明する図である。
【0057】
符号E1に示すビームフォーミング方向は、アクセスポイント1が選択中のビーム方向を示している。符号E2に示すSN#1信号受信は、そのビーム方向でWi-Fi通信信号のやり取りができる時間帯を示している。SN#1受信信号の周期は、60ms(別言すれば、第1の周期)であってよい。高速回転フェーズにおいては、高速回転と停止との2つのサブフェーズに分かれている。
【0058】
前半の高速回転サブフェーズでは、例えば240ms以上の時間幅において、SN検知フェーズで計測されたセンサノード2群の存在位置の分布(センサノード2の数)を基に、4方向の初期ビームごとの通信時間を最適化する。また、SN検知フェーズで計測された回転周期・方向を基にしてビーム切り替えを行うことで、回転しているセンサノード2群に対して常にビームを向けることで安定した通信を実現する。すなわち、測定された回転周期によって、第1の方向から順番にビームの向きを回転させ、第1の方向とは異なる方向を先頭に変えて順番にビームの向きを回転させる処理が繰り返された後に、ビームの向きを固定させて停止しているセンサノード2のそれぞれに対して通信が行われる。
【0059】
後半の停止サブフェーズでは、例えば240ms以上の時間幅において、SN検知フェーズで最初に設定されたある1つのビーム方向に停止しているセンサノード2群が検知された場合に、そのセンサノード2の数に応じてビーム方向固定の通信時間を設定する。
【0060】
図11は、
図1に示した通信システム100における回転SNを優先する場合の低速回転/停止フェーズのタイムフローを説明する図である。
【0061】
符号F1のビームフォーミング方向に示すように、SN検知フェーズで最初に設定されたある方向Yにビームが固定され、回転しているセンサノード2群はそのビーム方向に入った場合にのみ通信を行う。回転周期の1/4以上の通信時間を確保することで、符号F2のSN#1受信信号に示すように、すべての回転しているセンサノード2とビームY方向に存在する停止しているセンサノード2群が通信可能である。他のビーム方向で停止しているセンサノード2群については、次のフェーズでビーム方向を切り替えることで通信可能となる。SN#1の受信信号の周期は、600ms(別言すれば、第1の周期よりも長い第2の周期)であってよい。
【0062】
図12は、
図1に示した通信システムにおける停止SNを優先する場合の低速回転/停止フェーズのタイムフローを説明する図である。
【0063】
停止しているセンサノード2の数が多い場合には、ビームを切り替えることですべての停止しているセンサノード2を一度の低速回転/停止フェーズで通信できるように設定することも考えられる。符号G1に示すビームフォーミング方向は、Y,R,Gの方向に順次切り替えられている。符号G2に示す停止しているSN#1の受信信号は、ビームYが送出されているタイミングのみで検知される。
【0064】
〔A-2〕動作例
図1に示した通信システム100における通信動作の第1の例を、
図13に示すフローチャート(ステップS1~S8)を用いて説明する。
【0065】
実施形態における通信プロトコルは、ステップS1~S3に示す検知フェーズ,ステップS6~S8に示す高速回転フェーズ及びステップS5に示す低速回転/停止フェーズの3つのフェーズを含む。検知フェーズ,高速回転フェーズ(別言すれば、第1のモード)及び低速回転/停止フェーズ(別言すれば、第2のモード)における各処理は、
図2等に示したバックスキャッタRX12内または、アクセスポイント1内に配置されてよく、その処理結果により、ビームフォーミング処理部13に処理命令が出力される。
【0066】
SN検知フェーズでは、セクタごとのセンサノード2の数の計測だけでなく、回転するセンサノード2群の回転周期・方向の計測が行われてよい。そのSN検知フェーズで判定されたセンサノード2群の回転周期から、次のフェーズが高速回転フェーズもしくは低速回転/停止フェーズのいずれかから選択され、通信範囲に存在するセンサノード2群に対してWi-Fi通信が実現される。
【0067】
それぞれのフェーズでは、同周期で回転しているセンサノード2群と、停止しているセンサノード2群とが存在している環境を想定する。
【0068】
なお、IP(internet protocol)アドレス割り当てや認証などのアクセスポイント1と各センサノード2との間の接続手続きは完了していることを前提としている。
【0069】
まず、
図9に示したSN検知フェーズが開始され、ステップS1において、初期ビームの方向が設定される。
【0070】
ステップS2において、センサノード2の回転周期及び数が計測される。
【0071】
ステップS3において、各センサノード2の回転方向が計測される。
【0072】
ステップS4において、高速回転しているセンサノード2が存在するかを判定する。ここで、高速回転の判断は、アクセスポイント1のあるビーム方向の通信可能範囲(セクタ)において通信しようとしているセンサノード2群が、Wi-Fi通信規格によって定められている通信に必要な時間よりも長い時間、セクタにとどまることが可能な速度で回転しているか否かによって行われてよい。
【0073】
高速回転しているセンサノード2がない場合には、ステップS5において、
図11及び
図12に示した低速回転/停止フェーズの処理が実行され、処理はステップS1へ戻る。
【0074】
一方、高速回転しているセンサノード2がある場合には、
図10に示した高速回転フェーズが開始され、ステップS6において、高速回転サブフェーズの処理が実行される。
【0075】
ステップS7において、停止しているセンサノード2があるかが判定される。
【0076】
停止しているセンサノード2がない場合には、処理はステップS1へ戻る。
【0077】
一方、停止しているセンサノード2がある場合には、ステップS8において、停止サブフェーズの処理が実行され、処理はステップS1へ戻る。
【0078】
次に、
図1に示した通信システム100における通信動作の第2の例を、
図14に示すフローチャート(ステップS11~S18)を用いて説明する。
【0079】
図14に示すフローチャートでは、
図13に示したフローチャートと比較して、低速回転フェーズと停止フェーズとを分離している。
【0080】
まず、
図9に示したSN検知フェーズが開始され、ステップS11において、初期ビームの方向が設定される。
【0081】
ステップS12において、センサノード2の回転周期及び数が計測される。
【0082】
ステップS13において、各センサノード2の回転方向が計測される。
【0083】
ステップS14において、高速回転しているセンサノード2が存在するかを判定する。
【0084】
高速回転しているセンサノード2がない場合には、ステップS15において、
図11に示した低速回転フェーズの処理が実行され、処理はステップS17へ進む。
【0085】
一方、高速回転しているセンサノード2がある場合には、
図10に示した高速回転フェーズが開始され、ステップS16において、高速回転サブフェーズの処理が実行される。
【0086】
ステップS17において、停止しているセンサノード2があるかが判定される。
【0087】
停止しているセンサノード2がない場合には、処理はステップS11へ戻る。
【0088】
一方、停止しているセンサノード2がある場合には、ステップS18において、
図10に示した停止サブフェーズ又は
図12に示した停止フェーズの処理が実行され、処理はステップS11へ戻る。
【0089】
上述した実施形態の一例では、隣接する同一周波数帯を用いるシステム間干渉を抑圧し、空間利用効率を向上させることができる。
【0090】
〔B〕その他
開示の技術は上述した各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。各実施形態の各構成及び各処理は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0091】
上述した実施形態では、5GHz帯のWi-Fi信号を送受信することとしたが、これに限定されるものではない。送受信される信号の周波数帯域は種々変更されてよいし、送受信される信号の種類はWi-Fi信号でなく種々の無線信号であってもよい。センサノード2ではOOK変調を行なう旨説明したが、他の変調方式であってもよい。たとえば、センサノード2のTRX21にミスマッチによる反射がある場合は、OOK変調ではなく、Amplitude Shift Keying(ASK)変調となる。また、スイッチにより、開放端と短絡端を切り替えることにより、Phase Shift Keying(PSK)変調としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
100 :通信システム
1 :アクセスポイント
11,21 :TRX
12 :バックスキャッタRX
13 :ビームフォーミング処理部
14,24 :素子アンテナ
15 :サーキュレータ
16 :スイッチ
2 :センサノード
22 :SPSTスイッチ
23 :クロック
3 :基部
4 :工作機械
5 :ベルトコンベア