(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】尿管芽先端部細胞の単離方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20250115BHJP
C12Q 1/24 20060101ALI20250115BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250115BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/24
C12N5/10
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2021551427
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037329
(87)【国際公開番号】W WO2021066076
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2019181593
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、難治性疾患実用化研究事業、「iPS細胞モデルを用いた多発性嚢胞腎に対する創薬シーズの探索」および、令和元年度(平成31年度)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点」「再生医療用iPS細胞ストック開発拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】長船 健二
(72)【発明者】
【氏名】前 伸一
(72)【発明者】
【氏名】兩坂 誠
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/098349(WO,A1)
【文献】特開2006-312638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0284689(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0008892(US,A1)
【文献】Development,2017年,Vol. 144,pp.3177-3188
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun.,2018年,Vol. 495,pp.954-961
【文献】Stem Cell Reports,2017年,Vol. 8,pp.401-416
【文献】Dev. Biol.,2004年,Vol. 266,pp.285-298
【文献】Dev. Biol.,2013年,Vol. 377,pp.415-427
【文献】PLOS ONE,2011年,Vol. 6, Issue 11,e27676
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿管芽先端部細胞を含む
ヒト由来の細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を単離する方法であって、
(1-1)尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドを
超低密度リポタンパク質(VLDL)に接触させる工程、および
(1-2)
VLDLを指標として尿管芽先端部細胞を単離する工程
を含む方法。
【請求項2】
VLDLが、標識されたVLDLである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該標識が蛍光標識である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドが尿管芽様オルガノイドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドが多能性幹細胞から分化誘導されたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で尿管芽先端部細胞を単離し、さらに
(2)該尿管芽先端部細胞を、グリア細胞株由来神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、GSK3β阻害剤およびYes-associated protein(YAP)活性阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、尿管芽先端部細胞コロニーの製造方法。
【請求項8】
(2)の工程において、線維芽細胞増殖因子がFGF1であり、レチノイン酸受容体アゴニストがTTNPBであり、GSK3β阻害剤がCHIR99021であり、Yes-associated protein(YAP)活性阻害剤がThiazovivinである、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
(2)の工程において、培地がTGFβシグナル阻害剤をさらに含む、
請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
TGFβシグナル阻害剤がA83-01である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(2)の工程の後、得られた尿管芽先端部細胞コロニーを継代培養する工程を含む、
請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載の方法で尿管芽先端部細胞コロニーを得、さらに
(3)該尿管芽先端部細胞コロニーをWntシグナル伝達活性化因子、BMP阻害剤、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、およびグリア細胞株由来神経栄養因子を含む培地で培養して、尿管芽様オルガノイドを再構成する工程を含む、尿管芽様オルガノイドの製造方法。
【請求項13】
(3)の工程において、Wntシグナル伝達活性化因子がWnt3aおよび/またはR-spondin 1であり、BMP阻害剤がLDN193189であり、線維芽細胞増殖因子がFGF8であり、レチノイン酸受容体アゴニストがTTNPBである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(3)の工程において、培地がEGFおよびFGF1をさらに含む、
請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の方法で尿管芽様オルガノイドを得、さらに
(4)該尿管芽様オルガノイドをWntシグナル阻害剤およびTGFβシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆体様オルガノイドの製造方法。
【請求項16】
(4)の工程において、Wntシグナル阻害剤がIWR-1であり、TGFβシグナル阻害剤がA83-01である、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で尿管芽先端部細胞を単離し、さらに
(2’)該尿管芽先端部細胞をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆細胞の製造方法。
【請求項18】
請求項7~11のいずれか一項に記載の方法で尿管芽先端部細胞コロニーを得、さらに
(3’-1)該尿管芽先端部細胞コロニーを解離する工程、および
(3’-2)該解離された細胞集団をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆細胞の製造方法。
【請求項19】
(2’)または(3’-2)の工程において、Wntシグナル阻害剤がIWR-1である、
請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
(2’)または(3’-2)の工程において、培地がTGFβシグナル阻害剤をさらに含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
(2’)または(3’-2)の工程において、TGFβシグナル阻害剤がA83-01である、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(1-1)尿管芽先端部細胞を含むヒト由来の細胞、組織またはオルガノイドを
VLDLに接触させる工程、および
(1-2)
VLDLを指標として尿管芽先端部細胞を単離する工程を含む、尿管芽先端部細胞集団の製造方法。
【請求項23】
(i)尿管芽先端部細胞が含まれていることが予測される
ヒト由来の生体組織、組織片、培養細胞または培養組織を、
VLDLに接触させる工程、および
(ii)
VLDLを検出する工程を含む、尿管芽先端部細胞をモニタリングする方法。
【請求項24】
VLDLを含む、
ヒト由来尿管芽先端部細胞を単離またはモニタリングするための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2019-181593号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
【0002】
本願は尿管芽先端部細胞を単離する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在本邦において慢性腎臓病(CKD)の患者数は約1,300万人と推計されており、新たな国民病と呼ばれている。慢性腎臓病に対する根治的治療法は少なく、その進行によって透析療法を必要とする末期慢性腎不全患者は33万人以上であり、医学的のみならず医療経済的にも大きな問題となっている。末期慢性腎不全を含む慢性腎臓病の根治療法として腎移植が挙げられるが、深刻なドナー臓器不足のため需要に対し供給が全く追いついていない状態である。
【0004】
腎臓は胎生初期の組織である中間中胚葉に由来する。脊椎動物では中間中胚葉から前腎、中腎、後腎の3つの腎臓が形成され、哺乳類では後腎が成体の腎臓となる。後腎は間葉と尿管芽という2つの組織の相互作用によって発生する(非特許文献1および2)。さらに近年、中間中胚葉は前方と後方の2つの部位に分かれており、前方中間中胚葉から尿管芽、後方中間中胚葉から間葉が発生することが報告された(非特許文献3)。
【0005】
尿管芽は、腎集合管から膀胱の一部までの下部尿路を派生させる胎生期の前駆組織である。尿管芽は先端部と幹部から構成されており、先端部は自己複製と先端部および幹部細胞の娘細胞を供給する尿管芽の幹細胞としての役割が考えられている。
【0006】
ヒトiPS細胞やヒトES細胞由来の尿管芽細胞・組織を高効率に製造する方法が確立されれば、製造された尿管芽細胞・組織を下部尿路細胞の供給源として細胞療法に使用できると考えられる。また、将来的には三次元の腎臓の再構築によって腎移植のドナー不足を解決できると期待される。尿管芽およびそこから派生する集合管や下部尿路に発生する腎疾患は多いため、腎疾患モデル作製にも有用である。さらに、集合管細胞、下部尿路細胞またはそれらを含む腎組織を用いた薬剤腎毒性評価系や治療薬開発などの研究への発展も期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Osafune K., et al., Development 2006; 133: 151-161.
【文献】Kobayashi A., et al., Cell Stem Cell 2008; 3: 169-181.
【文献】Taguchi A., et al., Cell Stem Cell. 2014; 14: 53-67.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を単離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は、尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を単離する方法であって、
(1-1)尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドを超低密度リポタンパク質受容体(VLDL-R)結合物質に接触させる工程、および
(1-2)該結合物質を指標として尿管芽先端部細胞を単離する工程
を含む方法を提供する。
【0011】
本願はまた、本願の方法によって尿管芽先端部細胞を単離し、さらに
(2)該尿管芽先端部細胞を、グリア細胞株由来神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、GSK3β阻害剤およびYes-associated protein(YAP)活性阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、尿管芽先端部細胞コロニーの製造方法を提供する。
【0012】
本願はまた、
尿管芽先端部細胞コロニーを提供する工程、および
(3)該尿管芽先端部細胞コロニーをWntシグナル伝達活性化因子、BMP阻害剤、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、およびグリア細胞株由来神経栄養因子を含む培地で培養して、尿管芽様オルガノイドを再構成する工程を含む、尿管芽様オルガノイドの製造方法を提供する。
【0013】
本願はまた、
尿管芽様オルガノイドを提供する工程、および
(4)該尿管芽様オルガノイドをWntシグナル阻害剤およびTGFβシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆体様オルガノイドの製造方法を提供する。
【0014】
本願はまた、本願の方法によって尿管芽先端部細胞を単離し、さらに
(2’)該尿管芽先端部細胞をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆細胞の製造方法を提供する。
【0015】
本願はまた、本願の方法によって尿管芽先端部細胞コロニーを得、さらに
(3’-1)該尿管芽先端部細胞コロニーを解離する工程、および
(3’-2)該解離された細胞集団をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆細胞の製造方法を提供する。
【0016】
本願はまた、
(1-1)尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドをVLDL-R結合物質に接触させる工程、および
(1-2)該結合物質を指標として尿管芽先端部細胞を単離する工程を含む、尿管芽先端部細胞集団の製造方法を提供する。
【0017】
本願はまた、
(i)尿管芽先端部細胞が含まれていることが予測される生体組織、組織片、培養細胞または培養組織を、VLDL-R結合物質に接触させる工程、および
(ii)該結合物質を検出する工程を含む、尿管芽先端部細胞をモニタリングする方法を提供する。
【0018】
本願はまた、VLDL-R結合物質を含む、尿管芽先端部細胞を単離またはモニタリングするための組成物を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本願の方法によって、尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を効率よく単離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施例で確立した方法をまとめた模式図。中腎管最先端細胞(NDリーダー細胞)の凍結保存、尿管芽(UB)先端部細胞の単離および増殖、分枝する人工尿管芽(iUB)オルガノイドの作製および再構成、ならびに集合管前駆体の誘導を達成した。
【
図2】hiPSC/ESCの前方原始線条を介した尿管芽(UB)細胞への分化における本発明者らの以前(a)および新規(b)のプロトコル。APS、前方原始線条;Anterior IM、前方中間中胚葉;ND、中腎管;UB、尿管芽。A、100ng/mlアクチビンA;C3、3μM CHIR99021;B、10ng/ml BMP4;F8、200ng/ml FGF8;TT、0.1μM TTNPB;A83、1μM A83-01;LDN、0.1μM LDN193189;Y、10μM Y-27632;C1、1μM CHIR99021;G、100ng/ml GDNF;F1、200ng/ml FGF1;E、50ng/ml EGF;Tzv、10μM Thiazovivin。
【
図3】ステージ4の2日目の細胞の、NDリーダーのマーカーであるGATA3(緑色)およびRET(赤色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図4】ステージ4の6、8および10日目の細胞のE-CADHERIN(緑色)、GATA3(赤色)およびPAX2(紫色)での免疫染色分析は、中腎管(ND)伸長段階(ステージ4)で使用した増殖因子がNDリーダー細胞の上皮化を増強することを示す。スケールバーは100μmである。
【
図5】非ND細胞を取り除く前後の2日目の凝集体のE-CADHERIN(緑色)、GATA3(赤色)およびPAX2(紫色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図6】凍結保存の有無により、ND成熟化段階(ステージ5)2日目の細胞数に有意な差は見出されなかった(n=3)。
【0021】
【
図7】凍結保存したNDリーダー細胞から作製されたステージ5の2日目のND凝集体のE-CADHERIN(緑色)、GATA3(赤色)およびPAX2(紫色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図8】低濃度マトリゲルを含む場合と含まない場合のND凝集体の4日間の形態変化。スケールバーは100μmである。
【
図9】6日目のiUBオルガノイドの形態。右側のパネルは左側のパネルの四角い枠で囲われた領域の拡大図である。スケールバーは300μmである。
【
図10】高濃度(50%、左側のパネル)および低濃度(2%、右側のパネル)のマトリゲルを伴って培養した7日目の凝集体の形態。スケールバーは100μmである。
【
図11】7日目のiUBオルガノイドのPAX2(緑色)、EZRIN(赤色)およびLAMININ(紫色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【0022】
【
図12】6日目のiUBオルガノイドのRET(緑色)およびCK8(赤色;左側のパネル)、LAMININ(白色)およびEZRIN(赤色;中央のパネル)、ならびにLAMININ(白色)およびPAX2(緑色;右側のパネル)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図13】6日目のiUBオルガノイドから分離した先端部の形態。スケールバーは100μmである。
【
図14】6日目のiUBオルガノイドから分離した先端部オルガノイドの最初の7日間の形態変化。スケールバーは100μmである。
【
図15】14日目の分離した先端部オルガノイドのPAX2(青色)、RET(緑色)およびCK8(赤色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図16】14日目の分離した先端部オルガノイドのGATA3(緑色)、RET(白色)およびE-CADHERIN(赤色)での3Dホールマウント免疫染色。
【0023】
【
図17】分離した先端部の7日間の形態変化。再構成したiUBオルガノイドから分離した先端部は分枝形態形成を繰り返し、iUBオルガノイドを再構成する。スケールバーは100μmである。
【
図18】EGFおよびFGF1を含まないオルガノイド培地、またはEGFおよびFGF1を含むオルガノイド培地で培養したiUBオルガノイドの形態。スケールバーは100μmである。
【
図19】EGFおよびFGF1を含むオルガノイド培地で培養した6日目のiUBオルガノイドのRET(赤色)およびGATA3(緑色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図20】EGFおよびFGF1を含むオルガノイド培地で培養した6日目のiUBオルガノイドのLAMININ(緑色)、EZRIN(白色)およびPAX2(赤色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図21】ハイドロゲル上の単一のiUBオルガノイド由来細胞からの先端部細胞コロニーの形成を示す模式図。
【0024】
【
図22】iUBオルガノイドから解離した単一細胞の7日間の形態変化。スケールバーは100μmである。
【
図23】7日目の先端部細胞コロニーのRET(緑色)およびGATA3(赤色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図24】7日目のiUBオルガノイドのCK8(緑色)、VLDLR(赤色)およびRET(白色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図25】DiI標識VLDL(DiI-VLDL)取り込み後の先端部細胞コロニー、ND凝集体およびiUBオルガノイドの明視野および蛍光顕微鏡分析の画像。スケールバーは100μmである。
【
図26】iUBオルガノイドをFACSにてDiI-VLDLでソートした結果。
【
図27】RNAシーケンシング解析により決定したDiI-VLDL
+細胞とDiI-VLDL
-細胞の間で発現が異なる遺伝子を示すヒートマップ。先端部(Tip)に関連する遺伝子の発現がDiI-VLDL
+細胞において上昇しており、幹部(Trunk)に関連する遺伝子の発現がDiI-VLDL
-細胞においてより高かったことを示す。
【0025】
【
図28】先端部細胞コロニーをFACSにてDiI-VLDLでソートした結果。
【
図29】iUBオルガノイドおよび先端部細胞コロニーにおけるDiI-VLDL
+細胞の割合。スチューデントのt検定による*p<0.05および**p<0.001。
【
図30】0日目および7日目のDiI-VLDL
-細胞およびDiI-VLDL
+細胞の蛍光顕微鏡分析。DiI-VLDLを取り込む先端部細胞コロニーは、DiI
+細胞だけでなくDiI
-細胞からも生じることに注記しておく。スケールバーは100μmである。
【
図31】単一のDiI-VLDL
+細胞およびDiI-VLDL
-細胞に由来する6日目の先端部細胞コロニーにおけるDiI-VLDL
+細胞の割合。スチューデントのt検定による*p<0.05および**p<0.001。
【
図32】ハイドロゲル培養後に低濃度マトリゲルを含むオルガノイド培地で培養した18日目の先端部細胞コロニー由来のiUBオルガノイドの形態。スケールバーは300μmである。
【
図33】18日目の先端部細胞コロニー由来のiUBオルガノイドのEZRIN(緑色;左側のパネル)、LAMININ(赤色;左側のパネル)、GATA3(赤色;右側のパネル)およびRET(緑色;右側のパネル)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【0026】
【
図34】14日目のiUBオルガノイドから分離した先端部の14日間の形態変化。スケールバーは100μmである。
【
図35】CHIR99021またはWnt3aを含むオルガノイド培地で培養した先端部細胞コロニーから再構成した7日目のiUBオルガノイドの形態。スケールバーは100μmである。
【
図36】A83-01を含む培地または含まない培地での二次元培養7日目の解離した先端部細胞のGATA3(緑色)およびAQP2(赤色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【0027】
【
図37】二次元培養7日目の解離した先端部細胞のAQP2(赤色)、E-CADHERIN(白色)およびFOXA1(緑色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図38】二次元培養7日目の解離した先端部細胞の、間在細胞マーカーであるCAII(緑色)での免疫染色分析。スケールバーは100μmである。
【
図39】14日目の集合管前駆体オルガノイドの形態。スケールバーは100μmである。
【
図40】14日目の集合管前駆体オルガノイドのFOXA1(白色)、AQP2(赤色)およびGATA3(緑色)での免疫染色分析。
【0028】
【
図41】iUBオルガノイドから誘導した先端部細胞コロニーの継代培養を示す模式図。
【
図42】iUBオルガノイドを単一細胞に解離させ、A83-01をさらに含む培地で培養することによって誘導された先端部細胞コロニーの形態。スケールバーは100μmである。
【
図43】A83-01をさらに含む培地で誘導された先端部細胞コロニーのGATA3(緑色)、RET(赤色)およびSOX9(紫色)での免疫染色分析。
【
図44】A83-01をさらに含む培地で誘導された先端部細胞コロニー由来のiUBオルガノイドの形態。
【
図45】A83-01をさらに含む培地で誘導された先端部細胞コロニー由来のiUBオルガノイドのGATA3(緑色)およびRET(赤色)での免疫染色分析。
【
図46】3回継代培養を行った後の先端部細胞コロニーの形態。
【
図47】3回継代培養を行った後の先端部細胞コロニーのGATA3(緑色)、RET(赤色)およびSOX9(紫色)での免疫染色分析。
【
図48】3回継代培養を行った後の先端部細胞コロニー由来のiUBオルガノイドの形態。
【
図49】3回継代培養を行った後の先端部細胞コロニー由来のiUBオルガノイドのGATA3(緑色)およびRET(赤色)での免疫染色分析。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば「約20~30」は「18~33」を含むものとする。
【0030】
本願明細書および請求の範囲において、「ある特定種類の細胞」の表現は、特に断りがなければ当該種類の細胞が含まれている細胞群を意味し、当該細胞群には特定された種類の細胞以外の種類の細胞が含まれていてもよい。例えば「ある特定種類の細胞の培養物」は、当該種類の細胞が含まれる細胞群の培養物を意味し、特定された種類の細胞以外の細胞が含まれていてもよい。同様に、「ある特定種類の細胞集団」の表現は、特に断りがなければ当該種類の細胞が含まれている細胞集団を意味し、当該細胞集団には特定された種類の細胞以外の細胞が含まれていてもよい。
【0031】
本願において、培地は動物細胞の培養に用いられる基礎培地に必要な因子を適宜添加して調製され得る。基礎培地としては、例えばMEM Zinc Option培地、IMEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)培地、DMEM/F12培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、およびこれらの混合培地などが包含される。基礎培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えばアルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Thermo Fisher Scientific)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類およびこれらの同等物などの1つ以上の物質、あるいはその他の通常動物培養用培地に添加される1つ以上の物質を含有し得る。
【0032】
本願で使用される基礎培地は、例えばDMEM/F12培地、またはDMEM/F12培地にL-ascorbic acid-2-phosphate magnesium、sodium selenium、insulin、NaHCO3およびトランスフェリンが添加された無血清培地であるEssential 6(商標)培地(Thermo Fisher Scientific)であり得る。
【0033】
本願明細書および請求の範囲において、「単離」とは、目的とする成分(細胞、組織、オルガノイド等)以外の成分を除去する操作がなされ、目的とする成分が当初存在する状態を脱していることを意味する。本願において、目的とする細胞、組織またはオルガノイドが単離または製造されていることは、それらのマーカーの発現、サイズおよび/または形状などにより確認できる。マーカーの発現は免疫染色法、フローサイトメトリー法、FACS(fluorescence-activated cell sorting)、およびMACS(magnetic-activated cell sorting)など公知の方法で確認できる。
【0034】
尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を単離する方法
本願のある態様において、尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を単離する方法であって、
(1-1)尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドを超低密度リポタンパク質受容体(VLDL-R)結合物質に接触させる工程、および
(1-2)該結合物質を指標として尿管芽先端部細胞を単離する工程
を含む方法を提供する。
【0035】
「尿管芽先端部細胞」とは、尿管芽組織または尿管芽様オルガノイドの発芽または枝分かれした領域の先端部の細胞を意味する。尿管芽先端部細胞であることは、RETや超低密度リポタンパク質受容体(VLDL-R)の発現、または超低密度リポタンパク質(VLDL)の取り込みなどにより確認できる。尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドは、哺乳動物由来、例えば霊長類由来であり得、好ましくはヒト由来である。
【0036】
ある実施態様において、尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドは、尿管芽様オルガノイドである。「尿管芽様オルガノイド」は、分枝構造を有する尿管芽様の自己組織化構造物を意味する。尿管芽様オルガノイドのサイズは例えば約10~約1000μmである。また、1つの尿管芽様オルガノイドは例えば3~5回分枝する。尿管芽様オルガノイドであることは、GATA3、RET、PAX2、CALB1などのマーカーの発現によって確認できる。また、尿管芽様オルガノイドが分枝構造を有していることは顕微鏡下で確認できる。
【0037】
尿管芽様オルガノイドは、多能性幹細胞から分化誘導されたものであってもよい。多能性幹細胞から尿管芽様オルガノイドを分化誘導する方法は知られており、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えばWO2019/098349に記載の方法が使用できる。
【0038】
本願において「多能性幹細胞」とは、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性と増殖能を併せもつ幹細胞であり、例えば胚性幹(ES)細胞(J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)、精子幹細胞(「GS細胞」)(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)、人工多能性幹(iPS)細胞(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M. et al, Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);WO2007/069666)、および培養線維芽細胞または骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)(WO2011/007900)などが含まれる。本願において、多能性幹細胞は、哺乳動物由来、例えば霊長類由来であり得、好ましくはヒト由来である。また、多能性幹細胞は、例えばES細胞またはiPS細胞であり得る。
【0039】
iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって製造することができる(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M. et al, Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);WO2007/069666)。iPS細胞を用いる場合、該iPS細胞は、自体公知の方法により体細胞から作製してもよいし、既に樹立され、ストックされているiPS細胞を用いてもよい。本発明に用いるiPS細胞の由来となる体細胞に制限はなく、例えば末梢血由来の細胞または臍帯血由来の細胞が用いられ得る。多能性幹細胞の由来となる動物に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、オランウータン、チンパンジー、イヌ、ネコ、トリ、ヒトなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくは霊長類、より好ましくはヒトである。
【0040】
(1-1)の工程において、尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドを超低密度リポタンパク質受容体(VLDL-R)結合物質に接触させる。
【0041】
本願において、「超低密度リポタンパク質受容体(VLDL-R)結合物質」は、VLDL-Rに結合する特性を有する物質であれば特に限定されない。例えば、VLDL-Rに結合する特性を有する化合物、ペプチド、およびタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、VLDL-Rに結合するタンパク質には、VLDL-Rのリガンド、VLDL-R結合活性を有する抗体および抗体断片、ならびにVLDL-R結合ドメインを含むタンパク質が含まれ得る。1つの実施形態において、VLDL-R結合物質は「超低密度リポタンパク質(VLDL)」である。「超低密度リポタンパク質(VLDL)」は、超遠心法または電気泳動法によって分類される血漿中リポタンパク質の一つである。本明細書で用いられるVLDLには、VLDL-R結合活性を有する、VLDLの改変体および修飾体も含まれ得る。(1-1)の工程において、VLDL-R結合物質は、典型的には尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドの培養培地に添加される。
【0042】
1つの実施形態において、本発明で用いられるVLDL-R結合物質は標識されたVLDL-R結合物質であり得、例えば標識されたVLDLであり得る。標識されたVLDL-R結合物質またはVLDLとは、標識と結合しているVLDL-R結合物質またはVLDLを意味する。標識としては、蛍光標識、磁気標識、酵素、補酵素、化学発光標識、生物発光標識、放射性標識、金属などの当業者に公知の標識を用いることができる。本願において、標識は例えば蛍光標識または磁気標識である。蛍光標識としては、カルボシアニン色素(DiI、DiO、DiD、DiRなど)、フルオレセイン誘導体(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインチオフルバミルなど)、ローダミン誘導体(テトラメチルローダミン、トリメチルローダミン(RITC)、テキサスレッド、ローダミン110など)、Cy色素(Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7)、Cy-クロム、スペクトラムグリーン、スペクトラムオレンジ、プロピジウムイオダイド、アロフィコシアニン(APC)、R-フィコエリスリン(R-PE)、Alexa Fluor色素などが例示される。標識されたVLDLは市販品を用いてもよく、例えばDiI標識VLDL(DiI-VLDL; Biomedical Technologies, Inc.)が使用できる。磁気標識としては、磁性マイクロビーズなどが例示される。添加されるVLDL-R結合物質の量は、それが指標として検出可能な量であれば特に限定されない。DiI-VLDLが用いられる場合、その濃度は、10ng/ml~1mg/ml、100ng/ml~1mg/ml、または1μg/ml~100μg/mlであり得、例えば約10μg/mlである。
【0043】
(1-2)の工程において、該結合物質を指標として尿管芽先端部細胞を単離する。例えば、該結合物質を上述のように標識し、その標識を指標として用いてもよい。あるいは、該結合物質を認識する標識抗体等を添加し、その標識を指標として用いてもよい。該標識を指標として尿管芽先端部細胞を単離する手段は、標識の種類に応じて公知の方法を適宜使用すればよい。例えば、標識が蛍光標識である場合、フローサイトメトリーまたはFACS(fluorescence-activated cell sorting)によって該細胞を単離することができる。また、標識が磁気標識である場合、MACS(Magnetic-activated cell sorting)によって該細胞を単離することができる。
【0044】
尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞集団を製造する方法
本願のある態様において、
(1-1)尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドをVLDL-R結合物質に接触させる工程、および
(1-2)該結合物質を指標として尿管芽先端部細胞を単離する工程を含む、尿管芽先端部細胞集団の製造方法を提供する。
【0045】
(1-1)および(1-2)の工程は、上記の尿管芽先端部細胞を含む細胞、組織またはオルガノイドから尿管芽先端部細胞を単離する方法における(1-1)および(1-2)の工程と同様に行えばよい。
【0046】
単離した尿管芽先端部細胞から尿管芽先端部細胞コロニーを製造する方法
本願のある態様において、本願の方法で尿管芽先端部細胞を単離し、さらに
(2)該尿管芽先端部細胞を、グリア細胞株由来神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、GSK3β阻害剤およびYes-associated protein(YAP)活性阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、尿管芽先端部細胞コロニーの製造方法を提供する。
【0047】
尿管芽先端部細胞コロニーは、単一の尿管芽先端部細胞から増殖した細胞集団を意味する。尿管芽先端部細胞コロニーのサイズは特に限定されず、当業者が使用目的に応じて適宜決定できる。尿管芽先端部細胞コロニーであることは、RET、GATA3、超低密度リポタンパク質受容体(VLDLR)の発現、または超低密度リポタンパク質(VLDL)の取り込みなどにより確認できる。
【0048】
(2)の工程において、本願の方法で単離した尿管芽先端部細胞を、三次元スキャホールド材を培地で希釈することにより得られたハイドロゲル上に播種して三次元培養してもよい。
【0049】
三次元スキャホールド材としては、培養細胞の三次元立体構造構築用のものが種々知られており、また販売されており、特に限定されない。例えばコラーゲンベースの材料やポリカプロラクトンやポリグリコール酸等のポリマー系の材料、またはそれらの複合体を使用できる。また、その形態も特に限定されず、例えばスポンジ状構造物などが挙げられる。また、三次元スキャホールド材は生体由来の試料を材料(例えば細胞外マトリックスや基底膜など)とするものであってもよい。具体的には、マトリゲル(商標)(ベクトン・ディッキンソン社)、typeIコラーゲンゲル、typeIVコラーゲンゲルなどが例示される。マトリゲル(商標)基底膜マトリックスは、細胞外マトリックスタンパク質を豊富に含むEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶性基底膜調製品であり、主にラミニン、コラーゲンIV、エンタクチンおよびヘパラン硫酸プロテオグリカンから構成される。さらに、TGF-β、線維芽細胞増殖因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、EHSなどの他の増殖因子を含んでもよい。
【0050】
(2)の工程において、三次元スキャホールド材としてマトリゲルを用いる場合、ハイドロゲル中のマトリゲルの濃度は、20%~80%、30%~70%、または40~60%であり得、例えば約50%である。
【0051】
(2)の工程において、グリア細胞株由来神経栄養因子の濃度は、100pg/ml~10μg/ml、1ng/ml~10μg/ml、または10ng/ml~1μg/mlであり得、例えば約100ng/mlである。
【0052】
「線維芽細胞増殖因子」はFGF1からFGF23までが知られており、これら公知のものから適宜選択すればよい。(2)の工程において、線維芽細胞増殖因子の濃度は、使用する線維芽細胞増殖因子に応じて当業者が適宜選択可能である。線維芽細胞増殖因子がFGF1である場合、その濃度は、200pg/ml~20μg/ml、2ng/ml~20μg/ml、または20ng/ml~2μg/mlであり得、例えば約200ng/mlである。
【0053】
「レチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト」は天然に存在するレチノイド、化学的に合成されたレチノイド、レチノイド骨格を持たないレチノイン酸受容体アゴニスト化合物、またはレチノイン酸受容体アゴニスト活性を有する天然物であってよい。RARアゴニストとしての活性をもつ天然レチノイドの例としては、レチノイン酸(立体異性体の全トランス-レチノイン酸(全トランスRA)と9-シス-レチノイン酸(9-シスRA)が知られている)が挙げられる。化学的に合成されたレチノイドは当技術分野で公知である(米国特許第5,234,926号、米国特許第4,326,055号など)。レチノイド骨格を持たないレチノイン酸受容体アゴニスト化合物の例としては、Am80、AM580(4-[[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル]カルボキシアミド]ベンゾイックアシッド)、TTNPB(4-[[E]-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル]-1-プロペニル]ベンゾイックアシッド)、AC55649(4’-オクチル-[1,1’-ビフェニル]-4-カルボキシリックアシッド)が挙げられる。レチノイン酸受容体アゴニスト活性を有する天然物の例としては、ホノキオール、マグノロールが挙げられる(生物機能開発研究所紀要9:55-61、2009年)。本願で使用されるRARアゴニストは、レチノイン酸、AM580、TTNPB、AC55649であり得、例えばTTNPBであり得る。(2)の工程において、レチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、使用するレチノイン酸受容体アゴニストに応じて当業者が適宜選択可能である。レチノイン酸受容体アゴニストがTTNPBである場合、その濃度は、0.1nM~10μM、1nM~10μM、または10nM~1μMであり得、例えば約0.1μMである。
【0054】
「GSK3β阻害剤」とは、GSK3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、βカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られているが、例えばインジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、SB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)および高い選択性を有するCHIR99021(6-[2-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-イルアミノ]エチルアミノ]ピリジン-3-カルボニトリル)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販されており容易に利用することが可能である。本願で使用されるGSK3β阻害剤は、例えばCHIR99021であり得る。(2)の工程において、GSK3β阻害剤の濃度は、使用するGSK3β阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。GSK3β阻害剤がCHIR99021である場合、その濃度は、3nM~300μM、30nM~300μM、または300nM~30μMであり得、例えば約3μMである。
【0055】
(2)の工程において、YAP活性阻害剤の濃度は、使用するYAP活性阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。YAP活性阻害剤としては、公知のものを適宜用いればよいが、例えばYAP阻害活性とROCK阻害活性の両方の活性を有するThiazovivinが例示される。YAP活性阻害剤がThiazovivinである場合、その濃度は、10nM~1mM、100nM~1mM、または1μM~100μMであり得、例えば約10μMである。
【0056】
(2)の工程において、培地にはさらにTGFβシグナル阻害剤を含んでいてもよい。「TGFβシグナル阻害剤」はTGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質である限り特に限定されず、例えばLefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、WO2009146408)、ALK5阻害剤II(2-[3-[6-メチルピリジン-2-イル]-1H-ピラゾル-4-イル]-1,5-ナフチリジン)、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII(6-[2-tert-ブチル-5-[6-メチル-ピリジン-2-イル]-1H-イミダゾル-4-イル]-キノキサリン)およびこれらの誘導体などが例示される。本願で使用されるTGFβシグナル阻害剤は、例えばA83-01であり得る。(2)の工程において、TGFβシグナル阻害剤の濃度は、使用するTGFβシグナル阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。TGFβシグナル阻害剤がA83-01である場合、その濃度は、1nM~100μM、10nM~100μM、または100nM~10μMであり得、例えば約1μMである。
【0057】
(2)の工程において、培養期間は、2~21日、3~14日、または5~10日であり得、例えば約6~約7日である。
【0058】
尿管芽先端部細胞コロニーは、1~12日毎、5~10日毎、6~8日毎、または約7日ごとに継代培養することによって維持できる。また、尿管芽先端部細胞コロニーが、約10~約1000μm、約15~約500μm、約20~約150μm、または約80~約100μmの大きさまで増殖した時点で継代培養することによっても維持できる。継代の回数は特に限定されず、所望の回数継代培養することができる。例えば、尿管芽先端部細胞コロニーは、1回、2回、3回、4回、5回、またはそれ以上の回数継代培養され得る。継代期間は特に限定されず、所望の期間継代培養することができる。例えば、尿管芽先端部コロニーは、1日以上、7日以上、14日以上、21日以上、28日以上、例えば70日以上の期間継代培養され得る。
【0059】
培養温度は以下に限定されないが、約30~約40℃、例えば約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は例えば約2~約5%である。
【0060】
すなわち、本願発明は、尿管芽先端部細胞コロニーを継代培養する方法も提供する。継代培養の際に培地に添加される物質やその濃度は、上述したとおりである。一例として、グリア細胞株由来神経栄養因子(例えば、約100ng/ml GDNF)、線維芽細胞増殖因子(例えば、約200ng/ml FGF1)、レチノイン酸受容体アゴニスト(例えば、約0.1μM TTNPB)、GSK3β阻害剤(例えば、約3μM CHIR99021)、YAP活性阻害剤(例えば、約10μM Thiazovivin)、およびTGFβシグナル阻害剤(例えば、約1μM A83-01)を培地に添加する。その他の培養条件も上述したとおりである。
【0061】
尿管芽先端部細胞コロニーから尿管芽様オルガノイドを再構成する方法
本願のある態様において、
(3)尿管芽先端部細胞コロニーをWntシグナル伝達活性化因子、BMP阻害剤、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、およびグリア細胞株由来神経栄養因子を含む培地で培養して、尿管芽様オルガノイドを再構成する工程を含む、尿管芽様オルガノイドの製造方法を提供する。尿管芽先端部細胞コロニーは本願の方法で得られた細胞を用いてもよく、公知の別の方法によって得られたものを用いてもよい。本工程において、尿管芽先端部細胞コロニーのサイズは特に限定されないが、例えば約10~約1000μmであり得る。
【0062】
(3)の工程において、尿管芽先端部細胞コロニーをWntシグナル伝達活性化因子、BMP阻害剤、線維芽細胞増殖因子、レチノイン酸受容体アゴニスト、およびグリア細胞株由来神経栄養因子を含む培地で培養する。1つの実施形態では、(3)の工程において、尿管芽先端部細胞コロニーを浮遊培養する。本願において、「浮遊培養」とは細胞を培養皿に非接着の状態で培養することである。特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックスなどによるコーティング処理)されていないもの、または人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)または2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体(Lipidure)によるコーティング処理)がされているものを使用して行うことができる。例えば、低接着35mmディッシュ(Sumitomo Bakelite)などの市販品を使用してもよい。
【0063】
(3)の工程において、Wntシグナル伝達活性化因子の濃度は、使用するWntシグナル伝達活性化因子に応じて当業者が適宜選択可能である。本願で使用されるWntシグナル伝達活性化因子は、例えばLiCl、Wnt1、Wnt3a、Wnt7a、R-spondin 1などであり得る。Wntシグナル伝達活性化因子がWnt3aである場合、その濃度は約5~約20%であり得る。Afamin/Wnt3a条件培地などの市販品を使用してもよい。Wntシグナル伝達活性化因子がR-spondin 1である場合、その濃度は、200pg/ml~20μg/ml、2ng/ml~20μg/ml、または20ng/ml~2μg/mlであり得、例えば約200ng/mlである。
【0064】
「BMP阻害剤」は、Chordin、Noggin、Follistatinなどのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin 6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine、その誘導体(P. B. Yu et al. (2007), Circulation, 116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J. Hao et al. (2008), PLoS ONE, 3(8):e2904)およびLDN193189(4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。本願で使用されるBMP阻害剤は、例えばLDN193189であり得る。(3)の工程において、BMP阻害剤の濃度は、使用するBMP阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。BMP阻害剤がLDN193189である場合、その濃度は、0.1nM~10μM、1nM~10μM、または10nM~1μMであり得、例えば約0.1μMである。
【0065】
(3)の工程において、線維芽細胞増殖因子の濃度は、使用する線維芽細胞増殖因子に応じて当業者が適宜選択可能である。線維芽細胞増殖因子がFGF8である場合、その濃度は、200pg/ml~20μg/ml、2ng/ml~20μg/ml、または20ng/ml~2μg/mlであり得、例えば約200ng/mlである。
【0066】
(3)の工程において、レチノイン酸受容体アゴニストの濃度は、使用するレチノイン酸受容体アゴニストに応じて当業者が適宜選択可能である。レチノイン酸受容体アゴニストがTTNPBである場合、その濃度は、0.1nM~10μM、1nM~10μM、または10nM~1μMであり得、例えば約0.1μMである。
【0067】
(3)の工程において、グリア細胞株由来神経栄養因子の濃度は、100pg/ml~10μg/ml、1ng/ml~10μg/ml、または10ng/ml~1μg/mlであり得、例えば約100ng/mlである。
【0068】
(3)の工程において、培地はさらにEGFおよび/またはFGF1を含んでいてもよい。EGFは、上皮成長因子またはEpidermal Growth Factorと呼ばれるタンパク質である。EGFはR&D systems社などから市販されているものを使用することができる。EGFの濃度は、50pg/ml~5μg/ml、500pg/ml~5μg/ml、または5ng/ml~500ng/mlであり得、例えば約50ng/mlである。FGF1の濃度は、200pg/ml~20μg/ml、2ng/ml~20μg/ml、または20ng/ml~2μg/mlであり得、例えば約200ng/mlである。
【0069】
(3)の工程において、培地はさらにマトリゲルを含んでいてもよい。マトリゲルの濃度は、1~40%、2~30%、または5~20%であり得、例えば約10%である。
【0070】
(3)の工程において、培養期間は、2~30日、5~20日、または8~15日であり得、例えば約10日である。
【0071】
培養温度は以下に限定されないが、約30~約40℃、例えば約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は例えば約2~約5%である。
【0072】
尿管芽様オルガノイドから集合管前駆体様オルガノイドを製造する方法
本願のある態様において、
(4)尿管芽様オルガノイドをWntシグナル阻害剤およびTGFβシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆体様オルガノイドの製造方法を提供する。尿管芽様オルガノイドは本願の方法で製造または再構成された細胞を用いてもよく、公知の別の方法によって得られたものを用いてもよい。
【0073】
「集合管前駆体様オルガノイド」は、集合管前駆体様の自己組織化構造物を意味する。集合管前駆体様オルガノイドのサイズは例えば約10~約1000μmである。集合管前駆体様オルガノイドであることは、AQP2などのマーカーの発現によって確認できる。
【0074】
(4)の工程において、該尿管芽様オルガノイドをWntシグナル阻害剤およびTGFβシグナル阻害剤を含む培地で培養する。1つの実施形態では、(4)の工程において、該尿管芽様オルガノイドを浮遊培養する。
【0075】
「Wntシグナル阻害剤」は、Wntを介したシグナル伝達経路を阻害する物質であれば特に限定されず、例えば、IWR-1、IWP-2、IWP-3、IWP-4、2-(4-トリフルオロメチルフェニル)-7,8-ジヒドロ-5H-チオピラノ[4,3-d]ピリミジン-4(3H)-オン(XAV939)、G-CSF、IGFBP4、Dkk1、Cerberus、抗Wnt抗体、Wntアゴニスト(Wnt受容体阻害剤)、可溶型Wnt受容体タンパク(Frzb-1等)、ドミナントネガティブ体などが例示される。本願で使用されるWntシグナル阻害剤は、例えばIWR-1であり得る。(4)の工程において、Wntシグナル阻害剤の濃度は、使用するWntシグナル阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。Wntシグナル阻害剤がIWR-1である場合、その濃度は、1nM~100μM、10nM~100μM、または100nM~10μMであり得、例えば約1μMである。
【0076】
(4)の工程において、TGFβシグナル阻害剤の濃度は、使用するTGFβシグナル阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。TGFβシグナル阻害剤がA83-01である場合、その濃度は、1nM~100μM、10nM~100μM、または100nM~10μMであり得、例えば約1μMである。
【0077】
(4)の工程において、培養期間は、5~40日、7~30日、10~20日、例えば約14日である。
【0078】
培養温度は以下に限定されないが、約30~約40℃、例えば約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は例えば約2~約5%である。
【0079】
尿管芽先端部細胞から集合管前駆細胞を製造する方法
本願のある態様において、本願の方法で尿管芽先端部細胞を単離し、さらに
(2’)該尿管芽先端部細胞をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆細胞の製造方法を提供する。
【0080】
「集合管前駆細胞」は、集合管の主細胞マーカーであるアクアポリン2(AQP2)を発現するが、間在細胞マーカーである炭酸脱水酵素(CA)IIを発現しない細胞を意味する。集合管前駆細胞であることは、AQP2の発現により確認できる。任意でCAIIを発現しないことを確認してもよい。
【0081】
(2’)の工程において、該尿管芽先端部細胞をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する。1つの実施形態では、(2‘)の工程において、該尿管芽先端部細胞を接着培養する。本願において、「接着培養」とは細胞が培養基材に接着した状態で培養されることを意味し、例えばコーティング処理された培養皿において培養されることを意味する。コーティング剤としては、ラミニン(ラミニン-511、ラミニン-111、ラミニン-411など)、マトリゲル(BD)、Synthemax(Corning)、コラーゲン、ゼラチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン、これらの断片およびこれらの組合せが例示される。本願において、該単一細胞は、細胞外マトリックスタンパク質、例えばラミニンでコートされた細胞培養プレート上で培養され得る。コーティング剤は市販品を用いることができ、例えばiMatrix-511 silkを使用できる。
【0082】
(2’)の工程において、Wntシグナル阻害剤の濃度は、使用するWntシグナル阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。Wntシグナル阻害剤がIWR-1である場合、その濃度は、1nM~100μM、10nM~100μM、または100nM~10μMであり得、例えば約1μMである。
【0083】
(2’)の工程において、培地はさらにTGFβシグナル阻害剤を含んでいてもよい。TGFβシグナル阻害剤の濃度は、使用するTGFβシグナル阻害剤に応じて当業者が適宜選択可能である。TGFβシグナル阻害剤がA83-01である場合、その濃度は、1nM~100μM、10nM~100μM、または100nM~10μMであり得、例えば約1μMである。
【0084】
(2’)の工程において、培養期間は、2~21日、3~14日、または5~10日であり得、例えば約7日である。
【0085】
培養温度は以下に限定されないが、約30~約40℃、例えば約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は例えば約2~約5%である。
【0086】
尿管芽先端部細胞コロニーから集合管前駆細胞を製造する方法
本願のある態様において、本願の方法で尿管芽先端部細胞コロニーを得、さらに
(3’-1)該尿管芽先端部細胞コロニーを解離する工程、および
(3’-2)該解離された細胞集団をWntシグナル阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、集合管前駆細胞の製造方法を提供する。
【0087】
(3’-1)の工程において、尿管芽先端部細胞コロニーを解離する。細胞コロニーの解離方法としては、従来公知の細胞凝集塊の解離方法を適宜採用すればよく、例えば力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、AccutaseおよびAccumaxなど)またはコラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液を用いた解離方法が挙げられる。例えば、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えばAccutase)を用いて細胞凝集塊を解離し、力学的に細かく単一細胞へ分散する方法を使用してもよい。
【0088】
(3’-2)の工程は、上記の尿管芽先端部細胞から集合管前駆細胞を製造する方法における(2’)の工程と同様に行えばよい。
【0089】
尿管芽先端部細胞をモニタリングする方法
本願のある態様において、
(i)尿管芽先端部細胞が含まれていることが予測される生体組織、組織片、培養細胞または培養組織を、VLDL-R結合物質に接触させる工程、および
(ii)該結合物質を検出する工程を含む、尿管芽先端部細胞をモニタリングする方法を提供する。本態様で用いられるVLDL-R結合物質の例は、上述したとおりである。好ましい実施形態では、VLDL-R結合物質は上述のように標識されている。より好ましい実施形態では、VLDL-R結合物質は標識されたVLDLである。
【0090】
尿管芽先端部細胞が含まれていることが予測される生体組織、組織片、培養細胞または培養組織は、哺乳動物由来であり得る。哺乳動物としては、ヒト及び非ヒト動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、オランウータン、チンパンジー、イヌ、ネコ、トリなどが例示される。尿管芽先端部細胞が含まれていることが予測される生体組織、組織片、培養細胞または培養組織は、例えばマウス由来またはヒト由来であり得る。
【0091】
(i)の工程において、VLDL-R結合物質は、典型的には尿管芽先端部細胞が含まれていることが予測される生体組織、組織片、培養細胞または培養組織の培養培地に添加される。
【0092】
(ii)の工程において、該結合物質を検出する手段は、該結合物質の種類に応じて公知の方法を適宜使用すればよい。例えば、該結合物質を上述のように標識し、その標識を指標として用いてもよい。あるいは、該結合物質を認識する標識抗体等を添加し、その標識を指標として用いてもよい。該標識を指標として該結合物質を検出する手段は、標識の種類に応じて公知の方法を適宜使用すればよい。例えば、該標識が蛍光標識である場合、蛍光顕微鏡などを用いて該標識由来の蛍光を検出することができる。
【0093】
尿管芽先端部細胞を単離またはモニタリングするための組成物
本願のある態様において、VLDL-R結合物質を含む、尿管芽先端部細胞を単離またはモニタリングするための組成物を提供する。本態様で用いられるVLDL-R結合物質の例は、上述したとおりである。
【0094】
本願の組成物は、VLDL-R結合物質に必要に応じて蒸留水、pH調整剤、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、保存剤などを添加することにより、液状製剤として製造することができる。pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどが例示される。懸濁化剤としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが例示される。溶解補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが例示される。安定化剤としては、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、エーテルなどが例示される。等張剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが例示される。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾールなどが例示される。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
本実施例で確立した方法をまとめた模式図を
図1に示す。
【0096】
[材料と方法]
細胞培養
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を用いた実験は、京都大学医学部および医学研究科の倫理委員会によって承認された。3種のhiPSC株585A1、1231A3および1383D2を、Stem Fit AK02N培地(Ajinomoto)を用いたフィーダーフリー培養によって0.25μL/cm2 iMatrix-511 silk(Nippi)をコートした細胞培養プレート上で維持した。細胞を0.5mM EDTA/PBS(Thermo Fisher Scientific)を用いて4日毎に継代した。細胞をマイコプラズマ汚染について定期的に検査した。
【0097】
分化誘導
細胞をいくつかの改変を伴って以前に記述されるように尿管芽(UB)系統に誘導した(Mae, SI. & Ryosaka, M. et al. Biochem Biophys Res Commun. 495, 954-61 (2018))。本実施例で使用した増殖因子および小分子の詳細を表1に示す。
【表1】
【0098】
前方中間中胚葉誘導
hiPSCを、4ウェル培養プレート(Thermo Fisher Scientific)において10μM Y-27632(WAKO)および0.25μL/cm2 iMatrix-511 silkを含むStem Fit AK02N培地に5×104細胞/ウェルの密度で播種した。24時間後に細胞をPBSで洗浄し、100ng/mlアクチビンA(R&D Systems)および3μM CHIR99021(Stem RD)を含むEssential 6培地(Thermo Fisher Scientific)で処理した。24時間後に細胞をPBSで洗浄し、0.1μM LDN193189(Axon Medchem)、1μM A83-01(WAKO)、0.1μM 4-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)-1-プロペニル]-安息香酸(TTNPB; Santa Cruz Biotechnology)および200ng/ml線維芽細胞増殖因子(FGF)8(Peprotech)を含むEssential 6培地で2日間処理した。次に細胞を、マトリゲルまたはGeltrex(Corning)をコートした24ウェル培養プレートにおいて同じ4種の因子および10μM Y-27632を含むEssential 6培地に2×105細胞/ウェルの密度で再播種し、さらに24時間インキュベートして前方中間中胚葉(AIM)を誘導した。
【0099】
中腎管(ND)誘導
AIM細胞を、1μM CHIR99021、0.1μM LDN193189、200ng/ml FGF8、100ng/mlグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF; R&D Systems)および0.1μM TTNPBを含むEssential 6培地で2日間処理し、ND最先端細胞(NDリーダー細胞)を誘導した。二次元培養において上皮化を増強するために、AIM細胞を同じ培地および誘導因子で8日間処理した。NDリーダー細胞をAccutase(Innovative Cell Technologies)を用いて37℃で3分間処理した後、ピペット操作によって単一細胞に解離させた。この細胞を低接着96ウェルプレート(Sumitomo Bakelite)上に1×104細胞/ウェルの密度で播種し、同じ培地および因子に10μM Y-27632を加えて処理し、成熟ND凝集体を2日間誘導した。
【0100】
人工尿管芽(iUB)オルガノイド誘導
ND凝集体から不要な細胞をピペット操作によって分離した(Mae, SI. & Ryosaka, M. et al. Biochem Biophys Res Commun. 495, 954-61 (2018))。ND凝集体を2%マトリゲルを含む同じ培地および因子で6日間処理し、上皮極性および尿細管腔を有するiUBオルガノイドを構成した。発芽を増強するために、50ng/ml EGF(R&D Systems)および200ng/ml FGF1(R&D Systems)を加えた。先端部をiUBオルガノイドから機械的に分離し、2%マトリゲルを含む同じ培地および因子で6~14日培養して分枝したiUBオルガノイドを再構成した。再構成したiUBオルガノイドから分離した先端部を同じ培地および因子で処理し、iUBオルガノイドを繰り返し再構成した。
【0101】
集合管前駆体誘導
二次元培養のために、ハイドロゲルから分離した7日目の先端部細胞コロニーをAccutaseを用いて37℃で3分間処理した後、ピペット操作によって単一細胞に解離させた。この単一細胞を、1μM A83-01を含む、または含まない1μM IWR-1(Tocris)および0.5μL/cm2 iMatrix-511 silkを含むEssential 6培地で再懸濁し、96ウェルプレートに4×104細胞/ウェルの密度で播種した。三次元培養のために、14日目の再構成したiUBオルガノイドを1μM IWR-1および1μM A83-01を含むEssential 6培地で14日間処理した。
【0102】
ND凍結保存
解離させたNDリーダー細胞を、STEM-CELLBANKER GMP grade (Nippon Zenyaku Kogyo Co., Ltd.)を用いて1×106細胞/mL未満の希釈率で再懸濁した。細胞懸濁液を各凍結保存チューブに分配した。チューブを-80℃で24時間凍結させ、長期間の凍結保存のために液体窒素細胞貯蔵タンクに移動させた。培養を開始するため、細胞を水浴を用いて37℃で解凍した。次に、細胞を10μM Y-27632を含むEssential 6培地でゆっくりと再懸濁し、室温において200gで5分間遠心した。上清を除去した後、細胞を10μM Y-27632およびND誘導因子を含むEssential 6培地で再懸濁し、低接着96ウェルプレート上に1×104細胞/ウェルの密度で播種した。
【0103】
先端部細胞の増殖
iUBオルガノイドを37℃においてAccutaseで5分間処理し、その後ピペット操作によって単一細胞に解離させた。細胞をB27サプリメント(ビタミンA不含)(Thermo Fisher Scientific)、100ng/ml GDNF、200ng/ml FGF1、0.1μM TTNPB、3μM CHIR99021および10μM Thiazovivin(Santa Cruz Biotechnology)を含むDMEM/F12培地(Thermo Fisher Scientific)で再懸濁した。10個のiUBオルガノイドから得た単一細胞を150μLハイドロゲルでコートした48ウェルプレートの1つのウェル上に播種した。ハイドロゲルは50%マトリゲルを含むDMEM/F12培地で構成され、使用する前に37℃で30分間凝固させた。単一細胞は6~7日後に先端部細胞コロニーを構築した。培地を2日毎に交換した。
【0104】
単一の先端部細胞からのiUBオルガノイドの再構成
ハイドロゲルをCell Recovery Solution(BD Biosciences)を用いて4℃で1時間溶解し、7日目の先端部細胞コロニーを分離した。Cell Recovery Solutionでさらに洗浄した後、先端部細胞コロニーを室温において500gで5分間遠心した。0.1μM LDN193189、100ng/ml GDNF、0.1μM TTNPB、200ng/ml FGF8、1μM CHIR99021または10% Afamin/Wnt3a条件培地(MBL)、200ng/ml R-spondin 1(R&D systems)、50ng/ml EGF、200ng/ml FGF1および10%マトリゲルを含むEssential 6培地を先端部細胞コロニーを含むチューブに加えた。コロニーを破壊しないように広口のマイクロピペット(BMBio)で穏やかにピペット操作した後、懸濁液を低接着35mmディッシュ(Sumitomo Bakelite)に2mL/ディッシュで分配した。培地を2日毎に交換した。4日目に、各コロニーを低接着96ウェルプレートの1つのウェル上の同じ培地中に配置した。さらに6日後に、先端領域を再構成したiUBオルガノイドから分離し、同じ培地で35日間処理した。
【0105】
先端部細胞コロニーの維持培養
iUBオルガノイドを37℃においてAccutaseで5分間処理し、その後ピペット操作によって単一細胞に解離させた。細胞をB27サプリメント(ビタミンA不含)、100ng/ml GDNF、200ng/ml FGF1、0.1μM TTNPB、3μM CHIR99021、10μM Thiazovivinおよび1μM A83-01を含むDMEM/F12培地で懸濁した。細胞を150μLハイドロゲルでコートした48ウェルプレートの1つのウェル上に播種した。ハイドロゲルは50%マトリゲルを含むDMEM/F12培地で構成され、使用する前に37℃で1時間凝固させた。単一細胞を37℃、5%CO2で7日間培養することで、先端部細胞コロニーを作製した。培地を2~3日毎に交換した。作製した先端部細胞コロニーを7日毎に同じ培地で継代培養した。作製または3回継代培養した先端部細胞コロニーから、上記と同様の方法を用いてiUBオルガノイドを再構成した。
【0106】
DiI標識VLDL(DiI-VLDL)を用いた先端部細胞のモニタリング
iUBオルガノイド、先端部細胞コロニーおよびND凝集体を10μg/mlのDiI標識VLDL(Biomedical Technologies, Inc.)で37℃において2時間処理した。
【0107】
フローサイトメトリー分析
DiI-VLDLで処理したiUBオルガノイドおよび先端部細胞コロニーをAccutaseで37℃において3分間処理した後、ピペット操作によって単一細胞に解離させた。DMEM/10% FBSで洗浄した後、細胞をPBS/2% FBSで再懸濁した。単一細胞をFACS Aria II(BD)を用いて分析およびソーティングした。DiI-VLDLで処理していないiUBオルガノイドおよび先端部細胞コロニー由来の細胞をゲーティングのための陰性対照として用いた。
【0108】
RNAシーケンシング解析
6日目のiUBオルガノイドをDiI-VLDLで2時間処理した。フローサイトメトリー分析を行い、DiI-VLDL+細胞およびDiI-VLDL-細胞をソーティングした。ソーティングしたDiI-VLDL+細胞およびDiI-VLDL-細胞の全RNAをNucleoSpin RNA XS(Takara)を用いて単離した。試料を-80℃で保存し、DNAFORM Co., LtdによりRNAシーケンシング解析を行った。
【0109】
免疫染色
免疫染色分析をいくつかの改変を伴って以前に記述されるように行った(Mae, SI. & Ryosaka, M. et al. Biochem Biophys Res Commun. 495, 954-61 (2018))。二次元培養物について、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)/PBSを用いて4℃で20分間固定した。PBSで2回洗浄した後、細胞を1%正常ロバ血清(MERCK)および3%ウシ血清アルブミン(BSA; Nacalai Tesque)/PBST(PBS/0.25% Triton X-100、Nacalai Tesque)を用いて室温で1時間ブロックした。一次抗体をブロッキング溶液で1:500に希釈し、試料と共に4℃で一晩インキュベートした。PBSTで2回洗浄した後、ブロッキング溶液で1:500に希釈した二次抗体を室温で1時間インキュベートした。
【0110】
凍結切片の免疫染色分析のために、試料を4% PFA/PBSを用いて4℃で1時間固定した。固定した試料を30%ショ糖/PBSで処理し、OCT化合物(Tissue-Tek)で凍結し、凍結切片法によって凍結切片を作製した。凍結切片を蒸留水で洗浄し、ブロッキング溶液と共に室温で1時間インキュベートした。一次抗体をブロッキング溶液で1:500に希釈し、試料と共に室温で一晩インキュベートした。蒸留水で2回洗浄した後、細胞をブロッキング溶液で1:500に希釈した二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。
【0111】
三次元画像解析のために、Clear, Unobstructed Brain/Body Imaging Cocktails and Computational analysis(CUBIC)を適用した(Susaki EA. et al. Nat protoc. 10, 1709-27 (2015);Nojima S. et al. Sci Rep. 24, 9269 (2017))。4% PFA/PBSを用いて4℃で24時間固定化した後、試料を組織透明化のために30rpmに設定したシーソーシェーカー上において蒸留水で1:2に希釈したCUBIC1溶液を用いて室温で8時間処理した。次いで、試料を30rpmに設定したシーソーシェーカー上においてCUBIC1溶液を用いて室温で24時間処理した。PBSで洗浄した後、試料を30rpmに設定したシーソーシェーカー上においてブロッキング溶液と共に4℃で2時間インキュベートした。一次抗体をブロッキング溶液で希釈し、30rpmに設定したシーソーシェーカー上において試料と共に4℃で24時間インキュベートした。ブロッキング溶液で洗浄した後、細胞を30rpmに設定したシーソーシェーカー上において二次抗体と共に4℃で24時間インキュベートした。PBSで2回洗浄した後、試料を30rpmに設定したシーソーシェーカー上においてPBSで1:2に希釈したCUBIC2溶液を用いて室温で8時間処理した。次いで、試料を30rpmに設定したシーソーシェーカー上においてCUBIC2溶液を用いて室温で24時間処理した。その後、Zeiss LSM710 (Zeiss)を用いて分析した。 本実施例で使用した一次抗体の詳細を表2に示す。
【表2】
また、本実施例で使用した二次抗体(Thermo Fisher Scientific)の詳細を表3に示す。本実施例では、表3に記載の二次抗体を適宜組み合わせて使用した。
【表3】
CUBIC1溶液は、尿素(終濃度10%、Nacalai Tesque)、Quadrol(終濃度25%、Tokyo Chemical Industry)、Triton X-100(終濃度5%)、5M NaClおよび蒸留水の混合物である。CUBIC2溶液は、尿素(終濃度25%)、ショ糖(終濃度50%、Nacalai Tesque)、トリエタノールアミン(終濃度10%、Wako)および蒸留水の混合物である。核染色剤として、Hoechst33342 (Thermo Fisher Scientific, Catalog Number: H1399) を使用した。
【0112】
統計解析
フローサイトメトリーおよび細胞数分析のデータを平均値±SEとして表す。二群間の差についての統計解析をスチューデントのt検定を用いて行った。p<0.05である場合に差を有意であるとみなした。
【0113】
[結果]
本発明者らはまず、レチノイン酸(RA)シグナルが中腎管(ND)発生に重要な役割を果たすことから(Stewart, K. & Bouchard, M. Semin Cell Dev Biol. 36, 13-20 (2014))、ステージ4の処理にRAアゴニストであるTTNPBを追加することによって以前に報告したND誘導法を改変した(
図2、
図3)。本発明者らはまた、ステージ4で使用されるND伸長因子での処理を延長することにより、ND細胞の上皮化が誘導されることを見出した(
図4)。したがって、本発明者らはステージ4と同じ誘導因子を用いてND上皮性凝集体を作製した。ピペット操作により不要な細胞を取り除いた(
図5)。
【0114】
市販の凍結保存試薬を用いて保存した細胞はND上皮性凝集体を形成する能力を凍結保存していないND最先端細胞(NDリーダー細胞)と同程度に維持していいたため(
図6、
図7)、市販の凍結保存試薬はステージ4のNDリーダー細胞を保存するのに有用である。
【0115】
低濃度のマトリゲルを培地に添加することにより、連続した上皮組織の組織化が促進されることが報告されている(Koehler, K. R. et al. Nat Biotechnol. 35, 583-9 (2017))。そこで、低濃度(2%)のマトリゲルをND凝集体培地に添加した。その結果、UB様構造が効率的に誘導された(
図8~
図10)。免疫染色分析により、これらのUB様構造は頂端部マーカーであるEZRINおよび基底部マーカーであるLAMININを発現していたことが示された。この結果は、これらの構造がRET
+先端部およびCK8
+幹部の分化ドメインの形成に加えて頂底極性および尿細管腔を有していることを示しており、この特徴を有する構造体をiUBオルガノイドと呼称する(
図11、
図12)。
【0116】
次に、iUBオルガノイドから先端部を手動で分離し、低濃度のマトリゲルを含む同一の培地(以下ではオルガノイド培地と呼ぶ)で培養した(
図13)。分離した先端部は、元のiUBオルガノイドと同様の先端領域および幹領域ならびに上皮極性を有する分枝構造を形成した(
図13~
図16)。これはiUBオルガノイドの再構成を示唆している。さらに、再構成したiUBオルガノイドから分離した先端部は分枝形態形成を有するiUBオルガノイドを再度再構成した。この再構成法は少なくとも3回繰り返すことができ、分枝の総数は約20回であったことが見出された(
図17)。さらに、EGFおよびFGF1をオルガノイド培地に追加することにより、先端構造および幹構造ならびに上皮極性を有する発芽が促進されることが見出された(
図18~
図20)。
【0117】
次に、本発明者らは大量のiUBオルガノイドを取得することを目的とした。本発明者らは、軟性のハイドロゲル上に播種した単一のiUBオルガノイド由来細胞がRETおよびGATA3を発現するUB先端部に類似したコロニーを形成するようにうまく増殖したことを見出した(
図21~
図23)。先端部細胞コロニーの起源を明らかにするため、先端部細胞の発生をモニタリングする方法の開発を試みた。本発明者らは免疫染色分析により、超低密度リポタンパク質(VLDL)受容体が先端領域に発現していることを見出した(
図24)。これは以前の報告とも一致している(Yuri, S. et al. Stem Cell Reports. 8, 401-16 (2017);Rutledge, E. A., Benazet, J. D. & McMahon, A. P. Development. 144, 3177-88 (2017))。したがって、本発明者らは先端部細胞がVLDLを特異的に取り込む可能性があると仮定し、先端部細胞コロニー、ND上皮性凝集体およびiUBオルガノイドによるDiI標識VLDL(DiI-VLDL)の取り込みを調べた。予想されたように、DiI-VLDLは先端部細胞コロニー全体およびiUBオルガノイドの先端領域に取り込まれ、ND凝集体には取り込まれなかった(
図25)。さらに、フローサイトメトリーによって純化したDiI
+細胞とDiI
-細胞とを比較したRNAシーケンシング解析により、先端部に関連する遺伝子の発現がDiI
+細胞において上昇していること、および幹部に関連する遺伝子の発現がDiI
-細胞においてより高かったことが示された(
図26、
図27)。このDiI-VLDLを用いた先端部をモニタリングする技術により、先端部細胞の割合が本発明者らのハイドロゲル培養によって54.0±2.1%から91.8±2.8%に増加したことが示された(n=3、
図26、
図28、
図29)。次に、単離した単一のDiI
+細胞およびDiI
-細胞をハイドロゲル上で培養した。興味深いことに、7日後においてDiI-VLDLを取り込む先端部細胞コロニーはDiI
+細胞だけでなく、DiI
-細胞からも生じていた(
図30)。DiI
-細胞から生じた先端部細胞の割合は高かった(80.5±1.6%)が、DiI
+細胞から生じた先端部細胞の割合(88.9±0.5%)よりも有意に低かった(
図31)。これらの結果はUB幹部細胞がインビトロにおいて先端部細胞を再生できるという以前の発見と一致する(Yuri, S. et al. Stem Cell Reports. 8, 401-16 (2017))。
【0118】
次に、先端部細胞コロニーをオルガノイド培地で培養した。これは先端領域および幹領域ならびに上皮極性を有する分枝したiUBオルガノイドの再構成をもたらした(
図32、
図33)。さらに、伸長したiUBオルガノイドから分離した先端部は分枝形態形成を示すことが見出され、これはiUBオルガノイドを生じる発生能を持つ先端部細胞の単純化された増殖方法の確立を実証している(
図34)。しかしながら、このiUBオルガノイドの再構成法は、585A1 iPS細胞由来の先端部細胞コロニーでのみ観察された。先端部細胞コロニーからiUBオルガノイドへの頑強な再構成法を確立するため、Wntシグナル伝達経路に注目した。オルガノイド培地において、CHIR99021をWnt3a条件培地およびR-spondin 1に置換した。その結果、iUBオルガノイドが任意のiPS細胞株由来の先端部細胞コロニーから再構成できることが見出された(
図35)。
【0119】
次に、Wnt/βカテニンシグナルはUB先端領域において幹細胞を維持するため(Rutledge, E. A., Benazet, J. D. & McMahon, A. P. Development. 144, 3177-88 (2017))、ハイドロゲルから先端部細胞コロニーを回収し、WNTシグナル阻害剤であるIWR-1を用いて先端部細胞コロニーを培養し、幹部細胞に分化させた。本発明者らは、IWR-1の処理が、解離した先端部細胞コロニーの細胞を集合管の主細胞マーカーであるアクアポリン(AQP)2を発現するが、間在細胞マーカーである炭酸脱水酵素(CA)IIを発現しない細胞に分化させることを促進し、IWR-1およびTGFβシグナル阻害剤であるA83-01の組合せがこれらの細胞の誘導率を改善したことを見出した(
図36~
図38)。さらに、本発明者らは、先端部細胞コロニー由来の再構成したiUBオルガノイドを同一の因子を含む同一の処理によってAQP2
+集合管前駆体オルガノイドに誘導することに成功した(
図39、
図40)。これらの集合管前駆体は、主細胞マーカーのみを発現する妊娠約7週(GW)の胚の集合管に類似している可能性がある(Wang, P. et al. Cell Rep. 24, 3554-67 e3 (2018))。
【0120】
iUBオルガノイドをAccutase処理によって単一細胞に解離させた。単一細胞をハイドロゲル上においてA83-01をさらに含む培地で培養した結果、GATA3
+、RET
+、SOX9
+尿管芽先端部細胞コロニーが作製された(
図42および43)。作製した尿管芽先端部細胞コロニーをオルガノイド培地で培養した結果、iUBオルガノイドが作製された(
図44)。このiUBオルガノイドは、GATA3
+、RET
+先端領域とGATA3
+幹部領域を有していた(
図45)。また、作製した尿管芽先端部細胞コロニーを同じ培地で3回継代培養した(
図46および47)。3回継代培養した後の尿管芽先端部細胞コロニーをオルガノイド培地で培養した結果、iUBオルガノイドが作製された(
図48)。このiUBオルガノイドは、GATA3
+、RET
+先端領域とGATA3
+幹部領域を有していた(
図49)。