(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ポンデロモーティブ位相板を制御するための偏光状態の使用
(51)【国際特許分類】
H01J 37/295 20060101AFI20250115BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20250115BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H01J37/295
H01J37/26
H01J37/244
(21)【出願番号】P 2022517277
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 US2020050078
(87)【国際公開番号】W WO2021055217
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-09-06
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】アクセルロッド ジェレミー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ターンボー カーター
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル サラ
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ オシップ
(72)【発明者】
【氏名】グレイザー ロバート エム
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー ホルガー
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0286631(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0220791(US,A1)
【文献】特開2019-067555(JP,A)
【文献】特表2007-533081(JP,A)
【文献】O. SCHWARTZ et al.,Near-concentric Fabry-Perot cavity for continuous-wave laser control of electron waves,Optics Express,2017年,Vol. 25,No. 13,14453
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後焦点面を有する透過電子顕微鏡(TEM)と、
光キャビティを形成する複数のミラーであって、該光キャビティの焦点が、前記TEMの前記後焦点面に位置決めされ、該光キャビティが、該TEMによって提供される電子ビームが該光キャビティの該焦点を通過することを可能にするように位置決めされ、該光キャビティが、レーザビームを受け入れるように作動可能である、前記複数のミラーと、
前記光キャビティに結合され、且つ該光キャビティに入射する指定の波長及び可変偏光角のレーザビームを提供するように作動可能なレーザ光の該可変偏光角を有するレーザであって、該レーザビームが、前記複数のミラーから反射されて前記TEMの前記後焦点面にフォーカスされた定常波光位相板を提供し、それにより前記電子ビームの変調を引き起こす、前記レーザと、
前記可変偏光角に応じた像を形成すべく、前記定常波光位相板によって変調された前記電子ビームを受け入れるように位置決めされた前記TEMの像平面と、
を含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
半波長板と、
前記レーザ光の前記可変偏光角を提供するように、前記半波長板を保持し且つ回転させるように配置された回転器と、
を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記レーザを前記光キャビティに結合し、且つ、前記レーザ光の前記可変偏光角を提供するように曲げ可能又は回転可能な光ファイバ部材、
を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記像平面に位置決めされ、且つ、ロンチグラムを解析して前記レーザ光の前記可変偏光角の自動制御のためのフィードバックを提供するように作動可能な電子カメラ又は1以上のセンサ、
を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記レーザ光の前記
可変偏光角は、前記像平面に形成されたロンチグラム内に定常波を有する少なくとも第1の位相板プロファイルと、該ロンチグラムに定常波のない第2の位相板プロファイルとの間で可変であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記レーザ光の前記
可変偏光角は、2以上の事前設定値を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記レーザ光の前記
可変偏光角は、手動調節又は自動調節のうちの1以上を有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
後焦点面を有する透過電子顕微鏡(TEM)内に電子ビームを発生させる段階と、
前記後焦点面に位置決めされて第1のミラーと第2のミラーによって定められた光キャビティの中心を通る軸線に沿って前記電子ビームを受け入れる段階と、
レーザ光の可変偏光角を有するレーザビームを前記光キャビティに受け入れる段階であって、該レーザビームが、前記第1のミラー及び前記第2のミラーから反射されて前記TEMの前記後焦点面にフォーカスされた定常波光位相板を発生させ、それにより前記電子ビームの変調を引き起こす、前記受け入れる段階と、
像を形成するように前記定常波光位相板によって変調された前記電子ビームを受け入れるように位置決めされた前記TEMの像平面に、該電子ビームを結像する段階と、
前記レーザ光の前記
可変偏光角を変化させる段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記レーザ光の前記可変偏光角を提供するように半波長板を回転させる段階、
を更に含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザ光の前記可変偏光角を提供するように、レーザを前記光キャビティに結合する光ファイバ部材を回転させる又は曲げる段階、
を更に含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記像平面に形成されたロンチグラムをセンサ又は電子カメラの出力に基づいて解析する段階と、
前記レーザ光の前記可変偏光角を前記解析する段階に基づいて制御する段階と、
を更に含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザ光の前記
可変偏光角を前記変化させる段階は、前記像のコントラスト増強を変化させるためのものであり、
前記レーザ光の前記
可変偏光角を変化させる段階は、
前記像平面に形成されたロンチグラムに定常波を有する第1の位相板プロファイルと、該ロンチグラムに定常波のない第2の位相板プロファイルとの間で変化させる段階、
を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザ光の前記
可変偏光角を前記変化させる段階は、
2以上の事前設定値に基づいて前記レーザ光の前記
可変偏光角を決定する段階、
を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記レーザ光の前記
可変偏光角を前記変化させる段階は、
手動調節又は自動調節に基づいて前記レーザ光の前記
可変偏光角を決定する段階、
を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項15】
光キャビティの焦点に電子ビームを通過させるように位置決め可能である該光キャビティを定めるように位置決めされた第1の凹面ミラー及び第2の凹面ミラーと、
前記光キャビティに結合されたレーザ光の可変偏光角を有し、且つ、前記焦点に波腹を備える定常波を有し、それにより、該レーザ光の該可変偏光角によって制御可能な前記電子ビームの可変変調を引き起こすように作動可能なレーザと、
を含むことを特徴とするポンデロモーティブ位相板。
【請求項16】
レーザ光を前記光キャビティに結合するように位置決めされた半波長板と、
前記半波長板上に入射する時及び前記光キャビティに結合されて前記焦点に前記波腹を備える前記定常波を提供する時に、前記レーザ光が該半波長板の回転に応じた前記可変偏光角を有するように、前記半波長板を回転させるように作動可能な回転器と、
を更に含むことを特徴とする請求項15に記載のポンデロモーティブ位相板。
【請求項17】
前記レーザを前記光キャビティに結合するように配置された光ファイバカプラと、
前記光キャビティに対する前記レーザ光の前記
可変偏光角を変化させるべく、前記光ファイバカプラの一端を該光ファイバカプラの反対端に対して回転させるように作動可能な回転器と、
を更に含むことを特徴とする請求項15に記載のポンデロモーティブ位相板。
【請求項18】
前記レーザに結合され、且つ、前記光キャビティに対する前記レーザ光の前記
可変偏光角を変化させるべく、前記レーザを回転させるように作動可能な回転器、
を更に含むことを特徴とする請求項15に記載のポンデロモーティブ位相板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願への相互参照〕
この出願は、これにより本明細書にその内容全体が引用によって組み込まれる2019年9月16日出願の米国特許出願第62/901,160号の「35 U.S.C.§119(e)」の下での利益を主張するものである。この出願はまた、引用によって本明細書にその全てが全体的に組み込まれている2017年3月30日出願の米国仮特許出願第62/479,044号からの優先権の利益を主張する2018年3月28日に出願されて2019年8月27日に米国特許第10,395,888号として付与された「透過電子顕微鏡のための光キャビティベースのポンデロモーティブ位相板(OPTICAL-CAVITY BASED PONDEROMOTIVE PHASE PLATE FOR TRANSMISSION ELECTRON MICROSCOPY)」という名称の米国特許出願第15/939,028号明細書に関連している。
【0002】
〔政府支援の陳述〕
本発明は、米国エネルギ省によって与えられた契約番号DE-AC02-05CH11231の下での及び米国国立衛生研究所の国立一般医科学研究所によって与えられた授与番号R01GM126011の下での政府支援によって行われた。政府は、本発明にある一定の権利を有する。
【0003】
本発明の開示は、一般的に透過電子顕微鏡検査(TEM)に関し、より具体的にはTEMのための光キャビティ位相板に関する。
【背景技術】
【0004】
最新の透過電子顕微鏡は、光学顕微鏡よりも約1000倍高い解像度を達成する強力な撮像ツールになっているが、薄い生体試料に対するそれらの撮像性能は比較的低いままに留まっている。そのような試料は、弱散乱「位相物体」であり、すなわち、それらは、実質的に入射電子の吸収を示さない。その結果、透過電子ビームの強度は、入射ビームのものに等しいままに留まり、そのような物体の完全像は、コントラストを示さない。歴史的に、電子顕微鏡は、従って、重金属「染色」がコントラストを提供するサンプルの特殊調製を必要としてきた。これらの手順は、困難で時間を消費し、更に、それらは、構造を変更し、すなわち、有意な情報を取得することができる解像度を制限することが知られている。
【0005】
無染色位相物体に対してさえも、物体(試料)構造は、透過電子を表す物質波の位相上に転写される。光学顕微鏡に関してゼルニケが見出したように、不可視位相変調は、可視振幅コントラストに変換することができる。試料を通る光は、非回折成分と回折成分に分解される。非回折光は、対物レンズによってこの平面の中心で高輝度スポットにフォーカスされる。回折光は、この中心の周りに配置される。物体の微細構造による回折は、より大きい回折角をもたらす。従って、像の微細詳細(すなわち、小さい寸法を有する)に対応する回折次数は、中心から遠く離れた場所に位置し、それに対して大規模構造は、中心の近くに回折光を引き起こす。数学的には、この後焦点面内の強度分布は、試料の透過率の空間フーリエ変換によって与えられ、これは、フーリエ変換平面と呼ばれる。
【0006】
試料が純粋な位相物体である場合に、これらの成分の間に空間位相関係が存在する。これらの位相関係をオフセットすることにより、位相変調は、振幅変調に変換される。最大変換及び従って最大位相コントラストは、90度又はπ/2の位相シフトを用いて取得される。光学系では、これは、中央で小さい区域を通過する光が余分な位相シフトを受けるように被覆された本質的にガラスの板である位相板によって行われる。
【0007】
残念ながら、電子ビームに対する簡単な位相板は存在せず、無染色生体試料を観察することを困難にしている。部分的なソリューションは、低温電子顕微鏡検査法によって与えられる。これらは、染色と構造的アーチファクトの関連の発生とを回避し、意図的な球面収差と組み合わせて意図的にデフォーカス条件で試料を観察することによってある一定量の位相コントラストを発生させる。デフォーカスに起因する位相歪みと球面収差に起因するそれとの間の妥協点を最適化することにより、振幅コントラストへの位相の望ましい変換を達成することができる。しかし、位相シフトは、空間周波数のスペクトルにわたって連続的に変化する。その結果、この「簡単」な方法は、像内の小さい特徴部に対して良好に機能するが、より大きい特徴部に対するコントラストが失われる。生体高分子を見るために大きい特徴部に対しても実質的なコントラストを有することが必要であるので、多くの場合に遙かに大量のデフォーカスを使用することが必要である。残念ながら、これは、解像度の低減をもたらす。同じく、コントラスト伝達関数は、より高い空間周波数の領域で複数回振動する。デフォーカスは、すなわち、生体高分子の像内で位相コントラストを生成するには不完全な方法である。
【0008】
1つの従来技術は、透過電子顕微鏡検査で位相板として薄い炭素膜を利用する。この薄膜の厚みは、散乱電子にπ/2位相シフトを受けさせ、一方で軸線方向電子は、1μm直径中心孔を通過する。この技術の主な欠点は、これらの位相板が数日又は数週間の時間スケールで「劣化する」ことである。同じくそれらを再現可能に作製するのは非常に困難である。これに加えて、有用な信号の僅かな部分は、散乱電子が薄い炭素膜を通過する時に失われる。
【0009】
より最近では、微細製作技術は、電子顕微鏡位相板の構成を可能にしている。フォーカス非回折ビームは、デバイス内の特定の電極形状に依存して数十から数百ミリボルトだけバイアスされた電極内の小孔に通され、それによって望ましい位相シフトがもたらされる。電極の静電遮蔽は、散乱電子との相互作用を防止し、そのためにそれらは、追加の位相を受けない。
【0010】
位相板の別の実施形態は、非回折電子ビームの直近で電子回折パターンにわたって置かれた長くて非常に薄い棒磁石を使用する。位相シフトは、長い棒磁石のいずれかの側の磁気ベクトルポテンシャルの差に起因するアハラノフ・ボーム効果によって発生される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第10,395,888号明細書
【文献】米国特許出願第15/939,028号明細書
【文献】米国特許出願第13/487,831号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
全てのそのような努力は、現在、物理的デバイスが帯電状態になるのにかかる短い時間によって制限されており、これは、恐らくはデバイスが強力な電子ビームによって衝突される時の面上の汚染の蓄積に起因するものである。これは、望ましくない電界を引き起こし、これは、様々な散乱角での電子ビーム内の無制御位相シフトに至る。これは、像を実質的に再現不能且つ解釈不能にする。同じく、電極は、中心に最も近い回折ビームを遮断し、すなわち、像内の大きい構造に対するコントラストを低減する。薄膜位相板によって類似の問題に直面する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一実施形態では、透過電子顕微鏡検査のためのシステムは、透過電子顕微鏡(TEM)を有する。TEMは、後焦点面を有する。ミラーは、光キャビティを形成する。光キャビティの焦点は、TEMの後焦点面に位置決めされる。光キャビティは、TEMによって提供される電子ビームが光キャビティの焦点を通過することを可能にするように位置決めされる。光キャビティは、レーザビームを受け入れるように作動可能である。レーザ光の可変偏光角を有するレーザが、光キャビティに結合される。レーザは、光キャビティに入るための指定の波長及び可変偏光角のレーザビームを提供するように作動可能である。レーザビームは、ミラーから反射され、且つTEMの後焦点面にフォーカスされた定常波光位相板を提供する。定常波光位相板は、電子ビームの変調を引き起こす。TEMの像平面は、定常波光位相板によって変調された電子ビームを受け入れるように位置決めされる。像平面は、レーザ光の可変偏光角に従って可変像コントラスト増強を有する像を形成する。
【0014】
一実施形態では、透過電子顕微鏡は、電子ビームを発生させる。TEMは、後焦点面を有する。電子ビームは、光キャビティの中心を通る軸線に沿って受け入れられる。光キャビティは、後焦点面に位置決めされる。光キャビティは、第1のミラーと第2のミラーによって定められる。レーザ光の可変偏光角を有するレーザビームは、光キャビティに受け入れられる。レーザビームは、第1のミラーから第2のミラー内に反射され、TEMの後焦点面にフォーカスされた定常波光位相板を発生させる。定常波光位相板は、電子ビームの変調を引き起こす。TEMは、像平面に電子ビームを撮像する。像平面は、定常波光位相板によって変調された電子ビームを受け入れるように位置決めされる。レーザ光の偏光角を変化させることは、像のコントラスト増強を変化させる。
【0015】
一実施形態では、ポンデロモーティブ位相板は、第1の凹面ミラー、第2の凹面ミラー、及びレーザを有する。第1の凹面ミラー及び第2の凹面ミラーは、光キャビティを定めるように位置決めされる。光キャビティは、電子ビームに光キャビティの焦点を通過させるように位置決め可能である。レーザは、レーザ光の可変偏光角を有する。レーザ及びレーザ光は、光キャビティに結合される。レーザは、電子ビームの可変変調を引き起こすために光キャビティの焦点に波腹を有するレーザ光の定常波を有するように作動可能である。電子ビームの可変変調は、レーザ光の可変偏光角によって制御可能である。
【0016】
実施形態の他の態様及び利点は、説明する実施形態の原理を例示的に示す添付図面と共に以下の詳細説明から明らかになるであろう。
【0017】
説明する実施形態及びその利点は、添付図面と共に以下の説明を参照することによって最も良く理解することができる。これらの図面は、説明する実施形態の精神及び範囲から逸脱することなく当業者によって説明する実施形態に加えることができる形態及び細部のいずれの変更も決して制限しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】狭窄ウエスト光キャビティモードがTEM対物レンズの後焦点面にフォーカスされ、遅延を散乱波にではなく透過波に適用する位相コントラストTEMの実施形態の概略形状を描く図である。
【
図2】入力レーザ電力へのキャビティ内循環電力の実験測定上の依存性を描き、灰色網掛けが測定不確定性を表す図である。
【
図3】近同心ファブリー-ペローキャビティの基本モードの強度分布を描き、水平方向に延伸した挿入図が定常波の干渉縞を示す図である。
【
図4】方位角にわたって平均したキャビティベースのレーザ位相板を有するTEMのコントラスト伝達関数(CTF)を描く図である。
【
図5】電子顕微鏡円柱の内側のキャビティ及び結合光学系と給送レーザシステムとキャビティ特徴付けツールとを含むレーザシステムの実施形態の概略図である。
【
図6】一実施形態ではハウジングとキャビティミラーと結合非球面レンズとを含む光キャビティの断面図である。
【
図7】キャビティミラーの精密位置合わせに使用される圧電アクチュエータに図示のワイヤが接続する一実施形態でのキャビティマウントを描く図である。
【
図8】一実施形態での重複焦点容積を有する3つのキャビティから構成されるレーザ位相板の斜視図である。
【
図9A】干渉ピークの六角形格子を特徴とする3キャビティ配置によって生成された干渉パターンを描く図である。
【
図9B】f=2.5mmに関して単一キャビティ(黒色)(下側曲線)と比較した3キャビティ位相板の回転平均コントラスト伝達関数(上側曲線)を描く図である。
【
図10】本発明の開示の実施形態による光キャビティ位相板を含む透過電子顕微鏡の一実施形態を示す図である。
【
図11】本発明の開示の実施形態による共振光キャビティ位相板の強度パターンを示す図である。
【
図12】本発明の開示の実施形態による電子ビームの位相を変調するための光位相板を発生させるためのシステムを示す図である。
【
図13】電子ビーム像内の位相コントラストを増強する方法の流れ図である。
【
図14】光キャビティに結合されて可変偏光角を有するレーザ光を特徴とする位相コントラストTEMの更に別の実施形態の概略的な形状を描く図である。
【
図15A】位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態でのレーザ光の偏光角を変化させるための回転器を有する半波長板1502を描く図である。
【
図15B】位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態でのレーザ光の偏光角を変化させるための回転器を有する光ファイバカプラを描く図である。
【
図15C】位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態での偏光レーザ光とその偏光角を変化させるための回転器とを有するレーザを描く図である。
【
図16】位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態での
図14の位相コントラストTEM又はその変形の像平面でのセンサとレーザ光の偏光角を制御するのに使用するためのロンチグラムを解析するコントローラとを示すアクションを有する概略を描く図である。
【
図17】ポンデロモーティブ位相板を有するTEMの様々な実施形態によって実行することができる透過電子顕微鏡検査のための方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、光キャビティを有するレーザ位相板及びそれを用いた位相コントラスト透過電子顕微鏡検査を説明する。
図1~
図13は、透過電子顕微鏡検査のための光キャビティベースのポンデロモーティブ位相板に関するものである。
図14~
図16は、ポンデロモーティブ位相板を制御するための偏光状態の使用に関するものである。これらの特定の実施形態の例を添付図面に例示する。これらの特定の実施形態に関して特定の変形を説明するが、この説明は、説明するこれらの実施形態に限定するように意図したものではない。限定ではなく、特許請求の範囲によって定められる精神及び範囲の中に含めることができる代替物、修正物、及び均等物を網羅するように意図している。
【0020】
以下の説明では、本発明の開示の実施形態の完全な理解を提供するために多くの具体的な詳細を示す。これらの具体的な詳細の一部又は全てを使用することなく特定の例示的実施形態を実施することができる。他の事例では、本発明の開示を不要に不明瞭にしないように公知の処理作動に対して詳細には説明しない。
【0021】
本発明の開示の実施形態の様々な技術及び機構は、明瞭化の目的で時として単数形態で以下に説明する。しかし、一部の実施形態は、他に特筆しない限り技術の複数回の反復又は機構の複数の実施形態を含むことに注意されたい。
【0022】
用語「約」又は「近似的」などは、同義語であり、且つそれによって修飾される値がそれに関連付けられた±20%,±15%、±10%、±5%、又は±1%とすることができる理解された範囲を有することを示すのに使用される。値がターゲット値に近いことを示すために用語「実質的に」が用いられ、近いということは、例えば、当該値が、ターゲット値の80%以内、ターゲット値の90%以内、ターゲット値の95%以内、又はターゲット値の99%以内であることを意味することができる。
【0023】
本明細書では、透過電子顕微鏡(TEM)のような電子ベースの撮像システム又は電子ベースの分光測定システムで電子ビームに対する位相マスクとしての使用に適する屈折力増幅キャビティを説明する。構成に依存してそのような位相マスクは、以下を含む電子ビームのコヒーレント操作のためのいくつかの電子光学要素として機能することができる:
・ゼルニケ型位相コントラスト電子顕微鏡検査のための位相板、
・電子ビームを制御可能な分割比で2つにコヒーレントに分割するためのブラッグビームスプリッタ、
・入力ビームをいくつかの回折次数に分割する電子ビームに対する透過回折格子、
・従来の光学顕微鏡に使用される電気光学変調器に類似する時間位相変調器、
・エネルギフィルタとの併用で暗視野電子顕微鏡検査のためのビーム絞りとして使用することができる局所時間位相変調器、
・従来の光学顕微鏡に使用される音響光学変調器(偏向器)に類似する時空位相変調器。
【0024】
電力増幅光キャビティの一実施形態の設計は、少なくとも1つが高湾曲前面によって特徴付けられる複数のキャビティミラー(例えば、球面誘電体ミラー)を含む。これらのミラーの前(凹)面は、その上に配置された反射コーティングを有する。これらのミラーの後(凸)面は、その上に配置された反射防止コーティングを有することができる。キャビティ内レーザ場構成は、電子に対する有効ポテンシャルを発生させ、この有効ポテンシャルは、時間変調することもできる空間パターン付き位相シフトをキャビティを透過する電子ビームの上に転写する。
【0025】
材料の構造に基づく従来要素に優る光キャビティ電子光学要素の(例えば、材料位相板に優る光キャビティ位相板の)利点は、(1)物理的物体を電子ビームの近く又はその中に誘導する全ての以前のデバイスの場合と同じく、位相シフト量が、実質的に一定であり、位相板が使用される時間の長さと共に変化しない点、(2)位相シフトを約ゼロ度から360度まで「調整」するために位相シフト量を必要に応じて調節することができる点、(3)光キャビティ要素での無視することができる電子損失(望ましくない電子散乱)を含む。
【0026】
パルスレーザシステムに基づく要素に優る光キャビティ電子光学要素の利点は、光キャビティ位相板をパルス電子銃と併用する(以前のパルスレーザ位相板の場合のように)のではなく連続電子照射と併用することができる点を含む。この特徴により、光キャビティ位相板は、標準の連続電子放出顕微鏡での使用及び非常に高い電子露出が使用される用途に特異的に適切になる。キャビティベースのシステムは、キャビティモードのレーザ場構成によって決定される精密制御可能な位相シフトパターンによっても特徴付けられる。レーザビームプロファイル内に一般的に存在する歪み及び欠陥の不在は、レーザ場の異常に起因する望ましくない電子散乱を回避するのに非常に望ましい。
【0027】
光キャビティ位相板の特徴は、以下を含むことができる:
・高強度焦点を特徴とする近同心ファブリー-ペローキャビティ構成又は別のキャビティ構成、
・曲面上の高反射性誘電体コーティング、
・キャビティを位置合わせさせるための及びキャビティモード形状を制御するための3又は4以上の圧電アクチュエータの配置、
・単一スポットではなく、特定の目的に適するコントラスト伝達関数を誘導する複数の極大値と極小値とを有する拡張パターンである必要がある位相シフトプロファイルによって特徴付けられるTEMのための位相板(例えば、いくつかの波長ウエストを有する定常波をゼルニケ位相板として使用することができ、一方、より大きいウエストは、ブラッグビームスプリッタとして機能するのに好ましい)、
・電子-光相互作用に基づくTEMのための位相板(一実施形態は、高フィネス高開口数(高NA)ミラーを有するほぼ球形のキャビティである)、
・キャビティモードへの効率的な結合のための前(凹)面と同心の後(凸)面とを有するミラー、
・結合効率の改善に向けて反射防止コーティングがその上に配置された後面を有するミラー、
・電子ビームに適用される位相パターンの時間変調及び時間制御をもたらすためのいくつかの対応(共振)周波数でのレーザ場のキャビティ内への一斉入力。
【0028】
光キャビティ位相板のためのフィードバック及び位置合わせ機構及び方法は、以下を含むことができる:
・モードの形状及びサイズを安定に保つためのフィードバック機構(例えば、透過ビーム、反射ビーム、又はこれらの両方をモニタする電荷結合デバイス(CCD)カメラ及び/又はセグメント分割検出器)、
・キャビティ長の変化と系統的変化の両方に続いてレーザ周波数がキャビティにロックされたままに保たれるか、又はこれに代えてキャビティの共振周波数がレーザ周波数にロックされたままに保たれるようにキャビティ長が変更されるフィードバックトポロジー、
・不整合の度合を決定して位置合わせのためのフィードバックを提供するためにTEM像、そのフーリエ変換、又は他の数学的な構成物をモニタすることによってキャビティを電子ビームに対して位置合わせする方法、
・キャビティモードへのフィードバックが、レーザ位相板をビームに対して位置合わせされたままに保つことを助けることができること、
・キャビティの中を透過するレーザビームを用いてマスターレーザを注入する段階(例えば、周波数ロッキング機構として)。
【0029】
光キャビティ位相板の更に別の特徴は、以下を含むことができる:
・キャビティから熱を除去するための熱パイプ、
・キャビティ構造を保護するための熱シールド、
・温度によるキャビティ長の制御、
・補助レーザ、加熱回路、又は熱電デバイスを用いた制御式予熱によってミラー曲率を制御すること、
・多キャビティ配置を用いてスポットサイズを縮小し、強度を高めること、
・光ファイバを用いてレーザをキャビティまでもたらすこと、
・光アイソレータを用いてレーザシステムを反射光から保護すること、
・電子ビームの散乱を回避するためにレーザの焦点サイズが電子の焦点サイズよりも大きいこと、
・ミラーを変形する(例えば、徐々に押し潰す)ことによってキャビティ内場の構成を制御すること。
【0030】
追加の用途/特徴は、以下を含むことができる:
・位相シフト量を調整するためのレーザ電力の変更(この特徴は、コントラストを反転させるか又は他に調節するのに使用することができる)、
・TEM内の高電子照射量に対して光キャビティ位相板を使用することができること(高電子照射量では、一般的に、ボルタ位相板を使用することができない)、
・キャビティ内レーザ電力を変調することによって位相シフトの高速変調を引き起こすことができること(これは、振動電磁場又はパルス電磁場を顕微鏡対象物に送出するのに使用することができる変調電子波動関数に至る(すなわち、ある形態の分光法))、
・焦点での側波帯の形成をエネルギフィルタと組み合わせて用いて全視野暗視野TEMに向けて透過(すなわち、非回折)電子ビームを実質的に絞ることができること、
・無損失制御可能電子ビームスプリッタ。
【0031】
様々な実施形態は、以下の特徴の一部又は全てを有する:
・キャビティの内側に小さい焦点を生成するためにミラーのうちの少なくとも1つが5cm又はそれ未満の曲率半径を有する反射面を有すること、
・キャビティを含むミラーの各々の反射率が約0.9又はそれよりも大きいこと、
・キャビティを含むミラーが反射性誘電体コーティングで被覆された反射面を有すること、
・複数のミラーが第1のミラーと第2のミラーを含むこと、
・光キャビティが中に配置され、キャビティを含むミラーのうちの1又は2以上が調節可能懸架器内に装着され、調節可能懸架器がミラーの角度及び位置の調節に向けて作動可能であるキャビティハウジング、
・調節可能懸架器が圧電アクチュエータを含むこと、
・キャビティによってレーザビームの電力が約10倍又はそれよりも大きく増幅されること。
【0032】
一部の実施形態では、ミラーの後面の形状(すなわち、非反射面)は重要ではない場合があり、ミラーの前面と同心の凸面である必要はない場合がある。例えば、ミラーのうちの一方又は両方の後面を平坦にすることができると考えられる。一部の実施形態では、位相板に適するキャビティを定める1つの特徴は、(一般的な光キャビティとは反対に)キャビティがビームを小さい焦点にフォーカスすることができ、同時にレーザ電力を大きい倍数で増幅し、取得される高電力に耐えることができることである。これは、公知の光キャビティには見られない。これらの実施形態に関して光キャビティに存在する特徴は、(1)ミラーのうちの少なくとも1つの短い曲率半径と、(2)全てのミラーの高い反射率/低い吸収率になる低いラウンドトリップ損失とを含む。
【0033】
低温電子顕微鏡検査(低温EM)での光キャビティ位相板の利点は、位相コントラスト量をデータ収集の開始時での指定値の100%とすることができる点である。更に、位相コントラスト量は、低温EMセッション毎に24時間又はそれよりも長くに及ぶ場合があるデータ収集期間を通して指定値に留まることができる。これは、いくつかのデータが他のデータよりもかなり悪いのとは対照的に、収集データの全ての部分が等しい品質のものであると考えられることを意味する。光キャビティ位相板の更に別の利点は、より高い多様性及び信頼性を含む。更に、90度ではなく270度の位相シフトがより良い性能をもたらすことになることが理論的に予想される。
【0034】
一実施形態による光キャビティ位相板の作動に関する更に別の詳細は、2012年6月4日出願の米国特許出願第13/487,831号明細書に説明されており、この文献は、引用によって本明細書に組み込まれている。
【0035】
最近になって、無染色瞬間冷凍生体試料(低温EM)の透過電子顕微鏡検査(TEM)は、分子生物学での構造情報の主なソースとなっている。アクセス可能な粒子の分子質量に対する下限が100~200kDaまで低減され、一部の場合は100kDaを下回った。理論的な考察により、約40kDaまで小さい粒子の再構成が可能なはずであることが示されている。それにも関わらず、40kDaと100~200kDaの間のサイズを有する高分子複合体の構造を決定すること、並びにより大きいがより柔軟な複合体に対処することは、低温EM技術の更に別の改善を必要とする。
【0036】
より小さい粒子のTEM再構成に向けた1つの道筋は、デフォーカスを用いずに位相コントラスト撮像を可能にするゼルニケ位相板の開発である。この方向への重要なステップは、「ボルタ」位相板の開発であった。
【0037】
しかし、更に別の改善を達成するための有意な機会が残っている。ボルタ設計では、位相シフトは、電子ビームへのアモルファス炭素箔の露出によって誘導され、データ収集中に増加し続ける。位相シフトが40~120°の使用可能範囲にある間に中程度の枚数の像しか取得することができず、次いで、新しいスポットを露出させるために炭素膜を移動しなければならない。非最適位相シフトでは多くの像を取得することが強いられる。同じ位相シフト内であっても、位相シフト及びそのドリフト率がスポット毎に異なる。これらの特性は、一貫したパラメータを用いた高収量の像取得を必要とする低温EM構造研究では炭素箔位相板を使用することを困難にする。
【0038】
高エネルギ電子ビームの経路に材料構造を配置することは、余儀なく帯電及び劣化を招く。従って、時変挙動が、TEMの電子流内の材料物体に基づく位相コントラストデバイスの不可避の欠点である。追加の欠点としてボルタ位相板内に小さいが判別可能な18%の電子散乱がある。
【0039】
ここでは、強いレーザフォーカスを電子波遅延器として使用することによってこの制限を回避することを提案する。そのようなレーザベースの位相板又は「ポンデロモーティブ」位相板は、電子ビームの中に挿入されるか又はその近くに位置付けられる材料物体を必要としない。この位相板は、一定の位相シフトを無期限に印加し、予想可能で再現可能なコントラスト伝達関数を有し、実質的にいずれの電子損失も特徴として持たない場合がある。位相シフトは、レーザ電力を変更することによって望み通りに変更することができる。
【0040】
様々な実施形態での中心的な概念は、TEM対物レンズ1018の後焦点面にフォーカスされるレーザビーム(下記でより詳細に説明する
図10での実施形態を参照されたい)をゼルニケ位相板として機能するものとして用いて透過波の位相を散乱波に対して遅延させることができるということである。レーザ位相板によってもたらされる制御可能で安定な位相シフトは、低温EM学会がゼルニケ位相コントラストTEMで改善された像コントラストを最大に利用することを可能にすることになる。
【0041】
下記で電子遅延の物理的機構を説明する。ここで説明する実施形態に対する目標は、レーザを用いて電子波の位相を制御することによって位相コントラストTEMのためのより優れたゼルニケ(4分の1波長)板を構成することである。この概念は、レーザを用いて冷却原子の集団の運動と内部の両方の自由度を操作する原子物理学の分野から取り入れたものである。これらの方法は、量子力学及び一般相対性理論の基礎を検証すること、暗黒エネルギの原因になる場の探求、及び基礎定数の精密測定を目的とする多くの実験を可能にしている。
【0042】
電子波のレーザベースのコヒーレント制御の背後にある物理的原理は、以下のように古典物理学の見地から説明することができる。強い振動レーザ場を通って進行する相対論的電子は、小規模微動運動を受け、その結果、有効「ポンデロモーティブ」ポテンシャルをもたらす。このポテンシャルは、次式によって表される。
上式中のIはレーザ強度であり、e及びmは、電子の電荷及び質量であり、ε
0は真空の誘電率であり、cは光の速度であり、ωは光学周波数である。この反発ポテンシャルは、通過電子に対して負の位相シフト(遅延)を与える。
【0043】
相対論的電子と強いレーザビームとの相互作用のより厳密な説明は、位相シフトの原因を誘導コンプトン散乱とする量子電気力学(QED)の見地から与えることができる。この処理では、電子は、レーザビームから光子を吸収し、次いで、この同じビームによって誘導される誘導放出によってこの光子を再放出するか、又はこれら2つの事象を逆方向に経るかのいずれかである。単色レーザビームに対して誘導コンプトン散乱を受ける電子は、この散乱が開始した時のエネルギと同じエネルギでコヒーレンスを失うことなく射出する。それとは対照的に、自発的なコンプトン散乱は、電子にコヒーレンスを失わせるが、そのような事象を受ける電子の分率は、様々な実施形態に適正な条件下で10-7程度である。本発明者は、3又は4以上の光子が関与する高次散乱処理によって電子が非弾力的に散乱し、それによってコヒーレンスを失う可能性があることに着目した。しかし、これらの処理は、レーザ強度がI≒1013W/cm2に達し(1μmのレーザ波長に対して)、これらの実施形態が処理する強度を遥かに超えるまでは重大になるとは予想されない。
【0044】
下記では、所要レーザ強度を説明する。式(1)でのポンデロモーティブポテンシャルとレーザ強度の間の比例係数は小さく、高レーザ強度を要する。電力P及びフォーカスウエストw
0(ビーム半径は、ピーク強度の1/e
2では測定される)を有するフォーカスガウスビームを直交方向に通過する電子ビームでは、位相シフトは次式で与えられる。
上式中のαは微細構造定数であり、β=v
e/cであり、v
eは電子速度であり、γ=(1-β
2)
-1/2である。必要な屈折力を推定するために、低温EM研究で一般的に使用されるように電子エネルギU=300keVが代入される。式(2)により、レーザ波長λ=1064nm及びw
0=7μmのビームウエストでは、最大90°位相シフトをもたらすのに必要とされるレーザ電力は、P≒300kWである。
【0045】
そのような屈折力をもたらすのは、パルスレーザシステムの場合は容易であるが、パルス位相板が同期パルス電子銃1024(
図10を参照されたい)を更に必要とすると考えられる。これらの実施形態の主な目標は、連続波(CW)レーザシステムに基づく従来の低温EM機器に適合するレーザ位相板を開発することである。
【0046】
下記では、光キャビティでの共振場の強化を説明する。
【0047】
図1は、位相コントラストTEMの実施形態の概略的な形状を描いている。狭窄ウエスト光キャビティモードが、TEM対物レンズの後焦点面、例えば、回折平面104内にフォーカスされ、散乱波108にではなく透過波106に遅延が適用される。散乱波108からの電子が電子検出器112によって検出され、透過波106での遅延の結果として試料平面102内の試料の高コントラスト視界で撮像される。
【0048】
一部の実施形態では、高フィネス近同心ファブリー-ペローキャビティ(
図1での光キャビティ第110を参照されたい)での共振によってレーザ強度が高められる。この種の共振器は、ミラー114、116の面上に小さいウエストと大きいスポットサイズとを有する砂時計形の基本モードを特徴とする。小さいウエストは、電力を高強度焦点内に集中し、位相シフトを透過波106のフォーカスの周りにある狭い領域に局限する。ミラー114、116上の大きいスポットサイズは、ミラーコーティングのレーザ誘起破壊を防止し、より広い区域にわたって熱負荷を拡散させることを助ける。更に、ファブリー-ペローキャビティ内で伝播する2つの対向波が定常波を形成し、強度は波腹では4倍になる。1064nmの波長λ及びw
0=7μmのビームウエストでは、最大90°位相シフトに到達するのにP=75kWのキャビティ内循環電力204で十分である。
【0049】
上述の目標に向けた最近の研究では、λ=1064nmの波長で作動し、F=22,000のフィネスを有する近同心キャビティが明らかにされている。3つの圧電アクチュエータを有する特殊設計の撓みベースのマウントを用いて近同心キャビティの繊細な位置合わせを実施し、それによって7μmのウエスト(1/e2強度での半径)に到達することが可能になった。
【0050】
図2は、入力レーザ電力206へのキャビティ内循環電力204の実験測定依存性を描いている。灰色の網掛け206は測定不確定性を表している。P
0=2.2Wの入力電力202では、キャビティは、40GW/cm2の記録CW光強度に対応するP=7.5kWの循環電力204に達した(
図2を参照されたい)。これらのビームパラメータに対応する位相シフトは、300keVの電子ビームでは9.2°である。従って、90°位相シフトを与えるという目標に到達するのに現実的な10倍の電力増大で十分であると考えられる。
【0051】
下記では、レーザ場構成及びコントラスト伝達関数を説明する。
【0052】
図3は、近同心ファブリー-ペローキャビティの基本モードの強度分布302を描いている。水平方向に伸ばした挿入
図304は、定常波の干渉縞を例示している。理想的なゼルニケ位相板では、電子回折平面104の中心にフォーカスされる透過波にのみ90°遅延が適用され、この面の残余内には位相シフトはない。キャビティベースのレーザ位相板のこの実施形態は、ガウス定常波強度プロファイルを有し(
図3に示す)、回折平面104のストライプ形領域に調波変調位相シフトを印加する。下記では、この位相プロファイルの結果及び低温EM単粒子分析でこの位相板がなぜゼルニケ位相板としての機能を実質的にもたらすのかを議論する。
【0053】
位相コントラストは、小さい(≒5nm又はそれ未満)蛋白質複合体を撮像するほど十分に低い空間周波数にまで及んでいる。位相コントラストが有効になる「カットオン」周波数は、撮像システムのコントラスト伝達関数(CTF)によって決定される。空間周波数νとTEM対物系の後焦点面内の半径rの間の対応が次式によって与えられる。
上式中のfは、TEMの対物レンズの焦点距離であり、λ
eは電子波長である。低温EMに使用される顕微鏡に対する典型的なパラメータは、λ
e=1.97pm(U
0=300keVの電子エネルギに対応する)及びf=2.5mmである。最初のプロトタイプの開発及び初期データ収集を含む実施形態の開発の初期段階では、位相板の面では電子回折パターンを拡大するためにリレー光学系を追加したFEI Titan TEMを用いた。この追加の拡大は、レーザフォーカスの厳密性に対する要件を緩めるf=20mmの有効焦点距離をもたらす。
【0054】
図4は、電子顕微鏡に関して計算し、方位角にわたって平均したキャビティベースの位相コントラストTEMのフォーカスCTF402を例示するものである。明瞭化の目的で、このグラフは、ゼロデフォーカスでのCTFを示し、球面収差を考慮していない。非常に低い空間周波数404では、この曲線は、ゼロコントラストで始まる。CTF402は、定常波干渉縞(
図2を参照されたい)のサイズを表すr=λ/2である式(3)によって設定されたスケールである1/(240nm)程度まで低い空間周波数404で50%に達する。振動は、定常レーザ波の干渉縞によって引き起こされたものである。CTFは、レーザビームの半径によって設定されたスケールである1/(10nm)よりも大きい周波数ではほぼ最大(>80%)のコントラストに達する。従って、D≒0.5ν
-1=5nm又はそれよりも小さいサイズの粒子では、電子位相内に含まれる情報は、ほぼ最大のコントラストで透過する。100~200kDaよりも小さい分子質量を有する多くの高分子は、約5nm又はそれ未満の直径を有する。キャビティベースの位相板は、これらの高分子に対してほぼ理想的なコントラストを与える。コントラストのごく中程度の低減によって更に大きい粒子(100nm)が撮像される。
【0055】
定常波位相プロファイルに起因する像アーチファクトは、粒子像を大きく歪曲させることはない。30nmのアモルファス氷内に埋め込まれた64kDa粒子であるヘモグロビンの低温EM撮像のマルチスライス数値モデル化により、キャビティベースの位相板が小さい粒子に対して良好に機能することが確認されている。ヘモグロビン分子の構造を蛋白質データバンクからダウンロードした。20e/Å2の照射量を用いた。取得された像は、1μmのデフォーカスで生成されたデフォーカス像と比較してレーザ位相板による有意なコントラスト増強を示している。
【0056】
数値モデル化は、レーザ波長板の異方性位相シフトプロファイルに起因して起こり得るアーチファクトの評価を可能にする。キャビティベースのレーザ位相板を用いて透過した波及び像しか位相シフトさせないと考えられる理想的な位相板を用いてシミュレートしたヘモグロビンの像を含む像の研究が行われた。このシミュレーションは、ショットノイズ又は氷密度の変化からのノイズを示さないことでいずれの差も強調表示する。強調表示したとしても、僅かな垂直ストリーキングしか判別することができない。シミュレーションは、2つの像の間の差を可視レベルに達するまでこの差信号を10倍に増幅するグレースケールに示した。この差はノイズレベルを遥かに下周り、従って、粒子の識別及び分類に影響を及ぼすとは予想されない。
【0057】
定常波位相シフトパターンの別の副次効果は、それが電子波に対する回折格子として機能し、追加の弱い「ゴースト」像を発生させることである。これらのゴースト像は、nが回折次数であり、fが焦点距離であり、λeが電子波長である時に距離δx=2nfλe/λだけ1次像から変位される。最大90°のシフトであっても、そのようなゴースト像の振幅は、20e/Å2の照射ではショットノイズを十分に下回る。高密試料内では、1つの粒子のゴースト像と別の粒子の1次像の間の重ね合わせが発生すると予想することができる。しかし、ゴースト像は、個々の顕微鏡写真内で可視であるには過度に微弱であり、融合データから互いに相殺して平均化され、その結果、密度マップ再構成に使用される平均像内ではノイズへのごく僅かな寄与しかもたらされないと予想することができる。
【0058】
レーザ位相板を標準の低温EMシステムに適応させるにはより厳密なレーザフォーカスが必要である。後の段階では、典型的な焦点距離f=2.5mmを有する通常のTEMシステムとの併用に適するより狭いフォーカスを有する高度な位相板のプロトタイプを含む実施形態を開発した。この目的に対して、キャビティモードの開口数を高めてキャビティを同心の近くで作動させた。1つの手法では、この作動がキャビティフィネスを劣化させたか否かが不明であった。別の方式では、それ程リスクを伴わないが、キャビティの位置合わせ及び周波数ロッキングという追加の段階を必要とする多キャビティ構成を用いた。両方の概念を「手法」節で説明する。
【0059】
基本的に、光キャビティ内で循環する高強度CWレーザのポンデロモーティブポテンシャルに基づいて300kVで作動するTEMのためのゼルニケ位相板を開発することを提案した。~9°の位相シフトに対して十分なレーザ強度及び10倍の増大(最適な90°の位相シフトを与えると考えられる)は、最新のミラー製造技術の到達範囲にあることが明らかにされている。数値シミュレーションは、キャビティベースの位相板を低温EM単粒子再構成に向けてゼルニケ位相板として有効に使用することができることを示している。下記では、300keVの電子ビームの位相を90°だけシフトさせるほど十分なレーザ強度を有する連続波レーザ位相板モジュールを含む手法を詳述する。
【0060】
近同心キャビティに基づいてレーザ位相板を構成するには、高反射率及び低損失の特製高湾曲キャビティミラーが必要である。更に、キャビティの位置合わせを維持するために適切な給送レーザ、並びに光学機械システムが採用される。システムの実施形態は、TEM円柱内で作動するために小型、真空対応、且つ非磁気のものでもなければならない。下記では、これらの要件を満たすシステムを構成するための手法を概説する。
【0061】
下記では、レーザシステムの実施形態を説明する。
【0062】
図5は、電子顕微鏡円柱526内のキャビティ110及び結合光学系と給送レーザシステムとキャビティ特徴付けツールとを含むレーザシステムの実施形態の概略図である。システムの構成要素の頭字語に関してFA=ファイバ増幅器502であり、FC=ファイバカプラ504であり、PDH PD=パウンド・ドレバー・ホールロック光ダイオード506であり、FI=ファラデーアイソレータ508であり、CL=結合レンズ510であり、CM=キャビティミラー512であり、BS=ビームスプリッタ514であり、FPD=高速光ダイオード516であり、DA=例えば、カメラ524及び高速光ダイオード516のデジタルデータ取得部518である。一実施形態では、市販の狭線幅レーザと高度に最適化された光学コーティングとを利用することを可能にするNd:YAGレーザ波長(1064nm)を選択した。低電力(<100mW)マスターレーザ522は、IPG Photonics又はNufernによるイッテルビウムファイバ増幅器(FA)502を用いて増幅される。これは、単一モード、単一周波数、50Wまでの定偏波(PM)増幅を提供する。
【0063】
レーザビームは、1064nmで少なくとも20Wの屈折力を伝導する機能を有するNKT Photonicsからの高電力単一モードpmファイバの中に結合される。この電力は、顕微鏡に取り付けられてファラデーアイソレータ(レーザ放射線がレーザの中に反射して戻されることを防止するための)とビームステアリングミラー(ファイバ出力をキャビティモードに空間的に適応させるための)とを含む小さいアセンブリに送出される。カメラ524及び光検出器、例えば、FPD516は、キャビティ110によって透過されたモード形状を最適化目的で且つキャビティリングダウン分光法を用いてキャビティフィネスを測定するために観察する。
【0064】
最近の研究で明らかにされたように、パウンド・ドレバー・ホール方法を用いてマスターレーザ周波数が光キャビティ110の共振に安定化(「ロック」)される。この目的で、キャビティ110から反射された光の部分は、光検出器(PDH PD)506によって検出され、PDHロック回路520によってレーザ周波数を制御するのに使用される。
【0065】
下記では、キャビティミラー512を説明する。2つの同じミラー512で製造されたファブリー-ペローキャビティに関して電力増幅度Mは、キャビティミラーの透過係数T及び反射係数R、並びに次式のモード重複積分Qによって決定される。
【0066】
|Q|≦1であるので、電力増強は、キャビティミラーの品質によって制限され、反射率は、可能な限り1の近くになければならず、透過率は、可能な限り高くなければならない。上述の2つの係数は、エネルギ保存則によってR+T+L=1に拘束され、この場合に、損失率L=S+Aは、散乱率Sと吸収率Aを含む。一般的に、吸収は、ミラーコーティングを生成するのに使用される誘電体の特性である。一般的に、吸収は、Advanced Thin Films,Inc.及びResearch Electro-Optics(両方共に米国コロラド州ボルダー所在)のような業者によってイオンビームスパッタリング(IBS)によって生成された近赤外線反射コーティング内で3百万分率(ppm)よりも小さい。
【0067】
その一方、散乱は、主としてミラー基板の平滑度に依存し、従って、ミラー研磨処理の品質によって決定される。散乱は、δhが二乗平均平方根(RMS)面粗度である時に、S=(4πδh)2/λ2として近似することができる。平坦な溶融シリカ基板を研磨する方法は十分に開発されているので、0.1nmよりも小さい面粗度及び3ppm程度の散乱が常に取得される。しかし、近同心キャビティに必要な高曲率凹面ミラーの研磨は、難易度が高いままに留まっている。
【0068】
一実施形態は、10mm程度の短い曲率半径を有する基板上で約0.1~0.2nmのRMS面粗度に到達することを可能にする最近開発された研磨処理を利用する。これは、10ppmを十分に下回るSがもたらされるはずである。一実施形態では、ミラー512は、Advanced Thin Films又はFive Nines Opticsのいずれかの最先端の高反射IBSコーティングを用いて被覆される。これらの数字に基づくと、これらのミラーは、M=8,000~13,000の範囲の増幅係数をサポートする。
【0069】
上述のコーティング会社によって使用されるIBSコーティング処理が、Perkins Precisionによって生成された新しい基板上で良好に機能しない場合の1つの計画は、Layertec及びLaserOptikから利用可能な十分に小さい曲率半径を有するミラー512を購入することである。これらのミラーの反射率は、M=4,000~6,000の増幅係数に到達するのに十分であると予想される。いずれの業者も自らの提案で指定した性能目標に到達することができそうにない場合に、より大きい曲率半径を有し、10,000という電力増幅係数と共に8~10μmのモードウエストをサポートすることができるAdvanced Thin Filmsから利用可能なミラー512を購入するという第2の代替オプションが存在する。
【0070】
ミラー透過係数は、キャビティ110内への設置の直前に測定されることになる。ミラー512の反射率は、この種のキャビティに利用されるリングダウン分光技術を用いて測定されることになる。
【0071】
M=5,000のキャビティ増幅係数の場合に、最大90°の位相シフトに辿り着くのに15Wの入力電力が必要である。最大75kWの循環電力でさえも、ミラーコーティングの直接レーザ損傷は可能性が低く、Rcurv=20mmの曲率半径を有するミラー512を使用すると、ミラー面上のスポット径は、近赤外線範囲で高反射率ミラーコーティングに対するレーザ損傷閾値を十分に下回る0.5mW/cm2よりも低い最大面強度を誘導するw1=(fλ)/(πw0)=1mmであり、100mW/cm2の強度が提供される。
【0072】
ミラー512の中心部分にあるいずれの傷もラウンドトリップ損失率を増大させることになるので、ミラー面上の大きいモードサイズは、面品質に特別に注意を払うことを余儀なくする。このリスクは、10~5又はそれよりも良好なスクラッチ-ディグ面品質を指定すること、並びに最良に機能するミラーを選択するためにミラーを10個又は12個のバッチで注文することによって軽減することができる。
【0073】
下記では、キャビティ光学機構を説明する。
【0074】
図6は、一実施形態ではハウジング606と複数のキャビティミラー604と結合非球面レンズ602とを含む光キャビティの断面図である。右にある光学系は、軸線方向に傾斜又は移動することができる撓み懸架器に配置される。
【0075】
近同心共振器と小さいモードウエストとの位置合わせは、一連のモードが同じ周波数を有し、共振器が不安定になる場合に、望ましい構成が縮退点に非常に近いので、これらのミラー604の互いに対する位置及び向きに非常に影響されやすい。この構成では、ミラー604の小さい角度シフトは、モードの有意な横方向変位をもたらす。近同心光共振器では、ミラー604間の距離を調整することによってモードウエストサイズを制御することができ、この調整は、サブミクロン精度で行う必要がある。
【0076】
図7は、一実施形態でのキャビティマウントを描いている。図示のワイヤ702は、キャビティミラー604の精密位置合わせに使用される圧電アクチュエータ(ハウジング606内の)に接続する。
【0077】
様々な実施形態に対して、近同心共振器に関する以前の研究で用いたキャビティマウント(
図6及び
図7を参照されたい)を複製することが計画された。近同心キャビティをモードウエストw
0=7μmと位置合わせするのに単一アルミニウムブロックから刻み出した撓み懸架器を使用することができることが明らかにされている。マウントは、直径がφ25mmの円筒形アクセスポートを用いたTEM円柱内への設置を可能にするほど十分に小型であった。光学台実験に向けて、キャビティ110を入力及び出力の反射防止コーティングレーザ品質光ポートを有する小型真空チャンバ内に位置決めした。ミラー604のうちの1つはマウント内に据え置きとし、一方、圧電アクチュエータを粗い位置合わせのための3つの細目スクリューと組み合わせて用いて第2のミラー604の位置を制御した。マウントアセンブリ全体は、非磁性材料製(アルミニウム本体、炭化珪素の先端を有する316系ステンレス鋼スクリュー、圧電セラミック)であった。
【0078】
下記では、熱制御を説明する。真空下での作動は、キャビティ内で放散された熱を除去するのに追加の課題を発生させる。IBSコーティングミラー内への吸収は、循環電力の1~3ppmに過ぎず、従って、2つのキャビティミラー604の各々は、共振状態では最大で200mWを放散しなければならない。熱変形を回避するためにキャビティミラー内に蓄積される熱を除去するように配慮しなければならない。溶融シリカ基板の熱伝導度は、ミラーの中心での温度増大を約30Kに制限することを数値シミュレーションが示し、このミラーの製造業者との連絡により、30Kの温度増大がミラー損傷をもたらす可能性は非常に低い。
【0079】
局所温度増大は、δR≒300nm程度の局所曲率半径の増大をもたらすことにもなる。キャビティ110が作動電力まで誘導されると、キャビティ110を同心までの選択距離(モードウエストを決定する)に保つためにミラー604間の距離は2δRだけ増大されることになる。キャビティ長を変更することにより、キャビティの共振周波数は≒7GHzだけ低下することになる。一実施形態に使用されるマスターレーザ(NP Photonics Rockファイバレーザモジュール又はその均等物)は、約30GHzの周波数調整範囲を有するので、共振周波数のシフトは、周波数ロックされたマスターレーザが容易に追従することができる。
【0080】
しかし、ミラー面上で散乱した光から追加の熱負荷がもたらされ、キャビティ内で吸収される。入力電力の少なくとも半分が透過されるか又は反射されるかのいずれかであることを前提とすると、レーザモジュール内で放散される最大で10Wを除去することができることが必要である。この課題は、キャビティを真空内で約200mm長の支持構造上に懸架する必要があることによってより困難になる。アルミニウムキャビティマウント本体は温度増大を10Kに制限するほど十分な熱伝導度を与えるはずであるが、温度変化によって駆動されるキャビティ位置合わせの変化を回避するために、熱電冷却器を用いてキャビティの温度を能動的に制御することが計画された。最大で28Wを吸収する機能を有し、温度を十分に設定値の0.1K以内に維持することができるTE Technologyの熱電セット(冷却板及びコントローラ)を使用することが計画された。
【0081】
外部の熱伝導を容易にするために、支持構造に沿う溝の中を延び、4~6mmの直径を有する最大で3つの銅/水熱パイプを使用することが計画された。電子機器業界でチップの冷却に一般的に使用されるそのような熱パイプは、0.1K/Wを十分に下回る熱抵抗を有し、全体が銅又はアルミニウムのロッド懸架器と比較して有意に高い熱除去機能を循環冷却液に関連付けられた振動を導入することなく与える。同時に、銅/水熱パイプは、真空対応であると共に非磁気であり、従って、TEM環境での使用に適している。
【0082】
下記では、検査を説明する。以下の検査は、位相板プロトタイプがそのターゲット仕様を満たすことを確認するために光学台構成で実施されるように計画したものである。
【0083】
キャビティモードの開口数は、キャビティを通って透過するビームの遠視野像を記録し、それにガウスプロファイルを当て嵌めることによって測定されることになる。推量モードウエストは、w0=7μm又はそれよりも小さくなる。
【0084】
キャビティ内で循環する屈折力は、少なくとも75kWになる。この電力は、出力キャビティミラーの測定透過係数と較正された電力メータを用いて測定された透過電力とを用いて計算されることになる。
【0085】
システムは、真空計を用いて測定される2・10-7mbarを超えない圧力を有する真空チャンバ内で作動することになる。
【0086】
システムは、いずれの自由度の手動調節も加えることなく少なくとも2時間にわたって循環電力及び開口数を絶え間なく維持することができることになり、更にこれらのパラメータを断続的な制御調節を加えて少なくとも10時間にわたって維持することができることになる。
【0087】
一実施形態では、電子顕微鏡は、横方向挿入Gatan低温ホルダが装備された低ベースFEI Titan TEMであり、低温EM試料の研究を可能にする。像は、16メガピクセルのGatan K2 Summit直接検出カメラを用いて記録されることになる。上述のように、顕微鏡は、電子回折パターンを拡大し、有効焦点距離を20mmまで延ばす追加のリレー光学系を有する。顕微鏡は、共役後側フォーカス板の高さの場所に回折平面104への有利なアクセスを与える4つのポート(そのうちの3つがφ25mmの受け入れ幅を有する)を有する。これらのポートのうちの1つは、キャビティモジュールを挿入するのに使用されることになり、透過レーザビームは、ほぼ直径方向に正反対にあり(170°オフセットされ)、キャビティマウントに取り付けられたプリズムを有するポートの中に向けられることになる。
【0088】
挿入可能レーザモジュールは、TEM電子光学系の磁場を外乱することを回避するために非磁性材料製、すなわち、アルミニウム合金製(キャビティ懸架システム)、圧電セラミック製、溶融シリカ製(ミラー、レンズ)になる。使用するように決定した小さいマイクロメートルスクリューは、炭化珪素ボール先端を有する316系ステンレス鋼製である。ステンレス鋼の極度に弱い透磁率は、TEM位置合わせを外乱することが見出された場合に、代替オプションとしてチタンスクリューを使用することができる。
【0089】
レーザビームソース及び周波数ロッキングシステムは、電子顕微鏡に隣接するように位置決めされることになる。光は、可撓性の高電力偏光維持単一モードファイバを用いて挿入可能モジュールに向けられることになる。ファイバ結合の1つの利点は、電子ビームに対する光学系の位置合わせを挿入可能光学モジュールの内部位置合わせを外乱することなくこのモジュールの全体を移動することによって行うことができる点である。
【0090】
挿入可能モジュールは、TEM円柱に対するモジュールの三軸位置調節を可能にするマウント内に懸架されることになる。レーザフォーカス、従って、このモジュールは、垂直に回折平面104の100μm以内に位置決めしなければならない。これは、透過電子波が、レーザ波の干渉縞よりも小さいサイズにフォーカスされる時に高強度区域を横切ることを保証する。キャビティ光学軸に直交する方向の水平位置は、1μm以内に制御しなければならない。これは、いずれの不整合もレーザビームのウエストよりもかなり小さいことを保証する。最後に、キャビティ軸線に沿う水平位置は、100nmよりも良好に安定している必要がある。定常波干渉縞の半値幅は僅か266nmであるので、この安定は、非散乱電子ビームが定常波の最高点を通過することを保証する。その一方、ビームウエストの周りの≒50μm内にある全ての極大値は、ほぼ同じ強度を有し(
図5に示すように)、これらの極大値のうちのいずれかを用いて透過波を遅延させることができる。懸架システム内には、キャビティの長手方向位置を安定に保つための圧電アクチュエータが組み込まれることになる。
【0091】
キャビティフォーカスを共役フーリエ面の中心に配置するために、2段手順を辿ることが計画された。最初に、大まかな位置合わせに向けて、試料が挿入されていない状態でキャビティフォーカスの中心を電子ビームの下に定めるように電子ビームを通すためにキャビティマウント内にくり抜かれたφ1mmの円形開口部を使用することが計画された。この位置は、アセンブリを移動し、その間に電子ビームがビーム孔の縁部によって遮蔽されることに注意しながらTEM像を観察することによって見つけ出すことができる。次いで、より微細な位置合わせに向けて、アモルファス炭素膜を試料として使用することができる。適切なデフォーカスの像のフーリエ変換を観察することにより、TEMフーリエ面の中心に対するレーザフォーカスの位置が明らかになる。像を指針として用いて、葉巻形のフォーカスの中心をフーリエ面の中心に誘導することができる。
【0092】
キャビティ軸線に沿うモジュール位置の微調節に向けて、アモルファス炭素のデフォーカス像を再度用いてThonリングを観察することが計画された。非散乱ビームが定常波の節を通過する時に、Thonリングは、その通常のパターンを有するはずである。しかし、非散乱電子ビームが定常波によって位相シフトされる時に、これらのリングは、同じ位相だけシフトされることになり、微細な位置合わせに向けて定量的フィードバックを提供する。
【0093】
システムが位置合わせされた状態で、様々なレーザ電力を有するThonリングのシフトを観察することによってレーザシステムの電力を較正することができる。
【0094】
近同心共振器の精巧な位置合わせは、振動及び熱膨張によって容易に外乱される。光学台上で、圧電アクチュエータによって位置合わせを手動で回復することができる。しかし、TEMユーザ群に対して有利であるように、位相板は、頻繁な人間の関与なく作動することができることが必要である。
【0095】
1つの目標は、キャビティを位置合わせされたままに保つのに必要とされるいくらかの調節を自動化することによってこの困難を解消することであった。以前の研究で検証されるように、主なタイプの不整合は、キャビティを通って透過するレーザビームをモニタするCCDカメラを用いて難なく観察され、必要な調節は容易である。キャビティ110がほぼ完全に位置合わせされた時に、キャビティ軸線に対するモードの(i)ピッチ傾斜及び(ii)ヨー傾斜、並びに(iii)モードの開口数変化という3つの主な不整合モードが存在する。これら3つのモードは、カメラを用いて電力レーザビームを観察し、その強度プロファイルに重心の2つの座標とビーム幅とに関するガウス分布を当て嵌めることによって測定することができる。ビーム中心の座標は、ミラー傾斜を調節してモードをキャビティ軸線と再位置合わせするのに使用されることになり、モードのサイズは、キャビティ長(従って、モードウエスト)を安定化するのに使用されることになる。これらの目的で、圧電アクチュエータをミラーマウント内に組み込んでいる。光学台内では、調節は、数作動時間毎に一度しか必要とされないので、このフィードバックシステムの帯域幅は高い必要はない。TEMシステムの振動遮断が光学テーブルと少なくとも同程度に良好であるという前提で、調節がそれほど頻繁である必要はないと考えられ、従って、標準のコンピュータインタフェースツールは、必要な帯域幅を与えるのに十二分であると考えられると予想した。
【0096】
定常レーザ波の最高点に対する非散乱電子ビームの位置合わせを観察像のThonリングパターンをモニタすることによって定期的に検査することが必要になる可能性があると考えた。この特徴を実施する一実施形態は、TEM像を解析し、電子ビームに対する位相板モジュールの位置合わせを制御するアクチュエータにフィードバック信号を送信するソフトウエア接続としてのものである。
【0097】
原理的には、後焦点面内又はTEMの円柱上のあらゆる適切な共役面内のいずれかでレーザ位相板を使用することができる。
【0098】
より高い開口数は、様々な実施形態での使用に向けて計画されたような高フィネスミラーに現在使用される研磨処理では対処することができない高湾曲ミラーを必要とする。しかし、高度な処理であるイオンビームミリングは、原理的にはこれを行う機能を有する。近同心キャビティでは、w0=0.94μmのモードウエストに対応する(λ=1064nmでは)0.36程度の高い開口数が報告されている。それと同程度に厳密なフォーカスを有するキャビティベースのポンデロモーティブ位相板は、f=2.5mmの焦点距離を有する通常のTEMで位相コントラスト撮像を可能にすると考えられる。
【0099】
しかし、イオンビームミリングは、低損失ミラーに対しては十分に平滑とはいえない面を発生させ、反射コーティングを付加することができる前に超研磨しなければならない(あるキャビティは、約600というフィネスのみを有することが報告されている)。かつては、イオンミリングされた非常に高いNAの基板を高フィネスキャビティミラーの製造に合う十分に小さい面粗度まで研磨することができるか否かが明確ではなかったと考えられる。更に、基板が十分に平滑であったとしても、高反射性誘電体コーティングをそのような高開口数のミラーに十分に均一に付加することができるか否かが計画時に確実ではなかった。
【0100】
開口数を増大させるという直接的な手法が成功しなかった場合に、別の実施形態は、2又は3以上の交差キャビティを含む小型アセンブリを使用することにした。1つの可能な手法は、狭い強度ピークを特徴とする干渉パターンを発生させるために3キャビティ構成を使用することであった。
【0101】
図8は、重複焦点容積を有する3つのキャビティ802、804、806から構成されるレーザ位相板800の斜視図である。電子ビーム808が垂直線として示されている。
図8に示すように、キャビティ802、804、806は、これらの軸線が互いに60°であり、焦点容積が交差する状態で水平面に配置されることが計画された。各キャビティ802、804、806の開口数は、中程度とすることができる。これらのキャビティ間の強め合う干渉に起因して各キャビティ802、804、806は、単一キャビティを用いて同じ位相シフトを発生させるのに必要とされるレーザ電力の1/9を有する必要しかない。
【0102】
キャビティ内場の相互コヒーレンスを保証するパウンド・ドレバー・ホール方法を用いて3つのキャビティ802、804、806を単一給送レーザに周波数ロッキングすることが計画された。
【0103】
図9Aは、干渉ピークの六角形格子を特徴とする3キャビティ配置によって生成された干渉パターン900を描いている。3キャビティモードの干渉パターンは、382nmの半値直径を有する狭い強度ピークの六角形格子を形成する(
図9Aを参照されたい)。透過電子波は、中心の最大強度のピークを通過するように位置合わせされることになる。追加の高強度ピークは、回折平面104内にコントラスト伝達関数がゼロに近い「遮光ゾーン」を発生させ、そのようなゾーンは小さく、隔離状態にある。焦点距離f=2.5mmを仮定したこの構成に関する回転平均CTFが
図9Bに示されている。
【0104】
図9Bは、f=2.5mmに関して3キャビティ位相板の回転平均コントラスト伝達関数(上側曲線902)を単一キャビティ(黒色)(下側曲線904)と比較して描いている。狭い中心ピークに起因して約ν=(20nm)-1の空間周波数では既に最大値の90%に達し、それよりも高い周波数では追加の強度ピークに起因する軽度の落ち込みを伴いながら1の近くに留まっている。従って、3キャビティ構成は、直径が最大で約10nmの粒子の最大コントラスト観察を可能にするはずであり、この観察は、200kDa又はそれ未満の分子質量を有する殆どの粒子に対して十分である。
【0105】
キャビティ802、804、806は、1つを除く全てのキャビティを停止し、この1つを透過波の位相シフト(Thonリングシフトによって観察される)が最大になるまで長手方向に平行移動し、この手順を全てのキャビティに対して繰り返すことによって電子ビームに対して(従って、互いに対して)配置することができる。
【0106】
以下では、プロトタイプレーザ位相板に対する達成指標に到達する段階、及び近同心光キャビティ内で連続40GW/cm2レーザ強度を達成する段階を説明する。
【0107】
レーザ場を用いて自由空間電子波関数を操作することにより、透過電子顕微鏡のための新しい電子光学要素を達成することができる。特に、ゼルニケ位相板は、軟質物質の高コントラスト撮像を可能にし、構造生物学及び材料科学では新しい機会を導出すると考えられる。ゼルニケ板は、ポンデロモーティブポテンシャルによって電子波の位相をシフトさせる厳密で強い連続レーザフォーカスを用いて実施することができる。ここに至って、近同心キャビティを用いて1064nmで7.5kWの循環レーザ電力を7μmのウエストの中にフォーカスし、連続波レーザ強度に関する記録を樹立し、ポンデロモーティブ位相コントラストTEMへの道筋を確立した。
【0108】
透過電子顕微鏡(TEM)は、分子生物学と材料科学の両方で原子解像度を有する構造情報の非常に重要なソースとして出現した。TEMの1つの制約は、生体高分子のような軽元素から構成される試料が電子ビームに対してほぼ透明であり、弱い像コントラストを招くことである。光学顕微鏡検査では、生体細胞のような薄い透明物体を観察するという問題は、ゼルニケによる位相コントラスト顕微鏡検査の発明によって解決されている。ゼルニケ型位相コントラストを電子顕微鏡検査に導入することは、益々激化する研究努力の目標であった。最近になって、TEMでの位相コントラストは、炭素箔ベースの位相板を用いて劇的に明らかにされている。それにも関わらず、時間が経つ時に電子ビームへの露出が炭素箔の特性を変化させ、コントラスト伝達関数を変化させ、撮像に向けて位相板を最適に使用することができる時間を制限することにより、改善に対する有意な可能性が依然として存在する。
【0109】
レーザを用いて自由空間電子伝播を制御することにより、電子光学系に代わる手法がもたらされる。強いレーザ場を進行する荷電粒子は、小規模の振動運動を受け、その結果、有効な「ポンデロモーティブ」ポテンシャルをもたらす。定常レーザ波に対して電子散乱を用いた実験は、このポンデロモーティブポテンシャルを用いて電子ビームに対する回折格子及びビームスプリッタを生成することができることを示している。TEM対物レンズの後焦点面にフォーカスされたレーザビームは、ゼルニケ位相板として機能することができることが最近になって提案されている。材料位相板とは異なり、レーザ位相板は、帯電及び電子ビーム損傷に本質的に影響されず、無視することができる電子損失しか与えない。レーザ電力を変化させることによって位相遅延を高速に変化させるという発展の可能性が追加の利点である。
【0110】
TEMに使用される高エネルギ電子の自由空間操作は、非常に高いレーザ強度を必要とする。フォーカスガウスレーザビームによって誘起される位相遅延は、次式のように計算することができる。
上式中のαは微細構造定数であり、cは光の速度であり、mは電子質量であり、β及びγは、電子の相対論的ファクタであり、Pはビーム電力であり、ωはレーザ角周波数であり、wはビームウエストである(式(2)も参照されたい)。ポンデロモーティブ位相板に対して可能な別の要件は、焦点サイズが数マイクロメートルを超えてはならないことである。式(5)により、200~300keVの典型的なTEMエネルギで数ミクロンの距離にわたって電子にπ/2の位相シフトを与えることは、数百GW/cm2の範囲のレーザ強度を必要とする。その結果、光に対して電子散乱を使用する殆どの実験は、パルスレーザシステムを用いて行われている。しかし、SN比が制限ファクタである低温EM及び他の高解像度TEM用途では連続作動が望ましい。
【0111】
連続波(CW)システムのレーザ電力は、電力蓄積キャビティを用いて増強することができる。低損失キャビティミラーは、0.1GW/cm2までの強度に耐えることが示されている。ポンデロモーティブ位相板に必要とされる遙かにより高い強度は、近同心ファブリー-ペロー共振器のようなフォーカスキャビティ内で達成することができる。この構成では、基本モードは砂時計形状を有し、その中心にある小さい焦点内に集中するレーザ電力は、ミラー面上の大きい区域にわたって分散し、それによってミラー損傷が防止される。低電力での厳密なキャビティ内フォーカスは、中程度のフィネスの近同心キャビティで明らかにされている。同時に、キャビティ内高調波の発生及び極紫外スペクトル範囲での光コム分光法に向けて極短パルス列を増幅するために構成されたフォーカスキャビティ内で670kWまでの平均循環電力が提供されている。しかし、レーザ位相板に必要な高電力と厳密なキャビティフォーカスとの組合せは、依然として実現されていない。
【0112】
ここで、高フィネス高開口数近同心キャビティとして実施したプロトタイプレーザ位相板に向けた達成指標に到達したことを報告する。その基本モードが特徴付けられ、数値モデルを用いてキャビティ内レーザ場の存在下でTEMの特性を解析した。7.5kWの循環CWレーザ出力では、以前はパルスレーザシステムでしか達成されなかった300keV電子ビームを0.16radだけ遅延させるほど十分な41GW/cm2の最大強度が明らかにされている。
【0113】
下記では、実験結果を報告する。
図5に示す光学系は、近同心キャビティ110と、波長γ=1064nmで作動するCW給送レーザ522とを含む。この実施形態での給送レーザ522は、外部キャビティダイオードレーザであり、パウンド・ドレバー・ホール方法及びファイバ増幅器502を用いてキャビティに周波数ロックされる。キャビティ110は、TEM対物レンズの後焦点面と共役な面内への挿入に向けて設計され、電子ビームは、光学軸に対して直交方向に入る。キャビティは、12.7mmの直径と、12.7mmの曲率半径と、指定の反射率R=1-(10±5)・10
-5とを有する2つの凹面ミラー512(Layertec)によって形成される。ミラーの後面は、凸であり、前面と同心である。このメニスカス形状は、単一非球面レンズ510を用いた高開口数キャビティモードへの効率的な結合を可能にする。
【0114】
キャビティマウント(
図6及び
図7を参照されたい)は、撓み懸架器に収容されたミラー604のうちの一方の傾斜及び軸線方向位置の調節を可能にする。ミラー604の正確なセンタリングを保証するために及び有効な熱伝導性を与えてキャビティを冷却するために、全体のキャビティハウジング606は、単一アルミニウムブロックから機械研削される。1μradよりも良好な角度精度を必要とする近同心キャビティ110の位置合わせは、アルミニウムブロックのポケットに配置された3つの圧電アクチュエータに対して押圧して大まかな位置合わせを提供する3つの微細ピッチマイクロメートルスクリューによって達成される。キャビティ110と結合レンズ602とミラー位置合わせ光学機構とを含む高電力光学モジュールは、25mm直径の円筒形空間の中に嵌り込むほど十分に小型に製造され、それによってその後のTEMシステム内への統合が容易になる。
【0115】
キャビティ110は、既存TEM円柱の環境をシミュレートし、空気分子の望ましくないイオン化を防止する2・10-7mbarまで減圧された真空チャンバ内に懸架される。ミラーのうちの一方の傾斜自由度と軸線方向運動自由度とを用いてキャビティ110を近同心構成に導いた。キャビティ内のフォーカスのサイズを特徴付けるために、レーザ周波数は、キャビティ110の基本モードの前後で振動するように調整した。透過ビームを非球面レンズ(焦点距離25mm)によって平行化し、CMOS像センサの中に導いた。モード像に2次元ガウスプロファイルを適応させて、焦点のサイズの逆数である遠視野での基本モード幅を取得した。この像は、キャビティミラーのごく僅かな非点収差によって決定された小さい楕円率を提供する。楕円の2つの主軸は、NAa=0.0469±0.0005及びNAb=0.0524±0.0005の開口数に対応する。NAbに対応するモードウエストは、s=λ(πNA)-1=6.46μmである。
【0116】
光を光キャビティ110の中に短時間に注入し、それに続く透過光の電力の増大及び減衰を観察するキャビティリングダウン(CRD)法を用いてキャビティミラー114、116の反射率を測定した。パルスレーザソース又は光学変調器に対する必要性を回避するために、キャビティのTEM00モード(高速掃引cw-CRD)の長手方向モード共振にわたってレーザ周波数を高速に掃引することによって光キャビティ110内への光の注入を達成した。
【0117】
これらの条件下で、透過電界振幅は、キャビティの伝達関数と線形チャープレーザ場のスペクトルとの積の透過電力が次式で与えられるような逆フーリエ変換によって良好にモデル化される。
上式中のRはキャビティミラー反射係数であり、Lはキャビティ長であり、ηは周波数掃引速度である。このモデルを用いて実験測定CRDプロファイルにターゲットの適合パラメータとして機能するRを適応させた。
【0118】
測定CRDプロファイルを式(6)によって表されるモデルへのこのプロファイルの最小二乗最適適合と共に
図4に示している。キャビティミラー反射率をキャビティミラー透過率T及び損失率Lに関してR=1-(T+L)であるように表すと、適合プロファイルは、137.9±0.4ppmのキャビティミラーの透過率プラス損失率に対応する。この値は、次式で与えられるキャビティフィネスに対応する。
【0119】
パウンド・ドレバー・ホール方法を用いてシードレーザをキャビティにロックし、シードレーザ電流の直接RF変調(例えば、RF発生器1216によるものであり、
図12を参照されたい)によって側波帯を発生させた。ファラデーアイソレータ508によって反射ビームを分離し、光ダイオード506の中に導いた。このダイオードからのRF信号を復調し、誤差信号として用いた。
【0120】
キャビティ内で循環する電力を推定するために、キャビティフィネスに加えて、結合効率とミラーの透過対損失比とが必要である。両方のパラメータは、キャビティの透過係数T
cav及び反射係数R
cavの測定値から推量することができる。入力ビームと基本キャビティモードの間のモード重複をQで表すと、次式が導出される。
【0121】
レーザ周波数がキャビティ共振にロックされた状態で、R
cav=0.34±0.03、T
cav=0.32±0.03の測定が行われた。キャビティパラメータを抽出した結果、|Q|
2=0.75±0.05及びT/(T+L)=0.65±0.05が取得された。CRDデータと併せることにより、これらのパラメータにより、ミラー透過率T=90±7ppm及び増幅係数を次式として決定することが可能になった。
【0122】
決定したキャビティパラメータを用いて、入力電力を高めた。キャビティチャンバを大気圧に保持した状態では、300mWを超えて入力電力を高めても、5.5GW/cm
2の最大強度に対応する約1kWの循環電力での空気中の非線形光学効果の発現と考えられる原因によって透過電力の更に別の増大にはつながらない。排気したチャンバでは、7.5±0.6kWまでのキャビティ内電力に達した。入力電力202の関数としてキャビティ内循環電力204(透過電力から推量した)を
図2に示している。このグラフは、より高い電力では、キャビティ位置合わせを修正するキャビティハウジングの熱誘起変形に起因してもたらされる場合がある小さい偏差を用いてほぼ線形である。マウントに十分に熱結合されなかったミラーへの熱損傷のリスクに関する懸念から最大電力を制限した。上述の測定モードパラメータの場合に、最大値測定電力は、(41±4)GW/cm
2という最大強度に対応し、それによって300kVの電子ビームに対して0.16radの位相遅延に至ると考えられる。低い電力での繰り返しCRD測定により、高電力作動中にミラーへのいずれの損傷も発生しなかったことが確認されている。
【0123】
下記では、数値モデル化を説明する。生体高分子のTEMに対するレーザ位相板の効果を評価するために、非晶質氷中に埋め込まれたヒトヘモグロビンのTEM撮像の実行数値シミュレーションが行われた。この四量体複合体は、約64kDaの分子質量を有し、この質量は、従来のTEM再構成に対しては過度に小さいが、炭素箔位相板を有する位相コントラストTEMを用いて3.2Aの解像度まで解消されている。
【0124】
キャビティベースのポンデロモーティブ位相板を用いたヘモグロビン分子のTEM像(図示せず)のモデル化が試験され、(a)分子のリボン図、(b)原子ポテンシャル、(c)光キャビティの基本モードによって引き起こされた位相シフトを示している。拡大像は、定常波の個々の干渉縞を示している。パネル(d)は、ショットノイズがなく、第1の回折次数に対応するシフトした「ゴースト」像を有する(a,b)の場合と同じ向きの分子のシミュレーションTEM像を示している。20e/Aの線量では1pmだけデフォーカスした模擬従来TEM像を生成した。同じ電子線量でキャビティベースのポンデロモーティブ位相板を用いて形成したフォーカス像を示している。このモデルでのキャビティ開口数はNA=0.05であり、実験的に明らかにされたパラメータと一致する。このモデルは、キャビティ内電力が屈折力のほぼ10倍の更に別の増大を必要とする最大値では最大2の遅延をもたらすように強度調整されると仮定している。
【0125】
マルチスライスシミュレーションを実施した。300kVの加速電圧、0.2Aのピクセルサイズ、及び1.3mmの球面収差を用いた。これらのシミュレーションでは、ショットノイズ及びポテンシャルの熱不鮮明化が、シミュレーションの情報限界をほぼ決定付けたので、電子ビームの空間的及び時間的有限コヒーレンスを無視した。用いたヘモグロビン構造は、蛋白質データバンクからダウンロードした。蛋白質の原子の熱振動を0.1Aと仮定し、エンベロープ関数として適用した。シャン及びシグワースによって開発された非晶質氷の連続体モデルを用いて、ヘモグロビン構造の周りの埋め込みポテンシャルをモデル化し、3Dで数値積分した。
【0126】
モデル化の結果を調べた。ガウス定常波キャビティモードによって誘導された位相シフトの空間マップは、ズームインプロット図(挿入
図304を参照されたい)が定常波の個々の極小値及び極大値を示す
図3に示している。
【0127】
電子ビームを定常レーザ波の中に通す副次効果は、定常波が、追加の弱い「ゴースト」像を発生させる電子に対する回折格子として機能することである。nが回折次数であり、fがTEM対物系の焦点距離であり、λeが電子波長である時に、これらのゴースト像は、1次像からδx=2nfλe/λだけ変位される。ショットノイズを持たずにレンダリングされた1次のゴースト像(図示せず)は可視であるが、ショットノイズを有する場合は不可視であると考えられる。そのようなゴースト像の振幅はショットノイズを十分に下回るので、これらのゴースト像は、個々の像内で可視とはならず、密度マップの再構成に使用される平均像内ではノイズへの取るに足りない寄与になることになる。
【0128】
ヘモグロビン分子のシミュレーションTEM像(図示せず)を調べた。従来、非常に透明な生体高分子は、撮像システムを試料平面102(
図1を参照されたい)からデフォーカスし、振動コントラスト伝達関数を用いて位相コントラスト像を生成することによって可視にされる。強めのデフォーカスは、低い空間周波数では強めのコントラストをもたらすが、高い空間周波数ではコントラストの損失にもつながる。この場合に用いた1μmのデフォーカスは、近原子解像度での密度マップの再構成を依然として可能にする値である。このショットノイズは、一般的に、TEM蛋白質構造研究では線量と共に増加する放射線損傷と線量と共に減少するショットノイズとの間の最適点として使用される20e/Å
2の有効線量を仮定してモデル化したものである。同じ電子線量でポンデロモーティブ位相板を用いたヘモグロビンのフォーカス像(図示せず)を調べた。強度最大値では最大π/2の位相シフトを仮定した。この位相コントラスト像は、低い空間周波数ではデフォーカス-コントラスト像と比較して強い信号を明らかにし、この強い信号は、少なくともヘモグロビンと同程度に小さい高分子に関する粒子投影像の分類及び位置合わせを可能にすることが予想される。
【0129】
図3を参照して調べた数値結果は、フォーカス共振器内に構築される定常波が、位相コントラスト撮像に適するコントラスト伝達関数を発生させることを明らかにした。重要な点として、キャビティモードの明確に定められた空間構造は、EM像を解釈する時にコントラスト伝達関数を正確に考慮することができることを保証する。実験で明らかにされた強度は、300keVの電子ビームにπ/2位相シフトを与えるのに必要とされる強度よりも小さい桁数に近いが、ポンデロモーティブ遅延の最初の実証には十分とすることができる。更に、最先端のミラーを使用すると、キャビティフィネスを2・10
5まで高めることができるはずである。フォーカス強度を10
12W/cm
2を十分に超える場所まで増大させるには、入力電力を30Wまで増大させることで十分なはずであり、この増大は、市販のNIR波長ファイバ増幅器を用いて行うことができる。
【0130】
この研究では、開発した一実施形態は、レーザベースのゼルニケ位相板である。しかし、高強度キャビティ内CWレーザ場を使用するいくつかの他のツールを考えることができる。例えば、相互作用不在の測定概念に基づく量子撮像法が提案されている。これらの概念を実施することに対する重大な障害は、電子波動関数に関する高品質ビームスプリッタの不在にある。光キャビティ内のCW定常波は、規則性が高く、実質的に無損失の位相回折格子として機能することができ、ブラッグ領域でのカピッツァ・ディラック散乱によって電子ビームを2つの経路にコヒーレントに分割する。そのようなビームスプリッタは、測定及び感知に使用される様々な系列の光学干渉計を模擬する様々な電子干渉法スキームも可能にすることができると考えられる。
【0131】
最後に、構築したキャビティのタイプは、広範にわたる部類の実験に対して関連する可能性があることに注意されたい。小さいモード容積と、高NA近同心共振器の開放されたアクセス可能な形状との組合せは、キャビティQED実験に対して有利とすることができる。更に、非常に高い循環電力を蓄積する機能は、超深双極子トラップを実施するために並びにナノ粒子をトラップして冷却するのに使用することができる。
【0132】
基本的に、厳密にフォーカスされた基本モードを有する高フィネス光キャビティ110を開発したということである。数値シミュレーションにより、そのような場構成は、TEMのためのポンデロモーティブ位相板として機能することができることが検証されている。近同心ファブリー-ペロー共振器を用いてCWレーザシステム内で数十GW/cm2の範囲の光強度に到達することができることが明らかにされている。これらの結果は、ポンデロモーティブ位相コントラストTEMに向けた重要な一歩を表し、より一般的には、自由空間電子波動関数のレーザベースのコヒーレント制御に向けた道筋を付ける。
【0133】
下記では、光キャビティ位相板を有する透過電子顕微鏡1002の研究結果及び実施形態を説明する。
【0134】
図10は、本発明の開示の実施形態による光キャビティ位相板を含む透過電子顕微鏡1002の一実施形態を例示している。電子銃1024が、電子ビーム1012を生成し、電子ビーム1012は、コンデンサー1020によって平行化され、試料対物レンズ1018によってフォーカスされ、試料平面102(
図1を参照されたい)に通され、レーザキャビティ1008内のフーリエ変換平面1004に通され、投影レンズ1022によってフォーカスされて像1016を生成する。
【0135】
実施形態では、厳密にフォーカスされたレーザビーム内の強電界は、位相板を形成する(
図10を参照されたい)。電子顕微鏡1002のフーリエ変換平面1004(すなわち、
図1での後焦点面又は回折平面104)内に挿入された位相板は、レーザ1006からの強いフォーカスレーザビーム1014から構成される。
【0136】
ほぼ球形の共振光キャビティであるレーザキャビティ1008は、フォーカスを成形し、更にレーザビーム位相板強度を更に増強するのに使用される。電子ビーム1012は、球形光キャビティハウジング1010の対向端部(例えば、上部及び底部)にある孔を通って進行する。レーザビームの強電界と電子の電荷との相互作用は、電子の「光路長」の延長に対応する位相シフトを電子ビーム内に発生させ、この位相シフトは、進行経路距離を延ばすように電子軌道を揺動させるものとして可視化することができる。この延長が電子のド・ブロイ波長の1/4である場合に、望ましいπ/2位相シフトを提供する。
【0137】
図11は、本発明の開示の実施形態による共振光キャビティ位相板の強度パターン1102を例示している。球形光キャビティハウジング1010内のレーザビームの共振増強は、高電力光学ビーム要件を軽減する。これは、フーリエ変換平面内の非回折電子ビームのサイズへの良好な一致である狭い強度最大値1104(
図11に示すように約0.5波長分の半径)を中心に与える。中心の外部の電子は、比較的低い電界に遭遇し、無視することができる位相シフトしか受けない。
【0138】
簡単な従来モデルでは、位相板としてのレーザの機能は、レーザの交替電界が電子の軌道を揺動させ、従って、電子の経路長を延ばすことに起因する。量子力学的取り扱いは、位相シフトが次式で与えられることを示している。
【0139】
【0140】
上式中のhは、換算プランク定数であり、αは微細構造定数であり、ρは光子密度であり、λはレーザ波長であり、τは、電子がフォーカスを横断するのに要する時間であり、mは電子質量である。キャビティの中心にある光学フォーカスから離れると、光子密度ρは急激に低下し、従って、光学フォーカス以外に有意な位相シフトは存在しない。光子密度は、cが光の速度である時にレーザ電力Pによってρ=4P/(π
2c
2λh)として表現することができる。電界は、キャビティ内の強度分布に対する良好な近似であるw
0=λ/2の1/e
2強度「ウエスト」半径を有するガウス強度プロファイルを有すると仮定する。このプロファイルは、所与の波長のレーザに関して達成することができる最小のフォーカスであり、より大きいフォーカスが可能であるが、より高い所要レーザ電力をもたらす。通過時間τを推定するために、v
eが電子ビーム速度である時に、同じモデルを用いてτ=λ/v
eを取得する。キャビティの実際の強度分布(
図11)を考慮したより正確な推定は、τ=sqrt(π/2)λ/v
eである。式(1)に代入すると、位相は次式で与えられる。
【0141】
レーザ位相板は、それを横断する時に殆どの電子が失われず、百万個中に約1個の電子が、光子によるコンプトン散乱によって失われることにしかならない。
【0142】
式(9)を用いて、δ=π/2の位相シフトを発生させるのに必要とされるレーザ電力Pを電子速度とレーザ波長との関数として計算することができる。100keVの電子顕微鏡に対する電子速度veは、約108m/sである。
【0143】
式(9)により、望ましいπ/2位相シフトは、レーザ波長とレーザビーム電力との積に依存する。より大きいレーザ波長λとの妥協点を見つけることができる可能な最低レーザ電力Pで機能することが望ましい。
【0144】
それとは逆に、レーザ波長は、非回折電子ビームのサイズに一致しなければならないレーザフォーカスのサイズを決定する。特に、フォーカスが過度に大きい場合に、試料内のより大きい構造に対するコントラストの損失がもたらされる。例えば、d=18nmの直径を有するロッド形であるタバコモザイクウイルスに注意しなければならない。この直径にわたる最大コントラスト量を達成するには、空間周波数に対して最大で1/(2d)=1/(36nm)の位相コントラストが必要である。例えば、電子顕微鏡(例えば、米国オレゴン州ヒルズボロ97124所在の5350 NE Dawson Creek DriveにあるFEI Companyから利用可能なFEI Titan)での電子光学焦点距離はf=20mmであり、電子波長λeは、100keVで3.7ピコメートルである。1/(36nm)の空間周波数を解像することにより、λe/(2d)=20mm×36nm/(3.7pm)≒2μm程度の最大位相板半径、すなわち、約4μmの最大波長に至ることになる。
【0145】
この波長での高電力レーザは達成するのが困難である。レーザ波長の選択は、信頼性の高い市販の高電力レーザの利用可能性によっても制約される。例えば、式(9)により、1064nmのレーザ波長は、100keVの電子ビームに対して所要のπ/2の位相シフトを発生させるのに約5kWのレーザ電力を必要とする。この波長では、約0.5μmの光学ビームフォーカス半径が取得される。この光学ビームフォーカス半径は、80nmまでのサイズの構造に対する位相コントラストを可能にし、上述の要件を満たすと考えられる。
【0146】
パルスレーザは、ナノ秒(ns)の持続時間にわたってkWレベルの電力に容易に達成することができるが、これらのパルスレーザの使用は、電子ビームをパルス振動させることも必要とすると考えられる。しかし、そのようなパルス振動は、殆どの市販のTEMデバイスでは利用可能ではない。しかし、最も重要なことして、電子銃内のカソード電流密度の制限は、パルス振動モードでの電子顕微鏡の作動に新たな難問を招き入れる。従って、連続波高強度光学場が望ましい。
【0147】
レーザビームの強度は、共振増強を達成するための光キャビティの使用によって高めることができる。そのようなキャビティ内では、レーザ放射線は、キャビティミラー間で反射して往復する。レーザ波長がミラーの分離幅の半整数倍である場合に、全てのラウンドトリップでの放射線が強め合うように加算され、共振強度の増強が施される。この増強は、放射線が、次式で与えられる共振周波数のうちの1つを有する時に発生する。
上式中のn=1,2,3,...は、モード数である(上式は、長さLが波長よりもかなり大きい時にキャビティの十分な精度を固守する)。共振レーザ光では、強度は、次式で与えられる倍数で高められることになる。
1/(1-R) (11)
上式中のRは、ミラーの反射率である。完全反射器は、R=1という値を有すると考えられる。
【0148】
強度増強に加えて、キャビティは、レーザビームの非常に厳密なフォーカスを与えなければならない。厳密にフォーカスされたビームは急激に発散し、すなわち、大きい開口数(NA)を有する光学系を必要とする。従って、光学ビームを完全に封入する球形キャビティ内の強発散電磁モードTEMn01から最も小さい焦点がもたらされる(
図11及び
図12を参照されたい)。強フォーカスビーム内の電磁場は、無視することができるほどではない。この球形キャビティの使用は、そのような球形キャビティ内の電界が解析計算から既知であるという追加の利点を有する。
【0149】
図10を参照すると、光キャビティ1008は、例えば、電子ビーム1012が下方に垂直に(例えば、z軸に沿って)進行し、その上の孔を通ってキャビティ1008に入射し、底部にある別の孔を通って射出する状態で配置することができる。レーザビーム1014は、水平に向くように示されており、図の面に直交する偏光を有することができる。光キャビティの中心から遠く離れた電界は、キャビティの上部及び底部を含むx-y平面内の円上でゼロである。従って、電子ビームに対する孔は、屈折力の判別可能な損失を招くことにはならず、これらの孔は、例えば、約1mmであるが、それよりも大きいか又は小さいことが可能な半径の電子流を抑制しないために十分に大きい。キャビティ半径が10mm又はそれよりも多くである場合に、これらの孔は、キャビティの循環電力のうちの0.01%以下しか放散しないことになる。更に、これは、製造後に単一球を生成するように接合される2つの中空半球からキャビティを構成することを可能にする。これらの半球は、不完全な接合であっても屈折力の判別可能な損失を招くことにならないように消失電界面内で接合される。
【0150】
ミラー面の反射率、すなわち、高い内面反射係数によって強度増強係数が設定される。10,000倍及びそれよりも大きい強度増大に対応する誘電体コーティングによるR=99.99%及びそれよりも高い反射率は最先端のものである。しかし、残念なことに、誘電体コーティングは、2つの半球のような非常に湾曲した面上でもたらすことが困難な精密な厚みを必要とするが、最終的には達成可能にすることができる。金属コーティングミラーは、コーティングの厚みが重要でないことで製作することが容易である。100倍の電力増強を与える第1のミクロンで99%の金属反射率が従来利用可能である。この反射率は、利用可能な最先端高電力レーザを使用する場合に十分とすることができる。
【0151】
実施形態では、波長を増大させることによって所要の電力を低減することができるが、そうするとスポットサイズが増大することになる。10μmのCO2レーザ波長では、キャビティ内で循環する電力は、π/2の位相シフトに対して500Wしか必要とせず、金属ミラーを使用する場合の電力増強係数は、約200であると考えられる。従って、2.5Wのレーザ電力しか必要とされないと考えられる。≒5pmのサイズのフォーカスでは、上記で議論したように、試料の大規模特徴部に対するコントラストの一部の損失が発生すると考えられる。それでも、そのような構成は、必要なレーザ電力の見地からはより簡単であると考えられる。
【0152】
レーザキャビティ1008は、例えば、8~10mmの半径を有する2つの半球を接合して球形光キャビティハウジング1010を形成することによって生成することができる。サイズは、位相板の配置に向けて電子顕微鏡内で利用可能な空間によって決定される。半球は、良好な熱伝導度及び機械的安定性を達成するためにベリリウム-銅のブロック内で2次関数形状に研削するか、又はこれに代えて低い熱膨張率を達成するためにInvar(登録商標)とすることができる。下記で説明するように、キャビティはいずれにせよ意図的に歪曲させることができるので、正確に球形の形状に維持することはそれほど重要ではないことに注意されたい。半球は、λ/10まで研磨され、内部が金で被覆される。金ミラーの比較的高い損失率に起因してより良い研磨は不要である。半球は、1又は2以上の圧電変換器(PZT)により、異なる定常波周期強度の位相回折格子をもたらす可能性がある他の競合モードを抑制しながら1つの光学周波数での周波数安定化に向けて光キャビティを調整することによって互いに取り付けることができる。50W程度のレーザ電力が、キャビティ壁上で放散することになる。熱は、液体冷却によって運び去ることができる。10Cの温度増大(液体冷却によって容易に埋め合わせられる)に対して半径10mmの半球が、BeCuではほぼ160nm、又はInvar(登録商標)では16nmだけ膨張する。この膨張は、能動フィードバック(下記で説明する)によって補償しなければならない共振周波数のシフトを招くことになる。更に、いずれかのレーザ周波数で共振を達成することを可能にするには、PZTのダイナミックレンジが、レーザ波長の少なくとも半分でなければならない(
図10を参照されたい)。λ=1μmでの金面は、R=0.99を有し、100という電力増強係数をもたらす。式(9、10)からかつレーザからキャビティへの75%の電力透過率を仮定すると、67Wのレーザを必要とすると考えられる。IPG photonics(米国マサチューセッツ州オックスフォード01540の50 Old Webster Road所在)から現在利用可能な単一周波数ファイバレーザは、この波長では50Wのレーザを供給する。位相コントラストは、位相シフトの正弦として及び従ってレーザ電力の正弦として変化するので、最適な位相コントラストの>90%は、50Wのレーザによって利用可能である。より高い電力のレーザ1006は、より低いキャビティ結合効率で機能し、光キャビティを製作するコストを引き下げることを可能にすると考えられる。
【0153】
レーザ放射線をキャビティの中に効率的に結合するために、誘導レーザビームからほぼ球面対称なモードを取得することが望ましい。なぜならば、最も厳密なフォーカスを有する望ましい共振モード(
図11を参照されたい)に加えて、キャビティが球面対称性に起因して多数の他のモードで共振することができるからである。正確な球では、これらのモードのうちの多くは、望ましいモードと同じ共振周波数を有する。従って、単純に半球間の距離を調節することによって行うことができるキャビティのいくらかの歪曲により、キャビティモード縮退が破壊され、この段階で望ましいモードは明確に異なる共振周波数を有する。レーザ放射線は、この周波数を有する場合に主としてこのモードを励振することになる。異なる周波数で共振すると考えられる他のモードはキャビティ非共振にされ、従って、抑制される。
【0154】
図12は、電子ビームの位相を変調するための光位相板を発生させるためのシステムを例示している。単純にキャビティ1202内の半径r
inの孔1204を通してレーザビームの結合を達成することができる。レーザ1224からキャビティモード内への電力の透過は、それがキャビティの他の部分での損失(すなわち、金属面の有限の反射率に起因する損失)を埋め合わせる時に最適化される。
図11に示す望ましい共振モードでは、この条件は、r
cavがキャビティ1202の半径であり、Rがキャビティのミラーの反射率である時に、1=(2/3)(4r
cav
2/r
m
2)(1-R)又はR=0.99に対してr
in/r
cav=[8(1-R)/3]
1/2=0.16である場合に満たされる。
【0155】
この条件が満たされる場合であっても、結合効率は、依然として100%ではない場合がある。キャビティが光を発生させ、この光がカプラを通って射出するという時間が逆行する状況を考える。カプラは、キャビティ内で共振するTEMn01モードのサイズと比較して小さい。従って、カプラを通って射出する電界は、カプラの直径にわたってほぼ均一な強度を有し、外部ではほぼゼロである(これは縁部での回折を無視した場合であり、この無視は、カプラの半径が波長よりもかなり大きく、従って、回折効果を実質的に無視することができることで適切である)。時間の逆行により、キャビティに入る最適な電力伝達を有するレーザビームの所要の形状が定められる。しかし、レーザはガウスモードを生成する。ガウスモードと切頭(「トップハット」)キャビティモードの間の最適な電力伝達は50.4%であり、カプラ面でのガウスビームのウエスト半径パラメータがカプラの半径に等しい時に発生する。同じく、適切な焦点距離の結合レンズも仮定する。この効率は、基本的には位相回折格子であるビーム成形装置を用いてガウスビームを均一強度ビームに変形することによって理論上100%まで改善することができる。84~90%の効率を有するそのような技術が報告されている。
【0156】
キャビティが最大強度増強を印加するために、レーザの周波数は、キャビティ共振のうちの1つに一致しなければならない。レーザ及びキャビティ内の熱及び他のドリフトにも関わらず共振を達成するために、パウンド・ドレバー・ホール方法に基づくフィードバック機構が使用される(例えば、
図12に示すように)。この目的で、電気光学変調器1206は、周波数ω
mと変調指数β
mとによる位相変調をレーザビームに印加する。ビームは、ビーム成形器1220及び結合レンズ1222を通してキャビティに結合され、光キャビティから射出する放射線に起因する反射信号は、検出器1218によって検出される。アイソレータ1208を用いて反射信号を検出器1218に結合することができる。別の実施形態では、ビームスプリッタ及びミラーを用いて反射信号を検出器1218に結合することができる。キャビティの共振特性は、位相調整を振幅調整に変換する。レーザ周波数と共振周波数が一致すると、振幅変調(AM)の検出反射成分は最小値に達し、理想的には消失するか、又は他に非ゼロAMが発生する。この検出反射成分は、二重平衡混合器(DBM)1210を用いて振幅と位相によって検出され、その出力は、変調周波数ω
mを抑制するためにローパスフィルタリングされる。これは、共振では位相交差がゼロの信号に至る。この信号は、フィードバック1212によって適切なサーボ1214を通してレーザ周波数アクチュエータにフィードバックされ、サーボ1214は、キャビティ共振をレーザ1224に位置合わせされたままに保つ。このシステムでの高信号電力に起因して高いSN比のフィードバック信号を達成するのに非常に弱い変調で十分とすることができる。
【0157】
多くの使用方法及び用途を考えることができる。生化学では、多蛋白質複合体及び高分子機械の構造を決定するのに有意な改善を達成することができる。細胞生物学では、全体の細胞内でそのような複合体の場所及びその空間関係を決定するのに有意な改善を達成することができる。両方の場合に、ゼルニケ位相コントラストは、非晶質氷の中に埋め込まれた、すなわち、生きているような状態の無染色試料を撮像する機能を改善することが予想される。
【0158】
実施形態では、使用方法は、生体高分子及び超分子の構造の記録像1016を含む。そのような研究は、物理的に可能な最大の像コントラストを達成することを必要とする。TEM内の無染色試料を撮像するための既存デフォーカス方法と比較すると、フォーカスゼルニケ光キャビティ位相コントラスト顕微鏡のコントラストは、10倍以上に対応するほど強く(上記を参照されたい)、デフォーカスの使用の場合のように高解像度で信号を劣化させるか又は破損することがないと考えられる。
【0159】
生物学的用途に加えて、実施形態では、軟質材料の微細構造を特徴付けることができる。
【0160】
実施形態では、光キャビティ位相板は、極深の3次元光学トラップを発生させるために適用することができる。トラップ深度は、数十ケルビン又は更に数百ケルビンの範囲とすることができ、例えば、冷却が困難な化学種に関してさえも室温原子をトラップし、空間でのその場所を0.5ミクロンよりも正確に決定する。キャビティ内の莫大な強度は、レーザ周波数を原子又は分子の遷移に緊密に整合させることを無意味にすることになるので、そのようなトラップは、広範な原子又は分子に対して有利である。これは、そのような原子に関する非常に弱い遷移の分光測定を可能にする。一例は、レーザを用いたトリウム229原子の原子核分光測定である。トリウム229の核での≒5~6eVの遷移のレーザ分光測定は、電子シェルでのものではなく原子核エネルギレベル間の遷移に基づく「原子核」時計を構成することを可能にするので、精密測定での突破口とすることができる。しかし、この分光測定は、原子の位置付けるための適切な方法の欠如によって阻まれていた。位置付けられた原子の場合にのみ、十分な強度を発生させるのに必要とされるようにプローブレーザを厳密にフォーカスすることができる。本明細書で提案する双極子トラップは、この問題を解決することができ、この遷移の直接レーザ分光測定を可能にする。これは、より精密(原子核は環境にそれほど影響されないので)な時計、並びに先例のない精度による基本「コントラスト」の時間変化性の検査を導出することができる。
【0161】
高NAのキャビティ内面上に均等に制御可能な誘電体層を製作する機能を有する誘電体コーティング技術をもたらすことにより、より高い共振増強を可能にし、従って、より低いコストでより低い電力のレーザ又はより長いレーザ波長の使用を可能にする(それによってより低いNAのキャビティの使用を可能にすると考えられる)。
【0162】
上述の従来の微細構造位相板と比較して、共振キャビティ位相板は、電子ビーム内でいずれの機械電極も用いない点、レーザビーム内に運び入れることを必要とする光学要素を十分に遠くに(1mm又はそれよりも大きい)することができ、従って、像をぼけさせること及び歪曲させることに関連付けられた問題が回避される点、現時点では薄膜型の位相板の性能を制限している短いデバイス寿命の問題を解消する点、薄膜位相板と静電位相板又は磁気位相板の両方で発生する散乱電子の部分損失の問題を解消する点、信号の部分損失を発生させず、経時劣化した又は電子ビームが当たった時に汚染状態になった微細構造位相板又は薄膜位相板を交換する必要性によって引き起こされる中断がないことで電子顕微鏡をより生産的でより効率的なものにすることになる点といういくつかの利点を有することを認めることができるであろう。
【0163】
位相コントラストを振幅コントラストに変換することにより、共振光キャビティ位相TEMは、非常に少量の無染色の及び従って無変質の材料から有意な信号を取り込むことができる。従って、本方法は、電子顕微鏡を使用する全ての研究プログラムが、無染色生体材料又は一般的に有機ポリマー及び他の軟質材料を含む低原子番号の材料の構造を決定するのに有利である。これらのプログラムは、生物学及び材料科学の研究、医学校、私設研究所、又は新しいポリマー材料を開発する化学物質会社を含む。使用は、生物工学及び製薬の分野での研究機関を含むようにも拡大する可能性が高い。
【0164】
図13は、電子ビーム像内の位相コントラストを増強する方法の流れ図である。本方法は、透過電子顕微鏡と光キャビティとレーザとを用いて実施することができる。
【0165】
アクション1302では、透過電子顕微鏡内で電子ビームを発生させる。アクション1304では、電子ビームを第1のミラーと第2のミラーとによって定められて透過電子顕微鏡の後焦点面に位置決めされた光キャビティの中心を通る軸線に沿って受け入れる。
【0166】
アクション1306では、レーザビームを光キャビティに受け入れる。レーザビームは、第1のミラー及び第2のミラーから反射されて定常波光位相板を発生させる。定常波光位相板は、後焦点面にフォーカスされて電子ビームの変調を引き起こす。
【0167】
アクション1308では、第1のミラー又は第2のミラーの角度又は位置を調節可能懸架器内の圧電アクチュエータを用いて調節する。アクション1310では、電子ビームを透過電子顕微鏡の像平面に結像する。像平面は、定常波光位相板によって変調された電子ビームを受け入れるように位置決めされる。
【0168】
図14~
図16を参照して下記で説明する実施形態は、ポンデロモーティブ位相板に使用される光の偏光状態の制御によってポンデロモーティブ位相板の空間プロファイルを制御することを可能にすることによってポンデロモーティブ位相板の機能を拡張する。透過電子顕微鏡撮像の状況では、この制御を用いて、位相板内の電子回折に起因する像アーチファクトの存在を排除することができる。同じ理由から、一実施形態では、この制御を切換可能電子ビームスプリッタとして使用することができる。本明細書に説明する様々な実施形態及びその変形は、位相板の空間プロファイルに対して類似の制御を提供する。
【0169】
ポンデロモーティブ位相板の空間プロファイルは、光が発生させるポンデロモーティブポテンシャルの空間プロファイルからもたらされる。しかし、ポンデロモーティブポテンシャルの空間プロファイルは、光の強度に依存するだけでなく、入射荷電粒子(例えば、電子)が光の速度のかなりの割合を有する時は光の偏光状態にも依存する。特に、偏光角を回転させることによって位相板の定常波の深さを変更することができる。光の速度の1/sqrt(2)倍よりも大きい速度を有する粒子では、定常波の深さをゼロにすることができる。
【0170】
位相板の定常波構造は通過粒子を回折するので、本明細書に説明する実施形態を用いて位相板内で発生する回折量を制御することができる。透過電子顕微鏡撮像に位相板を使用する時は、電子回折効果を排除することは、電子回折に起因する像アーチファクトの存在を排除するので望ましいとすることができる。電子回折効果の排除は、位相板の空間プロファイルがそれほど急激に変化しなくなるので、電子ビームを位相板に対して位置合わせする処理を容易で迅速にすることができる。定常波の深さを制御することにより、位相コントラスト透過電子顕微鏡のための位相板によって施される像コントラスト増強の量を調節する電子ビームに与えられる最大位相シフトを制御する方法も提供する。試料に関するデータをより正確に再構成するために、様々な実施形態を用いて通常のデータ収集中に2つの位相板プロファイル(定常波を有するか又は持たない)の間で切り換えを行うことを有利とすることができる。
【0171】
別の用途は、定常波構造を光の偏光状態を変更することができるのと同程度に高速に有効及び無効にすることができることに起因して切換可能電子ビームスプリッタ(又はビームスプリッタ)としての用途である。一実施形態は、レーザ光の偏光を高速に切り換えるために、電子ビームに対して機能する回折効果を有効及び無効にし、その結果、ビーム分割を有効及び無効にする電気光学変調器を使用する。電気光学変調器は、透過電子顕微鏡及び下記で説明する更に別の実施形態を含むポンデロモーティブ位相板又はレーザ位相板の様々な実施形態で使用することができると考えられる。
【0172】
更に別の用途は、電子パルススライシングとしての用途である。十分に強いレーザビームは、入射電子ビームを完全に回折する。射出電子ビームのうちのいずれも、入射電子ビームと同じ方向には進まない。入射電子ビームの全ては、何らかの特定の角度で偏向させられる。デバイスがこの段階で作動しており、次いで、偏光が切り換えられた場合に、このアクションは、電子ビームをスライスする。偏光を高速に切り換える結果として電子パルススライシングがもたらされる。
【0173】
更に1つの用途は、レーザ位相板内のレーザ光の定常波の単一波腹を通してフォーカスされる電子ビームを時間的に位相変調することである。定常波の電界が最も高い場所であるこの波の波腹を通して電子ビームがフォーカスされて通過する時に、電子ビームは位相シフトを受ける。位相シフトは、レーザ光の偏光状態に依存する。偏光状態を高速に変化させることにより、電子ビームがレーザ光から受ける位相シフトの量が変化し、この変化は、レーザ光の偏光状態の変化の周波数で発生する。これは、電子ビームがある程度の距離にわたって伝播した後に電子ビームを実質的に振幅変調させる。電子ビームの隣に配置された試料は、レーザ光の偏光状態の変化の周波数でこのビームの反発パルス又は誘引パルスを受ける。そのように設計されて作動する装置は、試料の化学特性又は物質の他の特性の研究での使用に向けて電子ビームの特質を制御することができると考えられる。
【0174】
図1~
図13で説明したポンデロモーティブ位相板構成を修正し、それによってファブリー-ペロー光キャビティの中に送り込まれる光の偏光状態を電子ビーム軸線に対するいずれかの角度まで回転させることを可能にすることによって様々な実施形態を提供する。特に、一部の実施形態では、一般的な光学要素である半波長板が、キャビティの中に入力されるレーザビームの経路に挿入されて回転される。半波長板の回転又はより一般的には様々な機構を通るレーザビームの偏光角の回転は、離散事前設定値とするか又は連続範囲にわたることができ、様々な実施形態では手動制御又は自動制御することができる。
【0175】
これらの実施形態は、いくつかの理由から新しいと考えられる。第1に、ポンデロモーティブポテンシャルが高速粒子に関して偏光依存性を有するはずであるということは、この分野の専門家に対して一般的に非自明である。しかし、本発明の開示以前にコンピュータシミュレーションでこの効果の存在が確認され、潜在的な用途を説明した他の学術研究群によるいくつかの論文が存在した。第2に、本明細書に説明する実施形態は、この効果を明らかにした初めての実験であると考えられる。第3に、提案する透過電子顕微鏡での使用に向けたこの効果の適用は、これまで報告されたことがない。
【0176】
様々な実施形態は潜在的な用途を有する。本発明の最も可能性が高い営利目的用途は、位相板からの電子回折に起因する像アーチファクトを排除する方法として透過電子顕微鏡での像コントラスト増強のためのポンデロモーティブ位相板の作動でのものである。本発明のグループは、本明細書に説明するポンデロモーティブ位相板技術を更に開発するために、現在Thermo Fisher Scientificと共同研究開発契約を結ぶ過程にある。
【0177】
定常波構造をポンデロモーティブ位相板から除去する公知の競合技術は存在しない。他のタイプの位相板に優るポンデロモーティブ位相板の利点を本明細書に説明している。
【0178】
図14は、光キャビティ1424に結合された可変偏光角を有するレーザ光を特徴とする位相コントラストTEM1434の更に別の実施形態の概略的な形状を描いている。レーザ光の偏光角を変化させることにより、透過電子顕微鏡1434の像平面1428に形成される試料1404の像の像コントラスト増強が変化する。下記では、
図15A~
図15Cを参照してレーザ光の偏光角を変化させる機構を説明し、本明細書での教示に従うことで更に別の機械的、電気機械的、及び電気光学的な実施形態が難なく案出されると考えられる。一実施形態では、可変偏光角を有するレーザ1412は、偏光を変化させるのに使用される電気光学変調器を有する。
【0179】
作動時に、透過電子顕微鏡1434の電子ビーム1402は、物体平面1406にある試料1404に向けられる。電子ビーム1402の一部は、試料1404によって回折されて回折電子ビーム1436として進行する。電子ビーム1402の非回折部分は、通常、鉄芯磁気装置又は電磁場コイルで製造された対物レンズ1408によって光キャビティ1424の焦点1422上にフォーカスされる。一方、試料1404から発散した回折電子ビーム1436は、対物レンズ1408によって光キャビティ1424の焦点1422にフォーカスすることができない。
【0180】
可変偏光角を有するレーザ1412からの偏光レーザ光は、カプラ1416によって光キャビティ1424に結合され、カプラ1416は、様々な実施形態では空気、ガス、真空、又は光ファイバとすることができると考えられ、他のタイプのカプラが難なく案出されると考えられる。光キャビティ1424は、様々な実施形態では上述のように光キャビティ1424の焦点1422にレーザ光をフォーカスする2つの凹面ミラー1418、1420によって形成される。光キャビティ1424の焦点1422にある偏光レーザ光の波腹は、電子ビーム1402の変調を引き起こす。試料1404から散乱した回折電子ビーム1436の大部分は、光キャビティ1424の焦点1422を通過せず、従って、偏光レーザ光によってそれほど変調されない。
【0181】
焦点1422上にフォーカスされた電子ビーム1402の非散乱非回折部分は、フォーカスされた偏光レーザ光に起因して位相シフトを受け、それに対して光波と交差しない散乱ビーム部分は位相シフトを受けない。電子ビーム1402及び回折電子ビーム1436は、投影レンズ1426によって像平面1428に誘導され、そこで像を形成し、電子カメラ1430(あるいは、更に別の実施形態での他のセンサ)によって取り込むことができる。対物レンズ1408と同じく、投影レンズ1426も、通常は鉄芯磁気装置又は電磁場コイルで製造される。更に、電子カメラ1430は、例えば、電荷結合デバイス(CCD)又は露光ランダムアクセスメモリ(RAM)を用いてピクセルを取り込む光学電子カメラに類似する原理に基づいて機能する。非散乱ビームと散乱回折電子ビーム1436の特定の部分との間の位相シフト差は、像平面1428でポンデロモーティブ位相板1410(又はレーザ位相板)がどの程度のコントラスト増強を印加するかを決定する。
【0182】
レーザ光の偏光角を変化させることにより、最大からゼロまで調整することができる定常波構造のどれほどがポンデロモーティブ位相板1410に存在するかが影響を受ける。定常波の欠如は、結果として弱い像コントラスト増強のみをもたらすが、散乱回折電子ビーム1436からのゴースト像の存在を除去する。定常波が最大である場合に、像コントラスト増強は最大であり、従って、ゴースト像の存在も最大である。中間設定では様々な妥協点が利用可能である。電子ビームをレーザビーム波腹に対して位置合わせすることをもたらすのは困難である場合があるので、「ゴースト」像が排除されるようにレーザ偏光角を設定することの1つの潜在的な副次効果は、そのような位置合わせを容易にすることができることである。一実施形態では、そのような位置合わせは、位相コントラスト像を生成するのに有利である。そのような利点は、本明細書で特筆する他の利益とは無関係である場合があることに注意されたい。
【0183】
図15Aは、位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態でのレーザ光の偏光角を変化させるための回転器1504を有する半波長板1502を描いている。レーザ1503からの偏光レーザ光は、通過する偏光光の位相角に影響を及ぼす複屈折材料で製造された半波長板1502を通過する。回転器1504は、半波長板1502の回転角を設定し、従って、偏光レーザ光の位相角を設定する。回転器1504は、半波長板との摩擦機構、半波長板上のギヤ歯に係合するギヤ歯機構、ベルト駆動機構、又は更に別の機構を有し、例えば、シャフト又はノブを用いて手動で設定するか又はモータ、例えば、ステッパモータ又は他の電気モータによって作動させることができると考えられるダイヤルとして実施することができる。モータ駆動回転器1504は、例えば、スイッチ又はボタンによって手動で制御することができると考えられ、又は
図16に示すように、例えば、フィードバック経路及びコントローラによって自動的に制御することができると考えられる。
【0184】
図15Bは、位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態でのレーザ光の偏光角を変化させるための回転器1512を有する光ファイバカプラを描いている。光ファイバカプラのカラー1506は、光ファイバのファイバ1508又はケーブルを偏光レーザ光を有するレーザ1503に固定する。光ファイバのファイバ1508又はケーブルの他端にある別のカラー1510は、回転器1512によって回転され、この回転は、光ファイバのファイバ1508又はケーブルのこの末端部分をレーザ1503に固定された端部に対して回転させ、それによってレーザ1503からの偏光レーザ光の偏光角を回転させる。
図15Aでの回転器1504に類似する手動、モータ駆動、又は自動の制御に関して回転器1512をどのように実施することができるかに対して多くの可能性が存在する。
【0185】
図15Cは、位相コントラストTEMの実施形態及びポンデロモーティブ位相板の実施形態での偏光レーザ光とその偏光角を変化させるための回転器1516とを有するレーザ1503を描いている。レーザ1503の本体を直接回転させることにより、レーザ1503によって生成された偏光レーザ光は、本体と同じ回転角を有するようになる。
図15Aでの回転器1504と同じく回転器1516をどのように実施することができるかに対して多くの可能性が存在する。
【0186】
図16は、
図14での位相コントラストTEM1434の実施形態及びポンデロモーティブ位相板1410の実施形態での位相コントラストTEM1434又はその変形の像平面1428でのセンサ1606と、レーザ光の偏光角を制御するのに使用するためのロンチグラムを解析するコントローラ1602とを示すアクションを有する概略を描いている。ロンチグラムは、像平面1428に形成され、レーザ光の偏光角と共に変化する定常波干渉縞を有する。特定の電子速度に対する特定の偏光角では、定常波干渉縞は消失する。一実施形態では電子カメラ1430とすることができると考えられるセンサ1606は、像平面1428にある定常波干渉縞を検出し、コントローラ1602に信号を送る。コントローラ1602は、アクション1604としてロンチグラムを解析する段階、及びアクション1608として偏光角を制御する段階を含む様々なアクションを実施する。例えば、コントローラ1602内のソフトウエア、ファームウエア、又はハードウエアは、定常波干渉縞の強度及び配置を探すことができ、レーザ光の偏光角を変化させるようにモータ駆動回転器に指示し、偏光角が変化する時に定常波干渉縞の変化を解析し、回転器の位置及び関連の偏光角を定常波干渉縞の態様と相関させることができると考えられる。例えば、コントローラ1602は、定常波干渉縞が消失するという結果をもたらすレーザ光の偏光角設定を探し、この設定値及びコントローラが開発した(又はユーザが選択した)更に別の設定値を位相板プロファイルとすることができると考えられる。一実施形態では、コントローラ1602は、像内のコントラストを解析してコントラストとゴースト像との妥協点に関して、次いで、偏光角に関して最適設定値を決定することができると考えられる。
【0187】
図17は、ポンデロモーティブ位相板を有するTEMの様々な実施形態によって実行することができる透過電子顕微鏡のための方法の流れ図である。
【0188】
アクション1702では、TEMが電子ビームを発生させる。電子ビームは、試料を通過することができる。
【0189】
アクション1704では、電子ビームをポンデロモーティブ位相板の光キャビティに受け入れる。電子ビームの非回折非散乱部分を光キャビティの焦点にフォーカスさせる。
【0190】
アクション1706では、偏光レーザ光を有するレーザビームを光キャビティに入射させて定常波光位相板を形成し、電子ビームの変調を引き起こす。そうするための適切な機構及び技術に関して上記で説明した。
【0191】
アクション1708では、電子ビームをTEMの像平面に結像する。試料が使用される時に、像は、位相コントラスト透過電子顕微鏡を通して試料を示す。更に、像は、定常波干渉縞を有するロンチグラム(縮退の場合としてレーザ光の偏光傾斜した特定の設定ではゼロ振幅になる可能性がある)も示している。
【0192】
アクション1710では、レーザ光の偏光角を変化させて像のコントラスト増強を変化させる。様々な実施形態では、この変化は、手動調節又はシステムによる自動調節によって達成することができると考えられる。
【0193】
本発明の開示及びその利点を詳細に説明したが、特許請求の範囲によって定められる本発明の開示の精神及び範囲から逸脱することなく本明細書に様々な変化、置換、及び変更を加えることができることを理解しなければならない。更に、この出願の範囲は、本明細書に説明する処理、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及び段階の特定の実施形態に限定されるように意図したものではない。当業者は、本明細書に説明する対応する実施形態と実質的に同じ機能を実施するか又は実質的に同じ結果をもたらす既存又は後に開発されることになる処理、機械、製造、物質の組成、手段、方法、又は段階を本発明の開示に従って利用することができることを本発明の開示の実施形態から直ちに認めるであろう。従って、特許請求の範囲は、その範囲内にそのような処理、機械、製造、物質の組成、手段、方法、又は段階を含むように意図している。
【0194】
以上の明細書では、特定の実施形態を参照して本発明を説明した。しかし、当業者は、下記の特許請求の範囲に示す本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正及び変化を加えることができることを認めるものである。従って、本明細書及び図面は、限定的ではなく例示的意味で捉えるべきものであり、全てのそのような修正は、本発明内に含まれるように意図している。
【符号の説明】
【0195】
1302 透過電子顕微鏡内で電子ビームを発生させるアクション
1306 レーザビームを光キャビティに受け入れるアクション
1404 試料
1424 光キャビティ
1434 位相コントラストTEM