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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20250115BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20250115BHJP
   D06M 13/288 20060101ALI20250115BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/292
D06M13/288
D06M13/256
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024056224
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】足立 啓太
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特許第7251857(JP,B1)
【文献】国際公開第2024/048621(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/048622(WO,A1)
【文献】特開2018-165414(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002660(WO,A1)
【文献】特開2021-155881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の平滑剤(A)、有機亜リン酸エステル(B)、及びノニオン界面活性剤を含有し、前記有機亜リン酸エステル(B)が3つの置換基を有し、且つ、少なくとも2種類の置換基を有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
平滑剤(A):グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤。
【請求項2】
前記平滑剤(A)が、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記平滑剤(A)として、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記有機亜リン酸エステル(B)が、分子構造に芳香環を有するものである請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を合計で20質量%以上70質量%以下、及び前記有機亜リン酸エステル(B)を0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、有機スルホン酸化合物(C)を含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
下記の平滑剤(A)、有機亜リン酸エステル(B)、有機リン酸エステル化合物(D)、及びノニオン界面活性剤を含有し、前記有機リン酸エステル化合物(D)がトリエステル構造であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
平滑剤(A):グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤。
【請求項8】
前記平滑剤(A)が、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を含有する請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記平滑剤(A)として、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有する請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
前記有機亜リン酸エステル(B)が、分子構造に芳香環を有するものである請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
前記有機亜リン酸エステル(B)が3つの置換基を有し、且つ、少なくとも2種類の置換基を有する請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を合計で20質量%以上70質量%以下、及び前記有機亜リン酸エステル(B)を0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有する請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項13】
更に、有機スルホン酸化合物(C)を含有する請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を向上できる合成繊維用処理剤、及び該合成繊維用処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば合成繊維の紡糸延伸工程、仕上げ工程等において、例えば繊維の摩擦低減、帯電防止性、集束性等の観点から、繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0003】
例えば、従来、特許文献1,2に開示の合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、平滑剤として多価アルコールと一価カルボン酸のエステル等の平滑剤、チオエーテル基を有するエステル化合物、ベンゼン核が1個以上のメチル基及びターシャリーブチル基で置換されたフェノール系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤を配合して成る合成繊維用処理剤について開示する。
【0004】
特許文献2は、グリセリンと炭素数8~22の直鎖脂肪酸とがエステル結合した構造を有し、かつ該直鎖脂肪酸全体に占める炭素数16~18の直鎖脂肪酸の割合が90重量%以上である、グリセリンエステル化合物(A)と、アルコールと炭素数8~20の脂肪酸とがエステル結合した構造を有し、かつ該アルコールと該脂肪酸のうち少なくとも一方が炭素骨格に分岐構造を有する、分岐エステル化合物(B)を含む合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3488563号公報
【文献】特許第6351569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の合成繊維用処理剤は、耐熱性に劣るという問題があった。そのため、例えばタール洗浄性が悪化するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、所定の平滑剤(A)、及び有機亜リン酸エステル(B)を含有する合成繊維用処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0008】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の合成繊維用処理剤は、下記の平滑剤(A)、有機亜リン酸エステル(B)、及びノニオン界面活性剤を含有し、前記有機亜リン酸エステル(B)が3つの置換基を有し、且つ、少なくとも2種類の置換基を有することを特徴とする。
【0009】
平滑剤(A):グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤。
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を含有する。
【0010】
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)として、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有する。
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機亜リン酸エステル(B)が、分子構造に芳香環を有するものである。
【0011】
態様は、態様1~のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を合計で20質量%以上70質量%以下、及び前記有機亜リン酸エステル(B)を0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有する。
【0012】
態様は、態様1~のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、有機スルホン酸化合物(C)を含有する。
態様7の合成繊維用処理剤は、下記の平滑剤(A)、有機亜リン酸エステル(B)、有機リン酸エステル化合物(D)、及びノニオン界面活性剤を含有し、前記有機リン酸エステル化合物(D)がトリエステル構造であることを特徴とする。
【0013】
平滑剤(A):グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤。
態様8は、態様7に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を含有する。
【0014】
態様9は、態様7又は8に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)として、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有する。
態様10は、態様7~9のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機亜リン酸エステル(B)が、分子構造に芳香環を有するものである。
【0015】
態様11は、態様7~10のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機亜リン酸エステル(B)が3つの置換基を有し、且つ、少なくとも2種類の置換基を有する。
【0016】
態様12は、態様7~11のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を合計で20質量%以上70質量%以下、及び前記有機亜リン酸エステル(B)を0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有する。
【0017】
態様13は、態様7~12のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、有機スルホン酸化合物(C)を含有する。
態様14の合成繊維は、態様1~13のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、合成繊維用処理剤の耐熱性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記の平滑剤(A)、有機亜リン酸エステル(B)、及びノニオン界面活性剤を含有する。処理剤は、さらに有機スルホン酸化合物(C)、有機リン酸エステル化合物(D)を含有してもよい。
【0020】
(平滑剤(A))
本実施形態において供される平滑剤(A)としては、グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤である。
【0021】
グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、シクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。
【0022】
グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)の具体例としては、例えばグリセリントリオレアート、天然油脂としてパーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油、牛脂等が挙げられる。
【0023】
トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、トリメチロールプロパントリパーム核脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0024】
平滑剤(A)は、グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)の両方を含有することが好ましい。かかる成分を併用することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特にタール洗浄性を向上できる。
【0025】
平滑剤(A)は、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有することが好ましい。平滑剤(A)が、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に走行糸の張力の上昇を抑制できる。
【0026】
チオジプロピオン酸エステル(A3)の具体例としては、例えばチオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等が挙げられる。
【0027】
平滑剤(A)は、必要により更にグリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)、トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)、及びチオジプロピオン酸エステル(A3)以外のエステル化合物を配合してもよい。
【0028】
エステル化合物の具体例としては、例えば(1)2-エチルヘキシルステアラート、オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、ペンタエリスリトールテトラオクタート、ペンタエリスリトールテトラデカノアート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物等が挙げられる。
【0029】
これらの平滑剤(A)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤の不揮発分中に、グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)の含有割合の合計の下限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。かかる含有量が10質量%以上の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。処理剤の不揮発分中に、グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)の含有割合の合計の上限は、適宜設定されるが、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。かかる含有量が70質量%以下の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。また、不揮発分とは、処理剤を105℃で2時間熱処理して揮発性成分を十分に除去したものをいう。以下、不揮発分の定義は、同じ条件を採用するものとする。
【0030】
処理剤の不揮発分中におけるチオジプロピオン酸エステル(A3)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。かかる含有量が1質量%以上の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に走行糸の張力の上昇をより抑制できる。処理剤の不揮発分中におけるチオジプロピオン酸エステル(A3)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。かかる含有量が10質量%以下の場合、効率的に処理剤の耐熱性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0031】
(有機亜リン酸エステル(B))
本実施形態において供される有機亜リン酸エステル(B)により、処理剤の耐熱性を向上できる。有機亜リン酸エステル(B)は、亜リン酸(P(OH))に有機基(R:置換基)を有するリン酸化合物(P(OR))である。
【0032】
有機亜リン酸エステル(B)を構成する置換基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらの中で有機亜リン酸エステル(B)は、分子構造に芳香環を有するものであることが好ましい。かかる構成を適用することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、タール洗浄性をより向上できる。
【0033】
有機亜リン酸エステル(B)は、1分子内において、置換基が複数存在する場合、置換基は同一であっても異なっていてもよい。また、モノエステル体であっても、ジエステル体であっても、トリエステル体であってもよい。これらの中で、有機亜リン酸エステル(B)は、3つの置換基を有し、且つ、少なくとも2種類の置換基を有することが好ましい。加えて、少なくとも2種類の置換基を有する場合、構造異性体の関係にない少なくとも2種類の置換基であることがより好ましい。つまり、有機亜リン酸エステル(B)は、炭素数の異なる2種類以上の置換基を有することがより好ましい。更に有機亜リン酸エステル(B)は、分子中にリン原子1つを有する亜リン酸エステルであることが好ましい。かかる構成を適用することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、走行糸の張力の上昇をより抑制できる。
【0034】
炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。
【0035】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。
【0036】
炭化水素基を構成する炭素数としては、特に限定されず、例えば1以上30以下が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、芳香環として単環、縮合環を有する炭化水素基であれば、特に限定されず、例えばフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、アルキルフェニル基等のアリール基等が挙げられる。
【0037】
有機亜リン酸エステル(B)の具体例としては、例えば2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェニルと、4-(1,1-ジメチルプロピル)フェニルの2種の置換基を有する亜リン酸エステル、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリス(2-エチルへキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(デシル/ラウリル=1/1)ホスファイト、トリオレイルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、テトラ(炭素原子数12~15のアルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニールジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、トリステアリルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0038】
これらの有機亜リン酸エステル(B)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤の不揮発分中における有機亜リン酸エステル(B)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかる含有量が0.05質量%以上の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。処理剤の不揮発分中における有機亜リン酸エステル(B)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。かかる含有量が10質量%以下の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、走行糸の張力の上昇をより抑制できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0039】
処理剤の不揮発分中におけるグリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を合計で20質量%以上70質量%以下、及び有機亜リン酸エステル(B)を0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。
【0040】
(有機スルホン酸化合物(C))
本実施形態の処理剤は、更に、有機スルホン酸化合物(C)を含有してもよい。処理剤が有機スルホン酸化合物(C)を含有することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、走行糸の張力の上昇をより抑制できる。
【0041】
本実施形態の処理剤に供される有機スルホン酸化合物(C)としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族スルホコハク酸、芳香族スルホン酸、又はそれらの塩等が挙げられる。
有機スルホン酸を構成する炭化水素基としては、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するスルホン酸の場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。
【0042】
有機スルホン酸の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ジブチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0043】
有機スルホン酸化合物(C)の具体例としては、例えばラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、二級アルキルスルホン酸(C13以上15以下)塩、二級アルキルスルホン酸(C11以上14以下)塩、二級アルキルスルホン酸(C14以上18以下)塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸(C14以上18以下)塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0044】
これらの有機スルホン酸化合物(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理剤の不揮発分中における有機スルホン酸化合物(C)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。かかる含有割合が0.1質量%以上の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、走行糸の張力の上昇をより抑制できる。有機スルホン酸化合物(C)の含有割合の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。かかる含有割合が10質量%以下の場合、効率的に処理剤の耐熱性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0045】
(有機リン酸エステル化合物(D))
本実施形態の処理剤は、更に、有機リン酸エステル化合物(D)を含有してもよい。処理剤が有機リン酸エステル化合物(D)を含有することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、タール洗浄性をより向上できる。
【0046】
有機リン酸エステル化合物(D)を構成する置換基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。有機リン酸エステル化合物(D)としては、例えばアルキルリン酸エステル、アルケニルリン酸エステル、アリールリン酸エステル、(ポリ)アルキレンオキサイド鎖を付加したアルキルリン酸エステル、アルケニルリン酸エステル、又はアリールリン酸エステル、それらの塩等が挙げられる。アルキルリン酸エステルを構成するアルキル基又はアルケニル基は、特に制限はなく、例えば、直鎖状であっても、分岐鎖構造を有するものでもよい。
【0047】
有機リン酸エステル化合物(D)は、1分子内において、置換基が複数存在する場合、置換基は同一であっても異なっていてもよい。また、モノエステル体であっても、ジエステル体であっても、トリエステル体であってもよい。これらの中で、有機リン酸エステル化合物(D)は、トリエステル構造を有することが好ましい。かかる構成を適用することにより、処理剤の耐熱性をより向上できる。特に、処理剤の発煙をより低減できる。
【0048】
アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1以上32以下が好ましく、炭素数8以上22以下がより好ましい。アルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0049】
アルケニル基の具体例としては、例えばブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、イソブテニル基、イソペンテニル基、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基等が挙げられる。
【0050】
芳香族炭化水素基としては、芳香環として単環、縮合環を有する炭化水素基であれば、特に限定されず、例えばフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、アルキルフェニル基等のアリール基等が挙げられる。
【0051】
(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが2種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0052】
有機リン酸エステル化合物(D)を構成するリン酸は、特に制限はなく、オルトリン酸であってもよいし、二リン酸等のポリリン酸であってもよい。
有機リン酸エステル化合物の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン塩、ジブチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0053】
これらの有機リン酸エステル化合物(D)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤の不揮発分中における有機リン酸エステル化合物(D)の含有割合の下限は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかる含有割合が0.01質量%以上の場合、処理剤の耐熱性をより向上できる。有機リン酸エステル化合物(D)の含有割合の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。かかる含有割合が10質量%以下の場合、効率的に処理剤の耐熱性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0054】
(ノニオン界面活性剤)
本実施形態の処理剤は、さらに製剤安定性向上の観点からノニオン界面活性剤を配合する
【0055】
ノニオン界面活性剤としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物をカルボン酸でエステル化した化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物を多価カルボン酸で架橋し、末端を1価カルボン酸でエステル化した化合物、アミン化合物として例えば一級有機アミンにアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコール等との部分エステル化合物、アミン化合物とカルボン酸類とを縮合させたアミド化合物、脂肪酸アミド類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、ポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とを有するブロック共重合体等のポリオキシアルキレン構造を有する化合物等が挙げられる。
【0056】
ノニオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソトリアコンタノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0057】
ノニオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)乳酸、クエン酸、リシノール酸等のヒドロキシカルボン酸、(6)アジピン酸、セバシン酸、トリカルバリル等の多価カルボン酸等が挙げられる。
【0058】
ノニオン界面活性剤の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上200モル以下、より好ましくは1モル以上150モル以下、さらに好ましくは2モル以上100モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0059】
ノニオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0060】
ノニオン界面活性剤の原料として用いられる脂肪族アミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0061】
ノニオン界面活性剤の原料として用いられる脂肪酸アミドの具体例としては、例えばオクチル酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド、脂肪酸とエチレンアミンとのアミド等が挙げられる。
【0062】
ノニオン界面活性剤の具体例としては、例えば硬化ひまし油に対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、硬化ひまし油に対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物をオレイン酸でエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対し、アルキレンオキサイドを付加させたものをアジピン酸で架橋し、末端をステアリン酸でエステル化した化合物、ポリエチレングリコールとオレイン酸とのジエステル、セチルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをランダム付加した化合物、ステアリルアミンにアルキレンオキサイドを付加した化合物等が挙げられる。
【0063】
これらのノニオン界面活性剤は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるノニオン界面活性剤の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。かかる含有割合が20質量%以上の場合、処理剤の安定性を向上できる。かかるノニオン界面活性剤の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。かかる含有割合が60質量%以下の場合、処理剤の安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0064】
(本実施形態の効果)
第1実施形態の処理剤の効果について説明する。
(1-1)上記第1実施形態の処理剤では、グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤、有機亜リン酸エステル(B)、並びにノニオン界面活性剤を配合して構成した。したがって、処理剤の耐熱性を向上できる。より具体的には、走行糸の張力の上昇を抑制できる。また、タール洗浄性を向上できる。また、処理剤からの発煙を低減できる。
【0065】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤の不揮発分が表面に付着している処理済み合成繊維である。処理剤が合成繊維の表面に付着することにより改質合成繊維が得られる。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈液、例えば有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。希釈溶媒には、処理剤の繊維への付着性と経済性の観点から炭素数10以上15以下の炭化水素及び/又は水を使用することが好ましい。合成繊維は、水性液等の希釈液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0066】
(合成繊維)
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0067】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下の割合(水等の溶媒を含まない割合)となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上できる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0068】
本発明において、合成繊維の用途としては、特に限定されないが、産業資材に用いられる合成繊維が好ましい。例えばエアバッグ用繊維、シートベルト用繊維、タイヤコード用繊維、カーペット用繊維、テント用繊維、広告布用繊維、漁網用繊維、コンベアベルト用繊維、ロープ用繊維等の自動車、建築、商業、農業・水産業、土木等の分野で使用される合成繊維がより好ましい。
【0069】
(本実施形態の効果)
第2実施形態の合成繊維の効果について説明する。第2実施形態では、上記実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
【0070】
(2-1)第2実施形態の合成繊維では、第1実施形態の処理剤が付着している。したがって、本発明によれば、処理剤の耐熱性が向上している。そのため、走行糸の走行性能、タール洗浄性を向上できる。それにより合成繊維の糸品質を向上できる。また、発煙を低減できる。それにより、生産環境の向上を図ることができる。
【0071】
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0072】
・上記実施形態の各処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、各処理剤等の品質保持のため、その他の成分として、溶媒、安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機酸、上記以外の界面活性剤、上記以外の平滑剤等の通常処理剤等に用いられる成分がさらに配合されてもよい。なお、溶媒以外の通常処理剤等に用いられるその他の成分は、本発明の効能を効率的に発揮する観点から各処理剤中において10質量%以下が好ましい。
【実施例
【0073】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0074】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
実施例1の処理剤は、平滑剤としてナタネ油(A1-1)を20部、パーム油(A1-2)を20部、トリメチロールプロパントリオレアート(A2-1)を15部、ジイソステアリルチオジプロピオナート(A3-2)を5部、有機亜リン酸エステル(B)として2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェニルと、4-(1,1-ジメチルプロピル)フェニルの2種の置換基を有する亜リン酸エステル(B-1)を1部、ノニオン界面活性剤として硬化ひまし油1モルに対し、エチレンオキサイド12モルを付加させた化合物(N-1)を8部、硬化ひまし油1モルに対し、エチレンオキサイド20モルを付加させたものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物(N-2)を10部、ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)とオレイン酸とのジエステル(N-4)を12部、セチルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをランダムに付加させた化合物(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(質量比)、質量平均分子量1500)(N-5)を6.8部、有機スルホン酸化合物(C)として二級アルカン(炭素数14-18)スルホン酸ナトリウム塩(C-1)を1部、有機リン酸エステル化合物(D)としてトリオレイルリン酸エステル(D-2)を0.2部、その他成分としてイソシアヌル酸トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)(E-3)1部をビーカーに加えてよく混合し、実施例1の処理剤を調製した。
【0075】
(実施例2~8,15~17,21~23、参考例9~14,18~20,24~27、比較例1~7)
実施例2~8,15~17,21~23、参考例9~14,18~20,24~27、比較例1~7の各処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0076】
各例の処理剤中における平滑剤の種類と含有量、有機亜リン酸エステル(B)の種類と含有量、ノニオン界面活性剤の種類と含有量、有機スルホン酸化合物(C)の種類と含有量、有機リン酸エステル化合物(D)の種類と含有量、その他成分の種類と含有量は、表1,2の「平滑剤(A)」欄、「有機亜リン酸エステル(B)」欄、「ノニオン界面活性剤」欄、「有機スルホン酸化合物(C)」欄、「有機リン酸エステル化合物(D)」欄、及び「その他成分」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1,2に記載する平滑剤、有機亜リン酸エステル(B)、ノニオン界面活性剤、有機スルホン酸化合物(C)、有機リン酸エステル化合物(D)、及びその他成分の詳細は以下のとおりである。
【0080】
<平滑剤>
(グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1))
A1-1:ナタネ油
A1-2:パーム油
(トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2))
A2-1:トリメチロールプロパントリオレアート
A2-2:トリメチロールプロパントリパーム核脂肪酸エステル
(チオジプロピオン酸エステル(A3))
A3-1:ジオレイルチオジプロピオナート
A3-2:ジイソステアリルチオジプロピオナート
(その他の平滑剤)
A4-1:オレイルオレアート
A4-2:ペンタエリスリトールテトラデカノアート
a1-1:グリセリンジオレアート
(有機亜リン酸エステル(B))
B-1:2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェニルと、4-(1,1-ジメチルプロピル)フェニルの2種の置換基を有する亜リン酸エステル(商品名:ETHAFLOW 6705、SI Group社製)
B-2:トリスノニルフェニルホスファイト(商品名:JP-351、城北化学社製)
B-3:トリオレイルホスファイト(商品名:JP-318-O、城北化学社製)
(ノニオン界面活性剤)
N-1:硬化ひまし油1モルに対し、エチレンオキサイド12モルを付加させた化合物
N-2:硬化ひまし油1モルに対し、エチレンオキサイド20モルを付加させたものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
N-3:硬化ひまし油1モルに対し、エチレンオキサイド25モルを付加させたものをアジピン酸0.5モルで架橋し、末端をステアリン酸1モルでエステル化した化合物
N-4:ポリエチレングリコール(質量平均分子量400)とオレイン酸とのジエステル
N-5:セチルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドをランダムに付加させた化合物(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(質量比)、質量平均分子量1500)
N-6:ステアリルアミン1モルに対し、エチレンオキサイド10モルを付加させた化合物
(有機スルホン酸化合物(C))
C-1:二級アルカン(炭素数14-18)スルホン酸ナトリウム塩
C-2:α-オレフィン(炭素数14-18)スルホン酸ナトリウム塩
(有機リン酸エステル化合物(D))
D-1:トリフェニルリン酸エステル
D-2:トリオレイルリン酸エステル
D-3:オレイル(エチレンオキサイド3モル)リン酸エステルのジエタノールアミン塩
(その他成分)
E-1:ジメチルシリコーン(25℃における動粘度10mm/s)
E-2:オレイン酸カリウム塩
E-3:イソシアヌル酸トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)
試験区分2(張力上昇時間の評価)
各種調製した各処理剤を必要に応じてイオン交換水又は有機溶剤の希釈剤にて均一に希釈し、15%溶液とした。1100デシテックス、192フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、前記の溶液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付与量3.0%となるように付与し、希釈剤を乾燥させ試験糸とした。試験糸を、初期張力2.0kg、糸速度0.1m/分で、表面温度250℃の梨地クロムピンに接触し走行させ、糸の張力値を測定した。走行20分後の張力値から20%上昇した時点での走行時間を記録し、次の基準で評価した。結果を表1,2の「張力上昇時間」欄に示す。
【0081】
・張力上昇時間の評価基準
5(非常に優れる):8時間以上
4(優れる):6時間以上8時間未満
3(良好):4時間以上6時間未満
2(可):2時間以上4時間未満
1(不可):2時間未満
試験区分3(タール洗浄性の評価)
試験区分2の張力上昇の評価と同条件において、走行から12時間後の梨地クロムピン上に発生した汚れを、5%水酸化ナトリウムグリセリン溶液にしみ込ませた綿棒でふき取り、その洗浄性を、次の基準で評価した。結果を表1,2の「タール洗浄性」欄に示す。
【0082】
・タール洗浄性の評価基準
5(非常に優れる):10回未満のふき取りで、汚れをふき取ることができる場合
4(優れる):10回以上50回未満のふき取りにより、汚れをふき取ることができる場合
3(良好):50回以上100回未満のふき取りにより、汚れをふき取ることができる場合
2(可):100回以上200回未満のふき取りにより、汚れをふき取ることができる場合
1(不可):200回以上のふき取りによっても、汚れをふき取ることができない場合
試験区分4(発煙の評価)
調製した各処理剤について、下記に示す加熱した傾斜板を利用して発煙が生ずるかを観察した。ヒーター上に45°に傾斜させたステンレス製の板(傾斜板)を設置し、表面温度を240℃に設定した。板上端から吐出量0.5mL/分の量で処理剤を滴下し、板下端で回収した。目視にて傾斜板上の発煙量を次の基準で評価した。結果を表1,2の「発煙」欄に示す。
【0083】
・発煙の評価基準
5(非常に優れる):発煙がほとんど観察されない場合
4(優れる):発煙がごく微量に観察される場合
3(良好):発煙が微量に観察される場合
2(可):発煙が少量観察される場合
1(不可):発煙が多量観察される場合
上記表の結果から、本発明の処理剤によれば、耐熱性を向上できる。より具体的には、走行糸の張力の上昇を抑制できる。また、タール洗浄性を向上できる。また、発煙を低減できる。
【0084】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
態様1の合成繊維用処理剤は、下記の平滑剤(A)、及び有機亜リン酸エステル(B)を含有することを特徴とする。
【0085】
平滑剤(A):グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する平滑剤。
態様2は、態様1に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を含有する。
【0086】
態様3は、態様1又は2に記載の合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)として、更にチオジプロピオン酸エステル(A3)を含有する。
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機亜リン酸エステル(B)が、分子構造に芳香環を有するものである。
【0087】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機亜リン酸エステル(B)が3つの置換基を有し、且つ、少なくとも2種類の置換基を有する。
【0088】
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の不揮発分中に、前記グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及び前記トリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)を合計で20質量%以上70質量%以下、及び前記有機亜リン酸エステル(B)を0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有する。
【0089】
態様7は、態様1~6のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、有機スルホン酸化合物(C)を含有する。
態様8は、態様1~7のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤において、更に、有機リン酸エステル化合物(D)を含有する。
【0090】
態様9は、態様8に記載の合成繊維用処理剤において、前記有機リン酸エステル化合物(D)がトリエステル構造である。
態様10の合成繊維は、態様1~9のいずれか一態様に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【要約】
【課題】耐熱性を向上できる合成繊維用処理剤、及び合成繊維を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用処理剤は、下記の平滑剤(A)、及び有機亜リン酸エステル(B)を含有することを特徴とする。平滑剤(A)は、グリセリンのトリ脂肪酸エステル(A1)及びトリメチロールプロパンのトリ脂肪酸エステル(A2)から選ばれる少なくとも一つを含有する。
【選択図】なし