(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】吸着材複合粒子
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20250115BHJP
【FI】
B01J20/06 C
(21)【出願番号】P 2024083854
(22)【出願日】2024-05-23
【審査請求日】2024-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510268004
【氏名又は名称】竹田 外美
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 外美
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-138628(JP,A)
【文献】特開平06-277504(JP,A)
【文献】特開平06-210282(JP,A)
【文献】特開昭55-031408(JP,A)
【文献】特開2001-113165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、混合セメント、特殊セメントから選ばれるセメントからなる結合材に水を加えて撹拌し、
次いで、天然砂石又は人工砂石からなる粒状担体を加えて撹拌混合することにより、粒状担体表面に結合材からなる被覆層
を形成し、
また、前記セメントの硬化反応が終了する前に、活性アルミナからなる吸着材を加えて、前記吸着材を前記結合材に接合させて吸着材複合粒子を得、
前記結合材に前記水及び前記粒状担体を加えて撹拌する際、被覆層で被覆された粒状担体同士が結合した場合において、結合材を少量ずつ加えて、結合状態を解消することにより、前記吸着材複合粒子は、それぞれが結合せずに独立した粒子とする、吸着材複合粒子
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材複合粒子、詳しくは、吸着材が配された吸着材複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃水、生活廃水、農業廃水、畜産廃水等には、リン成分等の富栄養化をもたらす成分が含まれており、これが河川、湖沼、海等に流入することにより、赤潮の発生や、アオコ等の大量発生の原因となっている。
これらの廃水は、通常、下水処理場等で処理されているが、一般的な下水処理では、窒素成分やリン成分の除去は必ずしも十分とはいえず、これらの除去を目的に、別途、処理を行う必要がある。
前記の窒素成分の除去については、生物的処理を行うことにより、窒素ガスとして大気中に放出する方法を採用することができる。
一方、リン成分は、生物処理の際に汚泥の一部となり、その後、高度処理を行うことにより処理されている。
【0003】
ところで、リンは、肥料の必須成分の一種であり、必要な成分であるが、リンの原料となるリン鉱石は、ほぼ100%輸入されており、産出国も限られている。このため、リン鉱石の価格上昇、資源枯渇等の問題が生じるおそれがある。
これに対し、国内において、下水等から除去されるリン成分を回収し、再利用することが求められている。
【0004】
下水処理におけるリン成分の除去方法としては、金属塩や石灰等の凝集剤により汚泥と共に沈殿除去する凝集沈殿法、微生物の代謝を利用し、活性汚泥の嫌気・好気条件を制御して、高濃度に濃縮吸収させる生物処理法等が挙げられる。なお、生物処理法により濃縮されたリン成分は、マグネシウムイオンと共に晶析沈殿させる晶析脱リン法により処理することができる。
【0005】
ところで、前記凝集沈殿法は、多くの凝集剤を必要とし、かつ、多量の汚泥を伴うため、これらの処理が必要となる。また、前記生物処理法は、細かな溶存酸素濃度の管理や最終沈殿池における汚泥管理が必要となり、さらに、高リン含有率の汚泥の処理が必要となる。
これらの方法は、汚泥からリン成分を回収する必要があり、また、そのためのコストもかかってしまう。
【0006】
これらの問題点に対し、吸着材に吸着させる吸着法が提案されている。吸着法は、リン成分を吸着する性質を有する材を用いることにより、リン成分をその吸着材に吸着・固定化させ、下水等から取り出す方法であり、このリン成分を吸着・固定化させた吸着材からリン成分を脱離させることにより、リン成分を効率よく回収することが可能となる。
【0007】
このようなリン成分の吸着材として、ニッケルの水酸化物又はニッケルとその他の金属の共沈水酸化物を焼成して得られる粒子状のリン吸着材が知られている(特許文献1)。ただ、この粒子におけるリン成分の吸着は、吸着材表面のみで行われており、粒子内部はリン成分の吸着に寄与していない。
【0008】
これに対し、リン吸着性微粒子、カルシウム塩、水及び高吸水性高分子を混練し、造粒した多孔性の粒状リン吸着材が知られている(特許文献2)。この粒状リン吸着材は多孔性であるため、吸着材表面のリン吸着性微粒子だけでなく、吸着材内部のリン吸着性微粒子もリン成分の吸着のために有効に利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-202453号公報
【文献】特開平9-141253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の吸着材は、カルシウム塩によりゲル硬化を生じさせたものであり、十分な強度を有しているとはいえず、リン成分を吸着させるために使用する際、破砕が生じるおそれがある。破砕が生じると、構成成分の1種である高吸水性高分子は、COD、BOD上昇の要因の1つとなる可能性があり、汚泥処理の負荷増加の要因となるおそれがある。
【0011】
また、リン吸着材として種々のものが提案されているが、吸着材を用いるときの利便性から、粒状物とすることが求められている。粒状物とする場合、粘結材を加えて造粒するするか、固化させた塊状物を破砕して粒状物とする方法が知られているが、これらの方法では、得られる粒状物の大きさが揃っていないため、使用する際に求められる大きさの粒状物を揃えるためには、より多くの粒状物が必要となり、効率、すなわち、歩留まりが悪く、コスト高となる。
【0012】
そこで、本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、リン成分の吸着機能を有する成分を有効に利用し、得られる吸着材複合粒子の大きさを効率よく、すなわち、歩留まりよく揃えることができ、内部の吸着に寄与しない吸着材が存在しないようにすると共に、コスト面でも良好となり、かつ、十分な強度を有するリン成分の吸着材複合粒子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討した結果、粒状担体の表面に結合材を介してリン成分を吸着し得る吸着成分を配した吸着材を用いることにより、前記の課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0014】
[1]粒状担体表面に結合材からなる被覆層が配され、この被覆層に吸着材が配された吸着材複合粒子。
[2]前記粒状担体は、天然砂石又は人工砂石である[1]に記載の吸着材複合粒子。
[3]前記結合材は、ポルトランドセメント、混合セメント、特殊セメントから選ばれるセメントである[1]又は[2]に記載の吸着材複合粒子。
[4]前記吸着材は、リン成分を吸着する材である[1]又は[2]に記載の吸着材複合粒子。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる吸着材複合粒子は、粒状担体の表面に結合材からなる被覆層を配し、この被覆層に吸着材を配するので、吸着材は、吸着材複合粒子の表面部に配され、そのほとんどをリン成分等の吸着対象物質の吸着に用いることができる。さらに、粒状担体の大きさを揃えることが容易なので、得られる吸着材複合粒子の大きさを、求める大きさに揃えることが容易となる。そして、大きさの揃った吸着材複合粒子を容易に得ることができるので、吸着効率をより向上させることができ、かつ、大きさの異なる吸着材複合粒子の製造を抑えることができるので省資源となり、また、不要なコストをかけなくて済む。
また、吸着材複合粒子は、粒状担体の表面に結合材を配したものであり、粒状担体として天然砂や人工砂を用い、結合材として、セメント等を用いるので、吸着材複合粒子は、水中等で互いに衝突しても破砕や割れ等が生じにくくなり、繰り返し使用に耐えることのできる程度に十分な強度を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本願発明について詳細に説明する。
本願発明にかかる吸着材複合粒子(以下、単に「複合粒子」と称することがある。)は、粒状担体の表面に結合材からなる被覆層が配され、この被覆層に吸着材が配された複合粒子である。
【0017】
前記粒状担体とは、基材となる粒状物の担体であり、粒状であれば、特に限定されない。この粒状担体の大きさは、特に限定されないが、粒状担体の大きさを所定の範囲内、具体的には、基準とする粒径の±30%以内、好ましくは基準とする粒径の±20%以内に揃えることが好ましい。この範囲内とすると、本発明にかかる複合粒子の大きさを同様の範囲内に揃えることが可能となり、吸着効率をあげることが可能となる。なお、粒状担体の大きさを前記範囲内とする方法としては、篩を用いる方法があげられる。この方法により、効率よく、すなわち、歩留まりよく、目的の大きさの範囲の複合粒子を得ることができる。
なお、本発明にかかる複合粒子の大きさを同様の範囲内に揃えることにより、吸着効率をあげることが可能となるのは、複合粒子間に十分で均一な隙間を確保することができ、その隙間にリン成分含有水が均等に入ることが可能となるので、リン成分を吸着させる場を均等に確保できるためである。すなわち、リン成分含有水の流れに対してムラがなく、いずれの複合粒子も同じような吸着条件を得ることができるためであると、考えられる。
【0018】
この粒状担体としては、天然砂石、人工砂石、金属粒子や金属酸化物粒子等が挙げられるが、この中でも、入手の容易な天然砂石や、廃棄物利用の観点からの人工砂石が好ましい。
前記天然砂石とは、自然界で、岩石が破砕されてできた砂や石、礫をいい、例えば、硅砂等があげられる。また、前記人工砂石とは、天然で採取できる岩石を人工的に砕いた砂、石、礫等や、廃棄物を1300℃以上に加熱し、廃棄物中の有機物を熱分解させたり、ガス化させたり、燃焼させたりした後、得られた無機物等の残存物を溶融させた後、冷却固化して得られたガラス質状又は結晶質の固化物からなる粒状物をいう。
【0019】
前記結合材とは、前記粒状担体の表面に被覆して被覆層とすることができる材をいい、前記結合材と前記吸着材とを接合させる接合効果を有する。
このような、結合材としては、無機系結合材や有機系結合材があげられる。前記無機系結合材としては、セメント等があげられ、有機系結合材としては、有機系の接着剤等が挙げられる。これらの中でも、得られる複合粒子の使用後、廃棄される可能性の観点から、無機系結合材が好ましい。
前記セメントとは、セメントクリンカー及び石膏(硫酸カルシウム)を含む水硬性の粉砕物をいい、ポルトランドセメント、混合セメント、特殊セメント等が挙げられる。なお、セメントクリンカーとは、エーライト(ケイ酸三カルシウム)、ビーライト(ケイ酸二カルシウム)、アルミネート(カルシウムアルミネート)等をいう。
ポルトランドセメントは、主に前記セメントクリンカー及び石膏を有するセメントであり、混合セメントは、これらに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材等を加えたセメントをいう。
また、前記特殊セメントとしては、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、コロイドセメント、油井セメント、低発熱セメント等が挙げられ、これらの中でも、水を加えることで、加熱を必要とせず、かつ、自然硬化反応が生じるセメントを好ましく用いることができる。
なお、ポルトランドセメント、混合セメントは、水を加えることにより、加熱を必要とせず、かつ、自然硬化反応が生じるセメントである。
【0020】
前記吸着材とは、リン成分を吸着することのできる材(リン成分吸着材)をいい、多孔性のアルミナ(活性アルミナ)、酸化コバルト、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
この吸着材の大きさは、前記粒状担体に前記結合材を介して接合するので、前記粒状担体より小さいことが好ましい。具体的には、0.1mm以下がよい。0.1mm以下とすることにより、吸着能を十分に保持した状態を維持できると共に、多くの吸着材を前記結合材を介して前記粒状担体の表面に接合させることができ、十分な吸着効果を発揮することができる。この吸着材は、粉状のものや粒状のものがある。粉状の吸着材は、そのまま使用できるが、必要に応じて、篩にかけてもよい。また、粒状の吸着材や粉状であっても、粉の粒径が少し大きめの場合は、粉砕し、篩にかけることにより得ることができる。
なお、リン成分とは、リン原子を含む原子又は化合物をいい、リン原子や、オルトリン酸等のリン酸、リン酸塩、有機リン化合物等が挙げられる。
【0021】
次に、この発明に係る複合粒子の製造方法について説明する。
まず、結合材について、接着性が発現した状態にする。具体的には、セメントを用いた場合は、セメントに水を加えて硬化反応が生じた状態にする。
次いで、粒状担体をそこに加え、撹拌混合を行い、粒状担体の表面に結合材からなる被覆層を形成させる。
次いで、前記結合材の接合性が保持されている状態、例えば結合材がセメントの場合は、セメントの硬化反応が終了する前に、吸着材を加えて撹拌混合を行い、前記吸着材を前記結合材に接合させる。これにより、複合粒子を製造することができる。
【0022】
製造方法の具体例として、粒状担体として天然砂石、結合材としてポルトランドセメント(以下、単に「セメント」と称することがある。)、吸着材として活性アルミナ粉を用いた例を用いて説明する。
まず、セメントに水を加え、撹拌する。次いで、天然砂石を加え、撹拌混合し、天然砂石の表面にセメントを被覆する。
セメントに加える水の量は、水の量が多すぎると、天然砂石を加えて攪拌混合するとき、天然砂石の粒子同士がセメントによって結合するおそれがある。一方、水の量が少なすぎると、水に濡れないセメント粉末が生じ、十分な硬化反応を生じさせ難くなる。これらから、水の量は、水に濡れないセメント粉末が生じず、かつ、天然砂石の粒子同士がセメントによって結合しない程度の量とすることが好ましい。具体的には、使用する天然砂石の量にもよるが、40重量%以上60重量%以下が好ましい。
なお、天然砂石の粒子同士がセメントによって結合した場合は、乾燥状態のセメント粉末を少量加えて撹拌することにより、結合状態を解除でき、単一の複合粒子の集合体を得ることができる。
【0023】
天然砂石に対するセメントの量は、天然砂石の表面に被覆したいセメントの量に合わせて設定することができる。たとえば、天然砂石の10重量%のセメントを被覆したい場合は、天然砂石の10重量%に相当するセメントに適量の水を加えて撹拌混合し、次いで、天然砂石を加えて撹拌混合することにより、それぞれが結合せずに独立した複合粒子(セメント量が砂石の10重量%)を得ることができる。なお、天然砂石の粒子同士がセメントによって結合した状態となり、少量のセメント粉末を加えて結合を外した場合は、結合解除のために用いた少量のセメント粉末の量も、使用したセメントの量に含まれる。
天然砂石に対するセメントの被覆量は、天然砂石に対し、5重量%以上がよく、7重量%以上が好ましい。また、30重量%以下がよく、25重量%以下が好ましい。この範囲内とすることにより、十分な前記吸着材を前記被覆層に配することができ、得られる複合粒子のリン成分の吸着効果を十分に発揮することができる。
【0024】
活性アルミナの使用量は、使用する天然砂石に対し、3重量%以上がよく、5重量%以上が好ましい。また、30重量%以下が好ましく、20重量%以下が好ましい。この範囲内とすることにより、全ての活性アルミナが前記被覆層に配することができ、また、得られる複合粒子のリン成分の吸着効果を十分に発揮することができる。
【0025】
この発明にかかる複合粒子は、リン成分の吸着後、リン成分を脱離させることにより、吸着能を再生することができ、再度使用することができる。
再生方法としては、2重量%~4重量%の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液に接触させ、リン成分を脱離させる方法を挙げることができる。
また、複合粒子のリン成分の吸着効果が低下した場合、複合粒子の表面を表面磨鉱機械等により被膜層及び吸着材を除去することにより、粒状担体を回収し、再度、結合材からなる被覆層及び吸着材を配して、複合粒子とすることにより、粒状担体の再利用を図ることができる。このため、廃棄されるのは、表面磨鉱機械等により除去された被膜層及び吸着材のみとなり、廃棄物を大幅に削減することができる。さらに、この再利用方法は、高温加熱を必要としないので、省エネルギーの観点からも有用である。
さらに、この発明にかかる複合粒子そのものが廃棄されたとしても、核となる粒状担体は、天然砂石、人工砂石のため、自然に戻すことができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明する。
【0027】
[物性]
[水中のリン濃度の測定]
JIS K-0102のモリブデン酸青法に従って測定した。
なお、後記するように、リン成分の吸着試験は、リン酸(キシダ化学(株)製:1級リン酸、濃度85重量%以上)を希釈して所定濃度として使用したので、含有するリン成分は、全てリン酸態リンである。このため、有機リン化合物を分解してリン酸態リンとするペルオキソ二硫酸アンモニウムによる分解工程は行っていない。
【0028】
[リン成分の吸着試験]
300mlビーカーに、所定濃度に調整したリン酸含有液100mlを入れ、所定重量の複合粒子等の吸着材試料を加えて、スターラーで所定時間撹拌した後、試験液をメンブランフィルター(PORE SIZE:0.45μm)でろ過し、得られた試験液について、前記リン濃度の測定を行った。
【0029】
[被覆層の厚みの算出]
結合材からなる被覆層の厚み(Tc)は、次の方法で算出した。
なお、粒状担体1個の半径をr、粒状担体の使用量をW重量部、粒状担体の比重をρs、結合材の比重をρc、結合材の粒状担体への被覆量を粒状担体のN重量%とした。
まず、粒状担体1個の表面積(Ss)、粒状担体1個の体積(Vs)は、
・Ss=4πr2、
・Vs=4/3×πr3、
となる。
また、W重量部の粒状担体の体積(Vw)は、
・Vw=W/ρs
である。これから、W重量部の粒状担体の全表面積(Sw)は、
・Sw={(W/ρs)/(4/3×πr3)}×4πr2、
となる。
次に、粒状担体に被覆した被覆層の厚み(Tc)は、
・Tc=被覆層の体積/被覆層の面積
である。また、被覆層の体積(Tv)は、
・Tv={W×(N/100)}/ρc、
である。
ところで、被覆層の厚み(Tc)が薄い場合、被覆層の面積は、粒状担体の表面積とみなすことができ、体積は、重さ/比重で算出できることから、被覆層の厚み(Tc)は、次の式で求めることができる。
Tc=被覆層の体積/粒状担体の表面積
=Tv/Sw
=[{W×(N/100)}/ρc]/[{(W/ρs)/(4/3×πr3)}×4πr2]
=(N・ρs・r)/(300ρc)
【0030】
[原材料]
・粒状活性アルミナ…キシダ化学(株)製:試薬(酸化アルミニウム、活性型(平均粒径5mm))
・セメント…太平洋セメント(株)製:普通ポルトランドセメント(商品名)
・硅砂…天然硅砂の粒度動静をしたもの。平均粒径2mm(粒径1.7mm~2.4mm)と平均粒径3mm(粒径2.4mm~3.4mm)の2種。
【0031】
[参考例]
[活性アルミナ粉及びセメント硬化粒の調製]
前記粒状活性アルミナを乳鉢で粉砕し、篩にかけて、0.1mm以下の活性アルミナ粉を得た。
また、前記セメント100重量部に水40重量部を加えて撹拌し、硬化させた。水分が残っている場合は、セメント粉を少しずつ加え、水に濡れていないセメント粉があるときは、水を少しずつ加え、水に濡れていないセメントや余っている水分がない状態とした。
得られた硬化物を乳鉢で粉砕し、セメント硬化粒を得た。次いで、水洗をして、未硬化のセメント成分を除去した。
【0032】
[活性アルミナ粉、粒状活性アルミナ、及びセメント硬化粒のリン成分吸着性能の確認]
50ppmリン酸100mlを調製して試験液とし、300mlビーカーに入れた。
前記試験液に、前記の活性アルミナ粉0.5g、粒状活性アルミナ0.5g、及びセメント硬化粒0.5gをそれぞれ加えて撹拌し、5分、10分、30分、1時間、及び2時間経過後の各試験液の一部を分取し、メンブランフィルターでろ過後、回収された試験液のリン濃度を測定し、撹拌時間と、試験液中のリン濃度の変化を調べた。その結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
この結果、活性アルミナ粉、粒状活性アルミナ、及びセメント硬化粒のいずれも、リン成分の吸着能を有し、かつ、リン酸との接触後、早期に吸着が始まり、1時間程度で吸着が終了していることが分かった。
また、活性アルミナ粉、粒状活性アルミナとを比較すると、同じ量を用いても、粉化することにより、表面積が増大し、吸着量が増大することがわかった。
【0035】
[粒状担体表面に結合材からなる被覆層を配した粒剤(被覆粒剤)のリン成分吸着能]
セメントに水40重量%を加えて撹拌し、ここに平均粒径2mmの硅砂100重量部を加えて撹拌混合した。このとき、水に濡れていない部分があれば、水を少量ずつ加えていき、水に濡れていない部分がなくなる状態とし、一方、セメントで被覆された硅砂同士が結合した状態となる場合は、セメント粉を少量ずつ加えて、結合状態が解消され、単一粒子の集合体となる状態とし、セメントのみからなる粒子をなくした。なお、得られた硅砂表面をセメントからなる被覆層を配した粒剤(以下、「被覆粒剤」と称する。)のセメント配合量(セメント被覆量)は、硅砂100重量部に対し、10重量部、20重量部、30重量部となるようにした。
また、前記の製法でセメント硬化粒を製造した。このセメント硬化粒は、ふるいで分取し、平均粒径2mmのものを用いた。
前記試験液(リン濃度50ppm)に、前記3種類の被覆粒剤とセメント硬化粒を5ml加えて撹拌し、60分後、120分後の試験液のリン濃度を測定した。その結果を下記表2に示す。
なお、被覆層の厚みの計算は、粒径(r)を2mm、硅砂の比重(ρs)を2.65、セメント硬化粒の比重(ρc)を1.8~2.2(セメントと水との配合比率で変化が生じるため、幅で示す。)として計算した。
【0036】
【0037】
この結果、被覆粒剤のセメント被覆量が10重量%のときのリン成分(リン酸)の吸着量が最も少ないことが分かった。また、被覆粒剤のセメント被覆量が10重量%、20重量%、30重量%に増加していっても、リン成分の吸着量は、セメント被覆量に応じた増加はみられなかった。
また、セメント硬化粒のリン成分の吸着量は、セメント被覆量が30重量%の場合の被覆粒剤のリン成分の吸着量と大差がなかった。
これらから、リン成分(リン酸)の吸着は、表面近傍で行われており、内部ではほとんど吸着は生じていないと考えられる。
【0038】
[実施例1~5]
[吸着材複合粒子の製造]
前記の被覆粒剤の製造において、セメントに水を加えて撹拌し、硅砂を加えて撹拌混合を始めた段階で、前記活性アルミナ粉を添加した以外は、被覆粒剤の製法と同様の方法で、複合粒子を製造した。
使用した硅砂の使用量は100重量部、セメントに加えた水は当初40重量%とした。また、硅砂の平均粒子径は、2mmのものと3mmのものを用いた。さらに、複合粒子へのセメント配合量(セメント被覆量)は、硅砂100重量部に対し、7重量部、15重量部となるようにした。
使用した活性アルミナ粉の量は、硅砂100重量部に対し、5重量部、10重量部とした。
前記試験液(リン濃度50ppm)に、前記の各複合粒子を5ml又は10ml加えて撹拌し、60分後、120分後の試験液のリン濃度を測定した。その結果を下記表3に示す。
なお、被覆層の厚みの計算は、粒径(r)を2mm又は3mm、硅砂の比重(ρs)を2.65、セメント硬化粒の比重(ρc)を1.8~2.2として計算した。
【0039】
[参考例1]
粒状活性アルミナ(平均粒径5mm)を用い、前記試験液(リン濃度50ppm)に、前記の粒状活性アルミナを5ml加えて撹拌し、60分後、120分後の試験液のリン濃度を測定した。その結果を下記表3に示す。
【0040】
[比較例1~4]
次に、前記の製法でセメント硬化粒を製造した。このセメント硬化粒は、ふるいで分取し、平均粒径が2mmのもの(比較例1)と平均粒径が3mmのもの(比較例3)を製造した。
また、前記の方法で2種類の被覆粒剤を製造した。1つは、硅砂の平均粒子径が2mm、セメント被覆量20重量%である(比較例2)。もう1つは、硅砂の平均粒子径が3mm、セメント被覆量10重量%である(比較例4)。
前記試験液(リン濃度50ppm)に、前記の各粒子を5ml加えて撹拌し、60分後、120分後の試験液のリン濃度を測定した。その結果を下記表3に示す。
なお、被覆層の厚みの計算は、粒径(r)を2mm又は3mm、硅砂の比重(ρs)を2.65、セメント硬化粒の比重(ρc)を1.8~2.2として計算した。
【0041】
【0042】
この結果、同じ大きさの複合粒子と活性アルミナ粉を配さない粒子(セメント硬化粒や被覆粒剤)との比較(実施例1~2と比較例1~2との比較、実施例3~4と比較例3~4との比較)から、セメント被覆量が少なくても、活性アルミナ粉を配することにより、より高いリン成分(リン酸)吸着能を示すことが分かった。
さらに、実施例1と2、実施例3と4の対比から、活性アルミナ粉の量が多いほど、より高いリン成分(リン酸)吸着能を示すことが分かった。
【0043】
また、実施例1と実施例3、実施例2と実施例4との対比から、使用する硅砂の粒子径が小さい方がリン成分(リン酸)吸着能がより高いことが分かった。これらは、使用粒子の量(体積)が同じであることから、硅砂の粒子径が小さい方が全表面積は大きい。このため、同じ量の活性アルミナ粉を用いても、全表面積の大きい方が、リン成分(リン酸)吸着能がより高くなると考えられる。
さらに粒状活性アルミナ(参考例1)と比べ、実施例1~2の複合粒子は、高いリン成分(リン酸)吸着能を示すものの、実施例3~4の複合粒子は、リン成分(リン酸)吸着能が低かった。このことから、硅砂の平均粒径の大きさが、リン成分(リン酸)吸着能に影響を与えることがわかった。
【0044】
ところで、実施例4の複合粒子の活性アルミナ量は、実施例5の複合粒子の活性アルミナ量の2倍である。一方、実施例5の使用粒子量は、実施例4の使用粒子量の2倍である。このため、実施例4と実施例5とは、同量の活性アルミナ粉を有することになるが、実施例5の方が、リン成分(リン酸)吸着能がより高いことが分かった。実施例5の方が、使用粒子量が多いので、全表面積は大きい。このため、同じ量の活性アルミナ粉を用いても、全表面積の大きい方が、リン成分(リン酸)吸着能がより高くなると考えられる。
【要約】
【課題】リン成分の吸着機能を有する成分を有効に利用し、得られる吸着材複合粒子の大きさを効率よく、すなわち、歩留まりよく揃えることができ、内部の吸着に寄与しない吸着材が存在しないようにすると共に、コスト面でも良好となり、かつ、十分な強度を有するリン成分の吸着材複合粒子を得ることを目的とする。
【解決手段】粒状担体表面に結合材からなる被覆層が配され、この被覆層に吸着材が配された吸着材複合粒子を用いる。粒状担体としては、天然砂石又は人工砂石を用いることができる。結合材としては、ポルトランドセメント、混合セメント、特殊セメントから選ばれるセメントを用いることができる。吸着材としては、リン成分を吸着する材を用いることができる。
【選択図】なし