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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】血液凝固時間測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20250115BHJP
【FI】
G01N33/86
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022504480
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008734
(87)【国際公開番号】W WO2021177452
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2020039344
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川辺 俊樹
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-086518(JP,A)
【文献】米国特許第06524861(US,B1)
【文献】萩原建一 ほか,APTT凝固波形テンプレートマッチングによる血友病A診断アルゴリズムの開発,日本血栓止血学会誌,2019年05月01日,第30巻第2号,411頁
【文献】和田英夫,APTT波形解析,日本血栓止血学会誌,2018年08月10日,第29巻第4号,第413-420頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固時間測定方法であって、
被検検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる試料についての凝固反応を計測すること、
得られた計測データから、凝固速度に関する波形の演算対象域についての加重平均時間を算出すること、及び
該加重平均時間に基づいて、該被検検体の血液凝固時間を決定すること、
を含み、
該演算対象域が、該凝固速度に関する波形における、該波形が所定の下限値以上である領域である、
方法。
【請求項2】
前記凝固速度に関する波形が、凝固反応曲線又はその相対値の1次微分曲線である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記加重平均時間が、前記凝固速度に関する波形をF(t)(tは時間)、F(t)が最大値のx%(xは、5~95の範囲で設定される所定値)であるときの時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、下記式:
【数1】
で表される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記被検検体が血漿である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記血液凝固時間が活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、又はフィブリノーゲン濃度測定での凝固時間である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の方法によって測定された被検検体の血液凝固時間に基づいて該被検検体の凝固因子濃度を測定することを含む、凝固因子濃度の測定方法。
【請求項7】
前記被検検体が血漿である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記凝固因子がフィブリノーゲンである、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記血液凝固時間がフィブリノーゲン濃度測定での凝固時間である、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固時間測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液凝固検査は、患者の血液検体に所定の試薬を添加して血液凝固時間等を測定することにより、患者の血液凝固能を診断するための検査である。血液凝固時間の典型的な例としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、トロンビン時間などがある。血液凝固検査によって患者の止血能力や線溶能力を調べることができる。血液凝固能の異常は、主に凝固時間の延長を引き起こす。例えば、凝固時間の延長は、凝固阻害薬剤の影響、凝固関与成分の減少、先天的な血液凝固因子の欠乏、後天的な凝固反応を阻害する自己抗体などを原因とする。
【0003】
近年では、血液凝固検査の自動計測を行う自動分析装置が汎用されており、血液凝固検査を簡便に実施することが可能である。例えば、ある種の自動分析装置では、血液検体に試薬を添加して得られる混合液に光を当て、得られた光量の変化に基づいて該血液検体の凝固反応を計測する。例えば、散乱光量を計測する場合、血液検体への試薬添加からある程度の時間が経過した時点で、凝固の進行により散乱光量が急激に上昇し、その後、凝固反応が終了に近づくとともに散乱光量は飽和し、プラトーに達する。このような散乱光量の時間的変化に基づいて血液凝固時間を測定することができる。
【0004】
自動分析装置による凝固時間の算出法としては、パーセント法、微分法などいくつかの手法が用いられている(特許文献1参照)。散乱光量に基づく凝固時間算出の場合、パーセント法では、典型的には、計測した散乱光量がその最大値の一定割合に達する時点までの時間を凝固時間として算出する。パーセント法は、正常検体だけでなく、低フィブリノーゲン検体、乳び検体、溶血検体などの異常検体でもかなり正確な凝固時間の算出を可能にする。その一方で、パーセント法に基づく自動分析では、低フィブリノーゲン検体などの凝固能の低い異常検体でも最大散乱光量を検出できるように検体の計測時間を長く設定する必要があるため、分析に時間がかかる。
【0005】
微分法では、典型的には、散乱光量の微分値がピーク又はその一定割合に達する時点までの時間を凝固時間として算出する。しかし、低フィブリノーゲン検体などの凝固能の低い異常検体では散乱光量の微分値に明瞭なピークがみられないことがある。また異常検体では、微分値のピークが2つ以上生じることがある。微分値曲線のフィッティングにより作成した単峰ピークの曲線に基づいて凝固時間を算出する手法が使用されることがあるが、フィッティングは検体の凝固能に関する正確な情報を損なうことがある。
【0006】
さらに、分析装置での測光データには、装置、試薬、検体の状態などに起因する様々なノイズが含まれ、それらは凝固時間の誤検出をもたらし得る。血液検体の自動分析では、ノイズの悪影響を除去して信頼性のある凝固時間を算出することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-249855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、様々な血液凝固反応曲線を示す血液検体の凝固時間を正確に測定することができる、血液凝固時間測定方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
〔1〕血液凝固時間測定方法であって、
被検検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる試料についての凝固反応を計測すること、
得られた計測データから、凝固速度に関する波形の演算対象域についての加重平均時間を算出すること、及び
該加重平均時間に基づいて、該被検検体の血液凝固時間を決定すること、
を含み、
該演算対象域が、該凝固速度に関する波形における、該波形が所定の下限値以上である領域である、
方法。
〔2〕前記凝固速度に関する波形が、凝固反応曲線又はその相対値の1次微分曲線である、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記加重平均時間が、前記凝固速度に関する波形をF(t)(tは時間)、F(t)が最大値のx%(xは、5~95の範囲で設定される所定値)であるときの時間をt1、t2(t1<t2)とするとき、下記式:
【数1】
で表される、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記被検検体が血漿である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記血液凝固時間が活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT))、フィブリノーゲン濃度測定での凝固時間である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法によって測定された被検検体の血液凝固時間に基づいて該被検検体の凝固因子濃度を測定することを含む、凝固因子濃度の測定方法。
〔7〕前記被検検体が血漿である、〔6〕記載の方法。
〔8〕前記凝固因子がフィブリノーゲンである、〔6〕又は〔7〕記載の方法。
〔9〕前記血液凝固時間がフィブリノーゲン濃度測定での凝固時間である、〔8〕記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、正常検体や異常検体を含む様々な血液凝固反応曲線を示す血液検体の凝固時間を正確に測定することができる。また自動分析装置でリアルタイムに多数の検体を分析する場合に、本発明の方法は、従来のパーセント法と比べて、1検体あたりの分析時間を短縮化することができ、分析効率を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による血液凝固時間測定方法の一実施形態の基本フロー。
図2図1に示すデータ解析工程の手順の一実施形態。
図3】凝固反応曲線の一例。
図4】前処理後の凝固反応曲線の一例。
図5】A:凝固反応曲線の一例の部分拡大図、B:前処理後の凝固反応曲線の一例の部分拡大図。
図6】補正0次曲線の一例。
図7】補正1次曲線の一例。
図8】演算対象域及び加重平均点を示す概念図。
図9】演算対象域による加重平均点の変化を示す概念図。
図10】20%演算対象域でのvT20%の、パーセント法によるAPTTに対する一次回帰直線。
図11】5~95%演算対象域でのvT(vT5%~vT95%)の、パーセント法によるAPTTに対する一次回帰直線の傾き(A)、切片(B)、及び相関係数(C)。
図12】24検体についての5~95%演算対象域での加重平均時間(vT5%~vT95%)の対照(パーセント法によるAPTT)に対する誤差。表中のグレーで示したセルは、加重平均時間と対照との差が、対照の±5%以内(A)、及び±2.5%以内(B)であることを示す。
図13】30%演算対象域でのvT30%の、パーセント法によるPTに対する一次回帰直線。
図14】5~95%演算対象域でのvT(vT5%~vT95%)の、パーセント法によるPTに対する一次回帰直線の傾き(A)、切片(B)、及び相関係数(C)。
図15】23検体についての5~95%演算対象域での加重平均時間(vT5%~vT95%)の対照(パーセント法によるPT)に対する誤差。表中のグレーで示したセルは、加重平均時間と対照との差が、対照の±5%以内(A)、及び±2.5%以内(B)であることを示す。
図16】35%演算対象域での加重平均時間による[Fbg]演算値の、パーセント法による[Fbg]演算値に対する一次回帰直線。
図17】5~95%演算対象域でのvT(vT5%~vT95%)に基づく[Fbg]演算値の、パーセント法による[Fbg]演算値に対する一次回帰直線の傾き(A)、切片(B)、及び相関係数(C)。
図18】20検体分の濃度系列検体データについての5~95%演算対象域での[Fbg]演算値の、期待値に対する誤差。表中のグレーで示したセルは、演算値と期待値との誤差が、±10%以内(A)、及び±5%以内(B)であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
血液凝固検査では、血液検体に所定の試薬を添加し、その後の血液凝固反応を計測し、凝固反応から血液凝固時間を測定する。以下の本明細書において、血液検体を検体と称する場合がある。血液凝固反応の計測には、一般的な手段、例えば、散乱光量、透過度、吸光度等を計測する光学的な手段、又は血漿の粘度を計測する力学的な手段などが用いられる。正常検体の凝固反応曲線は、計測手段に依存するが、基本的にはシグモイド形状を示す。例えば、正常検体の散乱光量に基づく凝固反応曲線は、通常、試薬添加からある程度の時間が経過した時点で凝固の進行により急激に上昇し、その後、凝固反応が終了に近づくとともにプラトーに達する。一方で、凝固異常を有する異常検体の凝固反応曲線は、曲線の立ち上がり時間の遅れ、緩やかな上昇など、異常原因に依存して様々な形状を示す。異常検体の凝固反応曲線の多様さは、自動分析装置での凝固時間の正確な測定を困難にしている。
【0013】
従来の一般的な血液凝固時間測定では、少なくとも凝固反応終了までのデータを取得し、取得したデータに基づいて凝固時間を算出する。例えば、散乱光量に基づく凝固時間算出の場合、散乱光量が飽和した時点を凝固反応終了と判断した後、試薬添加時点から凝固反応終了時点までの間で凝固反応曲線が最大速度又はその1/Nに達した時点を凝固時間として決定する手法(微分法)、凝固反応終了時点の散乱光量の1/Nに達した時点を凝固時間として決定する手法(パーセント法、特許文献1参照)、などがある。しかしながら、上述のような異常検体の凝固反応曲線の異常な形状やノイズにより、凝固反応速度のピークや凝固反応終了の誤検知が起こり、例えば、反応速度のピークや反応終了が早過ぎる時点で検知されることがある。このような誤検知は、不正確な凝固時間の算出につながる。
【0014】
自動分析装置では、多数の検体を効率よく分析するため、1つの検体について必要なデータが取得されたら速やかに計測を終了し、次の検体の計測を開始することが望まれる。しかし、こうした手法には、上述した早過ぎる時点での凝固反応終了の誤検知が、早過ぎる計測終了を招き、必要なデータの取り逃しをもたらすリスクがある。一方、一検体あたりの凝固反応計測時間を十分に長い時間に固定しておけば、凝固反応終了の誤検知によるデータ取り逃しを防止できる。しかし、こうした手法は、多くの検体にとって計測時間が必要以上に長くなるため、全体的な分析効率を低下させる。
【0015】
本発明は、上記のような凝固反応曲線の異常な形状に起因する凝固時間の誤検出を防止し、正確な凝固時間測定を可能にする。また本発明によれば、正常検体や異常検体を含む様々な血液検体に対して、それぞれの凝固時間測定に必要最低限な凝固反応計測時間を適用することができるので、1検体あたりの分析時間を短縮化することができる。
【0016】
〔血液凝固時間測定方法〕
本発明は、血液検体の血液凝固時間測定方法に関する。本発明の血液凝固時間測定方法(以下、本発明の方法ともいう)は、被検検体と凝固時間測定試薬とが混和されてなる試料についての凝固反応を計測することと、得られた計測データから、凝固速度に関する波形の所定の演算対象域についての加重平均時間を算出することを含む。本発明の方法の一実施形態を、図1を参照して説明する。本方法では、まず被検検体から試料が調製され、次いで該試料についての凝固反応計測が実行される(ステップ1)。得られた計測データが解析されて、該試料についての凝固速度に関する波形が取得され、次いで該波形の所定の演算対象域についての加重平均時間が算出される(ステップ2)。得られた加重平均時間に基づいて、被検検体の凝固時間が決定される(ステップ3)。
【0017】
1.凝固反応計測
凝固反応計測では、試薬を混合した被検検体の凝固反応を計測する。この計測で得られる凝固反応の時系列データから、血液凝固時間が測定される。本発明の方法で測定される血液凝固時間の例としては、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノーゲン濃度(Fbg)測定での凝固時間などが挙げられる。以下の本明細書においては、主に、凝固時間として活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を例に挙げて、本発明の方法を説明する。その他の凝固時間(例えばプロトロンビン時間(PT))への本発明の方法の変更は、当業者であれば実施可能である。
【0018】
本発明の方法において、被検血液検体としては、被検者の血漿が好ましく用いられる。該検体には、凝固検査に通常用いられる抗凝固剤が添加され得る。例えば、クエン酸ナトリウム入り採血管を用いて採血された後、遠心分離されることで血漿が得られる。
【0019】
該被検検体に凝固時間測定試薬が添加され、血液凝固反応を開始させる。試薬添加後の混合液の凝固反応が計測され得る。使用される凝固時間測定試薬は、測定目的に合わせて任意に選択することができる。各種凝固時間測定のための試薬は市販されている(例えば、APTT試薬コアグピア APTT-N;積水メディカル株式会社製)。凝固反応の計測には、一般的な手段、例えば、散乱光量、透過度、吸光度等を計測する光学的な手段、又は血漿の粘度を計測する力学的な手段などを用いればよい。凝固反応の反応開始時点は、典型的には、検体に試薬を混合して凝固反応を開始させた時点として定義され得るが、他のタイミングが反応開始時点として定義されてもよい。凝固反応の計測を継続する時間は、例えば、検体と試薬との混合の時点から数十秒~7分程度であり得る。この計測時間は、任意に定めた固定の値でもよいが、各検体の凝固反応の終了を検出した時点までとしてもよい。該計測時間の間、所定の間隔で凝固反応の進行状況の計測(光学的に検出する場合は測光)が繰り返し行われ得る。例えば、0.1秒間隔で計測が行われればよい。該計測中の混合液の温度は、通常の条件、例えば30℃以上40℃以下、好ましくは35℃以上39℃以下である。また、計測の各種条件は、被検検体や試薬、計測手段等に応じて適宜設定され得る。
【0020】
上述の凝固反応計測における一連の操作は、自動分析装置を用いて行うことができる。自動分析装置の一例として、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)が挙げられる。あるいは、一部の操作が手作業で行われてもよい。例えば、被検検体の調製を人間が行い、それ以降の操作は自動分析装置で行うことができる。
【0021】
2.データ解析
2.1)データの前処理及び補正処理
次に、ステップ2のデータ解析について説明する。データ解析のフローを図2に示す。ステップ2のデータ解析は、ステップ1の凝固反応計測と並行して行われてもよく、又は予め測定した凝固反応計測のデータを用いて、後から行われてもよい。好ましくは、ステップ2のデータ解析は、ステップ1の凝固反応計測と並行して行われ、被検検体の凝固時間算出に必要なデータが取得できた時点で、該検体の凝固反応計測は終了され、次の検体の凝固反応計測に移行する。
【0022】
ステップ2aにおいて、凝固反応計測での計測データが取得される。このデータは、例えば上述のステップ2でのAPTT測定で得られる試料の凝固反応過程を反映するデータである。例えば、被検検体と凝固時間測定試薬とを含む試料からの、塩化カルシウム液添加後の凝固反応の進行量(例えば散乱光量)の時間変化を示すデータが取得される。これら凝固反応計測で得られたデータを、本明細書において凝固反応情報とも称する。
【0023】
ステップ2aで取得される凝固反応情報の一例を図3に示す。図3は散乱光量に基づく凝固反応曲線であり、横軸は塩化カルシウム液の添加後の経過時間(凝固反応時間)を示し、縦軸は散乱光量を示す。時間経過とともに、混合液の凝固反応が進むため、散乱光量は増加している。本明細書では、このような凝固反応時間に対する凝固反応量の変化を示す曲線を、凝固反応曲線と称する。
【0024】
図3に示すような散乱光量に基づく凝固反応曲線は、通常、シグモイド状である。一方、透過光量に基づく凝固反応曲線は、通常、逆シグモイド状である。以降の本明細書では、凝固反応情報として散乱光量に基づく凝固反応曲線を用いたデータ解析について説明する。
【0025】
必要に応じて、凝固反応曲線には、前処理が施されていてもよい(ステップ2b)。該前処理には、ノイズを除去するための平滑化処理、又はゼロ点調整が含まれ得る。図4は、前処理(平滑化処理及びゼロ点調整)された図3の凝固反応曲線の一例を示す。平滑化処理には、公知のノイズ除去方法の何れかが用いられ得る。また図3に示すように、被検検体を含む混合液は元々光を散乱させるため、測定開始時点(時間0)での散乱光量は0より大きい。平滑化処理後のゼロ点調整により、図4に示すように時間0での散乱光量が0に調整される。図5A及びBは、それぞれ、前処理前及び後の図3の凝固反応曲線の部分拡大図を示す。図5Bでは、図5Aのデータに対して、平滑化処理及びゼロ点調整が行われている。
【0026】
凝固反応曲線の高さは、被検検体のフィブリノーゲン濃度に依存する。一方、フィブリノーゲン濃度には個人差があるため、該凝固反応曲線の高さは被検検体によって異なる。したがって、本方法では、必要に応じて、ステップ2cにおいて前処理後の凝固反応曲線を相対値化するための補正処理が行われる。該補正処理によって、フィブリノーゲン濃度に依存しない凝固反応曲線を得ることができ、それにより検体間での前処理後の凝固反応曲線の形状の差異を定量的に比較することができるようになる。
【0027】
一実施形態において、該補正処理では、前処理後の凝固反応曲線を、最大値が所定値となるように補正する。好適には、該補正処理では、下記式(1)に従って、前処理後の凝固反応曲線から補正凝固反応曲線P(t)を求める。式(1)中、D(t)は前処理後の凝固反応曲線を表し、Dmax及びDminは、それぞれD(t)の最大値及び最小値を表し、Drangeは、D(t)の変化幅(すなわちDmax-Dmin)を表し、Aは、補正凝固反応曲線の最大値を表す任意の値である。
P(t)=[(D(t)-Dmin)/Drange]×A (1)
【0028】
一例として、図6に、図4に示す凝固反応曲線が最大値100となるように補正されたデータを示す。なお、図6では補正後の値が0から100までとなるように補正したが、他の値(例えば0から10000まで、すなわち式(1)でA=10000)であってもよい。また、この補正処理は必ずしも行われなくてもよい。
【0029】
あるいは、上述のような補正処理は、後述する凝固速度に関する波形、又は該波形から抽出したパラメータに対して行われてもよい。例えば、補正処理が行われない前処理後の凝固反応曲線D(t)について凝固速度に関する波形を算出した後、これをP(t)に相当する値に変換することができる。あるいは、該凝固速度に関する波形からパラメータを抽出した後、該パラメータの値をP(t)に相当する値に変換することができる。
【0030】
本明細書においては、上記のような補正凝固反応曲線、及び補正処理なし凝固反応曲線を、それぞれ補正0次曲線、及び未補正0次曲線ともいい、またこれらを総称して「0次曲線」ともいう。また本明細書においては、該補正0次曲線、及び該未補正0次曲線の1次微分曲線を、それぞれ補正1次曲線、及び未補正1次曲線ともいい、またこれらを総称して「1次曲線」ともいう。
【0031】
2.2)凝固速度に関する波形の算出
ステップ2dでは、凝固速度に関する波形が算出される。本明細書において、該凝固速度に関する波形には、未補正1次曲線と、補正1次曲線とが含まれる。未補正1次曲線は、凝固反応曲線(未補正0次曲線)を1次微分して得られる値、すなわち任意の凝固反応時間における凝固反応量の変化率(凝固速度)を表す。補正1次曲線は、補正凝固反応曲線(補正0次曲線)を1次微分して得られる値、すなわち任意の凝固反応時間における凝固反応量の相対変化率を表す。したがって、該凝固速度に関する波形は、試料の凝固反応における凝固速度又はその相対値を表す波形であり得る。本明細書では、1次曲線で表される該凝固速度及びその相対値を含む血液凝固の進行を表す値を、1次微分値と総称することがある。凝固反応曲線又は補正凝固反応曲線(未補正及び補正0次曲線)の微分は、公知の手法を用いて行うことができる。図7は、図6に示す補正0次曲線を1次微分して得られる補正1次曲線を示す。図7の横軸は凝固反応時間を表し、縦軸は1次微分値を表す。
【0032】
2.3)パラメータの抽出
ステップ2eでは、該凝固速度に関する波形を特徴付けるパラメータの抽出が行われる。より詳細には、該パラメータの抽出工程においては、該凝固速度に関する波形から所定の演算対象域が抽出され、次いで該演算対象域についての加重平均時間が算出される。該加重平均時間に基づいて、被検検体の血液凝固時間を決定することができる(ステップ3)。該パラメータについて以下に説明する。
【0033】
まず、凝固速度に関する波形から所定の演算対象域を抽出する手順を説明する。演算対象域とは、該凝固速度に関する波形のうち、該波形が所定の下限値以上である領域をいう。より詳細には、演算対象域は、凝固速度に関する波形(1次曲線)をF(t)(t=時間)、F(t)の最大値をVmaxとしたときに、F(t)≧Vmax × x%を満たすF(t)の領域(セグメント)である。より詳細には、該演算対象域は、Vmax≧F(t)≧Vmax × x%を満たす1次曲線F(t)の領域(セグメント)である。したがって、「Vmax × x%」は演算対象域の下限値を表す。演算対象域について図8を参照して説明する。図8には、1次曲線F(t)(t=時間)、及びF(t)の最大値Vmaxが示されている。また、Vmax × x%を示す基線が点線で図示されており、F(t)=Vmax × x%となる時点t1、t2が示されている。演算対象域は、F(t)が基線以上且つVmax以下(F(t)≧Vmax × x%、t1≦t≦t2)の領域である。
【0034】
加重平均点(vT, vH)は、演算対象域の「重み付き平均値」に相当する。加重平均点での凝固反応時間(t)を加重平均時間vTとする。すなわち、加重平均時間vTは、凝固反応開始時間から加重平均点までの時間であり、加重平均点のx座標である。またvTは、演算対象域の横軸方向に対する重心である。加重平均高さvHは、加重平均点のy座標である。
【0035】
本明細書においては、所定の下限値に基づく演算対象域、及びその演算対象域に由来するvT及びvHを、該下限値のVmaxに対するパーセンテージに従って表すことがある。例えば、Vmaxのx%を下限値とする演算対象域を、「x%演算対象域」と称することがあり、また該「x%演算対象域」に由来するvT及びvHを、それぞれvTx%及びvHx%と称することがある。例えば、下限値がVmaxの20%である演算対象域は、20%演算対象域と称され、該演算対象域についてのvTは、vT20%と表される。図8には、下限値x%でのF(t)の演算対象域についての加重平均点(vTx%, vHx%)が表示されている。
【0036】
1次曲線についての加重平均時間vTと加重平均高さvHは、以下の手順で求めることができる。まず、1次曲線F(t)の最大値がVmax、演算対象域の下限値がVmaxのx%であり、F(t)≧Vmax × x%を満たす時間tのデータ群をt[t1, …t2]とする(t1<t2)。すなわち、F(t1)=Vmax × x%、F(t2)=Vmax × x%、時刻t1~t2のデータ群がt[t1, …t2](t1<t2)である。このとき、加重平均時間vT及び加重平均高さvHは、それぞれ次式(2)及び(3)で算出される。求めたvTとvHから、x%演算対象域についての加重平均点(vTx%, vHx%)が導かれる。
【0037】
【数2】
【0038】
演算対象域の下限値は、Vmaxの0%より大きくVmax未満の範囲で決定することができる。演算対象域は1次曲線の形状を反映し、下限値が大きいほど、演算対象域は1次曲線のより上部の形状を反映する。本発明の方法において、凝固時間の測定に用いる加重平均時間を算出するための演算対象域の下限値(「Vmax × x%」)は、好ましくはVmaxの5~95%(すなわちx=5~95)の範囲で設定される所定値である。より詳細には、凝固時間の測定に用いる加重平均時間を算出するための演算対象域の下限値は、凝固時間がAPTTの場合、好ましくはVmaxの5~95%(x=5~95)、より好ましくはVmaxの5~50%(x=5~50)、さらに好ましくはVmaxの10~35%(x=10~35)の範囲で設定される所定値であり、凝固時間がPTの場合、好ましくはVmaxの5~95%(x=5~95)、より好ましくはVmaxの10~80%(x=10~80)、さらに好ましくはVmaxの25~50%(x=25~50)の範囲で設定される所定値である。
【0039】
図9に、1次曲線の演算対象域と、算出される加重平均点との関係を示す。図9において、上段、中段、及び下段は、下限値がそれぞれVmaxの5%、40%及び75%の場合の1次曲線の演算対象域と、加重平均点(黒丸印)を示す。演算対象域の変化に伴って、加重平均点の位置は、図9に示すように変化する。
【0040】
上述の図8、9では、補正1次曲線を例として演算対象域、及びその加重平均点について説明したが、未補正1次曲線でも同様のパラメータが算出され得る。
【0041】
3.凝固時間測定
後述の実施例に示すとおり、上記の手順で算出される加重平均時間vTは、被検検体の血液凝固時間と高い相関を有する。したがって、該加重平均時間vTに基づいて被検検体の凝固時間を決定することができる。例えば、凝固時間がAPTTやPTの場合、該加重平均時間vTを凝固時間として決定することができる。本発明の方法では、凝固反応の1次曲線の加重平均を求めることによって、単純に1次曲線のピークを検出する場合と比べて、計測ノイズや、凝固異常に起因する複峰性ピークなどの影響を受けにくい、より信頼性の高い凝固時間測定が可能になる。
【0042】
さらに、本発明の方法においては、凝固反応の1次曲線が最大値Vmaxに達した後、演算対象域の下限値(Vmax × x%)以下になったときに凝固時間を測定することが可能になる。したがって本発明の方法においては、従来のパーセント法のように凝固反応がプラトーに達するまで計測を続けなくともよい。さらに、自動分析装置により多検体を分析する場合においても、本発明の方法によれば、従来のパーセント法のように、凝固能の低い異常検体に備えて長い計測時間を設定しておく必要がない。したがって、本発明によれば、検体の分析時間を短縮化又は最適化して、分析の効率を向上させることができる。
【0043】
4.凝固因子濃度測定
通常の血液には、凝固第I~第XIII因子などの凝固因子が含まれ、これらの凝固因子の異常や欠乏は凝固能の異常をもたらす。通常、被検検体の凝固因子濃度は、凝固因子ごとの専用試薬を用いて該被検検体から調製した測定試料の凝固時間に基づいて測定することができる。したがって、本発明の方法により加重平均時間に基づいて測定された該測定試料の凝固時間を用いて、該被検検体の凝固因子濃度を測定することができる。通常、凝固因子濃度は、凝固時間と凝固因子濃度との関係を示す検量線に基づいて測定される。したがって、予め作成した検量線に、本発明の方法で測定した測定試料の凝固時間を当てはめることで、該被検検体の凝固因子濃度を測定することができる。本発明の方法で測定される凝固因子の好ましい例としては、第I因子(フィブリノーゲン)、第VIII因子、第IX因子などが挙げられる。
【0044】
本発明の方法において、凝固因子濃度の測定に用いる凝固時間(加重平均時間)を算出するための演算対象域の下限値(「Vmax × x%」)は、好ましくはVmaxの5~95%(すなわちx=5~95)の範囲で設定される所定値であり、より好ましくはVmaxの30~95%(すなわちx=30~95)、さらに好ましくはVmaxの60~75%(すなわちx=60~75)の範囲で設定される所定値である。
【0045】
5.他の凝固反応計測法への応用
以上、散乱光量に基づく凝固反応計測の場合を例として、本発明の血液凝固時間測定方法を説明した。しかしながら、当業者であれば、本発明の方法を他の凝固反応計測法(例えば透過度、吸光度、粘度などに基づく血液凝固反応計測法)を用いた血液凝固時間測定方法に応用することが可能である。例えば、透過光量に基づくような逆シグモイド状の凝固反応曲線から得られる1次曲線F(t)は、上述した散乱光量に基づくものに対して正負が逆になる。このような場合に、パラメータの計算においてF(t)の符号が逆転すること、例えば、最大値Vmaxは最小値Vminに置き換えられ、x%演算対象域はF(t)≦Vmin × x%を満たす領域であること等は、当業者に明らかである。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1 加重平均時間に基づく凝固時間(APTT)測定
1.方法
1.1)試料
被検検体として、正常血漿9検体と、APTTが延長している異常血漿15検体の合計24検体を使用した。正常血漿には、CliniSys Associates, Ltd.製のNormal Donor Plasmaを用いた。異常血漿には、凝固因子欠乏血漿(Factor Deficient Plasma)として第FVIII因子欠乏血漿、第FIX因子欠乏血漿、第FXI因子欠乏血漿及び第FXII因子欠乏血漿を各2検体、ループスアンチコアグラント陽性血漿(Lupus Anticoagulant Plasma)2検体、及び、未分画ヘパリン含有血漿(Anticoagulant Plasma)5検体を用いた(いずれも、CliniSys Associates, Ltd.製)。
【0048】
1.2)試薬
APTT試薬としてコアグピア APTT-N(積水メディカル株式会社製)を用いた。
【0049】
1.3)凝固反応計測
凝固反応計測は、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いて行った。検体50μLをキュベット(反応容器)に分注した後に37℃で45秒間加温し、次にキュベットに約37℃に加温したAPTT試薬50μLを添加し、さらに171秒経過後に塩化カルシウム液50μLを添加して凝固反応を開始させた。反応は、約37℃に維持した状態で行った。凝固反応の計測(測光)は、波長660nmのLEDライトを光源とする光をキュベットに照射し、0.1秒間隔で90度側方散乱光の散乱光量を測光することによって行った。最大計測時間は360秒(データ数3600個、0.1秒間隔)とした。
【0050】
1.4)APTT測定(パーセント法)
パーセント法により各検体のAPTTを測定した。すなわち、計測時間内で散乱光量が最大値に達した時点を凝固反応終了点として決定し、凝固反応終了点での散乱光量の50%に到達した時点をAPTTとして決定した。被検検体の種別と数、及び各種別の検体中でのAPTTの最小値及び最大値を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
1.5)凝固反応曲線の作成
各検体からの測光データに対してノイズ除去を含む平滑化処理を行った後、測光開始時点の散乱光量が0となるようにゼロ点調整処理して凝固反応曲線P(t)を算出した。続いて、凝固反応曲線の最大値Pmaxが100となるように補正し、得られた補正凝固反応曲線(補正0次曲線)を1次微分して、補正1次曲線を算出した。
【0053】
1.6)加重平均時間vTの算出
各検体から得た1次曲線から、5~95%演算対象域についての加重平均時間(vT5%~vT95%)を算出した。演算対象域の下限値x%を、1次曲線F(t)の最大高さVmax(100%)の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%及び95%の19段階に設定し、それぞれF(t)=Vmax × x%を満たす時間t1及びt2(t1<t2)を求めた。上記式(2)を用いて、24検体のそれぞれから19個の加重平均時間vT5%~vT95%を算出した。
【0054】
2.加重平均時間に基づくAPTT測定
2.1)加重平均時間とAPTTとの相関性
パーセント法によるAPTTと、加重平均時間との相関性を評価した。5~95%演算対象域についての加重平均時間(vT5%~vT95%)のそれぞれについて、パーセント法によるAPTTとの一次回帰分析を行い、回帰直線の傾き、切片、及び相関係数を求めた。
【0055】
図10に、24検体についてのパーセント法によるAPTTに対する、20%演算対象域でのvT20%の一次回帰直線を示す。vT20%は、パーセント法によるAPTTに対して高い相関を有していた。図11に、5~95%演算対象域でのvT(vT5%~vT95%)のパーセント法APTTに対する一次回帰直線の傾き、切片、及び相関係数を示す。5~95%演算対象域の間で、回帰直線の傾きは0.95~1.01、切片は-2.0~0.4、相関係数は0.998~1.000であった(図11A~C)。演算対象域が5%から95%までの全ての条件において、加重平均時間に基づくAPTT測定法が、厚生労働省による体外診断用医薬品承認基準「対照測定方法と比較して、相関係数0.9以上、かつ、回帰直線式の傾き0.9~1.1」を満たす性能を有することが確認された。これらの結果から、vTに基づいてAPTTを測定することができることが示された。
【0056】
2.2)測定の正確性
24検体についての5~95%演算対象域での加重平均時間を、対照(パーセント法によるAPTT)と比較した。図12ABの表の各行は、各検体の加重平均時間(vT5%~vT95%)を表し、加重平均時間と対照との差が対照の±5%以内(図12A)及び±2.5%以内(図12B)に入った場合は、グレーで表されている。5~50%演算対象域で、全ての検体の加重平均時間が±5%以内の誤差で対照と一致し、10~35%演算対象域では、全ての検体の加重平均時間が±2.5%以内の誤差で対照と一致した。
【0057】
実施例2 加重平均時間に基づく凝固時間(PT)測定
1.方法
1.1)試料
被検検体として、正常血漿9検体と、PTが延長している異常血漿14検体の合計23検体を使用した。正常血漿には、健常人血漿を用いた。異常血漿には、抗凝固薬のワーファリンが投与された患者血漿を用い、血中ワーファリン濃度を示すPT-INR値が1から2までの5検体、2から3までの5検体、及び、3から4までの4検体を用いた。
【0058】
1.2)凝固反応計測
凝固反応計測は、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いて行った。検体50μLをキュベット(反応容器)に分注した後に37℃で45秒間加温し、次にキュベットに約37℃に加温したトロンボプラスチン液100μLを添加して凝固反応を開始させた。反応は、約37℃に維持した状態で行った。凝固反応の計測(測光)は、波長660nmのLEDライトを光源とする光をキュベットに照射し、0.1秒間隔で90度側方散乱光の散乱光量を測光することによって行った。最大計測時間は300秒(データ数3000個、0.1秒間隔)とした。
【0059】
1.3)PT測定(パーセント法)
パーセント法により各検体のPTを測定した。計測時間内で散乱光量が最大値に達した時点を凝固反応終了点として決定し、凝固反応終了点での散乱光量の45%に到達した時点をPTとして決定した。被検検体の種別と数、及び各種別の検体中でのPTの最小値及び最大値を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
1.4)加重平均時間vTの算出
実施例1の1.5)及び1.6)と同様の手順で、23検体についての補正1次曲線を算出し、加重平均時間vT5%~vT95%を算出した。
【0062】
2.加重平均時間に基づくPT測定
2.1)加重平均時間とPTとの相関性
実施例1の2.1)と同様の手順で、5~95%演算対象域についての加重平均時間(vT5%~vT95%)のそれぞれについて、パーセント法により測定したPTとの一次回帰分析を行い、回帰直線の傾き、切片、及び相関係数を求めた。
【0063】
図13に、23検体についてのパーセント法によるPTに対する、30%演算対象域でのvT30%の一次回帰直線を示す。vT30%は、パーセント法によるPTに対して高い相関を有していた。図14に、5~95%演算対象域でのvT(vT5%~vT95%)のパーセント法PTに対する一次回帰直線の傾き、切片、及び相関係数を示す。5~95%演算対象域の間で、回帰直線の傾きは0.94~1.05、切片は-0.1~0.7、相関係数は全て1.000であった(図14A~C)。演算対象域が5%から95%までの全ての条件において、加重平均時間に基づくPT測定法が、厚生労働省による体外診断用医薬品承認基準「対照測定方法と比較して、相関係数0.9以上、かつ、回帰直線式の傾き0.9~1.1」を満たす性能を有することが確認された。これらの結果から、vTに基づいてPTを測定することができることが示された。
【0064】
2.2)測定の正確性
23検体についての5~95%演算対象域での加重平均時間を、対照(パーセント法によるPT)と比較した。図15ABの表の各行は、各検体の加重平均時間(vT5%~vT95%)を表し、加重平均時間と対照との差が対照の±5%以内(図15A)及び±2.5%以内(図15B)に入った場合は、グレーで表されている。10~80%演算対象域で、全ての検体の加重平均時間が±5%以内の誤差で対照と一致し、25~50%演算対象域では、全ての検体の加重平均時間が±2.5%以内の誤差で対照と一致した。
【0065】
実施例3 加重平均時間に基づくフィブリノーゲン濃度測定
1.方法
1.1)試料
ヒトフィブリノーゲン除去血漿(Affinity Biologicals Inc.製のFibrinogen Deficient Human Plasma、製品名:Fg Deficient Plasma)にヒトフィブリノーゲン(Enzyme Research Laboratories製のHuman Fibrinogen、製品名:FIB 2)を添加してフィブリノーゲン濃度([Fbg])が980mg/dLの検体(検体10)を作製した。検量線作成のための標準検体として、検体10と生理食塩水を容量比1:9、7:3及び10:0で混合し、フィブリノーゲン濃度([Fbg])がそれぞれ98mg/dL、686mg/dL、及び980mg/dLの3つの検体を調製した。また、検体10と前記ヒトフィブリノーゲン除去血漿を容量比1:9から10:0で混合し、フィブリノーゲン濃度([Fbg])が段階的に異なる10個の濃度系列検体を調製した(表3)。
【0066】
【表3】
【0067】
1.2)凝固反応計測
フィブリノーゲン測定試薬は、コアグピアFbg(積水メディカル株式会社製)に付属のトロンビン試薬と検体希釈液を用いた。凝固反応計測は、血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いて行った。検体10μLと検体希釈液90μLをキュベットに分注し、37℃で45秒間加温した後、キュベットに約37℃に加温したトロンビン試薬50μLを添加して凝固反応を開始させた。反応は、約37℃に維持した状態で行った。凝固反応の計測は、波長660nmのLEDライトを光源とする光をキュベットに照射し、0.1秒間隔で90度側方散乱光の散乱光量を測光することによって行った。最大計測時間は300秒(データ数3000個、0.1秒間隔)とした。凝固反応の計測は、3つの標準検体及び10個の濃度系列検体について、それぞれ2回ずつ行った。
【0068】
1.3)凝固時間測定(パーセント法)によるフィブリノーゲン濃度の算出
パーセント法により3つの標準検体及び濃度系列10検体の凝固時間を測定した。すなわち、凝固反応終了点での散乱光量の63%に到達した時点を凝固時間として決定した。各検体の凝固時間は、2回の凝固反応計測に基づき、それぞれ2回測定された。3つの標準検体から測定した凝固時間について、2回の測定の平均値を算出し、該平均値の対数を該標準検体の[Fbg](mg/dL)の対数に対してプロットして、パーセント法による検量線を作成した。作成した検量線に従って、各濃度系列検体のフィブリノーゲン濃度(パーセント法による[Fbg]演算値、mg/dL)を算出した。
【0069】
1.4)加重平均時間vTによるフィブリノーゲン濃度の算出
実施例1の1.5)及び1.6)と同様の手順で、10個の濃度系列検体についてそれぞれ2回ずつ加重平均時間vT5%~vT95%を算出し、20検体分の加重平均時間のデータを得た。また3つの標準検体についてそれぞれ2回ずつ加重平均時間vT5%~vT95%を算出し、2回の測定の平均値を算出した。該平均値の対数を該標準検体の[Fbg](mg/dL)の対数に対してプロットして、加重平均時間による検量線を作成した。作成した検量線に従って、各濃度系列検体のフィブリノーゲン濃度(加重平均時間による[Fbg]演算値、mg/dL)を算出した。
【0070】
2.加重平均時間に基づくフィブリノーゲン濃度測定の評価
2.1)相関性解析
図16に、濃度系列検体のデータ(n=10×2)に基づく、パーセント法による[Fbg]演算値に対する、35%演算対象域でのvT35%から算出した加重平均時間による[Fbg]演算値(mg/dL)の一次回帰直線を示す。vT35%に基づく[Fbg]演算値は、パーセント法による[Fbg]演算値に対して高い相関を有していた。図17に、5~95%演算対象域でのvT(vT5%~vT95%)から算出した[Fbg]演算値の、パーセント法による[Fbg]演算値に対する一次回帰直線の傾き、切片、及び相関係数を示す。5~95%演算対象域の間で、回帰直線の傾きは0.94~1.02、切片は-31.5~51.0、相関係数は0.990~0.996であった(図17A~C)。演算対象域が5%から95%までの全ての条件において、加重平均時間に基づくフィブリノーゲン濃度測定法が、パーセント法に基づく標準的方法と同等の結果をもたらすこと、したがって厚生労働省による体外診断用医薬品承認基準「対照測定方法と比較して、相関係数0.9以上、かつ、回帰直線式の傾き0.9~1.1」を満たす性能を有することが確認された。これらの結果から、vTに基づいてフィブリノーゲン濃度を測定することができることが示された。
【0071】
2.2)測定の正確性
濃度系列検体のデータ(表3の10検体×2)についての5~95%演算対象域での加重平均時間に基づく[Fbg]演算値を期待値(表3に示す検体のFbg濃度)と比較した。図18ABの表の各行は、各検体の加重平均時間(vT5%~vT95%)を表し、加重平均時間に基づく[Fbg]演算値と期待値との誤差が±10%以内(図18A)及び±5%以内(図18B)に入った場合は、グレーで表されている。30~95%演算対象域で、全ての検体の[Fbg]演算値の誤差は±10%以内であり、60~75%演算対象域では、全ての検体の[Fbg]演算値の誤差は±5%以内であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18