(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】配管部材の減肉推定方法及び配管部材減肉推定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/30 20060101AFI20250115BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G01N3/30
G01N29/04
(21)【出願番号】P 2021031781
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147599
【氏名又は名称】丹羽 匡孝
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【氏名又は名称】西山 善章
(72)【発明者】
【氏名】貴島 純次
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-021702(JP,A)
【文献】特開2015-118075(JP,A)
【文献】特開平04-002943(JP,A)
【文献】特開2000-131292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0185186(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/30
G01N 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃ハンマと、該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサとを備える測定装置を用いて、合成樹脂製の配管部材の減肉を推定する配管部材の減肉推定方法であって、
前記打撃ハンマによって合成樹脂製の配管部材の表面を叩打し、前記加速度センサによって前記打撃ハンマの加速度を経時的に測定し、
測定された前記打撃ハンマの加速度
から、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZR、及び、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとから式I=Va/Vrによって算出される指標I、のうちの少なくとも一方を求め、求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iの少なくとも一方に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定
し、
前記衝突速度Vaが、測定された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
反発速度Vrが、測定された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をF
max
としたときに、前記打撃ハンマの質量と前記加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度とからF
max
が算出され、
前記機械インピーダンスZRが式ZR=F
max
/Vrによって求められ、
前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iについて、それぞれ、閾値を予め定め、
前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っていると推定することを特徴とする配管部材の減肉推定方法。
【請求項2】
前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っている確率がより高いと推定する、
請求項1に記載の配管部材の減肉推定方法。
【請求項3】
前記機械インピーダンスZRと、前記指標Iについて、それぞれ、合成樹脂製の配管部材の呼び径と材質ごとに、閾値が予め定められており、測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値と、測定により求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iとを比較して、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定する、
請求項1又は請求項2に記載の減肉推定方法。
【請求項4】
前記配管部材の肉厚は、第1の配管部材に第2の配管部材が挿入された接合部における前記第1の配管部材の肉厚と前記第2の配管部材の肉厚の和であり、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの少なくとも一方が下回ったときに、前記第1の配管部材と前記第2の配管部材との間に隙間が形成されていると推定する、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の減肉推定方法。
【請求項5】
温度と前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iとの相関を予め求め、予め求められた相関と測定時の温度とに基づいて、測定により求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iを温度補正し、温度補正された機械インピーダンスZR´及び指標I´の少なくとも一方に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定する、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の配管部材の減肉推定方法。
【請求項6】
合成樹脂製の配管部材の減肉を推定する配管部材減肉推定装置であって、
合成樹脂製の配管部材の表面を叩打するための打撃ハンマと、
該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサと、
該加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度を経時的に記憶する測定値記憶部と、
前記測定値記憶部に記憶された前記加速度に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定する減肉推定部と、
前記機械インピーダンスZRと前記指標Iについて、それぞれ、前記配管部材の呼び径と材質ごとに、予め定められた閾値を記憶する閾値記憶部と、
を備え
、
前記減肉推定部は、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度から、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZR、及び、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとから式I=Va/Vrによって算出される指標I、のうちの少なくとも一方を求め、測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っていると推定し、
前記衝突速度Vaが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
前記反発速度Vrが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、
前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をF
max
としたときに、前記打撃ハンマの質量と前記測定値記憶部に記憶された前記打撃ハンマの加速度とからF
max
が算出され、
前記機械インピーダンスZRが、式ZR=F
max
/Vrによって求められることを特徴とする配管部材減肉推定装置。
【請求項7】
前記減肉推定部は、測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っている確率がより高いと推定する、
請求項6に記載の配管部材減肉推定装置。
【請求項8】
前記配管部材の肉厚は、第1の配管部材に第2の配管部材が挿入された接合部における前記第1の配管部材の肉厚と前記第2の配管部材の肉厚の和であり、前記減肉推定部は、前記測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの一方又は両方が下回ったときに、前記第1の配管部材と前記第2の配管部材との間に隙間が形成されていると推定する、
請求項6又は請求項7に記載の配管部材減肉推定装置。
【請求項9】
温度測定部と、呼び径及び材質ごとに、温度と前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iとの相関データを記憶する補正データ記憶部をさらに備え、前記減肉推定部は、前記補正データ記憶部に記憶される相関データと前記配管部材の呼び径及び材質と測定時の温度とに基づいて、測定により求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iを温度補正し、温度補正された機械インピーダンスZR´及び指標I´に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定する、
請求項6から請求項8の何れか一項に記載の配管部材減肉推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の配管部材の減肉を推定する配管部材の減肉推定方法及び配管部材減肉推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配管システムの配管部材の非破壊検査方法として、従来、目的に応じた様々な方法が知られており、例えば、目視調査(目視検査・目視法)や打診調査(打診検査・打診法)などが行われている。目視調査は、配管部材の表面状態や欠陥、例えば亀裂、剥離、接続不良等を目視によって調べる方法である。配管部材の表面に現れた変色等の変化は、使用中の異常を示唆する可能性もあり、配管部材の表面に起こる現象も感度よく検出することができる。しかしながら、目視調査は配管部材の表面上の変化を観察するのみで、非破壊では、配管部材の内部の接続不良や減肉(肉厚の減少)のような欠陥まで観察することはできない。また、打診調査は、作業者がハンマによって調査対象に打撃を加え、その時の打音や振動の具合などによって劣化や減肉などの欠陥の有無を判断する方法である。しかしながら、判定を行うために経験が作業者に必要であり、作業者の感覚に依存するため、定量化が難しく、客観性に欠けるという問題がある。
【0003】
上述のような問題を解決するために、配管部材の減肉(肉厚の減少)や配管部材同士の接続不良のような欠陥を検査する非破壊検査方法として、超音波厚さ測定、放射線透過試験などが従来から実施されている。これらは、配管部材の内部にある欠陥の存在・位置・概略の大きさを知ろうとするものである。また、打撃調査においても、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されているように、ハンマによる打撃の結果を測定し、客観的データとして定量化できるようにした検査装置、診断装置、診断方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-280779号公報
【文献】特開2002-257700号公報
【文献】特開2000-131292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した超音波厚さ測定、放射線透過試験は、配管部材の減肉箇所、施工不良箇所などが予め分かっている場合には問題がない。しかしながら、診断箇所を特定するために配管システム全体を検査するような場合には、超音波厚さ測定においては検査時間が長くなるだけでなく、多くの検査費用が必要となる。さらに、放射線透過試験については、検査装置が高価であることに加えて、放射線の危険性もあり、長時間の検査が困難であるという問題もある。
【0006】
また、打撃調査において、非破壊検査装置を開示する特許文献1には、建造物の外壁しか被検査体として明記されておらず、特許文献2は、木材劣化診断装置及び木材劣化診断方法に関するものである。また、特許文献3に開示されている配管検査装置は、金属管を用いた配管の浸食状況を検査するものである。このように、特許文献1から特許文献3の何れにも、合成樹脂製配管の減肉や施工不良の検査については開示されていない。
【0007】
よって、本発明の目的は、従来技術に存する問題を解決するために、簡便且つ安価に合成樹脂製の配管部材の減肉及び施工状態を推定できる非破壊検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み、本発明は、第1の態様として、打撃ハンマと、該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサとを備える測定装置を用いて、合成樹脂製の配管部材の減肉を推定する配管部材の減肉推定方法であって、前記打撃ハンマによって合成樹脂製の配管部材の表面を叩打し、前記加速度センサによって前記打撃ハンマの加速度を経時的に測定し、測定された前記打撃ハンマの加速度から、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZR、及び、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとの比である指標I、のうちの少なくとも一方を求め、求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iの少なくとも一方に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定し、前記衝突速度Vaが、測定された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、反発速度Vrが、測定された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をF
max
としたときに、前記打撃ハンマの質量と前記加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度とからF
max
が算出され、前記機械インピーダンスZRが式ZR=F
max
/Vrによって求められると共に、式I=Va/Vrによって前記指標Iを算出し、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iについて、それぞれ、閾値を予め定め、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っていると推定する配管部材の減肉推定方法を提供する。
【0009】
上記配管部材の減肉推定方法では、加速度センサが取り付けられた打撃ハンマを用いて、合成樹脂製の配管部材の表面を打撃ハンマで叩打することによって、配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定している。打撃ハンマによる配管部材の表面への叩打は、打撃ハンマが配管部材の表面に衝突して配管部材が打撃ハンマからの力により変形していく貫入過程と、配管部材の変形が最大となって変形からの復元に伴う配管部材からの反発力により打撃ハンマが打撃方向とは反対方向に押し出されて配管部材の表面から離脱する反発過程とに大別される。本発明者は、打撃ハンマによる叩打後の配管部材の変形からの復元の際、すなわち反発過程において、配管部材の肉厚が打撃ハンマの加速度に影響を与えることを見出した。この知見を利用して、上記配管部材の減肉推定方法では、打撃ハンマの加速度に基づいて、配管部材の肉厚の減少、すなわち減肉(詳細には減肉量又は減肉率)を推定している。ここで、配管部材の肉厚とは、配管部材の周壁の厚さを意味し、一方の配管部材に他方の配管部材が挿入された二つの配管部材の接合部では、二つの配管部材が重なって一体化している領域の一方の配管部材の周壁の厚さと他方の配管部材の周壁の厚さの和を意味し、接合部において二つの配管部材の間に隙間が形成されているときなど接合不良が生じている場合には、打撃を与えられた側のみの配管部材の周壁の厚さを意味する。したがって、上記配管部材の減肉推定方法によって、摩耗や浸蝕による配管部材の減肉に加えて、一方の配管部材に他方の配管部材に挿入されている接合部において二つの配管部材の間に隙間が生じており一体化されていない接続不良などを発見することが可能である。また、減肉量とは、未使用品の肉厚と比較したときの肉厚の減少量を意味し、減肉率とは、未使用品の肉厚に対する減肉量の比率を意味する。
【0011】
衝突速度Vaは貫入過程において打撃ハンマの加速度を0から最大値に増加するまで積分することによって算出され、反発加速度Vrは反発過程において打撃ハンマの加速度を最大値から0に減少するまで積分することによって算出され、打撃ハンマが配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値Fmaxは、打撃ハンマの質力mと最大加速度amaxとの積として算出される。式ZR=Fmax/Vrによって求められる値を反発過程における機械インピーダンスZRとし、衝突速度Vaと反発速度Vrとの比を指標Iとすると、機械インピーダンスZRと指標Iには、いずれも反発速度Vrが含まれ、配管部材の肉厚の減少は機械インピーダンスZRと指標Iに反映されるはずである。この予測から、本発明者は、予め定められた肉厚の値を下回った配管部材の減肉品や接続の不良は、反発過程の機械インピーダンスZRと指標Iとに基づいて推定できることを見出した。この知見を利用して、上記配管部材の減肉推定方法では、反発過程の機械インピーダンスZRと指標Iの少なくとも一方に基づいて、配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定している。
【0013】
前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っている確率がより高いと推定するようにしてもよい。
【0014】
また、前記機械インピーダンスZRと、前記指標Iについて、それぞれ、合成樹脂製の配管部材の呼び径と材質ごとに、閾値が予め定められており、測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値と、測定により求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iとを比較して、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定することが好ましい。配管部材の呼び径と材質ごとに機械インピーダンスZR及び指標Iの閾値を定めれば、配管部材の肉厚の減少すなわち減肉の推定の精度をより高めることができる。
【0015】
前記配管部材の肉厚は、第1の配管部材に第2の配管部材が挿入された接合部における前記第1の配管部材の肉厚と前記第2の配管部材の肉厚の和であり、前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの少なくとも一方が下回ったときに、前記第1の配管部材と前記第2の配管部材との間に隙間が形成されていると推定するようにすることもできる。
【0016】
さらに、温度と前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iとの相関を予め求め、予め求められた相関と測定時の温度とに基づいて、測定により求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iを温度補正し、温度補正された機械インピーダンスZR´及び指標I´の少なくとも一方に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定することが好ましい。測定時の温度の影響を考慮することで、配管部材の肉厚の減少すなわち減肉の推定の精度をより高めることができる。
【0017】
また、本発明は、第2の態様として、合成樹脂製の配管部材の減肉を推定する配管部材減肉推定装置であって、合成樹脂製の配管部材の表面を叩打するための打撃ハンマと、該打撃ハンマに取り付けられた加速度センサと、該加速度センサによって測定された前記打撃ハンマの加速度を経時的に記憶する測定値記憶部と、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定する減肉推定部と、前記機械インピーダンスZRと前記指標Iについて、それぞれ、前記配管部材の呼び径と材質ごとに、予め定められた閾値を記憶する閾値記憶部とを備え、前記減肉推定部は、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度から、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面への衝突時と反対方向に該表面から反発する反発過程における機械インピーダンスZR、及び、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突するときの衝突速度Vaと前記打撃ハンマが前記配管部材の表面から反発するときの反発速度Vrとから式I=Va/Vrによって算出される指標I、のうちの少なくとも一方を求め、測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iとの少なくとも一方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っていると推定し、前記衝突速度Vaが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を0から最大値に増加するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、前記反発速度Vrが、前記測定値記憶部に記憶された前記加速度を最大値から再び0に減少するまでの時間にわたって時間積分することにより算出され、前記打撃ハンマが前記配管部材の表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値をF
max
としたときに、前記打撃ハンマの質量と前記測定値記憶部に記憶された前記打撃ハンマの加速度とからF
max
が算出され、前記機械インピーダンスZRが、式ZR=F
max
/Vrによって求められる配管部材減肉推定装置を提供する。
【0018】
上記配管部材減肉推定装置でも、上記配管部材の減肉推定方法と同様に、配管部材の表面を叩打したときの打撃ハンマの加速度に基づいて、配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定することができる。
【0021】
前記減肉推定部は、測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの両方が下回ったときに、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っている確率がより高いと推定するようにしてもよい。
【0022】
前記配管部材の肉厚は、第1の配管部材に第2の配管部材が挿入された接合部における前記第1の配管部材の肉厚と前記第2の配管部材の肉厚の和であり、前記減肉推定部は、前記測定対象の前記配管部材の呼び径と材質とに対応する前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iのそれぞれの予め定められた閾値よりも、測定により求められた前記機械インピーダンスZRと前記指標Iの一方又は両方が下回ったときに、前記第1の配管部材と前記第2の配管部材との間に隙間が形成されていると推定するようにすることもできる。
【0023】
また、上記配管部材減肉推定装置は、温度測定部と、呼び径及び材質ごとに、温度と前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iとの相関データを記憶する補正データ記憶部をさらに備え、前記減肉推定部は、前記補正データ記憶部に記憶される相関データと前記配管部材の呼び径及び材質と測定時の温度とに基づいて、測定により求められた前記機械インピーダンスZR及び前記指標Iを温度補正し、温度補正された機械インピーダンスZR´及び指標I´に基づいて、前記配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っているか否かを推定することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、打撃ハンマで配管部材の表面を叩打して、打撃ハンマの加速度を測定するだけで、測定された打撃ハンマの加速度に基づいて、配管部材の肉厚が予め定められた値を下回っている否か、すなわち配管部材の肉厚の減少量(減肉量)又は減少量(減肉率)が予め定められた値を上回っているか否かを推定することができる。したがって、簡便且つ安価な非破壊検査によって減肉及び施工状態を推定できる。また、減肉していると推定された配管部材のみに非破壊検査又は破壊検査を行って減肉の有無や接続不良を診断することができるので、正確な診断のためのコストを低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明による配管部材減肉推定装置の全体構成図である。
【
図2】
図1に示されている配管部材減肉推定装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図1に示されている配管部材減肉推定装置の打撃ハンマによって配管部材を叩打したときの加速度波形図である。
【
図4】同じ材質(管種)の直管について、健全品と減肉品とを区別する機械インピーダンスZRの閾値となる線分を重ねて示した、健全品と減肉品とについての外径と機械インピーダンスZRとの関係を示す相関図である。
【
図5】同じ材質(管種)の直管について、健全品と減肉品とを区別する減肉指標INDEXの閾値となる線分を重ねて示した、健全品と減肉品とについての外径と減肉指標INDEXとの関係を示す相関図である。
【
図6】同じ材質(管種)で同じ外径の直管について、内周面側を減肉させたときの減肉率と機械インピーダンスZRとの関係を示す相関図である。
【
図7】同じ材質(管種)で同じ外径の直管について、内周面側を減肉させたときの減肉率と減肉指標INDEXとの関係を示す相関図である。
【
図8】同じ材質(管種)で呼び径を変えたときの温度と機械インピーダンスZRとの関係を示す相関図である。
【
図9】同じ材質(管種)で呼び径を変えたときの温度と減肉指標INDEXとの関係を示す相関図である。
【
図10】同じ呼び径で材質(管種)を変えたときの温度と機械インピーダンスZRとの関係を示す相関図である。
【
図11】同じ呼び径で材質(管種)を変えたときの温度と減肉指標INDEXとの関係を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明による配管部材の減肉推定方法及び配管部材減肉推定装置の実施の形態を説明する。
【0027】
最初に、
図1及び
図2を参照して、本発明による配管部材Pの減肉推定方法を用いた配管部材減肉推定装置11の全体構成を説明する。
【0028】
配管部材減肉推定装置(以下、単に「減肉推定装置」と記載する。)11は、パイプ、継手、エルボ、クロス、ソケット、ユニオン、バルブなどの合成樹脂製の配管部材Pの表面を打撃を与えて、その肉厚が所定値以上である健全品か所定値未満である減肉品かの判定に基づき減肉(すなわち減肉量又は減肉率)を推定する。減肉推定装置11は、合成樹脂製の配管部材Pの表面を叩打して衝撃を与えるための打撃ハンマ13と、打撃ハンマ13の加速度の測定値の解析を行う測定解析装置15とを備える。
【0029】
打撃ハンマ13は、配管部材Pの表面を叩打するための打撃部13aと、作業者が把持するために打撃部13aに接続された把持部13bと、打撃部13aの打撃面とは反対側の面に取り付けられた加速度センサ17とを含んでおり、作業者が把持部13bを把持して打撃部13aにより配管部材Pの表面を叩打して、叩打の際の打撃部13aの加速度を測定できるようになっている。また、加速度センサ17は、把持部13b内を通って外部まで延びるケーブル19を介して測定解析装置15に接続されており、加速度センサ17によって測定された測定信号(すなわち、打撃部13aの加速度)を測定解析装置15に伝達可能となっている。
【0030】
打撃部13aは、ある程度の質量mを有しており、配管部材Pの表面を叩打できるものであれば、適宜の形状を採用することができる。また、加速度センサ17としては、圧電素子タイプ、半導体ゲージタイプ、抵抗線ひずみタイプなど適宜のタイプの加速度センサを用いることができる。
【0031】
測定解析装置15は、
図2に詳細に示されているように、加速度センサ17からケーブル19を介して伝達された測定信号(打撃部13aの加速度)を記憶する測定値記憶部15aと、後述する機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXとについてそれぞれ予め定められた閾値を記憶する閾値記憶部15bと、機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの温度補正を行うためのデータを記憶する補正データ記憶部15cと、加速度センサ17による測定値に基づいて配管部材Pの減肉すなわち減肉量又は減肉率を推定する減肉推定部15dと、減肉推定部15dによって推定された結果を表示するための表示部15eと、測定環境の温度を測定するための温度測定部15fとを含んでいる。
【0032】
打撃ハンマ13によって配管部材Pの表面を叩打すると、配管部材Pの表面は、打撃ハンマ13の打撃によって弾性変形又はこれに加えて僅かな塑性変形を生じ、同時に打撃ハンマ13は配管部材Pの表面から変形による反力を受ける。この結果、打撃ハンマ13は、時刻t=T1に打撃ハンマ13の打撃部13aと衝突した後、配管部材Pの表面からの反力によって、打撃部13aが配管部材Pの表面に衝突した瞬間の衝突初速度(以下、単に「衝突速度」とも記載する。)Vaから加速度a(t)で減速されて時刻t=T2に速度0になり、さらに、衝突時の速度方向とは反対方向へ加速度a(t)で加速され、時刻t=T3に配管部材Pの表面から打撃部13aが離れ、その瞬間に加速度a(t)が0になると共に反発速度が最大反発速度(以下、単に「反発速度」とも記載する。)Vrとなる。ここで、tは時間を意味し、加速度a(t)は時刻tにおける打撃ハンマ13の加速度を意味している。したがって、時刻t=T1から時刻t=T2まで加速度a(t)を積分することによって衝突速度Vaが算出され、時刻t=T2から時刻t=T3まで加速度a(t)を積分することによって反発速度Vrが算出される。また、打撃ハンマ13による打撃によって配管部材Pの表面に発生した打撃力F(t)は、打撃ハンマ13の質量をmとすると、式F(t)=m・a(t)によって求められる。
【0033】
配管部材Pの変形はほとんどが弾性変形であると仮定すると、配管部材Pの表面からの反発力は、打撃ハンマ13の速度Vが0になったときに最大になり、打撃ハンマ13の速度Vが0になったときに加速度a(t)が最大になる。したがって、時刻tにおける加速度a(t)は、
図3に示されているように、打撃ハンマ13の打撃部13aが配管部材Pの表面に衝突するときの時刻t=T1と、打撃ハンマ13の打撃部13aが配管部材Pの表面から離れるときの時刻t=T3とに、0となり、打撃ハンマ13の速度Vが0となる時刻t=T2に最大値a
maxになる。また、打撃力Fは、時刻t=T2に最大値F
maxになり、F
maxは式F
max=m・a
maxによって求められる。以下の説明では、時刻t=T1から時刻t=T2までを貫入過程、時刻t=T2から時刻t=T3までを反発過程と記載する。
【0034】
一方、配管部材Pの肉厚が減少すると、配管部材Pに打撃を与えたときの反発力も低下し、加速度の最大値amaxすなわち打撃力の最大値Fmax、並びに、最大反発速度Vrに影響があると考えられる。このことから、本発明者は、打撃ハンマ13による叩打後の配管部材Pの変形からの復元の際、すなわち反発過程において、配管部材Pの肉厚の減少量又は減少率(すなわち減肉量又は減肉率)が打撃ハンマ13の加速度に影響を与え、最大打撃力Fmaxを最大反発速度Vrで除した値である反発過程の機械インピーダンスZR=Fmax/Vrと、衝突速度Vaと反発速度Vrとの比である減肉指標INDEX=Va/Vrとに基づいて、配管部材Pの減肉(肉厚の減少)、詳細には、配管部材Pの減肉量又は減肉率を推定できることを見出した。減肉指標INDEXはVr/Vaとしてもよいことは言うまでもない。
【0035】
なお、反発過程の機械インピーダンスZRは衝突速度Vaに依存するFmaxを衝突速度Vaに依存するVrで除して得られるので、打撃速度Vaに影響されない値となっており、減肉指標INDEXも衝突速度Vaと反発速度Vrとの比であるので、打撃速度Vaに影響されない値となっている。したがって、打撃の強さには影響されない。また、配管部材Pの肉厚の減少の影響は、反発過程において現れるので、貫入過程の機械インピーダンスZA=Fmax/Vaではなく、反発過程の機械インピーダンスZR=Fmax/Vrを肉厚の減少(すなわち減肉)の推定の指標として採用している。
【0036】
さらに、本発明者は、合成樹脂製の配管部材Pの反発過程の機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXとは、温度に依存することを見出した。したがって、後述する閾値を定めるための測定時の温度を基準にして、肉厚の減少(すなわち減肉)の推定のための測定時の温度を温度測定部15fによって測定し、測定された温度に基づいて、加速度の測定値から求めた反発過程の機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXを温度補正することによって、より正確に配管部材Pの肉厚の減少(すなわち減肉)を推定することができる。
【0037】
本発明者による上記知見に基づき、減肉推定部15dは、加速度センサ17による測定値から求めた反発過程の機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXに基づいて、配管部材Pの肉厚が予め定められた値を下回るか否かを推定する。以下に、図示されている配管部材減肉推定装置11の減肉推定部15dが、加速度センサ17による打撃ハンマ13の加速度の測定値に基づいて、配管部材Pの肉厚の減少(すなわち減肉)を推定する方法を例示として詳細に説明する。
【0038】
最初に、配管部材Pの管種及び呼び径ごとに、予め定められた減肉量又は減肉率を基準にして、基準値以下の健全品と基準値を上回る減肉品とに複数の配管部材Pを分け、それぞれについて、打撃ハンマ13による叩打を行って得た加速度a(t)の測定値から、反発過程の機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを算出して、機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXについての健全品と減肉品との閾値を予め定め、閾値記憶部15bに記憶しておく。後述するように、配管部材Pの管種及び呼び径を特定したとき、減肉率と反発過程の機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXとは負の勾配の一次関数によって近似されることが分かっている。したがって、例えば、管種及び呼び径を固定した条件下で、例えば内径を切削するなどして減肉率を変えた配管部材Pについて、打撃ハンマ13による叩打を行って得た加速度a(t)の測定値から、反発過程の機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを算出して、減肉率と反発過程の機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXとの関係を近似する一次関数を求め、近似する一次関数に基づいて、健全品と減肉品とを区別する減肉率に対応する機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXの閾値を定めて、閾値記憶部15bに記憶しておいてもよい。閾値を定めるための測定は、特定の温度条件下で行うことが好ましい。なお、管種によって配管部材Pの材質が定まる。また、配管部材Pの呼び径は規格に従って定められていることが一般的であることから、呼び径が特定されると、規格に基づいて外径及び厚さ(すなわち内径)が特定される。したがって、配管部材Pの管種及び呼び径ごとに、機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXについての健全品と減肉品との閾値を定めるとは、配管部材Pの材質、外径及び厚さ(すなわち内径)ごとに、機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXについての健全品と減肉品との閾値を定めることと等価である。
【0039】
また、配管部材Pの管種及び呼び径ごとに、温度条件を変えながら打撃ハンマ13による叩打を行って加速度a(t)の測定を行い、加速度a(t)の測定値から、反発過程の機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを算出して、温度と機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXとの相関を予め求めておき、補正データ記憶部15cに予め記憶しておくことが好ましい。配管部材Pの管種及び呼び径が定められたとき、温度と機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXとは一次関数で近似できることから、例えば、近似した一次関数を補正データ記憶部15cに記憶しておいてもよい。また、閾値を定めるための測定時の温度条件を基準にして、それぞれの温度に対する温度補正係数を定め、温度補正係数を補正データ記憶部15cに記憶しておいてもよい。
【0040】
次に、打撃ハンマ13によって、診断の対象となる合成樹脂製の配管部材Pの表面を叩打し、加速度センサ17によって測定された打撃ハンマ13の加速度a(t)を経時的に測定して、測定値記憶部15aに記憶する。後述する最大打撃力Fmaxの上限及び下限を定めておき、最大打撃力がその間の範囲に属する場合の測定値のみを使用するようにすることが好ましい。加速度a(t)の経時的な測定値から加速度の最大値amaxとその値が観測された時刻T2が分かる。減肉推定部15dでは、測定値記憶部15aに記憶された加速度a(t)の経時的な測定値から、加速度a(t)を0から最大値に増加するまでの時間(すなわち時刻T1から時刻T2まで)にわたって時間積分することによって衝突速度Vaが算出されると共に、加速度a(t)を最大値から再び0に減少するまでの時間(すなわち時刻T2から時刻T3まで)にわたって時間積分することによって反発速度Vrが算出される。また、測定値記憶部15aに記憶された経時的な加速度a(t)の測定値から最大加速度amaxが分かるので、予め知られている打撃ハンマ13の質量mと測定値記憶部15aに記憶された経時的な加速度a(t)の測定値とから、式Fmax=m・amaxによって、打撃ハンマ13の打撃部13aが配管部材Pの表面に衝突したときに発生する打撃力の最大値Fmaxが算出される。このようにして算出された衝突速度Va、反発速度Vr及び打撃力の最大値Fmaxから、減肉推定部15dは、式ZR=Fmax/Vr及び式INDEX=Va/Vrに基づいて、反発過程における機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを求める。
【0041】
反発過程における機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを求めた後、減肉推定部15dは、温度測定部15fによって減肉の推定のための測定時の温度を測定し、補正データ記憶部15cに記憶されている温度補正データに基づいて、測定時の温度条件に応じて、上述のようにして求められた機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを温度補正することが好ましい。温度補正は、上述したように、例えば、温度に対する機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの近似関数を補正データ記憶部15cに記憶しておき、補正データ記憶部15cに記憶された近似関数を用い行ってもよく、閾値を定めるための測定時の温度条件を基準にした各温度における機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXに対する補正係数を補正データ記憶部15cに記憶しておき、補正データ記憶部15cに記憶された補正係数を用いて行ってもよく、補正の方法は限定されるものではない。このように温度補正を行うことによって、より正確に減肉を推定することが可能となる。
【0042】
減肉推定部15dは、温度補正を行う場合には、診断対象の配管部材Pの叩打による加速度の測定値から求められた機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXを上述した方法で温度補正した機械インピーダンスZR´と減肉指標INDEX´の値を用いて、温度補正を行わない場合には、診断対象の配管部材Pの叩打による加速度の測定値から求められた機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの値を用いて、それぞれ、閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXのそれぞれの閾値の中において診断対象の配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値と比較する。診断対象の配管部材Pの機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの値の少なくとも一方又はその温度補正後の機械インピーダンスZR´と減肉指標INDEX´の値の少なくとも一方が、診断対象の配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの閾値を下回った場合には、減肉推定部15dは、診断対象の配管部材Pの肉厚が予め定められた値を下回った、すなわち減肉量又は減肉率が予め定められた値を上回った減肉品であると推定し、推定結果を表示部15eに表示する。一方、診断対象の配管部材Pの機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの値の両方又はそれらの温度補正後の機械インピーダンスZR´と減肉指標INDEX´の値の両方が、それぞれ、診断対象の配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの閾値以上である場合には、減肉推定部15dは、診断対象の配管部材Pの肉厚が予め定められた値以上である、すなわち減肉量又は減肉率が予め定められた値以下の健全品と推定し、推定結果を表示部15eに表示する。なお、診断対象の配管部材Pの機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの値の両方及びその温度補正後の機械インピーダンスZR´と減肉指標INDEX´の値の両方が、診断対象の配管部材Pの管種及び呼び径に対応する閾値記憶部15bに予め記憶された機械インピーダンスZRと減肉指標INDEXの閾値を下回った場合には、減肉推定部15dは、診断対象の配管部材Pの肉厚が予め定められた値を下回っている確率がより高い、すなわち減肉品である確率がより高いと推定し、その旨を表示部15eに表示するようにしてもよい。
【0043】
このように、配管部材減肉推定装置11を用いれば、本発明による配管部材Pの減肉推定方法を実施することができ、診断対象の配管部材Pを叩打したときの打撃ハンマ13の加速度を単に測定することによって、配管部材Pの肉厚の減少すなわち減肉を推定することができる。したがって、配管システム全体に検査を行っても、短い時間で且つ安価な費用で減肉した箇所を推定することが可能となる。また、より正確な診断を要望する場合には、減肉品と推定された配管部材Pに対して、改めて、非破壊検査方法として従来から実施されている超音波探傷試験、放射線透過試験などや、破壊検査を行ってもよい。本発明による配管部材減肉推定装置11や配管部材Pの減肉推定方法により減肉化品と推定された配管部材Pのみに、従来から行われている非破壊検査を行えば、配管システム全体に従来の非破壊検査を行う場合よりも、検査時間を大幅に短縮できると共に、費用を大きく削減することが可能となる。また、本発明による配管部材減肉推定装置11や配管部材Pの減肉推定方法を用いれば、配管部材Pの肉厚が減少している可能性が高い箇所(すなわち減肉の可能性が高い箇所)を絞ることができるので、放射線透過試験の適用もしやすくなる。さらに、本発明による配管部材減肉推定装置11や配管部材Pの減肉推定方法により減肉品と推定された配管部材Pのみに、破壊検査を行えば、必要最小限の部品交換で済むので、運転停止時間を短縮することも可能となる。
【実施例】
【0044】
図4は、JIS K6741:2016の規格に従った様々な呼び径の硬質塩化ビニル製の直管(旭有機材製、管種:VP)を試験体とし、それぞれの外径の健全品と減肉品からなる各試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZRを求める実験を行い、その実験結果から得られた健全品と減肉品についての外径と機械インピーダンスZRの関係を示した相関図である。実験に当たっては、各試験体について、未使用品の内周面側を切削して人工的に減肉させて減肉量又は減肉率を予め測定し、減肉率が15%以下のものを健全品、減肉率が15%以上のものを減肉品と分類し、
図4では、健全品から求められた結果が「○」で、減肉品から求められた結果が「×」で示されている。
図4に示されている線分のように、健全品と減肉品とを分ける各外径に対する機械インピーダンスZRの閾値を定めることができ、診断対象の配管部材Pで測定された機械インピーダンスZRがそれぞれの閾値を下回るか否かによって、減肉率が15%以下か否か、すなわち健全品か減肉品かを推定できることが分かる。なお、規格に従っている場合、呼び径が定められれば、外径、内径、厚さなどが特定される。
【0045】
図5は、JIS K6741:2016の規格に従った様々な呼び径の硬質塩化ビニル製の直管(旭有機材製、管種:VP)を試験体とし、それぞれの外径の健全品と減肉品からなる各試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における減肉指標INDEXを求める実験を行い、その実験結果から得られた健全品と減肉品についての外径と減肉指標INDEXの関係を示した相関図である。実験に当たっては、各試験体について、未使用品の内周面側を切削して人工的に減肉させて減肉量又は減肉率を予め測定し、減肉率が15%以下のものを健全品、減肉率が15%以上のものを減肉品と分類し、
図5では、
図4と同様に、健全品から求められた結果が「○」で、減肉品から求められた結果が「×」で示されている。
図5に示された線分のように、健全品と減肉品とを分ける各外径に対する減肉指標INDEXの閾値を定めることができ、診断対象の配管部材Pで測定された減肉指標INDEXがそれぞれの閾値を下回るか否かによって、減肉率が15%以下か否か、すなわち健全品か減肉品かを推定できることが分かる。
【0046】
図6は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径300mmの硬質塩化ビニル製の直管(旭有機材製、管種:VP300A)を試験体とし、未使用品の内周面側を切削して減肉量を変えながら人工的に減肉させて減肉率を求めた上で、各試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZRを求める実験を行い、その実験結果から得られた減肉率と機械インピーダンスZRの関係を示した相関図である。
図6から、減肉率と機械インピーダンスZRとの間に相関があり、反発過程の機械インピーダンスZRは減肉率に関し負の勾配の一次関数で近似できること、すなわち減肉率が増加するに伴って機械インピーダンスZRがほぼ直線的に減少していき、診断対象の配管部材Pで測定された機械インピーダンスZRから配管部材Pの減肉率が推定できることが分かる。
【0047】
図7は、JIS K6741:2016の規格に従った呼び径300mmの硬質塩化ビニル製の直管(旭有機材製、管種:VP300A)を試験体とし、未使用品の内周面側を切削して減肉量を変えながら人工的に減肉させて減肉率を求めた上で、各試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、減肉指標INDEXを求める実験を行い、その実験結果から得られた減肉率と減肉指標INDEXの関係を示した相関図である。
図7から、減肉率と減肉指標INDEXとの間に相関があり、減肉指標INDEXは減肉率に関し負の勾配の一次関数で近似できること、すなわち減肉率が増加するに伴って減肉指標INDEXがほぼ直線的に減少していき、診断対象の配管部材Pで測定された減肉指標INDEXから配管部材Pの減肉率が推定できることが分かる。
【0048】
図4~
図7に示されている結果から、材質(管種)及び呼び径(外径、内径又は厚さ)ごとに反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXについてそれぞれ閾値を予め定めておくことによって、材質(管種)及び呼び径(外径、内径又は厚さ)が特定されれば、診断対象の配管部材Pの減肉(詳細には減肉量又は減肉率)を推定することができることが分かる。
【0049】
図8及び
図9は、異なる呼び径の硬質塩化ビニル製の直管(旭有機材株式会社製、管種VP)を試験体とし、温度条件を変えながら、各温度条件下で、各試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXを求める実験を行い、その実験結果から得られた温度と機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXとの関係を示した相関図である。
図8が温度と反発過程における機械インピーダンスZRとの相関を示しており、
図9が温度と減肉指標INDEXとの相関を示している。実験では、試験体として、未使用の直管を使用している。
図8及び
図9では、呼び径25mmの直管から得られた結果が「○」で、呼び径100mmの直管から得られた結果が「×」で、呼び径150mmの直管から得られた結果が「△」で、呼び径200mmの直管から得られた結果が「□」で示されている。
図8から、管種すなわち材質が特定されていれば、各呼び径の直管について、反発過程における機械インピーダンスZRは、温度の上昇に対してほぼ直線的に減少し、温度に関し、負の勾配の一次関数で近似できることが分かる。同様に、
図9から、管種すなわち材質が特定されていれば、各呼び径の直管について、減肉指標INDEXは、温度の上昇に対してほぼ直線的に減少し、温度に関し、負の勾配の一次関数で近似できることが分かる。
【0050】
図10及び
図11は、同じ呼び径で管種を変えた直管(旭有機材株式会社製、管種VP、HI、HT)を試験体とし、温度条件を変えながら、各温度条件下で、各試験体に対して打撃ハンマ13による叩打を行ったときに測定した打撃ハンマ13の加速度a(t)から、反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXを求める実験を行い、その実験結果から得られた温度と機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXとの関係を示した相関図である。管種VPの材質は硬質ポリ塩化ビニルであり、HIの材質は耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニルであり、HTの材質は耐熱性硬質ポリ塩化ビニルである。
図10が温度と反発過程における機械インピーダンスZRとの相関を示しており、
図11が温度と減肉指標INDEXとの相関を示している。実験では、試験体として、未使用の直管を使用している。
図10及び
図11では、呼び径100mmの硬質ポリ塩化ビニル製の直管から得られた結果が「×」で、呼び径100mmの耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル製の直管から得られた結果が「△」で、呼び径100mmの耐熱性硬質ポリ塩化ビニル製の直管から得られた結果が「□」で示されている。
図10から、呼び径が特定されていれば、材質の直管について、反発過程における機械インピーダンスZRは、温度の上昇に対してほぼ直線的に減少し、温度に関し、負の勾配の一次関数で近似できることが分かる。同様に、
図9から、管種すなわち材質が特定されていれば、各呼び径の直管について、減肉指標INDEXは、温度の上昇に対してほぼ直線的に減少し、温度に関し、負の勾配の一次関数で近似できることが分かる。
【0051】
図8~
図11に示されている結果から、材質(管種)及び呼び径(外径、内径又は厚さ)が特定されれば、材質(管種)及び外径(外径、内径又は厚さ)ごとに反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXは、温度に関し、概略、一次関数に従って変化することが分かる。したがって、材質(管種)及び外径(外径、内径又は厚さ)ごとに、温度に関する反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXの変化を近似する一次関数を予め求めておいて、測定時の温度に基づいて、測定から得られた反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXを温度補正すれば、温度の影響を抑制することが可能になる。上記一次関数から、材質(管種)及び外径(外径、内径又は厚さ)ごとに、反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXの閾値を定めるための測定時の温度を基準にした各温度における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXの補正係数を予め求めておいて、測定時の温度に基づいて、補正係数を用いて、測定から得られた反発過程における機械インピーダンスZR及び減肉指標INDEXを温度補正するようにしても同様の効果を得ることができることは言うまでもない。温度補正した機械インピーダンスZR´及び減肉指標INDEX´に基づいて、上述の配管部材Pの減肉推定方法を行えば、温度の影響を抑えて、より正確に配管部材Pの肉厚の減少すなわち減肉を推定することができる。
【0052】
以上、図示されている実施形態を参照して、本発明による配管部材Pの減肉推定方法及び配管部材減肉推定装置を説明したが、本発明は図示されている実施形態に限定されるものではない。例えば、図示されている実施形態の配管部材減肉推定装置11では、測定解析装置15に表示部15eが備えられており、減肉に関する推定結果が表示部15eに表示されるようになっているが、測定解析装置15が警報部を備え、減肉量又は減肉率が予め定められた値を上回っていると推定されたときに警報部から警報音を発するようにすることも可能である。また、図示される配管部材減肉推定装置11では、打撃ハンマ13と測定解析装置15が別体として構成されているが、測定解析装置15を打撃ハンマ13と一体的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
11 配管部材減肉推定装置
13 打撃ハンマ
13a 打撃部
13b 把持部
15 測定解析装置
15a 測定値記憶部
15b 閾値記憶部
15c 補正データ記憶部
15d 減肉推定部
15e 表示部
17 加速度センサ
19 ケーブル