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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 13/08 20060101AFI20250115BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20250115BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20250115BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20250115BHJP
   H02K 41/03 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B60G13/08
F16F9/32 Z
F16F15/023 A
F16F15/03 G
H02K41/03 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021032238
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133520
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】柳 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小灘 一矢
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-166647(JP,A)
【文献】特開2004-124992(JP,A)
【文献】特開2020-139545(JP,A)
【文献】特開2002-227927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液室と第2の液室との間で変位することで液圧を発生させるためにバルブを備えるロッドを有する液圧式ダンパと、
アクチュエータによって電気的に前記ロッドを変位させる電動ダンパと、を備え、
前記電動ダンパの作動時に、前記バルブを迂回して、前記第1の液室と前記第2の液室を連通する連通路を備えており、
前記電動ダンパは磁石とコイルとを備え、
前記磁石には、前記第1の液室と前記第2の液室とを連通する磁石内流路が形成されていることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記連通路には、当該連通路を開閉する開閉部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
電動ダンパは、リニアモータから発する磁力を使用する電磁ダンパであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記開閉部は、リニアモータから発する磁力を使用していることを特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記第1の液室と前記連通路との間の孔は、前記電動ダンパの最大ストローク時に当該電動ダンパの磁石によって塞がれない位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかの一項に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
第1の液室と第2の液室との間で変位することで液圧を発生させるためにバルブを備えるロッドを有する液圧式ダンパと、
アクチュエータによって電気的に前記ロッドを変位させる電動ダンパと、を備え、
前記電動ダンパの作動時に、前記バルブを迂回して、前記第1の液室と前記第2の液室を連通する連通路を備えており、
前記電動ダンパは磁石とコイルとを備え、
前記コイルは、外側筐体と内筒との間に設けられ、
前記コイルには、前記連通路の一部を構成するコイル内通路が形成されていることを特徴とするサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電磁ダンパの内部に液圧ダンパを収容することが開示されている。ここで、液圧ダンパのピストンには流体通路とその中を挿通しているピンが設けられている。そして、通常ストロークでは、ピンのピン縮径部が流体通路に対面して比較的大きな空隙が形成されていることから油圧ダンパの減衰力が低下する。また、端部側ストローク領域にあってはピンの大径部が流体通路に対面するため、油圧ダンパの減衰力が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-227927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、特許文献1の技術ではピンの縮径部と大径部とを使って電磁ダンパと液圧ダンパとの調整を行っている。しかしながらこの手段だと、ピストンの外径が大きくなってしまい、構造が複雑になるという不具合がある。
そこで、本発明はピストンの外径が比較的小さく、構造が比較的簡易でも、電動ダンパと液圧式ダンパとの切り換えを行うことができるサスペンション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1の液室と第2の液室との間で変位することで液圧を発生させるためにバルブを備えるロッドを有する液圧式ダンパと、アクチュエータによって電気的に前記ロッドを変位させる電動ダンパと、を備え、前記電動ダンパの作動時に、前記バルブを迂回して、前記第1の液室と前記第2の液室を連通する連通路を備えており、前記電動ダンパは磁石とコイルとを備え、前記磁石には、前記第1の液室と前記第2の液室とを連通する磁石内流路が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ピストンの外径が比較的小さく、構造が比較的簡易でも、電動ダンパと液圧式ダンパとの切り換えを行うことができるサスペンション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態であるサスペンション装置の断面図である。
図1B図1AのA部分の拡大図である。
図2】本発明の一実施形態であるサスペンション装置のシャッタ部材部分の拡大斜視図である。
図3A図1Bの部分拡大図である。
図3B図3Aで電動ダンパの最大ストローク時を示す図である。
図4A】本発明の一実施形態であるサスペンション装置の作用について説明するサスペンション装置の概念図である。
図4B】本発明の一実施形態であるサスペンション装置の作用について説明するサスペンション装置の概念図である。
図4C】本発明の一実施形態であるサスペンション装置の作用について説明するサスペンション装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1Aは、本発明の一実施形態であるサスペンション装置の断面図である。図1Bは、図1AのA部分の拡大図である。サスペンション装置1の外側筐体2内には内筒3が収納されている。以下では、サスペンション装置1の図1Bにおける右側の先端部側を先端側と呼ぶことがある。サスペンション装置1の図1Bにおける左側を後方側と呼ぶことがある。
【0009】
サスペンション装置1は液圧式ダンパ7を備えている。液圧式ダンパ7は、ロッド11、ピストン12、バルブ13,14などから構成されている。液圧式ダンパ7はコンベンショナルなサスペンションとして機能する。すなわち、内筒3の内部には、内筒3と同軸芯のロッド11が収納されている。ロッド11は内筒3内を内筒3の長手方向(図1Bの左右方向)に移動可能である。ロッド11の長手方向先端側(右側)にはピストン12が設けられている。ピストン12はその外周面が内筒3の内周面に沿って移動する。
【0010】
ピストン12によって内筒3内はピストン12後方側の第1の液室4とピストン12先端側の第2の液室5とに仕切られている。ピストン12には円筒状の磁石21が設けられ、磁石21内には、第1の液室4と第2の液室5とを導通する磁石内流路22が設けられている。磁石内流路22のピストン12の先頭部にはバルブ13が設けられている。内筒3の先頭部にはバルブ14が設けられている。バルブ14は内筒3内と、内筒3と外側筐体2との間の空間15とを導通させることができる。サスペンション装置1内の空間は油などの液体で満たされている。そのため、バルブ13,14を開いた状態で、ロッド11を第1の液室4と第2の液室5との間で変位させることで、液体は磁石内流路22や、場バルブ13,14を流通し、ピストン12が可動し、液圧式ダンパ7は液圧を発生することができる。
【0011】
サスペンション装置1は電動ダンパ6(電磁ダンパ)も備えている。電動ダンパ6は、磁石21、コイル23などから構成されている。電動ダンパ6は、電磁式のサスペンションとして機能する。すなわち、外側筐体2と内筒3との間には円筒状のコイル23(アクチュエータ)が設けられている。このコイル23に通電することで、磁界が発生し、この磁界が磁石21に作用することで、ピストン12、ひいてはロッド11をそれらの軸方向に可動することができる。外側筐体2と内筒3との間には空間16も設けられている。コイル23内にはコイル内通路24が設けられている。コイル内通路24は、空間15と空間16とを導通している。
【0012】
空間16の内側で内筒3の外側には、バイパス通路室31が設けられている。バイパス通路室31を構成する内筒3の壁の後方側には、第1の液室4とバイパス通路室31とを導通するバイパス孔33が設けられている。また、バイパス通路室31の空間16側の壁32の先端側には空間16とバイパス通路室31とを導通するバイパス孔34が設けられている。バイパス通路室31、バイパス孔33,34を介して、第1の液室4と空間16とは連通することができる。
【0013】
同様に、空間15の内側で内筒3の外側には、バイパス通路室35が設けられている。バイパス通路室35の空間15側の壁37の後方側には、空間15とバイパス通路室35とを導通するバイパス孔36が設けられている。バイパス通路室35の先端側は解放されており、バイパス通路室35、バイパス孔36を介して、第2の液室5と空間15とは連通することができる。
このように、バイパス通路室31、空間16、コイル内通路24、空間15、バイパス通路室35などにより、バルブ13を迂回して第1の液室4と第2の液室5とを連通する連通路を構成している。
【0014】
内筒3のバイパス孔34の位置には、円環状のシャッタ部材41が摺動自在に巻き付いている。図2は、シャッタ部材41部分の拡大斜視図である。シャッタ部材41の円環状の部分には複数のパンチ穴42が形成されている。また、円環状のシャッタ部材41からは外側に向かって鍔状の部材41aが張り出している。図1Bに戻り、シャッタ部材41はスプリング49によって内筒3の軸方向で後方側に付勢されている。この状態で、シャッタ部材41はバイパス孔34を塞いでいる。シャッタ部材41は金属製であり、コイル23に通電することにより、発生する磁界によってスプリング49の付勢力に抗して可動する。これによって、バイパス孔34とパンチ穴42の位置が合致して、バイパス孔34は開く。
【0015】
図1Bにおいて、内筒3のバイパス孔36の位置にも、円環状のシャッタ部材46が摺動自在に巻き付いている。シャッタ部材46の構成はシャッタ部材41と同様である。シャッタ部材46の円環状の部分には複数のパンチ穴47が形成されている。シャッタ部材46はスプリング48によって内筒3の軸方向で先端側に付勢されている。この状態で、シャッタ部材46はバイパス孔36を塞いでいる。シャッタ部材46は金属製であり、コイル23に通電することにより、発生する磁界の作用によりスプリング48の付勢力に抗して可動する。これによって、バイパス孔36とパンチ穴47の位置が合致して、バイパス孔36は開く。
【0016】
バイパス孔34,36を開くことによって、バイパス通路室31、空間16、コイル内通路24、空間15、バイパス通路室35は、バルブ13を迂回して、第1の液室4と第2の液室5とを連通する連通路となる。シャッタ部材41,46は、その場合の連通路を開閉する開閉部となる。
前記の説明から明らかなように、電動ダンパ6は、磁石21、コイル23などから構成されるリニアモータから発する磁力を使用する電磁ダンパである。
【0017】
開閉部となるシャッタ部材41,46は、開くときに前記リニアモータから発する磁力を使用している。
図3Aは、図1Bの部分拡大図である。図3Bは、図3Aで電動ダンパ6の最大ストローク時を示す図である。第1の液室4とバイパス通路室31との間のバイパス孔33は、図3Bに示すように電動ダンパ6の最大ストローク時に磁石21によって塞がれない位置に設けられている。
【0018】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図4A図4Cは、サスペンション装置1の作用について説明するサスペンション装置1の概念図である。車両の通常走行時においては、サスペンション装置1は図4Aに示すように電動ダンパ6を用いる。この場合、シャッタ部材41,46は開く。そのため、各室は前記の連通路を介してつながっており、液体はサスペンション装置1内に図4Aにおいて矢印で示すように移動可能であり、液体はバルブ13,14を通過しない。そのため、液圧が発生せず、液体によるダンピングが発生しない。電動ダンパ6は電磁力によりピストン12をコントロールして車両の振動に対する減衰力を発生する。
【0019】
図4B及び図4Cはサスペンション装置1で液圧式ダンパを用いる場合の概念図である。図4Bはロッド11が縮む(サスペンション装置1内に入る)とき、図4Cは伸びる(サスペンション装置1内から出る)ときを示している。車両の通常走行時においては、前記のとおり、電動ダンパ6を用いるが、電動ダンパ6の制御OFF時、フェール時には液圧式ダンパ7を用いる。すなわち、電動ダンパ6の制御OFF時、フェール時にはコイル23への通電が停止するため、シャッタ部材41,46は閉じる。すると、図4A中に矢印で示したような液体の流れはなくなる。そのため、液圧式ダンパ7は、通常の複筒式ダンパと同様にバルブ13,14にて車両の振動に対する減衰力を発生する。
【0020】
よって、電動ダンパ6において、システムのフェール等が発生した際に(コイル23に任意の電流を供給できない際に)、速やかに液圧式ダンパ7に切り換えることができるため、システムのフェールが発生した直後でもダンピングが不足することなく、車両の挙動を安定させることができる。
しかも、図4Aのように液体が流れる連通路を形成するだけであるため、ピストン12の外径が比較的小さく、構造が比較的簡易なサスペンション装置1を提供することができる。
【0021】
また、前記の連通路には開閉部としてシャッタ部材41,46を設けた。そのため、電動ダンパ6において、システムのフェール等が発生した際に、速やかに液圧式ダンパ7に切り換えることができるため、システムのフェールが発生した直後でもダンピングが不足することなく、車両の挙動を安定させることができる。
電動ダンパ6は、前記リニアモータから発する磁力を使用する電磁ダンパである。そのため、電動ダンパ6をスムーズに駆動することができる。
【0022】
開閉部としてのシャッタ部材41,46は、前記リニアモータから発する磁力を使用して駆動している。そのため、電動ダンパ6において、システムのフェール等が発生した際に、確実に液圧式ダンパ7に切り換えることができる。
また、図1Bに示すように、電動ダンパ6の最大ストローク時にバイパス孔33は磁石21によって塞がれない位置に設けられている。そのため、電動ダンパ6の駆動時には前記の連通路が塞がれないので、最大ストローク時に電動ダンパ6をスムーズに駆動することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 サスペンション装置
4 第1の液室
5 第2の液室
6 電動ダンパ
7 液圧式ダンパ
11 ロッド
12 ピストン
13 バルブ
14 バルブ
15 空間(連通路)
16 空間(連通路)
21 磁石(リニアモータ)
23 コイル(アクチュエータ、リニアモータ)
24 コイル内通路(連通路)
31 バイパス通路室(連通路)
33 バイパス孔(連通路)
35 バイパス通路室(連通路)
41 シャッタ部材(開閉部)
46 シャッタ部材(開閉部)
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C