(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】静電成膜装置、および、静電成膜方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20250115BHJP
【FI】
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2021043013
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 汀
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正樹
(72)【発明者】
【氏名】松山 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】大久保 壮吉
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】宮島 桃香
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-149862(JP,A)
【文献】特開平7-121032(JP,A)
【文献】特開2008-224912(JP,A)
【文献】特開2008-003256(JP,A)
【文献】特開2008-145709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/86
B05D
B05C
G03G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電成膜装置であって、
磁極を有するマグネットローラであって、成膜材料である電極粒子が付着した磁性を有するキャリアを磁力により吸着させるマグネットローラと、
前記マグネットローラと離間して設けられたバックアップローラであって、前記キャリアから分離した前記電極粒子が成膜される被成膜面を表面に有するバックアップローラと、を備え、
前記バックアップローラの内部には、前記マグネットローラの前記磁極と反発する反発磁極を有する反発磁極部材であって、前記マグネットローラと前記バックアップローラとの間に位置する飛翔領域において磁界変化を生じさせる反発磁極部材が設けられている、静電成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の静電成膜装置であって、
前記マグネットローラは、前記電極粒子が付着した前記キャリアを吸着する筒状部材と、
前記筒状部材の内部に設けられ、前記磁極を有する磁極部材と、を有し、
前記反発磁極部材は、前記磁極と前記反発磁極とが周期的に対向するように回転可能に構成されている、静電成膜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の静電成膜装置であって、
前記磁極と前記反発磁極とが1秒間当たりに対向する回数は、20回以上270回以下である、静電成膜装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電成膜装置であって、
前記バックアップローラは、回転軸を有し、
前記反発磁極部材は、前記内部のうちで前記回転軸と前記マグネットローラとの間に位置する、静電成膜装置。
【請求項5】
静電成膜方法であって、
(a)磁性を有するキャリアであって成膜材料である電極粒子が付着した前記キャリアを、磁極の磁力によってマグネットローラに吸着させる工程と、
(b)前記キャリアから前記電極粒子を分離させて、前記電極粒子をバックアップローラの被成膜面に付着させる工程と、を備え、
前記工程(b)は、前記バックアップローラの内部に有する前記磁極と反発する反発磁極によって、前記マグネットローラと前記バックアップローラとの間に位置する飛翔領域において磁界変化を生じさせて前記キャリアを振動させる工程を含む、静電成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、静電成膜装置、および、静電成膜方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、現像装置において、磁界発生手段としてのマグネットローラを内側に備えた現像剤担持体の表面に、現像剤を担持して搬送することで、現像剤担持体と対向する感光ドラムの表面にトナー像を現像する技術が知られている(特許文献1)。現像剤は、トナーと、磁性を有するキャリアとを備える。この技術では、キャリアがマグネットローラの磁束に拘束された状態で、摩擦帯電したトナーが静電的にキャリアに拘束され磁気穂を形成する。そして、磁気穂を感光ドラムと接触させてトナーを感光ドラムに供給することで、トナー像を現像する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン電池等に用いられる電極を成膜する技術として、例えば、電極粒子を含むペーストを帯状金属箔の表面に塗布して乾燥させる湿式成膜がある。本願発明者らは、特許文献1に記載された磁界発生手段を備える現像装置によってトナー像を現像する技術を電極の成膜に適用することを検討した。特許文献1に記載された技術を電極の成膜に適用する場合、電極粒子がキャリアから分離しづらく、高い成膜効率を得ることができない場合が生じ得る。よって、マグネットローラから電極粒子をより多く飛翔させて、成膜効率を向上させることのできる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、静電成膜装置が提供される。この静電成膜装置は、磁極を有するマグネットローラであって、成膜材料である電極粒子が付着した磁性を有するキャリアを磁力により吸着させるマグネットローラと、前記マグネットローラと離間して設けられたバックアップローラであって、前記キャリアから分離した前記電極粒子が成膜される被成膜面を表面に有するバックアップローラと、を備え、前記バックアップローラの内部には、前記マグネットローラの前記磁極と反発する反発磁極を有する反発磁極部材であって、前記マグネットローラと前記バックアップローラとの間に位置する飛翔領域において磁界変化を生じさせる反発磁極部材が設けられている。この形態によれば、飛翔領域において、磁極と反発する反発磁極とによって磁界変化を生じさせる。そのため、電極粒子が付着したキャリアを磁界変化によって振動させることができる。この振動によってキャリアに対して静電的に拘束された電極粒子をキャリアから分離しやすくできるので、成膜効率を向上させることができる。
(2)上記形態であって、前記マグネットローラは、前記電極粒子が付着した前記キャリアを吸着する筒状部材と、前記筒状部材の内部に設けられ、前記磁極を有する磁極部材と、を有し、前記反発磁極部材は、前記磁極と前記反発磁極とが周期的に対向するように回転可能に構成されていてもよい。この形態によれば、反発磁極部材が周期的に回転することで、磁界変化を容易に生じさせることができる。
(3)上記形態であって、前記磁極と前記反発磁極とが1秒間当たりに対向する回数は、20回以上270回以下であってもよい。この形態によれば、成膜効率をより一層向上させることができる。
(4)上記形態であって、前記バックアップローラは、回転軸を有し、前記反発磁極部材は、前記内部のうちで前記回転軸と前記マグネットローラとの間に位置してもよい。この形態によれば、反発磁極部材をバックアップローラの内部全体に設ける場合と比べて、反発磁極部材を小型化できる。これにより、同一の駆動力に対する単位時間当たりの反発磁極部材の回転数を効率的に増大できる。
(5)本開示の他の形態によれば、静電成膜方法が提供される。この静電成膜方法は、(a)磁性を有するキャリアであって成膜材料である電極粒子が付着した前記キャリアを、磁極の磁力によってマグネットローラに吸着させる工程と、(b)前記キャリアから前記電極粒子を分離させて、前記電極粒子をバックアップローラの被成膜面に付着させる工程と、を備え、前記工程(b)は、前記バックアップローラの内部に有する前記磁極と反発する反発磁極によって、前記マグネットローラと前記バックアップローラとの間に位置する飛翔領域において磁界変化を生じさせて前記キャリアを振動させる工程を含む。この形態によれば、飛翔領域において、磁極と反発する反発磁極とによって周期的な磁界変化を生じさせる。そのため、電極粒子が付着したキャリアを磁界変化によって振動させることができる。この振動によってキャリアに対して静電的に拘束された電極粒子をキャリアから分離しやすくできるので、成膜効率を向上させることができる。
本開示は、上記の静電成膜装置、および、静電成膜方法以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、静電成膜装置の製造方法や静電成膜装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の静電成膜装置の概略構成を示す図。
【
図2】本実施形態の成膜部における各構成要素の位置関係を説明するための図。
【
図3】成膜部における電極粒子とキャリアとの挙動を説明するための図。
【
図4】電極粒子の成膜量と磁気振動数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
図1は、本実施形態の静電成膜装置1の概略構成を示す図である。
図1では、静電成膜装置1を側面から見たときの状態を示している。静電成膜装置1は、成膜材料である電極粒子Eが付着した磁性を有するキャリアCを、マグネットローラ20の磁力により吸着し、磁界変化を利用して電極粒子Eが付着したキャリアCを振動させる。この振動と、マグネットローラ20の回転に伴う遠心力により、静電成膜装置1は、キャリアCから電極粒子Eを分離させることで電極粒子Eの集合体としての電極を成膜する。静電成膜装置1は、例えば、シート状の電極を成膜する。シート状の電極は、例えば、リチウムイオン電池などの二次電池用の電極として用いられる。静電成膜装置1は、供給部2と、成膜部3と、回収部4と、調整部5と、定着部6と、制御装置7と、を備える。電極粒子Eは、供給部2、成膜部3、調整部5、定着部6の順に搬送される。つまり、本実施形態では、供給部2が電極粒子Eの搬送方向における上流側である。また、定着部6が電極粒子Eの搬送方向における下流側である。また、以下において、重力方向を下側、重力方向とは反対方向を上側とする。
【0009】
供給部2は、静電成膜装置1の搬送方向において成膜部3よりも上流側に設けられる。供給部2は、電極粒子EとキャリアCを後述する成膜部3に供給する。供給部2は、混合体貯留室200と、3つの供給室211,212,213とを備える。以下において、まず、電極粒子EおよびキャリアCについて説明する。
【0010】
電極粒子Eは、反磁性体であり、後述する磁極部材21や反発磁極部材60による磁力によって吸着されない。さらに、電極粒子Eは、電子伝導性を有し、活物質を含む。正極の電極を成膜する場合、電極粒子Eは正極の活物質を含む。正極の活物質としては、種々の酸化物、例えば、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物が用いられる。また、負極の電極を成膜する場合、電極粒子Eは負極の活物質を含む。負極の活物質は、例えば、炭素系材料、チタン酸リチウム系材料、酸化物系材料、合金系材料、リチウム金属系材料が用いられる。なお、電極を構成する電極粒子Eは、本開示に限定されるものではなく、電子伝導性を有するものであればよい。また、電極粒子Eは、同極の活物質同士であれば2種以上の活物質を含んでもよい。
【0011】
キャリアCは、磁性体であるフェライト系粒子に非金属である樹脂被覆を施して構成されている。非金属の樹脂被覆は、導電性を有することが好ましい。キャリアCは、磁性を有するため、後述するマグネットローラ20の磁力によって引き寄せられて、後述する筒状部材30の表面に吸着される。
【0012】
電極粒子EとキャリアCとは、攪拌装置によって混合されて、電極粒子EがキャリアCに付着して混合体ECとなった状態で静電成膜装置1に供給される。具体的には、電極粒子EがキャリアCとの摩擦によって負に帯電し、キャリアCの表面に分散した状態で静電的に付着することで混合体ECが形成される。なお、混合体ECは、磁性を有するキャリアCを含むため、磁性体として機能する。
【0013】
続いて、供給部2の各構成要素とその機能について説明する。混合体貯留室200は、供給部2において、後述する第1供給室211よりも上流側に設けられる。混合体貯留室200は、混合体ECを貯留する。混合体ECは、図示しない通路により、混合体貯留室200へと供給される。さらに、混合体ECは、混合体貯留室200と後述する第1供給室211とが連通する連通口201を通じて、混合体貯留室200から後述する第1供給室211へと供給される。
【0014】
供給室211,212,213は、供給部2において、混合体貯留室200の下流側にこの順で設けられる。供給室211,212,213は、混合体貯留室200から供給される混合体ECを後述する成膜部3に向けて搬送し、後述する成膜部3に供給する。以下において、3つの供給室211,212,213は、それぞれを第1供給室211、第2供給室212、第3供給室213と呼ぶ。
【0015】
第1供給室211は、混合体貯留室200から供給される混合体ECを受容し、第2供給室212に供給する。第1供給室211は、混合体貯留室200の下流側、かつ、第2供給室212の上流側に設けられる。第1供給室211は、半円筒形状であり、上部が開口した形状を成す。第1供給室211のうち、混合体貯留室200の連通口201が位置する側には、後述する第2壁部216よりも高さが高い第1壁部215が形成されている。第1供給室211は、複数の羽を有する第1回転翼221を備える。本実施形態では、第1回転翼221は、6つの羽を有する。第1回転翼221の6つの羽は、図示しない中心軸から放射状に広がる形状を成す。また、第1回転翼221は、後述する制御装置7の制御により、図示しない中心軸を中心として回転する。第1回転翼221の回転方向は、混合体ECを第2供給室212へと供給できる向きである。
図1では、第1回転翼221は搬送方向と同じ方向に回転している。これにより、混合体貯留室200から供給される混合体ECは、第1供給室211における第1回転翼221の回転により、第2供給室212へと供給される。
【0016】
第2供給室212は、第1供給室211から供給される混合体ECを受容し、成膜部3に供給する。第2供給室212は、第1供給室211の下流側、かつ、第3供給室213の上流側に設けられる。本実施形態では、供給室211,212,213のうち、第2供給室212が後述する汲み上げ磁極N1の最も近くに位置する。第2供給室212は、半円筒形状であり、上部が開口した形状を成す。第1供給室211と第2供給室212との間には、両者を隔てる間仕切りとしての第2壁部216が形成されている。第2供給室212は、第1回転翼221と同様の形状を成す第2回転翼222を備える。第2回転翼222は、第2供給室212と成膜部3との位置関係により、混合体ECが良好に供給できる方向に回転させることが好ましい。本実施形態では、第2回転翼222は、後述する制御装置7の制御により、図示しない中心軸を中心として第1回転翼221と同じ方向に回転する。これにより、第1供給室211から供給される混合体ECは、第2供給室212における第2回転翼222の回転により、成膜部3へと供給される。成膜部3に供給される混合体ECは、後述するマグネットローラ20の磁極の1つである汲み上げ磁極N1の磁力によって引き寄せられ、後述する筒状部材30の表面に吸着される。このとき、第2供給室212から供給される混合体ECの一部は、筒状部材30の表面に吸着されず、第2供給室212内に戻るほか、後述する第3壁部217を超えて第3供給室213へ流入する。
【0017】
第3供給室213は、第2回転翼222の回転により後述する第3壁部217を超えて第3供給室213に流入した混合体ECを受容し、第2供給室212に供給する。第3供給室213は、半円筒形状であり、上部が開口した形状を成す。第2供給室212と第3供給室213との間には、両者を隔てる間仕切りとしての第3壁部217が形成されている。また、第3供給室213と後述する回収室420との間には、両者を隔てる第4壁部218が形成されている。第3供給室213は、第1回転翼221と同様の形状を成す第3回転翼223を備える。第3回転翼223は、第2回転翼222の回転方向とは反対の方向に回転させることが好ましい。本実施形態では、第3回転翼223は、後述する制御装置7の制御により、図示しない中心軸を中心として第2回転翼222とは反対の方向に回転する。これにより、第2回転翼222の回転により第3壁部217を越えて第3供給室213に流入した混合体ECを第2供給室212に供給することができる。
【0018】
成膜部3は、静電成膜装置1において、供給部2よりも上流側、かつ、後述する調整部5よりも下流側に設けられる。成膜部3では、供給部2から供給される混合体ECを後述するマグネットローラ20に吸着させる工程と、後述するバックアップローラ50と対向する位置に向けて搬送する工程とが実行される。さらに、成膜部3では、後述する飛翔領域300において電極粒子EをキャリアCから分離させ、後述する被成膜面68に電極粒子Eを成膜する工程が実行される。成膜部3の詳細構成は後述する。
【0019】
図2は、本実施形態の成膜部3における各構成要素の位置関係を説明するための図である。
図2では、静電成膜装置1の成膜部3を正面から見たときの状態を模式的に示している。
図2では、静電成膜装置1の内部構成も模式的に示している。成膜部3は、マグネットローラ20と、バックアップローラ50と、反発磁極部材60と、
図1に示す接地部材80と、これらの土台となる台座18と、を備える。以下において、成膜部3における各構成要素とその位置関係とを説明する。なお、成膜部3における電極粒子EとキャリアCとの挙動については、後述する。以下において、まず成膜部3の各構成要素およびその位置関係について説明する。
【0020】
マグネットローラ20は、筒状部材30と、磁界発生手段としての磁極部材21と、
図1に示す規制部材25と、図示しない電圧供給部と、図示しない電気配線と、を備える。
【0021】
筒状部材30は、後述する磁極部材21の磁力により、混合体ECを吸着して搬送する表面を有する。筒状部材30は、円筒形状を成す。筒状部材30は、導電性の非磁性材料で形成され、例えば、アルミニウムや非磁性ステンレス鋼で形成される。筒状部材30の長手方向は、台座18に対して水平となる方向である。筒状部材30は、筒状部材本体31と、第1軸部32とにより構成される。筒状部材本体31は、後述する磁極部材21を内包する。第1軸部32は、筒状部材30の回転軸である筒回転軸O1を形成する。第1軸部32は台座18から垂直方向に立設する第1支持部材33により回転可能に支持され、これにより、筒状部材30は支持される。なお、筒状部材30は、後述する制御装置7の制御により、筒回転軸O1回りに回転する。後述の
図3において図示するが、本実施形態では、筒状部材30の回転方向は、第2回転翼222の回転方向とは反対の方向である。である。また、本実施形態では、筒回転軸O1が延びる方向は、水平方向である。
【0022】
磁極部材21は、筒状部材30の内部に設けられる。磁極部材21は、筒状部材30より径が小さく設けられた磁極部材本体21aと、第2軸部22と、により構成される。磁極部材21の長手方向は、筒状部材30と同様に、水平方向である。
【0023】
磁極部材本体21aは、複数の磁石で構成され、それぞれに磁極N1,S1,N2,S2,N3を有する。磁極部材本体21aは、後述する第2軸部22を中心として放射状に形成される。磁極部材本体21aの詳細については、
図3を用いて後述する。
【0024】
第2軸部22は、磁極部材本体21aよりも径が小さくなるよう設けられる。磁極部材21は、磁極部材21の第2軸部22を、第1支持部材33により支持することで、筒状部材30の内部に固定されている。なお、本実施形態では、磁極部材21は、回転することなく固定されている。なお、磁極部材21は、筒状部材30の内部において回転することなく固定されていればよく、磁極部材21を支持する位置および数は、本開示に限られるものではない。
【0025】
規制部材25は、磁極部材21の磁力により筒状部材30の表面に吸着された混合体ECのうち、過剰分を脱落させる。規制部材25の詳細は、
図3を用いて後述する。
【0026】
電圧供給部は、図示しないが、マグネットローラ20、特に筒状部材30に電圧を供給する電圧供給装置を含む。マグネットローラ20と図示しない電圧供給部は、図示しない電気配線により接続される。マグネットローラ20は、図示しない電気配線を介して、電圧供給部から予め定められた電圧を印加される。電極粒子Eの成膜時におけるマグネットローラ20に対する電圧の印加の態様については、後述する。なお、マグネットローラ20における各構成要素の形状、形成位置、大きさ、および、回転の態様は本開示に限られるものではない。
【0027】
バックアップローラ50は、バックアップローラ50の表面に被成膜面68を有し、後述する箔Fを搬送する。バックアップローラ50は、マグネットローラ20と離間して設けられる。
図2で示す例では、バックアップローラ50は、マグネットローラ20の上側に設けられている。また、
図2では、マグネットローラ20の表面における一部とバックアップローラ50の表面における一部とは対向している。バックアップローラ50は、円筒形状を成す。バックアップローラ50は、金属等の導電性材料で形成され、例えば、アルミニウムで形成される。バックアップローラ50の長手方向は、水平方向である。
【0028】
バックアップローラ50は、バックアップローラ本体51と、第3軸部52と、により構成される。バックアップローラ本体51は、後述する反発磁極部材60を内包する。バックアップローラ50は、バックアップローラ回転軸O3を形成する第3軸部52を有する。
図2では、第3軸部52は、バックアップローラ本体51より径が小さくなるよう設けられている。第3軸部52は、台座18から垂直方向に立設する第3支持部材53により回転可能に支持され、これにより、バックアップローラ50は支持される。バックアップローラ50は、後述する制御装置7の制御により、バックアップローラ50の中心軸であるバックアップローラ回転軸O3回りに回転する。本実施形態では、バックアップローラ50の回転方向は、マグネットローラ20の回転方向とは反対方向である。また、本実施形態では、バックアップローラ回転軸O3が延びる方向は、水平方向である。
【0029】
バックアップローラ50は、バックアップローラ50の表面のうち、マグネットローラ20と対向する位置において、キャリアCから分離した電極粒子Eが成膜される被成膜面68を有する。本実施形態では、
図1に示すように、被成膜面68に沿うように長尺状の箔Fが連続的に供給される。すなわち、キャリアCから分離した電極粒子Eは、被成膜面68に直接成膜されるのではなく、被成膜面68上に供給される箔F上に成膜される。箔Fは、金属等の導電性材料で形成され、例えば、アルミニウムにより形成される。箔Fはシート状の電極の土台としての機能を有する。箔Fと、箔F上に成膜された電極粒子Eとしての成形前電極Iと、は後述する定着部6において押圧され、箔Fと電極粒子Eとが密着して一体となることで、シート状の電極が製造される。
【0030】
なお、バックアップローラ50は、反発磁極部材60よりも径が大きければよく、バックアップローラ50の各構成要素の形状、形成位置、大きさ、および、回転の態様は本開示に限定されるものではない。
【0031】
反発磁極部材60は、バックアップローラ50の内部のうち、バックアップローラ回転軸O3とマグネットローラ20との間に設けられている。本実施形態では、反発磁極部材60は、バックアップローラ回転軸O3よりも下側に設けられている。反発磁極部材60は、磁界発生手段である。反発磁極部材60は、磁極部材21が有する後述する対向磁極N2と反発磁極部材60が有する反発磁極Nとが対向する対向位置と、後述する対向磁極N2と反発磁極Nとが対向しない非対向位置と、に変位可能に構成される。本実施形態では、固定された位置に存在する後述する対向磁極N2に対して、反発磁極Nを有する反発磁極部材60を回転させることで、対向位置と非対向位置とに変位可能としている。反発磁極部材60は、反発磁極部材本体60aと、反発磁極回転軸O4を形成する第4軸部62とを有する。反発磁極部材60の長手方向は、バックアップローラ50と同様に、水平方向である。
【0032】
反発磁極部材本体60aは、複数の磁石で構成される。
図1で示すように、反発磁極部材本体60aを構成する磁石は、それぞれに反発磁極Nを有する。
図1および
図2に示すように、反発磁極部材本体60aを構成する複数の磁石は板状であり、第4軸部62により支持される。
【0033】
第4軸部62は、バックアップローラ50の内部において、回転可能に支持される。このとき、反発磁極部材本体60aは、後述する制御装置7の制御により、反発磁極回転軸O4回りに回転する。本実施形態では、反発磁極部材60は、マグネットローラ20とは反対の方向に回転する。反発磁極回転軸O4が延びる方向は、水平方向である。なお、反発磁極部材本体60aを構成する磁石の数および形成位置は、これに限られるものではない。反発磁極部材本体60aは、後述する対向磁極N2と対向して反発する反発磁極Nを有していればよい。反発磁極部材本体60aは、例えば、5つの磁石により構成され、5つの磁極を有してもよい。反発磁極部材本体60aの詳細については、
図3を用いて後述する。
【0034】
反発磁極部材60の各構成要素の形状、形成位置、大きさ、回転の態様、対向位置と非対向位置との変位手段は、上記に限定されるものではない。反発磁極部材60は、バックアップローラ50よりも径が小さく設けられ、対向磁極N2と反発磁極Nとが対向する対向位置と、対向磁極N2と反発磁極Nとが対向しない非対向位置と、に変位可能に構成されればよい。
【0035】
図1に戻り、静電成膜装置1が備える他の構成要素について説明する。回収部4は、磁極部材21の磁力により筒状部材30の表面に吸着されていた混合体ECが離脱した際に、離脱した混合体ECを回収する。回収部4は、排出部材410と、回収室420とを備える。
【0036】
排出部材410は、上述のように離脱した混合体ECを受容し、回収室420へと導く。以下において、排出部材410のうち、マグネットローラ20が位置する側を先端側とする。また、排出部材410の先端側とは反対側に位置する部分を基端側とする。排出部材410の先端側は、磁極部材21が有する複数の磁極N1,S1,N2,S2,N3のうち、後述する離脱磁極N3と汲み上げ磁極N1との間であって、筒状部材30の表面と対向するように設けられる。また、排出部材410の基端側は、第4壁部218において、回収室420の一部と当接する部分に設けられ、回収室420の一部に固定されている。なお、排出部材410の形状は、本開示に限られるものではない。排出部材410は、マグネットローラ20から離脱した混合体ECを回収室へと導くことができる形状であればよい。
【0037】
回収室420は、排出部材410の基端側に設けられる。回収室420は、排出部材410を伝って供給される混合体ECを回収する空間である。このようにして、回収部4は、キャリアCと、成膜部3においてキャリアCから分離しなかった電極粒子Eと、を回収する。なお、回収室420に回収された電極粒子EおよびキャリアCは、図示しない連結部材により、供給部2に供給してもよい。このようにすると、回収室420に回収された電極粒子EおよびキャリアCを簡便に再利用することができる。
【0038】
調整部5は、成膜部3において箔F上に成膜された電極粒子Eとしての成形前電極Iの状態を確認し、膜の厚み等の調整を行う。調整部5は、厚み補正部材510と、押圧部材520と、センサ530と、キャリア除去装置540と、を備える。本実施形態では、厚み補正部材510と、押圧部材520と、センサ530と、キャリア除去装置540とは、静電成膜装置1の搬送方向において、この順に設けられている。なお、調整部5の各構成要素および配置される順番は、本開示に限られるものではない。例えば、調整部5に列挙した構成要素は必須ではなく、調整部5は別の構成要素を付加的に備えてもよい。また、各構成要素は本実施形態とは異なる順に配置されてもよい。
【0039】
厚み補正部材510は、被成膜面68における箔F上に成膜された成形前電極Iの厚みを規制する。厚み補正部材510は、いわゆるスクレーバである。厚み補正部材510の先端は、成形前電極Iの外表面と対向するよう設けられる。また、厚み補正部材510は、被成膜面68から成形前電極Iの外表面までの厚み方向において、予め定められた距離の分だけ被成膜面68から離れた位置に設けられる。ここで、バックアップローラ50が回転しながら、厚み補正部材510の先端が成形前電極Iの表面に接触することで、予め定められた厚みを超える部分は削ぎ落とされる。すなわち、厚み補正部材510により、被成膜面68における箔F上に成膜された成形前電極Iは予め定められた厚みに規制される。
【0040】
押圧部材520は、被成膜面68において箔F上に成膜された成形前電極Iを押圧し、成膜された電極粒子Eの厚みを一定にする。本実施形態では、押圧部材520は、後述する制御装置7の制御により、図示しない中心軸を中心に回転するロール状の形状を成す。本実施形態では、押圧部材520の回転方向は、バックアップローラ50の回転方向と同じである。押圧部材520は、絶縁体材料により形成され、例えば、ゴムで形成される。押圧部材520は、バックアップローラ50の被成膜面68上の成形前電極Iと接触する接触面を備える。押圧部材520の接触面は、バックアップローラ50の表面と対向するように平行に設けられる。押圧部材520は、図示しない中心軸を中心に回転しながら成形前電極Iの表面と接触する。本実施形態では、押圧部材520は、バックアップローラ50の回転方向とは反対の方向に回転する。ここで、成形前電極Iの厚み方向において、押圧部材520と成形前電極Iの表面との距離は、厚み補正部材510と成形前電極Iの表面との距離よりも短くすることが好ましい。このようにすると、厚み補正部材510によって予め定められた厚みに規制された箔F上の成形前電極Iを、押圧部材520の接触面と接触させたときに、成形前電極Iの厚みが均一になる。
【0041】
センサ530は、被成膜面68における箔F上に成膜された成形前電極Iの状態、例えば、表面の凹凸や厚み、キャリアCの混入の有無、異物の混入の有無などを検出する。センサ530は、検出した情報を制御装置7に伝達する。
【0042】
キャリア除去装置540は、成膜部3における成膜に際し、成形前電極IにキャリアCが混入した場合に、成形前電極IからキャリアCを除去する。キャリア除去装置540は、例えば、磁石で構成され、成形前電極Iと対向するよう設けられる。成形前電極Iが箔Fとともに搬送方向に搬送され、箔F上の成形前電極Iがキャリア除去装置540と対向すると、成形前電極Iに混入した磁性を有するキャリアCは、キャリア除去装置540の磁力によりキャリア除去装置540に吸着される。これに対して、本実施形態における箔Fはアルミニウムで構成されるため磁性を有さず、成形前電極Iを構成する電極粒子Eは反磁性体である。そのため、箔Fおよび成形前電極Iは、キャリア除去装置540による磁力に引き寄せられず、キャリア除去装置540に吸着しない。このようにすれば、成形前電極Iに混入したキャリアCを除去し、箔F上の電極粒子Eの純度を向上させることができる。なお、箔Fとして磁性を有する金属箔を使用する場合には、キャリア除去装置540の磁力による箔Fの浮き上がりを防止するためのローラを設ければよい。この場合、例えば、箔Fの搬送方向において、キャリア除去装置540の上流側と下流側とに一対のローラを設ける。なお、キャリア除去装置540は、成形前電極Iに混入したキャリアCに関する情報、例えば、混入箇所や混入量を、センサで認識し、制御装置7を介して取得してもよい。
【0043】
定着部6は、箔Fと箔F上に成膜された成形前電極Iとを押圧し、箔Fと成形前電極Iとを密着させ、一体化させる。定着部6は、搬送方向において、調整部5の下流側に設けられる。定着部6は、定着ローラ610,620を備える。定着ローラ610,620は、箔Fと箔F上に成膜された成形前電極Iとを搬送方向に挟み込む一対のローラである。すなわち、定着ローラ610,620は、箔F側に位置する一面と、一面とは反対側に位置し成形前電極I側としての他面と、にそれぞれ設けられる。定着ローラ610,620は、後述する制御装置7の制御により、箔Fの搬送速度に同期して回転するとともに、図示しない加熱装置にて箔Fと成形前電極Iとを加熱する。そして、定着部6は、対を成す定着ローラ610と定着ローラ620との間を、箔Fと成形前電極Iとが通過する際に、圧力および熱を加えて、成形前電極Iを箔Fに定着させる。これにより、箔Fと成形前電極Iとが一体になることで、シート状の電極が製造される。
【0044】
接地部材80は、導電性を有するバックアップローラ50および箔Fを無電荷にする。接地部材80は、接地(アース)されている。接地部材80は、バックアップローラ50のバックアップローラ本体51と当接し、バックアップローラ50の電荷を無電荷の状態に保つ。
【0045】
制御装置7は、以上において説明した静電成膜装置1の各構成要素に対して、駆動力を与えて制御する。
図1では、制御装置7と電気的に接続されて制御される静電成膜装置1の各構成要素のうち、電気的な接続の態様の一部を代表して模式的に図示している。具体的には、制御装置7は、第1回転翼221と、第2回転翼222と、第3回転翼223と、筒状部材30と、バックアップローラ50と、反発磁極部材60と、押圧部材520と、定着ローラ610,620と、に駆動力を与える。これにより、静電成膜装置1の各構成要素221,222,223,30,50,60,520,610,620は、回転する。制御装置7は、図示しないモータを含む。制御装置7と各構成要素221,222,223,30,50,60,520,610,620とは、電気配線により接続されている。なお、静電成膜装置1の各構成要素221,222,223,30,50,60,520,610,620の回転速度は、制御装置7のモータの回転数により制御される。
【0046】
以上で説明した静電成膜装置1を前提として、成膜部3における各構成要素の詳細および電極粒子EとキャリアCとの挙動について説明する。
【0047】
図3は、成膜部3における電極粒子EとキャリアCとの挙動を説明するための図である。
図3では、静電成膜装置1の成膜部3を側面から見たときの状態を模式的に示している。また、
図3では、被成膜面68に搬送される長尺状の箔Fは、バックアップローラ50と当接する部分のみを模式的に示している。以下において、まず、磁極部材21が有する各磁極N1,S1,N2,S2,N3の構成ついて説明する。
【0048】
前述の通り、磁極部材21において、磁界発生手段として機能する磁極部材本体21aは、複数の磁石で構成され、それぞれに磁極N1,S1,N2,S2,N3を有する。本実施形態では、磁極部材本体21aは5つの磁石によって構成される。すなわち、磁極部材本体21aの磁極の数は5つである。5つの磁石は、
図3に示すように、板状を成し、第2軸部22を中心として放射状に広がる形状を成す。以下において、磁極部材本体21aを構成する各磁石と第2軸部22とが当接する部分を第1基端部とする。また、各磁石において第1基端部とは反対側に位置する部分、すなわち、筒状部材30の内表面と対向する部分を第1先端部とする。磁極部材本体21aの磁極N1,S1,N2,S2,N3は、各磁石の第1先端部に位置する。
【0049】
磁極部材本体21aの各磁極N1,S1,N2,S2,N3は、汲み上げ磁極N1と、第1搬送磁極S1と、対向磁極N2と、第2搬送磁極S2と、離脱磁極N3である。汲み上げ磁極N1と、第1搬送磁極S1と、対向磁極N2と、第2搬送磁極S2と、離脱磁極N3とは、筒状部材30の内部において、この順に設けられる。
【0050】
汲み上げ磁極N1は、
図1に示すように、第2供給室212の上側において、第2供給室212と対向する位置に設けられる。本実施形態では、汲み上げ磁極N1の極性は、N極である。
【0051】
対向磁極N2は、反発磁極部材60と対向する位置に設けられる。すなわち、対向磁極N2は、バックアップローラ50の被成膜面68および被成膜面68に供給される箔Fと対向する。本実施形態では、対向磁極N2の極性は、N極である。
【0052】
第1搬送磁極S1は、汲み上げ磁極N1と対向磁極N2との間に設けられる。本実施形態では、第1搬送磁極S1の極性は、汲み上げ磁極N1と対向磁極N2とは異なるS極である。
【0053】
離脱磁極N3は、汲み上げ磁極N1と隣り合う位置、かつ、筒状部材30の表面と排出部材410の先端とが対向する位置よりも第2搬送磁極S2側に設けられる。本実施形態では、離脱磁極N3の極性は、離脱磁極N3と隣り合う汲み上げ磁極N1と同極のN極である。
【0054】
第2搬送磁極S2は、対向磁極N2と離脱磁極N3との間に設けられる。本実施形態では、第2搬送磁極S2の極性は、対向磁極N2と離脱磁極N3とは異なるS極である。
【0055】
なお、磁極部材本体21aが有する複数の磁極N1,S1,N2,S2,N3の位置および数は、これに限られるものではない。磁極部材本体21aが有する磁極は、後述する反発磁極Nと対向する位置に後述する反発磁極Nと同極の対向磁極N2を有し、マグネットローラ20により混合体ECを搬送する部分は、異極の磁極同士が隣り合うように位置すればよい。
【0056】
次に、磁極部材本体21aが有する各磁極N1,S1,N2,S2,N3の機能と、マグネットローラ20による混合体ECの搬送時における電極粒子EとキャリアCとの挙動について説明する。
【0057】
まず、混合体ECはマグネットローラ20に吸着される。混合体ECがマグネットローラ20へ吸着される吸着態様は以下の通りである。
図1に示すように、供給部2には、負に帯電した電極粒子EがキャリアCに対して静電的に付着した混合体ECが供給される。この混合体ECは、混合体貯留室200と第1供給室211とを経由して、第2供給室212へと搬送される。第2供給室212に搬送された混合体ECは、第2回転翼222の回転により、第2回転翼222が有する複数の羽に押し上げられて、マグネットローラ20に近づく。このとき、第2供給室212の最も近くに位置する磁極は、汲み上げ磁極N1である。汲み上げ磁極N1の極性はN極であり、N極の磁極は、磁力により磁性体を引き寄せる性質を有する。また、磁性を有するキャリアCと電極粒子Eとの混合物である混合体ECは、前述した通り磁性体として機能している。そのため、混合体ECは、磁力が加わると、加わった磁力により引き寄せられたり反発したりする状態であり、その挙動は磁力線に追従する。ここで言う磁力線とは、各磁極の周囲に生じる磁界の分布を仮想的に表す線のことである。これにより、第2供給室212の第2回転翼222によって押し上げられた混合体ECは、第2供給室212の最も近くに位置する汲み上げ磁極N1の磁力によりマグネットローラ20側に引き寄せられる。さらに、汲み上げ磁極N1に引き寄せられた混合体ECは、磁極部材21の外形を構成する筒状部材30の表面のうち、汲み上げ磁極N1と対向する位置に吸着される。
【0058】
筒状部材30の表面に吸着された混合体ECは、磁力線の向きに追従した形状を成す。具体的には、汲み上げ磁極N1と対向する位置に吸着された混合体ECは、
図3に示すように、汲み上げ磁極N1と筒状部材30とが対向する位置から遠ざかる方向に向かって、立ち上がる。このとき、混合体ECは、キャリアCを軸とし、このキャリアCに電極粒子Eが付着した稲穂形状を成す磁気穂を形成する。すなわち、稲穂における穂軸が本実施形態におけるキャリアCに相当する。また、稲穂における籾が本実施形態における電極粒子Eに相当する。
図3に示す例では、汲み上げ磁極N1と対向する位置に吸着された混合体ECは、7つのキャリアCに複数の電極粒子Eが付着した状態である。このとき、筒状部材30の回転に伴い、混合体ECは、筒状部材30の表面に吸着された状態で、稲穂形状を磁力線に追従した形状に変化させながら、
図3に示すように、マグネットローラ20の回転方向に搬送される。
【0059】
汲み上げ磁極N1と第1搬送磁極S1との間には、規制部材25が設けられている。このとき、マグネットローラ20の搬送工程において、マグネットローラ20に吸着された混合体ECの長さを予め定められた長さに規制するため、規制部材25が筒状部材30の表面から予め定められた距離だけ離間した位置に設けられる。また、規制部材25は、先端側が筒状部材30の表面と対向するように設けられるため、筒状部材30が回転すると、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、規制部材25の先端側と接触する。そして、予め定められた長さを超えて過剰に吸着されたキャリアCおよび電極粒子Eは、規制部材25の先端側との接触により切り離され、脱落する。これにより、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、その混合体ECの長さが均一化された状態で第1搬送磁極S1に向けて搬送される。なお、マグネットローラ20に吸着された混合体ECのうち、規制部材25により切り離されて脱落した電極粒子EとキャリアCとは、供給室211~213に受容され、再び汲み上げ磁極N1に供給される。なお、規制部材25の形状および形成位置は、本開示に限られるものではない。規制部材25は、筒状部材30の回転方向において、汲み上げ磁極N1と対向磁極N2との間であって、マグネットローラ20に吸着された混合体ECと対向する位置に設ければよい。規制部材25は、例えば、第1搬送磁極S1と対向磁極N2との間に位置してもよい。
【0060】
さらに、筒状部材30の回転により、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、その形状を磁力線に追従させながら第1搬送磁極S1に搬送される。汲み上げ磁極N1と第1搬送磁極S1とは、磁極の極性が異なる。仮に、第1搬送磁極S1に位置する磁極が汲み上げ磁極N1と同じN極である場合、汲み上げ磁極N1と隣り合う磁極との間に反発する磁界が生じ、マグネットローラ20に吸着された混合体ECがマグネットローラ20から離脱してしまう。これに対して、本実施形態では、汲み上げ磁極N1とは異なる極性の第1搬送磁極S1を設けることで、混合体ECを反転させながら搬送している。筒状部材30の表面のうち、汲み上げ磁極N1と第1搬送磁極S1との中央付近では、混合体ECは磁力線に追従して弓状に湾曲した形状を成している。つまり、混合体ECの基端と先端とは、汲み上げ磁極N1と対向する位置に吸着される時点と、第1搬送磁極S1と対向する位置に吸着される時点との間で反転している。
【0061】
第1搬送磁極S1と対向する位置に搬送された混合体ECは、さらに、マグネットローラ20とバックアップローラ50とが対向する位置に向けて搬送され、筒状部材30の表面において、対向磁極N2に近接する領域に到達する。対向磁極N2を内包するマグネットローラ20とバックアップローラ50との間の領域において、電極粒子EがキャリアCから分離して飛翔することで、箔F上に付着する。よって、マグネットローラ20とバックアップローラ50との間に位置するこの領域を飛翔領域300とも呼ぶ。なお、第1搬送磁極S1と対向磁極N2とは、磁極の極性が異なっている。そのため、マグネットローラ20に吸着された混合体ECが第1搬送磁極S1から対向磁極N2へと搬送されるときの態様は、前述した搬送態様と同様である。
【0062】
前述の通り、反発磁極部材60において、磁界発生手段として機能する反発磁極部材本体60aは、複数の磁石で構成され、それぞれに反発磁極Nを有する。本実施形態では、反発磁極部材本体60aは4つの磁石で構成される。すなわち、本実施形態の反発磁極部材本体60aは4つの反発磁極Nを有する。反発磁極部材本体60aにおける4つの反発磁極Nの機能は同一であるため、
図3において同じ符号を付している。反発磁極部材本体60aを構成する4つの磁石は、
図3に示すように、板状を成し、第4軸部62を中心として放射状に広がった形状を成す。本実施形態では、反発磁極部材本体60aを構成する4つの磁石は等間隔に設けられている。以下において、反発磁極部材本体60aを構成する各磁石と第4軸部62とが当接する部分を第2基端部とする。また、各磁石において第2基端部とは反対側に位置する部分、すなわち、筒状部材30の内表面と対向する部分を第2先端部とする。反発磁極部材本体60aの4つの反発磁極Nは、各磁石の第2先端部に位置する。
【0063】
反発磁極Nは、対向磁極N2と対向して反発する磁極である。すなわち、対向磁極N2の極性はN極であるため、反発磁極Nも対向磁極N2と同極のN極である。以下において、静電成膜装置1を用いた静電成膜方法と、飛翔領域300における混合体ECの挙動と電極粒子Eの成膜態様と、について説明する。
【0064】
飛翔領域300に搬送された混合体ECは、以下の2つの力により、混合体ECを構成する電極粒子Eの一部がキャリアCから分離する。
【0065】
1つ目の力は、遠心力である。具体的には、筒状部材30の回転に伴う遠心力により、混合体ECを構成する電極粒子Eの一部がキャリアCから分離する。遠心力による分離態様では、後述する被成膜面68上の箔Fに電極粒子Eが静電的に付着する成膜よりも、混合体ECにおける電極粒子EとキャリアCとの静電的拘束が優位となりやすい。すなわち、静電的に拘束された電極粒子EがキャリアCから分離しづらい。よって、電極粒子Eの成膜において、高い成膜効率を得ることができない場合が生じ得る。
【0066】
これに対して、本実施形態の静電成膜装置1は、以下に示す2つ目の力を追加的に発生させる。2つ目の力は、飛翔領域300において周期的な磁界変化を生じさせてキャリアCを振動させる力である。具体的には、以下の通りである。対向磁極N2と反発磁極Nとは同極のN極同士であり、対向磁極N2と反発磁極Nとが対向するときには、両者が発する磁力により形成される磁界同士がぶつかり合い、両者の間に反発する方向の磁界が生じる。ここで、磁極部材21は回転することなく、固定されており、反発磁極部材60は反発磁極回転軸O4を中心に回転している。これにより、飛翔領域300において、反発磁極Nは、固定された位置に存在する対向磁極N2に対して周期的に対向する。
【0067】
対向磁極N2と反発磁極Nとが対向した対向位置から、反発磁極部材60の回転により、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が遠ざかる場合を考える。この場合、対向磁極N2と反発磁極Nとの間に生じる反発する方向の磁界の強度は、対向位置の場合と比べて、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離に比例しながら弱くなっていく。前述した非対向位置のうち、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が最も離れたとき、両者の間に生じる反発する方向の磁界の強度は最小となる。一方、反発磁極部材60がさらに回転すると、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が再び近づいていく。このとき、対向磁極N2と反発磁極Nとの間に生じる反発する方向の磁界の強度は、反発磁極Nが対向磁極N2に近づくにつれて強くなる。そして、再び対向磁極N2と反発磁極Nとが対向する対向位置になると、両者の間に生じる反発する方向の磁界の強度は最大となる。このようにして、静電成膜装置1は、飛翔領域300において、周期的な磁界変化を生じさせる。
【0068】
磁界変化が混合体ECに与える影響を考える際には、対向磁極N2および反発磁極Nの周囲に生じる磁界の分布を仮想的に表す磁力線を用いると理解が容易になる。上記のように、周期的な磁界変化を生じさせると、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、周期的な磁界変化に伴う磁力線の変化に追従して、混合体ECの形状が変化する。具体的には、対向磁極N2と反発磁極Nとが対向する対向位置、すなわち反発する方向の磁界の強度が最大の場合、両者の間に形成される反発する方向の磁界は、両者を分断するような磁力線で描かれる。そのため、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、この磁力線に追従し、混合体ECにおいて軸を成すキャリアCが倒れた状態になる。
図3では、対向位置において、反発する方向の磁界の強度が最大になったときの混合体ECの形状を実線で模式的に示している。これに対して、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が最も離れた状態、すなわち反発する方向の磁界の強度が最小の場合、両者の磁力線は互いを遮ることなく存在する。つまり、対向磁極N2と反発磁極Nとを分断するような磁界は発生しない。そのため、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、非対向位置のうち、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が最も離れた状態のとき、混合体ECにおいて軸を成すキャリアCは立ち上がった状態になる。
図3では、非対向位置において、反発する方向の磁界の強度が最小となったときの混合体ECの形状を点線で模式的に示している。このように、周期的な磁界変化に伴い、マグネットローラ20に吸着された混合体ECは、キャリアCが混合体ECの軸を成した状態で、まるで埃叩きのように、倒れたり立ち上がったりを繰り返す。すなわち、周期的な磁界変化に伴い、マグネットローラ20に吸着された状態において、混合体ECは振動する。
図3では、飛翔領域300において、この振動により混合体ECの軸を成すキャリアCが揺れるときの振れを模式的に両矢印で示している。ここで、混合体ECは磁性体であるため、周期的な磁界変化に伴う混合体ECの振動は、磁気振動とも言える。
【0069】
ここで、混合体ECは、キャリアCに電極粒子Eが付着した状態である。そのため、上記のように、飛翔領域300において、周期的な磁界変化に伴い、キャリアCが磁気振動することで混合体EC全体に磁気振動が伝播する。これにより、電極粒子Eの一部がキャリアCから分離する。このとき、混合体ECの磁気振動によって電極粒子Eの一部がキャリアCから分離する態様は、混合体ECを構成するキャリアCに付着した電極粒子Eが磁気振動により、振り落とされる状態である。すなわち、磁気振動により電極粒子Eの一部がキャリアCから分離する場合には、キャリアCから分離した一部の電極粒子Eが被成膜面68上の箔Fに向けて飛翔するとも言える。なお、
図3に示す例では、飛翔領域300において、キャリアCから分離して飛翔した電極粒子Eを飛翔電極粒子E1として示している。
【0070】
本実施形態における反発磁極部材60は、バックアップローラ50の内部のうち、バックアップローラ回転軸O3とマグネットローラ20との間に設けられる。このようにすると、反発磁極部材60をバックアップローラ50の内部全体に設ける場合と比べて、反発磁極部材60を小型化できる。これにより、同一の駆動力に対する単位時間当たりの反発磁極部材60の回転数を効率的に増大できる。すなわち、反発磁極部材60を小型化することで、後述する磁気振動数を効率的に増大できる。
【0071】
続いて、前述した2つの力としての遠心力と磁気振動による力との少なくとも一方により、キャリアCから分離した電極粒子Eとしての飛翔電極粒子E1が、被成膜面68に搬送される箔F上に成膜される態様について説明する。
【0072】
マグネットローラ20は、前述した通り、マグネットローラ20に電圧を供給するための図示しない電圧供給部と接続されている。本実施形態では、図示しない電圧供給部は、マグネットローラ20に対し、2550Vの直流電圧を印加している。一方、バックアップローラ50は、前述した通り、接地部材80と接続されている。本実施形態では、バックアップローラ50は、接地部材80により接地(アース)されているため、電圧は0Vである。これにより、静電成膜装置1は、マグネットローラ20とバックアップローラ50との間に電位差が設けられた状態である。なお、マグネットローラ20に印加する電圧はこれに限られるものではなく、例えば、直流電圧に交流電圧を重畳したものを印加してもよい。
【0073】
上記のように、静電成膜装置1では、混合体ECを吸着して搬送するマグネットローラ20と、被成膜面68を表面に備えるバックアップローラ50との間には電位差が設けられる。そのため、負に帯電した飛翔電極粒子E1は、マグネットローラ20からバックアップローラ50へ向かう静電力(クーロン力)を受ける。具体的には、負に帯電した飛翔電極粒子E1がバックアップローラ50に近づくと、静電誘導により、バックアップローラ50の表面には正電荷が集まる。このとき、バックアップローラ50は、接地部材80により接地(アース)されている。そのため、バックアップローラ50における負電荷は大地に流れ、大地からの自由電子の正電荷とバックアップローラ50の負電荷とが中和し、あたかも、バックアップローラ50の負電荷は大地に流れたかのように消滅する。その結果、バックアップローラ50の表面は、正に帯電した状態となる。これにより、遠心力と磁気振動による力との少なくとも一方に起因してキャリアCから分離した飛翔電極粒子E1は、静電力によってバックアップローラ50の被成膜面68に向かって飛翔し、被成膜面68に搬送される箔F上に付着することで、成膜される。
【0074】
なお、マグネットローラ20とバックアップローラ50との間に生じる静電力は、キャリアCから分離した電極粒子Eとしての飛翔電極粒子E1を箔F上に成膜する工程に加えて、キャリアCから電極粒子Eを分離させる工程にも寄与する。すなわち、キャリアCに付着した電極粒子Eを分離させる2つの力において、マグネットローラ20とバックアップローラ50との間に生じる静電力は、キャリアCから電極粒子Eが分離するのを促進する方向に働く。
【0075】
飛翔領域300に搬送された混合体ECは、さらに、筒状部材30の回転により、第2搬送磁極S2に搬送される。続いて、第2搬送磁極S2に搬送された混合体ECは、筒状部材30の回転により、離脱磁極N3へと搬送される。このときの混合体ECの搬送態様は、前述した汲み上げ磁極N1から第1搬送磁極S1を経由して対向磁極N2へと搬送される搬送態様と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
離脱磁極N3に搬送された混合体ECは、筒状部材30の回転により、汲み上げ磁極N1が位置する方向に搬送される。この搬送過程において、離脱磁極N3と汲み上げ磁極N1とは同極であるため、離脱磁極N3と汲み上げ磁極N1との間には反発する方向の磁界が形成される。この離脱磁極N3と汲み上げ磁極N1との間を分断するように形成される反発する方向の磁界は、両者の境界に無磁力帯を形成する。これにより、マグネットローラ20に吸着された混合体ECはマグネットローラ20から離脱する。
【0077】
以上で説明した静電成膜装置1によれば、混合体ECを吸着して搬送するマグネットローラ20の内部に磁極部材21を備える。この磁極部材21は、磁極部材本体21aが備える複数の磁極N1,S1,N2,S2,N3のうち、飛翔領域300に位置する磁極としての対向磁極N2を備える。一方、被成膜面68を有するバックアップローラ50は、内部に反発磁極部材60を備える。この反発磁極部材60は、対向磁極N2と対向して反発する磁極としての反発磁極Nを備える。この対向磁極N2と反発磁極Nとが周期的に対向することで、静電成膜装置1は、周期的な磁界変化を生じさせている。すなわち、マグネットローラ20に吸着された状態において、静電成膜装置1は、筒状部材30の回転に伴う遠心力に加えて、磁界変化により混合体ECを磁気振動させることでキャリアCから電極粒子Eを振り落とす力を生じさせる。
【0078】
反発磁極部材60の回転数を変化させて、電極粒子Eの成膜量の変化を測定した。
図4は、電極粒子Eの成膜量と磁気振動数(回転数)との関係を示すグラフである。
図4では、本測定の結果として、測定時の磁気振動数と、測定時の磁気振動数に対応した成膜量の値との関係性を表している。
図4におけるグラフの縦軸は、被成膜面68に搬送される箔F上に成膜された電極粒子Eの成膜量として、1cm
2当たりに成膜された電極粒子Eの重量を示している。また、
図4におけるグラフの横軸は、磁気振動数を示している。また、本測定の結果から成膜効率を算出した。ここで言う成膜効率は、被成膜面68に搬送される箔F上に成膜された電極粒子Eの重量を、成膜部3への電極粒子Eの供給量で割った値である。すなわち、成膜効率は、成膜部3への電極粒子Eの供給量に対して、箔F1cm
2当たりにどれだけの重量の電極粒子Eが成膜されたかを示す値である。本測定では、(箔F上に成膜された電極粒子Eの重量)/(成膜されずに回収された電極粒子Eの重量+箔F上に成膜された電極粒子Eの重量)として成膜効率を算出した。なお、本測定において、成膜された電極粒子Eの重量の単位は、ミリグラム(mg)で表す。また、本測定における成膜効率の単位はmg/cm
2である。
【0079】
図4のグラフを作成する前提条件として、マグネットローラ20の外形を構成する筒状部材30と、被成膜面68を表面に有するバックアップローラ50と、の最近接距離を6~10mmとした。また、マグネットローラ20には2550Vの直流電圧を印加し、バックアップローラ50には接地(アース)されている接地部材80を当接させることで0Vとし、両者間に2550Vの電位差を設けた。キャリアCと電極粒子Eとは、重量比において10:1の比率となるように供給部2へ供給した。本測定では、成膜部3に供給される混合体ECの供給量をおおよそ30mg/cm
2とした。具体的には、混合体ECの供給量は、後述する磁気振動数が0Hzのとき29.27mg/cm
2、20Hzのときには29.29mg/cm
2、200Hzのときには29.22mg/cm
2、267Hzとのきには29.31mg/cm
2であった。なお、本測定において、筒状部材30およびバックアップローラ50の回転速度としての周速度は、予め定められた値とし、磁気振動数に関わらず一定とした。また、反発磁極部材60の回転速度としての周速度は、測定対象とする磁気振動数と一致するように制御装置7を構成するモータにより制御し、反発磁極部材60の回転数を制御した。上記条件における本測定の結果を
図4に示す。
【0080】
本測定における磁気振動数とは、前述した対向磁極N2と反発磁極Nとが1秒間当たりに対向する回数を表す。すなわち、磁気振動数は、前述した対向磁極N2と反発磁極Nとが対向することにより生じる、1秒間当たりの磁気振動回数でもある。以下において、本測定における磁気振動数の単位は、ヘルツ(Hz)で表す。なお、本実施形態における磁気振動数は、反発磁極部材60が有する磁石の数およびこれに付随する反発磁極Nの数と、反発磁極部材60の回転数と、に依拠する。このとき、反発磁極部材60の回転数は、反発磁極部材60の回転速度によって調整する。本測定では、反発磁極Nの数を4つとして一定にした状態において、反発磁極部材60の回転数を変動させることで磁気振動数を調整している。
【0081】
本測定では、磁気振動数の変化に伴う成膜効率の変化を比較するため、4種類の磁気振動数で測定を行った。測定を行った4種類の磁気振動数は、
図4に示すように、0Hz、20Hz、200Hz、267Hzである。ここで、磁気振動数が0Hzのときは、反発磁極部材60を回転させない状態、すなわち、周期的な磁界変化を生じさせず、混合体ECは磁気振動していない状態である。以下において、磁気振動数が0Hzである場合と、混合体ECがいくらか磁気振動している場合(磁気振動数が20Hz,200Hz,267Hz)とを比較する。
【0082】
まず、
図4に示すように、磁気振動数が0Hzの場合、電極粒子Eの成膜量は4.39mg/cm
2であり、このときの成膜効率は約15.0%であった。これに対して、磁気振動数を20Hz、すなわち、対向磁極N2と反発磁極Nとを1秒間あたりに20回対向させた場合、電極粒子Eの成膜量は4.98mg/cm
2であり、このときの成膜効率は約17.0%であった。これにより、混合体ECを磁気振動させない場合と、混合体ECを磁気振動させる場合と、では、混合体ECを磁気振動させる場合の方が電極粒子Eの成膜量が増加した。これに付随して、混合体ECを磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動させなかった場合と比べて、約2.0%の成膜効率の向上が見られた。
【0083】
さらに、磁気振動数を200Hz、すなわち、対向磁極N2と反発磁極Nとを1秒間あたりに200回対向させた場合、電極粒子Eの成膜量は5.26mg/cm2であり、このときの成膜効率は約18.0%であった。つまり、磁気振動数を増大させる、すなわち、対向磁極N2と反発磁極Nとの1秒間当たりに対向する回数を増やすことで、電極粒子Eの成膜量は増加し、これに付随して、成膜効率の向上が見られた。具体的には、混合体ECを磁気振動数200Hzにて磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動させなかった場合と比べて、成膜効率が約3.0%向上した。さらに、混合体ECを磁気振動数200Hzにて磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動数20Hzにて磁気振動させた場合と比べて、成膜効率が約1.0%向上した。このことから、周期的な磁界変化を生じさせ、混合体ECを磁気振動させることで成膜効率を向上させることができた。さらに、磁気振動数を増大させて200Hzにすると、成膜効率の更なる向上が達成された。
【0084】
ここで、磁気振動数を200Hzから増大させて267Hz、すなわち、対向磁極N2と反発磁極Nとを1秒間あたりに267回対向させた場合、電極粒子Eの成膜量は5.13mg/cm2であり、このときの成膜効率は約17.5%であった。具体的には、混合体ECを磁気振動数267Hzにて磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動数200Hzにて磁気振動させた場合と比べて、成膜効率が約0.5%低下した。つまり、周期的な磁界変化による混合体ECの磁気振動は、電極粒子Eの成膜量と、これに付随する成膜効率と、の向上に寄与する。しかし、磁気振動数が特定の値(以下において、閾値とする)を超えると、電極粒子Eの成膜量および成膜効率は低下傾向にある。すなわち、磁気振動数は、電極粒子Eの成膜量と成膜効率とを向上させる効果を奏するための指標であり、閾値はその最大値と言える。
【0085】
以上の結果から、混合体ECを磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動させない場合と比べて、成膜量が最大約19.8%向上した。これに付随して、混合体ECを磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動させない場合と比べて、成膜効率が最大約3.0%向上した。すなわち、対向磁極N2と反発磁極Nとを周期的に対向させることで生じる周期的な磁界変化により、混合体ECを磁気振動させると、被成膜面68に対する電極粒子Eの成膜量および成膜効率が向上する。
【0086】
さらに、以上の結果から、磁界発生手段としてのマグネットローラを用いて電極粒子E等の粒子を成膜する静電成膜装置1における磁気振動数は、20Hz以上が好ましい。また、静電成膜装置1における磁気振動数は、270Hz以下が好ましく、267Hz以下がより好ましい。換言すると、静電成膜装置1において、対向磁極N2と、対向磁極N2と対向して反発する磁極としての反発磁極Nと、が1秒間当たりに対向する回数は、20回以上が好ましい。また、静電成膜装置1において、対向磁極N2と反発磁極Nとが1秒間当たりに対向する回数は、270回以下が好ましく、267回以下がより好ましい。
【0087】
なお、磁気振動数が閾値を超える場合に、電極粒子Eの成膜量と、これに付随する成膜効率とが低下する要因として、以下のことが考えられる。まず、対向磁極N2と反発磁極Nとの対向によって両者の間に生じる反発する方向の磁界により、混合体ECはキャリアCを軸として立ち上がることができず、筒状部材30の表面側に沿うように倒れた状態となる。このように、混合体ECが倒れた状態となった後、反発磁極部材60の回転に伴い、対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が遠ざかる。この過程において、磁気振動数が閾値以下である場合には、対向磁極N2と反発磁極Nとの間に生じる反発する方向の磁界の強度は弱まり、混合体ECは徐々にキャリアCを軸として立ち上がる。さらに、再び対向磁極N2と反発磁極Nとの距離が近づく過程において、両者の間に生じる反発する方向の磁界の強度が強まると、混合体ECは再び倒れた状態となり、これを繰り返すことで、混合体ECは磁気振動する。しかし、磁気振動数が閾値を超えた場合、対向磁極N2と反発磁極Nとが対向した後に、再び対向磁極N2と反発磁極Nとが対向するまでの間隔は、磁気振動数が閾値以下である場合よりも短くなる。これにより、前述のように対向磁極N2と反発磁極Nとの間に形成される反発する方向の磁界により混合体ECが倒れた後、キャリアCを軸として立ち上がる前に、再び対向磁極N2と反発磁極Nとが対向して反発する方向の磁界が生じることで、混合体ECは倒れたままの状態が続く。すなわち、磁気振動数が閾値を超えた場合、混合体ECは、対向磁極N2と反発磁極Nとが作り出す磁界の変化に追従しなくなることが考えられる。
【0088】
上記実施形態によれば、静電成膜装置1は、電極粒子Eが付着したキャリアCとしての混合体ECを、吸着して搬送するマグネットローラ20を備え、マグネットローラ20の内部に位置する対向磁極N2と、被成膜面68を有するバックアップローラ50の内部に位置し、対向磁極N2と対向して反発する反発磁極Nと、を備える。この対向磁極N2と反発磁極Nとが周期的に対向することで、静電成膜装置1は、周期的な磁界変化を生じさせる。すなわち、マグネットローラ20に吸着された状態において、静電成膜装置1は、筒状部材30の回転に伴う遠心力に加えて、磁界変化により混合体ECを磁気振動させる。これにより、磁界発生手段としてのマグネットローラ20を用いた成膜技術において、キャリアCに対して静電的に拘束された電極粒子EとキャリアCとの分離を容易にし得る。換言すると、静電成膜装置1は、キャリアCに対して静電的に拘束された電極粒子EをキャリアCから分離しやすくできる。その結果、成膜効率を向上できる。
【0089】
また、上記実施形態によれば、周期的な磁界変化を生じさせて混合体ECを磁気振動させた場合は、混合体ECを磁気振動させなかった場合よりも単位面積あたりの電極粒子Eの成膜量と、これに付随する成膜効率とが向上した。これにより、静電成膜装置1は、周期的な磁界変化を生じさせることで、キャリアCに対して静電的に拘束された粒子をキャリアCから分離しやすくできる。
【0090】
また、上記実施形態によれば、モータの制御により、対向磁極N2と反発磁極Nとが1秒間当たりに対向する回数、すなわち、磁気振動数を制御できる。この制御可能な磁気振動数は、電極粒子Eの成膜量と相関する。これにより、磁気振動数を制御することで、静電成膜装置1は、電極粒子Eの成膜量と、これに付随する成膜効率と、をより一層向上させることができる。
【0091】
B.他の実施形態:
B-1.他の実施形態1:
上記実施形態では、バックアップローラ50の全体が接地部材80により無電荷の状態になるように保たれていた。すなわち、バックアップローラ50の表面に位置する被成膜面68の全体において、被成膜面68に搬送される箔F上にキャリアCから分離した電極粒子Eが成膜されていた。しかし、本開示は、これに限られるものではない。接地部材80の代わりに、バックアップローラ50を一様の電荷に帯電させる帯電ローラと、被成膜面68の一部を無電荷にするレーザ装置と、を備えてもよい。例えば、帯電ローラは、バックアップローラ50の表面を負に帯電させる。また、レーザ装置は、例えば、トナー現像におけるレーザ照射のように、バックアップローラ50と離間した位置に設けられ、被成膜面68において予め定められた領域にレーザ光を照射することで除電し、被成膜面68の一部に無電荷の領域を形成する。このような形態であっても、静電成膜装置1は、対向磁極N2と反発磁極Nとを備え、両者を周期的に対向させることで、周期的な磁界変化を生じさせる。これにより、磁界発生手段としてのマグネットローラ20を用いた成膜技術において、キャリアCに対して静電的に拘束された電極粒子EとキャリアCとの分離を容易にし得る。すなわち、成膜効率を向上させることができる。さらに、このような形態であれば、被成膜面68において、電極粒子Eを成膜する領域や成膜幅を制御することができる。
【0092】
B-2.他の実施形態2:
上記実施形態では、固定された位置に存在する対向磁極N2に対して、反発磁極Nを有する複数の磁石によって形成される反発磁極部材60を回転させることで、対向位置と非対向位置とに変位可能としていた。しかし、本開示はこれに限られるものではない。反発磁極部材60は、反発磁極Nを有する単一の磁石によって形成されてもよく、回転する代わりに、バックアップローラ50の内部において水平方向に移動することで、対向位置と非対向位置とを変位可能にしてもよい。このような形態であっても、静電成膜装置1は、対向磁極N2と反発磁極Nとを備え、対向位置と非対向位置とを変位可能にすることで、電極粒子Eが付着したキャリアCを磁界変化によって振動させることができる。この振動によってキャリアCに対して静電的に拘束された電極粒子EをキャリアCから分離しやすくできるので、成膜効率を向上させることができる。
【0093】
B-3.他の実施形態3:
上記実施形態では、固定された位置に存在する対向磁極N2に対して、反発磁極Nを有する複数の磁石によって形成される反発磁極部材60を回転させることで、対向位置と非対向位置とに変位可能としていた。しかし、本開示はこれに限られるものではない。磁極部材21および反発磁極部材60は電磁石であってもよい。このような形態であっても、静電成膜装置1は、対向磁極N2と反発磁極Nとを備え、対向磁極N2と反発磁極Nとが対向する対向状態と、両者が対向しない非対向状態とを変位可能にできる。これにより、電極粒子Eが付着したキャリアCを磁界変化によって振動させることができる。すなわち、この振動によってキャリアCに対して静電的に拘束された電極粒子EをキャリアCから分離しやすくできるので、成膜効率を向上させることができる。
【0094】
B-4.他の実施形態4:
上記実施形態では、反発磁極部材本体60aを構成する磁石の数は4つであり、板状を成していた。また、反発磁極部材本体60aを構成する磁石は、それぞれに反発磁極Nを有しているため、反発磁極部材60が備える反発磁極Nの数は4つであった。これに対して、本開示はこれに限られるものではなく、反発磁極部材60を構成する磁石の形状や数、大きさ、反発磁極Nの数は任意とすることができる。反発磁極部材60は、電極粒子Eが付着したキャリアCを吸着して搬送するマグネットローラ20の内部に位置する対向磁極N2と対向して反発する反発磁極Nを備えればよい。このような形態であっても、静電成膜装置1は、対向磁極N2と反発磁極Nとを備え、両者を周期的に対向させ、周期的な磁界変化を生じさせる。これにより、磁界発生手段としてのマグネットローラ20を用いた成膜技術において、キャリアCに対して静電的に拘束された電極粒子EとキャリアCとの分離を容易にし得る。すなわち、成膜効率を向上させることができる。さらに、このような形態であれば、反発磁極部材60が備える磁石の形状や数、大きさを調整することで、バックアップローラ50を小型化できる。
【0095】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するため に、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…静電成膜装置、2…供給部、3…成膜部、4…回収部、5…調整部、6…定着部、7…制御装置、18…台座、20…マグネットローラ、21…磁極部材、21a…磁極部材本体、22…第2軸部、25…規制部材、30…筒状部材、31…筒状部材本体、32…第1軸部、33…第1支持部材、50…バックアップローラ、51…バックアップローラ本体、52…第3軸部、53…第3支持部材、60…反発磁極部材、60a…反発磁極部材本体、62…第4軸部、68…被成膜面、80…接地部材、200…混合体貯留室、201…連通口、211…第1供給室、212…第2供給室、213…第3供給室、215…第1壁部、216…第2壁部、217…第3壁部、218…第4壁部、221…第1回転翼、222…第2回転翼、223…第3回転翼、300…飛翔領域、410…排出部材、420…回収室、510…厚み補正部材、520…押圧部材、530…センサ、540…キャリア除去装置、610,620…定着ローラ、C…キャリア、E…電極粒子、E1…飛翔電極粒子、EC…混合体、F…箔、I…成形前電極、N…反発磁極、N1…汲み上げ磁極、N2…対向磁極、N3…離脱磁極、O1…筒回転軸、O3…バックアップローラ回転軸、O4…反発磁極回転軸、S1…第1搬送磁極、S2…第2搬送磁極