(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】回転体及びエレベーター
(51)【国際特許分類】
B66B 11/08 20060101AFI20250115BHJP
B66B 7/06 20060101ALI20250115BHJP
F16J 15/14 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B66B11/08 M
B66B7/06 L
F16J15/14 C
(21)【出願番号】P 2021073866
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 章智
(72)【発明者】
【氏名】尾方 尚文
(72)【発明者】
【氏名】小松 遼
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-153486(JP,A)
【文献】特開2017-065847(JP,A)
【文献】特開2020-075794(JP,A)
【文献】特開2007-309422(JP,A)
【文献】実開昭61-129920(JP,U)
【文献】米国特許第04688660(US,A)
【文献】中国実用新案第209322263(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
F16J 15/10;15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸となる主軸と、
前記主軸に軸受を介して回転可能に支持される第1構造体と、
前記第1構造体に液状ガスケットを介して取り付けられ、前記軸受が設けられた空間を封止する第2構造体と、
前記第2構造体から前記第1構造体側にかけて設けられたボルト穴と、
前記ボルト穴に螺合し、前記第2構造体を前記第1構造体に固定するための固定ボルトと、
前記第1構造体に設けられ、前記ボルト穴に連通すると共に、前記軸受が設けられた空間とは異なる
空間であって、空気の流れのある空間に連通する通気孔と、
を備える回転体。
【請求項2】
前記通気孔は、前記ボルト穴の径よりも小さい径で構成されている
請求項1に記載の回転体。
【請求項3】
前記通気孔は、前記ボルト穴の延在方向と異なる方向に延在して設けられている
請求項1に記載の回転体。
【請求項4】
前記通気孔は、前記ボルト穴の延在方向と同方向に延在して設けられている
請求項1に記載の回転体。
【請求項5】
前記通気孔には、前記ボルト穴と同様の雌ネジが設けられている
請求項1に記載の回転体。
【請求項6】
前記第1構造体の前記第2構造体が取り付けられた部分とは異なる部分に、液体ガスケットを介して取り付けられ、前記軸受が設けられた空間を封止する第3構造体と、
前記第3構造体から前記第1構造体側にかけて設けられた他のボルト穴と、
前記他のボルト穴に螺合し、前記第3構造体を前記第1構造体に固定するための他の固定ボルトと、
前記第1構造体に設けられ、前記他のボルト穴に連通すると共に、前記軸受が設けられた空間とは異なる空間であって、空気の流れのある空間に連通する他の通気孔と、
をさらに備える
請求項1に記載の回転体。
【請求項7】
ロープが巻き掛けられる回転体、を備え、
前記回転体は、
回転軸となる主軸と、
前記主軸に軸受を介して回転可能に支持される第1構造体と、
前記第1構造体に液状ガスケットを介して取り付けられ、前記軸受が設けられた空間を封止する第2構造体と、
前記第2構造体から前記第1構造体側にかけて設けられたボルト穴と、
前記ボルト穴に螺合し、前記第2構造体を前記第1構造体に固定するための固定ボルトと、
前記第1構造体に設けられ、前記ボルト穴に連通すると共に、前記軸受が設けられた空間とは異なる
空間であって、空気の流れのある空間に連通する通気孔と、
を備えるエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体及びエレベーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相互に組み合わせる2つの部品間において潤滑剤等のオイルを封止するために、2つの部品の合わせ面に液状ガスケットからなるシール構造を適用する構成が提案されている。液状ガスケットは、気体や液体の封止のために汎用的に用いられている材料であり、液体の状態から時間の経過に伴う乾燥で硬化する材料である。特許文献1では、2つの部品の一方に、硬化前の液状ガスケットを塗布し、その一方の部品に他方の部品を、液状ガスケットを介して張り合わせ、その後、液状ガスケットを硬化させることで、2つの部品を油密に固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エレベーターに用いられる巻上機や、プーリに代表される回転体では、軸受部の周囲に潤滑剤(グリス)が使用されており、この潤滑剤の漏れを防ぐ構造が求められている。しかしながら、潤滑剤を封止する際に、液状ガスケットが破損するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、軸受に使用されている潤滑剤の漏れを防ぐことができる回転体、及び、その回転体が適用されたエレベーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の回転体は、回転軸となる主軸と、主軸に軸受を介して回転可能に支持される第1構造体と、第1構造体に液状ガスケットを介して取り付けられ、軸受が設けられた空間を封止する第2構造体とを備える。また、第2構造体から第1構造体側にかけて設けられたボルト穴と、ボルト穴に螺合し、第2構造体を前記第1構造体に固定するための固定ボルトと、第1構造体に設けられ、ボルト穴に連通すると共に、軸受が設けられた空間とは異なる空間であって、空気の流れのある空間に連通する通気孔とを備える。
【0007】
本発明のエレベーターは、上記回転体を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転体において、組立時における液状ガスケットの破損を防ぐことができるため、液状ガスケットの破損部分からの潤滑剤の漏れを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るエレベーターの構成例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図5】
図5Aは、本発明の第4の実施形態に係るおもり側プーリを第1固定部材側から見た場合の構成図であり、
図5Bは、本発明の第4の実施形態に係るおもり側プーリを第2固定部材側から見た場合の構成図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図7】本発明の第5の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図8】本発明の第6の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図9】本発明の第7の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図10】本発明の第8の実施形態に係るおもり側プーリの断面構成図である。
【
図11】比較例に係るおもり側プーリ300の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るエレベーター及び回転体の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。以下で説明する各図において、共通の部材には同一の符号を付している。
【0011】
1.第1の実施形態
1-1.エレベーターの構成
まず、本発明の第1の実施形態(以下、「本実施形態」という。)に係るエレベーターについて、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態のエレベーター1の構成例を示す概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、建築構造物内に形成された昇降路の上方に機械室を有する、いわゆる機械室有りエレベーターである。また、
図1に示すエレベーター1は、いわゆる2:1ローピング方式のエレベーターである。
【0013】
エレベーター1は、昇降路100内を昇降する乗りかご2と、主ロープ3と、巻上機4と、主ロープ3を介して乗りかご2に懸架される釣合おもり5と、を有している。以下、乗りかご2及び釣合おもり5が昇降移動する方向を上下方向とする。
【0014】
乗りかご2には、人や荷物を載せる。乗りかご2の上下方向の上部には、かご側プーリ2aが設けられている。かご側プーリ2aには、主ロープ3が巻き掛けられている。釣合おもり5には、おもり側プーリ10が設けられている。おもり側プーリ10には、主ロープ3が巻き掛けられている。なお、おもり側プーリ10の詳細な構成については、後述する。
【0015】
巻上機4は、昇降路100の機械室に設置されたマシンビーム110に設置されている。また、巻上機4には、主ロープ3が巻き掛けられる綱車4aを有している。そして、巻上機4は、主ロープ3を介して乗りかご2及び釣合おもり5をつるべ式に昇降させる。
【0016】
主ロープ3の一端部3aは、マシンビーム110にシンブルロッドを介してマシンビーム110に取り付けられている。主ロープ3は、マシンビーム110からかご側プーリ2aに向けて延在している。そして、主ロープ3は、一端部3aから、かご側プーリ2a、綱車4a、おもり側プーリ10の順に巻き掛けられる。
【0017】
また、おもり側プーリ10から昇降路100の上方に向けて延在する主ロープ3の他端部3bは、一端部3aと同様に、シンブルロッドを介してマシンビーム110に取り付けられる。巻上機4が駆動することで、乗りかご2及び釣合おもり5が昇降路100内を昇降移動する。また、釣合おもり5は、昇降路100の壁面101に沿って昇降移動する。
【0018】
巻上機4、かご側プーリ2a、及び、おもり側プーリ10は、それぞれ、本発明の回転体として構成することができる。以下では、本発明の回転体の一例として、おもり側プーリを例に、本発明の回転体の構成について説明する。
【0019】
1-2.おもり側プーリ(回転体)の構成例
次に、おもり側プーリ10の構成について
図2を参照して説明する。
図2は、おもり側プーリ10の断面構成図である。
【0020】
図2に示すように、おもり側プーリ10は、主軸13と、プーリ本体11と、軸受15とを有している。主軸13は、円柱状に形成されている。主軸13の軸方向の両端部には、図示を省略する支持ブラケットが取り付けられている。そして、主軸13は、支持ブラケットを介して釣合おもり5に取り付けられる。
【0021】
なお、主軸13の軸方向の一端部は、昇降路100の壁面101に向けられる。主軸13の軸方向の他端部は、昇降路100の壁面101とは反対側、すなわち乗りかご2側に向けられる。
【0022】
主軸13の外周面13aには、プーリ本体11が軸受15を介して回転可能に支持されている。プーリ本体11は、巻き掛け部16と、ボス部12とを有している。ボス部12は、プーリ本体11の半径方向の中心部に配置され、巻き掛け部16は、プーリ本体11の半径方向の外側に配置される。ボス部12と巻き掛け部16は、リブ19を介して接続される。
【0023】
ボス部12は、円筒状に形成されている。ボス部12の筒孔12aには、軸受15が配置される。また、ボス部12及び軸受15の軸方向の一端部には、円盤状の第1固定部材17が配置され、ボス部12及び軸受15の軸方向の他端部には、円盤状の第2固定部材18が配置されている。これにより、ボス部12の筒孔12aは、第1固定部材17と第2固定部材18で囲まれる。そして、ボス部12の筒孔12aと、第1固定部材17及び第2固定部材18で囲まれた空間には、潤滑剤14が注入される。
【0024】
本実施形態では、第1固定部材17は、液状ガスケット32を介してボス部12の一端部に貼り付けられると共に、第1固定ボルト27で固定されている。液状ガスケット32は、液状の状態から例えば時間の経過に伴う乾燥によって硬化する材料で構成されており、FIPG(Formed in Place Gasket)とも称される。この液状ガスケット32は、シール効果を有しており、軸受15の一端部に第1固定部材17を油密に固定するために用いられる。
【0025】
第1固定ボルト27は、第1固定部材17及びボス部12に設けられた第1ボルト穴22に固定される。第1ボルト穴22は、第1固定部材側ボルト穴20と、第1固定部材側ボルト穴20に連通する第1ボス部側ボルト穴21で構成される。
【0026】
第1固定部材側ボルト穴20は、第1固定部材17を主軸13の軸方向に貫通するように設けられる。第1ボス部側ボルト穴21は、ボス部12の第1固定部材17側(一側)の面から主軸13の軸方向に沿って形成される。そして、第1ボス部側ボルト穴21は、第1固定ボルト27を締結できる深さに設けられる。また、第1固定部材側ボルト穴20は、第1固定ボルト27が挿通可能な径のキリ穴で構成されている。一方、第1ボス部側ボルト穴21には、第1固定ボルト27に螺合する雌ネジが設けられている。以上のように構成された第1ボルト穴22に第1固定ボルト27を螺合することで、第1固定部材17をボス部12の一端部に固定することができる。
【0027】
また、ボス部12及び第2固定部材18には、第1ボルト穴22に連通する通気孔25が設けられている。通気孔25は、ボス部側通気孔24と、ボス部側通気孔24に連通する第2固定部材側通気孔23で構成される。ボス部側通気孔24は、ボス部12において主軸13の軸方向に延在し、第1ボス部側ボルト穴21からボス部12の他端部側に連続して設けられる。第2固定部材側通気孔23は、第2固定部材18を主軸13の軸方向に貫通するように設けられる。また、ボス部側通気孔24及び第2固定部材側通気孔23は、第1ボルト穴22の径と略同じ径のキリ穴で構成されている。すなわち、通気孔25の内周面には雌ネジは設けられていない。
【0028】
第1固定部材側ボルト穴20、第1ボス部側ボルト穴21、ボス部側通気孔24、及び、第2固定部材側通気孔23は、それぞれの孔の中心が同一軸上にくるように設けられている。本実施形態では、第1ボルト穴22及び通気孔25は、主軸13の中心を中心軸とした同心円状に等間隔で複数個設けられており、第1固定部材17は、複数の第1固定ボルト27で固定されている。そして、本実施形態では、第1ボルト穴22が、通気孔25により軸受15が設けられた空間とは異なる空間に連通している。このため、第1ボルト穴22内の空気が、通気孔25によって外部に開放される構造となっている。
【0029】
一方、第2固定部材18は、ボス部12の他端部に第2固定ボルト28によって固定されている。第2固定ボルト28は、第2固定部材18及びボス部12に設けられた第2ボルト穴31に固定される。第2ボルト穴31は、第2固定部材側ボルト穴29と、第2ボス部側ボルト穴30で構成される。
【0030】
第2固定部材側ボルト穴29は、第2固定部材18を主軸13の軸方向に貫通するように設けられる。第2ボス部側ボルト穴30は、ボス部12の第2固定部材18側(他側)の面から主軸13の軸方向に沿って形成される。そして、第2ボス部側ボルト穴30は、第2固定ボルト28を締結できる深さに設けられる。また、第2固定部材側ボルト穴29は、第2固定ボルト28が挿通可能な径のキリ穴で構成されている。一方、第2ボス部側ボルト穴30には、第2固定ボルト28に螺合する雌ネジが設けられている。
【0031】
この第2ボルト穴31は、主軸13の中心を中心軸とした同心円状に等間隔で複数個設けられ、かつ、隣り合う2つの通気孔25の間において通気孔25と重ならない位置に設けられている。これにより、第2ボルト穴31の形成位置が通気孔25に干渉しない。以上のように構成された第2ボルト穴31に第2固定ボルト28を螺合することで、第2固定部材18をボス部12の一端部に固定することができる。
【0032】
ボス部12の外周面には、リブ19が形成されている。リブ19は、ボス部12の外周面における軸方向の中間部に形成される。リブ19は、ボス部12の外周面から半径方向の外側に向けて延在する。そして、リブ19は、ボス部12と巻き掛け部16を接続する。
【0033】
巻き掛け部16は、円筒状に形成されている。巻き掛け部16の外周面には、主ロープ3が巻き掛けられる溝部16aが形成されている。また、巻き掛け部16の内壁面16bには、リブ19が接続される。リブ19は、内壁面16bおける軸方向の中間部に位置する。
【0034】
プーリ本体11は、鋳造により形成される。そのため、巻き掛け部16及びボス部12は、一体に形成される。
【0035】
1-3.おもり側プーリの組立方法
本実施形態において、ボス部12の一端部に取り付ける場合には、まず、ボス部12の一端部における第1固定部材17を固定する部分に、液体状態の液状ガスケット32を塗布する。その後、液状ガスケット32が硬化する前に、第1固定部材17をボス部12の一端部に張り合わせる。このとき、第1固定部材側ボルト穴20が第1ボス部側ボルト穴21に重なるように位置合わせする。
【0036】
その後、第1固定部材側ボルト穴20に第1固定ボルト27を挿通させると共に、第1ボス部側ボルト穴21に第1固定ボルト27を螺合させていく。これにより、第1固定部材17をボス部12の一端部に固定することができる。そして、時間の経過に伴って、液状ガスケットが乾燥することにより、より油密性を保持した状態で、第1固定部材17がボス部12の一端部に固定される。
【0037】
本実施形態では、第1固定ボルト27が螺合する第1ボルト穴22が、通気孔25によって軸受15が設けられた空間とは異なる空間であって、空気の流れがあるプーリ本体11の外側の空間に連通している。これにより、第1固定部材17を固定するために第1固定ボルト27を第1ボルト穴22にねじ込む際に、液状ガスケット32の封止性が損なわれるのを防ぐことができる。この理由について、以下に、比較例を示して説明する。
【0038】
1-4.比較例に係るおもり側プーリの構成
図11は、比較例に係るおもり側プーリ300の断面構成図である。
図11において、
図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。比較例に係るおもり側プーリ300では、第1ボルト穴22は、通気孔に連通していない。すなわち、比較例に係るおもり側プーリ300では、液状ガスケット32が設けられる側に固定される第1固定部材17を固定するための第1ボルト穴22は、軸受15が設けられている空間と異なる空間に連通していない点で、第1の実施形態の第1ボルト穴22と異なる。
【0039】
図12A及び
図12Bは、比較例に係るおもり側プーリ300の組立時の様子を示す図である。まず、
図12Aに示すように、ボス部12の一端部に液状ガスケット32を塗布する。次に、
図12Bに示すように、液状ガスケット32が硬化する前に、第1固定部材17をボス部12の一端部に位置合わせし、第1固定ボルト27で固定する。このとき、第1ボルト穴22内部(
図12Bの一点鎖線Cで囲む部分)の空気が、締結面(ここでは、液状ガスケット32とボス部12の一端部との間a、及び、液状ガスケット32と第1固定部材17との間b)から漏れ出る。そうすると、液状ガスケット32に欠陥が生じ、その欠陥部分により封油性が低下するという問題がある。液状ガスケット32の封油性が低下した場合、おもり側プーリ300が回転する際の遠心力によって液状ガスケット32とボス部12との間a、又は、液状ガスケット32と第1固定部材17との間bから軸受15に使用される潤滑剤14が漏れ出て不具合を起こす可能性がある。
【0040】
これに対し、
図2に示した本実施形態のおもり側プーリ10では、液状ガスケット32が設けられる側に固定する第1固定部材17は、通気孔25に連通する第1ボルト穴22を用いて第1固定ボルト27で固定される。通気孔25は空気の流れがある空間に連通しているため、第1ボルト穴22に第1固定ボルト27を挿入する際、第1ボルト穴22の内部の空気は通気孔25を通って第2固定部材18の外側に排出される。このため、液状ガスケット32とボス部12との間、又は、液状ガスケット32と第1固定部材17との間に空気が漏れ出るのを防ぐことができる。この結果、液状ガスケット32に欠陥が生じるのを防ぐことができ、封油性を確保することができる。
【0041】
2.第2の実施形態
次に、本発明の第2の実施形態に係るおもり側プーリについて説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態に係るおもり側プーリ40の断面構成図である。
図3において
図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0042】
第2の実施形態に係るおもり側プーリ40では、第1ボルト穴42を構成する第1固定部材側ボルト穴41の内周面に、第1固定ボルト27が螺合する雌ネジが設けられている。
図3に示すように、第1固定部材側ボルト穴41に雌ネジが設けられていることにより、第1固定部材17に対しても第1固定ボルト27が螺合して固定されるため、第1の実施形態に係るおもり側プーリ10に比較して、第1固定部材17の固定強度を高めることができる。
【0043】
一方、第2ボルト穴47を構成する第2固定部材側ボルト穴43においても、内周面に、第2固定ボルト28を螺合する雌ネジが設けられている。第2ボルト穴47が、雌ネジが設けられた第2固定部材側ボルト穴43と第2ボス部側ボルト穴30に螺合して固定されるため、第1の実施形態に係るおもり側プーリ10に比較して、第2固定部材18の固定強度を高めることができる。
【0044】
そして、第2の実施形態に係るおもり側プーリ40においても、第1ボルト穴42は、空気の流れがある空間に開放された通気孔25に連通しているため、第1固定ボルト27の固定時において、液状ガスケット32が破損するのを防ぐことができる。これにより、おもり側プーリ40の回転時において、潤滑剤14の漏れを防ぐことができる。
【0045】
3.第3の実施形態
次に、本発明の第3の実施形態に係るおもり側プーリについて説明する。
図4は、本発明の第3の実施形態に係るおもり側プーリ50の断面構成図である。
図4において
図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0046】
第3の実施形態に係るおもり側プーリ50では、第1ボルト穴22に連通する通気孔48を構成するボス部側通気孔49は、第1ボス部側ボルト穴21と同じ径で形成されると共に、第1ボス部側ボルト穴21と同様、その内周面に雌ネジが設けられている。本実施形態においても、ボス部側通気孔49は、ボス部12において主軸13の軸方向に延在して設けられ、第1ボス部側ボルト穴21からボス部12の他端部側に連続して設けられている。
【0047】
本実施形態では、ボス部側通気孔49が、第1ボス部側ボルト穴21と同一のネジ穴で形成されているため、第1ボス部側ボルト穴21とボス部側通気孔49とを同一工程で加工することができる。これにより、第1の実施形態に比較して、第1ボス部側ボルト穴21及びボス部側通気孔49の加工における工程数を削減することができる。
その他、第1の実施形態と同様の効果を有する。
【0048】
4.第4の実施形態
次に、本発明の第4の実施形態に係るおもり側プーリについて説明する。
図5Aは、本発明の第4の実施形態に係るおもり側プーリ60を第1固定部材17側から見た場合の構成図であり、
図5Bは、本発明の第4の実施形態に係るおもり側プーリ60を第2固定部材18側から見た場合の構成図である。また、
図6は、
図5A及び
図5BにおけるA-B線上に沿う断面構成図である。
図5A、
図5B及び
図6において、
図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0049】
第4の実施形態に係るおもり側プーリ60は、第2固定部材18についても、第1固定部材17と同様、ボス部12の他端部に液状ガスケット33を介して第2固定ボルト28で固定されている。また、第4の実施形態では、ボス部12及び第1固定部材17には、第2ボルト穴31に連通するように設けられた通気孔63が設けられている。通気孔63は、ボス部側通気孔61と、ボス部側通気孔61に連通する第1固定部材側通気孔62で構成されている。
【0050】
ボス部側通気孔61は、ボス部12において主軸13の軸方向に延在し、第2ボス部側ボルト穴30からボス部12の一端部側に連続して設けられ。第1固定部材側通気孔62は、第1固定部材17を主軸13の軸方向に貫通するように設けられる。ボス部側通気孔61及び第1固定部材側通気孔62は、第1ボルト穴22の径と略同じ径のキリ穴で構成されている。すなわち、通気孔63の内周面には雌ネジは設けられていない。
【0051】
図5A及び
図5Bに示すように、第1ボルト穴22及び第1ボルト穴22に連通する通気孔25と、第2ボルト穴31及び第2ボルト穴31に連通する通気孔63とは、主軸13の中心Oに対して同心円上に互いに交互に等間隔で設けられている。これにより、第1ボルト穴22及び第1ボルト穴22に連通する通気孔25と、第2ボルト穴31及び第2ボルト穴31に連通する通気孔63とは互いに干渉しない位置に設けられている。
【0052】
なお、第4の実施形態では、第1固定部材17に設けられる第1固定部材側ボルト穴20及び第1固定部材側通気孔は同じ径のキリ穴で構成してもよい。さらに、第2固定部材18に設けられる第2固定部材側ボルト穴29及び第2固定部材側通気孔23は同じ径のキリ穴で構成してもよい。これにより、第1固定部材17及び第2固定部材18においては、それぞれ、第1固定部材側ボルト穴20及び第1固定部材側通気孔62と、第2固定部材側ボルト穴29及び第2固定部材側通気孔23とを作り分ける必要が無く加工における工程数を抑えることができる。
【0053】
第4の実施形態では、ボス部12の一端部及び他端部の両端部において、液状ガスケット33を介して、第1固定部材17及び第2固定部材18が固定される。そして、第1固定部材17を固定する第1固定ボルト27が通気孔25に連通する第1ボルト穴22に固定されると共に、第2固定部材18を固定する第2固定ボルト28が通気孔63に連通する第2ボルト穴31に固定される。このため、ボス部12の他端部においても、第2固定ボルト28を固定する際に、第2ボルト穴31内部の空気が通気孔63を通って、プーリ本体11の外側に排出される。これにより、ボス部12の他端部においてもボルト固定時の空気圧によって液状ガスケット33が破損するのを防ぐことができる。
その他、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
上述の第1~第4の実施形態では、本発明の回転体の一例として、エレベーター1のおもり側プーリを例に説明したが、本発明の構成は、軸受を有する回転体全般に適用することができる。以下では、例えばエレベーター1の巻上機4の内部で用いられる回転体を例に、本発明の構成について説明する。
【0055】
5.第5の実施形態
次に、本発明の第5の実施形態に係る回転体について説明する。
図7は、本発明の第5の実施形態に係る回転体70の断面構成図である。
図7において、
図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。第5の実施形態に係る回転体70は、第1の実施形態における第2固定部材18が設けられていない点が、第1の実施形態と異なる。
【0056】
第5の実施形態では、ボス部12の一端部に第1固定部材17が設けられている。一方、ボス部12の端部側における筒孔12aの内周面には、筒孔12aを油密に封止するオイルシール等の封止部材71が設けられている。
【0057】
第5の実施形態に係る回転体70においても、第1ボルト穴22は、ボス部12に設けられた通気孔72に連通している。通気孔72は、第1ボス部側ボルト穴21からボス部12の一端部側に連続して設けられると共に、ボス部12を貫通するように設けられている。通気孔72は、第1ボス部側ボルト穴21と同様の径を有するキリ穴で構成されている。第5の実施形態では、通気孔72により、第1ボルト穴22がボス部12の他端部側の軸受15が設けられた空間とは異なる空間に開放されている。
【0058】
第5の実施形態は、第2固定部材18(
図2参照)が設けられていないため、回転体70の薄型化を図ることができると共に、特に、ボス部12の一端部側に対するオイル漏れを防ぎたいという要望がある場合に有効な構成である。
そして、第5の実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
6.第6の実施形態
次に、本発明の第6の実施形態に係る回転体80について説明する。
図8は、本発明の第6の実施形態に係る回転体80の断面構成図である。
図8において、
図2及び
図7に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。第6の実施形態に係る回転体80は、通気孔81の構成が第5の実施形態と異なる例である。
【0060】
第6の実施形態に係る回転体80においても、第1ボルト穴22は、ボス部12に設けられた通気孔81に連通している。通気孔81は、第1ボス部側ボルト穴21からボス部12の他端部側に連続して設けられると共に、ボス部12を貫通するように設けられている。また、通気孔81は、第1ボス部側ボルト穴21の径φDよりも小さい径φdを有するキリ穴で構成されている。第6の実施形態では、通気孔81により、第1ボルト穴22がボス部12の他端部側の軸受15が設けられた空間とは異なる空間に開放されている。
【0061】
第6の実施形態に係る回転体では、通気孔81の径φdが第1ボス部側ボルト穴21の径φDよりも小さく構成されている。このため、第5の実施形態に係る回転体70に比較して、ボス部12における剛性を維持することができ、ボス部12の強度を保持した状態で、通気孔81を形成することができる。その他、第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0062】
7.第7の実施形態
次に、本発明の第7の実施形態に係る回転体90について説明する。
図9は、本発明の第7の実施形態に係る回転体90の断面構成図である。
図9において、
図1及び
図5に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。第7の実施形態に係る回転体90は、通気孔91の構成が第6の実施形態と異なる例である。
【0063】
第7の実施形態に係る回転体90においても、第1ボルト穴22は、ボス部12に設けられた通気孔91に連通している。通気孔91は、第1ボス部側ボルト穴21の底部側から、ボス部12の外周面に貫通するように、ボス部12の半径方向の外側に向けて延在して設けられたキリ穴で構成されている。通気孔91は、第1ボルト穴22に第1固定ボルト27をねじ込んだ際に、第1固定ボルト27の端部と重ならない位置に設けられている。第7の実施形態においても、通気孔91により第1ボルト穴22がボス部12の外周面側の空間に開放されている。
【0064】
第7の実施形態に係る回転体90では、通気孔91がボス部12の半径方向に延在するキリ穴で構成されている。これにより、ボス部12において、主軸13の軸方向に延在するように設けられた通気孔に比較して、通気孔91の長さを短くすることができるため、加工が容易になる。また、通気孔91がボス部12の他端部側に貫通しないため、ボス部12の他端部側に他の部品が設けられる場合にも、通気孔91の形成位置が他の部品の構成位置を制約しない。
【0065】
また、例えば、第1の実施形態におけるおもり側プーリ10のように、第2固定部材18を設ける場合にも、第7の実施形態に係る通気孔91の構成を組み合わせることも可能である。この場合には、第2固定部材18に第2固定部材側通気孔23を設ける必要がないため、孔同士の位置合わせ等の必要が無くなる。これにより、設計の自由度が高くなる。その他、第1の実施形態、及び、第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
以上のように、第1~第4の実施形態では、第1固定部材17、ボス部12、第2固定部材18を互いに固定する場合について説明し、第5~第7の実施形態では、第1固定部材17とボス部12とを固定する場合について説明した。以下に、より一般化した本発明の回転体に関する実施形態について説明する。
【0067】
8.第8の実施形態
図10は、本発明の第8の実施形態に係る回転体200の要部の概略構成図である。第8の実施形態に係る回転体200は、軸受(図示を省略する)を有する回転体である。回転体は、ボルト穴203を有する第1構造体202と、一端部側に液状ガスケット205を介してボルト207で固定される第2構造体201とを有する。第1構造体202には、ボルト穴203に連通する通気孔206が形成されている。通気孔206におけるボルト穴203に連通する開口と反対側の開口は、第1構造体202における軸受が設けられる空間とは異なる空間に開放される。第2構造体201には、ボルト207が挿通するボルト穴204が設けられている。そして、ボルト穴204は、ボルト穴203に連通する。第2構造体201は、軸受が設けられる空間を封止するように設けられている。
【0068】
第8の実施形態においても、ボルト穴204、203は、軸受が設けられる空間とは異なる空間に開放された通気孔206に連通している。第8の実施形態においても、ボルト穴204、203にボルト207をねじ込む。このとき、液状ガスケット205が
図10に示すようにボルト穴203を塞ぐように塗布されていた場合には、液状ガスケット205を突き破ってボルトがねじ込まれる。そして、本実施形態では、ボルト穴203、204にボルト207をねじ込む際、内部の空気が通気孔206を通って外側(軸受が設けられる空間とは異なる空間)に排出される。このため、ボルト207をねじ込むときに発生する空気圧によって液状ガスケット205が破損するのを防ぐことができる。
【0069】
このように、本発明は、軸受及び軸受の周囲に供給された潤滑剤を有する回転体200において、ボルト穴204、203の内部の空気を、軸受が設けられる空間とは異なる空間に開放するための通気孔206を設けることにより、本発明の効果を得ることができる。
【0070】
上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成について他の構成を加えることも可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…エレベーター、3…主ロープ、4…巻上機、4a…綱車、10…おもり側プーリ、11…プーリ本体、12…ボス部、12a…筒孔、13…主軸、14…潤滑剤、15…軸受、17…第1固定部材、18…第2固定部材、19…リブ、20…第1固定部材側ボルト穴、21…第1ボス部側ボルト穴、22…第1ボルト穴、23…第2固定部材側通気孔、24…ボス部側通気孔、25…通気孔、26…通気孔、27…第1固定ボルト、28…第2固定ボルト、29…第2固定部材側ボルト穴、30…第2ボス部側ボルト穴、31…第2ボルト穴、32…液状ガスケット、33…液状ガスケット、70…回転体、71…封止部材、201…第2構造体、202…第1構造体、203,204…ボルト穴、205…液状ガスケット、206…通気孔、207…ボルト、300…おもり側プーリ