(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】洗掘検知方法及び洗掘検知装置
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20250115BHJP
E02B 3/02 20060101ALI20250115BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20250115BHJP
G01C 13/00 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E02B3/02 Z
E01D19/02
G01C13/00 S
(21)【出願番号】P 2021085560
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】玉野 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】岩前 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】大窪 一正
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-108491(JP,A)
【文献】特開昭57-046111(JP,A)
【文献】特開2005-257570(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100509(WO,A1)
【文献】古川 靖 他5名,偏波ダイバーシティ技術と時間ゲート法を用いたブルリアン光相関領域反射計測法による距離21kmでの歪み分布測定,電気学会論文誌A,137巻,1号,日本,2017年01月01日,第52-57ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E02B 3/02
E01D 19/02
G01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の土砂に埋め込まれて構築される構造物の周辺の洗掘を検知する洗掘検知方法であって、
温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサを、前記構造物の一部を構成する支持部材に支持する工程と、
前記構造物の周囲の土砂に前記支持部材を埋め込む工程と、
前記センサが前記構造物の周囲の水の温度及び振動の少なくともいずれかを検出する工程と、
を備え、
前記センサは、前記支持部材に貼り付けられる光ファイバケーブルと、温度検出部及び振動検出部を有する計測部とを含み、
前記温度検出部は、前記光ファイバケーブルによって温度変化を検出し、
前記振動検出部は、分布型音響センシングによって前記光ファイバケーブルを介して振動を検出
し、
前記光ファイバケーブルは、歪みを検出する検出用光ファイバケーブルと、温度計測専用ファイバとを含み、前記温度計測専用ファイバは、光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を囲む管状部材とを備える、
洗掘検知方法。
【請求項2】
前記支持部材を埋め込む工程では、前記光ファイバケーブルが貼り付けられた前記支持部材を前記構造物の基礎を構築する前に前記土砂に埋め込む、
請求項1に記載の洗掘検知方法。
【請求項3】
前記支持部材に貼り付けられた前記光ファイバケーブルは、第1方向に延びる第1部分と、前記第1部分に連続しており前記第1方向に対して交差する第2方向に延びる第2部分と、を含む、
請求項1または請求項2に記載の洗掘検知方法。
【請求項4】
水底の土砂に埋め込まれて構築される構造物の周辺の洗掘を検知する洗掘検知装置であって、
温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサと、
前記センサを支持すると共に前記構造物の一部を構成する支持部材と、
を備え、
前記センサが貼り付けられた前記支持部材が前記構造物の周囲の土砂に埋め込まれ、
前記センサは、前記支持部材に貼り付けられる光ファイバケーブルと、温度検出部及び振動検出部を有する計測部とを含み、
前記温度検出部は、前記光ファイバケーブルによって温度変化を検出し、
前記振動検出部は、分布型音響センシングによって前記光ファイバケーブルを介して振動を検出
し、
前記光ファイバケーブルは、歪みを検出する検出用光ファイバケーブルと、温度計測専用ファイバとを含み、前記温度計測専用ファイバは、光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を囲む管状部材とを備える、
洗掘検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物の周囲に発生する洗掘を検知する洗掘検知方法及び洗掘検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水底に構築された構造物の周辺の洗掘を検知する方法及び装置としては種々のものが知られている。特開2016-200416号公報には、光を送信及び受信する複数の検知ユニットを備えた洗掘検知システムが記載されている。各検知ユニットからは光ファイバケーブルが延出していて、光ファイバは橋梁の複数の橋梁支持体のそれぞれに配置された検知ボックスに収納されている。検知ボックスからは橋梁支持体に沿って光ファイバケーブルが下方に延び出しており、光ファイバケーブルの下端は水底に沈められた錘に連結されている。橋梁支持体の周囲において洗掘が生じると、錘が洗掘に伴って沈下する。具体的には、錘に取り付けられたワイヤがドラムに巻かれており、当該ドラムの回転をロータリーエンコーダで計測して、洗掘による錘の沈下を計測している。
【0003】
特許第4838078号公報には、洗掘計測装置が記載されている。洗掘計測装置は、水底に埋設された橋脚の周囲に配置される位置検出計と、位置検出計を橋脚に巻き付けるチェーンと、橋脚の上方に配置された受信機とを備える。位置検出計は自身の位置における水圧を示す発信信号を送信し、受信機は当該発信信号を受信する。橋脚の周囲において洗掘が生じると、位置検出計が沈下して水圧の上昇を検出する。位置検出計が水圧の上昇に伴う発信信号を受信機に送信することにより、受信機において洗掘が検知される。
【0004】
特開平6-74768号公報には、河床洗掘監視方法が記載されている。河床洗掘監視方法では、地盤に埋設される流水センサと支持杭とが用いられる。流水センサは地表から地盤に埋設された支持杭まで延び出しており、流水センサの一部は支持杭に巻き付けられている。支持杭は河床の水底よりも下方に埋設されている。流水センサは、光ファイバと、電熱線と、光ファイバ及び電熱線を被覆する電気絶縁材とを有する長尺構造体である。洗掘が生じると、流水センサの上部が流水に接する。これに伴い、流水センサの上部の温度が低下し、流水センサの温度分布に差が生じる。流水センサがこの温度分布の差を検知することによって、河床における洗掘が検知される。
【0005】
特開2010-210334号公報には、橋脚洗掘判定方法、及び橋脚基礎の健全性評価システムが記載されている。健全性評価システムは、複数の橋脚のそれぞれに取り付けられた健全性評価装置と、表示装置とを備える。健全性評価装置は、橋脚の振動を検出する振動検出部と、橋脚の上端に固定された水位検出部とを備える。洗掘が生じると、橋脚の周囲の川底がえぐられることとなり、これに伴い橋脚に加わる振動の性状が変化する。この振動の性状の変化を振動検出部が検出することによって、洗掘が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-200416号公報
【文献】特許第4838078号公報
【文献】特開平6-74768号公報
【文献】特開2010-210334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した洗掘検知システム及び洗掘計測装置では、光ファイバケーブルの先端に連結された錘、又は位置検出計等のセンサが水底に配置され、センサの沈下によって洗掘が検知される。しかしながら、センサを水底に配置してセンサが水底の沈下を検知する方法では、洗掘が生じてもセンサが沈下しないことがあるので、センサによって洗掘を高精度に検知できないという問題が生じうる。
【0008】
前述した河床洗掘監視方法では、地盤に埋設される流水センサが用いられ、流水センサは、光ファイバと、電熱線と、光ファイバ及び電熱線を被覆する電気絶縁材とによって構成されている。この河床洗掘監視方法では、上記のような特殊なセンサを構造物とは別に作製しなければならないので、センサの設置を容易に行うことができないという問題が生じうる。
【0009】
前述した橋脚基礎の健全性評価システムでは、振動検出部が橋脚の振動の変化を検出することによって洗掘を検知する。しかしながら、振動センサが橋脚の振動の変化を検出する方法では、橋脚の振動の微小な変化までは取得できない場合がある。従って、橋脚の周囲の洗掘の発生に伴う振動の変化を精度良く検出できないことがあるので、洗掘の検知の精度の点で改善の余地がある。
【0010】
本開示は、設置を容易に行うことができると共に洗掘を高精度に検知することができる洗掘検知方法及び洗掘検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る洗掘検知方法は、水底の土砂に埋め込まれて構築される構造物の周辺の洗掘を検知する洗掘検知方法であって、温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサを、構造物の一部を構成する支持部材に支持する工程と、構造物の周囲の土砂に支持部材を埋め込む工程と、センサが構造物の周囲の水の温度及び振動の少なくともいずれかを検出する工程と、を備え、センサは、支持部材に貼り付けられる光ファイバケーブルと、温度検出部及び振動検出部を有する計測部とを含み、温度検出部は、光ファイバケーブルによって温度変化を検出し、振動検出部は、分布型音響センシングによって光ファイバケーブルを介して振動を検出し、光ファイバケーブルは、歪みを検出する検出用光ファイバケーブルと、温度計測専用ファイバとを含み、温度計測専用ファイバは、光ファイバ心線と、光ファイバ心線を囲む管状部材とを備える。
【0012】
この洗掘検知方法では、センサが支持された支持部材は構造物の周囲の土砂に埋め込まれる。構造物の周囲の土砂がえぐられて洗掘が生じたときに、土砂に埋め込まれた支持部材の一部が水中に露出する。水中に露出した支持部材のセンサが当該水中の温度及び水流の少なくともいずれかを検出することによって当該洗掘が検知される。従って、土砂に埋設された支持部材に支持されたセンサが水中への露出を検知することにより、構造物の周囲の洗掘を高精度に検知することができる。温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサは、構造物の一部を構成する支持部材に支持される。従って、構造物の一部を構成する支持部材に支持されたセンサが土砂に埋設されるので、構造物とは別にセンサを作製する必要がない。すなわち、構造物の支持部材を用意する過程でセンサを支持部材に支持すればよい。従って、センサの設置を容易に行うことができる。
【0013】
支持部材に光ファイバケーブルを貼り付けて光ファイバケーブルが温度及び振動の少なくともいずれかを計測する。従って、線状の光ファイバケーブルを支持部材に貼り付けて光ファイバケーブルをはりめぐらせることにより、1本の光ファイバケーブルで広範囲にわたって温度又は振動の計測を行うことができる。よって、光ファイバケーブルの設置を容易に行うことができると共に、広範囲にわたって洗掘の検知を高精度に行うことができる。
【0014】
支持部材を埋め込む工程では、光ファイバケーブルが貼り付けられた支持部材を構造物の基礎を構築する前に土砂に埋め込んでもよい。この場合、構造物の基礎を構築する前に、光ファイバケーブルが貼り付けられた支持部材を土砂に埋め込む。従って、基礎の構築の前からセンサ付きの支持部材が土砂に埋め込まれるので、基礎の構築のときから洗掘の検知を始めることができる。
【0015】
支持部材に貼り付けられた光ファイバケーブルは、第1方向に延びる第1部分と、第1部分に連続しており第1方向に対して交差する第2方向に延びる第2部分と、を含んでもよい。この場合、光ファイバケーブルは、第1方向に延びる第1部分と、第1方向とは異なる第2方向に延びる第2部分とを有することにより、ジグザグ状又は螺旋状に光ファイバケーブルを配置することが可能となる。従って、直線状に光ファイバケーブルを配置する場合と比較して、例えば、支持部材の鉛直方向単位長さに対して、より長い光ファイバケーブルを配置できるので、より高い位置分解能で温度又は振動を検出することができる。
【0016】
本開示に係る洗掘検知装置は、水底の土砂に埋め込まれて構築される構造物の周辺の洗掘を検知する洗掘検知装置であって、温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサと、センサを支持すると共に構造物の一部を構成する支持部材と、を備え、センサが貼り付けられた支持部材が構造物の周囲の土砂に埋め込まれ、センサは、支持部材に貼り付けられる光ファイバケーブルと、温度検出部及び振動検出部を有する計測部とを含み、温度検出部は、光ファイバケーブルによって温度変化を検出し、振動検出部は、分布型音響センシングによって光ファイバケーブルを介して振動を検出し、光ファイバケーブルは、歪みを検出する検出用光ファイバケーブルと、温度計測専用ファイバとを含み、温度計測専用ファイバは、光ファイバ心線と、光ファイバ心線を囲む管状部材とを備える。
【0017】
この洗掘検知装置では、温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサを備え、このセンサによって水底の土砂に埋め込まれた構造物の周辺の洗掘が検知される。センサは支持部材に支持されており、センサを支持した支持部材は構造物の周囲の土砂に埋め込まれる。従って、構造物の周囲の土砂がえぐられて洗掘が生じたときに支持部材の一部が水中に露出するので、水中に露出した支持部材のセンサが当該水中の温度及び振動の少なくともいずれかを検出することによって当該洗掘が検知される。よって、前述した洗掘検知方法と同様、構造物の周囲の洗掘を高精度に検知することができる。また、構造物の一部を構成する支持部材に支持されたセンサが土砂に埋設されるので、構造物とは別にセンサを作製する必要がない。従って、構造物の支持部材を用意する過程でセンサを支持部材に支持すればよいので、センサの設置を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、設置を容易に行うことができると共に洗掘を高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す斜視図である。
【
図2】構造物及び洗掘検知装置を示す断面図である。
【
図3】
図2の構造物に洗掘が生じた状態を模式的に示す断面図である。
【
図4】洗掘検知装置のセンサとして光ファイバケーブルを用いた場合の態様を模式的に示す図である。
【
図5】実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す斜視図である。
【
図6】構造物の一部である支持部材に対するセンサの支持構造の例を示す斜視図である。
【
図7】(a)及び(b)は、支持部材に貼り付けられた光ファイバケーブルの例を示す図である。
【
図8】(a)、(b)及び(c)は、支持部材への光ファイバケーブルの取付構造の例を示す断面図である。
【
図9】(a)、(b)、(c)及び(d)は、支持部材への光ファイバケーブルの取付構造の例を示す断面図である。
【
図10】(a)及び(b)は、支持部材への光ファイバケーブルの取付構造の例を示す断面図である。(c)は、支持部材への光ファイバケーブルの取付構造の例を示す斜視図である。
【
図11】洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す断面斜視図である。
【
図12】(a)及び(b)は、洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す断面斜視図である。
【
図13】(a)及び(b)は、洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す断面斜視図である。
【
図14】ジグザグ状の光ファイバケーブルを支持する支持部材の例を模式的に示す斜視図である。
【
図15】洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す断面図である。
【
図16】洗掘検知方法及び洗掘検知装置が適用される構造物の例を示す断面図である。
【
図17】変形例に係る洗掘検知装置及び構造物を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る洗掘検知装置及び洗掘検知方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0021】
図1は、本実施形態に係る洗掘検知装置1及び洗掘検知方法が適用される構造物の一例である橋梁Bを模式的に示す斜視図である。
図2は、洗掘検知装置1及び橋梁Bを模式的に示す断面図である。
図1及び
図2に示されるように、橋梁Bは、例えば、海洋又は河川を横断する横断橋である。
【0022】
一例として、橋梁Bは、海洋又は河川の水面Sの上に構築された道路橋である。橋梁Bは、橋梁Bの延在方向D1に沿って並ぶ複数の橋脚B1と、複数の橋脚B1を掛け渡すと共に延在方向D1に沿って延在する主桁B2とを備える。主桁B2には、一例として道路Rが設けられる。しかしながら、主桁B2には鉄道のレールが設けられていてもよく、橋梁Bの種類は特に限定されない。
【0023】
橋脚B1の下部は水中Wに設けられており、橋脚B1の下端は水底Tの土砂Hに埋設されている。洗掘検知装置1は、水底Tの土砂Hに埋め込まれて構築された構造物である橋脚B1の洗掘を検知する。洗掘検知装置1は、橋脚B1の周囲における土砂Hの洗掘を検知する。
【0024】
例えば、洗掘検知装置1は、温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサ10を備える。一例として、センサ10は、光ファイバケーブル11と、光ファイバケーブル11の一端が接続された計測器15とを含む。計測器15は、例えば、温度検出部16と振動検出部17とを備える。
【0025】
光ファイバケーブル11は、光ファイバ心線と、光ファイバ心線を被覆する樹脂製の被覆層とによって構成されている。光ファイバケーブル11の直径は、一例として、0.9mm程度である。例えばセンサ10の計測器15が温度検出部16及び振動検出部17を有することによって、センサ10において温度及び振動の少なくともいずれかを検出することが可能となる。
【0026】
洗掘検知装置1は、センサ10を支持する支持部材12を備える。支持部材12は、例えば、橋脚B1を構成する部材である。支持部材12には、例えば、センサ10の光ファイバケーブル11が貼り付けられており、光ファイバケーブル11が貼り付けられた支持部材12は橋脚B1の周囲の土砂Hに埋設されている。計測器15は、例えば、地上に設けられる。光ファイバケーブル11は、例えば、分布型光ファイバセンサであり、光ファイバケーブル11の周囲で生じた歪み、温度又は振動を検出する。支持部材12に支持された光ファイバケーブル11は、土砂H及び水中Wの歪み、温度又は振動を検出する。
【0027】
図3は、センサ10が洗掘を検知している状態の例を模式的に示すセンサ10及び橋脚B1の断面図である。
図2及び
図3に示されるように、洗掘が生じない状態では支持部材12に支持された光ファイバケーブル11が土砂Hに埋まっているので光ファイバケーブル11は水中Wの歪み、温度又は振動を検出しない。このように支持部材12に支持された光ファイバケーブル11が水中Wの歪み、温度又は振動を検出しないことによって、センサ10は橋脚B1の洗掘を検知しない。
【0028】
一方、橋脚B1に洗掘が生じると、橋脚B1の周囲の土砂Hがえぐれて支持部材12の一部が水中Wに露出する。このとき、光ファイバケーブル11の少なくとも一部において水中Wの歪み、温度又は振動が検出される。例えば、光ファイバケーブル11は、温度又は振動の鉛直分布を計測し、水中Wと土砂Hとでの温度又は振動特性の違いから水底Tの位置を検出し、その位置の変化から洗掘の発生を検知する。
【0029】
図4は、センサ10の光ファイバケーブル11及び計測器15を模式的に示す図である。
図4に示されるように、計測器15は、例えば、光ファイバケーブル11にパルス光である計測光K1を一定の周期で繰り返し入力する。前述したように、一例として、光ファイバケーブル11は分布型の光ファイバセンサである。光ファイバケーブル11が分布型光ファイバセンサである場合、歪み、温度又は振動の詳細な分布を把握できる。従って、温度検出部16による温度検出、及び振動検出部17による振動検出を高精度に行うことができる。
【0030】
計測器15(温度検出部16及び振動検出部17)は、例えば、光ファイバケーブル11を用いてレイリー計測によって温度及び振動の少なくともいずれかを計測する。しかしながら、計測器15は、光ファイバケーブル11を用いて、ブリルアン計測によって温度及び振動の少なくともいずれかを計測してもよい。計測器15が光ファイバケーブル11に計測光K1を入力すると、光ファイバケーブル11において後方散乱光K2が生じる。後方散乱光K2のスペクトル(周波数ごとの強度)は、歪み、温度又は振動によって変化する。
【0031】
後方散乱光K2の強度は計測光K1の強度よりも小さい。レイリー計測では、後方散乱光K2のスペクトルの変化を計測することによって、光ファイバケーブル11に生じた温度及び振動を検出する。後方散乱光K2を用いたレイリー計測は、精度が高く、光のロスに強いという利点がある。
【0032】
光ファイバケーブル11では、例えば、1μの歪み、及び0.1℃の温度といった精度で水中Wに露出した支持部材12の変化の検知が可能である。水底Tにおいて、水中Wの温度は土砂Hの中の温度よりも高く、水中Wの温度と土砂Hの中の温度との温度差は0.5℃程度であることが知られている。従って、本実施形態に係る温度検出部16は、光ファイバケーブル11によって0.1℃の温度変化を検出できるので、洗掘の結果、支持部材12が水中Wに露出した状態を確実に検出することが可能である。
【0033】
振動検出部17は、一例として、分布型音響センシング(DAS:DistributedAcoustic Sensing)によって光ファイバケーブル11を介して振動を検出する。振動検出部17は、洗掘の結果、水中Wに露出した支持部材12への水流による振動を検出する。DASでは、長さ50kmにわたる振動分布を0.2m(20cm)間隔で高密度に出力することが可能である。一例として、光ファイバケーブル11は20cmごとに検出部を有し、各検出部において振動が検出された結果が振動検出部17に入力される。
【0034】
振動検出部17は、光ファイバケーブル11に加わる振動に応じて変化する後方散乱光K2の位相を検出することによって当該振動を検出する。振動検出部17は、光ファイバケーブル11への光の伝搬距離によって異なる光の往復時間を測定して光ファイバケーブル11の位置情報を取得してもよく、例えば、各位置の計測信号に対して数Hz~2.5kHzのレートでサンプリングを行うことで光ファイバケーブル11に沿って振動分布が出力されてもよい。
【0035】
図5は、橋脚B1の一部を構成する支持部材12の例を模式的に示す斜視図である。
図5に示されるように、例えば、支持部材12は鋼矢板であってもよい。一例として、支持部材12は、仮土留めに用いたシートパイルであって基礎(橋脚B1)に接合されるシートパイル基礎工法で用いられる部材であってもよい。この場合、シートパイル基礎工法で用いられる鋼矢板を光ファイバケーブル11の支持部材12として有効利用することができる。なお、複数の光ファイバケーブル11のそれぞれが複数の支持部材12のそれぞれに支持されていてもよい。この場合、洗掘が生じた位置又は範囲をより特定しやすくすることができる。
【0036】
図6は、支持部材12に対する光ファイバケーブル11の支持構造の例を示す斜視図である。
図6に示されるように、一例として、光ファイバケーブル11は、2種類の光ファイバを含んでいてもよい。この例の場合、光ファイバケーブル11は、歪み(温度又は振動)を検出する検出用光ファイバケーブル11bと、温度計測専用ファイバ11cとを含む。
【0037】
検出用光ファイバケーブル11bは、支持部材12を介して、前述したように温度及び振動の少なくともいずれかを検出する。温度計測専用ファイバ11cは、例えば、光ファイバ心線11dと、光ファイバ心線11dを囲む管状部材11fとを備える。管状部材11fは、例えば、鋼管である。一例として、管状部材11fの材料は硬質材料(例えばSUS:Steel Use Stainless)である。しかしながら、管状部材11fの材料は特に限定されない。
【0038】
光ファイバケーブル11(例えば検出用光ファイバケーブル11b及び温度計測専用ファイバ11c)は、例えば、接着剤13によって支持部材12に貼り付けられる。例えば、支持部材12の長手方向D2に直交する平面で切断した支持部材12の断面は台形状を呈する。この場合、支持部材12は、長手方向D2に沿って延在するウェブを構成する底面12bと、底面12bの幅方向の両端のそれぞれから斜めに延在するフランジを構成する一対の傾斜面12cと、各傾斜面12cの底面12bとは反対側の端部において折り曲げられた一対の折り曲げ部12dとを有する。
【0039】
例えば、光ファイバケーブル11は、支持部材12の底面12bに沿って延在するように底面12bに貼り付けられる。一例として、検出用光ファイバケーブル11b及び温度計測専用ファイバ11cは底面12bの幅方向に沿って並ぶように配置される。このように配置された光ファイバケーブル11に接着剤13が塗布されることによって光ファイバケーブル11が支持部材12に支持される。
【0040】
図7(a)及び
図7(b)のそれぞれは、光ファイバケーブル11及び支持部材12の構成の変形例を示している。
図7(a)及び
図7(b)に示されるように、支持部材12に貼り付けられた光ファイバケーブル11は、第1方向A1に延びる第1部分11Aと、第1部分11Aに連続しており第1方向A1に対して交差する第2方向A2に延びる第2部分11Bとを含む。例えば、第1方向A1は鉛直方向であり第2方向A2は水平方向である。しかしながら、第1方向A1は鉛直方向以外の方向であってもよいし、第2方向A2は水平方向以外の方向であってもよい。
【0041】
図7(a)の例では、光ファイバケーブル11は複数の第1部分11A及び複数の第2部分11Bを含んでおり、支持部材12において光ファイバケーブル11がジグザグ状に(光ファイバケーブル11が波形形状となるように)設置されている。
図7(b)の例では、管状の支持部材12の内面に沿って光ファイバケーブル11が螺旋状に延びるように光ファイバケーブル11が支持部材12に設置されている。
【0042】
以下では、支持部材12に対する光ファイバケーブル11の支持構造の種々の例について説明する。
図8(a)に示されるように、支持部材12の底面12bに1本の光ファイバケーブル11が支持されていてもよい。
図8(b)に示されるように、複数の光ファイバケーブル11が支持部材12に支持されてもよい。
【0043】
例えば、支持部材12の底面12b及び傾斜面12cのそれぞれに光ファイバケーブル11が貼り付けられてもよい。これらの例では、U形の鋼矢板のウェブ又はフランジに光ファイバケーブル11が設置されており、光ファイバケーブル11が当該鋼矢板の長手方向(打ち込み方向、
図8の紙面に直交する方向)に延在している。
【0044】
図8(a)の例では、U形の鋼矢板である支持部材12の内面12fに光ファイバケーブル11が設置されている。しかしながら、支持部材12の外面12gに光ファイバケーブル11が設置されていてもよい。支持部材12の内面12f及び外面12gの一方は、地盤掘削のときに露出する面(掘削面)である。この地盤掘削のときに光ファイバケーブル11を損傷させないために、光ファイバケーブル11は、支持部材12の掘削面とは反対側の面に設置されることが好ましい。
【0045】
図8(c)に示されるように、支持部材12は、光ファイバケーブル11を保持する保持部12hを備えていてもよい。保持部12hは、例えば、支持部材12の傾斜面12cに固定されている。保持部12hは、一例として、光ファイバケーブル11が入り込むL字部材12jと、光ファイバケーブル11が入り込んだL字部材12jに充填される樹脂層12kとを有する。なお、保持部12hは、L字部材12jに代えてU字部材を有していてもよい。
【0046】
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)及び
図9(d)は、支持部材12の底面12bに対する光ファイバケーブル11の支持構造の例を示す断面図である。
図9(a)に示されるように、支持部材12は、支持部材12に光ファイバケーブル11を固定する固定部12pを有する。
【0047】
固定部12pは、底面12bにおいて光ファイバケーブル11を覆う第1樹脂層12qと、第1樹脂層12qを覆うガラスクロス12rと、ガラスクロス12rを覆う第2樹脂層12sとを有する。ガラスクロス12rは、光ファイバケーブル11を保護する保護部材として機能する。
【0048】
この固定部12pによれば、第1樹脂層12q、ガラスクロス12r及び第2樹脂層12sにより、外力から光ファイバケーブル11から保護されるので、光ファイバケーブル11の損傷の可能性が一層低減される。その結果、例えば支持部材12が地盤に打ち込まれるときであっても、光ファイバケーブル11を損傷しにくくすることができる。
【0049】
図9(b)に示されるように、支持部材12は、支持部材12に光ファイバケーブル11を固定する固定部材12tを備えていてもよい。例えば、固定部材12tは、光ファイバケーブル11に塗布される接着剤12vと、光ファイバケーブル11及び接着剤12vを覆う両面テープ12wと、両面テープ12wに載せられるケーブル保護部材12xとを有する。
【0050】
接着剤12vが光ファイバケーブル11及び底面12bに塗布されることによって光ファイバケーブル11が底面12bと一体化する。なお、接着剤12vは省略されてもよい。両面テープ12wは、底面12bと一体化された光ファイバケーブル11を覆うように光ファイバケーブル11に貼り付けられる。
【0051】
ケーブル保護部材12xは、一例として、アルミニウム製である。この場合、ケーブル保護部材12xが軽量であるため、作業性を良好にできる。光ファイバケーブル11に対向するケーブル保護部材12xの対向面にはV溝12yが形成されている。V溝12yが光ファイバケーブル11を覆うことにより、光ファイバケーブル11及び両面テープ12wの盛り上がった部位がV溝12yに収まることとなり、収まりが良好となる。
【0052】
図9(c)に示されるように、支持部材12は、支持部材12に光ファイバケーブル11を設置する設置部材12zを備えていてもよい。設置部材12zは、光ファイバケーブル11を内部に収容する筒状部材12b1と、光ファイバケーブル11が収容された筒状部材12b1の内部に注入される接着剤12b2とを有する。設置部材12zは、例えば、底面12bに溶接によって固定されてもよいし、接着によって底面12bに固定されてもよいし、両面テープ等によって底面12bに貼り付けられてもよい。
【0053】
支持部材12に光ファイバケーブル11を支持する設置部材の構成は、上記の設置部材12zに限られず適宜変更可能である。
図9(d)は変形例に係る設置部材12b3を示している。設置部材12b3は、底面12bの幅方向に沿って並ぶ一対の溶接ビード12b4と、一対の溶接ビード12b4の間に充填される接着剤12b5とを備える。
【0054】
光ファイバケーブル11は、一対の溶接ビード12b4の間に配置される。一対の溶接ビード12b4の間に配置された光ファイバケーブル11に対して接着剤12b5が充填される。一対の溶接ビード12b4の間に充填されて硬化した接着剤12b5が光ファイバケーブル11を覆うことにより、支持部材12に光ファイバケーブル11を強固に支持することができる。
【0055】
図10(a)に示されるように、支持部材12が光ファイバケーブル11を収容する収容溝12b6を有していてもよい。収容溝12b6は支持部材12の底面12bにおいてV字状に窪んでいるV溝である。収容溝12b6は、底面12bに切削加工されて形成されてもよいし、支持部材12の圧延時に形成されてもよい。
【0056】
支持部材12は、更に、収容溝12b6に収容された光ファイバケーブル11に塗布される接着剤12b7を備える。収容溝12b6に収容された光ファイバケーブル11に塗布された接着剤12b7が硬化することにより、支持部材12に光ファイバケーブル11が強固に支持される。
【0057】
図10(b)に示されるように、支持部材12は、光ファイバケーブル11が入り込む溝12b9を有する溝支持部材12b8を備えていてもよい。溝支持部材12b8は、例えば前述したケーブル保護部材12xと同様、アルミニウム製である。溝支持部材12b8は、支持部材12の底面12bに溶接によって固定されてもよいし、接着によって底面12bに固定されてもよいし、両面テープ等によって底面12bに固定されてもよい。
【0058】
前述した各例と同様、溝支持部材12b8の溝12b9に光ファイバケーブル11が収容された状態で溝12b9に接着剤12b7が塗布される。溝12b9及び光ファイバケーブル11に充填された接着剤12b7が硬化することにより、支持部材12に光ファイバケーブル11が強固に保持される。
【0059】
図10(c)に示されるように、支持部材12は、光ファイバケーブル11を保護する保護部材12c1を備えていてもよい。保護部材12c1は、例えば、鋼製である。保護部材12c1は、支持部材12に支持された光ファイバケーブル11から見て支持部材12の打ち込み方向側に配置される。すなわち、支持部材12は、保護部材12c1が設けられる側から地盤等に打ち込まれる。
【0060】
保護部材12c1は、地盤等への支持部材12の打ち込み時における支持部材12への抵抗を低減する抵抗低減部材として機能する。保護部材12c1は、打ち込み方向に向かって保護部材12c1の厚みが小さくなるように傾斜するテーパ面12c2を有する。テーパ面12c2は、支持部材12の側方から見て、打ち込み方向に向かうに従って底面12bからの高さが低くなる三角形状を呈する。
【0061】
支持部材12が以上の保護部材12c1を備えることにより、支持部材12の地盤等への打ち込み時において、地盤等に対する光ファイバケーブル11の干渉をより確実に低減できる。更に、保護部材12c1がテーパ面12c2を有することにより、支持部材12の地盤等への打ち込み時における抵抗を低減させることができる。
【0062】
以上、
図8~
図10を参照しながら、支持部材12への光ファイバケーブル11の支持構造の種々の例について説明した。このように、支持部材12に対する光ファイバケーブル11の支持構造としては種々の構造を採用することができる。また、
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)、
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)、
図9(d)、
図10(a)、
図10(b)及び
図10(c)の複数が組み合わされた支持構造によって光ファイバケーブル11が支持部材12に支持されてもよい。
【0063】
次に、本実施形態に係る洗掘検知方法の工程について説明する。本実施形態に係る洗掘検知方法は、構造物の構築後ではなく、構造物の構築と共に実行される。まず、例えば
図6に示されるように、支持部材12に光ファイバケーブル11を貼り付ける(支持部材に光ファイバケーブルを貼り付ける工程)。
【0064】
このとき、光ファイバケーブル11は接着剤13によって支持部材12に貼り付けられる。具体的には、支持部材12の底面12bに沿って延在するように光ファイバケーブル11を底面12bに貼り付ける。このように支持部材12に光ファイバケーブル11を支持する(支持部材に光ファイバケーブルを支持する工程)。
【0065】
しかしながら、支持部材12に光ファイバケーブル11を支持する方法は、上記に限られず、例えば、
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)、
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)、
図9(d)、
図10(a)、
図10(b)及び
図10(c)の少なくともいずれかの方法によって行われてもよい。また、支持部材12への光ファイバケーブル11の支持の方法としては、
図7(a)又は
図7(b)に示されるように、第1部分11A及び第2部分11Bを有するように光ファイバケーブル11を蛇行させて(又は螺旋状にして)支持部材12に支持してもよい。
【0066】
支持部材12に光ファイバケーブル11を支持した後には、
図5に示されるように、構造物(例えば橋梁Bの橋脚B1)の周囲の土砂Hに支持部材12を埋め込む(支持部材を埋め込む工程)。「構築物の周囲の土砂」とは、構築物が構築される予定の場所の周囲に位置する土砂を示しており、本実施形態では構造物が構築される部分の隣接位置の土砂Hに支持部材12が埋め込まれる。例えば、光ファイバケーブル11が貼り付けられた支持部材12と共に、光ファイバケーブル11が貼り付けられていない支持部材12を順次土砂Hに打ち込んでいく。その後、橋脚B1の基礎を構築し(構造物の基礎を構築する工程)、橋梁Bを構築する。
【0067】
図2及び
図3に示されるように、光ファイバケーブル11の一端が接続された計測器15の設置を行い、計測器15を含むセンサ10によって橋脚B1の周囲の温度及び振動の少なくともいずれかを検出する(温度及び振動の少なくともいずれかを検出する工程)。このとき、計測器15は支持部材12が水中Wに露出しているか否かを検出する(水中に露出しているか否かを検出する工程)。具体的には、温度検出部16が光ファイバケーブル11を介して支持部材12の温度を検出し、振動検出部17が光ファイバケーブル11を介して支持部材12に付与された振動の有無を検出する。
【0068】
例えば、光ファイバケーブル11は、温度又は振動の鉛直分布を計測し、水中Wと土砂Hとでの温度又は振動特性の違いから水底Tの位置を検出し、その位置の変化から洗掘の発生を検知する。このとき、計測器15は、光ファイバケーブル11を介して温度又は振動の鉛直分布を計測し、水中Wと土砂Hとでの温度又は振動特性の違いから水底Tの位置を検出する。そして、計測器15は、検出した水底Tの位置が変化していないと判定した場合に、洗掘が生じていないと判定する。
【0069】
一方、一例として洗掘が生じて支持部材12の一部が水中Wに露出している場合には、温度検出部16が光ファイバケーブル11を介して支持部材12に伝達された水の温度を検出し、振動検出部17は水中Wにおける水流を振動として検出する。このとき、計測器15は、光ファイバケーブル11を介して温度又は振動の鉛直分布を計測し、水中Wと土砂Hとでの温度又は振動特性の違いから水底Tの位置を検出する。そして、計測器15は、検出した水底Tの位置が変化していると判定した場合に、洗掘が生じていると判定する。以上の洗掘の発生有無の判定は、常時行ってもよいし、一定期間ごとに行ってもよい。一定期間ごとに行う場合、例えば、数ヶ月ごと(又は季節ごと)に行う。
【0070】
次に、本実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1から得られる作用効果について詳細に説明する。まず、従来の洗掘検知システムでは、ドラムからのワイヤの巻き出しという機械的な動作を検知するセンサを備えるため、河川水又は海水の飛沫帯に近い環境下における長期間の使用では、ドラムが作動せずに錘が沈下しないこと、又はロータリーエンコーダの計測不良等が懸念される。これに対し、本実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1は、機械的な動作部を有しないので、上記の問題を回避することができる。また、光ファイバケーブル11の光ファイバ自体は高耐久で計測器15は遠方に配置することが可能である。更に、水中Wに動作部又は電気を扱う機械を配置する必要がないので、高耐久な洗掘検知装置1とすることができる。
【0071】
また、従来の河床洗掘監視方法では、電熱線を有する特殊なセンサを構造物とは別に作製しなければならないので、センサの設置を容易に行うことができないという問題が生じうる。更に、電熱線の部分の絶縁不良による故障、又は熱を加えることによる環境への影響が懸念される。これに対し、本実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1では、電熱線が不要であるため上記の問題は生じない。更に、本実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1では、温度だけでなく同じセンサで振動を計測することが可能であるため、高精度な洗掘の検知が可能となる。
【0072】
また、従来の洗掘検知装置として、橋脚の振動数の変化から洗掘を検知するものが知られている。しかしながら、この洗掘検知装置の場合、橋脚の振動数が変化するほど洗掘が進行したときにしか洗掘を検知することができないことがあるので、洗掘の予兆(例えば、構造物への影響が出ていない洗掘が生じている状態)を確実に検知できないという問題がある。これに対し、本実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1では、軽微な洗掘が生じた段階でも洗掘の検知が可能となるので、洗掘の予兆を検知することも可能である。
【0073】
本実施形態に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1では、センサ10が支持された支持部材12は橋脚B1の周囲の土砂Hに埋め込まれる。橋脚B1の周囲の土砂Hがえぐられて洗掘が生じたときに、支持部材12の水中Wに露出する範囲が変化する。計測器15が支持部材12に支持された光ファイバケーブル11を介して温度又は振動の鉛直分布を計測し、水中Wと土砂Hとでの温度又は振動特性の違いから水底Tの位置を検出し、その位置の変化から洗掘の発生を検知する。
【0074】
従って、土砂Hに埋設された支持部材12に支持されたセンサ10が支持部材12の水中Wへの露出を検知することにより、橋脚B1の周囲の洗掘を高精度に検知することができる。温度及び振動の少なくともいずれかを検出するセンサ10は、橋脚B1の一部を構成する支持部材12に支持される。従って、橋脚B1の一部を構成する支持部材12に支持されたセンサ10が土砂Hに埋設されるので、橋脚B1とは別にセンサを作製する必要がない。すなわち、橋脚B1の支持部材12を用意する過程でセンサ10を支持部材12に支持すればよい。従って、センサ10の設置を橋脚B1の構築と共に容易に行うことができる。
【0075】
センサ10は、支持部材12に貼り付けられる光ファイバケーブル11を含んでもよい。この場合、支持部材12に光ファイバケーブル11を貼り付けて光ファイバケーブル11が歪み、温度及び振動の少なくともいずれかを検出する。具体的には、計測器15が光ファイバケーブル11によって歪み又は温度を計測する場合、光ファイバケーブル11に光を入射して散乱光が戻ってくるまでの経過時間を測定し、散乱光の周波数シフトを歪み又は温度データに変換する。計測器15が光ファイバケーブル11によって振動を検出する場合、一定の周期で繰り返し入力したパルス光に対し、後方散乱光の位相変化を振動データに変換する。以上のように、計測器15は、光ファイバケーブル11によって歪み、温度又は振動を計測することができる。線状の光ファイバケーブル11を支持部材12に貼り付けて光ファイバケーブル11をはりめぐらせることにより、1本の光ファイバケーブル11で広範囲の箇所の後方散乱光の変化を計測できるので、広範囲にわたって歪み、温度又は振動の検出を行うことができる。従って、光ファイバケーブル11の設置を容易に行うことができると共に、広範囲にわたって洗掘の検知を高精度に行うことができる。
【0076】
支持部材12を埋め込む工程では、光ファイバケーブル11が貼り付けられた支持部材12を橋脚B1の基礎を構築する前に土砂Hに埋め込んでもよい。この場合、橋脚B1の基礎を構築する前に、光ファイバケーブル11が貼り付けられた支持部材12を土砂Hに埋め込む。従って、基礎の構築の前からセンサ10付きの支持部材12が土砂Hに埋め込まれるので、基礎の構築のときから洗掘の検知を始めることができる。
【0077】
図7(a)及び
図7(b)に示されるように、支持部材12に貼り付けられた光ファイバケーブル11は、第1方向A1に延びる第1部分11Aと、第1部分11Aに連続しており第1方向A1に対して交差する第2方向A2に延びる第2部分11Bと、を含んでもよい。この場合、光ファイバケーブル11は、第1方向A1に延びる第1部分11Aと、第1方向A1とは異なる第2方向A2に延びる第2部分11Bとを有することにより、ジグザグ状又は螺旋状に光ファイバケーブル11を配置することが可能となる。従って、直線状に光ファイバケーブル11を配置する場合と比較して、より広い箇所に光ファイバケーブル11を配置できるので、より広い箇所に配置された光ファイバケーブル11からより高精度に歪み、温度又は振動を検出することができる。より具体的には、ジグザグ状又は螺旋状に光ファイバケーブル11が配置されることによって、より広範囲に光ファイバケーブル11をはりめぐらせることができるので、広範囲を計測できると共に洗掘計測の位置分解能を高めることができる。
【0078】
以上、本開示に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置の実施形態について説明した。しかしながら、本開示に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置は、前述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した要旨の範囲内において適宜変形することが可能である。すなわち、洗掘検知方法の工程の内容及び順序、並びに、洗掘検知装置の各部の構成、形状、大きさ、数、材料及び配置態様は、前述した実施形態に限られず上記の要旨の範囲内において適宜変更可能である。
【0079】
例えば、前述の実施形態では、センサ10が設置される構造物が橋梁Bの橋脚B1である例について説明した。しかしながら、構造物は、橋梁以外のものであってもよく、本発明に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置は、種々の構造物に適用可能である。以下では、種々の構造物の変形例について説明する。
【0080】
図11に示されるように、変形例に係る洗掘検知方法及び洗掘検知装置1は鋼管矢板基礎21に適用されてもよい。鋼管矢板基礎21は、例えば、複数の鋼管矢板22bが平面視において環状に配置されて構成される矢板井筒22(鋼管井筒、仕切り)と、矢板井筒22の内部空間に打設される鉄筋コンクリート基礎版23とを備える。
【0081】
鋼管矢板基礎21は、例えば、鉄筋コンクリート基礎版23の上に橋脚24が構築される橋梁基礎である。この鋼管矢板基礎21において、例えば、複数の鋼管矢板22bの少なくともいずれかに光ファイバケーブル11が配置されることによって鋼管矢板基礎21にセンサ10が設置される。この場合、前述と同様、土砂Hがえぐれたときに矢板井筒22の光ファイバケーブル11が貼り付けられた部分が水中Wへの鋼管矢板22bの露出を検知することにより、洗掘を検知することができる。
【0082】
図12(a)は、変形例に係る構造物31の基礎32及びセンサ10を示している。基礎32は、直接基礎である。基礎32は、土砂Hに埋設されるフーチング33と、フーチング33から上方に延在する橋脚34とを備える。例えば、フーチング33に沿って鉛直方向に延びるように光ファイバケーブル11が支持された支持部材12が埋設されている。光ファイバケーブル11が橋脚34の隣接位置における水中Wへの支持部材12の露出を検出することにより、センサ10によって構造物31の洗掘が検知される。
【0083】
図12(b)は、変形例に係る構造物であるケーソン基礎41及びセンサ10を示している。ケーソン基礎41は、底版コンクリート42と、底版コンクリート42から鉛直上方に延在する筒状の側壁43と、側壁43の上端に位置する頂版44と、頂版44から鉛直上方に突出するピアー45とを備える。例えば、側壁43に沿って鉛直方向に延びるように光ファイバケーブル11が支持された支持部材12が土砂Hに埋設されている。光ファイバケーブル11が側壁43の隣接位置における水中Wへの支持部材12の露出を検出することにより、センサ10によってケーソン基礎41の洗掘が検知される。
【0084】
図13(a)は、変形例に係る構造物である杭基礎51及びセンサ10を示している。杭基礎51は、複数の基礎杭52と、複数の基礎杭52の上端に位置するフーチング53と、フーチング53から鉛直上方に延在する橋脚54とを備える。
図13(b)は、変形例に係る構造物である地中連続壁基礎61及びセンサ10を示している。地中連続壁基礎61は、連続地中壁62と、連続地中壁62の上端に位置するフーチング63と、フーチング63から鉛直上方に延在する橋脚64とを備える。杭基礎51及び地中連続壁基礎61において、光ファイバケーブル11がフーチング53,63の隣接位置における水中Wへの支持部材12の露出を検出することにより、センサ10によって杭基礎51又は地中連続壁基礎61の洗掘が検知される。
【0085】
図14は、例えば
図13(b)の地中連続壁基礎61に設置可能な変形例の支持部材65を示している。
図13(b)及び
図14に示されるように、光ファイバケーブル11がジグザグ状に配置された支持部材65が連続地中壁62の側面に設けられてもよい。例えば、鉛直方向1mあたりの範囲に数mの光ファイバケーブル11が位置することにより、洗掘計測の位置分解能を高めることができる。
【0086】
図15は、変形例に係る構造物である橋台基礎71及びセンサ10を示している。橋台基礎71は、複数の杭基礎72と、杭基礎72から上方に延在する躯体73と、躯体73の上端に位置するパラペット74とを備える。パラペット74には、例えば、支承を介して主桁75が構築される。橋台基礎71において、光ファイバケーブル11が杭基礎72の隣接位置における水中Wへの支持部材12の露出を検出することにより、センサ10によって橋台基礎71の洗掘が検知される。
【0087】
図16は、変形例に係る構造物である洋上風力基礎81及びセンサ10を示している。洋上風力基礎81は、海洋に設けられる風力発電機80を構成している。しかしながら、風力発電機80は、例えば、湖、河川、沿岸又は港湾等、海洋とは異なる水中Wに設けられてもよい。
【0088】
風力発電機80は、洋上風力基礎81に固定されたタワー82と、タワー82の上部に設置されたナセル83と、ナセル83に取り付けられたブレード84とを備える。洋上風力基礎81は、水中Wに打設されたモノパイルである支持杭81bと、支持杭81bから上方に延びると共にタワー82の下端に接続されたトランジションピース81cとを備える。なお、洋上風力基礎81は、モノパイルの基礎形式に代えて、重力式又はジャケット式の基礎形式を備えていてもよい。
【0089】
水底Tにおける支持杭81bの周辺には洗掘防止工85が設けられており、洗掘防止工85により、水底Tの支持杭81bの周辺における土砂Hの洗掘が防止されている。更に、洋上風力基礎81において、光ファイバケーブル11が支持杭81bの隣接位置における水中Wへの支持部材12の露出を検出することにより、センサ10によって洋上風力基礎81の洗掘が検知される。このように、既存の洗掘防止工85とセンサ10とを併用することも可能である。
【0090】
図17は、更なる変形例に係る洗掘検知装置1を示す断面図である。
図17に示されるように、支持部材12の上端の高さは水底Tの高さより高くてもよい。例えば、
図17に示される洗掘検知装置1では、計測器15が支持部材12の全長にわたって土中の挙動と水中の挙動を計測する。そして、計測器15は、土中の挙動と水中の挙動との境界が洗掘によって移動・推移していくことを計測する。従って、変形例に係る洗掘検知装置1の場合であっても前述した各例と同様、高精度に洗掘を検知できると共に洗掘の予兆を検知することができる。
【0091】
以上、センサ10が適用可能な種々の構造物について例示した。しかしながら、センサ10は更に別の構造物に適用させることも可能である。例えば、港湾施設、海洋施設又は河川施設の隣接位置における水中Wへの支持部材12の露出を光ファイバケーブル11が検出することにより、センサ10によって港湾施設、海洋施設又は河川施設の洗掘が検知可能である。
【0092】
前述した実施形態では、鋼矢板である支持部材12に光ファイバケーブル11が支持されて支持部材12が構造物の隣接位置に埋め込まれる例について説明した。しかしながら、光ファイバケーブル11は鋼管に支持されていてもよく、光ファイバケーブル11が支持された鋼管が基礎の近傍に圧入されてもよい。
【0093】
また、基礎(フーチング)に光ファイバケーブル11が直接設置されてもよい。更に、ケーソンのように、複数のブロックが段階的に構築される場合には、構築されたブロックに余長を残しつつ光ファイバケーブル11が設置され、ブロックの構築、及び余長を残しながらの光ファイバケーブル11の設置が繰り返されてもよい。このように、光ファイバケーブル11の設置方法及び設置構造は適宜変更可能である。
【0094】
前述した実施形態では、センサ10が支持部材12に貼り付けられる光ファイバケーブル11を含む例について説明した。しかしながら、センサ10は、光ファイバケーブル11を含まなくてもよい。例えば、センサは、光ファイバケーブル11に代えて、温度差を測定する熱電対等の温度センサ又は振動センサを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…洗掘検知装置、10…センサ、11…光ファイバケーブル、11A…第1部分、11b…検出用光ファイバケーブル、11B…第2部分、11c…温度計測専用ファイバ、11d…光ファイバ心線、11f…管状部材、12…支持部材、12b…底面、12b1…筒状部材、12b2…接着剤、12b3…設置部材、12b4…溶接ビード、12b5…接着剤、12b6…収容溝、12b7…接着剤、12b8…溝支持部材、12b9…溝、12c…傾斜面、12c1…保護部材、12c2…テーパ面、12d…折り曲げ部、12f…内面、12g…外面、12h…保持部、12j…L字部材、12k…樹脂層、12p…固定部、12q…第1樹脂層、12r…ガラスクロス、12s…第2樹脂層、12t…固定部材、12v…接着剤、12w…両面テープ、12x…ケーブル保護部材、12y…V溝、12z…設置部材、13…接着剤、15…計測器、16…温度検出部、17…振動検出部、21…鋼管矢板基礎、22…矢板井筒、22b…鋼管矢板、23…鉄筋コンクリート基礎版、24…橋脚、31…構造物、32…基礎、33…フーチング、34…橋脚、41…ケーソン基礎、42…底版コンクリート、43…側壁、44…頂版、51…杭基礎、52…基礎杭、53…フーチング、54…橋脚、61…地中連続壁基礎、62…連続地中壁、63…フーチング、64…橋脚、71…橋台基礎、72…杭基礎、73…躯体、74…パラペット、75…主桁、80…風力発電機、81…洋上風力基礎、81b…支持杭、81c…トランジションピース、82…タワー、83…ナセル、84…ブレード、85…洗掘防止工、A1…第1方向、A2…第2方向、B…橋梁、B1…橋脚、B2…主桁、D1…延在方向、D2…長手方向、H…土砂、K1…計測光、K2…後方散乱光、R…道路、S…水面、T…水底、W…水中。