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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】風況予測装置および風況予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/10 20060101AFI20250115BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G01W1/10 D
G01W1/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021096933
(22)【出願日】2021-06-09
(65)【公開番号】P2022188698
(43)【公開日】2022-12-21
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラムダニ スフィアン
(72)【発明者】
【氏名】田中 和英
(72)【発明者】
【氏名】小村 昭義
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 怜央
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佑希也
(72)【発明者】
【氏名】大竹 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌道
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203727(JP,A)
【文献】特開2020-159725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0160373(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00- 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象地点の局所風況を示す関数である局所風況関数、および大域風況を示す関数である大域風況関数を取得する関数取得部と、
前記局所風況関数に含まれるパラメータを用いて前記大域風況関数に含まれるパラメータを置き換えて当該大域風況関数を補正し、補正された前記大域風況関数を用いて前記予測対象地点の風況を予測する風況予測部とを備え
前記関数取得部は、
前記予測対象地点の局所風況データから、地上から上空に向けて風速が増加する地表近傍の風況物理モデルに基づいて、高度方向の風速の分布を示す前記局所風況関数を導出して取得し、
前記局所風況データは、
前記予測対象地点で第1の期間に実測された風況の実測値であり、
前記大域風況関数は、
前記第1の期間より長い第2の期間における前記予測対象地点を含む大域風況データから、前記風況物理モデルに基づいて導出された関数である
ことを特徴とする風況予測装置。
【請求項2】
予測対象地点の局所風況を示す関数である局所風況関数、および大域風況を示す関数である大域風況関数を取得する関数取得部と、
前記局所風況関数に含まれるパラメータを用いて前記大域風況関数に含まれるパラメータを置き換えて当該大域風況関数を補正し、補正された前記大域風況関数を用いて前記予測対象地点の風況を予測する風況予測部とを備え
前記関数取得部は、
前記予測対象地点の局所風況データから、地上から上空に向けて風速が増加する地表近傍の風況物理モデルに基づいて、高度方向の風速の分布を示す前記局所風況関数を導出して取得し、
前記局所風況データは、
前記予測対象地点の近傍の地形データ、および第1の期間における前記大域風況を入力とする数値解析から導出され、
前記大域風況関数は、
前記第1の期間より長い第2の期間における前記予測対象地点を含む大域風況データから、前記風況物理モデルに基づいて導出された関数である
ことを特徴とする風況予測装置。
【請求項3】
前記風況予測部は、
前記予測対象地点における風向または風速の出現頻度に応じて変更された前記局所風況関数に含まれるパラメータを用いて前記大域風況関数を補正し、補正された前記大域風況関数を用いて前記予測対象地点の風況を予測する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の風況予測装置。
【請求項4】
前記大域風況関数の補正に用いられる前記局所風況関数のパラメータは、前記予測対象地点の近傍の地形によって決まるパラメータである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の風況予測装置。
【請求項5】
風況予測装置が、
予測対象地点の局所風況を示す関数である局所風況関数、および大域風況を示す関数である大域風況関数を取得するステップと、
前記局所風況関数に含まれるパラメータを用いて前記大域風況関数に含まれるパラメータを置き換えて当該大域風況関数を補正し、補正された前記大域風況関数を用いて前記予測対象地点の風況を予測するステップとを実行し、
前記局所風況関数を取得する際には、
前記予測対象地点の局所風況データから、地上から上空に向けて風速が増加する地表近傍の風況物理モデルに基づいて、高度方向の風速の分布を示す前記局所風況関数を導出して取得し、
前記局所風況データは、
前記予測対象地点で第1の期間に実測された風況の実測値であり、
前記大域風況関数は、
前記第1の期間より長い第2の期間における前記予測対象地点を含む大域風況データから、前記風況物理モデルに基づいて導出された関数である
ことを特徴とする風況予測方法。
【請求項6】
風況予測装置が、
予測対象地点の局所風況を示す関数である局所風況関数、および大域風況を示す関数である大域風況関数を取得するステップと、
前記局所風況関数に含まれるパラメータを用いて前記大域風況関数に含まれるパラメータを置き換えて当該大域風況関数を補正し、補正された前記大域風況関数を用いて前記予測対象地点の風況を予測するステップとを実行し、
前記局所風況関数を取得する際には、
前記予測対象地点の局所風況データから、地上から上空に向けて風速が増加する地表近傍の風況物理モデルに基づいて、高度方向の風速の分布を示す前記局所風況関数を導出して取得し、
前記局所風況データは、
前記予測対象地点の近傍の地形データ、および第1の期間における前記大域風況を入力とする数値解析から導出され、
前記大域風況関数は、
前記第1の期間より長い第2の期間における前記予測対象地点を含む大域風況データから、前記風況物理モデルに基づいて導出された関数である
ことを特徴とする風況予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測対象地点における風況を高精度に予測する風況予測装置および風況予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電所の建設地点選定において、発電量予測のために風況測定器を設置し、1年間の風況(風の吹き方、例えば風速・風向の分布)を計測する必要がある。風況測定器の設置には多くのコストが必要となるため、事前に精度よく風況のよい地点を把握することが望ましい。現状では、気象機関などが公開している大域的な風況予測データに基づき、年間の風況が予測されているが、大域的なデータでは建設地点近傍の地形情報などが考慮されておらず、予測誤差が増大する傾向がある。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1および特許文献2が開示されている。特許文献1に記載の気象予測装置では、大域的な風況予測データに基づき局所的な風況シミュレーションを実行して、地形などの影響を考慮して風況を予測する。局所的な風況シミュレーションは全ての条件では実行せず、代表的な風況に関して実行し、その結果から年間平均風速を予測する。
【0004】
特許文献2に記載の風況予測システムでは、風況測定器よりも設置が容易なドップラーライダなどにより計測された短期間の計測データに基づいて大域的な風況予測データを補正することで、局所的な地形などの状況を考慮した年間風速予測を目的としている。風速が計測された期間において、大域的な風況予測データと計測データとの時間相関を計算し、その相関係数を用いて未計測期間の大域的な風況予測データを補正して、年間の平均風速を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-203728号公報
【文献】特開2020-159725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の気象予測装置では、局所的なシミュレーションにより予測対象地点近傍の風況を詳細に予測可能である。しかしながら、大域的な風況データと実際の風況との誤差により局所的なシミュレーションの精度が低下してしまうため、年間平均風速予測値の高精度化が困難である。
【0007】
特許文献2に記載の風況予測システムでは、短期間の風速計測データに基づき大域風況データの誤差を把握することが可能である。しかしながら、観測期間における誤差と未観測期間における誤差には差異が生じることが多く、時間相関に基づく数学的な補正のみでは精度の向上が難しい場合が多い。
【0008】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであり、風況の予測対象地点における短期間の風況計測データから、高精度に年間の風況の予測を可能とする風況予測装置および風況予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するため本発明に係る風況予測装置は、予測対象地点の局所風況を示す関数である局所風況関数、および大域風況を示す関数である大域風況関数を取得する関数取得部と、前記局所風況関数に含まれるパラメータを用いて前記大域風況関数に含まれるパラメータを置き換えて当該大域風況関数を補正し、補正された前記大域風況関数を用いて前記予測対象地点の風況を予測する風況予測部とを備え、前記関数取得部は、前記予測対象地点の局所風況データから、地上から上空に向けて風速が増加する地表近傍の風況物理モデルに基づいて、高度方向の風速の分布を示す前記局所風況関数を導出して取得し、前記局所風況データは、前記予測対象地点で第1の期間に実測された風況の実測値であり、前記大域風況関数は、前記第1の期間より長い第2の期間における前記予測対象地点を含む大域風況データから、前記風況物理モデルに基づいて導出された関数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風況の予測対象地点における短期間の風況計測データから、高精度に年間の風況の予測を可能とする風況予測装置および風況予測方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る風況予測装置の機能ブロック図である。
図2】本実施形態に係る高度と風速の関係を示すグラフである。
図3】本実施形態に係る風況予測処理のフローチャートである。
図4】本実施形態の変形例に係る風況予測処理のフローチャートである。
図5】本実施形態の変形例に係る風向・風速の出現頻度分布を示すローズマップである。
図6】本実施形態の変形例に係る風況予測処理のフローチャートである。
図7】本実施形態の変形例に係る風況予測処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪風況予測装置の概要≫
以下に本発明を実施するための形態(実施形態)における風況予測装置について説明する。風況予測装置は、予測対象地点における短期間の風況計測データから、地表付近の風況物理モデルに基づき、高度方向の風速の分布である風況プロファイルを取得する。次に風況予測装置は、この風況プロファイルに基づいて大域風況における風況プロファイルを補正して、年間の風況を予測する。
【0013】
風況プロファイルは地形により決定され、地形による影響は未観測期間であっても変化しない。このため、短期間の計測値から推定された風況プロファイルに基づく補正であっても、年間を通して有効となる。このため、風況の高精度な予測が可能となる。なお風況には、平均風速、風速・風向の出現率、風向別平均風速、風況プロファイルなどが含まれる。
【0014】
≪風況予測装置の全体構成≫
図1は、本実施形態に係る風況予測装置100の機能ブロック図である。風況予測装置100はコンピュータであり、制御部110、記憶部120、および入出力部180を備える。入出力部180には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。入出力部180が通信デバイスを備え、他の装置とのデータ送受信が可能であってもよい。また入出力部180にメディアドライブが接続され、記録媒体を用いたデータのやり取りが可能であってもよい。
【0015】
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびSSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部120には、大域風況データ130、局所風況データ140、およびプログラム121が記憶される。プログラム121は、後記する風況予測処理(図3参照)の手順の記述を含む。
【0016】
≪大域風況データ≫
大域風況データ130は、気象庁などの気象機関が発行するGPV(Grid Point Value)と呼ばれる気象データや、大域気象解析により得られる解析結果である。大域気象解析ではWRF(Weather Research and Forecasting model)などが使用され、数百m~数km単位の解像度で計算される。大域風況解析においても、境界条件や初期条件には気象機関が発行する気象データが使用されるが、その解像度は数km~数十kmである。
【0017】
≪局所風況データ≫
局所風況データ140は、予測対象地点の近傍において風況計測器やドップラーライダなどによって計測されたデータ、地形の起伏を考慮した局所風況解析によって計算されたデータなどである。風況の計測のためには、高さ数十mの棒状の構造物に風速や風向などを計測するセンサを取り付けた風況計測器が用いられる。他にレーザなどが大気中のエアロゾルから反射することを利用して風速や風向を計測するドップラーライダなどが用いられる。これらの計測機器は予測対象地点の高度方向およびその近傍の風況を計測可能である。
【0018】
なお大域風況データ130は年単位の長期間(第2の期間)のデータであるのに対して、局所風況データ140は例えば数日から数カ月の短期間(第1の期間)の観測に基づいたデータである。また局所風況データ140は、年単位の長期間にわたり観測されていたが、機器の不調などにより一部データが欠損し、使用可能なデータが短期間となっている場合もある。
【0019】
局所風況解析では、国土地理院などの機関が発行する、標高が数m~数十m単位の解像度で記録された局所地形データと、GPVなどの大域気象データとを解析条件とした数値流体解析などの手法が用いられる。数値流体解析を行うときには、予測対象地点の局所的な地形の変化によって生じる風況の変化を把握可能な解像度で3次元の計算格子が生成される。
【0020】
局所風況解析において、初期条件や境界条件は大域風況データから決定される。この時、大域風況データの値そのものを使ってもよいし、何らかの処理がされた値を使用してもよい。例えば大域風況データ130の計算格子において、予測対象地点に最も近い格子点のデータを使用してもよいし、近傍の格子点の平均値を使用してもよいし、境界条件を位置によって変化させてもよい。また、データの期間を限定してもよい。
局所風況解析は、定常状態を解析する手法であってもよいし、時間変化も把握する非定常解析であってもよい。このようにして得られた局所風況データは、大域風況データには含まれない、予測対象地点における地表近傍の風況の詳細な変化を含んでいる。
【0021】
≪制御部≫
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、データ取得部111、関数取得部112、および風況予測部113が備わる。データ取得部111は、大域風況データおよび予測対象地点の局所風況データを取得して、大域風況データ130および局所風況データ140にそれぞれ格納する。
【0022】
≪制御部:関数取得部≫
関数取得部112は、大域風況データ130や局所風況データ140から風況を示す関数を取得する。例えば関数取得部112は、風向別に風況プロファイル(高度方向の風速の分布)を示す関数を取得する。以下では、風況プロファイルを示す関数を風況プロファイル関数とも記す。また、大域風況データ130から取得した風況プロファイル関数を大域風況プロファイル関数(大域風況関数)、局所風況データ140から取得した風況プロファイル関数を局所風況プロファイル関数(局所風況関数)とも記す。
【0023】
図2は、本実施形態に係る高度と風速の関係を示すグラフ210である。地表に近づくにつれ減速し、高度が高くなるほど風速が増加していることがわかる。高度と風速について、理論的には例えば対数則と呼ばれる関係がある。詳しくは、風速は高度を周辺の地表面粗度で割った対数と、風の乱れの強さを示すパラメータである摩擦速度とに比例する(後記する式(1)参照)。また、高度についてはゼロ面変位を考慮してもよい(後記する式(2)参照)。この他に気温を含む関数であってもよい。
【0024】
風速=比例係数×摩擦速度×ln(高度/地表粗度) (1)
風速=比例係数×摩擦速度×ln((高度-ゼロ面変位)/地表粗度) (2)
【0025】
式(1)、式(2)に示したように対数則に従う場合の風況プロファイル(風況プロファイル関数)は、摩擦速度や地表粗度、ゼロ面変位、気温というパラメータを含んだ対数関数で示されるが、べき乗関数や多項式関数など他の関数で示されてもよい。または風況プロファイル関数は、統計的手法を用いて、高度に対する風速の分布を示す関数(写像)であってもよい。他にも風況プロファイル関数は、ニューラルネットワークを含む機械学習技術のような複数の数式を組み合わせて算出されるような関数(写像)であってもよい。
【0026】
関数取得部112が取得する風況プロファイル関数は、上記したような摩擦速度、地表粗度、ゼロ面変位、気温などのパラメータの他にObukhov長、熱流束などのパラメータ、またはこれらのパラメータから決定されるパラメータを含む。これらのパラメータには、予測対象地点の局所的な地形、特に風上側の地形によって決定される、ないしは地形の影響が大きいパラメータがある。このようなパラメータは、予測対象地点に固有のものである。例えば、地表粗度やゼロ面変位は風上側の地形によって決まる。
【0027】
関数取得部112は、局所風況データ140から予測対象地点における風況プロファイル関数の種別(対数関数、多項式関数、ニューラルネットワークなど)と、この種別に応じた局所的な(近傍の)地形によって決まるパラメータとを風向別に取得することになる。また関数取得部112は、大域風況データ130から予測対象地点の近傍における風況プロファイル関数の種別と、この種別に応じたパラメータとを風向別に取得する。
【0028】
≪制御部:風況予測部≫
風況予測部113は、大域風況データ130の風況を示す関数を、局所風況データ140の風況を示す関数を用いて補正して、予測対象地点における年間の風況を算出する。例えば風況予測部113は、大域風況プロファイル関数を、局所風況プロファイル関数に含まれ、予測対象地点近傍の地形によって決まるパラメータを用いて補正する。
【0029】
例えば風況プロファイル関数が式(2)の形で示された場合に風況予測部113は、大域風況データ130から求めた地表粗度とゼロ面変位とを、局所風況データ140から求めた地表粗度とゼロ面変位とに置き換えることで大域風況プロファイル関数を補正する。この補正された大域風況プロファイル関数を用いて風況予測部113は、予測対象地点における年間の風況(風速)を算出する。換言すれば、局所風況プロファイル関数(局所風況関数)に含まれるパラメータを用いて大域風況プロファイル関数(大域風況関数)を補正し、補正された大域風況プロファイル関数を用いて予測対象地点の風況(年間の風況)を予測する。
【0030】
≪風況予測処理≫
図3は、本実施形態に係る風況予測処理のフローチャートである。
ステップS11において風況予測部113は、大域風況データ130および局所風況データ140を風向ごとに分ける。風向の区分の幅は、例えば所定の角度(30°や22.5°など)である。
【0031】
ステップS12において風況予測部113は、ステップS11で分けた風向ごとにステップS13,S14を繰り返す処理を開始する。
ステップS13において関数取得部112は、大域風況データ130および局所風況データ140の風況プロファイル関数を取得する。関数取得部112は例えば、関数として対数関数を選択し、パラメータとして比例係数、摩擦速度、地表粗度、およびゼロ面変位を算出する。
【0032】
ステップS14において風況予測部113は、大域風況プロファイル関数を補正する。風況予測部113は例えば、大域風況プロファイル関数に含まれる地表粗度およびゼロ面変位を、局所風況プロファイル関数に含まれる地表粗度およびゼロ面変位で置き換える。なお地表粗度およびゼロ面変位は、予測対象地点の風上側の地形によって決まるパラメータである。
ステップS15において風況予測部113は、ステップS14で補正された大域風況プロファイル関数を用いて風況を予測する。
【0033】
≪風況予測装置の特徴≫
大域気象解析では、解析対象地域を数百m~数kmのメッシュ(格子)で区切って、格子の交点上や中心点上における風速や風向などのデータが得られる。予測対象地点は格子の交点や中心点とは限らない。また予測対象地点周辺では、数百m~数kmの格子では解像できない地形の変化が含まれる場合があり、地表高度の変化がある。このため大域風況データ130のみによる風況の予測では誤差が大きい。
【0034】
風況予測装置100は、大域風況プロファイル関数を、局所風況プロファイル関数を用いて補正して、予測対象地点の風況を予測する。例えば風況予測装置100は、大域風況プロファイル関数に含まれるパラメータの一部を、局所風況プロファイル関数のパラメータであって地形によって決まるパラメータで置き換えて補正する。
仮に短期間の局所風況データであっても、局所風況プロファイル関数のパラメータは地形を反映しているため、高精度に年間の風況を予測することができるようになる。
【0035】
≪変形例:風向・風速の出現頻度を考慮した補正その1≫
上記した実施形態では、大域風況プロファイル関数に含まれるパラメータを、局所風況プロファイル関数に含まれるパラメータで置き換えている。単純にパラメータを置き換えるのではなく、風向や風速の出現頻度を基にパラメータを算出して置き換えるようにしてもよい。
【0036】
図4は、本実施形態の変形例に係る風況予測処理のフローチャートである。
ステップS21は、ステップS11(図3参照)と同様である。
ステップS22において風況予測部113は、風向ごとの出現頻度に基づいて大域風況プロファイル関数の摩擦速度を算出する。詳しくは、風況予測部113は局所風況プロファイル関数の風向別の摩擦速度を、大域風況データ130から得られる風向ごとの出現頻度で重み付けして、大域風況プロファイル関数の摩擦速度とする。換言すれば大域風況プロファイルの摩擦速度は、Σを風向についての和として式(3)で算出される。
【0037】
大域風況プロファイルの摩擦速度
= Σ(大域風況データから得られる風向ごとの出現頻度
× 局所風況プロファイル関数の風向別の摩擦速度) (3)
【0038】
ステップS23~S26は、ステップS12~S15とそれぞれ同様である。但しステップS25における補正された大域風況プロフィル関数の摩擦速度はステップS22で算出された摩擦速度である。
【0039】
上記した実施形態では、摩擦速度の補正は行っていない。これに対して変形例では、地形に応じた摩擦速度を用いており、予測の精度が向上する。
【0040】
≪変形例:風向・風速の出現頻度を考慮した補正その2≫
図4に記載の風況予測処理では、大域風況データ130から得られる風向の出現頻度に基に補正している。大域風況データ130から得られる風向別の風速の出現頻度を基に補正するようにしてもよい。
【0041】
図5は、本実施形態の変形例に係る風向・風速の出現頻度分布を示すローズマップ220である。ローズマップ220では風向は30°ごとに区切られ、風速はハッチングの濃い方から薄い方に5m/sごとに5つに区切られている。ローズマップ220は、90°から180°方向の風の頻度が高く、このなかで10~20m/sの風速の頻度が高いことを示している。
【0042】
図6は、本実施形態の変形例に係る風況予測処理のフローチャートである。ステップS31~S33,S35は、図3記載のS11~S13,S15とそれぞれ同様である。
ステップS34において風況予測部113は、大域風況プロファイル関数を補正する。風況予測部113は、大域風況プロファイル関数に含まれる地表粗度およびゼロ面変位を、局所風況プロファイル関数に含まれる地表粗度およびゼロ面変位で置き換える。さらに風況予測部113は、局所風況プロファイル関数に含まれる風速別の摩擦速度を、大域風況データから得られる風速の出現頻度で重み付けした摩擦速度を算出し、この摩擦速度で大域風況プロファイル関数に含まれる摩擦速度を置き換えて補正する。換言すれば大域風況プロファイルの摩擦速度は、Σを風速についての和として式(4)で算出される。なおこの補正は、ステップS33~S34の風向ごと繰り返し処理に対応して風向別に行われる。
【0043】
風向別の大域風況プロファイルの摩擦速度
= Σ(大域風況データから得られる風向別における風速の出現頻度
× 局所風況プロファイル関数の風向別における風速別の摩擦速度)(4)
【0044】
上記した実施形態では、摩擦速度の補正は行っていない。これに対して変形例では、地形に応じた摩擦速度を用いており、予測の精度が向上する。
【0045】
≪変形例:気温を考慮した補正≫
上記した実施形態や変形例では、風況予測部113は風向ごとに大域風況プロファイル関数を補正しているが、風向に加えて気温(気温区分)ごとに補正するようにしてもよい。
【0046】
図7は、本実施形態の変形例に係る風況予測処理のフローチャートである。
ステップS41において風況予測部113は、大域風況データ130および局所風況データ140を風向ごと気温ごとに分ける。気温は地表の気温で分けたり、地表付近の高度方向の分布で分けたりする。
ステップS42において風況予測部113は、ステップS41で分けた風向ごと気温ごとにステップS43,S44を繰り返す処理を開始する。
【0047】
ステップS43において関数取得部112は、大域風況データ130および局所風況データ140の風況プロファイル関数を決定する。関数取得部112は例えば、関数として対数関数を選択し、パラメータとして用いて比例係数、摩擦速度、地表粗度、およびゼロ面変位を算出する。
ステップS44において風況予測部113は、大域風況プロファイル関数を補正する。風況予測部113は例えば、大域風況プロファイル関数に含まれる地表粗度およびゼロ面変位を、局所風況プロファイル関数に含まれる地表粗度およびゼロ面変位で置き換える。
【0048】
上記した実施形態では、風向別にパラメータの補正を行っている。これに対して変形例では、風向別・気温別にパラメータの補正を行っており、予測の精度が向上する。
【0049】
≪その他の変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
100 風況予測装置
112 関数取得部
113 風況予測部
130 大域風況データ
140 局所風況データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7