(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250115BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20250115BHJP
B60W 30/06 20060101ALI20250115BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20250115BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20250115BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20250115BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B60W30/06
B62D119:00
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
(21)【出願番号】P 2021137991
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 康佑
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】石野 嵩人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031294(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/230307(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0391789(US,A1)
【文献】特開2007-145207(JP,A)
【文献】特開2007-326415(JP,A)
【文献】特開2019-069665(JP,A)
【文献】特許第5994868(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B60W 30/06
B62D 119/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 117/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作される操作部材と、付勢力を発生させて前記操作部材を付勢する付勢装置と、車輪を転舵する転舵装置と、それら付勢装置と転舵装置とを制御するコントローラとを備えて車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、
前記コントローラが、
通常作動において、前記操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現させるとともに、前記付勢力を前記操作部材の操作に対する操作反力として機能させ、
前記操作部材の操作に依らずに車輪を転舵する自動転舵作動において、車輪の転舵に応じた前記操作部材の動作を前記付勢力によって実現させるとともに、前記通常作動における前記付勢力の少なくとも一部を発生させないように構成され
、
前記付勢力が、複数の成分を含み、その複数の成分のうちの1つが、車輪の転舵に応じて前記操作部材を積極的に動作させるための積極動作成分であり、
前記コントローラが、
前記積極動作成分を、前記自動転舵作動においてのみ発生させ、前記複数の成分のうちの前記積極動作成分を除くものの少なくとも一部である自動転舵時非発生成分を、前記自動転舵作動において発生させないように構成され、かつ、
前記自動転舵作動において、前記自動転舵時非発生成分のうちの少なくとも一部の成分を維持させたまま、その少なくとも一部の成分を相殺するための成分を前記積極動作成分に加えることで、その少なくとも一部の成分を発生させないように構成されたステアリングシステム。
【請求項2】
前記コントローラが、
前記自動転舵作動の終了時点において、前記少なくとも一部の成分を相殺するための成分を、前記少なくとも一部の成分とともに、即断させるように構成された
請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記少なくとも一部の成分が、車輪の転舵に対する前記転舵装置の負荷に基づく転舵負荷依拠成分を含み、その転舵負荷依拠成分が、前記転舵装置の実際の負荷に基づく実負荷依拠成分を含み、その実負荷依拠成分が、前記転舵装置の駆動源である転舵モータへの供給電流に基づいて決定される請求項1または請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記自動転舵作動が、車両が自動駐車する際に行われる当該ステアリングシステムの作動である
請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記コントローラが、
前記積極動作成分を、前記自動転舵作動の開始時に漸増させ、前記自動転舵作動の終了時に漸減させるように構成された
請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項6】
前記コントローラが、
前記自動転舵時非発生成分を、前記自動転舵作動の開始時に漸減させるように構成された
請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、運転者がステアリングホイール等の操作部材に加える操作力に依らずに、駆動源を有する転舵装置によって、操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現するステアリングシステム、すなわち、いわゆるステアバイワイヤ型のステアリングシステムの開発が進められている。ステアバイワイヤ型のステアリングシステムでは、操作部材の操作に対する反力である操作反力を操作部材に付与するために、反力付与装置、すなわち、付勢力を発生させて操作部材を付勢する付勢装置が設けられる。操作反力を付与するための付勢力として、例えば、下記特許文献に記載されているように、付勢装置は、いくつかの成分からなる付勢力を発生させ、状況に応じて、その成分の比率を変更することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアリングシステムにおいて、例えば、車両を自動駐車させる場合等、操作部材を操作することなく自動で車輪を転舵するような作動、すなわち、自動転舵作動が行われることがある。ステアバイワイヤ型のステアリングシステムでは、転舵される車輪と操作部材とが機械的に連結されていないため、自動転舵作動において、車輪の転舵に応じた操作部材の動作を実現させるために、上記付勢装置の付勢力を利用することが可能である。しかしながら、上記付勢装置は、本来、操作反力を付与すべく付勢力を発生させるための装置であるため、上述したいくつかの成分からなる付勢力を発生させると、自動転舵作動において、車輪の転舵に応じた適正な操作部材の動作が行われないことも予測される。言い換えれば、操作部材が不自然に動作する可能性もあるのである。そのような操作部材の動作は、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムの実用性を低下させることにもなりかねない。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアバイワイヤ型のステアリングシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、
運転者によって操作される操作部材と、付勢力を発生させて前記操作部材を付勢する付勢装置と、車輪を転舵する転舵装置と、それら付勢装置と転舵装置とを制御するコントローラとを備えて車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、 前記コントローラが、
通常作動において、前記操作部材の操作に応じた車輪の転舵を実現させるとともに、前記付勢力を前記操作部材の操作に対する操作反力として機能させ、
前記操作部材の操作に依らずに車輪を転舵する自動転舵作動において、車輪の転舵に応じた前記操作部材の動作を前記付勢力によって実現させるとともに、前記通常作動における前記付勢力の少なくとも一部を発生させないように構成され、
前記付勢力が、複数の成分を含み、その複数の成分のうちの1つが、車輪の転舵に応じて前記操作部材を積極的に動作させるための積極動作成分であり、
前記コントローラが、
前記積極動作成分を、前記自動転舵作動においてのみ発生させ、前記複数の成分のうちの前記積極動作成分を除くものの少なくとも一部である自動転舵時非発生成分を、前記自動転舵作動において発生させないように構成され、かつ、
前記自動転舵作動において、前記自動転舵時非発生成分のうちの少なくとも一部の成分を維持させたまま、その少なくとも一部の成分を相殺するための成分を前記積極動作成分に加えることで、その少なくとも一部の成分を発生させないように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のステアバイワイヤ型のステアリングシステムによれば、自動転舵作動において、通常作動において操作反力として機能させられていた付勢装置による付勢力の少なくとも1つの成分が発生させられなくなるため、車輪の転舵に応じた適切な操作部材の動作が担保されることになる。
【発明の態様】
【0007】
本発明のステアリングシステムにおける自動転舵作動は、その適用が特に限定されるものではないが、当該車両が、運転者の操作部材の操作に依らずに車輪が自動的に転舵される自動駐車に対して、好適である。また、当該車両の生産工場等の事業所内において、当該車両を自動走行させることによって搬送すること(以下、「自動走行搬送」という場合がある)も検討されており、本発明のステアリングシステムにおける自動転舵作動は、この自動走行搬送に対しても、好適である。
【0008】
先に述べたように、付勢力は、種々の成分からなるものとすることができる。通常作動の場合、例えば、付勢力を、運転者による操作部材の操作をアシストするためのアシスト成分,運転者に与える操作部材の操作感を補償するための補償成分,車輪の転舵に対する転舵装置の負荷に基づく転舵負荷依拠成分を含むようにすることができる。
【0009】
補足すれば、アシスト成分は、いわゆるパワーステアリングにおけるアシスト力に似た成分であり、例えば、運転者が操作部材に加える操作力が大きい程大きくなるような成分とすることができる。
【0010】
補償成分は、例えば、操作部材を車両が直進する際の操作位置(以下、「中立位置」という場合がある)に復帰,維持させる成分である戻り補償成分,操作部材の操作における機械的な摩擦によるヒステリシス特性を模倣するためのヒステリシス補償成分,操作部材に生じる微振動を粘性的に抑制するためのダンピング補償成分,操作部材の操作開始時の引っ掛かり感や操作終わりの流れ感を抑制するための慣性補償成分等を含ませることができる。
【0011】
転舵負荷依拠成分は、操作反力の中心的な成分と考えることができ、車輪を転舵するために必要な力である転舵力を運転者に体感させるための成分である。転舵負荷依拠成分は、いわゆる標準的なステアリングシステムにおいて左右の車輪を連結する転舵ロッド(「ラックバー」と呼ばれることもある)に作用する軸力に基づく成分と考えることができる。上記転舵力のみならず、車輪に路面から作用する力を、広く含んだ概念である。転舵負荷依拠成分は、先に説明したアシスト成分とは、概ね、力の作用する方向が逆方向となる。簡単に言えば、アシスト成分は、操作部材の操作方向と同じ方向に作用し、転舵負荷依拠成分は、操作部材の操作方向とは反対の方向に作用する。
【0012】
転舵負荷依拠成分は、操作部材の操作量や車輪の転舵量に基づく理論上の成分である理論成分,転舵装置が駆動源として電動モータを有する場合におけるその電動モータへの供給電流に基づいて求めることができる実際の負荷を示す実負荷依拠成分,転舵エンドを感じさせるための転舵エンド依拠成分,転舵装置のヒステリシス特性に基づく転舵ヒステリシス依拠成分等、いくつかの成分を含ませることができる。
【0013】
以上述べた成分は、通常作動において発生させることができる成分であるが、それに対して、自動転舵作動においては、車輪の転舵に応じた操作部材の動作を実現させるために、車輪の転舵に応じて操作部材を積極的に動作させるための成分として、積極動作成分を発生させることができる。この積極動作成分が、自動転舵作動における主たる付勢力となることが望ましい。そのことに鑑みれば、操作反力を構成する上記アシスト成分,補償成分,転舵負荷依拠成分等は、自動転舵作動における操作部材の適正な動作を阻害する可能性があるため、それらの成分の少なくとも一部、言い換えれば、積極動作成分を除く全ての成分のうちの少なくとも一部を、「自動転舵時非発生成分」として、自動転舵作動において発生させないことが望ましいのである。
【0014】
積極動作成分は、例えば、車輪の転舵量に基づいて、その転舵量に応じた操作部材の操作量を、目標操作量として決定し、その目標操作量に対する実際の操作量の偏差に基づいて、フィードバック制御則に従って決定すればよい。
【0015】
積極動作成分は、自動転舵作動においてのみ発生させる場合、その発生の有無によって、操作部材が急激に動作することが予想される。そのことに鑑みれば、積極動作成分は、自動転舵作動の開始時に漸増させ、通常動作への復帰時、つまり、自動転舵作動の終了時に漸減させることが望ましい。一方で、自動転舵作動の開始時において、自動転舵時非発生成分を急変させると、その急変によって、操作部材が急激に動作することが予想される。そのことを考慮すれば、自動転舵作動の開始時には、自動転舵時非発生成分を漸減させることが望ましい。
【0016】
自動転舵時非発生成分の少なくとも一部を自動転舵作動において発生させない態様として、例えば、自動転舵作動において、自動転舵時非発生成分のうちの少なくとも一部の成分を維持させたまま、その少なくとも一部の成分を相殺するための成分(以下、「相殺成分」という場合がある)を積極動作成分に加えるようにすることもできる。より具体的な態様について説明すれば、自動転舵時非発生成分は、操作部材の動作に対して、つまり、操作部材の動く向きに対して、積極動作成分と同方向に作用する成分である同方向成分と、積極動作成分とは反対方向に作用する成分である反対方向成分とに区分することができる。自動転舵作動において反対方向成分を発生させないようにする場合、例えば、その反対方向成分と同じ大きさの成分を積極動作成分に加えることで、その反対方向成分を相殺することが可能である。
【0017】
上記相殺成分を加える態様では、自動転舵作動の終了時に、その相殺成分を、相殺される少なくとも一部の成分とともに、即断、言い換えれば、急減させることで、その少なくとも一部の成分の残存による自動転舵作動の終了時の操作部材の不適切な動作を充分に軽減若しくは防止することが可能である。相殺される少なくとも一部の成分が、上記反対方向成分である場合には、自動転舵作動の終了時には、その反対方向成分を、上記同じ大きさの成分とともに、即断、言い換えれば、急減させることで、その反対方向成分の残存による自動転舵作動の終了時の操作部材の不適切な動作を充分に軽減若しくは防止することが可能である。上述の転舵負荷依拠成分は、反対方向成分であり、自動転舵作動が終了しても残存する蓋然性が高く、転舵負荷依拠成分を即断することによるメリットは大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のステアリングシステムのハード構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明のステアリングシステムのコントローラの機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】コントローラの機能構成に含まれる第1~第3切換器を示すブロック図である。
【
図4】通常作動と自動転舵作動とのそれぞれにおける操作部材への付勢力の各種成分の発生の有無を示す表である。
【
図5】通常作動と自動転舵作動との間の切換りにおける操作部材への付勢力およびそれのいくつかの成分の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例であるステアバイワイヤ型のステアリングシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0020】
[A]ステアリングシステムのハード構成
実施例のステアリングシステムは、
図1に模式的に示すように、ステアバイワイヤ型のステアリングシステムであり、大まかには、運転者によって操作される操作部材であるステアリングホイール10とそのステアリングホイール10に操作反力を付与するための反力アクチュエータ12とを有する操作部14と、車輪16を転舵する転舵装置としての転舵アクチュエータ18を有する転舵部20と、反力アクチュエータ12と転舵アクチュエータ18とを制御するコントローラとしてのステアリング電子制御ユニット(以下、「ステアリングECU」と略す場合がある)22とを含んで構成されている。
【0021】
操作部14について説明すれば、ステアリングホイール10は、ステアリングシャフト30の先端部に固定されており、反力アクチュエータ12は、力源としての反力モータ32と、反力モータ32のモータ軸に取付けられたウォーム34とウォームホイール36とからなる減速機構38とを有しており、ウォームホイール36がステアリングシャフト30に取付けられている。反力アクチュエータ12は、反力モータ32のモータトルクに依存する付勢トルク(「付勢力」の下位概念である)TqCを発生させ、その付勢トルクによって、ステアリングシャフト30を介してステアリングホイール10を付勢する付勢装置であり、その付勢トルクTqCを、ステアリングホイール10の操作に対する反力トルク(「操作反力」の下位概念である)TqCとして機能させることで、反力付与装置として機能する。なお、付勢トルクTqCは、主に反力トルクとして機能することから、以下、本明細書では、反力トルクTqCと呼ぶ場合があることとする。
【0022】
反力モータ32は、3相のブラシレスモータであり、その反力モータ32のモータ軸の回転位相、簡単に言えば、反力モータ32の回転角(以下、「反力モータ回転角」と呼ぶ場合がある)θMCを検出するためのモータ回転角センサ40を有している。また、ステアリングシャフト30は、上下2つのシャフト部がトーションバー42を介して連結された構造とされており、操作部14には、そのトーションバー42の捩じれ量を検出することで、運転者がステアリングホイール10に加える操作トルク(「操作力」の下位概念である)TqOを検出する操作トルクセンサ44が設けられている。モータ回転角センサ40によって検出された反力モータ回転角θMCの信号、および、操作トルクセンサ44によって検出された操作トルクTqOについての信号は、ステアリングECU22に送られる。
【0023】
転舵部20について説明すれば、転舵アクチュエータ18は、左右に延びる転舵ロッド50と、その転舵ロッド50を左右に移動可能に保持するハウジング52とを有している。転舵ロッド50には、ボールねじ機構を構成するねじ溝54が形成されており、このねじ溝54と螺合するようにして、ベアリングボールを保持するナット56がハウジング52に回転可能かつ左右に移動不能に保持されている。ハウジング52には、駆動源としての転舵モータ58が配設されており、転舵モータ58のモータ軸に取付けられたプーリ60と、もう1つのプーリとして機能するナット56の外周部とに、タイミングベルト62が巻き掛けられている。転舵モータ58のモータ軸の回転、すなわち、転舵モータ58の回転によって、ナット56が回転し、転舵ロッド50が左右に移動する。転舵ロッド50の左右の端部は、図示を省略するリングロッドを介して、左右の車輪16をそれぞれ回転可能に保持するステアリングナックルのナックルアームに、それぞれ、連結されている。転舵ロッド50の左右への移動に伴って、左右の車輪16は、転向、すなわち、転舵されることになる。
【0024】
転舵ロッド50には、ラック64が形成されており、そのラック64と噛合する状態でピニオン軸66がハウジング52に回転可能に保持されている。それらラック64,ピニオン軸66は、ステアバイワイヤ型の本ステアリングシステムを構成する転舵アクチュエータ18には、敢えて設ける必要がない。容易に理解できるように、ピニオン軸66と、操作部14のステアリングシャフト30とを連結させれば、一般的なパワーステアリングシステムが実現されることになる。つまり、本ステアリングシステムは、一般的なパワーステアリングシステムを、多少の構造の変更によって構築されているのである。なお、転舵ロッド50は、ラック64が形成されていることにちなんで、ラックバーと呼ぶこともできる。
【0025】
転舵モータ58は、3相のブラシレスモータであり、その転舵モータ58のモータ軸の回転位相、簡単に言えば、転舵モータ58の回転角(以下、「転舵モータ回転角」と呼ぶ場合がある)θMSを検出するためのモータ回転角センサ68を有している。モータ回転角センサ68によって検出された転舵モータ回転角θMSの信号は、ステアリングECU22に送られる。
【0026】
ステアリングECU22は、CPU,ROM,RAM等によって構成されるコンピュータと、反力モータ32の駆動回路であるインバータと、転舵モータ58の駆動回路であるインバータとを含んで構成されている。後に詳しく説明するが、本ステアリングシステムは、当該車両が自動駐車させられる際に、運転者のステアリングホイール10の操作に依らずに車輪16が自動的に転舵される自動転舵作動を実行する。この自動転舵作動を実行するために、ステアリングECU22は、自動駐車コントローラ70に接続されている。また、ステアリングECU22は、当該車両の走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)vを検出するための車速センサ72から、その車速vに関する信号を入手する。
【0027】
[B]コントローラの機能
本ステアリングシステムのコントローラであるステアリングECU22は、
図2に示す機能ブロック図に示すような機能構成を有している。この機能構成は、コンピュータが所定のプログラムを実行することによって実現されるが、ASIC等の専用回路によって実現されてもよい。ステアリングECU22は、大まかには、反力制御部100と、転舵制御部102との区分けすることができる。図に示す各構成要素に入力される、若しくは、各構成要素から出力させるものは、それらの多くが、トルク,それの成分,転舵角,操作角等の値を示す信号であるが、説明が冗長となることに考慮して、以下の説明では、各構成要素に、若しくは、各構成要素から、単に、トルク,それの成分,転舵角,操作角等が入力若しくは出力されると表現することとする。
【0028】
(a)反力制御部
反力制御部100は、付勢装置である反力アクチュエータ12による付勢トルクTqC(反力トルクTqC)を制御する機能部であり、それぞれが付勢トルクTqCの成分であるアシスト成分TqC-A,補償成分TqC-C,積極動作成分TqC-M,転舵負荷依拠成分TqC-Lを、それぞれ決定するアシスト成分決定部104,補償成分決定部106,積極動作成分決定部108,転舵負荷依拠成分決定部110を有している。
【0029】
本ステアリングシステムの制御では、ステアリングホイール10の操作量としての操作角θOが用いられるため、反力制御部100は、反力モータ32のモータ回転角センサ40によって検出された反力モータ回転角θMCを操作角θOに換算する操作角換算部112を有している。操作角θOと、反力モータ回転角θMCの積算量とは、減速機構38の減速比に応じた関係にあるため、その減速比に基づいて換算が行われる。詳しい説明は省略するが、本ステアリングシステムは、ステアリングホイール10の中立位置(車両が直進している状態における位置)からの操作角θOを検出するためのセンサ(図示省略)を有しており、そのセンサの検出値に基づいて、操作角換算部112によって換算される操作角θOのキャリブレーションが、所定のタイミングで実行される。
【0030】
また、反力制御部100は、自動転舵作動を行うために、車輪16の転舵量としての転舵角θSと操作角θOとが特定ステアリングギヤ比γ0となる状態における現時点での転舵角θSに応じた操作角θOを、目標操作角θO
*として決定する目標操作角決定部114を有している。
【0031】
上述した付勢トルクTqCの各成分の決定について、順に説明すれば、アシスト成分TqC-Aは、いわゆるパワーステアリングにおけるアシスト力に似た成分であり、成分決定部104は、操作トルクセンサ44によって検出された操作トルクTqO,車速vに基づいて、アシスト成分TqC-Aを決定する。簡単に言えば、操作トルクTqOが大きい程大きい値に決定するとともに、車速vが高い場合には、ステアリングホイール10の操作に対して運転者が受ける操作感(以下、「ステアリング操作感」若しくは単に「操作感」という場合がある)を重くすべく、小さな値に、車速vが低い場合には、操作感を軽くすべく、大きな値に決定される。アシスト成分TqC-Aの向きは、ステアリングホイール10の操作の方向であるステアリング操作方向と同じ向きの成分となる。
【0032】
補償成分TqC-Cには、ステアリングホイール10を中立位置に復帰,維持させるための戻り補償成分,ステアリングホイール10の操作における機械的な摩擦によるヒステリシス特性を模倣するためのヒステリシス補償成分,ステアリングホイール10に生じる微振動を粘性的に抑制するためのダンピング補償成分,ステアリングホイール10の操作開始時の引っ掛かり感や操作終わりの流れ感を抑制するための慣性補償成分が含まれ、補償成分決定部106は、それらの成分を決定し、それら決定された成分を足し合わせて補償成分TqC-Cを決定する。
【0033】
具体的には、戻り補償成分は、操作トルクTqO,車速v,操作角θO,その操作角θOを微分して得られる操作速度θO’に基づいて決定され、端的に言えば、操作角θOが中立位置から離れた値になる程大きな値に決定される。ヒステリシス補償成分は、操作角θO,車速vに基づいて、上記ヒステリシス特性が最適化されるように決定される。ダンピング補償成分は、車速v,操作角θOを微分して得られる操作速度θO’に基づいて、端的に言えば、操作速度θO’が高い程大きな値に決定される。慣性補償成分は、車速v,操作速度θO’をさらに微分して得られる操作加速度θO”に基づいて、端的に言えば、操作加速度θO”が高い程大きな値に決定される。それら成分を足し合わせた補償成分TqC-Cの向きは、ステアリング操作方向に対して同方向にも反対方向にもなり得る。
【0034】
転舵負荷依拠成分TqC-Lは、反力トルクの中心的な成分と考えることができ、大まかに言えば、車輪16を転舵するために必要な力である転舵力を運転者に体感させるための成分である。転舵アクチュエータ18の転舵ロッド50にそれの軸方向に作用する力(軸力)に基づく成分と考えることもでき、上記転舵力のみならず、車輪16に路面から作用する力をも、広く体感させるための成分である。転舵負荷依拠成分TqC-Lは、概ね、ステアリング操作方向とは反対方向の成分である。
【0035】
詳しく言えば、転舵負荷依拠成分TqC-Lには、ステアリングホイール10の操作角θOや車輪の転舵角θS等に基づく理論上の成分である理論成分,転舵アクチュエータ18の実際の負荷に基づく実負荷依拠成分,車輪16の転舵エンドを体感させるためのエンド依拠成分,転舵アクチュエータ18の機械的摩擦のヒステリシス特性に基づく転舵ヒステリシス依拠成分が含まれ、転舵負荷依拠成分決定部110は、それらの成分を決定し、それら決定された成分を足し合わせて転舵負荷依拠成分TqC-Lを決定する。
【0036】
具体的には、理論成分は、路面と車輪16との摩擦を考慮しない成分であり、車輪16が転舵されるべき転舵角θSである目標転舵角θS
*に基づいて、簡単に言えば、車輪16のセルフアライニングトルクを考慮して、目標転舵角θS
*が大きい程,車速vが高い程、大きな値に決定される。実負荷依拠成分は、転舵アクチュエータ18の負荷が転舵モータ58への供給電流である転舵電流ISに比例すると考えることができることから、その転舵電流ISに基づいて、その転舵電流ISが大きい程大きな値に決定される。エンド依拠成分は、目標転舵角θS
*に基づき、その目標転舵角θS
*が転舵エンドにある程度近づいたときに、急勾配で立ち上がるように決定される。転舵ヒステリシス依拠成分は、操作角θO,車速vに基づき、ヒステリシス特性が最適化されるように決定される。
【0037】
積極動作成分TqC-Mは、車輪16を積極的に転舵するための成分であり、本ステアリングシステムでは、当該車両が自動駐車を行う際の自動転舵作動に対応した成分である。積極動作成分決定部108は、上述の目標操作角決定部114によって決定された目標操作角θO
*に対する現時点の操作角θOの偏差である操作角偏差ΔθOに基づいて、フィードバック制御則に従って、積極動作成分TqC-Mを決定する。具体的には、比例制御、すなわち、操作角偏差ΔθOの大きさに応じた大きさの成分として決定される。つまり、操作角偏差ΔθOが大きい程、大きな値に決定される。なお、積極動作成分TqC-Mは、ステアリングホイール10が動作させられる方向と同じ方向の成分であり、概ね、アシスト成分TqC-Aに対する同方向成分と、転舵負荷依拠成分TqC-Lに対する反対方向成分となる。
【0038】
アシスト成分決定部104によって決定されたアシスト成分TqC-Aは、加算器116に入力され、補償成分決定部106によって決定された補償成分TqC-Cは、第1切換器118を介して、加算器116に入力される。積極動作成分決定部108によって決定された積極動作成分TqC-Mは、第2切換器120を介して、予備加算器122に入力され、転舵負荷依拠成分決定部110によって決定された転舵負荷依拠成分TqC-Lは、第3切換器124を介して、予備加算器122に入力される。予備加算器122では、入力された積極動作成分TqC-Mと転舵負荷依拠成分TqC-Lとが足し合わされ、その足し合わされた成分が、加算器116に入力される。加算器116では、入力されたアシスト成分TqC-A,補償成分TqC-C,積極動作成分TqC-Mと転舵負荷依拠成分TqC-Lとが足し合わされたものが合計され、その合計された成分が最終加算器126に入力される。転舵負荷依拠成分決定部110によって決定された転舵負荷依拠成分TqC-Lは、第3切換器124を介して、最終加算器126にも入力される。最終加算器126では、加算器116から入力された成分から、第3切換器124から入力された転舵負荷依拠成分TqC-Lが減算され、その結果、付勢トルクTqCが決定される。第1切換器118,第2切換器120,第3切換器124は、簡単に言えば、通常作動と自動転舵作動との切換りにおいて、成分の発生の有無を切り換えるための機能部である。
【0039】
第1切換器118は、
図3(a)に示すような機能構成を有している。具体的に説明すれば、第1切換器118は、作動モード判定器128,ゲイン切換スイッチ130,双方向変化量制限器132,乗算器134を含んで構成されている。作動モード判定器128には、自動駐車コントローラ70から、自動転舵フラグASFのフラグ値と、操作トルクセンサ44によって検出された操作トルクTq
Oとが入力される。自動転舵フラグASFは、自動転舵が指示されている場合にフラグ値が“1”とされ(以下、「ASF=“1”」という場合がある)、自動転舵が指示されていない場合にフラグ値が“0”とされる(以下、「ASF=“0”」という場合がある)。作動モード判定器128は、ASF=“1”であり、かつ、操作トルクTq
Oが閾操作トルクTq
Oー
TH未満である、すなわち、ステアリングホイール10が運転者によって操作されていないという2つの条件が充足した場合に、当該ステアリングシステムの作動が自動転舵作動であると判定し、それら2つの条件のうちの少なくともいずれかが充足しない場合に、当該ステアリングシステムの作動が通常作動であると判定する。
【0040】
ゲイン切換スイッチ130は、作動モード判定器128による判定に基づき、自動転舵作動である場合に1を、通常作動である場合に0を、それぞれ出力する。双方向変化量制限器132は、ゲインGの1から0への切換り、0から1への切換りにおいて、値の急変を防止する。具体的には、所定の時間ピッチ経過後のゲインGの値が、経過前の値よりも所定値以上変化した場合に、そのゲインGの変化をその所定値とする。双方向変化量制限器132を経たゲインGは、乗算器134に入力される。乗算器134には、補償成分決定部106によって決定された補償成分TqC-Cも入力され、その乗算器134において、ゲインGが補償成分TqC-Cに乗算され、その乗算された補償成分TqC-Cが、第1切換器118から出力される。
【0041】
第2切換器120は、
図3(b)に示すような機能構成を有している。具体的に説明すれば、第2切換器120は、第1切換器118と同様の、作動モード判定器128,双方向変化量制限器132,乗算器134を含んで構成されている。第2切換器120も、ゲイン切換スイッチ136を有しているが、このゲイン切換スイッチ136は、第1切換器118のゲイン切換スイッチ130と異なり、自動転舵作動である場合に0を、通常作動である場合に1を、それぞれ出力する。積極動作成分決定部108によって決定された積極動作成分Tq
C-Mは、この第2切換器120による処理を経て、この第2切換器120から出力される。
【0042】
第3切換器124は、
図3(c)に示すような機能構成を有している。具体的に説明すれば、第3切換器124は、第1切換器118と同様の作動モード判定器128,乗算器134、第2切換器120と同様のゲイン切換スイッチ136を含んで構成されている。第3切換器124も、変化量制限器を有しているが、第3切換器124が有する増加方向変化量制限器138は、ゲインGの0から1への切換りにおいて、値の急変を防止するものの、ゲインGの1から0への切換りにおいては、値の急変を許容するものとされている。
【0043】
第3切換器124は、さらに、リセッタ140を有している。このリセッタ140には、転舵負荷依拠成分決定部110によって決定された転舵負荷依拠成分TqC-Lと、自動転舵フラグASFのフラグ値とが入力される。リセッタ140は、ASF=“0”となったときに、つまり、自動転舵が指示されなくなったときに、転舵負荷依拠成分TqC-Lを、一旦、0にリセットし、その後の通常作動が開始される際に、転舵負荷依拠成分TqC-Lを、0から漸増させる。リセッタ140からは、当該リセッタ140による処理がなされた転舵負荷依拠成分TqC-Lが、乗算器134の他に、直接、最終加算器126に出力される。
【0044】
最終加算器126から出力される付勢トルクTqCは、反力通電制御部142に入力される。反力通電制御部142は、反力モータ32の駆動回路(ドライバ)であるインバータを含んで構成されている。反力通電制御部142は、入力された付勢トルクTqCに基づいて、反力モータ32に供給すべき電流である反力電流ICを決定し、その反力電流ICを、インバータから反力モータ32に供給する。
【0045】
(b)転舵制御部
転舵制御部102は、転舵装置である転舵アクチュエータ18によって転舵される車輪16の転舵角θSを制御する機能部であり、目標転舵角決定部150,目標転舵角切換スイッチ152,転舵トルク決定部154,転舵通電制御部156を有している。
【0046】
本ステアリングシステムの制御では、車輪16の転舵量として、転舵角θSが用いられるため、転舵制御部102は、転舵モータ58のモータ回転角センサ68によって検出された転舵モータ回転角θMSを転舵角θSに換算する転舵角換算部158を有している。ちなみに、転舵角θSは、車輪16のトー角を採用してもよいが、本ステアリングシステムの制御では、上記ピニオン軸66の回転角を採用している。転舵角θSと、転舵モータ回転角θMSの積算量とは、所定の減速比、詳しくは、転舵モータ58が含有する減速機,転舵アクチュエータ18のボールねじ機構のリード角,ピニオン軸66の径等によって決まる減速比に応じた関係にあるため、その減速比に基づいて換算が行われる。詳しい説明は省略するが、本ステアリングシステムは、車輪16が直進状態にあるときのピニオン軸66の回転位置からの回転角を検出するためのセンサ(図示省略)を有しており、そのセンサの検出値に基づいて、転舵角換算部158によって換算される転舵角θSのキャリブレーションが、所定のタイミングで実行される。
【0047】
目標転舵角決定部150は、反力制御部100の操作角換算部112によって換算された操作角θOに基づいて、転舵角θSの制御目標である目標転舵角θS
*を決定する。本ステアリングシステムは、ステアリングギヤ比γ、すなわち、転舵角θSの操作角θOに対する比を、車速vに応じて変更可能なシステムであり、目標転舵角決定部150は、操作角θOと車速vとに基づいて、格納されているマップデータを参照して、目標転舵角θS
*を決定する。ちなみに、ステアリングギヤ比γを変更する手法については、一般的なものであり、ここでの説明は省略する。
【0048】
目標転舵角決定部150によって決定される目標転舵角θS
*は、通常作動において採用されるが、先に説明した自動転舵作動においては、目標転舵角θS
*は、自動駐車コントローラ70から送られてくる信号に基づいた目標転舵角θS
*が採用される。目標転舵角切換スイッチ152は、その採用する目標転舵角θS
*を切り換えるためのスイッチである。詳しい説明は省略するが、目標転舵角切換スイッチ152は、反力制御部100の第1切換器118が有する作動モード判定器128と同様の判定器を有し、その判定器による判定に従って、採用する目標転舵角θS
*を切り換える。
【0049】
転舵トルク決定部154は、車輪16を転舵するために必要な転舵トルクTqSを決定する機能部である。転舵トルクTqSは、例えば、転舵モータ58が発生させるべきトルクと考えることができる。具体的には、転舵角換算部158によって換算された現時点での実際の転舵角θSと、目標転舵角θS
*とに基づいて、目標転舵角θS
*に対する転舵角θSの偏差である転舵角偏差ΔθSを決定し、その転舵角偏差ΔθSに基づくPIDフィードバック制御則に従って、転舵トルクTqSを決定する。このフィードバック制御則に従う手法は、一般的なものであり、ここでの説明は省略する。
【0050】
転舵通電制御部156は、転舵モータ58の駆動回路(ドライバ)であるインバータを含んで構成されている。転舵通電制御部156は、決定された転舵トルクTqSに基づいて、転舵モータ58に供給すべき電流である転舵電流ISを決定し、その転舵電流ISを、インバータから転舵モータ58に供給する。なお、ステアリングECU22は、供給される転舵電流ISを検出するための電流センサ160を有しており、この電流センサ160によって検出された転舵電流ISは、上述の転舵負荷依拠成分TqC-Lの決定に用いられる。
【0051】
[C]通常作動と自動転舵作動とにおける付勢力とその切換
上述のような機能構成を有するステアリングECU22、詳しくは、それの反力制御部100によって、付勢トルクTqCは制御される。先に説明したように、本ステアリングシステムは、通常作動と、自動駐車における自動転舵作動とで、作動モードが切り換えられ、その切換に伴って、付勢トルクTqCも切り換えられる。
【0052】
詳しく説明すれば、上記の第1切換器118,第2切換器120,第3切換器124、および、予備加算器122,加算器116,最終加算器126の作用により、大まかには、
図4の表に示すように、通常作動と自動転舵作動とで、付勢トルクTq
Cの各成分であるアシスト成分Tq
C-A,補償成分Tq
C-C,積極動作成分Tq
C-M,転舵負荷依拠成分Tq
C-Lの発生の有無が切り換えられる。具体的には、アシスト成分Tq
C-Aは、通常作動と自動転舵作動とのいずれでも発生させられるが、補償成分Tq
C-C,転舵負荷依拠成分Tq
C-Lは、通常作動では発生させられるものの、自動転舵作動では発生させられず、逆に、積極動作成分Tq
C-Mは、通常作動では発生させられず、自動転舵作動において発生させられる。
【0053】
特別に説明したいことは、転舵負荷依拠成分TqC-Lは、自動転舵時非発生成分の少なくとも一部であり、積極動作成分TqC-Mに対する反対方向成分である。この転舵負荷依拠成分TqC-Lは、自動転舵作動において、単に、発生させられないのではなく、通常作動において最終加算器126に入力される転舵負荷依拠成分TqC-Lが、予備加算器122を介して、積極動作成分TqC-Mと一緒に加算器116に加えられることで、転舵負荷依拠成分TqC-Lが相殺され、その結果、転舵負荷依拠成分TqC-Lが発生させられくなることである。
【0054】
図4の表から解るように、通常作動においては、アシスト成分Tq
C-A,補償成分Tq
C-C,転舵負荷依拠成分Tq
C-Lによって、付勢トルクTq
Cが、運転者のステアリングホイール10の操作に対する反力トルクTq
Cとして、好適に機能する。それに対して、自動転舵作動においては、積極動作成分Tq
C-Mを含む付勢トルクTq
Cによって、車輪16の転舵角θ
Sに応じた操作角θ
Oとなるように、ステアリングホイール10が適切に動作させられる。そして、補償成分Tq
C-C,転舵負荷依拠成分Tq
C-Lが発生させられないことで、そのステアリングホイール10の適切な動作が阻害させられない。逆に言えば、補償成分Tq
C-C,転舵負荷依拠成分Tq
C-Lによるステアリングホイール10の不適切な動作が防止されることになる。なお、自動転舵作動において、アシスト成分Tq
C-Aは残存するが、アシスト成分Tq
C-Aは、運転者がステアリングホイール10に加える操作トルクTq
Oに基づく成分であり、運転者のステアリングホイール10の操作を前提としない自動転舵作動においては、アシスト成分Tq
C-Aは、ステアリングホイール10の動作に殆ど悪影響を与えない。総括すれば、本ステアリングシステムでは、積極動作成分Tq
C-Mを、自動転舵作動においてのみ発生させ、付勢トルクTq
Cの複数の成分のうち積極動作成分Tq
C-Mを除くものの少なくとも一部を、自動転舵時非発生成分として、自動転舵作動において発生させないように構成されているのである。
【0055】
また、第1切換器118,第2切換器120の双方向変化量制限器132の作用によって、通常作動から自動転舵作動への切換りの際、すなわち、自動転舵作動の開始時に、積極動作成分TqC-Mが、漸増させられ、補償成分TqC-Cが漸減させられる。同様に、自動転舵作動から通常作動への切換りの際、すなわち、自動転舵作動の終了時に、積極動作成分TqC-Mが、漸減させられ、補償成分TqC-Cが漸増させられる。それらによって、それらの切換りにおいて、付勢トルクTqCの急変によるステアリングホイール10の急激な動作が防止若しくは抑制される。
【0056】
さらに言えば、第3切換器124の増加方向変化量制限器138の作用により、通常作動から自動転舵作動への切換りの際、すなわち、自動転舵作動の開始時に、補償成分Tq
C-Cと同様に、上述した相殺のために予備加算器122に入力される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lが漸増させられる。それに対して、第3切換器124のリセッタ140の作用により、自動転舵作動から通常作動への切換りの際、すなわち、自動転舵作動の終了時には、相殺のために予備加算器122に入力される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lも、最終加算器126に入力される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lも、即断、すなわち、0にリセットされる。端的に示せば、時間tの経過に対する最終加算器126および予備加算器122のそれぞれに入力される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lの変化,積極動作成分Tq
C-Mの変化,それらの成分を合計した合計付勢トルクTq
Cの変化は、
図5のグラフのようになる。ちなみに、最終加算器126に入力される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lは、反対方向成分であることが解りやすいように、負の値で示している。また、自動転舵作動における積極動作成分Tq
C-Mは、ステアリングホイール10を動作させるのに必要充分な値とされており、転舵負荷依拠成分決定部110で決定される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lは、自動転舵作動の終了時点でも、相当の値が残存しているものとなっている。
【0057】
図5のグラフを参照しつつ説明すれば、自動転舵作動において、転舵負荷依拠成分Tq
C-Lは、先に説明したように、相殺され、その転舵負荷依拠成分Tq
C-Lの変化は、積極動作成分Tq
C-Mによるステアリングホイール10の動作に、悪影響を与えない。転舵負荷依拠成分決定部110で決定される転舵負荷依拠成分Tq
C-Lは、例えば、自動駐車において車輪16が中立位置に位置させられたとしても、タイヤの変形等によって、何某か残存する可能性が高い。その残存する成分によって、自動転舵作動から通常作動に切換ったときに、ステアリングホイール10に、不要な、つまり、不適切な動作が生じる虞がある。本ステアリングシステムでは、自動転舵作動の終了時に、転舵負荷依拠成分Tq
C-Lを0にリセットするため、転舵負荷依拠成分Tq
C-Lの残存による上記不要な動作は生じない。なお、自動転舵作動中に、上記相殺によって、付勢トルクTq
Cにおける転舵負荷依拠成分Tq
C-Lを0にしていることから、自動転舵作動の終了時に転舵負荷依拠成分Tq
C-Lをいきなり0にリセットしても、そのリセットが、付勢トルクTq
Cに影響を与えないのである。
【符号の説明】
【0058】
10:ステアリングホイール〔操作部材〕 12:反力アクチュエータ〔付勢装置〕 14:操作部 16:車輪 18:転舵アクチュエータ〔転舵装置〕 20:転舵部 22:ステアリング電子制御ユニット(ステアリングECU)〔コントローラ〕 32:反力モータ 40:モータ回転角センサ 44:操作トルクセンサ 50:転舵ロッド 58:転舵モータ 68:モータ回転角センサ 70:自動駐車コントローラ 72:車速センサ 100:反力制御部 102:転舵制御部 104:アシスト成分決定部 106:補償成分決定部 108:積極動作成分決定部 110:転舵負荷依拠成分決定部 112:操作角換算部 114:目標操作角決定部 116:加算器 118:第1切換器 120:第2切換器 122:予備加算器 124:第3切換器 126:最終加算器 128:作動モード判定器 130:ゲイン切換スイッチ 132:双方向変化量制限器 134:乗算器 136:ゲイン切換スイッチ 138:増加方向変化量制限器 140:リセッタ 142:反力通電制御部 150:目標転舵角決定部 152:目標転舵角切換スイッチ 154:転舵トルク決定部 156:転舵通電制御部 158:転舵角換算部 160:電流センサ