(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】プラットフォーム構造
(51)【国際特許分類】
E04H 12/00 20060101AFI20250115BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20250115BHJP
B63B 25/18 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
E04H12/00 Z
F03D13/25
B63B25/18 Z
(21)【出願番号】P 2021191344
(22)【出願日】2021-11-25
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】中島 与博
(72)【発明者】
【氏名】浅香 康弘
(72)【発明者】
【氏名】島田 龍市
(72)【発明者】
【氏名】蒲田 幸穂
(72)【発明者】
【氏名】長崎 耕欣
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-503056(JP,A)
【文献】特開2017-161392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0268260(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 12/00
F03D 1/00 - 80/80
B63B 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上構造物の脚部に設けられたプラットフォーム構造であって、
前記脚部の外周面から海水面上方で側方に張出すように構築されたフレームと、
前記フレーム上に載置され敷設された板状のグレーチングと、
前記グレーチングと前記フレームとを繋ぐ索体と、を備え、
前記フレームから上方に浮く方向の前記グレーチングの変位幅が、前記索体によって当該索体の長さに対応する幅に規制されている、プラットフォーム構造。
【請求項2】
洋上構造物の脚部に設けられたプラットフォーム構造であって、
前記脚部の外周面から海水面上方で側方に張出すように構築されたフレームと、
前記フレーム上に載置され敷設された板状のグレーチングと、
前記グレーチングを前記フレームに対してヒンジ接合し、前記フレームから上方に浮く方向の前記グレーチングの回動中心となるヒンジ接合部と、を備える、プラットフォーム構造。
【請求項3】
前記ヒンジ接合部の他の箇所において前記グレーチングと前記フレームとを繋ぐ索体を更に備え、
前記フレームから上方に浮く方向の前記グレーチングの回動範囲が、前記索体によって当該索体の長さに対応する回動範囲に規制されている、請求項2に記載のプラットフォーム構造。
【請求項4】
前記グレーチングを前記フレームに締結するとともに前記グレーチングに対して上向きの所定の力が作用したときに破断する脆弱部が設けられた脆弱ボルトを更に備える、請求項1~3の何れか1項に記載のプラットフォーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラットフォーム構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に記載の洋上風力発電機が知られている。この種の洋上構造物では、海上の船舶からの作業者のアクセス経路や、資材の搬入・搬出・仮置き等の目的で、当該洋上構造物の脚部に外部プラットフォームが設けられる。外部プラットフォーム上には例えば資材用のダビットクレーンが設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような外部プラットフォームは、洋上構造物の脚部から側方に向けて海水面上空に張出すように設けられる。この構造に起因して、外部プラットフォームには、海水面から脚部の外周面に沿って遡上する波が下方から衝突し、外部プラットフォームの床板を下から上に押し上げるような力が作用する場合がある。このような遡上波から作用する力が強い場合には、床板が飛ばされ海に落下するなどして失われる虞がある。
【0005】
本発明は、洋上構造物の外部プラットフォームの床板が波によって失われる可能性を低減するプラットフォーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラットフォーム構造は、洋上構造物の脚部に設けられたプラットフォーム構造であって、脚部の外周面から海水面上方で側方に張出すように構築されたフレームと、フレーム上に載置され敷設された板状のグレーチングと、グレーチングとフレームとを繋ぐ索体と、を備え、フレームから上方に浮く方向のグレーチングの変位幅が、索体によって当該索体の長さに対応する幅に規制されている。
【0007】
本発明のプラットフォーム構造は、洋上構造物の脚部に設けられたプラットフォーム構造であって、脚部の外周面から海水面上方で側方に張出すように構築されたフレームと、フレーム上に載置され敷設された板状のグレーチングと、グレーチングをフレームに対してヒンジ接合し、フレームから上方に浮く方向のグレーチングの回動中心となるヒンジ接合部と、を備える。
【0008】
本発明のプラットフォーム構造は、ヒンジ接合部の他の箇所においてグレーチングとフレームとを繋ぐ索体を更に備え、フレームから上方に浮く方向のグレーチングの回動範囲が、索体によって当該索体の長さに対応する回動範囲に規制されている、こととしてもよい。
【0009】
本発明のプラットフォーム構造は、グレーチングをフレームに締結するとともにグレーチングに対して上向きの所定の力が作用したときに破断する脆弱部が設けられた脆弱ボルトを更に備える、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、洋上構造物の外部プラットフォームの床板が波によって失われる可能性を低減するプラットフォーム構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のプラットフォーム構造が適用される風力発電機の正面図である。
【
図2】風力発電機のプラットフォーム近傍を拡大して示す斜視図である。
【
図3】外部プラットフォームの通路部を示す断面図である。
【
図4】
図3の外部プラットフォームの平面図である。
【
図5】(a)は、通路部におけるボルト締結部の分解斜視図であり、(b)は、ボルト締結部に用いられるボルトの側面図である。
【
図6】通路部におけるワイヤー接続部近傍を下方から見た状態を示す斜視図である。
【
図7】(a)は、本実施形態の通路部のグレーチングが遡上波を受けた状態を示す断面図であり、(b)は、変形例に係る通路部のグレーチングが遡上波を受けた状態を示す断面図であり、(c)は、他の変形例に係る通路部のグレーチングが遡上波を受けた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明に係るプラットフォーム構造の実施形態について詳細に説明する。以下の説明において同一又は相当する要素には図面で同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0013】
図1は、本実施形態のプラットフォーム構造が適用される洋上構造物の一例として、風力発電機1を示す正面図である。図に示されるように、風力発電機1は、例えば、海底Bに設けられており、洋上風力発電を行う。但し、風力発電機1は、海洋に限られず、例えば、湖又は河川等に設けられていてもよい。風力発電機1は、海底Bから海水面上に突出して鉛直に延びる脚部41と、脚部41の上端部に取付けられた発電機本体42と、を備えている。
【0014】
発電機本体42は、ナセル5と、ナセル5に取り付けられたブレード6と、を備える。ナセル5の内部には発電機及び増速器等が収容されており、例えば、増速器からはローター軸がナセル5の外部に突出している。ブレード6は、ナセル5のローター軸に固定されている。風力発電機1は、例えば、3枚のブレード6を備える。ブレード6が風を受けて回転すると、この回転はナセル5の内部の増幅器により一定の回転数に上げられて、この回転運動はナセル5の内部の発電機によって電力に変換される。例えば、ナセル5は、風向風速計を備えており、風速及び風向に対応してローターの向きとブレード6の角度を制御することにより、効率的な発電を行う。
【0015】
脚部41は、海底Bに打設されたモノパイルである基礎2と、基礎2の上方に接続されたトランジションピース3と、トランジションピース3の更に上方に接続されたタワー4と、を備える。基礎2、トランジションピース3、及びタワー4の各本体部は、概ね円形断面をなし互いに同軸で鉛直方向に配置されている。なお、基礎2は、モノパイルの基礎形式に代えて、トリパイル式の洋上風力基礎、又はジャケット式の洋上風力基礎を備えていてもよく、基礎の形式は特に限定されない。
【0016】
基礎2の上端部は海水面下の高さに位置しテーパー形状をなしている。トランジションピース3の下端部は基礎2の上端部のテーパー形状に対応する円錐内側面を有しており、この下端部が基礎2の上端部に被せられるようにして、トランジションピース3が基礎2上に設置されている。施工時には、基礎2上でトランジションピース3の鉛直度が調整された上で、トランジションピース3の下端部と基礎2の上端部との間にグラウトが充填される。このグラウトを介して基礎2とトランジションピース3とが接合(グラウト接合)されており、トランジションピース3の鉛直度が確保され、ひいては風力発電機1の鉛直度が確保されている。タワー4は、例えばコンクリート製又は鋼製の鉛直柱であり、トランジションピース3の上端部にボルト接合されている。
【0017】
図2は、トランジションピース3とタワー4とのボルト接合部近傍を拡大して示す斜視図である。
図2に示されるように、トランジションピース3の内部には風力発電機1の運転や管理を行うための複数層の内部プラットフォーム9が設けられている。内部プラットフォーム9同士の間は、梯子等を介して作業者が移動可能である。更にトランジションピース3の上端部には、外周面3aから外側に水平に張出した外部プラットフォーム10が設けられている。また、トランジションピース3にボルト接合されたタワー4の下端部には、タワー4の内部に出入りするための出入口11が設けられている。風力発電機1の運転管理を行う作業者は、海水面近傍の着船部51(
図1)に接舷された船舶から梯子で外部プラットフォーム10に移動する。そして作業者は、出入口11のドアを開けてタワー4の内部に入り、更に内部の梯子等を通じて内部プラットフォーム9にアクセスすることができる。外部プラットフォーム10は、上記のように作業員のアクセス経路の他、資材の搬入、搬出、仮置き等の目的でも使用され、例えばダビットクレーン(図示せず)が外部プラットフォーム10上に設置される。
【0018】
続いて、外部プラットフォーム10について更に詳細に説明する。前述の通り、外部プラットフォーム10は、洋上風力発電機1のトランジションピース3の外周面3aから海水面Wの上方で側方に張出すように設けられている。なお、ここで「海水面W」とは平均海水面を意味する。外部プラットフォーム10の床には、水捌けを良くし水溜まりの発生等を防ぐために、平板状のグレーチング(格子板)が床板として採用され、グレーチングの下面の大部分は海水面W側に直接露出する。このようなグレーチングが隙間無く複数敷き詰められることで外部プラットフォーム10の床が構成されている。
【0019】
以下では、外部プラットフォーム10のうち、比較的幅が狭い通路部10A(
図2)の構造を一例として説明する。
図3は、通路部10Aを示す断面図であり、トランジションピース3の径方向が図の左右方向であり、周方向が図の紙面直交方向である。
図4は通路部10Aの平面図である。以下において単に「径方向」、「周方向」と言うときには、トランジションピース3の径方向、周方向を意味するものとする。
【0020】
外部プラットフォーム10の通路部10Aは、外周面3aから海水面上方で側方に張出すように構築されたフレーム55と、フレーム55上に載置され敷設された複数の板状のグレーチング57と、を備えている。ここでは、海洋環境下での腐食を避けるために、GRP(ガラス繊維強化プラスチック)製のGRPグレーチングが、上記グレーチング57として採用される。フレーム55は、外周面3aの外周側でトランジションピース3と同心で周方向に延びる2本の梁59,61と、梁61の外周面に取付けられ上方に立ち上がる手摺63と、梁59と梁61とを繋ぐように径方向に延びる複数の梁65と、を有している。梁59,61,65は角形鋼管で構成されている。トランジションピース3の外周面3aからはフレーム55を下から支持するための支持梁67が周方向に間隔を開けて径方向に延び出すように設けられている。この支持梁67の上面に梁59の下面が当接されるようにして、フレーム55がトランジションピース3に支持される。なお、支持梁67と梁59とは、所定のボルト等を用いて連結される。
【0021】
梁59,61,65の上面は面一に形成されており、これらの上面に当接するようにグレーチング57が載置されている。グレーチング57は平面視扇形をなしており、グレーチング57の径方向の幅は、概ね通路部10Aの幅と同じである。このグレーチング57が周方向にほぼ隙間無く敷設されることで通路部10Aの床が構成されている。グレーチング57は、外周面3aと手摺63とで径方向に挟まれることで、径方向への変位が規制されている。梁59と梁61とは径方向に間隔をあけて配置され、梁65同士は周方向に間隔をあけて配置されている。これらの梁同士の間隔を通じてグレーチング57の下面が鉛直下方の海水面W側に露出している。
【0022】
図4に示されるように、通路部10Aでは、グレーチング57をフレーム55にボルト締結するボルト締結部77が設けられている。1枚のグレーチング57は、5つのボルト締結部77によってフレーム55に固定されている。このうち4つのボルト締結部77は、周方向に隣接する2枚のグレーチング57の境界を跨ぐように配置され、当該2枚のグレーチング57の締結に関与している。他の1つのボルト締結部77は、グレーチング57の周方向中央部において梁59上に設けられている。
【0023】
この周方向中央部のボルト締結部77は、
図5(a)に示されるように、梁59の上面に溶接されたボルト受け部77eと、グレーチング57の上面に設置される締結プレート77bと、締結プレート77b及びグレーチング57を貫通してボルト受け部77eに螺着されるボルト77aと、を有している。グレーチング57の上面には、締結プレート77bを埋込むための窪み77cとボルト受け部77eを挿入するための貫通穴77dとが設けられている。また、ボルト77aの頭は皿ボルトの円錐形頭部の構成を有しており、締結プレート77bの上面にはボルト77aの頭が埋込まれる円錐形のざぐり孔が形成されている。これらの構成により、ボルト締結部77では締結プレート77bやボルト77aがグレーチング57の表面から突出しないようになっている。
【0024】
ボルト77aは意図的に破断しやすいように製作された脆弱ボルトが採用されており、ボルト77aには、軸方向の引張力によって比較的破断し易い脆弱部が設けられている。具体的には、
図5(b)に示されるように、ボルト77aには、頭部78aとねじ部78cとの間にねじ部78cよりも小径の括れ部78bが上記脆弱部として形成されている。ボルト77aの軸方向に過剰な引張力が作用すると、括れ部78bが破断しボルト77aが締結力を喪失する。このようなボルト77aは、市販の皿ボルトに切削加工で括れ部78bを形成することで製作してもよい。この構成によれば、グレーチング57に対して上向きの所定の力が作用したときにボルト77aが破断し、ボルト締結部77でのグレーチング57の固定が解除される。そして、5箇所のボルト締結部77の固定が解除されれば、グレーチング57は上向きの力により自重に逆らって上方に変位可能となる。
【0025】
また、通路部10Aでは、グレーチング57をフレーム55に対してヒンジ接合するヒンジ接合部75が設けられている。ヒンジ接合部75は、
図3及び
図4に示されるように、グレーチング57の外周側縁部と、梁61の上面と、接続している。ヒンジ接合部75のヒンジ軸は水平に延在し、グレーチング57の外周側縁部近傍で
図4における上下方向に延在している。仮にボルト締結部77が無ければ、グレーチング57はヒンジ接合部75を中心としてフレーム55から上方に浮く方向に(
図3における反時計回りに)回動可能である。
【0026】
更に、通路部10Aでは、グレーチング57とフレーム55とが索体で接続されている。具体的には、
図6に示されるように、グレーチング57とフレーム55とをワイヤー71cで接続するワイヤー接続部71が設けられている。ワイヤー接続部71は、1枚のグレーチング57に対して4箇所に設けられており、前述のヒンジ接合部75のヒンジ軸から離れた位置に配置されている。ワイヤー接続部71は、梁65の近傍においてグレーチング57の下面に取付けられた穴あきピース71aと、梁65の側面に例えば溶接等で固定された穴あきピース71bと、穴あきピース71a,71b同士を接続するワイヤー71cと、を備えている。
【0027】
ワイヤー71cは、穴あきピース71a,71b同士の間の距離よりも長く、弛んだ状態で穴あきピース71a,71b同士を接続している。従って、仮にボルト締結部77が無ければ、ワイヤー接続部71の位置では、ワイヤー71cが緊張するまでの高さを上限としてグレーチング57がフレーム55から上方に浮く方向に変位可能である。換言すれば、ワイヤー接続部71の位置では、フレーム55から上方に浮く方向のグレーチング57の変位幅が、ワイヤー71cの長さに対応する幅に規制されている。なお、このグレーチング57の変異幅は、例えば、浮き上がったグレーチング57が手摺63の高さを超えないように設定される。通路部10Aにおいては、1枚のグレーチング57に対して、前述のヒンジ接合部75のヒンジ軸から離れた位置に4箇所のワイヤー接続部71が設けられている。
【0028】
以上のような外部プラットフォーム10における作用効果について説明する。この外部プラットフォーム10の通路部10Aは、前述の通り、外周面3aから側方に張出しており、グレーチング57の床板の下面の大部分は海水面W側に直接露出している。この構造に起因して、グレーチング57に対しては、海水面Wからトランジションピース3の外周面3aに沿って遡上する波が下方から衝突する場合があり、この場合、グレーチング57を下から上に押し上げるような力が作用する。このような遡上波から作用する力が強い場合には、グレーチング57が損傷する、フレーム55にも損傷が及ぶ、グレーチング57が飛ばされ海に落下して失われる、といった問題が発生する虞がある。
【0029】
特に、この種の外部プラットフォーム10においては、グレーチング57の格子を抜けて外部プラットフォーム10の下方に物が落下するといったトラブルを抑制するために開口率が比較的小さいグレーチングが採用される場合がある。例えば本実施形態では、前述の通りGRPグレーチングが採用されているので、金属製のグレーチングに比較して開口率は比較的小さい。このような開口率が小さいグレーチング57にあっては遡上波からの大きい力が特に作用し易い。
【0030】
これに対して、本実施形態の外部プラットフォーム10では、遡上波による所定以上の強い力がグレーチング57に作用した場合、ボルト締結部77のボルト77aに過剰な引張力が作用し括れ部78bが破断する。5箇所すべてのボルト締結部77においてボルト77aが破断すると、
図7(a)に示されるように、ボルト締結部77によるグレーチング57の固定が解除される。そうすると、グレーチング57は遡上波の力によって、ワイヤー接続部71に許容される回動範囲内で、ヒンジ接合部75を中心として上方に浮き上がるように回動する。
【0031】
これにより、グレーチング57は、ほぼ鉛直な外周面3aに沿った遡上波を傾斜した姿勢で受けることになる。また、遡上波はグレーチング57と外周面3aとの隙間やグレーチング57同士の隙間を通り抜けやすくなる。従って、グレーチング57は遡上波の力を受け流すことができる。このようにグレーチング57が遡上波の力を受け流すことにより、グレーチング57の損傷やフレーム55に及ぶ損傷を抑制することができる。また、ヒンジ接合部75及びワイヤー接続部71においてグレーチング57がフレーム55に接続されているので、グレーチング57がフレーム55から分離する可能性は低く抑えられ、例えば、グレーチング57が海に落下して失われるといった可能性を低減することができる。
【0032】
また、ワイヤー接続部71の存在により、ヒンジ接合部75を中心としたグレーチング57の回動がワイヤー接続部71に許容される回動幅の範囲内で発生するので、グレーチング57の過剰な回動により手摺63等に衝突して損傷させる可能性を低減することができる。また、ボルト締結部77の存在により、上記のような強い遡上波がないときには、グレーチング57がフレーム55に安定して固定され、外部プラットフォーム10内で不用意にグレーチング57が動くことを回避することができる。このように、通常時にはグレーチング57が不用意に動かないようにボルト77aが破断せず、且つ、受け流すべき遡上波の力をグレーチング57が受けたときにはボルト77aが破断する、といった範囲でボルト77aの破断強度が設計される。
【0033】
ここで、遡上波で浮き上がったグレーチング57が手摺63に衝突することは仮に許容できるとしても、グレーチング57がトランジションピース3に衝突することは好ましくない。特に、前述したトランジションピース3とタワー4とのボルト接合部においては、トランジションピース3の上端のフランジ3bがタワー4下端のフランジに突き合わされて上下にボルト止めされている。従って、フランジ3bにはタワー4の固定に関連する多数のボルト(図示せず)が締結されており、フランジ3bは特に重要な部分である。このようなフランジ3bに対してグレーチング57が衝突することは特に好ましくない。
【0034】
これに対し、外部プラットフォーム10では、ヒンジ接合部75がグレーチング57の外周側縁部に設けられている。この構造によれば、
図7(a)に示されるように、グレーチング57は外周側縁部を中心として上向きに回動する。そして、この回動によってグレーチング57が仮に手摺63に干渉することはあっても、トランジションピース3には干渉せず、特にフランジ3bには干渉しない。よって上記構造によれば、遡上波に起因してグレーチング57がトランジションピース3に衝突すること、特にフランジ3bに衝突することが回避される。
【0035】
なお、外部プラットフォーム10においては、ボルト締結部77が省略されてもよい。この場合には、ボルト77aの破断の過程を経ずに、ヒンジ接合部75とワイヤー接続部71とによって遡上波を受け流すといった上記の作用効果が奏される。
【0036】
また、外部プラットフォーム10においては、ヒンジ接合部75が省略されてもよい。この場合、グレーチング57が強い遡上波を受けボルト77aが破断した後、
図7(b)に示されるように、ワイヤー接続部71に許容される範囲内(ワイヤー71cの長さに対応する範囲内)でグレーチング57が上方に浮き上がる。これにより、遡上波はグレーチング57と外周面3aとの隙間やグレーチング57同士の隙間を通り抜けやすくなるので、グレーチング57は遡上波の力を受け流すことができ、グレーチング57の損傷やフレーム55及ぶ損傷を抑制することができる。なお、このような作用効果を効率的に得るためには、1枚のグレーチング57に対してワイヤー接続部71が3箇所以上設けられることが好ましい。また、グレーチング57がフレーム55から分離する可能性は低く抑えられ、例えば、グレーチング57が海に落下して失われるといった可能性を低減することができる。この作用効果を効率的に得るために、ワイヤー接続部71(特にワイヤー71c)は、想定される遡上波の力では破断しない強度に設計される。またここでは、更にボルト締結部77が省略されてもよい。この場合、ボルト77aの破断の過程を経ずに上記の作用効果が奏される。
【0037】
なおここでは、4箇所のワイヤー接続部71におけるワイヤー71cの長さを互いに変えることで、各位置におけるグレーチング57の変異幅(浮き上がり幅)を互いに変えるようにしてもよい。この構成によれば、強い遡上波を受けて浮き上がったグレーチング57が傾斜した姿勢になり易い。そして、グレーチング57は、ほぼ鉛直な外周面3aに沿った遡上波を傾斜した姿勢で受けることになるので、遡上波の力がより効率的に受け流される。
【0038】
また、上記のとおり遡上波によるグレーチング57の変異幅はワイヤー71cの長さによって調整可能であるところ、4箇所のワイヤー接続部71におけるワイヤー71cの長さは、変位するグレーチング57がトランジションピース3(特にフランジ3b)に到達しないように調整されることが好ましい。これにより、遡上波に起因してグレーチング57がトランジションピース3に衝突すること、特にフランジ3bに衝突することが回避される。
【0039】
また、例えば、4箇所のうち外周側の2箇所のワイヤー接続部71のワイヤー71cが、内周側の2箇所のワイヤー接続部71のワイヤー71cよりも短くなるように調整されてもよい。この場合、ヒンジ接合部75(
図7(a)参照)を中心としたグレーチング57の回動と同様に、グレーチング57が
図7(b)における反時計回りに回動し傾斜するので、グレーチング57がトランジションピース3に衝突すること、特にフランジ3bに衝突することが回避される。
【0040】
また、外部プラットフォーム10においては、ワイヤー接続部71が省略されてもよい。この場合、グレーチング57が強い遡上波を受けボルト77aが破断した後、
図7(c)に示されるように、ヒンジ接合部75を中心としてグレーチング57が上方に浮き上がるように回動する。これにより、グレーチング57は、ほぼ鉛直な外周面3aに沿った遡上波を傾斜した姿勢で受けることになる。また、遡上波はグレーチング57と外周面3aとの隙間やグレーチング57同士の隙間を通り抜けやすくなる。従って、グレーチング57は遡上波の力を受け流すことができ、グレーチング57の損傷やフレーム55に及ぶ損傷を抑制することができる。また、グレーチング57がフレーム55から分離する可能性は低く抑えられ、例えば、グレーチング57が海に落下して失われるといった可能性を低減することができる。またここでは、更にボルト締結部77が省略されてもよい。この場合、ボルト77aの破断の過程を経ずに上記の作用効果が奏される。
【0041】
また、外部プラットフォーム10においては、ヒンジ接合部75とワイヤー接続部71とが省略されてもよい。この場合、ボルト締結部77により、通常時には不用意にグレーチング57が動くことを回避することができる。そして、グレーチング57が強い遡上波を受けたときには、ボルト77aが破断してグレーチング57が浮き上がることにより、グレーチング57の損傷やフレーム55の損傷を回避することができる。
【0042】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0043】
例えば、上記実施形態では、外部プラットフォーム10のうち比較的幅が狭い通路部10Aに本発明の構造が適用された例を説明しているが、本発明は外部プラットフォーム10の他の部分にも同様に適用可能である。但し、通路部10Aでは、グレーチング57が外周面3aに比較的近い位置に配置されているので、グレーチング57が強い遡上波を受ける可能性が高く、本発明の構造を適用する必要性が高い。また、上記実施形態では、本発明の着船部構造及び着船部補修方法を、洋上風力発電機1に適用した例を説明したが、本発明は他の洋上構造物にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…洋上風力発電機(洋上構造物)、3…トランジションピース、3a…外周面、10…外部プラットフォーム、41…脚部、55…フレーム、57…グレーチング、71c…ワイヤー、75…ヒンジ接合部、77a…ボルト(脆弱ボルト)、78b…括れ部(脆弱部)、W…海水面。