(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】二環式エノールエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 493/08 20060101AFI20250115BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20250115BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20250115BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
C07D493/08
B01J31/02 101Z
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021532085
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2020060236
(87)【国際公開番号】W WO2020212264
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-07
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】デニス ヤコビー
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ ガンダラ
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124867(JP,A)
【文献】特表2018-535982(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066898(WO,A1)
【文献】特公昭49-042482(JP,B1)
【文献】Org. Process Res. Dev.,2012年,16,1301-1306
【文献】Applied Catalysis A : General ,2003年,254,189-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01J
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
R
1は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C
1~5アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表し、R
2は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C
1~10アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表す]の化合物であって、その立体異性体またはそれらの混合物のいずれか1つの形態である化合物の製造方法において、前記方法は、
式(II)
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は、式(I)で定義されたものと同じ意味を有する]の化合物であって、その立体異性体のいずれか1つの形態である化合物の、水素源の存在下での、ルテニウム触媒を除く金属触媒
であって、式
[M(O)
m
(X)
n
] (IV)
[式中、
Mは、遷移金属または遷移後金属からなる群から選択される金属であり、mは、0、1または2であり、Xは、アニオン性リガンドを表し、nは、1~6の整数である]のものである金属触媒を用い
、かつ第3級アミン、第3級ホスフィン、置換されていてもよいフェノール、および置換されていてもよいビスフェノールからなる群から選択される助触媒の存在下での反応を含
み、前記方法は、移動水素化条件下での式(II)の化合物のワンポット還元および環化脱水型反応である、方法。
【請求項2】
R
1は、直鎖状または分岐状C
1~4アルカンジイル基を表す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
R
1は、直鎖状または分岐状C
2~3アルカンジイル基を表す、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
R
1は、1,2-プロパンジイル基または1,2-エタンジイル基を表す、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
R
2は、直鎖状または分岐状C
4~9アルカンジイル基を表す、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
R
2は、直鎖状または分岐状C
6~9アルカンジイル基を表す、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
R
2は、1,8-オクタンジイル基を表す、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物は、12-オキサビシクロ[6.3.1]ドデカ-8-エン、10-メチル-12-オキサビシクロ[6.3.1]ドデカ-8-エン、13-オキサビシクロ[7.3.1]トリデカ-9-エン、11-メチル-13-オキサビシクロ[7.3.1]トリデカ-9-エン、14-オキサビシクロ[8.3.1]テトラデカ-10-エン、12-メチル-14-オキサビシクロ[8.3.1]テトラデカ-10-エン、15-オキサビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-11-エン、13-メチル-15-オキサビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-11-エン、16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、14-メチル-16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、17-オキサビシクロ[11.3.1]ヘプタデカ-13-エン、および15-メチル-17-オキサビシクロ[11.3.1]ヘプタデカ-13-エンからなる群から選択することができる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
式(II)の化合物は、シクロウンデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロウンデカン-1,5-ジオン、シクロドデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロドデカン-1,5-ジオン、シクロトリデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロトリデカン-1,5-ジオン、シクロテトラデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロテトラデカン-1,5-ジオン、シクロペンタデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオン、シクロヘキサデカン-1,5-ジオン、および3-メチルシクロヘキサデカン-1,5-ジオンからなる群から選択することができる、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
Mは、アルミニウム、チタン、ジルコニウムおよびバナジウムからなる群から選択される、請求項
1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記金属触媒は、[Al(OR)
3]、[Al(OAc)
3]、[Al(acac)
3]、[Ti(OR)
4]、[Ti(O)(acac)
2]、[Zr(OR)
4]、[Zr(acac)
4]、[V(O)(acac)
2]、[V(acac)
3]、および[V(O)(OR)
3]からなる群から選択され、ここで、Rは、C
1~C
6アルキル基である、請求項1から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記水素源は、少なくとも1つの第2級アルコール官能基を含み、かつ80℃以上の沸点を有する炭化水素である、請求項1から
11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記水素源は、式
【化3】
[式中、
R
4およびR
5は、互いに独立して、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
1~10直鎖状アルキル基、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
2~10直鎖状アルケニル基、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
3~10分岐状もしくは環式アルキルもしくはアルケニル基、1~5個のC
1~3アルキルもしくはアルコキシ基、ヒドロキシ基もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基を表すか、またはR
4およびR
5は、一緒にされた場合、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
2~10直鎖状もしくは分岐状アルカンジイルもしくはアルケンジイルを表す]のものである、請求項1から
12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記水素源は、1-フェニルエタン-1-オール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、シクロヘキサノール、4-メチルペンタン-2-オール、シクロペンタノール、またはオクタン-2-オールである、請求項1から
13までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成の分野に関し、より具体的には、金属錯体によって触媒される式(I)の化合物の製造方法に関する。
【0002】
背景
式(I)の二環式エノールエーテル誘導体は、飽和または不飽和環式ケトンなどのより価値の高い化合物への典型的な中間体である。例えば、16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エンまたは14-メチル-16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エンは、例えばExaltenoneまたはMuscenone(登録商標)(Firmenich SAの商標)などの高く評価されている香料成分への重要な中間体である。これらの中間体は、数十年来、大環状ジオン、例えば1,5-シクロペンタデカンジオンまたは3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオンから、対応する大環状ジオール、例えば1,5-シクロペンタデカンジオールまたは3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオールへの二重還元と、それに続く脱水素および脱水による大環状エノールエーテルの形成により得られてきた。ジオン出発物質からの直接のエノールエーテル形成は、報告されていない。
【0003】
したがって、収率を向上させつつ、二環式エノールエーテルに向けたそのようなより直接的な手法を開発することがなおも求められている。
【0004】
本発明により、水素源として第2級アルコールを使用する移動水素化条件下で、式(II)の環式ジケトンから出発して式(I)の化合物を得ることができる。
【0005】
発明の概要
本発明は、対応するジオールの形成および単離工程を回避しながら、式(II)の化合物から出発する式(I)の化合物の製造を可能にする新規の方法に関する。
【0006】
したがって、本発明の主題は、式(I)
【化1】
[式中、
R
1は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C
1~5アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表し、R
2は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C
1~10アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表す]の化合物であって、その立体異性体またはそれらの混合物のいずれか1つの形態である化合物の製造方法において、前記方法は、
式(II)
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は、式(I)で定義されたものと同じ意味を有する]の化合物であって、その立体異性体のいずれか1つの形態である化合物の、水素源の存在下での、ルテニウム触媒を除く金属触媒を用いた反応を含む、方法である。
【0007】
発明の説明
驚くべきことに、式(I)の化合物は、移動水素化条件下での式(II)の化合物のワンポット還元および環化脱水型反応によって有利に製造できることが今や見出された。本発明の条件は、対応するジオールの困難な取り扱いを回避することを可能にし、部分還元(monoreduction)に対して高選択性である。本発明の方法によって、転化率を妥協することなく、高収率で二環式エノールエーテルが形成される。さらに、本発明の方法で使用される触媒系は再利用可能であり、水素化ホウ素などの有毒な試薬の使用を回避することができ、前述の変換をより持続可能なものにする。
【0008】
したがって、本発明の第1の主題は、式(I)
【化3】
[式中、
R
1は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C
1~5アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表し、R
2は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C
1~10アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表す]の化合物であって、その立体異性体またはそれらの混合物のいずれか1つの形態である化合物の製造方法において、前記方法は、
式(II)
【化4】
[式中、
R
1およびR
2は、式(I)で定義されたものと同じ意味を有する]の化合物であって、その立体異性体のいずれか1つの形態である化合物の、水素源の存在下での、ルテニウム触媒を除く金属触媒を用いた反応を含むかまたはこれからなる、方法である。
【0009】
本発明の任意の実施形態によれば、本発明の方法は、1ステッププロセスである。
【0010】
本発明の任意の実施形態によれば、本発明の方法は、完全転化プロセスである。
【0011】
「完全転化プロセス」とは、当技術分野における通常の意味を意味する。すなわち、本発明の方法は、式(II)の化合物の完全な変換まで行われる。
【0012】
本発明の任意の実施形態によれば、式(III)
【化5】
[式中、
R
1およびR
2は、式(I)で定義されたものと同じ意味を有する]の化合物であって、その立体異性体のいずれか1つの形態である化合物は形成されない。
【0013】
言い換えれば、本発明の方法により、式(III)の二重還元生成物を形成することなく、式(I)の化合物を1ステップで得ることができる。本発明の方法により、式(III)の望ましくない過剰水素化ジオールを形成することなく、主に式(I)の化合物を得ることができる。すなわち、本発明の方法は、高選択性である。
【0014】
本発明の任意の実施形態によれば、特定の態様とは無関係に、化合物(I)および対応する化合物(II)は、その立体異性体またはそれらの混合物のいずれか1つの形態であってよい。明確にするために述べると、立体異性体という用語は、任意のジアステレオ異性体、鏡像異性体、ラセミ体を意図している。
【0015】
実際に、化合物(I)または(II)は、異なる立体化学を有することができる少なくとも1つの立体中心を有することができる(すなわち、2つの立体中心が存在する場合、化合物(I)または(II)は、(R,R)または(R,S)配置を有することができる)。これらの立体中心はそれぞれ、相対配置もしくは絶対配置RもしくはS、またはそれらの混合物であってよく、言い換えれば、これらの式(II)または(I)の化合物は、純粋なエナンチオマーまたはジアステレオ異性体の形態であっても、立体異性体の混合物の形態であってもよい。
【0016】
本発明の上記の実施形態のいずれか1つによれば、式(II)の前記化合物は、C7~C20化合物である。
【0017】
本発明の上記の実施形態のいずれか1つによれば、化合物(I)は、式
【化6】
[式中、
R
2は、式(I)で定義されたものと同じ意味を有し、R
3は、水素原子またはメチル基を表す]の化合物であって、その立体異性体のいずれか1つの形態である化合物であってよい。
【0018】
本発明の上記の実施形態のいずれか1つによれば、化合物(II)は、式
【化7】
[式中、
R
2は、式(I)で定義されたものと同じ意味を有し、R
3は、水素原子またはメチル基を表す]の化合物であって、その立体異性体のいずれか1つの形態である化合物であってよい。
【0019】
本発明の任意の実施形態によれば、R1は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C1~5アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表す。好ましくは、R1は、直鎖状または分岐状C1~4アルカンジイル基を表す。好ましくは、R1は、直鎖状または分岐状C2~3アルカンジイル基を表す。さらにより好ましくは、R1は、1,2-プロパンジイル基または1,2-エタンジイル基を表す。さらにより好ましくは、R1は、1,2-プロパンジイル基を表す。
【0020】
本発明の任意の実施形態によれば、R2は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖状または分岐状C1~10アルカンジイルまたはアルケンジイル基を表す。好ましくは、R2は、直鎖状または分岐状C1~10アルカンジイル基を表す。好ましくは、R2は、直鎖状または分岐状C4~9アルカンジイル基を表す。好ましくは、R2は、直鎖状または分岐状C6~9アルカンジイル基を表す。さらにより好ましくは、R2は、1,8-オクタンジイル基を表す。
【0021】
本発明の任意の実施形態によれば、R3は、水素原子またはメチル基を表す。好ましくは、R3はメチル基を表すことができる。
【0022】
式(I)の適切な化合物の非限定的な例には、12-オキサビシクロ[6.3.1]ドデカ-8-エン、10-メチル-12-オキサビシクロ[6.3.1]ドデカ-8-エン、13-オキサビシクロ[7.3.1]トリデカ-9-エン、11-メチル-13-オキサビシクロ[7.3.1]トリデカ-9-エン、14-オキサビシクロ[8.3.1]テトラデカ-10-エン、12-メチル-14-オキサビシクロ[8.3.1]テトラデカ-10-エン、15-オキサビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-11-エン、13-メチル-15-オキサビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-11-エン、16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、14-メチル-16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、17-オキサビシクロ[11.3.1]ヘプタデカ-13-エン、または15-メチル-17-オキサビシクロ[11.3.1]ヘプタデカ-13-エンが含まれ得る。好ましくは、式(I)の化合物は、16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、14-メチル-16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、17-オキサビシクロ[11.3.1]ヘプタデカ-13-エン、または15-メチル-17-オキサビシクロ[11.3.1]ヘプタデカ-13-エンであってよい。好ましくは、式(I)の化合物は、16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エン、または14-メチル-16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エンであってよい。さらにより好ましくは、式(I)の化合物は、14-メチル-16-オキサビシクロ[10.3.1]ヘキサデカ-12-エンであってよい。
【0023】
式(II)の適切な化合物の非限定的な例には、シクロウンデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロウンデカン-1,5-ジオン、シクロドデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロドデカン-1,5-ジオン、シクロトリデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロトリデカン-1,5-ジオン、シクロテトラデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロテトラデカン-1,5-ジオン、シクロペンタデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオン、シクロヘキサデカン-1,5-ジオン、または3-メチルシクロヘキサデカン-1,5-ジオンが含まれ得る。好ましくは、式(II)の化合物は、シクロペンタデカン-1,5-ジオン、3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオン、シクロヘキサデカン-1,5-ジオン、または3-メチルシクロヘキサデカン-1,5-ジオンであってよい。好ましくは、式(II)の化合物は、シクロペンタデカン-1,5-ジオン、または3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオンであってよい。さらにより好ましくは、式(II)の化合物は、3-メチルシクロペンタデカン-1,5-ジオンであってよい。
【0024】
式(II)の化合物は、市販の化合物であるか、またはHelvetica Chimica Acta 1967, 50, 705、もしくは国際公開第2016104474号もしくは国際公開第2016184848号に報告されているものなどのいくつかの方法によって製造することができる。
【0025】
本発明の任意の実施形態によれば、触媒は、金属触媒である。好ましくは、金属触媒は、式
[M(O)m(X)n] (IV)
[式中、
Mは、遷移金属または遷移後金属からなる群から選択される金属であり、mは、0、1または2であり、Xは、アニオン性リガンドを表し、nは、1~6の整数である]のものであってよい。
【0026】
本発明の上記の実施形態のいずれかによれば、Mは、周期表の第IIIA族(Alなど)、第IVA族、第IIIB族、第IVB族(TiまたはZrなど)、第VB族(Vなど)、第VIB族および第VIIB族の金属からなる群から選択される金属であってよい。好ましくは、Mは、アルミニウム、チタン、ジルコニウムおよびバナジウムからなる群から選択されてよい。
【0027】
本発明の上記の実施形態のいずれかによれば、nは、1~4の整数であってよい。好ましくは、nは、2~4の整数であってよい。さらにより好ましくは、nは、3または4であってよい。
【0028】
本発明の上記の実施形態のいずれかによれば、Xは、アニオン性リガンドを表す。アニオン性リガンドの非限定的な一覧には、水素またはハロゲン原子、ヒドロキシ、オキシもしくはβ-ジケトナト基、またはアルコキシまたはカルボン酸基が含まれる。
【0029】
「β-ジケトナト」という用語は、当技術分野における通常の意味を有し、すなわち、式Ra(COCHCO)-Ra[式中、Raは、互いに独立して、C1~C18アルキル基であり、負電荷は、非局在化している]の基を表す。
【0030】
本発明の上記の実施形態のいずれかによれば、式(III)において、各Xは、同時にまたは独立して、水素もしくはフッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素原子、ヒドロキシもしくはアセチルアセトナート基、C1~C18アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシもしくはイソプロポキシ、s-ブトキシ基、またはC1~C18カルボン酸基、例えばHCOO、CH3COO、CH3CH2COOもしくはフェニルCOO基を表す。好ましくは、各Xは、同時にまたは独立して、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソプロポキシ、またはアセチルアセトナート基を表す。
【0031】
式(III)の適切な金属触媒の非限定的な例には、[Al(OR)3]、[Al(OAc)3]、[Al(acac)3]、[Ti(OR)4]、[Ti(O)(acac)2]、[Zr(OR)4]、[Zr(acac)4]、[V(O)(acac)2]、[V(acac)3]、[V(O)(OR)3](ここで、Rは、C1~C6アルキル基であり、好ましくは、Rは、C1~C4アルキル基である)が含まれ得る。
【0032】
金属触媒は、本発明の方法の反応媒体に広範囲の濃度で添加することができる。非限定的な例として、金属濃度値として、基材の総量に対して1000ppm~100000ppmの範囲の値を挙げることができる。好ましくは、金属濃度は、5000ppm~15000ppmで構成される。当然のことながら、この方法は、これより多くの触媒でも機能する。しかしながら、金属の最適濃度は、当業者に知られているように、金属の性質、基材の性質、温度、および所望の反応時間に依存する。
【0033】
本発明の上記の実施形態のいずれか1つによれば、水素源は、少なくとも1つの第2級アルコール官能基を含み、かつ80℃以上、好ましくは110℃以上、さらにより好ましくは120℃以上の沸点を有する炭化水素である。上記の水素源は、ケトン生成に際して水素を取り入れる。取り入れる水素源は、第2級アルコールであり得る。特に、取り入れる水素源は、式
【化8】
[式中、
R
4およびR
5は、互いに独立して、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
1~10直鎖状アルキル基、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
2~10直鎖状アルケニル基、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
3~10分岐状もしくは環式アルキルもしくはアルケニル基、1~5個のC
1~3アルキルもしくはアルコキシ基、ヒドロキシ基もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基を表すか、またはR
4およびR
5は、一緒にされた場合、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC
2~10直鎖状もしくは分岐状アルカンジイルもしくはアルケンジイルを表す]のものであってよい。式(V)の水素源は、C
4~10化合物である。
【0034】
「アリール基」という用語は、当技術分野における通常の意味を示し、すなわち、置換されていてもよいフェニルまたはナフチル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基の任意の置換基の非限定的な例には、C1~3アルキルまたはアルコキシ基、ヒドロキシ基またはハロゲン原子が含まれ得る。
【0035】
上記の実施形態のいずれか1つによれば、R4は、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC1~10直鎖状アルキル基、またはヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC3~10分岐状もしくは環式アルキル基、または1~5個のC1~3アルキルもしくはアルコキシ基、ヒドロキシ基もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基を表すことができる。好ましくは、R4は、ヒドロキシ基で置換されていてもよいC1~10直鎖状アルキル基、またはヒドロキシ基で置換されていてもよいC3~10分岐状もしくは環式アルキル基を表すことができる。好ましくは、R4は、ヒドロキシ基で置換されていてもよいC3~8直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表すことができる。さらにより好ましくは、R4は、ヒドロキシ基で置換されていてもよいメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、オクチル基を表すことができる。
【0036】
上記の実施形態のいずれか1つによれば、R5は、ヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC1~10直鎖状アルキル基、またはヒドロキシ基もしくはアリール基で置換されていてもよいC3~10分岐状もしくは環式アルキル基を表すことができる。好ましくは、R5は、メチル、エチルまたはプロピル基を表すことができる。
【0037】
上記の実施形態のいずれか1つによれば、R4およびR5は、一緒にされた場合、ヒドロキシ基で置換されていてもよいC4~7直鎖状、分岐状アルカンジイルまたはアルケンジイルを表すことができる。好ましくは、R4およびR5は、一緒にされた場合、C4~7直鎖状アルカンジイルを表すことができる。さらにより好ましくは、R4およびR5は、一緒にされた場合、C4~5直鎖状アルカンジイルを表すことができる。
【0038】
適切な水素源の非限定的な例には、1-フェニルエタン-1-オール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、シクロヘキサノール、4-メチルペンタン-2-オール、シクロペンタノール、またはオクタン-2-オールが含まれ得る。好ましくは、水素源は、シクロペンタノール、または4-メチルペンタン-2-オールであってよい。
【0039】
水素源は、本発明の方法の反応媒体に広範囲の濃度で添加することができる。非限定的な例として、水素源濃度値として、式(II)の化合物の量に対して1当量~50当量、またはさらには1当量~5当量の範囲の値を挙げることができる。当然のことながら、水素源の最適濃度は、当業者に知られているように、水素源の性質、基材の性質、温度、および方法中に使用される触媒、ならびに所望の反応時間に依存する。
【0040】
本発明の任意の実施形態によれば、本発明の方法は、助触媒の存在下で実施することができる。適切な助触媒の非限定的な例には、第3級アミン、例えばピリジン、ビスピリジン、トリメチルアミン、ルチジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、もしくは1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、または第3級ホスフィン、または置換されていてもよいフェノール、または置換されていてもよいビスフェノールが含まれる。好ましくは、助触媒は、第3級アミンまたはピリジンまたは置換ビスフェノールであってよい。さらにより好ましくは、助触媒は、メチルピリジン、またはジヒドロキシビフェニル成分、例えば2,2’-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2’-ジヒドロキシビフェニルであってよい。
【0041】
助触媒は、本発明の方法の反応媒体に広範囲の濃度で添加することができる。非限定的な例として、助触媒濃度値として、触媒に対して0.1当量~2当量の範囲の値を挙げることができる。当然のことながら、助触媒の最適濃度は、当業者に知られているように、助触媒の性質、基材の性質、温度、および方法中に使用される触媒、ならびに所望の反応時間に依存する。
【0042】
本発明の方法は、バッチまたは連続条件下で実施される。
【0043】
反応は、溶媒の非存在下で実施することができる。
【0044】
本発明の方法の温度は、120℃~300℃、より好ましくは150℃~250℃の範囲に含まれ得る。当然のことながら、当業者は、水素源および出発生成物および最終生成物の融点および沸点、ならびに所望の反応または転化時間の関数として好ましい温度を選択することもできる。
【0045】
本発明の方法は、大気圧下またはわずかな真空下で実施することができる。本発明の方法は、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で実施することができる。
【0046】
本発明の上記の実施形態のいずれか1つによれば、本発明の方法中に生成された比較的揮発性の高い化合物は、本発明の方法中に連続的に除去される。本発明の方法中に生成された水やケトンなどのこれらの比較的揮発性の高い化合物の除去は、本発明の方法中に蒸留することができる。
【0047】
実施例
次に、本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。ここで、略語は当技術分野で通常の意味を有し、温度は摂氏(℃)で示され、(特に明記していない場合)NMRスペクトルデータは、1Hおよび13Cについて360または400MHzの機器を用いてCDCl3中で記録し、化学シフトδは、標準物質としてのTMSに対してppmで示されており、結合定数Jは、Hzで表される。
【0048】
実施例1
式(II)の化合物から出発した式(I)の化合物の製造
メカニカルスターラー、パックドカラム、還流冷却器を備えた1リットルガラス反応器に、250gの3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオン(0.99モル)、50gの水素源(表1を参照)およびV(acac)3(17.2g、0.049モル)を大気圧で装入した。混合物を撹拌し、加熱還流した後、反応中に形成された軽質のフラクション(水および得られたケトン)を蒸留してフラスコに入れながら、残りの水素源(450g)を22時間かけて計量供給した。得られた混合物を100℃に冷却し、残りの溶媒を真空下で濃縮した。残りの油状物(230g)をフラッシュ蒸留(170℃、1mbar)し、留出物をGCで分析した(表1を参照)。
【0049】
【0050】
実施例2
式(II)の化合物から出発した式(I)の化合物の製造
メカニカルスターラー、パックドカラム、還流冷却器を備えた1リットルガラス反応器に、250gの3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオン(0.99モル)、50gのシクロヘキサノール、Zr(OPr)4(4.63g、0.0098モル、PrOH中70%)、および2,2’-ジヒドロキシジフェニルメタン(1.59g、0.0098モル)を大気圧で装入した。混合物を撹拌し、加熱還流した後、反応中に形成された軽質のフラクション(水、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン)を蒸留してフラスコに入れながら、残りの水素源(450g)を22時間かけて計量供給した。得られた混合物を100℃に冷却し、残りの溶媒を真空下で濃縮した。残りの油状物(242g)をフラッシュ蒸留(170℃、1mbar)し、留出物をGCで分析した(化合物I、純度92.7%、収率91.2%)。3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオールは形成されず、3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオンは完全に転化された。
【0051】
実施例3
式(II)の化合物から出発した式(I)の化合物の製造
メカニカルスターラー、パックドカラム、還流冷却器を備えた1リットルガラス反応器に、250gの3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオン(0.99モル)、50gの2-オクタノール、Zr(OPr)4(9.26g、0.0196モル、PrOH中70%)、および2,2’-ジヒドロキシビフェニル(3.7g、0.0196モル)を200mbarで装入した。混合物を撹拌し、加熱還流した後、反応中に形成された軽質のフラクション(水、2-オクタノール、2-オクタノン)を蒸留してフラスコに入れながら、残りの水素源(250g)を16時間かけて計量供給した。得られた混合物を100℃に冷却し、残りの溶媒を真空下で濃縮した。残りの油状物(230g)をフラッシュ蒸留(180℃、1mbar)し、留出物をGCで分析した(化合物I、純度89.2%、収率94.1%)。3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオールは形成されず、3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオンは完全に転化された。
【0052】
実施例4
式(II)の化合物から出発した式(I)の化合物の製造
メカニカルスターラー、パックドカラム、還流冷却器を備えた1リットルガラス反応器に、250gの3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオン(0.99モル)、50gの水素源(表2を参照)、Ti(OiPr)4(5.6g、0.02モル)、および2,2’-ジヒドロキシビフェニル(3.7g、0.02モル)を、表2に示される圧力で装入した。混合物を撹拌し、加熱還流した後、反応中に形成された軽質のフラクション(水および得られたケトン)を蒸留してフラスコに入れながら、残りの水素源(450g)を22時間かけて計量供給した。得られた混合物を100℃に冷却し、残りの溶媒を真空下で濃縮した。残りの油状物(約230g)をフラッシュ蒸留(170℃、1mbar)し、留出物をGCで分析した(表2を参照)。
【0053】
【0054】
実施例5
式(II)の化合物から出発した式(I)の化合物の製造
メカニカルスターラー、パックドカラム、還流冷却器を備えた1リットルガラス反応器に、250gの3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオン(0.99モル)、50gのシクロペンタノール、Al(OBu)3(12.3g、0.05モル)、および2,2’-ジヒドロキシジフェニルメタン(8g、0.05モル)を大気圧で装入した。混合物を撹拌し、加熱還流した後、反応中に形成された軽質のフラクション(水、シクロペンタノール、シクロペンタノン)を蒸留してフラスコに入れながら、残りの水素源(450g)を22時間かけて計量供給した。得られた混合物を100℃に冷却し、残りの溶媒を真空下で濃縮した。残りの油状物(247g)をフラッシュ蒸留(170℃、1mbar)し、留出物をGCで分析した(化合物I、純度85%、収率85%)。3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオールは形成されず、3-メチル-1,5-シクロペンタデカンジオンは完全に転化された。