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特許7620090コンデンサ劣化検出装置及びコンバータシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】コンデンサ劣化検出装置及びコンバータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20250115BHJP
【FI】
H02M7/12 M
H02M7/12 H
H02M7/12 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023520636
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017920
(87)【国際公開番号】W WO2022239122
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕也
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0241503(US,A1)
【文献】特開2019-158456(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145140(WO,A1)
【文献】特開2008-224533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンバータの交流側に接続されたフィルタ内に設けられたフィルタ用コンデンサの劣化を検出するコンデンサ劣化検出装置であって、
前記フィルタ用コンデンサに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部により測定された前記電流の測定値を用いて、劣化判定用パラメータを算出する計算部と、
前記計算部により算出された前記劣化判定用パラメータと基準値との比較結果に基づき前記フィルタ用コンデンサの劣化の有無を判定する判定部と、
を備え
前記コンバータは、PWMコンバータであり、
前記計算部は、前記PWMコンバータの直流側に接続されたDCリンクコンデンサの電圧を昇圧するための前記PWMコンバータ内のスイッチング素子のスイッチング動作の開始時点までの検査期間中に前記電流測定部により測定された前記電流の測定値を用いて、前記劣化判定用パラメータを算出する、コンデンサ劣化検出装置。
【請求項2】
前記検査期間は、前記DCリンクコンデンサの予備充電完了時点から前記DCリンクコンデンサの電圧をさらに昇圧するための前記PWMコンバータ内のスイッチング素子のスイッチング動作の開始時点までの期間である、請求項に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項3】
前記計算部は、前記検査期間中に前記電流測定部により測定された前記電流の測定値をI、前記コンバータの交流側の電源電圧の大きさをV、前記電源電圧の周波数をfとしたとき、
【数1】
に従って、前記劣化判定用パラメータとしての前記フィルタ用コンデンサの静電容量Cを計算する、請求項1または2に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記計算部により算出された前記フィルタ用コンデンサの静電容量が前記基準値を下回った場合、前記フィルタ用コンデンサが劣化したと判定する、請求項に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記計算部により算出された前記フィルタ用コンデンサの静電容量を前記フィルタ用コンデンサの静電容量初期値で除算して得られる値が、前記基準値を下回った場合、前記フィルタ用コンデンサが劣化したと判定する、請求項に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項6】
前記コンバータの交流側の電源電圧を測定する電圧測定部をさらに備え、
前記計算部は、前記検査期間中に前記電流測定部により測定された前記電流の測定値と前記電圧測定部により測定された前記電源電圧の測定値と用いて、前記劣化判定用パラメータとしての誘電正接を計算する、請求項1または2に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記計算部により算出された前記誘電正接が前記基準値を上回った場合、前記フィルタ用コンデンサが劣化したと判定する、請求項に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項8】
前記判定部により前記フィルタ用コンデンサが劣化したと判定された場合、アラームを出力するアラーム出力部を備える、請求項1~のいずれか一項に記載のコンデンサ劣化検出装置。
【請求項9】
交流側の交流電力と直流側の直流電力との間で電力変換を行うコンバータと、
前記コンバータの交流側に接続されたフィルタ内に設けられたフィルタ用コンデンサの劣化を検出する、請求項1~のいずれか一項に記載のコンデンサ劣化検出装置と、
を備える、コンバータシステム。
【請求項10】
前記判定部により前記フィルタ用コンデンサが劣化したと判定された場合、前記コンバータの電力変換を停止する、請求項に記載のコンバータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ劣化検出装置及びコンバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、あるいは各種ロボット内のモータの駆動を制御するモータ駆動装置においては、交流電源から供給された交流電力をコンバータ(整流器)にて直流電力に一旦変換した後、さらにこの直流電力をインバータにて交流電力に変換して、この交流電力をモータ駆動電力としてモータに供給している。
【0003】
モータ駆動装置におけるコンバータとして、ダイオード整流方式のコンバータの他に、モータ減速時に生じる回生電力を三相交流電源側に戻す電源回生機能を有するPWMコンバータが広く用いられている。PWMコンバータは、ダイオードとこれに逆並列に接続されたスイッチング素子とからなるパワー素子で構成されるブリッジ回路を備える。PWMコンバータは、PWM制御方式に従ってスイッチング素子のオンオフ動作が制御されることにより、交流側の交流電力と直流側の直流電力との間で双方向に電力変換を行うことができる。
【0004】
PWMコンバータ内のスイッチング素子をオンオフ動作させることにより、PWMコンバータの交流側には高周波リプル電流が発生する。このような高周波リプル電流を吸収するために、PWMコンバータの交流入力側には、フィルタ用リアクトル及びフィルタ用コンデンサを有するローパスフィルタ(以下、単に「フィルタ」と称する。)が設けられるのが一般的である。
【0005】
例えば、電源、前記電源からの直流電圧を平滑化するコンデンサ、前記平滑化された直流電圧の供給を受けて交流電圧を生成するインバータ、及び、前記交流電圧の供給を受けて稼働する電気機器を備える機器システムにおける前記コンデンサの容量を推定するコンデンサ容量推定装置であって、前記電気機器にかかる負荷が変動する周期である負荷変動周期から、前記変動による影響を除去するフィルタを生成するフィルタ設計部と、前記交流電圧に含まれる、前記インバータを制御するためのPWM(Pulse Width Modulation)信号に同期したキャリア周波数を成分として含む入力信号から、予め定められた期間の区間信号を取得する区間信号取得部と、前記区間信号から予め定められた時間幅の複数の信号を分割し、前記分割された複数の信号の各々を周波数領域の複数の成分値に変換することで、複数の周波数領域データを生成する周波数領域変換部と、前記複数の周波数領域データの各々において、前記複数の成分値から前記キャリア周波数に対応する周波数の成分値を抽出して、前記抽出された成分値を、対応する前記抽出された信号に応じた時間の値とすることで、時系列で複数の前記抽出された成分値を示す時系列データを生成するキャリア周波数成分抽出部と、前記時系列データに対して前記フィルタを適用することで、処理後の時系列データを生成するフィルタ適用部と、前記処理後の時系列データから、前記コンデンサの容量を推定するコンデンサ容量推定部と、を備えることを特徴とするコンデンサ容量推定装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
例えば、内部のパワー素子がオンオフ駆動されることで、入力された直流電圧をモータを駆動するための交流電圧に変換して出力するインバータと、前記交流電圧がモータ動力線を介して前記モータに印加されることによって前記モータ動力線を流れる電流から、高周波電流を検出する高周波電流検出部と、前記高周波電流検出部により検出された前記高周波電流に基づいて、前記モータ動力線及び前記モータで発生する浮遊容量を推定する浮遊容量推定部と、を備える、モータ駆動装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
例えば、冷媒を圧縮する圧縮機の内部に配置された一対の電極からなる電極対と、前記電極対と直列接続されたコンデンサと、前記電極対と前記コンデンサが直列接続されたものである測定対象部の一方の端に前記圧縮機を駆動する動力線のひとつである第一動力線が接続され、前記圧縮機を駆動するインバータと、前記電極対の電極間の電圧を測定する電圧検出部と、を備えた静電容量検出装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
例えば、表面に複数のパターンを設けた被検査回路基板の裏面側に、それ等の全ての表面パターンに共通な電極を配置し、その測定の対象とした表面パターンにプローブを接触して高位又は低位の電圧を加え、共通電極に低位又は高位の電圧を加えて、その表面パターンに流れる電流を測定し、その表面パターンと共通電極間の静電容量を算出する回路基板のパターン静電容量測定方法において、上記回路基板と共通電極間に絶縁層を介在することを特徴とする回路基板のパターン静電容量測定方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0009】
例えば、単相交流を直流に変換する第1の電力変換器と、直流を交流に変換する第2の電力変換器と、第1と第2の電力変換器の直流側に並列接続したコンデンサからなる直流中間回路を備えた電力変換器において、前記コンデンサの交流電圧変動の大きさと、前記第1の電力変換器の交流入力電流と交流入力電圧またはそれらの指令値に基づいてコンデンサ容量値を推定する手段を設けることを特徴とする電力変換器のコンデンサ容量判定装置が知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2019/239511号
【文献】特開2019-135473号公報
【文献】国際公開第2018/042809号
【文献】特開平10-142271号公報
【文献】特開平10-014097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コンバータの交流側に接続されるフィルタ内に設けられるフィルタ用コンデンサは、交流回路で使用されることから無極性のフィルムコンデンサが用いられる。フィルムコンデンサは誘電体にプラスチックフィルムを用いたコンデンサである。フィルムコンデンサは劣化するにつれ発熱量が増加し、最悪の場合、プラスチックフィルムが発火する危険性がある。しかしながら、フィルムコンデンサが劣化しても、当該フィルムコンデンサを有するフィルタに接続されたコンバータの動作には異常は現れないので、フィルムコンデンサの劣化に気付かずにフィルタが使用し続けられる可能性がある。また、フィルムコンデンサの劣化は静電容量の低下で確認することができるが、フィルムコンデンサの静電容量の測定はコンバータの動作中は行うことができない。このため、作業者は、フィルタの交流入力側の電源を一旦遮断したうえで自らテスターを用いてフィルムコンデンサの静電容量を測定して劣化の有無を判断しなければならず、面倒であった。したがって、コンバータの交流側に接続されたフィルタ内に設けられたフィルタ用コンデンサの劣化を容易に検出することができるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様によれば、コンバータの交流側に接続されたフィルタ内に設けられたフィルタ用コンデンサの劣化を検出するコンデンサ劣化検出装置は、フィルタ用コンデンサに流れる電流を測定する電流測定部と、電流測定部により測定された電流の測定値を用いて、劣化判定用パラメータを算出する計算部と、計算部により算出された劣化判定用パラメータと基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサの劣化の有無を判定する判定部とを備え、コンバータは、PWMコンバータであり、計算部は、PWMコンバータの直流側に接続されたDCリンクコンデンサの電圧を昇圧するためのPWMコンバータ内のスイッチング素子のスイッチング動作の開始時点までの検査期間中に電流測定部により測定された電流の測定値を用いて、劣化判定用パラメータを算出する。
【0013】
また、本開示の一態様によれば、コンバータシステムは、交流側の交流電力と直流側の直流電力との間で電力変換を行うコンバータと、コンバータの交流側に接続されたフィルタ内に設けられたフィルタ用コンデンサの劣化を検出する上記コンデンサ劣化検出装置と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、コンバータの交流側に接続されたフィルタ内に設けられたフィルタ用コンデンサの劣化を容易に検出することができるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
図2】本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおいて電圧測定部が省略された場合を示す図である。
図3】本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける、フィルタ用コンデンサの静電容量を用いた劣化判定処理を示すフローチャートである。
図4】本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける、フィルタ用コンデンサの静電容量を用いた劣化判定処理の変形例を示すフローチャートである。
図5】コンデンサの誘電正接を説明する図である。
図6】本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける、フィルタ用コンデンサの誘電正接を用いた劣化判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照して、コンデンサ劣化検出装置及びコンバータシステムについて説明する。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。図面に示される形態は実施をするための一つの例であり、図示された実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムを示す図である。
【0018】
一例として、交流電源4に接続されたモータ駆動装置1000により、モータ6を制御する場合について示す。本実施形態においては、モータ6の種類は特に限定されず、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。また、交流電源4及びモータ6の相数は本実施形態を特に限定するものではなく、例えば三相であっても単相であってもよい。図1に示す例は、交流電源4及びモータ6をそれぞれ三相としている。交流電源4の一例を挙げると、三相交流400V電源、三相交流200V電源、三相交流600V電源、単相交流100V電源などがある。モータ6が設けられる機械には、例えば工作機械、ロボット、鍛圧機械、射出成形機、及び産業機械などが含まれる。
【0019】
図1に示すように、モータ駆動装置1000は、フィルタ3と、本開示の一実施形態によるコンバータシステム100と、インバータ5と、DCリンクコンデンサ7と、予備充電回路8、制御部9とを備える。また、コンバータシステム100は、PWMコンバータ2と、本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置1とを備える。
【0020】
制御部9は、PWMコンバータ2内のスイッチング素子のスイッチング動作を制御するためのPWM制御信号を生成してPWMコンバータ2へ出力する。なお、ここでは図示しないが制御部9への電力の供給のための電力線は、交流電源4からPWMコンバータ2へ電力供給するための電力線とは別系統である。すなわち、PWMコンバータ2への電源投入前であっても、PWMコンバータ2への電源投入時点の動作に備えて制御部9を駆動するための電力は供給されている。
【0021】
PWMコンバータ2は、制御部9から受信したPWM制御信号に基づきスイッチング素子のスイッチング動作がPWM制御されることで交流側の交流電力と直流側の直流電力との間で電力変換を行う電源回生可能な整流器として構成される。PWMコンバータ2は、ダイオード及びこれに逆並列に接続されたスイッチング素子からなるパワー素子で構成されるフルブリッジ回路からなる。スイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがあるが、その他の半導体素子であってもよい。図1に示す例では、交流電源4を三相交流電源としたので、PWMコンバータ2は三相フルブリッジ回路で構成される。交流電源4から単相交流電力が供給される場合は、PWMコンバータ2は単相ブリッジ回路で構成される。PWMコンバータ2は、制御部9がPWM制御方式に従ってスイッチング素子のオンオフ動作を制御することにより、交流側から入力された交流電力を直流電力に変換して直流側へ出力する整流動作と、直流側の直流電力をスイッチング素子のオンオフ動作により交流電力に変換して交流入出力側へ出力する回生動作と、を選択的に実行する。
【0022】
PWMコンバータ2の交流側には、フィルタ3が接続される。
【0023】
フィルタ3は、PWMコンバータ2内のスイッチング素子をオンオフ動作させることによりPWMコンバータ2の交流側に発生する高周波リプル電流を吸収する機能を有する。フィルタ3は、フィルタ用コンデンサ31と、2つのリアクトル32と、抵抗33とを有する。フィルタ3はPWMコンバータの交流側に接続されるので、フィルタ用コンデンサ31は、交流回路で使用されることから無極性のフィルムコンデンサが用いられる。フィルタ用コンデンサ31の例としては、例えばフィルムコンデンサなどがあるが、セラミックコンデンサであってもよい。
【0024】
図1では図面を簡明なものとするために、フィルタ3内のフィルタ用コンデンサ31、リアクトル32、及び抵抗33の接続関係については一相分についてのみ表記している。図1に示す例では、交流電源4を三相交流電源としたので、交流電源4と三相フルブリッジ回路で構成されるPWMコンバータ2との間は、三相の電力線によって電気的に接続される。この場合、フィルタ用コンデンサ31、リアクトル32、及び抵抗33を有するフィルタ3が三相の電力線のそれぞれに設けられ、すなわちフィルタ3は3つ設けられる。より詳しくは、互いに直列接続された2つのリアクトル32は、交流電源4とPWMコンバータ2とを結ぶ三相の電力線の各相の電力線のそれぞれに設けられる。三相分の電力線に設けられた2つのリアクトル32それぞれについて、互いに直列接続されたフィルタ用コンデンサ31及び抵抗33からなる組の一端が、2つのリアクトル32の接続点に接続される。なお、フィルタ用コンデンサ31と抵抗33とからなる組の直列接続の順番は一例であり、これ以外の順番で直列接続されてもよい。このような3組のフィルタ3についての上記電力線が接続されない一端が接続されることで、3組のフィルタ3がスター結線(Y結線)されることになる。なお、フィルタ3同士の接続についてスター結線(Y結線)の場合を一例として説明したが、各フィルタ3の上記電力線が接続されない一端を、別のフィルタ3のフィルタ用コンデンサ31と抵抗33とフィルタ用コンデンサ31との間に接続してデルタ結線(Δ結線)を構成してもよい。
【0025】
なお、交流電源4が単相交流電源である場合は、交流電源4と単相フルブリッジ回路で構成されるPWMコンバータ2との間を電気的に接続する単相の電力線に、上述した接続関係を有するフィルタ用コンデンサ31、リアクトル32、及び抵抗33を備えるフィルタ3が1つ設けられる。
【0026】
PWMコンバータ2の直流側には、DCリンクコンデンサ7が設けられる。DCリンクコンデンサ7は、PWMコンバータ2からの直流出力の脈動分を抑える機能とともに直流電力を蓄積する機能を有する。DCリンクコンデンサ7は平滑コンデンサとも称されることがある。DCリンクコンデンサ7の例としては、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサなどがある。
【0027】
PWMコンバータ2とDCリンクコンデンサ7との間には、DCリンクコンデンサ7を予備充電する予備充電回路8が設けられる。これに代えて、予備充電回路8を、PWMコンバータ2の交流入出力側に設けてもよい。
【0028】
予備充電回路8は、充電抵抗41とこの充電抵抗41に並列接続された予備充電用スイッチ42とを有する。予備充電用スイッチ42は、充電抵抗41を介した電路が形成される開状態と充電抵抗41を介さない短絡回路が形成される閉状態とが選択的に切り替えられる。予備充電用スイッチ42の開閉を制御する制御部については図示を省略しているが、当該制御部については例えばPWMコンバータ2のスイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御部9内に設けてもよい。PWMコンバータ2の電源投入後からモータ6の駆動開始前までの予備充電期間中は、予備充電用スイッチ42を開状態にすることでPWMコンバータ2から出力された直流電流が充電抵抗41を通じてDCリンクコンデンサ7に流れ込み、これによりDCリンクコンデンサ7が充電される。予備充電期間中は、PWMコンバータ2から出力される直流電流は充電抵抗41を通るので、突入電流の発生を防ぐことができる。DCリンクコンデンサ7が所定の電圧まで充電されると、予備充電用スイッチ42を開状態から閉状態に切り換えて予備充電を完了する。DCリンクコンデンサ7の電圧を検出する検出部については図示を省略している。
【0029】
PWMコンバータ2の直流側には、DCリンクコンデンサ7を介してインバータ5が接続される。PWMコンバータ2の直流側とインバータ5の直流側とを電気的に接続する回路部分は「DCリンク」と称される。DCリンクは、「DCリンク部」、「直流リンク」、「直流リンク部」、「直流母線」あるいは「直流中間回路」などとも称されることもある。
【0030】
インバータ5は、スイッチング素子及びこれに逆並列に接続されたダイオードのフルブリッジ回路からなる。スイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがあるが、その他の半導体素子であってもよい。図1に示す例では、モータ6を三相交流モータとしたので、インバータ5は三相フルブリッジ回路で構成される。モータ6が単相交流モータである場合は、インバータ5は単相ブリッジ回路で構成される。
【0031】
インバータ5は、上位制御装置(図示せず)の指令に基づき内部のスイッチング素子のオンオフ動作がPWM制御されることで、DCリンクにおける直流電力を交流電力に変換して交流側のモータ6へ供給するとともに、モータ6の減速により回生された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ戻す。モータ6は、インバータ5から供給される交流電力に基づいて、速度、トルクまたは回転子の位置が制御される。インバータ5を制御する上位制御装置は、アナログ回路と演算処理装置との組み合わせで構成されてもよく、あるいは演算処理装置のみで構成されてもよい。インバータ5を制御する上位制御装置を構成し得る演算処理装置には、例えばIC、LSI、CPU、MPU、DSPなどがある。
【0032】
PWMコンバータ2を正常に動作させるためには、交流電源4の交流電圧の波高値以上の値の直流電圧を出力させる必要がある。PWMコンバータ2の動作を開始するにあたっては、まず、PWMコンバータ2の電源を投入してDCリンクコンデンサ7を予備充電する。ここで、「PWMコンバータ2の電源投入」とは、「PWMコンバータ2への交流電源4からの電力供給の開始」を意味する。すなわち、PWMコンバータ2の電源投入前は、PWMコンバータ2への交流電源4からの電力供給は行われず、PWMコンバータ2の電源投入後に、PWMコンバータ2への交流電源4からの電力供給が行われる。DCリンクコンデンサ7に対する予備充電完了後は、PWMコンバータ2内のスイッチング素子のスイッチング動作を行い、DCリンクコンデンサ7の両端の直流電圧であるDCリンク電圧を交流電源4側の交流電圧の波高値よりも大きい電圧まで昇圧する。以下、DCリンクコンデンサ7に対する予備充電完了後に行われるDCリンク電圧に対する昇圧を「初期昇圧」と称する。予備充電およびこれに続く初期昇圧の完了後、PWMコンバータ2は通常動作モードに移行する。通常動作モードでは、PWMコンバータ2は、制御部9から受信したPWM制御信号に基づきスイッチング素子のスイッチング動作がPWM制御されることで交流側の交流電力と直流側の直流電力との間で電力変換を行う電源回生可能な整流器として動作する。
【0033】
コンデンサ劣化検出装置1は、PWMコンバータの交流側に接続されたフィルタ3内に設けられたフィルタ用コンデンサ31の劣化を検出するものである。図1に示す例では交流電源4と三相フルブリッジ回路で構成されるPWMコンバータ2との間の三相の電力線のそれぞれにフィルタ3が設けられるが、コンデンサ劣化検出装置1は、これら3つのフィルタ3それぞれについてのフィルタ用コンデンサ31の劣化を個別に検出することができる。
【0034】
本開示の一実施形態においては、PWMコンバータ2の電源を投入してDCリンクコンデンサ7の予備充電を開始した時点から初期昇圧開始時点までで画定される期間を「検査期間」として設定する。コンデンサ劣化検出装置1は、検査期間中にフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値に基づいて、フィルタ用コンデンサ31の劣化を検出する。このように検査期間は、DCリンクコンデンサ7の予備充電開始時点から初期昇圧開始時点までの期間に設定されるが、この変形例として、検査期間をDCリンクコンデンサ7の予備充電完了時点から初期昇圧開始時点までの期間に設定してもよい。
【0035】
このようにフィルタ用コンデンサ31の劣化検出を、予備充電開始時点から初期昇圧開始時点までで画定される検査期間中にフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値に基づいて行うのは、次の理由による。PWMコンバータ2の電源投入以降は、交流電源4とPWMコンバータ2との間の各電力線には交流電圧が印加されるので、交流電源4とPWMコンバータ2との間の各電力線の線間に設けられるフィルタ3にも交流電圧が印加され、これによりフィルタ用コンデンサ31には電流が流れる。初期昇圧開始時点以降は通常の通常動作モードを含めて、PWMコンバータ2のスイッチング素子のスイッチング動作が行われるので、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流には、スイッチング素子のスイッチング動作に起因する高周波リプル電流が含まれることになる。一方で、PWMコンバータ2の電源投入時点から初期昇圧開始時点までの期間中はPWMコンバータ2のスイッチング素子のスイッチング動作は行われないので、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流は、スイッチング素子のスイッチング動作に起因する高周波リプル電流は発生せず、正弦波状となる。フィルタ用コンデンサ31に流れる電流が高周波リプル電流を含まない正弦波状であれば、この電流の測定値を用いてフィルタ用コンデンサ31の静電容量を正確に求めることができる。フィルタ用コンデンサ31が劣化すると、フィルタ用コンデンサ31の静電容量は低下し、フィルタ用コンデンサ31の誘電正接は増加する。そこで、本開示の一実施形態においては、予備充電開始時点から初期昇圧開始時点までで画定される検査期間中にフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値を用いて劣化判定用パラメータ(静電容量または誘電正接)を算出し、劣化判定用パラメータと所定の基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0036】
コンデンサ劣化検出装置1は、電流測定部11と、計算部12と、判定部13と、電圧測定部14と、アラーム出力部15とを備える。
【0037】
電流測定部11は、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流を測定する。例えば、フィルタ用コンデンサ31が接続される導線上には電流センサが設けられ、電流測定部11は、電流センサを介してフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値を取得する。
【0038】
電圧測定部14は、PWMコンバータ2の交流側の電源電圧を測定する。電圧測定部14は、例えばPWMコンバータ2に内蔵される電圧検出回路を介して電源電圧の測定値を取得する。ここで、「電源電圧の測定値」には、「交流電源4とフィルタ3との間における線間電圧」及び「交流電源4の周波数」が含まれる。なお、後述の変形例のように電圧測定部14については省略してもよい。
【0039】
計算部12は、予備充電開始時点から初期昇圧の開始時点までで画定される検査期間中に電流測定部11により測定された電流の測定値を用いて、劣化判定用パラメータを算出する。劣化判定用パラメータの詳細については後述する。
【0040】
判定部13は、計算部12により算出された劣化判定用パラメータと基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0041】
アラーム出力部15は、判定部13によりフィルタ用コンデンサ31が劣化したと判定された場合、アラームを出力する。
【0042】
アラーム出力部15から出力されたアラームは、例えば表示部(図示せず)に送られ、表示部は、例えば「フィルタ用コンデンサの劣化」を作業者に通知する表示を行う。表示部の例としては、単体のディスプレイ装置、PWMコンバータ2に付属のディスプレイ装置、コンバータシステム100に付属のディスプレイ装置、モータ駆動装置1000に付属のディスプレイ装置、上位制御装置(図示せず)に付属のディスプレイ装置、並びに、パソコン及び携帯端末に付属のディスプレイ装置などがある。また例えば、アラーム出力部15から出力されたアラームは、例えばLEDやランプなどの発光機器(図示せず)に送られ、発光機器はアラーム受信時に発光することで、作業者に「フィルタ用コンデンサの劣化」を通知する。また例えば、アラーム出力部15から出力されたアラームは、例えば音響機器(図示せず)に送られ、音響機器はアラーム受信時に例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発することで、作業者に「フィルタ用コンデンサの劣化」を通知する。これにより、作業者は、フィルタ用コンデンサ31の劣化を確実かつ容易に把握することができ、劣化したフィルタ用コンデンサ31またはこれを含むフィルタ3を交換するといった対応も容易にとることができる。
【0043】
判定部13による判定結果は制御部9に送られ、制御部9は、判定部13によりフィルタ用コンデンサ31が劣化したと判定された場合、例えば、PWMコンバータ2の電力変換を停止するよう制御してもよく、あるいは、モータ駆動装置1000において保護動作を実行してもよい。例えば、モータ駆動装置1000が駆動するモータ6が工作機械に設けられる場合、保護動作としては、リトラクト制御、制動制御、および落下防止制御などがある。リトラクト制御とは、ワークと工具が同期して数値制御される工作機械において、交流側の停電時に、ワークと工具の同期を保持したまま、互いに干渉しない位置まで待避を行う制御であり、これにより、ワークと工具の同期ずれによる破損の発生を防止する。制動制御とは、交流側の停電時における送り軸の惰性距離が問題となる工作機械において、送り軸の惰送によって衝突が発生しないように減速停止を行う制御である。落下防止制御とは、重力軸を備える工作機械において、停電時に重力軸が落下してワークや工具が破損しないように、現状の位置を保持する制御である。
【0044】
上述のように、図1に示す例では交流電源4と三相フルブリッジ回路で構成されるPWMコンバータ2との間の三相の電力線のそれぞれにフィルタ3が設けられるが、コンデンサ劣化検出装置1は、これら3つのフィルタ3それぞれについてのフィルタ用コンデンサ31の劣化を個別に検出する。このため、電流測定部11、計算部12、判定部13、及びアラーム出力部15からなる組は、3つのフィルタ3それぞれに対応して、3組設けられる。コンデンサ劣化検出装置1は、これら各組ごとに、フィルタ用コンデンサ31の劣化を検出する。
【0045】
なお、交流電源4が単相交流電源である場合は、交流電源4と単相フルブリッジ回路で構成されるPWMコンバータ2との間を電気的に接続する単相の電力線上にフィルタ3が1つ設けられるので、コンデンサ劣化検出装置1は、電流測定部11、計算部12、判定部13、及びアラーム出力部15からなる組を1組のみ有し、フィルタ用コンデンサ31の劣化を検出する。
【0046】
コンデンサ劣化検出装置1内には演算処理装置(プロセッサ)が設けられる。演算処理装置には、例えばIC、LSI、CPU、MPU、DSPなどがある。この演算処理装置は、電流測定部11、計算部12、判定部13、電圧測定部14、及びアラーム出力部15を有する。演算処理装置が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。例えば、電流測定部11、計算部12、判定部13、電圧測定部14、及びアラーム出力部15をコンピュータプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのコンピュータプログラムに従って動作させることで、各部の機能を実現することができる。電流測定部11、計算部12、判定部13、電圧測定部14、及びアラーム出力部15の各処理を実行するためのコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録された形で提供されてもよい。またあるいは、電流測定部11、計算部12、判定部13、電圧測定部14、及びアラーム出力部15を、各部の機能を実現するコンピュータプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。
【0047】
続いて、劣化判定用パラメータ及びこの劣化判定用パラメータに基づく劣化判定処理の形態について、いくつか列記する。
【0048】
第1の形態では、計算部12は劣化判定用パラメータとしてフィルタ用コンデンサ31の静電容量を算出し、判定部13は、フィルタ用コンデンサ31の静電容量と所定の基準値との比較結果に基づいてフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0049】
予備充電開始時点から初期昇圧開始時点までで画定される検査期間中にフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値をI、PWMコンバータ2の交流側の電源電圧の大きさをV、電源電圧の周波数をfとしたとき、フィルタ用コンデンサの静電容量Cは、式1のように表される。
【0050】
【数1】
【0051】
検査期間中にフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値Iは、電流測定部11により測定される。電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数fは、例えば電圧測定部14による測定値が用いられる。電流測定部11による電流の測定値Iと電圧測定部14による電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数の各測定値とは、同じタイミングで測定されたものが用いられる。フィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値I及び電源電圧の大きさVはともに実効値が用いられるのが好ましいが、精度は若干劣るが波高値を用いてもよい。
【0052】
なお、電圧測定部14により取得される電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数fの測定値に代えて、交流電源4の電源電圧は歪みが少ないものであるとみなして交流電源4の公称値(すなわち定数)を、式1に基づくフィルタ用コンデンサの静電容量Cの計算に用いてもよい。図2は、本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおいて電圧測定部が省略された場合を示す図である。式1に基づくフィルタ用コンデンサの静電容量Cの計算の公称値を用いる場合は、図2に示すように、コンデンサ劣化検出装置1から電圧測定部14を省略してもよい。
【0053】
計算部12は、予備充電開始時点から初期昇圧開始時点までで画定される検査期間中にフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値Iを用いて、式1に従って、劣化判定用パラメータとしてのフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cを計算する。計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cは、判定部13に送られる。判定部13は、計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量と基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0054】
図3は、本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける、フィルタ用コンデンサの静電容量を用いた劣化判定処理を示すフローチャートである。図3のフローチャートでは、一例として、検査期間については、DCリンクコンデンサ7の予備充電完了時点から初期昇圧開始時点までの期間に設定している。
【0055】
ステップS101において、PWMコンバータ2の電源が投入される。
【0056】
次いでステップS102において、予備充電回路8は予備充電用スイッチ42を開状態にすることで、DCリンクコンデンサ7の予備充電が開始される。この段階では、PWMコンバータ2のスイッチング素子はスイッチング動作を行っておらず(すなわちスイッチング素子は常にオフ)、PWMコンバータ2は、ダイオード整流により直流側に直流電流を出力する。PWMコンバータ2から出力された直流電流は、充電抵抗41を通じてDCリンクコンデンサ7に流れ込み、これによりDCリンクコンデンサ7が予備充電される。予備充電期間中は、PWMコンバータ2から出力される直流電流は充電抵抗41を通るので、突入電流の発生を防ぐことができる。
【0057】
ステップS103において、予備充電回路8を制御する制御部(図示せず)は、予備充電が完了したか否かを判定する。例えば、予備充電回路8を制御する制御部は、DCリンクコンデンサ7の電圧値を監視し、DCリンクコンデンサ7が所定の予備充電電圧まで充電されたか否かに基づいて、予備充電が完了したか否かを判定する。DCリンクコンデンサ7が所定の予備充電電圧まで充電された場合、予備充電回路8を制御する制御部は、予備充電用スイッチ42を開状態から閉状態に切り換え、予備充電が完了したことがコンデンサ劣化検出装置1に通知する。その後、ステップS104へ進む。
【0058】
ステップS104において、電流測定部11は、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流を測定する。また、次のステップS105において電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数fの各測定値を用いてフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cを計算する場合は、同じくステップS104において、電圧測定部14は、電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数fを測定する。
【0059】
ステップS105において、計算部12は、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値I及び電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数fの各値を用いて、劣化判定用パラメータとしてのフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cを計算する。計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cの値は、判定部13へ送られる。
【0060】
ステップS106において、判定部13は、計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cと基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0061】
ステップS106において判定部13による判定処理に用いられる基準値は、例えば、作業者が設定した任意の静電容量、フィルタ3の動作に必要な最低限の静電容量、フィルタ用コンデンサ31が破損する直前の静電容量、フィルタ用コンデンサ31のメーカが規定する静電容量の公差の範囲を逸脱した静電容量、あるいは、フィルタ用コンデンサ31のメーカ推奨の安全に使用可能な静電容量の下限値などがある。なお、基準値については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、基準値を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。記憶部は、例えばEEPROM(登録商標)などのような電気的に消去・記録可能な不揮発性メモリ、または、例えばDRAM、SRAMなどのような高速で読み書きのできるランダムアクセスメモリなどで構成すればよい。
【0062】
ステップS106において、フィルタ用コンデンサ31の静電容量Cが基準値を下回ったと判定された場合はフィルタ用コンデンサ31は劣化しているのでステップS108へ進み、フィルタ用コンデンサ31の静電容量Cが基準値を下回ったと判定されなかった場合はステップS107へ進む。判定部13による判定結果はアラーム出力部15及び制御部9へ送られる。
【0063】
ステップS108において、アラーム出力部15は、アラームを出力する。また、ステップS108において、制御部9は、PWMコンバータ2の電力変換を停止するよう制御してもよく、あるいは、モータ駆動装置1000において保護動作を実行してもよい。
【0064】
フィルタ用コンデンサ31の静電容量Cが基準値を下回ったと判定されなかった場合は、ステップS107において、制御部9は、PWMコンバータ2内のスイッチング素子のスイッチング動作を行い、DCリンクコンデンサ7の両端の直流電圧であるDCリンク電圧を交流電源4側の交流電圧の波高値よりも大きい電圧まで昇圧する(初期昇圧)。その後、PWMコンバータ2は通常動作モードに移行する。通常動作モードでは、PWMコンバータ2は、制御部9から受信したPWM制御信号に基づきスイッチング素子のスイッチング動作がPWM制御されることで交流側の交流電力と直流側の直流電力との間で電力変換を行う電源回生可能な整流器として動作する。
【0065】
このようにステップS103における予備充電完了後からステップS107の初期昇圧開始前までの間に電流測定部11により測定されたフィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値を用いてフィルタ用コンデンサ31の静電容量Cを計算し、フィルタ用コンデンサ31の静電容量Cと基準値との比較結果に基づいて、フィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。ステップS103における予備充電完了後からステップS107の初期昇圧開始前までの検査期間中は、PWMコンバータ2のスイッチング素子のスイッチング動作は行われないことからフィルタ用コンデンサ31に流れる電流には高周波リプル電流は発生しないので、フィルタ用コンデンサ31の静電容量を正確に求めることができ、ひいてはフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を正確に判定することができる。本開示の一実施形態によれば、PWMコンバータ2の起動時に自動的にフィルタ用コンデンサ31の劣化を判定するので、従来のように作業者がフィルタの交流入力側の電源を一旦遮断したうえで自らテスターを用いてフィルタ用コンデンサ31の静電容量を測定して劣化の有無を判断する必要がない。このように本開示の一実施形態によれば、フィルタ用コンデンサ31の劣化を容易に検出することができる。
【0066】
上述の実施形態では、フィルタ用コンデンサ31の静電容量と基準値の対象の比較に基づいて、フィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定していた。この変形例として、計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量の初期値に対する割合と基準値との比較結果に基づいて、フィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定してもよい。
【0067】
図4は、本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける、フィルタ用コンデンサの静電容量を用いた劣化判定処理の変形例を示すフローチャートである。図4のフローチャートでは、一例として、検査期間については、DCリンクコンデンサ7の予備充電完了時点から初期昇圧開始時点までの期間に設定している。
【0068】
図4のステップS101~S105については、図3において説明したステップS101~S105と同じである。
【0069】
ステップS105に続くステップS109において、判定部13は、計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量をフィルタ用コンデンサ31の静電容量初期値で除算して得られる値(すなわち計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量についての、静電容量初期値に対する割合)と基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0070】
ステップS109において判定部13による判定処理に用いられるフィルタ用コンデンサ31の静電容量初期値は、例えば、フィルタ用コンデンサ31の出荷時もしくは製造時に測定された静電容量、PWMコンバータ2の出荷時もしくは製造時に測定されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量、PWMコンバータ2の製造後に一番最初に駆動した時に測定されたフィルタ用コンデンサ31の静電容量、フィルタ用コンデンサ31の静電容量の公称値、などがある。
【0071】
ステップS109において判定部13による判定処理に用いられる基準値は、フィルタ3の動作に必要な最低限の静電容量、フィルタ用コンデンサ31が破損する直前の静電容量、フィルタ用コンデンサ31のメーカが規定する静電容量の公差の範囲を逸脱した静電容量、あるいは、フィルタ用コンデンサ31のメーカ推奨の安全に使用可能な静電容量の下限値などを考慮して、フィルタ用コンデンサ31の静電容量初期値に対する割合よりも例えば数パーセントから十数パーセント程度低い値に設定される。ここで示した数値例はあくまでも一例であって、これ以外の値であってもよい。なお、基準値については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、基準値を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0072】
ステップS109において、フィルタ用コンデンサ31の静電容量Cをフィルタ用コンデンサの静電容量初期値で除算して得られる値が、基準値を下回ったと判定された場合はフィルタ用コンデンサ31は劣化しているのでステップS108へ進む。ステップS109において、フィルタ用コンデンサ31の静電容量Cをフィルタ用コンデンサの静電容量初期値で除算して得られる値が基準値を下回ったと判定されなかった場合はステップS107へ進む。判定部13による判定結果はアラーム出力部15及び制御部9へ送られる。
【0073】
図4のステップS107及びS108については、図3において説明したステップS107及びS108と同じである。
【0074】
このように本変形例においても、フィルタ用コンデンサ31の劣化を容易に検出することができる。
【0075】
第2の形態では、計算部12は劣化判定用パラメータとしてフィルタ用コンデンサ31の誘電正接を算出し、判定部13は、フィルタ用コンデンサ31の誘電正接と所定の基準値との比較結果に基づいてフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する
【0076】
図5は、コンデンサの誘電正接を説明する図である。
【0077】
図5に示すように、フィルムコンデンサなどからなるフィルタ用コンデンサ31は、静電容量Cと等価直列抵抗ESRと等価直列インダクタンスESLで表すことができる。フィルタ用コンデンサ31には、誘電損失、並びに電極及び導線の抵抗成分による抵抗損失が発生する。フィルタ用コンデンサ31に印加される電圧と流れる電流との位相差は、理想的には90度であるが、これら損失の影響により位相遅れが生じ、90度からずれる。この遅れの角度(損失角)を誘電正接またはtanδ(タンジェントデルタ)という。フィルムコンデンサの劣化が進むと誘電正接tanδは大きくなる。計算部12は、電流測定部11により測定された電流の測定値Iと電圧測定部14により測定された電圧の測定値Vとを用いて、劣化判定用パラメータとしてのフィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδを計算する。計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδは、判定部13に送られる。判定部13は、計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδと基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0078】
図6は、本開示の一実施形態によるコンデンサ劣化検出装置及びこれを備えるコンバータシステムにおける、フィルタ用コンデンサの誘電正接を用いた劣化判定処理を示すフローチャートである。図6のフローチャートでは、一例として、検査期間については、DCリンクコンデンサ7の予備充電完了時点から初期昇圧開始時点までの期間に設定している。
【0079】
図6のステップS101~S104については、図3において説明したステップS101~S104と同じである。
【0080】
ステップS110において、計算部12は、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流の測定値I及び電源電圧の大きさV及び電源電圧の周波数fの各値を用いて、劣化判定用パラメータとしてのフィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδを計算する。計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδの値は、判定部13へ送られる。
【0081】
ステップS111において、判定部13は、計算部12により算出されたフィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδと基準値との比較結果に基づきフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を判定する。
【0082】
ステップS111において判定部13による判定処理に用いられる基準値は、例えば、作業者が設定した任意の誘電正接、フィルタ3の動作に必要な最低限の誘電正接、フィルタ用コンデンサ31が破損する直前の誘電正接、フィルタ用コンデンサ31のメーカが規定する静電容量の公差の範囲を逸脱した誘電正接、あるいは、フィルタ用コンデンサ31のメーカ推奨の安全に使用可能な誘電正接の上限値などがある。なお、基準値については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、基準値を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0083】
ステップS111において、フィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδが基準値を上回ったと判定された場合はフィルタ用コンデンサ31は劣化しているのでステップS108へ進み、フィルタ用コンデンサ31の誘電正接tanδCが基準値を上回ったと判定されなかった場合はステップS107へ進む。判定部13による判定結果はアラーム出力部15及び制御部9へ送られる。
【0084】
図6のステップS107及びS108については、図3において説明したステップS107及びS108と同じである。
【0085】
このように本変形例においても、フィルタ用コンデンサ31の劣化を容易に検出することができる。
【0086】
以上説明したように、本開示の一実施形態によれば、従来のように作業者がフィルタの交流入力側の電源を一旦遮断したうえで自らテスターを用いてフィルタ用コンデンサ31の静電容量を測定して劣化の有無を判断する必要がない。本開示の一実施形態によれば、PWMコンバータ2の起動時に自動的にフィルタ用コンデンサ31の劣化を検出することができる。予備充電完了後から初期昇圧開始前までの検査期間中は、PWMコンバータ2のスイッチング素子のスイッチング動作は行われないことからフィルタ用コンデンサ31に流れる電流には高周波リプル電流は発生しないので、フィルタ用コンデンサ31に流れる電流に基づいてフィルタ用コンデンサ31の静電容量を正確に求めることができ、ひいてはフィルタ用コンデンサ31の劣化の有無を正確に判定することができる。
【0087】
なお、本開示の実施形態は、コンバータが、コンデンサを有するフィルタが交流側接続されるダイオード整流器である場合にも適用することができる。この場合。コンデンサ劣化装置1内の判定部13によりフィルタ用コンデンサ31が劣化したと判定された場合、ダイオード整流器の交流側に設けられる電磁接触器などの開閉装置を開状態にすることで、例えば、ダイオード整流器への交流電力の供給を遮断することで当該ダイオード整流器の電力変換を停止する。
【符号の説明】
【0088】
1 コンデンサ劣化検出装置
2 PWMコンバータ
3 フィルタ
4 交流電源
5 インバータ
6 モータ
7 DCリンクコンデンサ
8 予備充電回路
9 制御部
11 電流測定部
12 計算部
13 判定部
14 電圧測定部
15 アラーム出力部
31 フィルタ用コンデンサ
32 リアクトル
33 抵抗
41 充電抵抗
42 予備充電用スイッチ
100 コンバータシステム
1000 モータ駆動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6