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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】真空ポンプを停止させる方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20250115BHJP
   F04B 49/10 20060101ALI20250115BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04B49/10 331D
F04B49/10 331G
F04C25/02 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023536513
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2021085632
(87)【国際公開番号】W WO2022129009
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】2019818.0
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519286670
【氏名又は名称】エドワーズ エスエルオー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【弁理士】
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】ホーラー リチャード グリン
(72)【発明者】
【氏名】スメレク ペトル
(72)【発明者】
【氏名】キーチ イアン
(72)【発明者】
【氏名】シケット スティーヴン ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ハーキン リチャード リー
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-069666(JP,A)
【文献】特開2020-190230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 49/10
F04C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプのロータの回転を停止させる方法であって、
前記真空ポンプは、ロータ及びステータを含むポンプ室を備え、
前記方法を開始する前に、前記ロータは動作RPMで回転しており、
前記動作RPMは閾値RPMより大きく、前記ロータが前記ステータと衝突する比較的高い確率なしで、前記ロータを前記動作RPMから回転停止までコーストダウンさせることができないようになっており、
前記方法は、
a)前記ロータが前記ステータと衝突する確率が実質的にない中間RPMで、前記真空ポンプが閾値温度以下になるのに十分な滞留時間の間に前記ロータを回転させるステップであって、前記中間RPMは前記閾値RPM以下である、ステップと、
b)その後、回転停止まで前記ロータの回転をコーストダウンさせるステップと、
を含み、
前記閾値RPMは、前記ロータが前記ステータと衝突する確率が実質的にない状態で、回転停止まで前記ロータをコーストダウンさせることができる熱定常状態における最高回転速度であり、
前記閾値温度は、前記ロータが、熱定常状態において前記閾値RPMで回転している場合の前記真空ポンプの温度である、方法。
【請求項2】
前記真空ポンプは、前記真空ポンプの温度を測定するように構成された温度センサを備え、前記方法は、前記滞留時間の間に前記温度センサを介して前記真空ポンプの温度を測定し、前記温度が前記閾値温度以下であるか否かを判定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記滞留時間の間、前記温度センサを介して前記真空ポンプの温度を所定の時間間隔で測定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記温度センサによって測定された前記真空ポンプの温度が前記閾値温度以下になる時点でのみ、前記中間RPMから回転停止までの前記ロータの回転のコーストダウンを開始させるステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記温度センサは、前記ロータ又は前記ステータ温度を測定するように構成されている、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)の間、前記ロータは、所定の滞留時間の間に中間RPMで回転する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の滞留時間は、600秒以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記真空ポンプは、コントローラを備え、前記方法は、前記コントローラへの単一のユーザ入力によって開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記真空ポンプは、前記真空ポンプの温度を低下させるように構成された冷却システムを備え、前記方法は、前記真空ポンプの温度を低下させるために前記冷却システムを作動させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記閾値RPMは、5000RPMから8000RPMである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
真空ポンプのロータの回転を停止させる方法であって、
前記真空ポンプは、ロータとステータを含むポンプ室を備え、前記ロータは回転しており、熱定常状態にあり、
前記方法は、
a)前記真空ポンプの温度を測定するステップと、
b)前記ロータが閾値RPMより大きい動作RPMで回転しているか否かを判定するステップと、
c)もし前記ロータが前記閾値RPMより大きい動作RPMで回転していれば、請求項1から10のいずれか1項に記載に方法によって前記ロータの回転を停止させるステップと、
を含み、
前記閾値RPMは、熱定常状態における最高回転速度であり、ここでは、前記ロータは、前記ステータと衝突する確率が実質的になしで、前記ロータを回転停止までコーストダウンさせることができる、方法。
【請求項12】
ロータ、ステータを含むポンプ室と、前記ロータの回転速度を制御するように構成されたコントローラとを備える真空ポンプであって、
前記ロータ及び前記ステータは、その間の最小距離が、動作中に前記ロータが閾値RPMを超えて回転し、回転停止までコーストダウンする場合に、前記ロータが前記ステータと衝突する確率が比較的高いことになるように配置され、
前記閾値RPMは、前記ロータが前記ステータと衝突する確率が実質的になしで、回転停止まで前記ロータをコーストダウンさせることができる熱定常状態おける最高回転速度であり、
前記ロータの回転速度が前記閾値RPMよりも大きい動作RPMから低下される動作時、前記コントローラは、前記ロータが前記ステータと衝突する確率が実質的にない中間RPMまで前記ロータの回転速度を低下させ、前記真空ポンプが閾値温度以下になるのに十分な滞留時間の間、前記中間RPMでの回転速度を保持するように構成され、前記中間RPMは、前記閾値RPM以下であり、
前記コントローラは、前記滞留時間の後、回転停止まで前記ロータの回転をコーストダウンさせるように構成されており、前記閾値温度は、前記ロータが熱定常状態において前記閾値RPMで回転しているときの前記真空ポンプの温度である、真空ポンプ。
【請求項13】
前記ロータ及び/又は前記ステータの温度を測定するように構成された温度センサをさらに備える、請求項12に記載の真空ポンプ。
【請求項14】
前記ロータの温度を低下させるように構成された冷却システムをさらに備える、請求項12又は13に記載の真空ポンプ。
【請求項15】
前記ポンプは、多段真空ポンプである請求項12又は13に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関し、詳細には、真空ポンプのロータの回転を止める(すなわち停止させる)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプ又は圧縮機ポンプの構成要素を製造する場合、全ての製造された構成要素と同様に、同じ構成要素の個々のユニット間で物理的寸法のわずかなばらつきが生じる場合がある。これらの製造公差は、一般に、内在的なものであり、避けられないものであるが、一般に、可能な限り低減される。製造業者は、製造公差が最小の構成要素を提供することによる生産コストと効率と、それが最終的に組み立てられたポンプ又は圧縮機にもたらす利点とのバランスをとることができる。許容できる製造公差は、構成要素とその用途によって異なる場合がある。
【0003】
製造公差の低減は、ポンプ又は圧縮機の使用時に他の構成要素に対して相対移動する構成要素、例えばポンプのロータブレード又はローブにとって特に重要である。公差の低減により、可動構成要素をその間の距離を小さくして配置することができ、ポンプの効率が向上する。
【0004】
これは、スクリューポンプ、ルーツポンプ、クローポンプなどの乾式真空ポンプでは、ロータとステータとの間の主ポンプ室が潤滑されないので特に重要である。潤滑がないことは、真空システムの汚染を減少させる上で有益であるが、潤滑がないため、ポンピング効率を向上させるためには、ロータとステータの間のクリアランスをさらに小さくする必要がある。
【0005】
クリアランスが小さくなると、ロータがステータ又は他のロータと衝突する可能性が高くなる。このようなロータの衝突は、ポンプを停止させるだけでなく、関連するロータ及び/又はステータに損傷を与える可能性がある。
【0006】
本発明者らは、多くのポンプ、例えば多段ルーツポンプにおいて、ポンプが使用中に受ける熱サイクルにより、相対移動する構成要素の間に追加の間隔が必要となる場合があることを見出している。ポンプによってもたらされる熱は、ポンプの構成要素の熱膨張を引き起こす。ポンプ内の異なる構成要素は異なる材料を含むので、構成要素の熱膨張率は異なる場合がある。ポンプ内の構成要素の熱膨張率が異なることの影響として、ポンプ内の隣接する構成要素の間の間隔が温度の変化によって変化し、構成要素が互いに対して事実上移動する可能性がある。
【0007】
ポンプが「冷間始動」されると、すなわち真空ポンプによってロータの回転が周囲温度(例えば25℃)で開始されると、ロータは実質的にポンプ上流方向に変位する。この変位は、部分的には回転力効果と、ロータシャフトが回転可能に取り付けられている軸受の沈降(settling)によるものである。また、この変位は、部分的にポンプ方向に沿ってポンプ室内に発生する内圧勾配に起因する。一般的には、変位は、約100μm未満、好ましくは約50μm未満、例えば20μm未満である。
【0008】
従って、各段のロータが隣接する上流側仕切り壁(すなわちステータ)と衝突するのを防止するために、上流側軸方向クリアランスは、最適なポンプ効率に必要なクリアランスよりも大きい場合がある。一般的に、従って、より大きな上流側軸方向クリアランスは、「冷間始動」時のロータの変位よりも大きい。
【0009】
上述のように、ポンプが使用されるとポンプの温度が上昇し、ポンプ内の構成要素の熱膨張を引き起こす場合がある。本発明者らは、ポンプの温度が上昇すると、ロータがステータに対して実質的に下流側ポンプ方向に変位する場合があることを見出した。これは、部分的には、構成要素の形状の違いによって生じるポンプの構成要素の熱膨張の違いに起因する場合がある。また、異なる熱膨張係数を有する異なる材料を含む異なる構成要素に部分的に起因する場合もある。一般的には、ロータとステータは異なる材料を含み、例えば、ステータはアルミニウムを含み、ロータは鉄を含む。従って、アルミニウム製ステータの熱膨張率は、鉄製ロータの熱膨張率よりも大きい場合がある。
【0010】
例示的に、本発明者らは、熱限界付近で運転されている一部のポンプにおいて、ロータがステータに対して実質的に下流側ポンプ方向に最大約150μm、あるいは最大約250μm変位する場合があることを見出している。
【0011】
ポンプがオフになると、ロータの回転速度は、回転が停止するまで低下する場合がある。この停止までの減速は、コーストダウン(coasting down、惰性低下)と呼ばれることがある。一般に、ロータは停止するまで自由回転するが、制動(例えばモータ制動)を行うこともできる。コーストダウンには約120秒未満、好ましくは約60秒未満、例えば約20秒かかる。
【0012】
ポンプがコーストダウンする場合、ロータの回転速度の低下は非線形である場合がある。ポンプがオフになった直後は、圧力勾配がポンプ内に依然として存在し、ロータの回転慣性が比較的高いままであるため、ロータの回転速度の変化率は、最初は小さい場合がある。しかしながら、圧力勾配が小さくなると、ロータの抗力が増大するため、ロータの回転速度の減少率が大きくなる場合がある。最後に、ロータが停止に近づくと、ロータの回転速度の減少率は再び低下する。
【0013】
ポンプ室内の圧力勾配が減少すると、ロータは実質的に下流側ポンプ方向に変位する場合がある。
【0014】
ポンプの温度が、ロータにステータに対して実質的に下流側ポンプ方向に変位するようにさせるようにポンプが作動している場合、ロータがコーストダウンすると、圧力勾配の減少によってロータが下流方向にさらに変位する場合がある。このロータの下流方向へのさらなる変位により、ロータが下流のステータと衝突する場合がある。ロータとステータとの間の衝突は、ロータとステータとの直接接触と規定することができ、ロータ及び/又はステータに損傷を与える可能性がある。ポンプの1又は2以上の構成要素は、修理及び/又は交換を必要とする場合があり、結果的に、衝突は、そのような修理/交換が行われるまでロータのさらなる回転を妨げる場合がある。
【0015】
特定の用途、例えば半導体製造工程に使用される場合、一部のポンプは使用中にポンプ室内に粒子状物質の蓄積を呈する場合がある。ポンプの動作が停止され、構成要素が熱収縮すると、この粒子状物質はポンプ室のロータと隣接するステータとの間で圧縮される場合がある。ポンプが「冷間始動」されると、圧縮された粒子状物質とロータとの間の摩擦の増大により、ロータの回転を開始するのに必要なトルクが増大する場合がある。場合によっては、必要なトルクがポンプの運転トルクを超え、始動に失敗することがある。
【0016】
この始動時の問題を解決するために、ポンプの停止中に粒子状物質をパージするための様々な機構が知られている。例えば、国際公開第2004/038222号には、ポンプ機構の運転を停止し、ポンプ機構の温度を監視し、予め選択された温度間隔でポンプ機構の運転を開始してポンプチャンバ内から汚染粒子状物質をパージし、最後にポンプ機構の運転を停止することを含む、自動化された運転停止シーケンスが開示されている。
【0017】
このような方法による運転停止は、ポンプ室内に堆積した粒子状物質をパージすることを可能にし、それによりそのような粒子状物質がポンプ機構のロータとステータの間で圧縮されないことを保証する。これにより、始動時の問題を回避することができる。
【0018】
欧州公開第1900943号には、ポンプ室内の粒子状物質を除去するための代替方法が開示されている。この方法は、ポンプ機構の回転速度を予め設定された閾値速度以下まで低下させ、回転速度を一定期間保持し、ロータと隣接するステータとの間から蓄積された粒子状物質をパージし、その後ポンプ機構の回転を停止することを含む。この場合も、ロータとステータとの間のクリアランスに粒子状物質が蓄積して圧縮されるのを防ぐことができる。従って、ポンプ機構の冷間始動時に必要なトルクの増大が回避される。
【0019】
欧州公開第2048365号には、ポンプ停止動作が行われた後、ポンプの回転を停止する前に、所定のタイミングパターンに従ってポンプロータを正転方向及び/又は逆転方向に回転させる機構が開示されている。同様に、この機構は、ロータとステータとの間のクリアランスの粒子状物質をパージしてその圧縮を防止する。
【0020】
これらの開示の各々は、ロータとステータとの間のクリアランスの粒子状物質の圧縮によって引き起こされる真空ポンプのトルク増大起動問題を防止することを目的としている。しかしながら、いずれの開示も、回転停止中にロータがステータと衝突するという、より深刻な問題を特定していない。
【0021】
現在のところ、使用中の衝突のリスクを低減するために、構成要素の間の公称間隔は、公差累積と熱サイクル/膨張の両方を考慮している。しかしながら、構成要素の間の間隔、特にロータとステータとの間の間隔を大きくすると、ポンプ効率が著しく低下する。これらの問題は、特に真空ポンプのサイズが小さい場合に、効率損失がポンプ全体の性能に大きな影響を及ぼすので関連する。このことは、ポンピング性能に悪影響を及ぼし、ポンプによって達成可能な最終ポンプ圧を低下させる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】国際公開第2004/038222号
【文献】欧州公開第1900943号
【文献】欧州公開第2048365号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、ポンプの効率に対する熱膨張の影響に対処する継続的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、従来技術の上記及び他の問題を解決することを目的とする。
【0025】
従って、第1の態様において、本発明は、真空ポンプのロータの回転を止める(すなわち、停止させる)方法を提供する。真空ポンプは、ロータ及びステータを含むポンプ室を備える。
【0026】
本方法を開始する前に、ロータは動作RPM(回転毎分)で回転している。動作RPMは閾値RPMより大きく、ロータがステータと衝突する比較的高い確率なしで、ロータを動作RPMから回転停止(すなわち停止)までコーストダウンさせることはできない。
【0027】
本方法は、ロータがステータと衝突する可能性が実質的にない中間RPMで、真空ポンプが閾値温度以下になるのに十分な滞留時間の間、ロータを回転させるステップを含む。その後、回転停止までロータをコーストダウンさせる。
【0028】
中間RPMは閾値RPM以下である。
【0029】
有利には、本発明者らは、本発明による方法が、その後真空ポンプがオフにされた場合にロータとステータが衝突するリスクを著しく低減することを見出している。本方法による滞留時間の間に中間RPMでロータを回転させることは、ポンプ内に十分な圧力勾配が維持される一方でポンプ温度が低減されることが保証され、その結果、衝突を引き起こす可能性がある、構成要素が熱的に変位する間のロータの著しい下流側変位を防止することができる。さらに、この温度に依存する衝突メカニズムの影響が実質的に回避されるため、各ロータと隣接する下流側ステータとの間のクリアランスを低減することができ、ポンプ効率が向上する。
【0030】
好ましくは、本発明による方法を使用することにより、真空ポンプのロータ及びステータは、その間の最小距離(すなわちクリアランス)が動作中にロータが閾値RPMを超えて回転し、回転停止までコーストダウンした場合にロータがステータと衝突する確率が比較的高くなるようなものであるように、配置することができる。
【0031】
本発明において、閾値RPMは、ロータがステータと衝突する確率が実質的になく、回転停止までロータをコーストダウンさせることができる熱定常状態における最高回転速度である。当業者であれば、閾値RPMは、例えば真空ポンプの特定のタイプ、ステータに対するロータの配置、ロータとステータとの間の最小クリアランス、真空ポンプの構成要素の材料、真空ポンプの構成要素の冷却速度など、多数の要因に依存し得ることを理解できるはずである。
【0032】
閾値温度は、ロータが熱定常状態において閾値RPMで回転している場合の真空ポンプの温度である。
【0033】
発明において、真空ポンプのロータの回転を停止させるとは、ロータが実質的に静止するまで、すなわち約0RPMの速度で回転するまで、ロータの回転速度を低下させることを意味する。約0RPM回転は、停止したとみなされる。このような回転停止は、一般的には、メンテナンスのために又は使用の間など、ポンプをオフすることに関連する場合がある。
【0034】
一般的に、コーストダウンの間は、ロータは停止するまで自由に回転するが、制動を行うこともできる。一般に、コーストダウン時には、モータはもはやロータを駆動しないことになる。
【0035】
本発明において、「ロータがステータと衝突する」とは、ロータとステータが直接接触することと定義することができる。一般的に、ロータは、ステータと衝突する際に回転することができる。衝突時、ロータとステータとの間の摩擦及び衝突がロータの回転を停止させる。ステータと衝突するロータは、ロータ及び/又はステータに損傷を与える場合がある。衝突により、ポンプの1又は2以上の構成要素の修理及び/又は交換が必要になる場合がある。
【0036】
ロータとステータとの間の衝突は、ロータとステータとの間のロック係合(locking engagement)を引き起こす場合がある。このようなロック係合は、ロータがステータに接触して結合し、ロータの回転の焼き付きを引き起こすことに起因する場合がある。衝突時にロック係合が発生すると、ロータ及び/又はステータに修復不可能な損傷を与え、真空ポンプの大幅な停止時間につながる場合がある。アルミニウム又はアルミニウム合金を含むロータ及び/又はステータは、衝突時のロック係合の影響を特に受けやすい。
【0037】
本発明において、「ロータがステータと衝突する比較的高い確率」とは、その特定のRPMからのコーストダウン時に、ロータがステータと衝突する確率が約1%より大きいこと、好ましくはロータがステータと衝突する確率が約5%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約10%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約20%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約30%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約40%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約50%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約60%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約70%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約80%より大きいこと、より好ましくはロータがステータと衝突する確率が約90%より大きいことと定義することができる。最も好ましくは、その特定のRPMからのコーストダウン時に、ロータがステータと衝突する確率は約99%より大きい。
【0038】
「ステータと衝突するロータ」は、ステータ上に堆積した粒子状物質に接触するロータを除外することができる。
【0039】
本発明において、「ロータがステータと衝突する確率が実質的にない」とは、その特定のRPMからのコーストダウン時に、ロータがステータと衝突する確率が約0.1%未満、より好ましくは約0.01%未満であることと定義することができる。好ましくは、ロータは、真空ポンプの寿命の間、又は修理の間に、ステータと衝突しないことになる。
【0040】
ロータとステータとの間の衝突に関連する潜在的に深刻な結果のため、当業者は、中間RPMからロータの回転をコーストダウンさせる場合に、「ロータがステータと衝突する確率が実質的にない」のとは対照的に、「ロータがステータと衝突する確率が比較的高い」と決定される場合があることを理解できるはずである。ロータとステータとの間の衝突は、真空ポンプを損傷させ、真空ポンプが接続される処理ツールを損傷させる場合もある。従って、先行技術の真空ポンプは、ロータがステータと衝突する確率が実質的にないように動作する。動作RPMから回転停止までロータをコーストダウンさせる際に衝突が発生する確率が1%であっても、容認できないと見なされるであろう。もちろん、衝突が発生する確率が高ければ、さらに許容できない。本発明は、先行技術の方法では回避されてきたであろう、閾値RPMを超える動作RPMでロータを回転させることを可能にする。また、本発明の方法は、ロータとステータとの間のクリアランスを、ロータが動作RPMから回転停止までコーストダウンされる場合に、それによってロータとステータとの間で比較的高い確率で衝突が発生する大きさまで小さくすることができる。
【0041】
さらに、「ロータがステータと衝突する確率が比較的高い」とは、動作RPMが閾値RPMを超える大きさに応じた衝突発生の確率の変動を含むように広く定義することができる。動作RPMが閾値RPMを超える大きさが大きいほど、動作RPMから回転停止までロータをコーストダウンさせた場合に、ロータとステータとの間に発生する衝突の確率が高くなる。
【0042】
本発明において、熱定常状態とは、ロータの温度が実質的に一定になるまで、例えば少なくとも1分間、約±0.1℃未満で変化するまで、ロータの回転を特定の回転速度(RPM)で保持したときの真空ポンプの温度と定義することができる。
【0043】
真空ポンプは、乾式真空ポンプとすることができる。好ましくは、乾式真空ポンプは、ルーツポンプ、より好ましくは多段ルーツポンプである。例えば、真空ポンプは、Edwards Vacuum社製のnXRi乾式多段ルーツポンプ又はnXLi乾式多段ルーツポンプとすることができる。
【0044】
ポンプ室は、1又は2以上のロータ及び/又はステータを収容することができる。好ましくは、ポンプ室は、1又は2以上のロータ及び/又はステータを実質的に取り囲む外壁によって画定することができる。
【0045】
真空ポンプは複数のロータを備えることができる。好ましくは、1又は2以上のロータは、1又は2以上のロータシャフト上に配置される。各ロータは、ロータシャフトと共に回転するように配置されたマルチローブピストンを備えることができる。好ましくは、各ロータは、2-、3-、4-、又は5-ローブピストンを備える。好ましくは、真空ポンプの各ロータは実質的に同一の寸法を有する。
【0046】
好ましくは、真空ポンプのロータは、ロータ段に構成することができる。各ロータ段は、第1のロータシャフト上に配置された第1のロータと、第2のロータシャフト上に配置された対応する第2のロータとを備えることができる。第1及び第2のロータシャフトは実質的に平行とすることができる。使用時、第1及び第2のロータシャフトは、反対方向に回転するように構成することができる。第1及び第2ロータのローブの回転経路は、第1又は第2のロータが接触することなく重なり合う。
【0047】
典型的には、ポンプ室の外壁は、流体がポンプ室に流入することができる入口を備えることができる。ポンプ室の外壁は、流体がポンプ室から流出することができる出口をさらに備えることができる。典型的には、ポンプ入口は、ポンプ室の第1の端部にあるか又はそれに向かうことができ、及び/又はポンプ出口は、ポンプ室の第2の端部にあるか又はそれに向かうことができる。典型的には、ポンプが使用される場合、ポンプ入口は、排気室及び/又はさらなる真空ポンプに接続することができる。
【0048】
ポンプが使用される場合、ポンプ方向は、真空ポンプを通って流れる流体の大部分が流れることができる方向として定義することができる。典型的には、出口は、ポンプ方向において入口から実質的に下流側に位置する。
【0049】
上記から逸脱することなく、ポンプ入口は、使用中に流体がポンプ方向に対して実質的に垂直な方向で主室に入るように構成することができる。追加的に又は代替的に、ポンプ出口は、使用中に流体がポンプ方向に対して実質的に垂直な方向で主室から出るように構成することができる。有利には、このことは、ポンプの小型化を可能にすることができる。
【0050】
典型的には、真空ポンプは、使用時に1又は2以上のロータを回転駆動するように構成されたモータ、典型的には電気モータをさらに備えることができる。典型的には、モータはポンプ室の外部に配置される。モータは、各ロータシャフトに結合することができる。あるいは、各ロータシャフトは別個のモータに結合することができる。
【0051】
好ましくは、ポンプは複数のロータ段を備えることができる。複数のロータ段は、第1及び/又は第2のロータシャフトの長さに沿って配置することができる。ロータ段は、仕切り壁(すなわちステータ)によって分離することができる。仕切り壁は、隣接するロータ段の間の流体接続を可能にする接続ダクトを備えることができる。
【0052】
典型的には、ポンプは約1から約10のロータ段、好ましくは約2から約8のロータ段を備えることができる。ロータ段の数はポンプのタイプに依存する場合がある。
【0053】
典型的には、1又は2以上のロータは金属製であり、例えば鉄又はその合金から作られている。
【0054】
典型的には、1又は2以上のステータは金属製であり、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金で作られている。
【0055】
1又は2以上のステータは、仕切り壁の形態とすることができ、好ましくは、各ステータは仕切り壁とすることができる。典型的には、仕切り壁は、隣接するロータ段の各ロータ間に配置することができる。
【0056】
ポンプの動作時、ロータ(複数可)の動作RPMは、約5000RPMから約16000RPM、好ましくは約6000RPMから約16000RPM、より好ましくは約12000RPMから約15000RPMとすることができる。
【0057】
典型的には、中間RPMは閾値RPM以下である。好ましくは、中間RPMは動作RPMの約半分の回転速度であり、好ましくは動作RPMの約25%から約75%、より好ましくは動作RPMの約40%から約60%である。
【0058】
典型的には、真空ポンプは、真空ポンプの温度を測定するように構成された温度センサを備える。本方法は、滞留時間中に温度センサを介して真空ポンプの温度を測定し、温度が閾値温度以下であるか否かを判定するステップをさらに含むことができる。典型的には、真空ポンプの温度は、真空ポンプのロータの温度を指す。
【0059】
典型的には、温度センサはロータの温度を直接測定するように構成されているが、ロータの温度を推測できる真空ポンプの構成要素、例えばステータ及び/又はロータシャフトの温度を測定するように構成することもできる。好ましくは、温度センサはステータの温度を測定するように構成されている。
【0060】
ポンプの動作時、ポンプ(例えばロータ)の温度は約50℃から約150℃、好ましくは約70℃から約120℃である。これは動作温度と呼ぶことができる。動作温度は概して定常状態である。当業者であれば、動作時の真空ポンプの温度は、周囲温度、ロータの回転速度などの要因に依存することを理解できるはずである。
【0061】
動作温度は、ロータが熱定常状態において動作RPMで回転している場合のポンプ(例えばロータ又はステータ)の温度である。好ましくは、ポンプの温度が動作温度である場合、ロータがステータと衝突する比較的高い確率なしで、ロータを動作RPMから回転停止までコーストダウンさせることはできない。誤解を避けるため、ロータがステータと衝突する比較的高い確率とは、本明細書で上記した通りである。
【0062】
典型的には、閾値温度は、動作温度より約10℃から約70℃だけ低く、好ましくは約20℃から約50℃だけ低い。
【0063】
実施形態において、ポンプは複数の温度センサを含むことができる。各温度センサは、真空ポンプの異なる構成要素の温度を測定するように構成することができる。好ましくは、各温度センサは、真空ポンプの異なる段の温度を測定するように構成することができる。より好ましくは、各温度センサは、真空ポンプの異なる段のステータの温度を測定するように構成することができる。
【0064】
追加的に又は代替的に、ポンプは、モータ又はその構成要素の温度を測定するように構成された温度センサを含むことができる。
【0065】
典型的には、温度センサはサーミスタとすることができる。
【0066】
有利には、温度センサを介して真空ポンプ(ロータ)の温度を測定することは、ポンプが閾値温度以下になるとすぐに回転停止までの回転のコーストダウンを開始することができるので、本方法の効率を向上させることができる。
【0067】
実施形態において、真空ポンプ(ロータ)の温度は、滞留時間の間に所定の時間間隔で温度センサを介して測定することができる。好ましくは、所定の時間間隔は、毎秒又はそれ未満である。好ましくは、所定の時間間隔は約0.5秒未満、より好ましくは約0.1秒未満である。あるいは、真空ポンプ(ロータ)の温度は、実質的に連続的に測定することができる。
【0068】
有利には、温度センサを介して真空ポンプの温度を所定の時間間隔で又は実質的に連続的に測定することにより、真空ポンプの温度が閾値温度以下になり、回転停止までのロータの回転のコーストダウンまでの時間を短縮することができる。これは、本方法の効率をさらに向上させることができる。
【0069】
本方法は、温度センサによって測定された真空ポンプの温度が閾値温度以下になる時点でのみ、中間RPMから回転停止までのロータの回転のコーストダウンを開始するステップをさらに含むことができる。
【0070】
有利には、真空ポンプの温度が閾値温度以下になった時点でのみ、中間RPMから回転停止までのロータの回転のコーストダウンを開始することで、ロータがステータと衝突する確率が実質的にないことを保証することができると共に、時間効率及びエネルギー効率の良いコーストダウンプロセスを提供することができる。さらに、このような方法は、使用時にロータが回転していた動作RPMに関係なく、回転停止時にロータがステータと衝突する確率が実質的にないことを保証する。従って、このような方法は、ポンプの動作条件に適応する柔軟性を提供する。
【0071】
有利には、真空ポンプ、好ましくはロータ又はステータを介して、最も好ましくはステータを介して、真空ポンプの温度を測定することにより、ロータとステータの衝突が回避されるか否かをより正確に決定することができる。これは、回転停止時の衝突を引き起こすのは、主としてロータ及びステータの熱膨張の差であるからである。
【0072】
あるいは、ロータは、所定の滞留時間の間に、中間RPMで回転することができる。所定の滞留時間は、特定のポンプ構成に応じて選択することができる。好ましくは、所定の滞留時間は、滞留時間が所定の滞留時間の終了時までに真空ポンプの温度が閾値温度未満になるのに十分であることを保証するように決定することができる。
【0073】
この方法は、真空ポンプがオフになった場合に自動的に実行することができる。従って、ユーザはこのプロセスが使用されていることに気づかない可能性がある。これは、本発明による他の方法にも同様に適用することができる。
【0074】
当業者であれば、閾値温度及び/又は閾値RPM、及び/又は所定の滞留時間は、有限要素解析及び/又は実験によって決定することができることを理解できるはずである。
【0075】
ロータを中間RPMで所定の滞留時間回転させることは、本方法を有利に単純化することができる。加えて、所定の滞留時間で動作させることは、温度センサを必要とせず、真空ポンプのコストを削減できる可能性がある。
【0076】
典型的には、所定の滞留時間は約0秒から約600秒、好ましくは約30秒から約480秒とすることができる。
【0077】
典型的には、真空ポンプはコントローラを備える。動作RPMから回転停止までロータをコーストダウンさせる方法は、コントローラへの単一のオペレータ入力によって開始することができる。好ましくは、一旦開始されると、コントローラは本発明の方法を自動的に実行することができる。
【0078】
典型的には、コントローラはモータに接続することができる。コントローラは、ロータの回転速度を制御するように構成することができる。好ましくは、コントローラは、真空ポンプの1又は2以上の温度センサに接続することができる。
【0079】
コントローラは、温度センサ(複数可)によって生成された信号に応答してロータの回転速度を制御するように構成することができる。コントローラは、温度センサによって測定された温度を所定の温度値、例えば閾値温度と比較し、モータに信号を送ることによって適宜ロータの回転速度を調整するように構成することができる。
【0080】
好ましくは、本発明による方法が一旦開始されると、温度センサは、真空ポンプの温度を示す信号をコントローラに送ることができる。この信号は、実質的に連続的に又は所定の時間間隔で送ることができる。
【0081】
好ましくは、コントローラは表示装置に接続される。表示装置は、スクリーンを備えることができる。
【0082】
好ましくは、コントローラは、ユーザがコマンドを入力できるように構成することができる。コマンドの入力は、スイッチ、タッチスクリーン、又は他の手段を介して行うことができる。好ましくは、本発明による方法は、コントローラへの単一のユーザ入力、例えばスイッチによって開始することができる。有利には、これにより、本方法は、ユーザによる最初の入力の後、完全に自動的に実行することができる。これは、ユーザエラーの可能性を低減し、本方法の効率を向上させることができる。
【0083】
典型的には、真空ポンプは、真空ポンプ(例えばロータ及び/又はステータ)の温度を低下させるように構成された冷却システムを備える。本方法は、真空ポンプの温度を低下させるために冷却システムを作動させるステップを含むことができる。好ましくは、本方法は、ロータが中間RPMで回転している場合に、冷却システムを開始すること又は冷却システムの冷却性能を高めることをさらに含むことができる。
【0084】
真空ポンプの動作時、ロータを回転駆動するモータは熱を発生する。この熱は、真空ポンプの構成要素の熱膨張を引き起こす場合がある。
【0085】
冷却システムは、冷却ファン及び/又は流体冷却システムを備えることができる。流体冷却システムは水冷システムとすることができる。
【0086】
冷却システムは、動作時にモータを冷却するように構成することができる。追加的に又は代替的に、冷却システムは、真空ポンプの1又は2以上のロータの温度を低下させるように構成することができる。
【0087】
冷却システムが冷却ファンを備える実施形態では、冷却システムの冷却速度を増加させることは、冷却ファンの回転速度を増加させることを含むことができる。冷却システムが流体冷却システムを備える実施形態では、冷却システムの冷却速度を増加させることは、流体流量を増加させることを含むことができる。
【0088】
典型的には、本発明による方法の間、ロータの回転速度が低下すると、冷却システムの冷却速度を増加させることができる。有利には、冷却システムによる真空ポンプの温度の低下は、真空ポンプの温度が閾値温度未満になるのに必要な滞留時間を短縮することができる。これは、本発明の方法によるロータの回転停止を達成するのに必要な時間を短縮することができる。
【0089】
典型的には、冷却システムは、冷却システムの動作がコントローラによって制御されるように、コントローラに接続することができる。有利には、これは、冷却システムの動作を自動化し、コントローラを介して本方法を開始する以外のユーザ入力を必要としないようにすることができる。
【0090】
実施形態において、冷却システムの冷却効果は、ロータが閾値RPMよりも大きい回転速度で回転している間に増大させることができ、それにより、真空ポンプの温度を、回転停止までロータの回転をコーストダウンさせることができる閾値温度未満まで低下させることができる。
【0091】
好ましくは冷却システムを動作させながら、ロータの回転速度を閾値RPM以下の中間RPMまで低下させることにより、真空ポンプの冷却速度を増加させることができる。従って、本発明による方法は、真空ポンプのロータ(複数可)の回転のより高速かつよりエネルギー効率の良い停止を可能にする。
【0092】
典型的には、閾値RPMは、ロータの最大回転速度の約30%から約70%、好ましくはロータの最大回転速度の約40%から約50%である。例えば、閾値RPMは、約5000RPMから約8000RPM、好ましくは約6000RPMから約7500RPMとすることができる。当業者であれば、閾値RPMは、本方法が適用される特定のポンプ及び/又はポンプが使用される特定の用途に依存する場合があることを理解できるはずである。さらに、当業者であれば、動作RPMがロータの最大回転数以下とすることができることを理解できるはずである。
【0093】
さらなる態様において、本発明は、真空ポンプのロータの回転を停止させる方法を提供する。真空ポンプは、ロータとステータとを含むポンプ室を備える。ロータは動作RPMで、熱定常状態で回転している。
【0094】
本方法は、真空ポンプ(ロータ)の温度を測定するステップと、真空ポンプの温度から、ロータが閾値RPMより大きい動作RPMで回転しているか否かを判定するステップとを含む。動作RPMが閾値RPMより大きい場合、ロータの回転は、上記の態様で規定された方法に従って停止され、そうでない場合、ロータは、中間RPMでの滞留時間なしで動作RPMから停止するまでコーストダウンされる。
【0095】
閾値RPMは、熱定常状態における最高回転速度であり、ここでは、ロータは、ロータがステータと衝突する確率が実質的になしで、ロータを回転停止までコーストダウンさせることができる。
【0096】
有利には、本方法は、ロータが閾値RPMよりも大きい動作RPMで回転している場合にのみ、上記の態様による方法が使用されるのを保証することができる。ロータが閾値RPMより小さい動作RPMで回転している場合、ロータがステータと衝突する確率は実質的にゼロである。従って、上記の態様に示したような方法は必要なく、ロータの回転は、滞留時間の間にロータを中間RPMで回転させることなく停止させることができる。有利には、これは、真空ポンプのロータの回転停止が可能な限り効率的に行われることを保証することができる。上述したように、冷却システムは、真空ポンプ(例えばロータ)の温度を閾値温度以下にするために使用することができる。
【0097】
好ましくは、真空ポンプ(例えばロータ)の温度は、1又は2以上の温度センサを用いて測定される。
【0098】
さらなる態様において、本発明は真空ポンプを提供する。真空ポンプは、ロータ、ステータを含むポンプ室と、ロータの回転速度を制御するように構成されたコントローラとを備える。
【0099】
ロータ及びステータは、その間の距離が、動作中にロータが閾値RPMを超えて回転し、回転停止までコーストダウンする場合に、ロータがステータと衝突する確率が比較的高いことを保証するように配置される。閾値RPMは、ロータがステータと衝突する確率が実質的になしで、回転停止までロータをコーストダウンさせることができる熱定常状態における最高回転速度である。
【0100】
ロータが閾値RPMより大きい動作RPMからコーストダウンされる動作時、コントローラは、ロータがステータと衝突する確率が実質的にない中間RPMまでロータの回転速度を低下させ、真空ポンプが閾値温度以下になるのに十分な滞留時間の間、中間RPMで回転速度を保持するように構成されている。中間RPMは閾値RPM以下である。コントローラは、滞留時間の後、回転停止までロータの回転をコーストダウンさせるように構成されている。
【0101】
閾値温度は、ロータが閾値RPMで回転しているときの真空ポンプ(例えばロータ)の熱定常状態での温度である。
【0102】
真空ポンプは、真空ポンプの温度を低下させるように構成された冷却システムをさらに備えることができる。
【0103】
冷却システムは、冷却ファン及び/又は流体冷却システムを備えることができる。流体冷却システムは、水冷システムとすることができる。好ましくは、冷却システムは冷却ファンを備える。
【0104】
冷却システムは、動作時にモータを冷却するように構成することができる。有利には、冷却システムを使用した真空ポンプの温度の低下は、真空ポンプの温度が閾値温度以下になるのに必要な滞留時間を短縮することができる。結果として、これは、ロータの回転停止を達成するのに必要な時間を短縮することができる。
【0105】
典型的には、冷却システムは、コントローラが冷却システムの動作を制御するように、コントローラに接続することができる。有利には、これは、冷却ファンの動作を自動化し、コントローラを介して回転停止を開始すること、例えば「オフ」コマンドを押すこと以外のユーザ入力を必要としないようにすることができる。
【0106】
典型的には、ポンプは多段真空ポンプである。好ましくは、ポンプは多段ルーツポンプである。例えば、ポンプは、Edwards Vacuum社製のnXLi乾式多段ルーツポンプ又はnXRi乾式多段ルーツポンプとすることができる。
【0107】
さらなる態様において、本発明は、ロータとステータを含むポンプ室と、ロータの回転速度を制御するように構成されたコントローラとを含む真空ポンプを提供する。ロータとステータは、その間の最小距離が、動作中にロータが閾値RPMを超えて回転し、回転停止までコーストダウンする場合に、ロータがステータと衝突する確率が比較的高いことになるように配置される。
【0108】
閾値RPMは、ロータがステータと衝突する確率が実質的になしで、回転停止までロータをコーストダウンさせることができる熱定常状態における最高回転速度である。ポンプは、真空ポンプの温度を測定するように構成された温度センサを含むことができる。コントローラは、温度センサに接続することができる。
【0109】
ロータが閾値RPMより大きい動作RPMからコーストダウンされる動作時、コントローラは、ロータがステータと衝突する確率が実質的にないような変化率でロータの回転速度を低下させるように構成されている。これは、温度センサが、所定の時間ごとに又は実質的に連続的に、温度信号をコントローラに送ることによって達成することができる。
【0110】
誤解を避けるために、「ロータがステータと衝突する確率が比較的高い」及び「ロータがステータと衝突する確率が実質的にない」は、本明細書で定義したとおりである。
【0111】
コントローラは、温度センサから受け取った温度信号を、所定のロータ回転速度vsポンプ閾値温度と比較することができる。最大ロータ回転速度vs温度閾値は、ロータがステータと衝突する確率が実質的にない状態で、ロータ回転速度を回転停止までコーストダウンさせることができる、各ロータ回転速度での最大許容熱定常状態ポンプ温度を決定することができる。好ましくは、真空ポンプの測定温度が所定のロータ回転速度vsポンプ温度の閾値を上回る場合、コントローラはロータの回転の減少速度を遅くすることになる。
【0112】
誤解を避けるために、本明細書に記載された態様及び実施形態の特徴を組み合わせることができ、これは依然として本発明の範囲に含まれる。
【0113】
本発明の好ましい特徴は、以下に例示的に添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1a】従来技術によるポンプの動作の概略を示す。
図1b】従来技術によるポンプの動作の概略を示す。
図1c】従来技術によるポンプの動作の概略を示す。
図1d】従来技術によるポンプの動作の概略を示す。
図2a】本発明によるポンプの動作の概略を示す。
図2b】本発明によるポンプの動作の概略を示す。
図2c】本発明によるポンプの動作の概略を示す。
図2d】本発明によるポンプの動作の概略を示す。
図3】本発明によるポンプの動作方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0115】
図1(a)から図1(d)は、従来技術によるポンプの概略を示す。各図は、真空ポンプのロータ段(1)の断面図である。
【0116】
ロータ段(1)は、ロータシャフト(3)に取り付けられたロータ(2)を備える。ロータシャフト(3)は、ポンプ方向(A)に実質的に平行である。ポンプ方向(A)は、ポンプ使用中のバルク流体の流れ方向を規定する。ポンプ方向(A)は、ポンプ入口(図示せず)とポンプ出口(図示せず)との間の方向を規定することができる。ロータ段(1)は、一対のステータ(4、5)をさらに備える。一対のステータは、上流側ステータ(4)及び下流側ステータ(5)を含む。用語「上流側」及び「下流側」は、特定のロータに対する各ステータの相対的な位置を定義する。上流側ステータ(4)及び下流側ステータ(5)の各々は、段間仕切り壁の形態とすることができる。
【0117】
図1(a)は、ポンプがオフの場合の、すなわちロータ(2)が一対のステータ(4、5)に対して回転していない場合のロータ段(1)の構成を示す。これは、ロータ段(1)内のロータ(2)の配置と、静止時のポンプ内のクリアランスを示す。
【0118】
ロータ(2)と上流側ステータ(4)との間には、ロータ(2)と上流側ステータ(4)との間の最小距離を規定する上流側ロータクリアランス(x)がある。ロータ(2)と下流側ステータ(5)との間には、ロータ(2)と下流側ステータ(5)との間の最小距離を規定する下流側ロータクリアランス(y)が存在する。一般に、ロータ(2)が一対のステータ(4、5)に対して回転していない場合、上流側ロータクリアランス(x)は下流側ロータクリアランス(y)よりも小さい。
【0119】
ポンプは、構成要素の製造公差を考慮して、ロータがステータに接触しないことを保証しながら、上流側ロータクリアランス(x)及び下流側ロータクリアランス(y)が比較的小さいように構成されている。これにより、真空ポンプの各ステージ間の流体漏れを低減することができる。
【0120】
ロータ(2)が静止している場合、ロータ段内の流体圧力は平衡状態にある、すなわちロータ段(1)の上流側端部とロータ段(1)の下流側端部との間の流体圧力に実質的な差はない。ロータ段(1)の上流側端部は、上流側ステータ(4)とロータ(2)との間と規定することができる。ロータ段(1)の下流側端部は、ロータ(2)と下流側ステータ(5)との間と規定することができる。
【0121】
図1(b)は、ポンプがオンになった場合、すなわち最初の20秒間の使用時のロータ段を示す。ポンプがオンになると、ロータ(2)はステータ(4、5)に対して回転軸(Z)を中心に回転する。
【0122】
ロータ(2)が回転すると、ロータ段(1)の上流側端部と下流側端部との間に圧力勾配が生じる。流体圧力は、ロータ段の上流側端部では低く、ロータ段の下流側端部では高くなる場合がある。従って、これはロータ(2)の位置をロータ段(1)の上流側端部に付勢することができる。
【0123】
さらに、回転力効果と、ロータシャフト(3)が回転可能に取り付けられている軸受(図示せず)の沈降は、ロータをロータ段(1)の上流側端部に向かって変位させる一因となる。
【0124】
ロータ(2)のロータ段(1)の上流側端部への変位は、図1(a)と比較して、上流側クリアランス(x)を減少させ、下流側クリアランス(y)を増加させる場合がある。
【0125】
このロータの上流側変位は、ロータ(2)がステータ(4)と衝突するリスクを最小化するためにポンプの設計時に考慮することができる要因でもある。
【0126】
図1(c)は、ポンプが動作し、ポンプ(ロータ)の温度が動作温度、例えば85℃まで上昇した場合のロータ段(1)を示す。動作温度は、閾値温度より高い。
【0127】
真空ポンプの温度が上昇すると、ロータ(2)及びステータ(4、5)が異なる材料で作られているため、ロータ(2)及びステータ(4、5)のそれぞれに熱膨張の差が生じている。これにより、事実上、ロータ(2)がロータ段(1)の下流側端部に向かって変位する。
【0128】
ロータ(2)がロータ段(1)の下流側端部に向かって変位することにより、図1(b)と比較して、上流側クリアランス(x)が増加し、下流側クリアランス(y)が減少する場合がある。
【0129】
図1(d)は、ロータ(2)の回転が停止された場合、ポンプ(ロータ)の温度が70℃を超える場合のロータ段(1)を示す。真空ポンプの温度は閾値温度を超えている。
【0130】
ロータ(2)の回転が停止すると、ロータ段(1)の上流側端部と下流側端部との間の圧力勾配が減少する。これは、ロータ(2)の位置がロータ段(1)の上流側端部に向かう付勢力を取り除き、ロータ段(1)の下流側端部に向かうロータ(2)のさらなる変位を引き起こす。図示のように、このさらなる変位によって、ロータ(2)は下流側ステータ(5)と衝突する。この衝突は、下流側クリアランス(y)が実質的にゼロになり、ロータ(2)とステータ(5)が直接接触するという結果を招くためである。
【0131】
この衝突は、機械の停止時間とともに、ロータ(2)及び/又はステータ(5)の損傷につながる可能性がある。
【0132】
図2(a)から図2(d)は、本発明によるポンプの動作の概略を示す。各図には、本発明によるポンプのロータ段(6)の断面図が示されている。
【0133】
図2(a)及び図2(b)は、図1(a)及び図1(b)と実質的に同じであり、ポンプ内の条件及び工程は同じであるので、説明は繰り返さない。ロータ段(6)は、ロータ(7)の回転速度を制御するように構成されたコントローラ(10)を備える。
【0134】
図2(c)は、ポンプが動作し、ポンプの温度が周囲温度(例えば20℃)を超えて動作温度、例えば85℃まで上昇した場合のロータ段(6)を示す。動作温度は閾値温度より高い。ロータ及びステータは、各々熱膨張係数の異なる材料から作られているので、それらの加熱により、事実上、ロータはロータ段(6)の下流側端部に向かって変位する。
【0135】
本発明による方法を使用してポンプをオフにすると、ロータ(7)の回転速度は動作RPMから中間RPMまで低下する。中間RPMは閾値RPM未満である。
【0136】
ロータ段(6)は、動作中にステータ(8、9)の温度を測定するように構成された温度センサ(11)をさらに備える。ロータの温度は、ステータの温度から推測することができる。
【0137】
ロータ(7)の回転速度は、滞留時間の間に中間RPMに保持される。滞留時間の間、温度センサ(11)は、ステータ(8、9)の温度を連続的に測定している。コントローラ(10)は、温度センサ(11)から受け取った温度信号を閾値温度と比較することができる。ステータ(8、9)の温度が、ロータが閾値温度以下(例えば70℃以下)に低下したことを示す場合、ロータ(7)の駆動は、ロータが停止するように(例えばコーストダウンするように)除去することができる。
【0138】
図2(d)は、ロータ(7)の回転が停止している場合のロータ段(6)を示す。図示のように、ロータ(7)の回転が停止するまでのコーストダウン中、ロータ(7)とステータ(8、9)との間に衝突はない。
【0139】
図2(c)と図2(d)との間では、下流側クリアランス(y)がわずかに減少しているが、ロータ(7)とステータ(9)との間の衝突を引き起こすほどではない。
【0140】
ポンプがさらに冷却されると、ポンプは図2(a)に示す構成に戻り、ほぼ周囲温度(例えば20℃)で元の構成に達することになる。
【0141】
図3は、本発明によるポンプの動作方法のフローチャートを示す。最初に、真空ポンプのロータの回転を停止させる方法の開始前に、ロータは動作RPMで回転している(12)。動作RPMは閾値RPMよりも大きく、ロータは、ロータがステータと衝突する比較的高い確率なしで、動作RPMから回転停止までコーストダウンさせることができないようになっている。
【0142】
次に、本方法は、中間RPMでロータを回転させるステップを含む(13)。中間RPMで回転させると、ロータがステータと衝突する可能性は実質的にない。中間RPMは閾値RPM以下である。閾値温度は、ロータが閾値RPMで回転しているときの真空ポンプの熱定常状態の温度である。ロータは、真空ポンプが閾値温度以下になるのに十分な滞留時間の間、中間RPMで回転される。
【0143】
本方法は、冷却システムを起動するステップをさらに含むことができる(14)。冷却システムは、真空ポンプの温度を低下させるように構成することができる。好ましくは、温度センサは、ロータ又はステータの温度を測定するように構成されている。
【0144】
本方法は、滞留時間の間に温度センサを介して真空ポンプの温度を測定するステップをさらに含むことができる(15)。温度は、滞留時間の間に所定の時間間隔で温度センサを介して測定することができる。好ましくは、所定の時間間隔は、毎秒又はそれ未満である。
【0145】
本方法は、回転停止までロータの回転をコーストダウンするステップを含む(16)。
【0146】
特許法に基づいて解釈される添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、示された実施形態に様々な変更を加えることができることを理解されたい。
【符号の説明】
【0147】
1 ロータ段(先行技術)
2 ロータ(先行技術)
3 ロータシャフト(先行技術)
4 ステータ(先行技術)
5 ステータ(先行技術)
6 ロータ段
7 ロータ
8 ステータ
9 ステータ
10 コントローラ
11 温度センサ
12 ロータを動作RPMで回転させる
13 ロータを中間RPMで回転させる
14 冷却システムを起動する
15 温度センサで真空ポンプの温度を測定する
16 回転停止までロータの回転をコーストダウンする
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3