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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20250116BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20250116BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20250116BHJP
   F02F 11/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
F16J15/10 X
F16J15/12 K
C09K3/10 E
C09K3/10 Z
F02F11/00 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020108251
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003251
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】新井 博之
(72)【発明者】
【氏名】内田 健二
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】侯 召民
(72)【発明者】
【氏名】西浦 正芳
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-545017(JP,A)
【文献】特許第2767862(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/177110(WO,A1)
【文献】特開2013-209460(JP,A)
【文献】特開平08-247292(JP,A)
【文献】国際公開第2012/168151(WO,A1)
【文献】特開2021-190343(JP,A)
【文献】特開2016-058138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00- 15/14
C09K 3/10- 3/12
F02F 5/00
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材と部材との間に挟持されるとともに開口穴が穿設された基板と、上記基板の開口穴を囲繞するように設けられた樹脂製のシール部とを有するガスケットにおいて、
上記シール部は、下記化学式1で表される極性オレフィンモノマーの構造単位を含む第1ポリマー材と、複数の環状分子を鎖状分子が貫通したポリロタキサンからなる第2ポリマー材とを含み、
(化1)CH=CH-R-Z(R
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、Rは置換または無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である)
上記第1ポリマー材に対し、上記第2ポリマー材を50%未満の割合で添加したことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
上記第2ポリマー材としてのポリロタキサンは、環状分子としてのシクロデキストリンと、鎖状分子としてのポリエチレングリコールとから構成される分子の集合体であることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
上記シール部に対し、直径5mmのSUS304製の円柱状治具を80Nの荷重で20秒間押し付け、当該円柱状治具を0.1mm/sの速度で上方に移動させた際における、上記円柱状治具に対して作用するはりつき荷重が5N以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスケットに関し、詳しくは基板に設けた開口部を囲繞するように樹脂製のシール部を設けたガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通路が形成された部材と部材との間に挟持されて、これらをシールするガスケットが知られ、このようなガスケットとして、基板に設けた開口部を囲繞するように加硫ゴム等からなる樹脂製のシール部を設けたものが知られている(特許文献1~4)。
このような樹脂製のシール部を備えたガスケットを上記部材と部材との間に挟持することで、上記シール部が圧縮されてシールを行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2767862号公報
【文献】特開昭61-043552号公報
【文献】特許第3467196号公報
【文献】特許第4069344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記ガスケットを挟持する部材に振動が作用すると、当該部材とガスケットとの接触部分の一部では圧縮方向に応力が作用し、その他の部分においてガスケットと部材との離隔方向に応力が作用することとなる。
上記特許文献1等に記載された加硫ゴム等からなるシール部を備えたガスケットの場合、圧縮方向に応力が作用した場合には、弾性変形することで上記応力を吸収し、シール性を維持することができる。
しかしながら、離隔方向に応力が作用した場合、フッ素ゴムからなるシール部は製造時の成形高さまでしか復元できないため、それ以上相手部材が離隔するとシール部は追従できずに相手部材より離隔し、いわゆる口開き状態となってシール不良が発生する。
このような問題に鑑み、本発明は相手部材とガスケットとの離隔による口開きに良好に対処することが可能なガスケットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるガスケットは、部材と部材との間に挟持されるとともに開口部が穿設された基板と、上記基板の開口部を囲繞するように設けられた樹脂製のシール部とを有するガスケットにおいて、
上記シール部は、下記化学式1で表される極性オレフィンモノマーの構造単位を含む第1ポリマー材と、複数の環状分子を鎖状分子が貫通したポリロタキサンからなる第2ポリマー材とを含み、
(化1)CH=CH-R-Z(R
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、Rは置換または無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である)
上記第1ポリマー材に対し、上記第2ポリマー材を50%未満の割合で添加したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明にかかるガスケットによれば、後述する実験の結果、相手部材が離隔しても、元の成形高さを超えて変形して相手部材に追従する垂直剥離性を備えていることが確認され、口開きに対して良好なシール性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施例にかかるガスケットの平面図
図2】上記ガスケットのII―II部の断面図
図3】第1ポリマー材の構造を説明する図
図4】第2ポリマー材の構造を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は本実施例にかかるガスケット1の平面図を示し、図2図1におけるII―II部の断面図を示している。
本実施例のガスケット1は図示しない2つの部材の間に挟持されるようになっており、例えば自動車のエンジンを構成するヘッドとブロックとの間に挟持されて、これらに形成された通路を流通するガスをシールするものとなっている。
上記ガスケット1は一枚の金属基板2と、上記相手部材に形成された通路の位置に合わせて金属基板2に穿設された開口穴3と、上記開口穴3に隣接した位置に穿設された複数のボルト穴4と、上記金属基板2の上面および下面の両面に形成されて、上記開口穴3を囲繞する樹脂製のシール部5とから構成されている。
上記シール部5は断面形状が略半円状に形成されており、このシール部5の高さや幅については、ガスケット1の使用態様に応じて適宜変更することが可能である。
また本実施例のガスケット1としては、複数枚の金属基板2によって形成されていてもよく、また上記シール部5の内周側や外周側の隣接した位置に、上記開口部を囲繞する凸形状からなるビード形状を設けてもよい。
【0009】
本実施例のような、開口穴3の周囲に樹脂製のシール部5が形成されたガスケット1は、上記特許文献1に記載されているように従来公知となっている。
ここで、特許文献1のように上記シール部5がフッ素ゴムによって構成されている場合、上記ガスケット1が上記相手部材と相手部材との間に挟持されると、上記シール部5が弾性圧縮されながら相手部材に密着し、上記通路を流通するガスのシールを行うことができる。
しかしながら、エンジンの振動等によって相手部材と相手部材とが相互に傾くと、その傾きによってガスケット1の接触部分の一部が離隔しようとする。
この離隔量が少なく、上記ガスケット1のシール部5が弾性変形状態から復元して相手部材との接触状態を維持できる範囲であれば、シール状態を維持することができる。
しかしながら、相手部材がガスケット1から過剰に離隔し、シール部5が形成された際の高さよりも離隔してしまうと、シール部5はこれ以上相手部材に密着した状態を維持できないこととなる。
すると、ガスケットの一部が相手部材から離脱した口開き状態となり、この口開きとなった部分から上記ガスが漏れ出てしまい、シール不良が発生する。
このような問題に対し、本実施例のガスケット1は、相手部材との離隔量が大きくなった場合であっても、シール部5がこれに追従して口開きによるシール不良が発生しないようにしたものとなっている。
【0010】
以下、上記シール部5について説明すると、上記シール部5は、下記化学式1で表される極性オレフィンモノマーからなる第1ポリマー材と、複数の環状分子を鎖状分子が貫通したポリロタキサンからなる第2ポリマー材とを含んだ樹脂によって構成されている。
(化1)CH=CH-R-Z(R
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換または無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、Rは置換または無置換の炭素数2~20のヒドロカルビレン基である)
【0011】
上記化学式1で示す第1ポリマー材は、エチレン-アニシルプロピレン共重合体であり、図3に示すように、アニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニット11が柔らかい成分として存在し、これとともにエチレン-エチレン連鎖のユニット12(図示点線部分)が硬い成分として共存した構造を有している。
上記構成を有する第1ポリマー材は、上記エチレン-エチレン連鎖のユニット12が架橋点として働くことにより、エラストマー物性を発現するようになっており、そのほかにも、切断による乱雑さを平衡化するよう、分子間相互作用で修復する性質を有したものとなっている。
またアニシル基のR基は様々に置換可能であり、例えばt-Bu基のような嵩高い置換基に代えることで、室温では硬いプラスチック状に、加熱によりエラストマー物性を示すように、ポリマーの熱物性を制御することが可能となっている。
【0012】
上記第1ポリマー材としては、上記化学式1で表される極性オレフィンモノマーの構造単位に、さらに少なくとも1種の非極性オレフィンモノマー(例えばエチレン)の構造単位を含む共重合体であってもよい。
また、上記第1ポリマー材としては、上記少なくとも1種の上記化学式1で表される極性オレフィンモノマーの構造単位と上記少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの構造単位との交互配列と、上記少なくとも1種の非極性オレフィンモノマーの重合配列とを含んでいてもよい。
上記第1ポリマー材中の全構造単位に対する極性オレフィン構造単位の割合が20mol%以上であってもよい。
上記第1ポリマー材の数平均分子量が、2.0×10以上であってもよく、数平均分子量が5.0×10以上4.0×10以下であることが好ましい。またガラス転移点が-30℃以上10℃以下であることが好ましい。
【0013】
上記極性オレフィンモノマーとしては、下記化学式2で表される極性オレフィンモノマーであってもよい。
(化2)
(式中、Zは窒素、酸素、リン、硫黄、及び、セレンからなる群から選ばれるヘテロ原子であり、Rは置換又は無置換の炭素数1~30のヒドロカルビル基であり、nはZの原子種に応じた1又は2の整数であり、Rは炭素数1~5のヒドロカルビレン基であり、Rはハロゲン原子、炭素数1~10のヒドロカルビル基、炭素数1~10のアルキルチオ基、炭素数1~10のアルキルアミノ基、又は、炭素数1~10のアルコキシ基であり、Rがヒドロカルビル基であるときは結合して縮合環を形成していてもよく、mは0~4の整数である。)
上記化学式2の極性オレフィンモノマーとしては、2-アリル-4-フルオロアニソール、2-アリル-4,5-ジフルオロアニソール、2-アリル-4-メチルアニソール、2-アリル-4-tert-ブチルアニソール、2-アリル-4-へキシルアニソール、2-アリル-4-メトキシアニソール、3-(2-メトキシ-1-ナフチル)-1-プロピレンなどの置換2-アリルアニソール(以下、「AP」とも称する);無置換の2-アリルアニソール(3-(2-アニシル)-1-プロピレン)(以下、「AP」とも称する);などが考えられる。
【0014】
そのほかにも、上記第1ポリマー材としては、下記化学式3に示す(III)または(IV)で表される構造単位を少なくとも含む共重合体であってもよい。
(化3)
(式中、R、R、R、Z、m及びnは、上記化学式2のそれぞれと同義であり、x及びyは、共重合体の全配列中における各構造単位の割合(モル比率)を示し、x>0、y>0、x>y、80%≦x+y≦100%(例えば、xは、30モル%以上、又は40モル%以上である。また、例えば、x+yは、85%以上、90%以上、95%以上又は97%以上である。)を満足する正の数である。)
具体例として、下記実験で用いた理化学研究所が作成した第1ポリマー材は、Zが酸素原子、Rがメチル基、nが1、mが0、Rがメチレン基であり、xが40モル%程度、yが60モル%程度のポリマーであって、数平均分子量は9万程度、ガラス転移点は-5℃程度であった。
なお、上記第1ポリマーとしては、上記構造のポリマーに限定されるものではなく、例えば、R1としてメチル基以外の置換基に替えたものも使用可能である。また、数平均分子量が5万以上40万以下の範囲で、且つガラス転移点が-30℃以上10℃以下であることがシール材としての機能発現が可能である。
これ以上の上記第1ポリマー材の詳細については、国際公開WO2019/177110号や、Haobing Wang, Yang Yang, Masayoshi Nishiura, Yuji Higaki, Atsushi Takahara, Zhaomin Hou, ”Synthesis of Self-Healing Polymers by Scandium-Catalysed Co-polymerization of Ethylene and Anisylpropylenes”, J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 7, 3249-3257に開示されている。
【0015】
上記第2ポリマー材は、図4に示すように、複数の環状分子13が鎖状分子14によって貫通された、ポリロタキサンと呼ばれる分子集合体によって構成され、鎖状分子14としてのポリエチレングリコールに、環状分子13としてのシクロデキストリンを導入したものとなっている。
本実施例において、上記鎖状分子14としては、上記ポリエチレングリコールを使用することができ、また鎖状分子14は分子量10000~40000程度のものを使用している。
上記環状分子13としてのシクロデキストリンとは、グルコピラノース単位がα-1、4-グルコシド結合により、環状に連なった化合物となっており、当該シクロデキストリンの空洞外部は親水性、内部は疎水性を有していることから、空洞内部に疎水性分子を取り込んだ包接化合物を形成することが知られている。
上記構成を有する第2ポリマー材は、上記環状分子13が上記鎖状分子14に沿って移動可能となっており、また上記シクロデキストリンには多数の水酸基が存在していることから、この水酸基を架橋点(図示点線部分)として、他の組の環状分子13と架橋し、鎖状の構造を形成するようになっている。
本実施例の第2ポリマー材は、アドバンストソフトマテリアルズ社のセルムス-パーポリマーSH1300Pとして入手可能となっている。
なお、上記第2ポリマー材の詳細については、A.Harada,J.Li,M.Kamachi,Nature 356,325(1992)に開示されている。
【0016】
そして本実施例における上記シール部5を構成する樹脂は、上記第1ポリマー材に対し、上記第2ポリマー材を50%未満の濃度で添加したものとなっている。上記濃度が50%を超えてしまうと、相手材への追従性が悪化してしまい、口開きが発生する恐れがある。
また上記樹脂からなるシール部を金属基板に形成する際、上記第1ポリマー材と第2ポリマー材とを混合した溶液を作成するために溶剤としてトルエンやケトン類を用いることが可能となっている。
そして作成した溶液を金属基板2にスクリーン印刷等の方法で塗布し、その後、溶液中のトルエンやケトン類が揮発することにより金属基板2上に上記シール部5を形成することができる。金属基板2上に上記シール部5を形成する工程として、加硫のための加熱処理が不要となっている。
【0017】
上記シール部5を構成する樹脂は、当該シール部5の所要の部分(実際の試験内容に記載を合わせます)に対し、直径5mmの円柱状治具を80Nの荷重で20秒間押し付け、その後当該円柱状治具を0.1mm/sの速度で上方に移動させた際における、上記円柱状治具に対して作用したはりつき荷重が5N以上となっている。
上記はりつき荷重はガスケット1と相手部材とが離隔した際における、シール部5が相手部材に追従する垂直剥離性を示し、0.1N未満であると口開きに対し良好なシール性を有さない。
【0018】
以下、本発明にかかるガスケットに使用した樹脂を用いた発明品と、当該発明品と比較するための比較品1、2とについて行った実験結果について説明する。
発明品には、上記実施例に記載した上記第1ポリマー材および第2ポリマー材を含む樹脂を用いた。具体的には、上記第1ポリマー材として上記国際公開WO2019/177110号の実施例に記載のP2と同様の方法、条件で作製した理化学研究所作成のものを使用し、置換基に水素原子が連結された平均分子量9万のものを使用した。
また上記第2ポリマー材としてアドバンストマテリアルズ社製のセルムスーパーポリマーSH1300Pを使用した。
このように準備した第1、第2ポリマー材を、上記第1ポリマー材に対し、上記第2ポリマー材を5%の濃度となるように添加し、さらに溶剤としてメチルエチルケトンを全重量の62%となるように混合して、溶液を作成した。
作成した溶液をスクリーン印刷の手段を用いて金属板上に塗布し、その後所定時間放置して溶液中のメチルエチルケトンを揮発させ、これにより金属板上に樹脂部分を形成した。
金属板上に形成した樹脂部分の寸法は、少なくとも25mm以上の面積を有しており、また厚さは1mmとした。
【0019】
比較品1は、上記発明品として金属板に形成した樹脂部分に代えて、フッ素ゴムを使用し、その他の樹脂部分の広さや厚さについては発明品と同じ寸法で作成した。
比較品2は、上記発明品として金属板に形成した樹脂部分に代えて、上記実施例で使用した第1ポリマー材を用いるが第2ポリマー材を含まない樹脂を使用し、その他の樹脂部分の広さや厚さについては発明品と同じ寸法で作成した。
【0020】
最初に、実験1として、上記発明品および比較品1、2に対し、以下の実験を行った。
実験では、常温において上記樹脂部分に対し、直径5mmのSUS304製の円柱状の治具を80Nの荷重で20秒間押し付け、その後当該治具を0.1mm/sの速度で垂直方向上方に移動させた。
そして上記治具を上方に移動させた際に、上記樹脂部分から当該治具に対して作用した応力をはりつき荷重として測定した。
その後、樹脂部分より離隔させた治具について、樹脂部分への密着部分に上記樹脂部分の破片等が付着しているか否かの確認を行った。
【0021】
上記実験装置を用いた実験の結果、上記はりつき荷重は、発明品が13.738N、比較品1が0N、比較品2が9.044Nであった。
まず比較品1は、治具が上方に離脱する際に圧縮変形状態から元の成形厚さまでは復帰するものの、それ以上は変形せずに直ちに治具から離脱したため、はりつき荷重は0Nとなった。
すなわち比較品1にかかるフッ素ゴムをシール部5としてガスケット1に用いた場合、相手部材がガスケット1から過剰に離隔した場合、上記口開きに対して十分なシール性が得られないものといえる。
これに対し、発明品および比較品2については、治具が離隔した際に元の成形高さを超えて変形し、治具に追従する垂直剥離性が確認された。これにより、発明品や比較品2にかかる樹脂をシール部5としてガスケット1に用いた場合、口開きに対してシール性を維持することができると推察される。
そして発明品と比較品2とを比較すると、発明品のほうが比較品2よりも約1.5倍程度の垂直剥離性が得られたことから、発明品にかかる樹脂をシール部5としてガスケット1に使用した際には、比較品2によりもさらに良好なシール性が得られるものと推察される。
続いて、発明品および比較品1、2より離隔させた治具の接触部分を観察したところ、発明品および比較品1、2のいずれの場合においても、治具に樹脂部分を構成していた破片等は見られなかった。
【0022】
実験2では、上述した垂直剥離性の見られた発明品および比較品2についてさらに実験を行った。
本実験においても実験1と同様、常温において上記金属板の表面に形成した樹脂部分に対し、直径11.3mm(面積100mm相当)のSUS304製の円柱状治具を200N、400N、600N、800Nの各荷重で20秒間押し付け、その後当該円柱状治具を0.1mm/sの速度で垂直方向上方に移動させて上記はりつき荷重を測定した。
発明品において、200N~800Nの各荷重を作用させた際のはりつき荷重は、それぞれ45.6N、47.2N、48.7N、49Nであった。
これに対し、比較品2において、200N~800Nの各荷重を作用させた際のはりつき荷重は、それぞれ32.8N、35.7N、36.8N、36.5Nであった。
この実験結果からも、発明品は比較品2よりも良好な垂直剥離性が得られていることが確認でき、発明品をガスケット1として使用した際、比較品2を用いた場合に比べて口開きに対する良好なシール性を得ることができると推察される。
【0023】
このように、上記発明品に使用した樹脂部分によって構成されるシール部5を備えたガスケット1によれば、相手部材が離隔した場合における口開きに対して良好にシール性を維持することができ、また以下の効果も得ることができる。
第1に、ガスケット1と相手部材とを離隔させた際、本実施例のシール部5を構成する樹脂が相手部材に残留しないことから、ガスケット1を交換する際に、相手部材から樹脂部分の破片の除去作業が不要となり、メンテナンス性が良い。
第2に、良好な垂直剥離性によってシール部5が相手部材へと追従することから、これまで複数枚の金属基板2を積層させて構成されていたガスケット1を、金属基板2の枚数を減らしたガスケット1に代えることができる。
この場合、各金属基板2にシール部5を形成してもよく、一部の金属基板2にのみシール部5を形成してもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 ガスケット 2 金属基板
3 開口穴 5 シール部
図1
図2
図3
図4