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特許7620185モルフォロジー探索装置、モルフォロジー探索方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】モルフォロジー探索装置、モルフォロジー探索方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 99/00 20190101AFI20250116BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20250116BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20250116BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20250116BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20250116BHJP
【FI】
G06N99/00 180
G01N33/44
G06F30/10
G06F30/27
G06N20/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021020102
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122696
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2024-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年6月30日、https://www.hpci-office.jp/、https://www.hpci-office.jp/pages/hpci-rep_r01_g-use/、https://www.hpci-office.jp/folders/news/、https://www.hpci-office.jp/pages/user_report_list_r01、https://www.hpci-office.jp/output/hp190034/outcome.pdf?1612500811、https://www.hpci-office.jp/output/hp190034/resume.pdf?1612500811 令和2年10月22日、https://www.nature.com/、https://www.nature.com/articles/s41598-020-75038-0、https://www.nature.com/articles/s41598-020-75038-0.pdf 令和2年10月30日(開催期間:令和2年10月29日~令和2年10月30日)、第7回「京」を中核とするHPCIシステム利用研究課題 成果報告会 ~「京」から「富岳」へ 新しいHPCI時代に向けて~(ポスターセッション)、オンライン開催
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆嗣
【審査官】佐藤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-162221(JP,A)
【文献】特開2007-122242(JP,A)
【文献】小石 正隆,インフォマティクスに基づいたゴム材料とタイヤの設計技術,シミュレーション,日本,小宮山印刷工業株式会社,2017年12月15日,第36巻,第4号,第66-68頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 99/00
G01N 33/44
G06F 30/10
G06F 30/27
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の材質を含む高分子材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを探索するモルフォロジー探索装置であって、
前記高分子材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成するモルフォロジーデータ生成手段と、
前記モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ前記高分子材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量を特定する部分物理量特定手段と、
前記複数の前記材料部分について特定される前記部分物理量に基づいて、前記高分子材料の全体の特性を表す全体物理量を特定する全体物理量特定手段と、
前記全体物理量が前記目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合に前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新することで前記目標に応じた前記高分子材料のモルフォロジーを探索するモルフォロジー探索手段と、
を含むことを特徴とするモルフォロジー探索装置。
【請求項2】
前記モルフォロジーデータ生成手段は、前記高分子材料に係る所与の制約条件を満足する前記モルフォロジーデータを生成し、
前記モルフォロジー探索手段は、前記制約条件を満足するよう前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新する、
ことを特徴とする請求項1に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項3】
前記制約条件は、各相の体積分率、介在物の相数又は個数、介在物の密度分布、のうちの少なくとも1つに係る条件である、
ことを特徴とする請求項2に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項4】
前記モルフォロジーが更新された際に、前記部分物理量特定手段は、モルフォロジーが更新された前記材料部分のみ前記部分物理量を新たに特定し、前記全体物理量特定手段は、前記材料部分については新たに特定された前記部分物理量が反映された、前記全体物理量を新たに特定する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項5】
前記モルフォロジー探索手段は、2つの前記材料部分のモルフォロジーが入れ替わるよう前記モルフォロジーデータを更新する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項6】
前記部分物理量と、前記材料部分に対応付けられる領域における前記モルフォロジー若しくは当該モルフォロジーに応じた当該材料部分の特徴と、の対応を示す参照データを複数記憶する参照データ記憶手段、をさらに含み、
前記部分物理量特定手段は、前記参照データに基づいて、前記部分物理量を特定する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項7】
前記部分物理量特定手段は、入力データの入力に応じて前記部分物理量を示す出力データを出力する学習済の機械学習モデルを用いて、前記部分物理量を特定する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項8】
前記高分子材料は、フィラー充填ゴムであり、
前記モルフォロジー探索手段は、前記フィラー充填ゴムに含まれるフィラーの位置又は当該位置に応じた変数を探索する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項9】
前記全体物理量が前記目標を達成する前記モルフォロジーデータに基づいて、前記高分子材料の全体の幾何的な特徴を表すパラメータデータを生成するパラメータデータ生成手段、をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のモルフォロジー探索装置。
【請求項10】
複数の材質を含む高分子材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを探索するモルフォロジー探索方法であって、
前記高分子材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成するステップと、
前記モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ前記高分子材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量を特定するステップと、
前記複数の前記材料部分について特定される前記部分物理量に基づいて、前記高分子材料の全体の特性を表す全体物理量を特定するステップと、
前記全体物理量が前記目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合に前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新することで前記目標に応じた前記高分子材料のモルフォロジーを探索するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータが実行するモルフォロジー探索方法。
【請求項11】
複数の材質を含む高分子材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを探索するコンピュータに、
前記高分子材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成する手順、
前記モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ前記高分子材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量を特定する手順、
前記複数の前記材料部分について特定される前記部分物理量に基づいて、前記高分子材料の全体の特性を表す全体物理量を特定する手順、
前記全体物理量が前記目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合に前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新することで前記目標に応じた前記高分子材料のモルフォロジーを探索する手順、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルフォロジー探索装置、モルフォロジー探索方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の材質を含む材料のモルフォロジー(例えば、フィラー充填ゴムのフィラーモルフォロジー)と、当該材料の特性を表す物理量と、の関係を解明するために、フィラーの凝集構造などといった材料のモルフォロジーをモデル化した分子動力学シミュレーションが行われている。
【0003】
分子動力学シミュレーションに関係する技術の一例として、特許文献1には、分子動力学シミュレーションを実行することで条件付き確率分布によってモデル化された確率論的時間発展モデルを生成する時系列データ生成装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、分子動力学法によるシミュレーションによって、高分子材料の破断の原因を解明することができる高分子材料のシミュレーション装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-91237号公報
【文献】特開2019-179310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、分子動力学シミュレーションを用いて、大規模なモデルで表現された材料について所望の目標を達成するモルフォロジーを探索するには、莫大な計算量を要する。例えば、当該モデルで表現されているフィラーの位置を少しずらして当該材料の全体の特性を表す物理量を再計算することを繰り返すことで目標に応じたモルフォロジーを探索した場合には、莫大な時間がかかってしまう。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的の一つは、複数の材質を含む材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを効率よく探索できるモルフォロジー探索装置、モルフォロジー探索方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るモルフォロジー探索装置は、複数の材質を含む材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを探索するモルフォロジー探索装置であって、前記材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成するモルフォロジーデータ生成手段と、前記モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ前記材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量を特定する部分物理量特定手段と、前記複数の前記材料部分について特定される前記部分物理量に基づいて、前記材料の全体の特性を表す全体物理量を特定する全体物理量特定手段と、前記全体物理量が前記目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合に前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新することで前記目標に応じた前記材料のモルフォロジーを探索するモルフォロジー探索手段と、を含む。
【0009】
本発明の一態様では、前記モルフォロジーデータ生成手段は、前記材料に係る所与の制約条件を満足する前記モルフォロジーデータを生成し、前記モルフォロジー探索手段は、前記制約条件を満足するよう前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新する。
【0010】
この態様では、前記制約条件は、各相の体積分率、介在物の相数又は個数、介在物の密度分布、のうちの少なくとも1つに係る条件であってもよい。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記モルフォロジーが更新された際に、前記部分物理量特定手段は、モルフォロジーが更新された前記材料部分のみ前記部分物理量を新たに特定し、前記全体物理量特定手段は、前記材料部分については新たに特定された前記部分物理量が反映された、前記全体物理量を新たに特定する。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記モルフォロジー探索手段は、2つの前記材料部分のモルフォロジーが入れ替わるよう前記モルフォロジーデータを更新する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記部分物理量と、前記材料部分に対応付けられる領域における前記モルフォロジー若しくは当該モルフォロジーに応じた当該材料部分の特徴と、の対応を示す参照データを複数記憶する参照データ記憶手段、をさらに含み、前記部分物理量特定手段は、前記参照データに基づいて、前記部分物理量を特定する。
【0014】
あるいは、前記部分物理量特定手段は、入力データの入力に応じて前記部分物理量を示す出力データを出力する学習済の機械学習モデルを用いて、前記部分物理量を特定する。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記材料は、フィラー充填ゴムであり、前記モルフォロジー探索手段は、前記フィラー充填ゴムに含まれるフィラーの位置又は当該位置に応じた変数を探索する。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記全体物理量が前記目標を達成する前記モルフォロジーデータに基づいて、前記材料の全体の幾何的な特徴を表すパラメータデータを生成するパラメータデータ生成手段、をさらに含む。
【0017】
また、本発明に係るモルフォロジー探索方法は、複数の材質を含む材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを探索するモルフォロジー探索方法であって、前記材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成するステップと、前記モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ前記材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量を特定するステップと、前記複数の前記材料部分について特定される前記部分物理量に基づいて、前記材料の全体の特性を表す全体物理量を特定するステップと、前記全体物理量が前記目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合に前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新することで前記目標に応じた前記材料のモルフォロジーを探索するステップと、を含む。
【0018】
また、本発明に係るプログラムは、複数の材質を含む材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを探索するコンピュータに、前記材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成する手順、前記モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ前記材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量を特定する手順、前記複数の前記材料部分について特定される前記部分物理量に基づいて、前記材料の全体の特性を表す全体物理量を特定する手順、前記全体物理量が前記目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合に前記モルフォロジーデータが示す少なくとも1つの前記材料部分のモルフォロジーを更新することで前記目標に応じた前記材料のモルフォロジーを探索する手順、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る探索装置の構成の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る探索装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
図3】全体領域の一例を模式的に示す図である。
図4】拡張部分領域の一例を模式的に示す図である。
図5】学習済の機械学習モデルを用いた部分物理量の特定の一例を模式的に示す図である。
図6】機械学習モデルの学習の一例を模式的に示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る探索装置で行われる処理の流れの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る探索装置1の構成の一例を示す図である。本実施形態に係る探索装置1では、複数の材質(例えば、介在物及び母材)を含む材料(不均質材料)についての所望の目標を達成するモルフォロジーの探索処理が実行される。探索処理の対象となる材料の例として、フィラーが充填されたゴム(フィラー充填ゴム)などが挙げられる。
【0022】
本実施形態に係る探索装置1は、パーソナルコンピュータやサーバコンピュータなどのコンピュータであり、例えば、プロセッサ10、記憶部12、通信部14、出力部16、操作部18を含んでいる。
【0023】
プロセッサ10は、例えば探索装置1にインストールされるプログラムに従って動作するCPU等のプログラム制御デバイスである。
【0024】
記憶部12は、例えばROMやRAM等の記憶素子やハードディスクドライブなどである。記憶部12には、プロセッサ10によって実行されるプログラムなどが記憶される。
【0025】
通信部14は、例えばネットワークボードなどの通信インタフェースである。
【0026】
出力部16は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスやスピーカ等の音声出力デバイスであって、プロセッサ10の指示に従って各種の画像を表示したり各種の音声を出力したりする。
【0027】
操作部18は、例えばキーボードやマウスなどといったユーザインタフェースであって、ユーザの操作入力を受け付けて、その内容を示す信号をプロセッサ10に出力する。
【0028】
なお、探索装置1は、DVD-ROMやBlu-ray(登録商標)ディスクなどの光ディスクを読み取る光ディスクドライブ、USB(Universal Serial Bus)ポートなどを含んでいてもよい。
【0029】
図2は、本実施形態に係る探索装置1で実装される機能の一例を示す機能ブロック図である。なお、本実施形態に係る探索装置1で、図2に示す機能のすべてが実装される必要はなく、また、図2に示す機能以外の機能が実装されていても構わない。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係る探索装置1には、機能的には例えば、目標設定部20、制約条件設定部22、モルフォロジーデータ生成部24、部分物理量特定部26、参照データ記憶部28、全体物理量特定部30、モルフォロジー探索部32、が含まれる。
【0031】
目標設定部20、制約条件設定部22は、プロセッサ10及び操作部18を主として実装される。モルフォロジーデータ生成部24、部分物理量特定部26、全体物理量特定部30、モルフォロジー探索部32は、プロセッサ10を主として実装される。参照データ記憶部28は、記憶部12を主として実装される。
【0032】
以上の機能は、コンピュータである探索装置1にインストールされた、以上の機能に対応する指令を含むプログラムをプロセッサ10で実行することにより実装されてもよい。このプログラムは、例えば、光ディスク、磁気ディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等のコンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体を介して、あるいは、インターネットなどを介して探索装置1に供給されてもよい。
【0033】
目標設定部20は、本実施形態では例えば、複数の材質を含む材料の特性を表す物理量における所与の目標を設定する。ここで、目標設定部20が、フィラー充填ゴムの特性を表す物理量における目標を設定してもよい。また、目標設定部20は、操作部18を介してユーザによって入力される目標を示す目標データを生成してもよい。
【0034】
ここで、目標データが示す目標の例としては、例えば、所与の物理量の最大化、所与の物理量の最小化、所与の物理量について近づけるべき目標値、所与の物理量の目標範囲、所与の物理量を示す値についての閾値(上限や下限)、などが挙げられる。また、所与の物理量としては、例えば、応力、ヤング率、ヒステリシス、周波数応答、粘弾性特性、エネルギー、などが挙げられる。
【0035】
制約条件設定部22は、本実施形態では例えば、上述のようにして目標が設定された材料に係る所与の制約条件を設定する。ここで例えば、制約条件設定部22は、操作部18を介してユーザによって入力される制約条件を示す制約条件データを生成してもよい。ここで、制約条件としては、例えば、各相の体積分率、介在物の相数・個数、介在物の密度分布、介在物の配合量などが挙げられる。上述の材料がフィラー充填ゴムである場合における制約条件としては、例えば、フィラーの体積分率、フィラー数、界面相の体積分率、フィラーの密度分布、フィラーの配合量などが挙げられる。
【0036】
モルフォロジーデータ生成部24は、本実施形態では例えば、上述の材料のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータを生成する。ここで、モルフォロジーデータ生成部24は、制約条件設定部22が生成する制約条件データが示す制約条件を満足するモルフォロジーデータを生成してもよい。モルフォロジーデータの例としては、分子動力学シミュレーションや連続体シミュレーションにおける当該材料の構造モデルを示すデータなどが挙げられる。例えば、モルフォロジーデータは、材料に含まれる母材(例えばポリマー)や介在物(例えばフィラー)の分子レベルでの位置・大きさ・形状を示すデータであってもよい。また、モルフォロジーデータは、介在物と母材との相互作用を示すデータであってもよい。
【0037】
また、モルフォロジーデータ生成部24は、本実施形態では例えば、材料のモルフォロジーを示す上述のモルフォロジーデータに基づいて、当該材料の一部である材料部分のモルフォロジーを示す部分モルフォロジーデータを複数の材料部分について生成する。
【0038】
図3は、モルフォロジーデータによってモルフォロジーが表現された材料の全体に相当する全体領域40の一例を模式的に示す図である。図3に示すように、本実施形態に係るモルフォロジーデータが三次元のデータであってもよい。
【0039】
そして、モルフォロジーデータ生成部24は、全体領域40を複数の部分領域42に分割する。
【0040】
複数の部分領域42のそれぞれは、例えば、立方体や直方体の形状であることが望ましい。また、複数の部分領域42の大きさはすべて同一であることが望ましい。
【0041】
また部分領域42は、統計的な誤差が小さいほど精度が上がるため、望ましくは各辺長が100ナノメートル以上に相当する長さであることが望ましい。また、全体領域40の大きさと部分領域42の大きさとの差が小さいと、後述のようにして各部分領域42について特定される物理量のバリエーションが小さくなるため、部分領域42は全体領域40の80%以下の寸法であることが望ましい。
【0042】
また、部分領域42は、当該材料がフィラー等の剛性が著しく大きい介在物を含む場合は、10個以上設定されることが望ましい。
【0043】
なお、図3には、互いに重複しない複数の部分領域42が示されているが、モルフォロジーデータ生成部24が、全体領域40に基づいて、互いに一部が重複する複数の部分領域42を決定するようにしてもよい。
【0044】
そして、モルフォロジーデータ生成部24は、部分領域42に対応する着目領域を特定する。
【0045】
ここで、部分領域42自体が当該部分領域42に対応する着目領域として特定されてもよい。
【0046】
また、図4に示すように、各部分領域42について、当該部分領域42を一部に含む領域が、当該部分領域42に対応する拡張部分領域44として特定されてもよい。図4の例では、部分領域42と中心の位置が同じであり、縦の長さ、横の長さ、高さ方向の長さがそれぞれ1倍より大きな所定倍である拡張部分領域44が示されている。そして、このようにして特定される拡張部分領域44が、当該部分領域42に対応する着目領域として特定されてもよい。
【0047】
また、各部分領域42について、当該部分領域42を中心とした複数の部分領域42(例えば、3×3×3=27個の部分領域42)の全体が、当該部分領域42に対応する着目領域として特定されてもよい。
【0048】
部分物理量特定部26は、本実施形態では例えば、モルフォロジーデータに基づいて、それぞれ当該材料の一部である複数の材料部分について、当該材料部分の特性を表す部分物理量(応答)を特定する。部分物理量の例としては、上述のように、応力、ヤング率、ヒステリシス、周波数応答、粘弾性特性、エネルギー、などが挙げられる。
【0049】
例えば、部分物理量特定部26は、複数の部分領域42について、モルフォロジーデータが示す当該部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーを特定してもよい。そして、部分物理量特定部26は、連続体シミュレーションや分子動力学シミュレーション等のコンピュータシミュレーションを実行することで、特定される着目領域のモルフォロジーに基づいて、当該部分領域42における所与の物理量を計算してもよい。そして、部分物理量特定部26は、計算される物理量を、当該部分領域42の部分物理量として特定してもよい。
【0050】
そして、部分物理量特定部26は、部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーを示す参照モルフォロジーデータと、当該部分領域42について計算された物理量を示す参照物理量データと、を含む参照データを生成してもよい。そして、部分物理量特定部26は、生成された参照データを、参照データ記憶部28に記憶させてもよい。
【0051】
そして、部分物理量特定部26は、参照データに基づいて、部分物理量を特定してもよい。例えば、部分物理量特定部26が、物理量の特定対象である部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーを示す参照モルフォロジーデータを含む参照データが参照データ記憶部28に記憶されているか否かを確認してもよい。そして、当該参照データが参照データ記憶部28に記憶されている場合は、部分物理量特定部26は、当該参照データに含まれる参照物理量データが示す物理量を、当該部分領域42の物理量として特定してもよい。当該参照データが参照データ記憶部28に記憶されていない場合は、上述のようにして、コンピュータシミュレーションを実行することで、当該部分領域42の物理量を特定してもよい。
【0052】
また、部分物理量特定部26は、物理量の特定対象である部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーに最も類似するモルフォロジーを示す参照モルフォロジーデータを含む参照データを特定してもよい。そして、部分物理量特定部26は、特定される参照データに含まれる参照物理量データが示す物理量を、当該部分領域42の物理量として特定してもよい。
【0053】
また、参照データに、モルフォロジーを示す参照モルフォロジーデータの代わりに、着目領域のモルフォロジーに応じた当該着目領域に対応する部分領域42についての材料部分の特徴を示す参照特徴データが含まれるようにしてもよい。ここで、参照特徴データが示す特徴の例としては、例えば、部分領域42における、各相の体積分率、介在物の相数・個数、介在物の密度分布、介在物の配合量、界面の厚さなどが挙げられる。
【0054】
参照データ記憶部28は、本実施形態では例えば、部分物理量と、材料部分に対応付けられる領域におけるモルフォロジー若しくは当該モルフォロジーに応じた当該材料部分の特徴と、の対応を示す参照データを複数記憶する。上述のように、参照データ記憶部28は、参照物理量データと参照モルフォロジーデータとを含む参照データを複数記憶してもよい。また、上述のように、参照データ記憶部28は、参照物理量データと参照特徴データとを含む参照データを複数記憶してもよい。
【0055】
上述のように、参照データ記憶部28に、新たなモルフォロジーについての参照データが生成される度に、生成された参照データが参照データ記憶部28に蓄積されていくようにしてもよい。また、本実施形態に係る探索に先立って、事前に様々なモルフォロジーについての参照データを生成しておき、これらの参照データが、参照データ記憶部28に記憶されるようにしてもよい。
【0056】
また、部分物理量特定部26が、物理量の特定対象である部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーに基づいて、当該部分領域42における上述の特徴を特定してもよい。そして、部分物理量特定部26が、特定される特徴を示す参照特徴データを含む参照データを特定してもよい。そして、部分物理量特定部26が、特定される参照データに含まれる参照物理量データが示す物理量を、当該部分領域42の物理量として特定してもよい。
【0057】
また、参照データ記憶部28が、参照データの代わりに、図5に例示されている、入力データの入力に応じて上述の部分物理量を示す出力データを出力する学習済の機械学習モデル50を記憶してもよい。
【0058】
機械学習モデル50は、例えば、着目領域のモルフォロジーを示す入力データの入力に応じて上述の部分物理量を示す出力データを出力する学習済の機械学習モデルであってもよい。また、機械学習モデル50は、例えば、部分領域42についての材料部分の上述の特徴を示す入力データの入力に応じて上述の部分物理量を示す出力データを出力する学習済の機械学習モデルであってもよい。
【0059】
機械学習モデル50は、例えば、図6に示すように、上述の参照モルフォロジーデータや参照特徴データに相当する学習入力データと上述の参照物理量データに相当する教師データとを含む訓練データを用いた学習が予め実行されたものであってもよい。
【0060】
機械学習モデル50の学習においては、例えば、訓練データに含まれる学習入力データが、機械学習モデル50に入力されてもよい。当該入力に応じた機械学習モデル50からの出力を示す参照出力データの値と、当該訓練データに含まれる教師データの値と、の差が特定されてもよい。そして、特定された差に対応付けられるロス関数の値が最小となるよう、誤差逆伝搬法により機械学習モデル50のパラメータの値を更新する教師あり学習が実行されてもよい。
【0061】
機械学習モデル50は、例えば、アダブースト、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン(SVM)、最近傍識別器、などの機械学習が実装された機械学習モデルであってもよい。
【0062】
また、着目領域のモルフォロジーあるいは部分領域42の特徴を示す上述の入力データや、上述の参照モルフォロジーデータや参照特徴データに相当する上述の学習入力データは、画像であってもよい。そして、この場合、機械学習モデル50が、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)であってもよい。
【0063】
そして、部分物理量特定部26が、入力データの入力に応じて部分物理量を示す出力データを出力する学習済の機械学習モデル50を用いて、部分物理量を特定してもよい。
【0064】
例えば、部分物理量特定部26が、物理量の特定対象である部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーを示す入力データを、参照モルフォロジーデータに相当する学習入力データを学習した学習済の機械学習モデル50に入力してもよい。そして、部分物理量特定部26が、当該入力に応じた学習済の機械学習モデル50からの出力である出力データが示す物理量を、当該部分領域42の物理量として特定してもよい。
【0065】
また、例えば、部分物理量特定部26が、物理量の特定対象である部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーに基づいて、当該部分領域42における上述の特徴を特定してもよい。そして、部分物理量特定部26が、特定された特徴を示す入力データを、参照特徴データに相当する学習入力データを学習した学習済の機械学習モデル50に入力してもよい。そして、部分物理量特定部26が、当該入力に応じた学習済の機械学習モデル50からの出力である出力データが示す物理量を、当該部分領域42の物理量として特定してもよい。
【0066】
全体物理量特定部30は、本実施形態では例えば、複数の材料部分について特定される部分物理量に基づいて、当該材料の全体の特性を表す全体物理量を特定する。ここで例えば、複数の部分領域42について特定される部分物理量に基づいて、当該材料の全体の特性を表す全体物理量が特定されてもよい。例えば、複数の部分物理量の合計値や平均値などといった、複数の部分物理量の代表値が全体物理量の値として特定されてもよい。全体物理量の例としては、上述のように、応力、ヤング率、ヒステリシス、周波数応答、粘弾性特性、エネルギー、などが挙げられる。なお、部分物理量が示す物理量と全体物理量が示す物理量とは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0067】
モルフォロジー探索部32は、本実施形態では例えば、材料に係る少なくとも1つのモルフォロジーデータのそれぞれについて特定される全体物理量に基づいて、目標に応じた当該材料のモルフォロジーを探索する。
【0068】
モルフォロジー探索部32は、全体物理量が所望の目標を達成するか否かを判定してもよい。例えば、モルフォロジー探索部32は、特定される全体物理量が、目標設定部20が生成する目標データが示す目標に応じた判定条件を満たすか否かを判定してもよい。
【0069】
そして、モルフォロジー探索部32は、全体物理量が所望の目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合にモルフォロジーデータが示す少なくとも1つの材料部分のモルフォロジーを更新することで当該目標に応じた当該材料のモルフォロジーを探索してもよい。また、モルフォロジー探索部32は、制約条件設定部22が生成する制約条件データが示す制約条件を満足するようモルフォロジーデータを更新してもよい。
【0070】
また、モルフォロジー探索部32は、目標となる物理量と特定される全体物理量との差に基づいてどのような更新を行うのかを決定してもよい。モルフォロジーの更新手法として、例えば、最急降下法等の最適化手法が用いられてもよいし、MCMC等のサンプリング手法が用いられてもよい。また、ダウンヒルシンプレックス法や、遺伝的アルゴリズム、ニュートン法、共役勾配法、拡張アンサンブル法などが用いられてもよい。また、モルフォロジー探索部32は、上述した複数の手法を組み合わせて、どのような更新を行うのかを決定してもよい。例えば、モルフォロジー探索部32が、MCMCでサンプリングして、当該サンプリングで得られたモルフォロジーを初期値として、最急降下法を実施してもよい。
【0071】
また、モルフォロジー探索部32は、ランダムな2つの材料部分のモルフォロジー(2つの部分領域42に示されているモルフォロジー)が入れ替わるようモルフォロジーデータを更新してもよい。
【0072】
また、モルフォロジー探索部32は、各部分領域42についてのモルフォロジーの変化に対する物理量の変化の勾配(感度)を特定してもよい。そして特定される勾配(感度)に基づいて決定される部分領域42のモルフォロジーを更新してもよい。例えば、感度を示す値が所定値よりも大きい、あるいは、感度を示す値が最も大きな部分領域42のモルフォロジーが更新されるようにしてもよい。
【0073】
ここで上述の制約条件を満足するよう、感度が低い部分領域42のモルフォロジーが併せて更新されるようにしてもよい。例えば、感度を示す値が所定値よりも大きい部分領域42のモルフォロジーと、感度を示す値が所定値よりも小さい部分領域42のモルフォロジーとが入れ替わるようにしてもよい。また例えば、感度を示す値が最も大きな部分領域42のモルフォロジーと、感度を示す値が最も小さな部分領域42のモルフォロジーとが入れ替わるようにしてもよい。
【0074】
また、参照データに、モルフォロジーの変化に対する物理量の変化の勾配(感度)を示すデータが含まれていてもよい。そして、モルフォロジー探索部32は、参照データが示す勾配(感度)に基づいて決定される部分領域42のモルフォロジーを更新してもよい。
【0075】
また、本実施形態に係るモルフォロジー探索部32が、事前に、着目領域に相当する領域(全体領域40よりも小さな領域)において、所与の制約条件を満足しつつ所望の物理量に係る目標を達成するモルフォロジーを直接的に探索してもよい。そして、モルフォロジー探索部32が、当該物理量を示す参照物理量データと、探索結果であるモルフォロジーを示す参照モルフォロジーデータと、を含む参照データを生成してもよい。そして、モルフォロジー探索部32が、このようにして生成される参照データを参照データ記憶部28に記憶させてもよい。そして、部分物理量特定部26が、このようにして参照データ記憶部28に記憶された参照データに基づいて、上述のようにして、部分物理量を特定してもよい。なお、本実施形態では、様々な目標について上述の直接的な探索を実行することで生成される様々なパターンの参照データが参照データ記憶部28に記憶されるようにすることが望ましい。
【0076】
上述したモルフォロジーの直接的な探索において、フィラー等の介在物の位置が連続値で表現されてもよい。そして、連続値で表現されるフィラー等の介在物の位置が探索において更新されるようにしてもよい。このようにすれば、探索に時間がかかるものの任意のモルフォロジーを探索できることとなる。
【0077】
また、上述したモルフォロジーの直接的な探索において、フィラー等の介在物の位置が予め定められた複数の座標値(例えば一定間隔の座標値)のうちのいずれか(離散値)で表現されてもよい。例えば、0,1,2,3,・・・のように整数で表現される座標値のなかからフィラー等の介在物の位置の探索が行われてもよい。また例えば、0,0.1,0.2,・・・のような0.1間隔の実数で表現される座標値のなかからフィラー等の介在物の位置の探索が行われてもよい。このようにすれば、座標値の組合せで表現できる限定されたモルフォロジーしか探索できないものの、短時間で多くのモルフォロジー空間を探索できることとなる。
【0078】
ここで、本実施形態に係る探索装置1で行われる処理の流れの一例を、図7に例示するフロー図を参照しながら説明する。
【0079】
まず、目標設定部20が、複数の材質を含む材料の特性を表す物理量について設定される目標を示す目標データを生成する(S101)。
【0080】
そして、制約条件設定部22が、S101に示す処理で目標が設定された材料に係る所与の制約条件を示す制約条件データを生成する(S102)。
【0081】
そして、モルフォロジーデータ生成部24が、S102に示す処理で生成された制約条件データが示す制約条件を満足する、初期状態のモルフォロジーデータを生成する(S103)。ここでは例えば、制約条件を満足する任意のモルフォロジーを示すモルフォロジーデータが生成される。
【0082】
そして、モルフォロジーデータ生成部24が、S103に示す処理で生成されたモルフォロジーデータによってモルフォロジーが表現された材料の全体に相当する全体領域40を複数の部分領域42に分割する(S104)。
【0083】
そして、モルフォロジーデータ生成部24が、S104に示す処理での分割の結果である複数の部分領域42のそれぞれについて、当該部分領域42に対応する着目領域を決定する(S105)。
【0084】
そして、部分物理量特定部26が、S104に示す処理での分割の結果である複数の部分領域42のそれぞれについて、当該部分領域42に対応する着目領域のモルフォロジーに基づいて、当該部分領域42の部分物理量を特定する(S106)。
【0085】
そして、全体物理量特定部30が、S106に示す処理で複数の部分領域42のそれぞれについて特定された部分物理量に基づいて、全体物理量を特定する(S107)。
【0086】
そして、モルフォロジー探索部32が、S107に示す処理で特定された全体物理量が、S101に示す処理で生成された目標データが示す目標に応じた判定条件を満足するか否かを判定する(S108)。
【0087】
判定条件を満足しないと判定された場合は(S108:N)、モルフォロジー探索部32は、各部分領域42について、上述の勾配(感度)を特定する(S109)。
【0088】
そして、モルフォロジー探索部32は、S109に示す処理で各部分領域42について特定された勾配(感度)に基づいて、モルフォロジーを更新する少なくとも1つの部分領域42を決定する(S110)。
【0089】
そして、モルフォロジー探索部32が、モルフォロジーデータが示す、S110に示す処理で決定された少なくとも1つの部分領域42のモルフォロジーを更新して(S111)、S106に示す処理に戻る。
【0090】
S108に示す処理で判定条件を満足すると判定された場合は(S108:Y)、モルフォロジー探索部32は、最新のモルフォロジーデータが示すモルフォロジーを所望の目標に応じた当該材料のモルフォロジーとして特定する(S112)。そして、本処理例に示す処理は終了される。
【0091】
本実施形態において、モルフォロジーが更新された際に、部分物理量特定部26が、モルフォロジーが更新された材料部分のみ部分物理量を新たに特定してもよい。そして、全体物理量特定部30が、部分物理量が新たに特定された材料部分については、新たに特定された部分物理量が反映された、全体物理量を新たに特定してもよい。
【0092】
例えば、S111に示す処理が実行された後に実行される2回目以降のS106に示す処理では、モルフォロジーが更新された材料部分のみ部分物理量が特定されるようにしてもよい。そして、その後に実行されるS107に示す処理では、部分物理量が新たに特定された材料部分については、新たに特定された部分物理量が反映された、全体物理量が新たに特定されるようにしてもよい。
【0093】
このようにすれば、モルフォロジーが更新されなかった材料部分については部分物理量の再計算が行われないため、探索装置1で行われる処理の計算量を抑えることができる。
【0094】
以上の処理例のS112に示す処理において、モルフォロジー探索部32が、最新のモルフォロジーデータが示すモルフォロジーに基づいて、当該材料の全体の幾何的な特徴(すなわち、全体領域40の幾何的な特徴)を表すパラメータデータを生成してもよい。ここで、パラメータデータの例としては、各相の体積分率等の指標に加えて、動径分布関数、K関数、L関数、Probability function、Cluster function等の幾何学形状を表現する関数、及びそれらを多項式や指数関数などでフィッティングした結果を示すデータ、などが挙げられる。このようにすることで、例えば、パラメータデータを用いて、実際のサンプルに基づく物理量との比較を容易に行うことができる。
【0095】
また、モルフォロジー探索部32が、フィラー充填ゴムに含まれるフィラーの位置又は当該位置に応じた変数を探索してもよい。ここで、フィラーの位置に応じた変数は、例えば、上述のパラメータデータが表す幾何的な特徴を示す変数であってもよい。また、フィラーの位置に応じた変数は、ポアソン過程等におけるパラメータである変数であってもよい。
【0096】
また、本実施形態において、モルフォロジー探索部32が、異なる時刻や異なる変形状態から算出された離散的な連続データや、それらの差分を示すデータを生成してもよい。具体的には例えば、応力ひずみ曲線やヒステリシスを示すデータが生成されるようにしてもよい。
【0097】
本実施形態では、上述のように、材料部分ごとに部分物理量が特定され、複数の材料部分について特定された部分物理量に基づいて全体物理量が特定される。そして、全体物理量が所望の目標に応じた所定の判定条件を満足しない場合にモルフォロジーデータが示す少なくとも1つの材料部分のモルフォロジーが更新される。このようにして本実施形態によれば、複数の材質を含む材料について所望の目標に応じたモルフォロジーを効率よく探索できることとなる。
【0098】
また、上述のように機械学習モデル50を用いることで、コンピュータシミュレーションを行う場合よりも、モルフォロジーの特定精度が向上し、また、モルフォロジーを特定するための計算時間が短縮される。
【0099】
また、上述のように制約条件を考慮したモルフォロジーの更新が行われるようにすることで、例えば、フィラー充填ゴムの場合には、実際のサンプルにおけるフィラーの配合量や凝集構造が、所望の目標に応じたモルフォロジーにて再現されることとなる。
【0100】
また、本実施形態に係る探索は組合せ探索となるので、本実施形態において上述のように参照データに基づく部分物理量の特定が行われるようにすることで、所望の目標に応じたモルフォロジーを効率的に特定できることとなる。例えば、超高弾性等のサンプリングが難しいモルフォロジーについての参照データを予め参照データ記憶部28に記憶させておくことで、再現可能な物理量の範囲を広げることができる。
【0101】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0102】
例えば、モルフォロジーデータが示す構造モデルは、上述のような三次元のモデルであってもよいし、二次元のモデルであってもよい。
【0103】
また、上記の具体的な数値や文字列、並びに、図面中の具体的な数値や文字列は例示であり、これらの数値や文字列には限定されない。
【符号の説明】
【0104】
1 探索装置、10 プロセッサ、12 記憶部、14 通信部、16 出力部、18 操作部、20 目標設定部、22 制約条件設定部、24 モルフォロジーデータ生成部、26 部分物理量特定部、28 参照データ記憶部、30 全体物理量特定部、32 モルフォロジー探索部、40 全体領域、42 部分領域、44 拡張部分領域、50 機械学習モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7