(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20250116BHJP
B60R 21/216 20110101ALI20250116BHJP
B60R 21/2165 20110101ALI20250116BHJP
B60N 2/427 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/216
B60R21/2165
B60N2/427
(21)【出願番号】P 2021213382
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2024-02-26
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 強
(72)【発明者】
【氏名】根岸 寛興
(72)【発明者】
【氏名】山部 篤史
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-016309(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132466(WO,A1)
【文献】特開2021-041898(JP,A)
【文献】特開2020-090226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/216
B60R 21/2165
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグとインフレータとを備える乗物用シートにおいて、
フレームと、
該フレーム上に配置されるパッドと、
該パッドを覆い、一部に前記エアバッグの展開時に破断するティアラインが形成された表皮と、
前記パッドに設けられる取付部材と、
前記ティアラインから前記パッドの前記取付部材に向かって延び、前記表皮よりも引張り伸び量の小さい第1力布と、
前記表皮の一部又は前記第1力布から延び、前記表皮より引張り伸び量の小さい第2力布と、
前記第1力布と直接的又は間接的に接続し、前記取付部材に係合する第1係合部材と、
前記第2力布と直接的又は間接的に接続し、前記パッドにおいて前記取付部材と異なる位置に設けられる被係合部に係合する第2係合部材と、を備えることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記第1力布及び前記第2力布は、一枚の力布で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記第2係合部材は、前記第1係合部材よりも硬度が高いか、又は、耐熱性が高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記被係合部は、前記取付部材よりも前記ティアライン側に位置するように設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記取付部材は、前記乗物用シートの高さ方向に複数設けられており、
前記第2係合部材は、隣り合う前記取付部材の間に配置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記第2係合部材は、前記第1力布の配置領域を避けて配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記パッドの土手部と座面部との間の境界において、前記第2力布を前記パッドの裏面側に通すための貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記取付部材の近傍には、前記表皮を前記パッドに組み付ける際に前記表皮を引き込むアームを挿通するための組付け用貫通孔が形成されており、前記第2力布は、前記組付け用貫通孔を通して、前記パッドの裏面側に取りまわされることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項9】
エアバッグ及びインフレータを備える乗物用シートにおいて、
フレームと、
該フレーム上に配置され、前面側において前記乗物用シートの高さ方向に延びる縦吊り込み溝が形成されたパッドと、
該パッドを覆い、一部に前記エアバッグの展開時に破断するティアラインが形成された表皮と、
前記パッドの前記縦吊り込み溝内に設けられる取付部材と、
前記ティアラインから前記パッドの前記取付部材に向かって延び、前記表皮よりも引張り伸び量の小さい第1力布と、
前記表皮の一部又は前記第1力布から延び、前記表皮より引張り伸び量の小さい第2力布と、
前記第1力布と直接的又は間接的に接続し、前記取付部材に係合する第1係合部材と、
前記第2力布と直接的又は間接的に接続し、前記パッドにおいて前記取付部材が設けられる前記縦吊り込み溝と、シート幅方向で異なる位置に配置される被係合部に係合する第2係合部材と、を備えることを特徴とする乗物用シート。
【請求項10】
前記第1力布及び前記第2力布は、一枚の力布で構成されていることを特徴とする請求項9に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に、エアバッグ装置を備える乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用シートには乗員に対する側方からの衝撃に対する保護のために、サイドエアバッグが提供されるようになった。サイドエアバッグは、衝撃荷重を緩衝し、且つ分配することにより乗員の保護をしている。
【0003】
シートバックに設けられるサイドエアバッグは、エアバッグの膨張エネルギを効率的に表皮(シートカバー)の継ぎ目の縫合部(ティアライン)に伝達して縫合部を短時間で破断する。エアバッグを遅滞なく展開させるため、表皮と共に力布を縫合部で縫製し、縫合部の反対側の基端部をバックフレームに固定している。
しかしながら、力布をバックフレームに固定するためにブラケット等が用いられることから、シートバックの構造が複雑になることが課題となっていた。そのため、例えば特許文献1に係る車両用シートでは、力布の基端部に吊り込み部材を設け、クッションパッドの吊り込み溝に設けられたクリップ(取付部材)を用いて力布を固定することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クリップ等の取付部材により力布を吊り込み溝に固定する場合においても、サイドエアバッグが展開する際、取付部材を吊り込み溝から外れないよう強固に固定することが求められている。しかしながら、取付部材を強固に固定すると、エアバッグ展開時における取付部材への入力荷重が過大になり、取付部材が破損してしまう可能性があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エアバッグ展開時における取付部材への入力荷重を低減する乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、本発明の乗物用シートによれば、エアバッグとインフレータとを備える乗物用シートにおいて、フレームと、該フレーム上に配置されるパッドと、該パッドを覆い、一部に前記エアバッグの展開時に破断するティアラインが形成された表皮と、前記パッドに設けられる取付部材と、前記ティアラインから前記パッドの前記取付部材に向かって延び、前記表皮よりも引張り伸び量の小さい第1力布と、前記表皮の一部又は前記第1力布から延び、前記表皮より引張り伸び量の小さい第2力布と、前記第1力布と直接的又は間接的に接続し、前記取付部材に係合して取り付けられる第1係合部材と、前記第2力布と直接的又は間接的に接続し、前記パッドにおいて前記取付部材と異なる位置に設けられる被係合部に係合して取り付けられる第2係合部材と、を備えることにより解決される。
【0008】
第1力布と接続し取付部材に係合する第1係合部材と、取付部材と異なる位置に設けられる被係合部に係合する第2係合部材とにより、ティアラインから延びる第1力布と第2力布とを固定するため、エアバッグ展開時における取付部材への入力荷重を低減し、それにより例えば取付部材の破損が抑制されようになる。
【0009】
また、上記の乗物用シートによれば、前記第1力布及び前記第2力布は、一枚の力布で構成されているとよい。
第1力布及び第2力布を一枚の力布で構成することで、部品点数の増加を抑制することができる。
【0010】
また、上記の乗物用シートによれば、前記第2係合部材は、前記第1係合部材よりも硬度が高いか、又は、耐熱性が高いとよい。
第1係合部材よりも硬度が高いか又は耐熱性が高い第2係合部材により第2力布を支持することにより、エアバッグ展開時により強固に表皮の伸びを規制することができる。
【0011】
また、上記の乗物用シートによれば、前記被係合部は、前記取付部材よりも前記ティアライン側に位置するように設けられるとよい。
被係合部を、取付部部材よりもティアライン側に位置させることで、第2力布をパッドに取り付ける構造のコンパクト化が可能である。
【0012】
また、上記の乗物用シートによれば、前記取付部材は、前記乗物用シートの高さ方向に複数設けられており、前記第2係合部材は、隣り合う前記取付部材の間に配置されるとよい。
第2係合部材を隣り合う取付部材の間に配置することで、エアバッグ展開時に第1力布及び第2力布をより強固に支持することができる。
【0013】
また、上記の乗物用シートによれば、前記第2係合部材は、前記第1力布の配置領域を避けて配置されるとよい。
第2係合部材が第1力布の配置領域を避けて配置されることで、第2係合部材を小さくすることができる。
【0014】
また、上記の乗物用シートによれば、前記パッドの土手部と座面部との間の境界において、前記第2力布を前記パッドの裏面側に通すための貫通孔が形成されているとよい。
第2力布を裏面側に通す貫通孔を土手部と座面部との間の境界に形成することで、貫通孔を後突時に乗員に大きな荷重がかかった場合に乗員をパッドに沈み込ませるための孔と兼ねることができる。
【0015】
また、上記の乗物用シートによれば、前記取付部材の近傍には、前記表皮を前記パッドに組み付ける際に前記表皮を引き込むアームを挿通するための組付け用貫通孔が形成されており、前記第2力布は、前記組付け用貫通孔を通して、前記パッドの裏面側に取りまわされてもよい。
表皮をパッドに組み付ける際に用いる組付け貫通孔を、第2力布をパッドの裏面側に取りまわす貫通孔に用いることで、貫通孔の数を減らすことができ、パッドの剛性低下を抑制することができる。
【0016】
また、上記課題は、本発明の乗物用シートによれば、エアバッグ及びインフレータを備える乗物用シートにおいて、フレームと、該フレーム上に配置され、前面側において前記乗物用シートの高さ方向に延びる縦吊り込み溝が形成されたパッドと、該パッドを覆い、一部に前記エアバッグの展開時に破断するティアラインが形成された表皮と、前記パッドの前記縦吊り込み溝内に設けられる取付部材と、前記ティアラインから前記パッドの前記取付部材に向かって延び、前記表皮よりも引張り伸び量の小さい第1力布と、前記表皮の一部又は前記第1力布から延び、前記表皮より引張り伸び量の小さい第2力布と、前記第1力布と直接的又は間接的に接続し、前記取付部材に係合して取り付けられる第1係合部材と、前記第2力布と直接的又は間接的に接続し、前記パッドにおいて前記取付部材が設けられる前記縦吊り込み溝とシート幅方向で異なる位置に配置される被係合部に係合して取り付けられる第2係合部材と、を備えることにより解決される。
【0017】
縦吊り込み溝内に設けられる取付部材に係合して取り付けられる第1係合部材と、縦吊り込み溝とシート幅方向で異なる位置に配置される被係合部に係合して取り付けられる第2係合部材とにより、ティアラインから延びる第1力布と、表皮の一部又は第1力布から延びる第2力布を固定するため、エアバッグ展開時における取付部材への入力荷重が低減され、取付部材の破損が抑制される。
また、第2係合部材が、第1係合部材とシート幅方向で異なる位置において、を支持できるため、エアバッグ展開時に、より強固に表皮の伸びを規制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1力布と接続し取付部材に係合する第1係合部材と、取付部材と異なる位置に設けられる被係合部に係合する第2係合部材とにより、ティアラインから延びる第1力布と、第1力布から延びる第2力布を固定するため、エアバッグ展開時における取付部材への入力荷重を低減し、例えば取付部材の破損を抑制することができる。
また、第1力布及び第2力布を一枚の力布で構成することで、部品点数の増加を抑制することができる。
また、第1係合部材よりも硬度が高いか又は耐熱性が高い第2係合部材で第2力布を支持することにより、エアバッグ展開時により強固に表皮の伸びを規制することができる。
また、被係合部を、取付部部材よりもティアライン側に位置させることで、第2力布をパッドに取り付ける構造のコンパクト化が可能である。
また、第2係合部材を複数の取付部材の間に配置することで、エアバッグ展開時に第1力布及び第2力布をより強固に支持することができる。
また、第2係合部材が第1力布の配置領域を避けて配置されることで、第2係合部材を小さくすることができる。
また、第2力布を裏面側に通す貫通孔を土手部と座面部との間の境界に形成することで、貫通孔を後突時に乗員に大きな荷重がかかった場合に乗員をパッドに沈み込ませるための孔と兼ねることができる。
また、表皮をパッドに組み付ける際に用いる組付け貫通孔を、第2力布をパッドの裏面側に取りまわす貫通孔に用いることで、貫通孔の数を減らすことができ、剛性低下を抑制することができる。
また、縦吊り込み溝内に設けられる取付部材に係合して取り付けられる第1係合部材と、縦吊り込み溝とシート幅方向で異なる位置に配置される被係合部に係合して取り付けられる第2係合部材とにより、ティアラインから延びる第1力布と、第1力布から延びる第2力布を固定するため、エアバッグ展開時における取付部材への入力荷重を低減し、例えば取付部材の破損を抑制することができる。
また、第2係合部材が、第1係合部材とシート幅方向で異なる位置において、力布を支持できるため、エアバッグ展開時に、より強固に表皮の伸びを規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートを斜め前方から見た斜視図である。
【
図2】車両用シートのクッションパッドを前方からみた図である。
【
図4】
図2のB-B線に沿った断面図であり、第1例を示す図である。
【
図5A】表皮に取り付けられた力布及びトリムJフックを示す斜視図である。
【
図5B】表皮に取り付けられた力布及びトリムJフックの別例を示す斜視図である。
【
図8】表皮に取り付けられた力布及びトリムプレートを示す斜視図である。
【
図13】第5例の車両用シートを斜め前方から見た斜視図である。
【
図14】第5例の車両用シートのクッションパッドを前方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態の第1例に係る乗物用シートの構成について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0021】
なお、以下では、乗物用シートの一例として車両用シートを挙げ、その構成例について説明することとする。ただし、本発明は、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用シートに限定されるものではなく、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートであってもよい。
【0022】
また、以下の説明において、「前後方向」とは、車両用シートの前後方向であり、車両走行時の進行方向と一致する方向である。また、「シート幅方向」とは、車両用シートの幅方向であり、車両用シートに着座した乗員から見た左右方向と一致する方向である。また、「上下方向」とは、車両用シートの上下方向であり、車両が水平面を走行しているときには鉛直方向と一致する方向である。
【0023】
また、以下の説明において、「シート幅方向」、「シート高さ方向」のように各種方向に「シート」を付して記載する場合には、車両用シートに対する方向を示し、「車両内側」、「車両外側」のように「車両」を付して記載する場合には、車両に対する方向を示すものとする。
また、以下に説明する車両用シート各部の形状、位置及び姿勢等については、特に断る場合を除き、車両用シートが着座可能な状態にあるケースを想定して説明することとする。
【0024】
<本実施形態に係る車両用シートの基本構成>
本実施形態の第1例に係る車両用シート(以下、車両用シートS)の基本構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は車両用シートSを前方斜めから見た斜視図である。
図1中、車両用シートSの一部については図示の都合上、表皮11(トリムカバーとも呼ばれる)を外した構成で図示している。
【0025】
車両用シートSは、車体フロア上に載置され、車両の乗員が着座するシートである。本実施形態において、車両用シートSは、車両の前部座席に相当するフロントシートとして利用される。ただし、これに限定されるものではなく、車両用シートSは、車両のリアシートであってもよく、また、前後方向に三列のシートを備える車両において二列目のミドルシートや三列目のリアシートとしても利用可能である。
【0026】
車両用シートSは、
図1に示すように、着座者の臀部を支える着座部分となるシートクッション1、着座者の背部を支える背もたれ部分となるシートバック2及びシートバック2の上部に配され、着座者の頭部を支えるヘッドレスト3を主な構成要素とする。
【0027】
シートクッション1は、その後端部がシートバック2の下端部に連結されている。また、シートクッション1は、クッションフレームにクッションパッド10を載置し、更に表皮11により覆うことで構成される。シートバック2は、バックフレームに、クッションパッド10を配し、更にクッションパッド10を表皮11により覆うことで構成される。
また、シートクッション1とシートバック2とは不図示のリクライニング機構を挟んで連結されている。シートクッション1の下部には不図示のスライドレールが設置されており、このスライドレールにより、車両用シートSは、前後方向にスライド移動可能な状態で車体フロアに載置される。
【0028】
車両用シートSの中には、シートフレームF(フレーム)が設けられており、シートフレームFは主にシートクッション1の骨格をなすクッションフレームと、シートバック2の骨格をなすバックフレームとにより構成される。
【0029】
クッションパッド10は、発泡体によりクッション部分が形成されており、クッション部分が表皮11により被覆される。この発泡体としては、ポリプロピレンビーズ発泡体、ポリエチレンビーズ発泡体、ポリプロピレン発泡体、ポリエチレン発泡体、アクリロニトリル・スチレン発泡体、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタンフォーム材等、若しくはこれらを組合わせて使用される。本実施形態において、クッションパッド10は、ウレタン発泡剤を用いて、発泡成型により成型されたウレタンパッドである。
また、表皮11は、布、フィルム、クロス、革やシート等により構成され、所定のテンションが掛かるように張られた状態でクッションパッド10を覆うよう取り付けられている。
【0030】
図3に示すように、シートバック2を覆う表皮11は、座面被覆部11aと、土手部被覆部11bと、側部被覆部11cと、背面被覆部11dと、から構成されている。座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、座面部2aと土手部2bとの間に形成される縦吊り込み溝17aに吊り込まれる縫合部6で縫製により連結されている。なお、縫合部6は吊り込みラインを形成している。
土手部被覆部11bと側部被覆部11cとは、土手部2bの前端において縫合部7で縫製により連結されている。縫合部7は、エアバッグ4aの展開時に破断するティアラインを形成している。
側部被覆部11cと背面被覆部11dとは、背面部2dにおいて線ファスナ9により連結されている。シートバック2の背面被覆部11dは、シートバック2の右側の側部被覆部11cと、左側の側部被覆部(不図示)とを連結している。
【0031】
<吊り込み溝17>
図2に示すように、シートバック2のクッションパッド10には、吊り込み溝17が形成されている。吊り込み溝17は、シート縦方向に延びる二つの縦吊り込み溝17aと、シート幅方向に延びる横吊り込み溝17bとから構成されている。横吊り込み溝17bは、二つの縦吊り込み溝17aの上端を連結していて、吊り込み溝17全体は、シート前方から見てΠ字状になるよう形成される。なお、この吊り込み溝17の配置は一例であり、横吊り込み溝17bが、2つの縦吊り込み溝17aの間に配置されてもよく、吊り込み溝17全体がシート前方から見てH字状に形成されてもよい。
【0032】
<クリップ15>
縦吊り込み溝17a及び横吊り込み溝17bの内部には、所定の間隔を開けて複数のクリップ15(取付部材)が設けられている。クリップ15は、
図3に示すように縦吊り込み溝17aの底部に一部が埋設されることにより固定される。クリップ15は、その断面が略V字状に形成されており、クリップ15の頂部には、吊り込み部材31(第1係合部材)の矢尻状の先端部31aを保持する保持部15aが設けられている。なお、クリップ15は断面がU字状、又はC字状に形成されてもよい。
【0033】
クリップ15は樹脂製であり、例えばポリアセタール(POM)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂等から形成される。クリップ15を、比較的強度の高いポリアセタール(POM)樹脂により形成するのがよい。
【0034】
なお、縦吊り込み溝17aには、
図2及び
図4に示すように隣接するクリップ15の間に、縦吊り込み溝17aの底部からクッションパッド10の裏面10bまで延びる貫通孔16が形成されている。貫通孔16により、後述する力布20に設けられたトリムJフック(第2係合部材)等をクッションパッド10の裏面10bまで通すことが可能となっている。
【0035】
<吊り込み部材31(第1係合部材)>
図3~
図5Aに示すように、座面被覆部11aと土手部被覆部11bとの縫合部6(吊り込みライン)において、吊り込み部材31(第1係合部材)が表皮11に縫製により取り付けられている。
吊り込み部材31の先端部31aをクリップ15の保持部15aに挿入することにより、吊り込み部材31をクリップ15に固定することができる。吊り込み部材31は樹脂製であり、例えばポリプロピレン(PP)樹脂により形成される。
【0036】
吊り込み部材31の後端部31bは、
図3及び
図5Aに示すように、縫合部6において直接的に表皮11と接続している。
しかしながら、吊り込み部材31の後端部31bは、
図5Bに示すように、不織布35を介して間接的に表皮11と接続してもよい。言い換えれば、不織布35の一端側が縫製により表皮11と縫合部6で固定され、不織布35の他端側が、吊り込み部材31の後端部31bと縫製により接続されていてもよい。
【0037】
<エアバッグ装置4>
エアバッグ装置4は、公知の構成からなり、
図3及び
図4に模式的に図示してある。
図3及び
図4に示すように、シートバック2の土手部2bの内部には、エアバッグ装置4が設けられており、シートフレームFに取り付けられその位置が固定される。エアバッグ装置4は、クッションパッド10により形成された空間に格納されるように構成されている。
エアバッグ装置4は、エアバッグ4aと、エアバッグ4aにガスを供給するインフレータ4bと、エアバッグ4a及びインフレータ4bを覆うケース4cと、を備えている。
図1、
図3に示すようにエアバッグ装置4は、シートフレームFの右側(車両用シートSの外側)に固定されており、エアバッグ装置4の右側のクッションパッド10には、スリット8が形成されている。エアバッグ装置4からエアバッグ4aが膨出したとき、クッションパッド10はスリット8で破断すると共に、表皮11が縫合部7(ティアライン)で切開して、エアバッグ4aが外方に展開される。
【0038】
<力布20>
図2及に示すように、エアバッグ装置4に対応する部位、言い換えれば、シートバック2を前方から見てエアバッグ装置4と重なる位置において、力布20が土手部2bの表面に沿って配置されている。力布20は、インナー力布とも呼ばれるもので、表皮11よりも引張り伸び量の小さい素材から形成されているとよい。言い換えれば、力布20は、表皮11よりも伸縮性に乏しいシート状部材から形成されている。そのため、力布20は、エアバッグ展開時に掛かる力を破断部であるティアラインに伝達して、エアバッグの展開を促進させることができる。本実施形態の場合、
図2に示すように、力布20は、上下に配置された二枚の力布から構成されている。これは一例であり、力布20は、一枚で構成されてもよく、また、2枚以上の力布20により構成されてもよい。
上下に配置された力布20の同様の構成であるため、以下では上側に配置された力布20について説明する。
【0039】
力布20は、
図3に示すように土手部側力布21(第1力布)と、シートバック2の側部2cに配置される側部側力布23と、から構成されている。土手部側力布21は、ティアラインである縫合部7から吊り込みラインの縫合部6までクッションパッド10の土手部表面に沿って設けられている。
側部側力布23は、シートバック2の側部2cにおいて、縫合部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面に沿って配置される。
【0040】
図3~
図5に示すように、土手部側力布21の一端は、縫合部6において表皮11及び吊り込み部材31と共縫いされている。また、土手部側力布21の他端は、縫合部7において、表皮11と側部側力布23の一端と共に縫製されている。側部側力布23の他端は、背面部2dとの接続部付近において表皮11に縫製され固定されている。
なお、
図5に示すように土手部側力布21と吊り込み部材31とは共縫により直接的に接続されている。これは一例であり、土手部側力布21と吊り込み部材31とが共縫いされない構成としてもよい。すなわち、土手部側力布21(第1力布)をクリップ15に直接的に吊り込むのではなく、土手部側力布と21と吊り込み部材31とが間接的に接続されるように構成されてもよい。土手部側力布21は、後述するトリムJフック32により固定される。
【0041】
エアバッグ装置4によりエアバッグ4aが膨張されると、エアバッグ4aの膨張エネルギが、クッションパッド10を介して、土手部側力布21及び側部側力布23に伝達される。土手部側力布21及び側部側力布23がエアバッグ4aの膨張エネルギを受けると、縫合部7(ティアライン)の縫合糸にエアバッグ4aの膨張エネルギが集中し、縫合糸が切断される。それにより、土手部側力布21と側部側力布23とが、縫合部7で切り離され、クッションパッド10が、スリット8で破断されて、エアバッグ4aが外方に展開される。
【0042】
<補助力布22(第2力布)及びトリムJフック32(第2係合部材)>
以下、本実施形態の特徴的な構成である、第2力布としての補助力布22と、第2係合部材として設けられたトリムJフック32と、について説明する。
上述したように、縦吊り込み溝17aに配置された隣り合うクリップ15の間には、縦吊り込み溝17aの底部から、クッションパッド10の裏面10bまで延びる貫通孔16が形成されている。クッションパッド10の裏面10bにおける貫通孔16の開口部16a付近には、
図4に示すように、インサートワイヤー13が設けられており、被係合部14を形成している。
【0043】
図4及び
図5Aに示すように、土手部側力布21から延びる補助力布22(第2力布)を備えている。より詳細に述べると、補助力布22は、縫合部6において表皮11と縫製された土手部側力布21の端部から、クッションパッド10の裏面10bに向かって、言い換えれば、シートバック2の背面方向に延びるよう設けられている。また、補助力布22の先端には、トリムJフック32(第2係合部材)が縫製により接続されている。
【0044】
トリムJフック32を貫通孔16に通して被係合部14のインサートワイヤー13に引っ掛け、それにより、力布20及び表皮11をクッションパッド10に固定することができる。
なお、
図5Aには、土手部側力布21と、吊り込み部材31のサスペンダーコードと直接的に共縫いされているが、上述したように、土手部側力布21と吊り込み部材31とが共縫いされておらず、吊り込み部材31により土手部側力布21がクリップ15に吊り込まれなくてもよい。すなわち、トリムJフック32が被係合部14のインサートワイヤー13に固定されることで、土手部側力布21は補助力布22を介して被係合部14のみにより、吊り込まれるよう構成されてもよい。
【0045】
なお、
図2に示すように、貫通孔16の大きさD1は、クリップ15の長手方向の長さD0よりも大きくなるように形成されている。貫通孔16の大きさD1を大きくすることにより、トリムJフック32及び補助力布22を、クッションパッド10の裏面10bにまで通しやすくなっている。
【0046】
なお、トリムJフック32は、吊り込み部材31と同様に、ポリプロピレン(PP)樹脂により形成されている。トリムJフック32を吊り込み部材31よりも硬度が高いか、又は耐熱性が高くなるよう形成してもよい。樹脂材料の詳細な配合を変更し、硬度や耐熱性に変化を加えることにより、ポリプロピレン樹脂であっても硬度や耐熱性を変更することが可能である。
トリムJフック32を、吊り込み部材31よりも硬度又は耐熱性を高くすることにより、補助力布22(第2力布)をより強く支持できるため、エアバッグ4aが展開した際、より強固に表皮11の伸びを規制することができる。すなわち、エアバッグ展開時において表皮11及び力布20がクリップ15から外れ難くなり、より安全にエアバッグ4aを展開させることができる。
【0047】
また、
図4に示すように、トリムJフック32の縦方向の長さH1を吊り込み部材31の長さH0より大きくしてもよく、また、その材質を更に硬くしてもよい。例えば、トリムJフック32を鉄又はアルミ等の金属製にすることで、より強固に力布20を固定することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、被係合部14のインサートワイヤー13は、クリップ15よりもティアライン(縫合部7)に位置するように設けられている。言い換えれば、インサートワイヤー13は、シート幅方向においてクリップ15より外方に位置する開口部16aの側部に設けられている。インサートワイヤー13をこのように配置することで、補助力布22を取り付ける構造のコンパクト化が可能である。
なお、インサートワイヤー13は、貫通孔16のシート幅方向において内側の側部に配置されてもよい。
【0049】
また、トリムJフック32(第2係合部材)は、縦吊り込み溝17a内において上下に隣り合うよう配置されるクリップ15(取付部材)の間に配置されるとよい。エアバッグ展開時における、土手部側力布21をより強固に支持することができる。
また、
図4に示すように、トリムJフック32は、土手部側力布21(第1力布)の配置領域を避けて配置されており、それによりトリムJフック32を小さく形成することができる。
【0050】
なお、例えば特開2015-003578号公報に開示されるように、クッションパッド10に形成された吊り込み溝17にスリットを形成することにより、車両後突時の乗員の沈み込み量向上を向上させることができる。
本実施形態のトリムJフック32を通す貫通孔16を、車両後突時に乗員に大きな荷重がかかった場合に、乗員をクッションパッド10により沈み込ませるためのスリットと兼ねるように構成してもよい。すなわち、沈み込み量向上のために形成した縦吊り込み溝17aのスリットを、トリムJフック32を通すための貫通孔16として利用してもよい。トリムJフック32を通すために別個に貫通孔16を形成しなくてもよいことから、クッションパッド10の剛性低下を抑制することができる。
【0051】
また、例えば米国特許第8、245、377号公報に開示されるように、表皮11をクッションパッド10に対し自動組み付けする装置が知られている。この装置により組み立てられる車両用シートには、吊り込み溝の所定の位置にクリップ15が設けられると共に、そのクリップ15の周辺に組付け用貫通孔が形成されている。装置には、表皮を吊り込み溝に引き込むアームが設けられており、そのアームは、クッションパッドの裏面から組付け用貫通孔を通して表面に配された表皮を把持した後、クッションパッドの裏面側に引き込むことにより、表皮をクリップに固定している。
【0052】
アームを通すための組付け用貫通孔を、本実施形態のトリムJフック32を通す貫通孔16として利用することにより、貫通孔を別個に設ける必要がなくなる。また、貫通孔をクリップよりも大きく形成することにより力布を通しやすくなる。なお、貫通孔16を大きくすることにより、クッションパッド10によるクリップ15の支持剛性を向上させることが課題となる。この課題については、クッションパッド10の高さ方向において、貫通孔16とインサートワイヤー13との高さを同じにすることにより、クッションパッド10をインサートワイヤー13により補強することができ、クリップ15の支持剛性を向上させることができる。
【0053】
<第1例の変形例>
図6を用いて、第1例の変形例であるシートバック2’ついて説明する。第1例のシートバック2では、土手部側力布21と補助力布22とが一枚の力布で構成されていたが、変形例では、土手部側力布21’と補助力布22’とが別々の部材となっており、補助力布22’の後端部と、土手部側力布21’の端部とが、縫合部6において縫製により取付けられている。
別部材の補助力布22’の先端には、トリムJフック32が縫製により取り付けられいる。第1例のシートバック2と同様に、トリムJフック32を貫通孔16に通し、トリムJフック32を開口部16aの周囲に設けられた被係合部14Aのインサートワイヤー13に引っ掛けて固定する。
【0054】
土手部側力布21’と補助力布22’とを別々の部材とすることで、後付けで補助力布22’を設けることができる。また、補助力布22’を、土手部側力布21’とは別の材料で形成してよく、それにより補助力布22’の材質や強度を土手部側力布21’と異なるものとしてもよい。
なお、
図6に示す補助力布22’は、土手部側力布21’の端部と接続されているが、補助力布22’は、表皮11の一部、例えば縫合された部分と縫製により接続されてもよい。
【0055】
第1例及び第1の変形例では、クリップ15が存在しない場所、すなわち、クリップ15とは別の場所(クッションパッド10の裏面10b)に被係合部14を設け、力布20’に縫製したトリムJフック32をインサートワイヤー13に係合させ固定している。
クリップ15と、被係合部14とにより、ティアラインから延びる土手部側力布21、21’と、補助力布22、22’とを固定しているため、エアバッグ展開時においてクリップ15への入力荷重が低減され、それにより例えばクリップ15等の破損が抑制される。
【0056】
<第2例>
図7、
図8を用いて、第2例である車両用シートSAについて説明する。第2例においても、車両用シートSAの土手部側力布21Aの端部から延びる補助力布22Aを有しているが、第2係合部材であるトリムJフック32の代わりに、板状に形成されたトリムプレート33を用いている点で異なっている。車両用シートSAは、トリムプレート33の構成以外は、第1例の車両用シートSと同様の構成であるため、それらの詳細な説明については省略し、第2係合部材であるトリムプレート33の構成について説明する。
【0057】
トリムプレート33は、貫通孔16の開口部16a周辺の、被係合部14Aに固定することができるよう構成されている。より詳細に述べると、トリムプレート33は、
図6に示すように、補助力布22Aの端部において、補助力布22Aとあわせて略T字状になるよう取り付けられている。補助力布22Aは、トリムプレート33の表面を覆うと共に、裏面側に折り返して裏面の中央部まで取り付けられている。
【0058】
また、トリムプレート33は、補助力布22Aに縫製により固定されている。トリムプレート33は、補助力布22Aに接着剤又は両面テープ等により固定されてもよい。また、トリムプレート33は、その中央部分を軸として回動することができる。
【0059】
図7に示すように、トリムプレート33の厚さPは、貫通孔16の開口部16aの幅L0よりも小さく、トリムプレート33の幅L1は貫通孔16の幅L0よりも大きい。そのため、組付ける際、トリムプレート33を畳んだ状態で、トリムプレート33を貫通孔16に挿入し、裏面側に取りだした後、トリムプレート33を回動して広げることにより、開口部16a周辺の被係合部14Aにトリムプレート33を係止させ、抜け止めを行うことができる。これにより、力布20Aをクッションパッド10に固定することができる。
【0060】
クリップ15が存在しない場所、すなわち、クリップ15とは別の位置(クッションパッド10の裏面10b)に被係合部14を設け、被係合部14にトリムプレート33を当接させて固定している。
【0061】
トリムプレート33は、硬質樹脂製からなる矩形の板体であり、本実施形態では、トリムJフック32と同様、ポリプロピレン(PP)樹脂により形成されている。また、トリムプレート33を吊り込み部材31よりも硬度が高いか、又は耐熱性が高くなるよう形成してもよい。樹脂材料の詳細な配合を変更し、硬度や耐熱性に変化を加えることにより、ポリプロピレン樹脂であっても硬度や耐熱性を変更することが可能である。
【0062】
クリップ15と、被係合部14Aとにより、ティアライン(縫合部7)から延びる土手部側力布21Aと、補助力布22Aとを固定しているため、エアバッグ展開時においてクリップ15への入力荷重が低減され、それにより例えばクリップ15の破損が抑制される。
また、第1例の車両用シートSでは固定のためにインサートワイヤー13を別途設けていたが、第2例の車両用シートSAの構成では、開口部周辺にインサートワイヤー13を設けることなく、力布20Aを固定することができる。
【0063】
図9を用いて、第2例の変形例である車両用シートSA’について説明する。第2例の変形例は、
図6に示す第1例の変形例と同様に、土手部側力布21A’と補助力布22A’とが別々の部材で構成されている。別部材である補助力布22A’には、トリムプレート33が縫製により取り付けられており、トリムプレート33の中央部において回動し、畳むことが可能となっている。
【0064】
そのため、土手部側力布21A’を取り付ける際、補助力布22A’のトリムプレート33を、畳んだ状態で、貫通孔16に挿入し、貫通孔16の開口部16aから取り出した後、トリムプレート33を回動して広げることで、開口部16a周辺の被係合部14Aに引っ掛けて、抜け止めを行うことができる。それにより、力布20A’及び表皮11を固定することができる。
【0065】
クリップ15が存在しない場所、すなわち、クリップ15とは別の場所(クッションパッド10の裏面10b)に被係合部14Aを設け、トリムプレート33を係合させている。クリップ15と、被係合部14Aとにより、ティアラインから延びる土手部側力布21A’と、補助力布22A’とを固定しているため、エアバッグ展開時においてクリップ15の入力荷重が低減され、クリップ15の破損が抑制される。
【0066】
<製造方法>
ここで、シートバック2、2Aの製造方法について説明する。まず、エアバッグ装置4が取り付けられた状態のシートフレームFにウレタン製のクッションパッド10を被せる。次に、クッションパッド10の表面に表皮11を被せ、表皮11と力布20、20Aの縫合部6に取り付けられた吊り込み部材31をクリップ15に固定する。このとき、力布20の補助力布22に取り付けられたトリムJフック32か、補助力布22Aのトリムプレート33を貫通孔16に挿通する。なお、このとき、トリムJフック32、トリムプレート33を貫通孔16に通さずそのまま放置してもよい。
【0067】
次に、クッションパッド10をひっくり返し、貫通孔16に挿通された、又は、クッションパッド10の表面側にあるトリムJフック32又はトリムプレート33を、クッションパッド10の裏側に引っ張り、トリムJフック32をインサートワイヤー13(被係合部14)に引っ掛けるか、トリムプレート33を被係合部14Aに引っ掛けて、表皮11及び土手部側力布21、21Aを固定する。
次に、表皮11の側部被覆部11cと側部側力布23とをクッションパッド10の背面側まで被せ、側部被覆部11cと背面被覆部11dとを線ファスナ9により連結する。これにより、シートバック2、2Aが完成する。
【0068】
<第3例>
次に、本実施形態の第3例の車両用シートSBについて説明する。
図10は、第3例である車両用シートSBのシートバック2Bの構成を示す断面図である。
第1、第2例の車両用シートS、SAのシートバック2、2Aでは、縦吊り込み溝17aに貫通孔16を形成し、トリムJフック32又はトリムプレート33を、貫通孔16に通して被係合部14、14Aに係合させていた。
縦吊り込み溝17aに貫通孔16が形成されておらず、代わりに、
図10に示すように縦吊り込み溝17aの側部に被係合部14Bが形成されていることが異なっている。他の構成については、同様であるため詳細な説明は省略する。
【0069】
第3例の力布20Bでは、第1例の力布20と同様に、補助力布22B(第2力布)の先端にトリムJフック32Bが設けられている。トリムJフック32Bは、縫製により補助力布22Bに取り付けられている。トリムJフック32Bは、土手部側力布21Bに直接取り付けられてもよい。
【0070】
上述したように、縦吊り込み溝17aの側部において、被係合部14Bとしてインサートワイヤー13Bが埋め込まれている。補助力布22Bの先端に取り付けられたトリムJフック32Bを、インサートワイヤー13Bに掛けることにより、土手部側力布21Bを固定することができる。
【0071】
また、トリムJフック32Bはポリプロピレン樹脂製であるが、ポリプロピレン製の吊り込み部材31より、硬度が高いか又は耐熱性が高くなるよう形成するのが望ましい。
【0072】
クリップ15とは別の場所(縦吊り込み溝17aの側部)に被係合部14Bを設け、トリムJフック32Bを係合させて固定している。そのため、エアバッグ展開時において、クリップ15の入力荷重が低減されクリップ15の破損が抑制される。
また、第1及び第2例のシートバック2、2Aでは縦吊り込み溝17aに貫通孔16を形成していたが、第3例のシートバック2Bでは貫通孔16を形成しなくても、力布20Bを固定することができる。
【0073】
<第3例の変形例>
第3例の変形例について説明する。
図11は、第3例の変形例である車両用シートSB’のシートバック2B’の構成を示す断面図である。
図10の第3例と同様、縦吊り込み溝17aに貫通孔16は形成されておらず、縦吊り込み溝17aの側部に、インサートワイヤー13B’を埋め込むことにより被係合部14B’を形成している。
【0074】
第3例のシートバック2Bでは、シート幅方向においてクリップ15が設けられていない位置に補助力布22BにトリムJフック32Bを取り付けて、被係合部14Bであるインサートワイヤー13Bに掛けていた。第3例の変形例では、
図11に示すように、シート幅方向においてクリップ15が設けられている同じ高さで、クッションパッド10にインサートワイヤー13B’を埋め込み、被係合14B’部を形成している。
【0075】
また、クリップ15とシート上下方向において同じ高さで、補助力布22B’にトリムJフック32B’を縫製により取り付けている。そして、トリムJフック32を被係合部14B’に掛けることで固定している。
吊り込み部材31が取り付けられるクリップ15と同じ高さで、トリムJフック32B’を被係合部14B’に掛けることで力布20Bを固定していることから、エアバッグ4aの展開時におけるクリップ15の保持を補助することができる。言い換えれば、エアバッグ4aが展開した時、トリムJフック32B’が被係合部14B’に係止されるため、クリップ15への入力荷重が低減され、クリップ15等の破損、例えばクッションパッド10からクリップ15が抜けたり、吊り込み部材31がクリップ15から外れたりすることを抑制することができる。
【0076】
また、第3例のシートバック2Bと同様に、縦吊り込み溝17aの側部にトリムJフックを係合する被係合部14B’を設けていることから、第1例及び第2例のシートバック2、2Aのように、貫通孔16を形成しなくても、力布20Bを固定することができる。
【0077】
<製造方法>
ここで、シートバック2B、2B’の製造方法について説明する。まず、エアバッグ装置4が取り付けられた状態のシートフレームFにウレタン製のクッションパッド10を被せる。次に、クッションパッド10の表面に表皮11を被せ、表皮11と力布20Bの縫合部6に取り付けられた吊り込み部材31をクリップ15に固定する。このとき力布20の補助力布22Bに取り付けられたトリムJフック32B、32B’を、縦吊り込み溝17aの側部に設けられた被係合部14B、14B’のインサートワイヤー13Bに引っ掛けて、土手部側力布21B、21B’を固定する。
【0078】
次に、クッションパッド10をひっくり返し、表皮11の側部被覆部11cと、それに結合された側部側力布23とを、クッションパッド10の側部に被せ、クッションパッド10の背面において、側部側力布23と背面被覆部11dとを線ファスナ9により結合する。これにより、シートバック2B、2B’が完成する。
【0079】
<第4例>
図12を用いて、第4例である車両用シートSCについて説明する。第1例~第3例の車両用シートS~SBでは、縦吊り込み溝17a又は縦吊り込み溝17aに形成された貫通孔16に設けられた被係合部14~14Bに、トリムJフック32又はトリムプレート33を係合させていた。
第4例では、吊り込み溝17ではなく、シートバック2Cの側部に形成されたスリット8に被係合部14Cを設けている。また、縫合部7から、クッションパッド10の側部に沿って延びる補助力布22C(第2力布)を設け、補助力布22Cの先端にトリムプレート33Cを取り付けている。
【0080】
トリムプレート33Cは板状に形成された硬質な樹脂製部材であり、トリムプレート33Cは補助力布22Cの先端において縫製により取り付けられている。
スリット8の前側側部には、
図12に示すように、被係合部14Cとなる凹部34が形成されている。スリット8の開口部からトリムプレート33Cを挿入し、トリムプレート33Cを凹部34に挿入することで、補助力布22Cの端部を係合し固定する。
【0081】
被係合部14Cである凹部34は、
図12に示すように、クリップ15とシート高さ方向において、略同じ高さとなる位置に形成さるとよい。また、クリップ15と異なる高さの位置に形成されてもよい。
【0082】
また、トリムプレート33Cはポリプロピレン樹脂製であるが、ポリプロピレン樹脂製の吊り込み部材31より、硬度が高いか耐熱性が高くなるよう形成するのが望ましい。また、トリムプレート33Cは金属製であってもよい。
【0083】
クリップ15とは別の位置(シートバック2Cの側部)において、トリムプレート33Cを用いて力布20Cを固定していることから、エアバッグ展開時における、クリップ15への入力荷重を低減することができ、クリップ15の破損を防止したり、吊り込み部材31がクリップ15から外れたりすることを抑制することができる。
また、トリムプレート33Cを吊り込み部材31よりも硬度が高いか耐熱性が高くなるように形成することで、エアバッグ4aの展開時において、より強固に表皮11の伸びを規制することができる。
なお、土手部側力布21C(第1力布)と補助力布22Cとを一枚の力布として構成してもよい。また、側部側力布23と補助力布22Cとを一枚の力布として構成してもよい。それにより部品点数の増加を抑制することができる。
【0084】
<第5例>
図13~
図15を用いて、本実施形態の第5例である車両用シートSDについて説明する。第1例~第4例の車両用シートS~SCでは、シートバック2の土手部2bに形成された被係合部14に、トリムJフック32又はトリムプレート33を係合させていたが、第5例の車両用シートSDのシートバック2Dでは、座面部2aに形成された被係合部14Dを用いている。以下、座面部2aに形成された被係合部14Dについて説明する。座面部2aの構成及び被係合部14Dの構成以外は、第1例のシートバック2の構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0085】
図13に示すように、車両用シートSDのシートバック2Dには、クッションパッド10Dに高さ方向(上下方向)に延びる二つの縦吊り込み溝17aと、それらの間においてシートバック2の中央に配置される縦吊り込み溝17cと、が形成されている。また、横方向(シート幅方向)に延びる横吊り込み溝17bと、が形成されている。
【0086】
図14に示すように、縦吊り込み溝17a及び横吊り込み溝17bには、表皮11を吊り込むために複数のクリップ15が配置されている。また、中央に配置された縦吊り込み溝17cにもクリップ15Dが配置されている。しかしながら、縦吊り込み溝17cのクリップ15Dは、左右の縦吊り込み溝17aに配置されたクリップ15の位置と比較して、その高さが異なるよう配置されている。
【0087】
図15に示すように、シートバック2Dの座面部2aと土手部2bとの間において、表皮11を吊り込むために、表皮11には縫製により吊り込み部材31Dが取り付けられており、吊り込み部材31Dは縦吊り込み溝17cの底部に固定されたクリップ15Dにより保持されている。土手部側力布21Dが吊り込みラインからティアラインまで、土手部2bの表面に沿って延びており、両端部が縫製により固定されている。
【0088】
また、補助力布22D(第2力布)が土手部側力布21Dから延びており、座面部2aと土手部2bとの間の縫合部6から、座面部2a中央の吊り込みラインである縫合部6Dまで、座面部2aの表面に沿って配置されている。補助力布22Dの外側端部は、縫合部6において、表皮11の一部、吊り込み部材31及び土手部側力布21Dと縫製により固定されている。補助力布22Dの内側端部は、縫合部6Dにおいて、表皮11の一部及び吊り込み部材31Dに縫製により固定されている。
【0089】
座面部2aの中央に設けられた、縦吊り込み溝17cの底部には、上述したようにクリップ15Dが取り付けられており、クリップ15Dの保持部15Daにより、吊り込み部材31Dの先端を保持することができる。クリップ15Dは被係合部14Dとして機能しており、吊り込み部材31Dは第2係合部材として機能している。
吊り込み部材31Dの先端部31aを、クリップ15Dの保持部15Daに挿入することにより、力布20Dがクッションパッド10に固定される。
【0090】
図14に示すように、第5例のシートバック2Dでは、クリップ15(取付部材)とはシート幅方向において異なる位置(座面部2aの中央)に、被係合部14Dとしてのクリップ15Dを設けている。そして、クリップ15Dに係合する吊り込み部材31D(第2係合部材)を備え、吊り込み部材31Dにより、土手部側力布21Dから延びる補助力布22D(第2力布)を固定することにより、エアバッグ展開時におけるクリップ15への入力荷重が低減され、クリップ15の破損が抑制される。
【0091】
なお、クリップ15、15Dの材質は共にポリアセタール(POM)樹脂により形成されているが、ポリアセタール樹脂の詳細な配合を変更し、硬度や耐熱性に変化を加えてもよい。例えば、クリップ15Dをクリップ15よりも硬度を高くしたり、耐熱性を高くしたりしてもよい。
また、吊り込み部材31、31Dの材質はポリプロピレン(PP)樹脂により形成されているが、ポリプロピレン樹脂の詳細な配合を変更し、硬度や耐熱性に変化を加えてもよい。例えば、座面部2aの中央に配置される吊り込み部材31Dを、座面部2aと土手部2bとの間に配置される吊り込み部材31よりも硬度を高くしたり、耐熱性を高くしたりしてもよい。また、吊り込み部材31Dをアルミや鉄等の金属で構成してもよい。
【0092】
また、第5例では、土手部側力布21と補助力布22Dとを別の部材として構成し、縫製により接続しているが、土手部側力布21と補助力布22Dとを一枚の力布で構成してもよい。一枚の力布で構成することにより部品点数を削減することができる。
また、吊り込み部材31と土手部側力布21Dとは、吊り込みラインの縫合部6において縫製により直接的に接続されているが、不織布等の別の部材を介して間接的に接続されてもよい。
【0093】
また、吊り込み部材31Dと補助力布22Dとは、中央の吊り込みラインの縫合部6Dにおいて、縫製により直接的に接続されているが、不織布やサスペンダーコード等の別の部材を介して間接的に接続されてもよい。
また、第5例では、補助力布22Dに接続する吊り込み部材31Dを用いて、補助力布22Dを座面部2aに固定していたが、第1例又は第2例のように、補助力布22DにトリムJフック又はトリムプレートを取り付けて、それらに対応した被係合部14を座面部2aに形成することで、力布20Dを固定してもよい。
【0094】
また、縦吊り込み溝17aに配置されるクリップ15と、中央に配置される縦吊り込み溝17cに配置されるクリップ15Dは、上下方向において同じ高さに配置されてもよい。
【0095】
<製造方法>
第5例で示す車両用シートSDのシートバック2Dの製造方法について説明する。エアバッグ装置4が取り付けられた状態のシートフレームFにウレタン製のクッションパッド10を被せる。
次に、クッションパッド10の表面に表皮11を被せ、表皮11と力布20との縫合部6に取り付けられた吊り込み部材31をクリップ15に固定する。
このとき、吊り込み部材31の反対側に設けられ、補助力布22に取り付けられた吊り込み部材31Dを、中央にある吊り込み溝内のクリップ15Dに取り付ける。
次にクッションパッド10をひっくり返し、表皮11の側部被覆部11cと側部側力布23とをクッションパッド10の背面側まで被せ、側部被覆部11cと背面被覆部11dとを線ファスナ9により結合する。
【符号の説明】
【0096】
S、SA~SD 車両用シート(乗物用シート)
F シートフレーム(フレーム)
1 シートクッション
2~2D シートバック
2a 座面部
2b 土手部
2c 側部
2d 背面部
3 ヘッドレスト
4 エアバッグ装置
4a エアバッグ
4b インフレータ
4c ケース
6、6D 縫合部(吊り込みライン)
7 縫合部(ティアライン)
8 スリット
9 線ファスナ
10、10D クッションパッド(パッド)
10b 裏面
11 表皮
11a 座面被覆部
11b 土手部被覆部
11c 側部被覆部
11d 背面被覆部
13、13B、13B’ インサートワイヤー
14、14A~14D 被係合部
15 クリップ(取付部材)
15a 保持部
15D クリップ(被係合部)
16 貫通孔
16a 開口部
17 吊り込み溝
17a、17c 縦吊り込み溝
17b 横吊り込み溝
20、20’、20A、20A’、20B、20 力布
21、21’、21A、21A’、21B、21C 土手部側力布(第1力布)
22、22’、22A、22A’、22B、22C、22D 補助力布(第2力布)
23 側部側力布
31 吊り込み部材(第1係合部材)
31a 先端部
31b 後端部
31D 吊り込み部材(第2係合部材)
32、32B トリムJフック(第2係合部材)
33 トリムプレート(第2係合部材)
34 凹部
35 不織布