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特許7620231昇華性膜形成組成物、及び基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】昇華性膜形成組成物、及び基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
H01L21/304 651B
H01L21/304 647A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022508251
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009462
(87)【国際公開番号】W WO2021187263
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2020046815
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】照井 貴陽
(72)【発明者】
【氏名】公文 創一
(72)【発明者】
【氏名】福井 由季
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004907(JP,A)
【文献】特開2013-042094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物であって、
前記昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超である溶媒A2と、
当該昇華性膜形成組成物中における含有量が前記溶媒A2の含有量より大きく、沸点が、前記昇華性物質の1気圧における沸点より小さく、かつ、前記溶媒A2の沸点より小さい溶媒B2と、を含み、
前記昇華性物質は、ノルボルネン、ノルボルナン、カンファー、ピラジン、2,3-ジクロロピラジン、2,6-ジクロロピラジン、2,6-ジクロロピリジン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、シュウ酸ジメチル、イソボルネオール、ネオペンチルアルコール、ネオペンチルグリコール、及び炭酸エチレンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記溶媒A2は、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、及びtrans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記溶媒B2は、ペンタン、3-メチルペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、アセトン、酢酸メチル、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも一種である、
昇華性膜形成組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の昇華性膜形成組成物であって、
当該昇華性膜形成組成物中における前記溶媒B2の含有量が、50質量%以上である、昇華性膜形成組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の昇華性膜形成組成物であって、
前記溶媒A2の沸点と前記溶媒B2の沸点との差分が、5℃以上である、昇華性膜形成組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
前記昇華性物質の凝固熱が、200J/g以下である、昇華性膜形成組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
前記昇華性物質の1気圧における凝固点が、5℃以上である、昇華性膜形成組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
昇華性物質の1気圧における沸点が、300℃以下である、昇華性膜形成組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
前記昇華性物質の含有量が、当該昇華性膜形成組成物中、80質量%以下である、昇華性膜形成組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
基板上に形成された凹凸構造のパターン倒れを抑制するために用いる、昇華性膜形成組成物。
【請求項9】
請求項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
パターン寸法が30nm以下である凹凸構造を有する基板を処理するために用いる、昇華性膜形成組成物。
【請求項10】
請求項に記載の昇華性膜形成組成物であって、
前記パターン寸法が20nm以下である凹凸構造を有する前記基板を処理するために用いる、昇華性膜形成組成物。
【請求項11】
表面に凹凸構造を有する基板を準備する工程と、
前記表面に、昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物を供給する工程と、
前記昇華性膜形成組成物を凝固させ、前記表面に昇華性膜を形成する工程と、
前記昇華性物質を昇華させて前記昇華性膜を除去する工程と、
を含み、
前記昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物が、請求項1~のいずれか一項に記載の昇華性膜形成組成物である、
基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の基板の製造方法であって、
前記基板は、パターン寸法が30nm以下である前記凹凸構造を前記表面に有するものである、基板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の基板の製造方法であって、
前記基板は、前記パターン寸法が20nm以下である前記凹凸構造を前記表面に有するものである、基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性膜形成組成物、及び基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで凹凸構造が形成された基板の製造プロセスについて様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。
特許文献1には、表面に凹凸のパターンが形成された基板上の液体を除去して基板を乾燥させる基板乾燥方法において、前記基板に昇華性物質の溶液を供給して、前記パターンの凹部内に前記溶液を充填する昇華性物質充填工程と、前記溶液中の溶媒を乾燥させて、前記パターンの凹部内を固体の状態の前記昇華性物質で満たす溶媒乾燥工程と、前記基板を前記昇華性物質の昇華温度より高い温度に加熱して、前記昇華性物質を基板から除去する昇華性物質除去工程と、を備えた基板乾燥方法が記載されている(特許文献1の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-243869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の昇華性物質の溶液において、基板の製造安定性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者がさらに検討した結果、昇華性物質と溶媒とを含む溶液を用いた場合でも、基板上の凹凸構造においてパターン倒れが多く発生する恐れがあることが判明した。
本発明者は、このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、昇華性物質と溶媒とを含む昇華性膜形成組成物において、昇華性物質の溶解力が比較的高く、かつ揮発性が比較的高い溶媒を適切に選択すること、あるいは2種以上の溶媒を適切に組み合わせることによって、パターン倒れの発生を抑制でき、基板の製造安定性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
昇華性物質と、
前記昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超であり、沸点が前記昇華性物質の1気圧における沸点より5℃以上低い溶媒A1と、
を含む、昇華性膜形成組成物が提供される。
【0007】
本発明によれば、
昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物であって、
前記昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超である溶媒A2と、
当該昇華性膜形成組成物中における含有量が前記溶媒A2の含有量より大きく、沸点が、前記昇華性物質の1気圧における沸点より小さく、かつ、前記溶媒A2の沸点より小さい溶媒B2と、を含む、
昇華性膜形成組成物が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
表面に凹凸構造を有する基板を準備する工程と、
前記表面に、昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物を供給する工程と、
前記昇華性膜形成組成物を凝固させ、前記表面に昇華性膜を形成する工程と、
前記昇華性物質を昇華させて前記昇華性膜を除去する工程と、
を含み、
前記昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物が、上記の昇華性膜形成組成物である、
基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板の製造安定性に優れた昇華性膜形成組成物、及び基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】基板の製造工程の一例における工程断面図である。
図2】実施例1における基板表面のSEM画像である。
図3】実施例3における基板表面のSEM画像である。
図4】実施例5における基板表面のSEM画像である。
図5】実施例21における基板表面のSEM画像である。
図6】実施例22における基板表面のSEM画像である。
図7】比較例1における基板表面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の昇華性膜形成組成物を概説する。
【0012】
第一実施形態の昇華性膜形成組成物は、昇華性物質と、昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超であり、沸点が昇華性物質の1気圧における沸点より5℃以上低い溶媒A1と、を含む。
【0013】
第二実施形態の昇華性膜形成組成物は、昇華性物質と、昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超である溶媒A2と、昇華性膜形成組成物中における含有量が溶媒A2の含有量より大きく、沸点が、前記昇華性物質の1気圧における沸点より小さく、かつ、溶媒A2の沸点より小さい溶媒B2を含む。
【0014】
このような本実施形態の昇華性膜形成組成物は、表面に凹凸構造を有する基板の製造プロセスに好適に用いることができ、基板の凹凸構造におけるパターン倒れを抑制することが可能である。
【0015】
図1(a)~(c)は、昇華性膜形成組成物を用いた基板の製造工程の一例を示す工程断面図である。
図1(a)は、基板10の表面に昇華性膜形成組成物30を供給し、凹凸構造20における凹部24内に昇華性膜形成組成物30を充填する工程、図1(b)は、昇華性膜形成組成物30を凝固させて、昇華性膜50を形成する工程、図1(c)は、昇華性物質を昇華させて昇華性膜50を除去する工程を示す。
【0016】
半導体チップの製造を一例に挙げて説明する。この製造プロセスにおいて、成膜、リソグラフィやエッチングなどを経て基板(ウェハ)表面に微細な凹凸パターンが形成され、その後、ウェハ表面を清浄なものとするために、水や有機溶媒を用いた洗浄工程などの湿式処理が行われ、湿式処理によってウェハに付着した洗浄液やリンス液などの液体を除去するために乾燥工程も行われる。
かかる乾燥工程中には、微細な凹凸パターンを有する半導体基板において、凹凸パターンの変形や倒れが起こりやすいことが知られている。
昇華性物質を用いて凹凸パターンが形成された基板の乾燥を行うためには、一般的に、凹凸パターンに残存する残存液体を、昇華性物質を含む処理液で置き換える工程が行われる。
【0017】
本発明者の知見によれば、昇華性物質と溶媒とを含む昇華性膜形成組成物において、昇華性物質の溶解力が比較的高く、かつ揮発性が比較的高い溶媒を適切に選択すること、あるいは2種以上の溶媒を適切に組み合わせることによって、凹凸構造を有する基板の製造プロセスに用いたとき、基板の凹凸構造におけるパターン倒れの発生を抑制できることが見出された。
【0018】
第一実施形態に示されるように、適度な昇華性物質の溶解力と適度な揮発性を有する溶媒A1を採用してもよいし、第二実施形態に示されるように、適度な昇華性膜の溶解力を有する溶媒A2と適度な揮発性を有する溶媒B2とを併用してもよい。
【0019】
詳細なメカニズムは定かではないが、昇華性物質よりも揮発性のある高揮発性溶媒(溶媒A1、溶媒B2))を用いることで、製膜能を高めつつも、昇華性物質の溶解力が比較的高い高溶解性溶媒(溶媒A1、溶媒A2)を用いることで、昇華性物質の析出が早期に過剰発生することを抑制できるため、早期に析出した昇華性物質が起点となるパターン倒れを抑制できる、と考えられる。
【0020】
また、半導体ウエハ等の微細な凹凸構造を有する基板の技術分野において、パターン倒れは、一般的には、所定範囲のパターンがランダムな方向に倒れる状態、いわゆる、面状倒れを指すものとして知られている。
しかしながら、パターン倒れの種類には、面状倒れとは異なる、筋状倒れがあることが判明した。
筋状倒れとは、基本的には、所定方向に連続的にパターンが倒れる状態を指す。筋状倒れは、所定のパターン倒れがない領域を取り囲むように形成されることもある。面状倒れやパターン倒れ率を抑制できたとしても、筋状倒れが発生する恐れがある。
【0021】
本発明者の知見によれば、昇華性物質の溶解力がさらに高い溶媒A1、溶媒A2を用いることによって、及び/又は、比較的凝固熱が低い昇華性物質を用いることによって、パターン倒れの中でも、筋状倒れを抑制できることが見出された。
【0022】
詳細なメカニズムは定かではないが、昇華性膜の結晶粒界における歪みによって、筋状倒れが生じると考えられる。このため、溶解性が高い溶媒を用いることで、昇華性物質が早期に析出した部分を基点とした部分的な結晶化を抑制することや、凝固熱が低い昇華性物質を用いて結晶性を低減させることによって、上記の筋状倒れが抑制できると考えられる。
【0023】
本実施形態の昇華性膜形成組成物は、凹凸構造を有する基板の製造工程において、凹凸構造を乾燥させる工程に用いる凹凸パターン乾燥用組成物に好適に用いることが可能である。
昇華性物質は、所定の加熱処理により膜全体が消失するものでもよく、1気圧下23℃で静置したときに消失するものでもよい。基板の製造方法において、昇華性膜は、基板上に永久に残存する永久膜ではなく、以降の工程で除去される犠牲膜として使用される。したがって、昇華性膜形成組成物は、昇華性犠牲膜形成用組成物として使用できる。
【0024】
以下、本実施形態の昇華性膜形成組成物を詳述する。
【0025】
(昇華性物質)
昇華性膜形成組成物は、昇華性物質を1種または2種以上含む。
【0026】
昇華性物質は、本明細書中、固体状態で蒸気圧を有する物質を指す。
昇華性物質は、原理的に、特定の温度において固体でかつ蒸気圧を有する物質であれば使用できる。
【0027】
昇華性物質の凝固点の下限は、例えば、1気圧下で、5℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは50℃以上である。これにより、基板の製造方法に適用する場合、昇華性物質の凝固に極端な低温とする処理が不要となり、半導体基板の製造安定性を高められる。
一方、昇華性物質の凝固点の上限は、例えば、1気圧下で、220℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。これにより、基板の製造方法に適用する場合、昇華性物質の昇華に極端な高温とする処理が不要となり、半導体基板の製造安定性を高められる。
【0028】
昇華性物質の凝固熱の下限は、特に限定されないが、例えば、1J/g以上、好ましくは5J/g以上、より好ましくは10J/g以上でもよい。
一方、昇華性物質の凝固熱の上限は、200J/g以下、好ましくは100J/g以下、より好ましくは50J/g以下である。これにより、筋状倒れの発生を抑制できる。
【0029】
昇華性物質は、昇華後における残留物となる不揮発性物質を実質的に含まないように構成されてもよい。昇華精製または蒸留などの分離手段によって、不揮発性物質を昇華性物質から除去することが可能である。実質的に含まないとは、昇華性物質100質量%中、1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下が好ましく、あるいは、不可避に混入する場合を許容し得る。
【0030】
昇華性物質の沸点の下限は、例えば、1気圧下で、60℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上である。これにより、昇華性物質を含む昇華性膜を安定的に製膜可能となる。
一方、昇華性物質の沸点の上限は、例えば、1気圧下で、300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下である。これにより、昇華性物質の精製が容易となる。また、常温常圧プロセスにおいて、昇華性物質の昇華が容易となり、製造効率を高められる。
【0031】
複数種を含む昇華性物質の沸点または昇華点は、昇華性物質中に含まれる成分のうち、最も含有率(質量%)が多い成分の沸点または昇華点を採用する(ただし、最も含有率が多い成分が2種以上存在した場合には、温度が最も高い方の沸点または昇華点を採用する)。
昇華性物質の沸点は、JIS K 2254:2018(ISO 3405)で定義される初留点を採用する。
なお、物質によって昇華点が慣用されている場合には、昇華点を用いる。
また、昇華性物質の凝固点は、-10℃/minの条件でDSCを用いて求められる凝固開始温度を採用する。複数種を含む昇華性物質の凝固点は、昇華性物質中に含まれる成分のうち、最も含有率(質量%)が多い成分の凝固点を採用する(ただし、最も含有率が多い成分が2種以上存在した場合には、温度が高い方の凝固点を採用する)
【0032】
昇華性物質が固体でかつ蒸気圧を有する温度域(以下、「昇華温度域」ともいう。)は、例えば、10℃以上としてもよい。これにより、クリーンルームの一般的な室温である20~25℃の環境で使用したときでも、昇華性膜形成組成物中の溶媒の気化熱による冷却によって、昇華性物質を凝固させることが可能になる。
また、昇華温度域が20~25℃の範囲に存在すると、加熱や減圧等の昇華促進処理が不要となり、現行の基板製造プロセスの条件を採用したままで、比較的容易に昇華性物質を昇華させ、昇華性膜を除去することができる。
なお、昇華温度域を定義する際の蒸気圧は、例えば、10Pa以上、好ましくは50Pa以上である。
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0033】
昇華性物質としては、半導体などの基板材料に適用できるのであれば限定されないが、例えば、凝固熱が比較的小さい非ハロゲン系昇華性物質S1、凝固熱が比較的大きい非ハロゲン系昇華性物質S2、凝固点と沸点との差分が比較的小さい昇華性物質S3、ハロゲン元素を含む含ハロゲン昇華性物質S4等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
非ハロゲン系昇華性物質S1の凝固熱は、好ましくは50J/g以下、より好ましくは40J/g以下である。S1は凝固点と沸点との差分が比較的大きくなる傾向にあるため、液体として蒸留精製可能になる。S1を用いることで、筋状倒れの発生を抑制できる。
非ハロゲン系昇華性物質S2の凝固熱は、好ましくは50J/g超えである。
昇華性物質S3の凝固点と沸点との差分は、例えば、50℃以下、好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。
含ハロゲン昇華性物質S4は、ハロゲン元素としてフッ素元素を含む含フッ素昇華性物質を用いてもよい。
この中でも、パターン倒れ抑制の観点から、S1~S3の昇華性物質が好適に用いられる。
【0035】
昇華性物質の一例としては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナン、カンファー、ピラジン、2,3-ジクロロピラジン、2,6-ジクロロピラジン、2,6-ジクロロピリジン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、シュウ酸ジメチル、イソボルネオール、ネオペンチルアルコール、ネオペンチルグリコール、炭酸エチレン等が挙げられる。この中でも、ネオペンチルアルコール、カンファー、ピラジン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、シュウ酸ジメチル、イソボルネオール、炭酸エチレンを用いてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、光学異性体がある場合、一方または両方を用いてもよい。
【0036】
昇華性物質の含有量の下限は、昇華性膜形成組成物中、例えば、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上である。これにより、昇華性膜形成組成物中において、均一に昇華性物質を凝固させやすくなる傾向になる。
一方、昇華性物質の含有量の上限は、昇華性膜形成組成物中、例えば、80質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。これにより、溶媒の気化熱による冷却効果が得られやすくなり、昇華性物質の凝固が促進されやすくなる傾向があるため好ましい。また、昇華に要する時間(昇華時間)を短く抑え易いため好ましい。
【0037】
(溶媒)
本実施形態の昇華性膜形成組成物は、昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超である溶媒Aを1種または2種以上含む。溶媒Aは、上記の溶媒A1、及び溶媒A2を包含するように定義される。
昇華性物質の溶解力を有する溶媒Aを用いることで、昇華性膜形成組成物をノズルを介して基板上に供給するとき、ノズル先端部に昇華性物質の凝固体が発生することを抑制できる。
【0038】
飽和溶解度は、溶媒中に溶解した昇華性物質の飽和濃度(質量%)から求められる。
複数種の溶媒を含む場合、飽和溶解度は、溶媒ごとに、個々に規定される値を採用する。
複数種の昇華性物質を昇華性膜形成組成物が含む場合、飽和溶解度は、組成物中に含まれる含有率(質量%)が最も多い昇華性物質の飽和濃度を採用する(ただし、最も含有量が多い昇華性物質が2種以上存在した場合には、最も大きい飽和濃度の数値を採用する)。
【0039】
溶媒Aに対する昇華性物質の飽和溶解度の下限は、10質量%超、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに一層好ましくは60質量%以上である。これにより、パターン倒れ割合を低減させることができる。
一方、溶媒Aに対する昇華性物質の飽和溶解度の上限は、例えば、99質量%以下でもよく、95質量%以下でもよい。
【0040】
また、昇華性膜形成組成物は、基板表面に残存する残存液体に対して相溶性がある溶媒Aを用いてもよい。これにより、残存液体を昇華性膜形成組成物に効率的に置き換えることが可能になり、残存液体の乾燥処理を安定的に行うことができる。
残存液体としては、半導体の洗浄工程に用いられる一般的な溶剤、具体的には、水、炭素数3以下のアルコール(例えば、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなど)、又はそれらの混合液等が挙げられる。
相溶性を有するとは、25℃、1気圧において、1質量部の溶媒Aに対して、洗浄工程に用いられる溶剤の溶解量が、例えば0.05質量部以上あることを意味する。
【0041】
第一実施形態の昇華性膜形成組成物は、昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超であり、沸点が昇華性物質の1気圧における沸点より5℃以上低い溶媒A1を1種または2種以上含む。
溶媒A1は、溶媒Aの中でも、沸点が昇華性物質の1気圧における沸点より5℃以上低いという条件(1)を有するものから選択される。
【0042】
条件(1)において、(昇華性物質の1気圧における沸点-溶媒A1の沸点)が、5℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上でもよく、一方、200℃以下、好ましくは180℃以下でもよい。
【0043】
本明細書中、複数種の溶媒を含む場合における各溶媒の沸点として、共沸溶媒の場合には共沸点を採用する。共沸溶媒ではない場合には、溶媒ごとに、個々に規定される沸点を採用する。
【0044】
第一実施形態の昇華性膜形成組成物において、このような溶媒A1が少なくとも1種含まれることによって、高溶解力な溶媒A1が昇華性物質の早期析出が過剰になることを抑制し、昇華性物質よりも高揮発性な溶媒A1が気化熱により昇華性膜の製膜(昇華性物質の凝固)を促進させることが可能になると考えられる。これにより、昇華性膜が製膜され除去された後に、パターン倒れ率を低減することや、加えて筋状倒れを抑制することもできる。
【0045】
本実施形態の昇華性膜形成組成物は、上記溶媒Aに加えて、沸点が昇華性物質の1気圧における沸点より小さい溶媒Bを1種または2種以上含むことができる。溶媒Bは、上記の溶媒B1、及び溶媒B2を包含するように定義される。
【0046】
第一実施形態の昇華性膜形成組成物は、上記の溶媒A1を1種または2種以上と、沸点が溶媒A1の沸点より小さい溶媒B1を1種または2種以上含んでもよい。
溶媒B1は、溶媒Bの中でも、沸点が溶媒A1よりも小さいものであれば、その昇華性物質の飽和溶解度は特に限定されないが、溶媒A1の飽和溶解度よりも小さくても使用できる。溶媒A1の沸点と溶媒B1の沸点との差分は、例えば、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上であり、一方、200℃以下でもよく、150℃以下でもよい。
溶媒B1の沸点は、例えば、15℃~85℃、好ましくは20℃~80℃、より好ましくは25℃~70℃である。
【0047】
溶媒A1の含有量の下限は、昇華性膜形成組成物中、例えば、0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは0.9質量%以上である。
また、昇華性膜形成組成物において、溶媒A1を溶媒の主成分とする場合は、昇華性膜形成組成物中における溶媒A1の含有量が、50質量%以上としてもよく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上としてもよい。このとき、他の溶媒を用いる場合は、溶媒として溶媒B1を用いるのが好ましい。その場合、昇華性膜形成組成物中における溶媒A1の含有量は、溶媒B1より大きい値としてよい。
一方、溶媒A1の含有量の上限は、昇華性膜形成組成物の溶媒が実質的に溶媒A1のみを含む場合、及び/または昇華性膜形成組成物の溶媒の主成分を溶媒A1とする場合、例えば、99.9質量%以下、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.2質量%以下としてもよい。また、昇華性膜形成組成物が溶媒A1及び溶媒B1を含み、かつ溶媒の主成分をA1としない場合、昇華性膜形成組成物中、例えば、溶媒A1の含有量を50質量%未満、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下としてもよい。
【0048】
第二実施形態の昇華性膜形成組成物は、昇華性物質の飽和溶解度が10質量%超である溶媒A2を1種または2種以上と、当該昇華性膜形成組成物中における含有量が溶媒A2の含有量より大きく、沸点が、前記昇華性物質の1気圧における沸点より小さく、かつ、溶媒A2の沸点より小さい溶媒B2を1種または2種以上を含む。
【0049】
溶媒A2は、上記の溶媒Aの中から選択される。(昇華性物質の1気圧における沸点-溶媒A2の沸点)は、0℃でもよく、0℃以上5℃未満でもよく、あるいは、5℃以上200℃以下でもよい。また、昇華性物質を固化させやすいという観点からは、例えば、0℃以上200℃以下が好ましく、5℃以上200℃以下がより好ましいとしてもよい。
【0050】
溶媒B2は溶媒A2よりも先に揮発することで昇華性膜の製膜を促進させることが可能な溶媒であり、沸点が溶媒A2の沸点かつ昇華性物質の沸点よりも小さいものであれば、その昇華性物質の飽和溶解度は特に限定されず、溶媒A2に対する上記昇華性物質の飽和溶解度よりも小さくても使用できる。
ただし、昇華性膜形成組成物中における溶媒B2の含有量は、溶媒A2の含有量よりも大きい値となる。好ましくは溶媒B2が、昇華性膜形成組成物中、主成分として含まれてもよい。主成分とは、昇華性膜形成組成物中における溶媒B2の含有量の下限が、例えば、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。上記溶媒B2の含有量の上限は、例えば、99.8質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下としてもよい。
溶媒B2が主成分として含まれる昇華性膜形成組成物中において、溶媒A2の含有量は、例えば、0.1質量%~30質量%、好ましくは0.5質量%~10質量%である。
【0051】
第二実施形態の昇華性膜形成組成物において、このような溶媒A2及び溶媒B2をそれぞれ少なくとも1種ずつが含まれることによって、溶媒B2が相対的に揮発して気化熱により昇華性膜の製膜(昇華性物質の凝固)が促進される。このとき、昇華性物質と溶媒A2が残留するが、この残留物中において溶媒A2が昇華性物質を溶解できるため、昇華性物質の早期析出が過剰になることを抑制することが可能になると考えられる。これにより、昇華性膜が製膜され除去された後に、パターン倒れ率を低減することや、加えて筋状倒れを抑制することもできる。また、当該第二実施形態の昇華性膜形成組成物は、後述する実施例において、特にパターン倒れ率を小さくする傾向があることがわかった。
第二実施形態の昇華性膜形成組成物に溶媒B2が主成分として含まれることで、昇華性膜の製膜時間を低減させることが可能になり、上述の基板の製造コストも抑えることができる。
【0052】
また、溶媒A2の沸点と溶媒B2の沸点との差分は、溶媒B2が揮発した後溶媒A2が残留できればよく、特に限定するものではないが、例えば、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃超であり、一方、200℃以下でもよく、150℃以下でもよい。
【0053】
溶媒B2の沸点の上限は、例えば、85℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下である。
一方、溶媒B2の沸点の下限は、例えば、15℃以上でもよく、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上でもよい。
【0054】
第一実施形態において溶媒A1を2種以上含む場合、一例として、2種目以降の溶媒A1は、当該溶媒A1に対する昇華性物質の飽和溶解度が40質量%以上かつ沸点が200℃以下のものから選択されてもよく、好ましくは昇華性物質の飽和溶解度が75質量%以上かつ沸点が180℃以下のものから選択されてもよい。
【0055】
第二実施形態において溶媒A2及び/または溶媒B2を2種以上含む場合、一例として、2種目以降の溶媒A2は、当該溶媒A2に対する昇華性物質の飽和溶解度が40質量%以上かつ沸点が昇華性物質の沸点以下のものから選択されてもよく、好ましくは昇華性物質の飽和溶解度が50質量%以上かつ沸点が210℃以下のものから選択されてもよく、より好ましくは昇華性物質の飽和溶解度が60質量%以上かつ沸点が200℃以下のものから選択されてもよく、さらに好ましくは昇華性物質の飽和溶解度が75質量%以上かつ沸点が180℃以下のものから選択されてもよい。
また、溶媒A2を2種以上含み、かつ溶媒B2を1種以上含む場合、溶媒A2間の沸点差が小さい方が、溶媒B2が揮発した際に残留しやすくなるため好ましい。上記の沸点差は、溶媒A2として効果を発揮できる程度であれば特に限定されるものではないが、例えば、2種以上の溶媒A2のうち最も高い沸点と最も低い沸点との差が、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下であるとしてもよい。すなわち、2種目以降の溶媒A2は、1種目の溶媒A1との沸点の差分が、例えば、10℃以下でもよく、15℃以下でもよく、20℃以下でもよい。また、この時、溶媒B2の沸点は、溶媒A2の最も小さい沸点よりも小さい。
また、2種目以降の溶媒B2は、沸点が、例えば、83℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下のものから選択されてもよい。
【0056】
昇華性膜形成組成物に用いられる溶媒としては、炭化水素類、エーテル類、アルコール類、ケトン類、エステル類、スルホキシド類、含窒素化合物等が挙げられる。これらの各溶媒種は、分子内にフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子を一つ以上有してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
炭化水素類は、例えば、炭素数4~10のアルカン又はシクロアルカン、炭素数4~10のアルケン又はシクロアルケン、及び炭素数6~10の芳香族炭化水素等が用いられる。
炭化水素類の具体例としては、例えば、ペンタン、3-メチルペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233Z)、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233E)、トルエン、ベンゼン、キシレン等が挙げられる。
【0058】
エーテル類は、例えば、鎖状または環状の、炭素数3~10のエーテル化合物等が用いられる。
エーテル類の具体例としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジオキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテル(ノベック7100)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0059】
アルコール類は、例えば、炭素数1~10の第一級、第二級、第三級アルコール等が用いられる。
アルコール類の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、2-ブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、2-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
【0060】
ケトン類は、例えば、炭素数3~6のケトン化合物等が用いられる。
ケトン類の具体例としては、例えば、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン等が挙げられる。
【0061】
エステル類は、例えば、鎖状または環状の、炭素数3~6のエステル化合物等が挙げられる。
エステル類の具体例としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、アセト酢酸エチル、トリフルオロ酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールアセテート、プロピレンリコールアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
スルホキシド類の例としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
含窒素化合物の例としては、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ピリジン等が挙げられる。
【0062】
溶媒A1、溶媒A2、溶媒B1、及び溶媒B2として、それぞれ、昇華性膜形成組成物中に含まれる昇華性物質に応じて、上記の溶媒の中から1種または2種以上が選択され得る。
溶媒A1および溶媒A2は、昇華剤に対する高溶解力、及び基板表面に残存する残存液体である水または炭素数3以下のアルコールとの相溶性を両立する観点から、特にエーテル類、アルコール類、ケトン類、エステル類、および分子内にフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子を一つ以上有する炭化水素類からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの具体的には、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、及びtrans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等が例示できる。また、この中でも、より好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、アセトン、酢酸メチル、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、及びtrans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等が挙げられる。
溶媒B1とB2は、高い揮発性、及び基板表面に残存する残存液体である水または炭素数3以下のアルコールとの相溶性を両立する観点から、炭化水素類、エーテル類、アルコール類、ケトン類およびエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの具体的には、ペンタン、3-メチルペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、アセトン、酢酸メチル、及び酢酸エチル等が例示できる。この中でも、より好ましくは、ペンタン、ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、及び酢酸メチル等が挙げられる。
【0063】
(その他溶媒)
昇華性膜形成組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲において、上記の溶媒A1、溶媒A2、溶媒B1、溶媒B2以外にも、基板及び/あるいは凹凸パターンへの濡れ性の調整などを目的としてさらに溶媒Cを含んでもよく、昇華性膜形成組成物中に溶媒Cを実質的に含まないように構成されてもよい。
溶媒Cとしては、例えば、水、炭化水素類、エステル類、エーテル類、ケトン類、スルホキシド系溶媒、アルコール類、多価アルコールの誘導体、含窒素化合物等が挙げられ、上記必須成分として用いる溶媒に該当しない溶媒を指す。
上記炭化水素類の例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、ペンタン、3-メチルペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233Z)、trans-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233E)などがあり、上記エステル類の例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、アセト酢酸エチル、トリフルオロ酢酸エチル、γ-ブチロラクトンなどがあり、上記エーテル類の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロブチルメチルエーテル(ノベック7100)などがあり、上記ケトン類の例としては、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどがあり、上記スルホキシド系溶媒の例としては、ジメチルスルホキシドなどがあり、アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、エチレングリコール、2-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1,3-プロパンジオールなどがあり、上記多価アルコールの誘導体の例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどがあり、上記含窒素化合物の例としては、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ピリジンなどがあり、これらのうち溶媒A1、A2、B1、B2に該当しない溶媒が例示される。
【0064】
昇華性膜形成組成物中における溶媒の合計含有量の下限は、例えば、20質量%以上、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。これにより、溶媒の気化熱による冷却効果が得られやすくなり、昇華性物質の凝固が促進されやすくなる傾向があるため好ましい。
一方、昇華性膜形成組成物中における溶媒の合計含有量の上限は、例えば、99.9質量%以下、好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは99.2質量%以下である。これにより、基板上で均一に昇華性物質を凝固させやすくなる傾向があり好ましい。
【0065】
昇華性膜形成組成物は、少なくとも基板表面に供給する際には液体であり、好ましくは溶液である。安定的に供給し易いという観点から、-15℃~50℃において、液体(好ましくは溶液)であることか好ましく、0℃~40℃で液体(好ましくは溶液)であることがより好ましい。さらには、吐出機構に保温・加熱が不要となるといった装置構成の簡素化の観点で、20~30℃で液体(好ましくは溶液)であることが特に好ましい。
また、取り扱い(製造、保管、運搬等)が容易となる観点から、-15℃~50℃において、液体(好ましくは溶液)でもよく、0℃~40℃で液体(好ましくは溶液)であることがより好ましい。さらには、移液機構や保管容器に保温・加熱が不要となるといった装置構成の簡素化の観点で、20~30℃で液体(好ましくは溶液)であることが特に好ましい。
【0066】
(基板の製造方法)
本実施形態の基板の製造方法の一例は、図1に示すように、表面に凹凸構造20を有する基板10を準備する工程と、表面に、昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物30を供給する工程と(図1(a))、昇華性膜形成組成物30を凝固させ、表面に昇華性膜50を形成する工程と(図1(b))、昇華性物質を昇華させて昇華性膜50を除去する工程と(図1(c))、を含む。
【0067】
図1(a)の昇華性物質を含む昇華性膜形成組成物30として、本実施形態の昇華性膜形成組成物を用いてもよく、上記の第一実施形態あるいは第二実施形態の昇華性膜形成組成物を用いてもよい。
本実施形態の昇華性膜形成組成物は、基板10上に形成された凹凸構造20のパターン倒れを抑制するために用いる。
【0068】
以下、基板の製造方法について詳細に説明する。
上記基板10の準備工程において、基板10の表面に凹凸構造20を形成する方法の一例である以下の方法を用いてもよい。
まず、ウェハ表面にレジストを塗布したのち、レジストマスクを介してレジストに露光し、露光されたレジスト、または、露光されなかったレジストを除去することによって所望の凹凸パターンを有するレジストを作製する。また、レジストにパターンを有するモールドを押し当てることでも、凹凸パターンを有するレジストを得ることができる。次に、ウェハをエッチングする。このとき、レジストパターンの凹の部分に対応する基板表面が選択的にエッチングされる。最後に、レジストを剥離すると、表面に凹凸構造20を有するウェハ(基板10)が得られる。
【0069】
凹凸構造20が形成されたウェハ、及び凹凸構造20の材質については特に問わず、ウェハとしては、シリコンウェハ、シリコンカーバイドウェハ、シリコン元素を含む複数の成分から構成されたウェハ、サファイアウェハ、各種化合物半導体ウェハ、プラスチックウェハなど各種のウェハを用いることができる。また、凹凸構造20の材質についても、酸化ケイ素、窒化ケイ素、多結晶シリコン、単結晶シリコンなどのシリコン系材料、窒化チタン、タングステン、ルテニウム、窒化タンタル、スズなどメタル系材料、及びそれぞれを組み合わせた材料、レジスト(フォトレジスト)材料などを用いることができる。
【0070】
図1(a)は、凹凸パターン20の一例を示す断面図である。凹凸パターン20のパターンにおける(基板厚み方向の)断面構造において、その幅及び高さの少なくとも一以上のパターン寸法、又は凹凸パターン20のパターンにおける三次元構造(XYZの3次元座標)において、その幅(X軸方向の長さ)、高さ(Y軸方向の長さ)、及び奥行き(Z軸方向の長さ)の少なくとも一以上のパターン寸法が、例えば、30nm以下でもよく、20nm以下でもよく、10nm以下でもよい。このような微細な凹凸パターン20を有する基板10を用いた場合においても、本実施形態の乾燥用組成物を用いることにより、パターン倒れ率を低減することが可能になる。
なお、図1の断面図では、凹凸パターン20の傾きが基板厚み方向に対して平行(交差しない)だが、本実施形態の乾燥用組成物は、凹凸パターン20の傾きが基板厚み方向に対して平行でない場合でも好適に用いることができる。上記の「平行でない場合」とは、例えば、図1の断面構造において、凹凸パターン20の傾きが、基板厚み方向と直交する方向や、凹凸パターン20の傾きが基板厚み方向と交差(直交を除く)するような場合等にも好適に用いられる。
【0071】
このような昇華性膜形成組成物は、例えば、パターン寸法が30nm以下、好ましくは20nm以下である凹凸構造20を有する基板10を処理するために用いるものとして好適である。
【0072】
凸部22のアスペクト比の下限は、例えば、3以上でも、5以上でも、10以上でもよい。脆弱な構造の凸部22を有する凹凸構造20においてもパターン倒れを抑制できる。
一方、凸部22のアスペクト比の上限は、特に限定されないが、100以下でもよい。
凸部22のアスペクト比は、凸部22の高さを凸部22の幅で除した値で表される。
【0073】
凹凸構造20の形成の後、基板10の表面を水や有機溶媒等の洗浄液を用いて洗浄する(洗浄工程)。
【0074】
洗浄工程の後、図1(a)に示すように、液体である昇華性膜形成組成物を、基板10の表面に形成された凹凸構造20に供給する。このとき供給する昇華性膜形成組成物は20~30℃環境下で液体であることが好ましく、溶液であることがより好ましい。なお、凹凸構造20の凹部24の一部又は全部を充填するように供給してもよい(「昇華性膜形成組成物を供給する工程」や、単に「充填工程」、又は「供給工程」と記載することがある)。供給は、例えば、20~30℃の環境下で実施してもよい。
【0075】
昇華性膜形成組成物の供給方法は、公知の手段を用いることができるが、例えば、ウェハを1枚ずつほぼ水平に保持して回転させながら回転中心付近に組成物を供給してウェハの凹凸パターンに保持されている洗浄液などを置換し、該組成物を充填するスピン方式に代表される枚葉方式や、組成物槽内で複数枚のウェハを浸漬しウェハの凹凸パターンに保持されている洗浄液などを置換し、該組成物を充填するバッチ方式等を用いてもよい。
【0076】
洗浄工程の後の基板10の表面には、使用した洗浄液が残存する。洗浄液として、昇華性膜形成組成物に溶解する種類を選択することで、残存した洗浄液を比較的容易に昇華性膜形成組成物に置換することが可能になる。そのため、洗浄液として、通常、メタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノール等の炭素数3以下のアルコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0077】
なお、昇華性膜形成組成物に用いる昇華性物質について、予め精製を行ってもよい。昇華性物質の精製は、昇華精製又は蒸留などの分離手段が用いられる。
【0078】
充填工程の後、図1(b)に示すように、昇華性膜形成組成物30中の昇華性物質を凝固させ、昇華性物質の凝固体を含む昇華性膜50を凹凸構造20上に形成する(「昇華性膜を形成する工程」又は単に「凝固工程」と記載する場合がある)。凹凸構造20の凹部24内部に充填された昇華性膜50によって、凹凸構造20のパターン倒れを抑制できる。
【0079】
凝固工程において、冷却により固体の昇華性物質を析出させてもよいが、加熱や適当な環境条件を適用することにより溶媒を蒸発させ、その気化熱により固体の昇華性物質を析出させてもよい。
本実施形態では、上述のように昇華性膜形成組成物に用いる溶媒A1、溶媒A2、溶媒B1、溶媒B2が適宜選択されることによって、溶媒の揮発(乾燥)を、例えば、常温常圧下(20℃~25℃、1atm)で行うことも可能である。
また、昇華性物質の凝固点の下限を上記下限値以上とすることで、極端な冷却が不要となり、溶媒の気化熱により昇華性物質を凝固させることが可能になる。
なお、凝固工程を、常温常圧下で行う際に、必要に応じて、例えば、基板10を回転させる方法、基板10に不活性ガスを吹き付けて、溶媒の揮発を促進させてもよい。
【0080】
凝固工程の後、図1(c)に示すように、固体の昇華性物質を昇華させて、凹凸構造20上の昇華性膜50を除去する(「昇華性膜を除去する工程」又は単に「除去工程」と記載する場合がある)。
昇華性物質を昇華させる方法は、昇華性物質の沸点に応じて適宜選択できる。例えば、沸点が比較的低い場合には、常温常圧下で昇華させてもよいが、必要なら、加熱や減圧を行ってもよい。
【0081】
図1に示す製造方法は、ウェハパターンを対象とするものであるが、本発明はこれに限定されない。本実施形態の基板の製造方法は、レジストパターンを対象として、その洗浄・乾燥工程において本発明の昇華性膜形成組成物を用いることでレジストパターンの倒れを抑制することも可能である。
上記の供給工程は、洗浄工程の後に実施する製造方法を説明したが、これに限定されず、凹凸構造20に対して実施される様々な処理の後に実施してもよい。例えば、供給工程は、凹凸構造20上に撥水性保護膜形成用薬液を処理した後に行われてもよい。
基板の製造方法は、上記の工程以外にも、公知の処理を一または二以上組み合わせて用いてもよい。例えば、上記の除去工程の後に、プラズマ処理などの表面処理を行ってもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
また、本明細書において、「第1」、「第2」、「第3」等の序数詞や「A」、「B」等の記号は、特に断りのない限り、同様の名称が付された構成を単に区別するために付されたものであり、構成の特定の特徴(例えば、順番又は重要度)を意味するものではない。
【実施例
【0083】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0084】
<昇華性膜形成組成物の調製>
(実施例1~31、比較例1)
表1に記載の昇華剤濃度(質量%)となるように、約25℃で昇華剤(昇華性物質)を溶媒に混合して溶解させ、昇華性膜形成組成物を調製した。昇華剤の沸点(℃)、溶媒の沸点(℃)、溶媒中における昇華剤の飽和溶解度(質量%)を表1に示す。
【0085】
飽和溶解度は、溶媒中に溶解した昇華剤の飽和濃度を意味し、次のように測定した。
まず、昇華剤と溶媒を質量比3:1程度で混合し、40℃まで一旦加熱して、室温(約25℃)まで冷却した混合物を準備した。室温で混合物が固体と液体の共存物となった場合、液部をマイクロシリンジで10μL採取し、希釈用溶媒で100倍(体積比)に希釈してからガスクロマトグラフィーで分析し、質量比に換算して飽和溶解度(質量%)とした。室温において昇華剤の析出が起こらず、均一な溶液となった場合には、溶媒に対する昇華剤量を増やして同様の手続きを行った。また、室温において液体部が少なくマイクロシリンジでの採取が困難な場合には、昇華剤に対する溶媒の量を増やして同様の手続きを行った。ガスクロマトグラフィーに基づく質量比の算出は、株式会社島津製作所製のモデルGC-2010ガスクロマトグラフィーにキャピラーリーカラム(モデルTC-1、ジーエルサイエンス株式会社製、長さ30m、液相厚さ5μm、内径0.32mm)を取り付け、FID検出器で検出した面積比を、昇華剤と溶媒を1質量%ずつ溶解させた希釈液の面積比をもとに質量比に換算することで行った。ガスクロマトグラフィーで用いる希釈用溶媒は、測定対象の昇華剤と溶媒から十分に分離したピークがガスクロマトグラフィーで得られる溶媒を選択する必要があり、具体的には該クロマトグラム上の展開時間で0.1分以上離れているものを選択した。
【0086】
(実施例32~64、比較例2,3)
表2に記載の混合比(質量%)となるように、約25℃で昇華剤(昇華性物質)を、溶媒1~溶媒3の少なくとも一以上に混合して溶解させ、昇華性膜形成組成物を調製した。昇華剤の沸点(℃)、溶媒の沸点(℃)を表2、溶媒中における昇華剤の飽和溶解度(質量%)を表4に示す。
【0087】
(実施例65~75)
表3に記載の混合比(質量%)となるように、約25℃で昇華剤1及び/又は昇華剤2(昇華性物質)を、溶媒1及び溶媒2に混合して溶解させ、昇華性膜形成組成物を調製した。昇華剤の沸点(℃)、溶媒の沸点(℃)を表3、溶媒中における昇華剤の飽和溶解度(質量%)を表4に示す。
なお、表1~4に記載した昇華剤の凝固熱と凝固点を表5に示す。
【0088】
<基板の製造>
まず、断面視におけるアスペクト比が22、パターン幅が19nmの略円柱状の凸部の複数を、90nmのピッチ(凸部の幅及び凸部の隣接間隔の合計距離)で有する凹凸構造を表面に形成したシリコン基板を1cm×1.5cmの寸法に切り出し、評価用基板を準備した。
続いて、評価用基板の凹凸構造の表面に対して、UV/O照射によりドライ洗浄を行った。
続いて、評価用基板をスピンコーターに設置し、2-プロパノールを供給して凹凸構造中の凹部に液体(2-プロパノール)が保持された状態とした。
続いて、上記で得られた溶液状態の昇華性膜形成組成物を、凹凸構造の表面上に滴下し、2-プロパノールの残存液体を、昇華性膜形成組成物に置換した(工程(I))。
続いて、スピンコーターにより評価用基板を回転数100回転毎分で回転させ、目視で昇華性膜(昇華性物質の凝固膜)の形成を確認した(工程(II))。
続いて、目視で昇華性膜の消失が確認されるまで回転を継続させた(工程(III))。
なお、上記の工程(I)~(III)は、23~24℃、1気圧の窒素雰囲気下で行った。
その後、工程(III)後に得られた評価用基板について、走査型電子顕微鏡(SEM)(SU8010、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で観測し、凹凸構造における凸部倒れ(パターン倒れ)の割合(パターン倒れ率)を評価した。
「パターン倒れ率」は、SEMを用いて、評価用基板中央部に対して、凸部が500本~600本視野に入るような倍率で電子顕微鏡像(二次電子像)を撮影し、得られた像中において、倒れの生じた凸部の本数を計数し、視野内の凸部数に占める割合をパーセントで算出した。数値はJIS Z 8401に従い丸めの幅10でいわゆる四捨五入によって丸めた。
【0089】
また、実施例1、実施例3、実施例5、実施例21、実施例22、比較例1において得られたSEM画像を、それぞれ図2~7に示す。比較例1及び実施例1において、面状倒れが生じており、実施例3及び実施例5において、面状倒れは生じていないが筋状倒れがある程度発生しており、実施例21及び実施例22において、筋状倒れの発生も少ない結果が示されていた。
【0090】
なお、表3中、イソボルネオールの沸点は昇華点とする。表中、1233Zは、cis-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの略記、Novec(登録商標)7100は、ノベック7100と同義、N71は、Novec(登録商標)7100の略記である。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
実施例1~31の昇華性膜形成組成物は、比較例1と比べてパターン倒れ率が抑制され、実施例32~75の昇華性膜形成組成物は、比較例2~3と比べてパターン倒れ率が抑制される結果を示した。実施例の中には、筋状倒れの発生が抑制される結果を示すものが見られた。
このような実施例1~75の昇華性膜形成組成物は、凹凸構造を有する基板の製造プロセスに好適に用いることができ、基板の製造安定性を高めることが可能である。
【0097】
この出願は、2020年3月17日に出願された日本出願特願2020-046815号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0098】
10 基板
20 凹凸構造
22 凸部
24 凹部
30 昇華性膜形成組成物
50 昇華性膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7